(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】ブレード固定装置及びダイシング装置
(51)【国際特許分類】
B24B 45/00 20060101AFI20220225BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20220225BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B24B45/00 Z
H01L21/78 F
B24B27/06 M
(21)【出願番号】P 2021027116
(22)【出願日】2021-02-24
(62)【分割の表示】P 2017045098の分割
【原出願日】2017-03-09
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】新井 裕介
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024093(JP,A)
【文献】特開昭56-163882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 45/00
H01L 21/301
B24B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に装着されたダイシングブレードを両側面から挟持する一対の挟持部材であって、前記ダイシングブレードの側面に押圧されるリング形状のフランジ面を有する前記一対の挟持部材と、
前記一対の挟持部材の各々の前記フランジ面を前記ダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、
を備えるブレード固定装置において、
前記ダイシングブレードの側面に押圧される前の前記一対の挟持部材の前記フランジ面は、前記ダイシングブレードの中心に向けて、前記ダイシングブレードの側面から次第に離間していく傾斜面を備え、
前記挟持部材のフランジ面の前記傾斜面は、曲面状に形成される、ブレード固定装置。
【請求項2】
前記一対の挟持部材は、前記押圧部材によって前記フランジ面の全面が前記ダイシングブレードの側面に押圧される、請求項1に記載のブレード固定装置。
【請求項3】
回転軸に装着されたダイシングブレードを両側面から挟持する一対の挟持部材であって、前記ダイシングブレードの側面に押圧されるリング形状のフランジ面を有する前記一対の挟持部材と、
前記一対の挟持部材の各々の前記フランジ面を前記ダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、
を備えるブレード固定装置において、
前記ダイシングブレードの側面に押圧される前の前記一対の挟持部材の前記フランジ面は、前記ダイシングブレードの中心に向けて外側に凸状に湾曲した湾曲面を備える、ブレード固定装置。
【請求項4】
ワークを保持するワーク保持部と、
回転軸を有するスピンドルユニットと、
前記スピンドルユニットの前記回転軸に装着されるダイシングブレードと、
前記スピンドルユニットの前記回転軸に装着される請求項1から3のいずれか1項に記載のブレード固定装置であって、前記回転軸に装着された前記ダイシングブレードを前記回転軸に固定する前記ブレード固定装置と、
を備える、ダイシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレード固定装置及びダイシング装置に係り、特に、半導体ウェーハ等のワークに対して切削加工を行うダイシングブレードを回転軸に固定するブレード固定装置及びダイシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング装置は、半導体装置又は電子部品が形成されたウェーハ等のワークに対して切断又は溝入れ等の切削加工を行う。ダイシング装置は、スピンドルユニットの回転軸に装着されて高速で回転するダイシングブレードを有しており、回転するダイシングブレードの切刃部をワークに接触させて切削加工を行う。
【0003】
ダイシング装置に使用されるダイシングブレードとしては、特許文献1の如く、切刃部と支持部であるハブとが一体となったハブブレードが知られており、また、特許文献2の如く、ハブを備えておらずリング形状の切削刃のみで構成されたハブレスブレードが知られている。ハブレスブレードは、一対のリング形状のフランジ(挟持部材に相当)をナット(押圧部材に相当)によって締結することにより、一対のフランジにその両側面が押圧されて固定される。
【0004】
一方、特許文献3には、回転軸に対するハブブレードの取付構造の一例が開示されている。特許文献3によれば、回転軸に台座が形成されており、この台座に形成されたフランジ面にハブブレードのブレード面(側面)が当接されてハブブレードが台座に固定されている。また、特許文献3には、台座のフランジ面が回転軸に対して垂直な面であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-343746号公報
【文献】特開2009-279662号公報
【文献】特開平6-262515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハブレスブレードは、一般に、挟持部材によって固定されたときの挟持部材から径方向への突き出し量が大きく設定されている。このため、特に難削材(リチウムタンタレート、サファイヤ又はアルチック等)をハブレスブレードによって切削加工した場合には、ハブレスブレードに大きな振れが生じてハブレスブレードがワーク上を蛇行し、結果としてカットラインが蛇行したり、最悪の場合にはハブレスブレードが破損したりするという虞があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制してワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができるブレード固定装置及びダイシング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が、ダイシングブレードに大きな振れが生じる原因を鋭意検証したところ、挟持部材のフランジ面の外周端側の面がダイシングブレードの側面に有効に押圧されておらず、フランジ面の内周端側の面のみがダイシングブレードの側面に押圧されていることが原因であることを突き止めた。
【0009】
従来の挟持部材のフランジ面は、例えば特許文献3にも開示されているように、回転軸に対して垂直な面であることが一般的である。このようなフランジ面を押圧部材によってダイシングブレードの側面に押圧していくと、フランジ面のうちの内周端側の面がダイシングブレードの側面に押圧され、そしてフランジ面は、フランジ面の内周端からフランジ面の外周端に向けて、ダイシングブレードの側面から次第に離間するように弾性変形することが確認された。
【0010】
このようなフランジ面の弾性変形により、ダイシングブレードの振れに大きく影響するダイシングブレードの突き出し量は、すなわち、挟持部材から径方向へのダイシングブレードの突き出し量は、フランジ面の外周端を起点とする短めの突き出し量ではなく、フランジ面の内周端を起点とする長めの突き出し量となる。このため、ダイシングブレードの突き出し量は、当初想定されていたフランジ面の外周端からの突き出し量よりも長くなるので、切削加工中のダイシングブレードに想定外の大きな振れが発生することを突き止めた。
【0011】
そこで、本発明のブレード固定装置は、本発明の目的を達成するために、回転軸に装着されたダイシングブレードを両側面から挟持する一対の挟持部材であって、ダイシングブレードの側面に押圧されるリング形状のフランジ面を有する一対の挟持部材と、一対の挟持部材の各々のフランジ面をダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、を備えるブレード固定装置において、ダイシングブレードの側面に押圧される前の一対の挟持部材のフランジ面は、ダイシングブレードの外周端からダイシングブレードの中心に向けて、ダイシングブレードの側面から次第に離間していく傾斜面を備える。
【0012】
本発明のブレード固定装置によれば、挟持部材のフランジ面を押圧部材によってダイシングブレードの側面に押圧していくと、フランジ面が弾性変形していき、押圧完了時には、フランジ面の内周端からフランジ面の外周端に向けたフランジ面の全面又は略全面がダイシングブレードの側面に押圧される。又は、フランジ面の少なくとも外周端側の面がダイシングブレードの側面に押圧される。
【0013】
したがって、本発明のブレード固定装置によれば、ダイシングブレードの振れに大きく影響するダイシングブレードの突き出し量が、フランジ面の外周端近傍を起点とした短めの突き出し量となる。これにより、本発明によれば、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができる。
【0014】
本発明のブレード固定装置の一態様は、挟持部材のフランジ面の傾斜面は、曲面状に形成されることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様によれば、フランジ面の傾斜面が曲面状であっても、フランジ面の内周端からフランジ面の外周端に向けたフランジ面の全面又は略全面をダイシングブレードの側面に押圧することができる。又は、フランジ面の内周端側の面を除く外周端側の面をダイシングブレードの側面に押圧することができる。
【0016】
本発明のブレード固定装置の一態様によれば、一対の挟持部材は、押圧部材によってフランジ面の全面がダイシングブレードの側面に押圧されることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様によれば、フランジ面の全面がダイシングブレードの両側面を押圧するので、ダイシングブレードの振れを効果的に抑制することができる。
【0018】
また、本発明のブレード固定装置は、本発明の目的を達成するために、回転軸に装着されたダイシングブレードを両側面から挟持する一対の挟持部材であって、ダイシングブレードの側面に押圧されるリング形状のフランジ面を有する一対の挟持部材と、一対の挟持部材の各々のフランジ面をダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、を備えるブレード固定装置において、ダイシングブレードの側面に押圧される前の一対の挟持部材のフランジ面は、ダイシングブレードの外周端からダイシングブレードの中心に向けて外側に凸状に湾曲した湾曲面を備える。
【0019】
本発明のブレード固定装置によれば、挟持部材のフランジ面を押圧部材によってダイシングブレードの側面に押圧していくと、フランジ面が弾性変形していき、押圧完了時には、フランジ面の外周端と内周端との間の中央部がダイシングブレードの側面に押圧される。これにより、ダイシングブレード10の突き出し量は、中央部を起点とする長さとなるので、フランジ面の内周端を起点とする従来の長めの突き出し量よりも短くなる。よって、本発明によれば、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができる。
【0020】
本発明のダイシング装置は、本発明の目的を達成するために、ワークを保持するワーク保持部と、回転軸を有するスピンドルユニットと、スピンドルユニットの回転軸に装着されるダイシングブレードと、スピンドルユニットの回転軸に装着される本発明のブレード固定装置であって、回転軸に装着されたダイシングブレードを回転軸に固定するブレード固定装置と、を備える。
【0021】
本発明のダイシング装置によれば、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】第1実施形態のブレード固定装置の概略断面図
【
図4】フランジ部材のフランジ面の断面形状を示した拡大図
【
図5】ナットの締結完了時のフランジ面の変形状態を示した要部拡大断面図
【
図7】第2実施形態のブレード固定装置の概略断面図
【
図8】第3実施形態のブレード固定装置の概略断面図
【
図9】第3実施形態におけるフランジ面の変形状態を示した要部拡大断面図
【
図10】第4実施形態のブレード固定装置の概略断面図
【
図11】第4実施形態におけるフランジ面の変形状態を示した要部拡大断面図
【
図12】フランジ面に形成される条痕を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明に係るブレード固定装置及びダイシング装置の好ましい実施形態について詳説する。
【0025】
図1は、ダイシングブレード10を備えたダイシング装置12の外観を示す斜視図である。
【0026】
ダイシング装置12は、加工部18を備える。加工部18は、先端にダイシングブレード10が取り付けられた一対の高周波モータ内蔵型のスピンドルユニット14、14と、ワークWを吸着保持するワークテーブル(ワーク保持部)16とを有する。また、ダイシング装置12は、加工済みのワークWをスピン洗浄する洗浄部20と、多数枚のワークWを収納したカセットが載置されるロードポート22と、ワークWを搬送する搬送装置24等を備える。
【0027】
図2は、加工部18の構造を示した拡大斜視図である。
【0028】
図2に示す加工部18は、Xベース25の一対のXガイド26、26にガイドされたXテーブル28であって、リニアモータ30によってX方向に駆動されるXテーブル28を有する。このXテーブル28には、θ方向に回転する回転テーブル32を介してワークテーブル16が設けられている。
【0029】
Xベース25の上方には、Xベース25を跨ぐようにYベース34が設けられる。Yベース34の正面には、一対のYガイド36、36にガイドされた一対のYテーブル38、38であって、図示しない送り装置によってY方向に駆動される一対のYテーブル38、38が設けられる。
【0030】
また、一対のYテーブル38、38には、図示しない送り装置によってZ方向に駆動されるZテーブル40、40が設けられている。Zテーブル40、40には高周波モータ内蔵型のスピンドルユニット14、14が対向した状態で固定され、スピンドルユニット14の回転軸14A(
図3参照)にダイシングブレード10、10が対向した状態で固定されている。
【0031】
このように構成された加工部18によれば、スピンドルユニット14、14はY方向にインデックス送りされるとともにZ方向に切り込み送りされ、また、ワークテーブル16はX方向に切削送りされる。
【0032】
図3は、第1実施形態のブレード固定装置42の概略断面図である。
【0033】
ブレード固定装置42は、一対の挟持部材である第1フランジ部材44及び第2フランジ部材46と、押圧部材であるナット48と、を備えている。ダイシングブレード10は、第1フランジ部材44と第2フランジ部材46との間で狭持される。
【0034】
ダイシングブレード10は、リング形状に構成されたハブレスブレードである。ダイシングブレード10の中央部には、ダイシングブレード10を回転軸14A側に装着するための装着孔10Aが形成される。
【0035】
ダイシングブレード10は、ダイヤモンド砥粒を結合材によって結合させたものであり、ダイシングブレード10の外周部の切刃部10Bに、ダイヤモンド砥粒が散りばめられた形で存在している。
【0036】
第1フランジ部材44は、円盤状に形成され、その中央部に第1フランジ部材44を回転軸14Aに装着するための装着孔44Aが形成される。また、第1フランジ部材44の背面44Bには、回転軸14Aの台座15に当接される位置決め面44Cが形成される。また、第1フランジ部材44の正面44Dには、装着孔44Aに連通された筒状部44Eであって、ダイシングブレード10の装着孔10Aが嵌合される筒状部44Eが形成される。ダイシングブレード10は、その装着孔10Aが筒状部44Eに嵌合されることにより、筒状部44Eを介して回転軸14Aに装着される。
【0037】
また、第1フランジ部材44の正面44Dには、ダイシングブレード10の一方の側面10Cに当接されるフランジ面44Fが形成される。このフランジ面44Fは、正面44Dの外縁部に沿ったリング状の面であり、外周端aと内周端bとを有する。フランジ面44Fについては後述する。
【0038】
第2フランジ部材46は、円盤状に形成され、その中央部に第2フランジ部材46を筒状部44Eに装着するための装着孔46Aが形成される。また、第2フランジ部材46の正面46Bには、ダイシングブレード10の他方の側面10Dに当接されるフランジ面46Fが形成される。このフランジ面46Fは、第2フランジ部材46が筒状部44Eに装着された際に、第1フランジ部材44のフランジ面44Fに対向される。また、フランジ面46Fは、正面46Bの外縁部に沿ったリング状の面であり、フランジ面44Fと同様に外周端aと内周端bとを有する。フランジ面46Fについても後述する。
【0039】
なお、第1及び第2フランジ部材44、46は、ダイシングブレード10とともに高速回転されることから、慣性変形を防止するために軽量で剛性のあるチタン製であることが好ましい。
【0040】
ナット48は、筒状部44Eの外周面に形成されたネジ部(不図示)に螺合されて、第2フランジ部材46の背面46Cに当接される。この状態からナット48を締結していくと、ナット48の軸力(押圧力)により第2フランジ部材46が第1フランジ部材44に向けて押圧付勢される。これにより、ダイシングブレード10の側面Cが第1フランジ部材44のフランジ面44Fに押圧され、かつダイシングブレード10の側面Dが第2フランジ部材46のフランジ面46Fに押圧される。これによって、ダイシングブレード10が、第1及び第2フランジ部材44、46に挟持されて回転軸14Aに固定される。
【0041】
次に、第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面44F、46Fについて説明する。
【0042】
図4は、ダイシングブレード10を回転軸14Aに固定する前の第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面44F、46Fの断面形状の一例を示した拡大図である。
【0043】
図4に示すように、フランジ面44Fは、フランジ面44Fの外周端aから内周端bに向けて、ダイシングブレード10の側面10Cから次第に離間していく傾斜面として形成されている。つまり、フランジ面44Fは、ダイシングブレード10の外周端10Eからダイシングブレード10の中心10Fに向けて、ダイシングブレード10の側面10Cから次第に離間していく傾斜面として形成されている。
【0044】
フランジ面46Fも同様に、フランジ面46Fの外周端aから内周端bに向けて、ダイシングブレード10の側面10Dから次第に離間していく傾斜面として形成されている。つまり、フランジ面46Fは、ダイシングブレード10の外周端10Eからダイシングブレード10の中心10Fに向けて、ダイシングブレード10の側面10Dから次第に離間していく傾斜面として形成されている。
【0045】
第1実施形態のブレード固定装置42によれば、第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面44F、46Fをナット48(
図3参照)の軸力によってダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧していくと、
図4に示したように、ダイシングブレード10の側面10C、10Dから互いに離れていたフランジ面44F、46Fが、ナット48の軸力によって互いに近づく方向に弾性変形していく。
【0046】
そして、
図5に示すナット48の締結完了時には、フランジ面44F、46Fの内周端bから外周端aに向けたフランジ面44F、46Fの全面又は略全面がダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。又は、フランジ面44F、46Fの少なくとも外周端a側の面がダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。
【0047】
ここで、従来例と比較する。
図6は、従来のブレード固定装置1の要部拡大断面図である。
図6には、ナット2の締結完了時における、第1及び第2フランジ部材3、4のフランジ面3A、4Aの変形状態が示されている。
【0048】
従来の第1及び第2フランジ部材3、4のフランジ面3A、4Aは、ダイシングブレード6の側面6A、6Bに押圧される前状態で、回転軸(不図示)の軸5に対して垂直な面であることが一般的である。このようなフランジ面3A、4Aをナット2の軸力によってダイシングブレード6の側面6A、6Bに押圧していくと、フランジ面3A、4Aのうちの内周端b側の面のみがダイシングブレード6の側面6A、6Bに押圧され、そしてフランジ面3A、4Aは、内周端bから外周端aに向けて、ダイシングブレード6の側面6A、6Bから次第に離間するように弾性変形していく。
【0049】
このようなフランジ面3A、4Aの弾性変形により、ダイシングブレード6の振れに大きく影響するフランジ部材3、4から径方向へのダイシングブレード6の突き出し量dは、フランジ面3A、4Aの外周端aの近傍を起点とする短めの突き出し量c(
図5参照)ではなく、フランジ面3A、4Aの内周端bを起点とする長めの突き出し量となる。このため、ダイシングブレード6の突き出し量dは、当初想定されていた突き出し量c(
図5参照)よりも長くなるので、切削加工中のダイシングブレード6に想定外の大きな振れが発生した。
【0050】
上記の従来例に対し、第1実施形態のブレード固定装置42は、
図4の如く、フランジ面44F、46Fを、ダイシングブレード10の外周端10Eからダイシングブレード10の中心10Fに向けて、ダイシングブレード10の側面10C、10Dから次第に離間していく傾斜面として形成したので、
図5の如く、ナット48の締結完了時には、フランジ面44F、46Fの全面又は略全面がダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。又は、フランジ面44F、46Fの少なくとも外周端aの面がダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。
【0051】
したがって、第1実施形態によれば、ダイシングブレード10の振れに大きく影響するダイシングブレード10の突き出し量cが、フランジ面44F、46Fの外周端aの近傍を起点とした短めの突き出し量となる。これにより、第1及び第2フランジ部材44、46から径方向への突き出し量が多いハブレス型のダイシングブレード10であっても、ダイシングブレード10の振れを効果的に抑制することができ、これによって、ワークWに対するダイシングブレード10の蛇行を防止することができる。
【0052】
なお、
図3の如く、回転軸14Aの軸14Cに直交する方向に対するフランジ面44F、46Fの傾斜角度α(
図4参照)は、フランジ面44F、46Fの変形要因である第1及び第2フランジ部材44、46の回転時の慣性力、第1及び第2フランジ部材44、46の材質、形状、及びナット48の軸力等に応じて適宜調整されることが好ましい。
【0053】
図7は、第2実施形態に係るブレード固定装置50の要部拡大断面図である。なお、
図5に示した第1実施形態のブレード固定装置42と同一若しくは類似の部材については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0054】
図5に示したブレード固定装置42と
図7のブレード固定装置50とは、フランジ面の形状が異なる。
図5のフランジ面44F、46Fは、フランジ面44F、46Fの外周端aから内周端bに向けた全ての面を傾斜面として形成している。これに対して、
図7のフランジ面44G、46Gは、外周端a側の面44H、46Hがダイシングブレード10の側面10C、10Dに対して平行な面として形成され、面44H、46Hを除く内周端b側の面44I、46Iがフランジ面44F、46F(
図4参照)と同様の傾斜面として形成されている。すなわち、第2実施形態のブレード固定装置50は、フランジ面44G、46Gの一部に傾斜面である面44I、46Iが備えられている。
【0055】
このように構成されたブレード固定装置50であっても、ダイシングブレード10の側面10C、10Dから互いに離れていた面44I、46Iが、ナット48(
図3参照)の軸力によって互いに近づく方向に弾性変形していき、ナット48の締結完了時には、面44I、46Iがダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。
【0056】
また、ブレード固定装置50によれば、外周端a側の面44H、46Hがダイシングブレード10の側面10C、10Dと平行な面であり、内周端b側の面44I、46Iが傾斜面であるので、外周端a側に必要な剛性を確保しつつ、外周端a側の面44H、46Hでダイシングブレード10を挟持することができる。
【0057】
なお、第2実施形態のブレード固定装置50の変形例として、外周端a側の面44H、46Hの形状を、外側に突出した円弧状面とすることもできる。
【0058】
図8は、第3実施形態に係るブレード固定装置52の要部拡大断面図である。なお、
図5に示した第1実施形態のブレード固定装置42と同一若しくは類似の部材については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0059】
図5に示したブレード固定装置42と
図8のブレード固定装置52とは、フランジ面の形状が異なる。
図5のフランジ面44F、46Fの傾斜面は、フランジ面44F、46Fの外周端aから内周端bに向けたフラットな面である。これに対して、
図8のフランジ面44J、46Jの傾斜面は、フランジ面44F、46Fの外周端aから内周端bに向けて曲面状に形成されている。
【0060】
図9は、
図8のブレード固定装置52において、ナット48(
図3参照)の締結完了時のフランジ面44J、46Jの変形状態を示した要部拡大断面図である。
【0061】
図9の如く、第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面44J、46Jの傾斜面が曲面状であっても、フランジ面44J、46Jの内周端bから外周端aに向けたフランジ面44J、46Jの全面又は略全面をダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧することができる。又は、フランジ面44J、46Jの内周端b側の面を除く外周端a側の面をダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧することができる。
【0062】
なお、フランジ面44J、46Jの曲率半径r(
図7参照)は、フランジ面44F、46Fの変形要因である第1及び第2フランジ部材44、46の回転時の慣性力、第1及び第2フランジ部材44、46の材質、形状、及びナット48の軸力等に応じて適宜調整されることが好ましい。
【0063】
図10は、第4実施形態に係るブレード固定装置54の要部拡大断面図である。なお、
図5に示した第1実施形態のブレード固定装置42と同一若しくは類似の部材については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0064】
図5に示したブレード固定装置42と
図10のブレード固定装置54とは、フランジ面の形状が異なる。
図5のフランジ面44F、46Fは、ダイシングブレード10の外周端10E(
図4参照)からダイシングブレード10の中心10Fに向けて、ダイシングブレード10の側面10C、10Dから次第に離間していくフラットな面である。これに対して、
図10のフランジ面44K、46Kは、ダイシングブレード10の外周端10Eから中心10Fに向けて外側に凸状に湾曲した湾曲面である。
【0065】
図11は、
図10のブレード固定装置54において、ナット48(
図3参照)の締結完了時のフランジ面44K、46Kの変形状態を示した要部拡大断面図である。
【0066】
図11の如く、第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面44K、46Kが湾曲面なので、フランジ面44K、46Kの外周端aと内周端bとの間の中央部eがダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。よって、ダイシングブレード10の突き出し量fは、中央部eを起点とするものなので、
図6に示した従来の突き出し量dよりも短くなる。
【0067】
よって、フランジ面44K、46Kが湾曲面であるブレード固定装置54であっても、ダイシングブレード10の振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレード10の蛇行を防止することができる。
【0068】
なお、フランジ面44K、46Kの曲率半径r(
図7参照)は、フランジ面44F、46Fの変形要因である第1及び第2フランジ部材44、46の回転時の慣性力、第1及び第2フランジ部材44、46材質、形状、ナット48の軸力等に応じて適宜調整されることが好ましい。
【0069】
ところで、ダイシングブレード10に対する第1及び第2フランジ部材44、46の保持力を高めるための手段として、第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面に条痕を形成することが考えられる。この場合、#400~#800レベルの砥石をフランジ面に当てて、挟持部材を回転させながらフランジ面を研削した場合に生じる条痕が有効となる。
【0070】
図12には、第1フランジ部材44のフランジ面44Fに形成される上述の条痕fが示されている。
【0071】
図12の如くフランジ面44Fに条痕fを形成することにより、特にフランジ面44Fとダイシングブレード10の側面10C(
図3参照)との接触が部分的になる場合には、条痕fがダイシングブレード10の側面10Cに噛み込むことで、第1フランジ部材44に対するダイシングブレード10の空転を防止することができる。なお、ダイシング装置内で行われるフランジ面44Fの端面修正作業においては、ステンレスよりもチタンの方が硬度が低いので、条痕fを容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0072】
10…ダイシングブレード、12…ダイシング装置、14…スピンドルユニット、14A…回転軸、15…台座、16…ワークテーブル、18…加工部、20…洗浄部、22…ロードポート、24…搬送装置、25…Xベース、26…Xガイド、28…Xテーブル、30…リニアモータ、32…回転テーブル、34…Yベース、36…Yガイド、38…Yテーブル、40…Zテーブル、42…ブレード固定装置、44…第1フランジ部材、46…第2フランジ部材、44F…フランジ面、46F…フランジ面、44G…フランジ面、46G…フランジ面、44J…フランジ面、46J…フランジ面、44K…フランジ面、46K…フランジ面、48…ナット、50…ブレード固定装置、52…ブレード固定装置、54…ブレード固定装置