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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】融着条件提供システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/255 20060101AFI20220222BHJP
   G16Y 10/25 20200101ALI20220222BHJP
   G16Y 10/75 20200101ALI20220222BHJP
   G16Y 20/20 20200101ALI20220222BHJP
   G16Y 40/35 20200101ALI20220222BHJP
【FI】
G02B6/255
G16Y10/25
G16Y10/75
G16Y20/20
G16Y40/35
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017223845
(22)【出願日】2017-11-21
(65)【公開番号】P2019095557
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細井 英昭
(72)【発明者】
【氏名】田邉 明夫
(72)【発明者】
【氏名】服部 真樹
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-054192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0278639(US,A1)
【文献】特開2017-030221(JP,A)
【文献】特開2017-030014(JP,A)
【文献】特開2017-034830(JP,A)
【文献】特開2017-034832(JP,A)
【文献】特開2006-154454(JP,A)
【文献】特開2005-128580(JP,A)
【文献】特開平10-282358(JP,A)
【文献】特開2004-246073(JP,A)
【文献】特開2002-243968(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0238298(US,A1)
【文献】特開2002-169050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
6/255
6/36-6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ同士の融着接続を行う複数の融着接続機に融着条件を提供する融着条件提供システムであって、
複数の融着条件を記憶する記憶装置と、
前記複数の融着接続機のうちユーザ所望の光ファイバ同士の融着接続を行うユーザ使用の融着接続機に設定されていない新規の融着条件を前記ユーザ使用の融着接続機に送信する中央管理装置と、
を備え、
前記複数の融着接続機の各々は、
前記新規の融着条件での融着接続の対象となる対象光ファイバの融着接続前の状態を示す接続前データを取得し、前記対象光ファイバ同士の融着接続が行われた場合、前記対象光ファイバ同士の融着接続の状態を示す状態画像データを取得するデータ取得部と、
前記中央管理装置に前記対象光ファイバの前記接続前データと前記状態画像データとを送信する通信部と、
を備え、
前記中央管理装置は、
前記ユーザ使用の融着接続機から送信された前記接続前データによって示される前記対象光ファイバの融着接続前の状態に最も近い光ファイバ同士の融着条件を、前記記憶装置内の前記複数の融着条件の中から検索して前記新規の融着条件とする検索処理部と、
前記ユーザ使用の融着接続機から送信された前記状態画像データをもとに、前記対象光ファイバ同士の融着接続後の接続損失を推定する推定処理部と、
推定された前記接続損失を低減するように前記新規の融着条件を改善して、前記新規の融着条件の改善方法を学習し、改善した前記新規の融着条件である改善融着条件を、前記ユーザ使用の融着接続機を含む前記複数の融着接続機に提示する学習処理部と、
を備え、
前記記憶装置は、前記改善融着条件を、前記複数の融着条件の一部として記憶し、
前記データ取得部は、前記接続前データとして、前記対象光ファイバの径方向の輝度分布を示す輝度データを取得し、
前記検索処理部は、前記ユーザ使用の融着接続機から送信された前記輝度データに最も近い輝度分布の光ファイバ同士の融着条件を、前記複数の融着条件の中から検索して前記新規の融着条件と
前記学習処理部は、前記推定処理部によって推定された接続損失を、前記新規の融着条件を改善する前の接続損失として前記改善融着条件とともに前記複数の融着接続機に提示して、改善前の前記新規の融着条件に基づく前記対象光ファイバ同士の融着接続後の接続損失を前記改善融着条件とともに前記複数の融着接続機の各ユーザに知らしめ、これに加え、前記対象光ファイバ同士の融着接続箇所の実際に測定された接続損失と前記状態画像データとをもとに、前記改善融着条件をさらに改善し、さらなる改善後の前記改善融着条件を前記複数の融着条件の一部として前記記憶装置に保存する、
ことを特徴とする融着条件提供システム。
【請求項2】
前記学習処理部は、前記改善融着条件を、前記複数の融着条件の一部として前記記憶装置内に格納することを特徴とする請求項1に記載の融着条件提供システム。
【請求項3】
前記学習処理部は、前記新規の融着条件を構成する各パラメータの、前記接続損失の低減に対する寄与率に応じて、前記各パラメータの重み付けを決定し、決定した前記重み付けに基づいて前記改善融着条件を作成することを特徴とする請求項1または2に記載の融着条件提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融着条件提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ同士の融着接続に用いられる融着接続機が公知である(例えば、特許文献1参照)。一般に、融着接続機は、対象とする2つの光ファイバの各端部の位置を認識する位置認識ステップと、位置認識した2つの光ファイバの中心軸(コア軸)を合せる軸合わせステップとを順次行う。ついで、融着接続機は、軸合わせした2つの光ファイバの各端部を加熱溶融する加熱ステップと、加熱溶融した2つの光ファイバの各端部同士を突き合せて接続する接続ステップとを順次行う。その後、融着接続機は、これら2つの光ファイバの融着接続部分を画像処理等によって光学的に検査する検査ステップと、スリーブ等の補強部材によって当該融着接続部分を機械的に補強する補強ステップとを順次行う。これら位置認識ステップから補強ステップまでの一連のステップにより、融着接続機は、対象とする2つの光ファイバ同士の融着接続を完成する。
【0003】
上述のように融着接続機が2つの光ファイバ同士を融着接続するために行う一連のステップの各々では、融着接続機の制御部による自動制御が行われる。すなわち、融着接続機による一連のステップの各々において、当該制御部は、対象とする2つの光ファイバを融着接続するために必要な融着条件の様々な設定値に基づいて、融着接続機の機能部を制御している。このような融着条件の様々な設定値の中には、融着接続する2つの光ファイバの種類(具体的には光ファイバの種類によって異なる材質や構造、寸法等の物理的特性)や融着接続後の2つの光ファイバに通す光の波長(以下、「通光波長」と称する)等に応じて変更すべき設定値が存在する。以下、融着条件に含まれる個々の設定値は「パラメータ」と称し、融着条件を構成するパラメータ群は「パラメータセット」と称する。
【0004】
融着接続機の記憶部には、当該融着接続機の製造または販売の時点において既知な多数のパラメータセットが記憶されている。融着接続機は、対象とする2つの光ファイバの種類および通光波長等に応じて、記憶部内の多数のパラメータセットの中から当該2つの光ファイバ同士の融着接続に必要なパラメータセットを選択し、この選択したパラメータセットに融着条件を切り換える。融着接続機は、このように切り換えた融着条件(パラメータセット)に基づいて上述した一連のステップを順次行うことにより、対象とする2つの光ファイバ同士を仕上がりよく(例えば低接続損失で)融着接続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-128290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、光ファイバの分野においては、例えば、シングルモード光ファイバ、マルチモード光ファイバ、偏波保持光ファイバ、レーザ光伝送用光ファイバ等の用途や光学特性別、光ファイバの直径、コア径、コアやクラッドの材質、径方向の屈折率分布等の物理的特性別に、多種多様な光ファイバが市場に存在する。また、光ファイバの各メーカからは、毎年、新種の光ファイバが多数、市場に投入される。したがって、市場に存在する全ての光ファイバの組み合わせ数(すなわち、融着接続の対象となる2つの光ファイバの組み合わせの数)は、膨大であり、年々増加する傾向にある。
【0007】
一方、ユーザが使用する融着接続機(以下、「ユーザ使用の融着接続機」と称する)には、その製造または販売の時点において既知な多数のパラメータセットが予め設定(プリセット)されている。しかしながら、ユーザ使用の融着接続機にプリセットされているパラメータセットの数(種類数)は、上述したように年々増加傾向にある全ての光ファイバの組み合わせ数に比べ極めて限定的な範囲のものにならざるを得ない。さらに、融着接続機の種類(機種)が異なる場合、各機種間における融着接続機の構造上の違いにより、融着接続機の機種に応じて異なるパラメータセットが必要になる場合もある。
【0008】
このため、対象とする2つの光ファイバ同士の融着接続に適合するパラメータセットがユーザ使用の融着接続機にプリセットされていないという状況が発生した場合には、ユーザ自身が、実験や試行錯誤によって、当該融着接続に適合可能なパラメータセットを新たに作り出す、あるいは、ユーザが融着接続機を購入した販売店やユーザ使用の融着接続機の製造メーカが、ユーザからの要求に応じて当該融着接続に適合可能なパラメータセットを新たに作成してユーザに提供する、等の作業プロセスが必要になる。このような作業プロセスには多大な手間がかかることから、ユーザに融着接続のパラメータセットの必要性が生じてから、ユーザに対し要求のパラメータセットを提供して、この必要性が満たされるまでに、多大な時間を要するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ユーザが所望の光ファイバ同士の融着接続のために必要とするパラメータセットを可能な限り迅速にユーザ使用の融着接続機に提供することができる融着条件提供システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る融着条件提供システムは、光ファイバ同士の融着接続を行う融着接続機に融着条件を提供する融着条件提供システムであって、複数の融着条件を記憶する記憶装置と、前記融着接続機に設定されていない新規の融着条件を前記融着接続機に送信する中央管理装置と、を備え、前記融着接続機は、前記新規の融着条件での融着接続の対象となる対象光ファイバの融着接続前の状態を示す接続前データを取得し、前記対象光ファイバ同士の融着接続が行われた場合、前記対象光ファイバ同士の融着接続の状態を示す状態画像データを取得するデータ取得部と、前記中央管理装置に前記対象光ファイバの前記接続前データと前記状態画像データとを送信する通信部と、を備え、前記中央管理装置は、前記融着接続機から送信された前記接続前データによって示される前記対象光ファイバの融着接続前の状態に最も近い光ファイバ同士の融着条件を、前記記憶装置内の前記複数の融着条件の中から検索して前記新規の融着条件とする検索処理部と、前記融着接続機から送信された前記状態画像データをもとに、前記対象光ファイバ同士の融着接続後の接続損失を推定する推定処理部と、推定された前記接続損失を低減するように前記新規の融着条件を改善して、前記新規の融着条件の改善方法を学習し、改善した前記新規の融着条件である改善融着条件を前記融着接続機に提示する学習処理部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る融着条件提供システムは、上記の発明において、前記データ取得部は、前記接続前データとして、前記対象光ファイバの径方向の輝度分布を示す輝度データを取得し、前記検索処理部は、前記融着接続機から送信された前記輝度データに最も近い輝度分布の光ファイバ同士の融着条件を、前記複数の融着条件の中から検索して前記新規の融着条件とすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る融着条件提供システムは、上記の発明において、前記学習処理部は、前記改善融着条件を、前記複数の融着条件の一部として前記記憶装置内に格納することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る融着条件提供システムは、上記の発明において、前記学習処理部は、前記新規の融着条件を構成する各パラメータの、前記接続損失の低減に対する寄与率に応じて、前記各パラメータの重み付けを決定し、決定した前記重み付けに基づいて前記改善融着条件を作成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る融着条件提供システムは、上記の発明において、前記学習処理部は、前記推定処理部によって推定された接続損失を、前記新規の融着条件を改善する前の接続損失として前記改善融着条件とともに前記融着接続機に提示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る融着条件提供システムは、ユーザが所望の光ファイバ同士の融着接続のために必要とするパラメータセットを可能な限り迅速にユーザ使用の融着接続機に提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る融着条件提供システムの一構成例を示す図である。
図2図2は、本発明の実施の形態における対象光ファイバの輝度データの一例を示す図である。
図3図3は、本発明の実施の形態における融着接続機の機能部に用いる融着条件の各パラメータの一例を示す図である。
図4図4は、本発明の実施の形態に係る融着条件提供システムの処理手順の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明に係る融着条件提供システムの好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
(融着条件提供システムの構成)
まず、本発明の実施の形態に係る融着条件提供システムの構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る融着条件提供システムの一構成例を示す図である。本実施の形態に係る融着条件提供システム1は、光ファイバ同士の融着接続を行う融着接続機に融着条件を提供するものである。図1に示すように、この融着条件提供システム1は、ユーザが使用する融着接続機10と、ネットワーク2を介して融着接続機10に融着条件を提供する中央管理装置20と、光ファイバ同士の融着条件をパラメータセットとして複数記憶する記憶装置30とを備える。
【0019】
融着接続機10は、ユーザが光ファイバ同士の融着接続に使用する融着接続機(ユーザ使用の融着接続機)の一例である。図1に示すように、融着接続機10は、光ファイバ同士の融着接続を行うための機能部11と、複数のパラメータセットがプリセットされている記憶部12と、融着接続機10の各構成部を制御する制御部13とを備える。また、融着接続機10は、光ファイバ同士の融着接続に関するデータを取得するデータ取得部14と、外部とのデータ通信を行うための通信部15と、各種情報を入力する入力部16と、各種情報を表示する表示部17とを備える。
【0020】
機能部11は、ユーザ所望の2つの光ファイバ同士(具体的には、これら2つの光ファイバの各端部同士)をユーザ所望の通光波長に応じて融着接続するためのものである。特に図示しないが、機能部11は、例えば、光ファイバ同士の融着接続を行うための顕微鏡部、軸合わせ機構、加熱装置、送り機構および補強機構等によって構成される。
【0021】
本実施の形態において、機能部11は、融着接続の対象となる2つの光ファイバの各端部の位置を顕微鏡部の画像処理によって認識する位置認識ステップと、位置認識した2つの光ファイバの中心軸(コア軸)を軸合わせ機構によって合せる軸合わせステップとを順次行う。ついで、機能部11は、軸合わせした2つの光ファイバの各端部を加熱装置によって加熱溶融する加熱ステップと、加熱溶融した2つの光ファイバの各端部同士を送り機構によって突き合せて、これら2つの光ファイバ同士を融着接続する接続ステップとを順次行う。その後、機能部11は、これら2つの光ファイバ同士の融着接続部分を顕微鏡部の画像処理によって光学的に検査する検査ステップを行う。また、機能部11は、検査ステップ後の2つの光ファイバ同士の融着接続部分を、補強機構によってスリーブ等の補強部材で機械的に補強する補強ステップを行う。機能部11は、上述の位置認識ステップから補強ステップまでの一連のステップにより、ユーザ所望の通光波長に応じたユーザ所望の2つの光ファイバ同士の融着接続を完成する。
【0022】
記憶部12は、融着接続機10の製造または販売の時点において既知な複数のパラメータセットを予め記憶する。これにより、記憶部12には、これら複数のパラメータセットがプリセットされる。
【0023】
制御部13は、融着接続の対象となる2つの光ファイバの種類および通光波長等に応じて、記憶部12内の複数のパラメータセットの中から、これら2つの光ファイバ同士の融着接続に適合するパラメータセットを融着条件として設定する。一方、制御部13は、上記の適合するパラメータセットが記憶部12内にプリセットされていない場合、後述する中央管理装置20からネットワーク2を介して取得した新規のパラメータセットを、これら2つの光ファイバ同士の融着接続に必要な融着条件として設定する。制御部13は、このように設定したパラメータセットの各パラメータに基づき、上述した機能部11による一連のステップでの顕微鏡部、軸合わせ機構、加熱装置、送り機構および補強機構の各動作を適宜制御する。また、制御部13は、記憶部12、データ取得部14、通信部15、入力部16および表示部17との間における信号の入出力と、これらの各動作とを制御する。
【0024】
データ取得部14は、中央管理装置20から提供された新規の融着条件での融着接続の対象となる光ファイバ(以下、対象光ファイバと適宜いう)に関するデータを取得するものである。詳細には、データ取得部14は、光源およびイメージセンサ等によって構成される。データ取得部14は、融着接続すべく融着接続機10の機能部11にセットされた2つの対象光ファイバの各々について、対象光ファイバの融着接続前の状態を示す接続前データを取得する。例えば、本実施の形態において、データ取得部14は、対象光ファイバの径方向の輝度分布を示す輝度データを取得する。この輝度データは、上記接続前データの一例である。図2は、本発明の実施の形態における対象光ファイバの輝度データの一例を示す図である。データ取得部14は、対象光ファイバの径方向(側方)に光を照射して、この対象光ファイバを透過した光を撮像し、得られた画像データの輝度分布を検出する。これにより、データ取得部14は、対象光ファイバの径方向の輝度分布を示す輝度データを取得する。この輝度分布は、対象光ファイバのコア、クラッドおよび空気等の屈折率差によって対象光ファイバの径方向に生じるものであり、例えば図2に示すように、対象光ファイバの径方向位置に対する輝度の分布を示す。
【0025】
また、データ取得部14は、対象光ファイバ同士の融着接続が行われた場合、この対象光ファイバ同士の融着接続の状態を示す状態画像データを取得する。詳細には、データ取得部14は、機能部11によって融着接続された2つの対象光ファイバの融着接続部分に対し、対象光ファイバの径方向に光を照射して、この融着接続部分を透過した光を撮像する。これにより、データ取得部14は、この融着接続部分の状態(すなわち対象光ファイバ同士の融着接続の状態)を示す状態画像データを取得する。なお、対象光ファイバ同士の融着接続の状態として、例えば、融着接続部分における対象光ファイバの膨らみや凹み等の外形状、コア軸の位置ずれや角度ずれ等が挙げられる。
【0026】
通信部15は、中央管理装置20との間の通信を行うものである。詳細には、通信部15は、対象光ファイバ同士の融着接続に際して、データ取得部14による対象光ファイバの接続前データ(例えば輝度データ)を、ネットワーク2を介して中央管理装置20に送信する。また、通信部15は、対象光ファイバ同士の融着接続が行われた場合、データ取得部14による対象光ファイバの融着接続後の状態画像データを、ネットワーク2を介して中央管理装置20に送信する。一方、通信部15は、ネットワーク2を介して、中央管理装置20から各種情報を受信する。この中央管理装置20から受信する各種情報として、例えば、融着接続機10に設定されていない新規の融着条件、当該新規の融着条件の改善案、融着接続された対象光ファイバの接続損失の推定結果等が挙げられる。
【0027】
入力部16は、入力キー等によって構成され、ユーザの入力操作に応じて各種情報を入力する。入力部16によって入力される情報として、例えば、通光波長等の対象光ファイバに関する情報、融着接続を開始または停止するための情報等が挙げられる。表示部17は、液晶ディスプレイ等の表示デバイスによって構成され、制御部13によって表示指示された各種情報を表示する。表示部17によって表示される情報として、例えば、中央管理装置20から通信部15によって受信された情報、通信部15から中央管理装置20に送信される情報、入力部16によって入力された情報等が挙げられる。
【0028】
なお、本実施の形態において、ユーザ所望の2つの光ファイバは、ユーザが融着接続の対象として所望する2つの光ファイバである。これら2つの光ファイバには、適合する融着条件が融着接続機10にプリセットされている光ファイバは勿論、融着条件がプリセットされていない光ファイバ(すなわち対象光ファイバ)が含まれる。ユーザ所望の通光波長は、融着接続後の複数(例えば2つ)の対象光ファイバに通す光(すなわち一体化した光ファイバで伝送させる光)の所望波長である。また、ネットワーク2は、例えば、インターネットやローカル・エリア・ネットワーク(LAN)等の通信ネットワークである。
【0029】
一方、中央管理装置20および記憶装置30は、融着接続機10に提供する融着条件を保持管理するものである。中央管理装置20は、サーバやワークステーション等のコンピュータによって構成され、例えば、記憶装置30に蓄積された複数の融着条件のうちの融着接続機10に設定されていない新規の融着条件を、ネットワーク2を介して融着接続機10に送信することが可能である。このような中央管理装置20は、図1に示すように、通信処理部21と、検索処理部22と、学習処理部23と、推定処理部24とを備える。
【0030】
通信処理部21は、ネットワーク2を介して、融着接続機10の通信部15との通信を行う。例えば、通信処理部21は、融着接続機10における対象光ファイバの輝度データを通信部15から受信し、受信した輝度データに応じて、対象光ファイバ同士の融着接続に必要な新規の融着条件を通信部15に送信する。また、通信処理部21は、融着接続機10における対象光ファイバ同士の融着接続後の状態画像データを通信部15から受信し、受信した状態画像データに応じて、上記新規の融着条件の改善案と、改善前の新規の融着条件に基づく融着接続後の対象光ファイバの接続損失(推定値)とを通信部15に送信する。
【0031】
検索処理部22は、記憶装置30に蓄積されている複数の融着条件の中から、融着接続機10に提供する融着条件を検索するものである。詳細には、検索処理部22は、通信処理部21によって受信された接続前データ(本実施の形態では融着接続機10からの輝度データ)を取得し、取得した接続前データによって示される対象光ファイバの融着接続前の状態に最も近い光ファイバ同士の融着条件を、記憶装置30内の複数の融着条件の中から検索して、融着接続機10に提供する新規の融着条件とする。
【0032】
推定処理部24は、融着接続機10に提供された新規の融着条件に基づく融着接続後の対象光ファイバの接続損失を推定するものである。詳細には、推定処理部24は、融着接続機10から送信された状態画像データを通信処理部21を介して取得し、取得した状態画像データをもとに、融着接続機10による対象光ファイバ同士の融着接続後の接続損失を推定する。推定処理部24によって推定された接続損失は、新規の融着条件を改善する前の接続損失として、上述した新規の融着条件の改善案(例えば後述する改善融着条件)とともに融着接続機10に提示される。
【0033】
学習処理部23は、対象光ファイバ同士の融着接続に適用された新規の融着条件を改善して当該新規の融着条件の改善方法を学習するものである。詳細には、学習処理部23は、推定処理部24によって推定された接続損失(例えば対象光ファイバ同士の融着接続後のコア軸の位置ずれ等による接続損失)を低減するように、上記新規の融着条件(すなわちパラメータセットの各パラメータ)を改善する。これにより、学習処理部23は、上記新規の融着条件を改善したものである改善融着条件を作成する。且つ、学習処理部23は、上記新規の融着条件の改善方法を学習し、この学習した改善方法を学習実績として蓄積する。学習処理部23は、作成した改善融着条件を、ネットワーク2を介して融着接続機10に提示する。また、学習処理部23は、このような改善融着条件を、記憶装置30内に蓄積されている複数の融着条件の一部として、記憶装置30内に格納する。
【0034】
記憶装置30は、各種情報を更新可能に記憶する大容量の記憶装置であり、実際に光ファイバを用いて作成された複数の融着条件等の光ファイバの過去実績を記憶している。本実施の形態において、記憶装置30は、図1に示すように、融着条件データベース31と、過去実績データベース32とを有する。
【0035】
融着条件データベース31は、複数の融着条件(パラメータセット)を、融着接続の実績がある各光ファイバの接続前データ(例えば光ファイバの径方向の輝度分布を示す輝度データ)の組み合わせと対応付けて蓄積したものである。記憶装置30は、融着接続の実績がある各光ファイバの接続前データの組み合わせ別に、複数の融着条件を融着条件データベース31内に記憶する。
【0036】
過去実績データベース32は、融着接続によって生じた光ファイバ同士の接続損失の過去実績を、光ファイバ同士の融着接続の状態(例えば光ファイバ同士の融着接続部分の外形状等)と対応付けて複数蓄積したものである。記憶装置30は、光ファイバ同士の融着接続の状態と当該融着接続の状態にある光ファイバ同士の接続損失とを、過去実績として複数、過去実績データベース32内に記憶する。本実施の形態において、過去実績データベース32は、上述した推定処理部24による接続損失の推定に用いられる。
【0037】
(融着条件の各パラメータ)
つぎに、本発明の実施の形態における融着接続機10に設定される融着条件の各パラメータについて詳細に説明する。融着接続機10の機能部11によって光ファイバ同士を融着接続する際、制御部13は、融着接続機10に設定された融着条件(パラメータセット)の各パラメータに基づいて機能部11を制御する。図3は、本発明の実施の形態における融着接続機の機能部に用いる融着条件の各パラメータの一例を示す図である。図3に示すように、融着接続機10には、例えば機能部11を構成する顕微鏡部、軸合わせ機構、加熱装置および送り機構の各々について、融着条件のパラメータが設定される。
【0038】
具体的には、図3に示すように、機能部11の顕微鏡部には、パラメータとして、例えば、光ファイバ直径、光ファイバコア径、および光ファイバ断面構造が使用される。光ファイバ直径は、ユーザ所望の2つの光ファイバの各直径である。光ファイバコア径は、これら2つの光ファイバの各コアの直径である。光ファイバ断面構造は、これら2つの光ファイバの各径方向の屈折率分布、コアおよびクラッドの材質や端面構造等である。制御部13は、これらのパラメータを融着接続機10の記憶部12から読み出し、読み出した各パラメータに基づいて、上述の位置認識ステップおよび検査ステップにおける顕微鏡部の画像処理等の動作を制御する。
【0039】
また、図3に示すように、機能部11の軸合わせ機構には、パラメータとして、例えば、通光波長(ユーザ所望の通光波長)、光ファイバ断面構造、および中心オフセットが使用される。中心オフセットは、光ファイバ同士の融着接続の際に突き合わせる各光ファイバの端部の位置(以下、突き合わせ位置という)の調整量である。融着接続される各光ファイバの端部は、通常、当該端部を加熱溶融する加熱装置の放電帯を中心に等間隔で離間している。しかし、融着接続する光ファイバの組み合わせによっては、突き合わせ位置を調整(オフセット)する場合がある。制御部13は、これらのパラメータを記憶部12から読み出し、読み出した各パラメータに基づいて、上述の軸合わせステップにおける軸合わせ機構の動作を制御する。
【0040】
また、図3に示すように、機能部11の加熱装置には、パラメータとして、例えば、初期加熱温度、成型加熱温度、加熱時間、予備加熱温度、予備加熱時間、追加加熱温度、および追加加熱時間が使用される。初期加熱温度は、ユーザ所望の2つの光ファイバの各端部を加熱溶融する際の初期的な加熱温度である。成型加熱温度は、これら2つの光ファイバの各端部を加熱溶融しつつ成型する際の加熱温度である。加熱時間は、これら2つの光ファイバの各端部を初期加熱温度または成型加熱温度で加熱溶融する際の加熱時間である。また、融着接続する各光ファイバの端部は、上記加熱溶融の前に若干融かす必要がある。この際に行う加熱処理を予備加熱と称し、予備加熱温度は予備加熱での加熱温度であり、予備加熱時間は予備加熱での加熱時間である。また、光ファイバ同士の融着接続部分(例えば互いにコア径が異なる光ファイバ同士の融着接続部分)に対しては、融着接続終了後に追加で加熱する場合がある。この際に行う加熱処理を追加加熱と称し、追加加熱温度は追加加熱での加熱温度であり、追加加熱時間は追加加熱での加熱時間である。制御部13は、これらのパラメータを記憶部12から読み出し、読み出した各パラメータに基づいて、上述の加熱ステップにおける加熱装置の動作を制御する。
【0041】
また、図3に示すように、機能部11の送り機構には、パラメータとして、例えば、送り開始時間、送り距離、送り速度、および光ファイバ押込量が使用される。送り開始時間は、加熱ステップ後の2つの光ファイバ同士を突き合せる際に、そのうちの一方を他方に向けて送り始める時間である。送り距離は、これら2つの光ファイバのうち一方を他方に向けて送る際の移動距離である。送り速度は、これら2つの光ファイバのうち一方を他方に向けて送る際の移動速度である。光ファイバ押込量は、融着接続する各光ファイバの端部同士を必要に応じて押し込む際の押込量である。制御部13は、これらのパラメータを記憶部12から読み出し、読み出した各パラメータに基づいて、上述の接続ステップにおける送り機構の動作を制御する。
【0042】
本実施の形態では、図3に例示するような各パラメータを含む融着条件(パラメータセット)が、光ファイバの組み合わせ別に融着接続機10にプリセット(すなわち記憶部12内に格納)されている。また、ユーザ所望の2つの光ファイバ同士の融着接続に適合する融着条件が融着接続機10にプリセットされていない場合、上記各パラメータを含む新規の融着条件が、ネットワーク2を介して中央管理装置20から融着接続機10に提供される。なお、本実施の形態における融着条件は、図3に示したパラメータを含むものに限定されず、図3に示したもの以外のパラメータ、例えば、上述した補強ステップを行う補強機構のパラメータ等をさらに含むものであってもよい。
【0043】
(融着条件の提供)
つぎに、上述した構成を有する融着条件提供システム1において、対象光ファイバ同士の融着接続に必要な新規の融着条件が中央管理装置20から融着接続機10に提供される際の処理手順について説明する。図4は、本発明の実施の形態に係る融着条件提供システムの処理手順の一例を示すフロー図である。以下では、融着接続される2つの対象光ファイバのうち、一方は対象光ファイバF1、他方は対象光ファイバF2と適宜称する。また、対象光ファイバF1、F2の接続前データの一例として、輝度データが例示される。
【0044】
本実施の形態に係る融着条件提供システム1では、ユーザ使用の融着接続機10に対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に適合する融着条件が設定されていない場合、図4に示す各処理手順が適宜行われることにより、この融着接続に必要な新規の融着条件が、中央管理装置20からネットワーク2を介して融着接続機10に提供される。
【0045】
すなわち、図4に示すように、融着条件提供システム1では、まず、融着接続機10が、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に際して、これらの対象光ファイバF1、F2の輝度データを取得する(ステップS101)。ステップS101において、データ取得部14は、例えば入力部16によって融着接続開始の情報が入力されたことをトリガーとして、対象光ファイバF1、F2の輝度データを取得する。この際、データ取得部14は、互いに端面を対向させた状態で機能部11にセットされた対象光ファイバF1、F2に対して、その径方向に光を照射する。データ取得部14は、一方の対象光ファイバF1を透過した光を撮像して対象光ファイバF1の径方向の輝度分布を示す輝度データを取得し、且つ、他方の対象光ファイバF2を透過した光を撮像して対象光ファイバF2の径方向の輝度分布を示す輝度データを取得する。
【0046】
ステップS101の実行後、融着接続機10では、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に適合する融着条件の有無が判断される(ステップS102)。ステップS102において、制御部13は、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に適合する融着条件が記憶部12内に格納されているか否かを判断し、格納されていない場合、融着条件なしと判断する(ステップS102,No)。この場合、融着接続機10は、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に必要な融着条件を中央管理装置20に対して要求する(ステップS103)。
【0047】
ステップS103において、融着接続機10の通信部15は、上述したステップS101でデータ取得部14によって取得された対象光ファイバF1、F2の各輝度データを、ネットワーク2を介して中央管理装置20に送信する。これにより、融着接続機10から中央管理装置20に対して、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に必要な融着条件が要求される。
【0048】
ステップS103の実行後、中央管理装置20では、融着接続機10から要求された融着条件の検索処理が行われる(ステップS104)。ステップS104において、通信処理部21は、ネットワーク2を介して融着接続機10の通信部15から対象光ファイバF1、F2の各輝度データを受信する。検索処理部22は、この受信された各輝度データに最も近い輝度分布の光ファイバ同士の融着条件を、記憶装置30内の融着条件データベース31の中から検索する。
【0049】
詳細には、検索処理部22は、融着条件データベース31内の融着条件別に対応付けられている複数の光ファイバの輝度データについて、対象光ファイバF1、F2の各輝度データに対する輝度分布の波形の類似度を算出する。本実施の形態において、この類似度は、例えば、輝度分布の波形の傾き、ピークの位置や大きさ等の特徴量が類似する度合いを示すものである。ついで、検索処理部22は、これら複数の光ファイバの輝度データの中から、対象光ファイバF1の輝度データに対する類似度が最も大きい光ファイバの輝度データと、対象光ファイバF2の輝度データに対する類似度が最も大きい光ファイバの輝度データとを選出する。その後、検索処理部22は、これらの選出した各光ファイバの輝度データの組み合わせに対応する融着条件を融着条件データベース31の中から検索する。そして、検索処理部22は、この検索して得た融着条件を、上記要求に応じて融着接続機10に提供する新規の融着条件とする。このように検索処理部22によって検索された融着条件は、融着条件データベース31に蓄積された複数の融着条件のうち、対象光ファイバF1、F2に最も近い光ファイバ同士の融着条件である。
【0050】
ステップS104の実行後、中央管理装置20の通信処理部21は、上述したステップS104で検索された新規の融着条件を、対象光ファイバF1、F2の各輝度データの送信元(すなわち融着条件の要求元)である融着接続機10に送信する(ステップS105)。融着接続機10の通信部15は、ネットワーク2を介して、中央管理装置20から新規の融着条件を受信する(ステップS106)。ステップS106において、この受信された新規の融着条件は、対象光ファイバF1、F2同士の融着条件として記憶部12に格納される。
【0051】
その後、融着接続機10は、このように中央管理装置20からネットワーク2を介して提供された新規の融着条件に基づき、対象光ファイバF1、F2同士を融着接続する(ステップS107)。ステップS107において、制御部13は、記憶部12から新規の融着条件を読み出し、読み出した新規の融着条件を、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続のための融着条件として設定する。ついで、制御部13は、この新規の融着条件に基づいて機能部11を制御する。これにより、機能部11は、この新規の融着条件に示される各パラメータに基づき動作して、対象光ファイバF1、F2同士を融着接続する。
【0052】
ステップS107の実行後、融着接続機10は、上述したように対象光ファイバF1、F2同士の融着接続が行われた場合、融着接続された対象光ファイバF1、F2の状態画像データを取得する(ステップS108)。ステップS108において、データ取得部14は、対象光ファイバF1、F2の融着接続部分に対して、その径方向に光を照射し、この融着接続部分を透過した光を撮像する。これにより、データ取得部14は、対象光ファイバF1、F2の融着接続の状態を示す状態画像データを取得する。
【0053】
ステップS108の実行後、融着接続機10の通信部15は、上述したステップS108で取得された状態画像データを、ネットワーク2を介して中央管理装置20に送信する(ステップS109)。ステップS109において、この状態画像データは、中央管理装置20から提供された新規の融着条件に基づく対象光ファイバF1、F2同士の融着接続の結果を示すデータとして、融着接続機10から中央管理装置20に送信される。中央管理装置20の通信処理部21は、このような融着接続の状態画像データを、ネットワーク2を介して融着接続機10から受信する(ステップS110)。
【0054】
その後、中央管理装置20は、融着接続機10から受信した状態画像データをもとに、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失を推定する(ステップS111)。ステップS111において、推定処理部24は、融着接続機10からの状態画像データを、通信処理部21を介して取得し、取得した状態画像データをもとに、融着接続機10による対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失を推定する。この際、推定処理部24は、記憶装置30内の過去実績データベース32に接続損失の過去実績と対応付けて蓄積されている光ファイバ同士の融着接続の状態と、融着接続機10からの状態画像データに示される対象光ファイバF1、F2同士の融着接続の状態とを照合する。推定処理部24は、この照合結果に基づいて、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続の状態に最も近い(すなわち類似度が最も大きい)光ファイバ同士の融着接続の状態を過去実績データベース32の中から選出する。推定処理部24は、この選出した融着接続の状態に対応付けられている接続損失の過去実績を、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失として推定する。また、推定処理部24は、このように推定した対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失を、過去実績データベース32の一部として、対象光ファイバF1、F2の状態画像データと対応付けて記憶装置30内に格納する。
【0055】
ステップS111の実行後、中央管理装置20は、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失を低減するように、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続時の融着条件、すなわち、上述したステップS104で検索した対象光ファイバF1、F2用の新規の融着条件を改善して(ステップS112)、この新規の融着条件の改善方法を学習する(ステップS113)。
【0056】
ステップS112、S113において、学習処理部23は、上述したステップS111で状態画像データをもとに推定された接続損失(すなわち対象光ファイバF1、F2同士の融着接続部の外形状やコア軸のずれ等に起因して生じる接続損失)を低減するように、上記新規の融着条件を改善する。この際、学習処理部23は、前回までに蓄積した融着条件の改善方法の学習実績を用い、対象光ファイバF1、F2用の新規の融着条件を構成する各パラメータの、上記推定された接続損失の低減に対する寄与率を算出する。学習処理部23は、算出した寄与率に応じて、これら各パラメータの重み付けを決定する。学習処理部23は、このように決定した各パラメータの重み付けに基づいて、上記推定された接続損失を低減するように対象光ファイバF1、F2用の新規の融着条件を改善する。具体的には、学習処理部23は、状態画像データに示される対象光ファイバF1、F2同士の融着接続部分の膨らみや凹み、コア軸の位置ずれや角度ずれ等を低減するように、上記新規の融着条件を改善する。このようにして、学習処理部23は、対象光ファイバF1、F2用の改善融着条件を作成する。且つ、学習処理部23は、この改善融着条件を作成する際の上記新規の融着条件の改善方法を学習する。この学習の対象となる融着条件の改善方法としては、例えば、上記推定された接続損失を低減するために融着条件に対して行うべき、各パラメータの重み付けの決定方法や各パラメータの補正方法等が挙げられる。学習処理部23は、このように今回学習した改善方法を、過去の学習実績(すなわち前回までに学習した融着条件の改善方法の学習実績)の一部として蓄積する。学習処理部23は、このステップS113において蓄積した学習実績を、次回のステップS112における融着条件の改善に活用する。
【0057】
また、学習処理部23は、ステップS112において作成した対象光ファイバF1、F2用の改善融着条件を、融着条件データベース31に蓄積されている複数の融着条件の一部として、対象光ファイバF1、F2の輝度データの組み合わせと対応付けて記憶装置30内に格納する。なお、学習処理部23は、例えば、輝度データや新規の融着条件の送受信時および状態画像データの送受信時における融着接続機10のIPアドレス等の特定情報をもとに、対象光ファイバF1、F2用の改善融着条件と融着接続機10からの輝度データとを対応付けることが可能である。
【0058】
ステップS112、S113の実行後、学習処理部23は、上述したように改善した新規の融着条件の改善案を、ネットワーク2を介して融着接続機10に提示する(ステップS114)。ステップS114において、学習処理部23は、上述したステップS113で接続損失を低減するように作成した改善融着条件と、この改善融着条件に基づいて対象光ファイバF1、F2同士を融着接続した場合に低減され得る接続損失とを、融着接続機10に提示する改善案とする。通信処理部21は、このような改善案を、ネットワーク2を介して融着接続機10に送信する。
【0059】
また、学習処理部23は、上述したステップS111で推定処理部24によって推定された接続損失を、対象光ファイバF1、F2用の新規の融着条件を改善する前の接続損失として、上記改善融着条件とともに融着接続機10に提示することが好ましい。この際、通信処理部21は、上述した学習処理部23による改善案と推定処理部24による接続損失の推定結果とを、ネットワーク2を介して融着接続機10に送信する。
【0060】
ステップS114の実行後、融着接続機10は、中央管理装置20から提示された改善案を取得する(ステップS115)。ステップS115において、通信部15は、対象光ファイバF1、F2用の新規の融着条件の改善案を、ネットワーク2を介して中央管理装置20から受信する。好ましくは、通信部15は、この改善案とともに、推定処理部24による接続損失の推定結果を受信する。この改善案に示される融着条件、すなわち、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続用の改善融着条件は、記憶部12に格納される。この際、上述したステップS106で記憶部12に格納された新規の融着条件(改善前のもの)は、この改善融着条件に上書きされてもよい。
【0061】
また、ステップS115において、表示部17は、この改善案に示される対象光ファイバF1、F2用の改善融着条件と、この改善融着条件によって低減され得る対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失とを表示する。さらに、表示部17は、この改善案とともに取得された接続損失の推定結果、すなわち、対象光ファイバF1、F2用の新規の融着条件を改善する前の接続損失を表示することが好ましい。ユーザは、この表示部17に表示された情報を参考にすることによって、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続をし直すか否かを適切に判断することができる。
【0062】
融着接続機10が対象光ファイバF1、F2同士の融着接続をし直す場合(ステップS116,Yes)、機能部11は、改善融着条件に基づいて、対象光ファイバF1、F2同士を融着接続し(ステップS117)、本処理を終了する。融着接続機10が対象光ファイバF1、F2同士の融着接続をし直さない場合(ステップS116,No)、ステップS117を実行せずに本処理を終了する。
【0063】
一方、上述したステップS102において、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に適合する融着条件が記憶部12内に格納されている場合、制御部13は、融着条件ありと判断する(ステップS102,Yes)。この場合、融着接続機10は、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に必要な融着条件を中央管理装置20に要求することなく、上述したステップS117に進み、プリセットされている融着条件を用いて対象光ファイバF1、F2同士を融着接続する。
【0064】
なお、融着条件提供システム1では、融着接続機10の機能部11に所望の2つの光ファイバがセットされ、これら2つの光ファイバ同士を融着接続しようとした場合、その都度、図4に示したステップS101~S117の各処理が適宜行われる。
【0065】
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、ユーザが使用する融着接続機10において、融着条件が設定されていない光ファイバ同士を融着接続する場合、この融着接続の対象となる対象光ファイバF1、F2の融着接続前の状態を示す輝度データ等の接続前データを取得し、取得した接続前データを、融着接続機10から中央管理装置20に送信し、中央管理装置20において、融着接続機10からの接続前データに示される対象光ファイバF1、F2の融着接続前の状態に最も近い光ファイバ同士の融着条件を、記憶装置30に記憶されている複数の融着条件の中から、融着接続機10に設定されていない新規の融着条件として検索し、この検索した新規の融着条件を融着接続機10に送信し、融着接続機10が、中央管理装置20から提供された新規の融着条件に基づいて、対象光ファイバF1、F2同士を融着接続するようにしている。また、融着接続機10において、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続が行われた場合、これら対象光ファイバF1、F2同士の融着接続の状態を示す状態画像データを取得し、取得した状態画像データを、融着接続機10から中央管理装置20に送信し、中央管理装置20において、融着接続機10からの状態画像データをもとに対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失を推定し、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続のために融着接続機10に提供した上記新規の融着条件を、この推定した接続損失を低減するように改善して、改善融着条件を作成し且つ上記新規の融着条件の改善方法を学習し、作成した改善融着条件を融着接続機10に提示するようにしている。
【0066】
このため、実際に対象光ファイバF1、F2のサンプルを用いて融着条件を作成しなくとも、記憶装置30に蓄積されている複数の融着条件(融着接続の実績がある光ファイバ同士の融着条件)の中から、対象光ファイバF1、F2と種類や構造等の特徴が最も近い光ファイバ同士の融着条件を、対象光ファイバF1、F2同士を融着接続するための新規の融着条件として融着接続機10に送信することができる。さらには、たとえ上記新規の融着条件に基づいて融着接続された対象光ファイバF1、F2の接続損失がユーザの目標値に比べて大きい場合であっても、当該対象光ファイバF1、F2の接続損失を低減するように作成した改善融着条件に基づいて対象光ファイバF1、F2同士の融着接続を再度行えるように、上記改善融着条件を融着接続機10に提示することができる。これらの結果、融着接続機10に例示されるユーザ使用の融着接続機に対して新規の融着条件を設定するまでに掛かる労力(ユーザの手間等)を低減するとともに、当該新規の融着条件や改善融着条件の設定に要する時間を短縮することができ、これにより、ユーザが所望の光ファイバ同士の融着接続のために必要とする融着条件(パラメータセット)を手間なく迅速にユーザ使用の融着接続機に提供することができる。
【0067】
また、本発明の実施の形態では、中央管理装置20(詳細には学習処理部23)によって作成した改善融着条件を、記憶装置30に蓄積されている複数の融着条件の一部として記憶装置30内に格納するようにしている。このため、上述したように対象光ファイバF1、F2の接続損失を低減するように改善された改善融着条件を、融着接続の実績がある光ファイバ同士の融着条件として記憶装置30に順次蓄積することができる。この結果、融着接続の実績がある光ファイバ同士の融着条件の蓄積数を、実際の光ファイバのサンプルを用いて融着条件を作成することなく、簡易に増やすことができるとともに、融着接続機10以外のユーザを含む様々なユーザの融着接続機に対して、対象光ファイバF1、F2と同様の光ファイバ同士が融着接続される場合に、改善融着条件をより迅速に提供することができる。
【0068】
また、本発明の実施の形態では、新規の融着条件を構成する各パラメータの、上記推定された接続損失の低減に対する寄与率に応じて、これら各パラメータの重み付けを決定し、決定した重み付けに基づいて改善融着条件を作成するようにしている。このため、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失を低減するために必要な新規の融着条件を導出することができ、この結果、対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に好適な融着条件となるよう、上記改善融着条件を適切に作成することができる。
【0069】
また、本発明の実施の形態では、中央管理装置20(詳細には推定処理部24)により、融着接続機10からの状態画像データをもとに対象光ファイバF1、F2同士の融着接続後の接続損失を推定し、この推定した接続損失を、新規の融着条件を改善する前の対象光ファイバF1、F2の接続損失として、改善融着条件とともに融着接続機10に提示するようにしている。このため、改善前の新規の融着条件に基づいて融着接続された対象光ファイバF1、F2同士の接続損失を、改善融着条件とともにユーザに知らせることができる。この結果、改善融着条件を対象光ファイバF1、F2同士の融着接続に採用するか否かの判断に、この接続損失の情報を役立てることができる。
【0070】
なお、上述した実施の形態では、中央管理装置20との間で対象光ファイバF1、F2の輝度データや新規の融着条件を送受信する融着接続機10(ユーザが使用する融着接続機の一例)を、この融着接続機10のIPアドレス等の特定情報をもとに特定していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、融着接続機10に固有のID情報(特定情報の一例)を輝度データ等の送信データに付けて、融着接続機10と中央管理装置20との間で通信を行い、中央管理装置20においては、このID情報をもとに融着接続機10を特定してもよい。
【0071】
また、上述した実施の形態では、ユーザが1回の融着接続において対象とする対象光ファイバの本数を2本としていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、1回の融着接続における対象光ファイバの本数は、複数(2つ以上)であってもよい。
【0072】
また、上述した実施の形態では、融着接続の状態画像データから接続損失を推定し、当該接続損失の推定値に基づいて改善融着条件を作成したが、これに加え、実際に融着接続箇所おける接続損失を測定し、測定した接続損失と状態画像データ等とからさらに融着条件を改善し、改善後の融着条件を融着条件データベース31の一部として記憶装置30に保存するようにしてもよい。
【0073】
また、上述した実施の形態では、融着接続機10と中央管理装置20とがネットワーク2を介して通信を行っていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、融着接続機10の通信部15と中央管理装置20の通信処理部21とが有線または無線での通信を行えるように構成され、融着接続機10と中央管理装置20とがネットワーク2を介さずに通信を行ってもよい。また、融着接続機10は、通信部15とは別の通信機器(例えばスマートフォンやタブレット型端末等の情報通信機器)を介して、中央管理装置20と直に通信またはネットワーク2を介した通信を行ってもよい。
【0074】
また、上述した実施の形態では、データ取得部14によって取得される対象光ファイバの接続前データとして、輝度データを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、接続前データは、融着接続される前の対象光ファイバの線径(直径)、コア径、コア位置等、輝度データ以外のデータ(例えば画像データ)であってもよいし、これらのうち少なくとも1つのデータと輝度データとを組み合わせたものであってもよい。
【0075】
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 融着条件提供システム
2 ネットワーク
10 融着接続機
11 機能部
12 記憶部
13 制御部
14 データ取得部
15 通信部
16 入力部
17 表示部
20 中央管理装置
21 通信処理部
22 検索処理部
23 学習処理部
24 推定処理部
30 記憶装置
31 融着条件データベース
32 過去実績データベース
図1
図2
図3
図4