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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】転写調節融合ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220221BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220221BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220221BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220221BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220221BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220221BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220221BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C12P21/02 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018556649
(86)(22)【出願日】2017-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2017044266
(87)【国際公開番号】W WO2018110471
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2016240097
(32)【優先日】2016-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】石坂 幸人
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】Mol. Ther. Nucleic Acids,2013年,Vol.2,e87
【文献】Mol. Cancer Res.,2010年,Vol.8, No.2,pp.246-253
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,2004年,Vol.101, No.42,pp.15225-15230
【文献】Nat. Methods,2015年,Vol.12, No.4,pp.326-328
【文献】Nat. Biotechnol.,2015年,Vol.33, No.5,pp.510-517
【文献】Carcinogenesis,2003年,Vol.24, No.7,pp.1167-1176
【文献】Accession No. AH007699, DEFINITION: Homo sapiens telomerase reverse transcriptase (TERT) gene, complete cds, [online], 2016.6.10, [検索日 2018.2.21], Database GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq, インターネット: <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/1036030446>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドに結合するDNA結合ポリペプチド及び転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドであって、
前記DNA結合ポリペプチドが、転写活性化因子様エフェクター(TALE)、Zinc finger蛋白質(ZFP)、PentatricoPeptide Repeat (PPR)蛋白質、又はClustered Regularly lnterspaced Short Palindromic Repeats/CRISPR-Associated Proteins 9(CRISPR/CAS9)である、
融合ポリペプチド
【請求項2】
転写活性化因子がVP64、VPR、p300又はGCN5である、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
細胞膜透過性ペプチドが、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
細胞膜透過性ペプチドが配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
DNA結合ポリペプチドがTALEである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
DNA結合ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALEである、請求項5に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
DNA結合ポリペプチドが配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
細胞膜透過性ペプチドが配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、DNA結合ポリペプチドが配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、転写活性化因子がVPRである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
配列番号62に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の宿主細胞を培養する工程を包含する、融合ポリペプチドを製造する方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載の融合ポリペプチドを含む培地でヒト体細胞を培養する工程を包含する、ヒト体細胞におけるヒトTERT遺伝子の発現を亢進する方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれかに記載の融合ポリペプチドを含む培地でヒト体細胞を培養する工程を包含する、ヒト体細胞を増殖させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写調節融合ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム編集技術として、Zinc finger蛋白質(ZFP)にヌクレアーゼを融合させたZinc finger Nuclease(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN(登録商標))、PentatricoPeptide Repeat(PPR)蛋白質、及びClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/CRISPR-Associated Proteins 9(CRISPR/CAS9)が報告されている(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1996、Vol.93、p.1156-1160、Genetics、2010、Vol.186、p.757-761、Science、2013、Vol.339、p.819-826、Methods Mol.Biol.、2016、Vol.1469、p.147-155)。ZFP、転写活性化因子様エフェクター(TALE)及びPPR蛋白質は任意の遺伝子に結合することができるため、当該蛋白質に転写調節因子を結合させた融合ポリペプチドが標的の遺伝子の塩基配列に結合することによって、遺伝子の発現を調節できることが報告されている(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1996、Vol.93、p.1156-1160、Genetics、2010、Vol.186、p.757-761、Methods Mol.Biol.、2016、Vol.1469、p.147-155)。CRISPR/CAS9システムで使用されるgRNAは任意の遺伝子に結合でき、かつ、Cas9はgRNAに結合できることから(Methods Mol.Biol.、2016、Vol.1469、p.147-155)、CAS9のヌクレアーゼ活性が欠失した変異体(nuclease-deficient Cas9(dCAS9とも称する)に転写誘導活性を有する蛋白質を結合させた融合蛋白質(dCAS9-転写誘導因子とも称する)をgRNAとともに使用することによって、標的遺伝子の発現を亢進させることが報告されている(Nat.Methods、2013、Vol.10、p.977-979)。
【0003】
ZFP、TALE、PPR蛋白質及びdCas9に結合させる転写調節因子として、VP16、VP64、p300及びVPRなどの転写活性化因子並びにKruppel-associated box(KRAB)などの転写抑制因子が報告されている(Mol.Ther.Nucleic Acids、2013、Vol.2、p.e87、Nat.Biotechnol.、2015、Vol.33、p.510-517、Nat.Methods、2015、Vol.12、p.326-328、Mol.Cancer Res.、2010、Vol.8、p.246-253)。
【0004】
細胞膜透過性ペプチドは細胞膜を透過して細胞内部に移動する機能を持つポリペプチドである。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のTATをはじめ、Penetratin、Oligoarginine、Transportan、Membrane transduction sequenceなど、多数の配列が知られている(Pharmacol.Ther.、2015、Vol.154、p.78-86)。また、HIV-1のViral Protein R蛋白質に含まれるペプチド配列から見出された新規細胞膜透過性ペプチドが報告されている(国際公開第2008/108505号)。
【0005】
細胞膜透過性ペプチドは、ゲノム編集蛋白質(例えば、ZFN、TALEN及びCRISPR/CAS9)を細胞内に届けるためのツールとして利用できることが報告されている(非特許文献1)。例えば、ヒトCCR5遺伝子に結合するTALEN及びTATを含む融合ポリペプチド(非特許文献2、非特許文献3)、並びに、VEGFのプロモーター領域に結合するZFP、TAT及びVP16を含む融合ポリペプチド(非特許文献4)が報告されている。
【0006】
ヒトTelomerase reverse transcriptase(TERT)遺伝子を標的として報告された融合ポリペプチドとしては、ヒトTERTのプロモーター領域又はエキソンに結合するZFP及びVP16を含む融合ポリペプチドが報告されている(非特許文献5)。ヒトTERTのプロモーター領域に結合するZFP及びKRABを含む融合ポリペプチドも報告されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「ザ ジャーナル オブ コントロールド リリース(J.Control.Release)」、(オランダ)、2016、Vol.226、p.124-137
【文献】「プロス ワン(PLoS One.)」(米国)、2014、Vol.9、e85755
【文献】「セル リジェネレーション(Cell Regen.(Lond))」(英国)、2013、Vol.2、p.5-12
【文献】「プロシーディング オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)」(米国)、2004、Vol.101、p.15225-15230
【文献】「モレキュラー セラピー ヌクレイック アシッズ(Mol.Ther.Nucleic Acids)」(オランダ)、2013、Vol.2、e87
【文献】「モレキュラー キャンサー リサーチ(Mol.Cancer Res.)」(米国)、2010、Vol.8、p.246-253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、細胞の培地に添加するだけで、当該細胞における標的遺伝子の転写を調節する、新規の融合ポリペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、標的遺伝子の転写を調節する新規ポリペプチドの作製において相当の創意検討を重ねた結果、細胞膜透過性ペプチド、DNA結合ポリペプチド及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチドを作製し(実施例1)、当該融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を活性化できること(実施例2-4)を見出した。これらの結果、前記融合ポリペプチドを提供し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、医学上又は産業上有用な物質又は方法として以下の発明を含んでもよい。
[1]細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列に結合するDNA結合ポリペプチド及び転写活性化因子を含む、融合ポリペプチド。
[2]転写活性化因子がVP64、VPR(VP64、p65及びRtaを含む融合転写活性化因子)、p300又はGCN5である、[1]に記載の融合ポリペプチド。
[3]細胞膜透過性ペプチドが、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、[1]に記載の融合ポリペプチド。
[4]細胞膜透過性ペプチドが配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、[1]に記載の融合ポリペプチド。
[5]DNA結合ポリペプチドが転写活性化因子様エフェクター(TALE)である、[1]に記載の融合ポリペプチド。
[6]DNA結合ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALEである、[5]に記載の融合ポリペプチド。
[7]DNA結合ポリペプチドが配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、[1]に記載の融合ポリペプチド。
[8]細胞膜透過性ペプチドが配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、DNA結合ポリペプチドが配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、転写活性化因子がVPRである、[1]に記載の融合ポリペプチド。
[9]配列番号62に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、[1]に記載の融合ポリペプチド。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[11][10]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[12][11]に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[13][12]に記載の宿主細胞を培養する工程を包含する融合ポリペプチドを製造する方法。
[14][1]~[9]のいずれかに記載の融合ポリペプチドを含む培地でヒト体細胞を培養する工程を包含する、ヒト体細胞におけるヒトTelomerase reverse transcriptase(TERT)遺伝子の発現を亢進する方法。
[15][1]~[9]のいずれかに記載の融合ポリペプチドを含む培地でヒト体細胞を培養する工程を包含する、ヒト体細胞を増殖させる方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の融合ポリペプチドは、細胞を培養する培地に添加するだけで、当該細胞における標的遺伝子の転写を調節するために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】NTP-TALE-TERT-1-ActivatorによるヒトTERT mRNA発現上昇効果を示す。縦軸は緩衝液のみを添加したコントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、ヒトTERT mRNA相対発現量を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す。
図2】NTP-TALE-TERT-1-p300CD、NTP-TALE-TERT-2-p300CD及びNTP-TALE-TERT-3-p300CDによるヒトTERT mRNA発現上昇効果を示す。縦軸はNTP-TALE-Activatorを添加していないコントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、ヒトTERT mRNA相対発現量を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す。
図3】NTP-TALE-miR-346-1-VP64によるヒトmiR-346 RNA発現上昇効果を示す。縦軸はNTP-TALE-miR-346-1-VP64を添加していないコントロールのヒトmiR-346 RNA相対発現量を1としたときの、ヒトmiR-346 RNA相対発現量を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す。
図4】NTP-TALE-Activatorによる細胞増殖促進効果を示す。縦軸は発光強度の測定値を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す。
図5】NTP-TALE-TERT-1-VPRによる細胞増殖促進効果を示す。縦軸は細胞数を示す。
図6】ICQ2-TALE-TERT-1-VPRによるヒトTERT mRNA発現上昇効果を示す。縦軸はコントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、ヒトTERT mRNA相対発現量を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す
図7】ICQ2-TALE-TERT-1-VPRによる細胞増殖促進効果を示す。縦軸は細胞数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について詳述する。本明細書は、本願優先権主張の基礎となる2016年12月12日に出願された日本国特許出願(特願2016-240097号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0014】
1.本発明の融合ポリペプチド
本発明の融合ポリペプチドには、以下の特徴を有するポリペプチドが含まれる。
細胞膜透過性ペプチド、DNA結合ポリペプチド及び転写調節因子を含む、融合ポリペプチド。
【0015】
本発明の融合ポリペプチドに含まれる転写調節因子として、転写活性化因子又は転写抑制因子を使用することができる。
【0016】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、DNA結合ポリペプチド及び転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0017】
本発明の融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を活性化できる限り、使用される転写活性化因子は特に限定されず、例えば、VP16、VP64、VPR(VP64、p65及びRtaを含む融合転写活性化因子)、p300、GCN5、ヒストンメチル化酵素及びTFIID結合蛋白質などの公知の転写活性化因子を使用することができる(Mol.Ther.Nucleic Acids、2013、Vol.2、p.e87、Nucl. Acids Res.、2014、Vol.42、p.4375-4390、Nat.Methods、2015、Vol.12、p.326-328、EMBO J.、1997、Vol.16、p.555-565、Nature、2000、Vol.406、p.593-599、Nature、2000、Vol.405、p.701-704)。1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドに含まれる転写活性化因子は、VP64、VPR、p300又はGCN5であり、好ましくは、VPRである。
【0018】
本発明において、転写活性化因子には、転写活性化能を有している限り、野生型だけでなく、改変体も含まれる。
【0019】
例えば、本発明の融合ポリペプチドに含まれる転写活性化因子として、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性(HAT活性)を有する転写活性化因子を使用することができる。p300及びGCN5のようにHAT活性を有する転写活性化因子を使用する際には、当該転写活性化因子のHAT活性を示すコア領域を含むポリペプチドを使用することもできる。本発明において、p300には、p300のコア領域を含むポリペプチドも含まれる。1つの実施形態において、p300のコア領域はAccession No.NP_001420.2のアミノ酸番号1048から1664までのアミノ酸配列からなるポリペプチドである。本発明において、GCN5には、GCN5のコア領域を含むポリペプチドも含まれる。1つの実施形態において、GCN5のコア領域はAccession No.NP_066564.2のアミノ酸番号497から837までのアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0020】
本明細書において、DNA結合ポリペプチドについて使用される「結合する」とは、標的の塩基配列に直接結合することだけでなく、標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することで間接的に標的の塩基配列に結合することも意味する。したがって、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドには、標的の塩基配列に直接結合するポリペプチドだけでなく、標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することで間接的に標的の塩基配列に結合するポリペプチドも含まれる。
【0021】
さらに、本明細書において、DNA結合ポリペプチドについて使用される「結合する」とは、実際に標的の塩基配列に結合することだけでなく、標的の塩基配列に結合するように設計されたことも意味する。したがって、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドには、実際に標的の塩基配列に結合するDNA結合ポリペプチドだけでなく、標的の塩基配列に結合するように設計されたDNA結合ポリペプチドも含まれる。
【0022】
被験ポリペプチドが標的の塩基配列又は標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することができるか否かは、ゲルシフトアッセイやChIP(Chromatin immunoprecipitation)-seqアッセイなどの公知の結合活性測定方法を用いて確認することができる。
【0023】
被験ポリペプチドが標的の塩基配列に結合するように設計されたか否かは、例えば、標的の塩基配列に結合することが報告されているアミノ酸配列を被験ポリペプチドが含むかどうかで確認することができる。標的の塩基配列に結合することが報告されているアミノ酸配列として、例えば、Science、2009、Vol.326、p.1509-1512、Nat.Biotechnol.、2011、Vol.29、p.143-148、日本公開公報2015/33365号、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1996、Vol.93、p.1156-1160、及び、MethodsMol.Biol.、2016、Vol.1469、p.147-155に記載のアミノ酸配列が挙げられる。また、被験ポリペプチドが標的の塩基配列に結合するように設計されたか否かは、ゲルシフトアッセイやChIP-seqアッセイなどの公知の結合活性測定方法を用いて被験ポリペプチドが標的の塩基配列に実際に結合するかどうかを調べることで確認してもよい。
【0024】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、標的遺伝子の転写調節領域に結合するDNA結合ポリペプチドである。
【0025】
転写調節領域としては、標的遺伝子の発現調節に関与する領域である限り特に限定されないが、例えば、プロモーター領域及びエンハンサー領域が挙げられる。
【0026】
標的遺伝子は特に限定されないが、例えば、ヒトTERT、及びヒトmiR-346が挙げられる。
【0027】
1つの実施形態において、標的遺伝子がヒトTERTである場合、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、以下の特徴を有するDNA結合ポリペプチドである:
配列番号49に示される塩基配列に結合する、DNA結合ポリペプチド。
【0028】
1つの実施形態において、標的遺伝子がヒトmiR-346である場合、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、以下の特徴を有するDNA結合ポリペプチドである:
配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合する、DNA結合ポリペプチド。
【0029】
標的の塩基配列に結合するように設計されたDNA結合ポリペプチドとしては、例えば、TALE(Science、2009、Vol.326、p.1509-1512)、ZFP(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1996、Vol.93、p.1156-1160)又はPPR蛋白質(Methods Mol.Biol.、2016、Vol.1469、p.147-155)を使用することができる。TALE、ZFP及びPPR蛋白質を作製する技術は公知であるため、当業者であれば、当該技術に基づいて、目的の塩基配列に結合するように設計されたポリペプチドを作製することができる(Nat.Biotechnol.、2011、Vol.29、p.143-148、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1997、Vol.94、p.5525-5530、Methods Mol.Biol.、2016、Vol.1469、p.147-155)。また、塩基配列に対する高い結合活性を有するTALEを作製する方法を使用することができる(日本公開公報2015/33365号。Platinum Gate TALEN construction protocol(Yamamoto lab)Ver.1.0 [2016年11月15日検索]、インターネット<URL:https://www.addgene.org/static/cms/filer_public/b0/52/b0527900-3204-471a-992d-189679e2ede0/platinum-gate-protocol.pdf>)。
【0030】
標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することで間接的に標的の塩基配列に結合するDNA結合ポリペプチドとしては、例えば、CRISPR/CAS9(Science、2013、Vol.339、p.819-823)を使用することができる。CRISPR/CAS9を作製する技術は公知であるため、当業者であれば、当該技術に基づいて、標的の塩基配列に結合するように設計されたポリヌクレオチド、及び、当該ポリヌクレオチドに結合するポリペプチドを作製することができる(Science、2013、Vol.339、p.819-823、Science、2013、Vol.339、p.823-826)。
【0031】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、標的遺伝子がヒトTERTである場合、以下の特徴を有するDNA結合ポリペプチドである:
配列番号49に示される塩基配列に結合するTALEである、DNA結合ポリペプチド。
【0032】
1つの実施形態において、標的遺伝子がヒトmiR-346である場合、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、以下の特徴を有するDNA結合ポリペプチドである:
配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するTALEである、DNA結合ポリペプチド。
【0033】
本明細書で使用される「TALE」とは、34アミノ酸からなる構造単位(モジュール)を10~30個の繰り返し数で連結させて、目的とするゲノム上の標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分及びチミン結合部分を含むアミノ末端領域を含むポリペプチドを意味する(RCSB Protein Data Bank、 Molecule of the Month、2014、No.180、Nat.Biotechnol.、2011、Vol.29、p.143-148)。標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分及びチミン結合部分を含むアミノ末端領域は、例えば、公知のアミノ酸配列を使用することができる(Science、2009、Vol.326、p.1509-1512、Nat.Biotechnol.、2011、Vol.29、p.143-148、日本公開公報2015/33365号)。
【0034】
また、融合ポリペプチドが標的塩基配列に結合できる限り、DNA結合リピート部分及びチミン結合部分以外の部分を短く改変したTALE(短縮型TALEとも称する)も本発明の融合ポリペプチドに使用することができる。当業者であれば、公知の技術に基づいて、短縮型TALEを作製することができる(Sci.Rep.、2013、Vol.3、p.3379)。
【0035】
1つの実施形態において、標的遺伝子がヒトTERTである場合、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸番号7~784に示されるアミノ酸配列を含むTALEである。ここで、配列番号2のアミノ酸番号7~784に示されるアミノ酸配列は、配列番号49に示される塩基配列に結合するように設計されたTALEのDNA結合リピート部分及びチミン結合部分からなるポリペプチドを示す。
【0036】
1つの実施形態において、標的遺伝子がヒトmiR-346である場合、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸番号7~784に示されるアミノ酸配列を含むTALEである。ここで、配列番号8のアミノ酸番号7~784に示されるアミノ酸配列は、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖に結合するように設計されたTALEのDNA結合リピート部分及びチミン結合部分からなるポリペプチドを示す。
【0037】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、標的遺伝子がヒトTERTである場合、以下の特徴を有するDNA結合ポリペプチドである:
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド。
【0038】
1つの実施形態において、標的遺伝子がヒトmiR-346である場合、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ポリペプチドは、以下の特徴を有するDNA結合ポリペプチドである:
配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド。
【0039】
本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドとしては、細胞膜を通過できる限り、特にアミノ酸配列は限定されない。被験ペプチドが細胞膜を通過できるか否かは、公知の細胞膜通過評価系を用いて確認することができる(国際公開第2008/108505号)。
【0040】
本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドは、公知の細胞膜透過性ペプチドを使用することができる(国際公開第2008/108505号。Pharmacol.Ther.、2015、Vol.154、p.78-86、Database(Oxford)、2012、bas015)。例えば、本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドとして、アミノ酸配列RI、FI及びRIGCを含み、アミノ酸残基数が25以下であるポリペプチドを使用することができる。1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドとしては、配列番号53に示されるアミノ酸配列(RILQQLLFIHFRIGCRHSRI)からなるペプチド、配列番号54に示されるアミノ酸配列(RILQQLLFIHFRIGCRH)からなるペプチド、配列番号55に示されるアミノ酸配列(RILQQLLFIHFRIGC)からなるペプチド、配列番号56に示されるアミノ酸配列(RIFIHFRIGC)からなるペプチド、又は、配列番号57に示されるアミノ酸配列(RIFIRIGC)からなるペプチドが挙げられる。好ましくは、配列番号56に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0041】
本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドとして、配列番号60に示されるアミノ酸配列(RIFIHFRQGQ)を使用することができる。
【0042】
本発明の融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を活性化できる限り、細胞膜透過性ペプチド、DNA結合ペプチド及び転写活性化因子の位置は限定されない。好ましくは、細胞膜透過性ペプチドは本発明の融合ポリペプチドのN末端側又はC末端側に位置する。より好ましくは、細胞膜透過性ペプチドは本発明の融合ポリペプチドのN末端側に位置する。1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、N末端側から、細胞膜透過性ペプチド、DNA結合ペプチド及び転写活性化因子の順に構成される。
【0043】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、標的遺伝子の転写調節領域に結合するDNA結合ポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0044】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、TERT又はmiR-346の転写調節領域に結合するDNA結合ポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0045】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、標的遺伝子のプロモーター領域又はエンハンサー領域に結合するDNA結合ポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0046】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、TERT又はmiR-346のプロモーター領域又はエンハンサー領域に結合するDNA結合ポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0047】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列に結合するDNA結合ポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0048】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するDNA結合ポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0049】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列に結合するTALE、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0050】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するTALE、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0051】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号2のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0052】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号8のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0053】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0054】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び、転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0055】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列に結合するDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0056】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0057】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列に結合するTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0058】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0059】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号2のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0060】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号8のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0061】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0062】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0063】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列に結合するTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0064】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0065】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号2のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0066】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号8のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0067】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0068】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0069】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド及びVPRを含む、融合ポリペプチドである。
【0070】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号53、54、55、56、57又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド及びVP64を含む、融合ポリペプチドである。
【0071】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号49に示される塩基配列に結合するTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0072】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0073】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号2のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0074】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号8のアミノ酸番号7~784からなるアミノ酸配列を含むTALE、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0075】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0076】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド、並びに、VP64、VPR、p300及びGCN5からなる群から選択される転写活性化因子を含む、融合ポリペプチドである。
【0077】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド及びVPRを含む、融合ポリペプチドである。
【0078】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号56又は60に示されるアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド及びVP64を含む、融合ポリペプチドである。
【0079】
本発明の融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を活性化できる限り、細胞膜透過性ペプチド、DNA結合ペプチド及び転写活性化因子のそれぞれの間にペプチドリンカー等のペプチドを含んでもよい。
【0080】
また、本発明の融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を活性化できる限り、本発明の融合ポリペプチドのN末端又はC末端にGlutathione S-transferase(GST)タグ又はポリヒスチジンタグなどのペプチドタグを含んでもよい。
【0081】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号62に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0082】
また、本発明の融合ポリペプチドには、配列番号62に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号62に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列からなり、かつTERT遺伝子の転写を活性化する作用を有するポリペプチドが含まれる。
上記配列番号62に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列としては、例えば、
(i)配列番号62に示されるアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii)配列番号62に示されるアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii)配列番号62に示されるアミノ酸配列中に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、
(iv)配列番号62に示されるアミノ酸配列に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(v)上記(i)~(iv)の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0083】
本発明において、「TERT遺伝子の転写を活性化する作用」とは、細胞においてTERT遺伝子の発現量を増加させる作用を意味する。「TERT遺伝子の転写を活性化する作用を有する」とは、被験融合ポリペプチドを添加していない培地で培養された細胞のTERT遺伝子の発現量と比較して、被験融合ポリペプチドが10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、好ましくは、50%以上TERT遺伝子の発現量を増加させる作用を有することを意味する。TERT遺伝子の転写を活性化する作用は、例えば本発明の融合ペプチドを添加した培地で培養した細胞におけるTERT遺伝子のmRNA量を、公知の方法、例えばリアルタイムPCRを用いて測定することにより、確認することができる。具体的な方法としては、例えば、後記実施例2に記載されるような方法を用いることができる。
【0084】
また、本発明の融合ペプチドには、配列番号62に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号62に示されるアミノ酸配列と約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつTERT遺伝子の転写を活性化する作用を有するポリペプチドが含まれる。
【0085】
本明細書における「同一性」とは、NEEDLE program(J.Mol.Biol.、1970、Vol.48、p.443-453)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値Identityを意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Gap penalty=10
Extend penalty=0.5
Matrix=EBLOSUM62
【0086】
上記の変異を有するポリペプチドを調製するために、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ)等を用いて行うことができる。また、「Molecular Cloning、 A Laboratory Manual(4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等に記載された部位特異的変異誘発法等の方法を用いることができる。
【0087】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0088】
また、本発明の融合ポリペプチドには、配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号22に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列からなり、かつmiR-346遺伝子の転写を活性化する作用を有するポリペプチドが含まれる。
上記配列番号22に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列としては、例えば、
(i)配列番号22に示されるアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii)配列番号22に示されるアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii)配列番号22に示されるアミノ酸配列中に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、
(iv)配列番号22に示されるアミノ酸配列に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(v)上記(i)~(iv)の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0089】
本発明において、「miR-346遺伝子の転写を活性化する作用」とは、細胞においてmiR-346遺伝子の発現量を増加させる作用を意味する。「miR-346遺伝子の転写を活性化する作用を有する」とは、被験融合ポリペプチドを添加していない培地で培養された細胞のmiR-346の発現量と比較して、被験融合ポリペプチドが10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、好ましくは、50%以上miR-346遺伝子の発現量を増加させる作用を有することを意味する。miR-346遺伝子の転写を活性化する作用は、例えば本発明の融合ペプチドを添加した培地で培養した細胞におけるmiR-346のRNA量を、公知の方法、例えばリアルタイムPCRを用いて測定することにより、確認することができる。具体的な方法としては、例えば、後記実施例4に記載されるような方法を用いることができる。
【0090】
また、本発明の融合ペプチドには、配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号22に示されるアミノ酸配列と約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつmiR-346遺伝子の転写を活性化する作用を有するポリペプチドが含まれる。
【0091】
同一性の検索方法及び変異の導入法は上記配列番号62に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの場合と同様である。
【0092】
本発明の融合ポリペプチドは、本明細書に開示される、細胞膜透過性ペプチド、DNA結合ペプチド及び転写調節因子の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。本発明の融合ポリペプチドは、特に限定されるものではないが、例えば、後述の「5.本発明の融合ポリペプチドを生産する方法」に記載の方法に従い製造することができる。
【0093】
2.本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドには、本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0094】
本発明のポリヌクレオチドは、その塩基配列に基づき、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することが可能である。
【0095】
3.本発明の発現ベクター
本発明の発現ベクターには、本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0096】
本発明のポリヌクレオチドを発現させるために用いる発現ベクターとしては、RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中で本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを発現し、コムギ胚芽抽出液中でこれらによりコードされるポリペプチドを産生できるものである限り、又は、真核細胞(例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母)及び/若しくは原核細胞(例えば、大腸菌)の各種の宿主細胞中で本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを発現し、これらによりコードされるポリペプチドを産生できるものである限り、特に制限されるものではない。このような発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、センダイウイルス)等が挙げられ、好ましくは、pEU-E01-MCS(セルフリーサイエンス)、pET20b(+)(ノバジェン)、pCold vector-I(タカラバイオ 3361)を使用することができる。
【0097】
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中で発現させるためのプロモーターとしては、T3プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターなどが挙げられる。動物細胞で本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、Cytomegalovirus(CMV)、Respiratory syncytial virus(RSV)、Simian virus 40(SV40)などのウイルス由来プロモーター、アクチンプロモーター、EF(elongation factor)1αプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。細菌(例えば、エシェリキア属菌)で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、tacプロモーター、T3プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターなどが挙げられる。また、酵母で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0098】
RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液並びにコムギ胚芽抽出液を用いる場合、又は、宿主細胞として動物細胞、昆虫細胞、若しくは酵母を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン及び終止コドンを含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、エンハンサー配列、本発明の融合ポリペプチドをコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、あるいは複製可能単位などを含んでいてもよい。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及び複製可能単位を含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
【0099】
4.本発明の形質転換された宿主細胞
本発明の形質転換された宿主細胞には、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる。
【0100】
形質転換する宿主細胞としては、使用する発現ベクターに適合し、該発現ベクターで形質転換されて、蛋白質を発現することができるものである限り、特に限定されるものではない。形質転換する宿主細胞としては、例えば、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞又は人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、動物細胞(例えば、CHO細胞)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、細菌(エシェリキア属菌など)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)など)が挙げられ、好ましくは、CHO細胞、HEK293細胞、NS0細胞等の動物細胞及びエシェリキア属菌を使用することができる。
【0101】
宿主細胞を形質転換する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、電気穿孔法等を用いることができる。
【0102】
5.本発明の融合ポリペプチドを生産する方法
本発明の融合ポリペプチドを生産する方法には、本発明の発現ベクターを用いて、RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中で合成したmRNAをコムギ胚芽抽出液と反応させて、融合ポリペプチドを発現させる工程、又は、本発明の宿主細胞を培養し、融合ポリペプチドを発現させる工程を包含する、融合ポリペプチドを生産する方法が含まれる。
【0103】
本発明の融合ポリペプチドを生産する方法は、本発明の発現ベクターを用いて、RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中でmRNAを合成し、合成したmRNAをコムギ胚芽抽出液と反応させて、融合ポリペプチドを発現させる工程、又は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、融合ポリペプチドを発現させる工程を包含している限り、特に限定されるものではない。該方法で使用されるRNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液並びにコムギ胚芽抽出液としては、例えば、WEPRO7240G Expression Kit(セルフリーサイエンス)に含まれる試薬が挙げられる。また、該方法で使用される好ましい宿主細胞としては、前述の好ましい本発明の形質転換された宿主細胞が挙げられる。
【0104】
形質転換された宿主細胞の培養は公知の方法により行うことができる。培養条件、例えば、温度、培地のpH及び培養時間は、適宜選択される。宿主細胞を培養することにより、本発明の融合ポリペプチドを生産することができる。
【0105】
本発明の融合ポリペプチドを生産する方法は、本発明の発現ベクターを用いて、RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中でmRNAを合成する工程、並びに合成したmRNAをコムギ胚芽抽出液と反応させて、融合ポリペプチドを発現させる工程に加えて、さらには、融合ポリペプチドを回収、好ましくは単離又は精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、GSTタグ又はポリヒスチジンタグと融合した本発明の融合ポリペプチドをグルタチオンセファロースビーズに結合させた後、過剰な還元型グルタチオンで溶出することによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
【0106】
また、本発明の融合ポリペプチドを生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、融合ポリペプチドを発現させる工程に加えて、さらには、該形質転換された宿主細胞から融合ポリペプチドを回収、好ましくは単離又は精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、特定のタグや蛋白質分子内の内在構造を認識する抗体の特異的親和性を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。好ましくは、培養上清中に蓄積された融合ポリペプチドは、各種クロマトグラフィーより精製することができる。
【0107】
本発明の融合ポリペプチドには、本発明の融合ポリペプチドを生産する方法で生産された融合ポリペプチドも含まれる。
【0108】
6.本発明の融合ポリペプチドを用いた標的遺伝子の転写を調節する方法
本発明の融合ポリペプチドを用いた標的遺伝子の転写を調節する方法には、本発明の融合ポリペプチドを含む培地で細胞を培養する工程を包含する、該細胞における標的遺伝子の転写を調節させる方法が含まれる。
【0109】
本発明の方法によって転写が調節される標的遺伝子は、特に限定されないが、例えば細胞増殖に関する遺伝子(TERT及びmiR-346。好ましくはヒトTERT及びヒトmiR-346)が挙げられる。
【0110】
本発明の方法で使用される融合ポリペプチドは、「1.本発明の融合ポリペプチド」に記載された融合ポリペプチドが挙げられる。
【0111】
本発明の方法に使用される細胞は、特に限定されないが、例えば、体細胞(好ましくはヒト体細胞)が挙げられる。本明細書において、「体細胞」とは、生殖細胞以外の生体内に存在する細胞を意味する。本発明の方法に使用される体細胞としては、特に限定されないが、例えば、間葉系幹細胞(MSC)(好ましくはヒトMSC)などの幹細胞(好ましくはヒト幹細胞)、線維芽細胞(好ましくはヒト線維芽細胞)が挙げられる。
【0112】
本発明の方法で使用される培地は、細胞培養の分野において通常使用される培地であれば特に限定されない。また、細胞の種類に応じて、血清を培地に添加することができる。
【0113】
本発明の方法で使用される培養条件は、細胞の種類に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0114】
培地に添加される本発明の融合ポリペプチドの濃度は、細胞の種類や細胞数、融合ポリペプチドの転写調節活性等により異なるが、例えば、0.01nM~10μM程度、好ましくは0.5nM~5μM程度を用いることができる。
【0115】
本発明の融合ポリペプチドを添加するタイミング及び回数は特に限定されない。本発明の融合ポリペプチドを培地に添加するタイミングは、例えば、培養開始時に添加してもよく、又は、培養開始後に添加してもよい。培養開始後に本発明の融合ポリペプチドを培地に添加する場合、培養開始から例えば1時間後、5時間後、10時間後、15時間後、24時間後(1日後)、36時間後、48時間後(2日後)、3日後、4日後、5日後に添加してもよい。
【0116】
本発明の融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を調節することができるか否かは、公知の遺伝子発現量測定方法を用いて確認することができる。遺伝子発現量を測定する方法としては、例えば、リアルタイムPCR等の方法が挙げられる。リアルタイムPCRを用いる場合、例示的な方法において、TaqMan Fast Advanced Master Mix (サーモフィシャーサイエンティフィック)を使用することによって、被験融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を調節することができるか否かを確認することができる。遺伝子発現量の具体的な評価方法としては、例えば、後記実施例2から4に記載されるような方法を用いることができる。
【0117】
7.本発明の融合ポリペプチドを用いた細胞を増殖させる方法
本発明の融合ポリペプチドを用いた細胞を増殖させる方法には、細胞増殖に関与する遺伝子の転写を促進できる本発明の融合ポリペプチドを含む培地で細胞を培養する工程を包含する、細胞を増殖させる方法が含まれる。
【0118】
細胞増殖に関与する遺伝子としては、例えば、TERT、miR-346などの公知の遺伝子が挙げられる。
【0119】
本発明の方法で使用される融合ポリペプチドは、「1.本発明の融合ポリペプチド」に記載された融合ポリペプチドが挙げられる。
【0120】
本発明の方法に使用される細胞は、特に限定されないが、例えば、体細胞(好ましくはヒト体細胞)が挙げられる。本発明の方法に使用される体細胞としては、特に限定されないが、例えば、間葉系幹細胞(MSC)(好ましくはヒトMSC)などの幹細胞(好ましくはヒト幹細胞)、線維芽細胞(好ましくはヒト線維芽細胞)が挙げられる。
【0121】
本発明の方法で使用される培地、培養条件、本発明の融合ポリペプチドの濃度、並びに、添加タイミング及び回数は、上記の「6.本発明の融合ポリペプチドを用いた標的遺伝子の転写を調節する方法」で説明したとおりである。
【0122】
本発明の融合ポリペプチドが細胞を増殖させることができるか否かは、公知の細胞増殖測定方法を用いて確認することができる。細胞増殖を測定する方法としては、例えば、細胞内ATP定量試薬CellTiter-Glo(登録商標) Reagent(プロメガ)を用いた細胞増殖アッセイや細胞数カウントが挙げられる。CellTiter-Glo(登録商標) Reagentを使用することや細胞数をセルカウンターScepter(メルクミリポア)で測定することによって、被験融合ポリペプチドが細胞を増殖させることができるか否かを確認することができる。細胞増殖の具体的な評価方法としては、例えば、後記実施例5、6及び8に記載されるような方法を用いることができる。
【0123】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
[実施例]
【0124】
市販のキット又は試薬等を用いた部分については、特に断りのない限り添付のプロトコールに従って実験を行った。また、便宜上、濃度mol/LをMとして表す。例えば、1M水酸化ナトリウム水溶液は1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液であることを意味する。
【実施例1】
【0125】
CPP-TALE-Activatorの作製
ヒトTERT及びヒトmiR-346の各遺伝子のプロモーター又はエンハンサーに特異的に結合するように設計された転写活性化因子様エフェクター(TALE)を作製した。各TALE、配列番号23に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされる細胞膜透過性ペプチド(NTPとも称する)(国際公開第2008/108505号)及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチド(以下、NTP-TALE-Activatorとも称する)、並びに、TALE、配列番号67に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされる細胞膜透過性ペプチド(ICQ2とも称する)及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチド(以下、ICQ2-TALE-Activatorとも称する)を作製した(NTP-TALE-Activator及びICQ2-TALE-Activatorを合わせて、CPP-TALE-Activatorとも称する)。
【0126】
(1)発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの作製
発現プラスミドpEU-E01-MCS(セルフリーサイエンス)のマルチクローニングサイトにGlutathione S-transferase(GST)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号24)、NTP(アミノ酸配列RIFIHFRIGC(配列番号56)からなる)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号23)、及び、TEVプロテアーゼの標的ペプチド(以下TEVと表記する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号25)を5’側から順に挿入した。
【0127】
配列番号24に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの5’末端に制限酵素EcoRVサイトを、3’末端に制限酵素BamHIサイトをそれぞれ付加したポリヌクレオチドを合成した。EcoRV(タカラバイオ)及びBamHI(タカラバイオ)を用いて発現プラスミドpEU-E01-MCSに上記ポリヌクレオチドを挿入することにより、発現プラスミドpEU-E01-GSTを作製した。次に、5’末端側から順にBamHIサイト配列、NTPをコードする塩基配列、TEVをコードする塩基配列、制限酵素XhoIサイト配列、制限酵素SgfIサイト配列、制限酵素PmeIサイト配列、制限酵素NotIサイト配列、及び制限酵素SalIサイト配列を含むポリヌクレオチド(但し、XhoIサイトとSgfIサイトの間にはコードするアミノ酸配列のフレームを合わせるためにシトシンを挿入した)を作製した。BamHI及びSalI(タカラバイオ)を用いて、前記ポリヌクレオチドを発現プラスミドpEU-E01-GSTに挿入した。その後、配列番号26及び27に示される塩基配列からなるプライマーを用いてインバースPCR(環状ポリヌクレオチドの一領域から外に向かってプライマーを設計し、環状化したポリヌクレオチド全体を増幅するPCR法)を行い、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVを作製した。
【0128】
(2)プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vの作製
配列番号28に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド(TALEの一部をコードする塩基配列及びVP64(配列番号29)をコードする塩基配列を含む。ΔTALE-VP64と称する。)を、(1)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの、TEVをコードする塩基配列の直後にIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kit(タカラバイオ)により組み込むことで、プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vを得た。VP64のC末端にバリンが付加されているため末尾にVを付けた名称とした。
【0129】
(3)ヒトTERT遺伝子を標的とするTALEの作製
テロメラーゼのサブユニットであるヒトTERT遺伝子(Accession No.AH007699.2)の周辺配列を公知のデータベースであるEnsembl genome browserで検索し、エンハンサーとして作用することが予想される当該遺伝子の転写開始点から下流約4万ベースペア(以下bpと略記する)の遺伝子領域から、Accession No.AH007699.2の塩基番号49444~49461までの塩基配列(配列番号49に示される塩基配列)をTALEの標的塩基配列として選択した。公知の方法(Platinum Gate TALEN construction protocol(Yamamoto lab)Ver.1.0 [2016年11月15日検索]、インターネット<URL:https://www.addgene.org/static/cms/filer_public/b0/52/b0527900-3204-471a-992d-189679e2ede0/platinum-gate-protocol.pdf>)により、配列番号49に示される塩基配列に特異的に結合するように設計されたDNA結合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド(配列番号1の塩基番号429~2064までの塩基配列を含むポリヌクレオチド)を作製した。そして、T4 DNA Ligase(New England BioLabs)を用いて、(2)で作製したプラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vに含まれる配列番号28の塩基番号435~889までの塩基配列からなるポリヌクレオチドを、上述の配列番号1の塩基番号429~2064までの塩基配列からなるポリヌクレオチドに置換した。これにより、配列番号2のアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド(TALE_TERT-1とも称する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号1に示される塩基配列からなる)を含むプラスミドを取得した。なお、配列番号2のアミノ酸番号7~784に示されるアミノ酸配列は、配列番号49に示される塩基配列に結合するように設計された、TALEのDNA結合リピート部分及びチミン結合部分を含むポリペプチド部分である。
【0130】
同様に、ヒトTERT遺伝子(Accession No.AH007699.2)の周辺配列をEnsembl genome browserで検索した。その結果、プロモーターとして作用することが予想される遺伝子領域からAccession No.AH007699.2の塩基番号11029~11046までの塩基配列(配列番号50に示される塩基配列)を、エンハンサーとして作用することが予想される遺伝子領域からAccession No.AH007699.2の塩基番号6501~6518までの塩基配列(配列番号51に示される塩基配列)をTALEの標的塩基配列としてそれぞれ選択した。そして、配列番号50に示される塩基配列及び配列番号51に示される塩基配列にそれぞれ特異的に結合するように設計されたDNA結合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド(それぞれ、配列番号3の塩基番号429~2064までの塩基配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号5の塩基番号429~2064までの塩基配列を含むポリヌクレオチド)を作製した。次に、(2)で作製したプラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vに含まれる配列番号28の塩基番号435~889までの塩基配列からなるポリヌクレオチドを、それぞれ、上述の配列番号3、及び配列番号5の塩基番号429~2064までの塩基配列からなるポリヌクレオチドに置換した。これにより、配列番号4及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド(それぞれTALE_TERT-2及びTALE_TERT-3とも称する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(それぞれ配列番号3及び5に示される塩基配列からなる)を含むプラスミドを取得した。
【0131】
(4)ヒトmiR-346遺伝子を標的とするTALEの作製
ヒトmiR-346遺伝子はヒトTERT遺伝子の発現を促進することが知られている(Sci. Rep.、2015、Vol.5、p.15793)。ヒトマイクロRNAのmiR-346遺伝子(Accession No.NR_029907.1)の周辺配列をEnsembl genome browserで検索し、プロモーターとして作用することが予想される当該遺伝子の転写開始点から上流1000bpの遺伝子領域から、Accession No.AMYH02023475.1の塩基番号13529~13546までの塩基配列(配列番号52に示される塩基配列)からなる遺伝子領域をTALEの標的塩基配列として選択した。上記(3)と同様の方法により、配列番号52に示される塩基配列の相補鎖配列に結合するように設計されたDNA結合ポリペプチド(配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる(TALE_miR-346-1とも称する))をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号7に示される塩基配列からなる)を含むプラスミドを取得した。
【0132】
(3)及び(4)で作製した各種TALEをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むプラスミドを発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64Vと総称する。
【0133】
(5)NTP-TALE-Activatorをコードする発現プラスミドの作製
以下の方法で、(3)及び(4)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64Vを用いて、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64を作製した。さらに、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64のVP64をコードする塩基配列の代わりにVPR、p300のコア領域(以下p300CDと表記する)及びGCN5のコア領域(以下GCN5CDと表記する)をそれぞれコードする塩基配列に置き換えた。
【0134】
(3)及び(4)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64Vを鋳型として、PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて、配列番号30及び31に示される塩基配列からなるプライマーを使用したPCRを行った。これにより、TALE及びVP64をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの5’末端側にSgfIサイト配列が、3’末端側にNotIサイト配列がそれぞれ付加したポリヌクレオチドを作製した。当該ポリヌクレオチドをTALE-VP64と称する。このTALE-VP64をSgfI(タカラバイオ)及びNotI(タカラバイオ)で切断し、(1)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの制限酵素サイトSgfI及びNotIの間に挿入し、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64を作製した。
【0135】
SP-dCas9-VPR(Addgene)を鋳型として、PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて、配列番号32及び33に示される塩基配列からなるプライマーを使用したPCRを行った。これにより、VPR(配列番号34)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドの5’末端側にCGCGCGTCAGCCAGC(配列番号58)を、3’末端側にGTTTAAACTGCGGCC(配列番号59)をそれぞれ付加した。当該ポリヌクレオチドをVPR-PCRと称する。
【0136】
次に、pEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64を鋳型として、配列番号35及び36に示される塩基配列からなるプライマーを用いたPCRを行った。これにより、VP64をコードする塩基配列を除去し、かつ、3’側にCGCGCGTCAGCCAGC(配列番号58)を、5‘側にGTTTAAACTGCGGCC(配列番号59)をそれぞれ付加したポリヌクレオチドを作製した。当該ポリヌクレオチドをpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-PCRと称する。
【0137】
pEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-PCR及びVPR-PCRを1対10のモル比でIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitを用いて連結させた。これにより、転写活性化因子としてVPRをコードする発現プラスミドを作製した。当該発現プラスミドをpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRと称する。このうち、DNA結合ポリペプチドがTALE_TERT-1であるpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRを、pEU-E01-GST-NTP-TALE-TERT-1-VPRと称する。当該発現プラスミドをアガロース電気泳動法及びシークエンス解析を行うことにより、所望のコンストラクトがクローニングされていることを確認した。
【0138】
同様に、p300のコア領域(p300CD)に関しては、配列番号37及び38に示される塩基配列からなるプライマーを用いたPCRにより、1246 pCMVb p300HA(Addgene、10718)を鋳型としてp300CD(配列番号39)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドの5’末端側にCGCGCGTCAGCCAGC(配列番号58)を、3’末端側にGTTTAAACTGCGGCC(配列番号59)をそれぞれ付加した。当該ポリヌクレオチドをp300CD-PCRと称する。
【0139】
同様に、GCN5CDのコア領域(GCN5CD)に関しては、配列番号40及び41に示される塩基配列からなるプライマーを用いたPCRにより、Flexi ORF clone FXC03762(かずさDNA研究所)を鋳型として、GCN5CD(配列番号42)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドの5’末端側にCGCGCGTCAGCCAGC(配列番号58)を、3’末端側にGTTTAAACTGCGGCC(配列番号59)をそれぞれ付加した。当該ポリヌクレオチドをGCN5CD-PCRと称する。
【0140】
これらをVPRの場合と同様に、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitを用いてpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-PCRにp300CD-PCR及びGCN5CD-PCRをそれぞれ連結させた。これにより転写活性化因子としてp300CDをコードする発現プラスミド、及び転写活性化因子としてGCN5CDをコードする発現プラスミドをそれぞれ作製した。当該発現プラスミドをそれぞれpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-p300CD及びpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-GCN5CDと称する。作製した2種類の転写活性化因子を含む発現プラスミドをアガロース電気泳動法及びシークエンス解析を行うことにより、所望のコンストラクトがクローニングされていることを確認した。
【0141】
(6)NTP-TEV-TALE_scramble-VPR、GST-NTP-EGFPをコードする発現プラスミドの作製
実施例6及び8の陰性対照として、GST-NTP-EGFP及びNTP-TEV-TALE_scramble-VPRをそれぞれコードする発現プラスミドを作製した。
【0142】
次に、発現プラスミドpGEX6p-1(GEヘルスケア)を制限酵素EcoNI(ニューイングランドバイオラボ)で切断し、そこに配列番号68に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをリンカーとして挿入した。得られたベクターをEcoRV及びBamHIで切断し、ポリヌクレオチド断片を切り出した。切り出した断片をEcoRV及びBamHIで切断したpEU-E01-MCSへT4 DNA Ligaseを用いて挿入した。さらにそのベクターをBamHI及びSalIで切断し、NTP及びTEV認識配列をコードする配列番号69に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをT4 DNA Ligaseを用いて挿入した。得られたベクターをXhoI及びNotIで切断し、そこへ両末端にXhoIとNotIサイトをそれぞれ付加した高感度緑色蛍光蛋白質(EGFP)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号65に示される塩基配列からなる)をT4 DNA ligaseにより挿入し、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-EGFPを作製した。pEU-E01-GST-NTP-EGFPは、GST、NTP及びEGFPを含む融合ポリペプチド(GST-NTP-EGFPとも称する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む。
【0143】
(5)で作製したpEU-E01-GST-NTP-TALE-TERT-1-VPRを鋳型として配列番号70及び71に示される塩基配列からなるプライマーを用いてインバースPCRを行った。得られたPCR断片と、配列番号63に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号64のアミノ酸配列からなるポリペプチド(TALE_scrambleとも称する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド)を混合し、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitを用いて結合させた。これにより、pEU-E01-GST-NTP-TALE-TERT-1-VPRに含まれるTALE_TERT-1をコードする配列番号1の塩基番号1~2139までの塩基配列からなるポリヌクレオチドを配列番号63に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドに置換した。この結果、TALE_scrambleをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TALE_scramble-VPRを得た。ここで、TALE_scrambleとは、例えばTGCGTACAAAGTATACATのように、両端のTを除いた配列がA7個、T3個、G3個、C3個の組成になる塩基配列をランダムにスクランブルさせたものを標的遺伝子としたTALEであり、ヒトTERTを標的としたTALE部分の陰性対照として使用した。
【0144】
(7)発現プラスミドpEU-E01-GST-ICQ2-TALE-TERT-1-VPRの作製
(5)で作製したpEU-E01-GST-NTP-TALE-TERT-1-VPRを制限酵素AsiSI(ニューイングランドバイオラボ)及び制限酵素SwaI(タカラバイオ)で処理した。
【0145】
次に配列番号66に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド(ICQ2(アミノ酸配列RIFIHFRQGQ(配列番号60))をコードするポリヌクレオチドを含む)を合成し、それぞれAsiSI及びSwaIで処理した。アガロース電気泳動を行い、約340塩基のポリヌクレオチド断片を切り出し、FastGeneゲル/PCR抽出キット(日本ジェネテクス、FG91202)を用いて精製した。このポリヌクレオチド断片をAsiSI及びSwaIで切断した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRにT4 DNA ligase(Mighty Mix、タカラバイオ 6023)でそれぞれ連結した。連結して得られたプラスミドを熱処理でコンピテントセル(Stbl、ニューイングランドバイオラボ)に導入し、100μg/mLアンピシリン(シグマ)入りLB培地寒天プレート(10g/L Bacto Trypton(ベクトンディッキンソン)、5g/L Bacto Yeast Extract(ベクトンディッキンソン)、10g/L塩化ナトリウム(和光)及び1.5%アガロース(和光)含有水溶液)(以下、LAプレートと称する)にて、30℃で一晩培養した。得られたコロニーからプラスミドを精製し、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRのNTPをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが、配列番号67に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドに置換したpEU-E01-GST-ICQ2-TALE-TERT-1-VPRを得た。シークエンス解析を行うことで、上記コンストラクトが正しく作製されていることを確認した。pEU-E01-GST-ICQ2-TALE-TERT-1-VPRは、ICQ2、TALE_TERT-1及びVPRを含む融合ポリペプチド(ICQ2-TALE-TERT-1-VPRとも称する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む。
【0146】
(8)NTP-TALE-Activator、ICQ2-TALE-TERT-1-VPR及びGST-NTP-EGFPの作製
(5)~(7)で作製した各種CPP-TALE-Activator及びGST-NTP-EGFPをそれぞれコードする発現プラスミドを鋳型として、コムギ無細胞タンパク質合成キット(セルフリーサイエンス)によりCPP-TALE-Activator及びGST-NTP-EGFPをそれぞれ合成し、精製した。
【0147】
WEPRO7240G Expression Kit(セルフリーサイエンス)を用いて、(5)~(7)で作製した発現プラスミド1μgを用いて反応液量0.29mLになるスケールで各蛋白質を合成した。合成後、反応液量に対して0.1%のEmpigen(シグマ)を添加した。さらに、リン酸緩衝生理食塩水で飽和したGlutathione Sepharose 4B(GEヘルスケア)を60μL加えて4℃で2時間振盪した。遠心分離によりGlutathione Sepharoseを回収し、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離する作業を2回繰り返した。回収したGlutathione Sepharoseを150mM塩化ナトリウム含有リン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離によりGlutathione Sepharoseを分離した。
【0148】
次に、Glutathione Sepharoseに結合したCPP-TALE-Activator及びGST-NTP-EGFPを抽出するために、以下の操作を行った。すなわち、30mMの還元型グルタチオン(和光)を含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)60μLを上述のGlutathione Sepharoseに添加した。室温1分間振盪した後、遠心分離により上清を回収した。同じ作業を2回繰り返した。上清を回収することにより、CPP-TALE-Activator及びGST-NTP-EGFPを取得した。回収した上清にグリセリン(ナカライ)を終濃度20%、及びプロテアーゼ阻害剤(Halt Protease and Phosphatase Inhibitor Cocktail、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を終濃度1%となるようにそれぞれ添加して氷上で保存した。この上清中に含まれるCPP-TALE-Activator蛋白質濃度を、SDSポリアクリルアミド電気泳動法とクーマジーブリリアントブルー染色法を用いて、並行して泳動したBSA(シグマ fractionV)との比較から算定した。なお、これら精製した蛋白質を溶出した30mMの還元型グルタチオン、50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)に20%グリセリン、1%プロテアーゼ阻害剤を含む水溶液を溶出緩衝液と称する。
【0149】
本実施例で得られた各種CPP-TALE-Activatorの名称、塩基配列の配列番号及びそれによりコードされるアミノ酸配列の配列番号を示す。
【表1】
【実施例2】
【0150】
NTP-TALE-Activator添加時の細胞内ヒトTERT mRNA発現量の測定(1)
ヒトTERTを標的とするNTP-TALE-Activatorによる培養細胞のヒトTERT mRNAの発現量を評価した。
【0151】
ヒト臍帯マトリクス由来間葉系幹細胞(PromoCell C-12971。以下UC-MSCと称する)を、10%ウシ胎児血清(ハイクローン)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)及び2mM L-GlutaMax(サーモフィッシャーサイエンティフィック)含有DMEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で懸濁し、96ウェル透明培養プレート(岩城硝子)へ0.4×10細胞/100μL/ウェルとなるように播種した。CO濃度5%、37℃に設定したCOインキュベーター内で12時間静置した。
【0152】
実施例1で作製したNTP-TALE-Activator(NTP-TALE-TERT-1-VP64、NTP-TALE-TERT-1-VPR、NTP-TALE-TERT-1-p300CD、NTP-TALE-TERT-1-GCN5CD)を、実験時のウェル内終濃度が0.3nM、1.0nM又は3.0nMになるようにそれぞれ溶出緩衝液で希釈し、1μLをウェルに添加した。コントロールとして、NTP-TALE-Activatorの代わりに、上記溶出緩衝液を添加した。37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で24時間静置した。氷冷したリン酸緩衝生理食塩水100μLで1回洗浄した後、当該培養プレートを液体窒素で処理して細胞を凍結した。
【0153】
上述の培養プレートを氷上に静置して融解すると同時に、TaqMan(登録商標)Gene Expression Cells-to-CTTM kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に付属の溶解液(Lysis solution 29.7μL及びDNaseI 0.3μLの混合溶液)30μLを各ウェルに添加して細胞と混合した。室温で5分静置した後、上記キットに付属のStop solutionを各ウェル3μL加えて室温で5分静置した。これにより細胞から抽出されたRNAを含む細胞溶解液が得られた。
【0154】
上記細胞溶解液を鋳型として、リアルタイムPCRはTaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix(サーモフィシャーサイエンティフィック)を使用し、7900HTFast Real Time PCR System(サーモフィッシャーサイエンティフィック)でリアルタイムPCRを行い、ヒトTERT mRNA量を測定した。内在性コントロール遺伝子としてヒトアクチンベータ(ACTB)遺伝子mRNA量との比で測定値を示した。ヒトTERT mRNA量をヒトACTB mRNA量で除した値をヒトTERT mRNA相対発現量とした。コントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、各群のヒトTERT mRNA相対発現量を算出した。なお同一試料について各3ウェル重複して実施した。
【0155】
ヒトTERTのプライマーのセットとしては、TERT FAM(サーモフィッシャーサイエンティフィック、Hs00972648_gl)を使用し、ヒトACTBのプライマーのセットとしては、ACTB VIC(サーモフィッシャーサイエンティフィック、Hs99999903_ml)を使用した。
【0156】
図1(1)及び(2)に示す通り、コントロール群に比較して、NTP-TALE-TERT-1-VP64、NTP-TALE-TERT-1-VPR、NTP-TALE-TERT-1-p300CD及びNTP-TALE-TERT-1-GCN5CDはヒトTERT mRNAの発現量を増加(ヒトTERT遺伝子の発現を亢進)させることが明らかとなった。
【0157】
この結果から、本発明の融合ポリペプチドは、細胞を培養する培地に添加するだけで、細胞導入試薬又は電気穿孔法を用いることなく、当該細胞における標的遺伝子の発現を亢進できることが示された。
【実施例3】
【0158】
NTP-TALE-Activator添加時の細胞内ヒトTERT mRNA発現量の測定(2)
実施例1で作製したヒトTERTを標的としたNTP-TALE-Activator(NTP-TALE-TERT-1-p300CD、NTP-TALE-TERT-2-p300CD及びNTP-TALE-TERT-3-p300CD)を微量透析カラム(トミー)でOPTIMEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に対して4℃で3時間透析した。精製後の濃度は、NTP-TALE-TERT-1-p300CDが40nM、NTP-TALE-TERT-2-p300CDが55nM、NTP-TALE-TERT-3-p300CDが55nMであった。ヒトT細胞(健常人より採血した末梢単核球から分離して取得)を96ウェルプレートに各ウェル0.5×10細胞をKBM550(コージンバイオ)100μLに懸濁して播種した。
【0159】
なお、ヒトT細胞は以下の通り分離した。被験者より採血し、採血後2時間以内に1500回転で20分室温遠心分離した中間層(単核球層)を採集した。リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、37℃に温めておいたKBM550リンパ球培養用培地(コージンバイオ、16025500)10mLに懸濁した。抗CD3抗体(ベクトンディッキンソン、555336、Clone HIT3a)でコーティングした10cm径培養シャーレ(コーニング)へ2x10細胞となるように播種した後、37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で静置した。なお、コーティングは、リン酸緩衝生理食塩水で10μg/mLに希釈した抗CD3抗体溶液を培養シャーレの表面が覆われる様に添加して、37℃で1時間インキュベートすることで、行った。使用直前に抗体希釈液を取り除き、リン酸緩衝生理食塩水で1回洗浄した。培養シャーレ中でコンフルエントになった細胞をピペッティングで剥がした。1000回転で室温5分遠心分離した後、上清を除去した。KBM550リンパ球培養用培地で懸濁し、上述の抗CD3抗体溶液でコーティングした6ウェル培養プレート(コーニング)へ1.5x10細胞/ウェルとなるように播種した。37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で24時間静置した後、Tリンパ球が増殖してコロニーを形成している事を確認して分離取得した。
【0160】
得られたヒトT細胞を12時間培養した後に、上述の透析後の各NTP-TALE-Activatorを終濃度が3.0nMになるようにウェルに添加した(事前に複数濃度での検討を行った結果、各NTP-TALE-Activatorの最も応答性が認められた濃度が3.0nMだった)。コントロールとして、NTP-TALE-Activatorを添加しないウェルを作製した。37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で24時間静置した。
【0161】
24時間後の細胞内のヒトTERT mRNA発現量を以下の方法で測定した。上述の培養細胞の各ウェルから培養上清を除去し、氷冷リン酸緩衝生理食塩水で一度洗浄した。その後、Ambion(登録商標) Power SYBR Cells-to-CTTM kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に付属の溶解液(Lysis solution 24.5μL及びDNaseI 0.5μLの混合溶液)25μLを各ウェルに添加して細胞と混合した。室温で5分静置した後、上記キットに付属のStop solutionを各ウェル2.5μL加えて室温で2分静置した。これにより細胞から抽出されたRNAを含む細胞溶解液が得られた。
【0162】
上記細胞溶解液を鋳型として、上記キットに付属の逆転写酵素を用い、添付のプロトコールに従ってRNAからcDNAを作製した。次いで、下記のプライマー及び上記キットに付属のPower SYBR Green PCR Master Mixを用いて、CFX96 Touch リアルタイムPCR解析システム(バイオラッド)でリアルタイムPCRを行い、ヒトTERT mRNA量を測定した。内在性コントロール遺伝子として、ヒトアクチンベータ(ACTB)mRNA量を測定した。ヒトTERT mRNA量をヒトACTB mRNA量で除した値をヒトTERT mRNA相対発現量とした。コントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、各群のヒトTERT mRNA相対発現量を算出した。なお同一試料について各3ウェル重複して実施した。
【0163】
TERT Forward primer及びTERT Reverse primerとして、配列番号43及び44に示される塩基配列からなるプライマーをそれぞれ使用した。また、ACTB Forward primer及びACTB Reverse primerとして、配列番号45及び46に示される塩基配列からなるプライマーをそれぞれ使用した。
【0164】
図2に示す通り、コントロール群に比較して、NTP-TALE-TERT-1-p300CD、NTP-TALE-TERT-2-p300CD及びNTP-TALE-TERT-3-p300CDはヒトTERT mRNAの発現量を、それぞれ約17倍、約3.5倍、約2倍に増加させた。さらに、その活性は、NTP-TALE-TERT-1-p300CD、NTP-TALE-TERT-2-p300CD及びNTP-TALE-TERT-3-p300CDの順で高いことが明らかになった。
【実施例4】
【0165】
NTP-TALE-miR-346-1-VP64添加時の細胞内ヒトmiR-346 RNA発現量の測定
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(PromoCell、C-12974。以下BM-MSCと略記する)を用いて実施例3に示した方法と同様に評価した。但し、培地として、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium(タカラバイオ C-28010)を用いた。上述実施例1で作製したNTP-TALE-miR-346-1-VP64を、実施例3に示した方法と同様に透析し、濃度を150nMに調整した。これをBM-MSCに実験時のウェル終濃度が0.25nM、3nM及び10nMとなるようにそれぞれ添加して24時間後の細胞内のヒトmiR-346 RNA発現量を測定した。但し、リアルタイムPCRにはForward primerとして配列番号47に示される塩基配列からなるプライマーを、Reverse primerとして、miScript SYBR(登録商標)Green PCR Kit(ミリポア)のユニバーサルプライマーを使用した。
【0166】
内在性コントロール遺伝子としてU6 RNA量を測定した。ヒトmiR-346 RNA量をU6 RNA量で除した値をヒトmiR-346 RNA相対発現量とした。コントロールのヒトmiR-346 RNA相対発現量を1としたときの、各群のヒトmiR-346 RNA相対発現量を算出した。U6のForward primerとして配列番号48に示される塩基配列からなるプライマーを、Reverse primerは上述のユニバーサルプライマーを使用した。
【0167】
図3に示す通り、コントロールに比較して、NTP-TALE-miR-346-1-VP64はヒトmiR-346 RNAの発現を増加(ヒトmiR-346遺伝子の発現を亢進)させた。
【0168】
実施例2から4の結果から、本発明の融合ポリペプチドは、細胞を培養する培地に添加するだけで、細胞導入試薬又は電気穿孔法を用いることなく、当該細胞における標的遺伝子の発現を亢進できることが示された。
【実施例5】
【0169】
細胞増殖アッセイ
NTP-TALE-Activatorの細胞増殖への作用を評価した。実施例2と同じ培地で培養したUC-MSCを0.1×10 cells/100μL/wellとなるように96 well plate(岩城硝子 3860-096)に播種して37℃、CO濃度5%で24時間培養した。ここでは播種細胞量が実施例2より少ないため培養時間を長くした。なお、増殖試験においては被験蛋白質群の効果を十分に確認するため、継代数が10から20の範囲で、かつ増殖能が落ちている細胞を用いた。実施例1で作製したNTP-TALE-TERT-1-GCN5CD、NTP-TALE-TERT-1-VPR及びNTP-TALE-miR-346-1-VP64を終濃度0.5nMとなるように溶出緩衝液で希釈し、それぞれ1μL添加した。コントロールとして、NTP-TALE-Activatorの代わりに、溶出緩衝液を添加した。24時間ごとに培地を交換し、72時間まで培養を継続した。培地交換の際には各NTP-TALE-Activatorを1μL添加し、終濃度0.5nMとした。NTP-TALE-Activatorの添加開始から24時間ごとに細胞内ATP定量試薬CellTiter-Glo(登録商標) Reagent 100μLを各ウェルに添加した。10分室温で静置した後、細胞懸濁液200μLを96ウェル白色プレート(コーニング)に移した。各ウェルの発光強度をTECAN infinite(登録商標) M1000(テカン)を用いて測定することによって、細胞の増殖能を測定した。なお同一試料について各3ウェル重複して実施した。
【0170】
図4に示す通り、NTP-TALE-Activator(NTP-TALE-TERT-1-GCN5CD(図4中「TERT-1-GCN5CD」)、NTP-TALE-TERT-1-VPR(図4中「TERT-1-VPR」)、及びNTP-TALE-miR-346-1-VP64(図4中「miR-346-1-VP64」))はコントロールと比較して細胞内ATP総量を増加させており、細胞の増殖を促進させた。
【0171】
この結果から、本発明の融合ポリペプチドは、これを含む培地で細胞を培養することにより、細胞の増殖を顕著に促進することができることが示された。
【実施例6】
【0172】
細胞増殖アッセイ(ヒト線維芽細胞を用いた長期培養試験)
ヒト線維芽細胞MRC-5(理研 細胞バンク)を10%ウシ胎児血清(サーモフィッシャーサイエンティフィック)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)含有アルファMEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、で培養した。継代数が8回目の時に、細胞をトリプシン(和光)で遊離し、血球計算版で細胞数を計測した。コラーゲンI コート6ウェルプレート(コーニング)に各ウェル1×10個の細胞を上記培地0.5mLで懸濁して播種した。37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で24時間静置した後、実施例1で作製したNTP-TALE-TERT-1-VPR及び陰性対照としてGST-NTP-EGFPをそれぞれ100nMになるように培地で希釈し(それぞれ、希釈NTP-TALE-TERT-1-VPR及び希釈GST-NTP-EGFPと称する)、各ウェルに5μL添加した。対照群として培地のみを添加した。37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で静置し、24時間ごとに上述の希釈NTP-TALE-TERT-1-VPR及び希釈GST-NTP-EGFPを各ウェルに5μL添加した。3日目にリン酸緩衝生理食塩水1mLで2回洗浄した後、トリプシンを100μL添加して、細胞をプレートから遊離させた。各ウェルに培地を400μL添加して懸濁した後、血球計測版で各ウェルの細胞数を4回独立して計測した。その後、上記細胞懸濁液を培地で希釈して1ウェルあたり1×10個の細胞を6ウェルプレートに再播種した。この作業を累積継代数が21回に達するまで繰り返し行い、測定した細胞数を継代時に希釈した倍率を累積継代数分掛け合わせて実験開始時の細胞数と比較した数値(4回計測値の平均)を図5に表示した。図5グラフ横軸の8から22は細胞の継代数を示している。
【0173】
図5に示される通り、培地のみを添加した細胞群(コントロールと表示)及びGST-NTP-EGFPを添加した細胞群(NTP-EGFPと表示)に比較して、NTP-TALE-TERT-1-VPRを添加した細胞群では細胞数が増加していることが認められた。以上より、NTP-TALE-TERT-1-VPRが細胞増殖を促進する作用を有することが示された。
【0174】
この結果から、本発明の融合ポリペプチドは、これを含む培地で体細胞を培養することにより、体細胞を増殖させる(体細胞の増殖を促進する)ことができることが示された。また、本実施例の結果より、本発明の融合ポリペプチドは、体細胞を培養する培地に添加するだけで、体細胞を増殖させることができることが示された。さらに、実施例2の結果を考慮すると、本発明の融合ポリペプチドは、体細胞の標的遺伝子(TERT)の転写を調節することにより、体細胞を増殖させることができることが示唆された。
【実施例7】
【0175】
ICQ2-TALE-TERT-1-VPR添加時の細胞内ヒトTERT mRNA発現量の測定
ウェル内の終濃度以外は実施例3と同様の方法により、NTP-TALE-TERT-1-VPR及びICQ2-TALE-TERT-1-VPR添加時の細胞内ヒトTERT mRNA発現量を測定した。ただし、NTP-TALE-TERT-1-VPR及びICQ2-TALE-TERT-1-VPRのウェル内終濃度は、それぞれ0.25nM、1nM、3nM、10nM及び30nMで評価した。
【0176】
その結果、図6に示される通り、ICQ2-TALE-TERT-1-VPRは、NTP-TALE-TERT-1-VPRと同等又はそれ以上のレベルで、標的遺伝子であるヒトTERT mRNA発現を増加させることが示された。
【実施例8】
【0177】
細胞増殖アッセイ(ヒトMSCを用いた長期培養試験)
ICQ2-TALE-TERT-1-VPRの細胞増殖への作用を評価した。実施例2と同じ細胞種及び培地を使用した。継代数16回目の細胞をコラーゲンIコート6ウェルプレート(コーニング)に1ウェル当たり1×10個となるように0.5mLの培地に懸濁して播種した。実施例1で作製したICQ2-TALE-TERT-1-VPR及びNTP-TALE-scramble-VPRが100nMになるようにそれぞれ培地で希釈し(それぞれ、希釈ICQ2-TALE-TERT-1-VPR及び希釈NTP-TALE-scramble-VPRと称する)、それぞれ5μL添加した(NTP-TALE-scramble-VPRを添加した細胞群をコントロールと称する)。24時間ごとに上述の希釈ICQ2-TALE-TERT-1-VPR及び希釈NTP-TALE-scramble-VPRを各ウェルに5μL添加した。3日目にリン酸緩衝生理食塩水1mLで2回洗浄した後、トリプシンを100μL添加して、細胞をプレートから遊離させた。各ウェルに培地を400μL添加して懸濁した後、血球計測版で各ウェルの細胞数を4回独立して計測した。その後、上記細胞懸濁液を培地で希釈して懸濁して1ウェル当たり1×10個の細胞を6ウェルプレートに再播種した。この作業を累積継代数が19になるまで繰り返し行い、測定した細胞数を継代時に希釈した倍率を累積継代数分掛け合わせて実験開始時の細胞数と比較した数値(4回計測値の平均)を図7に表示した。図7グラフ横軸の16から19は細胞の継代数を示している。
【0178】
その結果、図7に示す通り、ICQ2-TALE-TERT-1-VPRを添加した培地で培養した細胞は、コントロールと比較してその増殖が促進された。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の融合ポリペプチドは、標的遺伝子の発現を調節するのに有用であると期待される。また、本発明の融合ポリペプチドは、細胞の増殖を促進させるのに有用であると期待される。また、本発明のポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換された宿主細胞及び蛋白質を生産する方法は、前記融合ポリペプチドを生産するのに有用であると期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0180】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号1、3、5及び7に示される塩基配列は、それぞれTALE_TERT-1、TALE_TERT-2、TALE_TERT-3及びTALE_miR-346-1の塩基配列であり、配列番号2、4、6及び8で示されるアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号1に示される塩基配列によりコードされるTALE_TERT-1、配列番号3に示される塩基配列によりコードされるTALE_TERT-2、配列番号5に示される塩基配列によりコードされるTALE_TERT-3及び配列番号7に示される塩基配列によりコードされるTALE_miR-346-1のアミノ酸配列である。配列表の配列番号9、11、13、15、17、19、21及び61に示される塩基配列は、それぞれNTP-TALE-TERT-1-VP64、NTP-TALE-TERT-1-VPR、NTP-TALE-TERT-1-p300CD、NTP-TALE-TERT-1-GCN5CD、NTP-TALE-TERT-2-p300CD、NTP-TALE-TERT-3-p300CD、NTP-TALE-miR-346-1-VP64、及びICQ2-TALE-TERT-1-VPRの塩基配列であり、配列番号10、12、14、16、18、20、22及び62で示されるアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号9に示される塩基配列によりコードされるNTP-TALE-TERT-1-VP64、配列番号11に示される塩基配列によりコードされるNTP-TALE-TERT-1-VPR、配列番号13に示される塩基配列によりコードされるNTP-TALE-TERT-1-p300CD、配列番号15に示される塩基配列によりコードされるNTP-TALE-TERT-1-GCN5CD、配列番号17に示される塩基配列によりコードされるNTP-TALE-TERT-2-p300CD、配列番号19に示される塩基配列によりコードされるNTP-TALE-TERT-3-p300CD、配列番号21に示される塩基配列によりコードされるNTP-TALE-miR-346-1-VP64、及び、配列番号61に示される塩基配列によりコードされるICQ2-TALE-TERT-1-VPRのアミノ酸配列である。配列番号23に示される塩基配列は、NTP(RIFIHFRIGC)をコードする塩基配列である。配列番号25に示される塩基配列は、TEVをコードする塩基配列である。配列番号26、27、30~33、35~38、40、41、43~48、70及び71に示される塩基配列は、各プライマーの塩基配列である。配列番号28に示される塩基配列は、ΔTALE-VP64の塩基配列である。配列番号29に示されるアミノ酸配列は、VP64のアミノ酸配列である。配列番号34に示されるアミノ酸配列は、VPRのアミノ酸配列である。配列番号53~57及び60に示されるアミノ酸配列は、各細胞膜透過性ペプチドのアミノ酸配列である。配列番号58及び59に示される塩基配列は、それぞれVPR-PCRの5’末端側及び3’末端側の塩基配列である。配列番号63に示される塩基配列はTALE_scrambleの塩基配列であり、配列番号64に示されるアミノ酸配列は配列番号63に示される塩基配列によりコードされるTALE_scrambleのアミノ酸配列である。配列番号65に示される塩基配列は、XhoIサイト及びNotIサイトをそれぞれ付加したEGFPをコードするポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号66に示される塩基配列はICQ2(アミノ酸配列RIFIHFRQGQ)をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号67に示される塩基配列は、ICQ2をコードする塩基配列である。配列番号68に示される塩基配列はリンカーをコードする塩基配列である。配列番号69に示される塩基配列は、ポリヌクレオチドの塩基配列である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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