IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

特許7029188馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法
<>
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図1
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図2
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図3
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図4
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図5
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図6
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図7
  • 特許-馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20220224BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C12N5/077
C12Q1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020022547
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126073
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-03-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「創薬基盤推進研究事業」「革新的医薬品等開発のための次世代安全性評価法の開発・標準化と基盤データ取得」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 歩
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158417(WO,A1)
【文献】押方歩,竹澤俊明,ヒト肝における薬物代謝物の胆管内排泄を外挿する新しい共培養システム,第23回肝細胞研究会 プログラム・抄録集,2016年07月06日,p. 56 P3-1
【文献】押方歩,他,HepG2細胞(ヒト肝がん細胞株)の肝機能を賦活化する新しい培養法,第21回肝細胞研究会 プログラム・抄録集,2014年11月12日,p. 34 O-09
【文献】竹澤俊明,押方歩,培養技術の革新を目指した細胞封入用デバイスの開発:細胞培養担体および物質交換用半透膜として機能するコラーゲンビトリゲル膜,日本組織培養学会 第91回大会,2018年06月20日,Vol. 37,p. 91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一細胞培養物と、第二細胞培養物との共培養により馴化培養液を得る、馴化培養液の製造方法であって、
前記第一細胞培養物は、コラーゲンビトリゲル膜上で培養して賦活化した複数の肝細胞株を含み、前記肝細胞株は前記肝細胞株間に毛細胆管様構造を構築し、
前記第二細胞培養物は、肝外胆管上皮細胞株を含み、前記第一細胞培養物における前記肝細胞株間の前記毛細胆管様構造に蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する、馴化培養液の製造方法。
【請求項2】
前記肝細胞株は、HepG2-NIAS細胞である、請求項1に記載の馴化培養液の製造方法。
【請求項3】
前記第二細胞培養物の細胞株は、TFK-1細胞である、請求項1又は2に記載の馴化培養液の製造方法。
【請求項4】
前記馴化培養液は、無血清培養液である、請求項1~3のいずれか一項に記載の馴化培養液の製造方法。
【請求項5】
更に、冷蔵保存する、請求項1~4のいずれか一項に記載の馴化培養液の製造方法。
【請求項6】
肝細胞株による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法であって、
肝細胞株間の毛細胆管様構造に胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物が蓄積された第一細胞培養物を、請求項1~5のいずれか一項に記載の馴化培養液の製造方法により得られた馴化培養液を用いて培養することで、前記毛細胆管様構造へ蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する、評価方法。
【請求項7】
前記候補化合物の濃度は、ヒト血中濃度相当の濃度である、請求項6に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、馴化培養液、並びに、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬会社の薬物動態研究では、小腸より吸収され肝臓の類洞血管より肝実質細胞に取り込まれた薬物が、どのような代謝物質として、又は未代謝のまま、胆汁中又は血中に排泄されるのかを正確に外挿できるヒト肝細胞培養モデルの開発が求められている。
特に、薬物の肝代謝物の胆汁中への排泄は種差が大きいため実験動物ではヒトを外挿できない。したがって、ヒト肝細胞培養モデルを利用した試験法の開発が求められている。
【0003】
このような要求に対して、胆汁中排泄感受性の候補化合物の評価可能な培養系として、サンドイッチ培養法が挙げられる。
毛細胆管様構造を形成できる肝細胞のサンドイッチ培養系に薬物を取り込ませた後、そのまま回収した培養液には、血中に排泄される肝代謝物のみが含まれるが、EGTA等の試薬で毛細胆管様構造を破壊して回収した培養液には、血中及び胆汁中に排泄される肝代謝物が含まれる。そこで、後者より前者を差し引くことで、血中に排泄される肝代謝物のみならず、胆汁中に排泄される肝代謝物も解析する技術が開発されてきた(例えば、特許文献1~3参照。)。
【0004】
しかしこの技術は、EGTA等の試薬で毛細胆管様構造を破壊して肝代謝物を回収するため、生体内の薬物動態を反映していない。このような背景から、本発明の発明者は先に、「コラーゲンビトリゲル膜チャンバー内で毛細胆管様構造を形成させたHepG2細胞」に薬物を取込ませた後、「単層培養したTFK-1細胞」の上に設置して共培養することで、毛細胆管様構造に蓄積された肝代謝物をTFK-1細胞のアピカル側の培養液中に排泄させて解析する技術を開発した(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2000/055355号
【文献】国際公開第2005/118787号
【文献】特許第6087254号公報
【文献】国際公開第2016/158417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EGTA等の試薬で毛細胆管様構造を破壊して肝代謝物を回収し解析する技術は、生体内の薬物動態を反映していない。また、本発明の発明者が先に開発した技術は、毛細胆管様構造を破壊せずに肝代謝物を回収する点で生体内の薬物動態を反映しているが、TFK-1細胞のアピカル側の培養液中に排泄された肝代謝物は、TFK-1細胞等の非培養液に吸着されるため、取込ませた薬物の濃度が低いと解析できない傾向にあるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、生体内を反映すべく、取り込ませた薬物の濃度が低い場合でも、毛細胆管様構造に蓄積された薬物の肝代謝物を排泄させて解析することができる、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法、並びに、係る評価方法に用いられる馴化培養液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)コラーゲンビトリゲル膜上で培養して賦活化した複数の肝細胞において、肝細胞間の毛細胆管様構造に蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する、馴化培養液。
(2)コラーゲンビトリゲル膜上で培養して賦活化した複数の肝細胞において、肝細胞間に毛細胆管様構造を構築させることができる第一細胞培養物と、前記第一細胞培養物における肝細胞間の毛細胆管様構造に蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する第二細胞培養物の共培養により得られる、馴化培養液。
(3)前記肝細胞は、HepG2-NIAS細胞である、(1)又は(2)に記載の馴化培養液。
(4)前記第二細胞培養物の細胞は、TFK-1細胞である、(2)又は(3)に記載の馴化培養液。
(5)無血清培養液である、(1)~(4)のいずれか一つに記載の馴化培養液。
(6)冷蔵保存されたものである、(1)~(5)のいずれか一つに記載の馴化培養液。
(7)肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法であって、肝細胞間の毛細胆管様構造に胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物が蓄積された第一細胞培養物を、(1)~(6)のいずれか一つに記載の馴化培養液を用いて培養することで、前記毛細胆管様構造へ蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する、評価方法。
(8)前記候補化合物の評価濃度は、ヒト血中濃度相当の濃度である、(7)に記載の評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体内を反映すべく、取り込ませた薬物の濃度が低い場合でも、毛細胆管様構造に蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物を排泄させて解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における可搬容器の一実施形態を例示した斜視図である。
図2】本発明における第一細胞培養物の肝機能迅速賦活化工程について一態様を示す図である。図2中、PはHepG2-NIAS細胞について拡大した模式図である。
図3】実施例1における肝代謝モデル薬剤の排泄試験結果である。
図4】実施例2における肝代謝モデル薬剤の排泄試験結果である。
図5】実施例3における肝代謝モデル薬剤の排泄試験結果である。
図6】調製例2における無血清馴化培養液の調製方法を示す図である。
図7】実施例4における肝代謝モデル薬剤の排泄試験結果である。
図8】実施例5における肝代謝モデル薬剤の排泄試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0012】
≪評価装置≫
本発明に用いられる評価装置は、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価装置である。
詳細には、係る評価装置は、複数の賦活化された肝細胞を含む第一細胞培養物と、前記第一細胞培養物において肝細胞間に毛細胆管様構造を構築させることができ、外側面にコラーゲンビトリゲル膜を有する可搬容器と、前記第一細胞培養物における肝代謝物の胆汁中への排泄活性を上げることができる馴化培養液と、前記可搬容器を保持し、前記馴化培養液を収容する収容容器を有する。
係る可搬容器は、第一細胞培養物の代謝活性を向上させるものであり、肝代謝物の胆汁中への排泄活性は、前記第一細胞培養物における肝細胞間の毛細胆管様構造に蓄積された肝代謝物を排泄する活性である。
係る評価装置において、前記可搬容器に培養された第一細胞培養物を、前記馴化培養液を含む収容容器の上に配置させ、培養させて、肝代謝物の胆汁中への排泄を促進する。
【0013】
[第一細胞培養物]
本発明に用いられる評価装置において、第一細胞培養物は、複数の肝細胞を含む。
前記肝細胞は、ヒト、ラット、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ニワトリおよびカモからなる群から選択された肝正常組織、肝がん組織又は幹細胞(ES細胞、iPS細胞、間充織幹細胞等)に由来する培養肝細胞であることが好ましく、ヒトの凍結肝細胞であることがより好ましく、ヒト肝腫瘍由来細胞株であることがさらに好ましく、ヒト肝がん由来細胞株の一つであるHepG2細胞であることが特に好ましく、HepG2-NIAS細胞が最も好ましい。
【0014】
[コラーゲンビトリゲル膜を有する可搬容器]
本発明に用いられる評価装置において、前記第一培養物において肝細胞間に毛細胆管様構造を構築させるために、コラーゲンビトリゲル膜を外側面に有する可搬の培養容器(以下、可搬容器とも言う。)を使用する。
本明細書において、「外側面」とは、培養容器の外側に接する全ての面を意味し、底面、側面、天井面を含む。中でも、本発明に用いられる評価装置において、コラーゲンビトリゲル膜を底面に有することが好ましい。
コラーゲンビトリゲル膜を有する可搬容器の1実施形態を以下に示す。
【0015】
図1は、本発明におけるコラーゲンビトリゲル膜を有する可搬容器の一実施形態を例示した斜視図である。可搬容器Xの具体的な構成および製造方法については、特開2012-115262号に開示されている。筒状の枠体1は、内部に細胞を保持するための空間を有している。枠体1の材料は、細胞培養に適した材料を適宜選択することができる。また、枠体1の形状も特に限定されず、例えば、円筒状や角筒状を例示することができる。具体的には、枠体1は、アクリル製やポリスチレン製の円筒チューブを好ましく例示することができる。
【0016】
そして、この枠体1の一方の開放端面に接着剤でコラーゲンビトリゲル膜2が接着固定されている。開放端面の形状は特に限定されず、例えば、平面状や段差状、テーパー状、溝状などが例示することができるが、平面状が好ましい。さらにフィルム3と重層化している膜2を使用する場合には、膜2は枠体1と接着しているが、フィルム3を剥がして取り除くことができる。さらに、膜2が被覆固定されている枠体1の端面と対向する開放端面の外周縁部に、担体1の外側へ突出する係止部4を配設した。例えば、可搬容器Xよりも大きな別の容器(収容容器)内に架けることで、容器内に培養容器Xを保持することができる。係止部4は、図1に例示した形態に限定されず、例えば、プラスチック材料等によって棒状、フランジ状などの形態とすることができる。
【0017】
コラーゲンビトリゲル膜2を担体1に接着固定するための接着剤としては、接着性、細胞毒性を考慮して適宜選択することができ、具体的には、ウレタン系接着剤を好ましく例示することができる。また、その他、コラーゲンビトリゲル膜2と枠体1とを接着固定する方法としては、コラーゲンビトリゲル膜2と枠体1との間に両面テープを介在させて接着固定する方法などを例示することができる。
【0018】
コラーゲンビトリゲル膜2において、「ビトリゲル」とは、従来のハイドロゲルを、ハイドロゲル内の自由水を完全に除去した後に結合水を部分除去することで、ガラス化(vitrification)を進行させた後に再水和して得られる安定した状態にあるゲルのことを指し、本発明者によって、「ビトリゲル(vitrigel)(登録商標)」と命名されている。
本明細書において、用語「ビトリゲル」を用いる際には、用語「(登録商標)」を省略して用いる場合がある。
また、コラーゲンの中でもより好ましい原料としては、ネイティブコラーゲン又はアテロコラーゲンを例示でき、ネイティブコラーゲンがさらに好ましい。
コラーゲンビトリゲル膜は、可搬容器の外表面に挿入して肝細胞を培養する細胞培養担体として用いる。
【0019】
図2に示すように、可搬容器は、内部に肝細胞の培養物が保持された状態のまま動かし、「液相-膜-固相」、「液相-膜-気相」、「液相-膜-液相」等異なる環境にて培養することができる。
このような可搬性を有することで、後述の肝代謝物の毛細胆管様構造への蓄積と排泄を促進する評価装置を容易に構築することができる。
【0020】
[第一細胞培養物の肝機能迅速賦活化]
本発明では、第一細胞培養物において肝細胞間に毛細胆管様構造を構築させるために、コラーゲンビトリゲル膜を有する可搬容器を用いて第一細胞培養物を培養し、肝機能を賦活化させる。肝機能の賦活化とは、肝細胞の代謝活性をはじめアルブミン分泌活性および尿素合成活性など肝特異的機能を向上させることを示し、可搬容器により第一細胞培養物を培養することにより、肝細胞の肝特異的機能を向上させることができる。
第一細胞培養物の肝機能迅速賦活化について、以下に具体的な実施形態を以下に示す。
【0021】
図2は、本発明において、第一細胞培養物の肝機能迅速賦活化工程の一実施形態を例示したものである。使用する第一細胞培養物としては上述した肝細胞であればかまわないが、HepG2-NIAS細胞(RCB4679株)を使用した場合について例示している。
【0022】
まず、コラーゲンビトリゲル膜を有する可搬容器に、第一細胞培養物を培養液に懸濁したものを播種する。
本発明において、「培養液」とは、通常細胞を培養する際に用いられるものであれば問題なく、例えば、Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM)、Minimum Essential Media(MEM)、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium (IMDM)、Glasgow’s Minimum Essential Medium(GMEM)等が挙げられるが、使用する細胞によって適宜変更することができる。このとき、可搬容器の内側底面の膜上への細胞の接着に時間がかかることと、細胞同士が接着凝集しやすい場合があることから、底面が平面状であり、たわんでいない状態が好ましい。
【0023】
次に、下面にフィルムが付着した状態、つまり、「液相-膜-固相」の状態で、細胞がコンフルエントになるまで培養する。用いる細胞によって培養時間は異なるが、例えばHepG2-NIAS細胞(RCB4679株)では2日程度培養することが好ましい。
【0024】
細胞がコンフルエントな状態になった後に、下面のフィルムを剥がし、可搬容器よりも容量の大きな収容容器に可搬容器を架けることで、膜下を気相として、さらに「液相-膜-気相」の状態で培養する。培養時間は、20時間~24時間程度が好ましい。
【0025】
肝機能を賦活化させるために、通常、HepaRG(登録商標)細胞株、又はヒトiPS細胞から分化型肝細胞への誘導は、10日~14日時間がかかるのに対し、細胞がコンフルエントな状態、且つ「液相-膜-気相」の状態で細胞を培養することで、例えば、HepG2-NIAS細胞(RCB4679株)細胞では3日間という短期間で肝特異的機能が賦活化する。
【0026】
本発明において、「肝特異的機能」とは、アルブミン及び尿素の合成能および薬物動態関連の機能、例えば、CYP3A4の活性を示し、アルブミン及び尿素の合成能については、通常の肝細胞と同レベルまで活性化される。さらに、CYP3A4の活性については、ヒト肝臓の平均的な活性を発現する分化型HepaRG細胞の2分の1程度まで上げられる。
また、図2においてPはHepG2-NIAS細胞を拡大した模式図であるが、細胞間に毛細胆管様構造およびタイトジャンクションが構築されている。通常、肝細胞は、細胞間がタイトジャンクションにより結合され、細胞間にできた隙間が管状につながり毛細胆管となり、胆管へとつながっている。
【0027】
肝細胞が賦活化されるプロセスについて、詳細は判明していないが、気相から膜を通して酸素が供給されることにより、高い細胞密度にも関わらず好気的な培養条件下で細胞が良好に成長し、結果的に肝細胞の自己組織化能を培養条件下で十分に引き出すことが可能となったためであると推察される。
【0028】
≪馴化培養液≫
本発明の馴化培養液は、コラーゲンビトリゲル膜上で培養して賦活化した複数の肝細胞において、肝細胞間の毛細胆管様構造に蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する培養液である。
係る馴化培養液は、一例として、コラーゲンビトリゲル膜上で培養して賦活化した複数の肝細胞において、肝細胞間に毛細胆管様構造を構築させることができる第一細胞培養物と、前記第一細胞培養物における肝細胞間の毛細胆管様構造に蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する第二細胞培養物の共培養により得られる。
第二細胞培養物における細胞としては、肝内胆管上皮細胞、肝外胆管上皮細胞等が挙げられ、ヒト胆管がん由来細胞株の一つであるTFK-1細胞が好ましい。
候補化合物の評価に馴化培養液を用いることにより、候補化合物の細胞等の固形成分への非特異的吸着を抑制することができる。そのため、本発明の評価方法においては、ヒト血中濃度相当の低い濃度の候補化合物を評価することができる。
また、馴化培養液は、候補化合物のタンパク質への非特異的吸着回避の観点から無血清培養液が好ましい。また、馴化培養液は、冷蔵保存されたものでもよく、フィルトレーションして夾雑物を除去したものでもよい。
【0029】
後述する本発明の評価方法において、馴化培養液を用いて培養させていないものと比較して、排泄される肝代謝物の全体量(上側排泄量+下側排泄量)および下側排泄量の割合が増加する。これは、馴化培養液を用いて培養することで、第一細胞培養物において肝細胞間の毛細胆管様構造および肝細胞内に蓄積された肝代謝物の排泄が促進するためである。肝代謝物が胆汁排泄だけでなく尿中排泄されるものである場合には、肝代謝物の排泄は毛細胆管様構造からだけでなく、肝細胞の細胞質からも行われる。
よって、第一細胞培養物を、馴化培養液を用いて培養することにより、肝細胞の代謝物の排泄量が増加する。
【0030】
本発明において、第一細胞培養物を、馴化培養液を用いて培養する時間は3分以上が好ましく、30分以上がさらに好ましい。また培養物の生育状態の観点から、培養時間は9日以内が好ましい。本評価装置を用いることで、迅速に肝細胞における代謝物の排泄および胆汁中排泄感受性の候補化合物及び該化合物の肝代謝物の毒性を評価する目的に鑑みて、培養時間は2日以内がさらに好ましい。
また、培養する際の温度条件は、通常細胞培養する際に推奨される温度で問題ないが、下限値は、35℃以上が好ましく、37℃以上がさらに好ましい。上限値は、40℃以下が好ましく、37℃以下がさらに好ましい。
【0031】
≪胆汁中排泄感受性の候補化合物及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法≫
本発明の評価方法は、肝細胞による胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の評価方法であって、肝細胞間の毛細胆管様構造に胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物が蓄積された第一細胞培養物を、上述した馴化培養液を用いて培養することで、前記毛細胆管様構造へ蓄積された胆汁中排泄感受性の候補化合物、及び前記候補化合物の肝代謝物の排泄を促進する方法である。
【0032】
一例として本発明の評価方法は、上述した評価装置を用いる方法であり、以下(a)~(d)の工程を含む。
(a)候補化合物を前記可搬容器に培養された前記第一細胞培養物に曝露する工程。
(b)前記候補化合物を曝露された第一細胞培養物を、通常培養液を含む収容容器及び前記馴化培養液を含む収容容器の上にそれぞれ配置させ、培養させる工程。
(c)前記第一細胞培養物の毛細胆管様構造の変化を確認し、さらに、前記可搬容器中に排泄された物質と、前記通常培養液を含む収容容器及び前記馴化培養液を含む収容容器中にそれぞれ排泄された物質とを回収する工程。
(d)前記回収物質から、排泄された肝代謝物及び量を解析する工程。
【0033】
本発明において、「候補化合物」とは胆汁中排泄感受性を有する可能性のある全ての化合物を示し、例えば、薬剤及びその他治療薬などの生体異物、発癌性物質、及び環境汚染物質、並びに、ステロイド、脂肪酸、及びプラスタグランジンなどの生体内物質などが挙げられる。
【0034】
工程(a)において、候補化合物は培養液に分散させるなどして第一細胞培養物に曝露させることができる。曝露する時間は、候補化合物によるが、24時間以内が好ましいが、候補化合物の吸収、代謝および排泄の速度を考慮して決定することがより好ましい。曝露後、平衡塩溶液などで洗浄し、第一細胞培養内に取り込まれなかった候補化合物を除去する。このとき、肝細胞内には取り込まれた候補化合物、および、その肝代謝物が存在するが、既に肝代謝物の排泄も候補化合物によって始まっている。したがって、候補化合物を含有する培養液を除去して平衡塩溶液などで洗浄した後に、第一細胞培養物を新鮮な培養液を用いて引き続き培養すると、徐々に、取り込まれた候補化合物は代謝される。肝代謝物が胆汁中への排泄だけでなく尿中へも排泄される場合は、肝代謝物の排泄は毛細胆管様構造へ蓄積されるだけでなく、肝細胞の細胞質から培養液へも排泄される。ここで、毛細胆管様構造へ蓄積された肝代謝物は、毛細胆管様構造が閉鎖構造であれば培養液に排泄されることはない。
【0035】
実際にヒトに候補化合物を投与した場合を外挿するためには、工程(a)において、ヒト血中濃度相当の濃度の候補化合物を前記可搬容器に培養された前記第一細胞培養物に曝露することが好ましい。ヒト血中濃度相当の濃度とは、候補化合物の有する性質により異なるが、1nM~1mMが好ましく、5nM~600μMがより好ましく、10nM~60μMが更に好ましく、50nM~50μMが特に好ましい。
【0036】
工程(b)において、前記候補化合物が曝露された第一細胞培養物は、馴化培養液で培養することにより肝代謝物の全排泄(上側排泄量+下側排泄量)および下側排泄の割合が促進される。一方、通常培養液を含む容器にて培養された第一細胞培養物においても、肝代謝物の排泄は行われるが、馴化培養液で培養したものと比較して、全排泄量(上側排泄量+下側排泄量)および下側排泄量の割合が少ない。ここでいう上側排泄量とは、例えば、可搬容器内に培養された第一細胞培養物の上側、つまり前記可搬容器内に排泄された肝代謝物の量を示し、下側排泄量とは、可搬容器内に培養された第一細胞培養物の下側、つまり可搬容器のコラーゲンビトリゲル膜を通過して、可搬容器の外側の収容容器内に排泄された肝代謝物の量を示す。
ここで、通常培養液とは、馴化培養液を作製する際に用いる培養液をいい、まだ細胞を培養してない状態のものをいう。
この時の培養時間および温度条件は、前述のとおりである。
【0037】
工程(c)において、第一細胞培養物が通常培養液を含む容器にて培養された場合は、毛細胆管様構造へ蓄積された肝代謝物の減量には1日以上の時間が必要であり、毛細胆管様構造はほぼ閉鎖構造を維持していると考えられるため、可搬容器中に排泄された物質も培養液のみを含む容器に排泄された物質も、大半は通常生体内で尿中排泄されるものである。一方、馴化培養液を含む容器にて培養された場合は、毛細胆管様構造へ蓄積された肝代謝物の減量は1時間以内に認められ毛細胆管様構造は開口したと考えられる。ここで、馴化培養液の効果が生体の胆管上皮の構造を反映していれば、毛細胆管様構造の開口部はコラーゲンビトリゲル膜下側のみである。
したがって、可搬容器中に排泄された物質の大半は通常生体内で尿中排泄されるものを含み、また、コラーゲンビトリゲル膜下側に排泄された物質は、第1細胞培養物の細胞質から排泄されたものと、第一細胞培養物の毛細胆管様構造から排泄されたものとを含み、通常生体内で尿中排泄されるものおよび胆汁排泄されるものを合わせて含んでいる。
しかし、馴化培養液の効果が生体の胆管上皮の構造を反映していなければ、毛細胆管様構造の開口部は上側のみ、あるいは上側と下側の両側となる。したがって、可搬容器中に排泄された物質は、第一細胞培養物の細胞質から排泄されたものと、第一細胞培養物の毛細胆管様構造から排泄されたものとを含み、通常生体内で尿中排泄されるものおよび胆汁排泄されるものを合わせて含んでいることになる。また、コラーゲンビトリゲル膜下側に排泄された物質は、毛細胆管様構造の開口部が上側のみであれば、第1細胞培養物の細胞質から排泄されたもののみで通常生体内で尿中排泄されるもののみとなるが、毛細胆管様構造の開口部が上側と下側の両側であれば、第一細胞培養物の細胞質から排泄されたものと、第一細胞培養物の毛細胆管様構造から排泄されたものであり、通常生体内で尿中排泄されるものおよび胆汁排泄されるものを合わせて含んでいることになる。
なお、胆汁中排泄感受性の候補化合物及び該候補化合物の肝代謝物に毛細胆管様構造に特異的な肝毒性がある場合は、第一細胞培養物の毛細胆管様構造の減少や破壊が起こるので、排泄経路の評価は行えなくなる。しかし、毛細胆管様構造に特異的な肝毒性は、毛細胆管様構造の減少や破壊等の変化を定量することで評価できることになる。
【0038】
排泄された物質は、可搬容器中の培養液と、通常培養液を含む容器及びコラーゲンビトリゲル膜下側の収容容器中の培養液を回収することで得られる。この時、あらかじめ各々の培養容器に添加する培養液の量をそろえておくことで、後の工程(d)において得られた排泄物質の総量を比較することができる。
【0039】
工程(d)において、排泄された肝代謝物及び量は、候補化合物から予測される肝代謝物を直接解析するほか、あらかじめ候補化合物を標識しておくことでも解析することができる。後者の場合、候補化合物は蛍光又は化学発光分光測定法、シンチレーション分光法、クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)、及び比色分析などの標準的な検出技術を用いて容易に検出することができる化合物を用いて標識しておくことが好ましい。従って、標識化合物には、蛍光発生または蛍光化合物、化学発光化合物、比色定量用化合物、UV/VIS吸収化合物、放射性物質、及びそれらの組み合わせがあるが、これらに制限されない。
また、胆汁中排泄感受性の候補化合物及び前期候補化合物の肝代謝物の肝毒性は、可搬容器中の培養液と、通常培養液を含む容器及びコラーゲンビトリゲル膜下側の収容容器中の培養液に含まれるLDH,GOT,GPTを始めとする逸脱酵素などの肝障害指標物質を定量することで評価できる。
【0040】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0041】
[調製例1:コラーゲンビトリゲル膜チャンバーの利用による毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞の調製]
毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞は、特許文献(国際公開第2016/158417号)に記載の方法に準じて調製した。具体的には、脱着可能なシリコン処理されたPETフィルムを付着したコラーゲンビトリゲル膜チャンバー(関東化学社製、ad-MED ビトリゲル(登録商標))に、有血清培養液(10% FBS,20mM HEPES,100units/mL ペニシリンおよび100μg/mL ストレプトマイシン含有のDMEM)0.5mLに懸濁したHepG2-NIAS細胞(理化学研究所バイオリソースセンター、RCB4679、ヒト肝がん細胞株)を5×10cells/cmとなるように播種し、2日間培養した。その後、コラーゲンビトリゲル膜チャンバーの下面よりフィルムを取り外して12-ウェルプレートのウェルにチャンバーを装着し、下面が空気に触れた状態で1日間培養した。前記培養液0.5mLの交換は、播種後、毎日行った。
【0042】
[実施例1:高濃度肝代謝モデル薬剤の排泄試験-1]
[1]毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞を有するコラーゲンビトリゲル膜チャンバーの培養液を除去後、高濃度モデル薬剤[600μM Fluorescein diacetate(FD)]を含む前記有血清培養液0.5mLを添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養することでFDを細胞内に取り込ませた。
[2]チャンバー内に残ったFDを含む培養液を除去後、Hank’s Balanced Salt Solution(ハンクス平衡塩類溶液:HBSS)0.5mLで2回洗浄し、前記有血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養した。その結果、HepG2-NIAS細胞内でFDが代謝され、代謝物のFluoresceinが毛細胆管様構造へ移行した。
[3]続いて、チャンバー内に残った培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、新たに前記有血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加した。
[4]予め直径35mmのディッシュ内に、TFK-1用培養液(10% FBS,100units/mL ペニシリンおよび100μg/mL ストレプトマイシン含有のRPMI1640)2.0mLに懸濁したTFK-1細胞(理化学研究所バイオリソースセンター、RCB2537、ヒト胆管がん細胞株)を5x10cells/cmとなるように播種し、3日間培養して単層細胞層を作製しておいたディッシュ内の培養液を除去した後、HBSS 2.0mLで2回洗浄し、HepG2-NIAS細胞用の前記有血清培養液0.5mLを添加した。この直径35mmのディッシュ内のTFK-1細胞の単層細胞層上に、チャンバーを装着し、COインキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた(共培養)。コントロールとしては、HepG2-NIAS細胞用の前記有血清培養液0.5mLを予め注入した直径35mmのディッシュ内に、チャンバーを装着し、CO2インキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた(単独培養)。
【0043】
[5]続いて、チャンバー内の培養液を上側培養液として回収した。また、チャンバー外の培養液を下側培養液として回収した。
[6]続いて、培養液を除いたチャンバー内外に0.1N NaOH 0.33mLを添加して37℃1時間インキュベーション後、0.2N HCl 0.165mLを添加し、チャンバー内より上側非培養液、チャンバー外より下側非培養液として回収した。この操作により、細胞や培養器材に吸着したFluoresceinを回収した。
[7]続いて、回収した各試料中のFluoresceinの緑色蛍光(励起波長:494nm、蛍光波長:521nm)を測定した。上側培養液と上側非培養液の合計を上側排泄、下側培養液と下側非培養液の合計を下側排泄として評価し、上側と下側を合わせた全体に対する割合を計算した。
[8]図3において示したように、モデル薬剤代謝物Fluoresceinの分布は単独培養条件を例として次のように計算される。即ち、上側培養液の蛍光強度67と上側非培養液の蛍光強度27の合計値94が上側排泄量となり、同様に下側培養液の値25と下側非培養液7の合計値32が下側排泄量となる。上側排泄量と下側排泄量の合計が総排泄量に該当し、94÷(94+27)×100=75が総排泄量に占める上側排泄の割合(百分率)となる。
[9]図3から、HepG2-NIAS細胞単独培養条件下では上側への排泄が75%であるのに対し、下側への排泄は25%だった(左側グラフの白抜きカラム及び黒塗りカラム)。しかしTFK-1細胞と共培養した条件下では、上側排泄が28%であるのに対し下側(TFK-1細胞側)への排泄は72%であり、下側指向性を持ってモデル薬剤代謝物を排泄することが明らかとなった(右側グラフの白抜きカラム及び黒塗りカラム)。また、Fluoresceinは培養液以外に、細胞や培養器材から回収した非培養液サンプルからも検出された。即ち単独培養及び共培養のいずれの条件においても、HepG2-NIAS細胞が存在する上側非培養液からFluoresceinを検出した(点描カラム、排泄量27及び16)。一方下側非培養液からは、細胞が存在しない単独培養条件下(左側グラフの格子カラム、排泄量7)に比べ、TFK-1細胞が存在する共培養条件下(右側グラフの格子カラム、排泄量32)において多くのFluoresceinが検出された。
[10]培養液中の血清が非特異的にFluoresceinと結合するとともに、培養器材の表面や細胞に吸着する可能性があることから、次に血清非存在下で排泄試験を行い、共培養による指向性下側排泄及び非培養液からのFluorescein検出量に与える影響を検討した。
【0044】
[実施例2:高濃度肝代謝モデル薬剤の排泄試験-2]
[1]毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞を有するコラーゲンビトリゲル膜チャンバーの培養液を除去後、0.5mLのHBSSで2回洗浄し、高濃度モデル薬剤[600μM Fluorescein diacetate(FD)]を含む無血清培養液(20mM HEPES,100units/mL ペニシリンおよび100μg/mL ストレプトマイシン含有のDMEM培養液)0.5mLを添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養することでFDを細胞内に取り込ませた。
[2] チャンバー内に残ったFDを含む培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養した。その結果、HepG2-NIAS細胞内でFDが代謝され、代謝物のFluoresceinが毛細胆管様構造へ移行した。
[3] 続いて、チャンバー内に残った培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、新たに前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加した。
[4] 予め直径35mmのディッシュ内に、前記TFK-1用培養液2.0mLに懸濁したTFK-1細胞(理化学研究所バイオリソースセンター、RCB2537、ヒト胆管がん細胞株)を5x10cells/cmとなるように播種し、3日間培養して単層細胞層を作製しておいたディッシュ内の培養液を除去した後、HBSS 2.0mLで2回洗浄し、HepG2-NIAS細胞用の前記無血清培養液0.5mLを添加した。この直径35mmのディッシュ内のTFK-1細胞の単層細胞層上に、チャンバーを装着し、COインキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた(共培養)。コントロールとしては、HepG2-NIAS細胞用の前記無血清培養液0.5mLを予め注入した直径35mmのディッシュ内に、チャンバーを装着し、COインキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた(単独培養)。
[5] 続いて、チャンバー内の培養液を上側培養液として回収した。また、チャンバー外の培養液を下側培養液として回収した。
[6] 続いて、培養液を除いたチャンバー内外に0.1N NaOH 0.33mLを添加して37℃1時間インキュベーション後、0.2N HCl 0.165mLを添加し、チャンバー内より上側非培養液、チャンバー外より下側非培養液として回収した。この操作により、細胞や培養器材に吸着したFluoresceinを回収した。
[7] 続いて、回収した各試料中のFluoresceinの緑色蛍光(励起波長:494nm、蛍光波長:521nm)を測定した。上側培養液と上側非培養液の和を上側排泄、下側培養液と下側非培養液の和を下側排泄として評価し、上側と下側を合わせた全体に対する割合を求めた。
[8] 図4から、Fluoresceinの排泄は血清の有無によって影響を受けないことが明らかとなった。即ち、実施例1と同様にHepG2-NIAS細胞の単独培養条件下では上側に排泄されるが(左側グラフの白抜きカラム、89%)、TFK-1細胞と共培養した条件下では下側に排泄された(右側グラフの黒塗りカラム、85%)。血清を含まない条件下では培養器材へのFluoresceinの吸着が低下することが予想されたが、血清を除いて試験した本実施例は血清を用いた実施例1と同様の傾向を持って非培養液からFluoresceinを検出した。即ち、単独培養及び共培養のいずれの条件においても上側非培養液からFluoresceinを検出した(点描カラム、排泄量61及び12)。一方、下側非培養液からは単独培養条件に比べ、TFK-1細胞を含む共培養条件下において多くのFluoresceinを検出した(格子カラム、排泄量5及び47)。
[9] 次に、生体に投与された薬剤濃度により近い、低濃度のFDを用いた排泄試験を行った。
【0045】
[実施例3:低濃度肝代謝モデル薬剤の排泄試験-1]
[1] 前記毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞を有するコラーゲンビトリゲル膜チャンバーの培養液を除去後、0.5mLのHBSSで2回洗浄し、低濃度モデル薬剤[10μMFluorescein diacetate(FD)]を含む前記無血清培養液0.5mLを添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養することでFDを細胞内に取り込ませた。
[2] チャンバー内に残ったFDを含む培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養した。その結果、HepG2-NIAS細胞内でFDが代謝され、代謝物のFluoresceinが毛細胆管様構造へ移行した。
[3] 続いて、チャンバー内に残った培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、新たに前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加した。
[4] 予め直径35mmのディッシュ内に、前記TFK-1用培養液2.0mLに懸濁したTFK-1細胞(理化学研究所バイオリソースセンター、RCB2537、ヒト胆管がん細胞株)を5x10cells/cmとなるように播種し、3日間培養して単層細胞層を作製しておいたディッシュ内の培養液を除去した後、2.0mLのHBSSで2回洗浄し、HepG2-NIAS細胞用の前記無血清培養液0.5mLを添加した。この直径35mmのディッシュ内のTFK-1細胞の単層細胞層上に、チャンバーを装着し、COインキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた(共培養)。コントロールとしては、HepG2-NIAS細胞用の前記無血清培養液0.5mLを予め注入した直径35mmのディッシュ内に、チャンバーを装着し、COインキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた(単独培養)。
[5] 続いて、チャンバー内の培養液を上側培養液として回収した。また、チャンバー外の培養液を下側培養液として回収した。
[6] 続いて、培養液を除いたチャンバー内外に0.1NのNaOH 0.33mLを添加して37℃1時間インキュベーション後、0.2NのHCl 0.165mLを添加し、チャンバー内より上側非培養液、チャンバー外より下側非培養液として回収した。この操作により、細胞や培養器材に吸着したFluoresceinを回収した。
[7] 続いて、回収した各試料中のFluoresceinの緑色蛍光(励起波長:494nm、蛍光波長:521nm)を測定した。上側培養液と上側非培養液の和を上側排泄、下側培養液と下側非培養液の和を下側排泄として評価し、上側と下側を合わせた全体に対する割合を求めた。
[8] 図5から、低濃度FDに由来するFluoresceinの排泄は非培養液、特に単独培養の培養器材に吸着される以上に(単独培養格子カラム、排泄量2.1)、共培養のTFK-1細胞に吸着されて検出されることが明らかとなった(共培養格子カラム、排泄量7.8)。単独培養条件下において、Fluoresceinは実施例1の高濃度FD使用時と同様の排泄傾向を示し、上側への排泄が71%であるのに対し、下側への排泄は29%だった(左側グラフの白抜きカラム及び黒塗りカラム)。一方、TFK-1細胞との共培養条件下では、高濃度FD使用時より効果が小さいながら、単独培養以上に下側(TFK-1細胞側)へFluoresceinを排泄していた(単独培養及び共培養の黒塗りグラフ、排泄量5並びに9.1)。 ただし、下側培養液の排泄量に対し、下側非培養液の排泄量が大きく上回っていた(右側グラフの左斜線カラム、排泄量1.3、並びに格子カラム、排泄量7.8)。この結果は、低濃度のFluoresceinは特にTFK-1細胞への吸着による影響を受けやすいことを示唆している。
[9] 次に、HepG2-NIAS細胞とTFK-1細胞を共培養することにより胆汁排泄を誘導する因子が培養液中に放出される可能性を検討するために、共培養時の無血清馴化培養液を調製しTFK-1細胞の代わりに排泄試験に用いることを試みた。
【0046】
[調製例2:毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞とTFK-1細胞との共培養による無血清馴化培養液の調製]
内径25.24mm、外径31mm、高さ4mmの環状ワッシャーの片面(内側面積:5cm)に、コラーゲンビトリゲル膜を貼り付けた。続いて、4個のワッシャー上にそれぞれ前記有血清培養液1mLに懸濁したHepG2-NIAS細胞を5x10cells/cmとなるように播種し、調製例1に示したように培養した。別途、前記TFK-1用培養液 18mLに懸濁したTFK-1細胞を5x10cells/cmとなるように直径10cmのディッシュ内(底面積58.1cm)に播種し、調製例1に示したように培養した。 その後、HBSSを用いて2回洗浄(ワッシャー内:3mL、ディッシュ内:18mL)し、前記無血清培養液(ワッシャー内:1mL、ディッシュ内:14mL)に交換した。続いて、HepG2-NIAS細胞を培養したワッシャー4個をTFK-1細胞上に設置して1時間共培養し、得られた培養液を全て回収し無血清馴化培養液とした。得られた無血清馴化培養液は、0.22μmの滅菌フィルターを用いて濾過し、4℃にて7日間保存した[無血清馴化培養液(濾過滅菌冷蔵保存)](図6)。
【0047】
[実施例4:高濃度肝代謝モデル薬剤の排泄試験-3]
[1] 前記毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞を有するコラーゲンビトリゲル膜チャンバーの培養液を除去後、0.5mLのHBSSで2回洗浄し、高濃度モデル薬剤[600μMFluorescein diacetate(FD)]を含む前記無血清培養液0.5mLを添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養することでFDを細胞内に取り込ませた。
[2] チャンバー内に残ったFDを含む培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加し、COインキュベーターにて37℃1時間培養した。その結果、HepG2-NIAS細胞内でFDが代謝され、代謝物のFluoresceinが毛細胆管様構造へ移行した。
[3] 続いて、チャンバー内に残った培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、新たに前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加した。
[4] 続いて、直径35mmのディッシュ内に前記無血清馴化培養液(濾過滅菌冷蔵保存)0.5mLを加え、その上にチャンバーを装着し、COインキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた。
[5] 続いて、チャンバー内の培養液を上側培養液として回収した。また、チャンバー外の培養液を下側培養液として回収した。
[6] 続いて、培養液を除いたチャンバー内外に0.1NのNaOH 0.33mLを添加して37℃1時間インキュベーション後、0.2NのHCl 0.165mLを添加し、チャンバー内より上側非培養液、チャンバー外より下側非培養液として回収した。この操作により、細胞や培養器材に吸着したFluoresceinを回収した。
[7] 続いて、回収した各試料中のFluoresceinの緑色蛍光(励起波長:494nm、蛍光波長:521nm)を測定した。上側培養液と上側非培養液の和を上側排泄、下側培養液と下側非培養液の和を下側排泄として評価し、上側と下側を合わせた全体に対する割合を求めた。
[8] 図7から、TFK-1細胞の代わりに調製例2の共培養による無血清馴化培養液(濾過滅菌冷蔵保存)を用いることにより、Fluorescein排泄は上側より下側(馴化培養液側)へ誘導されることが明らかとなった(白抜きカラム、21%、および黒塗りカラム、79%)。さらに、下側非培養液からFluoresceinがほとんど検出されなかった(格子カラム、排泄量0.7)。以上の結果から、無血清馴化培養液中に胆汁排泄を誘導する因子が含まれていること、またTFK-1細胞に吸着されていたFluoresceinが培養液中に留まることが示唆された。なお、図示してはいないが、無血清馴化培養液を濾過する際に滅菌フィルターに胆汁排泄誘導因子が吸着されないこと、および7日間の冷蔵保存中に該因子の活性が低下しないことを実施例と同様の試験により確認済みである。
[9] 次に、実施例3において生体に投与された薬剤濃度により近い、低濃度のFDを用いた排泄試験を行った。
【0048】
[実施例5:低濃度肝代謝モデル薬剤の排泄試験-2]
[1] 前記毛細胆管様構造を形成したHepG2-NIAS細胞を有するコラーゲンビトリゲル膜チャンバーの培養液を除去後、0.5mLのHBSSで2回洗浄し、低濃度モデル薬剤[10μMFluorescein diacetate(FD)]を含む前記無血清培養液0.5mLを添加し、CO2インキュベーターにて37℃1時間培養することでFDを細胞内に取り込ませた。
[2] チャンバー内に残ったFDを含む培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加し、CO2インキュベーターにて37℃1時間培養した。その結果、HepG2-NIAS細胞内でFDが代謝され、代謝物のFluoresceinが毛細胆管様構造へ移行した。
[3] 続いて、チャンバー内に残った培養液を除去後、HBSS 0.5mLで2回洗浄し、新たに前記無血清培養液0.5mLをチャンバー内に添加した。
[4] 続いて、直径35mmのディッシュ内に前記無血清馴化培養液(濾過滅菌冷蔵保存)0.5mLを加え、その上にチャンバーを装着し、CO2インキュベーターにて37℃1時間共培養することでHepG2-NIAS細胞の毛細胆管様構造から培養液へFluoresceinを放出させた。
[5] 続いて、チャンバー内の培養液を上側培養液として回収した。また、チャンバー外の培養液を下側培養液として回収した。
[6] 続いて、培養液を除いたチャンバー内外に0.1NのNaOH 0.33mLを添加して37℃1時間インキュベーション後、0.2NのHCl 0.165mLを添加し、チャンバー内より上側非培養液、チャンバー外より下側非培養液として回収した。この操作により、細胞や培養器材に吸着したFluoresceinを回収した。
[7] 続いて、回収した各試料中のFluoresceinの緑色蛍光(励起波長:494nm、蛍光波長:521nm)を測定した。上側培養液と上側非培養液の和を上側排泄、下側培養液と下側非培養液の和を下側排泄として評価し、上側と下側を合わせた全体に対する割合を求めた。
[8] 図8から、無血清馴化培養液(濾過滅菌冷蔵保存)は、低濃度FDに由来するFluoresceinの指向性を持って下側(馴化培養液側)への排泄を誘導することが明らかとなった(白抜きカラム、39%、及び黒塗りカラム、61%)。TFK-1細胞との共培養条件下とは異なり、下側非培養液からのFluoresceinの検出(格子カラム、排泄量5)は、下側培養液(右斜線カラム、排泄量54)より著しく少量であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、生体内を反映すべく、取り込ませた薬物の濃度が低い場合でも、毛細胆管様構造に蓄積された薬物の肝代謝物を排泄させて解析することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 筒状の担体
2 コラーゲンビトリゲル膜
3 フィルム
4 係止部
5 コラーゲンビトリゲル膜
6 シリコン処理されたPETフィルム
7 HepG2-NIAS細胞
8 10% FBS,20mM HEPES,100units/mL ペニシリンおよび100μg/mL ストレプトマイシン含有のDMEM培養液
9 12-ウェルプレートのウェル
10 毛細胆管様構造
11 タイトジャンクション
X 可搬容器
Y コラーゲンビトリゲルチャンバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8