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特許7029981汚水越流検知装置、汚水越流検知方法、プログラム、及び汚水処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】汚水越流検知装置、汚水越流検知方法、プログラム、及び汚水処理装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20220225BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20220225BHJP
   G01F 23/292 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
C02F3/00 B
G01F23/292 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018036530
(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2019152968
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅人
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 博幸
(72)【発明者】
【氏名】高田 圭
(72)【発明者】
【氏名】張 亮
(72)【発明者】
【氏名】三好 太郎
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6125137(JP,B1)
【文献】特許第4059790(JP,B2)
【文献】特許第6539901(JP,B2)
【文献】特許第6873600(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
C02F 3/00
G01F 23/292
本件出願を優先基礎とする国際特許出願PCT/JP2019/005371の調査結果が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離装置と前記膜分離装置に気泡を供給する散気管を有する汚水処理装置において、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知装置であって、
前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得手段と、
前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工手段と、
前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出手段と、
前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別手段と、を備えることを特徴とする汚水越流検知装置。
【請求項2】
前記所定の処理は畳み込み演算処理、プーリング演算処理、及び全結合型演算処理から選ばれる少なくとも1種の処理であることを特徴とする請求項1記載の汚水越流検知装置。
【請求項3】
前記畳み込み演算処理及び前記プーリング演算処理が、前記入力画像を構成する情報に少なくとも1回ずつ施されることを特徴とする請求項2記載の汚水越流検知装置。
【請求項4】
前記入力画像を構成する情報に、(1)前記畳み込み演算処理、(2)前記プーリング演算処理、(3)複数回の前記畳み込み演算処理、及び(4)前記全結合型演算処理をこの順で施すことを特徴とする請求項2又は3記載の汚水越流検知装置。
【請求項5】
膜分離装置と前記膜分離装置に気泡を供給する散気管を有する汚水処理装置において、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知方法であって、
前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得ステップと、
前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工ステップと、
前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出ステップと、
前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別ステップと、を有することを特徴とする汚水越流検知方法。
【請求項6】
膜分離装置と前記膜分離装置に気泡を供給する散気管を有する汚水処理装置において、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得モジュールと、
前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工モジュールと、
前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出モジュールと、
前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別モジュールと、を有することを特徴とするプログラム。
【請求項7】
膜分離装置と、前記膜分離装置に気泡を供給する散気管と、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知装置備える汚水処理装置であって、
前記汚水越流検知装置は、
前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得手段と、
前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工手段と、
前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出手段と、
前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別手段と、を備えることを特徴とする汚水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚水越流検知装置、汚水越流検知方法、プログラム、及び汚水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、汚水を生物処理するための反応槽と、反応槽に浸漬され且つ生物処理された汚水から固形物を除去するための膜分離装置と、膜分離装置の下部に設置され且つ膜分離装置に対して空気等の気体を供給する散気管とを備える汚水処理装置が知られている。反応槽における汚水の生物処理は、例えば、微生物を含む有機汚泥、すなわち、いわゆる活性汚泥によって汚水が処理される活性汚泥法に基づいて実行される。
【0003】
具体的に、活性汚泥法においては、酸素存在下(好気状態)でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応が実行される。さらに、硝化反応によってアンモニアから変換された亜硝酸や硝酸を窒素に変換する脱窒反応が実行される。脱窒反応は酸素存在下(好気状態)で行われる硝化反応と異なり、無酸素状態で行う必要がある。脱窒反応は硝化反応が行われる反応槽と異なる反応槽で行われてもよいが、汚水処理装置の省スペース化を実現するために、単一の反応槽内で硝化反応及び脱窒反応が行われる汚水処理装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図8は従来の汚水処理装置を概略的に示す図である。図8の汚水処理装置は、好気状態での硝化反応及び無酸素状態での脱窒反応を行う反応槽1と、汚水を反応槽1に供給するための原水槽9とを備え、反応槽1は、反応槽1内を複数の区画に仕切るための仕切板7を有する。具体的に、反応槽1は、仕切板7で囲まれる汚水領域Aと、仕切板7及び反応槽1の内壁で囲まれる汚水領域Bとに仕切られ、汚水領域Aは膜分離装置2及び散気管4を有する。また、反応槽1は、原水槽9からの汚水の供給を開始するための汚水供給開始水位LWL(Low water level)と、原水槽9からの汚水の供給を停止するための汚水供給停止水位HWL(High water level)とを有する。汚水は、その水位が仕切板7の上端部より高い位置(以下、「汚水越流位置」という。)と、仕切板7の上端部より低い位置(以下、「汚水非越流位置」という。)との間を往来するように反応槽1内において増減する。
【0005】
図9は、図8における反応槽1内の汚水の水位が汚水越流位置のときの汚水の流れを概略的に示す図である。例えば、汚水の水位が汚水越流位置にあるとき、散気管4から膜分離装置2に対して供給される空気により、汚水が仕切板7の上端を越流し、仕切板7の周囲を循環する循環流が形成される(越流状態)。この循環流により、汚水領域Aにある硝酸が汚水領域Bに移行し、脱窒反応により窒素ガスに変換される。一方、汚水の水位が汚水非越流位置にあるとき、汚水領域Aと汚水領域Bとの間で汚水の流通が分断されるため、散気管4が膜分離装置2に空気を供給しても、仕切板7の周囲を循環する循環流は形成されない(分断状態)。その結果、汚水領域Aにおいては好気状態で硝化反応が行われるが、生成される硝酸が汚水領域Bに移行せず、汚水領域Bにおいては無酸素状態を維持して脱窒反応が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-261711号公報
【文献】特開2016-168046号公報
【文献】特開2017-157138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような仕切板を有する汚水処理装置において、汚水が仕切板の上端を越流している越流時間は窒素除去能力にとって重要な因子である。越流時間は汚水供給開始水位LWL及び汚水供給停止水位HWLだけでなく、原水流入速度、膜処理速度、さらには散気強度により変化するため、単純に計算で求めることができない。このような越流時間を長期間安定して測定するためには、汚水の水位が汚水越流位置にあるのか又は汚水非越流位置にあるのかを正確に把握する必要があるが、反応槽1内では汚泥濃度が高く汚水が極めて汚いため、汚水の水位を正確に把握することが困難である。
【0008】
また、現在、多くのセンサーが越流の検知に使用可能であり、たとえば電極や光センサーによる水面レベルの検知が行われている。しかしながら、汚水環境では汚泥やごみが電極に挟まり、又は光センサーの表面に汚泥が付着する等して、電極や光センサーが誤作動する可能性があり、既存のセンサーでは検知の信頼性が不十分となり実用化されていない。そのため、越流の確認はもっぱら人の目視により行われているが、マンパワー削減の要請もあり、汚水の越流を自動で確実に検知する方法が求められている。
【0009】
一方、画像認識技術は、従来目視でしか観測できなかった事象の自動監視を可能にしてきた。画像中の目的物を認識するために、深層学習と呼ばれる手法が利用されており、深層学習の代表的な手法として、コンボリューショナル・ニューラル・ネットワーク(畳み込みニューラルネットワークともいい、以下「CNN」と略記する)が注目されている。CNNは、多段階の演算処理により対象画像の特徴をシステムが自動抽出して学習し、対象を高精度に認識して判定する手法である。このCNNを用いて、植物病を診断するシステムや、対象画像中の被写体のカテゴリを判別する装置が報告されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0010】
しかしながら、前述のような仕切板を備えた反応槽内での汚水処理において、汚水の越流の有無を確実に検知するために、CNNのような画像認識技術を用いた例はこれまで報告されていない。
【0011】
本発明は、仕切板(隔壁)を備えた反応槽内での汚水処理において、汚水の越流の有無を自動で確実に検知する汚水越流検知装置、汚水越流検知方法、プログラム、及び汚水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の汚水越流検知装置は、膜分離装置と前記膜分離装置に気泡を供給する散気管を有する汚水処理装置において、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知装置であって、前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得手段と、前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工手段と、前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出手段と、前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の汚水越流検知方法は、膜分離装置と前記膜分離装置に気泡を供給する散気管を有する汚水処理装置において、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知方法であって、前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得ステップと、前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工ステップと、前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出ステップと、前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のプログラムは、膜分離装置と前記膜分離装置に気泡を供給する散気管を有する汚水処理装置において、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得モジュールと、前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工モジュールと、前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出モジュールと、前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別モジュールと、を有することを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の汚水処理装置は、膜分離装置と、前記膜分離装置に気泡を供給する散気管と、汚水が存在する第1の領域及び前記第1の領域以外の第2の領域の間に配設される隔壁を前記汚水が越流しているか否かを検知する汚水越流検知装置備える汚水処理装置であって、前記汚水越流検知装置は、前記隔壁を含む対象画像を取得する画像取得手段と、前記取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工手段と、前記入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出手段と、前記特定の値に基づいて前記汚水が前記隔壁を越流しているか否かを判別する越流判別手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、仕切板(隔壁)を備えた反応槽内での汚水処理において汚水の越流の有無を自動で確実に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る汚水越流検知装置を備える汚水処理装置を概略的に示す図である。
図2図1における汚水越流検知装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図2における特徴抽出手段によって実施される中間層処理の手順を示すフローチャートである。
図4図2における特徴抽出手段によって特徴が抽出される入力画像(越流状態)を示す写真である。
図5図2における特徴抽出手段によって特徴が抽出される入力画像(分断状態)を示す写真である。
図6図2における特徴抽出手段によって実施される所定の処理を説明するために用いられるCNNモデルの概略を示す図である。
図7図2の汚水越流検知装置における、学習データとテストデータの正答率の推移を示す図である。
図8】従来の汚水処理装置を概略的に示す図である。
図9図8における反応槽内の越流時の汚水の流れを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る汚水越流検知装置100を備える汚水処理装置を概略的に示す図である。
【0020】
図1の汚水処理装置は、汚水を処理するための単槽式の反応槽1を備え、反応槽1は、汚水に含まれる汚染物質を分離する膜分離装置2と、膜分離装置2に気泡状の空気を供給する散気管4と、反応槽1の内部を複数の領域に仕切る仕切板7(隔壁)とを有する。反応槽1内の仕切板7の配置は特に限定されず、仕切板7が膜分離装置2の全周囲を囲包していてもよいし、仕切板7が反応槽1の槽壁とともに膜分離装置2の周囲を囲包していてもよい。膜分離装置2は反応槽1の外部の吸引ポンプに接続されている。吸引ポンプが駆動すると、生物処理された汚水は膜分離装置2によってろ過され、ろ過された水は反応槽1の槽外に取り出される。
【0021】
散気管4は、膜分離装置2の下部に設置されるとともに、反応槽1の外部のブロワに接続され、ブロワは散気管4に空気を供給している。膜分離装置2は汚水をろ過するため、膜分離装置2の膜面には汚水中の汚泥物質等が付着し、膜分離装置2の膜面に付着した汚水中の汚泥物質等を放置すると、膜分離装置2が目詰まりして適切に汚水をろ過することができなくなる。したがって、散気管4が空気を膜分離装置2の膜面に供給し、汚泥物質等が膜分離装置2の膜面に付着するのを防止している。反応槽1は原水ポンプを介して汚水を格納する原水槽9に接続され、原水ポンプが駆動すると、処理される汚水は原水槽9から反応槽1に供給される。
【0022】
反応槽1内において、汚水はその水位が仕切板7の上端部より高い位置(以下、「汚水越流位置」という。)と、仕切板7の上端部より低い位置(以下、「汚水非越流位置」という。)との間を往来するように増減する。反応槽1内の汚水の水位が汚水越流位置にあるとき、散気管4から膜分離装置2に空気が供給されることにより、汚水は内部領域A(第1の領域)から仕切板7の上端を越流して仕切板7の外部の外部領域B(第2の領域)に移行する(越流状態)。その後、汚水は外部領域B内を下降し、仕切板7よりも下の領域を経て仕切板7の内部領域Aに戻る。すなわち、汚水の水位が汚水越流位置にあり、汚水が仕切板7を越流するとき、仕切板7の周囲を循環する循環流が形成される。循環流が形成されると、内部領域Aにある硝酸が外部領域Bに移行して、外部領域Bにおいて窒素ガスに変換され、脱窒反応が行われる。
【0023】
一方、汚水の水位が汚水非越流位置にあるとき、汚水領域Aと汚水領域Bとの間で汚水の流通が分断されるため、散気管4が膜分離装置2に空気を供給しても、仕切板7の周囲を循環する循環流は形成されない(分断状態)。その結果、汚水領域Aにおいては好気状態で硝化反応が行われ、汚水領域Bにおいては無酸素状態で脱窒反応が行われる。このような仕切板挿入型の膜分離活性汚泥処理装置(B-MBR)では、汚水の越流状態と分断状態が交互に繰り返される。
【0024】
図1における本発明の汚水越流検知装置100は、反応槽1内において、汚水が仕切板7の上端を越流しているか否かを検知する装置である。撮影装置1011は汚水越流検知装置100が有する画像取得手段101(後述)である。
【0025】
図2は、本発明の実施の形態に係る汚水越流検知装置100の構成を概略的に示すブロック図である。
【0026】
図2の汚水越流検知装置100は、仕切板7を含む対象画像を取得する画像取得手段101としてのカメラ等の撮影装置1011と、CPU、ROM、RAM、外部記憶装置等のハードウェア構成を有する計算機とを備え、これらは互いに接続されている。撮影装置1011には、撮影装置1011が取得した画像データを格納するための記憶領域(ストレージ)が接続されている。
【0027】
CPUは、ROMや外部記憶装置等に格納されたプログラムをCPUのワークメモリであるRAMに展開して実行する。外部記憶装置は、例えば、HDDやメモリカードであり、CPUが処理を実行する際に必要な各種のプログラムや後述の閾値に関するデータ等の各種のデータを格納する。
【0028】
画像取得手段101は撮影装置1011によって撮影された画像データをCPUに転送し、又は撮影装置1011によって撮影された画像データを撮影装置1011に接続される記憶領域(ストレージ)に格納し且つ格納された画像データをCPUに転送する。
【0029】
[汚水越流検知装置100による画像認識処理の概略]
以下に、本発明の汚水越流検知装置100による画像認識処理の概略を説明する。
【0030】
(画像取得手段101)
画像取得手段101は、反応槽1内の仕切板7を含む対象画像を取得する。本発明の汚水越流検知装置100は、汚水が仕切板7の上端を越流しているか否かを検知する装置であるため、対象画像は反応槽1内の仕切板7の上端の少なくとも一部とその周辺を含む画像である。対象画像は、カメラ等の撮影装置1011により撮影して取得されてもよいし、画像データが保存されている記憶領域(ストレージ)から取得されてもよい。対象画像は静止画像、又は動画像中の1フレームの画像である。カメラ等の撮影装置1011の設置場所は、仕切板7の上端の少なくとも一部とその周辺を撮影できる場所であれば特に限定されないが、通常は越流状態又は分断状態の判別に有効な画像を継続的に撮影可能な定位置に固定される。
【0031】
画像取得手段101において取得される対象画像のサイズは特に限定されないが、例えば、縦画素×横画素が400~2200×600~4000ピクセルである。ここで縦画素×横画素は、以後、高さ×幅とも表す。取得される画像データの形態は特に限定されないが、本発明ではRGB輝度データの形態が好ましい。取得された対象画像のデータは画像加工手段102に転送される。このような画像取得手段101による工程を画像取得ステップとする。
【0032】
(画像加工手段102)
画像加工手段102は、画像取得手段101で取得した対象画像データに対して、後述する特徴抽出手段103における演算処理を行うために必要な加工を行う。加工としては、画像の拡大、縮小、トリミングなどの画像サイズの変更や、輝度調整、色調整などの画質の調整が挙げられる。1種類の加工のみを行ってもよいし、複数の加工を組み合わせて行ってもよい。加工された画像データは入力画像として特徴抽出手段103に入力される。入力画像の縦画素×横画素は50~200×100~400ピクセルが好ましい。このような画像加工手段102による工程を画像加工ステップとする。
【0033】
(特徴抽出手段103)
特徴抽出手段103は、入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより入力画像の特徴量を抽出し、最終的に新たな特定の値(特徴量)を算出する。ここで所定の処理とは、畳み込み演算処理、プーリング演算処理、及び全結合型演算処理から選ばれる少なくとも1種の処理であり、畳み込み演算処理及びプーリング演算処理が、入力画像を構成する情報に少なくとも1回ずつ施される処理であることが好ましい。
【0034】
畳み込み演算処理とは、入力画像データに対して、カーネルCという重みパラメータを用いてフィルタ処理を施すことにより、入力画像データの局所的な特徴量を抽出する処理である。
【0035】
プーリング演算処理とは、画像データ(特徴量)に対し、領域内の最大値や平均値を取ることにより、重要な特徴を残してデータを圧縮する処理である。この処理により画像の位置のズレを吸収でき、画像中の微小なゆがみや平行移動に対する頑健性が確保される。
【0036】
全結合型演算処理とは、全ての画像データを一つのノードに結合させ、活性化関数によって一次元データに変換して出力する処理である。特徴量に基づいた分類を行い、画像の識別をする役割を担う処理である。
【0037】
本発明において、特徴抽出手段103における所定の処理はCNN法(畳み込みニューラルネットワーク)に従って実施することが好ましい。CNN法は入力層、中間層、出力層を持つ階層構造で構成される。入力層では入力データが受け取られ、中間層ではデータから特徴量が抽出され、出力層では最終結果が出力される。CNN法の中間層では畳み込み層、プーリング層、全結合層を含む多段階の演算ステップが組み合わされる。CNN法では、このような多段階の特徴変換を通じて複雑な特徴表現を獲得することができるため、仕切板7の上端部の画像を高精度に認識することができる。
【0038】
特徴抽出手段103においては、所定の処理として、畳み込み演算処理、プーリング演算処理、全結合型演算処理を特定の順序で組み合わせる。本発明においては、非常に高い正答率で越流の有無を検知できるという点で、(1)畳み込み演算処理、(2)プーリング演算処理、(3)複数回の畳み込み演算処理、及び(4)全結合型演算処理をこの順で施すことが好ましい。(3)複数回の畳み込み演算処理は、通常2~9回実施され、好ましくは2~7回実施される。特徴抽出手段103における各演算に用いるパラメータは、確率勾配法などを用いることにより予め越流の判別ができるように学習される。
【0039】
入力画像を構成する情報にこのような所定の処理を段階的に施すことにより入力画像の特徴量が抽出され、最終的に0~1の間の一個の特徴量として特定の値が算出される。このような特徴抽出手段103による工程を特徴抽出ステップとする。
【0040】
(越流判別手段104)
越流判別手段104においては、特徴抽出手段103で得られた0~1の間の特定の値(特徴量)を所定の閾値(例えば、0.5)と比較することにより、汚水が仕切板7を越流しているか否かが判別される。このような越流判別手段104による工程を越流判別ステップとする。
【0041】
(判別結果出力手段105)
最後に、判別結果出力手段105において、判別結果が0(非越流状態)か1(越流状態)として所望の方法で出力される。このような判別結果出力手段105による工程を判別結果出力ステップとする。
【0042】
以上が、本実施形態に係る汚水越流検知装置100による画像認識処理の概略となる。
【0043】
[汚水越流検知装置100による画像認識処理の詳細]
次に、本発明の実施の形態に係る汚水越流検知装置100による画像認識処理の詳細な流れについて、具体的な処理方法の例を用いて説明する。
【0044】
まず、カメラ1011から、反応槽1内の仕切板7の上端の少なくとも一部とその周辺を含む対象画像をRGB輝度データの形態で一枚取得する(画像取得ステップ)。この対象画像のサイズは高さ480×幅640である。一枚の画像データは赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の三つの高さ×幅の行列式となる。
【0045】
次に、取得した対象画像のトリミングを行い高さ350×幅400のサイズに変更し、次いで縮小することにより画像サイズを高さ116×幅133に変更した入力画像Gを得る(画像加工ステップ)。図4に、越流状態の入力画像の例を示す。また、図5に、分断状態の入力画像の例を示す。画像データは1つの画素位置に対して、色成分の情報などの多くの情報が付与されており、そのような自由度をチャネル(channel)と言う。入力画像Gのチャネル数は赤、緑及び青の3チャネルである。
【0046】
次いで、入力画像Gに対しCNN法を用いた所定の処理が施され、入力層、中間層及び出力層を持つ階層構造による演算処理を行う(特徴抽出ステップ)。図3は、CNN法の中間層における演算処理の組み合わせを示すフローチャートである。また、図6は、CNN法における入力層、中間層及び出力層の処理の概略を示す図である。
【0047】
具体的に、画像加工ステップで得られた入力画像G(高さ116×幅133、チャネル数3)は、特徴抽出手段103の入力層に2次元のデータとして入力され、次いで中間層に入力される。中間層では、図3に示すように、畳み込み演算1(ステップ1031)、プーリング演算(ステップ1032)、畳み込み演算2~7(ステップ1033~1038)、及び全結合型演算(ステップ1039)がこの順で実施される。
【0048】
ステップ1031では畳み込み演算1を行う。畳み込み演算では、入力画像データに対して、カーネルCという重みパラメータを用いてフィルタ処理が施され、入力画像データの局所的な特徴量が抽出される。ここでカーネルCとは、i段目の畳み込み演算におけるフィルタの値を表す。具体的に、入力画像データが持つ数値とフィルタの値(カーネル)とを掛け合わせることにより、入力画像データが持つ数値が畳み込まれる。畳み込み演算を数式で表すと下記の式(1)になる。
【0049】
=Gi-1*C ・・・(1)
(式(1)中、Gは特徴量を表し、Cはカーネルを表し、iは畳み込み演算の処理回数を表す。)
【0050】
畳み込み演算1においては、まず畳み込みのカーネルCの重みパラメータの値が外部記憶装置から読み出される。この畳み込みカーネルCのサイズは8~15×8~15の二次元行列から選択できるが、ここでは11×11とする。畳み込み演算1のストライド(カーネルの適用位置をシフトさせる幅)は1~4から選択できるが、ここでは2とする。カーネルのサイズやストライドは入力画像のサイズや畳み込み後の画像のサイズに応じて変更させてもよい。畳み込み後に多チャネル(Mチャネル)の画像を得たい場合には、M種類のカーネルを用いることができるが、畳み込み演算1では、畳み込みカーネルCを32種類用いる。赤、緑及び青の3チャネルの入力画像Gについてそれぞれフィルタ(カーネル)を掛け合わせる畳み込みを行い、その後同じ位置の画素値を全チャネルにわたり足し上げる。この処理を32種類のカーネルについて行う。
【0051】
畳み込み後のサイズをある程度大きくしたい場合には、入力画像の周りに所定の厚さの淵を加えるパディングを行ってもよい。例えば、入力画像の周りをゼロで埋めるゼロパディングを行うことができる。
【0052】
このような畳み込み演算1により、特徴量Gはその特徴が保持されたまま行列が畳み込まれて小さくなり、最終的には畳み込まれた画像データに活性化関数fを作用させて非線形に変換する。活性化関数fとしては例えばシグモイド関数、双曲線関数(tanh)、ReLU関数等が用いられる。畳み込み演算1の結果、チャネル数32×高さ53×幅62の特徴量Gが得られる。この得られた特徴量Gを畳み込み層1とする。畳み込み演算の詳細については、例えば、深層学習(機械学習プロフェッショナルシリーズ) 岡谷貴之(著)に記載されている。
【0053】
次のステップ1032ではプーリング演算を行い、畳み込み演算1により得られた画像データ(特徴量G)に対し圧縮処理を行って画素数を低減させる。プーリング処理としては、所定の領域内の最大値をとる最大プーリング処理や平均値をとる平均プーリング処理があるが、本発明では最大プーリング演算を行うのが好ましい。所定の領域の大きさは1~6×1~6から選択でき、ストライド(所定の領域をシフトさせる幅)は1~5から選択できるが、これらは圧縮後の画素数などに応じて適宜設定できる。ステップ1032では所定の領域を3×3とし、ストライドを3とする。また、プーリング処理後のサイズをある程度大きくしたい場合には、入力画像の周りに所定の厚さの淵を加えるパディングを行ってもよい。例えば、入力画像の周りをゼロで埋めるゼロパディングを行うことができる。このプーリング処理により、チャネル数32×高さ17×幅20の画像データ(特徴量G’)が得られる。この得られた特徴量G’をプーリング層とする。
【0054】
ステップ1033~ステップ1038は畳み込み演算を繰り返し行う処理である。図3の演算処理では畳み込み演算2~7の6回の処理を行う。畳み込み演算2~7の処理方法は、入力画像の特徴量(チャネル数×高さ×幅)、カーネルサイズ、ストライド及びカーネルの種類等のパラメータが異なること以外は、上記ステップ1031の畳み込み演算1の処理方法と同様である。下記表1に畳み込み演算2~7で用いることのできるパラメータを示す。
【0055】
【表1】
【0056】
畳み込み演算2~7により、畳み込み演算1で得られた特徴量Gはその特徴が保持されたまま次々に行列が畳み込まれて小さくなり、下記表2に示すような特徴量を有する畳み込み層2~7が得られる。なお、各畳み込み層の後には、バッチ正規化(Batch Normalization)を実施してもよい。
【0057】
【表2】
【0058】
次のステップ1036では全結合型演算を行う。ここでは上記の畳み込み演算7で得られた特徴量Gに対して、活性化関数θによる非線形な演算処理を行う。活性化関数θとしてはシグモイド関数、半波整流関数、区分線形凸関数及びReLU関数(正規化線形関数)の様々な形態を用いることができるが、本発明では下記の式(2)で表わされるシグモイド関数を用いるのが好ましい。
【0059】
=θ(G(p)),
θ(x)=1/(1+e-X) ・・・(2)
(式中、Gは特徴量を表し、θはシグモイド関数を表し、pはGの各画素を表す。)
【0060】
この全結合型演算処理により、64ノードの画像データ(特徴量G)が得られる。ここで得られた特徴量Gを全結合層とする。全結合型演算処理では、対象となる層のノードのうちの何割かを無効にするドロップアウトを行ってもよい。ドロップアウトを行うことにより、学習時にネットワークの自由度を強制的に小さくして汎化性能を上げ、過学習を避けることができる。
【0061】
全結合型演算処理により得られた特徴量Gは、次いで出力層において、活性化関数により0~1の1次元の実数に変換される。これにより最終的に0~1の間の一個の特徴量として特定の値が出力される。出力層で用いられる活性化関数としては、シグモイド関数、双曲線関数(tanh)、ReLU関数等が挙げられる。
【0062】
次いで、特徴抽出ステップで最終的に算出された0~1の間の特定の値に基づいて、汚水が仕切板7を越流しているか否かが判別される(越流判別ステップ)。具体的な判別方法としては、特定の値が0.5以上であれば越流状態(1)と判定し、特定の値が0.5未満であれば分断状態(0)と判定するものとする。越流判別ステップにおいて判別された判別結果(越流状態又は分断状態)は、その後、判別結果出力ステップにおいて出力される。
【0063】
以上の通り、一枚の対象画像データから汚水越流検知装置100により越流の判別結果を出力する手順を説明した。実際の汚水越流検知方法においては、まず特徴抽出手段103の入力層、中間層(各演算処理層)及び出力層について、チャネル数×高さ×幅、カーネルサイズ及びストライドを設定したCNNモデル(例えば、下記実施例の表3を参照)を予め作成する。次いで、汚水処理装置の運転時の写真(仕切板上端部及びその周辺)を多数枚撮影する。各写真について越流状態か分断状態かを担当者が判定しラベリングし(正解データ)、撮影した写真を学習データとテストデータに分類する。学習データにCNNモデルを適用して演算させることにより順方向のデータ伝播を行う。パラメータの学習方法は後述するが、誤差逆伝搬手法などにより学習データの正解データとCNNモデルによる出力データとの誤差が最小となるよう各演算処理のパラメータ(カーネルCの重みパラメータ、バイアス等)が更新される。更新されたパラメータを用いてテストデータの越流判別を行うことにより、汚水の越流を高精度で検知することができる。
【0064】
(カーネルCの重みパラメータの学習方法)
ここで、特徴変換手段103で用いる畳み込みカーネルCの重みパラメータの学習方法について説明する。深層学習においては、下記の式(3)で表されるクロスエントロピー(学習データによる正解データとCNNモデルによる出力データとの誤差を求める誤差関数)を損失関数L=H(q,q’)として用い、誤差が最小になるように重みの値を更新して重みの値を調整する方法が広く知られている。
【0065】
H(q,q’)= -Σ q(x)・Log q’(x) ・・・(3)
式(3)中、q(x)はカテゴリx(越流状態の場合)の真の確率分布であり、q’(x)はCNNモデル(認識システム)が推定したカテゴリx(越流状態の場合)の分布である。ここでCNNモデルはカーネルCの演算を部分として含むものとする。
【0066】
具体的には、まず全ての畳み込みカーネルCの重みWを乱数で初期化する。ここで、Wはc×di+1×d個の重み変数であり、cはチャネル数であり、dとdi+1はそれぞれ畳み込み演算前と畳み込み演算後の特徴量の次元数である。次に、学習画像データを入力して得られたCNNモデルの出力から、各学習画像の各画素についてカテゴリxの推定分布q’(x)を計算する。そして下記の式(4)に従って、重みWのj番目の要素wnjの値を更新する。
【0067】
nj(t+1)=wnj(t)-η∂L/∂wnj(t),
L=ΣΣip ・・・(4)
式(4)中、Lipは学習画像iの画素pに関する損失関数である。ηは1より小さな値をとる学習係数である。最終層以外の重みパラメータWについては、ニューラルネットで一般的な手法である誤差逆伝搬手法により各層ごとに順次計算して更新すればよい。なお、上記の更新式(4)に慣性項や重みwの減衰項と呼ばれる項を加えたタイプなど派生の形態も様々に存在する。ここで示した学習計算の個々の要素は、深層学習の技術として広く知られている(例えば、深層学習(機械学習プロフェッショナルシリーズ) 岡谷貴之(著)を参照)。
【0068】
ここでは、教師付き学習と呼ばれる、学習データとして正解データを含むデータを入力データとして用いる学習方法の形態について説明した。しかし、中間層のみ非教師型学習を行う形態や、入力層に近い層から一段ずつ教師付き学習を行って一層ずつ追加していく形態など、本発明においては様々な形態によりパラメータを学習することができる。
【0069】
(プログラム)
本発明の汚水越流検知装置100においては、以下に説明するような、汚水が仕切板7を越流しているか否かの検知をコンピュータに実行させるプログラムを用いて汚水の越流が検知される。
【0070】
すなわち、本発明のプログラムは、
仕切板7を含む対象画像を取得する画像取得モジュールと、
取得した対象画像を入力画像に加工する画像加工モジュールと、
入力画像を構成する情報に所定の処理を施すことにより特徴量を抽出し、最終的に特定の値を算出する特徴抽出モジュールと、
特定の値に基づいて汚水が仕切板7を越流しているか否かを判別する越流判別モジュールと、を有するプログラムである。
【0071】
本発明のプログラムを構成する画像取得モジュール、画像加工モジュール、特徴抽出モジュール、及び越流判別モジュールのソースコードは、本発明の汚水越流検知装置100を構成する画像取得手段101、画像加工手段102、特徴抽出手段103、及び越流判別手段104で用いる上述した画像処理条件を用い、公知の方法により容易に作成することができる(例えば、深層学習(機械学習プロフェッショナルシリーズ) 岡谷貴之(著)を参照)。
【0072】
本発明の汚水越流検知装置100は、汚水処理装置自体とは別個の装置として設置してもよいし、反応槽1及び仕切板7と同様に汚水処理装置の構成要素の1つとして構成されていてもよい。本発明の汚水越流検知装置100は、反応槽1と仕切板7を備えた汚水処理装置に使用されるのであれば、直接汚水処理装置に接合されている必要はない。
【実施例
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明の一例を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0074】
1.B-MBR処理システム
図1に示す仕切板挿入型の膜分離活性汚泥処理装置(B-MBR)において、以下の処理条件を用いて汚水の処理を連続的に行った。
(汚水処理条件)
膜反応槽の容積:3.7m
HRT:5.9時間
SRT:26.6日
MLSS濃度:9000~11000mg/L
PTFE製膜(膜孔径0.2μm)のモジュール(面積30m)を2枚使用
膜フラックス:0.25m/m/日
膜曝気空気量:18m/時間(SAD:0.30m/m/時間相当)
【0075】
2.CNNモデルの作成
下記表3に示すCNNモデルを作成した。具体的には、深層学習のライブラリーであるTorchを用いてCNNモデルを定義し、(1)畳み込み層、(2)最大プーリング層、(3)複数の畳み込み層、及び(4)全結合層を順次構成するCNNモデルを設定した。表3には各層のチャネル数×高さ×幅、カーネルサイズ及びストライドを示した。下記のCNNモデルは、入力層及び出力層を含め計11層の深層学習モデルである。
【0076】
【表3】
【0077】
3.学習データの作成
B-MBRにおいて、反応槽内の仕切板上端の少なくとも一部とその周辺を含む写真を撮影できる位置にカメラを固定した。次いで、B-MBRの運転時に、写真を10秒毎に1000枚撮影し、高さ480×幅640の対象画像をRGB輝度データの形態で取得した(画像取得ステップ)。取得した対象画像をトリミングして高さ350×幅400の画素に変更し、次いで縮小することにより高さ116×幅133の入力画像を得た(画像加工ステップ)。
【0078】
各写真について越流状態(1)か分断状態(0)かを担当者が判定しラベリングした(正解データ)。仕切板7の外部領域では脱窒反応が進行し窒素が発生するため汚水の表面は泡状となっている。そのため、越流状態では仕切板7の上端を明確に確認することが困難である。したがって、担当者による越流か否かの判定基準は、仕切板7の上端部分が明確に確認できる場合を分断状態とし、仕切板7の上端部分が明確に確認できない場合を越流状態とした。図4に、越流状態(1)と判定した入力画像の1つを示す。また、図5に、分断状態(0)と判定した入力画像の1つを示す。
4.学習及び越流検知
撮影した1000枚の写真のうち、900枚を学習データとし、残りの100枚の写真をデストデータとした。学習データの入力画像に上記表1のCNNモデルを適用して順次演算処理を行った(特徴抽出ステップ)。各畳み込み層の後には、バッチ正規化(Batch Normalization)を実施し、全結合層においては50%のドロップアウトを行った。出力層においては、0~1の一次元の実数を出力した。出力層の出力値が0.5以上の場合を越流状態(1)とし、0.5未満の場合を分断状態(0)として越流の判別を行った(越流判別ステップ)。学習は、900枚の写真について、それぞれの写真に付された正解データに基づき、損失関数を最小化するように各重みパラメータの更新を行う。この一連の作業を1エポックとし、50エポックまで学習を行った。各エポック終了後に、学習に使用していないテストデータの100枚についての正解率も求め、その遷移を図7のように確認して学習を行った。更新されたパラメータを用いてテストデータの画像の越流の判別を行った。図7に、エポック数(学習回数)に対する各データの精度(Accuracy)、すなわち正答率の推移を示した。
【0079】
5.結果
図7の結果から、学習モデルに対しては100%の正答率であり、テストデータに対しては95%程度の正答率であった。越流状態と分断状態の境目は必ずしも明確ではなく担当者の判断も迷うことが多い。そのため、95%の正答率は担当者の判断を高い精度で再現するものである。したがって、本発明により、B-MBR処理システムの窒素除去性能を表す越流時間の計測が可能となった。
【0080】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク若しくは各種記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータ(CPUやMPU等)がプログラムを読出し実行する処理である。本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用してもよく、1つの機器からなる装置に適用してもよい。また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。すなわち、上述した実施例及びその変形例を組み合わせた構成も全て本発明に含まれ、例えば、少なくとも汚水が仕切板7を越流しているか否かを判別するための汚水越流検知装置100を有する構成は本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、汚水処理を安定して実行することができる汚水処理装置及び方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 反応槽
2 膜分離装置
4 散気管
7 仕切板
9 原水槽
100 汚水越流検知装置
101 画像取得手段
102 画像加工手段
103 特徴抽出手段
104 越流判別手段
105 判別結果出力手段
1011 撮影装置(カメラ)
1031 畳み込み演算1
1032 プーリング演算
1033 畳み込み演算2
1034 畳み込み演算3
1035 畳み込み演算4~7
1036 全結合型演算
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9