(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、当該磁気ディスク用アルミニウム合金板を用いた磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20220221BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20220221BHJP
C23C 18/18 20060101ALI20220221BHJP
C23C 18/36 20060101ALI20220221BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20220221BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220221BHJP
C23C 28/02 20060101ALN20220221BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
C23C18/18
C23C18/36
G11B5/73
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630Z
C22F1/00 661D
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 682
C22F1/00 630A
C23C28/02
(21)【出願番号】P 2018057653
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】北脇高太郎
(72)【発明者】
【氏名】米光誠
(72)【発明者】
【氏名】太田裕己
(72)【発明者】
【氏名】坂本遼
(72)【発明者】
【氏名】畠山英之
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-005968(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025769(WO,A1)
【文献】特開2017-031507(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190277(WO,A1)
【文献】特開平11-315338(JP,A)
【文献】特開平11-181558(JP,A)
【文献】特開2005-344198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/04- 1/057
C23C 18/18
C23C 18/36
G11B 5/73
C22F 1/00
C23C 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:3.0~8.0mass%、Cu:0.002~0.150mass%、Zn:0.05~0.60mass%、Fe:0.001~0.060mass%、Si:0.001~0.060mass%、Be:0.00001~0.00200mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、表面に存在するFe摩耗粉量が10.0mg/m
2以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、Cr:0.010~0.200mass%及びMn:0.010~0.500mass%の1種又は2種を更に含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板。
【請求項3】
前記表面に存在するFe摩耗粉量が5.0mg/m
2以下である、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板。
【請求項4】
前記表面に存在するFe摩耗粉量が1.0mg/m
2以下である、請求項3に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板からなるアルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層とその上の磁性体層が設けられていることを特徴とする磁気ディスク。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載される磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法であって、前記アルミニウム合金を用いて鋳塊を鋳造する鋳造工程と、鋳塊を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を洗浄する洗浄工程とを含み、当該洗浄工程が、40℃以上の温度の洗浄水で冷間圧延板を水洗する水洗段階と、水洗した圧延板を薬品処理する化学的処理段階とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項7】
前記水洗段階で用いる洗浄水の比抵抗が0.010MΩcm以上である、請求項6に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項8】
前記水洗段階における洗浄水の吐出量が50~2000L/min/m
2である、請求項6又は7に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項9】
前記化学的処理段階が、40℃以下の温度で0.10~8.00%の硝酸水溶液又は塩酸水溶液で圧延板を処理する、請求項6~8のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項10】
前記鋳造工程と冷間圧延工程の間に、鋳造した鋳塊を480~560℃で1時間以上加熱処理する均質化熱処理工程と、均質化熱処理した鋳塊を300~500℃の開始温度と260~400℃の終了温度で熱間圧延する熱間圧延工程を更に含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項11】
前記冷間圧延の前又は途中において、鋳塊又は圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程であって、300~450℃で0.1~10時間のバッチ焼鈍処理工程、又は、400~500℃で0~60秒の連続焼鈍処理工程を更に含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき表面の平滑性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、当該磁気ディスク用アルミニウム合金板を用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられるアルミニウム合金製磁気ディスクは、良好なめっき性を有するとともに機械的特性や加工性が優れるアルミニウム合金板を用いて製造される。例えば、JIS5086(Mg:3.5~4.5mass%、Fe:0.50mass%以下、Si:0.40mass%以下、Mn:0.20~0.70mass%、Cr:0.05~0.25mass%、Cu:0.10mass%以下、Ti:0.15%mass以下及びZn:0.25mass%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる)のアルミニウム合金板から製造されている。更に、アルミニウム合金製磁気ディスクは、めっき前処理工程における金属間化合物の抜け落ちによるピット不具合の改善を目的にJIS5086中の不純物であるFe、Si等の含有量を制限しマトリックス中の金属間化合物を小さくしたアルミニウム合金板、或いは、めっき性改善を目的にJIS5086中のCuやZnを意識的に添加したアルミニウム合金板等から製造されている。
【0003】
一般的な磁気ディスクの製造は、まず円環状アルミニウム合金板を作製し、該アルミニウム合金板にめっきを施し、次いで該アルミニウム合金板の表面に磁性体を付着させることにより行われている。
【0004】
例えば、前記JIS5086合金を用いたアルミニウム合金製磁気ディスクは、以下の製造工程により製造される。まず、所望の化学成分としたアルミニウム合金素材を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚さを有する圧延材を作製する。この圧延材には、必要に応じて冷間圧延の途中等に焼鈍が施される。次に、この圧延材を円環状に打抜き、前記製造工程により生じた歪み等を除去するため、円環状のアルミニウム合金板を積層し、両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行うことにより、ディスクブランクが作製される。
【0005】
このようにして作製されたディスクブランクに、前処理として切削加工、研削加工を施した後、加工工程により生じた歪み等を除去するために、ディスクブランクを加熱することによりアルミニウム合金板が作製される。次に、めっき前処理として脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、更に下地処理として硬質非磁性金属であるNi-P無電解めっきを施す。最後に、Ni-P無電解めっき表面にポリッシングを施した後、磁性体をスパッタリングしてアルミニウム合金製磁気ディスクが製造される。
【0006】
ところで、近年になって、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められている。更なる磁気ディスクの記録密度の向上には、磁気ディスクに対する磁気ヘッドの浮上量をより少なくし、かつ、両者の距離間をより安定させる必要がある。そのためには、磁気ディスク用アルミニウム合金板のNi-Pめっき表面に高い平滑性が要求される。
【0007】
また、磁気ディスクの高密度化により、1ビット当たりの磁気領域が益々微小化されるため、磁気ディスクのめっき表面に微細なピット(孔)があっても、データ読み取り時にエラーが発生する原因となる。このため磁気ディスクのめっき表面にはピットが少ない高い平滑性が求められる。
【0008】
このような実情から、近年ではめっき表面の優れた平滑性を備える磁気ディスク用アルミニウム合金板が強く望まれており、その実現が検討されている。例えば、特許文献1には、アルミニウム合金組成の範囲を限定し、平滑性を損なう原因となるAl-Fe系、Mg-Si系の金属間化合物のサイズを最適に制御した磁気ディスク用アルミニウム合金板が提案されている。また、特許文献2には、焼鈍条件を規定してAl-Mg-Zn系金属間化合物の個数を制御することにより、Ni-Pめっき表面の平滑性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-275568号公報
【文献】特開2004-143559号公報
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に示す金属間化合物(Al-Fe系、Mg-Si系、Al-Mg-Zn系)のサイズや個数を限定するだけでは、Ni-Pめっき表面に発生する最長径1μm以上のサイズを有するピット(以下、「従来ピット」と記す。なお、ジンケート皮膜やめっきの密着性不良で発生するピットも従来ピットと記す。)の発生を防ぐことはできるが、最長径0.5μm以上1μm未満のサイズを有する微細なピット(以下、「微細ピット」と記す)の発生を防ぐことはできず、目標とするNi-Pめっき表面の高平滑性は得られていないのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、めっき表面の平滑性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金板、ならびに、これを用いた磁気ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は請求項1において、Mg:3.0~8.0mass%、Cu:0.002~0.150mass%、Zn:0.05~0.60mass%、Fe:0.001~0.060mass%、Si:0.001~0.060mass%、Be:0.00001~0.00200mass%を含有し、Cr:0.200mass%以下、Mn:0.500mass%以下に規制し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、表面に存在するFe摩耗粉量が10.0mg/m2以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板。ことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板とした。
【0013】
本発明は請求項2では請求項1において、前記アルミニウム合金が、Cr:0.010~0.200mass%及びMn:0.010~0.500mass%の1種又は2種を更に含有するものとした。
【0014】
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記表面に存在するFe摩耗粉量が5.0mg/m2以下であるものとした。
【0015】
本発明は請求項4では請求項3において、前記表面に存在するFe摩耗粉量が1.0mg/m2以下であるものとした。
【0016】
本発明は請求項5において、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板からなるアルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層とその上の磁性体層が設けられていることを特徴とする磁気ディスクとした。
【0017】
本発明は請求項6において、請求項1~4のいずれか一項に記載される磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法であって、前記アルミニウム合金を用いて鋳塊を鋳造する鋳造工程と、鋳塊を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を洗浄する洗浄工程とを含み、当該洗浄工程が、40℃以上の温度の洗浄水で冷間圧延板を水洗する水洗段階と、水洗した圧延板を薬品処理する化学的処理段階とを含むことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法とした。
【0018】
本発明は請求項7では請求項6において、前記水洗段階で用いる洗浄水の比抵抗が0.010MΩcm以上であるものとした。
【0019】
本発明は請求項8では請求項6又は7において、前記水洗段階における洗浄水の吐出量が50~2000L/min/m2であるものとした。
【0020】
本発明は請求項9では請求項6~8のいずれか一項において、前記化学的処理段階が、40℃以下の温度で0.10~8.00%の硝酸水溶液又は塩酸水溶液で圧延板を処理するものとした。
【0021】
本発明は請求項10では請求項6~9のいずれか一項において、前記鋳造工程と冷間圧延工程の間に、鋳造した鋳塊を480~560℃で1時間以上加熱処理する均質化熱処理工程と、均質化熱処理した鋳塊を300~500℃の開始温度と260~400℃の終了温度で熱間圧延する熱間圧延工程を更に含むものとした。
【0022】
本発明は請求項11では請求項6~10のいずれか一項において、前記冷間圧延の前又は途中において、鋳塊又は圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程であって、300~450℃で0.1~10時間のバッチ焼鈍処理工程、又は、400~500℃で0~60秒の連続焼鈍処理工程を更に含むものとした。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、めっき表面の平滑性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、当該磁気ディスク用アルミニウム合金板を用いた磁気ディスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板及び磁気ディスクの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、アルミニウム合金板のめっき性及びフラッタリング特性と、アルミニウム合金板の素材との関係に着目し、これら特性と板(磁気ディスク材料)の特性との関係について鋭意調査研究した。その結果、本発明者らは、磁気ディスク用アルミニウム合金板の表面に存在するFe摩耗粉が、ピットによるめっき表面の平滑性に大きな影響を与えることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0026】
A.磁気ディスク用アルミニウム合金板
以下に、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板について詳細に説明する。まず、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板は、アルミニウム合金組成、ならびに、表面に存在するFe摩耗粉量によって規定される。
【0027】
なお、以下において、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板を、「本発明に係るアルミニウム合金板」又は、単に「アルミニウム合金板」と略記する場合がある。
【0028】
1.アルミニウム合金組成
まず、発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板を構成するアルミニウム合金組成について説明する。
【0029】
マグネシウム:
Mgは、主としてアルミニウム合金板の強度を向上させる効果を有する元素である。また、ジンケート処理時のジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。しかしながら、Mg含有量が3.0mass%(以下、単に「%」と略記する)未満では、強度が不十分であり、更に、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下する。一方、Mg含有量が8.0%を超えると、粗大なAl-Mg系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Mg含有量は3.0~8.0%と規定する。なお、Mg含有量は、強度と製造性との兼合いから、3.5~7.0%であるのが好ましい。
【0030】
銅:
Cuは、ジンケート処理時においてAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させる効果を有する元素である。このような効果により、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。しかしながら、Cu含有量が0.002%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、0.150%を超えると、粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させる。更に、Cu含有量が0.150%を超える場合には、材料自体の耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下する。従って、Cu含有量は0.002~0.150%と規定する。なお、Cu含有量は、0.002~0.100%であることが好ましい。
【0031】
亜鉛:
Znは、Cuと同様に、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。しかしながら、Zn含有量が0.05%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、0.60%を超えると、粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させる。更に、Zn含有量が0.60%を超える場合には、材料自体の加工性や耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下する。従って、Zn含有量は0.05~0.60%と規定する。なお、Zn含有量は、0.05~0.50%であることが好ましい。
【0032】
鉄:
Feは、アルミニウム母材中には殆ど固溶せず、Al-Fe系金属間化合物としてアルミニウム地金中に存在する。このAl-Fe系金属間化合物は、研削面において欠陥となるため、アルミニウム合金中にFeが含有されることは好ましくない。しかしながら、Feを0.001%未満まで取り除くのは、アルミニウム地金を高純度に精錬することになりコスト高を招く。一方、Fe含有量が0.060%を超えると、粗大なAl-Fe系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、この粗大なAl-Fe系金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Feの含有量は0.001~0.060%と規定する。なお、Fe含有量は、0.001~0.025%であるのが好ましい。
【0033】
シリコン:
Siは、本発明のアルミニウム合金板の必須元素であるMgと結合し、研削面において欠陥となるMg-Si系金属間化合物を生成するため、アルミニウム合金中にSiが含有されることは好ましくない。しかしながら、Siはアルミニウム地金に不可避的不純物として存在する。アルミニウム合金を製造する際の溶湯調整工程では、純度の高い、例えば純度99.9%以上のアルミニウム地金を用いるが、このような地金にもSiが含有されている。このため、Si含有量が0.001%未満になるようにアルミニウム地金からSi成分を取り除くのは、アルミニウム地金を高純度に精錬することとなりコスト高を招く。一方、Si含有量が0.060%を超えると、粗大なMg-Si系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、この粗大なMg-Si系金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Si含有量は0.001~0.060%と規定する。なお、Si含有量は、0.001~0.025%であるのが好ましい。
【0034】
ベリリウム:
Mgを含有するアルミニウム合金は、一般にその鋳造時において、Mgの溶湯酸化を抑制するため微量のBeを添加する。Be含有量が0.00001%未満では、材料自体の耐食性が低下するため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっき処理後にピットが発生し平滑性が低下する。一方、Be含有量が0.00200%を超えると、研削後の加熱時に厚いAl-Mg-Be系酸化物が形成されるため、めっき処理時にピットが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Be含有量は、0.00001~0.00200%と規定する。なお、Be含有量は、0.00010~0.00025%であるのが好ましい。
【0035】
本発明のアルミニウム合金板は、上述の通り、Mg、Cu、Zn、Fe、Si、Beを必須の含有成分とするが、必要に応じて選択的添加元素として、Cr:0.010~0.200%及びMn:0.010~0.500%の少なくともいずれか一方を含有させることができる。
【0036】
クロム:
Crは、鋳造時に微細な金属間化合物を生成するが、一部はマトリックスに固溶して強度向上に寄与する元素である。また、切削性と研削性を高め、更に再結晶組織を微細にしてめっき層の密着性を向上させ、めっきピットの発生を顕著に抑制する効果を有する。かかる効果を発揮させるには、Cr含有量を0.010%以上にすることが必要である。しかしながら、Cr含有量が0.200%を超えると、鋳造時に過剰分が晶出すると同時に粗大なAl-Cr系金属間化合物が生成し易くなって、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、この金属間化合物が脱落してめっきピットの原因となる大きな窪みを発生する傾向がある。また、Cr含有量が多くなると、Crの原料から混入するCr酸化物の影響が無視できなくなる。Cr酸化物が材料中に多量に存在すると、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、Cr酸化物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させる。従って、Cr含有量は、0.010~0.200%と規定する。Cr含有量は、0.010~0.100%であるのが好ましい。
【0037】
マンガン:
Mnは、鋳造時に微細な金属間化合物を生成するが、一部はマトリックスに固溶して強度向上に寄与する元素である。また、切削性と研削性を高め、更に再結晶組織を微細にしてめっき層の密着性を向上させめっきピットの発生をより一層抑制する効果を有する。かかる効果を発揮させるには、Mn含有量を0.010%以上にすることが必要である。しかしながら、Mn含有量が0.500%を超えると、鋳造時に過剰分が晶出すると同時に粗大なAl-Mn系金属間化合物が生成し易くなって、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削の加工時において、この金属間化合物が脱落してめっきピットの原因となる大きな窪みを発生する傾向がある。従って、Mn含有量は、0.010~0.500%と規定する。なお、Mn含有量は、0.010~0.200%であるのが好ましい。
【0038】
その他の元素:
また、本発明に係るアルミニウム合金板に用いるアルミニウム合金の残部は、アルミニウムと不可避的不純物とからなる。ここで、不可避的不純物(例えばGa等)は、各々が0.1%以下で、かつ、合計で0.3%以下であれば、本発明で得られるアルミニウム合金板としての特性を損なうことはない。
【0039】
2.アルミニウム合金板の表面に存在するFe摩耗粉量
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板におけるFe摩耗粉量について説明する。ここで、上記Fe摩耗粉とは、圧延の際に鉄ロールとアルミニウム合金板が摩耗することに伴い発生するFeを主成分とする摩耗粉のことをいう。
【0040】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板では、アルミニウム合金板の表面に存在するFe摩耗粉量を10.0mg/m2以下に規定する。これによって、めっき表面のピットが低減し、めっき表面の平滑性を向上させることができる。
【0041】
Fe摩耗粉については、めっき前処理のエッチング時等においてこのFe摩耗粉上でカソード反応が起こり、このFe摩耗粉の周囲ではアノード反応(Alマトリックスの溶解)が起こると考えられる。Fe摩耗粉量が10.0mg/m2を超える場合、アノード・カソード反応が多数発生し、アルミニウム合金板表面に窪みが多数発生し、めっき表面にピットが生成すると考えられる。一方、Fe摩耗粉量が10.0mg/m2以下の場合、窪みの発生が少なくなり、めっき表面のピットが低減すると考えられる。そのため、Fe摩耗粉量は10.0mg/m2以下と規定する。また、Fe摩耗粉量は、5.0mg/m2以下が好ましく、1.0mg/m2以下がより好ましい。Fe摩耗粉量の下限値としては、0mg/m2とするのが最も好ましいが、鉄ロールを用い圧延している以上、0mg/m2とするのは困難である。
【0042】
なお、アルミニウム合金板の表面に存在するFe摩耗粉は、円板の打抜き工程以降で一部除去されるが、加圧焼鈍工程や切削・研削の工程において一部がアルミニウム合金板内部に押し込まれ、めっき前処理まで残存するため、打抜き工程までのところで、Fe摩耗粉量を10.0mg/m2以下とする。
【0043】
B.磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法
以下に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造工程の各工程及びプロセス条件を詳細に説明する。
【0044】
アルミニウム合金板を用いた磁気ディスクの製造方法を、
図1のフローに従って説明する。ここで、アルミニウム合金成分の調製(ステップS101)~洗浄(ステップS106)は、アルミニウム合金板を製造する工程であり、ディスクブランクの作製(ステップS107)~磁性体の付着(ステップS112)は、製造されたアルミニウム合金板を磁気ディスクとする工程である。
【0045】
最初に、アルミニウム合金板を製造する工程について説明する。まず、上述の成分組成を有するアルミニウム合金素材の溶湯を、常法に従って加熱・溶融することによって調製する(ステップS101)。次に、調製されたアルミニウム合金素材の溶湯から半連続鋳造(DC鋳造)法や連続鋳造(CC鋳造)法等によりアルミニウム合金を鋳造する(ステップS102)。ここで、DC鋳造法とCC鋳造法は、以下の通りである。
【0046】
DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、ならびに、インゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。
【0047】
CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0048】
DC鋳造法とCC鋳造法の大きな相違点は、鋳造時の冷却速度にある。冷却速度が大きいCC鋳造法では、第二相粒子のサイズがDC鋳造に比べ小さいのが特徴である。
【0049】
次に、鋳造されたアルミニウム合金の鋳塊に、必要に応じて均質化熱処理工程を設けてもよい(ステップS103)。均質化熱処理を行なう場合には、480~560℃で1時間以上、好ましくは500~550℃で2時間以上の条件で行う。処理温度が480℃未満の場合や、処理時間が1時間未満の場合には、十分な均質化効果が得られない虞がある。なお、560℃を超える処理温度では、材料が溶解する虞がある。なお、均質化処理時間の上限は、特に限定されるものではないが、本発明では50時間とするのが好ましい。
50時間を超えても均質化処理効果が飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られないからである。
【0050】
次に、鋳造したアルミニウム合金の鋳塊、或いは、均質化熱処理を実施した場合には均質化熱処理したアルミニウム合金の鋳塊に、必要に応じて熱間圧延を実施してアルミニウム合金板材とてもよい(ステップS104)。熱間圧延の条件は特に限定されるものではないが、熱間圧延の開始温度を300~500℃、好ましくは320~480℃とする。また、熱間圧延の終了温度を、260~400℃、好ましくは280~380℃とする。熱間圧延の開始温度が300℃未満では熱間圧延加工性が確保できず、500℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。熱間圧延の終了温度が260℃未満では熱間圧延加工性が確保できず、400℃を超えると結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。なお、熱間圧延では、通常、鋳塊を熱間圧延開始温度で0.5~10.0時間加熱保持後に熱間圧延を行なう。均質化処理を実施する場合には、前記加熱保持を均質化処理で代替してもよい。
【0051】
次に、熱間圧延を行なった熱間圧延板、或いは、熱間圧延を行なわない場合には鋳塊を冷間圧延することによって、厚さが0.4~2.0mm、好ましくは0.6~2.0mmのアルミニウム合金板材とする(ステップS105)。すなわち、熱間圧延板又は鋳塊を、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げるものである。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めればよく、全圧延率を20~90%とするのが好ましく、30~80%とするのがより好ましい。この全圧延率が20%未満では加圧平坦化焼鈍で結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。一方、この全圧延率が90%を超えると、製造時間が長くなり生産性の低下を招く。
【0052】
良好な冷間圧延加工性を確保するために、冷間圧延の前又は冷間圧延の途中において、焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の焼鈍では、300~450℃で0.1~10時間の条件で行うのが好ましく、300~380℃で1~5時間の条件で行うのがより好ましい。焼鈍温度が300℃未満の場合や焼鈍時間が0.1時間未満の場合には、十分な焼鈍効果が得られないことがある。また、焼鈍温度が450℃を超える場合には、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合があり、焼鈍時間が10時間を超える場合は生産性の低下を招く。
【0053】
一方、連続式の焼鈍では、400~500℃で0~60秒間保持の条件で行うのが好ましく、450~500℃で0~30秒間保持の条件で行うのがより好ましい。焼鈍温度が400℃未満の場合には、十分な焼鈍効果が得られないことがある。また、焼鈍温度が500℃を超える場合には、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合があり、焼鈍時間が60秒を超える場合には、結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下する場合がある。なお、保持時間が0秒とは、所望の焼鈍温度に達した後、直ちに冷却することを意味する。
【0054】
次に、アルミニウム合金板材を洗浄する(ステップS106)。洗浄工程は、40℃以上の温度の洗浄水で冷間圧延板を水洗する水洗段階と、水洗した圧延板を薬品処理する化学的処理段階とを含む。このような洗浄工程を設けることによって、アルミニウム合金板の表面に存在するFe摩耗粉量を10.0mg/m2以下とすることができ、その結果、めっき表面の平滑性の向上を可能とする。
【0055】
水洗段階で用いる洗浄水の温度が40℃未満の場合は、Fe摩耗粉の除去が不十分となり、めっき表面の平滑性が低下する。そのため、洗浄水の温度は40℃以上とする。また、洗浄水の温度は50℃以上が好ましい。洗浄水の温度の上限値は特に規定するものではないが、温度が高過ぎるとアルミニウム合金板材の表面性状が大きく変化するため、本発明では上限値を90℃とするのが好ましい。
【0056】
なお、洗浄水の比抵抗は、0.010MΩcm以上であることが好ましく、0.050MΩcm以上であることがより好ましい。洗浄水の比抵抗が0.010MΩcm未満の場合は、水に含有される不純物が多いためFe摩耗粉の除去能力が低下し、めっき表面の十分な平滑性が得られない虞がある。洗浄水の比抵抗の上限値は特に規定するものではないが、比抵抗を高くするには処理のためのコストが増加するため、本発明では上限値を10MΩcmとする。
【0057】
また、洗浄水の吐出量は50~2000L/min/m2であることが好ましく、100~1500L/min/m2であることがより好ましい。洗浄水の吐出量が50L/min/m2未満の場合は、Fe摩耗粉の除去能力が低く、めっき表面の平滑性を低下させる虞がある。一方、洗浄水の吐出量が2000L/min/m2を超える場合は、アノード反応が活発になり、Fe摩耗粉が除去しきれずアルミニウム合金板材の表面に大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。
【0058】
水洗段階後に化学的処理段階を実施しない場合には、水洗段階時に再付着したFe摩耗粉の影響によりめっき表面の平滑性が低下するため、水洗段階後に化学的処理段階を実施する。化学的処理段階では、水洗段階時に再付着したFe摩耗粉の除去のために行われる。なお、水洗段階を実施することなく化学的処理段階を実施すると、Fe摩耗粉がアルミニウム合金板材の表面に多数存在するため、アノード反応が活発になり、Fe摩耗粉が除去しきれずアルミニウム合金板材の表面に大きな窪みが発生して、めっき表面の平滑性が低下する。そのため、水洗段階後に化学的処理段階を実施する必要がある。
【0059】
化学的処理段階では、硝酸水溶液又は塩酸水溶液を用いて圧延板を処理することが好ましい。化学的処理段階で用いる硝酸水溶液又は塩酸水溶液の濃度が0.10%未満の場合には、水洗段階時に再付着したFe摩耗粉の除去が不十分なため、めっき表面の平滑性が低下する虞がある。一方、硝酸水溶液又は塩酸水溶液の濃度が8.00%を超える場合には、アノード反応が活発になり、Fe摩耗粉の除去能力が低くなり、めっき表面の平滑性が低下する虞がある。そのため、0.10~8.00%の硝酸水溶液又は塩酸水溶液で処理するのが好ましい。硝酸水溶液又は塩酸水溶液の濃度は、0.5~7.0%であるのがより好ましい。
【0060】
化学的処理段階で用いる硝酸水溶液又は塩酸水溶液の温度は、40℃以下であるのが好ましく、30℃以下であるのがより好ましい。この温度が40℃を超える場合には、アノード反応が活発になり、Fe摩耗粉の除去能力が低くなり、めっき表面の平滑性が低下する虞がある。なお、この温度の下限値は、製造上の支障がなければ特に限定するものではないが、0℃未満では、硝酸水溶液や塩酸水溶液の洗浄能が低下する。従って、本発明では、0℃を下限値とするのが好ましい。
【0061】
洗浄工程における水洗段階と化学的処理段階の処理時間はそれぞれ、5秒以上とするのが好ましく、20秒以上とするのがより好ましい。各々の処理時間が5秒未満の場合には、Fe摩耗粉の除去が不十分となる虞がある。なお、各々の処理時間の上限は特に限定するものではないが、長過ぎると製造コストが増加するため、本発明では処理時間の上限を1000秒とする。
【0062】
次に、上述のようにして製造されたアルミニウム合金板を磁気ディスクに製造する工程について説明する。アルミニウム合金板を磁気ディスク用として加工するには、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作製する(ステップS107)。次に、ディスクブランクを大気中にて、例えば100~480℃で30分以上の加圧焼鈍を行い加圧平坦化したブランクを作製する(ステップS108)。次に、ブランクに切削加工、研削加工、ならびに、好ましくは、250~400℃の温度で5~15分の歪取り加熱処理をこの順序で施して、アルミニウム合金板を作製する(ステップS109)。次に、アルミニウム合金板表面に、めっき前処理として、脱脂、酸エッチング処理、デスマット処理、ジンケート処理(Zn置換処理)を施す(ステップS110)。
【0063】
脱脂処理段階は市販のAD-68F(上村工業製)脱脂液等を用い、温度40~70℃、処理時間3~10分、濃度200~800mL/Lの条件で脱脂を行うことが好ましい。酸エッチング処理段階は、市販のAD-107F(上村工業製)エッチング液等を用い、温度50~75℃、処理時間0.5~5分、濃度20~100mL/Lの条件で酸エッチングを行うことが好ましい。酸エッチング処理の後、通常のデスマット処理として、HNO3を用い、温度15~40℃、処理時間10~120秒、濃度:10~60%の条件でデスマット処理を行うことが好ましい。
【0064】
1stジンケート処理段階は市販のAD-301F-3X(上村工業製)のジンケート処理液等を用い、温度10~35℃、処理時間0.1~5分、濃度100~500mL/Lの条件で行うことが好ましい。1stジンケート処理段階の後、HNO3を用い、温度15~40℃、処理時間10~120秒、濃度:10~60%の条件でZn剥離処理を行うことが好ましい。その後、1stジンケート処理と同じ条件で2ndジンケート処理段階を実施する。
【0065】
2ndジンケート処理したアルミニウム合金板材表面に、下地めっき処理として無電解でのNi-Pめっき処理工程が施される(S111)。無電解でのNi-Pめっき処理は、市販のニムデンHDX(上村工業製)めっき液等を用い、温度80~95℃、処理時間30~180分、Ni濃度3~10g/Lの条件でめっき処理を行うことが好ましい。このような無電解でのNi-Pめっき処理工程によって、下地めっき処理した磁気ディスク用のアルミニウム合金板が得られる。
【0066】
C.磁気ディスク
最後に、下地めっき処理した磁気ディスク用のアルミニウム合金基盤の表面を研磨により平滑し、表面に下地層、磁性層、保護膜及び潤滑層等からなる磁性媒体をスパッタリングにより付着させ磁気ディスクとする(ステップS112)。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
磁気ディスク用アルミニウム合金板の実施例について説明する。表1に示す成分組成の各合金素材を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した(ステップS101)。表1における「-」は、測定限界値未満であることを示す。
【0069】
【0070】
次に、No.A5及びAC13以外は、アルミニウム合金溶湯をDC法により鋳造し、厚さ400mmの鋳塊を作製してその両面を15mm面削した(ステップS102)。No.A5及びAC13は、アルミニウム合金溶湯をCC法により鋳造し、鋳塊を作製した。次に、面削したDC鋳塊に520℃で10時間の均質化熱処理を施した(ステップS103)。次に、均質化処理を施したDC鋳塊を熱間圧延開始温度480℃、熱間圧延終了温度300℃の条件で熱間圧延を行ない、熱間圧延板とした(ステップS104)。CC鋳塊の板厚と熱間圧延板の板厚は3mmとした。
【0071】
熱間圧延後に、No.A1の合金は360℃で2時間の条件で焼鈍(バッチ式)処理を施した。以上のようにして作製した圧延板又は鋳塊は、冷間圧延により最終板厚の0.8mmまで圧延し、表2に示す条件で洗浄工程を実施し、アルミニウム合金板とした(ステップS105)。このアルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状のものを打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS107)。
【0072】
【0073】
このようにして作製したディスクブランクに、0.5MPaの圧力下において250℃で3時間の加圧平坦化処理を施した(ステップS108)。次いで、加圧平坦化処理したディスクブランクに端面加工を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面70μm研削)を行ってアルミニウム合金板を作製した(ステップS109)。その後、AD-68F(商品名、上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD-107F(商品名、上村工業製)により65℃で1分の酸エッチングを行い、さらに30%HNO3水溶液(室温)で20秒間デスマットした(ステップS110)。
【0074】
このようにして表面状態を整えた後に、ディスクブランクをAD-301F-3X(商品名、上村工業製)の20℃のジンケート処理液に0.5分間浸漬して表面にジンケート処理を施した(ステップS110)。なお、ジンケート処理は合計2回行い、ジンケート処理の間に室温の30%HNO3水溶液に20秒間浸漬して表面を剥離処理した。ジンケート処理した表面に無電解Ni-Pめっき処理液(ニムデンHDX(商品名、上村工業製))を用いてNi-Pを12μm厚さに無電解めっきした後、羽布により仕上げ研磨(研磨量1.9μm))を行って磁気ディスク用のアルミニウム合金板とした(ステップS111)。
【0075】
洗浄工程(ステップS106)後のアルミニウム合金板、ならびに、めっき処理研磨(ステップS111)工程後のアルミニウム合金板について以下の評価を行った。
【0076】
〔Fe摩耗粉量〕
洗浄工程(ステップS106)後のアルミニウム合金板の表面をマスキングした後、200mm角に切断し、側面をマスキング後、表面のマスキングを剥がし、ヘキサンが入ったビーカーにアルミニウム合金板を入れて、10分間超音波洗浄して磨耗粉を脱着した。次いで、1μmのメンブレンフィルターを用い、ヘキサンをろ過し、ろ過後にフィルターを取り出した。このフィルターをビーカーに入れ、混酸(塩酸:硝酸:超純水=2:1:3)10mlを加えて、磨耗粉が混酸中に溶解するまで加熱・煮沸を行った。磨耗粉の溶解の基準は、加熱・煮沸中に目視で観察を行い、摩耗粉が見えなくなったところを溶解と判断した。磨耗粉を溶解させた混酸を、1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液中のFe量をICPで分析し、単位面積当たりのFe摩耗粉量として算出した。
【0077】
〔下地処理した磁気ディスク用アルミニウム合金板の平滑性〕
めっき処理研磨(ステップS111)工程後のアルミニウム合金板の表面における微細ピットの個数を求めた。SEMにより2000倍の倍率で観察視野を1mm2とし、最長径2.0μm以上6.0μm未満の大きさのピットの個数を計測し、単位面積当たりの個数(個数密度:個/mm2)を求めた。
【0078】
ここで、ピットの最長径とは、SEMで観測されるピットの平面画像において、まず、輪郭線上における一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を計測し、次に、この最大値を輪郭線上における全ての点について計測し、最後に、これら全最大値のうちから選択される最も大きなものをいう。また、ピットの最長径の下限は限定されるものではないが、最長径が2.0μm未満のものは観察されなかったので対象外とした。なお、1mm2の観察視野中にピットの全体が存在している場合は勿論、ピットの一部のみが観察されたものも一個として数えた。評価基準としては、ピットの個数密度が0個/mm2の場合をA(優)とし、1~2個/mm2の場合をB(良)とし、3~7個/mm2の場合をC(可)とし、8個/mm2以上の場合をD(劣)とした。
【0079】
以上の評価結果を、表3に示す。
【0080】
【0081】
表3に示すように、実施例1~18では良好なめっき表面の平滑性を得ることが出来た。
【0082】
これに対して、比較例1では、Mg含有量が多過ぎたために粗大なAl-Mg系金属間化合物が多く生成され、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0083】
比較例2では、Cu含有量が多過ぎたために粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が多く生成され、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0084】
比較例3では、Zn含有量が多過ぎたために粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が多く生成され、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0085】
比較例4では、Fe含有量が多過ぎたために粗大なAl-Fe系金属間化合物が多く生成し、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0086】
比較例5では、Si含有量が多過ぎたために粗大なMg-Si系金属間化合物が多く生成し、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0087】
比較例6では、Be含有量が多過ぎたために研削後の加熱で厚いAl/Mg/Be酸化物が形成された。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0088】
比較例7では、Cr含有量が多過ぎたために粗大なAl-Cr系金属間化合物が多く生成し、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0089】
比較例8では、Mn含有量が多過ぎたために粗大なAl-Mn系金属間化合物が多く生成し、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0090】
比較例9では、Mg含有量が少な過ぎたためにジンケート皮膜が不均一となった。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0091】
比較例10では、Cu含有量が少な過ぎたためにジンケート皮膜が不均一となった。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0092】
比較例11では、Zn含有量が少な過ぎたためにジンケート皮膜が不均一となった。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0093】
比較例12では、Be含有量が少な過ぎたためにジンケート皮膜が不均一となった。その結果、めっき表面にピットが生じ易くなり、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0094】
比較例13、14では、水洗段階及び化学的処理段階を実施しなかったため、Fe摩耗粉が表面に多く残存し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0095】
比較例15、16では、水洗段階を実施しなかったため、Fe摩耗粉が表面に多く残存し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0096】
比較例17、18では、化学的処理段階を実施しなかったため、Fe摩耗粉が表面に多く残存し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0097】
比較例19、20、21では、水洗段階における水の温度が低過ぎたため、Fe摩耗粉が表面に多く残存し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明により、めっき平滑性に優れた磁気ディスク用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、これを用いた磁気ディスクが得られる。