IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-研磨液及び研磨方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】研磨液及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220222BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220222BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20220222BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018567352
(86)(22)【出願日】2018-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2018001981
(87)【国際公開番号】W WO2018147074
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2017021359
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕
(72)【発明者】
【氏名】水谷 真人
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-315667(JP,A)
【文献】特表2010-518601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン材料を含む被研磨面を研磨するための研磨液であって、
砥粒と、末端にカチオン性基を有する重合体と、酸化剤と、酸化金属溶解剤と、水と、を含有し、
前記重合体が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有し、
前記不飽和カルボン酸が、カチオン性基を有しない不飽和カルボン酸を含み、
前記重合体の重量平均分子量が20000以下であり、
pHが5.0未満である、研磨液。
【請求項2】
前記重合体が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及び、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨液。
【請求項3】
前記重合体が、前記カチオン性基として、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸二水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、及び、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の重合開始剤に由来するカチオン性基を有する、請求項1又は2に記載の研磨液。
【請求項4】
前記酸化剤が過酸化水素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項5】
前記砥粒が、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア、及び、これらの変性物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項6】
前記酸化金属溶解剤が有機酸を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項7】
前記有機酸が、ギ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸、及び、アジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項6に記載の研磨液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の研磨液を用いて、タングステン材料を含む被研磨面を研磨する、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨液及び研磨方法に関する。本発明は、例えば、半導体デバイスの配線形成工程等における研磨に使用される研磨液及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(以下、「LSI」と記す。)の高集積化又は高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(以下、「CMP」と記す。)法もその一つであり、LSI製造工程(特に、多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線形成等)において頻繁に利用される技術である。この技術は、例えば下記特許文献1に開示されている。
【0003】
CMPを用いた埋め込み配線形成としては、ダマシン法が知られている。ダマシン法では、例えば、まず、酸化珪素等の絶縁材料の表面にあらかじめ溝を形成した後、絶縁材料の表面に追従する形状のバリア材料(例えばバリア膜)を形成し、さらに、溝を埋め込むようにバリア材料全体の上に配線金属を堆積する。次に、溝に埋め込まれた配線金属以外の不要な配線金属を除去した後、配線金属の下層のバリア材料の一部をCMPにより除去して埋め込み配線を形成する。
【0004】
近年、LSIには、配線金属又はバリア材料としてタングステン材料が用いられており、タングステン材料を除去するための研磨液が必要とされている。例えば、下記特許文献2には、砥粒、過酸化水素、鉄化合物等を含有する研磨液を用いてタングステン材料を研磨する技術が開示されている。
【0005】
タングステン材料の配線を研磨により形成する方法(ダマシンプロセス)の一例を図1に示す。被研磨体(基板)10は、図1(a)に示すように、表面に溝を有する絶縁材料(酸化珪素等)1と、絶縁材料の表面に追従する形状のバリア材料(窒化チタン等)2と、溝を埋め込むようにバリア材料2の全体を覆うタングステン材料(配線金属)3と、を有している。被研磨体10の研磨方法は、バリア材料2が露出するまでタングステン材料3を高い研磨速度で研磨する粗研磨工程(図1(a)~図1(b))と、粗研磨工程において生じた段差を解消するための工程(図1(b)~図1(c))として、絶縁材料1が露出するまでバリア材料2及びタングステン材料3を研磨する中研磨工程と、絶縁材料1、バリア材料2及びタングステン材料3を充分な研磨速度で研磨して被研磨面を平坦に仕上げる仕上げ研磨工程と、をこの順に有している。
【0006】
ところで、研磨液を用いてタングステン材料を研磨するに際し、タングステン材料のエッチングの抑制が充分でない場合には、キーホールが発生して平坦性が低下する問題が存在する。キーホールは、主にエッチングに因る凹みであり、比較的耐腐食性が低いビア中心部に発生しやすい。キーホールの問題については、タングステン材料のエッチングの抑制が有効であると考えられる。しかしながら、銅等の研磨に有効であるベンゾトリアゾール(BTA)は、タングステン材料に対する保護膜形成剤として殆ど効果が得られないため、効果的にタングステン材料のエッチングを抑制可能な保護膜形成剤を含む研磨液が求められている。
【0007】
例えば、下記特許文献3には、ポリエチレンイミン等のカチオン性水溶性重合体がタングステン材料の保護膜形成剤として使用され、タングステン材料の表面に吸着して保護膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第4944836号明細書
【文献】特許第3822339号公報
【文献】特開2010-258416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、タングステン材料の研磨速度としては、前記特許文献3に示されているような数百nm/min程度の研磨速度以外に、仕上げ研磨等において数十nm/min程度の研磨速度が求められる場合があり、タングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制することが求められている。しかしながら、従来のタングステン材料の研磨においては、このようにタングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制することが困難である。
【0010】
本発明は、タングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制することが可能な研磨液及び研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、タングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制するため、タングステン材料に対して適切な吸着能を有する保護膜形成剤を用いることに着想し、特定の重合体を用いた場合に前記課題を達成できることを見出した。
【0012】
本発明に係る研磨液は、タングステン材料を含む被研磨面を研磨するための研磨液であって、砥粒と、末端にカチオン性基を有する重合体と、酸化剤と、酸化金属溶解剤と、水と、を含有し、前記重合体が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有し、前記重合体の重量平均分子量が20000以下であり、pHが5.0未満である。
【0013】
本発明に係る研磨液によれば、タングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制することができる。本発明に係る研磨液は、タングステン材料の研磨における中研磨工程、仕上げ研磨工程等に好適に用いることができる。
【0014】
ところで、タングステン材料と同時に絶縁材料を研磨する場合(例えば、仕上げ研磨工程)があるが、本発明者らは、本発明における前記重合体が、タングステン材料に加えて絶縁材料に対して適切な吸着能を有する保護膜形成剤として作用することにより、タングステン材料のエッチング速度を低減しつつ、タングステン材料及び絶縁材料を充分な研磨速度で研磨可能であることを見出した。本発明に係る研磨液によれば、タングステン材料及び絶縁材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制することができる。
【0015】
前記重合体は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及び、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0016】
前記重合体は、前記カチオン性基として、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸二水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、及び、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の重合開始剤に由来するカチオン性基を有することが好ましい。
【0017】
前記酸化剤は、過酸化水素を含むことが好ましい。
【0018】
前記砥粒は、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア、及び、これらの変性物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0019】
前記酸化金属溶解剤は、有機酸を含むことが好ましい。前記有機酸は、ギ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸、及び、アジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0020】
本発明に係る研磨方法は、本発明に係る研磨液を用いて、タングステン材料を含む被研磨面を研磨する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、タングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制することが可能な研磨液及び研磨方法を提供することができる。本発明によれば、タングステン材料を含む被研磨面の研磨への研磨液の応用を提供することができる。本発明によれば、タングステン材料と、バリア材料及び絶縁材料からなる群より選ばれる少なくとも一種と、を含む被研磨面の研磨への研磨液の応用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、タングステン材料の配線を研磨により形成する方法を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0025】
「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0026】
「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0027】
<研磨液>
本実施形態に係る研磨液は、タングステン材料を含む被研磨面を研磨するための研磨液であって、砥粒と、末端にカチオン性基(カチオン性末端基)を有する重合体(ポリカルボン酸系ポリマー)と、酸化剤と、酸化金属溶解剤と、水と、を含有し、前記重合体が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有し、前記重合体の重量平均分子量が20000以下であり、pHが5.0未満であることを特徴とする。本実施形態に係る研磨液は、例えば、タングステン材料を含む金属膜用の研磨液である。以下、研磨液の含有成分、液状特性等について詳細に説明する。
【0028】
(砥粒)
本実施形態に係る研磨液は、タングステン材料及び絶縁材料の充分な研磨速度を得る観点から、砥粒を含有する。砥粒は、タングステン材料及び絶縁材料の充分な研磨速度を得やすい観点から、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア、及び、これらの変性物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。シリカを含む砥粒としては、コロイダルシリカを用いてもよい。アルミナを含む砥粒としては、コロイダルアルミナを用いてもよい。
【0029】
前記変性物としては、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア等を含む粒子の表面をアルキル基で変性したものなどが挙げられる。粒子の表面をアルキル基で変性する方法としては、特に制限はないが、例えば、粒子の表面に存在する水酸基と、アルキル基を有するアルコキシシランとを反応させる方法が挙げられる。アルキル基を有するアルコキシシランとしては、特に制限はないが、モノメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルモノメトキシシラン、モノエチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリエチルモノメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルモノエトキシシラン等が挙げられる。反応方法としては、特に制限はなく、例えば、粒子とアルコキシシランとを含有する研磨液(室温の研磨液等)中で反応させてもよく、前記反応を加速するために加熱してもよい。
【0030】
砥粒の平均粒径は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、50nm以上が更に好ましい。砥粒の平均粒径は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、80nm以下が更に好ましい。これらの観点から、砥粒の平均粒径は、10~200nmが好ましく、20~100nmがより好ましく、50~80nmが更に好ましい。ここでいう「平均粒径」とは、砥粒の二次粒径をいう。上記粒径(二次粒径)は、例えば、光回折散乱式粒度分布計により測定することができる。具体的には例えば、COULTER Electronics社製のCOULTER N4SD(商品名)を用いて、測定温度:20℃、溶媒屈折率:1.333(水)、粒子屈折率:Unknown(設定)、溶媒粘度:1.005cp(水)、Run Time:200秒、レーザ入射角:90°、Intensity(散乱強度、濁度に相当):5E+04~4E+05の範囲で測定可能であり、Intensityが4E+05よりも高い場合には水で希釈して測定することができる。
【0031】
前記砥粒の中でも、研磨液中での分散安定性が良く、CMPにより発生するスクラッチ(研磨傷)の発生数が少ない観点から、平均粒径が200nm以下のコロイダルシリカ、及び、平均粒径が200nm以下のコロイダルアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、平均粒径が100nm以下のコロイダルシリカ、及び、平均粒径が100nm以下のコロイダルアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
【0032】
砥粒の含有量は、タングステン材料及び絶縁材料の充分な研磨速度が得られやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上、極めて好ましくは0.5質量%以上、非常に好ましくは1質量%以上である。砥粒の含有量は、スクラッチの発生を抑制しやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下、極めて好ましくは5質量%以下である。これらの観点から、砥粒の含有量は、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.02~30質量%、更に好ましくは0.05~20質量%、特に好ましくは0.1~20質量%、極めて好ましくは0.5~10質量%、非常に好ましくは1~5質量%である。
【0033】
(ポリカルボン酸系ポリマー)
ポリカルボン酸系ポリマーは、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有する重合体であって、重量平均分子量が20000以下であり、且つ、末端にカチオン性基を有していれば特に制限はなく、例えば水溶性である。ポリカルボン酸系ポリマーは、タングステン材料のエッチングを抑制する。末端のカチオン性基とは、主鎖の末端に位置するカチオン性基である。カチオン性基としては、アミノ基、第4級アンモニウム基(第4級アンモニウム塩基)等が挙げられる。
【0034】
ポリカルボン酸系ポリマーがタングステン材料のエッチングを抑制する理由は明確ではないが、広いpH範囲で負のゼータ電位を示すタングステン材料に対し、正電荷のカチオン性末端基が吸着して保護膜を形成するためであると考えられる。すなわち、前記ポリカルボン酸系ポリマーは、タングステン材料の保護膜形成剤として良好な特性を示す。
【0035】
末端がカチオン性基ではなく、ノニオン性基又は両性基である場合には、このような充分なエッチング抑制効果が得られない。
また、前記ポリカルボン酸系ポリマーは、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有するアニオン系ポリマーである。アニオン系ポリマーに代えて、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有さないカチオン系ポリマー(ポリアリルアミン等)を単独で用いた場合、カチオン系ポリマーは、タングステン材料に対してエッチング抑制効果を示し得るものの、タングステン材料及び絶縁材料(酸化珪素等)に対して非常に強固に吸着すると考えられ、タングステン材料及び絶縁材料の研磨速度を過剰に低下させる。このようなタングステン材料及び絶縁材料の研磨速度の過剰な低下は、前記ポリカルボン酸系ポリマーでは観察されない。
アニオン系ポリマーに代えて、不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有さないノニオン系ポリマーを用いた場合も、ポリマーの末端がカチオン性基であればタングステン材料のエッチング抑制効果を示し得ると考えられるが、カチオン系ポリマーと同様に、絶縁材料の研磨速度の低下が大きく、また、コロイダルシリカ等の砥粒を凝集沈降させやすい傾向にある。
【0036】
ポリカルボン酸系ポリマーは、不飽和カルボン酸の単独重合体(ホモポリマ)であってもよく、一の不飽和カルボン酸と他の不飽和カルボン酸との共重合体(コポリマー)であってもよく、不飽和カルボン酸と他のモノマーとの共重合体(コポリマー)であってもよい。
【0037】
ポリカルボン酸系ポリマーの合成に使用するモノマー(不飽和カルボン酸)としては、重合が可能であれば特に制限はないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、チグリン酸、2-トリフルオロメチルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。この中でも、入手及び合成が容易である観点から、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。前記不飽和カルボン酸としては、カチオン性基を有しない不飽和カルボン酸を用いることができる。
【0038】
不飽和カルボン酸と共重合可能な他のモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等の、アクリル酸系エステル又はメタクリル酸系エステル;これらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルキルアミン塩等の塩などが挙げられる。適用する基板がLSI用シリコン基板等である場合は、アルカリ金属による汚染が望ましくないため、アルカリ金属を含まないモノマー(前記アンモニウム塩等)が好ましい。基板がガラス基板等である場合はその限りではない。
【0039】
ポリカルボン酸系ポリマーは、タングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制しやすい観点から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及び、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0040】
ポリカルボン酸系ポリマーの末端基は、重合開始剤の種類によって調整可能であり、適切な重合開始剤を選択することで末端をカチオン性基とすることができる。ポリカルボン酸系ポリマーの末端基を形成するために用いられるポリマー合成時の重合開始剤としては、タングステン材料の充分な研磨速度を維持しつつタングステン材料のエッチングを抑制しやすい観点から、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(別名:2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸二水和物(別名:2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレート)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(別名:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド)、及び、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(別名:2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド)からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。ポリカルボン酸系ポリマーは、前記重合開始剤に由来するカチオン性基を有することが好ましい。
【0041】
ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量の上限は、20000以下である。重量平均分子量が20000を超えると、タングステン材料のエッチング抑制能が低下する傾向にある。分子量が大きすぎる場合にタングステン材料のエッチング抑制能が低下する現象は、以下のように説明できる。ポリカルボン酸系ポリマーは、カチオン性末端基によりタングステン材料の表面に吸着して当該表面を保護するため、分子量が大きいと、1つの末端基で吸着状態を支える質量が過剰に大きいため、吸着状態を保てないと考えられる。また、分子量が大きいと、分子量が小さいポリマーと同質量加えた場合と比較して末端の数が少ないため、分子量の大きいポリマーが吸着したとしても、保護される面積が小さい可能性も考えられる。
【0042】
ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量の上限は、タングステン材料のエッチングの抑制しやすさ、合成のしやすさ、分子量制御の容易さ等の観点から、好ましくは15000以下であり、より合成時間が短縮される観点から、より好ましくは15000以下であり、更に好ましくは10000以下であり、特に好ましくは9000以下であり、極めて好ましくは8000以下であり、非常に好ましくは7500以下であり、より一層好ましくは7000以下である。
【0043】
ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量の下限は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは2000以上、特に好ましくは3000以上である。ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量が500以上であることにより、合成時の分子量制御が容易となる。これらの観点から、ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量は、500~20000が好ましい。
【0044】
ポリカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。測定条件としては、例えば、下記の条件を挙げることができる。
【0045】
使用機器:示差屈折計(株式会社日立製作所製、型番L-3300)を備えたHPLCポンプ(株式会社日立製作所製、L-7100)
カラム:Shodex Asahipak GF-710HQ(昭和電工株式会社製、商品名)
移動相:50mMリン酸水素二ナトリウム水溶液/アセトニトリル=90/10(V/V)混合液
流量:0.6mL/min
カラム温度:25℃
【0046】
ポリカルボン酸系ポリマーの含有量は、タングステン材料のエッチングが効果的に抑制されやすい観点、及び、含有量の制御が容易である観点から、研磨液の全質量を基準として、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上が更に好ましく、0.05質量%以上が特に好ましく、0.1質量%以上が極めて好ましい。ポリカルボン酸系ポリマーの含有量は、研磨液中の砥粒の凝集の発生を抑制しやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましく、1質量%以下が極めて好ましく、0.5質量%以下が非常に好ましい。これらの観点から、ポリカルボン酸系ポリマーの含有量は、研磨液の全質量を基準として、0.001~20質量%が好ましく、0.001~15質量%がより好ましく、0.001~10質量%が更に好ましく、0.01~10質量%が特に好ましく、0.01~5質量%が極めて好ましく、0.03~5質量%が非常に好ましく、0.05~1質量%がより一層好ましく、0.1~0.5質量%が更に好ましい。
【0047】
(酸化剤)
本実施形態に係る研磨液は、酸化剤(金属の酸化剤)を含有する。酸化剤としては、過酸化水素、硝酸、過ヨウ素酸カリウム、次亜塩素酸、オゾン水、鉄イオンを供給する化合物(硝酸鉄等)、銅イオンを供給する化合物、銀イオンを供給する化合物などが挙げられ、その中でも、過酸化水素が好ましい。酸化剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。基板が集積回路用素子を含むシリコン基板である場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン化物等による汚染は望ましくないので、不揮発成分を含まない酸化剤が好ましい。オゾン水は、組成の時間変化が激しいため、過酸化水素が好ましい。
【0048】
酸化剤の含有量は、タングステン材料の良好な研磨速度が得られやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。酸化剤の含有量は、被研磨面の荒れを低減しやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。これらの観点から、酸化剤の含有量は、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.02~30質量%、更に好ましくは0.05~15質量%である。
【0049】
(酸化金属溶解剤)
本実施形態に係る研磨液は、酸化剤により酸化されたタングステン材料の溶解を促進し、タングステン材料の研磨速度を向上させる観点から、酸化金属溶解剤を含有する。酸化金属溶解剤としては、酸化されたタングステン材料を水に溶解させることができれば、特に制限はないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;前記有機酸の有機酸エステル;前記有機酸のアンモニウム塩;塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;前記無機酸のアンモニウム塩(過硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クロム酸等)が挙げられる。これらの中では、実用的な研磨速度を維持しつつ、エッチングを効果的に抑制しやすい観点から、有機酸か好ましく、ギ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸、及び、アジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。酸化金属溶解剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
酸化金属溶解剤の含有量は、タングステン材料の良好な研磨速度が得られやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.005質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上、極めて好ましくは0.05質量%以上、非常に好ましくは0.1質量%以上、より一層好ましくは0.2質量%以上である。酸化金属溶解剤の含有量は、タングステン材料のエッチングを抑制して被研磨面の荒れを低減しやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、極めて好ましくは1質量%以下である。これらの観点から、酸化金属溶解剤の含有量は、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.001~20質量%、より好ましくは0.002~10質量%、更に好ましくは0.005~5質量%、特に好ましくは0.01~5質量%、極めて好ましくは0.05~3質量%、非常に好ましくは0.1~1質量%、より一層好ましくは0.2~1質量%である。
【0051】
(金属防食剤)
本実施形態に係る研磨液は、必要に応じて、金属防食剤(金属の防食剤)を含有することができる。金属防食剤は、タングステン材料と、タングステン材料以外の金属(例えば銅)とを同時に研磨する際に当該金属の表面を保護するために用いることができる。金属防食剤として、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル;1,2,3-トリアゾ-ル、1,2,4-トリアゾ-ル、3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾ-ル、ベンゾトリアゾ-ル、1-ヒドロキシベンゾトリアゾ-ル、1-ヒドロキシプロピルベンゾトリアゾ-ル、2,3-ジカルボキシプロピルベンゾトリアゾ-ル、4-ヒドロキシベンゾトリアゾ-ル、4-カルボキシル(-1H-)ベンゾトリアゾ-ル、4-カルボキシル(-1H-)ベンゾトリアゾ-ルメチルエステル、4-カルボキシル(-1H-)ベンゾトリアゾ-ルブチルエステル、4-カルボキシル(-1H-)ベンゾトリアゾ-ルオクチルエステル、5-ヘキシルベンゾトリアゾ-ル、[1,2,3-ベンゾトリアゾリル-1-メチル][1,2,4-トリアゾリル-1-メチル][2-エチルヘキシル]アミン、トリルトリアゾ-ル、ナフトトリアゾ-ル、ビス[(1-ベンゾトリアゾリル)メチル]ホスホン酸等のトリアゾール系防食剤(トリアゾール骨格を有する化合物);ピリミジン、1,2,4-トリアゾロ[1,5-a]ピリミジン、1,3,4,6,7,8-ヘキサハイドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジン、1,3-ジフェニル-ピリミジン-2,4,6-トリオン、1,4,5,6-テトラハイドロピリミジン、2,4,5,6-テトラアミノピリミジンサルフェイト、2,4,5-トリハイドロキシピリミジン、2,4,6-トリアミノピリミジン、2,4,6-トリクロロピリミジン、2,4,6-トリメトキシピリミジン、2,4,6-トリフェニルピリミジン、2,4-ジアミノ-6-ヒドロキシルピリミジン、2,4-ジアミノピリミジン、2-アセトアミドピリミジン、2-アミノピリミジン、2-メチル-5,7-ジフェニル-(1,2,4)トリアゾロ(1,5-a)ピリミジン、2-メチルサルファニル-5,7-ジフェニル-(1,2,4)トリアゾロ(1,5-a)ピリミジン、2-メチルサルファニル-5,7-ジフェニル-4,7-ジヒドロ-(1,2,4)トリアゾロ(1,5-a)ピリミジン、4-アミノピラゾロ[3,4-d]ピリミジン等のピリミジン系防食剤(ピリミジン骨格を有する化合物)が挙げられる。配線金属が銅を含む場合は、防食作用に優れる観点から、トリアゾール系防食剤を使用することが好ましい。金属防食剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
金属防食剤の含有量は、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.005~5質量%、更に好ましくは0.01~2質量%である。金属防食剤の含有量が0.001質量%以上であることにより、配線金属のエッチングを抑制し被研磨面の荒れを低減しやすい。金属防食剤の含有量が10質量%以下であることにより、配線金属及びバリア材料(例えばバリア金属)の研磨速度が良好になる傾向がある。
【0053】
(有機溶媒)
本実施形態に係る研磨液は、絶縁材料として有機系材料を使用する場合にも絶縁材料の良好な研磨速度が得られやすい観点から、必要に応じて、有機溶媒を含有することができる。有機溶媒としては、特に制限はないが、水と任意に混合できる溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の炭酸エステル類;ブチロラクトン、プロピオラクトン等のラクトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;グリコール類の誘導体として、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等のグリコールジエーテル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;その他、フェノール、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、乳酸エチル、スルホランが挙げられる。有機溶媒としては、グリコールモノエーテル類、アルコール類、及び、炭酸エステル類からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0054】
有機溶媒の含有量は、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.1~95質量%、より好ましくは0.2~50質量%、更に好ましくは0.5~10質量%である。有機溶媒の含有量が0.1質量%以上であることにより、研磨液の基板に対する濡れ性が良好になる。有機溶媒の含有量が95質量%以下であることにより、溶媒の揮発を低減し製造プロセスの安全性を確保しやすい。
【0055】
(水)
本実施形態に係る研磨液は、水を含有している。研磨液における水の含有量は、他の含有成分の含有量を除いた研磨液の残部でよい。
【0056】
(研磨液のpH)
本実施形態に係る研磨液のpHは、5.0未満である。研磨液のpHとタングステン材料のエッチング速度とは密接な関係があり、pHが5.0以上であると、タングステン材料のエッチング速度が増加する傾向にある。研磨液のpHは、タングステン材料のエッチングを更に抑制可能である観点から、4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.5以下が更に好ましく、3.0以下が特に好ましい。研磨液のpHは、研磨装置の腐食を抑制しやすい観点から、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が更に好ましく、2.5以上が特に好ましい。これらの観点から、研磨液のpHは、1.0以上5.0未満が好ましい。研磨液のpHは、液温25℃におけるpHと定義する。研磨液のpHを調整するためのpH調整剤としては、酸成分(有機酸、無機酸等)、アンモニアなどを用いることができる。
【0057】
本実施形態に係る研磨液のpHは、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製の商品名:Model(F-51))で測定できる。例えば、フタル酸塩pH標準液(pH:4.01)、中性リン酸塩pH標準液(pH:6.86)及びホウ酸塩pH標準液(pH:9.18)を校正液として用いてpHメータを3点校正した後、pHメータの電極を研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定する。このとき、校正液及び研磨液の液温は25℃とする。
【0058】
本実施形態に係る研磨液は、砥粒と、ポリカルボン酸系ポリマーと、酸化剤と、酸化金属溶解剤と、を少なくとも含む一液式研磨液として保存してもよく、水の含有量を減じた研磨液用貯蔵液として保存されると共に研磨時に水で希釈して用いられてもよい。
【0059】
本実施形態に係る研磨液は、スラリー(第1の液)と添加液(第2の液)とを混合して前記研磨液となるように前記研磨液の構成成分をスラリーと添加液とに分けた複数液式(例えば二液式)の研磨液セットとして保存してもよい。例えば、本実施形態に係る研磨液は、少なくとも砥粒を含むスラリー、及び、少なくともポリカルボン酸系ポリマーを含む添加液の二液に分けることもできる。これにより、ポリカルボン酸系ポリマーを大量に添加したときに生じる砥粒の安定性の問題を回避しやすい。スラリーは、例えば、砥粒と、水とを少なくとも含む。添加液は、例えば、ポリカルボン酸系ポリマーと、酸化剤と、酸化金属溶解剤と、水とを少なくとも含む。二液に分ける場合、スラリー側にポリカルボン酸系ポリマーが含まれていてもかまわない。この場合、スラリー中のポリカルボン酸系ポリマーの含有量は、砥粒の分散性を損なわない範囲とすることができる。研磨液セットにおいては、研磨直前又は研磨時に、スラリー及び添加液が混合されて研磨液が作製される。複数液式の研磨液セットは、水の含有量を減じたスラリー用貯蔵液及び添加液用貯蔵液として保存されると共に、研磨時に水で希釈して用いられてもよい。
【0060】
<研磨方法>
本実施形態に係る研磨方法は、本実施形態に係る研磨液を用いて、タングステン材料を含む被研磨面を研磨する研磨工程を備える。前記研磨液は、研磨液用貯蔵液を水で希釈することにより得られる研磨液であってもよく、研磨液セットにおけるスラリー及び添加液が混合されて得られる研磨液であってもよい。被研磨面は、少なくともタングステン材料を含有する層を有していてもよい。タングステン材料としては、例えば、タングステン及びタングステン化合物が挙げられる。タングステン化合物としては、タングステン合金等が挙げられる。
【0061】
研磨工程では、例えば、基板の被研磨面を研磨定盤の研磨布に押しあて、基板における被研磨面とは反対側の面(基板の裏面)から基板に所定の圧力を加えた状態で、本実施形態に係る研磨液を基板の被研磨面と研磨布との間に供給して、基板を研磨定盤に対して相対的に動かすことで被研磨面を研磨することができる。研磨工程では、タングステン材料を含む被研磨材料を研磨することができる。被研磨材料は、膜状(被研磨膜)であってもよく、タングステン材料を含む膜であってもよい。成膜方法としては、公知のスパッタ法、メッキ法等が挙げられる。
【0062】
研磨工程は、本実施形態に係る研磨液を用いて、タングステン材料と、バリア材料(例えばバリア金属)及び絶縁材料からなる群より選ばれる少なくとも一種と、を含む被研磨面を研磨する工程であってもよい。研磨工程は、例えば、少なくとも、タングステン材料を含む層と、バリア層及び絶縁層からなる群より選ばれる少なくとも一種と、を有する基板を研磨する工程であってもよい。
【0063】
バリア材料としては、タンタル、タンタル合金、タンタル化合物(酸化タンタル、窒化タンタル等)、チタン、チタン合金、チタン化合物(酸化チタン、窒化チタン等)などが挙げられる。バリア材料としてタングステン材料を用いてもよい。絶縁材料としては、酸化珪素、窒化珪素等が挙げられる。
【0064】
研磨工程では、図1に示す被研磨体(基板)10を研磨することができる。例えば、研磨工程は、バリア材料2が露出するまでタングステン材料3を研磨する第1研磨工程(粗研磨工程)と、絶縁材料1が露出するまでバリア材料2及びタングステン材料3を研磨する第2研磨工程(中研磨工程)と、絶縁材料1、バリア材料2及びタングステン材料3を研磨する第3研磨工程(仕上げ研磨工程)と、をこの順に有していてもよい。
【0065】
タングステン材料のエッチング速度は、配線抵抗の増加等の問題が生じることを抑制しやすい観点から、5.0nm/min以下が好ましく、4.0nm/min以下がより好ましく、3.5nm/min以下が更に好ましい。
【0066】
タングステン材料の研磨速度は、研磨時間を短くできる観点から、10nm/min以上が好ましく、12nm/min以上がより好ましく、15nm/min以上が更に好ましい。タングステン材料の研磨速度は、更に良好な平坦性が得られやすい観点から、40nm/min以下が好ましい。これらの観点から、タングステン材料の研磨速度は、10~40nm/minが好ましく、12~40nm/minがより好ましく、15~40nm/minが更に好ましい。
【0067】
絶縁材料(例えば酸化珪素)の研磨速度は、研磨時間を短くできる観点、及び、平坦性を向上させる観点から、20nm/min以上が好ましく、25nm/min以上がより好ましく、30nm/min以上が更に好ましい。絶縁材料の研磨速度は、更に良好な平滑性及び平坦性が得られやすい観点から、100nm/min以下が好ましい。これらの観点から、絶縁材料の研磨速度は、20~100nm/minが好ましく、25~100nm/minがより好ましく、30~100nm/minが更に好ましい。
【0068】
絶縁材料(例えば酸化珪素)の研磨速度に対するタングステン材料の研磨速度の比率(タングステン材料の研磨速度/絶縁材料の研磨速度。以下、「研磨速度比」ともいう)は、配線部が配線部外縁の絶縁材料部よりも盛り上がる「プロトリュージョン」、逆に配線部がへこむ「ディッシング」等の段差を低減できるような研磨速度比が好ましい。
【0069】
仕上げ研磨用研磨液の場合、粗研磨でのタングステン材料の研磨速度が絶縁材料の研磨速度以上であることが多いために、粗研磨の終了時点(仕上げ研磨の開始時点)で、ディッシングが生じた状態、又は、平坦な状態である傾向がある。そのため、絶縁材料に対するタングステン材料の研磨速度比は、仕上げ研磨後の平坦性を良好にする観点から、1.5より小さいことが好ましく、1.2以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。
【0070】
絶縁材料に対するタングステン材料の研磨速度比は、プロトリュージョンを低減しやすい観点から、0.2以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。前記研磨速度比は、例えば、基板上に形成されたタングステン材料の膜を有するブランケットウエハ(ブランケット基板)、及び、基板上に形成された絶縁材料の膜を有するブランケットウエハを研磨したときの研磨速度比である。前記研磨速度比は、例えば、基板上に平坦に形成されたタングステン材料の膜を有するブランケットウエハ、及び、基板上に平坦に形成された絶縁材料の膜を有するブランケットウエハのそれぞれを同一の研磨布、同一の回転数及び同一の荷重で研磨することにより評価できる。
【0071】
研磨装置としては、例えば、研磨布により研磨する場合、研磨される基板を保持できるホルダーと、回転数が変更可能なモータ等と接続され且つ研磨布を貼り付け可能な研磨定盤と、を有する一般的な研磨装置を使用できる。研磨布としては、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等が使用でき、特に制限がない。
【0072】
研磨条件には制限はないが、定盤の回転速度は、基板が飛び出さないように200rpm以下の低回転が好ましい。被研磨面を有する基板(半導体基板等)の研磨布への押し付け圧力は、1~300kPaであることが好ましく、研磨速度の被研磨面内均一性及びパターンの平坦性を満足するためには、5~300kPaであることがより好ましい。研磨している間、研磨布には研磨液をポンプ等で連続的に供給することができる。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。
【0073】
研磨布の表面状態を常に同一にして研磨(CMP)を行うために、研磨の前に研磨布のコンディショニング工程を実施することが好ましい。例えば、ダイヤモンド粒子のついたドレッサを用いて、少なくとも水を含む液で研磨布のコンディショニングを行う。続いて、本実施形態に係る研磨方法を実施した後に、基板洗浄工程を更に実施することが好ましい。研磨終了後の基板を流水中でよく洗浄後、スピンドライ等を用いて、基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。また、公知の洗浄方法(例えば、市販の洗浄液を基板表面に流しつつ、ポリウレタンでできたブラシを回転させながら当該ブラシを基板に一定の圧力で押し付けて基板上の付着物を除去する方法)を実施した後に乾燥させることがより好ましい。
【実施例
【0074】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0075】
<CMP用研磨液の作製>
(実施例1)
脱イオン水700gにリンゴ酸4gを溶解させた後、カチオン性基を主鎖の末端に有するポリメタクリル酸1(重合開始剤として2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、モノマーとしてメタクリル酸を用いて合成した重量平均分子量7000のポリメタクリル酸)1gを溶解させて水溶液を得た。この水溶液にコロイダルシリカ(二酸化珪素含有量が20質量%の水分散液、pH:8.1、比重:1.1、粘度:3.5mPa・s、配合時の二次粒径60nm)100gを添加した後、30質量%過酸化水素水100gを添加した。さらに、研磨液のpHが2.5に調整されるように25質量%アンモニア水(pH調整剤)を適当量添加した後、残分の脱イオン水を追加して全量1000gの研磨液1を作製した。研磨液中における砥粒の含有量は2質量%であり、ポリメタクリル酸1の含有量は0.1質量%であり、過酸化水素の含有量は3質量%であり、リンゴ酸の含有量は0.4質量%であった。
【0076】
(実施例2)
カチオン性基を主鎖の末端に有する重量平均分子量3200のポリメタクリル酸2を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液2を作製した。
【0077】
(実施例3)
カチオン性基を主鎖の末端に有する重量平均分子量4300のポリメタクリル酸3を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液3を作製した。
【0078】
(実施例4)
カチオン性基を主鎖の末端に有する重量平均分子量9100のポリメタクリル酸4を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液4を作製した。
【0079】
(実施例5)
カチオン性基を主鎖の末端に有する重量平均分子量18500のポリメタクリル酸5を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液5を作製した。
【0080】
(実施例6)
pH調整剤として、25質量%アンモニア水に代えて、10質量%硫酸水溶液を用いてpHを2.0に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液6を作製した。
【0081】
(実施例7)
pH調整剤として25質量%アンモニア水を用いてpHを3.0に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液7を作製した。
【0082】
(実施例8)
pH調整剤として25質量%アンモニア水を用いてpHを4.0に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液8を作製した。
【0083】
(実施例9)
pH調整剤として25質量%アンモニア水を用いてpH4.5に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液9を作製した。
【0084】
(実施例10)
ポリメタクリル酸1に代えて、カチオン性基を主鎖の末端に有するポリアクリル酸1(重合開始剤として2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、モノマーとしてアクリル酸を用いて合成した重量平均分子量8500のポリアクリル酸)1gを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液10を作製した。
【0085】
(実施例11)
ポリメタクリル酸1に代えて、カチオン性基を主鎖の末端に有するポリアクリル酸2(重合開始剤として2,2’-アゾビス[2-メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、モノマーとしてアクリル酸を用いて合成した重量平均分子量5200のポリアクリル酸)1gを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液11を作製した。
【0086】
(比較例1)
ポリメタクリル酸1を用いないこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X1を作製した。
【0087】
(比較例2)
重量平均分子量が25000のポリアクリル酸3を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X2を作製した。
【0088】
(比較例3)
重量平均分子量が48500のポリアクリル酸4を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X3を作製した。
【0089】
(比較例4)
重量平均分子量が101000のポリアクリル酸5を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X4を作製した。
【0090】
(比較例5)
pH調整剤として25質量%アンモニア水を用いてpHを5.0に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X5を作製した。
【0091】
(比較例6)
pH調整剤として25質量%アンモニア水を用いてpHを6.0に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X6を作製した。
【0092】
(比較例7)
ポリメタクリル酸1に代えてポリスルホン酸1(重合開始剤として2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、モノマーとして2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いて合成した重量平均分子量8400のポリスルホン酸)1gを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X7を作製した。
【0093】
(比較例8)
ポリメタクリル酸1に代えてポリアリルアミン1(重合開始剤として2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、モノマーとしてアリルアミンを用いて合成した重量平均分子量25000のポリアリルアミン)1gを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X8を作製した。
【0094】
(比較例9)
ポリメタクリル酸1に代えてポリアクリル酸6(重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル、モノマーとしてアクリル酸を用いて合成した重量平均分子量4300のポリアクリル酸)1gを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X9を作製した。
【0095】
(比較例10)
ポリメタクリル酸1に代えてポリアクリル酸7(重合開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、モノマーとしてアクリル酸を用いて合成した重量平均分子量16000のポリアクリル酸)1gを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、研磨液X10を作製した。
【0096】
<pH測定>
研磨液のpHは下記測定条件により測定した。
測定器:株式会社堀場製作所、商品名:Model(F-51)
校正液:フタル酸塩pH標準液(pH:4.01)、中性リン酸塩pH標準液(pH:6.86)及びホウ酸塩pH標準液(pH:9.18)
測定温度:25℃
測定手順:校正液を用いて3点校正した後、電極を測定対象に入れてから25℃で2分以上放置し、安定したときのpHを測定値とした。
【0097】
<砥粒の粒径測定>
COULTER Electronics社製のCOULTER N4SD(商品名)を用いて、研磨液中の砥粒の平均粒径(二次粒径)を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
<タングステンエッチング速度の測定>
(評価用試験片)
膜厚600nmのタングステン膜をCVD法で直径20cmのシリコン基板上に形成した積層体を2cm角に切断してタングステン試験片を得た。
(エッチング方法)
まず、研磨液100gを60℃に維持した。次に、前記タングステン試験片を撹拌羽根に取付けた。撹拌機の回転数を100min-1に設定して撹拌しつつ、前記試験片を研磨液に5min浸漬した。
(タングステンエッチング速度の算出方法)
浸漬前後のタングステン膜の膜厚差を電気抵抗値から換算して求めた。膜厚差と浸漬時間とからエッチング速度を算出した。結果を表2に示す。5.0nm/min以下を良好な値とした。
【0099】
<研磨速度の測定>
(評価用試験片)
膜厚600nmのタングステン膜をCVD法で直径20cmのシリコン基板上に形成した積層体を2cm角に切断してタングステン試験片を得た。また、膜厚800nmの酸化珪素膜をCVD法で直径20cmのシリコン基板上に形成した積層体を2cm角に切断して酸化珪素試験片を得た。
(研磨方法)
研磨装置(株式会社ナノファクター製、FACT-200)の基板取り付け用吸着パッドを貼り付けたホルダーに前記試験片を固定した。また、発泡ポリウレタンの研磨布を貼り付けた定盤上に、被研磨膜を下にしてホルダーを載せた後、加工荷重が300g/cm(290kPa)になるように重しを載せた。定盤上に前記研磨液を10mL/minで滴下しながら、定盤回転数を80min-1(rpm)に設定し、被研磨膜を60秒間研磨した。
(タングステン研磨速度の算出方法)
研磨前後でのタングステン膜の膜厚をシート抵抗測定器(ナプソン株式会社製、RT-80/RG-80)を用いて測定し、膜厚差から研磨速度を算出した。結果を表2に示す。10nm/min以上を良好とした。
(酸化珪素研磨速度の算出方法)
研磨前後での酸化珪素膜の膜厚を膜厚測定装置RE-3000(株式会社SCREENホールディングス製)を用いて測定し、膜厚差から研磨速度を算出した。結果を表2に示す。20nm/min以上を良好とした。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
開始剤A:2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩
開始剤B:2,2’-アゾビス[2-メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩
開始剤C:アゾビスイソブチロニトリル
開始剤D:4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)
【0103】
表2の結果から、実施例1~11においては、タングステン及び酸化珪素の充分な研磨速度を維持しつつタングステンのエッチングを抑制することができることが確認できる。一方で、比較例1~10は、タングステンエッチング速度又はタングステン研磨速度が実施例1~11よりも劣り、比較例8は、酸化珪素の研磨速度も実施例1~11より劣ることが確認できる。
【0104】
ポリカルボン酸系ポリマーを用いていない比較例1では、タングステン及び酸化珪素の研磨速度は良好であったものの、タングステンエッチング速度が7.2nm/minであり良好ではなかった。一方、ポリメタクリル酸1を用いた実施例1では、タングステンエッチング速度が低減され、1.9nm/minの良好なエッチング速度が得られることが分かる。また、実施例1では、タングステン及び酸化珪素の研磨速度の大きな低下がなく良好であった。
【0105】
ポリマーの重量平均分子量を3200~18500の範囲で変化させた実施例2,3,4,5では、タングステンエッチング速度、タングステン研磨速度、及び、酸化珪素研磨速度が良好であった。一方、20000を超える重量平均分子量のポリマーを用いた比較例2,3,4では、タングステンエッチング速度が6.2~8.8nm/minであり良好ではなかった。分子量が大きいことで、カチオン性末端基の寄与が低下したことが原因であると考えられ、ある程度小さな分子量範囲が必要であることがわかる。
【0106】
研磨液のpHを2.0~4.5の範囲で変化させた実施例6,7,8,9では、タングステンエッチング速度、タングステン研磨速度、及び、酸化珪素研磨速度が良好であった。一方、pHが5.0以上である比較例5,6では、タングステンエッチング速度が9.7~10.1nm/minであり良好ではなかった。pHが一定以上高くなると、タングステン材料の腐食傾向が強まるためと考えられる。
【0107】
ポリマー合成時のモノマーをメタクリル酸から、同様に不飽和カルボン酸であるアクリル酸に変化させた実施例10では、タングステンエッチング速度、タングステン研磨速度、及び、酸化珪素研磨速度が良好であった。一方、スルホン酸化合物である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸をモノマーとして用いて得られたポリスルホン酸を用いた比較例7では、タングステン材料のエッチングの充分な抑制効果が得られなかった。カルボン酸と比較してスルホン酸のプロトンの解離が進みやすいため、ポリアクリル酸と比較してポリスルホン酸主鎖の電荷が負電荷側に大きくなることで、負電荷であるタングステン材料への吸着力が弱まり過ぎたためであると考えられる。また、カチオン系ポリマーであるポリアリルアミンを用いた比較例8では、タングステンエッチング速度が1.1nm/minであり低かったものの、タングステン研磨速度が1nm/minであり、酸化珪素研磨速度が7nm/minであり、研磨速度が実施例に対して大幅に低下した。ポリアリルアミンの主鎖が強い正電荷を有するためにポリアリルアミンがタングステン材料及び酸化珪素に強固に吸着し過ぎたためであると考えられる。
【0108】
実施例1とは異なるカチオン開始剤をポリマー合成時に用いた実施例11では、タングステンエッチング速度、タングステン研磨速度、及び、酸化珪素研磨速度が良好であった。一方、ノニオン開始剤を用いた比較例9、及び、アニオン開始剤を用いた比較例10では、タングステンエッチング速度がそれぞれ8.9nm/min及び6.8nm/minであり、エッチングの充分な抑制効果が得られなかった。負電荷のタングステン材料に対する吸着能が、カチオン開始剤を用いたポリマーよりも低下したためであると考えられる。
【符号の説明】
【0109】
1…絶縁材料、2…バリア材料、3…タングステン材料、10…被研磨体。
図1