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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】多段ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/60 20060101AFI20220224BHJP
【FI】
F04D29/60 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019507525
(86)(22)【出願日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2018008947
(87)【国際公開番号】W WO2018173769
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-09-23
(31)【優先権主張番号】P 2017057952
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】細田 規彦
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180365(JP,A)
【文献】特開2000-154795(JP,A)
【文献】特開2007-056687(JP,A)
【文献】実開昭53-122702(JP,U)
【文献】特開2009-281675(JP,A)
【文献】特開昭52-024315(JP,A)
【文献】特開平05-005498(JP,A)
【文献】実開昭61-025593(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/60
F04D 29/12
F04D 1/08
F04D 29/041
F16L 55/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を移送するための多段ポンプであって、
主軸と、
前記主軸に固定された複数段の羽根車と、
前記複数段の羽根車を収容し、吸込口および吐出口を有するケーシングと、
液体から前記複数段の羽根車に加えられるスラスト力をキャンセルするためのバランス機構と、
前記主軸と前記ケーシングとの間の隙間を封止するメカニカルシールと、
前記ケーシングに接続された連絡管と、
前記連絡管を通じて前記バランス機構のバランス室に接続された圧力逃し弁を備え、
前記バランス機構は、前記ケーシングに固定されたバランスシートと、前記主軸に固定されたバランスディスクと、前記バランスシートおよび前記バランスディスクを囲む前記バランス室と、前記バランス室と多段ポンプの吸込側とを連通するバランス配管とを備え、
前記多段ポンプの上流または前記多段ポンプ内で発生したウォーターハンマーに起因して発生した衝撃波が、前記バランス配管内の液体を伝播して前記バランス室内に到達し、前記バランス室内の液体の圧力を上昇させたときに、前記圧力逃し弁が開いて前記液体を前記バランス室の外に放出するように構成されており、
前記バランスディスクの内面は前記バランスシートの外面に対向しており、前記バランスディスクの内面と前記バランスシートの外面との間には軸方向の隙間が存在し、前記バランスディスクの内面および前記バランスシートの外面には、互いに対向する窪みがそれぞれ形成されており、これら窪みによって前記バランスディスクと前記バランスシートとの間に中間圧力室が形成されている、多段ポンプ。
【請求項2】
前記バランス配管は、前記バランス室と、前記複数段の羽根車のうちの1段目の羽根車と2段目の羽根車との間の流路とを接続する請求項に記載の多段ポンプ。
【請求項3】
前記バランス配管は、前記バランス室と、前記複数段の羽根車のうちの2段目の羽根車と3段目の羽根車との間の流路とを接続する請求項1に記載の多段ポンプ。
【請求項4】
前記バランス配管に取り付けられた逆止弁をさらに備え、
前記逆止弁は、前記バランス室から前記多段ポンプの吸込側へのみ液体が通れることを許容するように構成された請求項に記載の多段ポンプ。
【請求項5】
前記多段ポンプは、前記多段ポンプの起動時にインバータによって前記主軸の回転速度が徐々に上昇するように駆動可能である請求項に記載の多段ポンプ。
【請求項6】
前記多段ポンプは、前記多段ポンプの吐き出し側に設けられた逆浸透膜へ通流させるための液体を圧送するポンプである請求項に記載の多段ポンプ。
【請求項7】
前記圧力逃し弁の吐出口に接続され、前記圧力逃し弁が作動したことを検出する作動検出センサをさらに備えた請求項に記載の多段ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を移送するための多段ポンプに関し、特に高温高圧の水を加圧してボイラに移送する給水ポンプとして使用可能な多段ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンを用いた発電システムでは、多段ポンプからなる給水ポンプを用いて高温高圧の水をボイラに供給し、ボイラにて水を加熱して蒸気を発生させる。図15は、蒸気タービンを用いた発電システムを示す模式図である。工業用水または純水などの水は、タンク200に供給され、ポンプ201によって脱気器205に送られる。脱気器205は、溶存酸素を水から除去するための装置であり、下流に配置されたボイラ211や配管などの錆を防止するために設けられる。水は脱気器205内で140~150℃の高温に加熱され、高温高圧の水が脱気器205内で生成される。
【0003】
脱気器205は、給水ポンプ208よりも高い位置に配置されており、脱気器205と給水ポンプ208は吸込配管206により連結されている。脱気器205内の高温高圧の水は、吸込配管206を通って給水ポンプ208に吸い込まれ、給水ポンプ208で加圧されてボイラ211に送られる。高温高圧の水はボイラ211で200~300℃にさらに加熱され、蒸気が生成される。蒸気は蒸気タービン212を回転させ、蒸気タービン212に連結された発電機214を回転させる。
【0004】
蒸気タービン212を出た蒸気の一部は脱気器205に移送され、脱気器205の内部は高圧に維持される。残りの蒸気は復水器215で凝縮されて水となる。凝縮された水はポンプ216によってタンク200に移送される。このようにして水が発電システム内を循環しながら、蒸気によって蒸気タービン212が回転され、蒸気タービン212に連結された発電機214が発電する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭51-71502号公報
【文献】特開昭59-33799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脱気器205内には高温高圧の水が液体の状態で存在する。このような高温高圧の水を沸騰させずにボイラ211に移送するために、上述した給水ポンプ208には多段ポンプが使用されている。しかしながら、給水ポンプ208に用いられているメカニカルシールのシールリングが、給水ポンプ208の運転中に破損する事象が起こり、水が給水ポンプ208から漏洩するという問題が発生している。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、メカニカルシールのシールリングの破損を防止することができる多段ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、メカニカルシールのシールリングが破損する原因を究明すべく実験を重ねたところ、次のような理由が判明した。図15に示す脱気器205内の水は、溶存酸素を水から除去するために高温に加熱され、さらに水を液体の状態に維持するために脱気器205内は高圧となっている。水を液体の状態に維持する理由は、給水ポンプ208が水をボイラ211に送ることを可能とするためである。一例では、脱気器205内の水は145℃で427kPaに加熱される。
【0009】
図15に示すように、脱気器205は、給水ポンプ208よりも数十メートルほど高い位置に配置される。吸込配管206内に存在する水に加わる圧力は、脱気器205内の圧力と水頭圧との和である。通常の運転時では、吸込配管206内に存在する水に加わる圧力は、水の蒸気圧よりも高い。よって、図1Aに示すように、吸込配管206内の水は液状のまま給水ポンプ208に吸い込まれる。
【0010】
ところが、蒸気タービン212から脱気器205内に注入される蒸気の流量が何らかの原因により低下すると、脱気器205内の圧力が低下し、吸込配管206内の水は蒸発しやすくなる。図1Bに示すように、脱気器205内の圧力と水頭圧との和よりも水の蒸気圧が高くなると、キャビテーションが発生し、吸込配管206内の水に気泡が形成される。水が吸込配管206内を流下するにつれて、吸込配管206内の水に加わる水頭圧は増加する。そして、図1Cに示すように、脱気器205内の圧力と水頭圧との和が水の蒸気圧以上となると、気泡が潰れ、衝撃波が発生する。この現象は、いわゆるウォーターハンマーである。ウォーターハンマーは吸込配管206内で起こることもあれば、給水ポンプ208内でも起こり得る。
【0011】
多段ポンプからなる給水ポンプ208は、加圧された水から羽根車に作用するスラスト力をキャンセルするためのバランス機構を備えている。気泡が潰れたときに生ずる衝撃波は、バランス機構の一部を構成するバランス配管(図15の符号208a参照)内を伝播し、最終的にメカニカルシールに到達する。このため、衝撃波によってメカニカルシールのシールリングが割れてしまう。
【0012】
このように、発明者は、脱気器205内の圧力低下に起因してキャビテーションが発生し、気泡が潰れるときに生じる衝撃波がメカニカルシールのシールリングを破損させることを実験により発見した。脱気器205内の圧力低下は、主にボイラ211が発生する蒸気の圧力の低下によって引き起こされる。したがって、ボイラ211の運転を安定させることは1つの解決策である。しかしながら、ボイラ211の圧力が低下する原因には、燃料の不安定な供給、蒸気タービン212のトリップなどの様々な原因があり、ボイラ211の安定的運転を維持することは難しい。
【0013】
そこで、本発明によれば、メカニカルシールのシールリングの破損を防止することができる次のような多段ポンプが提供される。一態様によれば、液体を移送するための多段ポンプであって、主軸と、前記主軸に固定された複数段の羽根車と、前記複数段の羽根車を収容し、吸込口および吐出口を有するケーシングと、液体から前記複数段の羽根車に加えられるスラスト力をキャンセルするためのバランス機構と、前記主軸と前記ケーシングとの間の隙間を封止するメカニカルシールと、前記ケーシングに接続された連絡管と、前記連絡管を通じて前記バランス機構のバランス室に接続された圧力逃し弁を備え、前記バランス機構は、前記ケーシングに固定されたバランスシートと、前記主軸に固定されたバランスディスクと、前記バランスシートおよび前記バランスディスクを囲む前記バランス室と、前記バランス室と多段ポンプの吸込側とを連通するバランス配管とを備え、前記多段ポンプの上流または前記多段ポンプ内で発生したウォーターハンマーに起因して発生した衝撃波が、前記バランス配管内の液体を伝播して前記バランス室内に到達し、前記バランス室内の液体の圧力を上昇させたときに、前記圧力逃し弁が開いて前記液体を前記バランス室の外に放出するように構成されており、前記バランスディスクの内面は前記バランスシートの外面に対向しており、前記バランスディスクの内面と前記バランスシートの外面との間には軸方向の隙間が存在し、前記バランスディスクの内面および前記バランスシートの外面には、互いに対向する窪みがそれぞれ形成されており、これら窪みによって前記バランスディスクと前記バランスシートとの間に中間圧力室が形成されている、多段ポンプが提供される。
【0014】
一態様によれば、主軸と、前記主軸に固定された複数段の羽根車と、前記複数段の羽根車を収容し、吸込口および吐出口を有するケーシングと、液体から前記複数段の羽根車に加えられるスラスト力をキャンセルするためのバランス機構と、前記主軸と前記ケーシングとの間の隙間を封止するメカニカルシールと、前記吸込口に接続された吸込配管と、前記吸込配管に接続された圧力逃し弁を備え、前記バランス機構は、前記ケーシングに固定されたバランスシートと、前記主軸に固定されたバランスディスクと、前記バランスシートおよび前記バランスディスクを囲むバランス室と、前記バランス室と多段ポンプの吸込側とを連通するバランス配管とを備え、前記バランスディスクの内面は前記バランスシートの外面に対向しており、前記バランスディスクの内面と前記バランスシートの外面との間には軸方向の隙間が存在し、前記バランスディスクの内面および前記バランスシートの外面には、互いに対向する窪みがそれぞれ形成されており、これら窪みによって前記バランスディスクと前記バランスシートとの間に中間圧力室が形成されている、多段ポンプが提供される。
【0015】
一態様では、前記バランス配管は、前記バランス室と、前記複数段の羽根車のうちの1段目の羽根車と2段目の羽根車との間の流路とを接続する。
一態様では、前記バランス配管は、前記バランス室と、前記複数段の羽根車のうちの2段目の羽根車と3段目の羽根車との間の流路とを接続する。
【0016】
一態様では、前記多段ポンプは、前記バランス配管に取り付けられた逆止弁をさらに備え、前記逆止弁は、前記バランス室から前記多段ポンプの吸込側へのみ液体が通れることを許容するように構成される。
一態様では、前記多段ポンプは、前記多段ポンプの起動時にインバータによって前記主軸の回転速度が徐々に上昇するように駆動可能である。
一態様では、前記多段ポンプは、前記多段ポンプの吐き出し側に設けられた逆浸透膜へ通流させるための液体を圧送するポンプである。
一態様では、前記多段ポンプは、前記圧力逃し弁の吐出口に接続され、前記圧力逃し弁が作動したことを検出する作動検出センサをさらに備える。
【0017】
一態様では、前記圧力逃し弁に代えて、衝撃波を吸収するウォーターハンマー防止装置を備える。
一態様では、前記ウォーターハンマー防止装置は、液体の通路が内部に形成された柔軟な内管と、前記内管を囲む柔軟な外管と、前記内管と前記外管との間に形成されている空気層とを備えたフレキシブル継手である。
一態様では、前記ウォーターハンマー防止装置は、衝撃波を吸収する減衰装置が内部に配置された容器を備えたバッファタンクである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、衝撃波によって上昇した液体の圧力は、圧力逃し弁によって解放される。したがって、衝撃波はメカニカルシールまで到達することがなく、結果として、メカニカルシールのシールリングの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】水が液体の状態で流れる様子を示す模式図である。
図1B】圧力低下に起因してキャビテーションが発生する様子を示す模式図である。
図1C】気泡が潰れてウォーターハンマーが起こる様子を示す模式図である。
図2】多段ポンプの一実施形態を示す図である。
図3図2に示すバランス機構を示す拡大断面図である。
図4】吐出側のメカニカルシールを示す拡大断面図である。
図5】圧力逃し弁を備えた多段ポンプの側面図である。
図6図5に示す多段ポンプの背面図である。
図7】ケーシングの吸込口に接続された圧力逃し弁を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図である。
図8】バランス配管に接続された圧力逃し弁を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図である。
図9】メカニカルシールのシール室に接続された圧力逃し弁を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図である。
図10】吸込配管に接続された圧力逃し弁を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図である。
図11図2に示す実施形態のバランス配管に逆止弁が取り付けられた一実施形態を示す図である。
図12図11に示す多段ポンプに電動機が連結された一実施形態を示す図である。
図13図2に示す実施形態の圧力逃し弁が作動したことを検出する作動検出センサが設けられた一実施形態を示す図である。
図14】圧力逃し弁に代えて、ウォーターハンマー防止装置が設けられた一実施形態を示す図である。
図15】蒸気タービンを用いた発電システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図2は、多段ポンプの一実施形態を示す図である。本実施形態の多段ポンプは、図15に示す発電システムの給水ポンプ208としての使用に適している。図2に示すように、多段ポンプは、主軸1と、主軸1に固定された複数段の羽根車3a~3jと、羽根車3a~3jを収容するケーシング2と、各段の羽根車3a~3jの吐出側に配置された複数段のガイドベーン5を備えている。本実施形態では、各羽根車3a~3jは片吸込型の遠心羽根車である。羽根車3a~3jは同じ方向を向いて主軸1上に配列されている。以下の説明では、羽根車3a~3jを総称して単に羽根車3という場合がある。本実施形態では、10枚の羽根車3が配置されているが、羽根車3の枚数は本実施形態に限定されない。
【0021】
ケーシング2は、吸込口2aを有する吸込ケーシング2Aと、複数段の羽根車3a~3iをそれぞれ収容する複数の中間ケーシング2Bと、吐出口2cを有し、最終段の羽根車3jを収容する吐出ケーシング2Cとを有している。中間ケーシング2Bは、吸込ケーシング2Aと吐出ケーシング2Cとの間に配置されている。吸込ケーシング2A、中間ケーシング2B、および吐出ケーシング2Cは通しボルト51およびナット52によって互いに固定されている。主軸1は、吸込ケーシング2A、中間ケーシング2B、および吐出ケーシング2Cを貫通している。
【0022】
主軸1は軸受8,9により回転可能に支持されている。主軸1の一端は図示しない駆動源(電動機など)に連結され、駆動源によって主軸1と羽根車3は一体に回転される。羽根車3が回転すると、液体は吸込口2aを通って羽根車3aに流入し、羽根車3aの回転によって液体に速度エネルギーが与えられる。増速された液体は羽根車3aを出てガイドベーン5に沿って流れ、次段の羽根車3bに流入する。液体がガイドベーン5に沿って流れるときに液体の速度エネルギーは圧力に変換され、液体は昇圧される。このようにして液体は複数段の羽根車3および複数段のガイドベーン5によって順次昇圧され、最終的に吐出口2cから吐き出される。
【0023】
各羽根車3には、昇圧された液体によって吸込側へ向かうスラスト力が作用する。そこで、多段ポンプは、このようなスラスト力をキャンセルすることができるバランス機構11を備えている。さらに、多段ポンプは、ケーシング2と主軸1との間の隙間を封止するための軸封装置としてのメカニカルシール31,32を備えている。メカニカルシール31,32は、ケーシング2の吸込側と吐出側に設置されている。吐出側のメカニカルシール32は、バランス機構11の反吸込側に配置されている。
【0024】
吸込ケーシング2Aにはスタッフィングボックス33が連結され、吐出ケーシング2Cにはスタッフィングボックス34が連結されている。メカニカルシール31,32は、スタッフィングボックス33およびスタッフィングボックス34内にそれぞれ配置されている。
【0025】
図3は、図2に示すバランス機構11を示す拡大断面図である。バランス機構11は、吐出ケーシング2Cに固定されたバランスシート12と、主軸1に固定されたバランスディスク15と、バランスシート12およびバランスディスク15を囲むバランス室16と、バランス室16と多段ポンプの吸込側とを連通するバランス配管18とを備えている。
【0026】
バランスシート12、バランスディスク15、およびバランス室16は、吐出ケーシング2C内に位置している。バランスシート12は静止しており、その一方でバランスディスク15は主軸1と一体に回転可能となっている。バランスディスク15の内面はバランスシート12の外面に対向しており、バランスディスク15の内面とバランスシート12の外面との間には微小な軸方向の隙間δが存在する。バランスディスク15の内面およびバランスシート12の外面には、互いに対向する窪みがそれぞれ形成されており、これら窪みによってバランスディスク15とバランスシート12との間に中間圧力室20が形成されている。
【0027】
バランスディスク15は主軸1を囲む第1円筒部15aを有しており、バランスシート12は第1円筒部15aを囲む第2円筒部12aを有している。第1円筒部15aの外周面と第2円筒部12aの内周面との間には、微小な径方向の隙間εが存在する。この隙間εは中間圧力室20に連通している。第1円筒部15aおよび第2円筒部12aは、最終段の羽根車3jと中間圧力室20との間に位置している。バランス配管18の一端はバランス室16に接続され、バランス配管18の他端は1段目の羽根車3aと2段目の羽根車3bとの間の流路に接続されている(図2参照)。バランス室16内の圧力は、1段目の羽根車3aと2段目の羽根車3bとの間の液体の圧力と、バランス配管18内の圧力損失との和に相当する圧力である。一実施形態では、バランス配管18の一端はバランス室16に接続され、バランス配管18の他端は2段目の羽根車3bと3段目の羽根車3cとの間の流路に接続されてもよい。
【0028】
バランス機構11の動作は次の通りである。最終段の羽根車3jを出た液体の一部は、この羽根車3jの背面側を流れ、上記隙間εに到達する。さらに液体は隙間εを通って中間圧力室20を満たし、隙間δを通ってバランス室16内に流出する。バランス室16内の液体はバランス配管18を通って、1段目の羽根車3aと2段目の羽根車3bとの間の流路(または2段目の羽根車3bと3段目の羽根車3cとの間の流路)に戻される。
【0029】
羽根車3に加わる吸込側へのスラスト力が大きくなると、バランスディスク15は羽根車3および主軸1とともに吸込側に移動する。その結果、隙間δは小さくなる。隙間δが小さくなるに伴って、中間圧力室20からバランス室16に漏れる液体が少なくなるので、中間圧力室20内の圧力が上昇する。その結果、中間圧力室20内の液体がバランスディスク15を反吸込側に押すバランス力が増加し、バランスディスク15は羽根車3および主軸1とともに反吸込側に移動する。このようにして、羽根車3に加わるスラスト力と、バランスディスク15に加わるバランス力とが釣り合うことによって、スラスト力はバランス力によってキャンセルされる。
【0030】
バランス室16には、連絡管21を通じて圧力逃し弁22が接続されている。この圧力逃し弁22は、バランス室16内の圧力が設定値よりも高いときに開いてバランス室16内の液体を放出し、バランス室16内の圧力が上記設定値よりも低いときに閉じるように構成されている。このような圧力逃し弁22は、安全弁とも呼ばれ、市場で入手することができる。
【0031】
上述したように、多段ポンプの上流または多段ポンプ内でウォーターハンマーが発生すると、衝撃波は、バランス配管18内の液体を伝播してバランス室16に到達し、バランス室16内の液体の圧力を上昇させる。このとき、圧力逃し弁22が開き、液体は圧力逃し弁22を通ってバランス室16の外に放出される。このように、バランス室16に連通する圧力逃し弁22は、ウォーターハンマーが起こった場合に、バランス室16内の圧力の上昇を防ぐことができる。結果として、圧力逃し弁22は、以下に説明するメカニカルシール32の破損を防止することができる。
【0032】
図4は、吐出側のメカニカルシール32を示す拡大断面図である。図4に示すように、メカニカルシール32は、スタッフィングボックス34に支持されたシールリング(固定側リング)35と、主軸1とともに回転可能な回転側リング36と、シールリング35を回転側リング36に押し付けるばね37とを有している。回転側リング36は、メイティングリングともいう。主軸1の外周面には軸スリーブ40が固定されており、軸スリーブ40の外周面にリングホルダ41が固定されている。回転側リング36はリングホルダ41に固定されており、回転側リング36およびリングホルダ41は、主軸1と一体に回転するようになっている。主軸1の回転に伴って回転側リング36はシールリング35に摺接する。本実施形態では、シールリング35および回転側リング36は炭化ケイ素から構成されている。
【0033】
軸スリーブ40とスタッフィングボックス34の内面との間にはシール室43が形成されている。シールリング35および回転側リング36は、シール室43に面している。図4の矢印で示すように、液体は、バランス機構11のバランス室16(図3参照)からメカニカルシール32に向かって流れ、シール室43内に流入する。シールリング35は、ばね37によって回転側リング36に押し付けられているので、シールリング35と回転側リング36との間には極めて微小な隙間のみが存在する。よって、メカニカルシール32に到達した液体の漏洩はメカニカルシール32によって実質的に防止される。
【0034】
本実施形態のメカニカルシール31,32は、該メカニカルシール31,32を冷却するための注水管を持たない、いわゆるデッドエンド型のメカニカルシールである。
【0035】
図5は、圧力逃し弁22を備えた多段ポンプの側面図であり、図6図5に示す多段ポンプの背面図である。図5ではバランス配管18は模式的に描かれている。吐出ケーシング2Cには、上述した圧力逃し弁22が連絡管21を通じて連結されている。多段ポンプの上流または多段ポンプ内でウォーターハンマーが発生すると、衝撃波は、バランス配管18内の液体を伝播してバランス室16内に到達し、液体の圧力を上昇させる。このとき、液体の圧力は圧力逃し弁22を通ってバランス室16の外に解放される。したがって、図4に示すメカニカルシール32の破損、特にシールリング35の破損を防止することができる。
【0036】
本実施形態の圧力逃し弁22は、ウォーターハンマーに起因した圧力上昇のみならず、他の原因による圧力上昇も防ぐことができ、メカニカルシール32の破損を防止することができる。
【0037】
上述した実施形態では、圧力逃し弁22はバランス室16に接続されているが、ウォーターハンマーが発生した箇所と、吐出し側のメカニカルシールと32との間であれば、圧力逃し弁22の接続位置は特に限定されない。例えば、ケーシング2の吸込口2a、バランス機構11のバランス配管18、メカニカルシール32のシール室43、または吸込口2aに接続された吸込配管206(図15参照)に圧力逃し弁22を接続してもよい。
【0038】
図7は、ケーシング2の吸込口2aに接続された圧力逃し弁22を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図であり、図8は、バランス配管18に接続された圧力逃し弁22を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図であり、図9は、メカニカルシール32のシール室43に接続された圧力逃し弁22を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図であり、図10は、吸込配管206に接続された圧力逃し弁22を備えた多段ポンプの一実施形態を示す図である。図10では、吸込配管206は模式的に描かれている。図10に示す実施形態において、圧力逃し弁22は、吸込口2aに近い位置において吸込配管206に接続されることが好ましい。
【0039】
図7乃至図10に示すいずれの実施形態でも、圧力逃し弁22は、ウォーターハンマーに起因した圧力上昇のみならず、他の原因による圧力上昇も防ぐことができ、メカニカルシール32の破損を防止することができる。
【0040】
上述した各実施形態において、バランス配管18に逆止弁を取り付けてもよい。図11は、図2に示す実施形態のバランス配管18に逆止弁60が取り付けられた一実施形態を示す図である。逆止弁60は、バランス室16から液体吸い込み側の方向へのみ液体が通流可能な弁である。言い換えると、逆止弁60は、バランス室16内の液体がバランス配管18を通って多段ポンプの吸込側へ流れることのみを許容する弁である。
【0041】
逆止弁60の圧力損失は、バランス室16の圧力の上昇に繋がる。バランス室16の圧力上昇は、バランスディスク15とバランスシート12との間の距離が狭くなり、両者が接触する原因となり得る。そこで、逆止弁60は、多段ポンプの運転中のバランス室16の圧力や流量にとって抵抗とならない弁が選定される。
【0042】
本実施形態の多段ポンプによれば、バランスディスク15とバランスシート12との接触を抑制することができる簡素な構造を実現することができる。すなわち、多段ポンプの停止中に他のポンプなどによって多段ポンプの内部に通水する場合、吸い込み側の圧力は、多段ポンプの内部を通る際に多段の羽根車2の管路抵抗によって減圧され、減圧された圧力がバランス室16にかかる。一方、バランス配管18を介した液体の通流に着目すると、逆止弁60は、液体が多段ポンプの吸込側からバランス配管18を通ってバランス室16へ流れるのを阻止する。その結果、バランスディスク15には反吸込側方向のスラスト力が加わるのみであるから、バランスディスク15とバランスシート12とが接触することを防止することができる。
【0043】
図11に示す逆止弁60は、図2に示す実施形態のみならず、図7図8図9図10に示す実施形態にも適用することができる。逆止弁60を図8に示す実施形態に適用する場合、圧力逃し弁22はバランス室16と逆止弁60との間に配置される。
【0044】
図12は、図11に示す多段ポンプに電動機55が連結された一実施形態を示す図である。多段ポンプの主軸1は、カップリング56により電動機55の駆動軸55aに連結される。多段ポンプは電動機55によって駆動される。電動機55にはインバータ57が電気的に接続されており、電力はインバータ57を経由して電動機55に供給される。電動機55はインバータ57によって可変速駆動される。
【0045】
本実施形態の多段ポンプは、多段ポンプの起動時にインバータ57を用いて回転速度が徐々に上昇して吐き出し圧力が徐々に上昇するように駆動され得る。この場合、インバータ57の出力周波数が低く吐出口2cでの圧力が低い間は、バランス室16の圧力が多段ポンプの吸込側での圧力よりも低いので、逆止弁60は閉じられたままである。すなわち、バランス室16と多段ポンプの吸込側との間でバランス配管18を介した液体の移動は制限される。逆止弁60が閉の間は、バランスディスク15には吸込側方向の推力が加わることはなく、反吸込側方向の推力が加わるのみである。したがって、回転しているバランスディスク15と静止しているバランスシート12とが接触することを抑制することができる。
【0046】
多段ポンプが定格速度で運転し、吐き出し圧力が安定すると、吐き出し側の圧力が上昇し、バランス室16内の圧力が多段ポンプの吸込側での圧力よりも高くなる。すると、逆止弁60が開き、バランス室16と多段ポンプの吸込側は、バランス配管18によって連通する。その結果、バランス室16内の圧力と、多段ポンプの吸込側の圧力とは、実質的に同一となり主軸1をバランスさせることができる。
【0047】
図13は、圧力逃し弁22が作動したことを検出する作動検出センサ70が設けられた一実施形態を示す図である。作動検出センサ70は、圧力逃し弁22の吐出口に接続されており、圧力逃し弁22が作動したことを検出するように構成されている。このような作動検出センサ70の例としては、圧力センサおよび漏水検出器が挙げられる。作動検出センサ70は、圧力逃し弁22が作動したことを検出すると、検出信号を発するように構成される。図13に示す作動検出センサ70は、図2に示す実施形態のみならず、図7図8図9図10図11図12に示す実施形態にも適用することができる。
【0048】
上述した各実施形態において、圧力逃し弁22に代えて、ウォーターハンマーが発生したときの衝撃波を吸収することができるウォーターハンマー防止装置を設けてもよい。図14は、圧力逃し弁22に代えて、ウォーターハンマー防止装置80が設けられた一実施形態を示す図である。図14に示す例では、図2に示す圧力逃し弁22に代えて、ウォーターハンマー防止装置80が設けられている。
【0049】
ウォーターハンマー防止装置80の例としては、フレキシブル継手やバッファタンクが挙げられる。フレキシブル継手は、液体の通路が内部に形成された柔軟な内管と、この内管を囲む柔軟な外管と、内管と外管との間に形成されている空気層とを備えている。衝撃波は空気層によって吸収される。バッファタンクは、衝撃波を吸収することができる減衰装置が内部に配置された容器を備えている。このようなフレキシブル継手およびバッファタンクは、市場で入手することができる。図14に示すウォーターハンマー防止装置80は、図2に示す実施形態のみならず、図7図8図9図10図11図12に示す実施形態にも適用することができる。
【0050】
上述した各実施形態の多段ポンプは、図15に示す発電システムの給水ポンプ208としての使用に適しているが、本発明はこの用途には限定されない。例えば、上述した各実施形態の多段ポンプは、海水淡水化システムにおいて、多段ポンプの吐き出し側に設けられた逆浸透(RO)膜を通流させるための流体(海水)を圧送するポンプとして使用することができる。
【0051】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、液体を移送するための多段ポンプに利用可能であり、特に高温高圧の水を加圧してボイラに移送する給水ポンプとして使用可能な多段ポンプに利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 主軸
2 ケーシング
2A 吸込ケーシング
2B 中間ケーシング
2C 吐出ケーシング
3,3a~3j 羽根車
5 ガイドベーン
8,9 軸受
11 バランス機構
12 バランスシート
15 バランスディスク
16 バランス室
18 バランス配管
20 中間圧力室
21 連絡管
22 圧力逃し弁
31,32 メカニカルシール
33,34 スタッフィングボックス
35 シールリング(固定側リング)
36 回転側リング
37 ばね
40 軸スリーブ
41 リングホルダ
43 シール室
51 通しボルト
52 ナット
60 逆止弁
70 作動検出センサ
80 ウォーターハンマー防止装置
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15