(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】新規な光受容タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220224BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20220224BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220224BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220224BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220224BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220224BHJP
C12N 5/16 20060101ALI20220224BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20220224BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220224BHJP
C07K 17/02 20060101ALI20220224BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K14/705 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/16
C12P21/00 C
C12Q1/02
C07K17/02
C07K14/435
(21)【出願番号】P 2017226272
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【復代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】寺北 明久
(72)【発明者】
【氏名】小柳 光正
(72)【発明者】
【氏名】永田 崇
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】PLOS ONE, (2016), Vol.11, No.8, e0161215, pp.1-15
【文献】The Journal of Biological Chemistry, (2002), Vol.277, No.1, pp.40-46
【文献】比較生理生化学, 2008, Vol.25, No.2, pp.50-57
【文献】FEBS Letters 531 (2002) pp.525-528
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロプシンの細胞内第3領域が他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質の細胞内第3領域に置換されており、暗条件下でGタンパク質を活性化し、明条件下でGタンパク質を活性化しなくなることを特徴とするペロプシン変異体タンパク質。
【請求項2】
ペロプシンの細胞内第1領域及び/又は細胞内第2領域及び/又は細胞内C末端領域がそれぞれ前記他のGPCRタンパク質の細胞内第1領域及び/又は細胞内第2領域及び/又は細胞内C末端領域に更に置換されていることを特徴とする請求項1に記載のペロプシン変異体タンパク質。
【請求項3】
ペロプシンがハエトリグモ由来のペロプシン及びナメクジウオ由来のペロプシンである請求項1又は2に記載のペロプシン変異体タンパク質。
【請求項4】
他のGPCRタンパク質がGs又はGiタンパク質と共役するGPCRのタンパク質である請求項1~3のいずれか1項に記載のペロプシン変異体タンパク質。
【請求項5】
他のGPCRタンパク質がクラスAのGPCRタンパク質である請求項1~4のいずれか1項に記載のペロプシン変異体タンパク質。
【請求項6】
(i)配列番号20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76又は78のアミノ酸配列、
(ii)前記アミノ酸配列と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列
(iii)前記(i)若しくは(ii)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列
(iv)前記(i)~(iii)のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるヌクレオチド分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド分子の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
からなる請求項1~5のいずれか1項に記載のペロプシン変異体タンパク質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のペロプシン変異体タンパク質と、全トランス型レチナールとを含んでなる光受容体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のペロプシン変異体タンパク質又は請求項7に記載の光受容体が固定された脂質二重膜。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のペロプシン変異体タンパク質をコードする塩基配列からなる核酸分子。
【請求項10】
塩基配列が配列番号19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75又は77の塩基配列である請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の核酸分子を含んでなるベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターで形質転換された細胞。
【請求項13】
形質転換された細胞が動物細胞である請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
請求項11に記載のベクターを含んでなる、光受容タンパク質又は光受容体の発現用キット。
【請求項15】
更に、全トランス型レチナールを含んでなる、請求項14に記載の光受容体の発現用キット。
【請求項16】
請求項7に記載の光受容体が細胞膜に組み込まれた細胞を用いて細胞内Gタンパク質シグナル伝達を制御する方法。
【請求項17】
ペロプシンをコードする塩基配列において、細胞内第3領域に相当する配列を、他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質をコードする塩基配列における細胞内第3領域に相当する配列に置換する工程、
得られた塩基配列からなる核酸分子で宿主細胞を形質転換する工程、及び
得られた形質転換細胞を適切な条件下で培養する工程
を含むことを特徴とする、ペロプシンの細胞内第3領域が他のGPCRタンパク質の細胞内第3領域に置換されているペロプシン変異体タンパク質を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な光受容タンパク質、及び光による細胞内シグナル伝達の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的とする細胞に光受容タンパク質を遺伝的に導入し、光で非侵襲的に標的細胞の活動やその細胞が関わる行動を制御する手法が近年注目され、光遺伝学と呼ばれている。視覚で使われている視物質と呼ばれる光受容タンパク質は、あらゆる細胞に存在するGタンパク質共役型受容体(人は約800種類持つ)の一種であり、光を吸収するとGタンパク質を活性化する。細胞内でGタンパク質が活性化されるとシグナル伝達に関係する別のタンパク質の機能が調節されることで、環状AMPなどの細胞内二次メッセンジャーの細胞内濃度が変化し、膜電位や遺伝子発現など細胞の状態に様々な変化が引き起こされる。
【0003】
現在は、視物質や視物質の改変タンパク質を神経細胞などに導入し、光刺激によって標的細胞のシグナル伝達系を駆動させる技術が使われている。
生体内では、Gタンパク質共役型受容体により、定常的にGタンパク質シグナル伝達系が活性化される現象が知られている。この現象は、主に、刺激物質(アゴニスト)が定常的に高濃度で存在し受容体に結合する、あるいは、受容体自身が刺激物質と結合しない状態で様々な程度のGタンパク質活性化能(基礎活性)を有することで起こる。
【0004】
前者については、例えば網膜に存在するある種の神経細胞(双極細胞)では、暗い環境下では常に視細胞から神経伝達物質を受け取ることでGタンパク質が活性化されており、視細胞が光を受けると双極細胞が受け取る神経伝達物質量が減少し、Gタンパク質の活性化量が減少する。
後者については、例えば嗅覚系において嗅細胞に発現する受容体の基礎活性の高さによって、嗅細胞の神経投射のパターンが制御されていることが知られている。また、遺伝子の突然変異によって、刺激物質と結合しなくても活性化状態となる構成的活性型変異体が生じる例が知られており、様々な疾患を引き起こす原因となる。よく知られた例の1つは、視物質の構成的活性型変異体により引き起こされ視力の消失を伴う網膜変性症である。
【0005】
これらのような定常的なシグナル伝達においては、秒や分での時間単位での効果のみならず、数日あるいは数週間といった長期間での効果も生じていると考えられる。このような長期間にわたるシグナル伝達系の制御は、従来の技術では困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明の目的は、光による細胞内シグナル伝達の制御を可能とする新規な光受容タンパク質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ペロプシンの細胞内第3領域が他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質の細胞内第3領域に置換されていることを特徴とするペロプシン変異体タンパク質を提供する。
本発明はまた、上記ペロプシン変異体タンパク質と、全トランス型レチナールとを含んでなる光受容体を提供する。
【0008】
本発明はまた、上記ペロプシン変異体又は上記光受容体が固定された脂質二重膜を提供する。
本発明はまた、上記ペロプシン変異体タンパク質をコードする塩基配列からなる核酸分子、該核酸分子を含んでなるベクター、又は該ベクターを含んでなる細胞を提供する。
本発明はまた、上記ベクターを含んでなる、光受容タンパク質又は光受容体の発現用キットを提供する。
本発明は更に、上記光受容体が細胞膜に組み込まれた細胞を用いて細胞内Gタンパク質シグナル伝達を制御する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Gタンパク質の関わる細胞内シグナル伝達系を暗条件下で駆動(ON)し、明条件下で停止(OFF)することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】1~30分間の光照射前後のクモペロプシンと全トランス型レチナールとの混合物の吸収スペクトルを示す。挿入図は、ペロプシンのλmax(=約540nm)付近の吸収スペクトルを示す。
【
図2】ハコクラゲオプシンを発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayによるの結果を示す。発光量(細胞内cAMP濃度を反映)は光刺激前の値で規格化した。
【
図3】野生型クモペロプシン(sペロプシン)及び変異体1(sペロプシン-GsOpL3)を発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayの結果を示す。
【
図4】野生型ナメクジウオペロプシン(aペロプシン)及び変異体2(aペロプシン-GsOpL3)を発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayの結果を示す。
【
図5】ハマダラカオプシンOpn3を発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayの結果を示す。発光量は光刺激前の値で規格化した。
【
図6】変異体3(sペロプシン-GiOpL3)及び変異体4(aペロプシン-GiOpL3)を発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayの結果を示す。発光量は光刺激前の値で規格化した。
【
図7】変異体1(sペロプシン-GsOpL3)及び変異体5(sペロプシン-GsOpL123C)を発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayの結果を示す。
【
図8】変異体3(sペロプシン-GiOpL3)、変異体6(sペロプシン-GiOpL123CT)、変異体7(sペロプシン-GiOpL23CT)、変異体8(sペロプシン-GiOpL3CT)及び変異体9(sペロプシン-GiOpL23)を発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayの結果を示す。
【
図9】変異体10(sペロプシン-β2ARL3)を発現する細胞におけるGloSensor cAMP assayの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ペロプシン変異体タンパク質からなる光受容タンパク質に関する。
本発明のペロプシン変異体タンパク質は、ペロプシンの細胞内第3領域が他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質の細胞内第3領域に置換されていることを特徴とする。
本発明のペロプシン変異体タンパク質は、光受容タンパク質であり、レチナールを結合したとき、光刺激によりレチナールの全トランス型から11-シス型への異性化を触媒する。また、Gタンパク質と共役して、暗中でGタンパク質を活性化し、光刺激によりGタンパク質を活性化しなくなるGPCRとして機能する。
【0012】
本発明において、「ペロプシン」とは、7つの膜貫通αヘリックス領域を有し(したがって、脂質二重膜に組み込まれたときに、7回膜貫通構造を有し)、細胞内第2領域及び第7膜貫通領域にそれぞれ「DRY」モチーフ及び「NPxxY」モチーフ(xは任意のアミノ酸)を含むタンパク質であって、レチナールを結合したとき、光刺激によりレチナールの全トランス型から11-シス型への異性化を触媒し得る光受容タンパク質をいう(「DRY」モチーフは、第3膜貫通領域の細胞内末端部に存在するとされる場合もあるが、本発明においては、細胞内第2領域に含まれるものとする)。ペロプシンのアミノ酸配列は、ハエトリグモペロプシンのアミノ酸配列(配列番号2)と35%以上の配列同一性を有する。本発明に用い得るペロプシンは、天然に存在する(天然型又は野生型)ペロプシンに限らず、天然型アミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失された変異型アミノ酸配列を有するものであってもよい(ただし、上記の定義に該当する限りにおいて)。
本明細書において、「複数個」とは、アミノ酸の置換、付加、挿入及び/又は欠失に関しては、10以下の整数、例えば2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4の整数をいうものとする。
【0013】
1つの実施形態において、ペロプシンの細胞内第1領域及び/又は細胞内第2領域及び/又は細胞内C末端領域はそれぞれ前記他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質の細胞内第1領域及び/又は細胞内第2領域及び/又は細胞内C末端領域に更に置換されていてもよい。
1つの好適な実施形態において、ペロプシンの細胞内第3領域と細胞内第2領域及び/又は細胞内C末端領域はそれぞれ他のGPCRタンパク質の細胞内第3領域と細胞内第2領域及び/又は細胞内C末端領域に置換されている(この態様のペロプシン変異体タンパク質はペロプシンの細胞内第1領域を有する)。より好適な実施形態において、ペロプシンの細胞内第3領域と細胞内第2領域又は細胞内C末端領域がそれぞれ他のGPCRタンパク質の細胞内第3領域と細胞内第2領域又は細胞内C末端領域に置換されている(この態様のペロプシン変異体タンパク質はペロプシンの細胞内第1領域と細胞内C末端領域又は細胞内第2領域を有する)。更により好適な実施形態において、ペロプシンの細胞内第3領域及び細胞内第2領域がそれぞれ他のGPCRタンパク質の細胞内第3領域及び細胞内第2領域に置換されている(この態様のペロプシン変異体タンパク質はペロプシンの細胞内第1領域及び細胞内C末端領域を有する)。
【0014】
よって、換言すれば、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、少なくとも第1~第7膜貫通領域及び細胞外領域がペロプシンに由来し、少なくとも細胞内第3領域が他のGPCRタンパク質に由来し、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域は各々独立してペロプシン又は他のGPCRタンパク質に由来するキメラタンパク質ということもできる。
【0015】
天然型ペロプシンは、由来する生物に関して、特に限定されないが、例えば、節足動物、頭索動物、哺乳動物(霊長類、げっ歯類を含む)、鳥類、魚類のものであり得る。より具体的には、節足動物に由来するものとして、クモ亜綱(特にクモ目、より具体的にはクモ亜目)に属する生物(例えば、Hasarius adansoni[ハエトリグモ]、Cupiennius salei)に由来するペロプシンが挙げられ、頭索動物に由来するものとして、ナメクジウオ綱に属する生物(例えば、Branchiostoma belcheri)に由来するペロプシンが挙げられる。その他の生物由来のペロプシンとしては、ヒト、サル、ウサギ、マウス、ニワトリ、ゼブラフィッシュ(例えば、Danio rerio)に由来するものが挙げ得る。1つの実施形態において、ペロプシンはハエトリグモ又はナメクジウオ由来のペロプシンである。
【0016】
ハエトリグモペロプシンの塩基配列及びアミノ酸配列の一例をそれぞれ配列番号1及び2に示す。アミノ酸配列において、膜貫通領域は38~60位(第1膜貫通領域)、71~98位(第2膜貫通領域)、113~132位(第3膜貫通領域)、152~175位(第4膜貫通領域)、200~221位(第5膜貫通領域)、249~273位(第6膜貫通領域)及び282~307位(第7膜貫通領域)に相当する。細胞内領域は、アミノ酸配列において、第1領域については61~70位(181~210位)、第2領域については133~151位(397~453位)、第3領域については222~248位(664~744位)及びC末端領域については308~344位(922~1032位)に相当する(括弧内は対応する塩基配列における位置を表す)。
【0017】
ナメクジウオペロプシンの塩基配列及びアミノ酸配列の一例をそれぞれ配列番号3及び4に示す。アミノ酸配列において、膜貫通領域は38~60位(第1膜貫通領域)、71~98位(第2膜貫通領域)、113~132位(第3膜貫通領域)、152~175位(第4膜貫通領域)、200~221位(第5膜貫通領域)、257~281位(第6膜貫通領域)及び290~315位(第7膜貫通領域)に相当する。細胞内領域は、アミノ酸配列において、第1領域については61~70位(181~210位)、第2領域については133~151位(397~453位)、第3領域については222~256位(664~768位)及びC末端領域については316~364位(946~1092位)に相当する(括弧内は対応する塩基配列における位置を表す)。
【0018】
ヒト、マウス、ニワトリ及びゼブラフィッシュ(Danio rerio)ペロプシンの塩基配列及びアミノ酸配列の一例はそれぞれ配列5、7、9及び11並びに配列番号6、8、10及び12に示す。アミノ酸配列において、膜貫通領域は27~49位(第1膜貫通領域)、60~87位(第2膜貫通領域)、102~121位(第3膜貫通領域)、141~164位(第4膜貫通領域)、189~210位(第5膜貫通領域)、240~264位(第6膜貫通領域)及び273~298位(第7膜貫通領域)に相当する。細胞内領域は、アミノ酸配列において、第1領域については50~59位(148~177位)、第2領域については122~140位(364~420位)、第3領域については211~239位(631~717位)及びC末端領域については299~337/334位(895~1011/1002位)に相当する(括弧内は対応する塩基配列における位置を表す)。
【0019】
天然型ペロプシンには、上記の具体的なペロプシンをコードする遺伝子(ペロプシン遺伝子)とオーソログである遺伝子(オーソロガス遺伝子)にコードされているペロプシンも含まれる。
他の具体的ペロプシンについて、膜貫通領域、細胞内領域及び細胞外領域は容易に決定できる。
【0020】
本発明において、アミノ酸配列に関して、特定の生物に「由来する」とは、(i)当該特定の生物において天然に存在するアミノ酸配列(天然型アミノ酸配列;例えば、配列番号2、4、6、8、10又は12)、(ii)該天然型アミノ酸配列と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列、(iii)該天然型アミノ酸配列若しくは該天然型アミノ酸配列と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列、及び(iv)前記(i)~(iii)のアミノ酸配列、該天然型アミノ酸配列と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるアミノ酸配列をいう。
【0021】
例えば、ペロプシンは、(i)配列番号2、4、6、8、10若しくは12のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は(ii)配列番号2、4、6、8、10若しくは12のアミノ酸配列と少なくとも90%(好ましくは、少なくとも95%)の配列相同性を有するアミノ酸配列からなり、細胞内第2領域及び第7膜貫通領域にそれぞれ「DRY」モチーフ及び「NPxxY」モチーフを含み、光刺激によりレチナールの全トランス型から11-シス型への異性化を触媒し得るタンパク質、(iii)配列番号2、4、6、8、10若しくは12のアミノ酸配列若しくは(ii)のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなり、細胞内第2領域及び第7膜貫通領域にそれぞれ「DRY」モチーフ及び「NPxxY」モチーフを含み、光刺激によりレチナールの全トランス型から11-シス型への異性化を触媒し得るタンパク質、又は(iv)配列番号1、3、5、7、9若しくは11の塩基配列若しくは(ii)若しくは(iii)のタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされ、細胞内第2領域及び第7膜貫通領域にそれぞれ「DRY」モチーフ及び「NPxxY」モチーフを含み、光刺激によりレチナールの全トランス型から11-シス型への異性化を触媒し得るタンパク質であり得る。
【0022】
本発明において、配列相同性は、2つの配列をBlastアルゴリズム(例えば、BLAST 2.0;National Center for Biotechnology Information(NCBI)のサイトから入手可能)のデフォルトパラメータを用いて決定することができる。
本発明において、ストリンジェントな条件とは、例えば、5×又は6×SSC(50%ホルムアミドを含んでもよい)中での少なくとも60℃(例えば63℃、65℃、68℃、70℃)でのハイブリダイゼーションをいう。このストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、0.1~1×SSC中での約40℃~60℃での洗浄処理を伴ってもよい。1×SSCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウムを含有する溶液を意味する。
【0023】
本発明において、「他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質」とは、「ペロプシン」以外のGPCRファミリータンパク質をいう。
GPCRは、例えば、Gs又はGi(Gi/o)タンパク質と共役するGPCRであり得る。Gsタンパク質と共役するGPCRの例として、Gs共役型オプシン、β1、β2及びβ3アドレナリン受容体、D1ドーパミン受容体、5-HT4セロトニン受容体、H2ヒスタミン受容体、A1アデノシン受容体、嗅覚受容体を挙げ得る。Giタンパク質と共役するGPCRの例として、Gi共役型オプシン、α2アドレナリン受容体、D2ドーパミン受容体、5-HT1セロトニン受容体、H3、H4ヒスタミン受容体、M2アセチルコリン受容体、A2アデノシン受容体、GABAB受容体、オピオイド受容体、味覚受容体、グループ2、3の代謝型グルタミン酸受容体(mGluR2、mGluR3、mGluR4、mGluR6、mGluR7、mGluR8)を挙げ得る。
また、GPCRは、例えば、クラスAのGPCR(ロドプシン様受容体又はロドプシンファミリー)であり得る。クラスAのGPCRとしては、例えば、ロドプシン(タンパク質としてはオプシン)、アドレナリン受容体、ヒスタミン受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体、嗅覚受容体、味覚受容体を挙げ得る。
【0024】
ハコクラゲオプシンの塩基配列及びアミノ酸配列の一例をそれぞれ配列番号13及び14に示す。細胞内領域は、アミノ酸配列において、第1領域については31~40位(91~120位)、第2領域については103~123位(307~369位)、第3領域については194~228位(580~684位)及びC末端領域については290~330位(868~990位)に相当する(括弧内は対応する塩基配列における位置を表す)。
【0025】
ハマダラカオプシン(Opn3)の塩基配列及びアミノ酸配列の一例をそれぞれ配列番号15及び16に示す。細胞内領域は、アミノ酸配列において、第1領域については49~58位(145~174位)、第2領域については121~139位(361~417位)、第3領域については210~233位(628~699位)及びC末端領域については293~330位(877~990位)に相当する(括弧内は対応する塩基配列における位置を表す)。
【0026】
β2アドレナリン受容体の塩基配列及びアミノ酸配列の一例をそれぞれ配列番号17及び18に示す。細胞内領域は、アミノ酸配列において、第1領域については58~67位(172~201位)、第2領域については136~149位(406~447位)、第3領域については221~272位(661~816位)及びC末端領域については334~413位(1000~1239位)に相当する(括弧内は対応する塩基配列における位置を表す)。
【0027】
ペロプシンの細胞内第3領域その他の領域と置換されるべき他のGPCRタンパク質における具体的領域の同定及び具体的な連結/切断部位の特定は、例えば、両アミノ酸配列の配列アラインメントや立体構造のコンピュータモデリングなどに基いて行うことができる。
【0028】
1つの具体的実施形態において、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、ハエトリグモペロプシンの細胞内第3領域がハコクラゲオプシン(Gsタンパク質に共役するGPCRタンパク質)の細胞内第3領域に置換されているハエトリグモペロプシン変異体タンパク質である。換言すれば、この実施形態のタンパク質は、第1~第7膜貫通領域及び細胞外領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハコクラゲオプシンに由来し、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域は各々独立してハエトリグモペロプシン又はハコクラゲオプシンに由来するキメラタンパク質である。この形態において、好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハコクラゲオプシンに由来し、細胞内第2領域及びC末端領域は各々独立してハエトリグモペロプシン又はハコクラゲオプシンに由来する。より好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハコクラゲオプシンに由来し、細胞内第2領域及びC末端領域の一方がハエトリグモペロプシンに由来し、他方はハコクラゲオプシンに由来する。更により好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域並びに細胞内第1領域及びC末端領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第2及び第3領域がハコクラゲオプシンに由来する。
上記態様のペロプシン変異体タンパク質(キメラタンパク質)のアミノ酸配列及び該アミノ酸配列をコードする塩基配列の例を配列番号19~28に示す。
【0029】
別の1つの具体的実施形態において、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、ハエトリグモペロプシンの細胞内第3領域がβアドレナリン受容体(Gsタンパク質に共役するGPCRタンパク質)の細胞内第3領域に置換されているハエトリグモペロプシン変異体タンパク質である。換言すれば、この実施形態のタンパク質は、第1~第7膜貫通領域及び細胞外領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がβアドレナリン受容体に由来し、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域は各々独立してハエトリグモペロプシン又はβアドレナリン受容体に由来するキメラタンパク質である。この形態において、好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がβアドレナリン受容体に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域は各々独立してハエトリグモペロプシン又はβアドレナリン受容体に由来する。より好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がβアドレナリン受容体に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域の一方がハエトリグモペロプシンに由来し、他方はβアドレナリン受容体に由来する。更により好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域並びに細胞内第1領域及びC末端領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第2及び第3領域がβアドレナリン受容体に由来する。
上記態様のペロプシン変異体タンパク質において、βアドレナリン受容体がヒトβ2アドレナリン受容体であるもののアミノ酸配列及び該アミノ酸配列をコードする塩基配列の例を配列番号29~38に示す。
【0030】
別の1つの具体的実施形態において、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、ハエトリグモペロプシンの細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3(Giタンパク質に共役するGPCRタンパク質)の細胞内第3領域に置換されているハエトリグモペロプシン変異体タンパク質である。換言すれば、この実施形態のタンパク質は、第1~第7膜貫通領域及び細胞外領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来し、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域は各々独立してハエトリグモペロプシン又はハマダラカオプシンOpn3に由来するキメラタンパク質である。この形態において、好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域は各々独立してハエトリグモペロプシン又はハマダラカオプシンOpn3に由来する。より好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域の一方がハエトリグモペロプシンに由来し、他方はハマダラカオプシンOpn3に由来する。更により好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域並びに細胞内第1領域及びC末端領域がハエトリグモペロプシンに由来し、細胞内第2及び第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来する。
上記態様のペロプシン変異体タンパク質のアミノ酸配列及び該アミノ酸配列をコードする塩基配列の例を配列番号39~48に示す。
【0031】
別の1つの具体的実施形態において、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、ナメクジウオペロプシンの細胞内第3領域がハコクラゲオプシンの細胞内第3領域に置換されているナメクジウオペロプシン変異体タンパク質である。換言すれば、この実施形態のタンパク質は、第1~第7膜貫通領域及び細胞外領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハコクラゲオプシンに由来し、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域は各々独立してナメクジウオペロプシン又はハコクラゲオプシンに由来するキメラタンパク質である。この形態において、好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハコクラゲオプシンに由来し、細胞内第2領域及びC末端領域は各々独立してナメクジウオペロプシン又はハコクラゲオプシンに由来する。より好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハコクラゲオプシンに由来し、細胞内第2領域及びC末端領域の一方がナメクジウオペロプシンに由来し、他方はハコクラゲオプシンに由来する。更により好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域並びに細胞内第1領域及びC末端領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第2及び第3領域がハコクラゲオプシンに由来する。
上記態様のペロプシン変異体タンパク質(キメラタンパク質)のアミノ酸配列及び該アミノ酸配列をコードする塩基配列の例を配列番号49~58に示す。
【0032】
別の1つの具体的実施形態において、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、ナメクジウオペロプシンの細胞内第3領域がβアドレナリン受容体の細胞内第3領域に置換されているナメクジウオペロプシン変異体タンパク質である。換言すれば、この実施形態のタンパク質は、第1~第7膜貫通領域及び細胞外領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がβアドレナリン受容体に由来し、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域は各々独立してナメクジウオペロプシン又はβアドレナリン受容体に由来するキメラタンパク質である。この形態において、好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がβアドレナリン受容体に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域は各々独立してナメクジウオペロプシン又はβアドレナリン受容体に由来する。より好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がβアドレナリン受容体に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域の一方がナメクジウオペロプシンに由来し、他方はβアドレナリン受容体に由来する。更により好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域並びに細胞内第1領域及びC末端領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第2及び第3領域がβアドレナリン受容体に由来する。
上記態様のペロプシン変異体タンパク質において、βアドレナリン受容体がヒトβ2アドレナリン受容体であるもののアミノ酸配列及び該アミノ酸配列をコードする塩基配列の例を配列番号59~68に示す。
【0033】
別の1つの具体的実施形態において、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、ナメクジウオペロプシンの細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3の細胞内第3領域に置換されているナメクジウオペロプシン変異体タンパク質である。換言すれば、この実施形態のタンパク質は、第1~第7膜貫通領域及び細胞外領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来し、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域は各々独立してナメクジウオペロプシン又はハマダラカオプシンOpn3に由来するキメラタンパク質である。この形態において、好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域は各々独立してナメクジウオペロプシン又はハマダラカオプシンOpn3に由来する。より好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域及び細胞内第1領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来し、細胞内第2領域及びC末端領域の一方がナメクジウオペロプシンに由来し、他方はハマダラカオプシンOpn3に由来する。更により好ましくは、第1~第7膜貫通領域、細胞外領域並びに細胞内第1領域及びC末端領域がナメクジウオペロプシンに由来し、細胞内第2及び第3領域がハマダラカオプシンOpn3に由来する。
上記態様のペロプシン変異体タンパク質のアミノ酸配列及び該アミノ酸配列をコードする塩基配列の例を配列番号69~78に示す。
【0034】
更なる1つの具体的実施形態において、本発明のペロプシン変異体タンパク質は、(i)配列番号20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76若しくは78のアミノ酸配列、又は(ii)前記アミノ酸配列と少なくとも90%(好ましくは、少なくとも95%)の配列相同性を有するアミノ酸配列、又は(iii)前記(i)若しくは(ii)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列、又は(iv)前記(i)~(iii)のアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75又は77)からなるヌクレオチド分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド分子の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列 からなる。
【0035】
本発明のペロプシン変異体タンパク質は、全トランス型レチナールと結合させてもよい。本発明のペロプシン変異体タンパク質は、全トランス型レチナールと結合するとGタンパク質共役型光受容体(光応答性GPCR)を構成する。
本発明の光受容体は、後述する実施例において示されているように、光刺激なしの状態(暗中)で、当該受容体と共役しているGタンパク質を活性化し、光刺激(照射)されるとGタンパク質を活性化しなくなる。
本発明のペロプシン変異体タンパク質又は光受容体は、脂質二重膜に固定され又は組み込まれていてもよい。脂質二重膜は、細胞膜であり得、又はリポソームを構成している膜であり得る。脂質二重膜が細胞である場合、他のGPCRタンパク質は当該細胞に存在するものであってもよいし、存在しないものであってもよい。
【0036】
本発明の光受容体が細胞膜に組み込まれた細胞(特に、ヒトを含む動物細胞)は、細胞内Gタンパク質シグナル伝達を制御する方法に用いることができる。本発明の制御方法は、既知の光受容性GPCRとは異なり、暗中で細胞内Gタンパク質シグナル伝達が駆動又は亢進(ON)状態にあり、光刺激/照射により細胞内Gタンパク質シグナル伝達を停止又は抑制(OFF)するものである。
本発明の光受容体が細胞膜に組み込まれた細胞は、Gタンパク質共役受容体に対するインバースアゴニスト活性(当該受容体の基礎活性を抑える活性)を持つ薬剤が細胞や生体にもたらす変化を、当該薬剤を投与する実験より高い時間・空間分解能で解析するために用いることができる。例えば、他のGPCRがβ2アドレナリン受容体であるペロプシン変異体タンパク質から構成される光受容体が細胞膜に組み込まれた細胞を用いることにより、β遮断薬によるアドレナリン受容体の基礎活性の抑制が当該細胞においてもたらす変化を高い時間・空間分解能で解析することが可能となる。
また、本発明の光受容体は特定の細胞(例えば、嗅細胞)に組み込むことにより、GPCRを介する生理的な定常的シグナル伝達の効果・役割について、遺伝子のコンディショナルな発現やノックアウトのような従来の手法に比して遥かに高い時間・空間分解能で解析することが可能となる。
【0037】
本発明はまた、ペロプシン変異体タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸分子に関する。
本発明の核酸分子は、上記で説明したペロプシン変異体タンパク質のいずれかのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸分子である。本発明において、核酸分子はDNA分子であってもRNA分子であってもよい。
本発明の核酸分子は、配列番号19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75又は77の塩基配列からなってもよい。
本発明の核酸分子は、例えば、制限酵素分解、エキソヌクレアーゼ分解及びライゲーションのような標準的技術を用いて、ペロプシンをコードする塩基配列中の細胞内第3領域並びに必要に応じて細胞内第1領域及び/又は第2領域及び/又はC末端領域に相当する配列を、他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質をコードする塩基配列中の対応配列に組み換えることにより作製することができる。
【0038】
本発明の核酸分子はベクターに含まれ、又は組み込まれていてもよい。ベクターの骨格は、目的とする宿主細胞(例えば、原核生物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞など)において自律複製が可能であるか、又はその染色体中への組み込みが可能であるように適切に選択し得る。ベクターは、適切な選択マーカー(例えば薬剤耐性遺伝子)を含んでいてもよい。ベクターはプラスミドであり得る。
ベクターは、宿主細胞における発現に適切なプロモーター(例えば、CMVプロモーター)その他の種々の発現調節エレメント(例えばターミネーター、エンハンサー)を含んでもよい(このようなベクターは「発現ベクター」と呼ばれる)。発現ベクターのタイプ及び調節エレメントの種類は、宿主細胞に応じて適切に選択し得る。
本発明のベクターを用いて細胞(例えば、原核生物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞など。好ましくは動物細胞(HEK293細胞、COS細胞、CHO細胞、BHK細胞、3T3細胞、HeLa細胞など))を形質転換してもよい。形質転換された細胞は、例えば本発明の核酸分子の維持・増殖又は本発明のペロプシン変異体タンパク質の発現に有用である。
本発明のベクターはキットを構成していてもよい。本発明のベクターを含むキットは、本発明のペロプシン変異体タンパク質又は光受容体の発現に有用である。キットは、光受容体の発現に用いられる場合、更に全トランス型レチナールを含んでいてもよい。
【0039】
本発明はまた、ペロプシンの細胞内第3領域が他のGPCRタンパク質の細胞内第3領域に置換されているペロプシン変異体タンパク質を製造する方法に関する。本発明の製造方法は、(a)ペロプシンをコードする塩基配列において、細胞内第3領域に相当する配列を、他のGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質をコードする塩基配列における細胞内第3領域に相当する配列に置換する工程、
(b)得られた塩基配列からなる核酸分子で宿主細胞を形質転換する工程、及び
(c)得られた形質転換細胞を適切な条件下で培養する工程
を含むことを特徴とする。
【0040】
発現ベクターは、当該分野において公知の任意の発現ベクターを用いることができ、用いようとする宿主細胞との適切な組合せを考慮して容易に選択される。
宿主細胞としては、ポリペプチド/タンパク質の発現に適切な宿主細胞を用いることができ、例えば、大腸菌(Escherichia coli)細胞のような原核細胞、酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae)、昆虫、植物細胞及び動物細胞のような真核細胞が挙げられる。
本発明のペロプシン変異体タンパク質の発現に適切な条件(例えば培地、培養温度など)は、宿主細胞、発現に用いたベクター(例えばプラスミド)などを考慮して適切に決定できる。
【0041】
本発明に関連して必要となる遺伝子組換え/発現技術の詳細は、標準的な教科書(例えば、Ausubel, F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、 John Wiley and Sons、 New York、 NY;Sambrook,J.ら(1989)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)に記載されている。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例によって、より詳細に説明する。
実施例1:クモペロプシンの細胞内第3領域をクラゲオプシン(Gs共役型GPCR)の細胞内第3領域で置換したペロプシン変異体タンパク質
(1)発現ベクターの構築
ハエトリグモ(Hasarius adansoni)のペロプシン(以下、単に「クモペロプシン」と呼ぶ)をコードするDNA断片(accession No. AB525082;配列番号1)の664番目~744番目(細胞内第3領域に相当)の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、ハコクラゲ(Carybdea rastonni)のオプシン(以下、単に「クラゲオプシン」と呼ぶ)(accession No. AB435549;配列番号13)の580番目~684番目(細胞内第3領域に相当)の塩基配列に置き換えた変異体(キメラ)DNA断片(配列番号19)を作製した。
この変異体DNA断片を動物細胞用発現ベクターpcDNA3.1(Invitrogen社)のマルチクローニングサイトに挿入した。この発現ベクターは、配列番号20に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体1:sペロプシン-GsOpL3)をコードする。
野生型のクモペロプシン及びクラゲオプシンを各々コードするDNA断片を含む発現ベクターも構築した。
【0043】
(2)レチナール異性化に関する分光分析
ヒト腎臓由来培養細胞(HEK293S)を、リン酸カルシウム法により、C末端に1D4エピトープ配列を有するクモペロプシンをコードするDNA断片を含む発現ベクターでトランスフェクトし、5%CO
2インキュベーター内で37℃にてインキュベートした。ペロプシン含有細胞膜を、遠心分離により採集し、過剰の全トランス型レチナールと4℃にて一晩インキュベートしてペロプシンベースの色素を構成した。この色素を、140mM NaClを含む50mM HEPES緩衝液(pH 6.5)(緩衝液A)中1%(w/v)ドデシルβ-D-マルトシド(DM)で抽出し、1D4-アガロースに結合させ、0.1% DM及び0.1mg/ml卵黄L-α-ホスファチジルコリンを含む緩衝液Aで洗浄し、1D4エピトープ配列に対応するペプチドを含む洗浄緩衝液で溶出させた。精製サンプルの吸光スペクトルは、分光光度計(UV2450, Shimadzu)を用いて少なくとも3回測定し、平均スペクトルを算出した。サンプルの光照射には、O-56ガラスカットオフフィルター(AGC TECHNO GLASS)を備える1kWハロゲンランプを用いた。
結果
約0.01A.U.のクモペロプシン及び0.4A.U.の全トランス型レチナールを混合して、橙色光(>550nm)を照射すると、390nm付近の吸光度が約4%低下した(
図1)。このことは、クモペロプシンが全トランス型レチナールを異性化し得ることを示している。
【0044】
(3)細胞内環状AMP濃度の測定
方法
HEK293S細胞を35mmディッシュあるいは96穴プレートに播種し、5%CO2インキュベーター内で37℃にて、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/F12培地中で一晩培養した。
ポリエチレンイミンを用いて、上記で構築した発現ベクターの各々とGloSensor 22Fプラスミド(Promega)とでHEK293S細胞をトランスフェクトして一晩培養した後、発色団としてクラゲオプシンを発現する細胞には11-シス型レチナール、ペロプシン野生型及び変異体を発現する細胞には全トランス型レチナールを加え、更に一晩培養した。
以降の操作は全てペロプシンが反応しない670 nm以上の赤色光下で行った。
細胞内環状AMP(cAMP)濃度はGloSensor cAMP Assay(プロメガ社)を用いて測定した。
培地を、10% FBS及び2% GloSernsor cAMP reagent(プロメガ社)を含有するDMEM培地に交換した。cAMPの存在に起因するルシフェラーゼ発光をルミノメーターで計測した。
光刺激には、35mmディッシュのサンプルでは緑色LED光源からの光を用いて5秒間の刺激を行い、96穴プレートのサンプルでは緑色カラーフィルターを通した白色LED光源からの光を用いて、1分間刺激した。
【0045】
結果
クラゲオプシンを発現する細胞は光刺激後に発光量の上昇、すなわち細胞内cAMPレベルの上昇が観察された(
図2)。この上昇は、クラゲオプシンが光刺激によりGsタンパク質を活性化した結果、Gタンパク質シグナル伝達を促進したことによるものと考えられる。
変異体1を発現する細胞は、光刺激前において、野生型クモペロプシンを発現する細胞に比べ有意に高い発光量(すなわち、細胞内cAMP濃度)を示した(
図3)。光刺激後、野生型クモペロプシンを発現する細胞では検出可能な発光量(細胞内cAMP濃度)の変化は観察されなかった一方、変異体1を発現する細胞では、発光量(細胞内cAMP濃度)の有意な低下が観察された(
図3)。このことから、野生型クモペロプシンは、Gタンパク質シグナル伝達を検出可能な程度に活性化しない一方、クラゲオプシン(Gs共役型GPCR)の細胞内第3領域を有する変異体1は、クラゲオプシンとは逆に、暗中でGsタンパク質を活性化し、光刺激によりGsタンパク質の活性化を抑制することが理解される。
【0046】
実施例2:ナメクジウオペロプシンの細胞内第3領域をクラゲオプシンの細胞内第3領域で置換したペロプシン変異体タンパク質
ナメクジウオ(Branchiostoma belcheri)のペロプシンをコードするDNA断片(accession No. AB050610;配列番号3)の664番目~768番目(細胞内第3領域に相当)の塩基配列をクラゲオプシンの580番目~684番目の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号49)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号50に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体2:aペロプシン-GsOpL3)をコードする。
野生型のナメクジウオペロプシンをコードするDNA断片を含む発現ベクターも構築した。
実施例1と同様にして、上記各発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293Sについて、細胞内cAMP濃度を測定した。
【0047】
結果
変異体2を発現する細胞は、光刺激前において、野生型ナメクジウオペロプシンを発現する細胞に比べ有意に高い発光量(すなわち、細胞内cAMP濃度)を示した(
図4)。光刺激後、野生型ナメクジウオペロプシンを発現する細胞では検出可能な発光量(細胞内cAMP濃度)の変化は観察されなかった一方、変異体2を発現する細胞では、変異体1を発現する細胞と同様な有意な発光量(細胞内cAMP濃度)低下が観察された(
図4)。このことから、野生型ナメクジウオペロプシンは、Gsシグナル伝達を検出可能な程度に活性化しない一方、Gs共役型GPCRの細胞内第3領域を有する変異体2は、変異体1と同様に、暗中でGsタンパク質を活性化し、光刺激によりGsタンパク質の活性化を抑制することが理解される。また、下記の結果とも併せると、細胞内第3領域の置換による暗中でGタンパク質を活性化し、光刺激によりGタンパク質活性化の抑制という特徴が、他の前口動物及び後口動物のペロプシンにも共通するものであることを示している。
【0048】
実施例3:ペロプシンの細胞内第3領域をカオプシン(Gi共役型GPCR)の細胞内第3領域で置換したペロプシン変異体タンパク質
クモペロプシンをコードするDNA断片の664番目~744番目の塩基配列をハマダラカオプシンOpn3(以下、単に「カOpn3」と呼ぶ)(accession No. AB753162;配列番号15)の628番目~699番目(細胞内第3領域に相当)の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号39)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号40に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体3:sペロプシン-GiOpL3)をコードする。
また、ナメクジペロプシンをコードするDNA断片の664番目~768番目の塩基配列をハマダラカOpn3の628番目~699番目の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号69)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号70に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体4:aペロプシン-GiOpL3)をコードする。
カOpn3をコードするDNA断片を含む発現ベクターも構築した。
実施例1と同様にして、上記各発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293Sについて、細胞内cAMP濃度を測定した。
【0049】
結果
カOpn3を発現する細胞は光刺激後に発光量の低下、すなわち細胞内cAMPレベルの低下が観察された(
図5)。この低下は、カOpn3が光刺激によりGiタンパク質の活性化を抑制した結果、Gタンパク質シグナル伝達を抑制したことによるものと考えられる。
変異体3又は変異体4を発現する細胞は、光刺激後に発光量(すなわち、細胞内cAMP濃度)の有意な上昇が観察された(
図6)。このことから、カOpn3(Gi共役型GPCR)の細胞内第3領域を有する変異体3及び4は、カOpn3とは逆に、暗中でGiタンパク質を活性化し、光刺激によりGiタンパク質の活性化を抑制することが理解される。
【0050】
実施例4:クモペロプシンの細胞内第1~第3領域及びC末端領域をそれぞれクラゲオプシンの細胞内第1~第3領域及びC末端で置換したペロプシン変異体タンパク質
クモペロプシンをコードするDNA断片の181番目~210番目(細胞内第1領域に相当)、397番目~453番目(細胞内第2領域に相当)、664番目~744番目及び922番目以降(C末端領域に相当)の4箇所の塩基配列をそれぞれクラゲオプシンの91番目~120番目(細胞内第1領域に相当)、307番目~369番目(細胞内第2領域に相当)、580番目~684番目及び868番目以降(C末端領域に相当)の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号21)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号22に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体5:sペロプシン-GsOpL123C)をコードする。
実施例1と同様にして、上記発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293Sについて、細胞内cAMP濃度を測定した。
【0051】
結果
光刺激前(暗中)において、変異体5を発現する細胞は変異体1を発現する細胞より約30倍高い発光量を示した(
図7)。また、光刺激により、発光量は、変異体1を発現する細胞では約40%減少した一方、変異体5を発現する細胞では約86%減少した(
図7)。このことから、細胞内第3領域の置換に加えて、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域も置換することにより、ペロプシン変異体タンパク質は、光刺激時のGタンパク質活性化能力が増強されることが理解される。
【0052】
実施例5:クモペロプシンの細胞内領域の種々の組合せをカOpn3の対応する細胞内領域で置換したペロプシン変異体タンパク質
クモペロプシンをコードするDNA断片の181番目~210番目、397番目~453番目、664番目~744番目及び922番目以降の4箇所の塩基配列をそれぞれカOpn3の145番目~174番目(細胞内第1領域に相当)、361番目~417番目(細胞内第2領域に相当)、628番目~699番目(細胞内第3領域に相当)及び877番目~990番目(C末端領域に相当)の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号41)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号42に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体6;sペロプシン-GiOpL123CT)をコードする。
また、クモペロプシンをコードするDNA断片の397番目~453番目、664番目~744番目及び922番目以降の3箇所の塩基配列をそれぞれカOpn3の361番目~417番目、628番目~699番目及び877番目~990番目の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号43)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号44に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体7;sペロプシン-GiOpL23CT)をコードする。
【0053】
また、クモペロプシンをコードするDNA断片の664番目~744番目及び922番目以降の2箇所の塩基配列をそれぞれカOpn3の628番目~699番目及び877番目~990番目の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号45)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号46に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体8;sペロプシン-GiOpL3CT)をコードする。
更に、クモペロプシンをコードするDNA断片の397番目~453番目及び664番目~744番目の2箇所の塩基配列をそれぞれカOpn3の361番目~417番目及び628番目~699番目の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号47)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号48に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体9;sペロプシン-GiOpL23)をコードする。
実施例1と同様にして、上記各発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293Sについて、細胞内cAMP濃度を測定した。
【0054】
結果
変異体6~9を発現する細胞は、光刺激後に、変異体3を発現する細胞より大きな発光量(すなわち、細胞内cAMP濃度)の上昇が観察された(変異体3<変異体6<変異体7<変異体8<変異体9;
図8)。このことから、再び、細胞内第3領域の置換に加えて、細胞内第1及び第2領域並びにC末端領域も置換することにより、ペロプシン変異体タンパク質は、光刺激時のGタンパク質活性化能力が増強されることが理解される。
再び、IL3に加えて、その他の細胞内領域を置換すると、クモペロプシン変異体によるGタンパク質の活性化を増強することができる。
【0055】
実施例6:クモペロプシンの細胞内第3領域をβアドレナリン受容体の細胞内第3領域で置換したペロプシン変異体タンパク質
クモペロプシンをコードするDNA断片の664番目~768番目の塩基配列をヒトβ2-アドレナリン受容体の661番目~816番目の塩基配列に置き換えた変異体DNA断片(配列番号29)を作製してpcDNA3.1に挿入することにより発現プラスミドを構築した。この発現ベクターは、配列番号30に示すアミノ酸配列を有するペロプシン変異体タンパク質(変異体10;sペロプシン-β2ARL3)をコードする。
実施例1と同様にして、上記発現ベクターでトランスフェクトしたHEK293Sについて、細胞内cAMP濃度を測定した。
【0056】
結果
変異体10を発現する細胞は、変異体1又は2を発現する細胞と同様に、光刺激により発光量(細胞内cAMP濃度)の低下が観察された(
図9)。このことから、再び、Gs共役型GPCRの細胞内第3領域を有する変異体は、暗中でGsタンパク質を活性化し、光刺激によりGsタンパク質の活性化を抑制することが証明される。
【0057】
以上のことから、ペロプシンの細胞内第3領域をGタンパク質共役受容体(GPCR)タンパク質の細胞内第3領域に置換した変異体(キメラ)タンパク質は、光受容タンパク質として機能し、全トランス型レチナールに結合することで、暗中でGタンパク質を活性化し、光刺激によりGタンパク質の活性化を抑制することが理解される。
【0058】
上記の実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的形態及び例のみに限定されるものではない。本明細書に記載された具体的な構成、手段及び方法は、本発明の要旨を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能である。
【配列表】