(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20220225BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20220225BHJP
H01M 4/505 20100101ALN20220225BHJP
【FI】
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2018146244
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 理史
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆太
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-506032(JP,A)
【文献】特開2019-3786(JP,A)
【文献】特開2019-121463(JP,A)
【文献】国際公開第2014/049931(WO,A1)
【文献】特開2005-196992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子からなる二次粒子で構成されるリチウム遷移金属含有酸化物からなり、前記二次粒子の表面、および/または、前記一次粒子間の空隙もしくは粒界に、ペロブスカイト型構造を有するランタン化合物粒子が分散して存在し、かつ、該ランタン化合物粒子の断面平均粒子径が0.70μm以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記二次粒子の表面の単位面積あたりに存在する前記ランタン化合物粒子の数が、0.01個/μm
2~0.25個/μm
2
の範囲にある、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記二次粒子の断面の単位面積あたりに存在する前記ランタン化合物粒子の数が、0.03個/μm
2~0.10個/μm
2
の範囲にある、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記ランタン化合物粒子の表面平均粒子径が、0.50μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
該正極活物質全体に対するランタン含有量は、0.1質量%~5質量%の範囲にある、請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記ランタン化合物粒子が、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群より選択される一種以上の金属元素を含む、請求項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
正極と、負極と、電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられている、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、および、このリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極材料として用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する、小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリッドカーを始めとする電気自動車用の電池として出力特性と充放電サイクル特性に優れた二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解質などで構成され、負極および正極の活物質としては、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。なお、電解質としては、支持塩であるリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液や、不燃性でイオン電導性を有する固体電解質などの非水電解質が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、現在、研究および開発が盛んに行われているが、特に、層状岩塩型またはスピネル型の結晶構造を有するリチウム遷移金属含有複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されているリチウム遷移金属含有複合酸化物としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0006】
このようなリチウム遷移金属含有複合酸化物からなる正極活物質を用いた電池の特性を向上させるために、高い電子伝導性を示す導電性酸化物を、リチウム遷移金属含有複合酸化物を構成する粒子に被覆することが提案されている。
【0007】
たとえば、特開2001-266879号公報には、正極活物質を構成する粒子の表面が、(イ)ABO3によって表されるペロブスカイト構造を有する酸化物、(ロ)A2BO4によって表されるK2NiF4型構造を有する酸化物、あるいは、(ハ)これらの混合物、からなる群から選ばれた酸化物(ただし、Aは2価の典型元素、ランタノイド元素またはこれらの組合せからなる群から選ばれた少なくとも1種であり、BはIVa族、Va族、VIa族、VIIa族、VIII族およびIb族の遷移元素から選ばれた少なくとも1種である)であって自由電子を有する導電性酸化物により被覆されていることを特徴とする非水電解質二次電池が開示されている。このような構成により、非水電解質二次電池において、高いエネルギー密度と優れた安全性を両立させることが可能となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特開2001-266879号公報に開示されたリチウムイオン二次電池では、正極活物質を構成する粒子の表面を、導電性酸化物で被覆するのみであり、正極活物質を構成する粒子の内部における空隙や粒界には、導電性酸化物は存在していない。また、特開2001-266879号公報で具体的に提案されている導電性酸化物は、いずれもリチウムイオン伝導性を示さない物質であり、このようなリチウムイオン伝導性を示さない物質によって正極活物質の表面全体を被覆してしまうと、リチウムイオンが透過しがたくなり、その結果、非水電解液二次電池の電池容量の低下を招くという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質では、正極活物質を構成するリチウム遷移金属含有複合酸化物が複数の一次粒子からなる二次粒子により構成されており、該二次粒子の表面、および/または、前記一次粒子間の空隙または粒界に、ペロブスカイト型構造を有するランタン化合物粒子が分散して存在し、かつ、該ランタン化合物粒子の断面平均粒子径が、0.70μm以下である、好ましくは0.25μm~0.70μmの範囲にあることを特徴とする。
【0011】
前記二次粒子の表面の単位面積あたりに存在する前記ランタン化合物粒子の数が、0.01個/μm2~0.25個/μm2
の範囲にあることが好ましい。
【0012】
前記二次粒子の断面の単位面積あたりに存在する前記ランタン化合物粒子の数が、0.03個/μm2~0.10個/μm2
の範囲にあることが好ましい。
【0013】
前記二次粒子の表面の反射電子像から得られる、ランタン化合物粒子の表面平均粒子径は、0.50μm以下である、好ましくは0.10μm~0.50μmの範囲にあることが好ましい。
【0014】
前記正極活物質全体に対するランタン含有量は、0.1質量%~5質量%の範囲にあることが好ましい。
【0015】
また、前記ランタン化合物粒子は、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群より選択される少なくとも一種以上の金属元素を含むことが好ましい。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解質とを備え、前記正極の正極材料として、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、リチウムイオン二次電池用正極活物質のリチウムイオン伝導性を維持しつつ、その電子伝導性を向上させることができるため、リチウムイオン二次電池の放電容量を低下させることなく、その正極抵抗を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例3により得られた正極活物質の表面の反射電子像である。
【
図2】
図2は、実施例3により得られた正極活物質の断面の二次電子像である。
【
図3】
図3は、比較例1により得られた正極活物質の表面の反射電子像である。
【
図4】
図4は、比較例1により得られた正極活物質の断面の二次電子像である。
【
図5】
図5は、電池評価に使用した2032型コイン電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
(1)リチウム遷移金属含有複合酸化物
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という)を構成するリチウム遷移金属含有複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される。二次粒子の形状は任意であり、たとえば、二次粒子の全体が複数の一次粒子の凝集体により構成される中実構造、二次粒子の内部に空間が存在する中空構造、二次粒子の内部に多数の空隙が存在する多孔質構造などの構造を採り得る。
【0020】
二次粒子の大きさは、特に限定されないが、その体積基準平均粒子径が1μm~30μmの範囲にあることが好ましく、3μm~10μmの範囲にあることがより好ましい。体積基準平均粒子径は、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0021】
リチウム遷移金属含有複合酸化物(以下、「複合酸化物」という)の種類については、特に限定されず、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMnO2、LiMn2O4などのいずれの複合酸化物に対しても、本発明を適用可能であるが、特に、一般式:Li1+uNixCoyMnzMtO2(ただし、-0.10≦u≦0.20、x+y+z+t=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦t≦0.15、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wの群から選択される少なくとも1種の添加元素)で表される複合酸化物に好ましく適用することができる。
【0022】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。Niを含有する場合は、Niの含有量を示すxの値は、0.2以上1以下、好ましくは0.3以上0.9以下、より好ましくは0.3以上0.6以下とする。xの値が0.2未満では、Niを含有することによって得られる二次電池の電池容量の向上効果を十分に得ることができない。
【0023】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素である。Coを含有する場合には、Coの含有量を示すyの値は、0.2以上1以下、好ましくは0.3以上0.9以下、より好ましくは0.3以上0.6以下とする。yの値が0.2未満では、Coを含有することによって得られる充放電サイクル特性の向上効果を十分に得ることができない。
【0024】
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する元素である。Mnを含有する場合には、Mnの含有量を示すzの値は、0.2以上1以下、好ましくは0.3以上0.9以下、より好ましくは0.3以上0.6以下とする。zの値が0.2未満では、Mnを含有することによって得られる熱安定性の向上効果を十分に得ることができない。
【0025】
添加元素Mの含有量を示すtの値は、0以上0.15以下、好ましくは0以上0.1以下、より好ましくは0以上0.05以下とする。tの値が0.15を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
【0026】
以上のような、Niの含有量を示すxの値、Coの含有量を示すyの値、Mnの含有量を示すzの値、および、添加元素Mの含有量を示すtの値は、二次電池の用途や要求される性能などに応じて適宜選択される。
【0027】
(2)ペロブスカイト型構造を有するランタン化合物粒子
本発明は、ペロブスカイト型構造を有するランタン化合物粒子を含有することを特徴とする。ペロブスカイト型構造とは、一般式:ABO3で表される化合物である。通常、Aは、2価の典型元素、ランタノイド元素またはこれらの組合せからなる群から選ばれた少なくとも1種であり、BはIVa族、Va族、VIa族、VIIa族、VIII族およびIb族の遷移元素から選ばれた少なくとも1種である。
【0028】
ただし、本発明では、Aサイトの少なくとも一部に、Laを含有する。また、電子伝導性が向上することから、Bサイトに、Ni、Co、およびMnからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含有することが好ましい。このような構成のペロブスカイト型構造のランタン化合物は、高い電子伝導性を有する。
【0029】
本発明に適用可能なペロブスカイト型構造のランタン化合物の例としては、LaNiO3、La(Ni1-xCox)O3、La(Ni1-x-yCoxMny)O3、(La1-xCax)MnO3、(La1-xSrx)MnO3、(La1-xBax)MnO3、(La1-xCax)CoO3、(La1-xSrx)CoO3、(La1-xBax)CoO3などが挙げられる。
【0030】
また、AサイトおよびBサイトのカチオンは、欠損があってもよく、あるいは、過剰であってもよい。酸素についても、欠損や過剰がありうる。
【0031】
(3)ランタン化合物粒子の存在箇所
ランタン化合物粒子は、複合酸化物を構成する二次粒子の表面、および/または、一次粒子間の空隙もしくは粒界に存在する。二次粒子の表面に電子伝導性の高いランタン化合物粒子が存在することにより、電解質と二次粒子間の電子の移動に伴う抵抗の低減効果が期待される。また、一次粒子間の空隙もしくは粒界に、ランタン化合物粒子が存在することにより、複合酸化物を構成する一次粒子間の電子の移動に伴う抵抗の低減が期待される。
【0032】
ただし、ランタン化合物自体は、リチウムイオン伝導性が低く、リチウムイオンを透過しがたい。このため、ランタン化合物粒子が、複合酸化物を構成する二次粒子の表面を膜状に覆うように存在すると、複合酸化物の表面と電解液との間におけるリチウムイオンの移動が阻害されてしまう。また、ランタン化合物粒子が、一次粒子間の空隙もしくは粒界に塊として存在しても、一次粒子間の電子の移動に伴う抵抗の低減効果を十分に得ることはできない。
【0033】
このため、本発明のランタン化合物粒子は、ランタン化合物粒子が複合酸化物の二次粒子それぞれの表面全体を被覆したり、一次粒子間の空隙もしくは粒界に塊として存在したりするのではなく、後述するように、二次粒子の表面、および/または、一次粒子間の空隙もしくは粒界に分散して存在する。
【0034】
(4)ランタン化合物粒子の大きさ
ランタン化合物粒子の大きさに関しては、正極活物質の断面像におけるランタン化合物粒子の平均粒子径(以下、「断面平均粒子径」という)、さらに追加的に正極活物質の表面像におけるランタン化合物粒子の平均粒子径(以下、「表面平均粒子径」という)を、その指標とすることができる。本発明において、ランタン化合物粒子の断面平均粒子径は、0.70μm以下であり、0.25μm~0.70μmの範囲にあることが好ましく、0.30μm~0.60μmの範囲にあることがより好ましく、0.30μm~0.50μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0035】
ランタン化合物粒子の断面平均粒子径が0.70μmよりも大きい場合には、ランタンの添加量に比して、正極活物質の電子伝導性向上の効果が小さいため、十分な正極抵抗の低減効果が得られない。一方、ランタン化合物粒子の断面平均粒子径が0.25μm未満まで小さくなることについて問題はないものの、母材である正極活物質の結晶子径を所望の範囲まで大きくする必要性から、その焼成条件においては、ランタン化合物粒子の断面平均粒子径は0.30μm程度が下限値となる。
【0036】
ここで、断面平均粒子径とは、SEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)などによって得られた正極活物質の断面像から、画像解析ソフトなどを用いて、ランタン化合物粒子の形状を解析し、それぞれのランタン化合物粒子の最大フェレー径(ランタン化合物粒子の外周の境界線上にある任意の2点を結ぶ直線のうち、もっとも長いものの距離)を算出し、その個数平均をとることにより算出された値である。
【0037】
なお、本発明の正極活物質においては、ランタン化合物微粒子の表面平均粒子径も所定範囲に調整されていることが好ましい。本発明において、ランタン化合物粒子の表面平均粒子径は、0.50μm以下であり、0.10μm~0.50μmの範囲にあることが好ましく、0.10μm~0.46μmの範囲にあることがより好ましく、0.15μm~0.40μmの範囲にあることがさらに好ましい。ランタン化合物粒子の表面平均粒子径が0.50μmよりも大きい場合には、ランタンの添加量に比して、正極活物質の電子伝導性向上の効果が小さいため、十分な正極抵抗の低減効果が得られない。一方、ランタン化合物粒子の表面平均粒子径が0.50μm未満まで小さくなることについて問題はないものの、ランタン化合物粒子の表面平均粒子径の下限値は、その断面平均粒子径と同様の理由により、0.10μm程度となる。
【0038】
ここで、表面平均粒子径とは、SEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)などによって得られた正極活物質の表面の反射電子像から、それぞれのランタン化合物粒子の最大フェレー径を算出し、その個数平均をとることで算出された値である。
【0039】
(5)ランタン化合物粒子の分散性
本発明において、ランタン化合物粒子は、複合酸化物を構成する二次粒子の表面、および/または、一次粒子間の空隙もしくは粒界に分散して存在する。ランタン化合物粒子の分散性の評価は、たとえば、SEMなどによって得られた正極活物質の表面像から、複合酸化物の二次粒子の表面の単位面積あたりに存在するランタン化合物の数を計測したり、SEMやTEMなどによって得られた正極活物質の断面像から、二次粒子の断面の単位面積あたりに存在するランタン化合物粒子の数を計測したりすることで評価することができる。
【0040】
具体的には、本発明においては、(A)複合酸化物の二次粒子の表面の単位面積あたりに存在するランタン化合物粒子の数は、0.01個/μm2~0.25個/μm2であり、好ましくは、0.02個/μm2~0.22個/μm2であり、より好ましくは、0.10個/μm2~0.20個/μm2である。
【0041】
二次粒子の表面の単位面積あたりに存在するランタン化合物粒子の数は、SEMなどによって得られた正極活物質の表面像から、二次粒子の表面に存在しているランタン化合物粒子の数および二次粒子の面積を計測し、ランタン化合物の数を二次粒子の面積で除することにより算出された値である。
【0042】
なお、複合酸化物の二次粒子の表面におけるランタン化合物粒子の分散性については、二次粒子1個の表面に存在するランタン化合物粒子の数によっても評価することは可能であり、この場合、二次粒子1個の表面に存在するランタン化合物粒子の数は、0.20個~2.50個であり、好ましくは、0.50個~2.30個であり、より好ましくは、1.00個~2.30個である。
【0043】
二次粒子1個の表面に存在するランタン化合物粒子の数は、SEMなどによって得られた正極活物質の表面像から、それぞれの二次粒子の表面に存在しているランタン化合物の数を計測し、その個数平均をとることにより算出された値である。
【0044】
一方、(B)二次粒子の断面の単位面積あたりに存在するランタン化合物粒子の数が、0.03個/μm2~0.10個/μm2であり、好ましくは、0.04個/μm2~0.10個/μm2であり、より好ましくは、0.05個/μm2~0.095個/μm2である。
【0045】
二次粒子の断面の単位面積あたりに存在するランタン化合物粒子の数は、SEMまたはTEMなどによって得られた正極活物質の断面像から、二次粒子の断面に存在しているランタン化合物の数および二次粒子の断面積を計測し、ランタン化合物の数を二次粒子の断面積で除することにより算出された値である。
【0046】
(A)二次粒子の表面の単位面積あたりに存在するランタン化合物粒子の数、および、(B)二次粒子の断面の単位面積あたりに存在するランタン化合物粒子の数は、いずれか一方を具備すれば、本発明の範囲内にあるといえるが、両方を具備することが好ましい。
【0047】
(6)ランタン含有量
正極活物質全体に対するランタンの含有量は、0.1質量%~5質量%の範囲であることが好ましく、0.3質量%~2質量%の範囲であることがより好ましく、0.3質量%~0.7質量%であることがさらに好ましい。ランタン含有量が5質量%よりも大きくなると、リチウムイオンに対して活物質として機能しないペロブスカイト型のランタン化合物粒子が増加し、二次電池の放電容量が低下する。一方、ランタン含有量が0.1質量%よりも小さい場合には、ランタン化合物粒子を含有したことによる電子伝導性の向上効果を十分に得ることができない。
【0048】
なお、ランタン含有量は、ICP発光分光分析装置を用いた分析などにより求めることができる。
【0049】
2.正極活物質の製造方法
(1)ランタンを含有する遷移金属含有複合化合物粒子
正極活物質の前駆体としての、ランタンを含有する遷移金属含有複合化合物粒子(以下、「ランタン含有複合化合物粒子」という)とは、少なくともランタンおよび遷移金属を含有する化合物であればよく、水酸化物、酸化物、硝酸塩、炭酸塩などのいずれの形態であってもよい。ランタン含有複合化合物粒子内において、ランタンは、遷移金属含有複合化合物粒子内に均一に分布していることが好ましい。遷移金属含有複合化合物粒子内において、ランタンが均一に分布することで、焼成工程(本焼工程)後に得られる正極活物質において、ランタン化合物粒子の分散性が良好になると考えられる。
【0050】
なお、ランタン含有複合化合物粒子におけるランタンの分散性は、SEM-EDS(走査電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析)により、確認することができる。
【0051】
また、ランタン含有複合化合物粒子は、たとえば、晶析による共沈法など公知の手段により得ることができる。
【0052】
ランタン含有複合化合物粒子を得るための共沈法は、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程とを備えることが好ましい。共沈法によるランタン含有複合化合物粒子の製造方法について、以下、詳細に説明する。
【0053】
a)核生成工程
まず、ニッケル、マンガンおよびコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1遷移元素(3d遷移元素)を含有する第1遷移元素化合物を、所定の割合で水に溶解し、原料水溶液を調整する。同時に、反応槽内に、アルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給および混合して、液温25℃基準で測定するpH値が12.0~14.0の範囲にあり、アンモニウムイオン濃度が3g/L~25g/Lの範囲にある反応前水溶液を調製する。なお、反応前水溶液のpH値はpH計により、アンモニウムイオン濃度はイオンメータにより測定することができる。
【0054】
次に、この反応前水溶液を撹拌しながら、原料水溶液を供給する。これにより、反応槽内には、核生成工程における反応水溶液である核生用成水溶液が形成される。この核生成用水溶液のpH値は上述した範囲にあるので、核生成工程では、核はほとんど成長することなく、核生成が優先的に起こる。なお、核生成工程では、核生成に伴い、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度は変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、反応槽内液のpH値が液温25℃基準でpH12.0~14.0の範囲に、アンモニウムイオンの濃度が3g/L~25g/Lの範囲に維持するように制御することが必要となる。
【0055】
b)粒子成長工程
核生成工程終了後、反応槽内の核生成用水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.5~12.0の範囲にあるように調整するとともに、所定の割合の第1遷移元素化合物とランタン含有化合物を供給し、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を形成する。なお、pH値は、アルカリ水溶液の供給を停止することでも調整可能であるが、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を得るためには、一旦、すべての水溶液の供給を停止してpH値を調整することが好ましい。具体的には、すべての水溶液の供給を停止した後、核生成用水溶液に、原料となる金属化合物を構成する酸と同種の無機酸を供給することにより、pH値を調整することが好ましい。
【0056】
同時に、ニッケル、マンガンおよびコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1遷移元素を含有する第1遷移元素化合物と、ランタン含有化合物を所定の割合で水に溶解し、粒子成長用原料水溶液を調整する。
【0057】
次に、粒子成長用水溶液を撹拌しながら、粒子成長用原料水溶液を供給する。この際、粒子成長用水溶液のpH値は上述した範囲にあるため、新たな核はほとんど生成せず、核(粒子)成長が進行し、所定の粒径を有する複合水酸化物粒子が形成される。なお、粒子成長工程においても、粒子成長に伴い、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度は変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、pH値およびアンモニウムイオン濃度を上記範囲に維持することが必要となる。
【0058】
なお、核生成工程および粒子成長工程における反応雰囲気は、要求される二次粒子の構造に応じて適宜調整する。たとえば、核生成工程および粒子成長工程全体を通じて、反応雰囲気を、酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気とした場合に得られるランタン含有複合化合物粒子を焼成すると、中実構造のリチウム遷移金属複合酸化物が得られる。
【0059】
一方、核生成工程および粒子成長工程の初期における反応雰囲気を、酸素濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気とし、粒子成長工程において、反応雰囲気を、酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えると、得られるランタン含有複合化合物粒子は、微細一次粒子からなる低密度の中心部と、微細一次粒子よりも大きい板状一次粒子からなる高密度の外殻部から構成されたものとなる。このようなランタン含有複合化合物粒子を焼成すると、中空構造のリチウム遷移金属複合酸化物が得られる。
【0060】
また、核生成工程における反応雰囲気を、非酸化性雰囲気とし、粒子成長工程において、酸化性雰囲気に切り替えた後、再度、非酸化性雰囲気に切り替える反応雰囲気制御を、1回ないし複数回行うことで、低密度層と高密度層が交互に積層した積層構造を備えるランタン含有複合化合物粒子を得られる。このようなランタン含有複合化合物粒子を焼成すると、粒子内部に複数の空隙が分散している多孔質構造のリチウム遷移金属複合酸化物が得られる。
【0061】
なお、核生成工程および粒子成長工程における第1遷移元素化合物に、ランタンが含まれているか否かは問われない。ただし、第一遷移元素化合物にランタンが含有されている場合には、ランタン含有量が本発明で規定する範囲内となるように、ランタン含有化合物の添加量が調整される。
【0062】
(2)リチウム化合物
リチウム化合物についても、特にその種類が制限されることはないが、炭酸リチウム(融点:723℃)、水酸化リチウム(融点:462℃)、硝酸リチウム(融点:261℃)などを好適に使用することができる。これらのうち、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0063】
(3)ランタン化合物粒子の生成機構
ランタン化合物粒子は、仮焼工程および本焼工程からなる焼成工程において、リチウム化合物のフラックス効果によって生成し、遷移金属含有複合化合物粒子内に均一に分散して存在するランタン元素が、粒子状に粒成長すると考えられる。したがって、ランタン化合物粒子が粒成長する効果は、混合するリチウム化合物の融点を超える温度で顕著となる。また、粒成長の効果は、リチウム化合物の融点を超える温度で存在しているリチウム化合物の量が多いほど、大きくなると考えられる。
【0064】
一方、正極活物質を構成するリチウム遷移金属含有複合酸化物(以下、「リチウム複合酸化物」という)の生成反応は、リチウム化合物の融点以下の温度であっても、固相反応により生じる。
【0065】
したがって、仮焼工程で、ランタン化合物粒子が生成しにくい温度、具体的には、リチウム化合物の融点以下の温度で焼成することにより、ランタン化合物粒子の生成および粒成長が抑制された状態で、リチウム化合物が消費され、リチウム複合酸化物の生成反応が進行する。その結果、本焼工程で、リチウム化合物の融点を超える温度で焼成を行っても、残留しているリチウム化合物が少なくなるため、本焼工程後に得られる正極活物質において、ランタン化合物粒子の粒子径を小さくし、かつ、ランタン化合物粒子を分散させることが可能となる。
【0066】
(4)混合工程
混合工程は、ランタン含有複合化合物粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ランタンを除く、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属、およびその他の添加元素との原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95~1.5、好ましくは1.0~1.5、より好ましくは1.0~1.35、さらに好ましくは1.0~1.2となるように、ランタン含有複合化合物粒子とリチウム化合物とを混合する。すなわち、焼成工程の前後では、Li/Meは変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、目的とする正極活物物(リチウム複合酸化物)のLi/Meとなるように、ランタン含有複合化合物粒子とリチウム化合物とを混合することが必要となる。
【0067】
ランタン含有複合化合物粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサー、レーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができる。
【0068】
(5)仮焼工程
本発明において、リチウム化合物を焼成する工程は、仮焼工程と本焼工程により構成される。このうち、仮焼工程では、ランタン化合物粒子の生成を抑制しながら、固相反応による遷移金属含有複合化合物粒子とリチウム化合物との反応が進められるため、混合するリチウム化合物の融点以下の温度で焼成することが好ましい。したがって、仮焼工程の焼成温度は、適用されるリチウム化合物の種類に応じて適宜決定されるが、たとえば、炭酸リチウム(融点:723℃)を用いた場合には、焼成温度を600℃~723℃とすることが好ましく、630℃~720℃とすることがより好ましい。また、水酸化リチウム(融点:462℃)を用いた場合には、焼成温度を300℃~462℃とすることが好ましく、400℃~460℃とすることがより好ましい。さらに、硝酸リチウム(融点:251℃)を用いた場合には、焼成温度を200℃~251℃とすることが好ましく、220℃~250℃とすることがより好ましい。
【0069】
仮焼工程の焼成温度での保持時間は、0.5時間~10時間の範囲にあることが好ましく、2時間~4時間の範囲にあることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する本焼工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%~100容量%の範囲にある雰囲気とすることがより好ましい。
【0070】
また、仮焼工程を含む焼成工程に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中で加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生のない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。
【0071】
なお、仮焼工程と本焼工程の間は、必ずしも室温まで冷却する必要はなく、仮焼工程での焼成温度から、昇温させ、本焼工程に入ってもよい。
【0072】
(6)本焼工程
本焼工程では、仮焼工程において生成した正極活物質を、リチウム化合物の融点を超える温度で焼成することにより、正極活物質の結晶性を高める工程である。
【0073】
本焼工程に用いられる炉も、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中で加熱できるものであればよい。同様に、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生のないバッチ式あるいは連続式の電気炉を用いることが好ましい。仮焼工程で用いた炉を引き続き用いることも可能である。
【0074】
本焼工程での焼成温度は、正極活物質の結晶性を高める観点と、リチウム化合物のフラックス効果によるランタン化合物粒子の生成を促進する観点から、リチウム化合物の融点を超える温度とすることが好ましい。
【0075】
たとえば、炭酸リチウム(融点:723℃)を用いた場合には、焼成温度を725℃~1000℃の範囲とすることが好ましく、800℃~1000℃の範囲とすることがより好ましい。また、水酸化リチウム(融点:462℃)や硝酸リチウム(融点:251℃)を用いた場合についても、同様に、焼成温度を725℃~1000℃の範囲とすることが好ましく、800℃~1000℃の範囲とすることがより好ましい。
【0076】
本焼工程における焼成温度が725℃未満では、得られるリチウム遷移金属含有複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。一方、焼成温度が1000℃を超えると、リチウム複合酸化物粒子間が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することとなる。
【0077】
本焼工程における焼成温度での保持時間は、1時間~10時間とすることが好ましく、2時間~6時間とすることが好ましい。本焼工程の焼成温度における保持時間が1時間未満では、得られるリチウム複合酸化物の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0078】
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%~100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、リチウム複合酸化物の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0079】
(7)解砕工程
本焼工程によって得られた、ランタン化合物粒子を含有するリチウム複合酸化物からなる正極活物質を構成する二次粒子(以下、「正極活物質粒子」という)は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、正極活物質粒子の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質粒子の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。
【0080】
なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0081】
解砕には、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0082】
3.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレーター、および電解質など、通常のリチウムイオン二次電池と同様の構成部材を備える。なお、以下では、電解質として、支持塩であるリチウム塩を、有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いた、リチウムイオン二次電池について説明するが、本発明の二次電池は、本明細書に記載されている実施形態に基づいて、種々の変更、改良を施した形態や、電解質として、LLZO(Li7La3Zr2O12)、LTTO(LixLa(2-x)/3TiO3)、LATP(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3)などの酸化物系固体電解質、Li2S-P2S5などの硫化物系固体電解質といった、不燃性でイオン伝導性を有する固体電解質を用いた、固体電解質二次電池を含むリチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)に広く適用することが可能である。
【0083】
(1)リチウムイオン二次電池の構成部材
a)正極
上述した正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして、リチウムイオン二次電池の正極を作製する。
【0084】
まず、本発明の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水電解液二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合には、通常の非水電解液二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部~95質量部、導電材の含有量を1質量部~20質量部、および、結着剤の含有量を1質量部~20質量部とすることができる。
【0085】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。なお、正極の作製方法は、例示のものに限られることはなく、他の手段によってもよい。
【0086】
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0087】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、または、ポリアクリル酸を用いることができる。
【0088】
このほか、必要に応じて、正極活物質、導電材、および、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的に、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0089】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを使用することができる。また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
【0090】
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、ならびに、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0091】
c)セパレーター
セパレーターは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解液を保持する機能を有する。このようなセパレーターとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されることはない。
【0092】
d)非水電解液
本発明は、リチウムイオン二次電池を構成する電解質の種類には制限されないが、リチウムイオン二次電池の非水電解質として一般的に用いられる非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0093】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0094】
支持塩としては、LiPF
6
、LiBF
4
、LiClO
4
、LiAsF
6
、LiN(CF
3
SO
2
)
2
、およびそれらの複合塩などを用いることができる。なお、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
【0095】
(2)リチウムイオン二次電池の構造
以上の正極、負極、セパレーター、および、電解質で構成される、リチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0096】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレーターを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、電解質として非水電解液を用いる場合には、この非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水電解液二次電池を完成させる。
【0097】
(3)リチウムイオン二次電池の特性
上述のようなリチウムイオン二次電池は、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、容量特性、出力特性、および、サイクル特性に優れる。具体的には、ランタン化合物粒子が正極活物質粒子の表面全体を被覆することがないため、それぞれの正極活物質におけるリチウムイオン伝導性が妨げられることはない。また、正極活物質粒子の表面、および/または、内部、より具体的には一次粒子間の空隙や粒界に、電子伝導性に優れたランタン化合物粒子が分散して存在するため、正極抵抗の低減が図られ、かつ、正極活物質の劣化が十分に抑制される。しかも、従来のリチウムニッケル系酸化物粒子からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、ランタン化合物粒子が正極活物質粒子内に分散して存在しているため、熱安定性や安全性において優れているといえる。
【0098】
たとえば、本発明の正極活物質を用いて、
図5に示すような2032型コイン電池を構成した場合に、160mAh/g以上の初期放電容量と低い正極抵抗を同時に達成することができる。
【0099】
(4)リチウムイオン二次電池の用途
本発明の正極活物質を正極材料として用いたリチウムイオン二次電池は、上述のように、容量特性、出力特性、および、サイクル特性に優れており、これらの特性のすべてが高いレベルで要求される、小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピューターや携帯電話端末など)の電源に好適に利用することができる。安全性にも優れており、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に利用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0101】
(実施例1)
(A)晶析工程
[核生成工程]
はじめに、反応槽内に、水を14L入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。この際、反応槽内に窒素ガスを30分間流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気とした。続いて、反応槽内に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量供給し、pH値が、液温25℃基準で12.6、アンモニウムイオン濃度が10g/Lとなるように調整することで反応前水溶液を形成した。
【0102】
同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを、それぞれの金属元素のモル比がNi:Mn:Co=38.0:30.0:32.0となるように水に溶解し、2mol/Lの核生成工程用の原料水溶液を調製した。
【0103】
次に、この原料水応液を、反応前水溶液に115ml/分で供給することで、核生成工程用水溶液を形成し、核生成を行った。この際、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給し、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持した。
【0104】
[粒子成長工程]
核生成終了後、一旦、すべての水溶液の供給を停止するとともに、硫酸を加えて、pH値が、液温25℃基準で11.2となるように調整することで、粒子成長用水溶液を形成した。同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ランタンを、それぞれの金属元素のモル比がNi:Mn:Co:La=38.0:30.0:32.0:0.4となるように水に溶解し、2mol/Lの核成長工程用の原料水溶液を調製した。
【0105】
pH値が所定の値になったことを確認した後、原料水溶液を供給し、核生成工程で生成した核(粒子)を成長させた。その後、得られた生成物を、水洗、ろ過、および乾燥させることにより、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。
【0106】
なお、粒子成長工程においては、この工程を通じて、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給し、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持した。
【0107】
(B)複合水酸化物粒子の評価
[組成]
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE-9000)を用いた分析により、この複合水酸化物粒子は、金属元素のモル比をNi:Mn:Co:La=38.0:30.0:32.0:0.4のモル比で含有する、複合水酸化物粒子であることが分かった。
【0108】
[ランタン元素の分布]
得られた複合水酸化物粒子の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工によって断面観察可能な状態とした上で、SEM-EDS(日本電子株式会社製、JSM-70001F、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡)を用いたEDS(エネルギー分散型X線分析)により、複合水酸化物粒子内のランタン元素の分布を分析した。この結果、この複合水酸化物粒子にランタン元素が偏析なく、二次粒子内に均一に分散していることが確認された。
【0109】
(C)仮焼工程
上述のように得られた、複合水酸化物粒子を、Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.10となるように、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて、炭酸リチウム(融点:723℃)と十分に混合し、リチウム混合物を得た。
【0110】
このリチウム混合物を、電気炉(株式会社東洋製作所製、電気マッフル炉、特FUM373)を用いて、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、昇温速度を約2.1℃/分として630℃まで昇温し、この温度で4時間保持することにより焼成し、冷却速度を約4℃/分として室温まで冷却することで、仮焼粉末を得た。
【0111】
(D)本焼工程
仮焼工程で得られた仮焼粉末を、同様に電気炉を用いて、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、昇温速度を約3℃/分として920℃まで昇温し、この温度で4時間保持することにより焼成し、冷却速度を約4℃/分として室温まで冷却することで、ランタンを含有した正極活物質を得た。
【0112】
このようにして得られた正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じていた。このため、この正極活物質を、連続式ミル(IKA社製、MF10ベーシック)を用いて解砕した。
【0113】
(E)正極活物質の評価
[組成]
ICP発光分光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、金属元素のモル比をLi:Ni:Mn:Co:La=1.10:0.38:0.30:0.32:0.004のモル比で含有する、複合酸化物粒子からなることが分かった。なお、正極活物質全体に対するランタン含有量は、0.55質量%であった。
【0114】
[ランタン化合物の存在箇所]
ランタン化合物の存在箇所は、SEM-EDSを用いて、正極活物質の表面および断面の二次電子像、反射電子像を観察することにより確認した。正極活物質粒子の表面の反射電子像から、正極活物質の表面に白色のコントラストで表される微粒子が分散して存在することが確認された。このことから、この微粒子が、ランタンを含有する化合物(ランタン化合物粒子)であることを確認した。また、正極活物質の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工によって正極活物質粒子の断面の二次電子像から、正極活物質内部の一次粒子間の空隙にも、ランタン化合物粒子が存在することが確認された。
【0115】
[結晶構造]
正極活物質の結晶構造について、X線回析分析装置(パナリティカル社製:X‘Pert PRO)を用いて分析した。その結果、Li1.10Ni0.38Co0.32Mn0.30O2のリチウム複合酸化物に由来するピークと、ペロブスカイト型構造のピークを合わせた回折パターンが確認された。このことから、ランタン化合物は、ペロブスカイト型構造の化合物であることが、確認された。
【0116】
[ランタン化合物粒子の分散性]
ランタン化合物粒子の分散性について、画像解析ソフトIMAGE J(オープンソース)を用いて解析した。正極活物質粒子の表面の反射電子像から、正極活物質粒子の表面に生成しているランタン化合物粒子数を計測し、正極活物質の面積あたりに生成しているランタン化合物粒子数を算出した。また、正極活物質の断面のSEM画像から、正極活物質粒子の断面に生成しているランタン化合物粒子数と正極活物質粒子の断面積を計測し、ランタン化合物粒子数を断面積で除することにより、正極活物質の断面の単位面積あたりのランタン化合物粒子数を算出した。
【0117】
[ランタン化合物粒子の大きさ]
ランタン化合物粒子の大きさは、画像解析ソフトIMAGE J(オープンソース)を用いて解析した。断面のSEM像から、ランタン化合物粒子の形状を解析し、それぞれのランタン化合物粒子の最大フェレー径(ランタン化合物粒子の外周の境界線上にある任意の2点を結ぶ直線のうち、もっとも長いものの距離)を算出し、その個数平均をとることで、ランタン化合物粒子の断面平均粒子径を算出した。また、同様にして、正極活物質の表面の反射電子像から、それぞれのランタン化合物粒子の最大フェレー径を算出し、その個数平均をとることで、ランタン化合物粒子の表面平均粒子径を算出した。
【0118】
[正極活物質の圧粉時の体積抵抗率]
正極活物質の圧粉時の体積抵抗率を、粉体抵抗測定システム(株式会社三菱ケミカルアナリテック製、MCP-PD51)、および、抵抗計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製、ロレスタ-GP)を用いて、測定した。正極活物資を粉体試料として、内径10mmのホルダー内に正極活物質5gを入れ、20kN(63.7MPa)の荷重をかけた際の粉末の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。測定を3回実施し、3回の算術平均を測定結果として採用した。
【0119】
(F)正極の製造
プラネタリミキサーにより、正極活物質と導電材(アセチレンブラック)と結着材(PVdF)と溶媒(NMP)とを混合し、正極活物質を含むペーストを調製した。ペーストの固形分比率は50質量%とした。固形分の組成は、質量比で「正極活物質:導電材:結着材=84:12:4」とした。ダイコーターにより、ペーストを集電体(Al箔)の表面(表裏両面)に塗布し、乾燥した。これにより、正極活物質層を形成した。ロール圧延機により、正極活物質層を圧縮した。スリッターにより、正極活物質層および集電体を帯状に裁断した。以上のようにして、正極を製造した。
【0120】
(G)正極活物質の放電容量
図3に示す、2032型コイン電池(B)を以下の通り、作製した。まず、正極活物質:52.5mgと、アセチレンブラック:15mgと、PTEE:7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極(1)を作製した。
【0121】
次に、この正極(1)を用いて2032型コイン電池(B)を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この2032型コイン電池(B)の負極(2)には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、電解液には、1MのLiClO
4
を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレーター(3)には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。なお、2032型コイン電池(B)は、ガスケット(4)を有し、正極缶(5)と負極缶(6)とでコイン状の電池に組み立てられたものである。
【0122】
2032型コイン電池(B)を、作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行ない、初期放電容量を求めた。この結果、初期放電容量は、167mAh/gであることが確認された。
【0123】
なお、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0124】
実施例1の焼成条件および実施例1により得られた正極活物質の評価結果について、表1に示す。以下の実施例2~実施例4、および、比較例1~2についても同様である。
【0125】
(実施例2)
仮焼工程の保持温度を660℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を作製および評価した。
【0126】
(実施例3)
仮焼工程の保持温度を690℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を作製および評価した。実施例3により得られた正極活物質の表面の反射電子像を
図1に、および、断面の二次電子像を
図2にそれぞれ示す。
【0127】
(実施例4)
仮焼工程の保持温度を720℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を作製および評価した。
【0128】
(比較例1)
仮焼工程を行わずに、本焼工程のみを実施したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を作製および評価した。比較例1により得られた正極活物質の表面の反射電子像を
図3に、および、断面の二次電子像を
図4にそれぞれ示す。
【0129】
(比較例2)
核成長工程において、原料水溶液に硫酸ランタンを加えなかったこと、および、仮焼工程を行わずに、本焼工程のみを実施したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を作成および評価した。
【0130】
【0131】
実施例1~4、および、比較例1および2の結果を表1に示す。実施例1~4の正極活物質は、ランタン化合物粒子の断面平均粒子径および表面平均粒子径が、すべて好ましい範囲であり、初期放電容量は、比較例1に比べて大きく、また、圧粉時の体積抵抗率は比較例1に比べて低かったことから、これらを用いることで優れた特性を有するリチウムイオン二次電池が得られることが確認できた。一方、比較例1については、特に圧粉時の体積抵抗率が満足できるものではなかったが、これは、ランタン化合物粒子の断面平均粒子径および表面平均粒子径が大きすぎるため、これにより正極活物質の電子伝導性が悪化したことが影響していると考えられる。また、比較例2については、特に圧粉時の体積抵抗率が高かったが、これは、ランタン化合物粒子が存在しないため、正極活物質の電子伝導性を向上させることができなかったためと考えられる。
【符号の説明】
【0132】
1 正極(評価用電極)
2 負極
3 セパレーター
4 ガスケット
5 正極缶
6 負極缶
B 2032型コイン電池