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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】薬液収容体
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20220224BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20220224BHJP
   B65D 23/02 20060101ALI20220224BHJP
   B65D 85/84 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C03C23/00 A
C03C17/245 Z
B65D23/02
B65D85/84
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019540924
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032173
(87)【国際公開番号】W WO2019049770
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017170832
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018155196
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】上村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉留 正洋
(72)【発明者】
【氏名】河田 幸寿
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-170736(JP,A)
【文献】特表2012-501940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
B65D 23/02
B65D 1/00-1/48
B65D 85/84
H01L 21/304
H01L 21/306-21/308
H01L 21/463
H01L 21/465-21/467
G03F 7/00
G03F 7/004-7/04
G03F 7/06
G03F 7/07
G03F 7/075-7/115
G03F 7/12-7/14
G03F 7/16-7/18
G03F 7/20-7/24
G03F 7/26-7/42
G03F 9/00-9/02
G03C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム原子を含有するガラスからなる容器と、前記容器に収容された薬液とを有する薬液収容体であって、
前記薬液は、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される少なくとも1種の金属成分を含有し、
前記薬液が、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される1種の前記金属成分を含有する場合、前記金属成分の含有量が、前記薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、
前記薬液が、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される2種以上の前記金属成分を含有する場合、前記金属成分の含有量の合計が、前記薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、
前記容器の接液部の全部が、ナトリウム原子を含有するガラスからなり、
前記接液部の表面と、前記表面を基準として前記容器の厚み方向に10nmの位置との間を表面領域とし、
前記表面と、前記表面を基準として前記容器の厚み方向に2.0μmの位置との間をバルク領域とし、
前記表面領域及び前記バルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
前記接液部の全部において、前記バルク領域における、前記バルク領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量B、に対する、
前記表面領域における、前記表面領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量A、の含有質量比A/Bが、0.15~0.90であり、
前記含有量Aが、0.010~5.0質量%であり、
前記薬液は、プリウェット液、レジスト組成物、CMPスラリー、及び、CMP後の洗浄液のいずれかであり、
前記薬液は、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート、シクロヘキサノン、乳酸エチル、酢酸ブチル、4-メチル-2-ペンタノール、n-メチル-2-ピロリドン、2-ヘプタノン、酢酸n-ペンチル、エチレングリコール、酢酸イソペンチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、1-ヘキサノール、および、デカンからなる群から選択される有機溶剤を含む、薬液収容体。
【請求項2】
以下式より計算される空隙率が5~40体積%にあり、
前記容器の空隙部において、粒径0.05μm以上の粒子数が1~1000個/mである、請求項1に記載の薬液収容体。
式:空隙率={1-(容器内の薬液の体積/容器の容器体積)}×100
【請求項3】
前記薬液中において、粒径0.05μm以上の粒子数が5~500個/mlである、請求項1または2に記載の薬液収容体。
【請求項4】
前記容器の空隙部において、有機リン化合物の濃度が0.01~100体積ppbである、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬液収容体。
【請求項5】
ナトリウム原子を含有するガラスからなる容器と、前記容器に収容された薬液とを有する薬液収容体であって、
前記薬液は、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される少なくとも1種の金属成分を含有し、
前記薬液が、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される1種の前記金属成分を含有する場合、前記金属成分の含有量が、前記薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、
前記薬液が、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される2種以上の前記金属成分を含有する場合、前記金属成分の含有量の合計が、前記薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、
前記容器の接液部の全部が、ナトリウム原子を含有するガラスからなり、
前記接液部の表面と、前記表面を基準として前記容器の厚み方向に10nmの位置との間を表面領域とし、
前記表面と、前記表面を基準として前記容器の厚み方向に2.0μmの位置との間をバルク領域とし、
前記表面領域及び前記バルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
前記接液部の全部において、前記バルク領域における、前記バルク領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量B、に対する、
前記表面領域における、前記表面領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量A、の含有質量比A/Bが、0.15~0.90であり、
前記含有量Aが、0.010~5.0質量%であり、
前記薬液は、プリウェット液、レジスト組成物、CMPスラリー、及び、CMP後の洗浄液のいずれかであり、
前記薬液は、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート、シクロヘキサノン、乳酸エチル、酢酸ブチル、4-メチル-2-ペンタノール、n-メチル-2-ピロリドン、2-ヘプタノン、酢酸n-ペンチル、エチレングリコール、酢酸イソペンチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、1-ヘキサノール、および、デカンからなる群から選択される有機溶剤を含み、
前記容器の空隙部において、粒径0.05μm以上の粒子数が1~1000個/mであり、
前記薬液中において、粒径0.05μm以上の粒子数が5~500個/mlであり、
前記容器の空隙部において、有機リン化合物の濃度が0.01~100体積ppbである、薬液収容体。
【請求項6】
前記金属成分が金属粒子を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬液収容体。
【請求項7】
前記含有質量比A/Bが0.15以上0.80未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬液収容体。
【請求項8】
前記含有量Bが、1.0~20質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬液収容体。
【請求項9】
前記含有量Bが、1.0~10質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬液収容体。
【請求項10】
前記表面領域及び前記バルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
前記表面の少なくとも一部において、前記バルク領域における、前記バルク領域の全質量に対するSiOの含有量D、に対する、
前記表面領域における、前記表面領域の全質量に対するSiOの含有量C、の含有質量比C/Dが、1.00を超え、1.45未満である、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬液収容体。
【請求項11】
前記含有質量比C/Dが1.00を超え、1.30未満である、請求項10に記載の薬液収容体。
【請求項12】
前記含有量Dが68.0~80.0質量%である、請求項10又は11に記載の薬液収容体。
【請求項13】
前記ガラスが、更に、カルシウム原子及びカリウム原子の少なくとも一方を含有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の薬液収容体。
【請求項14】
前記ガラスが、更にカルシウム原子を含有し、
前記表面領域及び前記バルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
前記表面の少なくとも一部において、前記バルク領域における、前記バルク領域の全質量に対するカルシウム原子の含有量Fに対する、前記表面領域における、前記表面領域の全質量に対するカルシウム原子の含有量Eの含有質量比E/Fが、0.10を超え、0.90未満である、請求項1~13のいずれか一項に記載の薬液収容体。
【請求項15】
前記含有質量比E/Fが0.10を超え、0.70未満である、請求項14に記載の薬液収容体。
【請求項16】
前記含有量Fが0.10~15質量%である、請求項14又は15に記載の薬液収容体。
【請求項17】
前記含有量Fが0.10~10質量%である、請求項14~16のいずれか一項に記載の薬液収容体。
【請求項18】
前記ガラスが、更にホウ素原子を含有し、
前記表面領域及び前記バルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
前記表面の少なくとも一部において、前記バルク領域における、前記バルク領域の全質量に対するホウ素原子の含有量Hに対する、前記表面領域における、前記表面領域の全質量に対するホウ素原子の含有量Gの含有質量比G/Hが、0.10を超え、0.90未満である、請求項1~17のいずれか一項に記載の薬液収容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィを含む配線形成工程による半導体デバイスの製造の際、プリウェット液、レジスト液、現像液、リンス液、剥離液、化学機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)スラリー、及び、CMP後の洗浄液等として、水及び/又は有機溶剤を含有する薬液が用いられている。
半導体デバイスの歩留まりをより向上させるため、不純物の含有量が少ない薬液が求められている。近年、10nmノード以下の半導体デバイスの製造が検討されており、この傾向は更に顕著になっている。
【0003】
薬液は製造後に容器に収容され、薬液収容体の形態として一定期間保管された後に、収容された薬液が取り出され、使用される。
薬液を収容する容器として、特許文献1には、「ガラスより成り、その内面が加熱下において硫黄酸化物で処理されたものであることを特徴とする被膜形成材料用容器。」が記載されている。
また、特許文献2には、「内面を加熱下においてフッ化炭化水素ガス及び亜硫酸ガスで処理したガラス容器であって、有機溶剤によるノボラック樹脂系ポジ型ホトレジスト溶液が収納されることを特徴とするノボラック樹脂系ポジ型ホトレジスト用ガラス容器」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特昭59-35043号公報
【文献】特開平11-29148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、近年要求される水準まで不純物の含有量が低減された高純度の薬液を準備し、特許文献1及び特許文献2に記載された容器に収容し、薬液収容体を作製した。次に、上記薬液収容体を一定期間保管し、その後、薬液収容体から薬液を取り出し、薬液をフォトリソグラフィを含む配線形成工程に適用したところ、得られる配線基板にショートが発生したり、欠陥が発生したりする場合があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、一定期間保管後に、収納された薬液をフォトリソグラフィを含む配線形成工程に適用したとき、形成される配線基板においてショートが発生しにくく、かつ、欠陥が発生しにくい薬液収容体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
(1) 容器と、容器に収容された薬液とを有する薬液収容体であって、
薬液は、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される少なくとも1種の金属成分を含有し、
薬液が、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される1種の金属成分を含有する場合、前記金属成分の含有量が、薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、
薬液が、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される2種以上の金属成分を含有する場合、金属成分の含有量の合計が、薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、
容器の接液部の少なくとも一部が、ナトリウム原子を含有するガラスからなり、
接液部の表面と、表面を基準として容器の厚み方向に10nmの位置との間を表面領域とし、
表面と、表面を基準として容器の厚み方向に2.0μmの位置との間をバルク領域とし、
表面領域及びバルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
接液部の少なくとも一部において、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量B、に対する、
表面領域における、表面領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量A、の含有質量比A/Bが、0.10を超え、1.0未満である、薬液収容体。
(2) 金属成分が金属粒子を含有する、(1)に記載の薬液収容体。
(3) 含有質量比A/Bが0.10を超え、0.80未満である、(1)又は(2)に記載の薬液収容体。
(4) 含有量Bが、1.0~20質量%である、(1)~(3)のいずれかに記載の薬液収容体。
(5) 含有量Bが、1.0~10質量%である、(1)~(4)のいずれかに記載の薬液収容体。
(6) 表面領域及びバルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
表面の少なくとも一部において、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するSiOの含有量D、に対する、
表面領域における、表面領域の全質量に対するSiOの含有量C、の含有質量比C/Dが、1.00を超え、1.45未満である、(1)~(5)のいずれかに記載の薬液収容体。
(7) 含有質量比C/Dが1.00を超え、1.30未満である、(6)に記載の薬液収容体。
(8) 含有量Dが68.0~80.0質量%である、(6)又は(7)に記載の薬液収容体。
(9) ガラスが、更に、カルシウム原子及びカリウム原子の少なくとも一方を含有する、(1)~(8)のいずれかに記載の薬液収容体。
(10) ガラスが、更にカルシウム原子を含有し、
表面領域及びバルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
表面の少なくとも一部において、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するカルシウム原子の含有量Fに対する、表面領域における、表面領域の全質量に対するカルシウム原子の含有量Eの含有質量比E/Fが、0.10を超え、0.90未満である、(1)~(9)のいずれかに記載の薬液収容体。
(11) 含有質量比E/Fが0.10を超え、0.70未満である、(10)に記載の薬液収容体。
(12) 含有量Fが0.10~15質量%である、(10)又は(11)に記載の薬液収容体。
(13) 含有量Fが0.10~10質量%である、(10)~(12)のいずれかに記載の薬液収容体。
(14) ガラスが、更にホウ素原子を含有し、
表面領域及びバルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、
表面の少なくとも一部において、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するホウ素原子の含有量Hに対する、表面領域における、表面領域の全質量に対するホウ素原子の含有量Gの含有質量比G/Hが、0.10を超え、0.90未満である、(1)~(13)のいずれかに記載の薬液収容体。
(15) 以下式より計算される空隙率が5~40体積%にあり、
容器の空隙部において、粒径0.05μm以上の粒子数が1~1000個/mである、(1)~(14)のいずれかに記載の薬液収容体。
式:空隙率={1-(容器内の薬液の体積/容器の容器体積)}×100
(16) 薬液中において、粒径0.05μm以上の粒子数が5~500個/mlである、(1)~(15)のいずれかに記載の薬液収容体。
(17) 容器の空隙部において、有機リン化合物の濃度が0.01~100体積ppbである、(1)~(16)のいずれかに記載の薬液収容体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一定期間保管後に、収納された薬液をフォトリソグラフィを含む配線形成工程に適用したとき、形成される配線基板においてショートが発生しにくく(以下、「ショート抑制性能を有する」ともいう。)、かつ、欠陥が発生にくい(以下、「欠陥抑制性能を有する」ともいう。)薬液収容体の提供を課題できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明において、「ppm」は「parts-per-million(10-6)」を意味し、「ppb」は「parts-per-billion(10-9)」を意味し、「ppt」は「parts-per-trillion(10-12)」を意味し、「ppq」は「parts-per-quadrillion(10-15)」を意味する。
また、本発明における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「炭化水素基」とは、置換基を有さない炭化水素基(無置換炭化水素基)のみならず、置換基を有する炭化水素基(置換炭化水素基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本発明における「放射線」とは、例えば、遠紫外線、極紫外線(EUV;Extreme ultraviolet)、X線、又は、電子線等を意味する。また、本発明において光とは、活性光線又は放射線を意味する。本発明中における「露光」とは、特に断らない限り、遠紫外線、X線又はEUV等による露光のみならず、電子線又はイオンビーム等の粒子線による描画も露光に含める。
【0011】
[薬液収容体]
本発明の薬液収容体は、容器と、容器に収容された薬液とを有する薬液収容体であって、薬液は、Fe、Al、Cr、及び、Niからなる群から選択される少なくとも1種の金属(以下、「特定金属」ともいう。)成分を含有し、薬液が、1種の特定金属成分を含有する場合、薬液中における特定金属成分の含有量が、薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、薬液が、2種以上の特定金属成分を含有する場合、薬液中における特定金属成分の含有量の合計が、薬液の全質量に対して100質量ppt以下であり、容器の接液部の少なくとも一部が、ナトリウム原子を含有するガラスからなり、容器の表面と、表面を基準として容器の厚み方向に10nmの位置との間を表面領域とし、表面と、表面を基準として容器の厚み方向に2.0μmの位置との間をバルク領域とし、表面領域及びバルク領域をX線光電子分光法で測定した際に、表面の少なくとも一部において、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量Bに対する、表面領域における、表面領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量Aの含有質量比A/Bが、0.10を超え、1.0未満である、薬液収容体である。
【0012】
本発明者らは、近年要求される水準まで不純物の含有量が低減された高純度の薬液(以下「高純度薬液」ともいう。)を準備し、特許文献1及び特許文献2に記載された容器に収容し、薬液収容体を作製した。次に、上記薬液収容体を一定期間保管し、その後、薬液収容体から薬液を取り出し、薬液をフォトリソグラフィを含む配線形成工程に適用したところ、得られる配線基板にショートが発生したり、欠陥が発生したりする場合があることを明らかとした。
本発明者らは、接液部における不純物の不溶化処理が施された特許文献1及び特許文献2に記載されたような容器に高純度薬液を収容したにもかかわらず、経時的に、ショート抑制性能及び欠陥抑制性能が低下してしまう要因について、鋭意検討してきた。
【0013】
その結果、高純度薬液は、調製当初に含有している不純物の含有量が従来の薬液と比較して格段に少ないため、容器に収容した場合、容器の接液部から不純物をより溶出させやすいという特性を有することを知見した。本発明者らは、薬液収容体において、経時的に、ショート抑制性能及び欠陥抑制性能が低下してしまう現象が、高純度薬液の上記の特性に関係するものと考えた。
【0014】
そこで、本発明者らは、高純度薬液を収容するための容器を選定すべく、上記のようにして作製した薬液収容体を一定期間保存し、保管後の薬液収容体から取り出した薬液中に含有される不純物の種類を網羅的に分析し、どのような不純物が薬液中に経時的に溶出し、そのうち、どの不純物がショート抑制性能及び欠陥抑制性能に影響するのかを検討した。その結果、薬液中に溶出したナトリウム原子の影響が大きいとの推測を得た。ナトリウム原子はアルカリ金属であり、配線基板中で拡散しやすいという特徴を有する。従って、薬液中にナトリウム原子が含有される場合、配線基板におけるショートの原因となりやすいことが推測された。
【0015】
そこで本発明者らは、保管された薬液にナトリウム原子がより溶出しにくいよう、容器のバルク領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量B(B=バルク領域におけるナトリウム原子の含有量/容器のバルク領域の全質量)に対する、表面領域の全質量に対する表面領域におけるナトリウム原子の含有量A(A=表面領域におけるナトリウム原子の含有量/表面領域の全質量)の含有質量比を表すA/Bがより小さいガラス瓶を用いて薬液収容体を作製し、保管後の薬液のショート抑制性能及び欠陥抑制性能を調べた。その結果、保管後の薬液は、優れたショート抑制性能を有していたものの、予想に反して、欠陥抑制性能が悪化してしまう場合があることがわかった。
【0016】
薬液中に溶出するナトリウム原子の含有量をより少なくするためにA/Bをより小さく制御して薬液収容体を作製したにも関わらず、今度は欠陥抑制性能が悪化してしまう原因について、本発明者らは更に検討を重ねた。
その結果、保管後の薬液中にナトリウム原子が微量に存在する場合、薬液中におけるその他の金属不純物(典型的にはFe、Al、Cr、及び、Ni)の含有量が少なくなりやすく、そのような薬液は、優れた欠陥抑制性能を有しやすいことを知見した。
【0017】
容器に保管中の薬液にナトリウム原子が微量に溶出することで、上記の不純物金属の溶出が抑制されることについて、本発明者らは鋭意検討した結果、ナトリウム原子のイオン化傾向に関連があるとの推測を得た。
すなわち、ナトリウム原子はイオン化傾向が大きいため、イオン化傾向が大きいナトリウム原子がわずかに溶出するような容器を用いて薬液収容体を作製すると、保管中におけるイオン化傾向のより小さい金属不純物の薬液への溶出が大幅に減少することが推測された。これは、上述したとおり、高純度薬液が調製当初に含有している不純物の含有量が従来の薬液と比較して格段に少ないため、容器に収容した場合、容器の接液部から不純物をより溶出させやすいという特性により起こる特異な現象と推測された。
【0018】
このようにして、本発明者らは容器の接液部におけるA/Bを所定の範囲内に制御することにより、本発明の効果を有する薬液収容体が得られることを知見し、本発明を完成させた。以下では、本発明の薬液収容体について、詳細に説明する。
【0019】
なお、本明細書において、薬液の欠陥抑制性能の評価方法は、ウェハ上表面検査装置(SP-5;KLA Tencor製)を用いた方法であり、手順の詳細は実施例に記載したとおりである。この装置を用いた欠陥検出の原理は次のとおりである。まず、薬液をウェハに塗布し、ウェハの薬液塗布面にレーザー光線を照射する。次に、異物及び/又は欠陥にレーザー光線が当たると光が散乱し、散乱光が検出器で検出され、異物及び欠陥が検出される。更に、レーザー光線の照射の際に、ウェハを回転させながら測定することにより、ウェハの回転角度と、レーザー光線の半径位置から、異物及び欠陥の座標位置を割り出すことができる。
薬液の欠陥抑制性能は、上記SP-5以外であっても、同様の測定原理による検査装置であれば評価可能である。そのような検査装置としては、例えば、KLA Tencor製のSurfscanシリーズ等が挙げられる。特に、10nmノード以下の微細な半導体デバイスの製造に使用される薬液の欠陥抑制性能の評価は、上記「SP-5」、又は、「SP-5」の分解能以上の分解能を有するウェハ上表面検査装置(典型的には「SP-5」の後継機等)を使用するのが好ましい。
【0020】
<容器>
上記薬液収容体に係る容器としては、接液部の少なくとも一部がナトリウム原子を含有するガラス(以下、「特定ガラス」ともいう。)からなれば特に制限されず、公知の容器を用いることができる。なお、本明細書において、接液部とは、薬液を収容した際、収容された薬液と接触する可能性のある部分を意味する。
容器としては接液部の少なくとも一部が特定ガラスからなればよく、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、接液部の70面積%以上が特定ガラスからなるのが好ましく、接液部の90面積%以上が特定ガラスからなるのがより好ましく、接液部の全部が特定ガラスからなるのが特に好ましく、容器の内側表面の全部が特定ガラスからなるのが最も好ましい。
【0021】
接液部の少なくとも一部が特定ガラスからなる容器の形態としては特に制限されないが、典型的には、容器が特定ガラスからなる場合、及び、容器が、基材と基材上に形成された特定ガラスからなる被覆層とを有する形態が挙げられる。
【0022】
〔薬液収容体の第一実施形態〕
本発明の第一実施形態に係る薬液収容体は、特定ガラスからなる容器であって、その接液部の少なくとも一部において、所定の方法で測定したA/Bが、0.10を超え、1.0未満である、薬液収容体である。
本実施形態に係る容器は、接液部の少なくとも一部において、上記の関係を満たせばよく、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、接液部の70面積%以上において上記関係を満たすのが好ましく、接液部の90面積%以上において上記関係を満たすのがより好ましく、接液部の全部において上記関係を満たすのが更に好ましい。
【0023】
特定ガラスは、ナトリウム原子を含有するガラスである。特定ガラスとしては特に制限されず、公知のガラスを用いることができ、例えば、ソーダライムガラス、及び、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。特定ガラス中に含有されるナトリウム原子の含有量(容器に使用される特定ガラス全体としての平均含有量)としては特に制限されないが、特定ガラスの全質量に対して、一般に、0.01~25質量%が好ましい。
【0024】
容器の形状としては特に制限されず、一般的に薬液を収容するための容器として使用される形状から任意に選択できる。また、容器の厚みとしては特に制限されないが、一般に、1.0~5.0mmが好ましい。なかでも、容器の底部に相当する部分における容器の厚みとしては、2.5mm以上がより好ましい。
また、容器における接液部の形状、及び、位置としては特に制限されないが、一般に容器の内壁面の一部又は全部が接液部に該当する。また、上記容器は、蓋を有する蓋付き容器であってもよい。
【0025】
(ナトリウム原子)
容器中におけるナトリウム原子の、容器の厚み方向における含有量の分布は、接液部の少なくとも一部において、以下の関係を満たす。すなわち、容器の表面を基準として、上記表面と、容器の厚み方向に10nmの位置との間を表面領域とし、容器の表面を基準として、上記表面と、容器の厚み方向に2.0μmの位置との間をバルク領域とし、表面領域とバルク領域をX線光電子分光法(XPS)で測定した際に、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量B、に対する、表面領域における、表面領域の全質量に対するナトリウム原子の含有量A、の含有質量比A/Bが、0.10を超え、1.0未満である。
【0026】
ここで、含有量Aは、表面領域の全質量を100質量%とした場合のナトリウム原子の含有量(質量%)を表し、含有量Bは、バルク領域の全質量を100質量%とした場合のナトリウム原子の含有量(質量%)を表す。
XPSの測定条件、及び、容器の厚み方向のナトリウム原子の含有量の分析方法は、実施例に記載したとおりであり、具体的には、表面領域では、容器の厚み方向に等間隔で6点において測定し、バルク領域では、容器の厚み方向に等間隔で4点において測定して、それらを算術平均して、各領域の全質量、含有量A、及び、含有量Bを求める。更に具体的には、表面領域であれば、表面を0nmとして、0nm、2nm、4nm、6nm、8nm、及び、10nmの6点で全原子、及び、ナトリウム原子の含有量を測定し、得られた結果を算術平均して、表面領域の全質量、及び、含有量Aを算出する。また、バルク領域であれば、表面を0nmとして、500nm、1000nm、1500nm、及び、2000nm(2.0μm)の4点で全原子、及び、ナトリウム原子の含有量を測定し、得られた結果を算術平均して、バルク領域の全質量、及び、含有量Bを算出する。
【0027】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、含有質量比A/Bとしては、0.90未満がより好ましく、0.80未満が更に好ましく、0.50以下が特に好ましく、0.30以下が最も好ましい。また、上記関係は、接液部の少なくとも一部で満たされていればよいが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、接液部の70面積%以上において上記関係が満たされることがより好ましく、90面積%以上において上記関係が満たされることが更に好ましく、接液部の全部において上記関係が満たされることが特に好ましい。
【0028】
表面領域におけるナトリウム原子の含有量Aとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、0.010~5.0質量%が好ましく、0.050~3.5質量%がより好ましく、0.10~2.5質量%が更に好ましく、0.10~2.0質量%が特に好ましく、0.10~1.4質量%が最も好ましい。
【0029】
バルク領域におけるナトリウム原子の含有量Bとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容が得られる点で、0.4~25質量%が好ましく、0.6~20質量%がより好ましく、1.0~17質量%が更に好ましく、1.0~13質量%が特に好ましく、1.0~10質量%が最も好ましく、1.0~9.0質量%がより最も好ましい。
含有量Bが0.6質量%以上だと、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有する。一方、含有量Bが20質量%以下だと、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有する。特に、含有量Bが10質量%以下だと、薬液収容体は更に優れたショート抑制性能を有する。
【0030】
(SiO
特定ガラスは、更に、SiOを含有することが好ましい。特定ガラス中に含有されるSiOの含有量としては特に制限されないが、一般に、60~99質量%が好ましい。
【0031】
容器中におけるSiOの厚み方向の分布は特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、接液部の少なくとも一部において、以下の関係を満たすのが好ましい。すなわち、表面領域及びバルク領域をXPSで測定した際に、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するSiOの含有量Dに対する、表面領域における、表面領域の全質量に対するSiOの含有量Cの含有質量比C/Dが、1.00を超え、1.45未満であることが好ましい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、含有質量比C/Dは1.40未満がより好ましく、1.30未満が更に好ましい。
含有質量比C/Dが1.00を超えると、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有する。一方、含有質量比C/Dが1.45未満だと、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有する。
【0032】
なお、容器中におけるSiOの含有量は、XPSで検出されたSi原子の含有量から算出する。すなわち、XPSで検出されたSi原子が全てSiOであると仮定し、得られたSiの含有量(質量%)から、SiOの含有量(質量%)を算出する。なお、その他の測定条件は実施例に記載したとおりであり、測定値から含有量を算出する方法は、既に説明したナトリウム原子の含有量の算出と同様である。
【0033】
また、上記関係は、接液部の少なくとも一部で満たされていればよいが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、接液部の70面積%以上において上記関係が満たされることがより好ましく、90面積%以上において上記関係が満たされることが更に好ましく、接液部の全部において上記関係が満たされることが特に好ましい。
【0034】
表面領域におけるSiO含有量Cとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、55.0~99.8質量%が好ましく、77.0~99.7質量%がより好ましく、85.0~99.6質量%が更に好ましく、90.0~99.6質量%が特に好ましい。
【0035】
バルク領域におけるSiOの含有量Dとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、60.0質量%以上が好ましく、65.0質量%以上がより好ましく、68.0質量%以上が更に好ましく、75.0質量%以上が特に好ましく、76.0質量%以上が最も好ましく、85.0質量%以下が好ましく、80.0質量%以下がより好ましい。
含有量Dが68.0質量%以上だと、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有し、含有量Dが80.0質量%以下だと、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有する。
【0036】
(カルシウム原子)
特定ガラスは、更にカルシウム原子を含有することが好ましい。特定ガラス中に含有されるカルシウム原子の含有量としては特に制限されないが、一般に、0.010~20質量%が好ましい。
【0037】
容器中におけるカルシウム原子の厚み方向の分布は特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、接液部の少なくとも一部において、以下の関係を満たすのが好ましい。すなわち、表面領域及びバルク領域をXPSで測定した際に、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するカルシウム原子の含有量Fに対する、表面領域における、表面領域の全質量に対するカルシウム原子の含有量Eの含有質量比E/Fが、0.10を超え、0.90未満であることが好ましい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、含有質量比E/Fとしては、0.70未満がより好ましく、0.65未満が更に好ましく、0.55未満が特に好ましい。
含有質量比E/Fが0.10を超えると、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有し、含有質量比E/Fが0.90未満だと、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有する。
【0038】
含有質量比E/Fが0.10を超えると、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有する理由は必ずしも明らかではないが、既に説明したナトリウム原子に係るA/Bと同様のメカニズムによるものと推測される。すなわち、含有質量比E/Fが0.10を超えると、経時的に薬液中にカルシウム原子(典型的にはカルシウムイオン)が溶出し、結果として保管中におけるイオン化傾向が小さい金属成分(典型的には特定金属成分)の溶出がより抑制されて、保管後の薬液がより優れた欠陥抑制性能を有するものと推測される。
一方、含有質量比E/Fが0.90未満だと、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有する理由も、既に説明したナトリウム原子に係るA/Bと同様のメカニズムによるものと推測される。すなわち、含有質量比E/Fが0.90未満だと、経時的に薬液中にカルシウム原子が溶出しにくく、薬液はより優れたショート抑制性能を有するものと推測される。
【0039】
なお、容器中におけるカルシウム原子の含有量の測定条件は実施例に記載したとおりであり、測定値から含有量を算出する方法は、既に説明したナトリウム原子の含有量の算出と同様である。
【0040】
表面領域におけるカルシウム原子の含有量Eとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、0.0060~2.0質量%が好ましく、0.010~1.90質量%がより好ましく、0.016~1.80質量%が更に好ましく、0.16~1.1質量%が特に好ましい。
【0041】
バルク領域におけるカルシウム原子の含有量Fとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、0.040質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、16質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、14質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が特に好ましく、9.0質量%以下が最も好ましく、8.0質量%以下がより最も好ましい。
含有量Fが0.10質量%以上だと、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有する。また、含有量Fが15.0質量%以下だと、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有する。
【0042】
(カリウム原子)
特定ガラスは、更にカリウム原子を含有することが好ましい。特定ガラス中に含有されるカリウム原子の含有量としては特に制限されないが、一般に、0.010~20質量%が好ましい。
【0043】
(ホウ素原子)
特定ガラスは、更にホウ素原子を含有することが好ましい。特定ガラス中に含有されるホウ素原子の含有量としては特に制限されないが、一般に、0.010~20質量%が好ましい。
【0044】
容器中におけるホウ素原子の厚み方向の分布は特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、接液部の少なくとも一部において、以下の関係を満たすのが好ましい。すなわち、表面領域及びバルク領域をXPSで測定した際に、バルク領域における、バルク領域の全質量に対するホウ素原子の含有量Hに対する、表面領域における、表面領域の全質量に対するホウ素原子の含有量Gの含有質量比G/Hが、0.10を超え、0.90未満であることが好ましい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、含有質量比G/Hとしては、0.70未満がより好ましく、0.65未満が更に好ましく、0.55未満が特に好ましい。
含有質量比G/Hが0.10を超えると、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有し、含有質量比G/Hが0.90未満だと、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有する。
【0045】
含有質量比G/Hが0.10を超えると、薬液収容体は、より優れた欠陥抑制性能を有する理由は必ずしも明らかではないが、既に説明したナトリウム原子に係るA/Bと同様のメカニズムによるものと推測される。すなわち、含有質量比G/Hが0.10を超えると、経時的に薬液中にホウ素原子(典型的にはホウ素イオン)が溶出し、結果として保管中におけるイオン化傾向が小さい金属成分(典型的には特定金属成分)の溶出がより抑制されて、保管後の薬液がより優れた欠陥抑制性能を有するものと推測される。
一方、含有質量比G/Hが0.90未満だと、薬液収容体は、より優れたショート抑制性能を有する理由も、既に説明したナトリウム原子に係るA/Bと同様のメカニズムによるものと推測される。すなわち、含有質量比G/Hが0.90未満だと、経時的に薬液中にホウ素原子が溶出しにくく、薬液はより優れたショート抑制性能を有するものと推測される。
【0046】
なお、容器中におけるホウ素原子の含有量の測定条件は実施例に記載したとおりであり、測定値から含有量を算出する方法は、既に説明したナトリウム原子の含有量の算出と同様である。
【0047】
表面領域におけるホウ素原子の含有量Eとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、0.0060~2.0質量%が好ましく、0.010~1.90質量%がより好ましく、0.016~1.80質量%が更に好ましく、0.16~1.1質量%が特に好ましい。
【0048】
バルク領域におけるホウ素原子の含有量Fとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、0.040質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、14質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が特に好ましく、9.0質量%以下が最も好ましく、8.0質量%以下がより最も好ましい。
【0049】
上記容器におけるナトリウム原子、SiO、カルシウム原子、カリウム原子、及び、ホウ素原子の含有量及び厚み方向における含有量の分布の調整方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。公知の方法としては、例えば、特昭59-35043号公報、特開2003-128439号公報、及び、特開平7-41335号公報等が挙げられる。
また、上記容器の接液部を洗浄液を用いて洗浄する方法も使用できる。洗浄の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。洗浄液に容器を浸漬する方法、及び、容器の接液部に洗浄液をシャワーする方法等が挙げられ、洗浄液に容器を浸漬する場合には、超音波洗浄も使用できる。
洗浄液としては特に制限されず、水及び/又は有機溶剤等が使用できる。また、洗浄液は酸又はアルカリであってもよい。洗浄液として使用できる有機溶剤としては特に制限されないが、後述する薬液が含有する有機溶剤が例示できる。
【0050】
<薬液>
(金属成分)
本実施形態に係る薬液収容体には薬液が収容される。薬液は、水又は有機溶剤を含有することが好ましく、収容される薬液が、1種の特定金属成分を含有する場合には、その含有量が100質量ppt以下であり、2種以上の特定金属成分を含有する場合には、その合計の含有量が100質量ppt以下である。
薬液中における金属成分の含有量の下限値として特に制限されないが、定量下限の観点から、一般に、0.001質量ppt以上が好ましく、0.01質量ppt以上がより好ましい。
なお、本明細書において、特定金属成分とは、特定金属イオンと特定金属粒子との合計の含有量を意味する。
【0051】
なお、薬液中の特定金属イオン及び特定金属粒子の種類及び含有量は、SP-ICP-MS法(Single Nano Particle Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)で測定できる。
ここで、SP-ICP-MS法とは、通常のICP-MS法(誘導結合プラズマ質量分析法)と同様の装置を用いるもので、データ分析のみが異なる。SP-ICP-MS法のデータ分析は、市販のソフトウエアにより実施できる。
ICP-MS法では、測定対象とされた金属成分の含有量が、その存在形態に関わらず、測定される。従って、測定対象とされた金属粒子と、金属イオンの合計質量が、金属成分の含有量として定量される。
【0052】
一方、SP-ICP-MS法では、金属粒子の含有量が測定できる。従って、試料中の金属成分の含有量から、金属粒子の含有量を引くと、試料中の金属イオンの含有量が算出できる。
SP-ICP-MS法の装置としては、例えば、アジレントテクノロジー社製、Agilent 8800 トリプル四重極ICP-MS(inductively coupled plasma mass spectrometry、半導体分析用、オプション#200)を用いて、実施例に記載した方法により測定できる。上記の他に、PerkinElmer社製 NexION350Sのほか、アジレントテクノロジー社製、Agilent 8900も使用できる。
【0053】
なお、本明細書において金属イオンとは、金属単体のイオン及び錯イオン(例えば、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、及び、ヒドロキシ錯体等)を意味する。
【0054】
なお、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、薬液中における特定金属成分の含有量(1種の特定金属成分を含有する場合には、その含有量であり、2種以上の特定金属成分を含有する場合には、その合計の含有量)としては、0.01~50質量pptが好ましく、0.01~40質量pptがより好ましい。
【0055】
・特定金属粒子
薬液は、特定金属粒子を含有することが好ましい。薬液中における特定金属粒子の含有量としては特に制限されないが、一般に、0.005~45質量pptが好ましく、0.005~35質量pptがより好ましい。特定金属粒子は、ショートの原因になりやすく、薬液中における特定金属粒子の含有量が45質量ppt以下であると、薬液収容体はより優れたショート抑制性能を有する。一方で、薬液中における特定金属粒子の含有量が0.005質量ppt以上であると、薬液中に含有される微量の特定金属粒子同士が凝集しやすく、結果的にショートの原因になる粒子数が経時的に減少していくと推測され、結果として薬液収容体はより優れたショート抑制性能を有する。
【0056】
・特定金属イオン
また、薬液は、特定金属イオンを含有していてもよい。薬液中における特定金属イオンの含有量としては特に制限されないが、一般に0.001~11質量pptが好ましく、0.001~10質量pptがより好ましく、0.001~4質量pptが更に好ましい。
【0057】
(有機溶剤)
薬液は有機溶剤を含有することが好ましい。薬液中における有機溶剤の含有量としては特に制限されないが、一般に薬液の全質量に対して、98.0質量%以上が好ましく、99.0質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上が更に好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。
有機溶剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の有機溶剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0058】
なお、本明細書において、有機溶剤とは、上記薬液の全質量に対して、1成分あたり10000質量ppmを超えた含有量で含有される液状の有機化合物を意図する。つまり、本明細書においては、上記薬液の全質量に対して10000質量ppmを超えて含有される液状の有機化合物は、有機溶剤に該当するものとする。
なお、本明細書において液状とは、25℃、大気圧下において、液体であることを意図する。
【0059】
上記有機溶剤の種類としては特に制限されず、公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレート、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、乳酸アルキルエステル、アルコキシプロピオン酸アルキル、環状ラクトン(好ましくは炭素数4~10)、環を有してもよいモノケトン化合物(好ましくは炭素数4~10)、アルキレンカーボネート、アルコキシ酢酸アルキル、及び、ピルビン酸アルキル等が挙げられる。
また、有機溶剤としては、例えば、特開2016-57614号公報、特開2014-219664号公報、特開2016-138219号公報、及び、特開2015-135379号公報に記載のものを用いてもよい。
【0060】
有機溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMM)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGMP)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、乳酸エチル(EL)、メトキシプロピオン酸メチル(MPM)、シクロペンタノン(CyPn)、シクロヘキサノン(CyHe)、γ-ブチロラクトン(γBL)、ジイソアミルエーテル(DIAE)、酢酸ブチル(nBA)、酢酸イソアミル(iAA)、イソプロパノール(IPA)、4-メチル-2-ペンタノール(MIBC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジエチレングリコール(DEG)、エチレングリコール(EG)、ジプロピレングリコール(DPG)、プロピレングリコール(PG)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、スルフォラン、シクロヘプタノン、1-ヘキサノール、デカン、及び、2-ヘプタノン(MAK)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0061】
なお、薬液中における有機溶剤の種類及び含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定できる。測定条件は実施例に記載したとおりである。
【0062】
(有機不純物)
薬液は有機不純物を含有することが好ましい。薬液中における有機不純物の含有量としては特に制限されないが、一般に、薬液の全質量に対して、15000質量ppm以下が好ましく、10000質量ppm以下がより好ましい。なお、下限値としては特に制限されないが、一般に、100質量ppm以上が好ましく、1000質量ppm以上がより好ましい。
有機不純物の含有量が薬液の全質量に対して10000質量ppm以下であると、薬液収容体はより優れたショート抑制性能を有する。
なお、本明細書において、有機不純物とは、有機溶剤とは異なる有機化合物であって、有機溶剤の全質量に対して、10000質量ppm以下の含有量で含有される有機化合物を意味する。つまり、本明細書においては、上記有機溶剤の全質量に対して10000質量ppm以下の含有量で含有される有機化合物は、有機不純物に該当し、有機溶剤には該当しないものとする。
なお、複数種の有機化合物が有機溶剤に含有される場合であって、各有機化合物が上述した10000質量ppm以下の含有量で含有される場合には、それぞれが有機不純物に該当する。
【0063】
有機不純物としては、例えば、以下の式I~Vで表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化1】
【0065】
式I中、R及びRは、それぞれ独立に、アミノ基、アリール基、アルキル基、若しくは、シクロアルキル基を表すか、又は、互いに結合し、環を形成している。
及びRがアミノ基以外である場合の炭素数としては、特に制限されないが、一般に、1~20であることが多い。
【0066】
式II中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アミノ基、アリール基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、若しくは、シクロアルケニル基を表すか、又は、互いに結合して環を形成している。但し、R及びRの双方が水素原子であることはない。
及びRがアミノ基以外である場合の炭素数としては特に制限されないが、一般に1~20であることが多い。
【0067】
式III中、Rは、アルキル基、アリール基、又は、シクロアルキル基を表し、炭素数としては、一般に1~20であることが多い。
【0068】
式IV中、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、若しくはシクロアルキル基を表すか、又は、互いに結合し、環を形成している。R及びRの炭素数としては特に制限されないが、一般に1~20であることが多い。
【0069】
式V中、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、若しくは、シクロアルキル基を表すか、又は、互いに結合し、環を形成している。Lは、単結合、又は、2価の連結基を表す。
及びRの炭素数としては特に制限されないが、一般に1~20であることが多い。
【0070】
また、有機不純物としては、式VIで表される化合物も挙げられる。
【0071】
【化2】
【0072】
式VI中、R61~R65はそれぞれ独立にアルキル基を表し、その炭素数としては特に制限されず、一般に1~10であることが多い。
【0073】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、有機不純物が、以下の式(1)~(7)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、式(1)~(7)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなることがより好ましい。
【0074】
【化3】
【0075】
<薬液の製造方法>
上記の薬液を製造する方法としては特に制限されず、公知の方法を使用できる。
なかでも、上記薬液をより簡便に得ることができる点で、被精製物を精製して薬液を得る精製工程を有することが好ましい。以下では上記工程について詳細を説明する。
【0076】
精製工程において使用する被精製物としては、特に制限されないが、水又は有機溶剤を含有することが好ましい。このような被精製物は、購入等により調達する、及び、原料を反応させることにより得られる。被精製物としては、すでに説明した金属成分、及び/又は、有機不純物の含有量が少ないものを使用するのが好ましい。そのような被精製物の市販品としては、例えば、「高純度グレード品」と呼ばれるものが挙げられる。
【0077】
原料を反応させて被精製物(典型的には、有機溶剤を含有する被精製物)を得る方法として特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、触媒の存在下において、一又は複数の原料を反応させて、有機溶剤を得る方法が挙げられる。
より具体的には、例えば、酢酸とn-ブタノールとを硫酸の存在下で反応させ、酢酸ブチルを得る方法;エチレン、酸素、及び、水をAl(Cの存在下で反応させ、1-ヘキサノールを得る方法;シス-4-メチル-2-ペンテンをIpc2BH(Diisopinocampheylborane)の存在下で反応させ、4-メチル-2-ペンタノールを得る方法;プロピレンオキシド、メタノール、及び、酢酸を硫酸の存在下で反応させ、PGMEA(プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)を得る方法;アセトン、及び、水素を酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウムの存在下で反応させて、IPA(isopropyl alcohol)を得る方法;乳酸、及び、エタノールを反応させて、乳酸エチルを得る方法;等が挙げられる。
【0078】
被精製物の精製方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。被精製物の精製方法としては、例えば、以下に掲げる工程からなる群から選択される少なくとも1種の工程を有することが好ましい。以下では、各工程について詳述する。
なお、精製工程は、以下の各工程を1回含有してもよく、複数回含有してもよい。また、以下の各工程の順序は特に制限されない。
・蒸留工程
・成分調整工程
【0079】
蒸留工程は、被精製物を蒸留して、蒸留済み被精製物を得る工程である。蒸留の方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
なかでも、より簡易に蒸留済み被精製物を得ることができ、かつ、蒸留工程において、意図しない不純物が精製物により混入しにくい点で、以下の精製装置を用いて被精製物を蒸留することがより好ましい。
【0080】
上記蒸留工程で使用できる精製装置の一形態としては、例えば、被精製物を蒸留して精製物を得るための蒸留塔を含有する精製装置であって、蒸留塔の接液部(例えば、内壁、及び、管路等)が、非金属材料、及び、電解研磨された金属材料からなる群から選択される少なくとも1種(以下、これらをあわせて「耐腐食材料」ともいう。)から形成される精製装置が挙げられる。
【0081】
上記非金属材料としては、特に制限されず、公知の材料を用いることができる。
非金属材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン-ポリプロピレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合体樹脂、三フッ化塩化エチレン-エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン共重合樹脂、及び、フッ化ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられるが、これに制限されない。
【0082】
上記金属材料としては、特に制限されず、公知の材料を用いることができる。
金属材料としては、例えば、クロム及びニッケルの含有量の合計が金属材料全質量に対して25質量%超である金属材料が挙げられ、なかでも、30質量%以上がより好ましい。金属材料におけるクロム及びニッケルの含有量の合計の上限値としては特に制限されないが、一般に90質量%以下が好ましい。
金属材料としては例えば、ステンレス鋼、及びニッケル-クロム合金等が挙げられる。
【0083】
ステンレス鋼としては、特に制限されず、公知のステンレス鋼を用いることができる。なかでも、ニッケルを8質量%以上含有する合金が好ましく、ニッケルを8質量%以上含有するオーステナイト系ステンレス鋼がより好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えばSUS(Steel Use Stainless)304(Ni含有量8質量%、Cr含有量18質量%)、SUS304L(Ni含有量9質量%、Cr含有量18質量%)、SUS316(Ni含有量10質量%、Cr含有量16質量%)、及びSUS316L(Ni含有量12質量%、Cr含有量16質量%)等が挙げられる。
【0084】
ニッケル-クロム合金としては、特に制限されず、公知のニッケル-クロム合金を用いることができる。なかでも、ニッケル含有量が40~75質量%、クロム含有量が1~30質量%のニッケル-クロム合金が好ましい。
ニッケル-クロム合金としては、例えば、ハステロイ(商品名、以下同じ。)、モネル(商品名、以下同じ)、及びインコネル(商品名、以下同じ)等が挙げられる。より具体的には、ハステロイC-276(Ni含有量63質量%、Cr含有量16質量%)、ハステロイ-C(Ni含有量60質量%、Cr含有量17質量%)、ハステロイC-22(Ni含有量61質量%、Cr含有量22質量%)等が挙げられる。
また、ニッケル-クロム合金は、必要に応じて、上記した合金の他に、更に、ホウ素、ケイ素、タングステン、モリブデン、銅、及びコバルト等を含有していてもよい。
【0085】
金属材料を電解研磨する方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、特開2015-227501号公報の0011~0014段落、及び、特開2008-264929号公報の0036~0042段落等に記載された方法を用いることができる。
【0086】
金属材料は、電解研磨されることにより表面の不動態層におけるクロムの含有量が、母相のクロムの含有量よりも多くなっているものと推測される。そのため、接液部が電解研磨された金属材料から形成された蒸留塔からは、被精製物中に金属原子を含有する金属不純物が流出しにくいため、不純物含有量が低減された蒸留済みの被精製物(又は薬液)を得ることができるものと推測される。
なお、金属材料はバフ研磨されていてもよい。バフ研磨の方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。バフ研磨の仕上げに用いられる研磨砥粒のサイズは特に制限されないが、金属材料の表面の凹凸がより小さくなりやすい点で、#400以下が好ましい。なお、バフ研磨は、電解研磨の前に行われることが好ましい。
【0087】
上記蒸留工程で用いることができる精製装置の他の形態としては、例えば、原料を反応させて有機溶剤である反応物を得るための反応部と、すでに説明した蒸留塔と、反応部及び蒸留塔を連結し、反応部から蒸留塔へ反応物を移送するための移送管路と、を備える精製装置が挙げられる。
【0088】
上記反応部は、供給された原材料を(必要に応じて触媒の存在下で)反応させて有機溶剤である反応物を得る機能を有する。反応部としては特に制限されず、公知の反応部を用いることができる。
反応部としては、例えば、原料が供給され、反応が進行する反応槽と、反応槽内部に設けられた攪拌部と、反応槽に接合された蓋部と、反応槽に原料を注入するための注入部と、反応槽から反応物を取り出すための反応物取出し部と、を備える形態が挙げられる。上記反応部に、原料を連続又は非連続に注入し、注入した原材料を(触媒の存在下で)反応させて有機溶剤である反応物を得ることができる。
また、反応部は所望により反応物単離部、温度調整部、並びにレベルゲージ、圧力計及び温度計等からなるセンサ部等を含有してもよい。
【0089】
上記反応部の接液部(例えば反応槽の接液部の内壁等)は、非金属材料、及び、電解研磨された金属材料からなる群から選択される少なくとも1種から形成されることが好ましい。上記各材料の形態としてはすでに説明したとおりである。
【0090】
また、上記形態に係る精製装置においては、反応部と蒸留塔とは移送管路により連結されている。反応部と蒸留塔とは移送管路により連結されているため、反応部から蒸留塔への反応物の移送が閉鎖系内にて行われ、金属成分を含め、不純物が環境中から反応物に混入することが防止される。
移送管路としては特に制限されず、公知の移送管路を用いることができる。移送管路としては、例えば、パイプ、ポンプ、及び弁等を備える形態が挙げられる。
【0091】
移送管路の接液部は、非金属材料、及び、電解研磨された金属材料からなる群から選択される少なくとも1種から形成されることが好ましい。上記各材料の形態としてはすでに説明したとおりである。
【0092】
精製工程は、成分調整工程を有することが好ましい。
成分調整工程とは、被精製物中に含有される金属成分、及び、有機不純物等の含有量を調整する工程である。
被精製物中に含有される金属成分、及び、有機不純物の含有量を調整する方法としては、例えば、被精製物中に所定量の金属成分、及び、有機不純物等を添加する方法、及び、被精製物中の金属成分、及び、有機不純物を除去する方法等が挙げられる。
【0093】
被精製物中の金属成分、及び、有機不純物を除去する方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
被精製物中の金属成分、及び、有機不純物を除去する方法としては、例えば、被精製物をフィルタに通過させる方法(上記を実施する工程を以下、「フィルタリング工程」という。)が好ましい。被精製物をフィルタに通過させる方法としては特に制限されず、被精製物を移送する移送管路の途中に、フィルタを有するフィルタカートリッジが収納されたフィルタユニットを配置し、上記フィルタユニットに、加圧又は無加圧で被精製物を通過させる方法が挙げられる。
上記フィルタとしては特に制限されず、公知のフィルタを用いることができる。
【0094】
・フィルタリング工程
成分調整工程は、フィルタリング工程を含有することが好ましい。
フィルタリング工程で用いられるフィルタとしては特に制限されず、公知のフィルタを用いることができる。
【0095】
フィルタの孔径としては特に制限されず、被精製物のろ過用として通常使用される孔径であればよい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、フィルタの孔径としては、1.0nm以上、1.0μm以下が好ましい。なお、本明細書においてフィルタの孔径とは、イソプロパノール(IPA)又は、HFE-7200(「ノベック7200」、3M社製、ハイドロフロオロエーテル、COC)のバブルポイントによって決定される孔径を意味する。
【0096】
フィルタの材料としては特に制限されないが、樹脂である場合、ポリテトラフルオロエチレン、及び、パーフルオロアルコキシアルカン等のポリフルオロカーボン;ナイロン6、及び、ナイロン66等のポリアミド;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリエステル;ポリエチレン、及び、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン(高密度、及び、超高分子量を含む);ポリエーテルスルホン;セルロース等が挙げられる。
また、樹脂以外にも、ケイソウ土、及び、ガラス等であってもよい。
【0097】
また、フィルタは表面処理されたものであってもよい。表面処理の方法としては特に制限されず公知の方法が使用できる。表面処理の方法としては、例えば、化学修飾処理、プラズマ処理、疎水処理、コーティング、ガス処理、及び、焼結等が挙げられる。
【0098】
フィルタの細孔構造としては特に制限されず、被精製物中に含有される不純物の形態により適宜選択すればよい。フィルタの細孔構造とは、孔径分布、フィルタ中の細孔の位置的な分布、及び、細孔の形状等を意味し、典型的には、フィルタの製造方法により異なる。
例えば、樹脂等の粉末を焼結して形成される多孔質膜、及び、エレクトロスピニング、エレクトロブローイング、及び、メルトブローイング等の方法により形成される繊維膜ではそれぞれ細孔構造が異なる。
【0099】
フィルタの臨界表面張力としては特に制限されず、除去すべき不純物に応じて適宜選択できる。例えば、高極性の不純物、及び、金属不純物を効率的に除去するという点では、70mN/m以上が好ましく、95mN/m以下が好ましい。なかでも、フィルタの臨界表面張力は、75~85mN/mがより好ましい。なお、臨界表面張力の値は、製造メーカの公称値である。
【0100】
被精製物をフィルタに通す際の温度としては特に制限されないが、一般に、室温未満が好ましい。
【0101】
被精製物とフィルタの材料のハンセン空間における距離(Ra)の値及び、フィルタの材料の相互作用球の半径、すなわち、相互作用半径(R0)の値としては特に制限されないが、被精製物に溶出するフィルタに由来する不純物の量を低減する点では、上記を制御することが好ましい。すなわち、フィルタが有するフィルタが有する、ハンセン溶解度パラメータδDp、δPp、及び、δHp、並びに、相互作用半径R0が、被精製物が有する、ハンセン溶解度パラメータδDs、δPs、及び、δHsとの関係において、Raが下記式
Ra=4(δDs-δDp)+(δPs-δPp)+(δHs-δHp)
で表される場合、R0に対するRaの比が1.0以下であることが好ましい。
【0102】
ろ過速度は特に限定されないが、1.0L/分/m以上が好ましく、0.75L/分/m以上がより好ましく、0.6L/分/m以上が更に好ましい。
フィルタにはフィルタ性能(フィルタが壊れない)を保障する耐差圧が設定されており、この値が大きい場合にはろ過圧力を高めることでろ過速度を高めることができる。つまり、上記ろ過速度上限は、通常、フィルタの耐差圧に依存するが、通常、10.0L/分/m以下が好ましい。
【0103】
ろ過圧力は、0.001~1.0MPaが好ましく、0.003~0.5MPaがより好ましく、0.005~0.3MPaが更に好ましい。特に、孔径が小さいフィルタを使用する場合には、ろ過の圧力を上げることで被精製物中の粒子の不純物の量をより効率的に低下させることができる。孔径が20nmより小さいフィルタを使用する場合には、ろ過の圧力は、0.005~0.3MPaが好ましい。
また、ろ過圧力はろ過精度に影響を与えることから、ろ過時における圧力の脈動は可能な限り少ない方が好ましい。
【0104】
2つ以上のフィルタを用いる場合、それぞれのフィルタに通過させる前後の差圧(以下、「濾過差圧」ともいう。)としては特に制限されないが、250kPa以下が好ましく、200kPa以下が好ましい。下限としては特に制限されないが、50kPa以上が好ましい。濾過差圧が250kPa以下であると、フィルタに過剰な圧が掛かるのを防止できるため溶出物の低減が期待できる。
【0105】
また、フィルタの孔径が小さくなるとろ過速度が低下する。しかし、同種のろ過フィルタを、複数個で、並列に接続することでろ過面積が拡大してろ過圧力が下がるので、これにより、ろ過速度低下を補償することが可能になる。
【0106】
複数のフィルタを用いて被精製物をろ過する場合、それぞれのフィルタの孔径、材質、及び、細孔構造は全て同一でもよいが、フィルタの孔径、材料、及び、細孔構造からなる群から選択される少なくとも1種が異なるフィルタを複数組合せて使用すると、被精製物中の不純物をより効果的に除去できる。
【0107】
ろ過装置が複数のフィルタユニットを有し、それぞれのフィルタユニットが管路に対して直列に配置されている場合、それぞれのフィルタユニットが有するフィルタは親水性の材料、及び、疎水性の材料で形成されるのが好ましい。なお、本明細書において親水性の材料とは、フィルタ表面の25℃における水接触角が45°以上の材料を意味し、疎水性の材料とは、フィルタ表面の25℃における水接触角が45°未満の材料を意味する。
親水性材料で形成されたフィルタ(以下「親水性フィルタ」ともいう。)は、被精製物中に含有される金属不純物を効率的に除去できる。上記のフィルタを管路の最後に配置すると、すなわち、被精製物が最後に通るフィルタを親水性フィルタにすると、金属不純物の含有量が低減された薬液が得られる。
【0108】
複数のフィルタユニットを管路中に直列に配置して使用する場合、各フィルタユニットに被精製物を通過させる前後の差圧は50kPa以上、250kPa以下が好ましい。差圧を上記範囲に制御することで、フィルタから被精製物に不純物が溶出するのを防止できる。
【0109】
被精製物を精製する前に、洗浄液を用いてフィルタを洗浄することが好ましい。被精製物を使用する前にフィルタを洗浄することにより、フィルタに付着している不純物が被精製物に移行するのを防止できる。
洗浄液としては特に制限されないが、既に説明した有機溶剤、後述する薬液、又は、薬液を希釈したもの等が挙げられる。
フィルタの洗浄方法としては特に制限されず、ハウジングにセットしたフィルタに上記洗浄液を通液する方法、及び、ろ過装置外においてフィルタを洗浄液に浸漬する方法等が挙げられるが、ろ過装置への不純物の持込がより少ない点で、ろ過装置外においてフィルタを洗浄液に浸漬する方法が好ましい。
【0110】
複数のフィルタユニットを管路中に直列に配置して使用する場合、フィルタの材料及び細孔構造としては特に制限されないが、少なくとも1つが、ナイロンを含有することが好ましく、ナイロンからなることがより好ましい。
上記ナイロンを含有するフィルタを有するフィルタの細孔構造としては特に制限されないが、繊維膜であることが好ましい。
【0111】
被精製物中の金属粒子等を効率的に除去する観点では、孔径が20nm以下のフィルタを用いることが好ましい。なかでもより優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、細孔径としては1.0~15nmが好ましく、1.0~12nmがより好ましい。細孔径が15nm以下だと、対象物をより十分に除去することができ、細孔径が1.0nm以上だと、ろ過効率がより向上する。
【0112】
複数のフィルタユニットを管路中に直列に配置する場合であって、被精製物中にコロイド化した対象物が含有されている場合には、金属粒子等の除去用のフィルタの一次側に、孔径がより大きいフィルタを配置するのが好ましい。
例えば、金属粒子除去用として、孔径が20nm以下の精密ろ過フィルタを使用する場合、その一次側に、孔径が50nm以上のフィルタを配置すると、ろ過効率がより向上するとともに、粒子状の対象物をより十分に除去できる。
【0113】
フィルタリング工程は、以下の各工程を含有することがより好ましい。なお、フィルタリング工程は、以下の各工程を1回含有してもよいし、複数回含有してもよい。また、以下の各工程の順序は特に制限されない。
1.粒子除去工程
2.金属イオン除去工程
3.有機不純物除去工程
以下では、上記工程について、それぞれ説明する。
【0114】
・・粒子除去工程
粒子除去工程は、粒子除去フィルタを用いて、被精製物中の、粒子状の不純物を除去する工程である。粒子除去フィルタとしては特に制限されず、公知の粒子除去フィルタを用いることができる。
粒子除去フィルタとしては、例えば、孔径が20nm以下であるフィルタが挙げられる。上記のフィルタを用いて被精製物をろ過することにより、粒子状の不純物を除去できる。
フィルタの孔径としては、1~15nmが好ましく、1~12nmがより好ましい。孔径が15nm以下だと、より微細な粒子状の不純物を除去でき、孔径が1nm以上だと、ろ過効率が向上する。
【0115】
上記フィルタを複数用いて、フィルタユニットを構成してもよい。すなわち、上記フィルタユニットは、更に、孔径が50nm以上のフィルタを有してもよい。被精製物中に、コロイド化した不純物、特に鉄又はアルミニウムのような金属原子を含有するコロイド化した不純物以外にも微粒子が存在する場合には、孔径が20nm以下であるフィルタを用いてろ過する前に、孔径が50nm以上のフィルタを用いて被精製物をろ過することで、孔径が20nm以下であるフィルタのろ過効率が向上し、粒子状の不純物の除去性能がより向上する。
【0116】
・・金属イオン除去工程
フィルタリング工程は、更に、金属イオン除去工程を有することが好ましい。
金属イオン除去工程としては、被精製物を金属イオン吸着フィルタに通過させる工程が好ましい。被精製物を金属イオン吸着フィルタに通過させる方法としては特に制限されず、被精製物を移送する移送管路の途中に、金属イオン吸着フィルタを有するフィルタカートリッジが収納された金属イオン吸着フィルタユニットを配置し、上記金属イオン吸着フィルタユニットに、加圧又は無加圧で被精製物を通過させる方法が挙げられる。
【0117】
金属イオン吸着フィルタとしては特に制限されず、公知の金属イオン吸着フィルタが挙げられる。
なかでも、金属イオン吸着フィルタは、半導体デバイスの欠陥の原因になりやすいという点から、特定金属イオンを吸着可能なフィルタが好ましい。金属イオン吸着フィルタの材質は特に制限されないが、その表面に、スルホ基、及び、カルボキシ等の酸基を有することが好ましい。
【0118】
金属イオン吸着フィルタの材質としては、セルロース、ケイソウ土、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及び、フッ素含有樹脂等が挙げられる。
また、金属イオン吸着フィルタは、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを含有する材質で構成されていてもよい。上記金属イオン吸着フィルタとしては、例えば、特開2016―155121号公報(JP 2016-155121)に記載されているポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜が挙げられる。
上記ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び、-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを含有するものであってもよい。金属イオン吸着フィルタが、フッ素含有樹脂、ポリイミド、及び/又は、ポリアミドイミドからなると、より優れた耐溶剤性を有する。
【0119】
また、金属イオン除去工程は、フィルタを用いないものであってもよい。フィルタを用いない方法としては例えば、塔状の容器内(樹脂塔)にイオン交換樹脂、及び/又は、イオン吸着樹脂を収容したものに被精製物を通液する方法、又は、イオン交換膜を用いた電気透析装置を使用する方法が挙げられる。
【0120】
イオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂又はアニオン交換樹脂を単床で使用してもよいし、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを複床で使用してもよいし、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混床で使用してもよい。
イオン交換樹脂としては、イオン交換樹脂からの水分溶出を低減させるために、極力水分を含まない乾燥樹脂を使用することが好ましい。このような乾燥樹脂としては、市販品を用いることができ、オルガノ社製の15JS-HG・DRY(商品名、乾燥カチオン交換樹脂、水分2%以下)、及びMSPS2-1・DRY(商品名、混床樹脂、水分10%以下)等が挙げられる。
【0121】
イオン吸着の典型的な例としては、既に説明したイオン交換樹脂に代えて、被精製物中の金属イオンを捕捉する機能を有する、イオン吸着樹脂及び/又はキレート剤を用いる方法が挙げられる。キレート剤としては、例えば、特開2016-28021号公報、及び、特開2000-169828号公報等に記載のキレート剤を用いることができる。また、イオン吸着樹脂としては、例えば、特開2001-123381号公報、及び、特開2000-328449号公報等に記載のイオン吸着樹脂を使用できる。
【0122】
イオン交換膜を用いた電気透析装置を使用すると、高流速での処理が可能である。なお、イオン交換膜としては特に制限されないが、例えば、ネオセプタ(商品名、アストム社製)等が挙げられる。
【0123】
・・有機不純物除去工程
フィルタリング工程は、有機不純物除去工程を有することが好ましい。有機不純物除去工程としては、被精製物を有機不純物吸着フィルタに通過させる工程が好ましい。被精製物を有機不純物吸着フィルタに通過させる方法としては特に制限されず、被精製物を移送する移送管路の途中に、有機不純物吸着フィルタを有するフィルタカートリッジが収納されたフィルタユニットを配置し、上記フィルタユニットに、加圧又は無加圧で有機溶剤を通過させる方法が挙げられる。
【0124】
有機不純物吸着フィルタとしては特に制限されず、公知の有機不純物吸着フィルタが挙げられる。
なかでも、有機不純物吸着フィルタとしては、有機不純物の吸着性能が向上する点で、有機不純物と相互作用可能な有機物骨格を表面に有すること(言い換えれば、有機不純物と相互作用可能な有機物骨格によって表面が修飾されていること)が好ましい。有機不純物と相互作用可能な有機物骨格としては、例えば、有機不純物と反応して有機不純物を有機不純物吸着フィルタに捕捉できるような化学構造が挙げられる。より具体的には、被精製物が、有機不純物としてn-長鎖アルキルアルコール(有機溶剤として1-長鎖アルキルアルコールを用いた場合の構造異性体)を含む場合には、有機物骨格としては、アルキル基が挙げられる。また、有機不純物としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含む場合には、有機物骨格としてはフェニル基が挙げられる。
また、有機不純物吸着フィルタには、特開2002-273123号公報及び特開2013-150979号公報に記載の活性炭を不織布に固着したフィルタも使用できる。
【0125】
有機不純物吸着フィルタとしては、上記で示した化学吸着(有機不純物と相互作用可能な有機物骨格を表面に有する有機不純物吸着フィルタを用いた吸着)以外に、物理的な吸着方法も適用できる。
例えば、有機不純物としてBHTを含む場合、BHTの構造は10Å(=1nm)よりも大きい。そのため、孔径が1nmの有機不純物吸着フィルタを用いることで、BHTはフィルタの孔を通過できない。つまり、BHTは、フィルタによって物理的に捕捉されるので、被精製物中から除去される。このように、有機不純物の除去は、化学的な相互作用だけでなく物理的な除去方法を適用することでも可能である。ただし、この場合には、3nm以上の孔径のフィルタが「粒子除去フィルタ」として用いられ、3nm未満の孔径のフィルタが「有機不純物吸着フィルタ」として用いられる。
本明細書において、1Å(オングストローム)は、0.1nmに相当する。
【0126】
フィルタを使用する前に、フィルタを洗浄してもよい。フィルタを洗浄する方法としては特に制限されないが、洗浄液にフィルタを浸漬する、洗浄液をフィルタに通液する、及び、それらを組み合わせる方法が挙げられる。
フィルタを洗浄することによって、フィルタから抽出される成分の量をコントロールすることが容易となり、結果として、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる。
【0127】
洗浄液としては特に制限されず、公知の洗浄液を用いることができる。洗浄液としては特に制限されず、水、及び、有機溶剤等が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレート、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、乳酸アルキルエステル、アルコキシプロピオン酸アルキル、環状ラクトン(好ましくは炭素数4~10)、環を有してもよいモノケトン化合物(好ましくは炭素数4~10)、アルキレンカーボネート、アルコキシ酢酸アルキル、及び、ピルビン酸アルキル等であってもよい。
【0128】
より具体的には、洗浄液としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルスルホキシド、n-メチルピロリドン、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、スルフォラン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン、及び、γ-ブチロラクトン、並びに、これらの混合物等が挙げられる。
【0129】
上記洗浄前に、フィルタを有機溶剤に濡らす工程(例えば浸漬)を有しても良い。事前に有機溶剤に濡らす工程を経ることで、ウェットパーティクルが減少し、濾過効率が向上する。
【0130】
この濡らす工程で用いる有機溶剤は特に限定されないが上記の有機溶剤が使用できる。また、特に制限されないが、薬液中に含有される有機溶剤よりも表面張力の低い有機溶剤であると、濾過効率が向上する。
【0131】
上記有機溶剤及び上記洗浄液は不純物の少ない高純度品であることが好ましい。製造する薬液中に含有される有機溶剤と同じものであってもよい。
【0132】
・水分調整工程
水分調整工程は、被精製物中に含有される水の含有量を調整する工程である。水の含有量の調整方法としては特に制限されないが、被精製物に水を添加する方法、及び、被精製物中の水を除去する方法が挙げられる。
水を除去する方法としては特に制限されず、公知の脱水方法を用いることができる。
水を除去する方法としては、脱水膜、有機溶剤に不溶である水吸着剤、乾燥した不活性ガスを用いたばっ気置換装置、及び、加熱又は真空加熱装置等が挙げられる。
脱水膜を用いる場合には、浸透気化(PV)又は蒸気透過(VP)による膜脱水を行う。脱水膜は、例えば、透水性膜モジュールとして構成されるものである。脱水膜としては、ポリイミド系、セルロース系及びポリビニルアルコール系等の高分子系又はゼオライト等の無機系の素材からなる膜を用いることができる。
水吸着剤は、被精製物に添加して用いられる。水吸着剤としては、ゼオライト、5酸化2リン、シリカゲル、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、無水塩化亜鉛、発煙硫酸及びソーダ石灰等が挙げられる。
なお、脱水処理においてゼオライト(特に、ユニオン昭和社製のモレキュラーシーブ(商品名)等)を使用した場合には、オレフィン類も除去可能である。
【0133】
なお、既に説明した成分調整工程は、密閉状態でかつ、被精製物に水の混入する可能性が低い不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
また、各処理は、水分の混入を極力抑えるために、露点温度が-70℃以下の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。-70℃以下の不活性ガス雰囲気下では、気相中の水分濃度が2質量ppm以下であるため、有機溶剤中に水分が混入する可能性が低くなるためである。
【0134】
なお、薬液の製造方法は、上記の各工程以外にも、例えば、国際公開第WO2012/043496号に記載されている、炭化ケイ素を用いた金属成分の吸着精製処理工程を含有してもよい。
【0135】
(その他の工程)
上記薬液の製造方法は、その他の工程を有してもよい。その他の工程としては特に制限されないが、例えば、除電工程が挙げられる。
除電工程は、被精製物を除電することで、被精製物の帯電電位を低減させる工程である。
除電方法としては特に制限されず、公知の除電方法を用いることができる。除電方法としては、例えば、被精製物を導電性材料に接触させる方法が挙げられる。
被精製物を導電性材料に接触させる接触時間は、0.001~60秒が好ましく、0.001~1秒がより好ましく、0.01~0.1秒が更に好ましい。導電性材料としては、ステンレス鋼、金、白金、ダイヤモンド、及びグラッシーカーボン等が挙げられる。
被精製物を導電性材料に接触させる方法としては、例えば、導電性材料からなる接地されたメッシュを管路内部に配置し、ここに被精製物を通す方法等が挙げられる。
【0136】
薬液の精製は、それに付随する、容器の開封、容器及び装置の洗浄、溶液の収容、並びに、分析等は、全てクリーンルームで行うことが好ましい。クリーンルームは、14644-1クリーンルーム基準を満たすことが好ましい。ISO(国際標準化機構)クラス1、ISOクラス2、ISOクラス3、及び、ISOクラス4のいずれかを満たすことが好ましく、ISOクラス1又はISOクラス2を満たすことがより好ましく、ISOクラス1を満たすことが更に好ましい。
【0137】
<薬液の用途>
上記精製方法により精製された薬液は、半導体デバイス製造用に使用するのが好ましい。具体的には、フォトリソグラフィを含む配線形成プロセス(リソグラフィ工程、エッチング工程、イオン注入工程、及び、剥離工程等を含む)において、有機物等を処理するために使用されるのが好ましい。より具体的には、プリウェット液、現像液、リンス液、剥離液、CMPスラリー、及び、CMP後の洗浄液(p-CMP後のリンス液)等として使用されるのが好ましい。
リンス液としては、例えば、レジスト液塗布前後のウェハのエッジエラインのリンスにも使用できる。
また、上記薬液は、半導体デバイス製造用に用いられるレジスト膜形成用組成物(レジスト組成物)に含有される樹脂の希釈液としても使用できる。すなわち、レジスト膜形成用組成物用の溶剤として使用できる。
また、上記薬液は、他の有機溶剤、及び/又は、水等により希釈して使用してもよい。
上記薬液を、CMPスラリーとして使用する場合、例えば、上記薬液に砥粒及び酸化剤等を加えればよい。また、CMPスラリーを希釈する際の溶剤としても使用できる。
【0138】
また、上記薬液は、半導体デバイス製造用以外の他の用途でも好適に用いることができ、ポリイミド、センサ用レジスト、レンズ用レジスト等の現像液、及び、リンス液等としても使用できる。
また、上記薬液は、医療用途又は洗浄用途の溶剤としても用いることができる。特に、容器、配管、及び、基板(例えば、ウェハ、及び、ガラス等)等の洗浄に好適に用いることができる。
【0139】
薬液収容体は以上に説明した容器に、薬液を収容することにより製造できる。容器に薬液を収容する方法としては特に制限されず公知の方法を使用できる。なお、容器に薬液を収容する場合、既に説明したクリーンルームで実施するのが好ましい。
【0140】
薬液収容体において、以下式より計算される、容器内の空隙率は特に制限されないが、5~40体積%が好ましい。
式:空隙率={1-(容器内の薬液の体積/容器の容器体積)}×100
【0141】
また、薬液収容体の容器の空隙部(容器中の薬液がない領域部)において、粒径0.05μm以上の粒子数は特に制限されないが、欠陥抑制性能がより優れる点で、1~1000個/mが好ましく、3~60個/mがより好ましい。
上記粒子数の測定は、後述する実施例欄にて示す方法にて実施する。
【0142】
また、薬液収容体の薬液中において、粒径0.05μm以上の粒子数は特に制限されないが、欠陥抑制性能がより優れる点で、5~500個/mlが好ましい。
上記粒子数の測定は、後述する実施例欄にて示す方法にて実施する。
【0143】
また、薬液収容体の容器の空隙部において、有機リン化合物の濃度は特に制限されないが、欠陥抑制性能がより優れる点で、0.01~100体積ppbが好ましい。
なお、上記有機リン化合物とは、リン原子を含む化合物を意味する。
上記有機リン化合物の濃度の測定は、後述する実施例欄にて示す方法にて実施する。
【0144】
〔薬液収容体の第二実施形態〕
以下では、本発明の実施形態に係る薬液収容体の第二実施形態について説明する。なお、以下の説明において特に説明のない項目は、第一実施形態に係る薬液収容体と同様である。
本発明の第二実施形態に係る薬液収容体は、基材と、基材上に形成された特定ガラスからなる被覆層とを有する容器であって、その接液部の少なくとも一部において、所定の方法で測定したA/Bが0.10を超え、1.0未満である、薬液収容体である。
【0145】
被覆層は、基材上に形成されていればその形状、及び、被覆する範囲等は特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、被覆層は、基材のうち、容器となったときに接液部を構成する部分の少なくとも一部に配置されているのが好ましく、接液部の全体に被覆層が配置されているのがより好ましく、容器の内壁面が被覆層からなることがより好ましい。
被覆層の厚みとしては特に制限されないが、一般に5~30μmが好ましい。
【0146】
基材としては特に制限されず、一般的な容器に使用される基材であれば制限なく使用できる。なかでもより優れた本発明の効果を有する薬液収容体が得られる点で、基材としては、ガラス(特定ガラスを含む)、及び/又は、既に説明した耐腐食材料を含有することが好ましく、ガラス又は耐腐食材料からなることがより好ましい。
基材の厚みとしては特に制限されないが、一般に1~5mmが好ましい。
【実施例
【0147】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0148】
また、実施例及び比較例の薬液収容体の製造に際し、容器の取り扱い、薬液の調製、充填、保管及び分析測定は、全てISOクラス2以下を満たすレベルのクリーンルームで行った。有機不純物の測定、及び、特定金属成分の測定においては、通常の測定で検出限界以下の検体の測定を行う際には、測定精度向上のため、検体を体積換算で100分の1に濃縮して測定を行い、濃縮前の溶液の濃度に換算して含有量の算出を行なった。
【0149】
[実施例1]
容器として、東洋ガラス社製の薬品3600Aを準備し、表1に記載した条件により洗浄した。なお、上記容器は、ナトリウム原子を含有するガラスからなり、容器の内壁面にシリカコート処理が施されたものである。シリカコート処理は、シリルテトライソシアネートシランを加熱してガス化し、容器内に吹き込む処理である。吹き込んだガスの組成を表1に示した。シリカコート処理は、特開2003-128439号公報の0035段落の記載を参考にして実施した。
次に、シリカコート処理後の容器を表1に記載した洗浄条件で、洗浄した。なお、表1の洗浄条件欄には、洗浄回数、及び、超音波洗浄の条件(周波数)を記載した。なお、超音波洗浄器の出力は250Wだった。「水洗」とあるのは、洗浄液として水を使用したことを表している。
この容器について、ナトリウム原子、SiO、及び、カルシウム原子の含有量を、XPSにより測定した。XPSの測定条件は以下のとおりである。
XPS測定は、アルバック社製の走査型 X線光電子分光分析装置 PHI 5000 VersaProbe IIを用いて行った。具体的には、によるデプスプロファイルを使用し、測定は、真空度1.4×10-7Torr下で、Arイオンにより2nm/minでエッチングした表面に対して行った。
なお、表面領域における測定は、2nm刻み(0nm、2nm、4nm、6nm、8nm、10nm)で6点測定し、得られた結果を算術平均した。
また、バルク領域における測定は、500nm刻み(500nm、1000nm、1500nm、2000nm)で4点測定し、得られた結果を算術平均した。
なお、XPSにおける測定データは、各原子の含有量が原子%として得られるため、それを各測定領域の全質量に対する各原子の含有量(質量%)に換算した。また、SiOの含有については、検出されたSiが全てSiOに由来するものと仮定して算出した。結果を表1に示した。
【0150】
次に、有機溶剤としてPGMEAを含有する被精製物(東洋合成社製、純度99.9%のPGMEA)を準備し、精製して薬液を得た。なお、被精製物の精製にはろ過装置を用いた。使用したろ過装置は、タンクと、フィルタカートリッジが収納されたフィルタユニット2つと、充填部とを有し、それぞれが管路によって接続され、被精製物は、管路内に配置されたポンプによってタンクから充填部へと移送され、その間にフィルタユニットを通過し、その過程で精製される。なお、2つあるフィルタユニットは被精製物の流れる方向に対して直列に配置した。すなわち、被精製物は、2つあるフィルタを順に通過し、その過程で精製される。
2つのフィルタユニットには、一次側から、それぞれ以下のフィルタカートリッジを収納した。被精製物の精製は、以下のフィルタを被精製物がそれぞれ1回ずつ通過したら完了とした(被精製物をろ過装置内で循環させなかった。)。
・一次側:ナイロン製、孔径20nm、多孔質膜フィルタ
・二次側:PTFE製、孔径15nm、多孔質膜フィルタ
【0151】
得られた調製直後の薬液について、特定金属成分、及び、有機不純物の種類及び含有量、並びに、有機溶剤の含有量を、以下の方法によって測定した。結果を表1に示した。
上記の薬液を容器に収容して、薬液収容体を得た。
【0152】
(有機不純物の種類及び含有量、並びに、有機溶剤の含有量の測定)
薬液中の有機不純物及び有機溶剤の種類及び含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(製品名「GCMS-2020」、島津製作所)を用いて、以下の条件により測定した。
【0153】
キャピラリーカラム:InertCap 5MS/NP 0.25mmI.D. ×30m df=0.25μm
試料導入法:スプリット 75kPa 圧力一定
気化室温度 :230℃
カラムオーブン温度:80℃(2min)-500℃(13min)昇温速度15℃/min
キャリアガス:ヘリウム
セプタムパージ流量:5mL/min
スプリット比:25:1
インターフェイス温度:250℃
イオン源温度:200℃
測定モード:Scan m/z=85~500
試料導入量:1μL
【0154】
(特定金属成分の種類ごとの含有量)
薬液中の特定金属成分(特定金属イオン及び特定金属粒子)の種類ごとの含有量は、ICP-MS(「Agilent 8800 トリプル四重極ICP-MS(半導体分析用、オプション#200)」)を用いて、以下の条件により測定した。
【0155】
サンプル導入系は石英のトーチと同軸型PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)ネブライザ(自吸用)、及び、白金インターフェースコーンを使用した。クールプラズマ条件の測定パラメータは以下のとおりである。
・RF(Radio Frequency)出力(W):600
・キャリアガス流量(L/min):0.7
・メークアップガス流量(L/min):1
・サンプリング深さ(mm):18
【0156】
[その他の実施例及び比較例の薬液収容体の調製]
表1には、各実施例及び比較例の薬液収容体の調製に用いた容器と薬液の組成について示した。
まず、「容器の調製方法」の欄には、調製に用いた市販のガラス容器、シリカコート処理の条件、及び、(シリカコート処理後の)洗浄条件について記載した。ナトリウム原子を含有するガラスからなる瓶の欄のうち、「ロット違い」とあるのは、製品の型番等は同一だが、メーカの製造ロットが違う製品であることを表している。
シリカコート処理の欄のうち、「20/80」等とあるのは、シリカコート処理の際、容器の内壁に吹き付けたガス(Si(NCO)/O)の組成(体積/体積)を表している。また、各実施例及び比較例のシリカコート処理後の洗浄における超音波洗浄器の出力は250Wだった。
次に、上記のように調整した容器におけるナトリウム原子、SiO、及び、カルシウム原子の含有量を、XPSにより測定した結果を、「容器のNa、SiO、及び、Ca含有量」の欄に示した。なお、測定方法は既に説明したとおりである。
この容器に収容した薬液の組成について、「薬液の組成」欄に記載した。それぞれの薬液は、有機不純物と特定金属成分とを含有し、残部が表1の各行に記載された有機溶剤であった。表中における有機不純物と特定金属成分との含有量は、薬液全質量に対する割合を表す。なお、各成分の測定方法は既に説明したとおりである。
【0157】
[評価]
各薬液収容体は、以下の保管条件で保管し、その後、容器から薬液を取り出し、下記の評価に供した。
【0158】
(保管条件)
各薬液収容体は、調製後、25℃で7日間保管し、評価に供した。
【0159】
(欠陥抑制性能)
保管後の薬液収容体から薬液を取り出し、以下の方法で欠陥抑制性能を評価した。
まず、直径300mmのシリコン酸化膜基板を準備した。
次に、ウェハ上表面検査装置(SP-5;KLA Tencor製)を用いて、上記基板上に存在する直径19nm以上のパーティクル数を計測した(これを初期値とする。)。次に、上記基板をスピン吐出装置にセットし、基板を回転させながら、基板の表面に対して、各薬液を1.5L/分の流速で吐出した。その後、基板をスピン乾燥した。
次に、上記装置(SP-5)を用いて、薬液塗布後の基板に存在するパーティクル数を計測した(これを計測値とする。)。次に、初期値と計測値の差を(計測値-初期値)を計算した。得られた結果は下記の基準に基づいて評価し、結果を表1の「欠陥抑制性能(保管後)」欄に示した。
【0160】
「A」:パーティクル数の初期値と計測値の差が100個以下だった。
「B」:パーティクル数の初期値と計測値の差が100個を超え、300個以下だった。
「C」:パーティクル数の初期値と計測値の差が300個を超え、500個以下だった。
「D」:パーティクル数の計測値-初期値の差が500個を超え、1000個以下だった。
「E」:パーティクル数の計測値-初期値の差が1000個を超え、3000個以下だった。
「F」:パーティクル数の計測値-初期値の差が3000個を超えた。
【0161】
(ショート抑制性能)
保管後の薬液収容体から薬液を取り出し、以下の方法でショート抑制性能を評価した。
実施例及び比較例に記載した各薬液をプリウェット液として用いて、フォトレジストプロセスによってMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)型テスト基板を作製した。得られたテスト基板についてTDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)試験を行い、薬液のショート抑制性能を評価した。具体的には、25℃の環境下で、テスト基板に20mA/cmの一定電流密度をかけ、ゲート絶縁膜の絶縁破壊が起きるまでの総電荷量Qbd[単位:C/cm]を測定した。結果は以下の基準により評価し、表1の「ショート抑制性能(保管後)」欄に示した。
A:総電荷量Qbdが0.75[C/cm]以上だった。
B:総電荷量Qbdが0.60[C/cm]以上、0.75[C/cm]未満だった。
C:総電荷量Qbdが0.45[C/cm]以上、0.60[C/cm]未満だった。
D:総電荷量Qbdが0.30[C/cm]以上、0.45[C/cm]未満だった。
E:総電荷量Qbdが0.15[C/cm]以上、0.30[C/cm]未満だった。
F:総電荷量Qbdが0.15[C/cm]未満だった。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
【表4】
【0166】
なお、表1は、表1(その1)~表1(その4)に分割され、各実施例及び比較例の薬液収容体に係る薬液収容体及びその評価結果は、表1(その1)~表1(その4)のそれぞれの対応する行わたって記載してある。
例えば、実施例1の薬液収容体であれば、容器としては、東洋ガラス社製の「薬品3600A」にSi(NCO)/Oの体積比が10/90となる条件でシリカコート処理し、その後、周波数40kHz、出力250Wの超音波洗浄で5回水洗したものを使用した。薬液を収容する前の容器におけるNa、SiO、及び、Caの含有量はそれぞれ含有量Aが0.15質量%、含有量Bが1.0質量%、含有質量比A/Bが0.15、含有量Cが96.0質量%、含有量Dが80.0質量%、含有質量比C/Dが1.20、含有量Eが0.016質量%、含有量Fが0.12質量%、E/Fが0.13であった。調製直後の薬液の組成としては、特定金属のイオンの合計が0.001質量ppt、特定金属の粒子の合計0.009質量pptであって、特定金属の合計含有量が0.01質量pptであり、有機不純物の含有量が2000質量pptであり、有機溶剤としてPGMEAが残部含有されていた。上記の薬液収容体についてショート抑制性能は「A」評価、欠陥抑制性能は「A」評価だった。その他の実施例、比較例についても上記と同様である。
【0167】
[実施例1A:レジスト組成物(感活性光線性又は感放射線性組成物)が収容された薬液収容体の調製]
国際公開2016/194839号の実施例1に記載したレジスト組成物において、「S1/S4(PGMEA/シクロヘキサン)に代えて、実施例1の薬液を用いて、レジスト組成物を調製した。上記レジスト組成物を実施例1の容器に収容して、実施例1Aの薬液収容体を得た。
【0168】
(レジスト組成物のショート抑制性能及び欠陥抑制性能)
上記で調製した薬液収容体を、25℃、7日間保管し、保管後の薬液収容体から、レジスト組成物を取り出した。上記レジスト組成物をフォトレジストプロセスに適用して、上記と同様にしてショート抑制性能を評価した結果、実施例1と同様の結果だった。
次に、上記レジスト組成物を収容した薬液収容体用いて、上記と同様の方法により欠陥抑制性能を評価した結果、実施例1と同様の結果だった。
【0169】
[実施例1B:CMPスラリーが収容された薬液収容体の調製]
特表2009-510224号公報の0058段落の表2#4に記載したCMPスラリーにおいて、メタノール代えて、実施例1の薬液を用いて、CMPスラリーを調製した。上記CMPスラリーを実施例1の容器に収容して、実施例1Bの薬液収容体を得た。
【0170】
(CMPスラリーのショート抑制性能及び欠陥抑制性能)
上記で調製した薬液収容体を、25℃、7日間保管し、保管後の薬液収容体からCMPスラリーを取り出し、CMPを用いた配線形成プロセスに適用して、既に説明したショート抑制性能の試験と同様にしてテスト基板を作製した。この際、研磨条件は、特表2009-510224号公報と同様にした。得られたテスト基板について、上記と同様の方法で、ショート抑制性能を評価したところ、実施例1と同様の結果だった。
また、上記と同様の方法で、欠陥抑制性能を評価したところ、実施例1と同様の結果だった。
【0171】
[実施例1C:p-CMPリンス液(CMP後の洗浄液)が収容された薬液収容体の調製及び評価]
国際公開2005/043610号公報の実施例6に記載したp-CMPリンス液において、1,4-ブタンジオールに代えて、実施例1の薬液を用いて、p-CMPリンス液を調製した。上記p-CMPリンス液を実施例1の容器に収容し、実施例1Cの薬液収容体を得た。
【0172】
(p-CMPリンス液のショート抑制性能及び欠陥抑制性能)
上記で調製した薬液収容体を25℃で、7日間保管し、保管後の薬液収容体からp-CMPリンス液を取り出し、CMPを用いた配線形成プロセスに適用して、既に説明したショート抑制性能の試験と同様にしてテスト基板を作製した。得られたテスト基板について、上記と同様の方法で、ショート抑制性能を評価したところ、実施例1と同様の結果だった。
また、上記と同様の方法で、欠陥抑制性能を評価したところ、実施例1と同様の結果だった。
【0173】
[実施例29~48]
表2には、各実施例及び比較例の薬液収容体の調製に用いた容器と薬液の組成について示した。
まず、「容器の調製方法」の欄には、調製に用いた市販のガラス容器、シリカコート処理の条件、及び、(シリカコート処理後の)洗浄条件について記載した。
シリカコート処理の欄のうち、「10/90」等とあるのは、シリカコート処理の際、容器の内壁に吹き付けたガス(Si(NCO)/O)の組成(体積/体積)を表している。また、各実施例及び比較例のシリカコート処理後の洗浄における超音波洗浄器の出力は250Wだった。
また、空隙部および薬液中における粒子数、並びに、有機リン化合物の濃度が所定の範囲になるように、クレーンルームのクラスを調整した。
次に、上記のように調整した容器におけるナトリウム原子、SiO、カルシウム原子、及び、ホウ素原子の含有量を、XPSにより測定した結果を、「容器のNa、SiO、Ca、及び、Bの含有量」の欄に示した。なお、測定方法は既に説明したとおりである。
この容器に収容した薬液の組成について、「薬液の組成」欄に記載した。それぞれの薬液は、有機不純物と特定金属成分とを含有し、残部が表2の各行に記載された有機溶剤であった。表中における有機不純物と特定金属成分との含有量は、薬液全質量に対する割合を表す。なお、各成分の測定方法は既に説明したとおりである。
【0174】
表2中、「空隙部における粒子数」欄は、容器の空隙部における粒径0.05μm以上の粒子数(個/m)を表す。
なお、「空隙部における粒子数」欄の測定方法は、米Particle Measuring Systems社製パーティクルカウンタを使用した。
「薬液中における粒子数」欄は、薬液中における粒径0.05μm以上の粒子数(個/ml)を表す。
なお、「薬液中における粒子数」欄の測定方法は、KL-19F(リオン社製パーティクルカウンタ)を使用した。
「有機リン化合物濃度」欄は、容器の空隙部における、有機リン化合物の濃度(体積ppb)を表す。
なお、「有機リン化合物濃度」欄の測定方法は、ガスクロマトグラフ:島津製 GC-14A 型、炎光光度検出器、ガスクロマトグラフ質量分析計:島津製 QP-5050 型、Low Volume Air Sampler:柴田製SL-20 型を使用し、空隙の気体を回収することで測定した。
【0175】
得られた薬液を用いて、表1と同様に(欠陥抑制性能)及び(ショート抑制性能)を評価した。
【0176】
(保存安定性)
各薬液収容体は、調製後、30℃で6か月間保管し、その後、上記(欠陥抑制性能)の評価を行った。
【0177】
【表5】
【0178】
【表6】
【0179】
【表7】
【0180】
【表8】
【0181】
なお、表2は、表2(その1)~表2(その4)に分割され、各実施例及び比較例の薬液収容体に係る薬液収容体及びその評価結果は、表2(その1)~表2(その4)のそれぞれの対応する行わたって記載してある。
上記表2に示すように、容器の空隙部における粒径0.05μm以上の粒子数が1~1000個/mであり、薬液中において粒径0.05μm以上の粒子数が5~500個/mlであり、容器の空隙部において有機リン化合物の濃度が0.01~100体積ppbである場合、より効果が優れることが確認された。