IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナミックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-導電性組成物 図1
  • 特許-導電性組成物 図2
  • 特許-導電性組成物 図3
  • 特許-導電性組成物 図4
  • 特許-導電性組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】導電性組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20220221BHJP
   H01B 1/16 20060101ALI20220221BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220221BHJP
【FI】
H01L31/04 264
H01B1/16 A
H01B1/22 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2015220637
(22)【出願日】2015-11-10
(65)【公開番号】P2017092253
(43)【公開日】2017-05-25
【審査請求日】2018-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】佐合 佑一朗
(72)【発明者】
【氏名】杉山 高啓
(72)【発明者】
【氏名】角田 航介
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-122177(JP,A)
【文献】国際公開第2014/059577(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0126797(US,A1)
【文献】特開2010-199034(JP,A)
【文献】特開2010-087251(JP,A)
【文献】特開2016-216606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
H01B 1/14-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層を受光面に有する太陽電池の受光面電極を形成するための導電性組成物であって、
導電性粉末と、
ガラスフリットと、
鉛含有化合物粉末と、
シリコーン樹脂と、
有機バインダと、
分散媒と、
を含み、
前記シリコーン樹脂は、ポリジメチルシロキサンを含み、
前記導電性粉末を構成する金属種が、銀であり、
前記シリコーン樹脂は、前記導電性粉末100質量%に対して0.6質量%以下の割合で含まれる、導電性組成物。
【請求項2】
前記ガラスフリットは、導電性粉末を100質量%としたとき0.1~12質量%の割合で含まれる、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記鉛含有化合物粉末は、前記ガラスフリットと当該鉛含有化合物粉末とを混合して仮想ガラスを作製したとき、当該仮想ガラスの酸化物換算組成におけるPbOの割合が30mol%以下となる量で含まれる、請求項2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記鉛含有化合物粉末は、金属鉛、一酸化鉛、鉛丹、硝酸鉛および炭酸鉛からなる群から選択される少なくとも1種の鉛含有化合物の粉末である、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記鉛含有化合物粉末は、前記ガラスフリットに担持されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記シリコーン樹脂の重量平均分子量は1000以上150000以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の導電性組成物の焼成物を電極として備えている太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物に関する。より詳細には、太陽電池の電極を形成するために用いることができる導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりや省エネルギーの観点から、光エネルギーを電力に変換する太陽電池の普及が急速に進んでいる。これに伴い、光電変換効率が良好な太陽電池が求められている。この要求を実現するための一つの方策として、太陽電池においては、再結合を抑制するパッシベーション膜や受光効率を高める反射防止膜を設けること、基板内のpn接合で生じた電力を高効率で電極から取り出すことが試みられている。
【0003】
この種の太陽電池の製造に際しては、シリコン基板の受光面に設けられた反射防止膜上に、電極形成用の導電性組成物を所望の電極パターンで供給して焼成する。この導電性組成物は、典型的には、銀等の導電性粉末と、ガラスフリットと、バインダ成分と、分散媒とを含み、ペースト状(スラリー状、インク状を包含する。)に調製されている。導電性組成物は、スクリーン印刷法等の手法により所定の電極パターンで太陽電池の受光面に供給される。すると、電極の焼成中に導電性組成物中のガラスフリットが反射防止膜と反応し、導電性粉末が反射防止膜を通り抜けて(ファイヤースルー)、シリコン基板の表面のエミッタ層と電気的接続(オーミックコンタクト)を実現する。これにより、シリコン基板のpn接合で形成された電流を電極に取り出すことができる。このようなガラスフリットを含む太陽電池の電極形成用の導電性組成物として、例えば、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-087251号公報
【文献】特開2012-023095号公報
【文献】特開2015-122177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、太陽電池のエミッタ層を薄くすることで表面再結合を抑制し、これによって変換効率を向上させることが試みられている。薄層化されたエミッタ層(Lightly Doped Emitter(LDE))を有する基板においては、シート抵抗が増大されると共に、ファイヤースルーによる電極と基板とのオーミックコンタクトを薄いエミッタ層内で実現することが求められる。しかしながら、ファイヤースルーによるオーミックコンタクトを薄いエミッタ層内で実現することは困難であり、太陽電池の変換効率が低下しやすいという課題があった。したがって、特にLDEタイプの太陽電池における変換効率の改善が求められている。
【0006】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、例えばLDEに対しても良好なオーミックコンタクトが得られる電極を形成することができ、変換効率が改善された太陽電池を実現し得る導電性組成物を提供することである。また、この導電性組成物の採用により実現される、発電性能が向上された太陽電池素子を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これまでに、太陽電池の受光面電極のライン抵抗を低下し、出力特性の良好な太陽電池を実現するべく、高アスペクト比の電極を好適に形成し得る導電性組成物を提案している(例えば、特願2015-001855号)。この導電性組成物は、導電性粉末の他に、ガラスフリットとシリコーン樹脂(単にシリコーン(silicone)ともいう)とを含み、組成物中のSiO成分量を調整することで、コンタクト(接触)抵抗の上昇を抑制し、かつ、微細で高アスペクト比の電極を安定して形成できるものである。しかしながら、このようなシリコーン樹脂を含む導電性組成物については、形成される電極の形状による太陽電池の高性能化という観点とは別に、より良好なオーミックコンタクトの実現といった電気化学的な側面からの改善の余地が残されていた。
【0008】
そこで、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、導電性組成物の組成を再検討することで、例えばLDEに対しても良好なオーミックコンタクトを形成し、これまでにない高い変換効率を実現し得る導電性組成物を見出すに至った。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。すなわち、ここに開示される技術によって、太陽電池の電極を形成するために好適に用いることができる導電性組成物が提供される。この導電性組成物は、導電性粉末、有機バインダ、分散媒の他に、ガラスフリットと、シリコーン樹脂と、鉛含有化合物粉末と、を含むことを特徴としている。
【0009】
なお、特許文献1は、ガラスフリットとして無鉛ガラスフリットを使用するタイプの導電性組成物に関する技術である。この特許文献1には、高い変換効率を実現し得る鉛含有のガラスフリットに代えて無鉛ガラスフリットを使用するに際し、導電性組成物中にSi系化合物を添加することで変換効率を確保することが開示されている。
また、特許文献2は、バインダ成分として、焼成後に抵抗成分となり得るガラスフリットを含まないタイプの導電性組成物に関する技術である。この特許文献2には、良好な印刷性と、基板と電極との良好な密着性を実現するために、脂肪酸銀塩を用いることが開示されている。また、シリコン基板との密着性をより良好とするために、熱硬化性のエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等を使用することが好ましいことが開示されている。
しかしながら、本発明者らの試験によると、これら特許文献1および2の導電性組成物は、シリコーン樹脂を含むことから、この組成物を用いて作製されるLDE基板を用いた太陽電池の変換効率には改善の余地があることが確認されている。また本発明者らの検討によると、シリコーン樹脂を含む導電性組成物は、シリコーン樹脂の添加量が増えると、発電効率が著しく低下するという知見を有している。
【0010】
一方で、本発明者らは、ガラスフリットとして、テルルを含有するガラスフリットを使用するタイプの導電性組成物について提案している(特許文献3参照)。この特許文献3では、無鉛テルルガラスフリットの浸食抑制作用を改善し、かつ、鉛-テルルガラスフリットにみられる接着強度の低下を回避するために、導電性組成物中に、無鉛テルルガラスフリットと鉛含有化合物粉末とを含むようにしている。本発明者らの試験によると、特許文献3の導電性組成物はテルル含有ガラスフリットを含むことから、特許文献1および2に開示された導電性組成物を用いて作製される太陽電池と比べて、高い変換効率を実現し得る。しかしながら、この変換効率についても、更なる改善の余地が残されていた。
【0011】
すなわち、ここに開示される導電性組成物は、シリコーン樹脂と、鉛含有化合物粉末とを含んでいる。このような導電性組成物を用いて太陽電池を作製することで、ガラスフリットの組成に大きな影響を受けることなく、これまでにない高い変換効率を実現することができる。これにより、高い変換効率を実現する太陽電池を簡便かつ安定して作製することができる。
【0012】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記ガラスフリットは、導電性粉末を100質量%としたとき0.1~12質量%の割合で含まれる。また、上記鉛含有化合物粉末は、上記ガラスフリットと当該鉛含有化合物粉末とを混合して仮想ガラスを作製したとき、当該仮想ガラスの酸化物換算組成におけるPbOの割合が30mol%以下となる量で含まれることを特徴としている。これにより、この導電性組成物を用いて作製した太陽電池の変換効率をより一層安定して高めることができる。
【0013】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記鉛含有化合物粉末は、金属鉛、一酸化鉛、鉛丹、硝酸鉛および炭酸鉛からなる群から選択される少なくとも1種の鉛含有化合物の粉末であることを特徴としている。このような構成により、この導電性組成物を用いて作製した太陽電池の変換効率を安定して高めることができる。また、焼成後の電極と基板との接着性を高く維持することができる。
【0014】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記鉛含有化合物粉末は、上記ガラスフリットに担持されていることを特徴としている。このような構成によっても、この導電性組成物を用いて作製した太陽電池の変換効率を安定的に改善することができる。
【0015】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記シリコーン樹脂は、上記導電性粉末100質量%に対して0.9質量%以下の割合で含まれることを特徴としている。このような構成により、この導電性組成物を用いて作製した太陽電池の変換効率を安定して高めることができる。
【0016】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記シリコーン樹脂の重量平均分子量は千以上15万以下であることを特徴としている。このような構成により、シリコーン樹脂を添加しない場合と比較して、電極のライン抵抗等の電気特性をより一層高めることができる。
【0017】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記シリコーン樹脂は、ポリジメチルシロキサンおよびポリエーテル変性シロキサンの少なくとも一方を含むことを特徴としている。このような構成により、基板に対して接着性の良好な電極を形成することができる。
【0018】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記導電性粉末を構成する金属種が、ニッケル、白金、パラジウム、銀、銅およびアルミニウムからなる群から選択されるいずれか1種または2種以上の元素を含むことを特徴としている。このような構成により、導電性に優れた電極を構成することができる。
【0019】
本発明の導電性組成物は、例えば、n層の薄い太陽電池基板に対しても、良好なオーミックコンタクトを実現し得る。これにより、表面再結合が抑制されてこれまでにない高い変換効率を実現する太陽電池を製造することができる。また電極とシリコン基板との接着性を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】太陽電池の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図2】太陽電池の受光面に形成された電極のパターンを模式的に示す平面図である。
図3】太陽電池の基板と電極との接着強度を測定する強度測定装置を模式的に示した側面図である。
図4】参考例に係る導電性組成物のシリコーン含有量と、太陽電池の開放電圧(Voc)との関係を示したグラフである。
図5】参考例に係る導電性組成物のシリコーン含有量と、太陽電池の曲線因子(FF)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって、本発明の実施に必要な事項は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」との表記は、A以上B以下を意味する。
【0022】
ここで開示される導電性組成物は、典型的には、焼成することにより太陽電池の電極を形成することができる。すなわち、この導電性組成物の焼成物が太陽電池の電極を構成し得る。この導電性組成物は、本質的に、従来のこの種の導電性組成物と同様に、導電性粉末と、ガラスフリットと、これらの構成要素を分散させるための有機ビヒクル成分(後述するが、有機バインダと分散媒との混合物)とを含み、さらに、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを必須の構成要素として含むことで構成されている。
【0023】
なお、特許文献1に開示の技術では、有鉛ガラスフリットに代えて無鉛ガラスフリットを用い、導電性組成物中にSi系化合物を添加することで変換効率を高めるようにしていた。しかしながら、シリコーン樹脂の添加量が増えると発電効率が著しく低下してしまう。また、特許文献3に開示の技術では、鉛-テルルガラスフリットに代えて無鉛テルルガラスフリットを用い、この無鉛テルルガラスフリットの基板浸食抑制作用を改善するために、導電性組成物中に鉛含有添加物を含むようにしていた。このとき、鉛含有添加物は、導電性組成物中で無鉛テルルガラスフリットと結合された状態で存在することで、電気的特性に一層優れた電極を得ることができると記載されている。
【0024】
しかしながら、ここに開示される技術においては、導電性組成物中にシリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを同時に含むようにしている。この場合、導電性組成物中にシリコーン樹脂または鉛含有化合物粉末を単独で添加した場合の電気的特性の改善効果よりも、高い電気的特性を有する電極を得ることができる。さらには、シリコーン樹脂および鉛含有化合物粉末を単独で添加した場合の電気的特性の改善効果を足し合わせるよりも、さらに一層高い電気的特性を有する電極を得ることができる。このような相乗効果は、ガラスフリットの組成によることなく、各種のガラスフリットと鉛含有化合物粉末とを併用した場合について得られることが確認されている。つまり、ここに開示される任意組成のガラスフリットと、シリコーン樹脂および鉛含有化合物粉末とを含む導電性組成物が、これまでになく電気的特性に優れた電極を形成し得ることが判明した。詳細な機構は明らかではないが、ここに開示される導電性組成物においては、シリコーン樹脂が、鉛含有添加物とガラスフリットと基板との各々に作用して、たとえLDEタイプの基板であっても、基板に対するガラスフリットおよび鉛含有化合物粉末の浸食が過剰となるのを抑制し、好適に進行するように作用すると考えられる。このことが、シリコーン樹脂の添加による発電性能の急激な低下を大いに緩和しているものと考えられる。また、鉛含有化合物粉末による基板の浸食界面は粗くしつつも、ガラスフリットと鉛含有化合物粉末との浸食作用を均質化して、全体としては滑らかな基板の浸食を実現しているものと考えられる。
【0025】
以下、ここに開示される導電性組成物の各構成要素について説明する。
該ペーストの固形分の主体をなす導電性粉末としては、用途に応じた所望の導電性およびその他の物性等を備える各種の金属またはその合金等からなる粉末を考慮することができる。かかる導電性粉末を構成する材料の一例としては、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),白金(Pt),パラジウム(Pd),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),オスミウム(Os),ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)等の金属およびそれらの合金、カーボンブラック等の炭素質材料、LaSrCoFeO系酸化物(例えばLaSrCoFeO)、LaMnO系酸化物(例えばLaSrGaMgO)、LaFeO系酸化物(例えばLaSrFeO)、LaCoO系酸化物(例えばLaSrCoO)等として表わされる遷移金属ペロブスカイト型酸化物に代表される導電性セラミックス等が例示される。なかでも、白金,パラジウム,銀等の貴金属の単体およびこれらの合金(例えば、Ag-Pd合金、Pt-Pd合金等)、およびニッケル,銅,アルミニウムならびにその合金等からなるものが、特に好ましい導電性粉末を構成する材料として挙げられる。なお、比較的コストが安く、電気伝導度が高い等の観点から、銀およびその合金からなる粉末(以下、単に「Ag粉末」ともいう。)が特に好ましく用いられる。以下、本願発明の導電性組成物について、導電性粉末としてAg粉末を用いる場合を例として説明を行う場合があるが、本発明はこれに限定されない。
【0026】
導電性粉末の粒径については特に制限はなく、用途に応じた種々の粒径のものを用いることができる。典型的には、平均粒子径が5μm以下のものが適当であり、平均粒子径が3μm以下(典型的には1μm~3μm、例えば1.5μm~2.5μm)のものが好ましく用いられる。導電性粉末の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により測定される、体積基準の粒度分布における積算50%粒径(D50)を採用することができる。本明細書における導電性粉末の平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-920)を用いて測定した値を採用している。
【0027】
導電性粉末を構成する粒子の形状は特に限定されない。典型的には、球状、麟片状(フレーク状)、円錐状、棒状等のものを好適に使用することができる。充填性がよく緻密な受光面電極を形成しやすい等の理由から、球状もしくは鱗片状の粒子を用いることが好ましい。使用する導電性粉末としては、粒度分布のシャープな(狭い)ものが好ましい。例えば、粒子径10μm以上の粒子を実質的に含まないような粒度分布のシャープな導電性粉末が好ましく用いられる。この指標として、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布における小粒径側からの累積体積10%時の粒径(D10)と累積体積90%時の粒径(D90)との比(D10/D90)が採用できる。粉末を構成する粒径が全て等しい場合はD10/D90の値は1となり、逆に粒度分布が広くなる程このD10/D90の値は0に近づくことになる。D10/D90の値が0.2以上(例えば0.2以上0.5以下)であるような比較的狭い粒度分布の粉末の使用が好ましい。
【0028】
また他の側面において、導電性粉末は、平均粒子径の異なる2つの粒子群を混合して用いることもできる。この場合、例えば、第1の粒子群の平均粒子径(D50)を1.5μm~2.5μm(例えば2μm)の範囲とし、第2の粒子群の平均粒子径(D50)を2μm~3μm(例えば2.5μm)の範囲とすることが好適例として挙げられる。このとき各粒子群の粒度分布は、上記のとおりシャープなものであることが好ましい。そして、例えば、第1の粒子群が80~95体積%(例えば、90体積%)の割合、第2の粒子群が20~5体積%(例えば、10体積%)の割合となるように混合する。これにより、充填性の良好な導電性粉末を用意することができる。
このような平均粒子径および粒子形状を有する導電性粉末を用いた導電性組成物は、導電性粉末の充填性がよく、緻密な電極を形成し得る。このことは、細かい電極パターンを形状精度よく形成するにあたって有利である。
【0029】
なお、導電性粉末は、その製造方法等により特に限定されない。例えば、周知の湿式還元法、気相反応法、ガス還元法等によって製造された導電性粉末を必要に応じて分級して用いることができる。かかる分級は、例えば、遠心分離法を利用した分級機器等を用いて実施することができる。
【0030】
ガラスフリットは、上記導電性粉末の無機バインダとして機能し得る成分であり、導電性粉末を構成する導電性粒子同士や、導電性粒子と基板(電極が形成される対象)との結合性を高める働きをする。また、この導電性組成物が例えば太陽電池の受光面電極の形成に用いられる場合には、このガラスフリットの存在により、導電性組成物が下層としての反射防止膜等を焼成中に貫通することが可能となり、導電性粒子(すなわち電極)と基板との良好な接着および電気的コンタクトを実現することができる。
【0031】
このようなガラスフリットは、導電性粉末と同等かそれ以下の大きさに調整されていることが好ましい。ガラスフリットの平均粒子径は、例えば、4μm以下であることが好ましく、好適には3μm以下程度であることがより好ましい。ガラスフリットの平均粒子径の下限は特に制限されないが、典型的には0.5μm以上とすることができ、1μm以上がより好ましい。本明細書におけるガラスフリットの平均粒子径は、導電性粉末と同様に、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布における積算50%粒径(D50)を採用することができる。
【0032】
なお、本実施形態におけるガラスフリットについては特に制限されず、この種の導電性組成物に使用される各種のガラスを用いることができる。おおよそのガラス組成として、例えば、当業者が慣用的に表現している呼称でいう、いわゆる、鉛系ガラスの他、鉛リチウム系ガラス、亜鉛系ガラス、ボレート系ガラス、ホウケイ酸系ガラス、アルカリ系ガラス、テルル系ガラス、鉛-テルル系ガラス、および、酸化バリウムや酸化ビスマス等を含有する系のガラス等であってよい。これらのガラスは、改めて言うまでもなく、上記呼称に現れる主たるガラス構成元素の他に、他の任意の元素を含むことができる。このような元素としては、Si,Zn,Ba,Bi,B,Pb,Al,Li,Na,K,Rb,Te,Ag,Zr,Sn,Ti,W,Cs,Ge,Ga,In,Ni,Ca,Cu,Mg,Sr,Se,Mo,Y,As,La,Nd,Co,Pr,Gd,Sm,Dy,Eu,Ho,Yb,Lu,Ta,V,Fe,Hf,Cr,Cd,Sb,F,Mn,P,CeおよびNb等であり得る。ガラスフリットは、これらの元素のいずれか1つまたは2以上の元素を任意の組み合わせおよび割合で含むことができる。このようなガラスフリットは、例えば、一般的な非晶質ガラスの他、一部に結晶を含む結晶化ガラスであってもよい。また、ガラスフリットは、1種の組成のガラスフリットを単独で用いても良いし、2種以上の組成のガラスフリットを混合して用いても良い。
【0033】
ガラスフリットを構成するガラスの軟化点は、特に限定されるものではないが、250℃以上600℃以下程度(例えば300℃以上500℃以下)であることが好ましい。このように軟化点が250℃以上600℃以下の範囲内に調整され得るガラスとしては、具体的には、例えば、以下に示す元素を組み合わせて含むガラスが挙げられる。B-Si-Al系ガラス,Pb-B-Si系ガラス,Si-Pb-Li系ガラス,Si-Al-Mg系ガラス,Ge-Zn-Li系ガラス,B-Si-Zn-Sn系ガラス,B-Si-Zn-Ta系ガラス,B-Si-Zn-Ta-Ce系ガラス,B-Zn-Pb系ガラス,B-Si-Zn-Pb系ガラス,B-Si-Zn-Pb-Cu系ガラス,B-Si-Zn-Al系ガラス,Pb-B系ガラス,Pb-B-Mo系ガラス,Pb-B-Si-Ti-Bi系ガラス,Pb-B-Si-Ti系ガラス,Pb-B-Si-Al-Zn-P系ガラス,Pb-Li-Bi-Te系ガラス,Pb-Si-Al-Li-Zn-Te系ガラス,Pb-B-Si-Al-Li-Ti-Zn系ガラス,Pb-B-Si-Al-Li-Ti-P-Te系ガラス,Pb-Si-Li-Bi-Te系ガラス,Pb-Si-Li-Bi-Te-W系ガラス,P-Pb-Zn系ガラス,P-Al-Zn系ガラス,P-Si-Al-Zn系ガラス,P-B-Al-Si-Pb-Li系ガラス,PB-Al-Mg-F-K系ガラス,Te-Pb系ガラス,Te-Pb-Li系ガラス,V-P-Ba-Zn系ガラス,V-P-Na-Zn系ガラス,Pb-V-P系ガラス,AgI-AgO-B-P系ガラス,Zn-B-Si-Li系ガラス,Si-Li-Zn-Bi-Mg-W-Te系ガラス,Si-Li-Zn-Bi-Mg-Mo-Te系ガラス,Si-Li-Zn-Bi-Mg-Cr-Te系ガラスなどである。なお、上記のガラスは、ハイフン(-)で繋いで示した複数の元素を少なくとも含み、それらの元素を酸化物に換算したときの組成(酸化物換算組成)に基づく当該元素の酸化物の合計が、全体の70mol%以上(典型的には80%以上、より好ましくは90%以上)を占めることを意味している。このような軟化点を有するガラスフリットを含有する導電性組成物は、例えば、太陽電池素子の受光面電極を形成する際に用いると、比較的低い焼成温度で良好なファイヤースルー特性を発現して高性能な電極形成に寄与するために好ましい。
【0034】
なお、ガラスフリットは、鉛を含む有鉛ガラスフリットであっても、鉛を含まない無鉛ガラスフリットであってもよい。しかしながら、有鉛ガラスフリットを用いる場合は、後述のとおり、ガラスフリットにおける鉛の割合を、酸化物換算組成におけるPbOとして、30mol%未満とすることが好ましい。というのは、(1)ここに開示される導電性組成物において、鉛成分は、本質的に、ガラスフリットの酸化物換算組成において、PbOが30mol%以下となる割合で含まれることが最も好適であるとの知見を得ているからである。しかしながら、(2)有鉛ガラスフリットを使用すると、焼成の際の導電性組成物による基板の浸食面が均一に形成されて滑らかになるため、良好な電気的特性は得られるものの、基板との接着強度が低くなる傾向にある。太陽電池の電極においては、生成した電力を外部に取り出したりモジュール化したりするために、電極の表面に電流取出し用のリード線をはんだ付けしたり、導電性フィルムを貼り付けたりする場合がある。太陽電池は屋外で長期間に亘って使用されるため、リード線や導電性フィルムを接続した場合であっても、基板と電極との物理的な接着性が良好であることが好ましい。したがって、ここに開示される導電性組成物における鉛成分は、少なくとも一部を鉛含有化合物粉末として含むことが重要であり得る。なお、基板と電極との接着強度を要する場合には、ガラスフリットとして、鉛含有量の少ないガラスフリットを用いることが好ましく、無鉛ガラスフリットを使用することが特に好ましい。なお、ここでいう無鉛ガラスフリットとは、導電性組成物の全体に占める鉛(Pb)の割合が1000ppm(質量基準。以下同じ。)以下であることを示し、例えばガラスフリットの全体に占める鉛(Pb)の割合が、10000ppm以下であることを意味する。より好ましくは、無鉛ガラスフリットは、鉛を実質的に含まない。
【0035】
また、ガラスフリットは、ガラス構成元素としてSiの含有量が少ないことが好ましい。ガラスフリット中のSi(例えばSiOとして)の割合が少なくなることで、ガラスフリットの軟化点が直接的に低下され、焼成中のより低い温度で導電性粉末や基板にガラスが濡れ広がるために好ましい。かかる観点から、Si成分は、SiOとして、焼成前の導電性組成物に対して1000ppm以下、ガラスフリットに対して10000ppm以下であることが好ましい。
さらに、ガラスフリットは、ガラス構成元素としてCuの含有量が少ないことが好ましい。ガラスフリット中のCu(例えばCuOとして)の割合が少なくなることで、形成される電極の電気的特性が向上されるために好ましい。かかる観点から、Cu成分は、CuOとして、焼成前の導電性組成物に対して1000ppm以下、ガラスフリットに対して10000ppm以下であることが好ましい。
なお、これらの元素がガラスフリットに含まれる場合、後述の鉛含有化合物粉末がガラスフリットに一体的に担持されていることで、これらのSiおよびCuによる不都合な傾向が明瞭に抑制され得るために好ましい。
【0036】
シリコーン樹脂は、ここに開示される導電性組成物に含まれる必須の構成成分である。このシリコーン樹脂を含有することで、この導電性組成物は、焼成時に上記の鉛含有ガラスフリットに作用し、ファイヤースルー特性を向上させて、過度なSi基板の浸食を抑えて、良好なコンタクトを形成し得るものと考えられる。また、シリコーン樹脂は、例えばSi基板上に形成された導電性組成物の塗膜(未焼成電極)の形状を印刷から焼成に亘って安定して保つことができ、より微細で高アスペクト比の電極を安定して形成することが可能とする。また、シリコーン樹脂は、焼成により電極中にSiO成分を生成し得る。このSiO成分は、有鉛ガラスフリットの軟化点を直接的に高めることなく、焼成過程でガラス成分中に取り込まれるなどして、系の安定性および電極と基板との結着性を高めることに寄与すると考えられる。
【0037】
このシリコーン樹脂としては、ケイ素(Si)を含む有機化合物を特に制限なく使用することができ、例えば、シロキサン結合(Si-O-Si)による主骨格を有する高分子有機化合物を好ましく使用することができる。主骨格部分を形成するシロキサン化合物(ポリマー)としては、例えば、一般式:HO[-Si(R)O-]H、Rは水素または任意の官能基;で示されるシロキサン単位を含むポリシロキサンや、Rが任意のアルキル基であるポリアルキルシロキサン、または、シロキサン単位とこれとは異なるケイ素含有モノマーとが重合されてなるポリマーであってよい。具体的には、シリコーン樹脂としては、ポリジメチルシロキサン,ポリジエチルシロキサン,ポリメチルエチルシロキサン等のポリジアルキルシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルシロキサン)等が挙げられる。特に好適な主骨格を構成する高分子は、例えば、ポリジメチルシロキサンであり得る。また、シリコーン樹脂としては、例えば、主骨格における未結合手(側鎖、末端または両者)に、水素、アルキル基またはフェニル基等を導入した直鎖型シリコーンであってもよい。あるいは、シリコーン樹脂としては、ポリエーテル基、エポキシ基、アミン基、カルボキシル基、アラルキル基、水酸基等の他の置換基を主骨格の側鎖、末端、または両者に導入した直鎖変性シリコーンであってもよい。なかでも、ポリジメチルシロキサンや、ポリジメチルシロキサンの側鎖、末端、または両者にポリエーテル基を導入したポリエーテル変性シロキサン(ポリエーテル変性シリコーン)を好ましく用いることができる。あるいは、ポリエーテル変性シロキサンは、ポリエーテルとシリコーンとが交互に結合された直鎖状のブロック共重合体(直鎖ポリエーテル変性シリコーン)であってもよい。
【0038】
このようなシリコーン樹脂は、重量平均分子量(以下、単に「Mw」と示す場合がある)が高くなるほど高アスペクト比の電極を形成し得るために好ましい。しかしながら、Mwがおおよそ15万程度を超過すると、得られる電極の断線等の欠陥を招いたり、抵抗を高めたりしてしまうために好ましくない。このような観点から、シリコーン樹脂のMwは、例えば、15万以下とすることができ、13万以下であるのが好ましく、11万以下であるのがより好ましく、9万以下であるのが特に好ましい。Mwの下限は特に制限されないが、例えば千以上とすることができ、3千以上であるのが好ましく、5千以上であるのがより好ましく、1万以上、例えば2万以上であるのが特に好ましい。
【0039】
鉛含有化合物粉末としては、鉛(Pb)成分を含有し、導電性組成物中で安定して存在し得る粉末状の材料を特に制限なく用いることができる。このような鉛を含有する材料の一例としては、金属鉛(Pb)の他、鉛を含む合金、一酸化鉛(PbO)、二酸化鉛(PbO)、鉛丹(Pb)、鉛白(2PbCO・Pb(OH))、硝酸鉛(Pb(NO)、塩化鉛(PbCl)、硫化鉛(PbS)、黄鉛(PbCrO、Pb(SCr)O、PbO・PbCrO)、炭酸鉛(PbCO)、硫酸鉛(PbSO)、フッ化鉛(PbF)、4フッ化鉛(PbF)、臭化鉛(PbBr)、ヨウ化鉛(PbI)等の無機鉛化合物、酢酸鉛(Pb(CHCOO))、4カルボン酸鉛(Pb(OCOCH)、テトラエチル鉛(Pb(CHCH)等の有機鉛化合物が例示される。なかでも、金属鉛、一酸化鉛、鉛丹、硝酸鉛および炭酸鉛は比較的取り扱いが容易で他の元素による影響がないために特に好ましい導電性粉末を構成する材料として挙げられる。
【0040】
鉛含有化合物粉末の粒径については特に制限はなく、例えば、導電性粉末と同等かそれ以下の大きさに調整されていることが好ましい。鉛含有化合物粉末の平均粒子径は、例えば、4μm以下であることが好ましく、好適には3μm以下程度であることがより好ましい。鉛含有化合物粉末の平均粒子径の下限は特に制限されないが、典型的には0.1μm以上とすることができ、0.3μm以上がより好ましい。このような粒径に調整することで、ガラスフリットとの分散性が良好となるために好ましい。なお、鉛含有化合物粉末に関する平均粒子径は、導電性粉末と同様に、レーザ回折・光分散法に基づく積算50%粒径(D50)を採用することができる。
【0041】
鉛含有化合物粉末を構成する粒子の形状は特に限定されない。典型的には、球状、麟片状(フレーク状)、円錐状、棒状等のものを好適に使用することができる。また、一次粒子が凝集した二次粒子の形態のものであってもよい。このような鉛含有化合物粉末は、例えば、周知の精製法、湿式法、気相反応法等によって製造されたものを必要に応じて分級して用いることができる。かかる分級は、例えば、遠心分離法を利用した分級機器等を用いて実施することができる。
【0042】
鉛含有化合物粉は、導電性組成物中に粉末の状態でそのまま混合されてもよいが、一部または全部がガラスフリットに担持された状態で混合されてもよい。鉛含有化合物粉末をガラスフリットに担持させる手段としては特に限定されず、例えば、仮焼による担持法や、メカノケミカル手法による担持法を利用することが例示される。
仮焼による担持では、ガラスフリットと鉛含有化合物粉とを混合し、例えばセッター等に載せて、酸化雰囲気中にて300~500℃程度の温度で仮焼すればよい。仮焼温度は、ガラスフリットと鉛含有化合物粉とが焼結により反応を生じる温度より十分に低温に設定することができる。これにより、ガラスフリットの性状および組成に大きな影響を与えることなく、ガラスフリットと鉛含有化合物粉とを一体化させることができる。
【0043】
また、メカノケミカル手法による担持では、例えば、乾式粒子複合化装置(例えば、ホソカワミクロン(株)製、ノビルタNOB-130)等を用い、好適に用いることができる。このような装置によりガラスフリットと鉛含有化合物粉との混合粉末を処理することで、粒子間にせん断や圧縮等の機械的な力を作用させ、ガラスフリットと鉛含有化合物粉と一体化することができる。これにより、例えば一例として、ガラスフリットの一つの粒子表面に、鉛含有化合物粉末がおおむね一粒子層の厚みで強固に固着された複合粒子を得ることができる。このような複合粒子は、ガラスフリットに代えて用い得ることができて簡便である。
【0044】
以上の導電性粉末等の構成要素を分散させる有機ビヒクル成分としては、所望の目的に応じて、従来よりこの種の導電性組成物に用いられている各種のものを特に制限はなく使用することができる。典型的には、ビヒクルは、種々の組成の有機バインダと分散媒としての有機溶剤とから構成される。有機バインダとは、無機バインダともいえるガラスフリットによるバインダ効果に対して、バインダ機能を有する有機化合物からなることを意味している。かかる有機ビヒクル成分において、有機バインダは全てが有機溶剤に溶解していても良いし、一部のみが溶解または分散(いわゆるエマルジョンタイプの有機ビヒクルであり得る。)していても良い。
【0045】
有機バインダとしては、バインダ機能を有する有機化合物を特に制限なく用いることができる。例えば、エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリブチルメタクリレート,ポリメチルメタクリレート,ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等をベースとする有機バインダが好適に用いられる。特にセルロース系高分子(例えばエチルセルロース)が好ましく、特に良好なスクリーン印刷を行うことができる粘度特性を実現することができる。
【0046】
有機ビヒクルを構成する有機溶剤として好ましいものは、沸点がおよそ200℃以上(典型的には約200℃~260℃)の有機溶媒である。沸点がおよそ230℃以上(典型的にはほぼ230℃~260℃)の有機溶剤がより好ましく用いられる。このような有機溶剤としては、ブチルセロソルブアセテート,ブチルカルビトールアセテート(BCA:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール(BC:ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のエーテル系溶剤、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン,キシレン,ミネラルスピリット,ターピネオール,メンタノール,テキサノール等の有機溶媒を好適に用いることができる。特に好ましい溶剤成分として、ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられる。
【0047】
導電性組成物に含まれる各構成成分の配合割合は、電極の形成方法、典型的には印刷方法等によっても異なり得るが、概ね、従来より採用されている組成の導電性組成物に準じた配合割合をもとに構成することができる。一例として、例えば、以下の配合を目安に各構成成分の割合を決定することができる。
【0048】
すなわち、導電性組成物中に占める導電性粉末の含有割合は、ペースト全体を100質量%としたとき、およそ70質量%以上(典型的には70質量%~95質量%)とすることが適当であり、より好ましくは80質量%~90質量%程度、例えば88質量%程度とすることが好ましい。導電性粉末の含有割合を高くすることは、形状精度がよく緻密な電極のパターンを形成するという観点から好ましい。一方、この含有割合が高すぎると、ペーストの取扱性や、各種の印刷性に対する適性等が低下することがある。
【0049】
ガラスフリットは、本質的に導電性粉末の無機バインダとして要求される程度の割合で導電性組成物中に含まれていればよい。また、良好なファイヤースルー特性を得るとの観点からは、導電性粉末に対するガラスフリットの割合は、導電性粉末を100質量%としたとき、典型的には0.1質量%以上とすることができ、0.5質量%以上とするのが好ましく、1質量%以上とするのがより好ましい。なお、過剰な添加はシリコン基板を浸食したり、形成される電極の抵抗を高めたりするために好ましくない。したがって、導電性粉末に対する有鉛ガラスフリットの割合は、典型的には12質量%以下とすることができ、6質量%以下とするのが好ましく、3質量%以下とするのがより好ましい。
【0050】
シリコーン樹脂は、導電性粉末に対して極少量でも添加することで、形成される電極の電気的特性を高め、また印刷性をも高めることができる。すなわち、シリコーン樹脂の添加量は、0質量%を超えていれば良い。シリコーン樹脂添加の効果を明瞭に得るためには、シリコーン樹脂の添加量は、例えば、導電性粉末を100質量%としたとき、典型的には0.005質量%以上とすることができ、0.01質量%以上とするのが好ましく、0.05質量%以上とするのがより好ましく、0.1質量%以上とするのが特に好ましい。なお、シリコーン樹脂の過剰な添加は形成される電極の抵抗を高め得る。また、ガラスフリットおよび鉛含有添加物による基板の浸食に対して過剰に作用する(過剰に浸食を抑制する)可能性がある。そのため、シリコーン樹脂の添加量は、導電性粉末を100質量%としたとき、典型的には1.0質量%以下程度を目安に添加することができ、0.9質量%以下とするのが好ましく、0.8質量%以下とするのがより好ましく、0.6質量%以下とするのが特に好ましい。
【0051】
鉛含有化合物粉末は、導電性粉末に対して極少量でも添加することで、形成される電極の電気的特性を高めるとともに、電極の接着性をも高めることができる。すなわち、鉛含有化合物粉末の含有量は、0質量%を超えていれば良い。なお、鉛含有化合物粉末の含有量は、導電性組成物全体に占める鉛成分量として考慮することがより適切であり、例えば、ガラスフリットに含まれるPbO成分との合計量として考えることができる。より具体的には、例えば、ガラスフリットと鉛含有化合物粉末とを混合して仮想ガラスを作製したと仮定したとき、この仮想ガラスの酸化物換算組成におけるPbO量を考慮して鉛含有化合物粉末の割合を決定することが好ましい。鉛含有化合物粉末の添加効果を明瞭に得るためには、鉛含有化合物粉末の添加量は、仮想ガラスにおけるPbO量の割合が1mol%以上となる量に設定することができ、2mol%以上とするのが好ましく、5mol%以上とするのがより好ましく、10mol%以上とするのが特に好ましい。なお、鉛含有化合物粉末の添加効果は、ある程度で飽和する傾向にあり得、過剰な添加は導電性粉末の割合を低減させることに繋がるために好ましくない。そのため、鉛含有化合物粉末の添加量は、仮想ガラスにおけるPbO量の割合が、典型的には40mol%以下程度となる量を目安に添加することができ、35mol%以下とするのが好ましく、30mol%以下とするのがより好ましく、25mol%以下とするのが特に好ましい。
【0052】
そして、有機ビヒクル成分のうち有機バインダは、導電性粉末の質量を100質量%としたとき、およそ15質量%以下、典型的には1質量%~10質量%程度の割合で含有されることが好ましい。特に好ましくは、導電性粉末100質量%に対して2質量%~6質量%の割合で含有される。なお、かかる有機バインダは、例えば、有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分と、有機溶剤中に溶解していない有機バインダ成分とが含まれていても良い。有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分と、溶解していない有機バインダ成分とが含まれる場合、それらの割合に特に制限はないものの、例えば、有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分が(1割~10割)を占めるようにすることができる。
なお、上記有機ビヒクルの全体としての含有割合は、得られるペーストの性状に合わせて可変であり、おおよその目安として、導電性組成物全体を100質量%としたとき、例えば5質量%~30質量%となる量が適当であり、5質量%~20質量%であるのが好ましく、5質量%~15質量%(特に7質量%~12質量%)となる量がより好ましい。
【0053】
また、ここに開示される導電性組成物は、本発明の目的から逸脱しない範囲において、上記以外の種々の無機添加剤及び/又は有機添加剤を含ませることができる。無機添加剤の好適例として、上記以外のセラミック粉末(ZnO、Al等)、その他種々のフィラーが挙げられる。また有機添加剤の好適例として、例えば、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、粘度調整剤等の添加剤が挙げられる。
【0054】
以上の導電性組成物は、導電性粉末の他に、ガラスフリットとシリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを併用するようにしている。シリコーン樹脂は、導電性組成物の焼成後に電極中にSi成分(例えばSiO)として残留し得る。したがって、このSi成分が抵抗成分として作用すると、電極特性が低下する要因となる。しかしながら、ここに開示される導電性組成物については、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを適切に併用することで、電極特性の低下(例えば太陽電池における変換効率の低下)が見られない。このことから、鉛含有化合物粉末におけるPb成分が、Si成分によるFF低下の作用を適切に抑制しているものと考えられる。一方で、導電性組成物がシリコーン樹脂を含むことで、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等による印刷時の形状安定性が高められる。したがって、この導電性組成物は、印刷により形成される電極のための印刷用組成物(ペースト、スラリーあるいはインク等という場合もある。)として特に好適である。とりわけ、細線化および高アスペクト比化が求められる電極パターンの形成に際し、このような汎用の印刷手段を用いる場合に特に好ましく採用することができる。
【0055】
以下に、太陽電池素子に設けられる各種電極のうち、例えば受光面上に、微細なフィンガー電極を含む櫛型電極パターンをこの導電性組成物をスクリーン印刷することにより形成する例を示しながら、ここに開示される太陽電池素子について説明を行う。なお、太陽電池素子に関し、本発明を特徴付ける受光面電極の構成以外については、従来の太陽電池と同様であってよく、従来と同様の構成および従来と同様の材料の使用に関する部分については本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0056】
図1および図2は、本発明の実施により好適に製造され得る太陽電池(セル)10の一例を模式的に図示したものであり、単結晶もしくは多結晶あるいはアモルファス型のシリコン(Si)からなるウェハを半導体基板11として利用する、いわゆるシリコン型太陽電池10である。図1に示すセル10は、一般的な片面受光タイプの太陽電池10である。具体的には、この種の太陽電池10は、シリコン基板(Siウエハ)11のp-Si層(p型結晶シリコン)18の受光面11A側に、不純物ドーピングにより形成されたn-Si層16を備えることで、pn接合が形成されている。シリコン基板11の表面には、必要に応じて、CVD等により形成された酸化チタンや窒化ケイ素等から成る反射防止膜14と、Ag粉末等を主体として含む導電性組成物から形成される受光面電極12,13とを備える。なお、反射防止膜14はパッシベーション膜を兼ねてもよいし、反射防止膜14とは別にパッシベーション膜を設けてもよい。
【0057】
一方、p-Si層18の裏面11B側には、いわゆる裏面電界(Back Surface Field:BSF)効果を奏する裏面アルミニウム電極20と、このアルミニウム電極20から電流を取り出す外部接続用電極22と、を備える。アルミニウム電極20は、アルミニウム粉末を主体とする導電性組成物を印刷・焼成することによって、裏面の略全面に形成される。この焼成時に図示しないAl-Si合金層が形成され、アルミニウムがp-Si層18に拡散されてp層24が形成される。かかるp層24、即ちBSF層が形成されることによって、光生成されたキャリアが裏面電極近傍で再結合することが防止され、例えば短絡電流や開放電圧(Voc)の向上が実現される。また、外部接続用電極22は、典型的には、導電性粉末がAg粉末である導体性ペーストを印刷・焼成することにより形成される。
【0058】
図2に示すように、太陽電池10のシリコン基板11の受光面11A側には、受光面電極12,13として、数本(例えば、1本~3本程度)の相互に平行な直線状のバスバー(接続用)電極12と、該バスバー電極12と交差するように接続する相互に平行な多数の(例えば、60本~90本程度)筋状のフィンガー(集電用)電極13とが形成されている。フィンガー電極13は、受光により生成した光生成キャリア(正孔および電子)を収集するため多数本形成されている。バスバー電極12はフィンガー電極13により収集されたキャリアを集電するための接続用電極である。このような受光面電極12,13が形成された部分は、太陽電池の受光面11Aにおいて非受光部分(遮光部分)を形成する。従って、かかる受光面11A側に設けられるバスバー電極12とフィンガー電極13(特に数の多いフィンガー電極13)をできるだけファインライン化することにより、これに対応した分の非受光部分(遮光部分)が低減され、セル単位面積あたりの受光面積が拡大される。これは、極めてシンプルに太陽電池10の単位面積あたりの出力を向上させるものとなり得る。
【0059】
このような太陽電池素子10は、概略的には、次のようなプロセスを経て製造される。
即ち、適当なシリコンウェハを用意し、熱拡散法やイオンプランテーション等の一般的な技法により所定の不純物をドープして上記p-Si層18やn-Si層16を形成することにより、上記シリコン基板(半導体基板)11を作製する。このとき、n-Si層16は、シート抵抗が高め(例えば80~120Ω/□)となるように形成することができる。次いで、例えばプラズマCVD等の技法により窒化ケイ素等からなる反射防止膜14を形成する。
【0060】
その後、上記シリコン基板11の裏面11B側に、所定の導電性組成物(典型的には導電性粉末がAg粉末である導電性組成物)を用いて所定のパターンにスクリーン印刷し、乾燥することにより、焼成後に裏面側外部接続用電極22(図1参照)となる裏面側導体塗布物を形成する。次いで、裏面側の全面に、アルミニウム粉末を導体成分とする導電性組成物をスクリーン印刷法等で塗布(供給)し、乾燥することによりアルミニウム膜を形成する。
【0061】
次いで、上記シリコン基板11の表面側に形成した反射防止膜14上に、典型的には、スクリーン印刷法により、図2に示すような所定の配線パターンで本発明の導電性組成物を印刷(供給)する。印刷する線幅は特に限定しないが、本発明の導電性組成物を採用することによって、線幅が70μm程度若しくはそれ以下(好ましくは50μm~60μm程度の範囲、より好ましくは40μm~50μm程度の範囲)のフィンガー電極を備える電極パターンの塗膜(印刷体)を形成することができる。次いで、適当な温度域(典型的には100℃~200℃、例えば120℃~150℃程度)で基板を乾燥させる。好適なスクリーン印刷法の内容に関しては後述する。
【0062】
このように両面にそれぞれペースト塗布物(乾燥膜状の塗布物)が形成されたシリコン基板11を、大気雰囲気中で例えば近赤外線高速焼成炉のような焼成炉を用い、適切な焼成温度(例えばピーク温度が700℃~900℃)で焼成する。この焼成によって、受光面電極(典型的にはAg電極)12,13および裏面側外部接続用電極(典型的にはAg電極)22とともに、焼成アルミニウム電極20が形成される。また同時に、図示しないAl-Si合金層が形成されるとともにアルミニウムがp-Si層18に拡散して上述したp層(BSF層)24が形成され、太陽電池10が製造される。
【0063】
なお、図1に示した太陽電池10では、基板11としてp型結晶シリコン基板を用いた例を示したが、n型結晶シリコンからなる基板を用いることもできる。なお、ここではp型結晶シリコンを使用したため、pn接合を形成するために異なる導電型のリン(P)を拡散させたが、n型シリコン基板を使用した場合はp型の不純物(例えば、B)を拡散させればよい。さらに、p-Si層18の裏面11B側には、パッシベーション膜等を形成することなくアルミニウム電極20を形成したが、裏面11B側にもパッシベーション膜を設けるようにしてもよい。
また、上記のように同時焼成する代わりに、例えば受光面11A側の受光面電極(典型的にはAg電極)12,13を形成するための焼成と、裏面11B側のアルミニウム電極20および外部接続用電極22を形成するための焼成とを別々に実施してもよい。
【0064】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
(参考例)
[導電性組成物の調製]
以下に示す手順で、電極形成用の導電性組成物を調製した。まず、導電性粉末としては、平均粒子径が2μmで球形の銀(Ag)粉末を用いた。ガラスフリットとしては、下記に示す無鉛と有鉛のガラス粉末(平均粒子径:2μm)を用いた。シリコーン樹脂としては、重量平均分子量Mwが5万のポリジメチルシロキサンを用いた。
【0065】
[無鉛ガラスフリット]
1~25mol%Bi-25~80mol%TeO-0.1~30mol%ZnO
[有鉛ガラスフリット]
1~25mol%PbO-25~80mol%TeO-0.1~30mol%ZnO
なお、有鉛ガラスフリットは、酸化物換算組成でPbOを25mol%含み、網目形成元素としてテルル(Te)と亜鉛(Zn)を含むガラスである。また、無鉛ガラスフリットは、鉛(Pb)を含まず、代わりに鉛に近い機能を示すビスマス(Bi)を用い、網目形成元素としてテルル(Te)と亜鉛(Zn)を含むガラスである。これらのガラスフリットはいずれも軟化点が250℃以上600℃以下の範囲である。
【0066】
そしてこれらの材料を、銀粉末を100質量%としたとき、ガラスフリットを2質量%で一定とし、シリコーン樹脂を0質量%,0.1質量%,0.2質量%,0.3質量%,0.6質量%,0.9質量%,1.2質量%で変化させ、有機ビヒクルを5質量%、界面活性剤としての硬化ヒマシ油を0.80質量%、分散媒としてのテキサノールを約1質量%となるように配合した。なお、有機ビヒクルとしては、エチルセルロースとテキサノールとを質量比で15:85の割合で混合したものを用いた。そして、これらの材料を、三本ロールミルを用いてよく混練することで、各例の導電性組成物を得た。本実施形態では、各例の導電性組成物の印刷性を揃えるために、導電性組成物の粘度が180~200Pa・s(20rpm,25℃)となるよう調整した。
【0067】
[評価用太陽電池素子の作製]
上記で得られた導電性組成物を用いて受光面電極(即ち、フィンガー電極とバスバー電極からなる櫛型電極)を形成することで、例1~120の太陽電池素子を作製した。
具体的には、まず、市販の156mm四方(6インチ角)の寸法の太陽電池用p型単結晶シリコン基板(板厚180μm)を用意し、その表面(受光面)をフッ酸および硝酸の混酸を用いてエッチングすることで、ダメージ層を除去するとともに凹凸のテクスチャ構造を形成した。次いで、上記テクスチャ構造面に対してリン含有溶液を塗布し、熱処理を施すことでこのシリコン基板の受光面にシート抵抗が90±10Ω/□のn-Si層(n層)を形成した。次いで、このn-Si層上に、プラズマCVD(PECVD)法により厚みが約80nm程度の窒化ケイ素膜を製膜し、反射防止膜とした。
【0068】
次いで、シリコン基板の裏面側に、所定の銀電極形成用ペーストを用いて、後に裏面側外部接続用電極となるよう所定のパターンでスクリーン印刷し、乾燥させることにより、裏面側電極パターンを形成した。そして、裏面側の全面にアルミニウム電極形成用ペーストをスクリーン印刷し、乾燥することにより、アルミニウム膜を形成した。
【0069】
その後、上記で用意した導電性組成物を用い、スクリーン印刷法によって、上記反射防止膜上に受光面電極(Ag電極)用の電極パターンを印刷し、120℃で乾燥させた。具体的には、図2に示したように、3本の相互に平行な直線状バスバー電極と、このバスバー電極に直交するようにして相互に平行な90本のフィンガー電極とからなる電極パターンをスクリーン印刷にて形成した。スクリーン印刷には、360メッシュ(線径16μm、乳剤厚15μm)のスクリーン製版を用いた。フィンガー電極パターンは、焼成後の寸法が、線幅約45μm、膜厚15μm~25μmとなるよう調整した。また、バスバー電極は焼成後の線幅がおよそ1.5mmとなるように設定した。このように両面にそれぞれ電極パターンを印刷した基板を、大気雰囲気中、近赤外線高速焼成炉を用いて焼成温度700~800℃で焼成することで、評価用の太陽電池を作製した。
【0070】
[評価]
上記のように作製した太陽電池について、ソーラーシミュレータ(Beger社製、PSS10)を用いてI-V特性を測定し、JIS C8913に規定される「結晶系太陽電池セル出力測定方法」に基づいて開放電圧(Voc)および曲線因子(FF)を算出した。その結果を、開放電圧(Voc)については図4に、曲線因子(FF)については図5に示した。
【0071】
図4に示されるように、導電性組成物にシリコーン樹脂を添加し、その含有量を増大させることで、この導電性組成物により形成した電極を備える太陽電池の開放電圧が増大する傾向にあることがわかった。その傾向は、ガラスフリットとして、無鉛ガラスフリットと有鉛ガラスフリットの何れを用いた場合でも確認できた。しかしながら、開放電圧の増大は、有鉛ガラスフリットを用いた場合により顕著となることが確認できた。有鉛ガラスフリットを用いた導電性組成物については、シリコーン樹脂を含有しない場合(0質量%)の場合でも、無鉛ガラスフリットを用いた導電性組成物よりも高い開放電圧が得られるが、シリコーン樹脂を添加することでその効果は大きく向上されることがわかった。また、具体的なデータは示していないが、このような傾向は、ガラスフリットが有鉛か無鉛かで大きく異なるものの、有鉛ガラスフリットについては鉛以外のガラス成分の割合にさほど影響されないことも確認できた。
【0072】
一方で、図5に示されるように、曲線因子については開放電圧と異なる傾向が見られた。すなわち、ガラスフリットとして、無鉛ガラスフリットを用いた導電性組成物については、シリコーン樹脂を添加することで曲線因子が著しく低下してしまうことがわかった。この曲線因子の低下は、シリコーン樹脂を0.6質量%添加した場合で約10%減であり、実用レベルに無いことがわかる。一方で、有鉛ガラスフリットを用いた導電性組成物については、シリコーン樹脂を0.6質量%程度まで添加した場合には曲線因子に有意な影響は見られないものの、さらに多くのシリコーン樹脂を添加することで曲線因子が急激に低下することがわかった。具体的なデータは示していないが、このような傾向は、ガラスフリットが有鉛か無鉛かで大きく異なるものの、有鉛ガラスフリットおよび無鉛ガラスフリットともに、鉛以外のガラス成分の割合にほぼ影響されないことが確認できた。
【0073】
(実施形態1)
[導電性組成物の調製]
次いで、導電性組成物に鉛含有化合物粉末を加え、その他の条件は概ね上記参考例と同様にして、例1~120の電極形成用の導電性組成物を調製した。すなわち、導電性粉末としては、平均粒子径が2μmで球形の銀(Ag)粉末を用いた。ガラスフリットとしては、下記表1に示す無鉛と有鉛のそれぞれ3通りの組成系のガラス粉末(平均粒子径:2μm)を用いた。シリコーン樹脂としては、重量平均分子量Mwが5万のポリジメチルシロキサンを用いた。鉛含有化合物粉末としては、平均粒子径が2μm程度の鉛丹(Pb)、一酸化鉛(PbO)、硝酸鉛(Pb(NO)をいずれも市販のものから用意した。
【0074】
【表1】
【0075】
なお、表1において、無鉛ガラスフリットは、鉛(Pb)を含まず、網目形成元素として、(1)SiおよびB、(2)Te、(3)TeおよびWをそれぞれ含み、網目修飾元素としてZn等を含むガラスである。また、有鉛ガラスフリットは、網目形成元素として、(1)Si、(2)Te、(3)TeおよびWをそれぞれ含み、網目修飾元素としてPb等を含むガラスである。有鉛ガラスフリットについては、表2~4に示すように、酸化物換算組成におけるPbO量を5~30mol%の範囲で変更している。なおこれらのガラスフリットはいずれも軟化点が250℃以上600℃以下の範囲となるよう調整されている。
【0076】
銀粉末、シリコーン樹脂、ガラスフリットおよび鉛含有化合物粉末を下記の割合で混合し、有機バインダ成分としてのエチルセルロースを銀粉末100質量%に対して6.7質量%、界面活性剤としての硬化ヒマシ油を0.80質量%、分散媒としてのテキサノール約1質量%となるよう加え、三本ロールミルを用いてよく混練することで、例1~120の導電性組成物を調製した。導電性組成物の粘度は180~200Pa・s(20rpm,25℃)となるよう調整した。
なお、ガラスフリットは、銀粉末を100質量%としたとき、2質量%で一定とした。シリコーン樹脂は、表2~4に示すように、銀粉末100質量%に対し、0~0.9質量%の範囲で変化させた。
【0077】
鉛含有化合物粉末は、各鉛含有化合物をガラスフリットに加えて仮想ガラスを作製したと仮定したときに、その仮想ガラスの酸化物換算組成における鉛(PbO)量が表2~4に示されるように、0~30mol%となるように、その割合を調製した。なお、その時の、銀粉末100質量%あたりの鉛含有化合物粉末の添加量(質量%)を、下段の括弧内に示した。
【0078】
例えば、表2に示されるように、ガラスフリットとしてB-SiO-ZnO系ガラスフリット(無鉛)を用いた場合について説明する。このとき、鉛含有化合物粉末として鉛丹を用いた場合、仮想ガラスのPbO量が10mol%となる鉛丹量は約0.26質量%(例11)であり、PbO量が20mol%となる鉛丹量は約0.51質量%(例12~16,18)であり、PbO量が30mol%となる鉛丹量は約0.77質量%(例13)である。また、例えば、鉛含有化合物粉末として一酸化鉛を用いた場合、仮想ガラスのPbO量が20mol%となる量は約0.53質量%(例19,20)であり、硝酸鉛を用いた場合は約0.76質量%(例21,22)である。
【0079】
また、鉛含有化合物粉末は、粉末の形態で配合する場合と、ガラスフリットに担持させた状態で配合する場合の2通りで導電性組成物を用意した。鉛含有化合物粉末を担持したガラスフリットは、乾式粒子複合化装置(NOB-130)を用い、所定量の鉛含有化合物粉末とガラスフリットとを投入して、羽根回転数2500rpm、動力負荷約4.7kW、処理時間約10分間として処理することで用意した。
【0080】
[評価]
上記のように用意した導電性組成物を用い、参考例と同様にして太陽電池を作製した。そしてこの太陽電池について、ソーラーシミュレータ(Beger社製、PSS10)を用いてI-V特性を測定し、JIS C8913に規定される「結晶系太陽電池セル出力測定方法」に基づいて変換効率(Eff)を算出した。その結果を、表2~4に示した。なお、表中の「Eff」の「Reff」の欄には、各表において基準となる例1、41、81のEff実測値を1としたときの各Effの相対値を示した。「評価」の欄には、Reff値が、1未満の場合を「×」(不良)、1以上1.15未満の場合を「△」(良)、1.15以上の場合を「○」(優良)として示した。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
表2~4に示されるように、導電性組成物に、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを添加することで、変換効率が著しく増大されることが確認された。
詳細に確認すると、例1、41、81の導電性組成物は、無鉛ガラスフリットを用い、シリコーン樹脂も鉛含有化合物粉末も含まない導電性組成物である。
例2、42、82の導電性組成物は、無鉛ガラスフリットを用い、シリコーン樹脂は含むが、鉛含有化合物粉末は含まない導電性組成物である。
例3~10、43~50、83~90の導電性組成物は、無鉛ガラスフリットを用い、シリコーン樹脂を含まず、鉛含有化合物粉末を含む導電性組成物である。
例11~22、51~62、91~102の導電性組成物は、無鉛ガラスフリットを用い、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを両方含み、その配合量や鉛含有化合物粉末の種類を変化させたものである。
【0085】
例23~25、63~65、103~105の導電性組成物は、有鉛ガラスフリットを用い、シリコーン樹脂は含むが、鉛含有化合物粉末は含まない導電性組成物である。
例26~40、66~80、106~120の導電性組成物は、有鉛ガラスフリットを用い、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを両方含み、その配合量や鉛含有化合物粉末の種類を変化させたものである。
【0086】
例2、42、82の結果から、導電性組成物にシリコーン樹脂を添加することで、Reffが0.001~0.002増加し、発電効率が上昇することがわかった。
しかしながら、例23~25、63~65、103~105の結果から、シリコーン樹脂を添加する場合に、導電性組成物中のガラスフリットを、無鉛のものから有鉛のものに換えることで、Reffの増加割合は例えば0.167~0.204と大幅に大きくなることがわかった。なお、これらの例において、Reffの増加は、有鉛ガラスフリットの組成系に関わらずPbO量が20mol%(例24、64、104)のときにピークとなった。したがって、Reffの増大は、ガラスフリットの種類には依らないが、単純にPbO量に応じて増大するわけではないことがわかった。
【0087】
一方で、例3~10、43~50、83~90の結果から、導電性組成物に鉛含有化合物粉末を添加することで、Reffが0.095~0.119増加し、シリコーン樹脂を添加する場合よりも発電効率の上昇割合が大きいことがわかった。これらの例において、Reffの増加は、鉛含有化合物粉末の量はガラスフリットとして含まれたときの換算値で20mol%相当(例4、44、84)のときにピークとなった。したがって、Reffの増大は、単純に鉛含有化合物粉末の量に応じて増大するわけではないことがわかった。また、鉛含有化合物粉末をそのまま添加するか、ガラスフリットに担持させて添加するかで、発電効率に有意な変化は見られないことがわかった。
【0088】
以上の例に対し、例11~22、51~62、91~102の結果から、導電性組成物に、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とを共に添加することで、Reffが0.159~0.205増加し、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とをそれぞれ単独で添加する場合よりも発電効率の上昇割合が大きいことがわかった。このReffの増加割合は、シリコーン樹脂を単独で添加したときのReffの増加割合と、鉛含有化合物粉末を単独で添加したときのReffの増加割合とを足し合わせた値よりも極めて大きい(例えば、1.5倍以上)。したがって、この導電性組成物を用いて電極を形成するに際し、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末とが相乗的に作用して、発電効率の上昇に寄与していることが明らかである。
【0089】
これらの例において、Reffの増加は、シリコーン樹脂の添加量が0.20質量%で、鉛含有化合物粉末の量(ガラスフリットとして含まれたときの換算値)が20mol%のとき(例えば、例14、54、94)にピークとなった。なお、鉛含有化合物粉末の種類によって、発電効率にわずかに差異がみられ、強いて言えば、鉛含有化合物粉末として硝酸鉛を用いることが好ましいと言える(例22、62、102)。
なお、例26~40、66~80、106~120の結果から、ガラスフリットとして、無鉛ガラスフリットではなく、有鉛ガラスフリットを用いた場合でも、発電効率の上昇効果が得られることが確認できた。この場合、有鉛ガラスフリットに鉛成分が含まれることから、鉛含有化合物粉末の割合は減少させ得ることがわかった。
【0090】
ここで、表4に示した(3)TeO-WO系の無鉛ガラスフリットおよび有鉛ガラスフリットを含む導電性組成物を用いて作製した例82、84、91~120の太陽電池について、受光面電極のはく離試験を行い、基板に対する電極の接着強度を測定した。
【0091】
なお、接着強度(はく離強度)の評価は、図3に示したような強度測定装置300を用いて行った。具体的には、まず、評価用の太陽電池10の裏面11B側にエポキシ接着材42を塗布し、受光面11A側を上にして、ガラス基板41上に固着した。この評価用の太陽電池10の受光面電極12に、はく離用のタブ線35を片端からはんだ層30を介してはんだ付けした。そして評価用の太陽電池10をガラス基板41ごと強度測定装置300の固定台40に載置し、ガラス基板41部分を固定ねじ43および係止板44にて固定台40に固定した。次いで、図3に示すように、強度測定装置300を固定台40の底面が135°になるように傾斜させ、タブ線35に予め形成されている延長部35eを鉛直上方に引っ張ることにより(矢印45参照)、電極12/基板11界面の接着強度(N/mm)を測定した。接着強度の測定結果を表5の「ADH」欄に示した。なお、表5の「ADH」の「Radh」欄には、例42の接着強度の実測値を1(基準)としたときの、各接着強度の相対値を示した。「評価」欄には、「Radh」が0.85以上の場合を「○」、0.85未満の場合を「△」として示した。
【0092】
【表5】
【0093】
表5に示すように、シリコーン樹脂のみを添加した例82の導電性組成物から形成された電極は、基板に対して最も強い接着強度を示すことがわかった。また、鉛含有化合物粉末のみを添加した例84の導電性組成物から形成された電極は、例82よりも接着強度が若干低下することがわかった。そして、シリコーン樹脂と鉛含有化合物粉末との両方を添加した例91~102、106~120の導電性組成物から形成された電極は、さらに接着強度が低下することがわかった。Radhは、無鉛ガラスフリットを用いた例91~102については0.908~0.947であるのに対し、有鉛ガラスフリットを用いた例106~120については0.867~0.927であった。例91~102と、例106~120とでは、Eff値がおおむね同レベルであったが、有鉛ガラスフリットを用いることで接着強度は約5%程度低下する傾向にあることがわかった。しかしながら、鉛含有化合物粉末を添加せずに、有鉛ガラスフリットを用いた例103~105については、接着強度が顕著に低下してしまうことがわかった。以上のことから、例えば、例103~105のEff値(17.23~17.23)を実現するための導電性組成物としては、シリコーン樹脂と鉛成分を含み、この鉛成分としては有鉛ガラスフリットを用いるのではなく、鉛含有化合物粉末を含む方がよいことがわかる。
【0094】
(実施形態2)
[導電性組成物の調製]
次いで、2種類の無鉛ガラスフリット(A),(B)を用意し、下記表6に示すように、無鉛ガラスフリット(A)または(B)と、鉛含有化合物粉末、シリコーン樹脂の配合量を変化させ、その他の条件は上記実施形態1に準じることで、8通りの電極形成用の導電性組成物を調製した。すなわち、(A)無鉛ガラスフリットおよび(B)有鉛ガラスフリットは、銀粉末100質量%に対して、0.5質量%~10質量%となるよう変化させた。また、鉛含有化合物粉末としては鉛丹(Pb)を用い、この鉛含有化合物がガラスに含まれたとしたときのガラスフリットの酸化物換算組成におけるPbO濃度が20mol%となる量で配合した。なお、表6のPbの配合量の欄の括弧内には、実際に加えたPbの銀粉末100質量%に対する割合(質量%)を示した。
【0095】
【表6】
【0096】
上記のように用意した導電性組成物を用い、参考例と同様にして太陽電池を作製した。そしてこの太陽電池について、ソーラーシミュレータ(Beger社製、PSS10)を用いてI-V特性を測定し、JIS C8913に規定される「結晶系太陽電池セル出力測定方法」に基づいて変換効率(Eff)を算出した。その結果を、表6に併せて示した。なお、表中の「Reff」の欄には、例121および125のEffの実測値を1としたときの、各Effの相対値を示した。「評価」の欄には、Reff値が、1未満の場合を「×」(不良)、1以上1.15未満の場合を「△」(良)、1.15以上の場合を「○」(優良)として示した。本実施形態では、「×」の結果はなかった。
【0097】
[評価]
表6に示されるように、導電性組成物中のガラスフリットの配合量を0.5質量%~10質量%と変化させた場合であっても、導電性組成物が鉛含有化合物粉末とシリコーン樹脂とを両方含むことで、変換効率を大きく改善できることがわかった。また、変換効率の改善は、導電性組成物が鉛含有化合物粉末およびシリコーン樹脂のいずれか一方のみしか含まない場合と比較しても、大幅に改善されることがわかった。なお、具体的には示していないが、このような傾向は、有鉛ガラスフリットについても同様に確認できた。
【0098】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 太陽電池素子(セル)
11 半導体基板(シリコン基板)
11A 受光面
11B 裏面
12 バスバー電極(受光面電極)
13 フィンガー電極(受光面電極)
14 反射防止膜
16 n-Si層
18 p-Si層
20 裏面アルミニウム電極
22 裏面側外部接続用電極
24 p
図1
図2
図3
図4
図5