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特許7027541ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法およびジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-18
(45)【発行日】2022-03-01
(54)【発明の名称】ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法およびジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/343 20060101AFI20220221BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20220221BHJP
   C07C 61/12 20060101ALI20220221BHJP
   C07C 51/09 20060101ALI20220221BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20220221BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220221BHJP
【FI】
C07C67/343
C07C69/753 Z
C07C61/12
C07C51/09
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020525523
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022717
(87)【国際公開番号】W WO2019240033
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018111049
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018193474
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】綱 和宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 基将
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-062336(JP,A)
【文献】特開2016-216433(JP,A)
【文献】特開平04-300918(JP,A)
【文献】PENG, Yu et al.,Ni-Catalyzed Reductive Homocoupling of Unactivated Alkyl Bromides at Room Temperature and Its Synthe,The Journal of Organic Chemistry,2013年,78(21),10960-10967
【文献】LIU, Yongjun et al.,Reductive Homocoupling of Organohalides Using Nickel(II) Chloride and Samarium Metal,Chemistry - An Asian Journal,2017年,12(6),673-678
【文献】CAI, Yingxiao et al.,Cobalt-Catalyzed Csp3-Csp3 Homocoupling,Advanced Synthesis & Catalysis,2016年,358(15),2427-2430
【文献】GOLDUP, Stephen M. et al.,Ligand-assisted nickel-catalyzed sp3-sp3 homocoupling of unactivated alkyl bromides and its applicat,Chemical Science,2010年,1(3),383-386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/343
C07C 69/753
C07C 61/12
C07C 51/09
B01J 31/22
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る工程を有する、ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【化1】
ここで、前記式(1)および(2)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数~6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数~6のアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環式基を表し、前記式(1)中、Xは、脱離基を表す。
ただし、前記式(1)中のXは、ハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基、または、トルエンスルホニルオキシ基を表し、Xがハロゲン原子を表す場合、前記還元剤が亜鉛であり、Xがメタンスルホニルオキシ基またはトルエンスルホニルオキシ基を表す場合、前記還元剤がコバルト化合物とマンガンとの組み合わせである。
【請求項2】
前記式(1)および(2)中のRが、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す、請求項1に記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項3】
前記式(1)および(2)中のRが、メチル基、エチル基、t-ブチル基、または、トリチル基を表す、請求項1に記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル触媒が、ニッケル化合物およびリガンド化合物から調製された触媒であり、
前記リガンド化合物が、2,2’-ビピリジンである、請求項1~のいずれか1項に記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項5】
下記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る工程と、
前記ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを加水分解して塩とした後、酸を付与して下記式(3)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸を得る工程と、
を有する、ジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法。
【化2】
ここで、前記式(1)および(2)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数~6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数~6のアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環式基を表し、前記式(1)中、Xは、脱離基を表す。
ただし、前記式(1)中のXは、ハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基、または、トルエンスルホニルオキシ基を表し、Xがハロゲン原子を表す場合、前記還元剤が亜鉛であり、Xがメタンスルホニルオキシ基またはトルエンスルホニルオキシ基を表す場合、前記還元剤がコバルト化合物とマンガンとの組み合わせである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法、および、ジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学補償シートや位相差フィルムなどの光学フィルムは、画像着色解消や視野角拡大のために、様々な画像表示装置で用いられている。
光学フィルムとしては延伸複屈折フィルムが使用されていたが、近年、延伸複屈折フィルムに代えて、液晶性化合物からなる光学異方性層を有する光学フィルムを使用することが提案されている。
【0003】
このような光学異方性層の形成に用いられる液晶性化合物は、例えば、液晶性化合物の分子中央に位置する骨格(以下、「コア部分」ともいう。)を形成するためのヒドロキシ化合物と、液晶性化合物の側鎖部分を形成するためのカルボン酸化合物と、のエステル化反応を利用して合成することが知られている(例えば、特許文献1~4など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-031223号公報
【文献】特開2012-097078号公報
【文献】国際公開第2014/010325号
【文献】特開2016-081035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、液晶性化合物の側鎖部分を形成するためのカルボン酸化合物として、下記式(3)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸(以下、「DCHDA」とも略す。)が有用であることを知見した。
【化1】
【0006】
そして、本発明者らは、DCHDAの合成方法について検討したところ、例えば、特表2013-544281号公報(以下、「現行法1」と略す。)、および、Helvetica Chem. Act. 1938, 141(以下、「現行法2」と略す。)などに記載された方法が適用できると考えた。
しかしながら、本発明者らは、現行法1および現行法2に記載された方法では、DCHDAの前駆体であるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る段階において、多くの立体異性体が副生してしまい、DCHDAの生成前または生成後に、煩雑な操作で異性体を分離する必要が生じることを明らかとした。
【0007】
そこで、本発明は、立体異性体の副生を抑制し、簡便な操作で異性体を分離することができる、ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法、および、ジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、脱離基とエステル基(-COOR)とを有する所定のシクロヘキサン化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応(カップリング反応)させ、ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得ることにより、立体異性体の副生が抑制され、また、簡便な操作で異性体を分離することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0009】
[1] 下記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る工程を有する、ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【化2】
ここで、式(1)および(2)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環式基を表し、式(1)中、Xは、脱離基を表す。
【0010】
[2] 式(1)および(2)中のRが、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す、[1]に記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
[3] 式(1)および(2)中のRが、メチル基、エチル基、t-ブチル基、または、トリチル基を表す、[1]に記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
[4] 還元剤が、コバルト化合物、マグネシウム、亜鉛、および、マンガンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
[5] 式(1)中のXが、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アルキルスルホニルオキシ基、および、アリールスルホニルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種を表す、[1]~[4]のいずれかに記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
[6] 式(1)中のXが、臭素原子、メタンスルホニルオキシ基、および、トルエンスルホニルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種を表す、[1]~[5]のいずれかに記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
[7] 式(1)中のXが、ハロゲン原子を表し、かつ、還元剤が、亜鉛である、[1]~[6]のいずれかに記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
[8] 式(1)中のXが、メタンスルホニルオキシ基、または、トルエンスルホニルオキシ基を表し、かつ、還元剤が、コバルト化合物とマンガンとの組み合わせである、[1]~[6]のいずれかに記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
[9] ニッケル触媒が、ニッケル化合物およびリガンド化合物から調製された触媒であり、
リガンド化合物が、2,2’-ビピリジンである、[1]~[8]のいずれかに記載のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【0011】
[10] 下記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る工程と、
ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを加水分解して塩とした後、酸を付与して下記式(3)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸を得る工程と、
を有する、ジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法。
【化3】
ここで、式(1)および(2)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環式基を表し、式(1)中、Xは、脱離基を表す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、立体異性体の副生を抑制し、簡便な操作で異性体を分離することができる、ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法、および、ジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法]
本発明のジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの製造方法(以下、「本発明のジエステルの製造方法」とも略す。)は、下記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る工程(以下、「ジエステル化工程」とも略す。)を有する。
【化4】
ここで、式(1)および(2)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環式基を表し、式(1)中、Xは、脱離基を表す。
【0015】
本発明のジエステルの製造方法は、上述した通り、上記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、上記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得ることにより、立体異性体の副生が抑制され、また、簡便な操作で異性体を分離することができる。
これは、詳細には明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
すなわち、上記式(1)中の脱離基が還元剤によって脱離した後、脱離部位に生じた炭素ラジカルとニッケル触媒のニッケル原子とが結合する際に、エネルギー的に有利な方向(エクアトリアル方向)に向いたトランス体が優先して得られたため、その後のカップリング反応においてもトランス体が優先して得られ、その結果、再結晶等の簡便な操作で異性体を分離することができたと考えられる。
以下に、本発明のジエステルの製造方法が有するジエステル化工程について、詳述する。
【0016】
〔ジエステル化工程〕
本発明のジエステルの製造方法が有するジエステル化工程は、上記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、上記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る工程である。
【0017】
<式(1)で表される化合物>
上記ジエステル化工程で用いる出発物質は、下記式(1)で表される化合物である。
【化5】
【0018】
上記式(1)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数3~8の環状のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環式基を表す。
また、上記式(1)中、Xは、脱離基を表す。
【0019】
上記式(1)中のRが示す炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
また、Rが示す炭素数3~8の環状のアルキル基としては、具体的には、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0020】
また、Rが示す炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基としては、具体的には、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基などが挙げられる。
また、Rが示す炭素数3~8の環状のアルケニル基としては、具体的には、例えば、2-シクロペンテン-1-イル基、2-シクロヘキセン-1-イル基などが挙げられる。
【0021】
また、炭素数1~6のアルキニル基としては、具体的には、例えば、エチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。
また、アリール基としては、具体的には、例えば、フェニル基、p-トリル基、ナフチル基、m-クロロフェニル基、o-ヘキサデカノイルアミノフェニル基などが挙げられる。
また、複素環式基としては、具体的には、例えば、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基等の単環系芳香族複素環基;ベンゾチアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の多環系芳香族複素環基(縮合多環系芳香族複素環基を含む);モルホリニル基等の非芳香族複素環基;などが挙げられる。
【0022】
一方、上記式(1)中のRが有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基等)がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基またはエチル基であるのが特に好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~18のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-ブトキシ基、メトキシエトキシ基等)がより好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基であることが更に好ましく、メトキシ基またはエトキシ基であるのが特に好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも、フッ素原子、塩素原子であるのが好ましい。
【0023】
本発明においては、入手容易性の観点から、上記式(1)中のRが、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表すことが好ましく、中でも、メチル基、エチル基、t-ブチル基、または、トリチル基を表すことがより好ましい。
【0024】
上記式(1)中のXが示す脱離基は、シクロヘキサン環を構成している炭素原子に直接結合された基X1であって、C-X1結合の電子対を取り込んで容易に脱離することができる基を表す。
脱離基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基などが挙げられる。
ハロゲン原子としては、具体的には、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、中でも、臭素原子、ヨウ素原子であることが好ましく、入手容易性と、反応(カップリング反応)性の観点から、臭素原子であることがより好ましい。
アルキルチオ基としては、具体的には、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。
アルキルスルホニルオキシ基としては、具体的には、例えば、メタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、n-プロパンスルホニルオキシ基、n-ブタンスルホニルオキシ基などが挙げられ、中でも、メタンスルホニルオキシ基であることが好ましい。
アリールスルホニルオキシ基としては、具体的には、例えば、トルエンスルホニルオキシ基、4-ニトロフェニルスルホニルオキシ基、4-メトキシフェニルスルホニルオキシ基、2-ニトロフェニルスルホニルオキシ基、3-クロロフェニルスルホニルオキシ基などが挙げられ、中でも、トルエンスルホニルオキシ基であることが好ましく、p-トルエンスルホニルオキシ基であることがより好ましい。
このような脱離基のうち、臭素原子、メタンスルホニルオキシ基、および、トルエンスルホニルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
<ニッケル触媒>
上記ジエステル化工程で用いるニッケル触媒は特に限定されず、例えば、ニッケル原子の原子価が0~2価のものが挙げられる。
上記ニッケル触媒としては、具体的には、例えば、
塩化ニッケル(II)等の金属触媒;
[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II)ジクロリド、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]トリフェニルホスフィンニッケル(II)ジクロリド、ブロモ[(2,6-ピリジンジイル)ビス(3-メチル-1-イミダゾリル-2-イリデン)]ニッケルブロミド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、クロロビス[ジシクロヘキシル(フェニル)ホスフィノ](o-トリル)ニッケル(II)、ビス(ジシクロヘキシルフェニルホスフィノ)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)水和物等の金属錯体触媒;
などが挙げられる。
【0026】
上記ニッケル触媒は、ニッケル化合物およびリガンド化合物(配位子)から調製された触媒(例えば、上述した金属錯体触媒など)であることが好ましい。
ここで、上記ニッケル化合物としては、例えば、ハロゲン化ニッケル(例えば、フッ化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル等)、ニッケルカルボン酸塩(例えば、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、2-エチルヘキサン酸ニッケル、シクロブタン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、クエン酸ニッケル等)、次亜リン酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、(ジメトキシエタン)塩化ニッケル等が挙げられ、中でも、ハロゲン化ニッケルが好ましい。
また、上記リガンド化合物としては、例えば、含窒素二座配位子が挙げられ、含窒素二座配位子としては、具体的には、例えば、2,2’-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、メチレンビスオキサゾリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられ、中でも、入手容易性の観点から、2,2’-ビピリジンが好ましい。
【0027】
上記ジエステル化工程で用いるニッケル触媒の使用量は、上記式(1)で表される化合物1モルに対して、0.05~0.5モルであることが好ましく、0.1~0.5モルであることがより好ましく、0.1~0.2モルであることが更に好ましい。
【0028】
<還元剤>
上記ジエステル化工程で用いる還元剤は特に限定されず、その具体例としては、コバルト化合物、マグネシウム、亜鉛、マンガンなどが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
コバルト化合物としては、例えば、有機酸のコバルト塩、コバルト金属錯体などが挙げられ、有機酸のコバルト塩が好ましい。有機酸のコバルト塩としては、具体的には、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、リノレン酸コバルト、パルミチン酸コバルト等を挙げることができる。
【0029】
これらの還元剤のうち、反応収率の観点から、上記式(1)中のXがハロゲン原子で表される化合物である場合には、亜鉛を用いることが好ましい。
また、同様の観点から、上記式(1)中のXがメタンスルホニルオキシ基、または、トルエンスルホニルオキシ基で表される化合物である場合には、コバルト化合物とマンガンとの組み合わせを用いることが好ましい。
【0030】
上記ジエステル化工程で用いる還元剤の使用量は、上記式(1)で表される化合物1モルに対して、1~5モルであることが好ましく、1~2.5モルであることがより好ましく、1.3~1.7モルが更に好ましい。
【0031】
<溶媒>
上記ジエステル化工程においては、溶媒を用いることが好ましい。
上記溶媒としては、例えば、ピリジン、メチルピリジン等のピリジン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、ピリジン類の溶媒とニトリル類の溶媒とを併用することが好ましい。
【0032】
溶媒を使用する場合の使用量は、上記式(1)で表される化合物に対して、1~10倍量(ml/g)であることが好ましく、1~5倍量(ml/g)であることがより好ましく、1~3倍量(ml/g)であることが更に好ましい。
【0033】
<反応条件>
上記ジエステル化工程における反応条件は特に限定されないが、上述したニッケル触媒および還元剤を用いているため、上述した現行法1などと比較すると、より緩やかな条件を採用することができる。
例えば、反応温度は、0~60℃であることが好ましく、5~50℃であることがより好ましい。
また、反応時間は、30分~10時間であることが好ましく、4~8時間であることがより好ましい。
【0034】
本発明においては、上述したジエステル化工程により、立体異性体の副生を抑制された下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得ることができる。
これにより、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルは、抽出、晶出、蒸留およびカラムクロマトグラフィーなどの簡便な操作により、異性体を分離することができる。
なお、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを、後述する本発明のジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法に供する場合、分離操作を行わず、ジシクロヘキサンジカルボン酸を得る工程に使用してもよい。
【化6】
【0035】
上記式(2)中のRは、上記式(1)中のRとして説明したものと同様である。
本発明においては、上記式(1)で表される化合物の入手容易性の観点から、上記式(2)中のRが、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表すことが好ましく、中でも、メチル基、エチル基、または、t-ブチル基を表すことがより好ましい。
【0036】
[ジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法]
本発明のジシクロヘキサンジカルボン酸の製造方法(以下、「本発明のジカルボン酸の製造方法」とも略す。)は、下記式(1)で表される化合物を、ニッケル触媒および還元剤の存在下で反応させ、下記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを得る工程(ジエステル化工程)と、上記ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを加水分解して塩とした後、酸を付与して下記式(3)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸を得る工程(以下、「ジカルボキシル化工程」とも略す)と、を有する。
ここで、本発明のジカルボン酸の製造方法における上記ジエステル化工程は、上述した本発明のジエステルの製造方法において説明したものと同様であり、下記式(1)および(2)中のR、ならびに、下記式(1)中のXについても、上述した本発明のジエステルの製造方法において説明したものと同様である。
【化7】
【0037】
〔ジカルボキシル化工程〕
本発明のジカルボン酸の製造方法が有するジカルボキシル化工程は、上記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを加水分解して塩とした後、酸を付与して上記式(3)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸を得る工程である。
また、上記ジカルボキシル化工程における加水分解は、溶媒中で塩基を用いて行うことが好ましい。
【0038】
<溶媒>
加水分解の際に好適に用いられる溶媒としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノールなどの1級アルコール;2-プロパノール(イソプロパノール)、sec-ブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの2級アルコール;1-エチニル-1-シクロプロパノール、1-アダマンタノール、tert-ブタノール、t-アミルアルコールなどの3級アルコール;テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレンなどの塩素系溶剤類;アセトン、2-ブタノンなどのケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチル=スルホキシド、ヘキサメチルホスホリック=トリアミドなどの非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどのエステル類;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、アルコールを含む溶媒を用いることが好ましい。
【0039】
<塩基>
加水分解の際に好適に用いられる塩基としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの無機ブレンステッド塩基;ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルフォリンなどの有機ブレンステッド塩基;が挙げられる。
これらのうち、無機ブレンステッド塩基であることが好ましく、入手性および溶解性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムのいずれかであることがより好ましい。
【0040】
<反応条件>
上記式(2)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルを塩にする際の反応条件は特に限定されず、従来公知の加水分解の反応条件を適宜採用することができる。
例えば、反応温度は、-30~100℃で行われることが好ましく、-20~50℃で行われることがより好ましく、-10~40℃で行われることが更に好ましい。
また、反応時間は、10分~24時間行われることが好ましく、20分~10時間行われることがより好ましく、30分~8時間行われることが更に好ましい。
【0041】
<酸>
ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの塩に付与する酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸類またはこれらの塩類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機酸類またはこれらの塩類;テトラフルオロホウ酸リチウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化錫、四塩化チタン、四臭化チタン、トリメチルヨードシランなどのルイス酸類;アルミナ、シリカゲル、チタニアなどの酸化物;モンモリロナイトなどの鉱物;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
<反応条件>
ジシクロヘキサンジカルボン酸ジエステルの塩に酸を付与し、上記式(3)で表されるジシクロヘキサンジカルボン酸を生成する際の反応条件は特に限定されず、酸を用いた従来公知の脱保護反応の反応条件を適宜採用することができる。
例えば、反応温度は、-30~100℃で行われることが好ましく、-20~50℃で行われることがより好ましく、-10~40℃で行われることが更に好ましい。
また、反応時間は、10分~24時間行われることが好ましく、20分~10時間行われることがより好ましく、30分~8時間行われることが更に好ましい。
【実施例
【0043】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
また、以下の実施例において、「シリカゲルカラムクロマトグラフィー」は、中圧分取カラムSmart FLASH EPCLC-W-Prep 2XY(山善株式会社)を使用して行った。溶離液における混合比は、容量比を表す。例えば、「酢酸エチル/ヘキサン=1:1→酢酸エチル/ヘキサン4:1」は、50質量%酢酸エチル/50質量%ヘキサンの溶離液を最終的に80質量%酢酸エチル/20質量%ヘキサンの溶離液へ変化させたことを意味する。
また、H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルは、内部基準としてテトラメチルシランを用い、Bruker AV400N(Bruker社)を用いて測定し、全δ値をppmで示した。
【0044】
[実施例1]
【化8】
【0045】
亜鉛0.83g、塩化ニッケル165mg、および、2,2’-ビピリジン200mgを、ピリジン1.4mL中で、55℃で15分間撹拌し、その後、30℃以下に冷却し、黒色の懸濁液を得た。
次いで、得られた懸濁液に対して、米国特許第6143774号明細書の実験項(Example 16)に記載された方法で得られた4-ブロモ-シクロヘキサン-1-カルボン酸エチル2.0gとアセトニトリル5.6mLとから調製した溶液を添加した。
次いで、内温25~35℃の間で6時間撹拌した後、生じた懸濁液をセライトでろ過した。得られた溶液に、1M塩酸水と酢酸エチルを加え、下層(水層)を除去した後、上層(有機層)を飽和食塩水により洗浄し、さらに硫酸マグネシウムよって乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ過で除いた後、有機層をエバポレーターによって減圧濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1:10→酢酸エチル/ヘキサン1:3)で精製し、上記スキーム中の[1,1’-ジ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジカルボン酸エチル1.08gを、無色のアモルファスとして得た(収率82%)。H-NMRによる解析の結果、trans/cis比は5:1であった。なお、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離を繰り返すことにより、シス体を分離し、トランス体のみを回収することができた。
生成物のH-NMRを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ値:4.19-4.05(4H,m),2.23-2.13(2H,m),2.01-1.96(4H,m),1.81-1.77(4H,m),1.46-0.91(16H,m)
【0046】
[実施例2]
【化9】
【0047】
実施例1で合成した[1,1’-ジ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジカルボン酸エチル0.73gを、エタノール1.5mLに溶解させた後、3規定水酸化カリウム水溶液1.5mLを添加し、80℃に加熱した。
TLC(Thin-Layer Chromatography)にて反応完結を確認後、30℃以下に冷却し、希塩酸5mLを加えた。生じた固体をろ別した後、蒸留水で洗浄し、約13時間送風乾燥し、[1,1’-ジ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジカルボン酸0.44gを、白色固体として得た(収率74%)。なお、H-NMRによる解析の結果、trans/cis比は100:0であった。
【0048】
[実施例3]
【化10】
【0049】
4-ブロモ-シクロヘキサン-1-カルボン酸エチルの代わりに、4-ブロモ-シクロヘキサン-1-カルボン酸メチル1.0gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、上記スキーム中の[1,1’-ジ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジカルボン酸メチル0.45gを、無色アモルファスとして得た(収率69%)。H-NMRによる解析の結果、trans/cis比は7:1であった。なお、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離を繰り返すことにより、シス体を分離し、トランス体のみを回収することができた。
生成物のH-NMRを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ値:3.66(6H,s),2.26-2.16(2H,m),2.01-1.96(4H,m),1.81-1.77(4H,m),1.46-0.91(10H,m)
【0050】
[実施例4]
【化11】
【0051】
4-ブロモ-シクロヘキサン-1-カルボン酸エチルの代わりに、4-ブロモ-シクロヘキサン-1-カルボン酸-t-ブチル1.2gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、上記スキーム中の[1,1’-ジ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジカルボン酸-t-ブチル0.65gを、無色油状物として得た(収率76%)。H-NMRによる解析の結果、trans/cis比は10:1であった。なお、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離を繰り返すことにより、シス体を分離し、トランス体のみを回収することができた。
生成物のH-NMRを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ値:2.12-2.04(2H,m),2.01-1.92(4H,m),1.82-1.70(4H,m),1.46-1.21(24H,m),1.12-0.88(4H,m)
【0052】
[実施例5]
【化12】
【0053】
コバルト化合物としてのビタミンB12(シアノコバラミン)576mgと、マンガン701mgと、塩化ニッケル165mgと、2,2’-ビピリジン200mgとを、ピリジン1.4mL中で、55℃で15分間撹拌し、その後、30℃以下に冷却し、黒色の懸濁液を得た。
次いで、得られた懸濁液に対して、4-メタンスルホニルオキシ-シクロヘキサン-1-カルボン酸エチル2.77gとアセトニトリル5.6mLとから調製した溶液を添加した。
次いで、内温25~35℃の間で6時間撹拌した後、生じた懸濁液をセライトでろ過した。得られた溶液に、1M塩酸水と酢酸エチルを加え、下層(水層)を除去した後、上層(有機層)を飽和食塩水により洗浄し、さらに硫酸マグネシウムよって乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ過で除いた後、有機層をエバポレーターによって減圧濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1:10→酢酸エチル/ヘキサン1:3)で精製し、上記スキーム中の[1,1’-ジ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジカルボン酸エチル0.22gを、無色のアモルファスとして得た(収率16%)。H-NMRによる解析の結果、trans/cis比は5:1であった。
【0054】
[参考例1]
【化13】
【0055】
上記スキームに示すように、4,4-ビフェニルジカルボン酸ジメチル(S-1-a)125g(0.462mol)を、酢酸1000mLに加え、パラジウム炭素触媒(wet品)12.5gを加えた後に、130℃、2MPaにてオートクレーブ中で接触水素化反応させた。
反応終了後、室温(23℃)まで冷却した後に、ろ過にて触媒を除いた。
次いで、酢酸を減圧留去した後、酢酸エチル、および、炭酸水素ナトリウム水溶液を添加した。その後、撹拌し、分液して水層を除去し、更に、有機層を10%食塩水で洗浄した。この溶液に硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、溶媒を濃縮することで、4,4’-ジシクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(S-1-b)(130g)を得た。
【0056】
次いで、異性体を分離するために、以下の操作を行った。
まず、4,4’-ジシクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(130g)、水酸化カリウムペレット(Aldrich製、純度90%)86.3g、クメン1300mL、および、ポリエチレングリコール2000(東京化成工業社製)10mLを混合し、ディーンスターク管をつけて120℃にて加熱撹拌した。メタノールを留去した後に、外設を180℃として、溶媒を留去しながら20時間加熱還流を続けた。NMRにて反応進行を確認し、反応終了後、冷却し、反応液にエタノール1300mLを添加し、析出しているカリウム塩をろ取した。
次いで、このカリウム塩を水1300mlに溶解し、氷冷下で濃塩酸を系のpHが3になるまで添加し、析出したカルボン酸をろ取し、粗体を回収した。
回収した粗体をアセトン500mLに懸濁し、50℃で30分撹拌した後に、室温に冷却し、ろ取し、ジシクロヘキサンジカルボン酸(S-1-c)の結晶を93.9g(収率80%)得た。