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特許7028076p型熱電変換材料、熱電変換モジュール及びp型熱電変換材料の製造方法
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  • 特許-p型熱電変換材料、熱電変換モジュール及びp型熱電変換材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】p型熱電変換材料、熱電変換モジュール及びp型熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/26 20060101AFI20220222BHJP
   H01L 35/14 20060101ALI20220222BHJP
   H01L 35/32 20060101ALI20220222BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20220222BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220222BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20220222BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220222BHJP
   C22C 1/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H01L35/26
H01L35/14
H01L35/32 A
H01L35/34
C22C38/00 304
B22F3/10 E
B22F1/00 V
C22C1/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018113159
(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2019216198
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】西出 聡悟
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】籔内 真
(72)【発明者】
【氏名】早川 純
【審査官】西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/185852(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/065081(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/26
H01L 35/14
H01L 35/32
H01L 35/34
C22C 38/00
B22F 3/10
B22F 1/00
C22C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相と、第2相Mとを含み、
前記第2相Mが前記母相中に分散されており、前記第2相Mの平均粒径が前記母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、
前記第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%であり、
前記Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金は、単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下であることを特徴とするp型熱電変換材料。
【請求項2】
前記第2相MがW、Taのうち少なくとも1つの元素からなる金属であり、又はW、Taのうち少なくとも1つの元素を含む化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のp型熱電変換材料。
【請求項3】
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相と、第2相Mとを含み、
前記第2相Mが前記母相中に分散されており、前記第2相Mの平均粒径が前記母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、
前記第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%であり、
前記Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金の一部は、SiがAlにより置換されており、単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下であることを特徴とするp型熱電変換材料。
【請求項4】
複数の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の間を電気的に接続する電極とを有する熱電変換モジュールであって、
前記熱電変換素子は、
p型熱電変換素子と、このp型熱電変換素子と接続されたn型熱電変換素子を含み、
前記p型熱電変換素子は、
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相と、第2相Mとを含み、
前記第2相Mが前記母相中に分散されており、前記第2相Mの平均粒径が前記母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、
前記第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%であり、
前記Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金は、単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下である
ことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記n型熱電変換素子は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を有するn型熱電変換材料を含む、請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記p型熱電変換素子と、前記n型熱電変換素子と、前記p型熱電変換素子と前記n型熱電変換素子とを接続する電極とを有する熱電変換素子対が複数配列されていることを特徴とする請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
Fe原料粉末、Ti原料粉末、Si原料粉末、及びM原料粉末を混合してFe、Ti、Si、及びMを含む混合物を生成する工程と、
該混合物のうち、Fe、Ti、Siをアモルファス化して、MがFe-Ti-Si系アモルファス合金中にMの結晶構造を維持したまま分散している合金とする工程と、
前記合金を加熱して、熱電変換材料のp型熱電変換材料を製造する工程と
を含み、
前記熱電変換材料は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相と、第2相Mとを含み、前記第2相Mが前記母相中に分散されており、前記第2相Mの平均粒径が前記母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、前記第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%であり、
前記混合物を生成する工程において、単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下となるよう、更にAl原料粉末を混合する
ことを特徴とするp型熱電変換材料の製造方法。
【請求項8】
前記合金を、450℃以上800℃以下の温度で焼結することを特徴とする、請求項に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
【請求項9】
前記混合物のアモルファス化を、メカニカルアロイング法により行うことを特徴とする請求項または請求項に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
【請求項10】
前記M原料粉末は、p型熱電変換材料を構成する全体に対してM元素の含有量xが0at%<x<2.5at%となるように混合することを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
【請求項11】
前記M原料粉末として、WまたはTaを用いることを特徴とする請求項7~10のいずれか1項に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型熱電変換材料、熱電変換モジュール及びp型熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排熱エネルギーを電力に変換する技術として、熱電変換モジュールが知られており、特に、300℃以下の温度域での排熱回収に適応可能な熱電変換材料の代表的なものとして、Fe-V-Al系フルホイスラー合金やBi-Te系半導体が挙げられる。中でもFe-V-Al系フルホイスラー合金は、Bi-Te系半導体と比較して、毒性が低く環境負荷の小さい材料として知られている。
【0003】
一般に、熱電変換モジュールは、n型の熱電変換材料とp型の熱電変換材料とが組み合わされて構成される。このため、熱電変換モジュールにおいて高い熱電変換特性を得るためには、n型とp型の双方において、高い性能指数ZTを得ることが求められる。現状では、p型の熱電変換材料の性能指数ZTは、n型と比較して低いため、その値の向上が求められている。
【0004】
特許文献1では、毒性が低く、かつTe等の高コストな元素を用いずに埋蔵量の多いFe(鉄)、Ti(チタン)、Si(シリコン)を含む材料のみを用いて作製でき、高い性能指数ZTを得られる熱電変換材料として、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金が提案されている。
また、特許文献2では、バインダー樹脂中に熱電材料粒子を分散させ、またその熱電材料粒子表面に金属微粒子を形成した熱電材料により、熱電特性を維持しながら可撓性かつ薄型の材料に形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/185852号
【文献】特表2012-523121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、Fe:Ti:Si=2:1:1を中心とする組成比を有するFe-Ti-Si系フルホイスラー合金において、n型でZTが最大で0.98の熱電変換特性を有する熱電変換材料が記載されているが、p型の熱電変換材料に関しては、そのような高いZTが得られる旨の開示は無い。
【0007】
特許文献2は、バインダー中に熱電変換材料粒子と金属微粒子を複合化させた熱電変換材料を用いることにより、複合化前と比較してZTが向上する技術を開示している。この技術では、焼結法を用いずにバインダーで成形しているため、電気抵抗率が非常に高く、ZTは最大でも0.0001であり、十分な熱電変換特性が得られない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高い熱電変換特性を得られるp型熱電変換材料、熱電変換モジュール、及びp型熱電変換材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るp型熱電変換材料は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相と、第2相Mとを含み、第2相Mが母相中に分散されており、第2相Mの平均粒径が母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、前記第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%である。
【0010】
本発明の一態様に係る熱電変換モジュールは、複数の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の間を電気的に接続する電極とを有する熱電変換モジュールであって、前記熱電変換素子は
p型熱電変換素子と、このp型熱電変換素子と接続されたn型熱電変換素子を含み、前記p型熱電変換素子は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相と、第2相Mとを含み、前記第2相Mが前記母相中に分散されており、前記第2相Mの平均粒径が前記母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、前記第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%である。
【0011】
本発明の一態様に係るp型熱電変換材料の製造方法は、Fe原料粉末、Ti原料粉末、Si原料粉末、及びM原料粉末を混合してFe、Ti、Si及びMを含む混合物を生成する工程と、該混合物のうち、Fe、Ti、Siをアモルファス化して、MがFe-Ti-Si系アモルファス合金中にMの結晶構造を維持したまま分散している合金とする工程と、前記合金を加熱して、熱電変換材料のp型熱電変換材料を製造することにある。
【0012】
ここで、上記熱電変換材料は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相と、第2相Mとを含み、第2相Mが母相中に分散されており、第2相Mの平均粒径が母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、前記第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い熱電変換特性を得られるp型熱電変換材料、熱電変換モジュール、及びp型熱電変換材料の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例に係るp型熱電変換材料の製造方法の手順を説明するフローチャートである。
図2】実施例に係る熱電変換モジュールの構成を示す概略図である。
図3】試料5におけるX線回折パターンを示す図である。
図4】試料5におけるTEM-EDX像を示す図である。
図5】p型熱電変換材料におけるWの量と熱伝導率κとの関係を示すグラフである。
図6】p型熱電変換材料におけるWの量と性能指数ZTとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態及び実施例を、図面も参照しつつ詳細に説明する。
本発明に係るp型熱電変換材料は、Fe-Ti-Si系のフルホイスラー合金を母相とする。フルホイスラー合金は、一般式E1E2E3で表される。本発明は、E1にFe元素、E2にTi元素、E3にSi元素を主として用いたフルホイスラー構造を持つFe-Ti-Si系フルホイスラー合金を母相としたp型の熱電変換材料である。これらE1、E2、E3の元素は各元素の組成の半分を超えない程度に他の元素に置換されていてもよく、これらを含めてFe-Ti-Si系フルホイスラー合金とする。Fe-Ti-Si系のフルホイスラー合金は、無毒且つ安価で、埋蔵量の多い元素のみから構成されており、環境負荷が小さい合金である。前述のように、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金は、従来、n型では十分に大きな熱電変換特性を備えることができるが、本発明は、p型においても十分に大きな熱電変換特性を備えることを可能にしている。
【0016】
本発明者らの検討の結果、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を母相とし、母相と第2相Mを含む熱電変換材料であって、第2相Mが母相中に分散されており、第2相Mの平均粒径が母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であり、第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%である熱電変換材料において、p型の熱電変換材料においても高い熱電変換性能を得られることが見出された。平均粒径は試料のX線回折パターンを以下の式[数1]で表されるシェラーの式を用いて解析することにより求めた。
【0017】
[数1]
L=Kλ/βcosθ
【0018】
[数1]において、Lは平均粒径であり、Kは0.94の定数であり、λはX線の波長であり、βは回折ピークの半値幅であり、θは回折角である。なお、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金はその組成比がFe:Ti:Si=2:1:1からずれても、高い熱電変換特性を備えることができる。これは、熱電変換材料がp型の場合に限らず、n型の場合であっても同様である。
【0019】
熱電変換モジュールの最大出力は、熱電変換材料の無次元の性能指数ZTに依存する。このため、熱電変換材料の性能は、下記式[数2]の無次元の性能指数ZTで評価される。
【0020】
[数2]
ZT=(S/ρκ)T
【0021】
なお、以下では、「無次元の性能指数ZT」を、単に「性能指数ZT」と称する。[数2]において、Sはゼーベック係数であり、ρは電気抵抗率であり、κは熱伝導率であり、Tは温度である。従って、熱電変換モジュールの最大出力Pを向上させるためには、熱電変換材料のゼーベック係数Sを増加させ、電気抵抗率ρを減少させ、熱伝導率κを減少させることが望ましい。
【0022】
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金において、価電子数4であるSiの一部を価電子数3であるAlで置換することにより、熱電変換材料全体の価電子数が減少し、キャリアとなるホールがドープされた状態となる。フルホイスラー合金の単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下であると、p型熱電変換材料において高い性能指数ZTを得ることができる。
【0023】
また、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を母相とし、母相と第2相Mを含む熱電変換材料であって、第2相Mが母相中に分散されており、第2相Mの平均粒径が母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下である。ここで「分散」とは、第2相Mが、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金の結晶構造からは分離しており、合金の結晶の分布状態及び密度とは異なる分布状態及び密度で該合金内に存在する、という程度の広義の意味に使用される。
【0024】
このような第2相Mが分散されたFe-Ti-Si系フルホイスラー合金では、従来の第2相Mを含まないFe-Ti-Si系フルホイスラー合金の単相と比較して、母相と第2相Mの界面で平均自由行程の短いフォノンが散乱されるため、格子によるエネルギー伝播が抑制される。これにより、熱電変換材料中の熱伝導が抑制される。また後述するように、焼結体を得ることにより電気伝導性も確保される。これらの効果により、p型熱電変換材料の性能指数ZTを増加させることができる。
【0025】
このような第2相Mが分散されたFe-Ti-Si系フルホイスラー合金において、第2相Mの平均粒径が母相の平均粒径よりも大きい場合、母相が散乱させるフォノンの平均自由行程より短い平均自由行程を持つフォノンは、母相と第2相Mの界面で散乱されなくなるため、熱電変換材料の熱伝導率が十分に下がらず、高い性能指数ZTを得難くなる。第2相Mの平均粒径が母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nmを超える場合においても、平均自由行程の短いフォノンが効果的に散乱されないことから、熱電変換材料の熱伝導率が十分に下がらず、高い性能指数ZTを得難くなる。
以上のように、
(a)Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金である母相
(b)第2相M
(c)前記第2相Mが前記母相中に分散されていること
(d)前記第2相Mの平均粒径が前記母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下であるp型熱電変換材料
の組合せにより、高い性能指数を得ることができることが理解される。
【0026】
更に、
(e)Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金に対する第2相Mの含有量xが0at%<x<2.5at%であること
が好ましい。そのことによって、従来の第2相Mを含有していないFe-Ti-Si系フルホイスラー合金の単相と比較して、熱電変換材料中の熱伝導が抑制される。また焼結体を得ることにより電気伝導性も確保される。これらの効果により、大きな性能指数ZTを得ることができる。
【0027】
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金に対する第2相Mの含有量xが2.5at%以上であると、第2相Mのゼーベック係数の影響が無視できなくなり、熱電変換材料のゼーベック係数が減少し、また母相と第2相Mの界面の数が多くなることで電子が散乱され電気抵抗率が増加する。このため、含有量xは2.5at%未満に抑制することが、高い性能指数ZTを得る観点からより好ましい。
【0028】
このように、機械的特性や元素拡散係数の観点からすると、第2相Mは、W(タングステン)、Ta(タンタル)のうち少なくとも1つ以上の元素からなる金属、又はTa、Wのうち少なくとも1つ以上の元素を含む化合物が好適である。
【0029】
第2相Mの機械的強度が小さい場合、Fe-Ti-Si系アモルファス合金を作製する際、Mの結晶構造は維持されず、Fe-Ti-Si系アモルファス合金とMが合金化し、第2相Mが母相のFe-Ti-Si系フルホイスラー合金の中で分散された形で形成されないことから、高い性能指数ZTを得難くなる。
【0030】
第2相Mの元素拡散係数が大きい場合、Fe-Ti-Si系アモルファス合金を作製する際、発生する熱によりFe-Ti-Si系アモルファス合金中にMが元素拡散して合金化し、第2相Mが母相のFe-Ti-Si系フルホイスラー合金の中で分散された形で形成されないことから、高い性能指数ZTを得難くなる。
【0031】
機械的強度が大きく、元素拡散係数が小さいことから、MはW、Ta、又はW,Taを含む化合物であることが好ましい。
【0032】
熱電変換材料中の母相であるFe-Ti-Si系フルホイスラー合金は、L2型結晶構造を有しているため、p型熱電変換材料として優れた熱電変換特性を得られるため好ましい。
【0033】
以上説明した実施形態に係るp型の熱電変換材料によれば、p型の熱電変換材料として適用したときの性能指数ZTとして、従来のFe-Ti-Si系フルホイスラー合金が示す最大の値である、0.20以上の性能指数ZTを得ることができる。
【0034】
なお、本実施の形態に係るp型熱電変換材料であることは、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)またはエネルギー分散型X線分光分析(EDX)による組成分析、走査電子顕微鏡(SEM)または透過電子顕微鏡(TEM)による構造解析により容易に確認することが出来る。
【0035】
次に、上述のp型熱電変換材料の製造方法を図1を参照して説明する。
まず、Fe原料粉末、Ti原料粉末、Si原料粉末、M原料粉末を、最終的に得たいFe-Ti-Si系合金の組成に応じた割合で準備する(ステップS1)。
【0036】
次に、上記した各原料粉末を混合して、Fe、Ti、Si、Mを含む混合物を生成し、得られた混合物を、例えばメカニカルアロイング法によりFe、Ti、Siをアモルファス化してFe-Ti-Si系アモルファス合金とする(ステップS2)。メカニカルアロイングは、例えば硬質球などの粉砕媒体を混合物とともに密閉容器に装填し、機械的な撹拌によりミリングを行って合金を生成する方法である。メカニカルアロイング法は急冷法などアモルファス相を作製可能な他の技術と比較して、広い組成範囲でアモルファス相を得ることができる。一方、M原料粉末は、Fe、Ti、Siがアモルファス相に変化した後も、結晶構造を維持したまま、Fe-Ti-Si系アモルファス合金中に平均粒径50nm以下まで微細化されて分散され、これにより、Fe-Ti-Si系アモルファス合金中に第2相Mが分散された合金粉末が形成される。なお、Fe、Ti、Siをアモルファス合金化する他の方法として、メルトスピニング法やアトマイズ法などを用いることも可能である。また、上記合金が、粉末体として得られていない場合には、例えば水素脆化処理を実行し、酸化が防止される環境下で粉砕する方法を用いてもよい。
【0037】
次に、合金粉末を、例えば加圧成形等の方法により成型する(ステップS3)。成型時の圧力は、例えば40MPa~5GPaとすることができる。
【0038】
次に、合金粉末を、450℃以上800℃以下の温度で加圧しながら加熱して焼結させる(ステップS4)。これにより、Fe-Ti-Si系アモルファス合金がL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金を形成する。このとき、圧力は40MPa~5GPaであることが望ましく、それにより焼結体の密度が向上し電気抵抗率が減少、熱電性能指数が高くなる。第2相Mは焼結前と同様、フルホイスラー合金としての母相中に分散されており、第2相Mの平均粒径が母相の平均粒径よりも小さく、かつ50nm以下である。
【0039】
これは、Fe-Ti-Si系のL2型結晶構造が準安定構造であるため、高エネルギー状態のアモルファス構造を経ることで、L2型結晶構造を、中間生成物として作製可能となるためである。焼結温度は、フルホイスラー合金が十分に結晶化し、また熱分解しない550℃以上750℃以下であることが好ましい。また焼結温度は、フルホイスラー合金の相対密度が大きくなり、また結晶粒径が粗大化しすぎない600℃以上700℃以下であることがより好ましい。
【0040】
焼結温度が450℃未満であると、母相においてL2型結晶構造が得られない。一方、焼結温度が800℃を超えると、L2型結晶構造が熱分解して、他の安定合金が形成されることがある。この場合、得られた焼結体を、熱電変換材料として使用することが困難となる。このため、合金粉末の焼結温度は、450℃以上800℃以下の温度に設定される。
【0041】
上記した焼結温度の保持時間は、特に限定されないが、概ね1~600分間とすることができる。焼結工程は、加圧成型工程と加熱工程とを同時に行うことが可能な、放電プラズマ焼結法又はホットプレス法などを用いることもできる。
【0042】
保持時間が長すぎると試料が酸化して熱電特性が低下する可能性があり、保持時間が短すぎるとフルホイスラー合金が形成されない可能性がある。保持時間は、温度むらの低減、また酸化防止の観点から5~400分間であることが好ましい。また保持時間は、均一なL2型結晶構造化、またその結晶粒径が粗大化しすぎない為には10~200分間であることがより好ましい。
【0043】
<熱電変換モジュール>
次に、本発明の実施の形態に係るp型熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールについて説明する。図2は、本実施の形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す断面図である。図2に示す熱電変換モジュールは、上部基板14aと下部基板14bとを備えており、上部基板14aと下部基板14bとの間に、p型熱電変換素子11と、p型熱電変換素子11に隣接するn型熱電変換素子12とを備えている。
【0044】
p型熱電変換素子11は、p型熱電変換材料を含んで形成されており、n型熱電変換素子12は、n型熱電変換材料を含んで形成されている。p型熱電変換素子11は、少なくともその一つが、上述したような第2相Mを分散してなるFe-Ti-Si系フルホイスラー合金のp型熱電変換材料により形成されている。
【0045】
p型熱電変換素子11とn型熱電変換素子12とは、上部基板14aと下部基板14bとの間に、所定の間隔を空けて交互に配列されている。1組のp型熱電変換素子11とn型変換素子12とによりπ型の構造を有する熱電変換対15が形成される。このπ型の構造の複数の熱電変換素子対15が、上部基板14a上に形成された上部電極13a、及び下部基板14b上に形成された下部電極13bにより、電気的に直列に接続されている。具体的には、p型熱電変換素子11は、上部電極13aにより隣接するn型熱電変換素子12と接続されている。また、p型熱電変換素子11は、下部電極13bにより、上部電極13aにより接続されたn型熱電変換素子12と反対側に設けられたn型熱電変換素子12と接続されている。
【0046】
p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12は、上部電極13a及び下部電極13bと、導電性材料により接続されている。これらの構造には、応力緩和構造を設けてもよいし、その他の付属品を付けることも可能である。
【0047】
以上説明した構造により、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12は、上部電極13a及び下部電極13bと熱的に接触するように接合されており、上部電極13a及び下部電極13bは、上部基板14a及び下部基板14bに熱的に接触するように接合されている。
【0048】
図2に示す熱電変換モジュールは、例えば上部基板14aを加熱するか又は高熱部に接触させることで、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12において、同一の方向に温度勾配を発生させることができる。このとき、ゼーベック効果の原理より、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12では、温度勾配に対して逆向きに熱起電力が発生する。これにより、大きい熱起電力を発生させることができる。従って、温度勾配が印加された状態で、電極の両端(例えば図2では、図中右端の下部電極13bと図中左端の下部電極13b)を接続することで、電気エネルギーを効率良く取り出すことができる。
【0049】
n型熱電変換素子12としては、n型熱電変換材料として、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を用いてもよいし、Fe-V-Al系フルホイスラー合金を用いてもよいし、Bi-Te系半導体を用いてもよい。Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金をn型熱電変換材料として用いた場合には、高い機械的特性や高い性能指数ZTを得られる温度領域が、p型熱電変換材料において高い機械的特性や高い性能指数ZTを得られる温度領域と略同程度となるため好適である。このため、熱電変換モジュールとしての出力特性や信頼性を向上させ、かつコストを低減する観点から、n型熱電変換素子としてもFe-Ti-Si系フルホイスラー合金を用いることが好ましい。
【0050】
<実施例>
以下に、実施例に係るp型熱電変換材料を、実施例により詳細に説明する。
まず、以下の方法により、実施例に係るp型熱電変換材料として、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するFe-Ti-Si系フルホイスラー合金を母相とし、第2相Mとを含む熱電変換材料を作製した。
【0051】
E1サイト、E2サイト及びE3サイトの各サイトの主成分を構成する原料粉末としては、それぞれ、Fe、Ti、及びSiを主成分とする原料粉末を用いた。また、E3サイトに添加する成分の原料粉末の一例として、Alを主成分とする原料粉末を用いた。添加物がAlでない場合にいても、総価電子数VECが23.8以上24.1以下であればP型の高いゼーベック係数を得ることができる。また第2相MにはWを用いた。これらの原料粉末を、最終的に得られる熱電変換材料(試料番号1~6)の組成比が表1となるように秤量した。試料番号1~6は、Fe、Ti、Siの組成比は略同一であるが、Wの組成比が0~2.50at%の範囲で段階的に変更されている。試料番号1の試料は、Wの添加が無いため、比較例に相当する。また、試料番号6の資料は、Wの添加が多く十分高いZTが得られず、比較例に相当する。
【0052】
【表1】
【0053】
次に、これらの原料粉末を、不活性ガス雰囲気中において、ステンレス鋼製の容器に入れ、直径10mmのステンレス鋼製ボール又はクロム鋼製ボール(硬質球)と混合した。次に、この混合物について、遊星ボールミル装置を用いたメカニカルアロイングを行い、アモルファス化した母相と第2相Mを含む合金粉末を得た。
【0054】
メカニカルアロイングは、350rpmの公転回転速度で20時間以上実施した。次に、合金粉末を、カーボン製のダイス又はタングステンカーバイド製のダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、1.5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら加熱して、焼結させた。
【0055】
焼結処理は、660℃まで昇温した後、その目標温度(660℃)で30分間保持して行った。その後、得られた焼結体を室温まで冷却して、熱電変換材料(試料1~試料6)を得た。
【0056】
[評価方法]
次に、得られた各熱電変換材料のゼーベック係数及び電気伝導率を、熱電特性評価装置(「ZEM-2」、アドバンス理工株式会社製)により測定し、熱伝導率をレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(「LFA447 Nanoflush」、ネッチジャパン株式会社製)により測定して、各試料1~6の性能指数ZTを算出した。
【0057】
また、X線回折装置(「X‘pertPro」、PANalytical製)による測定を行い、各試料の結晶構造と平均粒径を評価した。平均粒径の計算には上述の[数1]で表されるシェラーの式を用いた。また、母相と第2相Mの構造の観察には透過電子顕微鏡(TEM)とエネルギー分散型X線分光法を用いた。
【0058】
これらの評価結果を図3図6に示す。各試料1~6の組成比、平均粒径、性能指数ZTは表1に示す通りである。
【0059】
[評価結果]
図3図4は、Wの組成比を2.0at%とした試料5について、焼結体のXRDパターンとTEM-EDX像を示している。またAlの組成比は総価電子数が23.8以上、24.1以下になるように設定した。
【0060】
図3に示すように、焼結体は強度の大きいフルホイスラー合金の回折ピークに加え、強度の小さいWの回折ピークが得られている。したがって、フルホイスラー合金を母相とし、その母相中に分散された第2相MとしてWが母材中に存在していることがわかる。[表1]のFe、Ti、Si、Alの組成比において、Wの組成比を0at%から2.5at%まで増加させたとき、X線回折パターンから[数1]で示されるシェラーの式を用いて計算した母相及びWの平均粒径を[表1]に示す。母相の粒径はおおよそ69nmから79nmであるのに対して、Wの平均粒径はおおよそ20nmから23nmであり、Wの平均粒径は母相の平均粒径よりも小さく、50nm以下であることが分かる。
【0061】
図4に、実施例に係るp型熱電変換材料のTEM-EDX像を示す。黒い領域は母相を示しており、濃度の薄い領域はW相を示している。図4のように、Wは母相中に粒子状になって均一に、母相の分布状態及び密度とは異なる分布状態及び密度で分散しており、しかもその平均粒径は50nm以下となっていることが分る。
【0062】
図5及び図6のグラフは、Wを0at%から2.5at%まで増加させたときの熱伝導率κと性能指数ZTの変化を示している。
図5に示すように、Wの量が0at%から2.5at%まで増加すると、Wの量が増えるにつれ熱伝導率κが減少する。Wを所定量添加した場合、Wを添加しないp型Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金単相の試料(試料1)に比べ、熱伝導率κは小さくなる。
また、図6に示すように、Wの量が0at%以上2.5at%未満の組成領域で、従来のp型フルホイスラー合金単相の試料(試料1)を超える性能指数ZTが得られている。
【0063】
このようなp型Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を母相とし、50nm以下の平均粒径を持つWを第2相Mとして母相の中に分散させると、p型熱電変換材料における性能指数ZTが向上する。その理由は、図4に示したように、Wの量の増加により熱伝導率κが減少するからである。一方で、母相中でのWの含有量が2.5at%を超えると、Wが持つ極めて小さいゼーベック係数の影響が無視できなくなり、p型熱電変換材料のゼーベック係数が減少し、またWと母相との界面の数が多くなることで電子が散乱され電気抵抗率が増加する。母相中でのWの含有量を0at%<x<2.5at%とすることで、より高い性能指数を得ることができる。
以上、Wを第2相Mとして母相中に分散させる実施例を説明したが、Taを第2相Mとした場合でも同様の効果を得ることができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
11…p型熱電変換素子、12…n型熱電変換素子、13a…上部電極、13b…下部電極、14a…上部基板、14b…下部基板、15…熱電変換素子対。
図1
図2
図3
図4
図5
図6