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<図1>
  • 特許-末梢神経障害改善用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】末梢神経障害改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/07 20060101AFI20220224BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220224BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220224BHJP
【FI】
A61K36/07
A61P25/02 101
A23L33/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018558002
(86)(22)【出願日】2017-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2017045547
(87)【国際公開番号】W WO2018117103
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2016247143
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 升三
(72)【発明者】
【氏名】椿 正寛
(72)【発明者】
【氏名】武田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】奥野 清隆
(72)【発明者】
【氏名】和知 俊
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-159683(JP,A)
【文献】特開2000-159686(JP,A)
【文献】特開2003-155249(JP,A)
【文献】東口 高志 ほか,終末期がん患者に対するLentinus edodes mycelia-enriched diet(L・E・M)の投与効果に関する臨床的研究,生物試料分析,2013年,第36巻, 第2号,p.153-160,ISSN 0913-3763
【文献】川股 知之 ほか,癌性疼痛の発生機序,麻酔,2011年09月,第60巻, 第9号,p.1010-1017,ISSN 0021-4892
【文献】下山 直人, 下山 恵美,癌性疼痛,医学のあゆみ,2000年12月02日,第195巻, 第9号,p.683-685,ISSN 0039-2359
【文献】大石 了三, 江頭 伸昭,抗がん剤による末梢神経障害,福岡医学雑誌,2013年05月25日,第104巻, 第5号,p.171-180,ISSN 0016-254X
【文献】石谷 邦彦 ほか,レンチナンによるQuality of Lifeの向上,基礎と臨床,1990年05月,第24巻, 第6号,p.3289-3296,ISSN 0385-2806
【文献】GAULLIER JM, et al.,Supplementation with a soluble β-glucan exported from Shiitake medicinal mushroom, Lentinus edodes,International Journal of Medicinal Mushrooms,2011年,Vol.13, No.4,p.319-326,ISSN 1521-9437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
A23L 33/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シイタケ菌糸体の抽出物を含有することを特徴とする末梢神経障害改善用組成物であって、前記末梢神経障害が、抗がん剤の投与後に誘発される感覚神経障害である末梢神経障害改善用組成物。
【請求項2】
前記抗がん剤が、DNA複製阻害剤、微小管安定化剤、微小管重合阻害剤、及びプロテアソーム阻害剤から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の末梢神経障害改善用組成物。
【請求項3】
前記抗がん剤が、白金系抗がん剤であることを特徴とする、請求項1または2に記載の末梢神経障害改善用組成物。
【請求項4】
シイタケ菌糸体抽出物を含有することを特徴とする末梢神経障害改善用医薬組成物であって、前記末梢神経障害が、抗がん剤の投与後に誘発される感覚神経障害である末梢神経障害改善用医薬組成物。
【請求項5】
シイタケ菌糸体抽出物を含有し、末梢神経障害改善用加工食品であって、前記末梢神経障害が、抗がん剤の投与後に誘発される感覚神経障害である加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は末梢神経障害を軽減、緩和若しくは予防する改善用組成物に係るものであり、特に抗がん剤によって引き起こされる末梢神経障害改善用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍に対する化学療法に使用される薬剤には、さまざまな作用機序のものが開発されている。これらの薬剤は、所定の作用機序に基づき、腫瘍細胞の生存若しくは増殖を抑制する。しかし、これらは一般に、腫瘍細胞だけに作用するのではなく、通常細胞にも同様の効果を与える。したがって、化学治療に使用される薬剤を服用すると、腫瘍を抑制する効果と共に、脱毛、嘔吐、消化管障害、肝毒性、腎毒性、神経毒性といった副作用が生じる。したがって、これらの副作用を軽減する副作用軽減剤が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、シルニジピン又はその薬学的に許容される塩が、アントラサイクリン系抗癌剤(アドリアマイシン)の引き起こす臓器障害を軽減することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、シクロフォスファミド、5-フルオロウラシルが引き起こす骨髄毒性、シトシンアラビノサイドが引き起こす脱毛および消化管障害、シスプラチンが引き起こす腎障害に対して、シイタケを培養した培養液と菌糸体との混合物から抽出される成分が症状を緩和する点の開示がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-014549号公報
【文献】特開平11-158080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗がん剤などの薬剤に対する副作用は共通する症状も多いが、特異的に発生する症状もある。DNA複製阻害剤(白金系抗がん剤(オキサリプラチンなど)やアルキル化剤)、微小管安定化剤(パクリタキセルなど)、微小管重合阻害剤(ビンクリスチンなど)、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブなど)の投与に伴い、副作用としてアロディニア、知覚過敏又は知覚鈍麻等の末梢神経障害は、これらの薬剤に特有に生じる症状である。
【0007】
特に、末梢神経障害は、感覚神経障害という症状で発現することが多く、自発的な疼痛や激しい痛みを伴う異常感覚が生じる。このような症状が定常的に発生していると、抗がん剤の治療効果が持続していても投与中止を余儀なくされ、患者の日常生活の質が低下することが大きな問題となっている。そして、これらの抗がん剤などにより誘発される末梢神経障害に対して有効な治療法は確立されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、オキサリプラチンやパクリタキセルといった抗がん剤などの薬剤で誘発される末梢神経障害という副作用を改善する末梢神経障害改善用組成物を提供するものである。
【0009】
より具体的に本発明に係る抗がん剤などにより誘発される末梢神経障害改善用組成物
は、シイタケ菌糸体抽出物を含有することを特徴とし、前記末梢神経障害が、抗がん剤の
投与後に誘発される感覚神経障害である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、末梢神経障害改善用組成物を提供することができる。すなわち、シイタケ菌糸体抽出物を投与することで、がん化学療法などによって誘発される四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害(正座、あぐら、横座りまたは椅子座り等の困難または不能)、または四肢の麻痺等が改善される。
【0011】
これまで末梢神経障害に対処するため、抗がん剤の減量やがん化学療法の中断を余儀なくされていたが、本発明の組成物を用いれば適切ながん治療を継続することが可能となり、がん(癌)からの早期回復に繋がる。
【0012】
また、本発明により自宅で簡便に服用できる経口投与可能な末梢神経障害改善用組成物を提供することは、在宅でがん治療を受ける患者にとって大変有用である。さらに、がん化学療法による末梢神経障害が改善されることによって患者の生活の質も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をオキサリプラチンと共に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図2】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をオキサリプラチンと共に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
図3】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をパクリタキセルと共に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図4】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をパクリタキセルと共に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
図5】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をビンクリスチンと共に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図6】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をビンクリスチンと共に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
図7】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をボルテゾミブと共に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図8】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をボルテゾミブと共に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
図9】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をオキサリプラチン投与後に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図10】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をオキサリプラチン投与後に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
図11】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をパクリタキセル投与後に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図12】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をパクリタキセル投与後に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
図13】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をビンクリスチン投与後に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図14】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をビンクリスチン投与後に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
図15】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をボルテゾミブ投与後に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
図16】本発明に係る末梢神経障害改善用組成物をボルテゾミブ投与後に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明に係る末梢神経障害改善用組成物について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0015】
本発明に係る末梢神経障害改善用組成物において使用されるシイタケ菌糸体抽出物の原料となる「シイタケ菌糸体」(Lentinus edodes mycelium)は、特に限定はされないが、例えば食用にされる子実体の前段階の菌糸の状態のものを使用することができる。本発明においては、例えば、シイタケ菌(Lentinus edodes)を固体培地で培養して得られる抽出物(シイタケ菌糸体抽出物)を用いることができる。本発明に係る改善用組成物において、「改善」とは根治治療だけを意味するのではなく、服用している間、抗がん剤などによる副作用を軽減、緩和若しくは予防する作用も含む。
【0016】
本発明に係る末梢神経障害改善用組成物において用いられるシイタケ菌糸体抽出物は、当該技術分野において公知の方法により調製することができるが、菌糸体を粉砕後に抽出して得られる抽出物を用いることができる。さらに、例えば、菌糸体を含む固体培地を水の存在下に粉砕、分解して得られる抽出物を用いることもできる。抽出物の調製に用いられる溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、ブタノール、イソプロパノールなどが使用でき、好ましくは水を使用することができる。抽出は溶媒の加熱下(例えば、85~105℃程度)で行うこともできるが、より低温(例えば、25~50℃、好ましくは30~45℃)で超音波処理により行うこともできる。
【0017】
この「シイタケ菌糸体抽出物」は、限定されるものではないが、例えば以下の方法により得られたものを使用することができる。すなわち、バガス(サトウキビのしぼりかす)と脱脂米糠を基材とする固体培地上にシイタケ菌を接種する。次いで菌糸体を増殖させて得られる菌糸体を含む固体培地を、12メッシュ通過分が30重量%以下となるよう解束する。この解束された固体培地に水を添加し、30~55℃の温度に保ちながら前記固体培地を粉砕、すりつぶしてバガス繊維の少なくとも70重量%以上が12メッシュ通過分であるようにする。次いで12メッシュを通過したものの温度を、80℃にまで上昇させたのち、得られた懸濁状液をろ過することによってシイタケ菌糸体抽出液を得る。
【0018】
本発明においては、このようにして得られた抽出液をそのままシイタケ菌糸体抽出物として使用してもよい。しかし、これを濃縮・凍結乾燥して粉末として保存し、使用時に種々の形態で使用するのが便宜的である。凍結乾燥して得られる粉末は褐色粉末で、吸湿性があり、特異な味と臭いをもつ。
【0019】
このようにして得られるシイタケ菌糸体抽出物は、フェノール-硫酸法による糖質分析により糖質を15~50%、好ましくは20~40%(w/w)含む。また、Lowry法によるタンパク質分析によりタンパク質を10~40%、好ましくは13~30%(w/w)含む。また、没食子酸を標準とするFolin-Denis法によりポリフェノール類を1~5%、好ましくは2.5~3.5%(w/w)含む。シイタケ菌糸体抽出物には、そのほかに脂質約0.1%、繊維約0.4%、灰分約20%などを含む。
【0020】
また、上述のようにして得られるシイタケ菌糸体抽出物の構成糖組成(質量%)の一例は、以下の通りであった。ただし、この組成は培養条件などによって変動しうる:キシロース:15.2;アラビノース:8.2;マンノース:8.4;グルコース:39.4;ガラクトース:5.4;アミノ糖(グルコサミン):12.0;ウロン酸:11.3。
【0021】
本発明に係る末梢神経障害改善用組成物は、上述のシイタケ菌糸体抽出物を含む。末梢神経障害改善用組成物中のシイタケ菌糸体抽出物の含有比率は特に限定されない。投与対象者(動物を含む)と、症状(原因)によって適宜変更することができる。ただし、末梢神経障害改善組成物中にシイタケ菌糸体抽出物は、少なくとも10質量%以上、好ましくは20質量%以上、最も好ましくは30質量%以上含めば望ましい。末梢神経障害改善組成物中にシイタケ菌糸体抽出物は100質量%であってもよい。
【0022】
末梢神経障害改善用組成物は、末梢神経障害用治療薬(医薬組成物)として提供することが可能である。医薬組成物として本発明に係る組成物は、経口投与することで効果を発揮することができる。したがって、内用剤として提供することができる。例えば、粉末状の末梢神経障害改善用組成物を、カプセル剤、顆粒剤、散剤、錠剤等に製剤化して提供されうる。経口剤とする際には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤といった添加剤を加え、カプセル剤、顆粒剤、散剤、錠剤を常法によって製造することができる。
【0023】
さらに、本発明に係る医薬組成物は、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル化剤、貼付剤、エアゾール剤といった外用剤に製剤化し、非経口投与してもよい。外用剤とする際には、水、低級アルコール、溶解補助剤、界面活性剤、乳化安定剤、ゲル化剤、粘着剤、その他必要とされる基剤成分を配合することができる。また、血管膨張剤、副腎皮質ホルモン、角質溶解剤、保湿剤、殺菌剤、抗酸化剤、清涼化剤、香料、色素といった添加剤を適宜配合してもよい。
【0024】
なお、本発明に係る医薬組成物において、シイタケ菌糸体抽出物を含有するとは、少なくとも10質量%以上、好ましくは20質量%以上、最も好ましくは30質量%以上含むのが望ましい。また、医薬組成物中にシイタケ菌糸体抽出物は100質量%であってもよい。
【0025】
また、本発明に係る末梢神経障害改善用組成物は加工食品として提供することも可能である。つまり、本発明に係る末梢神経障害改善用組成物は加工食品として摂取しても、本発明に係る改善用組成物と同等の効果を奏する。
【0026】
加工食品としては、例えば、飴、ガム、ゼリー、ビスケット、クッキー、煎餅、パン、麺、魚肉・畜肉練製品、茶、清涼飲料、コーヒー飲料、乳飲料、乳清飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン等といった嗜好食品や健康食品を含む一般加工食品だけでなく、厚生労働省の保健機能食品制度に規定された特定保健用食品や栄養機能食品などの保健機能食品を含み、さらに、栄養補助食品(サプリメント)、飼料、食品添加物等も加工食品に含まれる。
【0027】
これらの加工食品の原料中に、末梢神経障害改善用組成物(シイタケ菌糸体抽出物)を添加することで、本発明に係る加工食品を調製することができる。なお、本発明に係る加工食品中において、シイタケ菌糸体抽出物を含有するとは、少なくとも10質量%以上、好ましくは20質量%以上、最も好ましくは30質量%以上含むのが望ましい。
【0028】
本発明における組成物の摂取量は、症状、年齢、体重、発症後の経過時間、併用される治療的措置などにより、適宜選択することができる。本発明の実施例において、抗がん剤6mg/マウスkg体重を投与した際の末梢神経障害を改善するために有効なマウスの1日あたりのシイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末摂取量は、0.02g(すなわち、マウスの平均体重が20gであることから、1.0g/マウスkg体重)である。
【0029】
当該技術分野においては、ある成分がマウスにおいて有効とされる場合、その有効とされる成分のkg体重あたりの量が、体重60kgのヒト成人男性の摂取する有効投与量/日に相当することが知られている。また、ヒトでの抗がん剤の投与量は、一般的に本実施例の抗がん剤の投与量のマウスの体重kgあたりの3分の1から等倍量である。
【0030】
したがってヒト成人男性の1日に摂取するシイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末の有効量としては0.3g以上が好ましく、0.3g~30.0g/日/成人がより好ましく、最も好ましくは0.6g~24.0g/日/成人である。なお、ここで「~」は「以上、以下」の範囲を示す。
【0031】
なお、本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、末梢神経障害改善組成物として、投与対象者に投与することで、末梢神経障害を改善する方法であると言ってもよい。この場合、末梢神経障害改善組成物は、シイタケ菌糸体抽出物自体であってもよい。つまり、末梢神経障害改善組成物はシイタケ菌糸体抽出物100%であってもよい。
【実施例
【0032】
<シイタケ菌糸体の培養>
シイタケ菌糸体の培養を行う培地は、バガス80重量部、脱脂米糠10重量部からなる固体培地に適度な純水を加えたものを用いた。この培地にシイタケ菌糸体を接種し、温度および湿度を管理した培養室内に放置し、菌糸体を増殖させた。
【0033】
<シイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末の製造>
シイタケ菌糸体が蔓延した培地に8等量の純水を加えて粉砕し、80℃・2時間ジャケット・プレヒーター加熱を行い、液循環抽出をした後、ろ過した。ろ過抽出物をBrix値が27%±2%となるように濃縮した。瞬間加熱滅菌機を用いて135℃15秒で滅菌し、滅菌抽出物に滅菌水を加えてBrix値が25%±2%となるように調整した後、凍結乾燥を行った。この凍結乾燥粉末を粉砕後、42メッシュ通過させ、シイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末を得た。
【0034】
(実施例1)<オキサリプラチンによるマウス末梢神経障害に対する作用>
抗がん剤のオキサリプラチンを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア(通常痛みを引き起こさない触覚刺激で惹起される激痛)等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対するシイタケ菌糸体抽出物の効果を調べた。オキサリプラチンは、プラチナ製剤(白金系抗がん剤)であり、DNAの複製を妨げる。シイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、以下の試験(Cold plate test及びvon Frey
test)を行った。
【0035】
(1)被験物の投与
6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、オキサリプラチン投与群、オキサリプラチン及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)の3群に群構成した。オキサリプラチンの投与は個々のマウスに対して、1日1回で6mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は個々のマウスに対して1日1回で2g/kgの量を投与した。
【0036】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、オキサリプラチンは週1回(0日目、7日目、14日目)であり、シイタケ菌糸体抽出物は毎日(0日目から15日目まで)とした。
【0037】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
ケージに、上記(1)の3群のマウスを入れ、強度0.16gのフィラメントを後肢裏に押し付けて回避反応の回数(スコア)を測定した。結果を図1に示す。
【0038】
図1を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。回避回数が多ければ、フィラメントによる刺激をより忌避していると考えられる。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はオキサリプラチンだけを投与した群である。白四角鎖線は、オキサリプラチンにシイタケ菌糸体抽出物を投与した群である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0039】
オキサリプラチン投与群(黒丸実線)では、投薬後3日で、コントロール群(白丸実線)に比べて著しく回避反応スコアが上昇した。オキサリプラチンの投与により末梢神経障害が発症したと考えられる。一方、シイタケ菌糸体抽出物を併用して投与した群(オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群:白四角鎖線)では、コントロール群と同程度の回避反応スコアを示した。オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群では、オキサリプラチンで投与群(黒丸実線)と比較して回避反応スコアの上昇が抑制された。
【0040】
なお、オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(16日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は維持し続けることが認められた。
【0041】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
コールドプレート試験を行い、低温刺激における知覚異常に対するシイタケ菌糸体抽出物の効果を試験した。上記(1)の3群のマウスを10℃に設定したコールドプレート上にのせ、回避までの反応時間(潜時)を測定した。潜時が短いほどコールドプレートによる低温刺激を、より忌避していると考えられる。結果を図2に示す。
【0042】
図2を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はオキサリプラチンだけを投与した群である。白四角鎖線は、オキサリプラチンにシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0043】
試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、オキサリプラチン投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。オキサリプラチンの投与により末梢神経障害が発症したと考えられる。一方、オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)では、コントロール群(白丸実線)とほぼ同程度の潜時を示し、オキサリプラチン投与群(黒丸実線)と比較して潜時の短縮が抑制された。
【0044】
以上のように、シイタケ菌糸体抽出物は、オキサリプラチンで誘発される末梢神経過敏症状を改善するものと結論できる。
【0045】
(実施例2)<パクリタキセルによるマウス末梢神経障害に対する作用>
抗がん剤のパクリタキセルを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明シイタケ菌糸体抽出物の効果を調べた。パクリタキセルは、タキサン系の抗がん剤で、微小管を安定させることで、細胞分裂の際の微小管重合を阻害する。本発明のシイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、実施例1と同様に試験(Cold plate test及びvon Frey test)を行った。
【0046】
(1)被験物の投与
実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、パクリタキセル投与群、パクリタキセル及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群)の3群に群構成した。パクリタキセルの投与は個々のマウスに対して、1日1回で6mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。
【0047】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、パクリタキセルは週1回(0日目、7日目、14日目)であり、シイタケ菌糸体抽出物は毎日(0日目から15日目まで)とした。
【0048】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
評価はオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図3に示す。図3を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。白丸実線はコントロール群であり、黒丸実線はパクリタキセルだけを投与した群であり、白四角鎖線は、パクリタキセルにシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0049】
パクリタキセル投与群(黒丸実線)では投与3日後に、コントロール群(白丸実線)に比べて著しく回避反応スコアが上昇した。パクリタキセルの投与によって末梢神経障害が発症したと考えられる。一方、パクリタキセルにシイタケ菌糸体抽出物も併用して投与した群(パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群:白四角鎖線)では、コントロール群と同程度の回避反応スコアを示した。パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群では、パクリタキセル投与群(黒丸実線)と比較して回避反応スコアの上昇が抑制された。
【0050】
なお、パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(16日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は維持し続けることが認められた。
【0051】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
本試験では被験物の違いによってマウスを4つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、パクリタキセル投与群、パクリタキセル及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準の計4群に群構成した。パクリタキセルの投与は個々のマウスに対して、1日1回で6mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は個々のマウスに対して1日1回1g/kgの量を投与した群(以後「1g/kg投与群」と呼ぶ。)と、1日1回で2g/kgの量を投与した群(以後「2g/kg投与群」と呼ぶ。)を用意した。
【0052】
評価はオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図4に示す。図4を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はパクリタキセルだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、パクリタキセルとシイタケ菌糸体抽出物を同時に投与した群(パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群)である。白四角鎖線は1g/kg投与群であり、黒四角鎖線は2g/kg投与群である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0053】
図4を参照して、試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、パクリタキセル投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。パクリタキセルの投与によって末梢神経障害が発症したと考えられる。一方、パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物併用投与群の2g/kg投与群(黒四角鎖線)では、コントロール群(白丸実線)とほぼ同程度の潜時を示した。2g/kg投与は、群パクリタキセル投与群(黒丸実線)と比較して潜時の短縮が抑制された。
【0054】
また、パクリタキセルとシイタケ菌糸体抽出物を併用して投与した群のうち1g/kg投与群(白四角鎖線)は、パクリタキセルだけを投与した群(黒丸実線)と比較して、潜時の短縮は抑制されていた。
【0055】
(実施例3)<ビンクリスチンによるマウス末梢神経障害に対する作用>
抗がん剤のビンクリスチンを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明シイタケ菌糸体抽出物の効果を調べた。ビンクリスチンは、微小管の重合反応を阻害することで、細胞の有糸分裂を阻害する。本発明のシイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、実施例1と同様に試験(Cold plate test及びvon Frey test)を行った。
【0056】
(1)被験物の投与
本試験では被験物の違いによってマウスを、3つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ビンクリスチン投与群、ビンクリスチン及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)の計3群に群構成した。
【0057】
ビンクリスチンの投与は個々のマウスに対して、1日1回で0.2mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は個々のマウスに対しては、1日1回で2g/kgの量を投与した。
【0058】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、ビンクリスチンは週1回(0日目、7日目、14日目)であり、シイタケ菌糸体抽出物は毎日(0日目から15日目まで)とした。
【0059】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
評価は実施例1のオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図5に示す。図5を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はビンクリスチンだけを投与した群である。白四角鎖線は、ビンクリスチンとシイタケ菌糸体抽出物を同時に投与した群(ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0060】
ビンクリスチン投与群(黒丸実線)は、投与後3日で、コントロール群(白丸実線)に比べて著しく回避反応スコアが上昇した。ビンクリスチン投与により末梢神経障害が発症したと考えられる。一方、ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)は、コントロール群と同程度の回避反応スコアを示した。ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群では、ビンクリスチン投与群(黒丸実線)と比較して回避反応スコアの上昇が抑制された。
【0061】
なお、ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(15日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は維持し続けることが認められた。
【0062】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
本試験では被験物の違いによってマウスを3つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ビンクリスチン投与群、ビンクリスチン及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)の計3群に群構成した。
【0063】
ビンクリスチンの投与は、個々のマウスに対して、1日1回で0.2mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は個々のマウスに対して、1日1回で2g/kgの量を投与した。
【0064】
評価は実施例1のオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図6に示す。図6を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はビンクリスチンだけを投与した群である。白四角鎖線は、ビンクリスチンとシイタケ菌糸体抽出物を同時に投与した群(ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0065】
図6を参照して、試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、ビンクリスチン投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。ビンクリスチン投与により末梢神経障害が発症したと考えられる。しかし、ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)では、コントロール群(白丸実線)とほぼ同程度の潜時を示した。ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群は、ビンクリスチン投与群(黒丸実線)と比較して潜時の短縮が抑制された。
【0066】
(実施例4)<ボルテゾミブによるマウス末梢神経障害に対する作用>
抗がん剤のボルテゾミブを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明シイタケ菌糸体抽出物の効果を調べた。ボルテゾミブは、プロテアソームを阻害することで、アポトーシス促進因子の分解を阻止することで、アポトーシスを誘導するとされている。本発明のシイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、実施例1と同様に試験(Cold plate test及びvon Frey test)を行った。
【0067】
(1)被験物の投与
本試験では被験物の違いによってマウスを3つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ボルテゾミブ投与群、ボルテゾミブ及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群)の計3群に群構成した。
【0068】
ボルテゾミブの投与は個々のマウスに対して、1日1回で1mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は個々のマウスに対しては、1日1回で2g/kgの量を投与した。
【0069】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、ボルテゾミブは週1回(0日目、7日目、14日目)であり、シイタケ菌糸体抽出物は毎日(0日目から15日目まで)とした。
【0070】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
評価は実施例1のオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図7に示す。図7を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はボルテゾミブだけを投与した群である。白四角鎖線は、ボルテゾミブとシイタケ菌糸体抽出物を同時に投与した群(ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0071】
ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)では投与後3日で、コントロール群(白丸実線)に比べて著しく回避反応スコアが上昇した。ボルテゾミブの投与により末梢神経障害が発症したと考えられる。ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)は、コントロール群と同程度の回避反応スコアを示した。ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群では、ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)と比較して回避反応スコアの上昇が抑制された。
【0072】
なお、ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(16日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は、維持し続けることが認められた。
【0073】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
本試験では被験物の違いによってマウスを3つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ボルテゾミブ投与群、ボルテゾミブ及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群)の3群に群構成した。
【0074】
ボルテゾミブの投与は個々のマウスに対して、1日1回で1mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は個々のマウスに対しては、1日1回で2g/kgの量を投与した。
【0075】
評価は実施例1のオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図8に示す。図8を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はボルテゾミブだけを投与した群である。白四角鎖線は、ボルテゾミブとシイタケ菌糸体抽出物を同時に投与した群(ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0076】
図8を参照して、試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。ボルテゾミブ投与により末梢神経障害が発症したと考えられる。しかし、ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群(白四角鎖線)は、コントロール群(白丸実線)とほぼ同程度の潜時を示した。ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群は、ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)と比較して潜時の短縮が抑制された。
【0077】
実施例1乃至4では、4つの代表的な抗がん剤から生じる末梢神経障害に対して本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物を併用した場合に、末梢神経障害の発症を抑制できる効果について示した。したがって、本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物を含む末梢神経障害改善用組成物は、末梢神経障害予防用組成物(末梢神経障害予防用医薬組成物)と言える。しかし、実際のガン治療の現場では、副作用(末梢神経障害)が発症してから症状を緩和させる末梢神経障害治療用組成物も非常に大きな要求がある。
【0078】
本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、抗がん剤と併用することで末梢神経障害の発症を抑制(予防)することができる。しかし、本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、一度発生した末梢神経障害を緩和する末梢神経障害治療用組成物(末梢神経障害治療用医療組成物)ともなる。以下に実施例を示す。
【0079】
(実施例5)<オキサリプラチンによるマウス末梢神経障害に対する治療作用>
抗がん剤のオキサリプラチンを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明シイタケ菌糸体抽出物の治療効果を調べた。抗がん剤オキサリプラチンを投与し、末梢神経障害を発生させた後に、本発明のシイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、実施例1と同様の試験(Cold plate test及びvon Frey test)を行った。
【0080】
(1)被験物の投与
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、オキサリプラチン投与群、オキサリプラチン及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、オキサリプラチン及びデュロキセチン投与群(オキサリプラチン+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0081】
オキサリプラチンの投与は個々のマウスに対して、1日1回で6mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、オキサリプラチンを投与した3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体6日後投与群」と呼ぶ。
【0082】
また、オキサリプラチン投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。デュロキセチンは、抗うつ薬であるが、糖尿病性神経障害に伴う疼痛や、線維筋痛症に伴う疼痛へ適用されている。デュロキセチンは、抗がん剤による末梢神経障害についても、非オピオイド系、およびオピオイド系の鎮痛薬と共に使用されることがある。
【0083】
デュロキセチンも、オキサリプラチンの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0084】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、オキサリプラチンは週1回(0日目、7日目、14日目、21日)であり、シイタケ菌糸体抽出物およびデュロキセチンは投与開始日から毎日(3日目または6日目から23日目まで)とした。
【0085】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
評価は実施例1のオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図9に示す。図9を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はオキサリプラチンだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、オキサリプラチンの投与後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0086】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、オキサリプラチンの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0087】
オキサリプラチン投与群(黒丸実線)ではコントロール群(白丸実線)に比べて著しく回避反応スコアが上昇した。図1でも示したように、オキサリプラチン投与によって、末梢神経障害が発症したと考えられる。シイタケ菌糸体抽3日後投与群(白四角鎖線)は、投与からオキサリプラチン投与群(黒丸実線)より回避スコアが低くかった。シイタケ菌糸体抽3日後投与群は、6日目以降コントロール群(白丸実線)ほどではないにしろ、明らかにオキサリプラチン投与群(黒丸実線)より低い値を維持できた。
【0088】
また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、9日目以降は、明らかにオキサリプラチン投与群(黒丸実線)より低いスコアを維持した。つまり、末梢神経障害が発症してから投与しても、症状の抑制に効果がある。
【0089】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もオキサリプラチン投与群(黒丸実線)より回避スコアが下がることはなかった。デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、オキサリプラチン投与群(黒丸実線)とほぼ同じであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0090】
なお、シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)およびシイタケ菌糸体抽出物6日後投与群においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(23日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は、維持し続けることが認められた。
【0091】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、オキサリプラチン投与群、オキサリプラチン及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(オキサリプラチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、オキサリプラチン及びデュロキセチン投与群(オキサリプラチン+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0092】
オキサリプラチンの投与は個々のマウスに対して、1日1回で6mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、オキサリプラチンを投与した後、3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」と呼ぶ。
【0093】
また、オキサリプラチン投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。デュロキセチンも、オキサリプラチンの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0094】
評価は実施例1のオキサリプラチンの試験と同様に行った。結果を図10に示す。図10を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はオキサリプラチンだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、オキサリプラチンを投与した後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(それぞれ「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0095】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、オキサリプラチンの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0096】
図10を参照して、試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、オキサリプラチン投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。フォン・フライ試験同様に、オキサリプラチンによって末梢神経障害が発症したと考えられる。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、投与からオキサリプラチン投与群(黒丸実線)より潜時が明らかに長くなった。イタケ菌糸体抽出物3日後投与群は、9日後には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、投与後から潜時が長くなり、12日目には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。
【0097】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もオキサリプラチン投与群(黒丸実線)より潜時が長くなることはなかった。デュロキセチン3日後投与群は、オキサリプラチン投与群(黒丸実線)とほぼ同じであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害(冷感に対する過敏)の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0098】
このように、本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、抗がん剤(オキサリプラチン)と併用することで、末梢神経障害を抑制するだけでなく、末梢神経障害が発症してから症状を緩和する末梢神経障害治療用組成物(末梢神経障害治療用医薬組成物)としても使用することができる。
【0099】
(実施例6)<パクリタキセルによるマウス末梢神経障害に対する治療作用>
抗がん剤のパクリタキセルを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明シイタケ菌糸体抽出物の治療効果を調べた。抗がん剤パクリタキセルを投与し、末梢神経障害を発生させた後に、本発明のシイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、実施例1と同様の試験(Cold plate test及びvon Frey test)を行った。
【0100】
(1)被験物の投与
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、パクリタキセル投与群、パクリタキセル及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、パクリタキセル及びデュロキセチン投与群(パクリタキセル+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0101】
パクリタキセルの投与は個々のマウスに対して、1日1回で6mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、パクリタキセルを投与した3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体6日後投与群」と呼ぶ。また、パクリタキセル投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。
【0102】
デュロキセチンも、パクリタキセルの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0103】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、パクリタキセルは週1回(0日目、7日目、14日目、21日目)であり、シイタケ菌糸体抽出物およびデュロキセチンは投与開始日から毎日(3日目または6日目から23日目まで)とした。
【0104】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
評価は実施例1のパクリタキセルの試験と同様に行った。結果を図11に示す。図11を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はパクリタキセルだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、パクリタキセルの投与後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0105】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、パクリタキセルの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0106】
パクリタキセル投与群(黒丸実線)ではコントロール群(白丸実線)に比べて、投与3日後から著しく回避反応スコアが上昇した。パクリタキセル投与によって、末梢神経障害が発生したと考えられる。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、投与後からパクリタキセル投与群(黒丸実線)より回避スコアが低くかった。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群は、12日目には、コントロール(白丸実線)程度まで回復した。また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、12日目以降は、明らかにパクリタキセル投与群(黒丸実線)より低いスコアを維持した。つまり、末梢神経障害が発症してから投与しても、症状の抑制に効果がある。
【0107】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もパクリタキセル投与群(黒丸実線)より回避スコアが下がることはなかった。デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、パクリタキセル投与群(黒丸実線)とほぼ同じ回避スコアであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0108】
なお、シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)およびシイタケ菌糸体抽出物6日後投与群においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(23日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は、維持し続けることが認められた。
【0109】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、パクリタキセル投与群、パクリタキセル及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(パクリタキセル+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、パクリタキセル及びデュロキセチン投与群(パクリタキセル+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0110】
パクリタキセルの投与は個々のマウスに対して、1日1回で6mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、パクリタキセルを投与した後、3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体6日後投与群」と呼ぶ。
【0111】
また、パクリタキセル投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。デュロキセチンも、パクリタキセルの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0112】
評価は実施例1のパクリタキセルの試験と同様に行った。結果を図12に示す。図12を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はパクリタキセルだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、パクリタキセルを投与した後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(それぞれ「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0113】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、パクリタキセルの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0114】
図12を参照して、試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、パクリタキセル投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。フォン・フライ試験同様に、パクリタキセルによって末梢神経障害が発症したと考えられる。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、投与からパクリタキセル投与群(黒丸実線)より潜時が明らかに長くなった。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、15日後には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、投与後から潜時が長くなった。シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)は、18日目には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。
【0115】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もパクリタキセル投与群(黒丸実線)より潜時が長くなることはなかった。デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、パクリタキセル投与群(黒丸実線)とほぼ同じであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害(冷感に対する過敏)の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0116】
このように、本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、抗がん剤(パクリタキセル)と併用することで、末梢神経障害を抑制するだけでなく、末梢神経障害が発症してから症状を緩和する末梢神経障害治療用組成物(末梢神経障害治療用医薬組成物)としても使用することができる。
【0117】
(実施例7)<ビンクリスチンによるマウス末梢神経障害に対する治療作用>
抗がん剤のビンクリスチンを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明シイタケ菌糸体抽出物の治療効果を調べた。抗がん剤ビンクリスチンを投与し、末梢神経障害を発生させた後に、本発明のシイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、実施例1と同様の試験(Cold plate test及びvon Frey test)を行った。
【0118】
(1)被験物の投与
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ビンクリスチン投与群、ビンクリスチン及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、ビンクリスチン及びデュロキセチン投与群(ビンクリスチン+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0119】
ビンクリスチンの投与は個々のマウスに対して、1日1回で0.2mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、ビンクリスチンを投与した3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体6日後投与群」と呼ぶ。また、ビンクリスチン投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。
【0120】
デュロキセチンも、ビンクリスチンの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0121】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、ビンクリスチンは週1回(0日目、7日目、14日目、21日目)であり、シイタケ菌糸体抽出物およびデュロキセチンは投与開始日から毎日(3日目または6日目から23日目まで)とした。
【0122】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
評価は実施例1のビンクリスチンの試験と同様に行った。結果を図13に示す。図13を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はビンクリスチンだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、ビンクリスチンの投与後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0123】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、ビンクリスチンの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0124】
ビンクリスチン投与群(黒丸実線)では3日目に、コントロール群(白丸実線)に比べて著しく回避反応スコアが上昇した。ビンクリスチン投与によって、末梢神経障害が発生したと考えられる。シイタケ菌糸体抽3日後投与群(白四角鎖線)は、投与からビンクリスチン投与群(黒丸実線)より回避スコアが低くかった。シイタケ菌糸体抽3日後投与群(白四角鎖線)は、12日目には、コントロール(白丸実線)程度まで回復した。また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、12日目以降は、明らかにビンクリスチン投与群(黒丸実線)より低いスコアを維持した。つまり、末梢神経障害が発症してから投与しても、症状の抑制に効果がある。
【0125】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もビンクリスチン投与群(黒丸実線)より回避スコアが下がることはなかった。デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、ビンクリスチン投与群(黒丸実線)とほぼ同じであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0126】
なお、シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)およびシイタケ菌糸体抽出物6日後投与群においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(23日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は、維持し続けることが認められた。
【0127】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ビンクリスチン投与群、ビンクリスチン及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ビンクリスチン+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、ビンクリスチン及びデュロキセチン投与群(ビンクリスチン+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0128】
ビンクリスチンの投与は個々のマウスに対して、1日1回で0.2mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、ビンクリスチンを投与した後、3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体6日後投与群」と呼ぶ。
【0129】
また、ビンクリスチン投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。デュロキセチンも、ビンクリスチンの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0130】
評価は実施例1のビンクリスチンの試験と同様に行った。結果を図14に示す。図14を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はビンクリスチンだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、ビンクリスチンを投与した後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(それぞれ「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0131】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、ビンクリスチンの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0132】
図14を参照して、試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、ビンクリスチン投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。フォン・フライ試験同様に、ビンクリスチンによって末梢神経障害が発症したと考えられる。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、投与からビンクリスチン投与群(黒丸実線)より潜時が明らかに長くなった。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、9日後には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、投与後から潜時が長くなり、18日目には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。
【0133】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もビンクリスチン投与群(黒丸実線)より潜時が長くなることはなかった。デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、ビンクリスチン投与群(黒丸実線)とほぼ同じであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害(冷感に対する過敏)の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0134】
このように、本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、抗がん剤(ビンクリスチン)と併用することで、末梢神経障害を抑制するだけでなく、末梢神経障害が発症してから症状を緩和する末梢神経障害治療用組成物(末梢神経障害治療用医薬組成物)としても使用することができる。
【0135】
(実施例8)<ボルテゾミブによるマウス末梢神経障害に対する治療作用>
抗がん剤のボルテゾミブを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明シイタケ菌糸体抽出物の治療効果を調べた。抗がん剤ボルテゾミブを投与し、末梢神経障害を発生させた後に、本発明のシイタケ菌糸体抽出物をマウスに経口投与し、実施例1と同様の試験(Cold plate test及びvon Frey test)を行った。
【0136】
(1)被験物の投与
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ボルテゾミブ投与群、ボルテゾミブ及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、ボルテゾミブ及びデュロキセチン投与群(ボルテゾミブ+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0137】
ボルテゾミブの投与は個々のマウスに対して、1日1回で1mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、ボルテゾミブを投与した3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体6日後投与群」と呼ぶ。また、ボルテゾミブ投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。
【0138】
デュロキセチンも、ボルテゾミブの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0139】
また、投与の回数は以下のフォン・フライ試験およびコールドプレート試験ともに、ボルテゾミブは週1回(0日目、7日目、14日目、21日目)であり、シイタケ菌糸体抽出物およびデュロキセチンは投与開始日から毎日(3日目または6日目から23日目まで)とした。
【0140】
(2)フォン・フライ試験(von Frey test)
評価は実施例1のボルテゾミブの試験と同様に行った。結果を図15に示す。図15を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はボルテゾミブだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、ボルテゾミブの投与後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0141】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、ボルテゾミブの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロール群との差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0142】
ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)では投与3日後に、コントロール群(白丸実線)に比べて著しく回避反応スコアが上昇した。ボルテゾミブ投与によって、末梢神経障害が発生したと考えられる。シイタケ菌糸体抽3日後投与群(白四角鎖線)は、投与からボルテゾミブ投与群(黒丸実線)より回避スコアが低くかった。シイタケ菌糸体抽3日後投与群(白四角鎖線)は、12日目には、コントロール(白丸実線)程度まで回復した。また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、12日目以降は、明らかにボルテゾミブ投与群(黒丸実線)より低いスコアを維持した。つまり、末梢神経障害が発症してから投与しても、症状の抑制に効果がある。
【0143】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もボルテゾミブ投与群(黒丸実線)より回避スコアが下がることはなかった。デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)とほぼ同じであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0144】
なお、シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)およびシイタケ菌糸体抽出物6日後投与群においては、シイタケ菌糸体抽出物の投与を終了した後(23日目以降)も、疼痛閾値低下の抑制は、維持し続けることが認められた。
【0145】
(3)コールドプレート試験(Cold plate test)
本試験では被験物の違いによってマウスを6つの群に構成した。実施例1同様に、6~7週齢のBalb/c雄性マウスを用いた。マウスは、コントロール群、ボルテゾミブ投与群、ボルテゾミブ及びシイタケ菌糸体抽出物投与群(ボルテゾミブ+シイタケ菌糸体抽出物投与群)は2水準、ボルテゾミブ及びデュロキセチン投与群(ボルテゾミブ+デュロキセチン投与群)も2水準の計6群に群構成した。
【0146】
ボルテゾミブの投与は個々のマウスに対して、1日1回で1mg/kgの量を投与した。またシイタケ菌糸体抽出物は、ボルテゾミブを投与した後、3日後、6日後に個々のマウスに対して1日1回2g/kgの量を投与した。それぞれ「シイタケ菌糸体3日後投与群」、及び「シイタケ菌糸体6日後投与群」と呼ぶ。
【0147】
また、ボルテゾミブ投与後に、デュロキセチンを投与する群を比較のために用意した。デュロキセチンも、ボルテゾミブの投与の3日後と、6日後から1日1回で30mg/kgの量を投与した。それぞれ「デュロキセチン3日後投与群」、及び「デュロキセチン6日後投与群」と呼ぶ。
【0148】
評価は実施例1のボルテゾミブの試験と同様に行った。結果を図14に示す。図14を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。白丸実線はコントロール群である。黒丸実線はボルテゾミブだけを投与した群である。白四角鎖線および黒四角鎖線は、ボルテゾミブを投与した後にシイタケ菌糸体抽出物を投与した群(それぞれ「シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群」および「シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群」)である。
【0149】
また、白三角鎖線および黒三角鎖線は、ボルテゾミブの投与後にデュロキセチンを投与した群(「デュロキセチン3日後投与群」および「デュロキセチン6日後投与群」)である。有意水準5%の検定でコントロールとの差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0150】
図14を参照して、試験の3日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)では著しく潜時が短縮された。フォン・フライ試験同様に、ボルテゾミブによって末梢神経障害が発症したと考えられる。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、投与からボルテゾミブ投与群(黒丸実線)より潜時が明らかに長くなった。シイタケ菌糸体抽出物3日後投与群(白四角鎖線)は、12日後には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。また、シイタケ菌糸体抽出物6日後投与群(黒四角鎖線)も、投与後から潜時が長くなり、12日目には、コントロール(白丸実線)と同程度まで回復した。
【0151】
一方、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、投与後もボルテゾミブ投与群(黒丸実線)より潜時が長くなることはなかった。デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)は、ボルテゾミブ投与群(黒丸実線)とほぼ同じであった。また、デュロキセチン6日後投与群(黒三角鎖線)も、デュロキセチン3日後投与群(白三角鎖線)と同じ傾向を示した。つまり、デュロキセチンは、末梢神経障害(冷感に対する過敏)の抑制に大きな寄与はしていないと考えられる。
【0152】
このように、本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、抗がん剤(ボルテゾミブ)と併用することで、末梢神経障害を抑制するだけでなく、末梢神経障害が発症してから症状を緩和する末梢神経障害治療用組成物(末梢神経障害治療用医薬組成物)としても使用することができる。
【0153】
(実施例9)
本発明に係るシイタケ菌糸体抽出物は、大腸癌治療の臨床試験で、グレイド2以上の末梢神経症状を改善する可能性を示唆した。以下に対象と方法について説明する。
【0154】
ステージII/IIIの大腸癌術後補助化学療法としてXELOX治療を施行する患者を対象とした。ランダム割付後、LEM(本発明に係るシイタケ菌糸体)配合錠剤(1,800mg/day)又はプラセボ錠剤を術後補助化学治療施行の6か月間、連日投与した。オキサリプラチン(L-OHP)は6か月の間の8サイクルにおいて、その初日に130mg/m2を投与した。
【0155】
評価項目として、CTCAE.ver4の基準を用いて末梢神経症状の副作用発現を評価した。プロトコール治療を開始できた46例(LEM群:24例、プラセボ群:22例)を安全性解析対象とした。
【0156】
Grade2以上の末梢神経症状(PSN)発現においては、LEM群:16.7%、プラセボ群:27.3%とLEM群で良好な傾向であった。また、Grade2以上のPSN発現までの日数中央値は、LEM群で158日、プラセボ群で107日であり、LEM群で延長する傾向を認めた。
【0157】
以上のように、シイタケ菌糸体抽出物は、末梢神経過敏症状を改善(抑制および治療)するものと結論できる。また、マウスに対して1g/kg/日以上の投与量があれば、その効果が発揮できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係る末梢神経障害改善用組成物は、末梢神経障害の軽減、緩和若しくは予防に利用することができる。さらに、末梢神経障害の発症後に、末梢神経障害を治療するのにも利用することができる。特に、DNA複製阻害剤(白金系抗がん剤(オキサリプラチンなど)やアルキル化剤)、微小管安定化剤(パクリタキセルなど)、微小管重合阻害剤(ビンクリスチンなど)、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブなど)の服用に起因して生じる末梢神経障害の軽減、緩和、予防若しくは治療に好適に利用することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16