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特許7027960可動回析格子及び分光装置及び光スイッチ及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】可動回析格子及び分光装置及び光スイッチ及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/00 20060101AFI20220222BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
G02B26/00
B81B3/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018035669
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019152694
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】藤島 正幸
(72)【発明者】
【氏名】野口 英剛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英記
(72)【発明者】
【氏名】安住 純一
(72)【発明者】
【氏名】末松 政士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修一
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-075259(JP,A)
【文献】米国特許第06977765(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0146392(US,A1)
【文献】特開2006-087231(JP,A)
【文献】特開2017-219533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
櫛歯型に配置された複数の可動格子を有する可動格子連結部と、
前記可動格子を駆動する駆動部と、
複数の前記可動格子の間に位置する複数の固定格子と、
記固定格子を複数有する固定格子連結部を備える可動回折格子であって、
前記可動格子連結部と前記駆動部との間に設けられ、前記可動格子連結部を傾ける働きを持つ可動格子接続部と、
前記固定格子連結部と支持部の間に設けられ、前記固定格子連結部を傾ける働きを持つ固定格子接続部の少なくとも1つを備え
前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときに、前記可動格子連結部の表面の平面に平行な平面と前記可動格子の先端とがなす角を前記可動格子の先端のたわみ角とし、
前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときに、前記固定格子連結部の表面の平面に平行な平面と前記固定格子の先端とがなす角を前記固定格子の先端のたわみ角としたとき、
前記可動格子接続部は、前記可動格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が、0より大きく前記可動格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記可動格子連結部を傾け、
前記固定格子接続部は、前記固定格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記固定格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が、0より大きく前記固定格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記可動格子連結部を傾ける可動回折格子。
【請求項2】
前記可動格子接続部と前記固定格子接続部の少なくとも1つは、前記可動格子と略同等の層断面構造を持ち、前記可動格子連結部から前記可動格子先端方向に延びていて、且つ前記可動格子と略平行に設けられ、その長さが前記可動格子よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の可動回折格子。
【請求項3】
前記可動格子接続部と前記固定格子接続部の長さが、それぞれ前記可動格子と前記固定格子の長さの半分であることを特徴とする請求項2に記載の可動回折格子。
【請求項4】
前記可動格子接続部、前記可動格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記可動格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記可動格子連結部を傾ける駆動部を有することを特徴とする請求項1に記載の可動回折格子。
【請求項5】
前記固定格子接続部、前記固定格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記固定格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記固定格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記固定格子連結部を傾ける駆動部を有することを特徴とする請求項1に記載の可動回折格子。
【請求項6】
前記可動格子接続部は、前記可動格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記可動格子先端のたわみ角より小さくなるように前記可動格子連結部を傾ける駆動部を有し、
前記固定格子接続部は、前記固定格子と略同等の層断面構造を持ち、前記固定格子連結部から前記固定格子先端方向に延びていて、その長さが前記固定格子よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の可動回折格子。
【請求項7】
前記固定格子接続部は、前記固定格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記固定格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記固定格子連結部を傾ける駆動部を有し、
前記可動格子接続部は、前記可動格子と略同等の層断面構造を持ち、前記可動格子連結部から前記可動格子先端方向に延びていて、その長さが前記可動格子よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の可動回折格子。
【請求項8】
前記可動格子連結部または前記固定格子連結部を傾ける前記駆動部は、圧電型、熱型、静電型の何れかのアクチュエータを有することを特徴とする請求項4乃至7の何れか1項に記載の可動回折格子。
【請求項9】
複数の第1の可動格子と、
複数の前記第1の可動格子櫛歯型に配置された第1の可動格子連結部と、
複数の前記第1の可動格子を駆動する第1の駆動部と、
複数の前記第1の可動格子の間に位置する複数の第2の可動格子と、
前記第1、第2の可動格子に対して前記第1の可動格子連結部の反対側に位置し、複数の前記第2の可動格子櫛歯型に配置された第2の可動格子連結部と、
複数の前記第2の可動格子を駆動する第2の駆動部を備える可動回折格子であって、
前記第1の可動格子連結部と前記第1の駆動部との間に設けられ、前記第1の可動格子連結部を傾ける働きを持つ第1の可動格子接続部と、
前記第2の可動格子連結部と支持部の間に設けられ、前記第2の可動格子連結部を傾ける働きを持つ第2の可動格子接続部の少なくとも何れか1つを備え
前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときに、前記第1の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面と前記第1の可動格子の先端とがなす角を前記第1の可動格子の先端のたわみ角とし、
前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときに、前記第2の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面と前記第2の可動格子の先端とがなす角を前記第2の可動格子の先端のたわみ角としたとき、
前記第1の可動格子接続部は、前記第1の可動格子の先端と、前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記第1の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が、0より大きく前記第1の可動格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記第1の可動格子連結部を傾け、
前記第2の可動格子接続部は、前記第2の可動格子の先端と、前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記第2の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が、0より大きく前記第2の可動格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記第2の可動格子連結部を傾ける可動回折格子。
【請求項10】
前記第1の可動格子接続部と前記第2の可動格子接続部の少なくとも1つは、前記第1の可動格子または前記第2の可動格子と略同等の層断面構造を持ち、前記第1の可動格子連結部または前記第2の可動格子連結部から対応する前記第1の可動格子または前記第2の可動格子の先端方向に延びていて、且つ前記第1の可動格子または前記第2の可動格子と略平行に設けられ、その長さが前記第1の可動格子または前記第2の可動格子よりも短いことを特徴とする請求項9に記載の可動回折格子。
【請求項11】
前記第1の可動格子接続部と前記第2の可動格子接続部の長さが、それぞれ前記第1の可動格子前記第2の可動格子の長さの半分であることを特徴とする請求項10に記載の可動回折格子。
【請求項12】
前記第1の可動格子接続部、前記第1の可動格子の先端と、前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記第1の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記第1の可動格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記第1の可動格子連結部を傾ける第1の駆動部を有することを特徴とする請求項9に記載の可動回折格子。
【請求項13】
前記第2の可動格子接続部、前記第2の可動格子の先端と、前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記第2の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記第2の可動格子先端のたわみ角より小さくなるように前記第2の可動格子連結部を傾ける第2の駆動部を有することを特徴とする請求項9に記載の可動回折格子。
【請求項14】
前記第1の可動格子接続部は、前記第1の可動格子の先端と、前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記第1の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記第1可動格子先端のたわみ角より小さくなるように前記第1の可動格子連結部を傾ける第1の駆動部を有し、
前記第2の可動格子接続部は、前記第2の可動格子と略同等の層断面構造を持ち、前記第2の可動格子連結部から前記第2の可動格子先端方向に延びていて、その長さが前記第2の可動格子よりも短いことを特徴とする請求項9に記載の可動回折格子。
【請求項15】
前記第2の可動格子接続部は、前記第2の可動格子先端と、前記第1の可動格子連結部の表面の平面と前記第2の可動格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記第2の可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が0より大きく前記第2の可動格子先端のたわみ角より小さくなるように前記第2の可動格子連結部を傾ける第2の駆動部を有し
前記第1の可動格子接続部と前記第2の可動格子接続部との少なくとも1つは、前記第1の可動格子または前記第2の可動格子と略同等の層断面構造を持ち、前記第1の可動格子連結部または前記第2の可動格子連結部から対応する前記第1の可動格子または前記第2の可動格子の先端方向に延びていて、その長さが前記第1の可動格子または前記第2の可動格子よりも短いことを特徴とする請求項9に記載の可動回折格子。
【請求項16】
前記第1の可動格子連結部及び前記第2の可動格子連結部を傾ける前記第1の駆動部及び前記第2の駆動部は、圧電型、熱型、静電型の何れかのアクチュエータを有することを特徴とする請求項12乃至15の何れか1項に記載の可動回折格子。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか1項に記載の可動回折格子を備えた分光装置。
【請求項18】
光の伝送をオンオフする光スイッチであって、
請求項1乃至16の何れか1項に記載の可動回折格子と、
前記オンオフの情報に応じて前記可動回折格子の動作を制御する制御装置を備えた光スイッチ。
【請求項19】
請求項1乃至16の何れか1項に記載の可動回折格子を備えた画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動回析格子及び分光装置及び光スイッチ及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターに代表される画像表示装置において、GLV(Grating Light Valve)からの光を回転ミラーなどの光走査手段を用いて2次元画像を生成する方法が知られている。GLVは複数の両もち梁構造の素子を格子状に配列した構造であり、可動格子と可動格子に対向する電極間に電圧を印加することにより、可動格子が電極側に引っ張られ、変形する。一般的に、このような素子はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)回折格子、あるいは単に可動回折格子と呼ばれ、一部の可動格子を変形させることで、回折光を変調させることができる。可動回折格子からなる光変調器は、1本の格子が数um×数10~数100umと非常に小型であり、高速駆動が可能であるため、小型画像表示装置の実現に向け開発が進められている。
近年、可動回折格子は光スイッチや分光器など新たな用途に応用する動きが盛んになってきている。従来、可動回折格子の垂直方向(変位方向)への変位量は、可動格子に駆動力が働いていない場合と、可動格子に駆動力が働いたときの2値しかなかったが、新たな用途では任意の変位で可動格子を静止させるような多値の制御や、連続的に変位を変化させるような制御が必要になってきている。これに伴い、可動回折格子の構造は、GLVに代表される図18に示すような両もち梁構造の回折格子だけではなく、駆動力を印加しても格子部の変形が少ない、図19のような可動格子と固定格子とを交互に配置した櫛歯型の回折格子が開発されている。
例えば特許文献1には、複数の回析格子を2つのグループに分けた構造とし、それぞれ単独に高さを変化させる手段を備えた可動回析格子が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
可動格子と固定格子を備えた櫛歯型の可動回折格子は、格子表面に保護膜や反射膜などが積層されているため、膜内部の応力や、薄膜間の熱膨張係数の違いにより発生する応力により、格子が撓んでいた。このことは、図20に示すような可動格子と固定格子の垂直方向(変位方向)への距離が、格子の位置によって異なる原因となっていた。これは、特許文献1の構成でも同様で、複数の高さ変位量を選択することができないとともに、両もち梁の回折格子であるため、高さを変化させるときに、回折格子に撓みが発生する。可動格子と固定格子の垂直方向距離(変位方向距離)は、回折光の特性に大きく影響するため、可動格子と固定格子の垂直方向距離に分布(バラつき)が発生することにより、様々な特性を持つ回折光が足し合わされてしまい、狙いの回折光特性が得られ難くなる。
また、特許文献2には、赤外線を回折する回折格子として、櫛歯形状の回折格子のピッチをアクチュエータにより可変にした構成が開示されているが、格子の撓みによって狙いの回折光特性が得られないという課題に対しては、対策がなされていない。
本発明は、狙いの回折光特性を得ることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明に係る可動回折格子は、櫛歯型に配置された複数の可動格子を有する可動格子連結部と、可動格子を駆動する駆動部と、複数の可動格子の間に位置する複数の固定格子と、固定格子を複数有する固定格子連結部を備える可動回折格子であって、可動格子連結部と駆動部との間に設けられ、可動格子連結部を傾ける働きを持つ可動格子接続部と、固定格子連結部と支持部の間に設けられ、固定格子連結部を傾ける働きを持つ固定格子接続部の少なくとも1つを備え、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときに、前記可動格子連結部の表面の平面に平行な平面と前記可動格子の先端とがなす角を前記可動格子の先端のたわみ角とし、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときに、前記固定格子連結部の表面の平面に平行な平面と前記固定格子の先端とがなす角を前記固定格子の先端のたわみ角としたとき、前記可動格子接続部は、前記可動格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記可動格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が、0より大きく前記可動格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記可動格子連結部を傾け、前記固定格子接続部は、前記固定格子の先端と、前記可動格子連結部の表面の平面と前記固定格子連結部の表面の平面とが平行であるときの前記固定格子連結部の表面の平面に平行な平面とがなす角が、0より大きく前記固定格子の先端のたわみ角より小さくなるように前記可動格子連結部を傾けることを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、可動回折格子の可動格子と固定格子の垂直方向距離を回折格子全域で均一化を図れるため、狙いの回折光特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明に係る実施形態の基本構成を説明する図。
図2】(a)~(e)は、図1の構成による可動格子と固定格子のたわみ曲線を示すグラフ。
図3図1の構成による可動格子と固定格子の垂直方向距離分布の関係を示すグラフ。
図4】本発明の第1の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図5図4A-A線の断面図。
図6】(a)~(e)は、第1の実施形態の構成による可動格子と固定格子のたわみ曲線を示すグラフ。
図7】第1の実施形態の構成による可動格子と固定格子の垂直方向距離分布の関係を示すグラフ。
図8】本発明の第2の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図9】本発明の第3の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図10】本発明の第4の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図11】本発明の第5の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図12】本発明の第6の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図13】本発明の第7の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図14】本発明の第8の実施形態に係る可動回析格子の構成を説明する図。
図15】本発明の第9の実施形態に係る分光装置の一形態を説明する図。
図16】本発明の第10の実施形態に係る光スイッチの一形態を説明する図。
図17】本発明の第11の実施形態に係る画像表示装置の構成を説明する図。
図18】(a)、(b)は両もち梁構造の従来の可動回析格子の構成と作用を説明する図。
図19】(a)、(b)は櫛歯型の従来の可動回析格子の構成と作用を説明する図。
図20】櫛歯型の従来の可動回析格子の課題を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて順次説明する。実施形態において、同一機能や同一構成を有するものには同一の符号を付し、重複説明は適宜省略する。図面は一部構成の理解を助けるために部分的に省略あるいは簡素化して記載する場合もある。
【0008】
本発明の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子の基本概念と効果について説明する。本実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子は、図1に示すように、複数の矩形状の可動格子110を束ねる可動格子連結部11と、可動格子連結部11と可動格子110を駆動するアクチュエータ部との間に、図1(a)に示すように、可動格子110の先端110aと水平面のなす角が0より大きく可動格子110の先端110aのたわみ角θよりも小さくなるように、図1(b)に示すように可動格子連結部11を傾ける機能を持つ可動格子接続部を備えている
可動回折格子は、複数の矩形状の固定格子140を束ねる固定格子連結部14と支持部15との間に設けられ、図1(a)に示すように、固定格子140の先端140aと水平面のなす角が0より大きく、図1(b)に示すように、固定格子140の先端140aのたわみ角θよりも小さくなるように固定格子連結部14を傾ける働きを持つ固定格子接続部を備えている。なお、図1(a)~図1(b)は、図4に示した可動格子110のB-B線断面と固定格子140のC-C線断面を同一面に離間させて模式的に表示したものであり、図1(c)は可動格子110と固定格子140のたわみ状態を模式的に示したものである。
【0009】
従来の可動回折格子は、回折格子が異なる線膨張係数を持つ複数の材料層から構成されているため、図1(d)に示すように、可動格子や固定格子に撓みが発生してしまう。これが原因となり、可動格子と固定格子間の垂直距離(撓み方向/変位方向への距離)には静止状態でも分布(バラツキ)が発生してしまい、所望(設計通り)の回折光特性(回折スペクトル)を得ることが難しいことがある。
しかし、本発明の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子では、図1(a)~(c)に示すように、可動格子110や固定格子140の撓みにより発生した可動格子と固定格子の間の垂直距離(撓み方向への距離)を、可動格子連結部11と固定格子連結部14を可動格子110の先端110aや固定格子140の先端140aと水平面のなす角が小さくなるように傾けることで、低減可能にしている。
【0010】
図2(a)~図2(e)は、図1の可動格子110と固定格子140の各先端のたわみ角をθとしたときに、傾き無しの場合と、θ/8、θ/4、3θ/8、θ/2だけ可動格子連結部11と固定格子連結部14を傾けたときの、可動格子110と固定格子140のたわみ曲線を示すグラフである。図2(a)~図2(e)において、縦軸は格子垂直位置(垂直方向距離)を示し、横軸は各格子の長手方向位置(長さ)を示す。
図2に示すように、可動格子連結部11と固定格子連結部14をそれぞれ傾けると、可動格子110と固定格子140の格子垂直位置(垂直方向距離)が小さくなるとともに、その分布も小さくなる傾向となった。
【0011】
図3は、可動格子連結部11と固定格子連結部14の傾きと、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離分布の関係を示すグラフである。図3において、縦軸は各格子の垂直方向距離(T)を示し、横軸は各格子の先端のたわみ角θを示す。図3によれば、垂直方向分布は傾きを大きくしていくと徐々に減少し、固定格子140の先端のたわみ角の1/2傾けたときに最小値をとる(図1(b))。
以上の理由により、本実施形態に係る可動回折格子は、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離Tを回折格子全域で均一化することにより、狙いの回折光特性を得ることが可能になる。なお、図2図3は、可動格子110と固定格子140の長手方向Xへの長さが1000um、格子先端のたわみ量が2umのたわみ角のときの例である。
【0012】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について説明する。
図4は、第1の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10を示す。可動回折格子10は、複数の可動格子110と、複数の可動格子110を束ねる可動格子連結部11と、可動格子連結部11と可動格子110を駆動するアクチュエータ部12と、可動格子連結部11とアクチュエータ部12との間に設けられた可動格子接続部13を備えている。可動回折格子10は、複数の固定格子140と、複数の固定格子140を束ねる固定格子連結部14と、固定格子連結部14と支持部15の間に設けられた固定格子接続部16とを備えている。
【0013】
可動格子110は、複数の短冊状の素子が、可動格子連結部11から可動格子先端方向X1(以下、「先端方向X1」と記す)に向かって突出し、先端方向X1と同一平面内において交差する短辺方向Yに並列配置された櫛歯状の可動素子である。可動格子110は、可動格子連結部11側を支点として各素子の先端側が先端方向X1(長辺方向X)及び短辺方向Yと交差する方向に変位可能とされている。ここでいう交差する方向は変位方向であり、ここでは垂直方向Zとする。垂直方向Zは、図4においては紙面垂直方向となる。
固定格子140は、可動格子連結部11と同一平面内において反対側に配置される固定格子連結部14から固定格子先端方向X2(以下「先端方向X2」と記す)に向かって突出していて、可動格子110の各素子間に配置される複数の短冊状の固定の素子である。
【0014】
可動格子接続部13は、可動格子110と略平行、且つ可動格子110の先端方向X1(長手方向X)への長さLよりも、その長さL1が短く、可動格子連結部11から可動格子の先端110aに向かって延びるように設けられている。本実施形態において、可動格子接続部13は、短辺方向Yに位置する可動格子連結部11の一端側と他端側にそれぞれ連結されて一体化されていて、一対の可動格子接続部13(複数の可動格子接続部)として構成されている。
固定格子接続部16は、固定格子140と略平行、且つ固定格子の先端方向X2(長手方向X)への長さL2よりも、その長さL3が短く、固定格子連結部14から固定格子の先端140aに向かって延びるように設けられている。本実施形態において、固定格子接続部16は、短辺方向Yに位置する固定格子連結部14の一端側と他端側にそれぞれ連結されて一体化されていて、一対の固定格子接続部16(複数の可動格子接続部)として構成されている。
【0015】
本実施形態において、可動回折格子10は、短辺方向Yの両端部にアクチュエータ部12がそれぞれ配置されていて、複数のアクチュエータ部12を備えている。アクチュエータ部12、12は、直線形状の複数のアームを連結してそれぞれ構成されていて、短辺方向Yの両端部に位置する可動格子接続部13、13とその一端が連結され、その他端が支持部15にそれぞれ連結されている。アクチュエータ部12、12はそれぞれ駆動源を備えていて、駆動源が作動することで垂直方向Zにそれぞれ変位して可動格子110を垂直方向Zに移動させる機能を備えている。
可動回折格子10は、可動格子連結部11、アクチュエータ部12、12、可動格子接続部13、13、固定格子連結部14、固定格子接続部16、16、可動格子110および固定格子140が一体的に構成されており、支持部15のこれらと対向する部位に貫通孔105が形成されている。貫通孔105の形成により可動格子10は、アクチュエータ部12、12の作動による可動格子110の変位や、可動格子接続部13、13および固定格子接続部16、16が傾斜可能に構成されている。なお、本実施形態では、垂直方向Zを上下方向としているので貫通孔105を形成しているが、垂直方向Zが上方向の場合だけを考慮すると、この貫通孔105は無くてもよい
【0016】
このような構成の可動回折格子10は、可動格子接続部13、13および固定格子接続部16、16のそれぞれの断面の層構造が、図5に示すように、格子部(可動格子110/固定格子140)と略同等となるように形成されている。
すなわち、可動回析格子10は、図5に示す断面のように、支持部15が、シリコン支持層151、酸化シリコン層152、シリコン活性層153、絶縁層154及び保護層1155を積層して構成されている。可動格子110及び固定素子140は、シリコン活性層153の上に反射膜層156を積層されて構成されている。そして、可動格子接続部13、13および固定格子接続部16、16は、可動格子110及び固定素子140と同様に、シリコン活性層153の上に反射膜層156を積層されて構成されている。なお、図5において固定格子接続部16、16は、断面の関係で表記は省略されている。
【0017】
このように第1の実施形態では、可動格子接続部13および固定格子接続部16を備え、これらが格子部(可動格子110/固定格子140)と略同等な断面構造に形成されているので、可動格子接続部13と固定格子接続部16が可動格子110や固定格子140と略同等なたわみ角θ(たわみ量)で変形するようになる。この変形により、可動格子連結部11と固定格子連結部14を傾けることができる。
また、可動格子接続部13固定格子接続部16のそれぞれの長さL1、L3を0より大きく、可動格子110や固定格子140の長さL、L2よりも短く形成しているので、可動格子110と固定格子140のそれぞれの先端110a、140aと、水平面とのなす角を0より大きく、角格子の先端110a、140aのたわみ角θよりも小さくなるようにすることができる。すなわち、本実施形態の構成によれば、特別なアクチュエータ無しに、可動格子連結部11を傾けることができる。このため、単純な構造で電極や配線の数を増やすことなく可動格子110と固定格子140の垂直方向距離Tのばらつきを低減でき、狙いの回折光特性を得ることができるようになる。
さらに本実施形態では、可動格子接続部13が、可動格子110の先端110aと水平面のなす角が0より大きく可動格子110の先端110aのたわみ角θより小さくなるように可動格子連結部11を傾けるアクチュエータ部12、12を有しているので、設計誤差などにより発生した傾き、たわみにも対応し、フレキシブルに可動格子連結部11を傾けることができ、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離Tのばらつきを低減できる。
【0018】
図6(a)~図6(e)は、可動格子110と固定格子140が長さ(L、L2)が1000um、格子の先端110a、140aのたわみ量が2umとなるたわみ角のときの、(接続部長さ)/(格子長さ)と可動格子、固定格子の変形の様子を示したグラフである。
図7は、このときの(接続部長さ)/(格子長さ)と、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離Tの関係を示したものである。
特に可動格子接続部13と固定格子接続部16の長さ(L1、L3)がそれぞれ可動格子110、固定格子140の長さ(L、L2)の半分であると、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離Tのばらつきが最小になる。このため、可動格子接続部13と固定格子接続部16の長さ(L1、L3)を可動格子110、固定格子140の長さ(L、L2)の半分にすることで、可動格子接続部13と固定格子接続部13の垂直方向距離T)のばらつきを、ほぼ0に低減することができる。このため、より、狙いの回折光特性を得ることができるようになる。
【0019】
本実施形態に係る可動回析格子10において、アクチュエータ部12、12の駆動方式は熱型、静電型、圧電型など、どの駆動方式でもよく、可動格子110が垂直方向(変位方向)Zに変位できれば、その方向は水平面内方向でも、垂直方向でもよく、その形状も図4に示す形状に限定されるものではない。
【0020】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について説明する。
図8は第2の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10Aを示す。可動回折格子10Aは、第1の実施形態に対して可動格子接続部13を備えていない点で違いがある。すなわち、可動回折格子10Aは、複数の可動格子110を束ねる可動格子連結部11と、可動格子連結部11と可動格子110を駆動するアクチュエータ部12と、複数の固定格子140を束ねる固定格子連結部14と、固定格子連結部14と支持部15の間に設けられ、固定格子140の先端方向X2と平行、且つ固定格子140の長さL2よりもその長さL3が短く、固定格子連結部14から固定格子の先端140a側に設けられた固定格子接続部16を短辺方向Yにそれぞれ備えている。そして、可動回折格子10Aは、固定格子接続部16の断面の層構造が、格子部(可動格子110/固定格子140)と略同等に形成されている(図5参照)。また、可動格子連結部11の両端は、それぞれアクチュエータ部12、12を介して支持部15に連結されている。
【0021】
このように、第2の実施形態に示す可動格子接続部13を備えず固定格子接続部16のみを備えた可動回折格子10Aであっても、固定格子接続部16が、固定格子140と略同等な断面構造を持つことにより、固定格子140と略同等なたわみ角(たわみ量)で変形する。この変形により、固定格子連結部14を傾けることができる。また、固定格子連結部14の長さL3を0より大きく、固定格子140の長さL2よりも短くすることにより、固定格子140のそれぞれの先端140aと、水平面とのなす角を0より大きく、固定格子140の先端140aのたわみ角θよりも小さくなるようにすることができる。これにより、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離分布(バラツキ)を抑制することができる。
なお、本実施形態においても、アクチュエータ部12、12の駆動方式は熱型、静電型、圧電型など、どの駆動方式でもよく、可動格子110が変位すれば、その方向は水平面内方向でも、垂直方向でもよく、その形状も図8に示す形状に限定されるものではない。
【0022】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図9は第3の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10Bを示す。可動回折格子10Bは、第1の実施形態に対して固定格子接続部16を単独で備えていない点に違いがある。すなわち、可動回折格子10Bは、複数の可動格子110を束ねる可動格子連結部11と、可動格子連結部11と可動格子110を駆動するアクチュエータ部12と、可動格子110を駆動するアクチュエータ部12との間に設けられ、可動格子110と略平行、且つ可動格子110の長さLよりもその長さL1が短く、可動格子連結部11から先端方向Xに延設された可動格子接続部13とを備えている。本実施形態の場合、複数の固定格子140は、支持部15から可動格子連結部11に向かって突出して設けられていて、支持部15によって支持されている。本実施形態の場合、支持部15、15が複数の固定格子140を束ねる固定格子連結部として機能する。この可動回折格子10Bにおいても、可動格子接続部13の断面の層構造が、可動格子110と略同等となるように形成されている。
【0023】
このような形態の可動回折格子10Bであっても、可動格子接続部13の断面の層構造が可動格子110と略同等な断面構造を持つことにより、可動格子接続部13は、可動格子110と略同等なたわみ角(たわみ量)で変形する。この変形により、可動格子連結部11を傾けることができる。また、可動格子連結部13の長さL1を0より大きく、可動格子110の長さLよりも短くすることにより、可動格子の先端110aと、水平面とのなす角を0より大きく、可動格子の先端110aのたわみ角θよりも小さくなるようにすることができる。これにより、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離分布(バラツキ)を抑制することができる。
なお、本実施形態においても、アクチュエータ部12、12の駆動方式は熱型、静電型、圧電型など、どの駆動方式でもよく、可動格子が変位すれば、その方向は水平面内方向でも、垂直方向でもよく、その形状も図9に示す形状に限定されるものではない。
【0024】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図10は第4の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10Cを示す。可動回折格子10Cは、複数の可動格子110を束ねる可動格子連結部11と、可動格子連結部11と可動格子110を駆動するアクチュエータ部12、12と、可動格子連結部11とアクチュエータ部12、12の間に設けられ、可動格子110と略平行、且つ可動格子110の長さLよりもその長さL1が短く、可動格子連結部11から先端方向X2に向かって延設された可動格子接続部13と、可動格子110の先端110aと水平面のなす角が小さくなる方向に可動格子連結部11を傾ける可動格子傾き補正アクチュエータ部17、17を備えている。
可動回折格子10Cは、複数の固定格子140を束ねる固定格子連結部14と、固定格子連結部14から先端方向X2に向けて延設された固定格子接続部16と、固定格子連結部14と支持部15の間に設けられ、固定格子140の先端140aと水平面のなす角が小さくなる方向に固定格子連結部14を傾ける固定格子傾き補正アクチュエータ部18、18を備えている。そして、本実施形態において、可動格子傾き補正アクチュエータ部17、17は可動格子接続部13、13にそれぞれ設けられ、固定格子傾き補正アクチュエータ部18、18は固定格子接続部16、16にそれぞれ設けられている。
【0025】
図10において、可動格子傾き補正アクチュエータ部17、17と固定格子傾き補正アクチュエータ部18、18は、下に凸のたわみが発生するユニモルフアクチュエータで構成されている。可動格子傾き補正アクチュエータ部17、17および固定格子傾き補正アクチュエータ部18、18としては、ユニモルフアクチュエータに限定するものではなく、熱型、静電型、圧電型など、どのような種類でもよく、可動格子110が変位すればその方向は水平面内方向でも垂直方向でもよく、その形状も図10の形状に限定されるものではない
【0026】
このような構成によると、可動格子接続部13と固定格子接続部16をアクチュエータ部12、12とは個別に設けた可動格子傾き補正アクチュエータ部17、17と固定格子傾き補正アクチュエータ部18、18で可動することができるので、アクチュエータ部12、12単独で可動格子110の先端110aと水平面とのなす角を0より大きく、可動格子の先端110aのたわみ角θよりも小さくなるようにしたり、固定格子140の先端140aと水平面とのなす角を0より大きく、固定格子の先端140aのたわみ角θよりも小さくなるように制御する際に、より細かく調整することができる。このため、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離分布(バラツキ)をより一層抑制することができる。
【0027】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態について説明する。
図11は第5の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10Dを示す。この可動回折格子10Dは固定素子を持たない構成である。
すなわち、櫛歯型の可動回折格子10Dは、複数の第1の可動格子110を束ねる第1の可動格子連結部11と、第1の可動格子連結部11と第1の可動格子110を駆動する第1のアクチュエータ部12と、第1の可動格子連結部11と第1アクチュエータ部12との間に設けられ、第1の可動格子110と略平行、且つ第1の可動格子110の先端方向X1(長手方向X)への長さLよりもその長さL1が短く、第1の可動格子連結部11から第1の可動格子110の先端方向X1に設けられた第1の可動格子接続部13を備えている。
さらに可動回折格子10Dは、複数の第1の可動格子110間に位置する複数の第2の可動格子190と、第1の可動格子110および第2の可動格子190を介して第1の可動格子連結部11と対向する位置に位置し、複数の第2の可動格子190を櫛歯型に束ねる第2の可動格子連結部19と、第2の可動格子連結部19と第2の可動格子190を駆動する第2のアクチュエータ部20と、第2の可動格子連結部19と第2のアクチュエータ部20との間に設けられ、第2の可動格子190と略平行、且つ第2の可動格子190の先端方向X2(長手方向X)への長さLAよりもその長さLA1が短く、第2の可動格子連結部19から第2の可動格子190の先端方向X2に設けられた第2の可動格子接続部21を備えた可動回折格子である。
【0028】
第1の可動格子接続部13と第2の可動格子接続部21は、可動格子110と略同等な断面構造を持つことにより、第1の可動格子接続部13と第2の可動格子接続部21は、可動格子110と略同等なたわみ角θ(たわみ量)で変形する。この変形により、第1の可動格子連結部11と、第2の可動格子連結部19を傾けることができる。また、第1の可動格子連結部13と第2の可動格子連結部21の長さL1、LA1を0より大きく、各可動格子の長さL、LAよりも短くすることにより、各可動格子の先端110a、140aと、水平面とのなす角を0より大きく格子先端のたわみ角θよりも小さくなるようにすることができる。これにより、第1の可動格子110と、第2の可動格子190の垂直方向距離分布(バラツキ)を抑制することができる。
なお、第1のアクチュエータ部12、第2のアクチュエータ部20の駆動方式は熱型、静電型、圧電型など、どの駆動方式でもよく、各可動格子が変位すれば、その方向は水平面内方向でも、垂直方向でもよく、その形状も図11に示す形状に限定されるものではない。
【0029】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態について説明する。
図12は第6の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10Eを示す。
第5の実施形態で説明した可動回折格子10Dでは、第1可動格子接続部13と第2の可動格子接続部21の長さL1LA1をそれぞれ各可動格子110、190の長さL、LAの半分としたが、本実施形態に係る可動回折格子10Eは、第5の実施形態よりもさらに第1可動格子接続部13と第2の可動格子接続部21の長さを短くしたものである。
このように第1可動格子接続部13と第2の可動格子接続部21の長さL1a、LA1aを短くした場合であっても、第1の可動格子接続部13と第2可動格子接続部21を第1の可動格子110と略同等な断面構造とすることで、第1の可動格子接続部13と第2の可動格子接続部21が、第1の可動格子110と略同等たわみ角θ(たわみ量)で変形する。この変形により、第1の可動格子連結部11と第2の可動格子接続部19を傾けることができる。また、第1の可動格子連結部13と第2の可動格子連結部21の長さを0より大きく各可動格子110、190の長さよりも短くすることにより、各可動格子110、190の先端110a、190aと水平面とのなす角を0より大きく各先端110a、190aのたわみ角θよりもより小さくすることができる。これにより、第1の可動格子110と第2の可動格子190の垂直方向距離分布をより抑制することができる。
【0030】
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態について説明する。
図13は第7の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10Fを示す。この可動回折格子10Fは、可動格子接続部13、13に、格子先端たわみ角調整用のアクチュエータ17、17を設けたものである。
すなわち、可動回折格子10Fは、第1の可動格子接続部13が、第1の複数の可動格子110の先端110aと水平面のなす角が0より大きく第1の可動格子110の先端110aのたわみ角θより小さくなるように第1の可動格子連結部13、13を傾けるアクチュエータ17、17を備えている。なお、本実施形態において、可動回折格子10Fは、第2の可動格子接続部21を備えていない構成としている。
このような構成の可動回折格子10Fであっても、アクチュエータ17、17を用いることにより、設計誤差などにより発生した傾き、たわみにも対応し、フレキシブルに可動格子連結部13、13を傾けることができ、第1の可動格子110と第2の可動格子190の垂直方向距離ばらつきを低減することができる。
本実施形態では、一方の可動格子連結部となる第1の可動格子連結部13、13に、アクチュエータ17、17をそれぞれ設けた構成としたが、本実施形態とは逆な構成であってもよい。すなわち、第6の実施形態で説明した第2の可動格子接続部21、21に、第2の可動格子190の先端190aと水平面のなす角が0より大きく第2の可動格子190の先端190aのたわみ角θより小さくなるように第2の可動格子連結部21、21を傾けるアクチュエータとしてアクチュエータ17、17を設けるようにしてもよい。
このように構成しても、第2の可動格子連結部21、21がアクチュエータ17、17を備えることにより、設計誤差などにより発生した傾き、たわみにも対応し、フレキシブルに第2の可動格子連結部21、21を傾けることができ第1の可動格子110と第2の可動格子190の垂直方向距離ばらつきを低減できる。なお、ここでは、2つの可動格子連結部のうち、何れか一方にのみアクチュエータ17、17を設けて、格子先端と水平面のなす角が0より大きく可動格子の先端のたわみ角θより小さくなるようにしたが、第1の可動格子連結部13、13と第2の可動格子連結部21、21の双方にそれぞれアクチュエータ17、17、17、17を設けた形態であってもよい。
【0031】
(第8の実施形態)
次に、本発明の第8の実施形態について説明する。
図14は第8の実施形態に係る櫛歯型の可動回折格子10Gを示す。この可動回折格子10Gは、片側の可動格子接続部に格子先端たわみ角調整用のアクチュエータを、もう片方の可動格子接続部を可動格子と略同等な断面構造を持ち、その長さが0より大きく、格子長さよりも短い構成としたものである。
すなわち、ここでは、第1の可動格子接続部13、13に格子先端たわみ角調整用のアクチュエータ17、17を設け、第2の可動格子接続部21、21がここでは第2の可動格子190と略同等な断面構造を持ち、その長さLA1が0より大きく、第2の可動格子190の長さLAよりも短い構成としている。
このような構成とすると、第1の可動格子連結部13、13をアクチュエータ17、17で傾け、第2の可動格子連結部21、21を第2の可動格子190と略同等な層断面構造をもつ梁で傾けることができるので、第1の可動格子110と第2の可動格子190の垂直方向距離ばらつきをより低減ですることができるので好ましい。
【0032】
(第9の実施形態)
図15を用いて本発明の第9の実施形態を説明する。第9の実施形態は、上記実施形態に係る可動回析格子の何れかを備えた分光装置300である。図15は分光装置300の模式図を示す。なお、分光装置300に用いる可動回析格子としては、第1の実施形態で説明した可動回析格子10を用いることとするが、第2~第8の実施形態で説明した可動回析格子10A~10Gを用いてもよい。
分光装置300は、可動回析格子10が取り付けられた基板301と、可動回析格子10と対向配置された凹面ミラー302と、検出器303を備えている。基板301には、入射光304を凹面ミラー302へと導入するためのスリット305と、回折光307を検出器303へ導入する開口306が形成されている。
このような構成の分光装置300では、あるスペクトル情報を持つ入射光304を可動回析格子10に入射し、0次回折光を除く回折光307を検出器303で受光する。可動回析格子10を変位させながら検出器303で回折光307を受光することにより、可動格子変位量と回折光307の光量の関係から入射光304のスペクトル情報を算出することができる。このため、単画素センサで分光スペクトルを得ることができ、従来のセンサアレイを用いた分光装置にくらべ、小型化、低価格化を図ることができるとともに、精度の良い分光を行える。
【0033】
(第10の実施形態)
図16を用いて本発明の第10の実施形態を説明する。第10の実施形態は、上記実施形態に係る可動回折格子の何れかを備えた光スイッチ400である。なお、光スイッチ400に用いる可動回折格子としては、第1の実施形態で説明した可動回折格子10を用いることとするが、第2~第8の実施形態で説明した可動回折格子10A~10Gの何れかを用いてもよい。
光スイッチ400は、空間光変調器401と、制御装置402などを有している。空間光変調器401は、複数の光ファイバ403の途中にそれぞれ可動回折格子10を設けることで構成されている。制御装置402は、各光ファイバ403に対応するオンオフ信号に応じて、空間光変調器401(可動回折格子10)に印加する磁場を制御する。すなわち、オンのときには入射光を透過させ、オフのときには入射光を遮光する。なお、光ファイバ403が1本であってもよい。このときは、1つの可動回折格子10を有していればよい
このように、空間光変調器401として可動回折格子10を用いることで、可動回折格子10の可動格子と固定格子の垂直方向距離の均一化を回折格子全域で図れるため、狙いの回折光特性を得ることができスイッチの精度を向上することができる。
【0034】
(第11の実施形態)
図17を用いて本発明の第11の実施形態を説明する。第11の実施形態は、上記実施形態に係る可動回析格子の何れかを備えた画像表示装置500である。なお、画像表示装置500に用いる可動回析格子としては、第1の実施形態で説明した可動回析格子10を用いることとするが、第2~第8の実施形態で説明した可動回析格子10A~10Gを用いてもよい。
画像表示装置500は、画像表示素子502を照明光学系501により照射し、画像表示素子502に表示された投射用画像により変調された投射光束を投射光学系503により被投射面504上に拡大投射するものである。本実施形態においては、画像表示素子502として可動回析格子10を用いている。このように可動回析格子10を画像表示装置500の、画像表示素子502として用いることで、狙いの回折光特性を得ることができるため、解像度の良い画像を得ることができる。
【0035】
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、可動格子接続部13は、可動格子の先端と水平面のなす角が0より大きく、可動格子先端のたわみ角θより小さくなるように、可動格子連結部11を傾けるアクチュエータ部12、12を有するとともに、固定格子接続部16、16を備えている場合には、固定格子接続部16、16を、固定格子と略同等の層断面構造を持ち、固定格子連結部14から先端方向X2に延びていて、その長さL3を固定格子140の長さL2よりも短くしてもよい。
あるいは、固定格子接続部16、16が、固定格子140の先端140aと水平面のなす角が0より大きく、固定格子の先端140aのたわみ角θより小さくなるように固定格子連結部14を傾けるアクチュエータ部18、18を有する場合、可動格子接続部13、13を、可動格子110と略同等の層断面構造を持ち、可動格子連結部11から先端方向X1に延びていて、その長さL1が可動格子の長さLよりも短くしてもよい。
これらのように、一方にアクチュエータ部を備えて何れかの連結部を傾斜させ、他方にアクチュエータ部に替えて断面構造とその長さを調整して格子と略同等な層断面構造をもつ梁構造として何れかの連結部を傾けるようにしても、可動格子110と固定格子140の垂直方向距離のばらつきを低減することができる。
図15で示した分光装置300の各構成の配置については、一例に過ぎず、図15の構成や配置に限定されるものではない。また、図16図17で示した光スイッチ400、画像表示装置500においても同様で、図16図17の構成や配置に限定されるものではない。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
10、10A~10G 可動回折格子
11 可動格子連結部(第1の可動格子連結部)
12 アクチュエータ部(第1のアクチュエータ部)
20 第2のアクチュエータ部
13 可動格子接続部(第1の可動格子接続部)
14 固定格子連結部
16 固定格子接続部
21 第2の可動格子接続部
110 複数の可動格子(第1の可動格子)
110a 可動格子の先端
140 複数の固定格子
140a 固定格子の先端
190 第2の可動格子
190a 第2の可動格子の先端
θ 先端のたわみ角
L 可動格子の長さ
L1 可動格子接続部の長さ
L2 固定格子の長さ
L3 固定格子接続部の長さ
LA 第2の可動格子の長さ
LA1 第2の可動格子接続部の長さ
X1 可動格子の先端方向
X2 固定格子の先端方向
300 分光装置。
400 光スイッチ
500 画像表示装
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【文献】特許第3164824号公報
【文献】特開2005-207890号公報
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