(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】フィルム状接着剤及びその製造方法、並びに半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20220222BHJP
H01L 21/50 20060101ALI20220222BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20220222BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220222BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20220222BHJP
H01L 25/065 20060101ALI20220222BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20220222BHJP
H01L 25/18 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L21/50 B
H01L21/56 R
H01L23/30 B
H01L25/08 E
(21)【出願番号】P 2019568438
(86)(22)【出願日】2018-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2018003022
(87)【国際公開番号】W WO2019150445
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】舛野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智陽
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-175459(JP,A)
【文献】特開2007-277457(JP,A)
【文献】特開2008-288571(JP,A)
【文献】特開2012-218170(JP,A)
【文献】特開2016-216562(JP,A)
【文献】特開2010-040835(JP,A)
【文献】特開2012-214526(JP,A)
【文献】特開2010-118554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 21/50
H01L 21/56
H01L 23/29
H01L 25/065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1のワイヤを介して第1の半導体素子がワイヤボンディング接続されると共に、前記第1の半導体素子上に、第2の半導体素子が圧着されてなる半導体装置において、前記第2の半導体素子を圧着すると共に、前記第1のワイヤの少なくとも一部を埋め込むために用いられるフィルム状接着剤であって、
第1の接着フィルムと、前記第1の接着フィルム上に積層された第2の接着フィルムと、を備え、
前記フィルム状接着剤の溶剤含有率がフィルム状接着剤全量を基準として1.5質量%以下であり、
前記フィルム状接着剤の80℃におけるずり粘度が5000Pa・s以下である、フィルム状接着剤。
【請求項2】
前記フィルム状接着剤の厚さが3~150μmである、請求項1に記載のフィルム状接着剤。
【請求項3】
前記フィルム状接着剤の80℃における貯蔵弾性率が10MPa以下である、請求項1又は2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤の製造方法であって、
溶剤を含有する第1の接着剤組成物のワニスを基材上に塗布し、塗布された前記第1の接着剤組成物のワニスを50~150℃で加熱乾燥し、溶剤含有率が第1の接着フィルム全量を基準として1.5質量%以下である第1の接着フィルムを作製する工程と、
溶剤を含有する第2の接着剤組成物のワニスを基材上に塗布し、塗布された前記第2の接着剤組成物のワニスを50~150℃で加熱乾燥し、溶剤含有率が第2の接着フィルム全量を基準として1.5質量%以下である第2の接着フィルムを作製する工程と、
前記第1の接着フィルムと前記第2の接着フィルムとを貼り合わせる工程と、
を備える、フィルム状接着剤の製造方法。
【請求項5】
基板上に第1のワイヤを介して第1の半導体素子がワイヤボンディング接続されると共に、前記第1の半導体素子上に、第2の半導体素子が請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤を介して圧着されることで、前記第1のワイヤの少なくとも一部が前記フィルム状接着剤に埋め込まれてなる、半導体装置。
【請求項6】
基板上に第1のワイヤを介して第1の半導体素子を電気的に接続するワイヤボンディング工程と、
第2の半導体素子の片面に、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤を貼付するラミネート工程と、
前記フィルム状接着剤が貼付された第2の半導体素子を、前記フィルム状接着剤を介して圧着することで、前記第1のワイヤの少なくとも一部を前記フィルム状接着剤に埋め込むダイボンド工程と、
を備える、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状接着剤及びその製造方法、並びに半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップと半導体チップ搭載用の支持部材との接合には、主に銀ペーストが使用されている。しかし、近年の半導体チップの小型化及び集積化に伴い、使用される支持部材にも小型化及び細密化が要求されるようになってきている。その一方で、銀ペーストを用いる場合では、ペーストのはみ出し又は半導体チップの傾きに起因するワイヤボンディング時における不具合の発生、膜厚制御の困難性、ボイド発生等の問題が生じる場合がある。
【0003】
そのため、近年、半導体チップと支持部材とを接合するためのフィルム状接着剤が使用されている(例えば、特許文献1参照)。ダイシングテープとダイシングテープ上に積層されたフィルム状接着剤とを備える接着シートを用いる場合、半導体ウェハの裏面にフィルム状接着剤を貼り付け、ダイシングによって半導体ウェハを個片化することによって、フィルム状接着剤付き半導体チップを得ることができる。得られたフィルム状接着剤付き半導体チップは、フィルム状接着剤を介して支持部材に貼り付け、熱圧着により接合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、半導体チップのサイズが小さくなるにつれて、熱圧着時に単位面積当たりにかかる力が大きくなり、フィルム状接着剤が半導体チップからはみ出す、ブリードという現象が発生する場合がある。
【0006】
また、フィルム状接着剤をワイヤ埋め込み型フィルム状接着剤であるFOW(Film Over Wire)又は半導体チップ埋め込み型フィルム状接着剤であるFOD(Film Over Die)として用いる場合は、埋め込み性を向上させる観点から、熱圧着時に高い流動性が求められる。そのため、ブリードの発生頻度及び量がさらに増大する傾向にある。場合によっては、ブリードが半導体チップ上面にまで生じることがあり、これによって、電気不良又はワイヤボンディング不良につながるおそれがある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、熱圧着時に良好な埋め込み性を有しつつ、ブリードを抑制することが可能なフィルム状接着剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討したところ、接着フィルムを積層したフィルム状接着剤を用い、さらにフィルム状接着剤の溶剤含有率及びずり粘度を調整することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一側面は、基板上に第1のワイヤを介して第1の半導体素子がワイヤボンディング接続されると共に、第1の半導体素子上に、第2の半導体素子が圧着されてなる半導体装置において、第2の半導体素子を圧着すると共に第1のワイヤの少なくとも一部を埋め込むために用いられるフィルム状接着剤であって、第1の接着フィルムと、第1の接着フィルム上に積層された第2の接着フィルムと、を備え、フィルム状接着剤の溶剤含有率がフィルム状接着剤全量を基準として1.5質量%以下であり、フィルム状接着剤の80℃におけるずり粘度が5000Pa・s以下である、フィルム状接着剤を提供する。このようなフィルム状接着剤によれば、熱圧着時に良好な埋め込み性を有しつつ、ブリードを抑制することが可能となる。
【0010】
フィルム状接着剤の厚さは、3~150μmであってよい。フィルム状接着剤の80℃における貯蔵弾性率は、10MPa以下であってよい。
【0011】
別の側面において、本発明は、上述のフィルム状接着剤の製造方法であって、溶剤を含有する第1の接着剤組成物のワニスを基材上に塗布し、塗布された第1の接着剤組成物のワニスを50~150℃で加熱乾燥し、溶剤含有率が第1の接着フィルム全量を基準として1.5質量%以下である第1の接着フィルムを作製する工程と、溶剤を含有する第2の接着剤組成物のワニスを基材上に塗布し、塗布された第2の接着剤組成物のワニスを50~150℃で加熱乾燥し、溶剤含有率が第2の接着フィルム全量を基準として1.5質量%以下である第2の接着フィルムを作製する工程と、第1の接着フィルムと第2の接着フィルムとを貼り合わせる工程と、を備える、フィルム状接着剤の製造方法を提供する。
【0012】
別の側面において、本発明は、基板上に第1のワイヤを介して第1の半導体素子がワイヤボンディング接続されると共に、第1の半導体素子上に、第2の半導体素子が上述のフィルム状接着剤を介して圧着されることで、第1のワイヤの少なくとも一部がフィルム状接着剤に埋め込まれてなる、半導体装置を提供する。なお、半導体装置は、第1のワイヤの少なくとも一部がフィルム状接着剤に埋め込まれてなるワイヤ埋込型の半導体装置であっても、第1のワイヤ及び第1の半導体チップが接着フィルムに埋め込まれてなるチップ埋込型の半導体装置であってもよい。
【0013】
別の側面において、本発明は、基板上に第1のワイヤを介して第1の半導体素子を電気的に接続するワイヤボンディング工程と、第2の半導体素子の片面に、上述のフィルム状接着剤を貼付するラミネート工程と、フィルム状接着剤が貼付された第2の半導体素子を、フィルム状接着剤を介して圧着することで、第1のワイヤの少なくとも一部をフィルム状接着剤に埋め込むダイボンド工程と、を備える半導体装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱圧着時に良好な埋め込み性を有しつつ、ブリードを抑制することが可能なフィルム状接着剤が提供される。また、本発明によれば、このようなフィルム状接着剤の製造方法、並びにこのようなフィルム状接着剤を用いた半導体装置及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係るフィルム状接着剤を示す模式断面図である。
【
図2】一実施形態に係る接着シートを示す模式断面図である。
【
図3】他の実施形態に係る接着シートを示す模式断面図である。
【
図4】一実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図5】一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一連の工程を示す模式断面図である。
【
図6】一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一連の工程を示す模式断面図である。
【
図7】一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一連の工程を示す模式断面図である。
【
図8】一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一連の工程を示す模式断面図である。
【
図9】一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一連の工程を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書において、(メタ)アクリル酸はアクリル酸又はそれに対応するメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリロイル基等の他の類似表現についても同様である。
【0018】
[フィルム状接着剤]
図1は、一実施形態に係るフィルム状接着剤を示す模式断面図である。フィルム状接着剤10は、第1の接着フィルム2と第1の接着フィルム2上に積層された第2の接着フィルム4とを備える。第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4は、いずれも熱硬化性であり、半硬化(Bステージ)状態を経て、硬化処理後に完全硬化物(Cステージ)状態となり得る第1の接着剤組成物及び第2の接着剤組成物をフィルム状に成形して作製することができる。フィルム状接着剤10は、得られた第1の接着フィルム2と第2の接着フィルム4とをラミネートすることによって作製することができる。
【0019】
フィルム状接着剤10を構成する第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4は、熱硬化性樹脂(以下、単に「(a)成分」という場合がある。)と、高分子量成分(以下、単に「(b)成分」という場合がある。)と、無機フィラー(以下、単に「(c)成分」という場合がある。)と、を含有することが好ましい。第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4は、カップリング剤(以下、単に「(d)成分」という場合がある。)と、硬化促進剤(以下、単に「(e)成分」という場合がある。)と、をさらに含有していてもよい。第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4は、第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4を形成する際に用いられる溶剤が残存していてもよい。フィルム状接着剤10(第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4)の溶剤含有率は、フィルム状接着剤全量を基準として1.5質量%以下である。第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4は互いに同一のフィルムであっても異なるフィルムであってもよいが、互いに同一のフィルムであることが好ましい。
【0020】
<(a)熱硬化性樹脂>
(a)成分は、接着性の観点から、エポキシ樹脂(以下、単に「(a1)成分」という場合がある。)及びエポキシ樹脂の硬化剤となり得るフェノール樹脂(以下、単に「(a2)成分」という場合がある。)を含むことが好ましい。
【0021】
(a1)成分は、分子内にエポキシ基を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。(a1)成分としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール類、アントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(a1)成分は、耐熱性の観点から、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、又はビスフェノールA型エポキシ樹脂であってもよい。
【0022】
(a1)成分のエポキシ当量は、90~300g/eq、110~290g/eq、又は130~280g/eqであってよい。(a1)成分のエポキシ当量がこのような範囲にあると、フィルム状接着剤のバルク強度を維持しつつ、流動性を確保することができる傾向にある。
【0023】
(a1)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~50質量部、10~40質量部、又は20~30質量部であってよい。(a1)成分の含有量が5質量部以上であると、フィルム状接着剤の埋め込み性がより良好となる傾向にある。(a1)成分の含有量が50質量部以下であると、ブリードの発生をより抑制できる傾向にある。
【0024】
(a2)成分は、分子内にフェノール性水酸基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。(a2)成分としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化ナフタレンジオール、フェノールノボラック、フェノール等のフェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(a2)成分は、吸湿性及び耐熱性の観点から、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、又はノボラック型フェノール樹脂であってもよい。
【0025】
(a2)成分の水酸基当量は、80~250g/eq、90~200g/eq、又は100~180g/eqであってよい。(a2)成分の水酸基当量がこのような範囲にあると、フィルム状接着剤の流動性を保ちつつ、接着力をより高く維持することができる傾向にある。
【0026】
(a2)成分の軟化点は、50~140℃、55~120℃、又は60~100℃であってよい。
【0027】
(a2)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~50質量部、10~40質量部、又は20~30質量部であってよい。(a2)成分の含有量が5質量部以上であると、より良好な硬化性が得られる傾向にある。(a2)成分の含有量が50質量部以下であると、フィルム状接着剤の埋め込み性がより良好になる傾向にある。
【0028】
(a1)成分のエポキシ当量と(a2)成分の水酸基当量との比((a1)成分のエポキシ当量/(a2)成分の水酸基当量)は、硬化性の観点から、0.30/0.70~0.70/0.30、0.35/0.65~0.65/0.35、0.40/0.60~0.60/0.40、又は0.45/0.55~0.55/0.45であってよい。当該当量比が0.30/0.70以上であると、より充分な硬化性が得られる傾向にある。当該当量比が0.70/0.30以下であると、粘度が高くなり過ぎることを防ぐことができ、より充分な流動性を得ることができる。
【0029】
<(b)高分子量成分>
(b)成分は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以下であるものが好ましい。
【0030】
(b)成分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル樹脂及びこれらの変性体等が挙げられる。
【0031】
(b)成分は、流動性の観点から、アクリル樹脂を含んでいてもよい。ここで、アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含むポリマーを意味する。アクリル樹脂は、構成単位として、エポキシ基、アルコール性又はフェノール性水酸基、カルボキシル基等の架橋性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含むポリマーであることが好ましい。また、アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルとアクリルニトリルとの共重合体等のアクリルゴムであってもよい。
【0032】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-50~50℃又は-30~30℃であってよい。アクリル樹脂のTgが-50℃以上であると、接着剤組成物の柔軟性が高くなり過ぎることを防ぐことができる傾向にある。これにより、ウェハダイシング時にフィルム状接着剤を切断し易くなり、バリの発生を防ぐことが可能となる。アクリル樹脂のTgが50℃以下であると、接着剤組成物の柔軟性の低下を抑えることができる傾向にある。これにより、フィルム状接着剤をウェハに貼り付ける際に、ボイドを充分に埋め込み易くなる傾向にある。また、ウェハの密着性の低下によるダイシング時のチッピングを防ぐことが可能となる。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、DSC(熱示差走査熱量計)(例えば、株式会社リガク製「Thermo Plus 2」)を用いて測定した値を意味する。
【0033】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10万~300万又は50万~200万であってよい。アクリル樹脂のMwがこのような範囲にあると、フィルム形成性、フィルム状における強度、可撓性、タック性等を適切に制御することができると共に、リフロー性に優れ、埋め込み性を向上することができる。ここで、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて換算した値を意味する。
【0034】
アクリル樹脂の市販品としては、例えば、SG-70L、SG-708-6、WS-023 EK30、SG-280 EK23、HTR-860P-3CSP、HTR-860P-3CSP-3DB(いずれもナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。
【0035】
(b)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~70質量部、10~50質量部、又は15~30質量部であってよい。(b)成分の含有量が5質量部以上であると、成形時の流動性の制御及び高温での取り扱い性をより一層良好にすることができる。(b)成分の含有量が70質量部以下であると、埋め込み性をより一層良好にすることができる。
【0036】
<(c)無機フィラー>
(c)成分としては、例えば、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミウィスカ、窒化ホウ素、シリカ等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(c)成分は、樹脂との相溶性の観点から、シリカであってもよい。
【0037】
(c)成分の平均粒径は、接着性の向上の観点から、0.005~1μm又は0.05~0.5μmであってよい。ここで、平均粒径は、BET比表面積から換算することによって求められる値を意味する。
【0038】
(c)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~50質量部、15~45質量部、又は25~40質量部であってよい。(c)成分の含有量が5質量部以上であると、フィルム状接着剤の流動性がより向上する傾向にある。(c)成分の含有量が50質量部以下であると、フィルム状接着剤のダイシング性がより良好となる傾向にある。
【0039】
<(d)カップリング剤>
(d)成分は、シランカップリング剤であってよい。シランカップリング剤としては、例えば、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(d)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、0.01~5質量部であってよい。
【0041】
<(e)硬化促進剤>
(e)成分は、特に限定されず、一般に使用されるものを用いることができる。(e)成分としては、例えば、イミダゾール類及びその誘導体、有機リン系化合物、第二級アミン類、第三級アミン類、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、反応性の観点から(e)成分はイミダゾール類及びその誘導体であってもよい。
【0042】
イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(e)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、0.01~1質量部であってよい。
【0044】
<溶剤>
第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4は、後述の第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4を形成する際に用いられる溶剤が残存していてもよい。溶剤は、各成分を均一に溶解、混練または分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン、トルエン、キシレン等が挙げられる。乾燥速度が速く、価格が安い点でメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を使用することが好ましい。
【0045】
フィルム状接着剤10(第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4)の溶剤含有率は、フィルム状接着剤全量を基準として1.5質量%以下である。溶剤含有率は、1.2質量%以下、0.9質量%以下、又は0.6量%以下であってもよい。溶剤含有率は1.5質量%以下であると、ブリードを抑制できる傾向にある。溶剤含有率の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.01質量%以上であってよい。
【0046】
接着フィルムは、その厚さを薄くすることによって、溶剤を加熱乾燥し易くなり、溶剤含有率が低減される傾向にある。そのため、フィルム状接着剤10のように、第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4を備えるものは、単層で構成される同じ厚さのものに比べて、加熱乾燥条件を高くすることなく、溶剤含有率を低減し易くなる。また、フィルム状接着剤10の溶剤含有率は、例えば、接着剤組成物のワニスの加熱乾燥の条件を変化させることによって、調整することができる。
【0047】
第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4は、その他の成分をさらに含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、イオントラップ剤、レオロジーコントロール剤等が挙げられる。その他の成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、0.01~20質量部であってよい。
【0048】
フィルム状接着剤10(第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4)の80℃におけるずり粘度は5000Pa・s以下である。80℃におけるずり粘度は、3500Pa・s以下、2500Pa・s以下、又は1500Pa・s以下であってよい。80℃におけるずり粘度は5000Pa・s以下であると、流動性が高まり、埋め込み性が向上する傾向にある。80℃におけるずり粘度の下限値は、特に制限されないが、例えば、10Pa・s以上であってよい。なお、80℃におけるずり粘度は、例えば、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0049】
フィルム状接着剤10の80℃におけるずり粘度は、例えば、上述の(b)成分及び(c)成分の含有量に依存する傾向にあり、これらを変化させることによって、調整することができる。
【0050】
フィルム状接着剤10(第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4)の80℃における貯蔵弾性率は10MPa以下であってよい。80℃における貯蔵弾性率は、5MPa以下、1MPa以下、又は0.5MPa以下であってもよい。80℃における貯蔵弾性率は10MPa以下であると、埋め込み性により優れる傾向にある。80℃における貯蔵弾性率の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.02MPa以上であってよい。
【0051】
フィルム状接着剤10の80℃における貯蔵弾性率は、例えば、(a)成分の官能基当量を変化させることによって調整することができる。
【0052】
第1の接着フィルム2の厚さ及び第2の接着フィルム4の厚さは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、互いに同一であることが好ましい。第1の接着フィルム2の厚さ及び第2の接着フィルム4の厚さは、それぞれ2~140μmであってよい。第1の接着フィルム2の厚さ及び第2の接着フィルム4の厚さは、それぞれ5~110μm、10~90μm、又は20~60μmであってよい。これらの厚さがそれぞれ2μm以上であると、埋め込み性がより良好となる傾向にある。これらの厚さがそれぞれ140μm以下であると、溶剤含有率をより低くすることができる傾向にある。
【0053】
フィルム状接着剤10の厚さ(第1の接着フィルム2と第2の接着フィルム4との合計の厚さ)は、第1のワイヤ及び第1の半導体素子、並びに基板の配線回路等の凹凸を十分に充填可能とするため、3~150μmであってよい。フィルム状接着剤10の厚さは、20~140m又は40~130μmであってもよい。フィルム状接着剤10の厚さが3μm以上であると、埋め込み性により優れる傾向にある。フィルム状接着剤10の厚さが150μm以下であると、ブリードをより抑制できる傾向にある。
【0054】
フィルム状接着剤10は、第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4に、さらに接着フィルムが積層されていてもよい。すなわち、フィルム状接着剤10は、3層以上の接着フィルムを備えていてもよい。第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4以外の接着フィルムは、第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4と同一のものであってよい。
【0055】
[フィルム状接着剤の製造方法]
フィルム状接着剤の製造方法は、溶剤を含有する第1の接着剤組成物のワニスを基材上に塗布し、塗布された第1の接着剤組成物のワニスを50~150℃で加熱乾燥し、溶剤含有率が第1の接着フィルム全量を基準として1.5質量%以下である第1の接着フィルムを作製する工程と、溶剤を含有する第2の接着剤組成物のワニスを基材上に塗布し、塗布された第2の接着剤組成物のワニスを50~150℃で加熱乾燥し、溶剤含有率が第2の接着フィルム全量を基準として1.5質量%以下である第2の接着フィルムを作製する工程と、第1の接着フィルムと第2の接着フィルムとを貼り合わせる工程と、を備える。
【0056】
第1の接着剤組成物のワニス及び第2の接着剤組成物のワニスは、例えば、(a)~(e)成分、必要に応じて(d)成分及び(e)成分を、溶剤中で混合、混練することによって調製することができる。
【0057】
混合、混練は、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を用い、これらを適宜組み合わせて行うことができる。
【0058】
第1の接着剤組成物のワニス及び第2の接着剤組成物のワニスを作製するための溶剤は、上記各成分を均一に溶解、混練または分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン、トルエン、キシレン等が挙げられる。乾燥速度が速く、価格が安い点でメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を使用することが好ましい。
【0059】
基材フィルムとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム等)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、メチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0060】
第1の接着剤組成物のワニス及び第2の接着剤組成物のワニスを基材フィルムに塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。加熱乾燥の条件は、使用した溶剤が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、例えば、50~150℃で、1~30分間加熱して行うことができる。加熱乾燥は、50~150℃の範囲内の温度で段階的に昇温させて行ってもよい。加熱温度を50℃以上とすることによって、第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4(フィルム状接着剤10)の溶剤含有率をフィルム状接着剤全量基準で1.5質量%以下とし易くなる傾向にある。一方、加熱温度を150℃以下とすることによって、接着剤組成物の硬化が進むことを抑制できる傾向にある。
【0061】
フィルム状接着剤10は、第1の接着フィルム2と第2の接着フィルム4とをロールラミネーター、真空ラミネーター等を用いて所定条件(例えば、室温(20℃)、又は加熱状態)で貼り合わせることによって作製することができる。
【0062】
フィルム状接着剤10は、まず、第1の接着剤組成物のワニスを基材フィルムに塗布し、溶剤を加熱乾燥して除去して第1の接着フィルム2を作製し、次いで、第1の接着フィルム2上に、第2の接着剤組成物のワニスを塗布し、溶剤を加熱乾燥して除去して第2の接着フィルムを形成することによっても作製することができる。
【0063】
[接着シート]
図2は、一実施形態に係る接着シートを示す模式断面図である。接着シート100は、基材フィルム20と基材フィルム20上に設けられた第1の接着フィルム2及び第2の接着フィルム4からなるフィルム状接着剤10とを備える。
【0064】
基材フィルム20は、ダイシングテープであってもよい。このような接着シートは、ダイシングダイボンディング一体型接着シートとして使用することができる。この場合、半導体ウェハへのラミネート工程が1回となることから、作業の効率化が可能である。
【0065】
ダイシングテープとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。また、ダイシングテープは、必要に応じて、プライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理が行われていてもよい。ダイシングテープは、粘着性を有するものであることが好ましい。このようなダイシングテープは、上述のプラスチックフィルムに粘着性を付与したものであってもよく、上述のプラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けたものであってもよい。
【0066】
接着シート100は、まず、第1の接着剤組成物のワニスを調製し、これを基材フィルムに塗布し、溶剤を加熱乾燥して除去することによって第1の接着フィルム2を作製する。次いで、別途、第2の接着剤組成物のワニスから第2の接着フィルム4を作製し、これを第1の接着フィルム2にラミネートすることによって作製することができる。
【0067】
図3は、他の実施形態に係る接着シートを示す模式断面図である。接着シート110は、フィルム状接着剤10の基材フィルム20とは反対側の面(第2の接着フィルム4側の面)に積層された保護フィルム30をさらに備える。保護フィルム30は、上述の基材フィルム20と同様のものであってよい。保護フィルムの厚さは、例えば、60~200μm又は70~170μmであってよい。
【0068】
[半導体装置]
図4は、一実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。半導体装置200は、基板14に、第1のワイヤ88を介して1段目の第1の半導体素子Waがワイヤボンディング接続されると共に、第1の半導体素子Wa上に、第2の半導体素子Waaがフィルム状接着剤10を介して圧着されることで、第1のワイヤ88の少なくとも一部がフィルム状接着剤10に埋め込まれてなる半導体装置である。半導体装置は、第1のワイヤ88の少なくとも一部が埋め込まれてなるワイヤ埋め込み型の半導体装置であっても、第1のワイヤ88及び第1の半導体素子Waが埋め込まれてなる半導体装置であってもよい。また、半導体装置200では、基板14と第2の半導体素子Waaとがさらに第2のワイヤ98を介して電気的に接続されると共に、第2の半導体素子Waaが封止材42により封止されている。
【0069】
第1の半導体素子Waの厚さは、10~170μmであってよく、第2の半導体素子Waaの厚さは、20~400μmであってよい。フィルム状接着剤10内部に埋め込まれている第1の半導体素子Waは、半導体装置200を駆動するためのコントローラチップである。
【0070】
基板14は、表面に回路パターン84、94がそれぞれ二箇所ずつ形成された有機基板90からなる。第1の半導体素子Waは、回路パターン94上に接着剤41を介して圧着されている。第2の半導体素子Waaは、第1の半導体素子Waが圧着されていない回路パターン94、第1の半導体素子Wa、及び回路パターン84の一部が覆われるようにフィルム状接着剤10を介して基板14に圧着されている。基板14上の回路パターン84、94に起因する凹凸の段差には、フィルム状接着剤10が埋め込まれている。そして、樹脂製の封止材42により、第2の半導体素子Waa、回路パターン84及び第2のワイヤ98が封止されている。
【0071】
[半導体装置の製造方法]
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、基板上に第1のワイヤを介して第1の半導体素子を電気的に接続する第1のワイヤボンディング工程と、第2の半導体素子の片面に、上述のフィルム状接着剤を貼付するラミネート工程と、フィルム状接着剤が貼付された第2の半導体素子を、フィルム状接着剤を介して圧着することで、第1のワイヤの少なくとも一部をフィルム状接着剤に埋め込むダイボンド工程と、を備える。
【0072】
図5~9は、一実施形態に係る半導体装置の製造方法の一連の工程を示す模式断面図である。本実施形態に係る半導体装置200は、第1のワイヤ88及び第1の半導体素子Waが埋め込まれてなる半導体装置であり、以下の手順により製造される。まず、
図5に示すとおり、基板14上の回路パターン94上に、接着剤41を有する第1の半導体素子Waを圧着し、第1のワイヤ88を介して基板14上の回路パターン84と第1の半導体素子Waとを電気的にボンディング接続する(第1のワイヤボンディング工程)。
【0073】
次に、半導体ウェハ(例えば、厚さ:50μm、サイズ:8インチ)の片面に、接着シート100をラミネートし、基材フィルム20を剥がすことによって、半導体ウェハの片面にフィルム状接着剤10(例えば、厚さ:135μm)を貼り付ける。そして、フィルム状接着剤10にダイシングテープを貼り合わせた後、所定の大きさ(例えば、7.5mm角)にダイシングすることにより、
図6に示すとおり、フィルム状接着剤10が貼付した第2の半導体素子Waaを得る(ラミネート工程)。
【0074】
ラミネート工程の温度条件は、50~100℃又は60~80℃であってよい。ラミネート工程の温度が50℃以上であると、半導体ウェハと良好な密着性を得ることができる。ラミネート工程の温度が100℃以下であると、ラミネート工程中にフィルム状接着剤10が過度に流動することが抑えられるため、厚さの変化等を引き起こすことを防止できる。
【0075】
ダイシング方法としては、例えば、回転刃を用いるブレードダイシング、レーザーによってフィルム状接着剤又はウェハとフィルム状接着剤の両方を切断する方法等が挙げられる。
【0076】
そして、フィルム状接着剤10が貼付した第2の半導体素子Waaを、第1の半導体素子Waが第1のワイヤ88を介してボンディング接続された基板14に圧着する。具体的には、
図7に示すとおり、フィルム状接着剤10が貼付された第2の半導体素子Waaを、フィルム状接着剤10によって第1のワイヤ88及び第1の半導体素子Waが覆われるように載置し、次いで、
図8に示すとおり、第2の半導体素子Waaを基板14に圧着させることで基板14に第2の半導体素子Waaを固定する(ダイボンド工程)。ダイボンド工程は、フィルム状接着剤10を80~180℃、0.01~0.50MPaの条件で0.5~3.0秒間圧着することが好ましい。ダイボンド工程の後、フィルム状接着剤10を60~175℃、0.3~0.7MPaの条件で、5分間以上加圧及び加熱する。
【0077】
次いで、
図9に示すとおり、基板14と第2の半導体素子Waaとを第2のワイヤ98を介して電気的に接続した後(第2のワイヤボンディング工程)、回路パターン84、第2のワイヤ98及び第2の半導体素子Waaを封止材42で封止する。このような工程を経ることで半導体装置200を製造することができる。
【0078】
他の実施形態として、半導体装置は、第1のワイヤ88の少なくとも一部が埋め込まれてなるワイヤ埋め込み型の半導体装置であってもよい。
【実施例】
【0079】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
<接着剤組成物のワニスの調製>
(合成例1~3)
表1に示す品名及び組成比(単位:質量部)で、(a)熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂及びフェノール樹脂、並びに(c)無機フィラーからなる組成物にシクロヘキサノンを加え、撹拌混合した。これに、表1に示す(b)高分子量成分としてのアクリルゴムを加えて撹拌し、さらに表1に示す(d)カップリング剤及び(e)硬化促進剤を加えて各成分が均一になるまで撹拌して合成例1~3の接着剤組成物のワニスを調製した。
【0081】
なお、表1中の各成分の記号は下記のものを意味する。
【0082】
(エポキシ樹脂)
YDCN-700-10(商品名、新日鉄住金化学株式会社製、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:209g/eq)
EXA-830CRP(商品名、DIC株式会社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:159g/eq)
JER YL-980(商品名、三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:185g/eq)
【0083】
(フェノール樹脂)
HE-100C-30(商品名、エア・ウォーター株式会社製、フェノールアラルキル樹脂、水酸基当量:175g/eq、軟化点77℃)
MEH-7800H(商品名、明和化成株式会社製、フェノールアラルキル樹脂、水酸基当量178g/eq、軟化点87℃)
【0084】
(高分子量成分)
HTR-860P-3CSP(商品名、ナガセケムテックス株式会社製、アクリルゴム、重量平均分子量:80万、Tg:12℃)
SG-70L(商品名、ナガセケムテックス株式会社製、アクリルゴム、重量平均分子量:90万、Tg:-13℃)
【0085】
(無機フィラー)
SC2050-HLG(商品名、株式会社アドマテックス製、シリカフィラー分散液、平均粒径:0.50μm)
SE2050-MC(商品名、株式会社アドマテックス製、シリカフィラー分散液、平均粒径0.50μm)
【0086】
(カップリング剤)
A-1160(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン)
A-189(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)
【0087】
(硬化促進剤)
2PZ-CN(商品名、四国化成工業株式会社製、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール)
TPP-K(商品名、北興化学工業株式会社製、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート)
【0088】
【0089】
<接着シートの作製>
(実施例1)
合成例1の接着剤組成物のワニスを100メッシュのフィルターでろ過し、真空脱泡した。基材フィルムとして、厚さ38μmの離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、真空脱泡後の接着剤組成物のワニスをPETフィルム上に塗布した。塗布したワニスを、90℃で5分間、続いて140℃で5分間の2段階で加熱乾燥した。こうして、PETフィルム上に、Bステージ状態にある厚さ60μmの接着フィルムを備える接着シートを得た。次いで、2枚の接着シートを用意し、接着フィルム同士が接するように配置して、70℃のホットプレート上でラミネートして、2層の接着フィルムからなる厚さを120μmのフィルム状接着剤を備える接着シートを作製した。
【0090】
(実施例2)
合成例1の接着剤組成物のワニスを合成例2の接着剤組成物のワニスに変更した以外は、実施例1と同様にして、2層の接着フィルムからなる厚さを120μmのフィルム状接着剤を備える接着シートを作製した。
【0091】
(実施例3)
合成例1の接着剤組成物のワニスを合成例3の接着剤組成物のワニスに変更した以外は、実施例1と同様にして、2層の接着フィルムからなる厚さを120μmのフィルム状接着剤を備える接着シートを作製した。
【0092】
(比較例1)
合成例1の接着剤組成物のワニスを100メッシュのフィルターでろ過し、真空脱泡した。基材フィルムとして、厚さ38μmの離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、真空脱泡後の接着剤組成物のワニスをPETフィルム上に塗布した。塗布したワニスを、90℃で10分間、続いて150℃で10分間の2段階で加熱乾燥した。こうして、PETフィルム上に、Bステージ状態にある単層の厚さ120μmのフィルム状接着剤を備える接着シートを作製した。
【0093】
(比較例2)
90℃で10分間、150℃で10分間の2段階の加熱乾燥を、120℃で20分間、160℃で20分間の2段階の加熱乾燥に変更した以外は、比較例1と同様にして、PETフィルム上に、Bステージ状態にある単層の厚さ120μmのフィルム状接着剤を備える接着シートを作製した。
【0094】
(比較例3)
合成例1の接着剤組成物のワニスを合成例2の接着剤組成物のワニスに変更した以外は、比較例2と同様にして、PETフィルム上に、Bステージ状態にある単層の厚さ120μmのフィルム状接着剤を備える接着シートを作製した。
【0095】
(比較例4)
合成例1の接着剤組成物のワニスを合成例3の接着剤組成物のワニスに変更した以外は、比較例2と同様にして、PETフィルム上に、Bステージ状態にある単層の厚さ120μmのフィルム状接着剤を備える接着シートを作製した。
【0096】
<各種物性の評価>
実施例1~3及び比較例1~4の接着シートのフィルム状接着剤について、溶剤含有率、80℃におけるずり粘度、80℃における貯蔵弾性率、175℃加圧オーブン硬化後の埋め込み性、及びブリード量の測定を行った。
【0097】
(溶剤含有率)
上記接着シートから、基材フィルムを剥離除去し、フィルム状接着剤1gを、1質量%の2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む1,4-ジオキサン溶液30gに加え、振とう機で6時間撹拌した。撹拌後の溶液をガスクロマトグラフィー(キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:140℃)で測定し、各溶剤と2-(2-エトキシエトキシ)エタノールとのピーク面積からフィルム状接着剤の溶剤含有率(質量%)を見積もった。結果を表2に示す。
【0098】
(80℃におけるずり粘度)
上記接着シートから、基材フィルムを剥離除去し、厚さ方向に10mm角に打ち抜くことで、10mm角の四角形の積層体を得た。動的粘弾性装置ARES(レオメトリック・サイエンティフィック社製)に直径8mmの円形アルミプレート治具をセットし、さらにここに打ち抜いたフィルム状接着剤の四角形の積層体をセットした。その後、35℃で5%の歪みを与えながら5℃/分の昇温速度で80℃まで昇温させ、80℃におけるずり粘度(Pa・s)を測定した。結果を表2に示す。
【0099】
(80℃における貯蔵弾性率)
上記接着シートから、基材フィルムを剥離除去し、長さ4cm、幅4mmに切り出した。動的粘弾性装置(製品名:Rheogel-E4000、株式会社ユービーエム製)にセットし、引張り荷重をかけて、周波数10Hz、3℃/分の昇温速度で80℃まで昇温させ、80℃における貯蔵弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0100】
(175℃加圧オーブン硬化後の埋め込み性)
上記接着シートのフィルム状接着剤を、厚さ50μmの半導体ウェハ(8インチ)に70℃で貼り付けた。次に、それらを7.5mm角にダイシングして半導体素子を得た。また、フィルム状接着剤HR-9004T-10(日立化成株式会社製、厚さ20μm)を厚さ50μmの半導体ウェハ(8インチ)に70℃で貼り付けた。次に、それらを3.0mm角にダイシングしてチップを得た。個片化したHR-9004T-10付きのチップを、表面凹凸が最大6μmである評価用基板に130℃、0.20MPa、2秒間の条件で圧着し、120℃/2時間加熱し、半硬化させた。次に、このようにして得られたサンプルに、フィルム状接着剤付きの7.5mm半導体素子を120℃、0.20MPa、2秒間の条件で圧着した。この際、先に圧着しているHR-9004T-10付きのチップが中央となるように位置合わせを行った。得られたサンプルを加圧オーブンに投入し、35℃から3℃/分の昇温速度で175℃まで昇温させ、175℃で30分加熱した。このようにして得られたサンプルを超音波映像装置SAT(日立建機製、品番FS200II、プローブ:25MHz)にてボイドの有無を観測し、ボイドが観測された場合は、単位面積あたりのボイドの面積を算出し、これらの分析結果を埋め込み性として評価した。評価基準は、以下のとおりである。結果を表2に示す。
A:ボイドが観測されなかった。
B:ボイドが観測されたが、その割合が5面積%未満であった。
C:ボイドが観測され、その割合が5面積%以上であった。
【0101】
(ブリード量の測定)
上記175℃加圧オーブン硬化後の埋め込み性の評価において、「A」及び「B」であったものについて、ブリード量を測定した。サンプルは、上記175℃加圧オーブン硬化後の埋め込み性で作製したサンプルと同様の手順で作製した。得られたサンプルの4辺の中心から、フィルム状接着剤のはみ出し量をそれぞれ測長し、その平均値をブリード量とした。結果を表2に示す。
【0102】
【0103】
表1より、実施例1~3の2層の接着フィルムからなる接着シートは、埋め込み性が良好であり、ブリードが抑制されていることが分かった。一方、比較例1の溶剤含有率が1.5質量%を超える単層の接着フィルムを用いた接着シートは、埋め込み性は良好であるものの、ブリードを抑制することができなかった。また、80℃におけるずり粘度が5000Pa・sを超える単層の接着フィルムを用いた接着シートは、埋め込み性が充分ではなかった。これらの結果より、本発明のフィルム状接着剤が、熱圧着時に良好な埋め込み性を有しつつ、ブリードを抑制することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0104】
2…第1の接着フィルム、4…第2の接着フィルム、10…フィルム状接着剤、14…基板、20…基材フィルム、30…保護フィルム、41…接着剤、42…封止材、84、94…回路パターン、88…第1のワイヤ、90…有機基板、98…第2のワイヤ、100、110…接着シート、200…半導体装置、Wa…第1の半導体素子、Waa…第2の半導体素子。