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特許7027887近赤外線硬化型インク組成物、近赤外線硬化膜、および光造形法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】近赤外線硬化型インク組成物、近赤外線硬化膜、および光造形法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20220222BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20220222BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C09D11/101
B05D3/02 E
B05D7/24 301M
B05D7/24 303B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017539994
(86)(22)【出願日】2016-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2016077406
(87)【国際公開番号】W WO2017047736
(87)【国際公開日】2017-03-23
【審査請求日】2019-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2015184613
(32)【優先日】2015-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 美香
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
(72)【発明者】
【氏名】東福 淳司
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506463(JP,A)
【文献】特表2011-503274(JP,A)
【文献】特開2015-117353(JP,A)
【文献】特開2012-042918(JP,A)
【文献】特開2009-192922(JP,A)
【文献】特表2012-532822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B29C
C01G
B33Y
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物と、未硬化の熱硬化性樹脂と、アクリル系分散剤と、硬化剤と、溶剤とからなり、
前記複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(M元素はCs、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)であることと、
前記複合タングステン酸化物が、すべて六方晶の結晶構造からなり、
前記近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が、1nm以上50nm以下であることと、
前記溶剤が、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、未硬化の状態にある熱硬化性樹脂のモノマー、エポキシ基を備えた反応性有機溶媒、から選択される1種以上であることを特徴とする近赤外線硬化型インク組成物。
【請求項2】
前記近赤外線吸収微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線硬化型インク組成物。
【請求項3】
さらに、有機顔料、無機顔料、染料から選択されるいずれか1種類以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線硬化型インク組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線硬化型インク組成物が近赤外線照射を受けて硬化したものであることを特徴とする近赤外線硬化膜。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線硬化型インク組成物を塗布して塗布物とし、当該塗布物へ近赤外線を照射して硬化させることを特徴とする光造形法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線硬化型インク組成物、近赤外線硬化膜、および光造形法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線の光を利用して硬化させる紫外線硬化型塗料は、加熱することなく印刷が可能であるため、環境対応型塗料として広く知られている(特許文献1~6)。
しかしながら、紫外線硬化型のインクや塗料として、紫外線照射によりラジカル重合が行われる組成物を用いた場合には、酸素が存在すると重合(硬化)が阻害される。また、紫外線の照射によりカチオン重合が行われる組成物を用いた場合には、その重合中に強酸が発生する、という問題があった。さらに、印刷面や塗布面の耐光性を高めるために、一般には、紫外線吸収剤が用いられるが、紫外線硬化型のインクや塗料に紫外線吸収剤を用いた場合には、紫外線照射による硬化が阻害されるという問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するために、特許文献7、8には紫外線ではなく、近赤外線の照射により硬化する近赤外線硬化型組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-100433号公報
【文献】特許第3354122号公報
【文献】特許第5267854号公報
【文献】特許第5626648号公報
【文献】特許第3494399号公報
【文献】特開2004-18716号公報
【文献】特許第5044733号公報
【文献】特開2015-131928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし本発明者らの検討によると、上述した近赤外線硬化型組成物は、いずれも近赤外線吸収特性が十分でないといった問題を有していた。
本発明は、上述の課題解決するためになされたものであり、十分な近赤外線吸収性を有し、かつ透明性に優れる近赤外線吸収剤を含有する近赤外線硬化型インク組成物、近赤外線硬化膜、および当該近赤外線硬化型インク組成物を用いた光造形法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物を含む近赤外線硬化型インク組成物は、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外線吸収特性が高いことから、その吸収により発生する熱を利用し、熱硬化性樹脂を効率よく硬化させる近赤外線硬化型インク組成物に想到し本発明に至った。
【0007】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物と、未硬化の熱硬化性樹脂と、アクリル系分散剤と、硬化剤とからなり、
前記複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(M元素はCs、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)であることと、
前記複合タングステン酸化物が、すべて六方晶の結晶構造からなり、
前記近赤外線吸収微粒子の分散粒子径が、1nm以上50nm以下であることを特徴とする近赤外線硬化型インク組成物である。
第2の発明は、
さらに、溶媒を含むことを特徴とする第1の発明に記載の近赤外線硬化型インク組成物である。
の発明は、
前記近赤外線吸収微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする第1または第2の発明に記載の近赤外線硬化型インク組成物である。
の発明は、
さらに、有機顔料、無機顔料、染料から選択されるいずれか1種類以上を含むことを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の近赤外線硬化型インク組成物である。
の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載の近赤外線硬化型インク組成物が近赤外線照射を受けて硬化したものであることを特徴とする近赤外線硬化膜である。
の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載の近赤外線硬化型インク組成物を塗布して塗布物とし、当該塗布物へ近赤外線を照射して硬化させることを特徴とする光造形法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物は、近赤外線吸収特性が高く、かつ透明性に優れ、近赤外線硬化型インク組成物として工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物、近赤外線硬化膜、および光造形法について詳細に説明する。
【0010】
1.近赤外線吸収微粒子
近赤外線吸収微粒子としては、複合タングステン酸化物以微粒子を初めとして、カーボンブラック粉や錫添加酸化インジウム(ITO)粉が考えられる。
しかし、カーボンブラック粉を用いるとカーボンブラック粉は黒色なので近赤外線硬化型インク組成物の色の選択の自由度は低い。一方、ITO粉は多量に添加しないと近赤外線硬化型インク組成物の硬化性が発揮できない。そこで、多量に添加すると、今度は多量添加されたITO粉により、近赤外線硬化型インク組成物の色調に影響する。
【0011】
以上のことから、本発明は、近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物を含むことを特徴とする。複合タングステン酸化物とすることで、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収微粒子として有効となる。
【0012】
本発明に係る近赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、800nm以下であることが好ましい。これは、近赤外線吸収微粒子である複合タングステン酸化物の近赤外線吸収が「局在表面プラズモン共鳴」と呼ばれるナノ粒子特有の光吸収、散乱に基づいていることによる。即ち、複合タングステン酸化物の分散粒子径が800nm以下のときに局在表面プラズモン共鳴が生じ、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物に照射される近赤外線を近赤外線吸収微粒子が効率的に吸収し、熱エネルギーに変換し易くなるからである。
分散粒子径が200nm以下であれば、局在表面プラズモン共鳴がさらに強くなり照射される近赤外線をより強力に吸収するため、より好ましい。
【0013】
さらに、本発明に係る近赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、近赤外線吸収特性と透明性保持の観点から200nm以下であることがより好ましい。さらに、分散粒子径が200nm以下であれば、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物に照射される近赤外線を、当該近赤外線吸収微粒子が効率的に吸収し、熱エネルギーに変換し易いからである。
【0014】
また、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物の塗布物は、顔料などの着色材を全く含まない状態でも、本発明に係る近赤外線吸収微粒子の複合タングステン微粒子に起因して淡い青色を示す。しかし、微粒子の分散粒子径が200nm以下であれば、淡い青色の呈色は、顔料などの着色材により打ち消すことができる。
【0015】
本発明に係る、近赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、50nm以下の分散粒子径を有していることが最も好ましい。分散粒子径が50nmよりも小さければ、微粒子のミー散乱およびレイリー散乱に起因する光の散乱が十分に抑制され、可視光波長領域の透明性を保持することが出来るからである。
当該近赤外線吸収微粒子が可視光波長域の透明性を保持できれば、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物へ顔料などの着色材料を添加した場合において、当該顔料の発色を害することがなく色調の調整の自由度を確保できる。一方、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物へ、前記着色材を添加しない場合であっても、後述する硬化物である光造形物の透明性を確保できる。
【0016】
ここで、分散粒子径とは、溶媒中の複合タングステン酸化物から成る近赤外線吸収微粒子の凝集粒子径を意味するものであり、市販されている種々の粒度分布計で測定することができる。例えば、複合タングステン酸化物から成る近赤外線吸収微粒子の凝集体も存在する状態で、複合タングステン酸化物から成る近赤外線吸収微粒子が溶媒中に分散された分散液からサンプリングを行い、動的光散乱法を原理とした大塚電子社製ELS-800を用いて測定することができる。
【0017】
また、上述の複合タングステン酸化物が、正方晶、立方晶、六方晶などのタングステンブロンズの構造をとるときに近赤外線吸収材料として有効である。当該複合タングステン酸化物がとる結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、この近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、さらに六方晶のときは正方晶のときよりも長波長側に移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。よって、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によっても変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0018】
上記複合タングステン酸化物は、一般式M(Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)であることが好ましい。
【0019】
ここで、当該複合タングステン酸化物に対し、酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用することで、より効率の良い近赤外線吸収微粒子を得ることが出来る。この酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用した複合タングステン酸化物の一般式を、M(但し、Mは、前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と記載したとき、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすことが望ましい。
【0020】
まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。x/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする近赤外線遮蔽効果を得ることが出来る。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該近赤外線吸収微粒子中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上であることが好ましい。ここで、元素Mを添加された当該Mにおける、安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。
【0021】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。z/yの値については、Mで表記される赤外線吸収微粒子においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましい。
【0022】
本発明に係る、可視光領域の透過を向上させ、近赤外領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物に、単位構造(WO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に元素Mが配置した構造)が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物微粒子が、結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0023】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、近赤外線領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易く好ましい。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0024】
特に、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.30から0.35である。特に、x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。 また、本発明の近赤外線吸収微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該近赤外線吸収微粒子の耐候性の向上の観点から好ましい。
【0025】
2.近赤外線吸収微粒子の製造
上記複合タングステン酸化物は、当該複合タングステン酸化物の出発原料であるタングステン化合物とM元素との混合物を、還元性ガス雰囲気もしくは還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気、あるいは不活性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。当該熱処理を経て得られた複合タングステン酸化物微粒子は、十分な近赤外線吸収力を有し、近赤外線吸収微粒子として好ましい性質を有している。
【0026】
出発原料であるタングステン化合物は、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、もしくはタングステン酸化物の水和物、もしくは、六塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0027】
これら原料を用い、これを還元性ガス雰囲気もしくは還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気、あるいは不活性ガス雰囲気中で熱処理して、複合タングステン酸化物を含有する近赤外線吸収微粒子を得ることができる。
【0028】
また、上記複合タングステン酸化物微粒子の元素Mは、元素単体または化合物で含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料であるタングステン化合物を製造するためには、各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0029】
上述した複合タングステン酸化物微粒子を製造するための原料に関し、以下で、再度詳細に説明する。
【0030】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子の不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては、600℃を越え650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な近赤外線吸収力を有し近赤外線吸収微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中にて600℃を越え1000℃未満で熱処理し、次いで必要に応じて不活性ガス雰囲気中で650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元雰囲気の組成として、H2が体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは1%以上が良い。H2が体積比で0.1%以上あれば効率よく還元を進めることができる。
【0031】
上述の工程にて得られた近赤外線吸収微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該近赤外線遮蔽材料微粒子を分散した溶液中へ、上記金属のアルコキシドを添加することで、近赤外線遮蔽材料微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0032】
3.近赤外線硬化型インク組成物
近赤外線吸収微粒子を適宜な溶媒中に分散した後、未硬化の熱硬化性樹脂を添加することで、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物が得られる。そして、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物は、従来のインクとしての用途に加え、所定量を塗布し、ここへ近赤外線を照射して硬化させて積み上げ3次元物体を造形する光造形法へ適用することが出来る。
【0033】
近赤外線吸収微粒子を溶媒中に分散させる方法については特に限定されないが、湿式媒体ミルを用いることが好ましい。
さらに、近赤外線吸収微粒子を、適宜な分散剤と共に近赤外線吸収微粒子を適宜な溶媒に分散してもよい。
尚、当該分散剤は、近赤外線吸収微粒子を溶媒に分散させる目的で添加するもので、適宜市販の分散剤を用いることができるが、分散剤の分子構造として、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプラクトン系、ポリスチレン系の主鎖を有し、官能基に、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、スルホ基等を有するものが好ましい。このような分子構造を有する分散剤は、本発明に係る近赤外線硬化型インクの塗布膜に近赤外線を数十秒間断続的に照射する際、変質することが無いからである。
【0034】
市販の分散剤における好ましい具体例としては、日本ルーブリゾール(株)製SOLSPERSE3000、SOLSPERSE9000、SOLSPERSE11200、SOLSPERSE13000、SOLSPERSE13240、SOLSPERSE13650、SOLSPERSE13940、SOLSPERSE16000、SOLSPERSE17000、SOLSPERSE18000、SOLSPERSE20000、SOLSPERSE21000、SOLSPERSE24000SC、SOLSPERSE24000GR、SOLSPERSE26000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE28000、SOLSPERSE31845、SOLSPERSE32000、SOLSPERSE32500、SOLSPERSE32550、SOLSPERSE32600、SOLSPERSE33000、SOLSPERSE33500、SOLSPERSE34750、SOLSPERSE35100、SOLSPERSE35200、SOLSPERSE36600、SOLSPERSE37500、SOLSPERSE38500、SOLSPERSE39000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE53095、SOLSPERSE55000、SOLSPERSE56000、SOLSPERSE76500等;
ビックケミー・ジャパン(株)製Disperbyk-101、Disperbyk-103、Disperbyk-107、Disperbyk-108、Disperbyk-109、Disperbyk-110、Disperbyk-111、Disperbyk-112、Disperbyk-116、Disperbyk-130、Disperbyk-140、Disperbyk-142、Disperbyk-145、Disperbyk-154、Disperbyk-161、Disperbyk-162、Disperbyk-163、Disperbyk-164、Disperbyk-165、Disperbyk-166、Disperbyk-167、Disperbyk-168、Disperbyk-170、Disperbyk-171、Disperbyk-174、Disperbyk-180、Disperbyk-181、Disperbyk-182、Disperbyk-183、Disperbyk-184、Disperbyk-185、Disperbyk-190、Disperbyk-2000、Disperbyk-2001、Disperbyk-2020、Disperbyk-2025、Disperbyk-2050、Disperbyk-2070、Disperbyk-2095、Disperbyk-2150、Disperbyk-2155、Anti-Terra-U、Anti-Terra-203、Anti-Terra-204、BYK-P104、BYK-P104S、BYK-220S、BYK-6919等;
BASFジャパン(株)社製 EFKA4008、EFKA4046、EFKA4047、EFKA4015、EFKA4020、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4060、EFKA4080、EFKA4300、EFKA4330、EFKA4400、EFKA4401、EFKA4402、EFKA4403、EFKA4500、EFKA4510、EFKA4530、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA4800、EFKA5220、EFKA6230、JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL-JDX5050等;
味の素ファインテクノ(株)アジスパーPB-711、アジスパーPB-821、アジスパーPB-822等が挙げられる。
【0035】
近赤外線硬化型インク組成物の溶媒としては、例えば、水やメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、イブチルケトンなどのケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールといった各種の有機溶媒が使用可能である。
また、近赤外線硬化型インク組成物の溶媒と伴にまたは溶媒に替えて、未硬化の状態にある熱硬化性樹脂のモノマーを用いることも好ましい構成である。この場合、後述するように、有機溶剤等の溶媒を用いない構成を採ることが出来る。
さらに、近赤外線硬化型インク組成物の溶媒として、後述する熱硬化性樹脂の硬化反応時に未硬化の状態にある熱硬化性樹脂に含まれる熱硬化性樹脂のモノマーやオリゴマーと反応する、エポキシ基などの官能基を備えた反応性有機溶媒を用いることも好ましい。
【0036】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノ-ル樹脂、エステル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコ-ン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、未硬化の熱硬化性樹脂へ熱エネルギーを照射して硬化させるものである。そして、未硬化の熱硬化性樹脂には、硬化反応によって熱硬化性樹脂を形成するモノマーやオリゴマー、および適宜添加される公知の硬化剤が含まれる。さらに硬化剤へは公知の硬化促進剤を加えてもよい。
【0037】
本発明に係る近赤外線硬化型インクに含まれる、近赤外線吸収微粒子である複合タングステン酸化物の量は、硬化反応の際に未硬化の熱硬化性樹脂が、硬化を行える量を適宜添加すれば良い。従って、近赤外線硬化型インクの塗布厚みも考慮して、近赤外線硬化型インクの塗布面積当たりの近赤外線吸収微粒子量を定めれば良い。
【0038】
上述したように、近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物を含み、溶媒と、分散剤と、未硬化の熱硬化性樹脂とを含む近赤外線硬化型インク組成物から溶媒を除去する、または、溶媒を使用しないで、近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物を含み、分散剤と、未硬化の熱硬化性樹脂とを含む近赤外線硬化型インク組成物を得ることも好ましい構成である。
溶媒を含有せず、近赤外線吸収微粒子として複合タングステン酸化物を含み、分散剤と、未硬化の熱硬化性樹脂とを含む近赤外線硬化型インク組成物は、後工程において、溶媒の揮発に係る工程を省くことができ、硬化反応の効率がよい。
溶媒を除去する場合の方法としては、特に限定されるものではないが、減圧操作を加えた加熱蒸留法等を用いることが出来る。
【0039】
4.近赤外線硬化膜および光造形法
得られた本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物の所定量を塗布して塗布膜を得、ここへ近赤外線を照射して硬化させることにより、本発明に係る近赤外線硬化膜が得られる。これは、近赤外線吸収微粒子が、照射された近赤外線を吸収して発熱し、当該発熱の熱エネルギーが、未硬化の熱硬化性樹脂に含まれるモノマーやオリゴマー等による重合反応や縮合反応や付加反応などの反応を促進して、熱硬化性樹脂の硬化反応が起こることによる。また、近赤外線の照射による近赤外線吸収微粒子の発熱により、溶媒の揮発も行われる。
一方、本発明に係る近赤外線硬化膜へ、さらに近赤外線を照射しても当該硬化膜が再融解することはない。本発明に係る近赤外線硬化膜は、未硬化の熱硬化性樹脂が硬化した熱硬化性樹脂が含まれるので、近赤外線の照射により近赤外線吸収微粒子が発熱しても、再融解はしないのである。
この特性は、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物の所定量を硬化させて積み上げ、近赤外線硬化型インクの塗布と近赤外線照射を繰り返し行う積層を繰り返して、3次元物体を造形する光造形法へ適用する際には、特に有効である。
【0040】
勿論、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物の所定量を基材上に塗布し、ここへ近赤外線を照射して硬化させることにより本発明に係る近赤外線硬化膜を得ることも好ましい。
本発明に用いる基材の材料は特に限定されないが、例えば、紙、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂、ポリイミド、ポリアセタ-ル、ポリプロピレン、ナイロン等が、各種目的に応じて好ましく使用可能である。また、紙、樹脂以外ではガラスを好ましく用いることができる。
【0041】
本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物の硬化方法としては、赤外線照射が好ましく、近赤外線照射がより好ましい。近赤外線はエネルギー密度が大きく、当該インク組成物中の樹脂が硬化するのに必要なエネルギーを効率的に付与することができる。
【0042】
赤外線照射と、公知の方法から選ばれる任意の方法とを組み合わせて、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物の硬化を行なうことも好ましい。例えば、加熱や送風、電磁波の照射といった方法を、赤外線照射と組み合わせて使用しても良い。
【0043】
尚、本発明において、赤外線とは0.1μm~1mmの範囲の波長を有する電磁波を指し、近赤外線とは波長0.75~4μmの赤外線を指し、遠赤外線は波長4~1000μmの赤外線を指す。一般的に遠赤外線、近赤外線と呼ばれるどちらの赤外線を照射した場合であっても、本発明の効果は得ることが出来る。尤も、近赤外線を照射した場合には、より短時間で効率良く前記熱硬化性樹脂を硬化できる。
【0044】
また、本発明において、マイクロ波とは1mm~1mの範囲の波長を有する電磁波を指す。
照射するマイクロ波は200~1000Wのパワーを有することが好ましい。パワーが200W以上あれば、インクに残留する有機溶剤の気化が促進される、1000W以下であれば照射条件が穏和であり、基材や前記熱硬化性樹脂が変質する恐れが無い。
【0045】
本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物への好ましい赤外線照射時間は、照射するエネルギーや波長、近赤外線硬化型インクの組成、近赤外線硬化型インク塗布量によって異なるが、一般的には0.1秒間以上の照射が好ましい。照射時間が0.1秒間以上あることで、上述した好ましいパワーに収まる範囲での赤外線照射実施が可能となる。照射時間を長くすることで、インク組成物中の溶媒の十分な乾燥を行うことも可能であるが、高速での印刷や塗布を視野に入れると、照射時間は30秒間以内であることが好ましく、10秒間以内であることがより好ましい。
【0046】
赤外線の放射源としては、熱源から直接得ても良いし、熱媒体を介在させてそこから有効な赤外線放射を得ても良い。例えば、水銀、キセノン、セシウム、ナトリウム等の放電灯や、炭酸ガスレーザー、さらに白金、タングステン、ニクロム、カンタル等の電気抵抗体の加熱、等により赤外線を得ることが出来る。尚、好ましい放射源としてハロゲンランプが挙げられる。ハロゲンランプは熱効率も良く、立ち上がりが早い等の利点がある。
【0047】
本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物への赤外線の照射は、近赤外線硬化型インク塗布面側から行っても、裏面側から行なっても良い。両面から同時に照射を行なうことも好ましく、昇温乾燥や送風乾燥と組み合わせることも好ましい。また、必要に応じて集光板を用いるのがより好ましい。これらの方法を組み合わせることで、短時間の赤外線照射で硬化させることが可能となる。
【0048】
本発明に係る近赤外線吸収微粒子は可視光透過性を有するため、赤外線で硬化させることで、透明な赤外線遮蔽膜を簡便に得ることができる。また、各種顔料や染料を少なくとも1種類以上添加することで着色膜を容易に得ることができる。当該着色膜においては近赤外線吸収微粒子による色味への影響もほとんどない為、液晶ディスプレィのカラーフィルター等に用いることが可能となる。
【0049】
上述した着色膜を得る為に本発明において使用できる顔料としては、公知の顔料を特に制限なく使用でき、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料およびカーボンブラック等の無機顔料を好ましく用いることができる。
これらの顔料は、本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物中に分散された状態で存在させることが好ましい。これらの顔料の分散方法としては、公知の方法を特に限定なく使用することができる。
【0050】
上述したように不溶性顔料は特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等は好ましいものである。
【0051】
上述したように顔料は特に限定するものではないが、好ましく用いられる具体的顔料名を以下に挙げる。
【0052】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0053】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0054】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0055】
ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0056】
上述したように無機顔料は特に限定するものではないが、カーボンブラック、二酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、混合酸化金属リン酸塩、酸化鉄、酸化マンガン鉄、酸化クロム、ウルトラマリン、ニッケルまたはクロムアンチモンチタン酸化物、酸化コバルト、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ケイ酸塩、酸化ジルコニウム、コバルトとアルミニウムの混合酸化物、硫化モリブデン、ルチル混合相顔料、希土類の硫化物、バナジン酸ビスマス、水酸化アルミニウムや硫酸バリウムからなる体質顔料等は、好ましいものである。
【0057】
本発明に係る近赤外線硬化型インク組成物中に含有される分散状態の顔料の平均粒子径は、1nm以上、200nm以下であることが好ましい。顔料分散液の平均粒子径が1nm以上、200nm以下であれば、近赤外線硬化型インク組成物中の保存安定性が良好だからである。
【0058】
上述したように本発明において使用される染料としては、特に制限はなく、油溶性染料または水溶性染料のいずれでも使用することができ、イエロー染料、マゼンタ染料、シアン染料など等を好ましく用いることができる。
【0059】
イエロー染料としては、例えばカップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類、開鎖型活性メチレン化合物類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカップリング成分として開鎖型活性メチレン化合物類を有するアゾメチン染料;例えばベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;例えばナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料などがあり、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。これらの染料は、クロモフォアの一部が解離して初めてイエローを呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであっても良いし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであっても良い。
【0060】
マゼンタ染料としては、例えばカップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカップリング成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類を有するアゾメチン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、オキソノール染料のようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料、例えばナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン系染料、例えばジオキサジン染料等のような縮合多環系染料等を挙げることができる。これらの染料は、クロモフォアの一部が解離して初めてマゼンタを呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであっても良いし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであっても良い。
【0061】
シアン染料としては、例えばインドアニリン染料、インドフェノール染料のようなアゾメチン染料;シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料のようなポリメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料;フタロシアニン染料;アントラキノン染料;例えばカップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料、インジゴ・チオインジゴ染料を挙げることができる。これらの染料は、クロモフォアの一部が解離して初めてシアンを呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであっても良いし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであっても良い。また、ポリアゾ染料などのブラック染料も使用することができる。
【0062】
上述したように本発明において使用される水溶性染料としては、特に制限はなく、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、等を好ましく用いることができる。
【0063】
水溶性染料として、好ましく用いられる具体的染料名を以下に挙げる。
C.I. ダイレクトレッド2、4、9、23、26、31、39、62、63、72、75、76、79、80、81、83、84、89、92、95、111、173、184、207、211、212、214、218、21、223、224、225、226、227、232、233、240、241、242、243、247、
C.I. ダイレクトバイオレット7、9、47、48、51、66、90、93、94、95、98、100、101、
C.I. ダイレクトイエロー8、9、11、12、27、28、29、33、35、39、41、44、50、53、58、59、68、86、87、93、95、96、98、100、106、108、109、110、130、132、142、144、161、163、
C.I. ダイレクトブルー1、10、15、22、25、55、67、68、71、76、77、78、80、84、86、87、90、98、106、108、109、151、156、158、159、160、168、189、192、193、194、199、200、201、202、203、207、211、213、214、218、225、229、236、237、244、248、249、251、252、264、270、280、288、289、291、
C.I. ダイレクトブラック9、17、19、22、32、51、56、62、69、77、80、91、94、97、108、112、113、114、117、118、121、122、125、132、146、154、166、168、173、199、
C.I. アシッドレッド35、42、52、57、62、80、82、111、114、118、119、127、128、131、143、151、154、158、249、254、257、261、263、266、289、299、301、305、336、337、361、396、397、
C.I. アシッドバイオレット5、34、43、47、48、90、103、126、
C.I. アシッドイエロー17、19、23、25、39、40、42、44、49、50、61、64、76、79、110、127、135、143、151、159、169、174、190、195、196、197、199、218、219、222、227、
C.I. アシッドブルー9、25、40、41、62、72、76、78、80、82、92、106、112、113、120、127:1、129、138、143、175、181、205、207、220、221、230、232、247、258、260、264、271、277、278、279、280、288、290、326、
C.I. アシッドブラック7、24、29、48、52:1、172、
C.I. リアクティブレッド3、13、17、19、21、22、23、24、29、35、37、40、41、43、45、49、55、
C.I. リアクティブバイオレット1、3、4、5、6、7、8、9、16、17、22、23、24、26、27、33、34、
C.I. リアクティブイエロー2、3、13、14、15、17、18、23、24、25、26、27、29、35、37、41、42、
C.I. リアクティブブルー2、3、5、8、10、13、14、15、17、18、19、21、25、26、27、28、29、38、
C.I. リアクティブブラック4、5、8、14、21、23、26、31、32、34、
C.I. ベーシックレッド12、13、14、15、18、22、23、24、25、27、29、35、36、38、39、45、46、
C.I. ベーシックバイオレット1、2、3、7、10、15、16、20、21、25、27、28、35、37、39、40、48、
C.I. ベーシックイエロー1、2、4、11、13、14、15、19、21、23、24、25、28、29、32、36、39、40、
C.I. ベーシックブルー1、3、5、7、9、22、26、41、45、46、47、54、57、60、62、65、66、69、71、
C.I. ベーシックブラック8、等が挙げられる。

【0064】
以上説明した、近赤外線硬化型インクに含まれる着色材の顔料や近赤外線吸収微粒子の粒径は、近赤外線硬化型インクの塗布装置の特性を考慮して定めることが好ましい。
【実施例
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
WOで記載されるタングステン酸と炭酸セシウムの粉末とを、WとCsのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両粉を混合した。この混合粉末を出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(窒素/水素=97/3(体積比))中において600℃で1時間加熱し、アルゴン雰囲気に置換後800℃で1時間加熱することで、Cs0.33WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また。X線回折による結晶相の同定の結果、単相の六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)であった。
【0066】
このCs0.33WO粉末を20重量部、メチルイソブチルケトン65重量部、アクリル系分散剤15重量部を混合した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、6時間分散処理を行い、分散粒径80nmのCs0.33WO分散液(A液)とした。このA液25重量部と、市販の一液タイプで未硬化の熱硬化性樹脂を含む熱硬化型インク(帝国インキ製造社製、MEG スクリーンインキ(メジウム))75重量部とを混合して、実施例1に係る近赤外線硬化型インクを調製した。
この近赤外線硬化型インクをガラス上にバーコーター(No.10)を用いて塗布し、近赤外線の照射源として株式会社ハイベック社製ラインヒーター HYP-14N(出力980W)を塗布面から5cmの高さに設置し、10秒間、近赤外線を照射して硬化膜を得た。
得られた硬化膜は、目視で透明であることが確認された。
【0067】
得られた硬化膜の密着性は、以下に示す方法で評価した。
100個の升目状の切り傷を、隙間間隔1mmのカッターガイドを用いて付け、18mm幅のテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT-18)を升目上の切り傷面に貼り付け、2.0kgのローラーを20往復して完全に付着させた後、180度の剥離角度で急激に剥がし、剥がれた升目の数を数えた。
剥がれた升目の数は0であった。
【0068】
得られた硬化膜へ、上述した近赤外線硬化型インク硬化の際と同条件の近赤外線を20秒間照射しても、当該硬化膜が再融解することはなかった。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、A液30重量部と、市販の一液タイプの熱硬化型インク70重量部とを混合した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例2に係る硬化膜を得た。
【0070】
得られた実施例2に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例2に係る硬化膜は、ガラス基板との密着性が良好であり、剥がれた升目の数は0であった。
【0071】
(実施例3)
実施例1において、A液35重量部と、市販の一液タイプの熱硬化型インク65重量部とを混合した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例3に係る近赤外線硬化膜を得た。
【0072】
得られた実施例3に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例3に係る硬化膜は、ガラス基板との密着性が良好であり、剥がれた升目の数は0であった。
【0073】
(実施例4)
実施例1に係る近赤外線硬化型インクを米坪81.4g/mの上質紙(日本製紙製、npi上質)上に塗布した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例4に係る硬化膜を得た。得られた上質紙に塗布された硬化膜の状態を次のように評価した。
【0074】
(上質紙に塗布された硬化膜の評価)
作製直後の硬化膜上に未印字の上質紙を重ね、上からばれんで擦り、重ねた紙への試料からのインクの付着状態を評価した。
但し、○:重ねた紙面へのインク付きがない
△:重ねた紙面の1%以上にインクの付着が見られる。
×:重ねた紙面の3%以上の面積にインクの付着が見られる。
この結果、実施例4に係る硬化膜の評価結果は〇であった。
【0075】
(実施例5)
実施例1のA液と同様であるが、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーで、4時間分散処理を行うことで、分散粒径150nmのCs0.33WO分散液(B液)を調製した。
A液に替えて、当該B液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例5に係る硬化膜を得た。
得られた硬化膜は、目視で透明であることが確認された。
【0076】
得られた実施例5に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例5に係る硬化膜は、ガラス基板との密着性が良好であり、剥がれた升目の数は0であった。
【0077】
(実施例6)
実施例1のA液と同様であるが0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーで、2時間分散処理を行うことで、分散粒径800nmのCs0.33WO分散液(C液)を調製した。
A液に替えて、当該C液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例6に係る硬化膜を得た。
得られた硬化膜は、目視で透明であることが確認された。
【0078】
得られた実施例6に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例6に係る硬化膜において、剥がれた升目の数は24であった。
【0079】
(実施例7)
実施例1のA液と同様であるが0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーで、10時間分散処理を行うことで、分散粒径20nmのCs0.33WO分散液(D液)を調製した。
A液に替えて、当該D液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例7に係る硬化膜を得た。
得られた硬化膜は、目視で透明であることが確認された。
【0080】
得られた実施例7に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例7に係る硬化膜において、剥がれた升目の数は0であった。
【0081】
(実施例8)
実施例1のA液25重量部と、未硬化のビスフェノールA型エポキシ樹脂37.5重量部と、硬化促進剤を添加した硬化剤37.5重量部混合した以外は、実施例1と同様にして実施例8に係る近赤外線硬化型インクを調製した。なお、硬化剤は、フェノール樹脂とイミダゾールの混合物である。
実施例8に係る近赤外線硬化型インクを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例8に係る硬化膜を得た。
【0082】
得られた実施例8に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例8に係る硬化膜において、剥がれた升目の数は0であった。
【0083】
(実施例9)
実施例1のA液30重量部と、未硬化のビスフェノールA型エポキシ樹脂35重量部と、硬化促進剤を添加した硬化剤35重量部混合した以外は、実施例1と同様にして実施例9に係る近赤外線硬化型インクを調製した。なお、硬化剤は、フェノール樹脂とイミダゾールの混合物である。
実施例9に係る近赤外線硬化型インクを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例9に係る硬化膜を得た。
【0084】
得られた実施例9に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例9に係る硬化膜は、ガラス基板との密着性が良好であり、剥がれた升目の数は0であった。
【0085】
(実施例10)
実施例1のA液35重量部と、未硬化のビスフェノールA型エポキシ樹脂32.5重量部と、硬化促進剤を添加した硬化剤32.5重量部混合した以外は、実施例1と同様にして実施例10に係る近赤外線硬化型インクを調製した。なお、硬化剤は、フェノール樹脂とイミダゾールの混合物である。
実施例10に係る近赤外線硬化型インクを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例10に係る硬化膜を得た。
【0086】
得られた実施例10に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価した。
実施例10に係る硬化膜は、ガラス基板との密着性が良好であり、剥がれた升目の数は0であった。
【0087】
(実施例11)
実施例8に係る近赤外線硬化型インクを米坪81.4g/mの上質紙(日本製紙製、npi上質)上に塗布した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例11に係る硬化膜を得た。得られた上質紙に塗布された硬化膜の状態を実施例4と同様の方法で評価した。
この結果、実施例11に係る硬化膜の評価結果は〇であった。
【0088】
(比較例1)
メチルイソブチルケトン65重量部、アクリル系分散剤15重量部を混合した液(E液)を調製した。
A液に替えて、当該E液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1に係る硬化膜を得ようとした。
しかし膜はまったく硬化せず、硬化膜は得られなかった。
【0089】
(比較例2)
Cs0.33WO粉末に替えて、フタロシアニン粉末を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例2に係る硬化膜を得た。
【0090】
得られた比較例2に係る硬化膜の密着性を、実施例1と同様の方法で評価しようとした。
比較例2に係る硬化膜は硬化が不十分で、密着性評価ができなかった。
【0091】
(比較例3)
A液に替えて比較例1に係るE液を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行って、比較例3に係る硬化膜を得た。
上質紙に塗布された比較例3に係る硬化膜の評価を、実施例4と同様にして行ったところ、比較例3に係る硬化膜の評価結果は×であった。
【0092】
(比較例4)
市販の一液タイプで未硬化の熱硬化性樹脂を含む熱硬化型インク(帝国インキ製造社製、MEG スクリーンインキ(メジウム))75重量部に替えて、熱可塑性樹脂であるスチレン樹脂40重量部をメチルエチルケトン60重量部に溶解したスチレン溶液75重量部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例4に係る硬化膜を得た。
【0093】
得られた硬化膜へ、上述した近赤外線硬化型インク硬化の際と同条件の近赤外線を20秒間照射したところ硬化膜が軟化した。当該軟化が確認されたので、他の評価は取りやめた。
【0094】
(比較例5)
A液に替えて比較例1に係るE液を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行って、比較例5に係る硬化膜を得ようとした。
しかし膜はまったく硬化せず、硬化膜は得られなかった。
【0095】
(比較例6)
A液に替えて比較例1に係るE液を用いた以外は、実施例11と同様の操作を行って、比較例6に係る硬化膜を得た。得られた上質紙に塗布された硬化膜の状態を実施例4と同様の方法で評価した。
この結果、比較例6に係る硬化膜の評価結果は×であった。