(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220222BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220222BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220222BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220222BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
C01G41/00 A
(21)【出願番号】P 2018020330
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 潤
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-299668(JP,A)
【文献】特開2004-235166(JP,A)
【文献】特開2002-075367(JP,A)
【文献】特開2017-084628(JP,A)
【文献】特開2016-183090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
C01G 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Ni、Co、及び添加元素M(ただし、添加元素MはMn、V、Mg、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)を含むリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粉末と、
該リチウムニッケル複合酸化物粉末の前記二次粒子の表面、及び前記一次粒子の表面に、配置され、Li、W、及びMoを含有するLiWMo化合物と、を有する非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
含有するW及びMoの原子数の合計が、含有するNi、Co及び添加元素Mの原子数の合計に対して、0.05原子%以上1.0原子%以下である請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記LiWMo化合物の少なくとも一部が粒子状であり、その粒子径が1nm以上500nm以下である請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記LiWMo化合物の少なくとも一部が膜状であり、その膜厚が1nm以上10nm以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
Li、Ni、Co、及び添加元素M(ただし、添加元素MはMn、V、Mg、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)を含むリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粉末を水洗し、固液分離することで洗浄ケーキとする水洗工程と、
前記洗浄ケーキと、Li、W、及びMoを含有するLiWMo化合物の粉末と、を混合して混合物を調製する混合工程と、
該混合物に対して、60℃以上80℃以下の熱処理温度で熱処理を行う第1熱処理ステップ、及び100℃以上200℃以下の熱処理温度で熱処理を行う第2熱処理ステップを有する熱処理工程と、を備えた非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、一般式:Li
zNi
1-x-yCo
xM
yO
2(ただし、0.03≦x≦0.35、0.01≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20、MはMn、V、Mg、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される請求項5に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
LiWMo化合物が、一般式:Li
2W
1-bMo
bO
4又はLi
4W
1-bMo
bO
5(ただし、0.1≦b≦0.5)で表される請求項5または6に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程において、前記LiWMo化合物の粉末に含まれるW及びMoの原子数の合計が、前記洗浄ケーキに含まれるNi、Co及びMの原子数の合計に対して、0.05原子%以上1.0原子%以下である請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記洗浄ケーキの水分率は、2.0質量%以上10.0質量%以下である請求項5~請求項8のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記LiWMo化合物の粉末を、イソプロピルアルコール(IPA)中で30秒間の超音波分散処理を施した後、レーザ散乱粒度分布計を用いて粒度分布を測定することで得られる、前記LiWMo化合物の粉末の体積平均粒径が20μm以下である請求項5~請求項9のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記LiWMo化合物の粉末を調製するLiWMo化合物粉末調製工程をさらに有しており、
前記LiWMo化合物粉末調製工程は、
水酸化リチウム(LiOH)と酸化タングステン(WO
3)と酸化モリブデン(MoO
3)とを有する出発原料に、前記出発原料の全質量を1とした場合に、質量比で0.1以上1以下の水を添加して湿式混合してスラリーを形成するスラリー形成ステップと、
前記スラリーを100℃以上200℃以下の温度で乾燥し、乾燥物とする乾燥ステップと、
前記乾燥物を解砕する解砕ステップと、を有する請求項5~請求項10のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備えた非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池に代表される非水系電解質二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極及び正極と電解液等で構成され、負極及び正極の活物質には、リチウムを脱離及び挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
このような非水系電解質二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウムニッケル複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0006】
このうちリチウムニッケル複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されている。正極活物質に要求される性能として、近年では高出力化に必要な低抵抗化が重要視されている。
【0007】
上記低抵抗化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
【0008】
例えば、特許文献1には、所定の組成式で表され、かつMo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる1種以上の元素が、Mn、Ni及びCoの合計モル量に対して0.1モル%以上、5モル%以下の割合で含有されていることを特徴とするリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案されている。そして、一次粒子の表面部分のLi並びにMo、W、Nb、Ta及びRe以外の金属元素の合計に対するMo、W、Nb、Ta及びReの合計の原子比が、一次粒子全体の該原子比の5倍以上であることが好ましいとされている。
【0009】
特許文献1によれば、係るリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体をリチウム二次電池正極材料として用いた場合、低コスト化及び高安全性化と高負荷特性、粉体取り扱い性向上の両立を図ることができるとされている。
【0010】
また、特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、該一次粒子のアスペクト比が所定の範囲内であり、該粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を備える化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0011】
係る非水電解質二次電池用正極活物質によれば、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、導電性が向上すると考えられるとされている。また、これにより熱安定性、負荷特性および出力特性の向上を損なうことなく、初期特性が向上するとされている。
【0012】
さらに、特許文献3には、負極,正極,リチウム塩を含む非水電解質からなる可逆的に複数回の充放電が可能な電池に関し、該正極における正極活物質の周りにTi、Al、Sn、Bi、Cu、Si、Ga、W、Zr、B、Moから選ばれた少なくとも一種を含む金属及びまたはこれら複数個の組み合わせにより得られる金属間化合物、及びまたは酸化物を被覆した正極活物質が提案されている。
【0013】
係る電池によれば、発火,爆発の要因となる酸素ガスを吸収させることで安全性を確保できるため、従来難しいとされてきた安全性試験の中でも特に、1.5~2.5℃の低電圧で発火する過充電や、低温での過充電,圧壊,釘さし,火中投棄などで効果を発揮できるとされている。
【0014】
特許文献4には、LiaNixCoyAlzO2で平均組成が表される複合酸化物粒子にタングステン酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下である正極活物質が提案されている。
【0015】
係る正極活物質によれば、非水電解液等の分解によるガス発生を抑制することができるとされている。または、正極活物質中自身からのガス発生を抑制することができるとされている。
【0016】
特許文献5には、一般式LizNi1-x-yCoxMyO2(ただし、0.10≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、
前記リチウム金属複合酸化物の表面に、Li2WO4、Li4WO5、Li6W2O9のいずれかで表されるタングステン酸リチウムを含む微粒子を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0017】
特許文献5に開示された非水系電解質二次電池用正極活物質によれば、電池の正極材に用いられた場合に高容量とともに高出力が実現可能な非水系電解質二次電池用正極活物質が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2009-289726号公報
【文献】特開2005-251716号公報
【文献】特開平11-16566号公報
【文献】特開2010-40383号公報
【文献】特開2013-125732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述の特許文献1~特許文献4においては、電池の正極材に用いられた場合に、高容量とともに高出力とすることについて認識されておらず、検討されていなかった。
【0020】
また、特許文献5に開示された非水系電解質二次電池用正極活物質によれば、電池の正極材に用いられた場合に、高容量とともに高出力とすることができるものの、近年では更なる高容量化が求められている。
【0021】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、電池の正極材に用いた場合に、高容量とともに高出力が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
Li、Ni、Co、及び添加元素M(ただし、添加元素MはMn、V、Mg、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)を含むリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粉末と、
該リチウムニッケル複合酸化物粉末の前記二次粒子の表面、及び前記一次粒子の表面に、配置され、Li、W、及びMoを含有するLiWMo化合物と、を有する非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、電池の正極材に用いた場合に、高容量とともに高出力が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例、比較例で電池評価に使用したコイン型電池の概略説明図。
【
図2】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図。
【
図3】実施例で作製した正極活物質の断面SEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質]
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0026】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、リチウムニッケル複合酸化物粉末と、LiWMo化合物とを有する。
【0027】
そして、リチウムニッケル複合酸化物粉末は、Li(リチウム)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、及び添加元素Mを含むリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び該一次粒子が凝集して構成された二次粒子を有することができる。なお、添加元素MはMn(マンガン)、V(バナジウム)、Mg(マグネシウム)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)及びAl(アルミニウム)から選ばれる少なくとも1種の元素とすることできる。
【0028】
また、LiWMo化合物は、リチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子の表面、及び一次粒子の表面に配置され、Li、W(タングステン)、及びMo(モリブデン)を含有することができる。
【0029】
本実施形態の正極活物質は、母材として、一次粒子及び該一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粉末を用いており、これにより高い充放電容量を得ることができる。
【0030】
リチウムニッケル複合酸化物粉末のリチウムニッケル複合酸化物の組成は特に限定されないが、例えば一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2(ただし、0.03≦x≦0.35、0.01≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20)で表されることが好ましい。上記一般式中の添加元素MはMn、V、Mg、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0031】
なお、本実施形態の正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物粉末と、後述するLiWMo化合物とを含んでいる。このため、該正極活物質の組成分析を行った場合に、リチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の組成を規定することは困難な場合がある。このような場合には、本実施形態の正極活物質を調製する際に用いた、原料となるリチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の組成を、本実施形態の正極活物質のリチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の組成とすることができる。
【0032】
本実施形態の正極活物質はさらに、リチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子表面と、一次粒子表面とに、LiWMo化合物を有している。なお、係る一次粒子表面とは、具体的には二次粒子の内部に存在する一次粒子表面を意味している。以下、リチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子表面と二次粒子の内部に存在する一次粒子表面とをあわせて粒子表面ということもある。
【0033】
本実施形態の正極活物質は、このようにリチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面にLiWMo化合物を配置することにより、充放電容量を維持しながら出力特性を向上させた正極活物質とすることができる。すなわち、本実施形態の正極活物質は、上述の構成を有することで、電池の正極材に用いた場合に、高容量とともに高出力が得られる正極活物質とすることができる。
【0034】
LiWMo化合物の組成は特に限定されないが、Li、W、Moを含む化合物であることが好ましく、Li、W、Moを含む酸化物であることがより好ましい。LiWMo化合物は、例えば一般式:Li2W1-bMobO4、またはLi4W1-bMobO5(ただし、0.1≦b≦0.5)で表される化合物を好適に用いることができる。
【0035】
一般的に、正極活物質の母材の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物のもつ高容量という長所が消されてしまうと考えられていた。
【0036】
本実施形態の正極活物質においては、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面にLiWMo化合物を形成させているが、本発明の発明者らの検討によれば、LiWMo化合物はリチウムイオン伝導度(リチウムイオン伝導率)が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面に上記化合物を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、正極活物質の反応抵抗(以下、正極抵抗ということがある。)を低減して出力特性を向上させるものである。
【0037】
すなわち、正極抵抗が低減されることで、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量も向上するものである。
【0038】
ここで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子表面のみをLiWMo化合物の層状物で被覆した場合には、その被覆厚みに関わらず、正極活物質の比表面積が小さくなる。このため、たとえ被覆物であるLiWMo化合物が高いリチウムイオン伝導度をもっていたとしても、正極活物質と、電解液との接触面積が小さくなってしまい、それによって充放電容量の低下、正極抵抗の上昇を招く恐れもある。しかし、本実施形態の正極活物質においては、二次粒子表面だけでなくその内部に存在する一次粒子表面にまでLiWMo化合物を配置している。このため、本実施形態の正極活物質においては、比表面積が大きくなり、正極活物質と、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導度を効果的に向上でき、電池の正極材料として用いた場合に高容量とともに、正極抵抗を低減し、高出力とすることができる。
【0039】
LiWMo化合物の形態は特に限定されず、例えば少なくとも一部を粒子状とすることができる。また、少なくとも一部を膜状とすることもできる。LiWMo化合物は、粒子状のものと、膜状のものとが混在していても良い。
【0040】
LiWMo化合物は、粒子状の場合はその粒子径は1nm以上500nm以下であることが好ましい。これはLiWMo化合物が粒子状であり、粒子径が1nm以上の場合、特に高いリチウムイオン伝導度を有することができるからである。また、LiWMo化合物が粒子状であり、その粒子径が500nm以下の場合、該粒子による被覆の形成を特に均一にすることができ、正極抵抗の低減効果、すなわち高出力化の効果を特に十分に発揮できるからである。
【0041】
また、LiWMo化合物は、膜状の場合はその膜厚は1nm以上10nm以下であることが好ましい。これは、LiWMo化合物が膜状であり、膜厚が1nm以上の場合、特に高いリチウムイオン伝導度を有することができるからである。また、LiWMo化合物が膜状であり、膜厚を10nm以下の場合、正極活物質と電解液との接触面積を特に高くすることができるため、特に正極抵抗を抑制し、高出力とすることができるからである。
【0042】
なお、既述の様にリチウムニッケル複合酸化物粉末と、電解液との接触は、一次粒子表面でも起こるため、リチウムニッケル複合酸化物粉末の一次粒子表面にLiWMo化合物が配置されていることが重要である。
【0043】
リチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子表面及びその内部に存在する一次粒子表面(あわせて粒子表面)は、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍及び内部の空隙に露出している一次粒子表面を含む。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば粒子表面に含まれるものである。
【0044】
リチウムニッケル複合酸化物粉末と電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、上記二次粒子の表面近傍及び内部の空隙、さらには上記不完全な粒界でも生じるため、上記一次粒子表面にもLiWMo化合物を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが好ましい。
【0045】
したがって、粒子表面全体にLiWMo化合物を形成させることで、リチウムニッケル複合酸化物の正極抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0046】
このようなリチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面の性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡で観察することにより判断できる。本実施形態の正極活物質については、リチウムニッケル複合酸化物粉末の一次粒子の表面に、粒子状、及び膜状から選択された1種類以上の形状のLiWMo化合物が形成されていることが好ましい。
【0047】
本実施形態の正極活物質において、含有するW及びMoの原子数の合計は、特に限定されないが、含有するNi、Co及び添加元素Mの原子数の合計に対して、0.05原子%以上1.0原子%以下であることが好ましい。特に、本実施形態の正極活物質が含有するW及びMoの原子数の合計は、本実施形態の正極活物質が含有するNi、Co及び添加元素Mの原子数の合計に対して、0.10原子%以上0.50原子%以下であることがより好ましく、0.15原子%以上0.30原子%以下であることがさらに好ましい。正極活物質に含まれる、W及びMoの原子数の合計を上記範囲とすることで、特に高い充放電容量と出力特性を発揮することができる。
【0048】
なお、本実施形態の正極活物質が含有するW、Moは、本実施形態の正極活物質が含有するLiWMo化合物に由来し、Ni、Co、及び添加元素Mは、本実施形態の正極活物質が含有するリチウムニッケル複合酸化物に由来することになる。
【0049】
リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面に配置されるLiWMo化合物は、例えば後述するように、リチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を水洗及び固液分離して得られる洗浄ケーキにLiWMo化合物粉末添加し、熱処理することにより形成できる。これは、リチウムニッケル複合酸化物の洗浄ケーキが保持している水分にLiWMo化合物粉末が溶解してリチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面に分散し、水分が蒸発することで粒子表面にLiWMo化合物が形成するためと考えられる。
【0050】
そして、LiWMo化合物に含まれるW及びMoの原子数の合計が、リチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるNi、Co及び添加元素Mの原子数の合計に対して0.05原子%以上の場合、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面をLiWMo化合物により十分に被覆できる。このため、得られる正極活物質の出力特性を特に高めることができ、好ましい。
【0051】
また、LiWMo化合物に含まれるW及びMoの原子数の合計を、リチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるNi、Co及び添加元素Mの原子数の合計に対して1.0原子%以下とすることで、正極活物質の比表面積を特に大きくすることができる。このため、正極活物質と、電解液との接触面積を大きくすることができ、さらに充放電容量を高め、正極抵抗を抑制できる。すなわち、特に高容量、高出力とすることができる。
【0052】
リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面に配置したLiWMo化合物の分散の程度は特に限定さない。しかし、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子間で不均一にLiWMo化合物が形成された場合は、二次粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定の二次粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化等を招きやすい。
【0053】
このため、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子間においても均一にLiWMo化合物が形成されていることが好ましい。
【0054】
ここまで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の表面にLiWMo化合物を配置することによる出力特性の改善効果を説明したが、係る効果は母材にリチウムニッケル複合酸化物粉末を用いた場合に限定されない。例えば、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物などの粉末、さらに本実施形態で掲げた正極活物質だけでなく、一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質にも適用できる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0055】
Li、Ni、Co、及び添加元素Mを含むリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子、及び該一次粒子が凝集して構成された二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粉末を水洗し、固液分離することで洗浄ケーキとする水洗工程。
洗浄ケーキと、Li、W、及びMoを含有するLiWMo化合物の粉末と、を混合して混合物を調製する混合工程。
該混合物に対して、60℃以上80℃以下の熱処理温度で熱処理を行う第1熱処理ステップ、及び100℃以上200℃以下の熱処理温度で熱処理を行う第2熱処理ステップを有する熱処理工程。
なお、添加元素MはMn、V、Mg、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素とすることができる。
【0056】
以下、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0057】
ただし、本実施形態の正極活物質の製造方法により、既述の正極活物質を製造することができるため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
(1)水洗工程
水洗工程では、一次粒子及び一次粒子が凝集して構成された二次粒子を有するリチウムニッケル複合酸化物粉末を、水と混合してスラリーを形成することで水洗し、濾過等により固液分離することで洗浄ケーキを得ることができる。洗浄ケーキは、水分と、洗浄されたリチウムニッケル複合酸化物粉末とを含むことができる。
【0058】
水洗工程に供するリチウムニッケル複合酸化物粉末が含有するリチウムニッケル複合酸化物の組成は特に限定されないが、該リチウムニッケル複合酸化物は、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2で表されることが好ましい。なお、上記一般式中x、y、zは0.03≦x≦0.35、0.01≦y≦0.35、0.95≦z≦1.20を満たすことが好ましい。また、添加元素MはMn、V、Mg、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素とすることができる。また、リチウムニッケル複合酸化物粉末は、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合酸化物から構成されることもできる。ただし、この場合も製造工程等における不可避成分を含むことを排除するものではない。
【0059】
水洗工程に供するリチウムニッケル複合酸化物粉末の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法にて作製されたものを用いればよい。
【0060】
一般的にリチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面には、未反応のリチウム化合物が存在している。特にニッケル複合水酸化物粒子もしくはニッケル複合酸化物粒子と、リチウム化合物粒子との混合物を焼成して得られたリチウムニッケル複合酸化物粉末においては、粒子表面に未反応のリチウム化合物が残留し易い。
【0061】
そこで、水洗工程を実施してリチウムニッケル複合酸化物粉末を水洗することで、リチウムニッケル複合酸化物粉末から電池特性を劣化させる恐れのある過剰な水酸化リチウムや炭酸リチウムなどの未反応のリチウム化合物やその他の不純物元素を除去することが好ましい。
【0062】
水洗工程において、リチウムニッケル複合酸化物粉末と水とを混合してスラリーを形成する際、スラリー濃度を500g/L以上1500g/L以下とすることが好ましく、750g/L以上1000g/L以下とすることがより好ましい。ここで、スラリー濃度は「g/L」は、水1Lと混合するリチウムニッケル複合酸化物粉末の質量「g」を意味する。
【0063】
スラリー濃度を500g/L以上とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面の未反応リチウム化合物を選択的に除去することが可能になる。このため、水洗を行った際に、リチウムニッケル複合酸化物粉末の結晶中からリチウムを引き抜くことを防止し、水洗後のリチウムニッケル複合酸化物を用いて調製した正極活物質を正極材料に用いて電池とした場合に、電池特性を高めることが可能になる。
【0064】
また、スラリー濃度を1500g/L以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面に付着した未反応リチウム化合物や、不純物元素等を特に低減、除去することができる。このため、水洗後のリチウムニッケル複合酸化物粉末を用いて調製した正極活物質粉末を正極材料に用いて電池とした場合に電池特性を高めることが可能になり好ましい。
【0065】
水洗時の温度、すなわち水洗温度は特に限定されないが、10℃以上40℃以下とすることが好ましく、20℃以上30℃以下とすることがより好ましい。水洗温度を10℃以上とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面の未反応リチウム化合物等を特に低減、除去することができる。このため、水洗後のリチウムニッケル複合酸化物粉末を用いて調製した正極活物質を正極材料に用いて電池とした場合に電池特性を高めることが可能になり好ましい。
【0066】
また、水洗温度を40℃以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面の未反応リチウム化合物を選択的に除去することが可能になる。このため、水洗を行った際に、リチウムニッケル複合酸化物粉末の結晶中からリチウムを引き抜くことを防止し、水洗後のリチウムニッケル複合酸化物粉末を用いて調製した正極活物質を正極材料に用いて電池とした場合に、電池特性を高めることが可能になる。
【0067】
水洗時間は特に限定されないが、5分間以上60分間以下程度とすることが好ましい。水洗時間を5分間以上とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面の未反応リチウム化合物や不純物元素を特に低減、除去することができ、好ましいからである。
【0068】
また、水洗時間を60分間よりも長い時間水洗を実施しても、洗浄効果に大きな変化はなく、60分間以下とすることで生産性を高めることができる。
【0069】
スラリーを形成するために使用する水は、特に限定されないが、リチウムニッケル複合酸化物粉末への不純物の付着による電池特性の低下を防ぐ上では、電気伝導率が10μS/cm未満の水が好ましく、1μS/cm以下の水がより好ましい。
【0070】
水洗工程では、リチウムニッケル複合酸化物粉末と、水とを混合し、スラリーとした後、固液分離することで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の洗浄ケーキを得ることができる。固液分離の方法は、特に限定されるものではなく、通常に用いられる装置や方法で実施される。例えば、ヌッチェ(ブフナー漏斗)等の吸引濾過機、遠心機、フィルタープレス等から選択された1種類以上の固液分離手段を好ましく用いることができる。
【0071】
水洗工程の固液分離によって得られた、洗浄されたリチウムニッケル複合酸化物粉末を含むケーキ、すなわち洗浄ケーキの水分率は特に限定されないが、2.0質量%以上10.0質量%以下とすることが好ましく、3.0質量%以上8.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0072】
水分率を2.0質量%以上とすることで、後述する混合工程等においてLiWMo化合物の粉末を溶解させるために必要な水分の量をより十分なものとすることができる。このため、混合工程等においてリチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれる粒子の二次粒子の外部と通じている一次粒子間の空隙や不完全な粒界にまで、水分とともにLiWMo化合物が浸透し、一次粒子表面にLiWMo化合物を分散させることができる。
【0073】
また、洗浄ケーキの水分率を10.0質量%以下とすることで、洗浄ケーキのスラリー化による高粘度化を抑制してLiWMo化合物の粉末の混合を容易にするとともに、乾燥時間を短縮して生産性をさらに向上させることができる。また、洗浄ケーキの水分率を10.0質量%以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粉末からのリチウムの溶出を抑制し、本実施形態の正極活物質の製造方法により得られる正極活物質を電池の正極材料に用いた際の電池特性を高めることができる。
(2)混合工程
混合工程は、水洗工程で得られた洗浄ケーキと、Li、W、及びMoを含有するLiWMo化合物の粉末とを混合して、リチウムニッケル複合酸化物粉末と、LiWMo化合物の粉末とを含む混合物(以下、単に混合物という。)を調製できる。
【0074】
混合工程に供するLiWMo化合物の粉末に含まれるLiWMo化合物の組成は特に限定されないが、例えば、LiWMo化合物は一般式:Li2W1-bMobO4又はLi4W1-bMobO5(ただし、0.1≦b≦0.5)で表されることが好ましい。なお、LiWMo化合物の粉末は、上記一般式で表されるLiWMo化合物から構成することもできるが、この場合でも製造工程等による不可避成分が含まれることを排除するものではない。
【0075】
リチウムニッケル複合酸化物粉末の洗浄スラリーと混合するLiWMo化合物の粉末の粒径等は特に限定されない。ただし、LiWMo化合物の粉末を、イソプロピルアルコール(IPA)中で30秒間の超音波分散処理を施した後、レーザ散乱粒度分布計を用いた粒度分布の測定で得られる体積平均粒径が20μm以下であることが好ましい。係る体積平均粒径を20μm以下とすることで、後述する熱処理工程において、LiWMo化合物をより確実に溶解させ、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面へ、LiWMo化合物を十分に形成できる。このため、得られた正極活物質を電池の正極材料として用いた場合に、正極抵抗を特に低減することができ、好ましい。
【0076】
なお、上記体積平均粒径は、例えば0より大きければよく、その下限値は特に限定されない。
【0077】
混合工程において、LiWMo化合物の粉末と、洗浄ケーキとを混合する割合は特に限定されない。混合工程では、例えば、LiWMo化合物の粉末に含まれるW及びMoの原子数の合計が、洗浄ケーキ、より具体的には洗浄ケーキ内のリチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるNi、Co及び添加元素Mの原子数の合計に対して、0.05原子%以上1.0原子%以下となるように混合することが好ましく、0.10質量%以上0.50原子%以下とすることがより好ましく、0.15質量%以上0.30質量%以下となるように混合することがさらに好ましい。
【0078】
すなわち、混合工程で調製する混合物中に含まれるW及びMoの原子数の合計は、リチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるNi、Co及び添加元素Mの原子数の合計に対して、0.05原子%以上1.0原子%以下とすることが好ましく、0.10原子%以上0.50原子%以下とすることがより好ましく、0.15原子%以上0.30原子%以下とすることがさらに好ましい。これにより、特に高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
【0079】
また、混合工程において、洗浄ケーキとLiWMo化合物の粉末とを混合する際の温度は特に限定されないが、係る混合は50℃以下の温度で行うことが好ましい。50℃以下とすることで、混合中の混合物の乾燥を抑制し、LiWMo化合物粉末を洗浄ケーキの水分に十分に溶解させることができ、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面に特に均一に分散させることができるからである。混合物の温度の下限値は特に限定されないが、例えば20℃以上とすることができる。なお、混合工程の間、少なくとも洗浄ケーキと、LiWMo化合物の粉末との混合物が上記温度を満たしていることが好ましく、係る混合物と混合物の周辺の気温とが上記温度を満たしていることがより好ましい。
【0080】
リチウムニッケル複合酸化物粉末の洗浄ケーキとLiWMo化合物の粉末を混合する際には、一般的な混合機を用いることができる。例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いてリチウムニッケル複合酸化物の粒子の形骸が破壊されない程度で十分に混合してやればよい。
(3)熱処理工程
熱処理工程は、混合物を熱処理する工程である。
【0081】
熱処理工程は、2段階で熱処理を実施することができる。すなわち、熱処理工程は第1熱処理ステップと、第1熱処理ステップの熱処理温度より高い温度で熱処理を行う第2熱処理ステップを有することができる。具体的には、熱処理工程は混合物に対して、60℃以上80℃以下の熱処理温度で熱処理を行う第1熱処理ステップ、及び100℃以上200℃以下の熱処理温度で熱処理を行う第2熱処理ステップを有することができる。
【0082】
第1熱処理ステップでは、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面にLiWMo化合物を分散させることができる。また、第2熱処理ステップでは、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面にLiWMo化合物を形成させることができる。
【0083】
第1熱処理ステップにおける熱処理温度は、上述のように60℃以上80℃以下とすることが好ましい。これは、第1熱処理温度を60℃以上とすることで、LiWMo化合物を、より確実にリチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子外部と通じている一次粒子間の空隙や不完全な粒界まで十分に浸透させることができるからである。一方、第1熱処理温度を80℃以下とすることで、水分の蒸発が急激に進行することを抑制し、LiWMo化合物がリチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子外部と通じている一次粒子間の空隙や不完全な粒界まで十分に浸透させることができる。
【0084】
第1熱処理ステップの熱処理時間は、特に限定されないが、LiWMo化合物を十分に浸透させるため、0.5時間以上2時間以下とすることが好ましい。
【0085】
第2熱処理ステップでは、第1熱処理ステップの熱処理温度より高い温度で熱処理することにより、混合物中の水分を十分に蒸発させ、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面にLiWMo化合物を形成させることができる。第2熱処理ステップの熱処理温度は、100℃以上200℃以下とすることが好ましい。
【0086】
第2熱処理ステップの熱処理温度を100℃以上とすることで、混合物中の水分を十分に蒸発させることができ、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面にLiWMo化合物を十分に形成できる。また、第2熱処理ステップの熱処理温度を200℃以下とすることで、LiWMo化合物を介してリチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子同士がネッキングを形成することや、リチウムニッケル複合酸化物粉末の比表面積が大きく低下することを抑制できる。このため、得られた正極活物質を正極材料に用いた電池とした場合に、電池特性を特に高めることができる。
【0087】
第2熱処理ステップの熱処理時間は、特に限定されないが、水分を十分に蒸発させて一次粒子表面にLiWMo化合物を形成させるために5時間以上15時間以下とすることが好ましい。
【0088】
熱処理工程における雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸と、リチウムニッケル複合酸化物粉末表面のリチウムとの反応を避けるため、脱炭酸空気、不活性ガスまたは真空雰囲気とすることが好ましい。
【0089】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、その他に任意の工程を有することもできる。
【0090】
例えば既述の混合工程に供するLiWMo化合物の粉末を調製するLiWMo化合物粉末調製工程をさらに有することもできる。
【0091】
この場合、LiWMo化合物粉末調製工程は以下のステップを有することができる。
【0092】
水酸化リチウム(LiOH)と酸化タングステン(WO3)と酸化モリブデン(MoO3)とを有する出発原料に、出発原料の全質量を1とした場合に、質量比で0.1以上1以下の水を添加して湿式混合してスラリーを形成するスラリー形成ステップ。
スラリーを100℃以上200℃以下の温度で乾燥し、乾燥物とする乾燥ステップ。
【0093】
乾燥物を解砕する解砕ステップ。
【0094】
各ステップについて説明する。
【0095】
スラリー形成ステップでは、水酸化リチウムと、酸化タングステンと、酸化モリブデンと、水とを混合してスラリーを形成することができる。
【0096】
水酸化リチウムと酸化タングステンと酸化モリブデンとを有する出発原料に水を添加して混合することでLiWMo化合物の反応は促進される。ただし、この際、出発原料の全質量を1とした場合に、質量比で水を0.1以上1以下となるように添加することが好ましい。これは出発原料に対する水の添加量を0.1以上とすることで、LiWMo化合物の反応を十分に促進することができるからである。また、出発原料に対する水の添加量を質量比で1以下とすることで、乾燥ステップにおける乾燥時間を抑制し、生産性を高めることができるからである。
【0097】
なお、出発原料に含まれる水酸化リチウムと、酸化タングステンと、酸化モリブデンとの混合比は特に限定されない。例えば、出発原料に含まれる各金属成分、すなわちLi、W、Moの物質量比(モル比)が、目的とするLiWMo化合物と同じになるように各原料を秤量、混合することができる。また、出発原料は、水酸化リチウムと、酸化タングステンと、酸化モリブデンとから構成することもできる。
【0098】
乾燥ステップでは、得られたスラリーを乾燥することができる。乾燥温度は、上述のように100℃以上200℃以下とすることが好ましい。これは乾燥温度を100℃以上とすることで、スラリーに含まれる水分を十分に除去し、LiWMo化合物が変質等することを抑制できる。
【0099】
また、乾燥温度を200℃以下とすることで、得られるLiWMo化合物の一次粒子同士が強いネッキングを起こすことを抑制できる。このため、次のステップである解砕ステップでの解砕時に、十分に解砕することができ、解砕機の摩耗等によるコンタミの発生、すなわち不純物の混入を抑制できる。さらに、乾燥温度を200℃以下とすることで、得られたLiWMo化合物の粉末を、リチウムニッケル複合酸化物粉末と混合する際に、LiWMo化合物の粉末の分散性を高めることができる。
【0100】
乾燥ステップにおける乾燥方法は特に限定されないが、例えば乾燥ステップに供するスラリーのスラリー濃度に応じて定置乾燥機、振動乾燥機、ドラムドライヤー、スプレードライヤーなど種々の乾燥機を用いることができる。
【0101】
解砕ステップでは、得られたLiWMo化合物について、解砕を行うことができる。解砕ステップで用いる解砕機等については特に限定されないが、解砕機からのコンタミを低減させるために、解砕機のLiWMo化合物との接触部には、タングステンカーバイトやテフロン(登録商標)によるコーティングを施した部材を用いるのが好ましい。
[非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
【0102】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備えた構成を有することができる。
【0103】
以下、具体的に説明する。
【0104】
本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、単に「二次電池」とも記載する)は、正極、負極、及び非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本実施形態の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0105】
以下に、本実施形態の二次電池が含む構成部材について説明する。
(1)正極
本実施形態の二次電池は、既述の正極活物質を含む正極を備えることができる。
【0106】
具体的には、既述の正極活物質を用い、例えば以下のようにして本実施形態の二次電池の正極を作製する。
【0107】
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0108】
その正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる場合があり、所定の範囲とすることが好ましい。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下とし、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下とし、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることが好ましい。
【0109】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。
【0110】
シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0111】
正極の作製にあたって、導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0112】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0113】
なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。
【0114】
溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0115】
なお、正極の製造方法は上記方法に限定されるものではなく、例えば正極合材や正極ペーストをプレス成型した後、真空雰囲気下で乾燥すること等で製造することもできる。
(2)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵及び脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0116】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質及び結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(3)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。
【0117】
セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(4)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0118】
使用する有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0119】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、及びそれらの複合塩を用いることができる。
【0120】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤及び難燃剤等を含んでいてもよい。
(5)電池の形状、構成
以上に説明した正極、負極、セパレータ及び非水系電解液で構成される本実施形態の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
【0121】
いずれの形状を採る場合であっても、正極及び負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、及び、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、二次電池を完成させる。
(6)特性
既述の正極活物質を用いた二次電池は、高容量で高出力となる。
【0122】
既述の正極活物質を用いた本実施形態の二次電池は、例えば、既述の正極活物質を2032型コイン型電池の正極に用いた場合、165mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られ、高容量で高出力となる。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0123】
本実施形態の二次電池は、その用途は特に限定されず、各種用途に用いることができる。ただし、本実施形態の二次電池は、高容量で、高出力であることから、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末等の常に高容量を要求される小型携帯電子機器の電源や、高出力が要求される電気自動車用の電源に好適に用いることができる。
【0124】
また、本実施形態の二次電池は、優れた安全性を有し、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適に用いることができる。なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーのみで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例】
【0125】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
(評価方法)
ここではまず、以下の実施例、比較例で製造した正極活物質、二次電池の評価方法について説明する。
(電池の製造及び評価)
各実施例、比較例で製造した正極活物質を用いて、
図1に示す2032型コイン型電池11(以下、「コイン型電池」と記載する)を製造し、その電池特性を評価した。
【0126】
図1に示すように、コイン型電池11は、ケース12と、このケース12内に収容された電極13とから構成されている。
【0127】
ケース12は、中空かつ一端が開口された正極缶12aと、この正極缶12aの開口部に配置される負極缶12bとを有している。そして、負極缶12bを正極缶12aの開口部に配置すると、負極缶12bと正極缶12aとの間に電極13を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0128】
電極13は、正極13a、セパレータ13c及び負極13bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極13aが正極缶12aの内面に集電体14を介して接触し、負極13bが負極缶12bの内面に集電体14を介して接触するようにケース12に収容されている。正極13aとセパレータ13cとの間にも集電体14が配置されている。
【0129】
なお、ケース12はガスケット12cを備えており、このガスケット12cによって、正極缶12aと負極缶12bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット12cは、正極缶12aと負極缶12bとの隙間を密封してケース12内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0130】
図1に示すコイン型電池11は、以下のようにして製作した。
【0131】
まず、各実施例、比較例で作製した正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、及びポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成型して、正極13aを作製した。作製した正極13aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0132】
この正極13aと、負極13b、セパレータ13c及び電解液とを用いて、上述したコイン型電池11を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0133】
なお、負極13bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒子径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ13cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0134】
製造したコイン型電池11の性能を示す初期放電容量、正極抵抗比は、以下のように評価した。
【0135】
初期放電容量は、コイン型電池11を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0136】
また、正極抵抗は以下のようにして評価した。
【0137】
コイン型電池11を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザ及びポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定すると、
図2(A)に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、及び正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき
図2(B)に示した等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0138】
なお、実施例1の正極活物質の正極抵抗を100とし、他の実施例、比較例の正極抵抗は、実施例1の正極活物質の正極抵抗に対する比、すなわち正極抵抗比として示している。
【0139】
以下、本実施例、比較例について具体的に説明する。本実施例、比較例では、正極活物質及び二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
[実施例1]
(1)正極活物質の作製
Niを主成分とするニッケル複合酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.020Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粉末を母材として用意した。
【0140】
150gの母材に、25℃、電気伝導率が1μS/cmの純水を200mL添加してスラリーとし、15分間の水洗を行った。水洗工程の間、スラリーの温度は水温の25℃に保たれており、スラリー濃度は750g/Lとなる。水洗後はヌッチェを用いて濾過することで固液分離して洗浄ケーキを得た(水洗工程)。洗浄ケーキの水分率は6.2質量%であった。
【0141】
次に、洗浄ケーキに含まれる、具体的には洗浄ケーキ内のリチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるNi、Co及びAlの原子数の合計に対して、LiWMo化合物の粉末に含まれるW及びMo量が0.15原子%となるように、洗浄ケーキにLiWMo化合物の粉末を添加した。具体的には、LiWMo化合物の粉末として体積平均粒径が17.8μmのLi2W0.9Mo0.1O4粉末を0.58g添加した。
【0142】
なお、LiWMo化合物の粉末は、以下の手順で作製した。まず、LiとWとMoのモル比がLi:W:Mo=2:0.9:0.1となるように、水酸化リチウム(LiOH)を7.18g、酸化タングステン(WO3)を31.30g、酸化モリブデン(MoO3)を2.16g用意し、それらを混合した。この混合物に電気伝導率が1μS/cmの純水12.2ml(純水の質量は、水酸化リチウムと酸化タングステンと酸化モリブデンの合計質量に対して0.3)を添加して撹拌しながらスラリー状にし、LiWMo化合物を生成させた。このLiWMo化合物を含むスラリーを120℃に加温した定置乾燥機に3時間静置乾燥し、炉冷して乾燥機から取り出した後、解砕処理を施した。
【0143】
以下の実施例2~実施例6においても、目的とするLiWMo化合物の組成にあわせて水酸化リチウム、酸化タングステン、酸化モリブデンの混合比率を変更した点以外は同様にしてLiWMo化合物の粉末を調製した。
【0144】
また、以下の実施例2~実施例7、比較例2においても、洗浄ケーキに含まれるNi、Co及びAlの原子数の合計に対して、LiWMo化合物の粉末に含まれるW及びMo量が0.15原子%となるように、洗浄ケーキにLiWMo化合物の粉末を添加している。
【0145】
LiWMo化合物の粉末の体積平均粒径は、該LiWMo化合物の粉末を、イソプロピルアルコール(IPA)中で30秒間の超音波分散処理を施した後、レーザ散乱粒度分布計を用いて粒度分布を測定し、該粒度分布における積算値50%での粒径に当たる。
【0146】
そして、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて、混合物の温度を30℃に維持しながら、洗浄ケーキとLiWMo化合物の粉末とを十分に混合し、混合粉末を得た(混合工程)。
【0147】
次いで、得られた混合粉末について、以下の第1熱処理ステップ、及び第2熱処理ステップを含む熱処理工程を実施した。
【0148】
得られた混合粉末をアルミ製袋中に入れ、窒素ガスパージした後にラミネートし、70℃に加温した乾燥機に1時間ほど入れ、熱処理を行った(第1熱処理ステップ)。加温後はアルミ製袋から混合粉末を取り出し、SUS製容器に入れ替え、190℃に加温した真空乾燥機を用いて10時間、静置乾燥し、その後炉冷した(第2熱処理ステップ)。
【0149】
第2熱処理ステップを終えた混合粉末について、目開き38μmの篩にかけ解砕を行った(解砕工程)。これにより、一次粒子表面にLiWMo化合物を有する正極活物質を得た。
【0150】
得られた正極活物質のW及びMo含有量をICP法により分析したところ、W及びMo含有量はNi、Co及びAlの原子数の合計に対して0.15原子%であることが確認された。なお、表1中には、得られた正極活物質のNi、Co及びAlの原子数の合計に対する、W及びMo含有量を、W、Moの含有割合として示している。
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有する
図1に示すコイン型電池11の電池特性を評価した。結果を表1に示す。
【0151】
以下、実施例及び比較例については、実施例1と変更した物質、条件のみを示す。
[実施例2]
混合工程において、LiWMo化合物粉末としてLi2W0.7Mo0.3O4粉末を0.54g添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
混合工程において、LiWMo化合物粉末としてLi2W0.5Mo0.5O4粉末を0.50g添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例4]
混合工程において、LiWMo化合物粉末としてLi4W0.9Mo0.1O5粉末を0.65g添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例5]
混合工程において、LiWMo化合物粉末としてLi4W0.7Mo0.3O5粉末を0.61g添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例6]
混合工程において、LiWMo化合物粉末としてLi4W0.5Mo0.5O5粉末を0.57g添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例7]
LiWMo化合物粉末として、水酸化リチウムと、酸化タングステンと、酸化モリブデンとを出発原料として、該出発原料を乾式混合後、700℃で焼成して得られたLi2W0.9Mo0.1O4粉末を0.58g添加した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
LiWMo化合物粉末を添加しなかった点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1で用意したLi1.020Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粉末150gと、同じく実施例1でLiWMo化合物粉末として用意した体積平均粒径が17.8μmのLi2W0.9Mo0.1O4を0.58gとを乾式混合した。そして、酸素雰囲気中、720℃で1時間熱処理して正極活物質を得るとともに電池特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0152】
【表1】
[評価]
表1から明らかなように、実施例1~実施例7の正極活物質は、二次電池の正極材料として用いた場合に、比較例1、2と比較して初期放電容量が高く、正極抵抗も低いものとなっており、高容量とともに高出力が得られることを確認できた。
【0153】
正極活物質を製造する際に用いたLiWMo化合物の粉末の体積平均粒径が20μm以下である実施例1~実施例6は、特に初期放電容量が高く、正極抵抗を抑制できることを確認できた。これは、LiWMo化合物の体積平均粒径が20μm以下と十分に小さかったため、混合工程を実施した際に、洗浄ケーキ内に十分に溶解させることができ、リチウムニッケル複合酸化物粉末の粒子表面に特に均一に分散させることができたためと考えられる。
【0154】
また、
図3に実施例1で得られた正極活物質の断面SEM観察結果の一例を示す。SEM/EDSを用いて観察、分析を行ったところ、得られた正極活物質は一次粒子及び一次粒子が凝集して構成された二次粒子を含むリチウムニッケル複合酸化物粉末の、二次粒子や、二次粒子の内部に存在する一次粒子表面にLiWMo化合物31が形成されていることも確認できた。
【0155】
なお、他の実施例2~実施例7においても、同様に、一次粒子及び一次粒子が凝集して構成された二次粒子を含むリチウムニッケル複合酸化物粉末の、二次粒子や、二次粒子の内部に存在する一次粒子表面にLiWMo化合物が形成されていることも確認できた。
【0156】
これに対して、比較例1では、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に係るLiWMo化合物が形成されていないため、正極抵抗が非常に高く、高出力化の要求に対応することは困難であることが確認できた。
【0157】
また、比較例2では、リチウムニッケル複合酸化物粉末とLiWMo化合物粉末を乾式混合し焼成していることでカチオンミキシングが進行している。さらにリチウムニッケル複合酸化物粉末の二次粒子の内部に存在する一次粒子表面までLiWMo化合物が浸透しないので電池特性の向上効果が十分ではなかったと考えられる。
【符号の説明】
【0158】
31 LiWMo化合物