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特許7029120ペプチド、経皮吸収素材、化粧品及び薬剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ペプチド、経皮吸収素材、化粧品及び薬剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20220224BHJP
   C07K 7/64 20060101ALI20220224BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220224BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C07K14/78 ZNA
C07K7/64
A61K47/42
A61K8/64
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017067330
(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公開番号】P2018168104
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2019-11-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016年10月1日発行第53回ペプチド討論会予稿集(日本ペプチド学会)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016年10月26日~28日京都テルサにおいて開催された第53回ペプチド討論会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年3月3日発行日本化学会第97春季年会予稿集(公益社団法人日本化学会)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年3月16日~19日慶應義塾大学日吉キャンパスにて開催された日本化学会第97春季年会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512083492
【氏名又は名称】株式会社E&Cヘルスケア
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 衣織
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】巣山 慶太郎
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147830(JP,A)
【文献】特開2012-126713(JP,A)
【文献】Biopolymers, Vol. 77,198-204 (2005)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物からなるペプチド。
【請求項2】
Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上10回以下繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物を含有することを特徴とする経皮吸収素材。
【請求項3】
Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物を含有することを特徴とする化粧品。
【請求項4】
Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物を含有することを特徴とする薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドと、それを含有する経皮吸収素材、化粧品及び薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
動物組織を構成する蛋白質として、エラスチンが知られている。エラスチンは、細胞からトロポエラスチンという蛋白質として分泌された後、ミクロフィブリルの周囲や間隙に自己集合し、分子間が架橋されて不溶性の弾性繊維となる。これは、エラスチンが有する温度依存的で可逆的な自己集合能(コアセルベーション能)によるものであり、エラスチンのアミノ酸配列を基盤としたペプチド(以下、「エラスチンを基としたペプチド」とも言う)は、自己集合能を有している(特許文献1、2参照)。
特許文献2には、更に、エラスチンを基としたペプチドが自己集合によって他の物質を包含して人体に送り込まれる素材として、化粧品や薬剤での利用が有効である点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-126713号公報
【文献】特開2016-147830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、低分子のエラスチンを基としたペプチドは、自己集合能の発現のために高い濃度(例えば、30mg/ml)が必要であり、化粧品や薬剤等の有効成分を自己集合によって包含させる目的で利用するには多量のペプチドを要するという課題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、高い自己集合能を有するペプチド、それを含有する経皮吸収素材、化粧品及び薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係るペプチドは、Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物からなる。
【0006】
前記目的に沿う第2の発明に係る経皮吸収素材は、Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上10回以下繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物を含有する。
【0007】
前記目的に沿う第3の発明に係る化粧品は、Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物を含有する。
【0008】
前記目的に沿う第4の発明に係る薬剤は、Phe-Pro-Gly-Val-Glyの配列3回以上繰り返しのみで形成された直鎖状ペプチドのN末端とC末端が結合した第1の環状物を含有する。
【発明の効果】
【0009】
第1の環状物は低濃度(例えば、4.0mg/ml)で自己集合することが確認された。
従って、第1の発明に係るペプチドは低濃度で自己集合することができる。
また、第2の発明に係る経皮吸収素材、第3の発明に係る化粧品、及び、第4の発明に係る薬剤は、低濃度の第1の環状物によって、有効成分が包含される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係るペプチドを形成する第1の環状物の合成を示す説明図である。
図2】同ペプチドの第1の環状物を撮像した位相差顕微鏡写真である。
図3】(A)、(B)はそれぞれ、実施例1、2の自己集合の実験結果を示すグラフである。
図4】(A)、(B)はそれぞれ、実施例3及び比較例1、2の自己集合の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施例につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るぺプチドは、配列番号1の配列、即ち、Phe-Pro-Gly-Val-Gly(以下、「FPGVG」として表現することもある)の配列が3回以上繰り返され、N末端とC末端が結合した第1の環状物10、又は、第1の環状物10に対して40%以下のアミノ酸が欠失、置換、又は付加された第2の環状物(図示せず)からなる。
【0012】
なお、「Phe」、「Pro」、「Gly」及び「Val」はそれぞれ、フェニルアラニン、プロリン、グリシン及びバリンであり、アミノ酸の欠失とは、アミノ酸が存在しないことを意味する。
例えば、第2の環状物は、X1-Pro-X2-X3-X4の配列がN回(N≧3)繰り返され、N個のX1にそれぞれフェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、バリン、イソロイシン及びシクロヘキシルアラニンの一を配し、X2にグリシン又はアラニンを配し、X3にプロリン以外のアミノ酸の一を配し、X4にグリシン又はアラニンを配して、全体で第1の環状物10に対し0%を超え40%以下のアミノ酸が置換されたものである。
【0013】
本実施の形態において、第1の環状物10は、図1に示すように、直鎖状のペプチド(以下、「直鎖状ペプチド11」と言う)を合成する第1工程と、直鎖状ペプチド11から第1の環状物10を合成する第2工程とを経て生成される。
第1工程では、周知の固相合成法によって、FPGVGの配列が3回以上繰り返され、C末端がカルボキシ基(-COOH)で、N末端がアミノ基(-NH)である直鎖状ペプチド11が合成される。なお、図1においてnは3以上の整数である。
【0014】
次に、第2工程で、直鎖状ペプチド11のC末端とN末端を脱水縮合反応によって結合することで、第1の環状物10が生成される。
本実施の形態では、脱水縮合反応のために、縮合剤としてトリアジン系縮合剤であるDMT-MMを採用し、弱アルカリ化する塩基としてN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を採用し、溶媒としてアセトニトリル(CHCN)を採用しているが、これに限定されない。
第1の環状物10の生成に用いられる直鎖状ペプチドは、C末端とN末端が脱水縮合反応によって結合するものであればよく、C末端及びN末端がそれぞれカルボキシ基及びアミノ基である必要はない。例えば、C末端は活性エステルであってもよい。
【0015】
また、第1の環状物10は直鎖状ペプチド11から水分子が脱離したものであるため、第1の環状物10の分子量は、直鎖状ペプチド11の分子量から水分子の分子量に当たる18を差し引いた値となる。本実施の形態では、この点に着目し、超高速液体クロマトグラフィを用いた質量分析(UPLC-MS)によって、直鎖状ペプチド11及び第1の環状物10それぞれの分子量を計測し、直鎖状ペプチド11のC末端とN末端が脱水縮合反応により結合したことを確認している。
【0016】
FPGVGの配列の繰り返し回数が1~5回の直鎖状ペプチドそれぞれについて、直鎖状ペプチドは脱水縮合反応でC末端とN末端が結合し環状のペプチドとなることを確認している。以下、FPGVGの配列の繰り返し回数がk回の直鎖状ペプチドから生成された環状のペプチドを、「k回繰り返しの環状ペプチド」とも言う。
1~2回繰り返しの環状ペプチド(即ち、比較例に係る第1の環状物)は1.0mg/mlの濃度で自己集合せず、3~5回繰り返しの環状ペプチド(即ち、第1の環状物10)は1.0mg/mlの濃度で自己集合することが、実験的検証によって判明している。
【0017】
ここで、FPGVGの配列の繰り返し回数が5回の直鎖状ペプチドは、自己集合能を発現するために30mg/ml以上の濃度を要することが確認されており、第1の環状物10は、直鎖状ペプチドと比較して、低濃度で自己集合能を発現することが分かる。
エラスチンを基としたペプチドは、一般的に、アミノ酸配列の繰り返し数が多いほど自己集合能が高いことから、6回以上の繰り返しの環状ペプチド(第1の環状物10)についても、3~5回の繰り返しの第1の環状物10と同様に、1.0mg/mlの濃度で自己集合すると考えられる。
【0018】
エラスチンを基としたペプチドは、アミノ酸の欠失、置換、又は付加があっても、自己集合能を有する点については、既に公知となっている多数の文献(例えば、「Wookhyun Kim、Elliot L. Chaikof、 ”Recombinant elastin-mimetic biomaterials: Emerging applications in medicine”、 Advanced Drug Delivery Reviews 62 (2010) 1468-1478」、「Harald Nuhn and Harm-Anton Klok、 ”Secondary Structure Formation and LCST Behavior of Short Elastin-Like Peptides”、 Biomacromolecules 2008、9、2755-2763」)より明らかである。
よって、3回以上の繰り返しの第1の環状物10に対して40%以下(好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下)のアミノ酸が欠失、置換、又は付加された第2の環状物も、低濃度(1.0mg/ml程度)で自己集合能を発現すると推測される。
【0019】
そして、複数の第1の環状物10が自己集合することによって、図2に示すように、中空の球体(リポソーム様の構造)を形成することが位相差顕微鏡によって確認された。なお、図2で見られる複数の円形物それぞれが中空の球体である。
従って、第1の環状物10及び第2の環状物は、自己集合によって、例えば、化粧品や薬剤等の有効成分を中空部に包含することが可能であり、第1の環状物10又は第2の環状物は、本発明の他の実施の形態に係る化粧品及び薬剤に含有して用いられるのが有効であると考えられる。なお、自己集合能の高さと第1の環状物10を合成するのに要するコストのバランスを考慮すると、3回以上10回以下の繰り返しの第1の環状物10が好ましいと言える。
【0020】
また、5回繰り返しの第1の環状物10の自己集合によって形成された中空の球体は、直径約3μmであることが動的光散乱による粒状測定により計測されており、当該中空の球体の物理的大きさは皮膚への浸透に問題ないことが確認されている。しかも、本発明者らは、FPGVGの配列の繰り返し回数が2回以上10回以下の直鎖状ペプチドに物質の包含性及び放出性並びに皮膚浸透性がある点を確認している(特許文献2参照)。
よって、3回以上10回以下の繰り返しの第1の環状物10又はその第1の環状物10に対応する第2の環状物は、本発明の他の実施の形態に係る経皮吸収素材(即ち、有効成分を皮膚から体内に送る素材)に包含して用いられるのが有効であると推測される。
【実施例
【0021】
次に、第1の環状物の自己集合能を確認するために行った実験について説明する。
FPGVGの配列の繰り返し回数がそれぞれ5回、4回、3回の3つの第1の環状物(それぞれ実施例1、2、3)、並びに、FPGVGの配列の繰り返し回数がそれぞれ2回、1回の2つの第1の環状物(それぞれ比較例1、2)について温度変化による自己集合の様子を調べた。
【0022】
実施例1、2、3の実験結果をそれぞれ図3(A)、(B)、図4(A)に示し、比較例1、2の実験結果を図4(B)に示す。
図3(A)、(B)、図4(A)、(B)において、実線(太線、細線)及び破線(太線、細線)は温度上昇の際の様子及び温度降下の際の様子をそれぞれ示し、縦軸は波長400nmにおける混濁レベルを表わしており、縦軸の値が大きいほど多くの第1の環状物が自己集合していることを意味する。
実験結果より、実施例1、2、3はいずれも4.0mg/mlの濃度及び1.0mg/mlの濃度で自己集合しており、比較例1、2はいずれも1.0mg/mlの濃度で自己集合が確認されなかった。
【0023】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
【符号の説明】
【0024】
10:第1の環状物、11:直鎖状ペプチド
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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