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特許7029721化合物、有機半導体材料、有機半導体素子、有機太陽電池及び有機トランジスタ
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  • 特許-化合物、有機半導体材料、有機半導体素子、有機太陽電池及び有機トランジスタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】化合物、有機半導体材料、有機半導体素子、有機太陽電池及び有機トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   C07D 513/04 20060101AFI20220225BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20220225BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20220225BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C07D513/04 301
C07D513/04 CSP
H01L29/28 100A
H01L29/28 250H
H01L31/04 154B
H01L31/04 154C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017199989
(22)【出願日】2017-10-16
(65)【公開番号】P2019073468
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安蘇 芳雄
(72)【発明者】
【氏名】家 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】チャタジー シュレーヤム
(72)【発明者】
【氏名】森山 太一
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-047192(JP,A)
【文献】CHATTERJEE, S. et al.,Advanced Functional Materials ,2016年,Vol. 26,pp. 1161-1168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H01L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される化合物。
【化1】

(一般式(I)中、 X、X、Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、A及びAは、それぞれ独立に、下記式で表される基であり、*は結合手を示す。)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、下記式で表される基である。)
【化3】

(式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1-40の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を含む、有機半導体材料。
【請求項3】
請求項2に記載の有機半導体材料を含む層を有する、有機半導体素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機半導体素子を含む、有機太陽電池。
【請求項5】
請求項3に記載の有機半導体素子を含む、有機トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子化合物、及びそれを含む有機半導体材料、有機半導体素子並びにそれを用いた有機太陽電池、有機トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した有機トランジスタや有機太陽電池等に関する研究開発が盛んに行われている。有機半導体材料を用いた場合、印刷法、スピンコート法等のウエットプロセスによる簡便な方法で薄膜状の有機半導体層を作製できる。このため、無機半導体材料に比べて製造コストが安いとともに、薄く柔軟性に優れる有機半導体素子が得られる等の利点がある。
例えば、n型有機半導体材料としてフェニルC61酪酸メチルエステルやフェニルC71酪酸メチルエステル等のフラーレン誘導体をバルクヘテロ型有機太陽電池に用いると、高い光電変換効率を示すことが知られているが、製造コストが高いことが欠点として挙げられる。そのため、このような背景からフラーレン代替となり得るπ拡張系n型有機半導体材料の研究開発が行われている。例えば、非特許文献1には、ナフトビスチアジアゾールと縮環イミドから構成される化合物をn型有機半導体材料として用いて太陽電池の動作を確認したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Shreyam Chatterjee et al.,Adv.Funct.Mater.26,1161-1168(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載された材料を用いた太陽電池では、未だ十分な光電変換効率が得られていないため、更なる改良が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、n型有機半導体材料として良好な特性を示すフラーレン代替となり得る拡張共役系化合物を探索した結果、下記一般式(I)で示される化合物が、優れたn型有機半導体特性を有し、有機半導体材料として高い光電変換効率を達成し、より一層優れたキャリア移動度を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下に存する。
【0006】
[1].下記一般式(I)で示される化合物。
【0007】
【化1】

(一般式(I)中、 X、X、Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、A及びAは、それぞれ独立に、下記式で表される基であり、*は結合手を示す。)
【0008】
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、下記式で表される基である。)
【0009】
【化3】

(式中、Rは、炭素原子数1-40の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。)
[2].[1]に記載の化合物を含む、有機半導体材料。
[3].[2]に記載の有機半導体材料を含む層を有する、有機半導体素子。
[4].[3]に記載の有機半導体素子を含む、有機太陽電池。
[5].[3]に記載の有機半導体素子を含む、有機トランジスタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る化合物は、高い電子受容骨格であるフッ素原子が置換したナフトビスチアジアゾールと芳香族イミドをそれぞれ有することから、優れたn型有機半導体特性を有する。そのため、本発明に係る化合物は有機半導体材料として、より一層優れた光電変換効率を有する有機太陽電池、あるいはより一層優れたキャリア移動度を有する有機トランジスタ等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の有機太陽電池における電流密度-電圧特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(化合物の構造)
本発明の化合物は、一般式(I)で示される。
【0013】
【化4】
【0014】
上記一般式(I)中、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1-10である。Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1-30であり、より好ましくは5-25である。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても枝分かれしていても環状であっても良い。A及びAは、それぞれ独立に、下記式で表される基であり、*は結合手である。
【0015】
【化5】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1-30であり、より好ましくは5-25である。R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、下記式で表される基である。)
【0016】
【化6】

(式中、Rは、炭素原子数1-40の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。)
【0017】
(化合物の製造方法)
化合物(I)の製造方法は特に限定されないが、一例として、以下の反応スキームに沿って、市販されている化合物から合成して製造することができる。より具体的な一例は、後述の実施例に記載されている。
【0018】
【化7】
【0019】
市販の一般式(II)で表されるナフタレンから工程A,B,Cを経て一般式(V)で表される化合物を合成し、引き続き、一般式(V)で表される化合物から工程D,E,Fを経て(I)を合成する。
【0020】
<工程A>
まず、一般式(II)で示される化合物(以下「化合物(II)」という)から、一般式(III)で示される化合物(以下「化合物(III)」という)を製造する(工程A)。化合物(III)において、nは0から4の任意の数字を示す。
【0021】
工程Aは、具体的には、例えば、ニトロ化、ハロゲン化、ハロゲン置換、ホウ素化、ヒドロキシル化、アミノ化、保護又は脱保護のうちの少なくとも1つの工程を含むが、特に限定されず、これら工程のうちから必要な工程を適宜選択して組み合わせて行うことによって構成される。必要な工程の選択及び組み合わせ(選択した工程を行う順序)は、当業者であれば容易に理解することができる。
【0022】
<工程B>
次いで、化合物(III)から、一般式(IV)で示される化合物(以下「化合物(IV)」という)を製造する(工程B)。
【0023】
工程Bは、具体的には、例えば、化合物(III)又はその塩と、硫黄化剤とを反応(硫黄化反応)させることにより、化合物(IV)を製造する。硫黄化剤としては、当該反応が進行する硫黄化剤であれば特に限定はなく、例えば、硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄、塩化チオニル、塩化スルフリル、2,4-ビス(4-メトキシフェニル)-1,3,2,4-ジチアジホスフェタン-2,4-ジスルフィド等が挙げられる。硫黄化剤としては、化合物(III)1当量に対して、1~20当量が好ましく、より好ましくは2~5当量の割合で使用することができる。工程Bの反応は、通常、塩基及び溶媒の存在下で行うことができる。塩基としては、当該反応が進行する塩基であれば特に限定はない。塩基は、化合物(III)1当量に対して、1~20当量が好ましく、より好ましくは2~5当量の割合で使用することができる。溶媒は、当該反応が進行する溶媒であれば特に限定はない。また、ピリジンやキノリンのように、溶媒で塩基を兼ねるものを使用してもよい。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、より好ましくは0~120℃である。反応時間は、通常、1~48時間である。化合物(IV)は、工程Cに供する前に精製することが好ましい。
【0024】
<工程C>
次いで、化合物(IV)から、一般式(V)で示される化合物(以下「化合物(V)」という)を製造する(工程C)。
【0025】
工程Cは、具体的には、例えば、化合物(IV)とハロゲン化剤(臭素化剤)を反応(ハロゲン化反応)させることにより、化合物(V)を製造する。ハロゲン化剤としては、当該反応が進行するハロゲン化剤であれば特に限定はなく、例えば、臭素、N-ブロモスクシンイミド等が挙げられる。ハロゲン化剤は、化合物(IV)1当量に対して、1~20当量が好ましく、より好ましくは2~5当量の割合で使用することができる。工程Cの反応は、通常、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、当該反応が進行する溶媒であれば特に限定はない。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、より好ましくは0~120℃である。反応時間は、通常、1~48時間である。化合物(V)は、工程Dに供する前に精製することが好ましい。
【0026】
前述の工程Aから工程Cを適宜選択して組み合わせて行うことにより、式(II)の化合物から、式(V)で表されるナフトビスカルコゲナジアゾール誘導体を製造することができる。
具体的に次のステップを行って、ナフトビスカルコゲナジアゾール誘導体を製造するのが好ましい。
(1)ジアミノナフタレンをフッ素化反応させて、ジフルオロナフタレンを製造する。
(2)ジフルオロナフタレンをアミノ化反応させて、ジアミノ-ジフルオロナフタレン又はその塩酸塩を製造する。
(3)ジアミノ-ジフルオロナフタレン又はその塩酸塩をニトロ化反応させて、ジアミノ-ジフルオロ-ジニトロナフタレン又はその塩酸塩を製造する。
(4)ジアミノ-ジフルオロ-ジニトロナフタレン又はその塩酸塩を還元して、テトラアミノ-ジフルオロナフタレン又はその塩酸塩を製造する。
(5)テトラアミノ-ジフルオロナフタレン又はその塩酸塩と硫黄化剤、セレン化剤又はテルル化剤とを反応させて、ナフトビスカルコゲナジアゾールを製造する。
(6)(5)のステップで得られたナフトビスカルコゲナジアゾールとハロゲン化剤又はホウ素化剤とを反応させて、ナフトビスカルコゲナジアゾール誘導体を製造する。
また、別の方法として、具体的に次のステップを行って、ナフトビスカルコゲナジアゾール誘導体(A及びAは酸素原子である)を製造するのが好ましい。
(7)(3)のステップで得られたジアミノ-ジフルオロ-ジニトロナフタレン又はその塩酸塩を酸化し、次いで還元して、ナフトビスカルコゲナジアゾール誘導体(A及びAは酸素原子である)を製造する。
(8)(7)のステップで得られたナフトビスカルコゲナジアゾールとハロゲン化剤又はホウ素化剤とを反応させて、ナフトビスカルコゲナジアゾール誘導体(A及びAは酸素原子である)を製造する。
【0027】
<工程D>
次いで、化合物(V)と、化合物(VI)及び/又は化合物(VII)とから、一般式(VIII)で示される化合物(以下「化合物(VIII)」という)を製造する(工程D)。化合物(V)において、X、X、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。化合物(VI)において、X及びYは前述の通りである。また、化合物(VII)において、X及びYは前述の通りである。
【0028】
工程Dは、具体的には、例えば、溶媒中で化合物(V)と化合物(VI)及び/又は化合物(VII)とを触媒存在下で反応させて化合物(VIII)を生成させる。溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン、DMF、テトラヒドロフラン等が挙げられる。また、触媒としては、Pd(PPh、Pd(PPhCl、Pd(dba)等が挙げられる。配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィンを添加しても良い。反応温度は、例えば0℃~200℃とすることができる。化合物(VIII)は、工程Eに供する前に精製することが好ましい。
【0029】
<工程E>
次いで、化合物(VIII)から、一般式(IX)で示される化合物(以下「化合物(IX)」という)を製造する(工程E)。化合物(IX)において、Bは臭素原子又はヨウ素原子を表す。化合物(IX)において、X、X、Y及びYは前述の通りである。
【0030】
工程Eは、具体的には、例えば、塩化メチレン及び/又はクロロホルム等の溶媒中で、化合物(VIII)に臭素、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、ヨウ素、N-ヨードスクシンイミド(NIS)又は一塩化ヨウ素等を反応させて化合物(IX)を生成させる。反応温度は、例えば-78℃~60℃とすることができる。化合物(IX)は、工程Fに供する前に精製することが好ましい。
【0031】
<工程F>
次いで、化合物(X)又は化合物(XI)と、化合物(IX)とを反応させることによって一般式(I)で示される化合物(以下「化合物(I)」という)を製造する(工程F)。化合物(I)において、X、X、Y及びYは前述の通りである。一般式(I)において、A及びAは、それぞれ独立に、下記式で表される基であり、*は結合手を示す。)
【0032】
【化8】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数1-40の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、下記式で表される基である。)
【0033】
【化9】

(式中、Rは、炭素原子数1-40の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。)
【0034】
工程Fは、具体的には、例えば、溶媒中で化合物(X)又は化合物(XI)と化合物(IX)とを触媒及び塩基の存在下で反応させて化合物(I)を生成させる。溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン、DMF、テトラヒドロフラン等が挙げられる。触媒としては、Pd(PPh、Pd(PPhCl、Pd(dba)等が挙げられる。配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィンを添加しても良い。また、塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム第3級ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン等の有機アミン類;等が挙げられる。反応温度は、例えば80℃~200℃とすることができる。得られた化合物(I)は精製しても良い。このようにして、本発明の化合物(I)を製造することができる。
【0035】
(有機半導体材料)
本発明の化合物(I)は、有機半導体材料として用いることができる。特に、n型有機半導体材料として優れた効果を有する。
【0036】
(有機半導体素子)
前記の有機半導体材料を含有する層を基板上に形成して、有機半導体素子として用いることができる。基板としては、例えば、ガラス、樹脂を用いても良い。有機半導体材料を含む層を形成するには、公知の方法を用いて、溶媒に溶解した溶液を塗布したり、有機半導体材料を蒸着して形成することができる。
【0037】
(有機半導体デバイス)
前記の有機半導体素子を用いて、必要に応じて電極や配線を施して、有機半導体デバイスとすることができる。有機半導体デバイスとしては、有機エレクトロニクス全般、例えば、有機太陽電池、有機トランジスタ(有機電界効果型トランジスタ、光トランジスタ等)、有機エレクトロルミネッセンス、センサ(光センサ等)、メモリ、電子写真用感光体、コンデンサ及び/又はバッテリー等においても使用することができる。また、プロトン導電膜の材料としても使用し得る。
【0038】
(有機太陽電池)
前記の有機半導体素子を用いて有機太陽電池を作製することができる。有機太陽電池は、例えば、基板上に電極層、電子輸送層(電子取出層)、光電変換層(光活性層)、正孔輸送層(正孔取出層)、及び電極層を順に積層した構造を有する。本発明に係る化合物を含む有機半導体材料は、例えば、光電変換層(光活性層)を形成する。基板としては、例えば、受光性能を阻害しないよう、光透過性を有する基板が挙げられる。そのような基板としては、例えば、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色又は有色の透明性を有する樹脂を用いても良い。また、そのような樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、及びポリメチルペンテン等が挙げられる。電極としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)電極、銀電極、アルミニウム電極、金電極、クロム電極、酸化チタン電極、酸化亜鉛電極などが挙げられる。電子輸送層(電子取出層)としては、例えば、フェナントロリン、バソキュプロイン、及びペリレン等の有機半導体分子並びにこれらの誘導体;遷移金属錯体等の有機物;LiF、CsF,CsO,CsCO,TiOx(xは0~2の任意の数字)、及びZnO等の無機化合物;Ca、Ba等の金属;等が挙げられる。正孔輸送層(正孔取出層)としては、例えば、PEDOT(ポリスチレンスルホネート、poly(styrenesulfonate))、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフラン、ポリピリジン、及びポリカルバゾール等の導電性高分子;MoO及びWO等の無機化合物;フタロシアニン、及びポルフィリン等の有機半導体分子ならびにこれらの誘導体;遷移金属錯体;トリフェニルアミン化合物及びヒドラジン化合物等の電荷移動剤;TTF(テトラチアフルバレン)のような電荷移動錯体;等の正孔移動度が高い材料が挙げられる。
【0039】
本発明の化合物(I)をn型半導体材料として用いる場合において、正孔輸送層(正孔取出層)として共に用いるp型半導体材料としては、ドナー型π共役高分子やドナーアクセプタ型π共役高分子等が挙げられる。ドナー型π共役高分子としては、ポリ-3-へキシルチオフェン(P3HT)、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリ-アルコキシ-p-フェニレンビニレン、ポリ-9,9-ジアルキルフルオレン、ポリ-p-フェニレンビニレンを挙げることができる。ドナーアクセプタ型π共役高分子中のドナーユニットとしては、ベンゾチオフェン、ジチエノシロール、N-アルキルカルバゾールが、またアクセプタユニットとしては、ベンゾチアジアゾール、チエノチオフェン、チオフェンピロールジオンなどが挙げられ、具体的には、これらのユニットを組み合わせた、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-co-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)(PTBxシリーズ)、ポリ(ジチエノ[1,2-b:4,5-b’][3,2-b:2’,3’-d]シロール-alt-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)類等の高分子化合物が挙げられる。これらのうちで、好ましいものとしては、ポリ({4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル}{3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル})(PTB7)、ポリ[4,8-ジ(2-エチルヘキシルオキシ)ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン]-2,6-ジイル-alt-((5-オクチルチエノ[3,4-c]ピロール-4,6-ジオン)-1,3-ジイル)(PBCTTPD)、ポリ[(4,4’-ビス(2-エチルヘキシル)ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]シロール)-2,6-ジイル-alt-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール-4,7-ジイル)(PSBTBT)、ポリ[N-9’’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-5,5-(4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](PCDTBT)、ポリ[1-(6-{4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]-6-メチルベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2-イル}{3-フルオロ-4-メチルチエノ[3,4-b]チオフェン-2-イル}-1-オクタノン)(PBDTTT-CF)が挙げられる。
【0040】
(有機トランジスタ)
前記の有機半導体素子を用いて有機トランジスタを作製することができる。有機トランジスタは、具体的には、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極及び活性層を有し、該活性層に前記の有機半導体素子を用いることができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例に基づき、有機半導体材料を構成する各種化合物の合成、化合物を含む有機半導体材料を用いた有機太陽電池の特性について更に詳しく説明する。なお、これらの記載は本発明の実施形態の例示であって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[化合物1~3]
(化合物1の合成)
市販のナフタレン誘導体をハロゲン化、アミノ化の製法を適宜選択して組み合わせて行うことにより、1,2,5,6-テトラアミノ-4,8-ジフルオロナフタレン塩酸塩(化合物1)を合成した。
【0043】
(1,5-ジフルオロナフタレンの合成)
500mLナス型フラスコに、1,5-ジアミノナフタレン(7.5g)、及び水(200mL)を入れ、0℃に冷却後濃硫酸(12.6mL)を入れた。その後、0℃で亜硝酸(8.21g)の水溶液(20mL)を滴下し、滴下終了後0℃で1時間撹拌した。その後、室温で1時間撹拌した。その後、0℃に冷却しHBF(38mL)を滴下し、滴下終了後0℃で1時間撹拌した。析出物を濾取し、水及びメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥して固体を得た。500mLナス型フラスコに、得られた固体(17.6g)、及びクロロベンゼン150mLを入れ、3時間加熱還流した。その後、0℃に冷却し反応液に水を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、ヘキサンを移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製し、1,5-ジフルオロナフタレンを白色固体で得た(3.048g,収率39%)。反応式を以下に示す。
【0044】
【化10】
【0045】
得られた目的物の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=7.88(d,J=8.4Hz,1H), 7.49-7.44(m,1H),7.21(dd,J=7.8Hz,11Hz,1H)。
【0046】
(1,5-ジブロモ-4,8-ジフルオロナフタレンの合成)
200mLナス型フラスコに、1,5-ジフルオロナフタレン(3.048g)、及びトリフルオロ酢酸(25mL)を入れた後、N-ブロモスクシンイミド(7.939g)を加え70℃で16時間撹拌した。その後、0℃に冷却し反応液に水を加え、得られた析出物を濾取し、水及びメタノールで洗浄した。その後減圧下で乾燥し、1,5-ジブロモ-4,8-ジフルオロナフタレンを淡褐色固体で得た(5.321g,収率89%)。反応式を以下に示す。
【0047】
【化11】
【0048】
得られた目的物の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=7.88(dd,J=4.2Hz,8.6Hz,2H),7.12(dd,J=8.6Hz,12.6Hz,2H)。
【0049】
(1,5-ジアミノ-4,8-ジフルオロナフタレン塩酸塩の合成)
300mLナス型フラスコに、1,5-ジブロモ-4,8-ジフルオロナフタレン(5.00g)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)-クロロホルム付加体(802mg)、rac-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)1,1’-ビナフチル(483mg)、ナトリウムtert-ブトキシド(5.96g)、ベンゾフェノンイミン(802mg)、及びトルエン(80mL)を入れてフラスコ内を窒素置換し、110℃で16時間撹拌した。析出物をセライト濾過で取り除き、酢酸エチルで洗浄し、濾液を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、ヘキサン:酢酸エチル(1:1)溶媒を移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製した。300mLナス型フラスコに得られた反応生成物とTHF(115mL)を入れて、0℃で2規定の塩酸(23.5mL)を加えて、0℃で1時間撹拌した。析出物を濾取し、テトラヒドロフランで洗浄した。その後減圧下で乾燥し、1,5-ジアミノ-4,8-ジフルオロナフタレン塩酸塩を淡褐色固体で得た(2.00g,収率48%)。反応式を以下に示す。式中、nは0~4の任意の数字を示す。
【0050】
【化12】
【0051】
得られた目的物の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ=7.30-7.25(m,4H)。
【0052】
(N,N’-(4,8-ジフルオロナフタレン-1,5-ジイル)ビス(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)の合成)
300mLナス型フラスコに、1,5-ジアミノ-4,8-ジフルオロナフタレン塩酸塩(1.95g)、及びジクロロメタン(85mL)を入れ、0℃に冷却した。0℃でトリエチルアミン(2.95g)、無水トリフルオロ酢酸(7.67g)を加え、室温で終夜撹拌した。得られた反応混合物を減圧下で乾燥した。析出物にメタノールを加え濾取し、メタノールで洗浄した。その後減圧下で乾燥し、N,N’-(4,8-ジフルオロナフタレン-1,5-ジイル)ビス(2,2,2-トリフルオロアセトアミドを白色固体で得た(2.410g,収率86%)。反応式を以下に示す。
【0053】
【化13】
【0054】
得られた目的物の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,Acetone-d):δ=10.43(br,2H),7.84-7.79(m,2H),7.50(dd,J=8.4Hz,13.6Hz,2H)。
【0055】
(N,N’-(4,8-ジフルオロ-2,6-ジニトロナフタレン-1,5-ジイル)ビス(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)の合成)
50mLナス型フラスコに、N,N’-(4,8-ジフルオロナフタレン-1,5-ジイル)ビス(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)(500mg)、及び濃硫酸(10mL)を入れ、-45℃に冷却した。その後、硝酸(2.5mL)を加え、-45℃で5分間撹拌した。氷水に得られた反応混合物を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後溶媒を減圧下で留去した。析出した固体にジエチルエーテルを加え濾取し、ジエチルエーテルで洗浄した。その後減圧下で乾燥し、N,N’-(4,8-ジフルオロ-2,6-ジニトロナフタレン-1,5-ジイル)ビス(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)を淡褐色固体で得た(313mg,収率51%)。反応式を以下に示す。
【0056】
【化14】
【0057】
得られた目的物の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,Acetone-d):δ=11.00(br,2H),8.31(d,J=12.8Hz,2H)。
【0058】
(1,5-ジアミノ-4,8-ジフルオロ-2,6-ジニトロナフタレン塩酸塩の合成)
300mLナス型フラスコに、N,N’-(4,8-ジフルオロ-2,6-ジニトロナフタレン-1,5-ジイル)ビス(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)(1.340g)、メタノール(110mL)、及び濃塩酸(55mL)を入れ、90℃で終夜撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮した。析出した固体を濾取し、濃塩酸とジクロロメタンで洗浄した。その後減圧下で乾燥し、1,5-ジアミノ-4,8-ジフルオロ-2,6-ジニトロナフタレン塩酸塩を暗褐色固体で得た(679mg,収率68%)。反応式を以下に示す。式中、nは0~4の任意の数字を示す。
【0059】
【化15】
【0060】
得られた目的物の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ=8.15(br,4H),7.92(d,J=16.4Hz,2H)。
【0061】
(1,2,5,6-テトラアミノ-4,8-ジフルオロナフタレン塩酸塩の合成)
300mLナス型フラスコに、1,5-ジアミノ-4,8-ジフルオロ-2,6-ジニトロナフタレン塩酸塩(797mg)、濃塩酸(80mL)、及び塩化スズ(II)(8.46g)を入れ、70℃で1時間撹拌した。析出した固体を濾取し、濃塩酸とジクロロメタンで洗浄した。その後、減圧下で乾燥し、1,2,5,6-テトラアミノ-4,8-ジフルオロナフタレン塩酸塩(化合物1)を褐色固体で得た(718mg,収率87%)。反応式を以下に示す。式中、m及びnは、それぞれ独立に、0~4の任意の数字を示す。
【0062】
【化16】
【0063】
得られた目的物である化合物1の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ=6.94(d,J=16.8Hz,2H)。
【0064】
(化合物2の合成)
5,10-ジフルオロナフト[1,2-c:5,6-c’]ビス[1,2,5]チアジアゾールを合成した。
100mLナス型フラスコに、得られた1,2,5,6-テトラアミノ-4,8-ジフルオロナフタレン塩酸塩(174mg)、ピリジン(18mL)、及び塩化チオニル(1.12g)を入れ、90℃で2時間撹拌した。その後、反応液を減圧下で乾燥して固体を得た。得られた固体にメチルアルコールを加えて濾取した後、濾取した固体をメチルアルコールで洗浄した。洗浄後の固体を乾燥して、淡褐色で5,10-ジフルオロナフト[1,2-c:5,6-c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール(130mg,99%)(化合物2)を得た。反応式を以下に示す。
【0065】
【化17】
【0066】
得られた化合物2の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.08-8.03(m,2H)。19FNMR(565MHz,CDCl):δ=-107.71。
【0067】
(化合物3の合成)
反応容器にトリフルオロ酢酸(20mL)、化合物2(90mg,0.32mmol)、N-ブロモスクシンイミド(1.28g,7.2mmol)を加え、70℃で20時間撹拌した。その後、反応溶液に水を加え、析出してきた黄色固体を濾過し、メタノールで洗浄することで化合物3を得た(100mg,72%)。反応式を以下に示す。
【0068】
【化18】

得られた目的物の物性を測定した。測定結果を以下に示す。
19F-NMR(470MHz,CDCl):δ=-99.9(s)。融点(m.p.)=270~272℃。
【0069】
[化合物4~6]
(化合物4の合成)
化合物4は、文献:Macromolecules,46,3391(2013)に記載された手順を参考に合成した。
【0070】
(化合物5の合成)
反応容器にテトラヒドロフラン(30mL)、化合物3(100mg,0.23mmol)、化合物4(1.0g,2.2mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(30mg,1.5mol%)を加えた。反応容器を窒素置換し、120℃で12時間撹拌した。その後、反応溶液に水を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、ヘキサン:クロロホルム(1:1)溶媒を移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製し、化合物5を赤色固体で得た(134mg,収率87%)。
【0071】
得られた化合物5の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.21(s,2H),7.18(s,2H),2.64-2.62(m,4H),1.67-1.64(m,2H),1.40-1.28(m,16H),0.94-0.88(m,12H)。
【0072】
(化合物6の合成)
反応容器にテトラヒドロフラン(15mL)、化合物5(134mg,0.20mmol)、N-ブロモスクシンイミド(89mg,0.50mmol)を加え、50℃で4時間撹拌した。その後、反応溶液に水を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、クロロホルムを移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製し、化合物6を赤色固体で得た(130mg,収率80%)。
【0073】
得られた化合物6の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=7.99(s,2H),2.58-2.49(m,4H),1.68-1.62(m,2H),1.33-1.17(m,8H),1.11-0.98(m,8H),0.94-0.89(m,12H)。反応式を以下に示す。
【0074】
【化19】
【0075】
[化合物7~13]
(化合物7の合成)
化合物7は、文献:J.Org.Chem.81,8312-8318(2016).に記載された手順を参考に合成した。
【0076】
(化合物8の合成)
窒素雰囲気下、反応容器にN,N-ジメチルホルムアミド(5mL)、酢酸パラジウム(II)(24mg)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(XPhos)(94mg)を加え、室温で撹拌した。その後、化合物7(620mg)を加え室温で30分間撹拌した。その後、トリエチルアミン(2mL)、化合物7に対して3当量のアクリル酸tert-ブチルを加え、90℃で12時間撹拌した。その後、水とクロロホルムの混合溶媒に反応溶液を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒を移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製し、化合物8を得た(315mg,収率40%)。
【0077】
得られた化合物8の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.14(s,2H),8.10(d,2H,J=8.0Hz),7.92(d,2H,J=6.8Hz),7.69-7.66(m,2H),1.65(s,18H)。
【0078】
(化合物9の合成)
反応容器にエタノールと水の混合溶媒、化合物8(315mg)、水酸化ナトリウム(1.2g)を加え、100℃で12時間撹拌した。その後、2規定の塩酸を加え反応液を酸性にした。その後、析出してきた固体を濾過し、水とメタノールで洗浄することで化合物9を得た(260mg,収率80%)。
【0079】
(化合物10の合成)
反応容器に無水酢酸(10mL)、化合物9(260mg)を加え、130℃で4時間撹拌した。その後、析出してきた固体を濾過し、水とメタノールで洗浄することで化合物10を得た(200mg,収率82%)。
【0080】
得られた化合物10の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.45(s,2H),8.21(d,2H,J=7.2Hz),8.10(d,2H,J=8.0Hz),7.83-7.79(m,2H)。
【0081】
(化合物11の合成)
反応容器にピリジン(10mL)、化合物10(200mg,0.73mmol)、2-アミノヘプタン(180mg,1.56mmol)を加え、140℃で12時間撹拌した。その後、反応溶液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、ヘキサン:酢酸エチル(10:1)溶媒を移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製し、化合物11を黄色固体で得た(235mg,収率87%)。
【0082】
得られた化合物11の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.30(s,2H),8.12(d,2H,J=6.8Hz),8.00(d,2H,J=8.0Hz),7.76-7.72(m,2H),4.42-4.34(m,1H),2.16-2.03(m,1H),1.79-1.65(m,1H),1.51(d,3H,J=6.8Hz),1.35-1.23(m,6H),0.88-0.82(m,3H)。
【0083】
(化合物12の合成)
反応容器に酢酸(15mL)、化合物11(235mg,0.64mmol)、2-アミノヘプタン(180mg,1.56mmol)、触媒量のヨウ素を加えた。その後、臭素(1.03g,6.4mmol)をゆっくり加えた。その後、室温で20時間撹拌した。その後、反応溶液にチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え室温で撹拌した。その後、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、ヘキサン:酢酸エチル(10:1)溶媒を移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製し、化合物12を黄色固体で得た(200mg,収率70%)。
【0084】
得られた化合物12の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.08-7.83(m,4H),7.73-7.69(m,1H),7.64-7.57(m,2H),4.42-4.34(m,1H),2.13-2.04(m,1H),1.80-1.68(m,1H),1.52(d,3H,J=6.8Hz),1.35-1.23(m,6H),0.86-0.82(m,3H)。
【0085】
(化合物13の合成)
窒素雰囲気下、反応容器に1,4-ジオキサン(15mL)、化合物12(200mg,0.45mmol)、ビス(ピナコラト)ジボラン(340mg,1.35mmol)、酢酸カリウム(450mg,4.5mmol)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(37mg,0.050mmol)を加えた。その後、90℃で終夜撹拌した。その後、反応溶液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、ヘキサン:酢酸エチル(10:1)溶媒を移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製し、化合物13を黄色固体で得た(185mg,収率81%)。
【0086】
得られた化合物13の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.71(d,1H,J=8.8Hz),8.27(d,1H,J=6.8Hz),8.20(m,2H),8.03-7.99(m,2H),7.72-7.68(m,1H),4.42-4.33(m,1H),2.14-2.03(m,1H),1.79-1.65(m,1H),1.51(d,3H,J=6.8Hz),1.45(s,12H)、1.38-1.26(m,6H),0.86-0.82(m,3H)。反応式を以下に示す。
【0087】
【化20】
【0088】
(化合物14の合成)
窒素雰囲気下、反応容器にトルエン(10mL)、化合物6(130mg,0.16mmol)、化合物13(198mg,0.40mmol)、炭酸ナトリウム水溶液(1mL,2mol/L)を加えた。その後、120℃で終夜撹拌した。その後、反応溶液に水を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物を、クロロホルムを移動層とするゲル浸透クロマトグラフィーで分離精製し、化合物14を赤色固体で得た(185mg,収率81%)。
【0089】
得られた化合物14の物性データは次の通りである。
HNMR(400MHz,CDCl):δ=8.46(s,2H)、8.29(s,2H)、8.26(s,2H)、8.15-8.06(m,6H)、7.83(d,2H,J=7.2Hz)、7.73-7.69(m,2H)、4.42-4.37(m,2H)、2.62(d,4H,J=7.2Hz)、2.14-2.09(m,2H)、1.79-1.75(m,2H)、1.53(d,6H,J=6.8Hz),1.28-0.83(m,36H),0.67-0.61(m,12H)。13CNMR(100MHz,CDCl):δ=168.8、144.6、144.0、141.3、135.2、135.1、133.9、133.1、131.7、131.5、131.3、129.6、128.9、127.9、122.6、121.9、116.1、47.7、40.7、33.9、33.2、32.5、31.6、28.6、26.6、25.8、22.9、22.6、18.8、14.1、10.8。MS(MALDI)m/z=1402.51(M)。元素分析;理論値(炭素)71.87%、(水素)5.74%、(窒素)5.99%、実測値(炭素)71.64%、(水素)5.94%、(窒素)5.85%。反応式を以下に示す。
【0090】
【化21】
【0091】
続いて、合成した化合物14を用いて有機太陽電池を作製し、光電変換効率等の性能を評価した。
【0092】
[有機太陽電池の性能評価]
(実施例1)
化合物14をn型有機半導体材料として用いて有機太陽電池の評価を行った。
p型有機半導体材料としてはP3HTを、電極としてはITO(陰極)及びアルミニウム(陽極)を、正孔輸送材料としてはPEDOT:PSSを、電子輸送材料としてはCaをそれぞれ用いた。
まず、ITO膜がパターニングされたガラス基板をトルエン、アセトン、水、イソプロピルアルコールでそれぞれ15分間超音波洗浄した後、プラズマ洗浄機中に入れて、酸素ガスを流入しながら発生したプラズマにより基板表面を20分間洗浄処理した。さらに、オゾンUVを90分照射して表面を洗浄した。その後、スピンコート法製膜装置を用い、前記のITOガラス上にPEDOT:PSS薄膜を形成した。次いで、135℃で10分間アニール処理した。形成されたPEDOT:PSSの膜厚は30nmであった。さらに、スピンコート法製膜装置を用い、事前にクロロベンゼン(1mL)に溶かしたP3HT(18mg)と化合物14(18mg)を含有する溶液を前述のPEDOT:PSS薄膜の上にスピンコート(3000rpm、2分間)し、有機半導体層を形成させて、積層体を得た。その後、小型高真空蒸着装置を用い、前記で作製した積層帯を高真空蒸着装置中のマスクの上に置き、電子輸送層としてCa(30nm)、及び金属電極としてのアルミニウム層(70nm)を順次製膜し、3mm角の有機太陽電池を作製した。
【0093】
得られた有機太陽電池に、ソーラーシュミレーター(AM1.5Gフィルター、放射照度100mW/cm)を用いて一定の光を照射し、発生する電流と電圧を測定した。図1に電流密度-電圧特性のグラフを示す。
【0094】
図1に基づいて短絡電流密度Jsc(mA/cm)、開放電圧Voc(V)、形状因子FFを求めたところ、Jsc=5.66mA/cm、Voc=0.89、FF=0.60であった。光電変換効率(η)を、式η=(Jsc×Voc×FF)/100より算出したところ、3.0%であった。
【0095】
このように、本発明の化合物は、n型有機半導体材料として、例えばフラーレン誘導体の代替となり得る高い光電変換効率を達成できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の化合物は良好な光電変換効率等の半導体特性を有するため、有機半導体材料として有機太陽電池等の有機半導体デバイスに利用可能である。
図1