(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-17
(45)【発行日】2022-02-28
(54)【発明の名称】キット、インプリント用下層膜形成組成物、パターン形成方法、半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20220218BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20220218BHJP
C08F 290/00 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
C08F290/00
(21)【出願番号】P 2020500495
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019004931
(87)【国際公開番号】W WO2019159916
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2018023834
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】下重 直也
(72)【発明者】
【氏名】袴田 旺弘
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152597(WO,A1)
【文献】特開2016-028419(JP,A)
【文献】特開2016-146468(JP,A)
【文献】特開2016-115921(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170697(WO,A1)
【文献】特開2014-090133(JP,A)
【文献】特開2015-070145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
B29C 59/02
C08F 2/48
C08G 59/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプリント用硬化性組成物と、インプリント用下層膜形成組成物を含むキットであって、
前記インプリント用下層膜形成組成物が、重合性官能基を有するポリマーと、沸点と熱分解温度のうち低い方が480℃以上で、インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分とのハンセン溶解度パラメータ距離であるΔHSPが2.5以下である化合物とを含む、キット;
ハンセン溶解度パラメータ距離であるΔHSPは下記数式(1)により導かれる;
ΔHSP=[4.0×(ΔD
2+ΔP
2+ΔH
2)]
0.5 数式(1)
ΔD:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分と、前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分との差;
ΔP:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分と、前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分の差;
ΔH:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分と、前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分の差。
【請求項2】
前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物が、前記ポリマーの重合性官能基と重合可能な基を1分子内に複数有する、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記ポリマーおよび前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の少なくとも一方が極性官能基を有する、請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
前記極性官能基がスルホニル基含有基、スルホン酸基、リン酸基、およびヒドロキシル基からなる群の少なくとも1種を有する、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
前記ポリマーが有する重合性官能基が(メタ)アクリロイル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
前記ポリマーがアクリル樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
前記ポリマーの重量平均分子量が4,000以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の23℃における粘度が2,000mPa・s以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の23℃における表面張力が38mN/m以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物が、前記ポリマーが有する重合性官能基と重合可能な基を分子内に3つ有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
前記ポリマーの重合性官能基と重合可能な基が(メタ)アクリロイル基である、請求項1~10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
前記ポリマー100質量部に対する前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の量が25質量部以上400質量部以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記インプリント用下層膜形成組成物がさらに熱重合開始剤および光重合開始剤の少なくとも1種を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
前記インプリント用下層膜形成組成物がさらに溶剤を含み、インプリント用下層膜形成組成物の99.0質量%以上を前記溶剤が占める、請求項1~13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
インプリント用硬化性組成物中の最も配合量の多い成分の沸点と、前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の沸点との差が150℃以上である、請求項1~14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
インプリント用硬化性組成物中の最も配合量の多い成分の表面張力より、前記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる前記化合物の表面張力の方が大きい、請求項1~15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のキットに含まれるインプリント用下層膜形成組成物を基板に適用しインプリント用下層膜を形成する工程、
前記キットに含まれるインプリント用硬化性組成物を前記インプリント用下層膜に適用する工程、
前記インプリント用硬化性組成物にモールドを接触させた状態で前記インプリント用硬化性組成物を露光する工程および
前記モールドを剥離する工程
を含む、パターン形成方法。
【請求項18】
前記インプリント用下層膜を形成する工程がスピンコート法を含む、請求項
17に記載のパターン形成方法。
【請求項19】
前記インプリント用硬化性組成物を適用する工程がインクジェット法を含む、請求項
17または
18に記載のパターン形成方法。
【請求項20】
請求項
17~
19のいずれか1項に記載のパターン形成方法を含む半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キット、インプリント用下層膜形成組成物、パターン形成方法、半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント法は、モールドを硬化性の組成物に押しつけ、組成物を硬化させた後、モールドを剥離することで微細なパターンを転写するものである。この方法は、半導体集積回路の作製などの精密加工分野への応用が進められている。インプリント法により、ステッパーや電子ビームなどの高価な微細加工装置が不要となり、装置構造が簡単でかつ製造コストが格段に安くなる。製造原価を下げ、プロセスが簡便で、高解像度、高スループットが実現できるため、様々な分野でデバイスの量産化に向け検討が精力的に進められている。
【0003】
インプリント法において、パターニングに適用する材料として感光性樹脂組成物を用い、光透過性のモールドを組み合わせて加工する技術がある。この製造方法では、モールドを介して光を照射することで基板に配設した感光性樹脂組成物の硬化膜にパターンを形成し、それを絶縁部材としたり、さらに加工するためのマスクにしたりする。照射する光として紫外線(UV:Ultraviolet)を用いるものを、特にUVナノインプリント法と呼ぶことがある。このUVナノインプリント法をはじめとした光ナノインプリント法では、熱硬化性樹脂組成物を用い加熱を必要とする熱ナノインプリント法と異なり、室温での加工が可能となる。そのため、熱をきらう半導体デバイスなどの製造において高品質を実現する技術として広く対応することができる。
【0004】
ナノインプリントリソグラフィープロセスにおいて、レジストを付与する基板に前処理コーティングを設けておく技術が提案されている。特許文献1では、重合性成分を含む前処理組成物を用いて基板上に前処理コーティングを形成し、そこにインプリントレジストの不連続部分を配置する方法が開示されている。そこでは、前処理組成物とインプリントレジストとの混合物を含む複合重合性コーティングを基板上に形成し、これをテンプレートと接触・重合させ、基板上に複合重合層を得ている。これにより、ナノインプリントリソグラフィープロセスにおけるスループットを促進することができるとされる。
【0005】
また、インプリント用硬化性組成物を適用する基板に下層膜を形成しておく技術も研究されている。例えば、特許文献2では、化合物(A)と溶剤(B)とを含有するインプリント用下層膜組成物であって、化合物(A)が、特定の官能基を有し、大西パラメータ(Z)と分子量を所定の範囲にする技術が開示されている。具体的には、アクリルポリマーとアクリルモノマーとを組み合わせた下層膜組成物を開示している。これと組み合わせる硬化性組成物にも、アクリルモノマーが採用されている。これにより、パターン形成性およびラインエッジラフネスに優れたパターンを提供することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-055108号公報
【文献】特開2013-093552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、近年、インプリント用下層膜形成組成物から形成される下層膜に対するインプリント用硬化性組成物の濡れ性の向上の要求が強くなってきている。また、インプリント用下層膜形成組成物から形成される下層膜と、インプリント用硬化性組成物から形成される硬化物との密着性も問題となる。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、インプリント用硬化性組成物の上記下層膜に対する濡れ性、および、上記下層膜とインプリント用硬化性組成物から形成される硬化物との優れた密着性をもたらす両組成物を含むキット、インプリント用下層膜形成組成物、パターン形成方法、および半導体デバイスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、本発明者らは、インプリント用下層膜形成組成物の配合について検討し、多様な成分の物性や性能への影響を調査解析した。その結果、インプリント用下層膜形成組成物の配合の設計に加え、インプリント用硬化性組成物の成分との化学的な関係を明らかにし、それを配合設計に加味することが重要であると考えるに至った。特に、インプリント用下層膜形成組成物に配合する重合性官能基を有するポリマーと組み合わせる化合物を的確に選定した。さらに、インプリント用下層膜形成組成物の成分の物性とインプリント用硬化性組成物の成分の物性と密接に関係づけることで、上記の課題を解決しうることを見出した。具体的には下記の手段により上記の課題は解決された。
【0009】
<1>インプリント用硬化性組成物と、インプリント用下層膜形成組成物を含むキットであって、
上記インプリント用下層膜形成組成物が、重合性官能基を有するポリマーと、沸点と熱分解温度のうち低い方が480℃以上で、インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分とのハンセン溶解度パラメータ距離であるΔHSPが2.5以下である化合物とを含む、キット;
ハンセン溶解度パラメータ距離であるΔHSPは下記数式(1)により導かれる;
ΔHSP=[4.0×(ΔD2+ΔP2+ΔH2)]0.5 数式(1)
ΔD:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分と、上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分との差;
ΔP:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分と、上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分の差;
ΔH:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分と、上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分の差。
<2>上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物が、上記ポリマーの重合性官能基と重合可能な基を1分子内に複数有する、<1>に記載のキット。
<3>上記ポリマーおよび上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の少なくとも一方が極性官能基を有する、<1>たは<2>に記載のキット。
<4>上記極性官能基がスルホニル基含有基、スルホン酸基、リン酸基、およびヒドロキシル基からなる群の少なくとも1種を有する、<3>に記載のキット。
<5>上記ポリマーが有する重合性官能基が(メタ)アクリロイル基である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のキット。
<6>上記ポリマーがアクリル樹脂である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のキット。
<7>上記ポリマーの重量平均分子量が4,000以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のキット。
<8>上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の23℃における粘度が2,000mPa・s以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のキット。
<9>上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の23℃における表面張力が38mN/m以上である、<1>~<8>のいずれか1つに記載のキット。
<10>上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物が、上記ポリマーが有する重合性官能基と重合可能な基を分子内に3つ有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載のキット。
<11>上記ポリマーの重合性官能基と重合可能な基が(メタ)アクリロイル基である、<1>~<10>のいずれか1つに記載のキット。
<12>上記ポリマー100質量部に対する上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の量が25質量部以上400質量部以下である、<1>~<11>のいずれか1つに記載のキット。
<13>上記インプリント用下層膜形成組成物がさらに熱重合開始剤および光重合開始剤の少なくとも1種を含む、<1>~<12>のいずれか1つに記載のキット。
<14>上記インプリント用下層膜形成組成物がさらに溶剤を含み、インプリント用下層膜形成組成物の99.0質量%以上を上記溶剤が占める、<1>~<13>のいずれか1つに記載のキット。
<15>インプリント用硬化性組成物中の最も配合量の多い成分の沸点と、上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物の沸点との差が150℃以上である、<1>~<14>のいずれか1つに記載のキット。
<16>インプリント用硬化性組成物中の最も配合量の多い成分の表面張力より、上記インプリント用硬化性組成物に含まれる化合物の表面張力の方が大きい、<1>~<15>のいずれか1つに記載のキット。
<17>インプリント用硬化性組成物と組み合わせて用いるインプリント用下層膜形成組成物であって、上記インプリント用下層膜形成組成物が、重合性官能基を有するポリマーと、沸点と熱分解温度のうち低い方が480℃以上で、インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分とのハンセン溶解度パラメータ距離であるΔHSPが2.5以下である化合物とを含むインプリント用下層膜形成組成物;
ハンセン溶解度パラメータ距離であるΔHSPは下記数式(1)により導かれる;
ΔHSP=[4.0×(ΔD2+ΔP2+ΔH2)]0.5 数式(1)
ΔD:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分と、上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分との差;
ΔP:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分と、上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分の差;
ΔH:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分と、上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分の差。
<18>上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物が、上記ポリマーの重合性官能基と重合可能な基を分子内に複数有する、<17>に記載のインプリント用下層膜形成組成物。
<19><1>~<16>のいずれか1つに記載のキットに含まれるインプリント用下層膜形成組成物を基板に適用しインプリント用下層膜を形成する工程、
上記キットに含まれるインプリント用硬化性組成物を上記インプリント用下層膜に適用する工程、
上記インプリント用硬化性組成物にモールドを接触させた状態で上記インプリント用硬化性組成物を露光する工程および
上記モールドを剥離する工程
を含む、パターン形成方法。
<20>上記インプリント用下層膜を形成する工程がスピンコート法を含む、<19>に記載のパターン形成方法。
<21>上記インプリント用硬化性組成物を適用する工程がインクジェット法を含む、<19>または<20>に記載のパターン形成方法。
<22><19>~<21>のいずれか1つに記載のパターン形成方法を含む半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、インプリント用硬化性組成物のインプリント用下層膜形成組成物から形成される下層膜に対する濡れ性を改善することが可能になった。また、インプリント用下層膜形成組成物から形成される下層膜とインプリント用硬化性組成物から形成される硬化物(通常は、パターン)との密着性を改善することが可能になった。また、その優れた性能を有する両組成物を含むキット、インプリント用下層膜形成組成物、パターン形成方法、および半導体デバイスの製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】硬化物パターンの形成、および、得られた硬化物パターンをエッチングによる基板の加工に用いる場合の製造プロセスの一例を示す工程説明図である。
【
図2】濡れ性の低い下層膜の表面にインプリント用硬化性組成物をインクジェット法により塗布した場合の、インプリント用硬化性組成物の濡れ広がりの状態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを表す。
本明細書において、「インプリント」は、好ましくは、1nm~10mmのサイズのパターン転写をいい、より好ましくは、およそ10nm~100μmのサイズのパターン転写(ナノインプリント)をいう。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「光」には、紫外、近紫外、遠紫外、可視、赤外等の領域の波長の光や、電磁波だけでなく、放射線も含まれる。放射線には、例えばマイクロ波、電子線、極端紫外線(EUV)、X線が含まれる。また248nmエキシマレーザー、193nmエキシマレーザー、172nmエキシマレーザーなどのレーザー光も用いることができる。これらの光は、光学フィルタを通したモノクロ光(単一波長光)を用いてもよいし、複数の波長の異なる光(複合光)でもよい。
本発明における重量平均分子量(Mw)は、特に述べない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したものをいう。
本発明における温度は、特に述べない限り、23℃とする。
本発明における沸点とは、1気圧(1atm=1013.25hPa)における沸点をいう。
【0013】
本発明のキットはインプリント用硬化性組成物とインプリント用下層膜形成組成物を含むものであって、上記インプリント用下層膜形成組成物が、重合性官能基を有するポリマー(以下、「特定ポリマー」と称することがある)と、沸点と熱分解温度のうち低い方が480℃以上で、インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分とのハンセン溶解度パラメータ距離(ΔHSP)(下記、数式1参照)が2.5以下である化合物(以下、「特定化合物」と称することがある)とを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、インプリント用硬化性組成物のインプリント用下層膜形成組成物から形成される下層膜に対する濡れ性を改善することが可能になる。また、インプリント用下層膜形成組成物から形成される下層膜とインプリント用硬化性組成物から形成される硬化物との密着性を改善することが可能になる。
このメカニズムは推定であるが、沸点と熱分解温度のうち低い方が480℃以上の化合物(特定化合物)として、インプリント用硬化性組成物とのハンセン溶解度パラメータ距離が小さい化合物を用いることにより、下層膜とインプリント用硬化性組成物との親和性が向上し良好な濡れ性を達成できる。また、特定化合物として沸点と熱分解温度のうち低い方が480℃以上の化合物を用いることにより、重合性官能基を有するポリマー(特定ポリマー)を含むインプリント用下層膜形成組成物を高温でベイクしても、特定化合物を揮発させずに下層膜中に残すことができる。さらに、特定ポリマーが基材との界面密着性が良好でかつ強度のある膜を形成し、インプリント用硬化性組成物から形成される硬化物との密着性を確保することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
<ハンセン溶解度パラメータ距離(ΔHSP)>
本発明のキットは、特定化合物と、インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分(最大量成分)との間のハンセン溶解度パラメータ距離(ΔHSP)が2.5以下であり、2.2以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.8以下であることがさらに好ましく、1.5以下であってもよい。下限値は、0が理想であるが、1.0以上でも十分実用レベルである。ΔHSPを2.5以下とすることで、インプリント用硬化性組成物との親和性が向上し、インプリント用下層膜上でのインプリント用硬化性組成物の濡れ性が向上する。
ハンセン溶解度パラメータ距離(ΔHSP)は下記数式(1)により導かれる。
ΔHSP=[4.0×(ΔD2+ΔP2+ΔH2)]0.5 数式(1)
ΔD:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分(d成分1)と、インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの分散項成分(d成分2)との差(d成分1-d成分2)
ΔP:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分(p成分1)と、インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの極性項成分(p成分2)の差(p成分1-p成分2)
ΔH:インプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分(h成分1)と、インプリント用下層膜形成組成物に含まれる化合物のハンセン溶解度パラメータベクトルの水素結合項成分(h成分2)の差(h成分1-h成分2)
HSPベクトルの分散項成分、極性項成分、水素結合項成分は、それぞれ、後述する実施例に記載の方法で設定される。本発明においては、上記対象成分が、インプリント用硬化性組成物の最大量成分と、インプリント用下層膜形成組成物中の特定化合物であるが、特定化合物が複数ある場合には、その最大量成分を評価に採用する。なお、該当成分の配合量が同一の場合は表面張力の高い化合物の計算値を採用する。最大量成分は、質量が最大量であるものをいう。
特定化合物は、上記のようにインプリント用硬化性組成物の最大量成分(好ましくは重合性化合物)とHSPを近づけることで、インプリント用硬化性組成物との親和性を上げる役割を果たす。これにより、良好な濡れ性を実現し、ひいては、好ましい実施形態において良好な密着性をも達成することができる。
【0015】
<インプリント用下層膜形成組成物>
<<特定ポリマー>>
インプリント用下層膜形成組成物は、重合性官能基を有するポリマー(特定ポリマー)を含む。特定ポリマーの種類は、重合性官能基を含む限り、特に定めるものではない。
特定ポリマーは、通常、重量平均分子量が2,000以上の化合物であり、4,000以上が好ましく、6,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。重量平均分子量の上限は特に定めるものではないが、例えば、200,000以下が好ましく、70,000以下がより好ましく、50,000以下がさらに好ましい。重量平均分子量を上記下限値以上とすることにより、ベイク処理時の膜安定性が向上し、インプリント下層膜形成時の面状をより向上させることができる。また、重量平均分子量を上記上限値以下とすることにより、溶剤への溶解性が高くなり、スピンコー等による適用がより容易となる。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)は、特に述べない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したものをいう。また、上記の分子量が適正な範囲となることで流動性が維持され、インプリント用硬化性組成物の濡れ性が向上する。
【0016】
特定ポリマーは重合性官能基を有する。重合性官能基の具体例としては、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、オキセタン基、メチロール基、メチロールエーテル基、ビニルエーテル基などが挙げられる。重合容易性の観点から、特に(メタ)アクリロイル基が好ましい。本明細書ではここで規定し例示した重合性官能基を重合性官能基Psと呼ぶ。上記ポリマーが重合性官能基を有することでインプリント用下層膜が架橋構造を形成し、剥離時の下層膜の破壊を防ぎ密着性を確保することが可能となる。
【0017】
特定ポリマーは、基材との密着性を強固にするため極性官能基Tfを有することが好ましい。具体的には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(-COORQ1)、アミノ基(-NRN
2)、アミド基(-CONRN
2)、イミド基含有基(-CONRNCORQ1)、ウレア基含有基(-NRNCONRN
2)、ウレタン基(-OCONRN
2,-NRNCOORQ2,)、シアノ基、酸素原子(エーテル基)、下記の連結基Lで好ましい範囲を規定の(オリゴ)アルキレンオキシ基、環状エーテル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、ラクトン基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい)、スルホニル基含有基(-SO2RQ3)、スルホン酸基(-SO2(OH))、スルフィン酸基(-SO2OH))、スルホンアミド基(-SO2NRN
2)、スルホンイミドイル基含有基(-S(O)(NRN)RQ1)、リン酸基(-O(P=O)(OH)2)、リン酸エステル基(-O(P=O)(OH)(ORQ1),-O(P=O)(ORQ1)2)などが挙げられる。この中でも特に、スルホニル基含有基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルホンアミド基、スルホンイミドイル基含有基、リン酸基、リン酸エステル基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基が好ましく、スルホニル基含有基、スルホン酸基、リン酸基、およびヒドロキシル基がより好ましい。RNの定義は後述するとおりである。
【0018】
RQ1は、それぞれ独立に、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、アリールアルキル基(炭素数7~21が好ましく、7~15がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)である。
RQ2は水素原子または上記RQ1で規定される置換基である。
RQ3は上記RQ1またはORQ1の置換基である。
RQ1~RQ3は、本発明の効果を奏する範囲で置換基Tを有していてもよい。例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基などが置換していてもよい。
【0019】
特定ポリマーが上記の極性官能基Tfを有することで、基材界面との密着性がより良化する傾向にある。
本発明では、特定ポリマーと特定化合物の少なくとも一方が極性官能基Tfを有することが好ましく、特定ポリマーが極性官能基Tfを有する化合物を有することがより好ましい。もちろん、特定ポリマーと特定化合物の両方が極性官能基Tfを有していてもよい。
また、特定ポリマーおよび特定化合物以外の化合物が、極性官能基Tfを有している態様も本発明の範囲に含まれる。
【0020】
特定ポリマーの実施形態の一例は、重合性官能基を含む構成単位を含むポリマーである。本実施形態において、重合性官能基を含む構成単位の合計が全構成単位の90モル%以上を占めることが好ましい。重合性官能基を含む構成単位は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。本実施形態においては、重合性官能基を含む構成単位が極性官能基Tfを含んでいる態様も好ましい。
【0021】
特定ポリマーの実施形態の他の一例は、重合性官能基を含む構成単位と、上記極性官能基を含む構成単位を含むポリマーである。本実施形態において、重合性官能基を含む構成単位と、上記極性官能基を含む構成単位の合計が全構成単位の90モル%以上を占めることが好ましい。また、重合性官能基を含む構成単位と、上記極性官能基を含む構成単位のモル比率は、10~95:90~5であることが好ましく、30~93:7~70であることがより好ましく、40~90:10~60であることがさらに好ましい。重合性官能基を含む構成単位と、上記極性官能基を含む構成単位は、それぞれ、1種ずつ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0022】
特定ポリマーは、アクリル樹脂、ノボラック樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂から例示され、アクリル樹脂、ノボラック樹脂が好ましく、アクリル樹脂がさらに好ましい。なお、アクリル樹脂とは、アクリレートモノマーの重合体のみならず、メタクリレートモノマーの重合体も含むことは言うまでもない。
【0023】
特に、特定ポリマーは、下記式(1)または(2)で表されることが好ましい。
【化1】
R
1は水素原子またはメチル基である。L
1は単結合または2価の連結基である。連結基としては、下記連結基Lの例が挙げられ、下記連結基Lhの例が好ましい。なかでも、単結合、酸素原子、カルボニル基、-NR
N-、アリーレン基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、それらの組合せが好ましく、酸素原子、カルボニル基、またはそれらの組合せ、あるいはフェニレン基がさらに好ましい。
【0024】
n11、n12は合計が100以下となる数であり、各構成単位のモル比基準の共重合比率である。n11は10~95が好ましく、20~90がより好ましく、30~80がさらに好ましい。n12は5~90が好ましく、10~80がより好ましい。n11とn12の合計が100以下の場合は、他の構成単位が共重合して100となることを意味する。
【0025】
n13、n14は合計が100以下となる数であり、各構成単位のモル比基準の共重合比率である。n13は10~95が好ましく、20~90がより好ましく、30~80がさらに好ましい。n14は5~95が好ましく、10~80がより好ましく、20~70がさらに好ましい。n13とn14が合計が100以下の場合は、他の構成単位が共重合して100となることを意味する。
【0026】
R11は重合性官能基を有する置換基であり、下記式(T1)で表される置換基であることが好ましい。
-(L3)t3-[(L2)t2-(P)t1]t4 (T1)
L2はt1+1価の連結基であり、環状または直鎖もしくは分岐のアルカン構造の基(炭素数1~40が好ましく、1~30がより好ましく、1~20がさらに好ましい)、環状または直鎖もしくは分岐のアルケン構造の基(炭素数2~40が好ましく、2~30がより好ましく、2~20がさらに好ましい)、環状または直鎖もしくは分岐のアルキン構造の基(炭素数2~40が好ましく、2~30がより好ましく、2~20がさらに好ましい)、アリール構造の基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、ヘテロアリール構造の基(炭素数1~22が好ましく、1~18がより好ましく、1~10がさらに好ましい)であることが好ましい。アリール構造の基の好ましい環構造としては、下記の炭化水素芳香族環aCyの例が挙げられる。ヘテロアリール構造の基の好ましい環構造としては、下記の芳香族複素環hCyの例が挙げられる。環状のアルカン構造の基、アルケン構造の基、アルキン構造の基の好ましい環構造としては、下記の脂環fCyの例が挙げられる。L2は本発明の効果を奏する範囲で置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数あるとき互いに結合して、あるいは連結基Lを介してまたは介さずに式中のL2と結合して環を形成していてもよい。
【0027】
t2は0または1である。
【0028】
L3は連結基(好ましくは、後述する連結基L)であり、中でも、非環状の連結基であることが好ましく、アルキレン基、アルケニレン基、アルキレンオキシ基、酸素原子、カルボニル基、またはそれらの組合せに係る基がより好ましい。L3は本発明の効果を奏する範囲で置換基Tを有していてもよい。例えば、アルキレンオキシ基やアルキレンオキシ基のアルキレン鎖にヒドロキシル基が置換した態様を好ましい例として挙げることができる。置換基Tは複数あるとき互いに結合して、あるいは連結基Lを介してまたは介さずに式中のL3と結合して環を形成していてもよい。
【0029】
t3は0または1である。
【0030】
Pは重合性官能基であり、上記の重合性官能基Psが好ましい。本発明においては、中でも、(メタ)アクリロイル基を適用することが好ましい。
【0031】
t1は1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が一層好ましい。
【0032】
t4は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が一層好ましい。t4が2以上のとき、L3は3価以上の連結基になりうる。例えば、アルキレン基は、アルカントリイル基、アルカンテトライル基となりうる。
【0033】
R12は重合性官能基を有さない置換基であり、下記式(T2)で表される置換基であることが好ましい。
-(L3)t3-[(L2)t2-(Q)t1]t4 (T2)
【0034】
L2、L3、t1、t2、t3、t4は式(T1)におけるL2、L3、t1、t2、t3、t4と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0035】
Qは水素原子または極性官能基Tfであり、極性官能基Tfであることが好ましい。
【0036】
R13は下記式(T3)で表される。
-(L4)-T1 (T3)
L4は単結合またはヘテロ原子を有する連結基Lhであり、なかでも酸素原子、カルボニル基、-NRN-またはその組み合わせが好ましく、酸素原子、カルボニル基またはその組み合わせがより好ましく、酸素原子がさらに好ましい。T1は上記式(T1)で表される置換基である。
【0037】
R14は下記式(T4)で表される。
-(L4)-T2 (T4)
L4は式(T3)におけるL4と同義である。T2は上記式(T2)で表される置換基が好ましい。
【0038】
式(2)中の構成単位の主鎖に含まれるベンゼン環には本発明の効果を奏する範囲で置換基Tを有していてもよい。置換基Tが複数あるときそれらは互いに同じでも異なっていてもよい。例えば、ヒドロキシル基やアルコキシル基を有する例も好ましい形態として挙げられる。
【0039】
式(1)および(2)においては、さらに式中には記載していない構成単位(これを他の構成単位ということがある)を有していてもよい。他の構成単位の共重合比率は本発明の効果を奏する範囲で調節されればよく、例えば、モル比率で、0.5以上50以下が好ましく、1以上30以下がより好ましい。
【0040】
炭化水素芳香族環aCyの具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フェナレン環、フルオレン環、アセナフチレン環、ビフェニル環、テルフェニル環、インデン環、インダン環、トリフェニレン環、テトラフェニレン環、ピレン環、クリセン環、ペリレン環、テトラヒドロナフタレン環などが挙げられる。芳香族環は連結基Lを介してまたは介さずに複数が連結した構造を取っていてもよく、例えば、ビフェニル環、ジフェニルメタン環、トリフェニルメタン環が挙げられる。あるいは、一部例示したものも含め、複数のベンゼン環が連結した構造としては下記式Ar1~Ar5のものが挙げられる。A
1は2価の連結基であり、連結基Lの例が好ましく、フッ素原子で置換されていてもよいアルキレン基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、カルボニル基、酸素原子、スルホニル基、スルフィニル基、-NR
N-がより好ましい。A
2は窒素原子、リン原子を含む3価の連結基、またはメチン基を意味する。式Ar1~Ar5において結合手を示していないが、必要な連結数に応じて必要な部分で結合すればよいことを意味する。例えば、メチン基の場合はその部分で置換基していてもよい。あるいは、例えば、1つのベンゼン環から2つの結合手が延びることも本発明の好ましい態様として挙げることができる。また、3つの環をもつAr2が2価の連結基であることも本発明の好ましい態様として挙げることができる。また、Ar1~Ar5はさらに置換基Tを有していてもよい。この置換基Tに結合手が位置して連結していてもよい。
【化2】
【0041】
芳香族複素環hCyの具体例としては、チオフェン環、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、イソインドール環、インドール環、インダゾール環、プリン環、キノリジン環、イソキノリン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサジン環などが挙げられる。芳香族複素環は複数の環構造が連結基Lを介してまたは介さずに連結した構造であってもよい。
【0042】
脂環fCyの具体例としては、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロブテン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、ジシクロペンタジエン環、テトラヒドロジシクロペンタジエン環、オクタヒドロナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、ヘキサヒドロインダン環、ボルナン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、イソボルナン環、ビシクロノナン環、トリシクロデカン環、テトラシクロドデカン環、アダマンタン環、オキサン環、ジオキサン環、ジオキソラン環、オキシラン環、オキソラン環、モルホリン環、プペラジン環、ピペリジン環、ピロリジン環、ピロリドン環などが挙げられる。脂環は複数の環構造が連結基Lを介してまたは介さずに連結した構造であってもよい。
【0043】
ヘテロ原子を含む連結基Lhとしては、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、チオカルボニル基、スルホニル基、スルフィニル基、-NRN-、(オリゴ)アルキレンオキシ基(1つの構成単位中のアルキレン基の炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい;繰り返し数は1~50が好ましく、1~40がより好ましく、1~30がさらに好ましい)、またはこれらの組み合わせからなる連結基が挙げられる。ヘテロ原子を含む連結基Lhを構成する原子の数は水素原子を除いて1~100が好ましく、1~70がより好ましく、1~50が特に好ましい。Lhの連結原子数は1~25が好ましく、1~20がより好ましく、1~15がさらに好ましく、1~10が一層好ましい。なお、(オリゴ)アルキレンオキシ基とは、アルキレンオキシ基でも、オリゴアルキレンオキシ基でもよい意味である。上記(オリゴ)アルキレンオキシ基などは、鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい。
【0044】
置換基Tとしては、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、アリールアルキル基(炭素数7~21が好ましく、7~15がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、ヒドロキシル基、アミノ基(炭素数0~24が好ましく、0~12がより好ましく、0~6がさらに好ましい)、チオール基、カルボキシル基、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、ヘテロアリール基(炭素数1~22が好ましく、1~16がより好ましく、1~12がさらに好ましい)、アルコキシル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アリールオキシ基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、アシル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アシルオキシ基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリーロイル基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、アリーロイルオキシ基(炭素数7~23が好ましく、7~19がより好ましく、7~11がさらに好ましい)、カルバモイル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、スルファモイル基(炭素数0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~3がさらに好ましい)、スルホ基、アルキルスルホニル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)、アリールスルホニル基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、ヘテロ環基(炭素数1~12が好ましく、1~8がより好ましく、2~5がさらに好ましい、5員環または6員環を含むことが好ましい)、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、オキソ基(=O)、イミノ基(=NRN)、アルキリデン基(=C(RN)2)などが挙げられる。
RNは水素原子、アルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)であり、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アルキニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、ヘテロアリール基(炭素数1~22が好ましく、1~16がより好ましく、1~12がさらに好ましい)であり、なかでも、水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基が好ましい。RNは本発明の効果を奏する範囲でさらに置換基Tで規定される各基を有していてもよい。
各置換基に含まれるアルキル部位、アルケニル部位、およびアルキニル部位は鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい。上記置換基Tが置換基を取りうる基である場合にはさらに置換基Tを有してもよい。例えば、アルキル基はハロゲン化アルキル基となってもよいし、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、アミノアルキル基やカルボキシアルキル基になっていてもよい。
【0045】
連結基Lとしては、アルキレン基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、アルキニレン基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、(オリゴ)アルキレンオキシ基(1つの構成単位中のアルキレン基の炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい;繰り返し数は1~50が好ましく、1~40がより好ましく、1~30がさらに好ましい)、アリーレン基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、チオカルボニル基、-NRN-、およびそれらの組み合わせにかかる連結基が挙げられる。アルキレン基は下記置換基Tを有していてもよい。例えば、アルキレン基がヒドロキシル基を有していてもよい。連結基Lに含まれる原子数は水素原子を除いて1~50が好ましく、1~40がより好ましく、1~30がさらに好ましい。連結原子数は連結に関与する原子団のうち最短の道程に位置する原子数を意味する。例えば、-CH2-(C=O)-O-だと、連結に関与する原子は6個であり、水素原子を除いても4個である。一方連結に関与する最短の原子は-C-C-O-であり、3個となる。この連結原子数として、1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい。なお、上記アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、(オリゴ)アルキレンオキシ基は、鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい。
【0046】
インプリント用下層膜形成組成物中における、特定のポリマーの含有率は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることがより一層好ましく、3質量%以下であることがさらに一層好ましく、1質量%以下、0.7質量%以下であってもよい。
特定ポリマーの不揮発性成分(組成物中の溶剤以外の成分をいう、以下同じ)中の含有率は、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
この量を上記下限値以上とすることで、ポリマーを配合したことによる効果を好適に発揮させることができ、また、均一な薄膜を調製しやすくなる。一方上記上限値以下とすることにより、溶剤を用いた効果が好適に発揮され、広い面積に均一な膜を形成しやすくなる。
特定ポリマーは、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0047】
特定ポリマーの例としては下記実施例で用いたポリマーを挙げることができるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0048】
<<特定化合物>>
本発明で用いるインプリント用下層膜形成組成物に含まれる特定化合物は、沸点と熱分解温度のうち低い方が480℃以上でインプリント用硬化性組成物中に含まれる最も含有量が多い成分とのハンセン溶解度パラメータ距離(ΔHSP)が2.5以下である化合物である。特定化合物は、沸点が480℃以上であることが好ましい。
【0049】
特定化合物は、沸点(bp1)が480℃以上であることが必要であり、500℃以上であることがより好ましく、550℃以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めるものではないが、例えば800℃以下が好ましい。沸点が上記下限値を下回ると塗布後のベイク時に低分子量の特定化合物が揮発してしまい、アウトガスが発生してしまうことがある。
【0050】
上記インプリント用下層膜形成組成物に含まれる特定化合物の沸点(bp1)と、後記インプリント用硬化性組成物中の最も配合量の多い成分の沸点(bp2)との差(bp1-bp2)は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、170℃以上であることが一層好ましい。上記沸点の差の上限は、例えば、300℃以下とすることができる。
なお、インプリント用下層膜形成組成物の特定化合物を2種以上採用するときには、沸点の対比は最も沸点の低い化合物を対象とする。
【0051】
特定化合物は、上記特定ポリマーに対して低分子量の化合物であることが好ましい。具体的には、分子量が2,000未満であることが好ましく、1,500以下であることがより好ましく、1,300以下であることがさらに好ましく、1,000以下であることが一層好ましい。下限値としては、100以上であることが実際的である。
【0052】
上記特定化合物は、上記特定ポリマーが有する重合性官能基と重合可能な基(以下、単に、「重合可能な基」ということがある)を分子内に有することが好ましい。特定化合物一分子における、重合可能な基の数は2つ以上が好ましく、3つ以上がより好ましい。また、上限は6つ以下が好ましく、5つ以下、4つ以下であってもよい。特定化合物が有する重合可能な基は一分子内に3つであることが特に好ましい。本発明の好ましい実施形態においては、重合可能な基を複数有することでより低分子量の特定化合物はより高分子量の特定ポリマーの主鎖間に3次元架橋を形成するための架橋剤として機能し、より密着が強固となる。ただし、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
重合可能な基とは、特定ポリマーが有する重合性官能基と重合可能な基である限り特に定めるものではなく、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基が例示され、上記重合性官能基Psに相当するものが好ましく、エポキシ基および(メタ)アクリロイル基がより好ましく、(メタ)アクリロイル基がさらに好ましい。
また、特定化合物に含まれる重合可能な基と特定ポリマーが有する重合性官能基は、少なくとも1種が共通することが好ましい。
【0053】
特定化合物は、基材との密着性を強固にするため極性官能基Tfを有していてもよい。具体的には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(-COORQ1)、アミノ基(-NRN
2)、アミド基(-CONRN
2)、イミド基含有基(-CONRNCORQ1)、ウレア基含有基(-NRNCONRN
2)、ウレタン基(-OCONRN
2,-NRNCOORQ2,)、シアノ基、酸素原子(エーテル基)、下記の連結基Lで好ましい範囲を規定している(オリゴ)アルキレンオキシ基、環状エーテル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい)、ラクトン基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい)、スルホニル基含有基(-SO2RQ3)、スルホン酸基(-SO2(OH))、スルフィン酸基(-SO2OH))、スルホンアミド基(-SO2NRN
2)、スルホンイミドイル基含有基(-S(O)(NRN)RQ1)、リン酸基(-O(P=O)(OH)2)、リン酸エステル基(-O(P=O)(OH)(ORQ1),-O(P=O)(ORQ1)2)などが挙げられる。この中でも特に、スルホニル基含有基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルホンアミド基、スルホンイミドイル基含有基、リン酸基、リン酸エステル基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基が好ましい。
【0054】
特定化合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)ベクトルの:
(i)分散項成分(d成分)は、14.0~20.0であることが好ましく、15.0~20.0であることがより好ましく、17.0~19.0であることがさらに好ましく、17.5~19.0であることが一層好ましく、18.0~19.0であることがより一層好ましい;
(ii)極性項成分(p成分)は、3.5~8.0であることが好ましく、4.0~8.0であることがより好ましく、4.0~7.5であることがさらに好ましく、4.0~5.5が一層好ましい;
(iii)水素結合項成分(h成分)は、4.0~8.0であることが好ましく、4.0~7.5であることがより好ましく、4.5.2~5.5であることがさらに好ましい。
上記特定化合物の、HSPベクトルの分散項成分、極性項成分、水素結合項成分は、それぞれ、後述する実施例に記載の方法で設定される。
また、特定化合物に限らず、不揮発性成分が複数ある場合には、特定化合物以外の少なくとも1種も上記の範囲を満たすことが好ましく、特定化合物以外の不揮発性成分の80質量%以上が上記の範囲を満たすことがより好ましく、すべての成分が上記の範囲にあることがさらに好ましい。
【0055】
特定化合物の23℃における粘度は2,000mPa・s以下であることが好ましく、1,000mPa・s以下であることがより好ましい。また、3mPa・s以上であることが好ましく。10mPa・s以上であることがより好ましく、50mPa・s以上であることがさらに好ましい。粘度が上記上限値を上回るとベイクによる架橋時の低分子量の特定化合物の流動性が低下し架橋形成しづらくなるため、密着性が低下することがある。また、上記下限値を下回ると、ベイク時の膜安定性が低下し、インプリント用下層膜の面状が悪化することがある。なお、特定化合物の粘度は後記実施例に記載の方法に基づき測定した値を採用する。
【0056】
特定化合物の表面張力は35mN/m以上であることが好ましく、38mN/m以上であることがより好ましく、40mN/m以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めるものではないが、例えば45mN/m以下であることが好ましい。表面張力が上記下限値を下回るとベイク後に形成されたインプリント用下層膜の表面エネルギーが低下し、インプリント用硬化性組成物の濡れ性が悪化することがある。特定化合物の粘度は後記実施例に記載の方法に基づき測定した値を採用する。
【0057】
特定化合物は、下記式(3)で表されることが好ましい。
【化3】
L
30は、q3+1価の連結基であり、上記のL
2と同義である。ただし好ましい範囲は、上記炭化水素芳香族環aCyを有する基(炭素数6~22が好ましく、6~18がより好ましく、6~10がさらに好ましい)、アルカン構造の基(炭素数2~40が好ましく、4~30がより好ましく、6~24がさらに好ましい)、(オリゴ)アルキレンオキシ基(1つの構成単位中のアルキレン基の炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい;繰り返し数は1~50が好ましく、1~40がより好ましく、1~30がさらに好ましい)、またはこれらの組合せが好ましい。L
30は上記置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数が結合して環を形成してもよい。置換基Tが複数あるとき互いに同じでも異なっていてもよい。
R
31およびR
32はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。
L
31およびL
32はそれぞれ独立に単結合または上記ヘテロ原子を有する連結基Lhを表す。L
30とL
31またはL
32は連結基Lを介してまたは介さずに結合して環を形成していてもよい。L
30、L
31およびL
32は上記置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数が結合して環を形成してもよい。置換基Tが複数あるとき互いに同じでも異なっていてもよい。L
31およびL
32は互いにまたはL
30と結合して環を形成していてもよい。
q3は0~5の整数であり、1~5の整数が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましい。q3=0のとき、L
30は置換基となる。L
30が置換基となるとき、L32の部位は水素原子となる。
【0058】
式(3)で表される化合物は、分子内に、上記の極性官能基Tfを有することが好ましい。式中のカルボニル基および酸素原子とともに、極性官能基Tfを構成していてもよい。
【0059】
インプリント用下層膜形成組成物中における、特定化合物の含有率は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることがより一層好ましく、3質量%以下であることがさらに一層好ましく、1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であってもよい。
特定化合物の不揮発性成分中の含有率は、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
この量を上記下限値以上とすることで、ポリマーを配合したことによる効果を好適に発揮させることができ、また、均一な薄膜を調製しやすくなる。一方上記上限値以下とすることにより、溶剤を用いた効果が好適に発揮され、広い面積に均一な膜を形成しやすくなる。
【0060】
インプリント用下層膜形成組成物に用いられる特定化合物は、特定ポリマー100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、25質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上、60質量部以上、80質量部以上、90質量部以上であってもよい。上限としては、500質量部以下であることが好ましく、400質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下、200質量部以下、150質量部以下、130質量部以下、110質量部以下であってもよい。このような構成とすることにより、密着性と充填性をバランスよく発現させることが可能となる。
特定化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0061】
特定化合物の粘度は、3,000mPa・s以下であることが好ましく、2,000mPa・s以下であることがより好ましく、1,500mPa・s以下であることがさらに好ましく、1,000mPa・s以下であることが一層好ましい。特定化合物の粘度の下限は、5mPa・s以上であることが好ましく、10Pa・s以上であることがより好ましく、20mPa・s以上であってもよく、さらには50mPa・s以上であってもよい。この粘度を好適な範囲とすることにより、特定ポリマーとの相互作用を高め、インプリント用硬化性組成物とも好適に作用して、濡れ性において一層効果が高まり好ましい。なお、特定化合物の粘度は後記実施例に記載の方法に基づき測定した値を採用する。
【0062】
特定化合物の23℃における表面張力は、37.0mN/m以上であることが好ましく、38.0mN/m以上であることがより好ましい。表面張力の上限は特に定めるものではないが、例えば48.0mN/m以下である。
インプリント用下層膜形成組成物に含まれる特定化合物の表面張力(η1)の方が、インプリント用硬化性組成物中の最も配合量の多い成分の表面張力(η2)より大きいことが好ましい。その差は、η1-η2で、2.0mN/m以上であることが好ましく、2.5mN/m以上であることがより好ましく、3.0mN/m以上であることがさらに好ましい。このような構成とすることにより、インプリント用硬化性組成物との濡れ性をより良好にすることが可能となる。
この表面張力は、後記実施例に記載の方法に基づき測定した値を採用する。
【0063】
特定化合物の例としては下記実施例で用いた化合物を挙げることができるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【化4】
【0064】
<<アルキレングリコール化合物>>
インプリント用下層膜形成組成物は、アルキレングリコール化合物を含んでいてもよい。アルキレングリコール化合物は、アルキレングリコール構成単位を3~1000個有していることが好ましく、4~500個有していることがより好ましく、5~100個有していることがさらに好ましく、5~50個有していることが一層好ましい。アルキレングリコール化合物の重量平均分子量(Mw)は150~10000が好ましく、200~5000がより好ましく、300~3000がさらに好ましく、300~1000が一層好ましい。
アルキレングリコール化合物は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらのモノまたはジメチルエーテル、モノまたはジオクチルエーテル、モノまたはジノニルエーテル、モノまたはジデシルエーテル、モノステアリン酸エステル、モノオレイン酸エステル、モノアジピン酸エステル、モノコハク酸エステルが例示され、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。
アルキレングリコール化合物の23℃における表面張力は、38.0mN/m以上であることが好ましく、40.0mN/m以上であることがより好ましい。表面張力の上限は特に定めるものではないが、例えば48.0mN/m以下である。このような化合物を配合することにより、下層膜の直上に設けるインプリント用硬化性組成物の濡れ性をより向上させることができる。
【0065】
アルキレングリコール化合物は、含有する場合、不揮発性成分の40質量%以下であり、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、1~15質量%であることがさらに好ましい。
アルキレングリコール化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0066】
<<重合開始剤>>
インプリント用下層膜形成組成物は、重合開始剤を含んでいてもよく、熱重合開始剤および光重合開始剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。重合開始剤を含むことにより、インプリント用下層膜形成組成物に含まれる重合性基の反応が促進し、密着性が向上する傾向にある。インプリント用硬化性組成物との架橋反応性を向上させる観点から光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤が好ましく、ラジカル重合開始剤がより好ましい。また、本発明において、光重合開始剤は複数種を併用してもよい。
【0067】
光ラジカル重合開始剤としては、公知の化合物を任意に使用できる。例えば、ハロゲン化炭化水素誘導体(例えば、トリアジン骨格を有する化合物、オキサジアゾール骨格を有する化合物、トリハロメチル基を有する化合物など)、アシルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール、オキシム誘導体等のオキシム化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ケトン化合物、芳香族オニウム塩、ケトオキシムエーテル、アミノアセトフェノン化合物、ヒドロキシアセトフェノン、アゾ系化合物、アジド化合物、メタロセン化合物、有機ホウ素化合物、鉄アレーン錯体などが挙げられる。これらの詳細については、特開2016-027357号公報の段落0165~0182の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
アシルホスフィン化合物としては、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドなどが挙げられる。また、市販品であるIRGACURE-819やIRGACURE1173、IRGACURE-TPO(商品名:いずれもBASF製)を用いることができる。
【0068】
上記インプリント用下層膜形成組成物に用いられる光重合開始剤の含有量は、配合する場合、不揮発性成分中、例えば、0.0001~5質量%であり、好ましくは0.0005~3質量%であり、さらに好ましくは0.01~1質量%である。2種以上の光重合開始剤を用いる場合は、その合計量が上記範囲となる。
【0069】
<<その他の不揮発性成分>>
インプリント用下層膜形成組成物に配合される不揮発性成分としては、上記化合物の他に、熱重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、レベリング剤、増粘剤、界面活性剤等を1種または2種以上含んでいてもよい。
熱重合開始剤等については、特開2013-036027号公報、特開2014-090133号公報、特開2013-189537号公報に記載の各成分を用いることができる。含有量等についても、上記公報の記載を参酌できる。
また、本発明では、インプリント用下層膜形成組成物が実質的に界面活性剤を含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、インプリント用下層膜形成組成物中の不揮発性成分の0.1質量%以下であることをいう。
【0070】
<<下層膜用溶剤>>
インプリント用下層膜形成組成物は溶剤(下層膜用溶剤)を含むことが好ましい。溶剤は例えば、23℃で液体であって沸点が250℃以下の化合物が好ましい。通常、不揮発性成分が最終的に下層膜を形成する。インプリント用下層膜形成組成物は、下層膜用溶剤を99.0質量%以上含むことが好ましく、99.5質量%以上含むことがより好ましく、99.6質量%以上であってもよい。本発明において、液体とは、23℃における粘度が100,000mPa・s以下であることをいう。
溶剤は、インプリント用下層膜形成組成物に、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
下層膜用溶剤の沸点は、230℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましく、160℃以下であることが一層好ましく、130℃以下であることがより一層好ましい。下限値は23℃であることが実際的であるが、60℃以上であることがより実際的である。沸点を上記の範囲とすることにより、下層膜から溶剤を容易に除去でき好ましい。
【0071】
下層膜用溶剤は、有機溶剤が好ましい。溶剤は、好ましくはエステル基、カルボニル基、ヒドロキシル基およびエーテル基のいずれか1つ以上を有する溶剤である。なかでも、非プロトン性極性溶剤を用いることが好ましい。
【0072】
具体例としては、アルコキシアルコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレート、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、乳酸エステル、酢酸エステル、アルコキシプロピオン酸エステル、鎖状ケトン、環状ケトン、ラクトン、およびアルキレンカーボネートが選択される。
【0073】
アルコキシアルコールとしては、メトキシエタノール、エトキシエタノール、メトキシプロパノール(例えば、1-メトキシ-2-プロパノール)、エトキシプロパノール(例えば、1-エトキシ-2-プロパノール)、プロポキシプロパノール(例えば、1-プロポキシ-2-プロパノール)、メトキシブタノール(例えば、1-メトキシ-2-ブタノール、1-メトキシ-3-ブタノール)、エトキシブタノール(例えば、1-エトキシ-2-ブタノール、1-エトキシ-3-ブタノール)、メチルペンタノール(例えば、4-メチル-2-ペンタノール)などが挙げられる。
【0074】
プロピレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレートとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、および、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートからなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートであることが特に好ましい。
【0075】
また、プロピレングリコールモノアルキルエーテルとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテルまたはプロピレングリコールモノエチルエーテルが好ましい。
乳酸エステルとしては、乳酸エチル、乳酸ブチル、または乳酸プロピルが好ましい。
酢酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、酢酸イソアミル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸ブチル、蟻酸プロピル、または酢酸3-メトキシブチルが好ましい。
アルコキシプロピオン酸エステルとしては、3-メトキシプロピオン酸メチル(MMP)、または、3-エトキシプロピオン酸エチル(EEP)が好ましい。
鎖状ケトンとしては、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、アセトン、4-ヘプタノン、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、フェニルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、イオノン、ジアセトニルアルコール、アセチルカービノール、アセトフェノン、メチルナフチルケトンまたはメチルアミルケトンが好ましい。
環状ケトンとしては、メチルシクロヘキサノン、イソホロンまたはシクロヘキサノンが好ましい。
ラクトンとしては、γ-ブチロラクトンが好ましい。
アルキレンカーボネートとしては、プロピレンカーボネートが好ましい。
【0076】
上記成分の他、炭素数が7以上(7~14が好ましく、7~12がより好ましく、7~10がさらに好ましい)、かつ、ヘテロ原子数が2以下のエステル系溶剤を用いることが好ましい。
【0077】
炭素数が7以上かつヘテロ原子数が2以下のエステル系溶剤の好ましい例としては、酢酸アミル、酢酸2-メチルブチル、酢酸1-メチルブチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸ヘキシル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、プロピオン酸ヘプチル、ブタン酸ブチルなどが挙げられ、酢酸イソアミルを用いることが特に好ましい。
【0078】
また、引火点(以下、p成分ともいう)が30℃以上である溶剤を用いることも好ましい。このような成分としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(p成分:47℃)、乳酸エチル(p成分:53℃)、3-エトキシプロピオン酸エチル(p成分:49℃)、メチルアミルケトン(p成分:42℃)、シクロヘキサノン(p成分:30℃)、酢酸ペンチル(p成分:45℃)、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル(p成分:45℃)、γ-ブチロラクトン(p成分:101℃)またはプロピレンカーボネート(p成分:132℃)が好ましい。これらのうち、プロピレングリコールモノエチルエーテル、乳酸エチル、酢酸ペンチルまたはシクロヘキサノンがさらに好ましく、プロピレングリコールモノエチルエーテルまたは乳酸エチルが特に好ましい。
【0079】
下層膜用溶剤として中でも好ましい溶剤としては、水、1-メトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エトキシエチルプロピオネート、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、乳酸エチルおよび4-メチル-2-ペンタノールからなる群から選択される少なくとも1種であり、1-メトキシ-2-プロパノール、PGMEA、酢酸ブチルからなる群から選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0080】
インプリント用下層膜形成組成物の収容容器としては従来公知の収容容器を用いることができる。また、収容容器としては、原材料や組成物中への不純物混入を抑制することを目的に、容器内壁を6種6層の樹脂で構成された多層ボトルや、6種の樹脂を7層構造にしたボトルを使用することも好ましい。このような容器としては例えば特開2015-123351号公報に記載の容器が挙げられる。
【0081】
<<表面自由エネルギー>>
本発明のインプリント用下層膜形成組成物から形成されたインプリント用下層膜の表面自由エネルギーが30mN/m以上であることが好ましく、40mN/m以上であることがより好ましく、50mN/m以上であることがさらに好ましい。上限としては、200mN/m以上であることが好ましく、150mN/m以上であることがより好ましく、100mN/m以上であることがさらに好ましい。
表面自由エネルギーの測定は、例えば、協和界面科学(株)製、表面張力計 SURFACE TENS-IOMETER CBVP-A3を用い、ガラスプレートを用いて23℃で行うことができる。
【0082】
<インプリント用硬化性組成物>
インプリント用硬化性組成物は、特定化合物とのハンセン溶解度パラメータ距離であるΔHSPが2.5以下である化合物を含む。上記化合物は、インプリント用硬化性組成物に含まれる最も含有量が多い成分(最大量成分)である。インプリント用硬化性組成物は、上記最大量成分が、組成物の20質量%以上を占めることが好ましく、30質量%以上を占めることがより好ましく、40質量%以上を占めることがさらに好ましく、50質量%以上を占めることが一層好ましく、51質量%以上を占めることがより一層好ましい。上限値については、特に定めるものではないが、例えば、95質量%以下、さらには85質量%以下、特には75質量%以下とすることができる。
上記最大量成分のハンセン溶解度パラメータ(HSP)ベクトルの:
(i)分散項成分(d成分)は、14.0~20.0であることが好ましく、15.0~19.0であることがより好ましく、16.0~18.5であることがさらに好ましい;
(ii)極性項成分(p成分)は、3.5~8.0であることが好ましく、3.8~6.0であることがより好ましく、4.0~5.0であることがさらに好ましい;
(iii)水素結合項成分(h成分)は、4.0~8.0であることが好ましく、4.7~7.0であることがより好ましく、5.2~6.5であることがさらに好ましい。
上記最大量成分の、HSPベクトルの分散項成分、極性項成分、水素結合項成分は、それぞれ、後述する実施例に記載の方法で設定される。なお、インプリント用硬化性組成物の含有成分が複数ある場合には、最大量成分が上記の範囲を満たすが、最大量成分以外の成分も上記の範囲を満たすことがより好ましく、インプリント用硬化性組成物の80質量%以上の成分が上記範囲を満たすことがさらに好ましい。
【0083】
<<重合性化合物>>
インプリント用硬化性組成物は重合性化合物を含むことが好ましく、この重合性化合物が最大量成分を構成することがより好ましい。重合性化合物は、一分子中に重合性官能基を1つ有していても、2つ以上有していてもよい。インプリント用硬化性組成物に含まれる重合性化合物の少なくとも1種は、重合性官能基を一分子中に2~5つ含むことが好ましく、2~4つ含むことがより好ましく、2または3つ含むことがさらに好ましく、3つ含むことが一層好ましい。
インプリント用硬化性組成物に含まれる重合性化合物の少なくとも1種は、芳香族環(例えば、上記炭化水素芳香族環aCy)および脂環の少なくとも一方を含むことが好ましく、芳香族環を含むことがさらに好ましい。芳香族環はベンゼン環が好ましい。
重合性化合物の分子量は100~900が好ましい。
上記重合性化合物の少なくとも1種は、下記式(I-1)で表されることが好ましい。
【化5】
L
20は、上記式(3)のL
30と同義の基であり、その好ましい範囲も同じである。
R
21およびR
22はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。
L
21およびL
22はそれぞれ独立に単結合または上記ヘテロ原子を有する連結基Lhを表す。L
20とL
21またはL
22は連結基Lを介してまたは介さずに結合して環を形成していてもよい。L
20、L
21およびL
22は上記置換基Tを有していてもよい。置換基Tは複数が結合して環を形成してもよい。置換基Tが複数あるとき互いに同じでも異なっていてもよい。L
20が置換基を有する例としては、q2が0でL
20が末端の置換基となるとき、L
20を構成する芳香族環(例えばベンゼン環)にアルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい)が置換した態様を好ましい例として挙げることができる。
q2は0~5の整数であり、0~3の整数が好ましく、0~2の整数がより好ましく、0または1がさらに好ましい。
【0084】
重合性化合物の例としては下記実施例で用いた化合物、特開2014-090133号公報の段落0017~0024および実施例に記載の化合物、特開2015-009171号公報の段落0024~0089に記載の化合物、特開2015-070145号公報の段落0023~0037に記載の化合物、国際公開第2016/152597号の段落0012~0039に記載の化合物を挙げることができるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0085】
重合性化合物は、インプリント用硬化性組成物中、30質量%以上含有することが好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、55質量%以上が一層好ましく、60質量%以上であってもよく、さらに70質量%以上であってもよい。また、上限値は、99質量%未満であることが好ましく、98質量%以下であることがさらに好ましく、97質量%以下とすることもできる。
【0086】
重合性化合物の沸点は、上述したインプリント用下層膜形成組成物に含まれる特定化合物との関係で設定され配合設計されることが好ましい。重合性化合物の沸点は、500℃以下であることが好ましく、450℃以下であることがより好ましく、400℃以下であることがさらに好ましい。下限値としては200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることがさらに好ましい。
【0087】
<<他の成分>>
インプリント用硬化性組成物は、重合性化合物以外の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、重合開始剤、界面活性剤、増感剤、離型剤、酸化防止剤、重合禁止剤等を含んでいてもよい。
本発明で用いることができるインプリント用硬化性組成物の具体例としては、特開2013-036027号公報、特開2014-090133号公報、特開2013-189537号公報に記載の組成物が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。また、インプリント用硬化性組成物の調製、膜(パターン形成層)の形成方法についても、上記公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0088】
<<物性値等>>
インプリント用硬化性組成物の粘度は、20.0mPa・s以下であることが好ましく、15.0mPa・s以下であることがより好ましく、11.0mPa・s以下であることがさらに好ましく、9.0mPa・s以下であることが一層好ましい。上記粘度の下限値としては、特に限定されるものでは無いが、例えば、5.0mPa・s以上とすることができる。粘度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0089】
インプリント用硬化性組成物の表面張力(γResist)は28.0mN/m以上であることが好ましく、30.0mN/m以上であることがより好ましく、32.0mN/m以上であってもよい。表面張力の高いインプリント用硬化性組成物を用いることで毛細管力が上昇し、モールドパターンへのインプリント用硬化性組成物の高速な充填が可能となる。上記表面張力の上限値としては、特に限定されるものではないが、下層膜との関係およびインクジェット適性を付与するという観点では、40.0mN/m以下であることが好ましく、38.0mN/m以下であることがより好ましく、36.0mN/m以下であってもよい。インプリント用硬化性組成物の表面張力は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0090】
インプリント用硬化性組成物の大西パラメータは、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.7以下であることがさらに好ましい。インプリント用硬化性組成物の大西パラメータの下限値は、特に定めるものではないが、例えば、1.0以上、さらには、2.0以上であってもよい。
大西パラメータはインプリント用硬化性組成物の不揮発性成分について、それぞれ、全構成成分の炭素原子、水素原子および酸素原子の数を下記式に代入して求めることができる。
大西パラメータ=炭素原子、水素原子および酸素原子の数の和/(炭素原子の数-酸素原子の数)
【0091】
本発明では、インプリント用硬化性組成物における溶剤の含有量は、インプリント用硬化性組成物の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
インプリント用硬化性組成物は、ポリマー(好ましくは、重量平均分子量が1,000を超える、より好ましくは重量平均分子量が2,000を超える、さらに好ましくは重量平均分子量が10,000以上のポリマー)を実質的に含有しない態様とすることもできる。ポリマーを実質的に含有しないとは、例えば、ポリマーの含有量がインプリント用硬化性組成物の0.01質量%以下であることをいい、0.005質量%以下が好ましく、全く含有しないことがより好ましい。
【0092】
本発明で用いるインプリント用硬化性組成物の収容容器としては従来公知の収容容器を用いることができる。また、収容容器としては、原材料や組成物中への不純物混入を抑制することを目的に、容器内壁を6種6層の樹脂で構成された多層ボトルや、6種の樹脂を7層構造にしたボトルを使用することも好ましい。このような容器としては例えば特開2015-123351号公報に記載の容器が挙げられる。
【0093】
<積層体およびその製造方法>
本発明のキットの好ましい実施形態として、このキットから形成される積層体が挙げられる。本実施形態の積層体は、上記インプリント用下層膜形成組成物から形成された下層膜と、上記インプリント用硬化性組成物から形成され、上記下層膜の表面に位置するインプリント層とを有することが好ましい。その製造方法は特に限定されないが、上記のキットを用いて、インプリント用下層膜形成組成物から形成された下層膜の表面に、インプリント用硬化性組成物を適用することを含む製造方法が挙げられる。このとき、インプリント用硬化性組成物は、インクジェット法(IJ法)により、上記下層膜の表面に適用することが好ましい。さらに、積層体の製造方法は、上記インプリント用下層膜形成組成物を基板上に層状に適用する工程を含み、上記層状に適用したインプリント用下層膜形成組成物を40~70℃(好ましくは50~65℃)で加熱することを含むことが好ましい。
【0094】
<パターンおよびパターン形成方法>
本発明の好ましい実施形態にかかるパターンの形成方法は、上記インプリント用下層膜形成組成物を基板に適用しインプリント用下層膜を形成する工程(下層膜形成工程)、下層膜にインプリント用硬化性組成物を適用する工程(適用工程)、インプリント用硬化性組成物にモールドを接触させた状態でインプリント用硬化性組成物を露光する工程およびモールドを剥離する工程(モールド接触工程、光照射工程、離型工程)を含む。インプリント用硬化性組成物は、下層膜の表面に設けることが好ましい。
以下、パターン形成方法(硬化物パターンの製造方法)について、
図1に従って説明する。本発明の構成が図面により限定されるものではないことは言うまでもない。
【0095】
<<下層膜形成工程>>
下層膜形成工程では、
図1(1)(2)に示す様に、基板1上に、下層膜2を形成する。下層膜は、インプリント用下層膜形成組成物を基板上に層状に適用して形成することが好ましい。下層膜の下で、基板1の表面に密着膜を設けてもよい。
【0096】
基板上へのインプリント用下層膜形成組成物の適用方法としては、特に定めるものではなく、一般によく知られた適用方法を採用できる。具体的には、適用方法としては、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法、スピンコート法、スリットスキャン法、あるいはインクジェット法が例示され、スピンコート法が好ましい。
また、基板上にインプリント用下層膜形成組成物を層状に適用した後、好ましくは、熱によって溶剤を揮発(乾燥)させて、薄膜である下層膜を形成する。
【0097】
下層膜2の厚さは、2nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、4nm以上であることがさらに好ましく、5nm以上であってもよく、7nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。また、下層膜の厚さは、40nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましく、15nm以下であってもよい。膜厚を上記下限値以上とすることにより、インプリント用硬化性組成物の下層膜上での拡張性(濡れ性)が向上し、インプリント後の均一な残膜形成が可能となる。膜厚を上記上限値以下とすることにより、インプリント後の残膜が薄くなり、膜厚ムラが発生しにくくなり、残膜均一性が向上する傾向にある。
【0098】
基板の材質としては、特に定めるものでは無く、特開2010-109092号公報(対応US出願の公開番号は、US2011/0183127)の段落0103の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。本発明では、シリコン基板、ガラス基板、石英基板、サファイア基板、シリコンカーバイド(炭化ケイ素)基板、窒化ガリウム基板、アルミニウム基板、アモルファス酸化アルミニウム基板、多結晶酸化アルミニウム基板、ならびに、GaAsP、GaP、AlGaAs、InGaN、GaN、AlGaN、ZnSe、AlGa、InP、または、ZnOから構成される基板が挙げられる。なお、ガラス基板の具体的な材料例としては、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスが挙げられる。本発明では、シリコン基板が好ましい。
【0099】
<<適用工程>>
適用工程では、例えば、
図1(3)に示すように、上記下層膜2の表面に、インプリント用硬化性組成物3を適用する。
インプリント用硬化性組成物の適用方法としては、特に定めるものでは無く、特開2010-109092号公報(対応US出願の公開番号は、US2011/0183127)の段落0102の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。上記インプリント用硬化性組成物は、インクジェット法により、上記下層膜の表面に適用することが好ましい。また、インプリント用硬化性組成物を、多重塗布により塗布してもよい。インクジェット法などにより下層膜の表面に液滴を配置する方法において、液滴の量は1~20pL程度が好ましく、液滴間隔をあけて下層膜表面に配置することが好ましい。液滴間隔としては、10~1000μmの間隔が好ましい。液滴間隔は、インクジェット法の場合は、インクジェットのノズルの配置間隔とする。
さらに、下層膜2と、下層膜上に適用した膜状のインプリント用硬化性組成物3の体積比は、1:1~500であることが好ましく、1:10~300であることがより好ましく、1:50~200であることがさらに好ましい。
また、本発明の好ましい実施形態に係る積層体の製造方法は、本発明のキットを用いて製造する方法であって、上記インプリント用下層膜用成組成物から形成された下層膜の表面に、インプリント用硬化性組成物を適用することを含む。さらに、本発明の好ましい実施形態に係る積層体の製造方法は、上記インプリント用下層膜形成組成物を基板上に層状に適用する工程を含み、上記層状に適用したインプリント用下層膜形成組成物を、好ましくは100~300℃で、より好ましくは130~260℃で、さらに好ましくは150~230℃で、加熱(ベイク)することを含むことが好ましい。加熱時間は、好ましくは30秒~5分である。
【0100】
<<モールド接触工程>>
モールド接触工程では、例えば、
図1(4)に示すように、上記インプリント用硬化性組成物3とパターン形状を転写するためのパターンを有するモールド4とを接触させる。このような工程を経ることにより、所望の硬化物パターン(インプリントパターン)が得られる。
具体的には、膜状のインプリント用硬化性組成物に所望のパターンを転写するために、膜状のインプリント用硬化性組成物3の表面にモールド4を押接する。
【0101】
モールドは、光透過性のモールドであってもよいし、光非透過性のモールドであってもよい。光透過性のモールドを用いる場合は、モールド側から硬化性組成物3に光を照射することが好ましい。一方、光非透過性のモールドを用いる場合は、基板として、光透過性基板を用い、基板側から光を照射することが好ましい。本発明では、光透過性モールドを用い、モールド側から光を照射することがより好ましい。
本発明で用いることのできるモールドは、転写されるべきパターンを有するモールドである。上記モールドが有するパターンは、例えば、フォトリソグラフィや電子線描画法等によって、所望する加工精度に応じて形成できるが、本発明では、モールドパターン製造方法は特に制限されない。また、本発明の好ましい実施形態に係る硬化物パターン製造方法によって形成したパターンをモールドとして用いることもできる。
本発明において用いられる光透過性モールドを構成する材料は、特に限定されないが、ガラス、石英、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート樹脂などの光透過性樹脂、透明金属蒸着膜、ポリジメチルシロキサンなどの柔軟膜、光硬化膜、金属膜等が例示され、石英が好ましい。
本発明において光透過性の基板を用いた場合に使われる非光透過型モールド材としては、特に限定されないが、所定の強度を有するものであればよい。具体的には、セラミック材料、蒸着膜、磁性膜、反射膜、Ni、Cu、Cr、Feなどの金属基板、SiC、シリコン、窒化シリコン、ポリシリコン、酸化シリコン、アモルファスシリコンなどの基板などが例示され、特に制約されない。
【0102】
上記硬化物パターンの製造方法では、インプリント用硬化性組成物を用いてインプリントリソグラフィを行うに際し、モールド圧力を10気圧以下とするのが好ましい。モールド圧力を10気圧以下とすることにより、モールドや基板が変形しにくくパターン精度が向上する傾向にある。また、加圧が低いため装置を縮小できる傾向にある点からも好ましい。モールド圧力は、モールド凸部にあたるインプリント用硬化性組成物の残膜が少なくなる一方で、モールド転写の均一性が確保できる範囲から選択することが好ましい。
また、インプリント用硬化性組成物とモールドとの接触を、ヘリウムガスまたは凝縮性ガス、あるいはヘリウムガスと凝縮性ガスの両方を含む雰囲気下で行うことも好ましい。
【0103】
<<光照射工程>>
光照射工程では、上記インプリント用硬化性組成物に光を照射して硬化物を形成する。光照射工程における光照射の照射量は、硬化に必要な最小限の照射量よりも十分大きければよい。硬化に必要な照射量は、インプリント用硬化性組成物の不飽和結合の消費量などを調べて適宜決定される。
照射する光の種類は特に定めるものではないが、紫外光が例示される。
また、本発明に適用されるインプリントリソグラフィにおいては、光照射の際の基板温度は、通常、室温とするが、反応性を高めるために加熱をしながら光照射してもよい。光照射の前段階として、真空状態にしておくと、気泡混入防止、酸素混入による反応性低下の抑制、モールドとインプリント用硬化性組成物との密着性向上に効果があるため、真空状態で光照射してもよい。また、上記硬化物パターン製造方法中、光照射時における好ましい真空度は、10-1Paから常圧の範囲である。
露光に際しては、露光照度を1~500mW/cm2の範囲にすることが好ましく、10~400mW/cm2の範囲にすることがより好ましい。露光の時間は特に限定されないが、0.01~10秒であることが好ましく、0.5~1秒であることがより好ましい。露光量は、5~1000mJ/cm2の範囲にすることが好ましく、10~500mJ/cm2の範囲にすることがより好ましい。
上記硬化物パターン製造方法においては、光照射により膜状のインプリント用硬化性組成物(パターン形成層)を硬化させた後、必要に応じて、硬化させたパターンに熱を加えてさらに硬化させる工程を含んでいてもよい。光照射後にインプリント用硬化性組成物を加熱硬化させるための温度としては、150~280℃が好ましく、200~250℃がより好ましい。また、熱を付与する時間としては、5~60分間が好ましく、15~45分間がさらに好ましい。
【0104】
<<離型工程>>
離型工程では、上記硬化物と上記モールドとを引き離す(
図1(5))。得られた硬化物パターンは後述する通り各種用途に利用できる。
すなわち、本発明では、上記下層膜の表面に、さらに、インプリント用硬化性組成物から形成される硬化物パターンを有する、積層体が開示される。また、本発明で用いるインプリント用硬化性組成物からなるパターン形成層の膜厚は、使用する用途によって異なるが、0.01μm~30μm程度である。
さらに、後述するとおり、エッチング等を行うこともできる。
【0105】
<硬化物パターンとその応用>
上述のように上記硬化物パターンの製造方法によって形成された硬化物パターンは、液晶表示装置(LCD)などに用いられる永久膜や、半導体素子製造用のエッチングレジスト(リソグラフィ用マスク)として使用することができる。特に、本発明では、本発明の好ましい実施形態に係る硬化物パターンの製造方法により硬化物パターンを得る工程を含む、回路基板の製造方法を開示する。さらに、本発明の好ましい実施形態に係る回路基板の製造方法では、上記硬化物パターンの製造方法により得られた硬化物パターンをマスクとして基板にエッチングまたはイオン注入を行う工程と、電子部材を形成する工程と、を有していてもよい。上記回路基板は、半導体素子であることが好ましい。すなわち、本発明では、上記パターン形成方法を含む半導体デバイスの製造方法を開示する。さらに、本発明では、上記回路基板の製造方法により回路基板を得る工程と、上記回路基板と上記回路基板を制御する制御機構とを接続する工程と、を有する電子機器の製造方法を開示する。
また、上記硬化物パターン製造方法によって形成されたパターンを利用して液晶表示装置のガラス基板にグリッドパターンを形成し、反射や吸収が少なく、大画面サイズ(例えば55インチ、60インチ超)の偏光板を安価に製造することが可能である。例えば、特開2015-132825号公報や国際公開第2011/132649号に記載の偏光板が製造できる。なお、1インチは25.4mmである。
本発明で形成された硬化物パターンは、
図1(6)(7)に示す通り、エッチングレジスト(リソグラフィ用マスク)としても有用である。硬化物パターンをエッチングレジストとして利用する場合には、まず、基板として例えばSiO
2等の薄膜が形成されたシリコン基板(シリコンウェハ等)等を用い、基板上に上記硬化物パターン製造方法によって、例えば、ナノまたはミクロンオーダーの微細な硬化物パターンを形成する。本発明では特にナノオーダーの微細パターンを形成でき、さらにはサイズが50nm以下、特には30nm以下のパターンも形成できる点で有益である。上記硬化物パターン製造方法で形成する硬化物パターンのサイズの下限値については特に定めるものでは無いが、例えば、1nm以上とすることができる。
また、本発明では、基板上に、本発明の好ましい実施形態に係る硬化物パターンの製造方法により硬化物パターンを得る工程と、得られた上記硬化物パターンを用いて上記基板にエッチングを行う工程と、を有する、インプリント用モールドの製造方法も開示する。
ウェットエッチングの場合にはフッ化水素等、ドライエッチングの場合にはCF
4等のエッチングガスを用いてエッチングすることにより、基板上に所望の硬化物パターンを形成することができる。硬化物パターンは、特にドライエッチングに対するエッチング耐性が良好である。すなわち、上記硬化物パターン製造方法によって形成されたパターンは、リソグラフィ用マスクとして好ましく用いられる。
【0106】
図2は、下層膜の表面にインプリント用硬化性組成物をインクジェット法により塗布した場合の、インプリント用硬化性組成物の濡れ広がりの状態を模式的に示す平面図である。インプリント用硬化性組成物がインクジェット(IJ)法により適用される場合、例えば、同図に示すように、下層膜21の表面にインプリント用硬化性組成物22の液滴を等間隔に滴下する(
図2(a))。そこに、モールドを接触させると、上記液滴が下層膜21上で広がり、膜状のインプリント用硬化性組成物22a、22b、22cとなっていく(
図2(b)、(c)、(d))。しかし、インプリント用硬化性組成物が均一に広がらないで、例えば、
図2(c)で濡れ広がりが止まってしまうと、下層膜21上にはインプリント用硬化性組成物22bの状態の完全に広がっていない膜が形成される。つまり、膜厚が薄いあるいは膜のない領域23が生じてしまう場合がある。このようになると、モールドのパターンにインプリント用硬化性組成物が十分に充填されない部分が生じ、インプリント層にパターンのない部分ができてしまう。例えば、このような一部において欠損あるいは厚みの不十分な部分のあるインプリント層のパターンをマスクにしてエッチングを実施した場合、膜厚の薄い領域ないし膜のない領域23とそれ以外の領域22bとでエッチングのムラが発生し、インプリント領域全面にわたって均一に所望のパターン形状をエッチングし転写することが困難となる。
これに対し、本発明のインプリント用下層膜形成組成物によれば、これにより形成される下層膜とインプリント用硬化性組成物との界面張力が改善され濡れ性が向上している。そのため、より確実に
図2(d)の状態の隅々にまで広がったインプリント用硬化性組成物22cとなる。その結果、全体にわたってインプリント用硬化性組成物がモールドに的確かつ十分に充填され、形成されたインプリント層において厚さにムラのない良好なパターニングを達成することができる。また、充填性の向上により高速のインプリントが可能となりスループットの改善にもつなげることができる。
なお、上記の説明では、インクジェット法によりインプリント用硬化性組成物を下層膜上に適用する例を挙げて本発明の好ましい実施形態にかかる作用機序について説明したが、これにより本発明が限定して解釈されるものではない。例えば、スクリーン塗布やスピンコートなどにおいても、良好な濡れ性と優れた充填性は加工上および製品品質上の利点につながり、発明の効果を好適に発揮し得るものである。
【0107】
本発明で形成されたパターンは、具体的には、磁気ディスク等の記録媒体、固体撮像素子等の受光素子、LED(light emitting diode)や有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)等の発光素子、液晶表示装置(LCD)等の光デバイス、回折格子、レリーフホログラム、光導波路、光学フィルタ、マイクロレンズアレイ等の光学部品、薄膜トランジスタ、有機トランジスタ、カラーフィルタ、反射防止膜、偏光板、偏光素子、光学フィルム、柱材等のフラットパネルディスプレイ用部材、ナノバイオデバイス、免疫分析チップ、デオキシリボ核酸(DNA)分離チップ、マイクロリアクター、フォトニック液晶、ブロックコポリマーの自己組織化を用いた微細パターン形成(directed self-assembly、DSA)のためのガイドパターン等の作製に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0109】
<インプリント用下層膜形成組成物の調製>
下表1~3に記載の各化合物を配合し、下層膜形成組成物を調製した。これをフィルタ径0.02μmのNylon(ナイロン)フィルタおよびフィルタ径0.001μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタでろ過した。
【0110】
<インプリント用硬化性組成物の調製>
下表4に記載の各種化合物を混合し、さらに重合禁止剤として4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル(東京化成社製)を重合性化合物の合計量に対して200質量ppm(0.02質量%)となるように加え、インプリント用硬化性組成物を調製した。これをフィルタ径0.02μmのNylon(ナイロン)フィルタおよびフィルタ径0.001μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタでろ過した。
【0111】
<ハンセン溶解度パラメータ距離(ΔHSP)および沸点の算出>
ハンセン溶解度パラメータおよび沸点はHSP計算ソフトHSPiPにて計算した。具体的には、各化合物の構造式をSMILES形式にて上記ソフトに入力することで、ハンセン溶解度パラメータベクトルの各成分(d成分、p成分、h成分)を算出した。
ハンセン溶解度パラメータ距離(ΔHSP)については、該当する成分のハンセン溶解度パラメータの各成分(d成分、p成分、h成分)からそれぞれΔD、ΔP、ΔHを求め、数式(1)の式にあてはめることで算出した。
なお、該当成分が複数ある場合は、最も配合量(質量)の多い化合物(最大量成分)での計算値を採用した(配合量が同一の場合は表面張力の高い化合物の計算値を採用した。)。
【0112】
<分子量の測定方法>
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC測定)に従い、ポリスチレン換算値として定義した。装置はHLC-8220(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてガードカラムHZ-L、TSKgel Super HZM-M、TSKgel Super HZ4000、TSKgel Super HZ3000およびTSKgel Super HZ2000(東ソー(株)製)を用いた。溶離液は、THF(テトラヒドロフラン)を用いた。検出は、UV線(紫外線)の波長254nm検出器を使用した。
【0113】
<粘度の測定>
粘度は、東機産業(株)製のE型回転粘度計RE85L(測定範囲:0.6~1200mPa・s)およびRE85H(測定範囲:6.4~12800mPa・s)、標準コーン・ロータ(1°34’×R24)を用い、サンプルカップを23℃に温度調節して測定した。単位は、mPa・sで示した。測定に関するその他の詳細はJISZ8803:2011に準拠した。1水準につき2つの試料を作製し、それぞれ3回測定した。合計6回の算術平均値を評価値として採用した。
【0114】
<表面張力の測定>
表面張力は、協和界面科学(株)製、表面張力計 SURFACE TENS-IOMETER CBVP-A3を用い、ガラスプレートを用いて23℃で行った。単位は、mN/mで示した。1水準につき2つの試料を作製し、それぞれ3回測定した。合計6回の算術平均値を評価値として採用した。
【0115】
<下層膜の形成/膜厚評価>
シリコンウェハ(4インチ:1インチ=25.4mm)上に、表1~3に記載の成分を配合して調製したインプリント用下層膜形成組成物をスピンコートし、表1~3に記載のベイク温度でホットプレートを用いて加熱し、下層膜を形成した。下層膜の膜厚はエリプソメータにより測定した。
【0116】
<IJ(インクジェット)液滴の濡れ性の評価>
上記で得られた下層膜表面に、表4に示すインプリント用硬化性組成物を、富士フイルムダイマティックス製インクジェットプリンターDMP-2831を用いて、ノズルあたり6pLの液滴量で吐出して、下層膜の表面に液滴が縦4個および横4個の合計16個が約880μm間隔の正方配列となるように塗布した。塗布3秒後の液滴形状を撮影し、液滴の平均直径を測定した。1水準につき2つの試料を用い、それぞれ3回測定した。合計6回の算術平均値を評価値として採用した。
A:IJ液滴の平均直径>500μm
B:400μm<IJ液滴の平均直径≦500μm
C:300μm<IJ液滴の平均直径≦400μm
D:IJ液滴の平均直径≦300μm
【0117】
<充填性の評価>
上記で得られた下層膜表面に、23℃に温度調整したインプリント用硬化性組成物を、富士フイルムダイマティックス製、インクジェットプリンターDMP-2831を用いて、ノズルあたり1pLの液滴量で吐出して、上記下層膜の表面に液滴が約100μm間隔の正方配列となるように塗布した。次に、インプリント用硬化性組成物に、石英基板を押接し、インプリント用硬化性組成物を平坦化した。さらに、モールド側から高圧水銀ランプを用い、300mJ/cm2の条件で露光した後、石英基板を剥離することで平坦膜を得た。
光学顕微鏡(オリンパス製STM6-LM)を用いて上記平坦膜表面を観察して、充填性を下記の基準で評価した。
A:インプリントエリアにおいて、未充填の領域(インプリント用硬化性組成物の硬化物が存在しない領域)が発生していなかった。
B:インプリントエリアの一部の領域において、インクジェット液滴境界での未充填が確認された。
C:インプリントエリアの全面に渡って、インクジェット液滴境界での未充填が確認された。
D:インクジェット液滴同士がつながらず平坦膜を形成できていない領域が確認された。
【0118】
<密着力の評価>
上記で得られた下層膜表面に、25℃に温度調整したインプリント用硬化性組成物を、富士フイルムダイマティックス製、インクジェットプリンターDMP-2831を用いて、ノズルあたり6pLの液滴量で吐出して、下層膜上に液滴が約100μm間隔の正方配列となるように塗布し、パターン形成層とした。次に、特開2014-024322号公報の実施例6に示す密着層形成組成物をスピンコートした石英ウエハをパターン形成層にHe雰囲気下(置換率90%以上)で押接し、インプリント用硬化性組成物を押印した。押印後10秒が経過した時点で、モールド側から高圧水銀ランプを用い、150mJ/cm2の条件で露光した。露光後にモールドを剥離する際に必要な力を測定し、下層膜の密着力Fとした
A:F≧30N
B:25N≦F<30N
C:20N≦F<25N
D:F<20N
【0119】
<剥れ欠陥の評価>
上記で得られた下層膜表面に、25℃に温度調整したインプリント用硬化性組成物のいずれかを、富士フイルムダイマティックス製、インクジェットプリンターDMP-2831を用いて、ノズルあたり6pLの液滴量で吐出して、下層膜上に液滴が約100μm間隔の正方配列となるように塗布し、パターン形成層(層状のインプリント用硬化性組成物)とした。次に、パターン形成層に、石英モールド(線幅28nm、深さ60nmのラインパターン)をHe雰囲気下(置換率90%以上)で押接し、インプリント用硬化性組成物をモールドに充填した。押印後10秒が経過した時点で、モールド側から高圧水銀ランプを用い、150mJ/cm2の条件で露光した後、モールドを剥離することでパターン形成層にパターンを転写させた。転写したパターンの剥れ有無を光学顕微鏡観察(マクロ観察)およびSEM観察(走査型電子顕微鏡によるミクロ観察)にて確認した。
A:パターン剥れが確認されなかった
B:マクロ観察では剥れは確認されなかったが、ミクロ観察にてパターンの剥れが確認された
B:マクロ観察にて一部領域(離型終端部)に剥れが確認された
C:マクロ観察にて転写エリア前面にわたり剥れが確認された
【0120】
<塗布面状の評価>
上記で得られた下層膜表面の表面粗さ(Ra)をJIS B 0601の4.2.1に従い、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。測定エリアは10μm角、測定周波数は0.5Hzとした。単位は、nmである。
A:Ra≦0.4
B:0.4<Ra≦0.6
C:0.6<Ra≦1.0
D:Ra>1.0
【0121】
【表1】
配合に関する単位はいずれも質量部(以下、表2、3について同様)
4-1:PGMEA プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、表3について同様)
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0122】
表5および表6における共重合体の共重合比率は下記のとおりである(質量基準)
左の構成単位 右の構成単位
1-2 80 20
1-3 90 10
1-4 95 5
1-6 50 50
【0123】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【0124】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0125】
上記結果から明らかなとおり、インプリント用下層膜形成組成物に重合性官能基を有するポリマーと特定化合物とを採用して下層膜を形成すると、インプリント用硬化性組成物の下層膜に対する高い濡れ性をもたらし、また、インプリント用硬化性組成物から形成される膜(硬化膜)との密着性に優れていた(実施例1~29)。
一方、上記のポリマーと組み合わせる化合物が、ΔHSPの値を満たさない場合(比較例1、5、6)、化合物の沸点が低い場合(比較例3、4)は濡れ性において劣っていた。比較例2は、特定ポリマーが重合性官能基を有しておらず、密着性および剥離欠陥の耐性が劣っていた。
また、本発明の好ましい実施形態においては、濡れ性に加え、充填性、密着力、剥れ欠陥、塗布面状において特に優れたものとすることができることが分かった。
【符号の説明】
【0126】
1 基板
2 下層膜
3 インプリント用硬化性組成物
4 モールド
21 下層膜
22 インプリント用硬化性組成物