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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20220225BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20220225BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20220225BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20220225BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20220225BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20220225BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220225BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220225BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220225BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M159/24
C10M159/22
C10M137/02
C10M133/06
C10N40:04
C10N30:00 Z
C10N20:02
C10N20:00 Z
C10N10:04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017230555
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019099653
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】岩井 利晃
(72)【発明者】
【氏名】桑原 佑介
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149856(JP,A)
【文献】特開2012-201808(JP,A)
【文献】特開2001-262176(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010735(WO,A1)
【文献】特開2009-292997(JP,A)
【文献】特開2013-119570(JP,A)
【文献】特開2005-255715(JP,A)
【文献】特開2001-335788(JP,A)
【文献】特開2000-355695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、アルカリ土類金属系清浄剤(A)と、亜リン酸エステル(B)と、脂肪族モノアミン(C)とを含有し、
重量平均分子量(Mw)が3万以上4万以下の粘度指数向上剤を更に含み、
前記亜リン酸エステル(B)以外のリン系化合物、及び前記脂肪族モノアミン(C)以外のモノアミン化合物を含有せず、
(A)成分由来のアルカリ土類金属原子量が、組成物全量基準で300質量ppm以上600質量ppm以下、
(B)成分由来のリン原子量が組成物全量基準で5質量ppm以上30質量ppm以下、
(C)成分由来の窒素原子量が組成物全量基準で50質量ppm以上200質量ppm以下である潤滑油組成物。
【請求項2】
100℃動粘度が4mm/s以上6mm/s以下、粘度指数が210以上である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
亜リン酸エステル(B)が、以下の式(I)で表される化合物である請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
(RO)P(OH)3-a ・・・(I)
(式(I)において、Rは炭素数12~16の炭化水素基を表し、aは1~3の整数を示す。aが2又は3の場合、Rは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記式(I)において、aが2であるとともに、Rが炭素数12~16の脂肪族炭化水素基である請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
脂肪族モノアミン(C)が、以下の式(II)で表される化合物である請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
NR ・・・(II)
(式(II)において、Rは炭素数12~18の脂肪族炭化水素基、R及びRは水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。R及びRは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【請求項6】
式(II)において、Rが炭素数12~18の脂肪族炭化水素基、R及びRが水素原子又は炭素数1~2のアルキル基を表す、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
アルカリ土類金属系清浄剤(A)が、カルシウムスルフォネート、及びカルシウムサリチレートからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
アルカリ土類金属系清浄剤(A)の塩基価が、300mgKOH/g以上である請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
無段変速機用である、請求項1~8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
基油に、少なくとも、アルカリ土類金属系清浄剤(A)、亜リン酸エステル(B)、及び脂肪族モノアミン(C)を、(A)成分由来のアルカリ土類金属原子量が組成物全量基準で300質量ppm以上600質量ppm以下、(B)成分由来のリン原子量が組成物全量基準で5質量ppm以上30質量ppm以下、(C)成分由来の窒素原子量が組成物全量基準で50質量ppm以上200質量ppm以下潤滑油組成物に含有されるように配合し、
更に重量平均分子量(Mw)が3万以上4万以下の粘度指数向上剤を配合し
前記亜リン酸エステル(B)以外のリン系化合物、及び前記脂肪族モノアミン(C)以外のモノアミン化合物は配合せずに、潤滑油組成物を得る、潤滑油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、例えば、無段変速機用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題から自動車においても燃費向上が重要な課題となっており、多段式自動変速機(以下、“AT”ともいう)よりも効率の高い無段式自動変速機(以下、“CVT”ともいう)の装着比率が高まっている。CVTは、比較的低トルクのエンジンに対してはベルト式のものが使用され、高トルクのエンジンに対してはチェーン式のものが一般的に使用される。
【0003】
ベルト式又はチューン式のCVTは、プーリーとベルト又はプーリーとチェーンの間の摩擦で動力を伝達させている。これらの間でスリップが発生することを防止するため、ベルト又はチェーンはプーリーに大きな力で押し付けられている。プーリーとベルト又はプーリーとチェーンとの間は、潤滑油で潤滑されるが、これらの間の押し付け力の低減が燃費向上に繋がるため、CVT用の潤滑油には金属間摩擦係数を高くすることが求められている。また、プーリーとベルト又はプーリーとチェーンとの間では、振動が発生したり、ノイズが生じたりすることがある。そのため、従来、金属間摩擦係数を高くしつつ、上記振動やノイズを防止するために、高塩基価のアルカリ土類金属スルフォネートと、硫黄含有リン化合物と、脂肪族1級アミンとを配合したCVT用の潤滑油が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-98063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、エンジンが高出力となり、トルク等が高くなってきているため、CVT、特にチェーン式のCVTでは、プーリーとチェーン又はプーリーとベルトの間の潤滑状態が過酷となってきている。そのため、特許文献1に開示される従来のCVT用潤滑油を用いても、金属間摩擦係数を十分に高くできなくなることがある。さらに、プーリーとチェーン又はプーリーとベルトの間で発生する振動やノイズを抑制することも難しくなってきている。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、CVT等において潤滑状態が過酷となっても、金属間摩擦係数を高くしつつ、プーリーとチェーン又はプーリーとベルトとの間で発生する振動やノイズを抑制することが可能な潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、アルカリ土類金属系清浄剤、亜リン酸エステル、及び脂肪族モノアミンを所定量で基油に配合することで、上記課題を解決できることを見出し、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の製造方法を提供する。
(1)基油と、アルカリ土類金属系清浄剤(A)と、亜リン酸エステル(B)と、脂肪族モノアミン(C)とを含有し、(A)成分由来のアルカリ土類金属原子量が、組成物全量基準で300質量ppm以上600質量ppm以下、(B)成分由来のリン原子量が組成物全量基準で5質量ppm以上50質量ppm以下、(C)成分由来の窒素原子量が組成物全量基準で50質量ppm以上200質量ppm以下である潤滑油組成物。
(2)基油に、少なくとも、アルカリ土類金属系清浄剤(A)、亜リン酸エステル(B)、及び脂肪族モノアミン(C)を、(A)成分由来のアルカリ土類金属原子量が組成物全量基準で300質量ppm以上600質量ppm以下、(B)成分由来のリン原子量が組成物全量基準で5質量ppm以上50質量ppm以下、(C)成分由来の窒素原子量が組成物全量基準で50質量ppm以上200質量ppm以下潤滑油組成物に含有されるように配合して潤滑油組成物を得る、潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
CVT等において潤滑状態が過酷となっても、金属間摩擦係数を高くしつつ、プーリーとチェーン又はプーリーとベルトとの間で発生する振動やノイズを抑制することが可能な潤滑油組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、実施形態を用いて説明する。
本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物は、基油と、アルカリ土類金属系清浄剤(A)と、亜リン酸エステル(B)と、脂肪族モノアミン(C)とを含有する。以下、潤滑油組成物に使用される各成分について詳細に説明する。
【0010】
(基油)
潤滑油組成物において使用される基油は、特に制限はなく、自動変速機に使用しうるものであれば、鉱油、及び合成油のいずれも使用することができる。
鉱油としては、パラフィン基系鉱油、中間基系鉱油又はナフテン基系鉱油などが挙げられ、具体的には、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストックなどが挙げられる。また、GTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化することによって製造されるGTL油なども鉱油として挙げられる。
合成油としては、例えば、ポリブテン、α-オレフィン単独重合体や共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体)で代表されるポリオレフィン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなどの各種エステル、ポリフェニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールなどの各種エーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。
潤滑油組成物では、基油として、上記鉱油を一種類用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を一種類用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油一種類以上と合成油一種類以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0011】
基油は、特に限定されないが、100℃における動粘度が0.5mm2/s以上10mm2/s以下が好ましく、1mm2/s以上7mm2/s以下がより好ましく、1.5mm2/s以上4mm2/s以下がさらに好ましい。基油の動粘度をこれらの範囲内とすることで、潤滑油組成物の動粘度を後述する範囲内に調整しやすくなる。また、基油の粘度指数は、80以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。基油の粘度指数をこれらの範囲内とすることで、潤滑油組成物の粘度指数を後述する範囲内に調整しやすくなる。
なお、本明細書において動粘度及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定したものである。
潤滑油組成物において基油は、潤滑油組成物全量基準(本明細書では、単に「組成物全量基準」ともいう。)で60質量%以上含有されることが好ましく、より好ましくは65質量%以上97質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上95質量%以下含有される。
【0012】
(アルカリ土類金属系清浄剤(A))
本実施形態の潤滑油組成物は、アルカリ土類金属系清浄剤(A)を含有する。潤滑油組成物は、アルカリ土類金属系清浄剤(A)を含有することで、潤滑状態が過酷となっても金属間摩擦係数を高めることが可能になる。また、金属間の摩擦係数-すべり速度特性(以下、「金属間μ-V特性」ともいう)も良好となる。潤滑油組成物において、金属間μ-V特性が良好となると、プーリーとチェーン又はプーリーとベルトの間で発生する振動及びノイズを低減させることが可能になる。
【0013】
アルカリ土類金属系清浄剤(A)としては、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属サリチレート、及びアルカリ土類金属フェネートが挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウムが挙げられ、カルシウムが好適に用いられる。アルカリ土類金属系清浄剤(A)の好適な具体例としては、カルシウムスルフォネート、及びカルシウムサリチレートが挙げられ、カルシウムスルフォネートがより好ましい。アルカリ土類金属系清浄剤(A)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
アルカリ土類金属系清浄剤(A)としては、塩基性、過塩基性のものが好ましく使用され、具体的には、塩基価が300mgKOH/g以上であることが好ましい。また、塩基価は、300mgKOH/g以上500mgKOH/g以下がより好ましく、350mgKOH/g以上450mgKOH/g以下がさらに好ましい。このように、アルカリ土類金属系清浄剤(A)の塩基価を高くすることで、金属間摩擦係数を高めやすくなる。なお、塩基価は、JIS K-2501:2003の過塩素酸法に従って測定したものである。
【0015】
(亜リン酸エステル(B))
潤滑油組成物は、上記(A)成分に加えて、さらに亜リン酸エステル(B)を含有する。潤滑油組成物は、亜リン酸エステル(B)を含有することで、潤滑状態が過酷となっても金属間摩擦係数を高めることが可能になる。さらには、金属間μ-V特性も良好になって、上記したように振動及びノイズを低減させることが可能になる。
【0016】
亜リン酸エステル(B)としては、具体的には、以下の式(I)で表される化合物が挙げられる。
(RO)P(OH)3-a ・・・(I)
(式(I)において、Rは炭素数12~16の炭化水素基を表し、aは1~3の整数を示す。aが2又は3の場合、Rは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0017】
式(I)において、Rで示される炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられるが、アルキル基、アルケニル基などの脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
アルキル基及びアルケニル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ドデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ヘキサデセニル基などが挙げられる。なお、ここでいう「各種」とは、直鎖状、及びその構造異性体であるあらゆる分岐鎖状のものを含むことを示し、以下、同様である。
【0018】
亜リン酸エステル(B)としては、式(I)において、aが2であるとともに、Rが炭素数12~16の脂肪族炭化水素基であるものが好ましく、aが2であるとともに、炭素数12~14の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、該脂肪族炭化水素基がアルキル基であることがさらに好ましい。
そのような亜リン酸エステル(B)としては、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、ジミリスチルハイドロジェンホスファイト、ジパルミチルハイドロジェンホスファイト等が挙げられるが、中でもジラウリルハイドロジェンホスファイトが好ましい。
なお、亜リン酸エステル(B)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(脂肪族モノアミン(C))
本実施形態における潤滑油組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、脂肪族モノアミン(C)を含有する。潤滑油組成物は、脂肪族モノアミン(C)を含有することで、潤滑状態が過酷となっても金属間摩擦係数を高めることが可能になる。さらには、金属間μ-V特性も良好になって、上記したように振動及びノイズを低減させることが可能になる。
【0020】
脂肪族モノアミン(C)としては、具体的には、以下の式(II)で表される化合物が挙げられる。
NR ・・・(II)
(式(II)において、Rは炭素数12~18の脂肪族炭化水素基、R及びRは水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。R及びRは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0021】
式(II)において、Rで示される脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基などが挙げられる。アルキル基及びアルケニル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種ドデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ヘキサデセニル基、各種オクタデセニル基などが挙げられる。
また、式(II)において、R、Rで示される炭素数1~4のアルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基,sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
【0022】
脂肪族モノアミン(C)としては、式(II)において、Rが炭素数12~18の脂肪族炭化水素基、R及びRが水素原子又は炭素数1~2のアルキル基である脂肪族モノアミンが好ましく、中でもRが炭素数12~18の脂肪族炭化水素基、R及びRが水素原子である1級アミンがより好ましく、該脂肪族炭化水素基がアルケニル基であるものがさらに好ましい。
脂肪族モノアミン(C)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
脂肪族モノアミン(C)としては、上記のように1級アミンを使用することがより好ましく、中でも(C)成分として、1級アミン(すなわち、R及びRが水素原子であるアミン)を単独で使用することが好ましいが、1級アミンと3級アミン(すなわち、R及びRがアルキル基であるアミン)とを併用してもよい。
併用する場合には、1級アミンが、上記したように、Rが炭素数12~18の脂肪族炭化水素基、R及びRが水素原子であるとともに、3級アミンが、Rが炭素数12~18の脂肪族炭化水素基、R及びRが炭素数1~2のアルキル基であるものが好ましい。
上記1級アミンと3級アミンを併用する場合、1級アミン由来の窒素原子量に対する3級アミン由来の窒素原子量の質量比(3級アミン/1級アミン)は、0.15以上6以下が好ましく、0.25以上4以下が好ましく、0.33以上3以下がさらに好ましい。
脂肪族モノアミン(C)として使用可能な1級アミンの好適な具体例としては、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、及びオレイルアミンが挙げられる。また、3級アミンとしては、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオレイルアミン等が挙げられる。脂肪族モノアミン(C)としては、これらの中では、オレイルアミンが特に好ましい。
【0024】
((A)~(C)成分の含有量)
潤滑油組成物は、アルカリ土類金属系清浄剤(A)由来のアルカリ土類金属原子量が、組成物全量基準で300質量ppm以上600質量ppm以下、亜リン酸エステル(B)由来のリン原子量が組成物全量基準で5質量ppm以上50質量ppm以下、脂肪族モノアミン(C)由来の窒素原子量が組成物全量基準で50質量ppm以上200質量ppm以下となるように、上記(A)~(C)成分を含有する。
本実施形態では、(A)~(C)それぞれ由来のアルカリ土類金属原子量、リン原子量、窒素原子量が上記範囲外となると、潤滑状態が過酷となった場合には、金属間摩擦係数を高くすることが難しくなる。さらには、金属間μ-V特性が良好になることが難しくなり、上記したプーリーとチェーン間等で発生する振動及びノイズを低減させにくくなる。
【0025】
なお、(A)成分由来のアルカリ土類金属原子量は、(A)成分におけるアルカリ土類金属原子の量をICP分析により測定して組成物全量基準に換算したものである。また、(B)成分由来のリン原子含有量は、(B)成分におけるリン原子量をICP分析により測定して組成物全量基準で換算して求めたものである。さらに、(C)成分由来の窒素原子量は、(C)成分における窒素原子量をJIS K 2609:1998に準拠して測定し、組成物全量基準に換算したものである。
【0026】
金属間摩擦係数、金属間μ-V特性をより向上させる観点から、(A)成分由来のアルカリ土類金属原子量は、組成物全量基準で350質量ppm以上575質量ppm以下であることが好ましく、400質量ppm以上550質量ppm以下であることがより好ましい。
また、同様の観点から、(B)成分由来のリン原子量は、組成物全量基準で10質量ppm以上40質量ppm以下であることが好ましく、15質量ppm以上30質量ppm以下であることがより好ましい。同様に、(C)成分由来の窒素原子量は、組成物全量基準で70質量ppm以上160質量ppm以下であることが好ましく、80質量ppm以上140質量ppm以下であることがより好ましい。
【0027】
(粘度指数向上剤)
潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を含有することが好ましい。潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を含有することで、粘度指数が向上しやすくなり、例えば後述するように粘度指数を200以上とすることも可能である。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレートなどのポリメタクリレート(PMA)系、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブチレン等のオレフィン共重合体(OCP)系、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体などのスチレン共重合体系等が挙げられる。これらの中では、ポリメタクリレート系が好ましい。なお、粘度指数向上剤としては、分散型、非分散型のいずれでもよいが、非分散型が好ましい。
粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は好ましくは3万以上4万以下である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の分子量をいう。
なお、粘度指数向上剤の構造としては、直鎖であってもよく、分岐鎖を有するものであってもよい。また、高分子量の側鎖が出ている三叉分岐点を主鎖に数多くもつ構造を有する櫛形ポリマー等の特定の構造を有するポリマーであってもよい。櫛形ポリマーを使用することで少ない量の粘度指数向上剤で粘度指数を向上させることが可能である。粘度指数向上剤は、粘度指数を適切に向上させる量含有させるとよい。
【0028】
(その他の添加剤)
潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてさらに、上記(A)~(C)成分、粘度指数向上剤以外のその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、上記(B)成分以外のリン系化合物、(C)成分以外のモノアミン化合物、酸化防止剤、無灰系分散剤、硫黄系極圧剤、銅不活性化剤、防錆剤、摩擦調整剤、消泡剤などが挙げられる。これらのその他の添加剤は、1種又2種以上を適宜選択して使用すればよい。
【0029】
(B)成分以外のリン系化合物としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、及びこれらのアミン塩などが挙げられる。リン酸エステルとしては、トリアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェートなどが挙げられる。酸性リン酸エステルとしては、モノアルキルアシッドホスフェート、ジアルキルアシッドホスフェート、モノアルケニルアシッドホスフェート、ジアルケニルアシッドホスフェートなどが挙げられる。リン酸エステル、酸性リン酸エステルにおけるアルキル基、アルケニル基としては、炭素数8~18程度のものが挙げられる。また、(C)成分以外のモノアミン化合物としては、フェニルアミン等の芳香族環を1つ有する芳香族モノアミン化合物が挙げられる。
【0030】
酸化防止剤としては、例えば、上記したモノアミン化合物以外のアミン系酸化防止剤(例えば、ジフェニルアミン類、フェニルナフチルアミン類など)、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上7質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。
無灰系分散剤としては、例えば、コハク酸イミド化合物、ホウ素化コハク酸イミド化合物、酸アミド系化合物などが挙げられる。無灰系分散剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下である。
硫黄系極圧剤としては、例えば、チアジアゾール系化合物、ポリサルファイド系化合物、チオカーバメイト系化合物、硫化油脂系化合物、および硫化オレフィン系化合物などが挙げられる。硫黄系極圧剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.02質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下である。
【0031】
銅不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、ト
リアゾール、トリアゾール誘導体、イミダゾール、イミダゾール誘導体、チアジアゾール、およびチアジアゾール誘導体などが挙げられる。銅不活性化剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.02質量%以上3質量%以下である。
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、酸化パラフィン、およびアルキルポリオキシエチレンエーテルなどが挙げられる。防錆剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.02質量%以上2質量%以下である。
【0032】
摩擦調整剤としては、例えば、カルボン酸、カルボン酸エステル、油脂、カルボン酸アミド、およびサルコシン誘導体などが挙げられる。摩擦調整剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上3質量%以下である。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系化合物、フッ化シリコーン系化合物、およびエステル系化合物などが挙げられる。消泡剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下である。
【0033】
(潤滑油組成物)
本実施形態の潤滑油組成物は、100℃動粘度が4mm2/s以上6mm2/s以下、粘度指数が210以上であることが好ましい。本実施形態では、潤滑油組成物の粘度特性が上記範囲となることで、金属間摩擦係数を高くすることが可能となり、金属間μ-V特性をより良好にしやすくなる。また、広い温度域にわたって、金属間摩擦係数を高くすることが可能となり、金属間μ-V特性を良好にしやすくなる。さらに、100℃動粘度を上記上限値以下とすることで省燃費性も実現しやすくなる。
金属間摩擦係数及び金属間μ-V特性をさらに良好にする観点から、潤滑油組成物の100℃動粘度は、4.3mm2/s以上5.7mm2/s以下がより好ましく、4.5mm2/s以上5.5mm2/s以下がより好ましい。また、潤滑油組成物の粘度指数は、215以上が好ましく、225以上がより好ましい。なお、粘度指数の上限は、特に限定されないが、通常300以下程度である。
【0034】
本実施形態の潤滑油組成物は、手動変速機、多段式自動変速機(AT)、無段式自動変速機(CVT)などの無段変速機で使用されるが、特に無段式自動変速機(CVT)用として好適に使用される。CVTの具体例としては、チェーン式CVT、ベルト式CVTが挙げられる。潤滑油組成物は、チェーン式CVT、ベルト式CVTにおいて、プーリーとチェーン又はプーリーとベルト間を潤滑するために使用される。中でもチェーン式CVTに特に好適である。
【0035】
(潤滑油組成物の製造方法)
本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物の製造方法は、基油に、上記したアルカリ土類金属系清浄剤(A)、亜リン酸エステル(B)、及び脂肪族モノアミン(C)を少なくとも配合して潤滑油組成物を得る方法である。本方法においては、基油に、さらに粘度指数向上剤を配合してもよい。また、上記(A)~(C)成分、及び粘度指数向上剤以外のその他の添加剤を基油にさらに配合してもよい。ここで、(A)~(C)成分の配合量は、潤滑油組成物において(A)成分由来のアルカリ土類金属原子量、(B)成分由来のリン原子量、及び(C)成分由来の窒素原子量が上記した範囲内となるように調整される。これら各成分の詳細及び組成物における含有量、潤滑油組成物の詳細等は、上記した通りであるので、その説明は省略する。
【実施例
【0036】
以下に、本発明を、実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0037】
本実施例における潤滑油組成物の各種性状の測定方法、及び評価方法は以下のとおりである。
(1)動粘度、粘度指数
JIS K 2283:2000に準拠して測定した。
(2)金属間摩擦係数
ASTM D2714に準拠したブロックオンリング試験機(ファレックス社製)を用いて評価した。金属間摩擦係数が高いほど、伝達トルク容量も大きくなる。評価条件は下記の通りである。
<ならし条件>
面圧 :0.8GPa
油温 :90℃
平均すべり速度:0.500m/s
時間 :30分
<測定条件>
面圧 :0.8GPa
油温 :90℃
平均すべり速度:0.500m/s
<試験片材質>
鋼-鋼
【0038】
(3)金属間μ-V特性(μ比)
ASTM D2714に準拠したブロックオンリング試験機(ファレックス社製)を用いてμ比を求めて評価した。μ比が小さい値であるほど、振動やノイズを生じにくい。評価条件は下記の通りである。
<ならし条件>
面圧 :0.8GPa
油温 :90℃
平均すべり速度:0.500m/s
時間 :30分
<測定条件>
面圧 :0.8GPa
油温 :90℃
平均すべり速度 :0.025m/s、0.500m/s
<試験片材質>
鋼-鋼
<μ比の算出法>
μ比=(0.025m/sにおける摩擦係数)/(0.500m/sにおける摩擦係数)
【0039】
[実施例1、比較例1~3]
表1に示す配合により、実施例1、比較例1~3の潤滑油組成物を調製した。なお、実施例、比較例で使用した各成分は、以下のとおりである。
基油:70N鉱油(100℃動粘度:2.8mm2/s、粘度指数:100)
アルカリ土類金属系清浄剤(A):塩基価400mgKOH/gのカルシウムスルフォネート
亜リン酸エステル(B):ジラウリルハイドロジェンホスファイト
脂肪族モノアミン(C):オレイルアミン
その他添加剤:イミド化合物、アミド化合物、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤(重量平均分子量:35,000)
【0040】
【表1】
【0041】
以上のように、実施例1の潤滑油組成物は、(A)~(C)成分をアルカリ土類金属原子量、リン原子量、窒素原子量が所定量となるように含有することで、すべり速度が速く潤滑状態が過酷な条件下でも、金属間摩擦係数を高い値とすることができた。また、金属間μ-V特性が良好となったため、プーリーとチェーン又はプーリーとベルトの間で発生する振動及びノイズを低減させることもできる。それに対して、比較例1~3の潤滑油組成物は、(A)~(C)成分のいずれか1種を含有しないため、金属間摩擦係数が低い値となり、さらには、金属間μ-V特性も良好にならなかった。