(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/027 20190101AFI20220228BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20220228BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B7/06
B32B27/34
(21)【出願番号】P 2017068868
(22)【出願日】2017-03-30
【審査請求日】2020-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2016071525
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016071526
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】林 信行
(72)【発明者】
【氏名】平石 克文
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-083201(JP,A)
【文献】特開2015-182393(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106541652(CN,A)
【文献】特開2007-001173(JP,A)
【文献】特開2012-146905(JP,A)
【文献】特開2013-075525(JP,A)
【文献】特開2006-306086(JP,A)
【文献】特表2015-507563(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104066574(CN,A)
【文献】特開2014-061685(JP,A)
【文献】特開2014-166722(JP,A)
【文献】特開2008-006818(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0298260(US,A1)
【文献】特開2010-221523(JP,A)
【文献】今井淑夫,ポリイミドの構造と物性,エレクトロニクス実装学会誌,2001年,Vol.4,No.7,p.640-646
【文献】平石克文、外3名,ポリイミド塗膜の低熱膨張性発現機構,ポリイミド最近の進歩,1997年,p.88-91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を50モル%以上含有するポリイミド樹脂からなるカール抑制層、ポリイミド樹脂からなるキャリア層、及びポリイミド樹脂からなる基材層が積層されたポリイミド樹脂積層体であって、キャリア層の一面側にカール抑制層を有し、さらに該カール抑制層に剥離可能に接着した基材層を有し、基材層とキャリア層の熱膨張係数(CTE)差が±40ppm/K以下であることを特徴とするポリイミド樹脂積層体。
【化1】
ここで、
式(1)において、Xは、芳香族基又は脂環式基であって、芳香環又は脂環を1個以上有する4価の有機基であり、Rは炭素数1~6の置換基である。CTEは、30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、100~250℃の温度範囲における伸び量から換算した値である。
【請求項2】
キャリア層の一面側にカール抑制層及び基材層を介在してさらに機能層が形成されてなる請求項1記載のポリイミド樹脂積層体。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される構造単位を50モル%以上含有するポリイミド樹脂からなるカール抑制層、ポリイミド樹脂からなるキャリア層、及びポリイミド樹脂からなる基材層が積層されたポリイミド樹脂積層体であって、キャリア層の一面側に剥離可能に接着した基材層を有し、前記キャリア層の反対面側にカール抑制層を有し、基材層とカール抑制層の熱膨張係数(CTE)差が±40ppm/K以下であることを特徴とするポリイミド樹脂積層体。
【化2】
ここで、
式(1)において、Xは、芳香族基又は脂環式基であって、芳香環又は脂環を1個以上有する4価の有機基であり、Rは炭素数1~6の置換基である。CTEは、30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、100~250℃の温度範囲における伸び量から換算した値である。
【請求項4】
キャリア層の一面側に基材層を介在してさらに機能層が形成されてなる請求項3記載のポリイミド樹脂積層体。
【請求項5】
基材層の全光線透過率が80%以上、かつ、厚みが50μm以下である請求項1又は3記載のポリイミド樹脂積層体。
【請求項6】
基材層を形成するポリイミド樹脂のTgが300℃以上である請求項1又は3記載のポリイミド樹脂積層体。
【請求項7】
請求項2記載のポリイミド樹脂積層体を使用し、カール抑制層と基材層との界面で剥離してキャリア層及びカール抑制層を除去してなることを特徴とする機能層付きポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項4記載のポリイミド樹脂積層体を使用し、キャリア層と基材層との界面で剥離してキャリア層及びカール抑制層を除去してなることを特徴とする機能層付きポリイミドフィルム。
【請求項9】
請求項1又は3記載のポリイミド樹脂積層体を製造する方法であって、キャリア層にカール抑制層及び基材層をキャスト法にて塗工することを特徴とするポリイミド樹脂積層体の製造方法。
【請求項10】
キャリア層に塗工されたカール抑制層及び基材層を一体硬化する請求項9記載のポリイミド樹脂積層体の製造方法。
【請求項11】
キャスト法が多層ダイ又は連続ダイによる塗工である請求項9記載のポリイミド樹脂積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド基板上に液晶表示装置、有機ELディスプレイ、有機EL照明、電子ペーパー、タッチパネル、カラーフィルター等の機能層が形成されたポリイミド樹脂積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置等の表示装置は、テレビのような大型ディスプレイから、携帯電話、パソコン、スマートフォンなどの小型ディスプレイに至るまで、幅広く使用されている。例えば、有機EL表示装置では、ガラス基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、電極、発光層、電極等を順次形成し、最後に別途ガラス基板や多層薄膜等で気密封止して作られる。
【0003】
ここで、表示装置の種類は特に制限しないが、液晶表示装置、有機EL表示装置、電子ペーパーをはじめとする表示装置、及びカラーフィルター等の表示装置の構成部品も含んでいる。また、有機EL照明装置、タッチパネル装置、ITO等が積層された導電性フィルム、水分や酸素等の浸透を防止するガスバリアフィルム、フレキシブル回路基板の構成部品などを含めた、前記表示装置に付随して使用される各種機能装置も包含される。すなわち、本発明で言うフレキシブルデバイスとは、液晶表示装置、有機EL表示装置、及びカラーフィルター等の構成部品のみならず、有機EL照明装置、タッチパネル装置、有機EL表示装置の電極層もしくは発光層、ガスバリアフィルム、接着フィルム、薄膜トランジスタ(TFT)、液晶表示装置の配線層もしくは透明導電層等の1種又は2種以上を組み合わせたものも含めている。
【0004】
ガラス基板を樹脂基材に置き換えることで、薄型化、軽量化、フレキシブル化が実現でき、表示装置の用途を更に広げることが可能になる。ところが、樹脂はガラスと比較して寸法安定性、透明性、耐熱性、耐湿性、ガスバリア性等に劣るといった問題がある。
【0005】
例えば、特許文献1は、フレキシブルディスプレイ用プラスチック基板として有用なポリイミド、及びその前駆体に係る発明に関し、シクロへキシルフェニルテトラカルボン酸等のような脂環式構造を含んだテトラカルボン酸類を用いて、各種ジアミンと反応させたポリイミドが、透明性に優れることを開示している。この他にも、ガラス基板の替わりにフレキシブルな樹脂基材を用いて軽量化を図る試みがなされており、例えば、非特許文献1及び2では、透明性の高いポリイミドを利用した有機EL表示装置が提案されている。
【0006】
このように、ポリイミド等の樹脂フィルムがフレキシブルディスプレイ用の支持基材に有用であることは知られているが、表示装置の製造工程は、既にガラス基板を用いて行なわれており、その生産設備の大半はガラス基板を使用することを前提に設計されている。したがって、既存の生産設備を有効活用しながら、表示装置を生産できることが望ましい。
【0007】
その検討例の一つとして、ガラス基板上に樹脂を積層した状態で所定の表示装置の製造工程を完了させ、その後にガラス基板を取り除くことで、樹脂の基材の上に表示部を備えた表示装置を製造する方法がある(特許文献2~3、非特許文献3~4参照)。このような方法の場合、樹脂基材上に形成された表示部に損傷を与えずに樹脂基材とガラスとを分離することが重要となる。
【0008】
すなわち、特許文献3や非特許文献3では、ガラス基板上に塗布して固着した樹脂基材に対して所定の表示部を形成した後、EPLaR(Electronics on Plastic by Laser Release)プロセスと呼ばれる方法によりガラス側からレーザーを照射して、表示部を備えた樹脂基材をガラス基板から強制分離している。また、特許文献2や非特許文献4では、ガラス基板に剥離層を形成した上で、剥離層よりも一回り大きくポリイミド樹脂を塗布してポリイミド層を形成し、剥離層に達する切断線を入れて、剥離層から一回り小さいポリイミドフィルムを剥離するようにしている。
【0009】
一方、ガラス基板上に樹脂を積層させた場合には、反りが大きな問題になる。すなわち、ガラス基板の熱膨張係数は数ppm/Kであるのに対し、一般に樹脂は数十ppm/K以上の熱膨張係数を有することから、例えば、ガラス基板上に樹脂溶液を塗布し、加熱処理等により硬化させて樹脂層を形成して、室温まで放冷すると、反りが発生してしまう。このような反りを抑制できなければ、その後の表示部の形成等に悪影響を与えてしまう。
【0010】
ポリイミド積層体を使用する工程において、フレキシブルディスプレイTFT基板工程は、通常、In-Ga-Zn-O半導体(IGZO)又は低温ポリシリコン(LTPS)工法が使われており、350℃以上の熱をかける。その際、ガラス基板の熱膨張係数は数ppm/Kであることに対し、一般に樹脂は数十ppm/K以上の熱膨張係数を有することから、積層体は反りが発生してしまい、表示部の微細化ができなくなる恐れがある。
【0011】
この点について、特許文献3では、支持基板と樹脂フィルム(a)との間に、熱膨張係数が支持基板と樹脂フィルム(a)との間にあるような樹脂層(b)を設けることを開示しているが、反りの抑制効果は十分ではない。
【0012】
ところで、ディスプレイやタッチパネルなどをロール・ツー・ロール(Roll to Roll;以下「RTR」ともいう。)方式で製造する場合、支持基材となるフィルムにはプロセス中において300℃を超える高温処理に耐えられるため、耐熱性に優れた材料であることが要求される。また、光透過率を考えると薄いフィルムが好ましい。しかし、薄いフィルムをハンドリングすることは困難であり、製造も難しいため、現状、透明フィルムとしては、50μm以上の厚さのものが使われている。
また、ハンドリングや製造の容易さと薄さを両立させる方法として、キャリア付の透明フィルムが提案されている。このキャリア付積層フィルムは、接着剤を用いることなくキャリアフィルムと透明基材フィルムが積層されており、透明基材の上に薄膜トランジスタなどの機能層を成形した後、更に前面板と貼りあわせた後、キャリアフィルムを剥がすことで、製造工程におけるハンドリング性と、ディスプレイやタッチパネルにおける透明支持基材としての薄さを両立できる。
しかし、従来のキャリア付積層フィルムでは、反り(カール)が発生し易く、製造工程におけるハンドリング性が非常に悪いものであった。
【0013】
特許文献4では、反りの発生を抑制するために、ガラス基板等の支持体に対して、それよりも熱膨張係数が小さい第1のポリイミド層を設け、その上に、熱膨張係数が支持体よりも大きい第2のポリイミド層を設けることを開示しているが、ガラス基板ではない耐熱性樹脂からなる支持体についての検討は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2008-231327号公報
【文献】特許4834758号公報
【文献】特許5408848号公報
【文献】特開2015-182393号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】S. An et.al.,"2.8-inch WQVGA Flexible AMOLED Using High Performance Low Temperature Polysilicon TFT on Plastic Substrates", SID2010 DIGEST, p706(2010)
【文献】Oishi et.al.,"Transparent PI for flexible display",IDW'11 FLX2/FMC4-1
【文献】E.I. Haskal et. al. "Flexible OLED Displays Made with the EPLaR Process",Proc.Eurodisplay '07,pp.36-39 (2007)
【文献】Cheng-Chung Lee et. al. "A Novel Approach to Make Flexible Active Matrix Displays",SID10 Digest,pp.810-813(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、ディスプレイやタッチパネルにガラス代替基板として利用されるキャリア付ポリイミド樹脂積層体であって、キャリア材としてRTRプロセスに適用できる耐熱性樹脂を使用した場合においても、製造工程におけるハンドリング性とディスプレイやタッチパネルにおける支持基材としての薄さを維持しつつ、反り(カール)を極力抑制でき、かつ、キャリア材から支持基材を容易かつ簡便に分離できるポリイミド樹脂積層体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明者らは、これらの課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことには、所定のポリイミド樹脂からなる基材層の一面側に、所定のポリイミド樹脂からなるカール抑制層及び所定のポリイミド樹脂からなるキャリア層を積層することにより、ハンドリング性や基材としての薄さを維持しつつ、反り(カール)を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、ポリイミド樹脂からなるカール抑制層、ポリイミド樹脂からなるキャリア層、及び、ポリイミド樹脂からなる基材層が積層されたポリイミド樹脂積層体であって、該基材層の一面側に、カール抑制層及びキャリア層が剥離可能に接着され、該基材層に接している層の熱膨張係数(CTE)が、他の層のCTEのいずれよりも小さい又は大きいことを特徴とするポリイミド樹脂積層体である。
【0019】
本発明のポリイミド樹脂積層体は、次のいずれかの態様であることが好ましい。
1)キャリア層の一面側にカール抑制層を有し、さらに該カール抑制層に剥離可能に接着した基材層を有し、カール抑制層のCTEが支持層及び基材層のCTEのいずれよりも小さい又は大きいこと、
2)キャリア層の一面側に剥離可能に接着した基材層を有し、前記キャリア層の反対面側にカール抑制層を有し、キャリア層のCTEが基材層及びカール抑制層のCTEのいずれよりも小さい又は大きいこと。
【0020】
本発明のポリイミド樹脂積層体は、基材層とキャリア層のCTE差、または、基材層とカール抑制層のCTE差が±40ppm/K以下であることが好ましい。
本発明のポリイミド樹脂積層体は、キャリア層の一面側にカール抑制層及び基材層を介在してさらに機能層が形成されてなるポリイミド樹脂積層体、または、キャリア層の一面側に基材層を介在してさらに機能層が形成されてなる機能層付きポリイミド樹脂積層体として、好ましく使用できる。
また、本発明のポリイミド樹脂積層体は、基材層の全光線透過率が80%以上、かつ、厚みが50μm以下であることが好ましく、基材層を形成するポリイミド樹脂のTgが300℃以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の他の態様として、前記機能層付ポリイミド樹脂積層体を使用し、カール抑制層と基材層との界面、または、キャリア層と基材層との界面で剥離してキャリア層及びカール抑制層を除去してなる機能層付ポリイミドフィルムである。
また、本発明は、上記ポリイミド樹脂積層体を製造する方法であって、キャリア層にカール抑制層及び基材層をキャスト法にて形成することを特徴とするポリイミド樹脂積層体の製造方法である。
この製造方法は、キャリア層に塗工されたカール抑制層及び基材層を一体硬化すること
が好ましく、キャスト法が多層ダイ又は連続ダイによる塗工であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造工程におけるハンドリング性とディスプレイやタッチパネルにおける支持基材としての薄さを維持しつつ、反り(カール)を極力抑制でき、ディスプレイやタッチパネル用途におけるポリイミド樹脂積層体の要求特性を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の積層体について、各層構成を示す断面図である。
【
図2】積層体について、機能層を形成するための装置の模式図である。
【
図3】積層体に反りが発生する様子を示すシミュレーション図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
先ず、本発明のポリイミド樹脂積層体は、ポリイミド樹脂からなるキャリア層を備える。キャリア層は、薄膜の基材層をRTRプロセスにおいて所定形状に維持するものであり、基材層を介在してITO膜などの機能層が形成された後においては、基材層から剥離除去されるものである。そのため、RTRプロセスに適応するためにフレキシブル性、及び基材層を補強して強度を維持することが要求されるが、透明性は必ずしも必要としない。そのため、キャリア層の厚みは、薄膜の基材層に比べて大きく、好ましくは10~100μm、より好ましくは30~75μmである。また、RTRの高温プロセスに適用できる耐熱性が要求されることから、ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは300℃以上、より好ましくは300~450℃である。
【0025】
本発明のポリイミド樹脂積層体は、ポリイミド樹脂からなるカール抑制層(以下、単にカール抑制層ともいう。)、ポリイミド樹脂からなるキャリア層(以下、単にキャリア層ともいう。)、及び、ポリイミド樹脂からなる基材層(以下、単に基材層ともいう。)が積層されたポリイミド積層体であって、基材層の一面側に、カール抑制層及びキャリア層の積層体が剥離可能に接着されていることを特徴とする。さらに、前記ポリイミド樹脂積層体において、基材層に接している層のCTEが、他の層のCTEのいずれよりも小さい又は大きいことを特徴とする。
ここで、基材層に接している層とは、カール抑制層又はキャリア層のいずれか二態様があり、他の層とは、基材層に接している層がカール抑制層の場合、基材層及びキャリア層をいい、基材層に接している層がキャリア層の場合、基材層及びカール抑制層をいう。
なお、前記ポリイミド樹脂積層体の形態は2種類ある(形態1及び形態2)。以下に、各形態について、具体的に説明する。
【0026】
[形態1]
形態1のポリイミド樹脂積層体は、キャリア層の一面側にカール抑制層を有し、さらに該カール抑制層に剥離可能に接着した基材層を有し、カール抑制層のCTEがキャリア層及び基材層のCTEのいずれよりも小さいか又は大きい。
【0027】
また、反り抑制の観点から、キャリア層のCTEは、基材層のCTEに近似することがよく、両者のCTE差(ΔCTE)は、好ましくは、±15ppm/K以内、より好ましくは、基材層のCTEがキャリア層のCTEに比べて+15ppm/K以内の差、つまり、CTE差が0~+15ppm/Kである。なお、例えば、キャリア層のCTEは、好ましくは10~85ppm/Kである。ここで、CTE差が±15ppm/K以内とは、基材層のCTEがキャリア層のCTEに比べて-15~+15ppm/Kの差であることを意味する。
【0028】
キャリア層の一面側には、後記カール抑制層を介在して、基材層を有する。基材層は、その上にITO膜などの機能層が形成され、RTRプロセス終了後において、キャリア層を剥離除去した後、機能層を支持するガラス代替の透明基材となるものである。よって、基材層は、その全光線透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。基材層の厚みは、薄型化、軽量化、フレキシブル化の要求特性から、極力薄いものがよく、好ましくは50μm以下、より好ましくは5~25μmである。基材層のCTEは、上述のとおり、キャリア層のCTEに近似することがよく、好ましくは10~80ppm/Kである。また、RTRの高温プロセスに適用できる耐熱性が要求されることから、基材層のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは300℃以上、より好ましくは300~450℃である。ガラス代替の樹脂基材として利用されることから、基材層の弾性率は、例えば2~15GPaであるのがよい。
【0029】
キャリア層の一面側において、キャリア層と基材層との間には、ポリイミド樹脂からなるカール抑制層を有する。カール抑制層は、RTRプロセスに適応する観点から、キャリア付基材層の反りを極力抑制するために、キャリア層と基材層との間に形成され、キャリア層及びカール抑制層が基材層を介在させてITO膜などの機能層が形成され、RTRプロセス終了後において、キャリア層が剥離除去される際、キャリア層と共に除去されるものである。そのため、RTRプロセスにおいて反りを極力抑制するために、厚みや熱膨張係数が選択される。よって、カール抑制層の厚みは、好ましくは50μm以下、より好ましくは5~30μmである。また、RTRの高温プロセスに適用できる耐熱性が要求されることから、Tgは、好ましくは300℃以上、より好ましくは300~450℃である。
カール抑制層のCTEは、キャリア層及び基材層とのCTE差が相対的に大きくなるように選定する。例えば、キャリア層及び基材層のCTEが必ずしも同一でなくてもかまわないが、これら双方のCTEに対してカール抑制層のCTEが一定以上の差を有するように選定することがよい。
そのため、カール抑制層のCTEについて、キャリア層とのCTE差、及び基材層とのCTE差は、好ましくは、±15ppm/K以上、より好ましくは、-15~-60ppm/Kの範囲のCTE差である。なお、カール抑制層のCTEは、好ましくは、-10~20ppm/Kである。ここで、CTE差が±15ppm/K以上とは、カール抑制層のCTEが、キャリア層のCTE及び基材層のCTEに比べて、-15ppm/Kよりも差が大きい、または、+15ppm/Kよりも差が大きいことを意味する。
【0030】
キャリア層及び基材層によってなるキャリア付基材が、カール抑制層を、キャリア層及び基材層との間に存在することにより、特に、いわゆるガラス基板の第四世代(680×880mm~730×920mm)以降に相当する比較的大きな積層体にした場合でも、反りの抑制効果を十分に得ることができる。加えて、カール抑制層の存在により、基材層の設計自由度を高めることができる。さらに、キャリア層に付着した異物が基材層に混入しにくい。また、キャリア層の表面状態が基材層に影響しにくいため、安価なポリイミドフィルムを選択できる等、キャリア層の設計自由度を高めることができる。
【0031】
[形態2]
形態2のポリイミド樹脂積層体は、キャリア層の一面側に剥離可能に接着した基材層を有し、さらに該キャリア層の反対面側にカール抑制層を有し、該キャリア層のCTEが該基材層及び該カール抑制層のCTEのいずれよりも小さいか又は大きい。
つまり、キャリア層は、基材層とカール抑制層との間に位置している。この構成であれば、反り抑制の観点から好ましい。なお、例えば、キャリア層のCTEは、好ましくは10~70ppm/Kである。
【0032】
基材層は、その上にITO膜などの機能層が形成され、RTRプロセス終了後において、キャリア層を剥離除去した後、機能層を支持するガラス代替の透明基材となるものである。よって、基材層は、その全光線透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。基材層の厚みは、薄型化、軽量化、フレキシブル化の要求特性から、加工性が損なわれない範囲で、薄いものほどよく、好ましくは50μm以下、より好ましくは5~25μmである。基材層のCTEは、好ましくは1~80ppm/Kである。
また、RTRの高温プロセスに適用できる耐熱性が要求されることから、ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは300℃以上、より好ましくは300~450℃である。ガラス代替の樹脂基材として利用されることから、基材層の弾性率は、例えば2~15GPaであるのがよい。
【0033】
キャリア層の反対面側には、ポリイミド樹脂からなるカール抑制層を有する。カール抑制層は、RTRプロセスに適応する観点から、キャリア付基材層の反りを極力抑制するために、基材層とは反対側に形成され、キャリア層が基材層を介在させてITO膜などの機能層が形成され、RTRプロセス終了後において、キャリア層が剥離除去される際、キャリア層と共に除去されるものである。そのため、RTRプロセスにおいて反り(カール)を極力抑制するために、厚みや熱膨張係数が選択される。よって、カール抑制層の厚みは、好ましくは50μm以下、より好ましくは6~30μmである。また、RTRの高温プロセスに適用できる耐熱性が要求されることから、ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは300℃以上、より好ましくは300~450℃である。
カール抑制層のCTEは、基材層のCTEに近似することがよく、かつ、キャリア層と基材層とのCTE差を打ち消すように選定することがよい。そのため、基材層とのCTE差は、±40ppm/K以内、好ましくは±15ppm/K以内である。例えば、カール抑制層のCTEは、好ましくは1~90ppm/Kである。
【0034】
キャリア層及び基材層によってなるキャリア付基材が、カール抑制層を、基材とは反対側に存在することにより、特に、いわゆるガラス基板の第四世代(680×880mm~730×920mm)以降に相当する比較的大きな積層体にした場合でも、反りの抑制効果を十分に得ることができる。加えて、カール抑制層の存在により、基材層の設計自由度を高めることができる。
【0035】
以下に、形態1及び形態2に共通する内容について、具体的に説明する。
【0036】
カール抑制層として使用されるポリイミド樹脂は、上記特性を満たせば特に制限されないが、例えば、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミドにより形成することが挙げられる。好ましくは、下記一般式(1)で表される構造単位を50モル%以上含有するポリイミドであるのがよい。
【化1】
【0037】
ここで、上記一般式(1)におけるXは、芳香族基又は脂環式基であって、芳香環又は脂環を1個以上有する4価の有機基であり、Rは炭素数1~6の置換基である。このうち、基Xを形成するための原料となる好適な具体例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)等が挙げられる。また、Rの好適な具体例としては、例えば、-CH3、-CF3等が挙げられる。
【0038】
なかでも、Rが-CF3であると、基材層との界面での剥離性を高めることができて、これらの分離を容易にすることができる。
【0039】
なお、上記一般式(1)で表される構造単位以外に含めることができるもの、好適には最大で50モル%未満含むことができるものについては、一般的な酸無水物とジアミンとを用いた構造単位が挙げられる。なかでも好適に用いられる酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノン‐3,4,3',4'‐テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン‐3,4,3',4'-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-(2,2'-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等である。一方、ジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-アミノベンジルオキシフェニル)プロパン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等である。
【0040】
一般に、ポリイミドの熱膨張係数が小さくなると透明性が低下すると共に、厚み方向のリタデーション(複屈折の差による位相差)が高くなってしまう。そのため、RTRプロセス終了後、キャリア層から分離した基材層を、例えば表示装置の樹脂基材として利用したり、ガスバリアフィルム、タッチパネル基板に用いる場合には不向きになる。それに対して、本発明では、反対側のカール抑制層の存在によって、キャリア層に比べて大きな熱膨張係数を有した基材層の使用が許容される。
【0041】
基材層を形成するポリイミドは、ポリイミド樹脂積層体の用途に応じて適宜選択することができる。なかでも、液晶表示装置、有機EL表示装置、電子ペーパー、カラーフィルター、タッチパネル等の表示装置における可撓性を有した樹脂基材として利用する場合には、下記一般式(2)で表される構造単位を有するポリイミドが挙げられ、好ましくは、この一般式(2)で表される構造単位を50モル%以上含有するポリイミドである。なお、この一般式(2)で表される構造単位以外に含めることができるもの(好適には最大で50モル%未満含有するもの)については、透明性を阻害しない限り、一般式(1)で説明したものと同様のものが挙げられる。好適に用いられる酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノン‐3,4,3',4'‐テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン‐3,4,3',4'-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-(2,2'-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等である。一方、ジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-アミノベンジルオキシフェニル)プロパン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等である。
【化2】
【0042】
上記一般式(2)において、Yは、芳香族又は脂環式の4価の有機基であるが、好ましくは、下記式(3)で示したいずれかである。
【化3】
【0043】
なかでも、基材層として、440nmから780nmの波長領域での500nmにおける透過率が80%以上であり、かつ、厚さ方向のリタデーションが200nm以下のポリイミド樹脂を得る観点から、より好ましくは、下記式(4)で示したいずれかである。
【化4】
【0044】
好適には、下記式(5)で表されるポリイミド樹脂である。
【化5】
【0045】
キャリア層として使用されるポリイミド樹脂は、上述した特性を満たせば特に制限されないが、例えば、一般に入手可能なものとしてカプトン(東レ・デュポン社製)、ユーピレックス(宇部興産社製)、アピカル(カネカ社製)或いはこれらに類する構造を有する市販のポリイミドを使用してもよいし、以下に詳述するようにジアミンと酸二無水物から合成して得ることができる。
【0046】
上述した各種ポリイミドは、ポリイミド前駆体(以下、ポリアミド酸ともいう)をイミド化して得られるが、ポリアミド酸の樹脂溶液は、原料であるジアミンと酸二無水物とを実質的に等モル使用し、有機溶媒中で反応させることによって得ることができる。詳しくは、例えば、窒素気流下にN,N-ジメチルアセトアミド等の有機極性溶媒にジアミンを溶解させた後、テトラカルボン酸二無水物を加えて、室温で5時間程度反応させることにより得ることができる。ここで、塗工時の膜厚均一化や、得られるポリイミドの機械強度の観点から、ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は1万から30万程度が好ましい。ポリイミド樹脂の好適な分子量範囲もポリアミド酸と同じ分子量範囲である。
【0047】
本発明における基材層及びカール抑制層は、好ましくは、それぞれポリイミド又はポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布・乾燥し、加熱処理する、いわゆるキャスト法により得られたものであるのがよい。すなわち、本発明のポリイミド樹脂積層体を得るにあたって、好適には、キャリア層の一面側または両面に、それぞれ、ポリイミド又はポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布・乾燥し、加熱処理することにより、基材層及びカール抑制層を形成することができる。例えば、乾燥などのために90~130℃にて5~30分程度の予備加熱処理を行った後、さらにイミド化のため130~360℃にて10~240分程度の高温加熱処理を行うことが好ましい。
【0048】
このようにして得られたポリイミド樹脂積層体は、基材層と該基材層に接している層(キャリア層またはカール抑制層)との界面で分離可能になるが、これらの界面での分離を容易にするには、好ましくは、基材層が、ポリイミド構造中にフッ素原子を有した含フッ素ポリイミドから形成されるようにするのがよい。このような含フッ素ポリイミドを用いることで、基材層と該基材層に接している層との剥離強度を好適には1~200N/m、より好適には1~100N/mにすることができるため、例えば人の手で容易に剥離できる程度の分離性を備える。また、基材層の分離面は、キャスト法によって得られる表面粗さ(一般に表面粗さRa=1~80nm程度)がそのまま維持されるため、表示装置の視認性等に悪影響を及ぼすようなこともない。
【0049】
本発明においては、異なる材料が積層されたポリイミド樹脂積層体について、以下のような考えのもと、反り変形(反り量)を計算により求めて、ポリイミド樹脂積層体の最適化を図ることができる。すなわち、簡便な材料力学計算をベースに、自重の影響を三次元的材料力学計算によって算出したうえで反り変形(反り量)に加味し最終的な反り量を求めた。計算方法としては、熱変形と自重が釣り合った状態の最終的な反り変形について、積層シェル要素を用いて離散化し数値計算的にコンピューターで演算を実施する有限要素法を用いた。(
図3参照)
【0050】
本発明のポリイミド樹脂積層体は、上述したように、基材層上に機能部材を備えた表示装置を得るのに好適に用いることができる。すなわち、基材層上に所定の機能層を形成した後、カール抑制層と基材層との界面で、または、基材層とキャリア層との界面で、分離すればよい。ここで、キャリア層は、基材層側に表示部を形成する際の台座の役割をするものであり、表示部の製造過程で基材層の取扱性や寸法安定性等を担保することはあっても、最終的には除去されて表示装置を構成するものではない。同様に、カール抑制層についても、キャリア層に同伴して分離され、同様に最終的に除去されて表示装置を構成するものではなく、仮に透明性に劣るものであっても何ら構わない。このようなポリイミド樹脂積層体を利用することにより、所定の機能層を基材層上に精度良くかつ確実に形成することができると共に、薄型・軽量・フレキシブル化を実現した表示装置を得ることができる。
【0051】
基材層上に形成される機能層については、特に制限されない。例えば、有機EL表示装置の場合には、代表的には、TFT、電極、発光層を含む有機EL素子等が表示部に相当する。また、液晶表示装置の場合には、TFT、駆動回路、必要に応じてカラーフィルター等である。これらのほか、電子ペーパーやMEMSディスプレイ等のような各種表示装置を含めて、従来、ガラス基板上に形成している種々の機能層であって、所定の映像(動画又は画像)を映し出すのに必要な部品が表示部に相当する。このうち、例えば、TFTの形成には、一般に400℃程度のアニール工程が必要になるが、本発明におけるポリイミド樹脂積層体は、このようなアニール工程にも耐え得る耐熱性を有する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0053】
1.各種物性測定および性能試験方法
【0054】
[剥離強度]
基材層-(カール抑制層)-キャリア層間の剥離強度は、積層体を、幅が1mm~10mm、長さが10mm~25mmの短冊状に加工し、東洋精機株式会社製引張試験機(ストログラフ-M1)を用いて、キャリア層を180°方向に引き剥がし、剥離強度を測定した。なお、剥離強度が強固であり、剥離が困難であるものは「剥離不可」とした。
【0055】
[透過率]
20μm厚の基材層を5cm角に切り出し、これを日本電色工業製のHAZE METER NDH-5000を用いて、380nmから780nmの透過率の測定を行った。
【0056】
[Ra]
基材層、キャリア層及びカール抑制層を、それぞれ単独で3cm角に切り出し、これをブルカー・エイエックスエス製のAFMを用いて、Raの測定を行った。
【0057】
[CTE]
基材層、キャリア層及びカール抑制層のCTEは、それぞれを3mm×15mm角に切り出し、これをセイコーインスツルメント製の熱機械分析(TMA)装置にて5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度(10℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、100℃~250℃での温度に対するボリイミドフィルムの伸び量からCTE(×10-6/K)を測定した。
【0058】
[反り]
積層フィルムから1辺が100mmの正方形サンプルをカッターナイフで切り出し、23℃50%で24時間調湿した後、定盤にのせ4角の浮き上がり高さをノギスで測定し、その平均値を反り(カール)とした。
【0059】
2.ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の合成
以下の合成例や実施例等に用いた原料を以下に示す。
【0060】
〔芳香族ジアミノ化合物〕
・4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)
・2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(mTB)
・1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)
・2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)
・1,4-フェニレンジアミン(PPD)
〔芳香族テトラカルボン酸の酸無水物〕
・無水ピロメリット酸(PMDA)
・2,2-ビス(3,4-アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)
・2,3,2’,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)
〔溶剤〕
・N,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)
【0061】
合成例1
窒素気流下で、TFMB(9.4g、0.03mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc127.5g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、6FDA(13.09g、0.03mol)を加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸ワニスAを得た。なお、このポリアミド酸ワニスAを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Aが得られる。
【0062】
合成例2
窒素気流下で、m-TB10.2gとTPE-R1.6gをモル比90:10で、300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、PMDA9.2gとBPDA3.1gをモル比90:10で加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスBを得た。なお、このポリアミド酸ワニスBを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Bが得られる。
【0063】
合成例3
窒素気流下で、TFMB(12.6g、0.04mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc127.5g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、6FDA(2.2g、0.005mol)とPMDA(7.7g、0.035mol)をモル比12.5:87.5で加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、150gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスCを得た。なお、このポリアミド酸ワニスCを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Cが得られる。
【0064】
合成例4
窒素気流下で、m-TB(14.4g、0.07mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、PMDA(13.6g 0.06mol)とBPDA(2g、0.007mol)をモル比90:10で加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスDを得た。なお、このポリアミド酸ワニスDを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Dが得られる。
【0065】
合成例5
窒素気流下で、ジアミンとしてTPE-R(14.8g、0.05mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、酸無水物としてBPDA(15.2g,0.05mol)を加えた。ジアミンと酸無水物のモル比が実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸ワニスEを得た。なお、このポリアミド酸ワニスEを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Eが得られる。
【0066】
合成例6
窒素気流下で、m-TB:TPE-Rがモル比で90:10になるように300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、PMDA:BPDAのモル比が80:20になるように加えた。ジアミンと酸無水物のモル比は実質的に1:1になるようにした。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸Fワニスを得た。なお、このポリアミド酸Fワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Fが得られる。
【0067】
合成例7
窒素気流下で、TFMB(16.93g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(10.12g)と6FDA(2.95g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸Hワニスを得た。なお、このポリアミド酸Hワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Hが得られる。
【0068】
合成例8
窒素気流下で、BAPP(19.45g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(9.85g)とBPDA(0.70g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸Iワニスを得た。なお、このポリアミド酸Iワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Iが得られる。
【0069】
合成例9
窒素気流下で、4,4‘-DAPE(8.97g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(8.95g)とBPDA(12.08g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの褐色の粘稠なポリアミド酸Jワニスを得た。なお、このポリアミド酸Jワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Jが得られる。
【0070】
合成例10
窒素気流下で、4,4‘-DAPE(8.14g)とPPD(4.40g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc(170g)中に加え溶解させた。次いで、PMDA(17.45g)を加えた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの褐色の粘稠なポリアミド酸Kワニスを得た。なお、このポリアミド酸Kワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Kが得られる。
【0071】
3.塗工によるポリイミド(PI)層の形成
キャリア層として、2種類のポリイミドフィルムを使用した。
1)ポリイミドフィルム1:中国寧波今山製、厚み=0.75mm、CTE=45ppm/K、Ra=3nm(以下、キャリアフィルム1ともいう。)
2)ポリイミドフィルム2:中国Rayitek製、厚み=0.75mm、CTE=45ppm/K、Ra=10nm(以下、キャリアフィルム2ともいう。)
【0072】
実施例1
キャリアフィルム1(幅520mm×長さ500m×厚さ75μm)を、巻出し部、リップコーター、連続乾燥炉、連続炉及び巻き取り部を備えた、例えば
図3に示すRTR方式の塗工乾燥硬化設備で2m/minの速度で巻出しながら、ポリアミド酸ワニスBをモーノポンプを用いて膜厚が45μmになるように塗布した。これを複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間乾燥して、さらに複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉に通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計25分間段階的に加熱し、キャリアフィルム上に、カール抑制層としてのポリイミド樹脂Bが形成されたロールを作成した。次に、このロールを同じ塗工乾燥装置の巻出し部にセットし、ポリイミド樹脂Bの上に、ポリイミド酸ワニスAを100μm塗布し、複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間で乾燥して、さらに、複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉に通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計20分間段階的に加熱し、基材層としての厚さ10μmのポリイミド樹脂Aを形成し、ロール状のポリイミド樹脂積層体(積層体1)を得た。
積層体1の各層の厚さは、キャリア層が75μm、カール抑制層が4.5μm、基材層が10μmであった。積層体1の層構造を、
図1に模式的に示す。キャリアフィルム4の一面側に、カール抑制層3を介在して基材層2が積層した構造となっている(形態1)。なお、積層体の基材層2上に、以下の方法によって、機能層1を形成する。
【0073】
次に、上記ロール状のポリイミド樹脂積層体について、巻出し部、搬送ロール、プロセス処理部及び巻き取り部を備えた、RTR方式の装置を用いて、2m/minの速度で、基材層が上になるように長手方向に巻出しながら、搬送ロールを経由して真空チャンバー内に設置されたプロセス処理部に導入させて、基材層に、スパッタリング法により厚さ50nmの機能層としてのITOを連続処理により成膜し、機能層付ポリイミド基板フィルムとして巻き取った。
さらに、機能層付ポリイミド基板フィルム370×450mmのシート状にカットし、製膜したITOについて、一方向(X方向)及び他方向(Y方向)のXY方向に透明回路加工を行った。その際、Y回路のX回路との交点は回路を形成しなかった。
続いて、XY回路の交点にオーバーコートを塗布して250℃で熱処理してオーバーコート層を硬化させ、銀ペーストを用いて、オーバーコート層をまたいでブリッジ加工を行ってXY回路を完成させ、さらに、ITO成膜側の全面にオーバーコートを塗布し、270℃でアニール処理を行い、オーバーコートの硬化及びITOの結晶化を行った。
最後に、カバーガラスにITO製膜側の表面にOCA(透明粘着シート)を貼りつけ、その後キャリアフィルム及びカール抑制層を機械的に剥離し、基材層上に機能層が形成されたタッチパネル基板を完成させた。
【0074】
比較例1
カール抑制層を形成することなく、実施例1と同様にキャリアフィルム1に基材層としてのポリイミド樹脂A(厚さ10μm)を形成して、ポリイミド樹脂積層体(積層体C1)を得た。
この積層体C1は、反り(カール)が大きくタッチパネルの製造工程でITO製膜をシート状にカットしたときに反りのためマスクとの位置合わせができず、XY方向の透明回路加工できず、タッチパネルは作成できなかった。
【0075】
実施例2
キャリアフィルム1(幅520mm×長さ500m×厚さ75μm)を、巻出し部、リップコーター、連続乾燥炉、連続炉及び巻き取り部を備えた、例えば
図3に示すRTR方式の塗工乾燥硬化設備で2m/minの速度で巻出しながら、ポリアミド酸ワニスEをモーノポンプを用いて膜厚が100μmになるように塗布した。これを複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間乾燥して、キャリアフィルム上に、カール抑制層としてのポリイミド樹脂Eが形成されたロールを作成した。次に、このロールを同じ塗工乾燥装置の巻出し部にセットし、ポリイミド樹脂Eの反対側に、ポリアミド酸ワニスAを100μm塗布し、複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間で乾燥して、さらに、複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉に通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計20分間段階的に加熱し、基材層としての厚さ10μのポリイミド樹脂Aを形成し、ロール状のポリイミド樹脂積層体(積層体2)を得た。
積層体2の各層の厚さは、キャリアフィルムが75μm、カール抑制層が13μm、基材層が10μmであった。積層体2の層構造は、
図1において、カール抑制層3とキャリアフィルム4とを逆に積層した構造であり、キャリアフィルム4の一面側にカール抑制層3、反対面側に基材層2が積層されている(形態2)。
【0076】
次に、積層体2について、実施例1と同様の方法で、基材層上に機能層が形成されたタッチパネル基板を完成させた。
【0077】
実施例3
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスCを、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスEに替えてポリアミド酸ワニスDを使用した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体3)を得た。
積層体3の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が12μm、カール抑制層が13μmであった。
この積層体2の上に、実施例1と同様の方法で、ITO及びXY回路を製膜し、タッチパネルを得た。
【0078】
実施例4
キャリアとしてポリイミドフィルム2を用い、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスCに替えてポリアミド酸ワニスFを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体4)を得た。
積層体4の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が4μmであった。
【0079】
実施例5
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスHを、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスEを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体5)を得た。
積層体5の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が50μmであった。
【0080】
実施例6
基材層及びカール抑制層の厚さ以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体6)を得た。
積層体6の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が13μmであった。
【0081】
実施例7
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスHを使用し、カール抑制層としてポリアミド酸ワニスEに替えてBを使用した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体7)を得た。
積層体7の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が15μmであった。
【0082】
比較例2
カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスIを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C2)を得た。
積層体C2の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が4μmであった。
【0083】
比較例3
カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスEに替えてポリアミド酸ワニスJを使用した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C3)を得た。
積層体C3の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が15μmであった。
【0084】
比較例4
カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスIを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C4)を得た。
積層体C4の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が13μmであった。
【0085】
比較例5
実施例4のポリアミック酸Aの代わりにポリアミック酸Hを用いポリアミック酸Eの代わりにポリアミック酸Kを用いた以外は実施例1と同様に行った。
基材層として、ポリアミド酸ワニスAに替えてポリアミド酸ワニスHを、カール抑制層として、ポリアミド酸ワニスBに替えてポリアミド酸ワニスKを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリイミド樹脂積層体(積層体C5)を得た。
積層体C5の各層の厚さは、キャリア層が75μm、基材層が10μm、カール抑制層が13μmであった。
【0086】
これらの実施例及び比較例で得られたポリイミド樹脂積層体の物性を、表1に示す。
【0087】
【符号の説明】
【0088】
1 機能層
2 基材層
3 カール抑制層
4 キャリア層(キャリアフィルム)
10 積層体
11 スパッタ装置
12、13 ガイドロール
14 巻出ロール
15 巻取ロール