(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】オレフィン重合用触媒及び極性基含有オレフィン系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/80 20060101AFI20220224BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20220224BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20220224BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20220224BHJP
C07F 9/6578 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C08F4/80
C08F10/00
C07F15/00 C
C07F19/00
C07F9/6578
(21)【出願番号】P 2019552343
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2018041310
(87)【国際公開番号】W WO2019093364
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017216585
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】野崎 京子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎庫
(72)【発明者】
【氏名】黒田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
(72)【発明者】
【氏名】林 慎也
(72)【発明者】
【氏名】南 由美子
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔
(72)【発明者】
【氏名】安川 雄一郎
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-502652(JP,A)
【文献】特表2005-505649(JP,A)
【文献】特開2011-068881(JP,A)
【文献】特開2014-159540(JP,A)
【文献】特開2015-137282(JP,A)
【文献】Akifumi Nakamura et al.,Coordination-Insertion Copolymerization of Fundamental Polar Monomers,Chem. Rev.,2009年,109(11),p.5215-5244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/80
C08F 10/00
C07F 15/00
C07F 19/00
C07F 9/6578
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(C1)
【化1】
(式中、Mは
Pdを表し、Xはリン原子(P
)を表し、Yは、置換または無置換のメチレン基(-CH
2-
)を表す。R
5は、水素原子
、炭素原子数1~30の炭化水素
基及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
6及びR
7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、R
6及びR
7の少なくとも一方は、一般式(2)
【化2】
(式中、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、炭素原子数1~30の炭化水素基を表し、R
8、R
9及びR
10は、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。なお、式中では、炭素原子と一般式(C1)におけるXとの結合も表記している。)で示される第3級アルキル基である。また、R
6及びR
7は、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、q
は1/2、1または2である。)で示される金属錯体を含むオレフィン重合用触媒。
【請求項2】
R
6及びR
7が、それぞれ独立して、一般式(2)で示される第3級アルキル基である請求項1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項3】
一般式(2)で示される第3級アルキル基が、t-ブチル基、1-アダマンチル基、2-メチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2-ベンジル-2-プロピル基、2,5-ジメチル-2-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、または2,3,3-トリメチル-2-ブチル基である請求項1または2に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項4】
一般式(C1)中のYが、メチレン基である請求項1~3のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項5】
一般式(C1)
【化3】
(式中の記号は請求項1の記載と同じ意味を表す。)で示される金属錯体を重合触媒として使用することを特徴とする、ポリエチレン、エチレンと一般式(1)
【化4】
(式中、R
1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換アミド基、炭素原子数5~10の置換ピリジル基、炭素原子数4~10の置換ピロリジル基、炭素原子数5~10の置換ピペリジル基、炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基、炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を示す。nは、0または1~6より選ばれる任意の整数である。)で示される極性基を有するオレフィンとの共重合体、またはエチレンと前記一般式(1)で示される極性基を有するオレフィンと他のモノマーとの共重合体の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)中のnが0である請求項5に記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)中のnが1である請求項5に記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
R
6及びR
7が、それぞれ独立して、一般式(2)で示される第3級アルキル基である請求項5~7のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項9】
一般式(2)で示される第3級アルキル基が、t-ブチル基、1-アダマンチル基、2-メチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2-ベンジル-2-プロピル基、2,5-ジメチル-2-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、または2,3,3-トリメチル-2-ブチル基である請求項5~8のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項10】
一般式(C1)中の一般式(C1)中のYが、メチレン基である請求項5~9のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項11】
重合温度が100~180℃である請求項5~10のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用触媒及びオレフィン系重合体、特に極性基を有するアリル化合物等の極性基含有モノマー重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非極性モノマーであるエチレンやプロピレンなどのオレフィンと極性基を有するビニルモノマーとの共重合体は、無極性であるポリエチレンやポリプロピレンにはない機能性や特性を有しており、幅広い分野で使用されている。特にエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、エチレンモノマー構造単位とビニルアルコールモノマー構造単位からなる共重合体であり、エチレンと酢酸ビニルのラジカル共重合で得られるエチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化することによって製造される。EVOHはその優れたガスバリア性を生かして、食品包装用途など広い分野で使用されている。
【0003】
一方で、アリル基を有するモノマーの重合は、通常のビニルモノマーと比べて難しく、その重合体はほとんど知られていない。その主な理由は、アリル基を有するモノマーをラジカル重合させた場合、アリル位炭素上に存在する水素原子引き抜きによるモノマーへの退化的連鎖移動反応のため、ポリマーの生長反応が極めて遅く、重合度の低いオリゴマーしか得られないためである(Chem. Rev. 58, 808 (1958);非特許文献1)。
【0004】
特開2011-68881号公報(米国特許第8916663号;特許文献1)、国際公開第2013/168626号(米国特許第9303101号;特許文献2)、及びJ. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)(非特許文献2)には、周期表第10族の金属錯体触媒を使用したエチレンと極性基含有アリルモノマーの配位共重合が示されており、ラジカル重合法では得られなかった極性基含有アリルモノマー共重合体の合成に成功している。しかしながら、触媒コストの観点から、触媒活性及び単位触媒あたりのポリマー生産性は十分ではなく、工業化に向けて課題は残されている。
【0005】
触媒活性を上げるための方法として、反応温度を上げることが挙げられる。通常の反応では、下記のアレニウスの式に示されるように、反応速度定数は、反応温度を上げると、指数関数的に上昇する。例えば、反応温度が10℃上昇すると、反応速度は約2倍になることが一般的に知られている。
k=A exp(-Ea/RT)
(式中、kは反応速度定数、Aは頻度因子、Eaは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは反応温度を表す。)
上述の特許文献1においても、反応温度を上げた重合結果が記載されているが、120℃以上の重合反応では単位触媒あたりのポリマー生産性が低下している。使用している重合用の金属錯体触媒が高温条件にて分解及び失活していることが要因であり、触媒の耐熱性不足が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-68881号公報(米国特許第8916663号)
【文献】国際公開第2013/168626号(米国特許第9303101号)
【非特許文献】
【0007】
【文献】Chem. Rev. 58, 808 (1958)
【文献】J. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高い耐熱性を有する触媒を使用して高い触媒活性で種々の応用が可能な極性基を有するオレフィン系重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高い耐熱性を有する新規の周期表第10族金属錯体を触媒として、エチレンやプロピレン等のビニルモノマー(無極性オレフィン)単独または前記無極性オレフィンと極性基含有オレフィン(極性基を有するアリルモノマーを含む)を共重合することにより、高い触媒活性で、種々の応用が可能な極性基を有するオレフィン系重合体を製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[11]の重合体の製造方法に関する。
[1] 一般式(C1)
【化1】
(式中、Mは周期表第10族の元素を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、Yは、置換または無置換のメチレン基(-CH
2-)、置換または無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、または置換または無置換のシリレン基(-SiH
2-)から選ばれる二価の基を表す。R
5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド(amido)基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
6及びR
7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、R
6及びR
7の少なくとも一方は、一般式(2)
【化2】
(式中、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、炭素原子数1~30の炭化水素基を表し、R
8、R
9及びR
10は、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。なお、式中では、炭素原子と一般式(C1)におけるXとの結合も表記している。)で示される第3級アルキル基である。また、R
6及びR
7は、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、qは0、1/2、1または2である。)で示される金属錯体を含むオレフィン重合用触媒。
[2] R
6及びR
7が、それぞれ独立して、一般式(2)で示される第3級アルキル基である前項1に記載のオレフィン重合用触媒。
[3] 一般式(2)で示される第3級アルキル基が、t-ブチル基、1-アダマンチル基、2-メチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2-ベンジル-2-プロピル基、2,5-ジメチル-2-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、または2,3,3-トリメチル-2-ブチル基である前項1または2に記載のオレフィン重合用触媒。
[4] 一般式(C1)中のYが、メチレン基である前項1~3のいずれかに記載のオレフィン重合用触媒。
[5] 一般式(C1)
【化3】
(式中の記号は前項1の記載と同様の意味を表す。)で示される金属錯体を重合触媒として使用することを特徴とする、ポリエチレン、エチレンと一般式(1)
【化4】
(式中、R
1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換アミド基、炭素原子数5~10の置換ピリジル基、炭素原子数4~10の置換ピロリジル基、炭素原子数5~10の置換ピペリジル基、炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基、炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を示す。nは、0または1~6より選ばれる任意の整数である。)で示される極性基を有するオレフィンとの共重合体、またはエチレンと前記一般式(1)で示される極性基を有するオレフィンと他のモノマーとの共重合体の製造方法。
[6] 一般式(1)中のnが0である前項5に記載の重合体の製造方法。
[7] 一般式(1)中のnが1である前項5に記載の重合体の製造方法。
[8] R
6及びR
7が、それぞれ独立して、一般式(2)で示される第3級アルキル基である前項5~7のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[9] 一般式(2)で示される第3級アルキル基が、t-ブチル基、1-アダマンチル基、2-メチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2-ベンジル-2-プロピル基、2,5-ジメチル-2-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、または2,3,3-トリメチル-2-ブチル基である前項5~8のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[10] 一般式(C1)中の一般式(C1)中のYが、メチレン基である前項5~9のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[11] 重合温度が100~180℃である前項5~10のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性を有し高い触媒活性を有する周期表第10族の金属錯体を触媒に使用して、無極性オレフィン(エチレン)と極性基を有するアリルモノマーなどの極性基を有するオレフィンを高い温度で共重合させて、種々の応用が可能な極性基を有するオレフィン系重合体を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】金属錯体1、比較金属錯体1~3を用いた実施例2~7及び比較例1~10の重合について、反応温度に対する生産性をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[触媒]
本発明で使用する周期表第10族金属錯体からなる触媒(の構造)は、一般式(C1)で示される。
【化5】
式中、Mは周期表第10族の元素を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、Yは、置換または無置換のメチレン基(-CH
2-)、置換または無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、または置換または無置換のシリレン基(-SiH
2-)から選ばれる官能基を表す。R
5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド(amido)基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
6及びR
7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、R
6及びR
7の少なくとも一方が、一般式(2)
【化6】
(式中、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を表し、R
8、R
9及びR
10は、それぞれで結合して、環構造を形成してもよい。なお、式中では、炭素原子と一般式(C1)におけるXとの結合も表記している。)で示される第3級アルキル基を表す。また、R
6及びR
7は、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、qは0、1/2、1または2である。
【0014】
なお、本明細書では、「炭化水素」は飽和、不飽和の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を含む。
【0015】
以下、一般式(C1)の構造について説明する。
Mは周期表第10族の元素を表す。周期表第10族の元素としては、Ni、Pd、Ptが挙げられるが、触媒活性や得られる重合体の分子量の観点からNi及びPdが好ましく、Pdがより好ましい。
【0016】
Xはリン原子(P)または砒素原子(As)であり、中心金属Mに2電子配位している。Xとしては、入手容易性及び触媒コストの面からPが好ましい。
【0017】
Yは、置換または無置換のメチレン基(-CH2-)、置換または無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、または置換または無置換のシリレン基(-SiH2-)から選ばれる二価の基を表す。これらの中では、置換または無置換のメチレン基が好ましい。
【0018】
置換または無置換のメチレン基の例として、メチレン基、ジメチルメチレン基、ジエチルメチレン基、モノメチルメチレン基、モノエチルメチレン基、ジフェニルメチレン基、モノフェニルメチレン基、モノ(トリメチルシリル)メチレン基、ジ(トリメチルシリル)メチレン基、ジ(2-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(2-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(3-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(3-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(4-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(4-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,6-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,6-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,4-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,3-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,3-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(3,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(3,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4,6-トリメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,4,6-トリメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4,6-トリメチルフェニル)メチレン基、モノ(2,4,6-トリメチルフェニル)メチレン基、ジ(2-イソプロピルフェニル)メチレン基、モノ(2-イソプロピルフェニル)メチレン基、ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)メチレン基、モノ(2,6-ジイソプロピルフェニル)メチレン基、ジ(1-ナフチル)メチレン基、モノ(1-ナフチル)メチレン基、ジ(2-ナフチル)メチレン基、モノ(2-ナフチル)メチレン基、ジメトキシメチレン基、ジエトキシメチレン基、ジプロポキシメチレン基、ジイソプロポキシメチレン基、1,2-エタンジオキシメチレン基、1,3-プロパンジオキシメチレン基、カルボニル基等が挙げられる。触媒合成の容易さから、メチレン基、モノメチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ジフェニルメチレン基、またはモノメチルメチレン基が好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0019】
置換または無置換のイミノ基の例として、イミノ基、N-メチルイミノ基、N-エチルイミノ基、N-(n-プロピル)イミノ基、N-イソプロピルイミノ基、N-(n-ブチル)イミノ基、N-(sec-ブチル)イミノ基、N-(t-ブチル)イミノ基、N-ベンジルイミノ基、N-フェニルイミノ基、N-トリメチルシリルイミノ基、N-(2-メトキシフェニル)イミノ基、N-(3-メトキシフェニル)イミノ基、N-(4-メトキシフェニル)イミノ基、N-(2,6-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,5-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,3-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(3,5-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4,6-トリメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)イミノ基、N-(1-ナフチル)イミノ基、N-(2-ナフチル)イミノ基、N-(t-ブトキシカルボニル)イミノ基等が挙げられる。触媒合成の容易さから、イミノ基、N-メチルイミノ基、N-ベンジルイミノ基、またはN-(t-ブトキシカルボニル)イミノ基が好ましく、イミノ基またはN-メチルイミノ基がより好ましい。
【0020】
置換または無置換のシリレン基の例として、シリレン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、モノメチルシリレン基、モノエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、モノフェニルシリレン基、モノ(トリメチルシリル)シリレン基、ジ(トリメチルシリル)シリレン基、ジ(2-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(2-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(3-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(3-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(4-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(4-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,6-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,6-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,4-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,3-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,3-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(3,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(3,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4,6-トリメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,4,6-トリメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4,6-トリメチルフェニル)シリレン基、モノ(2,4,6-トリメチルフェニル)シリレン基、ジ(2-イソプロピルフェニル)シリレン基、モノ(2-イソプロピルフェニル)シリレン基、ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)シリレン基、モノ(2,6-ジイソプロピルフェニル)シリレン基、ジ(1-ナフチル)シリレン基、モノ(1-ナフチル)シリレン基、ジ(2-ナフチル)シリレン基、モノ(2-ナフチル)シリレン基、ジメトキシシリレン基、ジエトキシシリレン基、ジプロポキシシリレン基、ジイソプロポキシシリレン基、1,2-エタンジオキシシリレン基、1,3-プロパンジオキシシリレン基等が挙げられる。触媒合成の容易さから、シリレン基、モノメチルシリレン基、ジメチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、またはモノメチルシリレン基が好ましく、シリレン基が特に好ましい。
【0021】
R5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド(amido)基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。
R5が表すハロゲン原子の好ましい具体例は、フッ素、塩素、臭素である。これらの中では塩素が好ましい。
【0022】
R5が表す炭素原子数1~30の炭化水素基は、好ましくは炭素原子数1~13の炭化水素基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリールまたはアラルキル基である。
好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、t-ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1-ジメチル-2-フェニルエチル基、イソプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1-フェニル-2-プロピル基、イソブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、エキソ-ノルボルニル基、エンド-ノルボニル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、5-デシル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、p-エチルフェニル基等が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい基は、メチル基、ベンジル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0023】
R5が表すハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基は、好ましくは前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をフッ素、塩素、または臭素で置換した基であり、具体的に好ましい例として、トリフルオロメチル基またはペンタフルオロフェニル基が挙げられる。
【0024】
R5が表す炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基は、好ましくは前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、またはt-ブトキシ基で置換した基である。さらに好ましくはメトキシ基またはエトキシ基で置換された炭素原子数2~6の炭化水素基である。具体的には、1-(メトキシメチル)エチル基、1-(エトキシメチル)エチル基、1-(フェノキシメチル)エチル基、1-(メトキシエチル)エチル基、1-(エトキシエチル)エチル基、ジ(メトキシメチル)メチル基、ジ(エトキシメチル)メチル基、ジ(フェノキシメチル)メチル基が挙げられる。特に好ましくは、1-(メトキシメチル)エチル基、1-(エトキシメチル)エチル基である。
【0025】
R5が表す炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基で置換した基である。さらに好ましくはフェノキシ基または2,6-ジメチルフェノキシ基で置換された炭素原子数1~6の炭化水素基であり、特に好ましくは、1-(フェノキシメチル)エチル基、または1-(2,6-ジメチルフェノキシ基メチル)エチル基である。
【0026】
R5が表す炭素原子数2~10のアミド(amido)基(R-(C=O)NH-、Rは有機基)で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をアセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、ヴァレリルアミノ基、イソヴァレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、またはベンゾイルアミノ基で置換した置換基である。さらに好ましくは2-アセトアミドフェニル基、2-プロピオニルアミノフェニル基、2-ヴァレリルアミノフェニル基、2-ベンゾイルフェニル基であり、特に好ましくは、2-アセトアミドフェニル基である。
【0027】
R5が表す炭素原子数1~30のアルコキシ基は、好ましくは炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、及びt-ブトキシ基などである。これらの中で、さらに好ましい基としては、メトキシ基、エトキシ基、またはイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0028】
R5が表す炭素原子数6~30のアリールオキシ基は、好ましくは炭素原子数6~12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例としては、フェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、及び2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい基は、フェノキシ基、または2,6-ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
【0029】
R5が表す炭素原子数2~10のアシロキシ基は、好ましくは炭素原子数2~8のアシロキシ基であり、好ましい具体例としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ヴァレリルオキシ基、イソヴァレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい基は、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基であり、特に好ましくは、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基である。
【0030】
これらのR5として好ましい群のうち、さらに好ましくは、炭素原子数1~20の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアシロキシ基、であり、特に好ましい具体例としては、メチル基、ベンジル基、メトキシ基、2-アセトアミドフェニル基、アセチルオキシ基が挙げられる。
【0031】
R
6及びR
7は、それぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、R
6及びR
7の少なくとも一方は、一般式(2)
【化7】
(式中、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、炭素原子数1~30の炭化水素基を表し、R
8、R
9及びR
10は、それぞれで結合して、環構造を形成してもよい。なお、式中では、炭素原子と一般式(C1)におけるXとの結合も表記している。)で示される第3級アルキル基を表す。
【0032】
R6及びR7が表すアルコキシ基としては、炭素原子数1~20のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。
【0033】
R6及びR7が表すアリールオキシ基としては炭素原子数6~24のものが好ましく、フェノキシ基などが挙げられる。
【0034】
R6及びR7が表すシリル基としてはトリメチルシリル基、アミノ基としてはアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などが挙げられる。
【0035】
R6及びR7が表すハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-メチル-4-ヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3-メチル-4-ヘプチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1-アダマンチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、2’-メトキシベンジル基、3’-メトキシベンジル基、4’-メトキシベンジル基、4’-トリフルオロメチルベンジル基、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、3,5-ジイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、2-シクロヘキシルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、2,4,6-トリメトキシフェニル基、4-フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-フリル基、2-ビフェニル基、2’,6’-ジメトキシ-2-ビフェニル基、2’-メチル-2-ビフェニル基、2’,4’,6’-トリイソプロピル-2-ビフェニル基等が挙げられる。
また、R6とR7は同じでも、異なっていてもよい。また、R6とR7は結合して環構造を形成してもよい。
【0036】
なお、R
6及びR
7の少なくとも一方は、一般式(2)
【化8】
(式中、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、炭素原子数1~30の炭化水素基を表し、R
8、R
9及びR
10は、それぞれで結合して、環構造を形成してもよい。なお、式中では、炭素原子と一般式(C1)におけるXとの結合も表記している。)
で示される第3級アルキル基である。
【0037】
さらに、R6及びR7は、合成の容易さ、触媒の耐熱性、及び触媒活性の面から、それぞれ独立して共に前記一般式(2)で示される第3級アルキル基であることがより好ましく、同一の第3級アルキル基であることが最も好ましい。
【0038】
R8、R9及びR10が示す炭素原子数1~30の炭化水素基としては、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~30のシクロアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、炭素原子数6~14のアラルキル基が好ましい。シクロアルキル基は橋架けシクロアルキル基であってもよい。R8、R9及びR10がそれぞれで結合して環構造をとり、R6,R7が3級の橋架けシクロアルキル基となっていてもよい。
【0039】
一般式(2)で示される第3級アルキル基の例として、t-ブチル基、3-エチル-3-ペンチル基、4-プロピル-4-ヘプチル基、3-イソプロピル-2,4-ジメチル-3-ペンチル基、5-(n-ブチル)-5-ノニル基、4-イソブチル-2,6-ジメチル-5-ヘプチル基、4-(sec-ブチル)-3,5-ジメチル-5-ヘプチル基、3-(t-ブチル)-2,2,4,4-テトラメチル-3-ペンチル基、トリ(n-ペンチル)-6-ウンデシル基、5-(1-メチルブチル)-4,6-ジメチル-5-ノニル基、5-(2-メチルブチル)-3,7-ジメチル-5-ノニル基、5-(3-メチルブチル)-2,8-ジメチル-5-ノニル基、4-(1,1-ジメチルプロピル)-3,3,5,5-テトラメチル-4-ヘプチル基、4-(1,2-ジメチルプロピル)-2,3,5,6-テトラメチル-4-ヘプチル基、4-(2,2-ジメチルプロピル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヘプチル基、トリ(シクロプロピル)メチル基、トリ(シクロブチル)メチル基、トリ(シクロペンチル)メチル基、トリ(シクロヘキシル)メチル基、トリ(シクロヘプチル)メチル基、トリ(シクロオクチル)メチル基、2-メチル2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2,3-ジメチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ヘキシル基、2,3-ジメチル-2-ペンチル基、2,3,3-トリメチル-2-ブチル基、2-メチル2-ヘプチル基、2-メチル2-オクチル基、3-メチル-3-ペンチル基、4-メチル-4-ヘプチル基、2,3,4-トリメチル-3-ペンチル基、5-メチル-5-ノニル基、6-メチル-6-ウンデシル基、トリフェニルメチル基、2-ベンジル-2-プロピル基、1-アダマンチル基等が挙げられ、合成の容易さ及び得られる重合体の分子量の面から、t-ブチル基、1-アダマンチル基、2-メチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2-ベンジル-2-プロピル基、2,5-ジメチル-2-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、または2,3,3-トリメチル-2-ブチル基が好ましく、t-ブチル基、トリフェニルメチル基、または1-アダマンチル基がより好ましい。
【0040】
一般式(C1)で示される触媒の金属錯体は、公知の文献(例えば、J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 8948)に記載の方法と同様の方法で、合成することができる。すなわち、0価あるいは2価のMソースと一般式(C1)中の配位子とを反応させて金属錯体を合成する。
【0041】
0価のMソースは、パラジウムソースとして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが挙げられ、ニッケルソースとして、テトラカルボニルニッケル(0):Ni(CO)4、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルが挙げられる。
2価のMソースは、パラジウムソースとして、(1,5-シクロオクタジエン)(メチル)塩化パラジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(CH3CN)2、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(PhCN)2、(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ジクロロパラジウム(II):PdCl2(TMEDA)、(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ジメチルパラジウム(II):PdMe2(TMEDA)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II):Pd(acac)2(acac=アセチルアセトナト)、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム(II):Pd(OSO2CF3)2が、ニッケルソースとして、(アリル)塩化ニッケル、(アリル)臭化ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II):Ni(acac)2、(1,2-ジメトキシエタン)ジクロロニッケル(II):NiCl2(DME)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II):Ni(OSO2CF3)2等が挙げられる。
【0042】
一般式(C1)で示される金属錯体は、単離して使用することができるが、錯体を単離することなくMを含む金属ソースと配位子前駆体を反応系中で接触させて、これをそのまま(in situ)重合に供することもできる。特に一般式(C1)中のR5が水素原子の場合、0価のMを含む金属ソースと配位子前駆体とを反応させた後、錯体を単離することなくそのまま重合に供することが好ましい。
【0043】
この場合の配位子前駆体は、一般式(C1)の場合、
【化9】
(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)
で示される。
【0044】
一般式(C1)におけるMソース(M)と配位子前駆体(C1-1)(C1配位子)との比率((C1配位子)/M)は、0.5~2.0の範囲で、さらには、1.0~1.5の範囲で選択することが好ましい。
【0045】
一般式(C1)の金属錯体を単離する場合、予め電子供与性配位子(L)を配位させて安定化させたものを用いることもできる。この場合、qは1/2、1または2となる。qが1/2とは一つの2価の電子供与性配位子が2つの金属錯体に配位していることを意味する。qは金属錯体触媒を安定化する意味で1/2または1が好ましい。なお、qが0の場合は配位子がないことを意味する。
【0046】
電子供与性配位子(L)とは、電子供与性基を有し、金属原子Mに配位して金属錯体を安定化させることのできる化合物である。
【0047】
電子供与性配位子(L)としては、硫黄原子を有するものとしてジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。窒素原子を有するものとして、アルキル基の炭素原子数1~10のトリアルキルアミン、アルキル基の炭素原子数1~10のジアルキルアミン、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)、アニリン、2,6-ジメチルアニリン、2,6-ジイソプロピルアニリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、アセトニトリル、ベンゾニトリル、キノリン、2-メチルキノリンなどが挙げられる。酸素原子を有するものとして、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタンが挙げられる。金属錯体の安定性及び触媒活性の観点から、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)がより好ましい。
【0048】
一般式(C1)で示される金属錯体は、担体に担持して重合に使用することもできる。この場合の担体は、特に限定されないが、シリカゲル、アルミナなどの無機担体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの有機担体などを挙げることができる。金属錯体の担持法としては、金属錯体の溶液を担体に含浸させて乾燥する物理的な吸着方法や、金属錯体と担体とを化学的に結合させて担持する方法などが挙げられる。
【0049】
[モノマー]
本発明の重合体の製造方法では、エチレンを単独重合させるだけではなく、エチレンと極性基を有するオレフィンを共重合することができる。本発明で共重合に用いられる第2のモノマーである極性基を有するオレフィンは、一般式(1)
【化10】
で示される。
式中、R
1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換アミド基、炭素原子数5~10の置換ピリジル基、炭素原子数4~10の置換ピロリジル基、炭素原子数5~10の置換ピペリジル基、炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基、炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、ハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を表す。nは、0または1~6より選ばれる任意の整数である。
【0050】
炭素原子数1~10のアルコキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数1~4のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、またはt-ブトキシ基などである。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基またはイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0051】
炭素原子数6~20のアリールオキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数6~12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例としては、フェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基、または2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基が挙げられる。
【0052】
これらの中で、さらに好ましい置換基は、フェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基、または2,6-ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基である。
【0053】
炭素原子数2~10のアシル基であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のアシル基であり、好ましい具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ヴァレリル基、イソヴァレリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基であり、特に好ましくは、ベンゾイル基である。
【0054】
炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基)であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のエステル基であり、好ましい具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、(4-ヒドロキシブトキシ)カルボニル基、(4-グリシジルブトキシ)カルボニル基、フェノキシカルボニル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、(4-ヒドロキシブトキシ)カルボニル基が挙げられ、特に好ましくは、メトキシカルボニル基である。
【0055】
炭素原子数2~10のアシロキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のアシロキシ基であり、好ましい具体例としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ヴァレリルオキシ基、イソヴァレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基であり、特に好ましくは、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ基である。
【0056】
炭素原子数1~12の置換アミノ基であるR1の好ましい具体例としては、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モノイソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、モノフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビス(トリメチルシリル)アミノ基、モルホリニル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基である。
【0057】
炭素原子数1~12の置換アミド基(R-(C=O)NH-、Rは有機基)であるR1の好ましい具体例としては、アセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、ヴァレリルアミノ基、イソヴァレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、アセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基であり、特に好ましくは、アセトアミド基である。
【0058】
炭素原子数5~10の置換ピリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-(3-メチル)ピリジル基、2-(4-メチル)ピリジル基、3-(2-メチル)ピリジル基、3-(4-メチル)ピリジル基、2-(4-クロロメチル)ピリジル基、3-(4-クロロメチル)ピリジル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-(4-メチル)ピリジル基が挙げられ、特に好ましくは、2-ピリジル基である。
【0059】
炭素原子数4~10の置換ピロリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピロリジル基、3-ピロリジル基、2-(1-メチル)ピロリジル基、2-(1-ブチル)ピロリジル基、2-(1-シクロペンテニル)ピロリジル基、2-(4-メトキシカルボニル)ピロリジル基、2-(5-メトキシカルボニル)ピロリジル基、2-(6-メトキシカルボニル)ピロリジル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-ピロリジル基、3-ピロリジル基、2-(1-メチル)ピロリジル基、2-(6-メトキシカルボニル)ピロリジル基が挙げられ、特に好ましくは、2-ピロリジル基である。
【0060】
炭素原子数5~10の置換ピペリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピペリジル基、3-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピペリジル基、2-(1-メチル)ピペリジル基、2-(1-エチル)ピペリジル基、2-(4-メチル)ピペリジル基、2-(5-メチル)ピペリジル基、2-(6-メチル)ピペリジル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-ピペリジル基、3-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピペリジル基、2-(6-メチル)ピペリジル基が挙げられ、特に好ましくは、2-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピペリジル基である。
【0061】
炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基であるR1の好ましい具体例としては、2-テトラハイドロフリル基、3-テトラハイドロフリル基、2-(5-メチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラハイドロフリル基、2-(5-エチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-メトキシ)テトラハイドロフリル基、2-(5-アセチル)テトラハイドロフリル基、2-(4,5-ベンゾ)テトラハイドロフリル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-テトラハイドロフリル基、3-テトラハイドロフリル基、2-(5-メチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラハイドロフリル基、2-(4,5-ベンゾ)テトラハイドロフリル基が挙げられ、特に好ましくは、2-テトラハイドロフリル基、2-(5-メチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラハイドロフリル基である。
【0062】
炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基であるR1の好ましい具体例としては、2-イミダゾリル基、2-(1-メチル)イミダゾリル基、2-(1-ベンジル)イミダゾリル基、2-(1-アセチル)イミダゾリル基、2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基、2-(1-メチル-4,5-ベンゾ)イミダゾリル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-イミダゾリル基、2-(1-メチル)イミダゾリル基、2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基が挙げられ、特に好ましくは、2-(1-メチル)イミダゾリル基、2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基である。
【0063】
炭素原子数1~10のアルキルチオ基であるR1の好ましい具体例は、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、t-ブチルチオ基であり、炭素原子数6~10のアリールチオ基であるR1の好ましい具体例は、フェニルチオ基である。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、メチルチオ基、t-ブチルチオ基、フェニルチオ基が挙げられ、特に好ましくは、メチルチオ基、フェニルチオ基である。
【0064】
ハロゲン原子であるR1の好ましい具体例は、フッ素、塩素、臭素である。これらの中で、さらに好ましい置換基は塩素である。
【0065】
これらのR1として好ましい群のうち、さらに好ましくは、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数2~10のエステル基、炭素原子数2~10のアシロキシ基であり、一般式(1)で表される特に好ましい極性コモノマーの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、酢酸アリル、アリルメチルエーテルが挙げられる。
【0066】
本発明の(共)重合体の製造方法において、エチレンと共重合させる一般式(1)で示される極性基を有するオレフィンは、2種以上を組み合わせて重合させてもよい。
【0067】
また、本発明の(共)重合体の製造方法では、エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するオレフィンに加えて、他のモノマー(第3のモノマー)を用いてもよい。第3のモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、スチレン等のα-オレフィンが挙げられる。この中で、プロピレン、1-ブテン、または1-ヘキセンが好ましい。また、これらは2種以上を組み合わせて重合させてもよい。ただし、第3のモノマーとしてα-オレフィンが共重合されるときは、得られる重合体中に含まれるα-オレフィンとエチレンの合計に対するα-オレフィンの比率は40mol%未満である。
【0068】
[重合方法]
本発明の金属錯体を触媒として使用して、エチレン単独または、エチレンと一般式(1)で示されるモノマーを重合する方法は特に制限されるものではなく、一般に使用される方法で重合可能である。すなわち、溶液重合法、懸濁重合法、気相重合法などのプロセス法が可能であるが、特に溶液重合法、懸濁重合法が好ましい。また重合様式は、バッチ様式でも連続様式でも可能である。また、一段重合でも、多段重合でも行うこともできる。
【0069】
一般式(C1)で示される金属錯体触媒は2種類以上を混合して重合反応に使用してもよい。混合して使用することで重合体の分子量、分子量分布、一般式(1)のモノマーに由来するモノマーユニットの含有量を制御することが可能であり、所望の用途に適した重合体を得ることができる。金属錯体触媒総量とモノマーの総量のモル比は、モノマー/金属錯体の比で、1~10,000,000の範囲、好ましくは10~1,000,000の範囲、より好ましくは100~100,000の範囲が用いられる。
【0070】
重合温度は、特に限定されないが、通常-30~400℃の範囲で行われ、好ましくは0~200℃、より好ましくは30~180℃の範囲で行われる。本実施形態の金属錯体は、耐熱性があるため活性が高くなる高温での重合も可能である。その場合、重合温度は100~180℃が好ましく、120~170℃がより好ましい。
【0071】
エチレン圧が内部圧力の大半を占める重合圧力については、常圧から100MPaの範囲内で行われ、好ましくは常圧から20MPa、より好ましくは常圧から10MPaの範囲内で行われる。
【0072】
重合時間は、プロセス様式や触媒の重合活性などにより適宜調整することができ、数十秒から数分の短い時間も、数千時間の長い反応時間も可能である。
【0073】
重合系中の雰囲気は触媒の活性低下を防ぐため、モノマー以外の空気、酸素、水分などが混入しないように窒素ガスやアルゴンなどの不活性ガスで満たすことが好ましい。また溶液重合の場合、モノマー以外に不活性溶媒を使用することが可能である。不活性溶媒は、特に限定されないが、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪族エステル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの芳香族エステルなどが挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0075】
[重合体の構造の解析方法]
実施例で得た(共)重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、昭和電工(株)製AT-806MSカラム(2本直列)を備えた東ソー(株)製高温GPC装置、HLC-8121GPC/HTを用いた、ポリスチレンを分子量の標準物質とするサイズ排除クロマトグラフィ(溶媒:1,2-ジクロロベンゼン、温度:145℃)により算出した。
【0076】
一般式(1)で示される極性基を有するオレフィンに由来するモノマーユニットの含有率は、日本電子(株)製JNM-ECS400を使用して、溶媒として1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2を使用した120℃における1H-NMRによって決定した。
【0077】
[金属錯体1及び金属錯体2の合成]
下記の反応スキームに従って金属錯体1を合成した。
【化11】
【0078】
(a)メタンスルホン酸イソプロピル(化合物1b)の合成
メタンスルホン酸クロリド(化合物1a;20.0g,174.6mmol)のジクロロメタン溶液(50mL)に、2-プロパノール(10.5g,174.6mmol,1.0eq)とトリエチルアミン(44.2g,436.5mmol,2.5eq)のジクロロメタン溶液(50mL)を0℃にてゆっくりと加え、25℃で16時間撹拌した。反応液をろ過し、回収したろ液を濃縮した後、再度ジクロロメタン(50mL)に溶解させ、1M塩酸(20mL),飽和炭酸水素ナトリウム水(20mL),飽和食塩水(20mL)にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムにて脱水し、ろ過した後、濃縮することにより、目的物(化合物1b)を黄色いオイルとして得た。収量20.2g(収率84%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 4.91 (m, 1 H), 3.04 (s, 3 H), 1.39 (s, 3 H), 1.38 (s, 3 H)。
【0079】
(b)ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸イソプロピル(化合物1c)の合成
メタンスルホン酸イソプロピル(化合物1b;6.0g,43.4mmol)のテトラヒドロフラン溶液(100mL)に、n-ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液,45.6mmol,1.1eq)を0℃で加え、0℃で1時間撹拌した。反応容器を-78℃に冷却した後に、塩化ジt-ブチルホスフィン(7.8g,43.4mmol,1.0eq)を-78℃で加え、室温で16時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(ペンタン/酢酸エチル=20/1)で精製し、ペンタン(5mL×2回)で洗浄することにより、目的物(化合物1c)を白色粉末として得た。収量3.6g(収率29%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 5.00 (m, 1 H), 3.26 (br, 2 H), 1.41 (d, J = 6.4 Hz, 6 H), 1.19 (d, J = 12.0 Hz, 18 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 18.4。
【0080】
(c)ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸イソプロピル(化合物1d)の合成
ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸イソプロピル(化合物1c;3.58g,12.68mmol)のTHF(テトラヒドロフラン)溶液(40mL)に、S(2.5Mヘキサン溶液,2.03g,63.39mmol,5eq)を-78℃で加え、25℃で16時間撹拌し、さらに60℃で2時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ過残渣を酢酸エチル(20mL)にて洗浄し、全ての溶液を回収して溶媒を減圧留去した。ペンタン(10mL)を加えてろ過し、減圧乾燥することにより、目的物(化合物1d)を白色粉末として得た。収量3.5g(収率88%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 5.16 (m, 1 H), 3.80 (br, 2 H), 1.46 (d, J = 6.4 Hz, 6 H), 1.43 (d, J = 12.0 Hz, 18 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 74.5。
【0081】
(d)ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸(化合物1e)の合成
ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸イソプロピル(化合物1d;5.5g,16.62mmol)のメタノール(40mL),THF(20mL),水(5mL)の混合溶液に、水酸化ナトリウム(2.66g,66.47mmol,4eq)を加え、66℃で16時間撹拌した。この反応液から溶媒を留去して濃縮後、酢酸エチル(20mL)にて洗浄し、得られた白色粉末をエタノール(100mL)とジクロロメタン(50mL)混合溶液に懸濁させ、HCl/酢酸エチルにてpH=5に中和した。この中和液をろ過し、ろ液を濃縮後にジクロロメタンに溶解させ、不溶物をろ過により除去後、溶媒を減圧留去することにより、目的物(化合物1e)を淡黄色の粉末として得た。収量4.2g(収率93%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 6.28 (br, 1 H), 3.75 (d, J = 6.4 Hz, 2 H), 1.41 (d, J = 16.8 Hz, 18 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 72.2。
【0082】
(e)ジt-ブチルフォスファニルメタンスルホン酸(化合物1f)の合成
RANEY(登録商標)-Ni(4.5g,52.5mmol,6.8eq)のTHF溶液(100mL)に、ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸(化合物1e;2.1g,7.71mmol,1eq)のTHF溶液(40mL)をシリンジを用いてゆっくりと加え、室温で16時間撹拌した。この反応液にジクロロメタン(80mL)を加えてろ過し、溶媒を減圧留去した。この反応物をジクロロメタン(200mL)に懸濁し、不溶物をろ過により除去後、溶媒を減圧留去することにより、目的物(化合物1f)をピンクの粉末として得た。収量0.8g(収率44%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 4.88 (br, 1 H), 3.06 (d, J = 3.2 Hz, 2 H), 1.17 (d, J = 11.2 Hz, 18 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 19.1。
【0083】
(f)金属錯体1の合成
窒素雰囲気下、ジt-ブチルフォスファニルメタンスルホン酸(化合物1f;0.95g,3.96mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.5mL,19.8mmol)の塩化メチレン溶液(30mL)に、(cod)PdMeCl(cod=1,5-シクロオクタジエン、1.05g,3.96mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣をジクロロメタン(15mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(5.47g,39.6mmol)と2,6-ルチジン(4.61mL,39.8mmol)のジクロロメタン懸濁液(10mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行った。ヘキサン(15mL×3回)で洗浄することにより、金属錯体1を得た。収量は、1.2g(収率63%)であった。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 7.57 (t, J = 7.8 Hz, 1 H), 7.11 (d, J = 7.8 Hz, 2 H), 3.44 (d, J = 8.2 Hz, 2 H), 3.06 (s, 6 H), 1.49 (d, J = 14.6 Hz, 18 H), 0.54 (d, J = 1.9 Hz, 3 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 46.5。
【0084】
(g)金属錯体2の合成
【化12】
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(1-アダマンチル)ホスフィンに代えて、上述の(a)から(f)に示した金属錯体1の合成と同様の方法で、金属錯体2の合成を行った。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.56 (t, J = 7.4 Hz, 1 H), 7.11 (d, J = 7.4 Hz, 2 H), 3.46 (d, J = 7.6 Hz, 2 H), 3.09 (s, 6 H), 2.25 (br.s, 12 H), 2.09 (br.s, 6 H), 1.78 (br.s, 12 H), 0.56 (d, J = 1.9 Hz, 3 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 40.0.
【0085】
[金属錯体3~金属錯体9の合成]
(h)金属錯体3の合成
【化13】
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(2-メチル-2-ブチル)ホスフィン(同モル数)にかえた以外は、上述の(a)~(f)に記載した金属錯体1の合成と同様の方法で、金属錯体3を合成した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.58 (t, J = 7.6Hz, 1H), 7.11(d, J = 8.0Hz, 2H), 3.47(d, J = 8.0Hz, 2H), 3.07(s, 6 H), 1.98(quint, J=7.0Hz, 4H), 1.44(dd, J = 15.4, 9.8Hz, 12H), 1.00(t, J=7.2Hz, 6H), 0.53(d, J = 1.6Hz, 3H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 51.6。
【0086】
(i)金属錯体4の合成
【化14】
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(2-ベンジル-2-プロピル)ホスフィン(同モル数)にかえた以外は、上述の(a)~(f)に記載した金属錯体1の合成と同様の方法で、金属錯体4を合成した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.61 (t, J = 7.6Hz, 1H), 7.36-7.27(m, 6H), 7.20(d, J = 8.0Hz, 2H), 7.14(d, J = 8.0Hz, 2H), 3.70(d, J = 8.4Hz, 2H), 3.34(d, J = 6.4Hz, 4H), 3.12(s, 6 H), 1.44(t, J = 14.6Hz, 12H), 0.71(d, J = 1.2Hz, 3H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 52.7。
【0087】
(j)金属錯体5の合成
【化15】
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(2-メチル-2-ペンチル)ホスフィン(同モル数)にかえた以外は、上述の(a)から(f)に示した金属錯体1の合成と同様の方法で、金属錯体5の合成を行った。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.57 (t, J = 7.6Hz, 1H), 7.11(d, J = 8.0Hz, 2H), 3.48(d, J = 7.6Hz, 2 H), 3.07(s, 6 H), 1.95-1.85(m, 4H), 1.55-1.45(m, 16H), 0.98(t, J = 7.2Hz, 6H), 0.53(d, J = 2.0Hz, 3H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 50.9。
【0088】
(k)金属錯体6の合成
【化16】
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(2,5-ジメチル-2-ヘキシル)ホスフィン(同モル数)にかえた以外は、上述の(a)~(f)に記載した金属錯体1の合成と同様の方法で、金属錯体6を合成した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.57 (t, J = 7.8Hz, 1H), 7.11(d, J = 8.0Hz, 2H), 3.48(d, J = 8.4 Hz, 2 H), 3.06 (s, 6 H), 1.95-1.85(m, 4H), 1.6-1.5(m, 2H), 1.45(dd, J = 7.6Hz, 12H), 1.34-1.20(m, 4H), 0.93(d, J = 7.2 Hz, 12H), 0.53(d, J = 2.0Hz, 3H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 52.3。
【0089】
(l)金属錯体7の合成
【化17】
下記の反応スキームに従って金属錯体7を合成した。
【化18】
【0090】
化合物7aの合成は、化合物1cの原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジエチルメチルホスフィン(同モル数)にかえた以外は、上述の(b)に示した化合物1cの合成と同様の方法で行った。
続いて、化合物7aの加水分解反応により、化合物7bの合成を行った。すなわち、窒素雰囲気下、化合物7a(6.2g,21.1mmol)および脱水テトラヒドロフラン(110mL)を含む200mLナスフラスコに、36wt%塩酸(21.4g、塩化水素211mmol、10当量)と蒸留水(10.7mL)の混合液を加え、60℃まで加熱しながら8時間撹拌した。室温まで冷却後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去して残った残渣にジクロロメタンと蒸留水を加えた後、ジクロロメタンで分液抽出を行った。抽出した有機層は飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄および硫酸マグネシウムによる乾燥を経た後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、油状物質5.52gを得た。油状物質に対して、ヘキサンによる抽出操作を3回行うことで、ジ(3-メチル-3-ペンチル)フォスファニルメタンスルホン酸(化合物7b)を0.55g得た。
金属錯体1の原料であるジt-ブチルフォスファニルメタンスルホン酸(化合物1f)をジ(3-メチル-3-ペンチル)フォスファニルメタンスルホン酸(化合物7b、同モル数)にかえた以外は、上述の(f)に示した金属錯体1の合成と同様の方法で行った。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 7.57 (t, J = 7.7 Hz, 1 H), 7.11 (d, J = 7.7 Hz, 2 H), 3.54 (d, J = 8.0 Hz, 2 H), 3.06 (s, 6 H), 2.08 (m, 4H), 1.95 (m, 4H), 1.44 (d, J = 16.0 Hz, 6H), 1.10 (t, J = 7.4 Hz, 12H), 0.54 (d, J = 1.6 Hz, 3 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 50.9。
【0091】
(m)金属錯体8の合成
【化19】
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化t-ブチル(3-メチル-3-ペンチル)ホスフィン(同モル数)にかえた以外は、上述の(a)~(f)に記載した金属錯体1の合成と同様の方法で、金属錯体8を合成した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.57 (t, J = 7.9 Hz, 1 H), 7.11 (d, J = 7.9 Hz, 2 H), 3.51 (dd, J = 14.8, 8.4 Hz, 1 H), 3.42 (dd, J = 14.8, 8.4 Hz, 1 H), 3.06 (d, J = 20.0 Hz, 6 H), 2.02 (m, 2H), 1.89 (m, 2H) , 1.53 (d, J = 14.0 Hz, 9H) , 1.39 (d, J = 16.4 Hz, 3H), 1.10 (q, J = 6.0 Hz, 6H), 0.54 (d, J = 2.0 Hz, 3 H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 47.6。
【0092】
(n)金属錯体9の合成
【化20】
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化t-ブチル(2,3,3-トリメチル-2-ブチル)ホスフィン(同モル数)にかえた以外は、上述の(a)~(f)に記載した金属錯体1の合成と同様の方法で、金属錯体9を合成した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.57 (t, J = 7.7Hz, 1H), 7.12 (d, J = 7.7Hz, 2H), 3.66 (dd, J = 15.2, 8.0Hz, 1H), 3.38 (dd, J = 15.2, 9.2Hz, 1H), 3.14(s, 3H), 3.03(s, 3H), 1.59 (d, J = 14.0, 9H), 1.55-1.30(m, 6H) , 1.40 (s, 9H) , 0.58(s, 3H)。
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 34.4。
【0093】
[比較金属錯体1~4合成]
(o)比較金属錯体1の合成
【化21】
比較金属錯体1は、国際公開第2013/168626号に従って合成した。
【0094】
(p)比較金属錯体2の合成
【化22】
比較金属錯体2は、特開2014-159540号公報に従って合成した。
【0095】
(q)比較金属錯体3の合成
【化23】
比較金属錯体3は、原料である塩化ジ(t-ブチル)ホスフィンを塩化ジメンチルホスフィンに変えて、金属錯体1と同様の方法で合成した。
【0096】
(r)比較金属錯体4の合成
金属錯体1の原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(2’,6’-ジメトキシ-2-ビフェニル)ホスフィン(同モル数)にかえた以外は、金属錯体1と同様の方法で比較金属錯体4を合成した。
【化24】
【0097】
[重合体の合成]
上記の方法で合成した金属錯体1~9及び比較金属錯体1~4を使用して、オレフィンの(共)重合を行った。重合条件及び重合結果をそれぞれ表1及び2に示す。
なお、触媒濃度、生産性、及び触媒活性は次の式により計算した。
【数1】
【数2】
【数3】
【0098】
実施例1:金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体1の調製)
窒素ガス雰囲気下、金属錯体1(2.4mg,0.0050mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(11.6mL,108mmol)及びトルエン(63.4mL)を加えた。エチレン(4.0MPa)を充填した後、オートクレーブを80℃で、1時間撹拌した。室温まで冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(300mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体1を得た。収量は0.79gであった。生産性は158g/mmolと算出され、触媒活性は158g/(mmol・h)と算出された。重合体2の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィにより決定し、数平均分子量124,000、重量平均分子量235,000と算出し、Mw/Mnは1.9であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:1.6(酢酸アリルモル分率=1.6%)と決定した。
【0099】
実施例2:金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体2の調製)
窒素ガス雰囲気下、金属錯体1(4.7mg,0.010mmol)を含む120mLオートクレーブ中に、酢酸アリル(75mL,700mmol)を加えた。エチレン(1.1MPa)を充填した後、オートクレーブを65℃で、24時間撹拌した。室温まで冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(300mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体2を得た。収量は0.074gであった。生産性は7g/mmolと算出され、触媒活性は0.31g/(mmol・h)と算出された。重合体2の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィにより決定し、数平均分子量1,800、重量平均分子量6,000と算出し、Mw/Mnは3.3であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:42.5(酢酸アリルモル分率=29.8%)と決定した。
【0100】
実施例3~7:金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体3~7の調製)
得られる共重合体中の酢酸アリル含有率がモル分率で20%前後となるように、反応温度及びエチレン圧を変えて、それ以外は実施例2と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、重合体3~7を得た。
【0101】
実施例8:金属錯体2を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体8の調製)
金属錯体1の代わりに金属錯体2を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合体を行い、重合体8を得た。
【0102】
実施例9~10:金属錯体2を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体9~10の調製)
金属錯体1の代わりに金属錯体2を使用し、得られる共重合体中の酢酸アリル含有率がモル分率で20%前後となるように、反応温度及びエチレン圧を変えた以外は実施例2と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、重合体9~10を得た。
【0103】
実施例11~17:金属錯体3~9を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体11~17の調製)
金属錯体1の代わりに金属錯体3~9のいずれかを使用した以外は、実施例1と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、重合体11~17を得た。
【0104】
比較例1~4:比較金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体1~4の調製)
金属錯体1の代わりに比較金属錯体1を用い、得られる共重合体中の酢酸アリル含有率がモル分率で20%前後となるように、反応温度及びエチレン圧を変えて、それ以外は実施例2と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、比較重合体1~4を得た。
【0105】
比較例5~7:比較金属錯体2を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体5~7の調製)
金属錯体1の代わりに比較金属錯体2を用い、得られる共重合体中の酢酸アリル含有率がモル分率で20%前後となるように、反応温度及びエチレン圧を変えた以外は実施例2と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、比較重合体5~7を得た。
【0106】
比較例8~10:比較金属錯体3を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体8~10の調製)
金属錯体1の代わりに比較金属錯体3を用い、得られる共重合体中の酢酸アリル含有率がモル分率で20%前後となるように、反応温度及びエチレン圧を変えた以外は実施例2と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、比較重合体8~10を得た。
【0107】
比較例11:比較金属錯体4を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体4の調整)
金属錯体1の代わりに比較金属錯体4を用い、実施例1と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、比較重合体11を得た。
【0108】
【0109】
【0110】
金属錯体1を用いて反応温度を変えて重合を行った実施例2~7の重合結果、及び比較金属錯体1、比較金属錯体2または比較金属錯体3を用いて反応温度を変えて重合を行った比較例1~10の重合結果について、反応温度に対する生産性をプロットしたグラフを
図1に示す。
【0111】
実施例2~7及び実施例9~10の結果より、本発明の金属錯体1及び金属錯体2は、高温条件になるほど、生産性及び触媒活性が向上し、高い耐熱性を有することが判った。
比較例1~4の結果及び比較例5~7の結果から、比較金属錯体1及び比較金属錯体2を使用した場合、それぞれ80℃、65℃で生産性及び触媒活性がピークとなり、それ以上の温度では生産性及び触媒活性が低下した。さらに、比較例8~10の結果から、比較金属錯体3を使用した場合、120℃以上の重合では重合体がほとんど得られなかった。
以上より、本発明の金属錯体触媒が、従来の金属錯体触媒に比べて、高い耐熱性を有していることが判った。すなわち、高温条件においても、触媒が分解・失活せずに、高い触媒活性及び生産性を示し、これにより、製造コストを低減化することができる。