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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】仔牛の増体促進法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20220221BHJP
   A23K 50/60 20160101ALI20220221BHJP
   A23K 10/32 20160101ALI20220221BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20220221BHJP
   A61K 36/13 20060101ALN20220221BHJP
   A61K 36/18 20060101ALN20220221BHJP
   A61K 31/717 20060101ALN20220221BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K50/60
A23K10/32
A61P3/00 171
A61K36/13
A61K36/18
A61K31/717
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017015401
(22)【出願日】2017-01-31
(65)【公開番号】P2018121558
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】簑原 大介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈
(72)【発明者】
【氏名】新倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】黒須 一博
(72)【発明者】
【氏名】飯森 武志
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 史郎
(72)【発明者】
【氏名】木戸 恭子
(72)【発明者】
【氏名】手島 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】上野 豊
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-004801(JP,A)
【文献】特開2016-192916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 40/35
A23K 50/00 - 50/90
A61K 31/00 - 33/44
A61K 36/00 - 36/06
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~30重量%の木材クラフトパルプを含む配合飼料を生後満8ヶ月までの仔牛に給与することを含む、仔牛の体重増加を促進する方法であって、
木材クラフトパルプを含有する配合飼料を摂取させた場合のデイリーゲイン(1日あたりの体重増加)が、木材クラフトパルプを含まないが可消化養分総量が同じである飼料を摂取させた場合と比較して50g/日以上増大する、上記方法。
【請求項2】
前記配合飼料を生後3~7日から仔牛に給与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記仔牛が、舎飼仔牛である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
生後3~7週齢において、血中のトリグリセリド濃度が20mg/dl以下、総コレステロール濃度が140mg/dl以上である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記仔牛が、生後満2ヶ月以上6ヶ月以下の放牧仔牛である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
飼料の木材クラフトパルプ含有率が2~25重量%である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
木材クラフトパルプのカッパー価が5以上である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
木材クラフトパルプが酸素脱リグニン処理したパルプである、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仔牛の増体を促進する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、牧畜分野においては、家畜の乳量の増加や増体重などを目的に、栄養価の高い濃厚飼料が牧草などの粗飼料とともに使用されることが多い。濃厚飼料は、トウモロコシ、麦類、大豆などの易消化性炭水化物(デンプンなど)を多く含む一方、粗飼料は、牧草を乾燥した干草(乾草、わら類)や、青刈りした牧草を発酵させたもの(サイレージ化したもの)などを主とする。
【0003】
反芻動物が粗飼料を摂取し消化することが可能であるのは、ルーメン(第一胃)を有するためである。ルーメンは、反芻動物が有する複数の胃のうち最大の容積を占め、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースなどの難消化性の多糖類を分解(ルーメン発酵)し得る微生物群(ルーメン微生物)が豊富に含まれている。
【0004】
しかし、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースは、リグニン類と結合し、それぞれリグニン-セルロース複合体やリグニン-ヘミセルロース複合体として存在している場合が多い。このような複合体は、ルーメン発酵において十分に分解されないおそれがあり、粗飼料は、飼料効率が不十分になりやすいという問題点があった。また、未消化物が多くなると糞量の増加を引き起こすため、環境面においても望ましくないとされていた。
【0005】
さらに、粗飼料は、牧草の収穫量や作柄により影響を受けやすく、供給量が不安定である。特にわが国では粗飼料の多くを輸入に頼っているため、概して価格変動が大きく、また、輸出国の諸事情により輸入困難になる場合もあり、牧場経営を圧迫する場合がある。
【0006】
このため、牧草に代替でき、飼料効率に優れ、安価であり、且つ安定的に入手可能な反芻動物用飼料が望まれている。
ここで、飼料中の栄養濃度を高めるため、易消化性の炭水化物(デンプン)を多く含む濃厚飼料を粗飼料に配合することが一般に行われている。乳用家畜の乳量を維持し、或いは、肉用家畜の増体を維持するためは、飼料摂取量をも増加させる必要があるが、乳量の増加や体格の増強にともなうエネルギー要求量の増加率は、摂取飼料量の増加率を超えるためである。ところが、濃厚飼料中のデンプンなどの炭水化物は、ルーメンのpHを急激に低下させることがあり、結果としてルーメンアシドーシスが発生することがある。ルーメンアシドーシスとは、反芻動物の疾病の一種であり、炭水化物に富む穀物、濃厚飼料、果実類などを急激に摂取することにより引き起こされる。ルーメンアシドーシスにおいては、ルーメン内において、グラム陽性乳酸生成菌、特にStreptcoccus bovisおよびLactobacillus属微生物が増加し、乳酸あるいは揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)の異常な蓄積が生じ、ルーメン内のpHが低下する(pH5以下)。その結果、ルーメン内のプロトゾア(原生動物)、及びある種の細菌の減少あるいは消滅を引き起こす。特に急性アシドーシスは、ルーメンの鬱血や脱水症(胃内容浸透圧の上昇に伴い体液が大量に胃内に移動)、さらには昏睡や死をもたらすため、極めて危険である。
【0007】
ルーメンアシドーシスの予防には、飼料配合の急激な変化を避け、ルーメン発酵を安定化させ、pHの変動を少なくすることが重要である。また、唾液には重曹が含まれpH調節に寄与するため、十分な反芻により唾液分泌のできる飼料を給与することも重要である。ただし、ルーメンアシドーシスを恐れ、飼料の栄養価を低くすると、エネルギーが不足して乳生産量が低下してしまうという懸念もある。
【0008】
ルーメンアシドーシスを予防する飼料として、特許文献1には、木質原料に高衝撃力を与えて粉砕し微粒子化した家畜飼料が開示されている。また、ペレット化した飼料に関して、特許文献2には、加工食品残渣をペレット化して飼料を製造することが提案されている。さらに、特許文献3には、リグノセルロースバイオマスをペレット化して反芻動物の飼料とすることが記載されている(特表2013-518880号公報)。さらにまた、特許文献4には、カッパー価が90以下のクラフトパルプをペレット化して反芻動物の飼料とすることが記載されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、中性デタージェンド繊維、デンプン及びりんごジュース粕を含む飼料をルーメンが未発達な仔牛に与えることにより、ルーメンアシドーシスを緩和して糞便性状を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-083281号公報
【文献】特開平10-75719号公報
【文献】国際公開WO2011/097075
【文献】特開2015-198653号公報
【文献】特開2013-255433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、生後まもない仔牛を順調に生育させることは重要である。特に、畜舎の清掃、敷料の交換、飼料給与などの労力や費用を削減するために仔牛を放牧することがあるが、単に仔牛を放牧するだけでは十分な体重の増加が図れないことがあり、離乳時の低発育が問題となる場合がある。
【0012】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、仔牛の増体を促進する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、木材パルプを仔牛の飼料に配合することによって仔牛の発育を促し増体を促進できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の態様を包含する。
(1) 1~30重量%の木材パルプを含む配合飼料を生後満8ヶ月までの仔牛に給与することを含む、仔牛の体重増加を促進する方法。
(2) 前記配合飼料を生後3~7日から仔牛に給与する、(1)に記載の方法。
(3) 前記仔牛が、舎飼仔牛である、(1)に記載の方法。
(4) 生後3~7週齢において、血中のトリグリセリド濃度が20mg/dl以下、総コレステロール濃度が140mg/dl以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記仔牛が、生後満2ヶ月以上6ヶ月以下の放牧仔牛である、(1)に記載の方法。
(6) 飼料の木材パルプ含有率が2~25重量%である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 木材パルプがクラフトパルプである、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 木材パルプのカッパー価が5以上である、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 木材パルプが酸素脱リグニン処理したパルプである、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10) 前記配合飼料と可消化養分総量が同じである、木材パルプを含まない飼料を摂取させた場合と比較して、木材パルプを含有する前記配合飼料を摂取させた時期のデイリーゲイン(1日あたりの体重増加)が50g/日以上増大する、(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、木材パルプを含まない配合飼料のみを与えた仔牛と比較し、増体がよく、生産性の向上が見込める。また、本発明に係る技術は、木材パルプを使用するものであるので安定かつ安価に飼料を供給することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、生後0日齢から生後満8ヶ月齢の仔牛に適用される。好ましい態様において、本発明を適用する仔牛は生後満7ヶ月齢までであり、生後満2ヶ月以上6ヶ月齢以下の仔牛に適用してもよい。本発明は放牧仔牛および舎飼仔牛のいずれにも適用できるが、特に放牧仔牛に好適に適用できる。一般に、放牧仔牛は、舎飼仔牛と比較して、増体が悪くなりがちであるところ、本発明によれば、放牧仔牛の増体が容易になる。
【0017】
本発明は、1~30重量%の木材パルプを含む飼料を生後満8ヶ月までの仔牛に給与することを含む、仔牛の体重増加を促進する方法である。木材パルプを含まない飼料を摂取させた場合と比較して、1~30重量%の木材パルプを含有する飼料を摂取させた時期のデイリーゲイン(1日あたりの体重増加)が50g/日以上増大することが好ましい。
【0018】
本発明においては、木材パルプを飼料に配合するが、木材パルプの配合量は1日に給与する飼料のうち1~30重量%である。好ましい態様において木材パルプの配合率は、2~25重量%であり、より好ましくは3~20重量%であり、さらに好ましくは4~15重量%である。
【0019】
本発明で用いる飼料は木材パルプを含有するものであるが、公知のパルプ化法によって製造されたパルプを制限なく使用することができる。例えば、機械パルプ、化学パルプのいずれもが適用可能である。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)、溶解クラフトパルプ(DKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解サルファイトパルプ(DSP)等が挙げられる。また、漂白パルプ、未漂白パルプのいずれも使用できる。これらの中では、酸素脱リグニン処理した化学パルプ、漂白化学パルプなどが好ましい。また、カッパー価が5以上15未満であるパルプや、クラフトパルプがさらに好ましく、カッパー価が5以上15未満である酸素脱リグニン処理したクラフトパルプが特に好ましい。
【0020】
本発明で用いる飼料において、パルプは1種類のものから成るものでもよく、複数のパルプを混合したものでもよい。例えば、原料や製造方法の異なる化学パルプ(広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ、溶解広葉樹クラフトパルプ、溶解針葉樹クラフトパルプ)、あるいは機械パルプ(砕木パルプ、リファイナーグラウンドウッドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ)、を2種以上混合して使用してもよい。
【0021】
機械パルプの場合、グラインダー処理(砕木パルプの場合)後、あるいはリフィニング(リファイナーグラウンドウッドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプの場合)後に、精選工程を経ないで製造することにより繊維化されていない粕をパルプに含ませることが可能となる。
【0022】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス、パーム油搾油後の空房が使用できる。具体的には、広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
【0023】
クラフトパルプ
木材チップからクラフトパルプを製造する場合、木材チップは蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、クラフト蒸解に供する。また、MCC、EMCC、ITC、Lo-solidなどの修正クラフト法の蒸解に供しても良い。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0~5.0L/kgとすることができ、1.5~4.5L/kgが好ましく、2.0~4.0L/kgがさらに好ましい。
【0024】
また、本発明においては、絶乾チップ当たり0.01~1.5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加してもよい。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると添加量が少なすぎて蒸解後のパルプのカッパー価が低減されず、カッパー価とパルプ収率の関係が改善されない。さらに、粕の低減、粘度の低下の抑制も不十分である。また、キノン化合物の添加量が1.5質量%を超えてもさらなる蒸解後のパルプのカッパー価の低減、及びカッパー価とパルプ収率の関係の改善は認められない。
【0025】
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4-テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1-メチルアントラキノン、2-メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2-メチル-1,4-ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、2-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10-ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2-メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
【0026】
蒸解液は、対絶乾木材チップ重量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を10~35重量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率が10重量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、35質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOHとNaSの合計の添加率をNaOの添加率として換算したもので、NaOHには0.775を、NaSには0.795を乗じることでNaOの添加率に換算できる。また、硫化度は20~35%の範囲が好ましい。硫化度20%未満の領域においては、脱リグニン性の低下、パルプ粘度の低下、粕率の増加を招く。
【0027】
クラフト蒸解は、120~180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140~160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0028】
また、本発明におけるクラフト蒸解は、Hファクター(Hf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Hファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。Hファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。Hファクターとしては、300~2000が好ましい。
【0029】
Hf=∫exp(43.20-16113/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明においては、蒸解後得られた未漂白(未晒)パルプは、必要に応じて、種々の処理に供することができる。例えば、クラフト蒸解後に得られた未漂白パルプに対して、漂白処理を行うことができる。
【0030】
クラフト蒸解で得られたパルプについて、酸素脱リグニン処理を行うことができる。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8~15質量%、高濃度法の場合は20~35質量%で行われることが好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0031】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、酸素圧は3~9kg/cm、より好ましくは4~7kg/cm、アルカリ添加率はパルプ絶乾重量当たり0.5~4質量%、処理温度80~140℃、処理時間20~180分、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。また、酸素脱リグニン処理などを施した後のクラフトパルプのカッパー価は5~15であることが好ましい。
【0032】
さらなるカッパー価の低下、白色度の向上を目的とする場合、酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理を行うことができる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0033】
飼料の調製と給餌
本発明の飼料は、木材パルプを他の飼料と併せて調製すればよく、調製した配合飼料を反芻動物に給与することができる。他の飼料成分としては、粗飼料(例えば牧草)、濃厚飼料(例えばトウモロコシ、麦などの穀類、大豆などの豆類)、ふすま、米糠、おから、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルなどや添加剤(保存料、着色料、香料等)、等が挙げられる。
【0034】
本発明の飼料に濃厚飼料を配合する場合、例えば、とうもろこし、小麦、大麦、精白米などの穀物を用いることができる。本発明の飼料においては、例えば、米、小麦、大麦、えん麦、マイロ、とうもろこしなどの穀物を主なデンプン源として用いることができる。
【0035】
本発明においては、粗飼料を一定レベルで配合することが好ましく、例えば、乾物換算で3~40質量%含むことが好ましく、5~30質量%含むことがより好ましい。粗飼料の原料としては、例えば、大豆、大豆粕(加糖加熱処理又は加湿加熱処理等を施した大豆粕を含む)、菜種粕、アマニ粕、コーングルテンミール、濃縮大豆蛋白、小麦グルテン、小麦グルテン酵素分解物などを挙げることができる。特に、大豆粕などの大豆由来粗蛋白質供給原料(ただし、加糖加熱処理又は加湿加熱処理を施したものを除く)は、溶解性蛋白質を多く給与してルーメン内での繊維の消化率を高め、子牛の成育を向上させるといった観点や、DDGS等の粗脂肪の含有量が比較的高いNDF供給原料などの配合により飼料中の粗脂肪の含有量が過度に多くなるのを抑制するため、飼料に配合することが好ましい。
【0036】
本発明においては、飼料に糖類を配合してもよく、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、及びマルトースなどを好適に配合することができる。
本発明の飼料は、上述した原料の他に、呈味料、ミネラル、ビタミン、有機ミネラル、牧草、イネ科の植物の飼料原料、結晶アミノ酸、油脂、脂肪酸、脂肪酸カルシウム、吸着材、鉱物、植物抽出物、発酵物、着香料、有機酸、抗生物質、動物質性飼料、微生物成分、漢方薬、酵素剤、オリゴ糖、木質系飼料、粘結剤、他の植物体加工副産物などを含んでもよい。
【0037】
牧草としては、例えば、オーチャードグラス、チモシー、オーツヘイ、アルファルファ、イタリアンライグラス、アカクローバー等を挙げることができ、イネ科の植物に由来する飼料原料としては、例えば、ソルガム、小麦ストロー、稲わら等を挙げることができる。もっとも、牧草やイネ科の植物に由来する飼料原料は、例えば、生後3ヶ月齢以下の子牛にとっては消化が容易でないので、ルーメンの胃壁を刺激する目的で必要に応じて粗飼料として供給し、本発明の子牛用飼料には、含有させないか、含有させるとしても少量とすることが好ましい。
【0038】
好ましい態様において、木材パルプと他の飼料成分を圧縮成型してペレットのような形態にしてもよい。本発明の飼料ペレットと併用する飼料は、パルプ状、紛体状、フラッフ化の形態でもよいが、キューブ状又はペレット状などに圧縮成型するか、断裁したシート状の形態とすることが、トウモロコシや牧草などの他の飼料と混合することが容易となり、さらに運搬や取扱いが容易となるので好ましい。
【0039】
キューブ状に圧縮成型する場合、縦5~50mm×横5~50mm×高さ5~50mmのキューブとすることが好ましい。ペレット状に圧縮成型する場合、直径5~50mm×長さ5~80mmの円筒状とすることが好ましい。圧縮成型を行うための装置は特に限定されていないが、ブリケッター(北川鉄工所製)、リングダイ式ペレタイザー(CPM製)、フラットダイ式ペレタイザー(ダルトン製)等が望ましい。
【0040】
シート状の形態とする場合、坪量が300~2000g/mで、5~50mm×5~50mmのシート片とすることが好ましい。
本発明の反芻動物用飼料は、水分含有率を15%以下とすることが好ましい。水分含有率を15%以下とすることで、運搬性が向上し、微生物による腐敗を軽減できる。飼料の水分含有率は、例えば、1質量%以上としてもよく、5質量%以上に調整してもよい。
【0041】
本発明の反芻動物用飼料は、例えば、可消化養分総量(TDN:Total Digestible Nutrients)を50~95%とすることができるが、60~85%、さらには65~80%としてもよい。粗タンパク質(CP:Crude Protein)は、例えば、5~40%とすることができるが、10~30%、さらには13~25%としてもよい。
【実施例
【0042】
具体的な例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の具体例によって何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、濃度や%は特に断らない限り質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0043】
実験1:木材パルプ飼料の製造
国内広葉樹材のチップを活性アルカリ添加率16.0%、硫化度25%、Hファクター800にてクラフト蒸解を行い、未晒クラフトパルプを得た(カッパー価:18.2、ISO白色度:29.0%)。
【0044】
上記未晒クラフトパルプを水道水で洗浄し濃度10%に調製後、酸素添加率2.1%(絶乾パルプ重量当たり)、水酸化ナトリウム1.4%(絶乾パルプ重量当たり)、100℃、60分にて酸素脱リグニン処理を行った後、パルプを水道水で洗浄し、遠心脱水機(岩月機械製作所製YS-7 SSA型)によって水分率47.1重量%となるまで脱水し、酸素脱リグニンクラフトパルプを得た(カッパー価:8.5、ISO白色度:48.0%)。
【0045】
実験2:放牧仔牛への給餌試験
対照区と試験区で用いる飼料を調製した。試験区(パルプ給与区)の飼料は、広葉樹酸素脱リグニンクラフトパルプ(LOKP)をTDN基準で10%含むものである。試験区および対照区の飼料は、いずれも、可消化養分総量がほぼ同一になるように設計した(TDN:約72.5%)。
・若齢牛育成用飼料(雪印種苗製、Yグロアー、TDN72.5%以上、CP15.5%以上)
・広葉樹酸素脱リグニンクラフトパルプ(TDN50.6%、CP0.2%、水分率47.1%)
【0046】
【表1】
【0047】
月齢が満2ヶ月に達した時点から3ヶ月間、放牧仔牛10頭(いずれも母子放牧の黒毛和種)に給餌試験を行った。10頭の仔牛を5頭ずつに分け、給与区と対照区に分けた。
具体的には、月齢2ヶ月に達した仔牛に、調製した飼料を、1頭あたり0.5kg/日の量で給与し、4週間で2.0kg/日まで漸増させた。飼料給与から4週後に離乳し、仔牛のみを供試圃場(84a、寒地型牧草地、ケンタッキーブルーグラス優占)に入牧させた。離乳後は、配合飼料を2.0kg/日の量で給与した。
【0048】
これらの仔牛について、その体重を毎週測定し、デイリーゲイン(1日あたりの体重増加)を測定した。離乳1ヶ月目および離乳2ヶ月目のデイリーゲインは、離乳時体重、離乳後1か月体重、離乳後2か月体重を用いて測定した。
【0049】
【表2】
【0050】
上記の表から明らかなように、本発明の飼料を給与すると、一般的な若齢牛用飼料を給与した場合と比較して、離乳後1ヶ月齢ではデイリーゲインが約11%、離乳後2ヶ月齢ではデイリーゲインが約28%増大した。パルプを含む飼料を給与することによって、仔牛においてデイリーゲインを向上できることが明らかになった。
【0051】
実験3:舎飼子牛への給餌試験
舎飼仔牛に対する給餌試験を早期離乳方式で行った(対照区10頭、試験区8頭)。具体的には、産後3~7日から生乳と離乳用配合飼料との組み合わせ給与により、生後4~9週齢で早期に離乳させ、その後は固形飼料の給与に切り替えて、仔牛を育成した。離乳は、配合飼料の給与量が1kg/日に到達したときを基準とした。
【0052】
(配合飼料の給与量)
・離乳前:生時体重の12%量の生乳を給与し、加えて配合飼料を飽食させた。
・離乳後:日本飼養標準(乳牛、2006年版)に基づいて、デイリーゲインが1kg/日となるために必要なエネルギーを試算し、その75%を配合飼料の制限給与、残りはチモシー乾草(カナダ産、全酪連東京支社より購入、出穂期1番)の飽食によって与えた。
【0053】
(飼料の詳細)
・飼料ペレット(全国酪農飼料、特注品、TDN69.8%、CP24.1%、水分率16%)
・トウモロコシ(福玉米穀麦、加熱圧ぺんとうもろこし、TDN69.8%、CP24.1%、水分率14.5%)
・大豆粕(昭和産業、脱脂大豆、TDN76.8%、CP45%、水分率11.8%)
・広葉樹酸素脱リグニンクラフトパルプペレット(TDN78.3%、CP0%、水分率12%)
実験1で得られた広葉樹酸素脱リグニンクラフトパルプを水道水で洗浄した後、スクリュープレス(SHX-200型、富国工業製)で脱水し、水分率を29.9%に調整した。リングダイ式小型ペレタイザー(カリフォルニアペレットミル製、モーター容量30kw)でΦ4.8mm、有効厚32mmのダイにて処理し、送風乾燥機にて水分率を12%に調製して、広葉樹酸素脱リグニンクラフトパルプペレットを製造した。
【0054】
【表3】
【0055】
(デイリーゲイン)
一日あたりの体重増加を示すデイリーゲイン(DG)を測定した。デイリーゲインの測定では、生時体重、離乳時体重、終了時体重を用いた。
【0056】
測定したデイリーゲインは、表の通りである。離乳時まで対照区と試験区で差がなかったものの、離乳後に試験区でデイリーゲインが高まり、結果、全期間でのデイリーゲインは対照区と比べ試験区で大きかった。
【0057】
【表4】
【0058】
(血液成分の測定)
血液中の総コレステロールおよびトリグリセリドを測定した。具体的には、自動分析試薬(和光純薬工業社製)を用い、日立7020形自動分析装置によって測定した。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
以上の結果から、試験区の子牛は、離乳(50日齢)前後の総コレステロールが高く、対照区よりも栄養的に充足していたことが示唆された。また、試験区は総コレステロールが対照区より高いにも関わらず、トリグリセリドが低く、過肥や脂肪肝等の疾病が防げるものと考えられた。