(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-21
(45)【発行日】2022-03-02
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ線材、カーボンナノチューブの製造方法及びカーボンナノチューブ線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/04 20060101AFI20220222BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220222BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20220222BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20220222BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20220222BHJP
C01B 32/162 20170101ALI20220222BHJP
D07B 5/00 20060101ALI20220222BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220222BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220222BHJP
【FI】
H01B1/04
H01B13/00 501Z
H01B5/02 Z
C01B32/158 ZNM
C01B32/168
C01B32/162
D07B5/00 Z
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2018566163
(86)(22)【出願日】2018-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2018003877
(87)【国際公開番号】W WO2018143466
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017018634
(32)【優先日】2017-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悟志
(72)【発明者】
【氏名】風間 吉則
(72)【発明者】
【氏名】山下 智
(72)【発明者】
【氏名】藤村 幸司
(72)【発明者】
【氏名】谷村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】中井 祐賀子
(72)【発明者】
【氏名】三好 一富
(72)【発明者】
【氏名】會澤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】畑本 憲志
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-210808(JP,A)
【文献】特表2005-502792(JP,A)
【文献】特開2016-017005(JP,A)
【文献】特表2010-510948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/04
H01B 13/00
H01B 5/02
C01B 32/158
C01B 32/168
C01B 32/162
D07B 5/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層以上の層構造を有する複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数が束ねられて形成されているカーボンナノチューブ線材であって、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が75%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が75%以上であり、
前記複数のカーボンナノチューブ集合体の配向性を示す小角X線散乱によるアジマスプロットにおけるアジマス角の半値全幅Δθが60°以下であることを特徴とする、カーボンナノチューブ線材。
【請求項2】
小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが30°以下であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項3】
前記小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが15°以下であることを特徴とする、請求項2記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ線材が、前記複数のカーボンナノチューブによって形成されるHCP構造を有し、前記HCP構造の全体の幅方向長さが3nm以上であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項7】
X線散乱による散乱強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が2.0nm
-1以上であり、且つ半値全幅Δqが2.0nm
-1以下であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項8】
ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が80以上であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が85%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが15°以下であり
、
ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、
前記カーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であり、
前記複数のカーボンナノチューブの配列を示すX線散乱による散乱強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が3.0nm
-1以上であり、且つ半値全幅Δqが0.5nm
-1以下であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が85%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが15°以下であり
、
ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、
前記カーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材が、前記複数のカーボンナノチューブによって形成されるHCP構造を有し、前記HCP構造の全体の幅方向長さが30nm以上であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体を束ねてなるカーボンナノチューブ線材、カーボンナノチューブの製造方法、及びカーボンナノチューブ線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や産業機器などの様々な分野における電力線や信号線として、一又は複数の線材からなる芯線と、該芯線を被覆する絶縁被覆とからなる電線が用いられている。芯線を構成する線材の材料としては、通常、電気特性の観点から銅又は銅合金が使用されるが、近年、軽量化の観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が提案されている。例えば、アルミニウムの比重は銅の比重の約1/3、アルミニウムの導電率は銅の導電率の約2/3(純銅を100%IACSの基準とした場合、純アルミニウムは約66%IACS)であり、アルミニウム線材に、銅線材と同じ電流を流すためには、アルミニウム線材の断面積を、銅の線材の断面積の約1.5倍と大きくする必要があるが、そのように断面積を大きくしたアルミニウム線材を用いたとしても、アルミニウム線材の質量は、純銅の線材の質量の半分程度であることから、アルミニウム線材を使用することは、軽量化の観点から有利である。
【0003】
上記のような背景のもと、昨今では、自動車、産業機器等の高性能化・高機能化が進められており、これに伴い、各種電気機器、制御機器などの配設数が増加するとともに、これら機器に使用される電気配線体の配線数も増加する傾向にある。また、その一方で、環境対応のために自動車等の移動体の燃費を向上させるため、線材の軽量化が強く望まれている。
【0004】
こうした更なる軽量化を達成するための新たな手段の一つとして、カーボンナノチューブを線材として活用する技術が新たに提案されている。カーボンナノチューブは、六角形格子の網目構造を有する筒状体の単層、あるいは略同軸で配された多層で構成される3次元網目構造体であり、軽量であると共に、導電性、電流容量、弾性、機械的強度等の特性に優れるため、電力線や信号線に使用されている金属に代替する材料として注目されている。
【0005】
カーボンナノチューブの比重は、銅の比重の約1/5(アルミニウムの約1/2)であり、また、カーボンナノチューブ単体は、銅(抵抗率1.68×10-6Ω・cm)よりも高導電性を示す。したがって理論的には、複数のカーボンナノチューブからカーボンナノチューブ線材を形成すれば、更なる軽量化、高導電率の実現が可能となる。しかしながら、nm単位のカーボンナノチューブから、μm~mm単位のカーボンナノチューブ線材を作製した場合、カーボンナノチューブ間の接触抵抗や内部欠陥形成が要因となり、線材全体の抵抗値が増大してしまうという問題があることから、カーボンナノチューブをそのまま線材として使用することが困難であった。
【0006】
そこで、カーボンナノチューブ線材の導電性を向上させる方法の一つとして、カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの配向性を向上させる方法が考えられる。
カーボンナノチューブの配向性を向上させた線材としては、例えばカーボンナノチューブ無撚糸を束ねてなるカーボンナノチューブ中心糸と、該カーボンナノチューブ中心糸に巻き付けられたカーボンナノチューブ無撚糸とを備えるカーボンナノチューブ集合体が提案されている(特許文献1)。この従来技術では、化学気相成長法(CVD法)により基板上にカーボンナノチューブを垂直に成長させ、該基板に対して垂直に配向される複数のカーボンナノチューブを引き出してカーボンナノチューブ無撚糸を形成するので、カーボンナノチューブ無撚糸を構成する複数のカーボンナノチューブのそれぞれが、カーボンナノチューブ無撚糸の延びる方向に沿うように配向できるとされている。
【0007】
また、基板を用いたCVD法により、直線形状且つ基板表面に対する垂直配向性を有する多層カーボンナノチューブの密度が50mg/cm3以上であり、該多層カーボンナノチューブの最内層の内径が3nm以上8nm以下である多層カーボンナノチューブの集合構造が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-160539号公報
【文献】特開2008-120658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術では、カーボンナノチューブの配向性を確保し、カーボンナノチューブの密度の向上を図ることを開示するにとどまり、カーボンナノチューブ線材を構成する複数のカーボンナノチューブの配向性と、当該カーボンナノチューブ線材の導電性との関係は一切開示されていない。特に、カーボンナノチューブ線材の低抵抗率を実現する場合、単に複数のカーボンナノチューブの配向性を確保するだけでは不十分であり、カーボンナノチューブ単体の構造や寸法、及び複数のカーボンナノチューブの配向の度合いを定量的に見出す必要がある。
【0010】
本発明の目的は、低抵抗率を実現し、導電性を向上することができるカーボンナノチューブ線材、カーボンナノチューブの製造方法及びカーボンナノチューブ線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、上記課題は以下の発明により達成される。
(1)1層以上の層構造を有する複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体の単数から、又は複数が束ねられて形成されているカーボンナノチューブ線材であって、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が75%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が75%以上であり、
前記複数のカーボンナノチューブ集合体の配向性を示す小角X線散乱によるアジマスプロットにおけるアジマス角の半値全幅Δθが60°以下であることを特徴とする、カーボンナノチューブ線材。
(2)小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが30°以下であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(3)前記小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが15°以下であることを特徴とする、上記(2)記載のカーボンナノチューブ線材。
(4)前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(5)前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(6)前記カーボンナノチューブ線材が、前記複数のカーボンナノチューブによって形成されるHCP構造を有し、前記HCP構造の全体の幅方向長さが3nm以上であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(7)X線散乱による散乱強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が2.0nm-1以上であり、且つ半値全幅Δqが2.0nm-1以下であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(8)ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が80以上であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(9)前記カーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(10)前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が85%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが15°以下であり、
前記ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、
前記カーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であり、
前記複数のカーボンナノチューブの配列を示すX線散乱による散乱強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が3.0nm-1以上であり、且つ半値全幅Δqが0.5nm-1以下であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(11)前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が85%以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、
前記小角X線散乱による前記アジマス角の半値全幅Δθが15°以下であり、
前記ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、
前記カーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材が、前記複数のカーボンナノチューブによって形成されるHCP構造を有し、前記HCP構造の全体の幅方向長さが30nm以上であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ線材。
(12)合成工程、精製工程及び熱処理工程の各工程を経てカーボンナノチューブを製造するカーボンナノチューブの製造方法であって、
前記熱処理工程において、前記精製工程によって得られたカーボンナノチューブを、不活性雰囲気下で、1000~2200℃、30分~5時間で熱処理することを特徴とする、カーボンナノチューブの製造方法。
(13)前記合成工程において、前記炭素源としてデカヒドロナフタレンを、前記触媒として直径2nm以下の金属粒子を用いて、前記カーボンナノチューブを合成することを特徴とする、上記(12)記載のカーボンナノチューブの製造方法。
(14)前記合成工程において、前記カーボンナノチューブの合成温度が1300~1500℃であり、前記触媒にCo、Mn、Ni、N、S、Se、Teからなる群から選択された少なくとも1種を混合することを特徴とする、上記(12)又は(13)記載のカーボンナノチューブの製造方法。
(15)複数のカーボンナノチューブを、0.1~20wt%の濃度で強酸に分散させた後、前記複数のカーボンナノチューブを凝集させることを特徴とする、カーボンナノチューブ線材の製造方法。
(16)前記強酸が、発煙硫酸及び発煙硝酸のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、上記(15)記載のカーボンナノチューブ線材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低抵抗率を実現し、導電性を向上することができるカーボンナノチューブ線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ線材の構成を説明するための図である。
【
図2】(a)は、SAXSによる複数のカーボンナノチューブ集合体の散乱ベクトルqの二次元散乱像の一例を示す図であり、(b)は、二次元散乱像において、透過X線の位置を原点とする任意の散乱ベクトルqの方位角-散乱強度の関係を示すアジマスプロットの一例を示すグラフである。
【
図3】カーボンナノチューブ集合体を構成する複数のカーボンナノチューブのWAXSによるq値-強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
<カーボンナノチューブ線材及びカーボンナノチューブ集合体の構成>
図1は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ線材の構成を説明するための図である。
図1におけるカーボンナノチューブ線材は、その一例を示すものであり、本発明に係るカーボンナノチューブ線材の構成は、
図1のものに限られないものとする。
【0016】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ線材1(以下、CNT線材という)は、
図1に示すように、1層以上の層構造を有する複数のカーボンナノチューブ11a,11a,・・・(以下、CNTという)で構成されるカーボンナノチューブ集合体11(以下、CNT集合体という)の単数から、又は複数が束ねられて形成されている。ここで、CNT線材とはCNTの割合が90質量%以上のCNT線材を意味する。なお、CNT線材におけるCNT割合の算定においては、メッキやドーパントの質量は除く。
図1では、CNT線材1は、CNT集合体11が、複数、束ねられた構成となっている。CNT集合体11の長手方向が、CNT線材1の長手方向を形成している。従って、CNT集合体11は、線状となっている。CNT線材1における複数のCNT集合体11,11,・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配されている。従って、CNT線材1における複数のCNT集合体11,11,・・・は、配向している。CNT線材1の外径は、0.01mm以上4.0mm以下である。
【0017】
CNT集合体11は、1層以上の層構造を有するCNTの束である。CNT11aの長手方向が、CNT集合体11の長手方向を形成している。CNT集合体11における複数のCNT11a,11a、・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配されている。従って、CNT集合体11における複数のCNT11a,11a、・・・は、配向している。CNT集合体11の円相当直径は、20nm以上80nm以下である。CNT11aの最外層の幅寸法は、例えば、1.0nm以上5.0nm以下である。
【0018】
本実施形態では、CNT線材1を構成するCNTの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるCNTの個数の和の比率が75%以上である。この最内層とは、複層構造のCNTの場合には最も内側に位置する層を示し、単層の場合には当該単層自体を示し、最内層の平均直径とは、上記最も内側に位置する層の直径と上記単層自体の直径との合計の平均値を示す。CNTの最内層の直径が小さいと抵抗が小さくなると推察されることから、本実施形態ではCNT線材1を構成するCNTの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるCNTの個数の和の比率を、上記範囲内の値とする。
【0019】
<CNTの構成>
CNT集合体11を構成するCNT11aは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれSWNT(single-walled nanotube)、MWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。
図1では便宜上、2層構造を有するCNTのみを記載しているが、CNT集合体11には、3層構造以上の層構造を有するCNTや単層構造の層構造を有するCNTも含まれていてもよく、CNT集合体11は3層構造以上の層構造を有するCNT又は単層構造の層構造を有するCNTから形成されてもよい。
【0020】
2層構造を有するCNT11aは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体T1,T2(以下、単に「層」ともいう)が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(Double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0021】
CNT11aの性質は、上記のような筒状体のカイラリティ(chirality)に依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びそれ以外のカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、カイラル型は半導体性および半金属性、ジグザグ型は半導体性および半金属性の挙動を示す。よってCNTの導電性はいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なる。CNT集合体では、導電性を向上させる点から、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNTの割合を増大させることが好ましい。
【0022】
一方、半導体性を有するカイラル型のCNTに電子供与性もしくは電子受容性を持つ物質(異種元素)をドープすることにより、金属性の挙動を示すことが分かっている。また、一般的な金属では、異種元素をドープすることによって金属内部での伝導電子の散乱が起こって導電性が低下するが、これと同様に、金属性の挙動を示すCNTに異種元素をドープした場合には、導電性の低下を引き起こす。
【0023】
このように、金属性の挙動を示すCNT及び半導体性の挙動を示すCNTへのドーピング効果は、導電性の観点からはトレードオフの関係にあると言えることから、理論的には金属性の挙動を示すCNTと半導体性の挙動を示すCNTとを別個に作製し、半導体性CNTにのみドーピング処理を施した後、これらを組み合わせることが望ましい。金属性の挙動を示すCNTと半導体性の挙動を示すCNTが混在した状態で作製される場合、金属性CNTと半導体性CNTの混合物からなるCNT線材の導電性を更に向上させるには、異種元素又は分子によるドーピング処理が効果的となるCNTの層構造を選択することが好ましい。これにより、金属性の挙動を示すCNTと半導体性の挙動を示すCNTの混合物からなるCNT線材1の導電性をさらに向上させることができる。
【0024】
例えば、2層構造又は3層構造のような層数が少ないCNTは、それより層数の多いCNTよりも比較的導電性が高い。また、ドーパントは、CNTの最内層の内部、もしくは複数のCNTで形成されるCNT間の隙間に導入される。ドーピング効果はCNTの内部にドーパントが導入されることで発現するが、多層CNTの場合は最外層および最内層に接していない内部に位置するチューブのドープ効果が発現しにくくなる。以上のような理由により、複層構造のCNTにそれぞれドーピング処理を施した際には、2層又は3層構造を有するCNTでのドーピング効果が最も高い。また、ドーパントは、強い求電子性もしくは求核性を示す、反応性の高い試薬であることが多い。単層構造のCNTは多層よりも剛性が弱く、耐薬品性に劣るためにドーピング処理を施すと、CNT自体の構造が破壊されることがある。
【0025】
従って、CNT線材1の導電性を向上させる点から、2層構造又は3層構造を有するCNTの割合を増大させる。具体的には、CNT線材を構成するCNTの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の比率が75%以上であり、好ましくは90%以上である。2層構造又は3層構造を有するCNTの割合は、CNT集合体11の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察及び解析し、100個のCNTのそれぞれの層数を測定することで算出することができる。
【0026】
また、CNT線材1の導電性を更に向上させる点から、CNT線材1を構成するCNTの全体個数に対する、2層構造を有するCNTの個数の和の比率が80%以上であるのが好ましく、85%以上であるのがより好ましい。
【0027】
また、本実施形態のCNT線材1では、ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が80以上であるのが好ましく、100以上であることがより好ましく、155以上であることが更に好ましい。Dバンドは、ラマンシフト1350cm-1付近に現れ、欠陥に由来するスペクトルのピークとも言える。よってこのGバンドに対するDバンドの比(G/D比)は、CNT中の欠陥量の指標として用いられ、G/D比が大きい程、CNT中の欠陥が少ないと判断される。上記G/D比が80未満であると、結晶性が低く、良好な導電性を得難くなる。よってラマンスペクトルにおけるG/D比を上記範囲内の値とする。
【0028】
図2(a)は、小角X線散乱(SAXS)による複数のCNT集合体11,11,・・・の散乱ベクトルqの二次元散乱像の一例を示す図であり、
図2(b)は、二次元散乱像において、透過X線の位置を原点とする任意の散乱ベクトルqの方位角-散乱強度の関係を示すアジマスプロットの一例を示すグラフである。
【0029】
SAXSは数nm~数十nmの大きさの構造等を評価するのに適している。例えば、SAXSを用いて、以下の方法でX線散乱画像の情報を分析することで、外径が数nmであるCNT11aの配向性及び外径が数十nmであるCNT集合体11の配向性を評価することができる。例えば、CNT線材1についてX線散乱像を分析すると、
図2(a)に示すように、CNT集合体11の散乱ベクトルq(q=2π/d、dは格子面間隔)のx成分であるq
xよりも、y成分であるq
yの方が狭く分布している。また、
図2(a)と同じCNT線材1について、SAXSのアジマスプロットを分析した結果、
図2(b)に示すアジマスプロットにおけるアジマス角の半値全幅Δθは、48°である。これらの分析結果から、CNT線材10において、複数のCNT11a,11a・・・及び複数のCNT集合体11,11,・・・が良好な配向性を有しているといえる。なお、配向性とは、CNTを撚り集めて作製した撚り線の長手方向へのベクトルVに対する内部のCNT及びCNT集合体のベクトルの角度差のことを指す。
【0030】
そこで本実施形態では、複数のCNT集合体11,11,・・・の配向性を示す小角X線散乱(SAXS)のアジマスプロットにおけるアジマス角の半値全幅Δθは、60°以下であり、好ましくは50°以下、より好ましくは30°以下であり、更に好ましくは15°以下である。アジマス角の半値全幅Δθが60°を超えると、CNT線材1を構成する複数のCNT集合体11の配向性が劣り、CNT線材1の抵抗率が大きくなる。一方、アジマス角の半値全幅Δθが60°以下であれば複数のCNT集合体11の配向性が良好であり、CNT集合体11,11同士、すなわちCNT束同士の接触点が増大し、CNT集合体11,11同士の接触抵抗が低くなる結果、CNT線材1の抵抗率が小さくなる。また、半値全幅Δθが30°以下であれば複数のCNT集合体11の配向性が非常に良好であり、更に、半値全幅Δθが15°以下であれば複数のCNT集合体11の配向性が極めて良好であり、CNT線材1の抵抗率が更に小さくなる。よって、アジマス角の半値全幅Δθの範囲を上記範囲内の値とする。
更に、カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの全体個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が85%以上であり、カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、且つカーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であることを前提として、(i)複数のカーボンナノチューブの配列を示すX線散乱による散乱強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が3.0nm-1以上であり且つ半値全幅Δqが0.5nm-1以下であるか、もしくは(ii)CNT線材が、複数のカーボンナノチューブによって形成されるHCP構造を有し、該HCP構造(hexagonal close-packed)の全体の幅方向長さが30nm以上であり、更に、該HCP構造を構成するCNTの半値全幅Δθが15°以下であれば、CNT線材における導電性の向上がより顕著となる。
【0031】
次に、CNT集合体11を構成する複数のCNT11aの配列構造及び密度について説明する。
【0032】
図3は、CNT集合体11を構成する複数のCNT11a,11a,・・・のWAXS(広角X線散乱)によるq値-強度の関係を示すグラフである。
【0033】
WAXSは数nm以下の大きさの物質の構造等を評価するのに適している。例えば、WAXSを用いて、以下の方法でX線散乱画像の情報を分析することで、外径が数nm以下であるCNT11aの密度を評価することができる。任意の1つのCNT集合体11について散乱ベクトルqと強度の関係を分析すると、
図3に示すように、q=1nm
-1~5nm
-1、特にq=3.0nm
-1~4.0nm
-1付近に見られる(10)ピークのピークトップのq値から見積られる格子定数の値が測定される。この格子定数の測定値とラマン分光法やTEMなどで観測されるCNT集合体の直径とに基づいて、CNT11a,11a,・・・が断面視でHCP構造を形成していることを確認することができる。
【0034】
1~10層以内のCNTは、単体で存在するよりも複数本集まって凝集する。この凝集の際、アスペクト比の高いCNTの構造より、幅方向に積層することで接触面積をより多く取り、エネルギー的に安定な構造をとる。特に1~3層以内のCNTで、その直径が揃っていると、その積層構造はHCP構造をとる傾向がある。HCP構造は、1本のCNTの直径の値とする2次元結晶を構成単位として形成されており、その周期構造に由来した最も低指数(10)である回折ピークがq=1nm-1~5nm-1の間で検出される。
【0035】
したがって、CNT線材1内で複数のCNT集合体の直径分布が狭く、複数のCNT11a,11a,・・・が、規則正しく配列、すなわち、高密度を有することで、HCP構造を形成しているといえる。
【0036】
そこで本実施形態では、X線散乱による強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が2.0nm-1以上であり、且つ半値全幅Δq(FWHM)が2.0nm-1以下であることが好ましく、上記ピークトップのq値が3.0nm-1以上であり、且つ半値全幅Δq(FWHM)が0.5nm-1以下であることがより好ましい。また、このとき、上記半値全幅Δq(FWHM)は、例えば0.1nm-1以上である。強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が2.0nm-1以上であり、且つ半値全幅Δqが2.0nm-1以下であると、CNT集合体11内で複数のCNT11aの直径分布が狭く、複数のCNT11a,11a,・・・が規則正しく配列してHCP構造を形成していることから、CNT11a,11a同士、すなわちCNT単体同士の接触点が増大し、CNT-CNT間の接触抵抗を小さくすることができる。よって、強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値及び半値全幅Δqを上記範囲内の値とする。
【0037】
このように、CNT集合体11において、複数のCNT11a,11a,・・・がHCP構造を形成しているのが好ましいが、CNT線材1の少なくとも一部を構成するCNT11a,11a,・・・がHCP構造を有していることは、CNT線材1の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察及び解析することでも確認することができる。このとき、CNT線材1が、複数のCNT11a、11a,・・・によって形成されるHCP構造を有し、該HCP構造の全体の幅方向長さが3nm以上であるのが好ましく、10nm以上であるのがより好ましく、30nm以上であるのが更に好ましい。
【0038】
また、CNT線材1の長手方向における接触抵抗の低減及び更なる導電性向上の観点から、CNT集合体11の長さは、10μm以上であるのが好ましい。CNT集合体11の長さは、走査型電子顕微鏡もしくは原子間力顕微鏡を用いて観察し、画像ソフトウェアにて側長した長さの平均値から測定することができる。
【0039】
(CNT及びCNT線材の製造方法)
CNTは、例えば、合成工程、精製工程及び熱処理工程の各工程を経て製造することができる。
上記合成工程では、浮遊触媒法(特許第5819888号)や、基板法(特許第5590603号)などの手法を用いることができる。
上記合成工程において、第一炭素源として、例えば、デカヒドロナフタレン(デカリン)、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、O-キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサンからなる群から選択された1つ又は複数の材料を用いることができる。第一炭素源に加える第二炭素源としては、例えばエチレン、メタン、アセチレンからなる群から選択された1つ又は複数の材料を用いることができる。触媒としては、例えば、フェロセン単体、又は、フェロセンを主成分としてコバルトセン、ニッケロセン及びマグネトロセンのうちのいずれか1つをフェロセンの分子量に対して10%以下となるように混合した物質を用いることができる。
また、第一炭素源としてデカヒドロナフタレンを用い、触媒として平均直径2nm以下の金属粒子を用いて、CNTを合成するのが好ましい。これにより、CNT線材1に形成されたHCP構造の結晶子のサイズを大きくすることができ、CNT-CNT間の接触抵抗を更に小さくすることができる。上記金属粒子としては、例えば鉄触媒粒子が上げられる。また、上記のような出発原料にチオフェンなどの反応促進剤が添加されてもよい。
【0040】
また、上記合成工程において、CNTの合成温度が1300~1500℃であり、CNT成長のための触媒として、上記触媒にコバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)からなる群から選択された少なくとも1種を混合するのが好ましい。またこのとき、ミスト化した原料を水素化ガスで8~12L/minで炉に吹き込むが好ましい。これにより、触媒の流動性が向上し、CNT集合体11の長さをより長くすることができ、CNT線材1の長手方向における接触抵抗を更に小さくすることができる。
【0041】
上記精製工程において、例えば、合成されたCNTを圧力容器に入れて水で満たし、80~200℃、0.5時間~3.0時間で加熱し、その後、大気下で450~600℃、0.5時間~1.0時間でCNTを焼成し、塩酸などの強酸で金属触媒を除去する。これにより、CNTになれなかったアモルファスカーボンを除去でき、CNTを十分に精製することができる。
【0042】
上記熱処理工程において、上記精製工程によって得られたCNTを、Arなどの不活性雰囲気下で、1000~2200℃、好ましくは1500~2200℃、より好ましくは1800~2200℃で、30分~5時間でアニールするのが好ましい。2200℃を超えると隣接するCNT同士が接触し、CNTの直径を維持することが困難となる。これにより、より欠陥の少ないCNTを作製することができる。
【0043】
作製したCNTからのCNT線材の作製は、乾式紡糸(特許第5819888号、特許第5990202号、特許第5350635号)、湿式紡糸(特許第5135620号、特許第5131571号、特許第5288359号)、液晶紡糸(特表2014-530964号)等で行うことができる。
【0044】
CNT集合体及びCNTの配向性、並びにCNTの配列構造及び密度は、後述する、乾式紡糸、湿式紡糸、液晶紡糸等の紡糸方法と該紡糸方法の紡糸条件とを適宜選択することで調節することができる。このとき、複数のCNT複数のCNTを、0.1~20wt%の濃度で上記強酸に分散させた後、上記複数のCNTを凝集させる。例えば、上記の製法で得られた複数のCNTを、0.1~20wt%の濃度で、発煙硫酸、発煙硝酸、濃硫酸及び濃硝酸のうちの1又は複数を含む強酸に分散させた後、上記複数のCNTを凝集させるのが好ましい。
【0045】
特に、上記CNTの分散において、CNTの溶媒としての上記強酸が、発煙硫酸及び発煙硝酸のうちの少なくとも1種を含むのが好ましい。これにより、CNTの配向性を飛躍的に向上させることができる。例えば、発煙硝酸を溶媒とする場合、CNTを0.1~20wt%となるように溶媒中で分散させる。また、その際に溶媒に超音波を加えることが好ましい。これにより、CNTをより均一に分散させることができ、配向性をより向上させることができる。
【0046】
上述したように、本実施形態によれば、CNT線材1を構成するCNT11aの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が75%以上であり、CNT線材1を構成するCNT11aの個数に対する、最内層の直径が1.7nm以下であるCNTの個数の和の比率が75%以上であり、更に、複数のCNT集合体11の配向性を示す小角X線散乱によるアジマスプロットにおけるアジマス角の半値全幅Δθが60°以下であるので、2層又は3層構造のCNT比率が高いので導電性が高くなり、且つ最内層直径の小さいCNT比率が高いので抵抗率が小さくすることができる。また、CNT線材1内での複数のCNT集合体11の配向性が高いので、CNT集合体11-CNT集合体11間の接触抵抗を小さくすることができる。よって、低抵抗率を実現し、導電性を向上することができるCNT線材1を提供することができる。
【0047】
また、複数のCNT11aの配列を示すX線散乱による(10)ピークにおけるピークトップのq値が2.0nm-1以上であり、且つ半値全幅Δqが2.0nm-1以下であるので、CNT集合体11内で複数のCNT11aが規則正しく配列し、高密度で存在しているので、CNT11a-CNT11a間の接触抵抗を小さくすることができ、CNT集合体11の低抵抗率を実現することができ、これによりCNT線材1の導電性を更に向上することができる。
【0048】
更に、ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が80以上であるので、CNT11a中の欠陥が少なく、結晶性が高く、CNT11a単体の低抵抗率を実現することができ、CNT線材1の導電性を更に向上することができる。
【0049】
特に、CNT線材1を構成するCNT11aの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が90%以上であり、CNT線材1を構成するCNT11aの全体個数に対する、2層構造を有するCNTの個数の和の比率が85%以上であり、CNT線材1を構成するCNT11aの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるCNTの個数の和の比率が90%以上であり、小角X線散乱によるアジマス角の半値全幅Δθが15°以下であり、ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、CNT集合体11の長さが10μm以上であり、複数のCNT11a、11a,・・・の配列を示すX線散乱による散乱強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値が3.0nm-1以上であり、且つ半値全幅Δqが0.5nm-1以下であるので、更なる低抵抗率を実現し、導電性を格段に向上することができる。
【0050】
換言すれば、CNT線材1を構成するCNT11aの全体個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が90%以上であり、CNT線材1を構成するCNT11aの全体個数に対する、2層構造を有するCNTの個数の和の比率が85%以上であり、CNT線材1を構成するCNT11aの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるCNTの個数の和の比率が90%以上であり、小角X線散乱によるアジマス角の半値全幅Δθが15°以下であり、ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、CNT集合体11の長さが10μm以上であり、CNT線材1が、複数のCNT11a,11a,・・・によって形成されるHCP構造を有し、該HCP構造全体の幅方向長さが30nm以上であるので、更なる低抵抗率を実現し、導電性を格段に向上することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態に係るCNT線材について述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0052】
例えば、上記CNT線材は、CNTの内側及びCNT-CNT間の少なくとも一方にドーピングされた異種元素・分子を更に有していてもよい。ドーパントとしては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及び硝酸からなる群から選択された1又は複数の材料を選択することができる。CNT線材1への異種元素又は分子のドーピングにより、CNT線材1の導電性を更に向上することができる。
【0053】
また、上記実施形態のCNT線材と、該CNT線材の外周を被覆する被覆層とを備えるCNT被覆電線を構成してもよい。特に、本実施形態のCNT線材は、電力や信号を伝送するための電線用線材の材料として好適であり、四輪自動車などの移動体に搭載される電線用線材の材料としてより好適である。金属電線よりも軽量になり燃費の向上が期待されるためである。
【0054】
また、絶縁被覆層の材料としては、芯線として金属を用いた被覆電線の絶縁被覆層に用いる材料を使用することができ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、フェノール樹脂等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0055】
また、上記CNT被覆電線を少なくとも1つを有するワイヤハーネスを構成してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
浮遊触媒気相成長(CCVD)法を用い、電気炉によって1300℃に加熱された、内径φ60mm、長さ1600mmのアルミナ管内部に、炭素源であるデカヒドロナフタレン、触媒であるフェロセン、及び反応促進剤であるチオフェンを、体積比率にてそれぞれ100:4:1で含む原料溶液Lを、スプレー噴霧により供給した。キャリアガスは、水素を9.5L/minで供給した。得られたCNTを回収機にてシート状に回収し、これらを集めてCNT集合体を製造し、更にCNT集合体を束ねてCNT線材を製造した。得られたCNT線材を、大気下において500℃に加熱し、さらに酸処理を施すことによって高純度化を行った。
【0057】
また、上記浮遊触媒気相成長法で作製したCNTを直接紡糸する乾式紡糸方法(特許第5819888号)または湿式紡糸する方法(特許第5135620号、特許第5131571号、特許第5288359号)でCNT線材を得た。
【0058】
(実施例2)
大気下の加熱を400℃で実施したこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0059】
(実施例3)
CCVDの上記原料における体積比率を100:1:0.01に変えたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0060】
(実施例4)
CCVDの上記原料における体積比率を100:1:0.01に変え、大気下の加熱を400℃で実施したこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0061】
(実施例5)
CCVDの上記原料における体積比率を100:2:1に変えたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0062】
(実施例6)
CCVDの上記原料における体積比率を100:2:1に変え、且つ大気下の加熱を400℃で実施したこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0063】
(実施例7)
CCVDの上記原料における体積比率を100:2:1に変え、焼成温度を1100℃とし、且つ大気下の加熱を400℃で実施したこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0064】
(実施例8)
CCVDの上記原料における体積比率を100:2:1に変え、焼成温度を1200℃とし、且つ大気下の加熱を400℃で実施したこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0065】
(実施例9)
次に、浮遊触媒気相成長(CCVD)法を用い、横型の管状電気炉によってカーボンナノチューブを合成した。電気炉の温度は1000℃~1500℃とした。この電気炉に内径φ10mm~60mm、長さ2000mmの石英管を設置した。
【0066】
出発物質として、炭素源としてデカヒドロナフタレンのみを用い、触媒原料として、フェロセンのみを用い、反応促進材としては、チオフェンを用いた。これらの物質をモル比率として炭素源:触媒原料:反応促進剤=100:1.5:1.5とする原料溶液Lを準備した。
【0067】
この原料溶液Lをスプレーにてミスト状にし、これを気化器に投入した。
ここで気化された原料を、キャリアガスである水素と共に加熱された石英管内に吹き入れて、CNTを合成した。この時の水素流量は9.5L/minであった。
【0068】
合成されたCNTを回収ボックス内で凝集体として回収し、回収されたCNTを高圧容器に水と一緒に封入し、200℃、3時間で加熱した。その後、大気下で500℃、30分間で焼成し、焼成後に塩酸にて金属触媒を除去し、CNTを精製した。上記精製後、不活性雰囲気下(Ar)で、1500℃、0.5時間でアニールを行なった。
【0069】
次に、アニールを行なったCNTを、発煙硝酸に0.1~20wt%の濃度になるように超音波を加えながら分散させた。この分散液を圧力を加えながらφ20μmのセラミック管に通した。セラミック管の出口部分を凝固剤(水)に付けた状態で設置し、分散液を水に直接吹き入れることにより、噴き入れられたCNTが水内で線材化し、CNT線材を得た。
【0070】
(実施例10)
CNTの焼成後、不活性雰囲気下(Ar)で、1500℃、1時間でアニールを行なったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0071】
(実施例11)
CNTの焼成後、不活性雰囲気下(Ar)で、1800℃、1時間でアニールを行なったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0072】
(実施例12)
炭素源としてヘキサンとエチレンガスを用いて合成を行ったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。ヘキサン:フェロセン:チオフェン=100:1.5:1.5で反応炉内に投入し、エチレンガスは、100mL/minで水素ガスと共に炉内に送風した。
【0073】
(実施例13)
炭素源としてシクロヘキサンとエチレンガスを用いて合成を行ったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。シクロヘキサン:フェロセン:チオフェン=100:1.5:1.5で反応炉内に投入し、エチレンガスは、100mL/minで水素ガスと共に炉内に送風した。
【0074】
(実施例14)
炭素源としてデカヒドロナフタレンとエチレンガスを用いて合成を行ったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。デカヒドロナフタレン:フェロセン:チオフェン=100:1.5:1.5で反応炉内に投入し、エチレンガスは、100mL/minで水素ガスと共に炉内に送風した。
【0075】
(実施例15)
平均直径が2nmの鉄触媒粒子を用いて合成を行ない、反応管(石英管)の直径をφ20mmに小さくしてキャリアガスの流量(水素流量)を9.5L/minとしたこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0076】
(実施例16)
平均直径が1nmの鉄触媒粒子を用いて合成を行なったこと以外は、実施例15と同様にしてCNT線材を得た。
【0077】
(実施例17)
上記アニールを行ったCNTを、溶媒である濃硫酸に7wt%になるように分散させて線状に成型したこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0078】
(実施例18)
上記アニールを行なったCNTを、溶媒である濃硝酸に13wt%になるように超音波を加えながら分散させて線状に成型したこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0079】
(実施例19)
平均直径が1nmの鉄触媒粒子を用い、炉内の鉄触媒粒子の数密度を実施例9の2倍として合成を行ったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。炉内の触媒粒子の数密度とは、炉内の空間に分布する触媒粒子の密度を意味する。この数密度を上げる方法としては、水素の流速の向上、炉内温度の向上、触媒原料の投入量の増加、触媒粒子の成長促進剤の利用などが挙げられる。
【0080】
(実施例20)
平均直径が1nmの鉄触媒粒子を用い、炉内の鉄触媒粒子の数密度を実施例9の3倍として合成を行ったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0081】
(実施例21)
平均直径が1nmの鉄触媒粒子を用い、炉内の鉄触媒粒子の数密度を実施例9の4倍として合成を行ったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0082】
(実施例22)
実施例10~21の各条件を組み合わせてCNT線材を合成した。具体的には、炭素源をデカヒドロナフタレンとエチレンガスとし、平均直径が1nmの鉄触媒粒子の密度を実施例9の4倍とした上で、鉄触媒粒子の炉内対流時間を0.1秒から1秒に延ばしてCNTの合成を行い、上記CNTを焼成した後、不活性雰囲気下(Ar)で、1800℃、1時間でアニールを行ない、上記アニールを行なったCNTを、溶媒である濃硝酸に13wt%になるように超音波を加えながら分散させて線状に成型して、CNT線材を得た。
【0083】
(実施例23)
CNT成長触媒として、フェロセンの他にコバルトセンを、フェロセンに対するモル比で1/10程度入れて、鉄-コバルト触媒粒子を用いて合成を行ったこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。尚、コバルトセンのコバルトは鉄触媒粒子の鉄の結晶構造内に分布し、単独では存在しないとの仮定の下、鉄触媒粒子を用いてコバルトセンを上記モル比で添加した。
【0084】
(実施例24)
水素供給量を減少させ、触媒粒子の管状炉の滞留時間を2秒にしたこと以外は、実施例9と同様にしてCNT線材を得た。
【0085】
(実施例25)
平均直径が1.5nmの鉄触媒粒子を用いて合成を行ったこと以外は、実施例22と同様にしてCNT線材を得た。
【0086】
(実施例26)
炉内の鉄触媒粒子の数密度を実施例9の3倍として合成を行ったこと以外は、実施例22と同様にしてCNT線材を得た。
【0087】
(実施例27)
平均直径が2.0nmの鉄触媒粒子を用いて合成を行ったこと以外は、実施例22と同様にしてCNT線材を得た。
【0088】
(比較例1)
大気下での加熱を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0089】
(比較例2)
CCVDの原料比率を100:1:0.05に変え、酸処理を行う工程数と酸処理時間を短縮したこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0090】
(比較例3)
大気下での加熱及び酸処理のいずれも行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT線材を得た。
【0091】
次に、実施例1~27及び比較例1~3について、下記の方法にてCNT線材の構造、特性を測定、評価した。
(a)CNT線材を構成するCNTの層数及び最内層の平均直径の測定
上記条件により生成したCNT線材の断面を、透過型電子顕微鏡で観察及び解析し、200個のCNTのそれぞれの層数を測定し、及びCNTの直径を測定し、CNTの最内層の平均直径を算出した。
【0092】
(b)SAXSによるアジマス角の半値全幅Δθの測定
実施例1~8では、小角X線散乱装置(Aichi Synchrotron、X線波長:0.92Å, カメラ長:465mm, ビーム径:約300μm, 検出器:R-AXIS IV++)を用いてX線散乱測定を行い、得られたアジマスプロットをガウス関数もしくはローレンツ関数でフィッティングし、半値全幅Δθを求めた。
実施例9~27では、小角X線散乱装置(SPring-8、X線波長:1.24Å, カメラ長:615mm, ビーム径:約3.0μm, 検出器:フラットパネル(C9732DK))を用いてX線散乱測定を行い、得られたアジマスプロットからをガウス関数もしくはローレンツ関数でフィッティングし、半値全幅Δθを求めた。
【0093】
(c)WAXSによるピークトップのq値及び半値全幅Δqの測定
広角X線散乱装置(Aichi Synchrotron)を用いて広角X線散乱測定を行い、得られたq値-強度グラフから、強度の(10)ピークにおけるピークトップのq値及び半値全幅Δqを求めた。
【0094】
(d)CNT線材におけるG/D比の測定
ラマン分光装置(Thermo Fisher Scientific社製、装置名「ALMEGA XR」により、励起レーザ:532nm、レーザ強度:10%に減光、対物レンズ:50倍、露光時間:1秒×60回の条件にて測定し、ラマンスペクトルを得た。次に日本分光社製のスペクトル解析ソフトウェア「Spectra Manager」により、ラマンスペクトルの1000~2000cm-1のデータを切り出し、この範囲で検出されるピーク群をCurve Fittingにより分離解析を行った。尚、ベースラインは1000cm-1と2000cm-1での検出強度を結んだ線とした。そして、上記で切り出したラマンスペクトルから、GバンドとDバンドそれぞれのピークトップ高さ(ピークトップからベースラインの値を差し引いた検出強度)からG/D比を算出した。
【0095】
(e)CNT線材の抵抗率測定
抵抗測定機(ケースレー社製、装置名「DMM2000」)にCNT線材を接続し、4端子法により抵抗測定を実施した。抵抗率は、r=RA/L(R:抵抗、A:CNT集合体の断面積、L:測定長さ)の計算式に基づいて抵抗率を算出した。
【0096】
(f)CNT集合体の長さの測定
CNTを分散液であるコール酸ナトリウムに超音波を加えて分散液を作製して、その分散液をスポイトで採取し、シリコン基板の上に滴下し、乾燥させて、CNT線材を合成した。合成したCNT線材を走査型電子顕微鏡(加速電圧3.0keV、倍率20,000倍)にて観察した。一回の観察でCNTを200~1000本観察し、それらを画像ソフトウェアにて側長し、得られた長さ分布を対数正規分布でフィッティングを行い、平均長をCNT集合体の長さとして測定した。
【0097】
(g)HCP構造の全体の幅方向長さの測定
WAXS測定よりHCP構造由来の回折ピークである(10)ピークの半値全幅Δqを算出し、シェラーの式より結晶子のサイズを求めた。ここでいう結晶子とは、複数のCNTを単結晶とみなすことができる最大の集まりを意味する。そして、上記で求めた結晶子のサイズはCNT集合体の直径に相当する値であり、この値をHCP構造の全体の幅方向長さとした。
【0098】
上記実施例1~27及び比較例1~3の測定、算出結果を、表1~表2に示す。
【0099】
【0100】
【0101】
表1に示すように、実施例1~2では、CNT線材を構成するCNTの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が本発明の範囲内であり、CNT線材を構成するCNTの個数に対する、最内層の平均直径が0.7nm以上1.7nm以下であるCNTの個数の和の比率が本発明の範囲内であり、且つ複数のCNT集合体の配向性を示すSAXSによるアジマスプロットにおけるアジマス角の半値全幅Δθが本発明の範囲内であり、低い抵抗率が得られることが分かった。特に、実施例1において、SAXSによる半値全幅Δθが30°以下であると、実施例2と比較してより低い抵抗率が得られることが分かった。
【0102】
実施例3では、実施例1~2と比較して最内層の平均直径が大きいものの、SAXSによる半値全幅Δθが実施例1と同等の値であり、実施例2よりも低い抵抗率が得られることが分かった。
【0103】
実施例4では、実施例1~2と比較して最内層の平均直径が大きく、且つ実施例3よりもSAXSによる半値全幅Δθが大きいものの、当該半値全幅Δθは本発明の範囲内であり、低い抵抗率が得られることが分かった。
【0104】
実施例5では、実施例1~2と比較して最内層の平均直径が小さく、且つ平均直径0.7nm以上1.7nm以下のCNT比率が小さいものの、SAXSによる半値全幅Δθが実施例1と同等の値であり、実施例1と同等の抵抗率が得られることが分かった。
【0105】
実施例6では、実施例1~2と比較して最内層の平均直径が小さく、平均直径0.7nm以上1.7nm以下のCNT比率が小さく、且つ実施例3よりもSAXSによる半値全幅Δθが大きいものの、当該半値全幅Δθは本発明の範囲内であり、低い抵抗率が得られることが分かった。
【0106】
実施例7では、2層又は3層構造のCNT比率、最内層の平均直径、およびSAXSによる半値全幅Δθが実施例1とほぼ同等の値であり、ラマンスペクトルにおけるG/D比が80程度の値であり実施例1より小さく、実施例1に比べて抵抗率は高くなるものの、低い抵抗率が得られることが分かった。
【0107】
実施例8では、2層又は3層構造のCNT比率、最内層の平均直径、およびSAXSによる半値全幅Δθが実施例1とほぼ同等の値であり、且つラマンスペクトルにおけるG/D比が100程度の値であり実施例7と比較して大きく、実施例7よりも低い抵抗率が得られることが分かった。
【0108】
また、表2に示すように、実施例9では、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が本発明の範囲内であり、CNT線材を構成するCNTの個数に対する、最内層の平均直径が0.7nm以上1.7nm以下であるCNTの個数の和の比率が本発明の範囲内であり、且つ複数のCNT集合体の配向性を示すSAXSによるアジマスプロットにおけるアジマス角の半値全幅Δθが本発明の範囲内であり、低い抵抗率が得られることが分かった。
【0109】
実施例10では、ラマンスペクトルにおけるG/D比が実施例9よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0110】
実施例11では、ラマンスペクトルにおけるG/D比が実施例10よりも大きく、更に低い抵抗率が得られた。
【0111】
実施例12では、2層又は3層構造のCNT比率が実施例9よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0112】
実施例13では、2層又は3層構造のCNT比率及び2層のCNT比率が実施例12よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0113】
実施例14では、2層のCNT比率が実施例14よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0114】
実施例15では、平均直径0.7nm以上1.7nm以下のCNT比率が実施例9よりも若干小さいものの、最内層の平均直径が実施例9よりも小さく、WAXSによるピークトップのq値が実施例9よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0115】
実施例16では、最内層の平均直径が実施例15よりも小さく、平均直径0.7nm以上1.7nm以下のCNT比率が実施例15よりも大きく、WAXSによるピークトップのq値が実施例15よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0116】
実施例17では、SAXSによる半値全幅Δθが実施例9よりも小さく、格段に低い抵抗率が得られた。
【0117】
実施例18では、SAXSによる半値全幅Δθが実施例17よりも小さく、より低い抵抗率が得られた。
【0118】
実施例19では、WAXSによる半値全幅Δqが実施例9よりも小さく、HCP構造の全体の幅方向長さが実施例9よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0119】
実施例20では、WAXSによる半値全幅Δqが実施例19よりも小さく、HCP構造の全体の幅方向長さが実施例19よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0120】
実施例21では、WAXSによる半値全幅Δqが実施例20よりも小さく、HCP構造の全体の幅方向長さが実施例20よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0121】
実施例22では、2層又は3層構造のCNT比率及び2層のCNT比率が実施例9よりも大きく、最内層の平均直径が実施例9よりも小さく、均直径0.7nm以上1.7nm以下のCNT比率が実施例9よりも大きく、WAXSによる半値全幅Δqが実施例9よりも小さく、WAXSによるピークトップのq値が実施例9よりも大きく、WAXSによる半値全幅Δqが実施例9よりも小さく、ラマンスペクトルにおけるG/D比が実施例9よりも大きく、HCP構造の全体の幅方向長さが実施例9よりも大きく、格段に低い抵抗率が得られた。
【0122】
実施例23では、CNT集合体の長さが実施例9よりも大きく、HCP構造の全体の幅方向長さが実施例9よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0123】
実施例24では、SAXSによる半値全幅Δθが実施例9よりも小さく、CNT集合体の長さが実施例9よりも大きく、より低い抵抗率が得られた。
【0124】
実施例25~27では、実施例22とほぼ同等の抵抗率であり、格段に低い抵抗率が得られた。
【0125】
このように、実施例1~8の条件をすべて満たし、異なる製法で作成された実施例9~27では、SAXS半値幅Δθが15°以下となった実施例17、18、22、25~27において抵抗率が大幅に低くなり、特に、カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が85%以上であり、カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、最内層の平均直径が1.7nm以下であるカーボンナノチューブの個数の和の比率が90%以上であり、ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が150以上であり、カーボンナノチューブ集合体の長さが10μm以上であり、カーボンナノチューブ線材が、前記複数のカーボンナノチューブによって形成されるHCP構造を有し、HCP構造の全体の幅方向長さが30nm以上である実施例22、25~27においては、抵抗率が大幅に低下した。
【0126】
一方、比較例1では、SAXSによる半値全幅Δθが本発明の範囲外であり、実施例1~8と比較して抵抗率が高くなることが分かった。
【0127】
比較例2では、平均直径0.7nm~1.7nmのCNT比率、XRDピークトップのq値、およびXRD半値全幅Δqが本発明の範囲外であり、CNTの直径のばらつきが大きいことからHCP構造を形成できず、X線散乱による強度の(10)ピークを確認できず、実施例1~8と比較して抵抗率が高くなることが分かった。
【0128】
また、比較例3では、2層又は2層構造のCNT比率、平均直径0.7nm~1.7nmのCNT比率、SAXS半値全幅Δθ、XRDピークトップのq値、およびXRD半値全幅Δqが本発明の範囲外であり、1層のCNTが多く含まれていることから平均直径が小さくなると共にHCP構造を形成できず、X線散乱による強度の(10)ピークを確認できず、実施例1~8と比較して抵抗率が非常に高くなることが分かった。
【符号の説明】
【0129】
1 CNT線材
11 CNT集合体
11a CNT
T1 筒状体
T2 筒状体