IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

特許7030953判定装置、細胞剥離回収装置及び判定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】判定装置、細胞剥離回収装置及び判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220228BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220228BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20220228BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220228BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20220228BHJP
   G02B 27/50 20060101ALN20220228BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12M1/00 C
C12M3/00 A
C12Q1/04
G06T7/00 630
G02B27/50
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020502085
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2019001886
(87)【国際公開番号】W WO2019163369
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2018027904
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 慎市
(72)【発明者】
【氏名】占部 貴之
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-198709(JP,A)
【文献】特開2010-020151(JP,A)
【文献】特開2010-223676(JP,A)
【文献】特開2008-256610(JP,A)
【文献】特開2008-268599(JP,A)
【文献】特開2007-178426(JP,A)
【文献】特開2014-113062(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013395(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12M 3/00
C12M 1/00
C12Q 1/04
G06T 7/00
G02B 27/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絵柄が描画された描画面と、
前記描画面に撮像視野が設定された撮像部と、
細胞を培養する培養容器の光透過性を有する培養面を前記描画面と前記撮像部との間に配置し、前記絵柄の像が前記撮像部の撮像面に結像された状態で前記撮像部によって取得された前記絵柄の画像に基づいて、前記培養面に付着している細胞の有無を判定する判定部と、
を含み、
前記判定部は、前記絵柄の輪郭線に対応する画像部分における歪み及びボケの少なくとも一方に基づいて前記培養面に付着している細胞の有無を判定する
判定装置。
【請求項2】
絵柄が描画された描画面と、
前記描画面に撮像視野が設定された撮像部と、
細胞を培養する培養容器の光透過性を有する培養面を前記描画面と前記撮像部との間に配置した状態で前記撮像部によって取得された前記絵柄の画像に基づいて、前記培養面に付着している細胞の有無の判定を行う判定部と、
を含み、
前記判定部は、前記培養容器に収容された液体が撮影光路に入らないように除去された状態における前記絵柄の画像に基づいて前記判定を行う
判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記絵柄の輪郭線に対応する画像部分における歪み及びボケの少なくとも一方に基づいて前記培養面に付着している細胞の有無を判定する
請求項に記載の判定装置。
【請求項4】
前記絵柄は、互いに隣接して配置された明部と暗部とを含む
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項5】
前記絵柄は、前記明部と前記暗部とが交互に配置された繰り返しパターンを有する
請求項に記載の判定装置。
【請求項6】
細胞が前記培養面に付着している領域の面積を導出する導出部を更に含む
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項7】
細胞が前記培養面に付着している領域の面積の、前記培養面の面積に対する割合を導出する導出部を更に含む
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項8】
前記絵柄の一部は光透過性を有し、前記描画面を間に挟んで前記撮像部の反対側に配置された光源を更に含む
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項9】
前記絵柄は発光素子により形成される
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項10】
前記描画面はマトリックス状に配置された複数の画素を含み、
前記複数の画素の各々の、光の透過状態または発光状態が制御されることにより前記絵柄が形成される
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項11】
前記撮像部は、前記培養面の全体を撮像視野に含んだ状態で前記絵柄の画像を取得する
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の判定装置と、
前記培養容器を収容する収容空間を有し、前記収容空間の温度を一定に保つ恒温槽と、
前記培養容器を搬送する搬送部と、
前記培養面に付着している細胞を剥離する薬液を前記培養容器に添加する薬液添加部と
前記培養容器から前記薬液を除去する薬液除去部と、
前記培養面から剥離した細胞を回収する細胞回収部と、
を有する細胞剥離回収装置。
【請求項13】
絵柄が描画された描画面に撮像部の撮像視野を設定し、
前記描画面と前記撮像部との間に、細胞を培養する培養容器の培養面を配置し、前記絵柄の像が前記撮像部の撮像面に結像された状態で、前記撮像部によって前記絵柄の画像を取得し、
前記絵柄の輪郭線に対応する画像部分における歪み及びボケの少なくとも一方に基づいて前記培養面に付着している細胞の有無を判定する
判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定装置、細胞剥離回収装置及び判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養装置に関する技術として、以下の技術が知られている。例えば、特開2014-113062号公報には、培養容器の底面に接着した細胞を掻き取るためのスクレーパと、培養容器の底面から剥離された細胞を培地と共に吸引するピペット装置と、ピペット装置で処理された培養容器を撮像し、培養容器内に細胞が残っているか否かを判定する細胞観察装置と、を備えた、細胞剥離システムが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
培養容器の培養面に細胞を接着させて培養を行う接着培養における継代処理は、培養容器の培養面に接着した細胞を酵素剤等の薬液を用いて培養面から剥離する剥離処理を行い、剥離した細胞を回収し、回収した細胞を新たな培養容器にて培養する処理である。継代処理では、剥離処理後に培養面に残留している細胞が多いと細胞ロスが発生し培養効率が低下してしまう。そのため剥離処理後の培養面に残留している細胞の有無を判定し、残留している細胞の量が一定以上である場合、剥離処理を継続または再開する。しかしながら、培養面に残留している細胞の有無の判定を作業者の目視で行う場合、細胞の有無の判定精度が、作業者間でばらつき、その結果、細胞の回収量が作業者間でばらつくという問題がある。
【0004】
特許文献1には、剥離処理後の培養容器を撮像して得られた画像から培養容器内に残留する細胞の有無を判定することが記載されている。しかしながら、特許文献1には、培養容器内に残留する細胞の有無を判定する具体的な手法については記載されていない。例えば、細胞が光透過性を有する場合、培養容器を撮像した画像から細胞が残留している領域を特定することは困難であり、従って、培養容器内に残留する細胞の有無を判定することは困難であると考えられる。
【0005】
開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであり、培養容器の培養面に付着している細胞の有無を適確に判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術に係る判定装置は、絵柄が描画された描画面と、描画面に撮像視野が設定された撮像部と、細胞を培養する培養容器の光透過性を有する培養面を描画面と撮像部との間に配置し、絵柄の像が撮像部の撮像面に結像された状態で撮像部によって取得された絵柄の画像に基づいて、培養面に付着している細胞の有無を判定する判定部と、を含む。判定部は、絵柄の輪郭線に対応する画像部分における歪み及びボケの少なくとも一方に基づいて培養面に付着している細胞の有無を判定する。
【0007】
開示の技術に係る判定装置によれば、細胞が光透過性を有する場合でも、培養容器の培養面に付着している細胞の有無を適確に判定することが可能となる。
【0008】
開示の技術に係る他の判定装置は、絵柄が描画された描画面と、描画面に撮像視野が設定された撮像部と、細胞を培養する培養容器の光透過性を有する培養面を描画面と撮像部との間に配置した状態で撮像部によって取得された絵柄の画像に基づいて、培養面に付着している細胞の有無の判定を行う判定部と、を含む。判定部は、培養容器に収容された液体が撮影光路に入らないように除去された状態における絵柄の画像に基づいて判定を行う。
【0009】
絵柄は、互いに隣接して配置された明部と暗部とを含んでいてもよい。これにより、判定部における判定を、より適確に行うことが可能となる。
【0010】
絵柄は、明部と暗部とが交互に配置された繰り返しパターンを有していてもよい。これにより、判定部における判定の処理を簡略化することができ、処理時間を短くすることが可能となる。
【0011】
開示の技術に係る判定装置は、細胞が培養面に付着している領域の面積を導出する導出部を更に含んでいてもよい。また、開示の技術に係る判定装置は、細胞が培養面に付着している領域の面積の、培養面の面積に対する割合を導出する導出部を更に含んでいてもよい。これにより、判定部において、細胞の回収効率と、処理コストとを考慮した、より適確な判定を行うことが可能となる。
【0012】
絵柄の一部は光透過性を有していてもよく、この場合、開示の技術に係る判定装置は、描画面を間に挟んで撮像部の反対側に配置された光源を更に含んでいてもよい。また、絵柄は、発光素子により形成されていてもよい。これらの態様によれば、絵柄のコントラストを大きくすることができ、判定部における判定の精度を高めることができる。
【0013】
描画面はマトリックス状に配置された複数の画素を含んでいてもよく、複数の画素の各々の、光の透過状態または発光状態が制御されることにより絵柄が形成されてもよい。この態様によれば、絵柄のパターンを適宜変化させることが可能となる。
【0014】
撮像部は、培養面の全体を撮像視野に含んだ状態で絵柄の画像を取得してもよい。この態様によれば、培養面の全体について細胞の付着の有無を判定する場合、撮像部による撮像の回数を少なくすることができる。
【0015】
開示の技術に係る細胞剥離回収装置は、上記の判定装置と、培養容器を収容する収容空間を有し、収容空間の温度を一定に保つ恒温槽と、培養容器を搬送する搬送部と、培養面に付着している細胞を剥離する薬液を培養容器に添加する薬液添加部と培養容器から薬液を除去する薬液除去部と、培養面から剥離した細胞を回収する細胞回収部と、を有する。
【0016】
開示の技術に係る剥離回収装置によれば、開示の技術に係る判定装置と同様の効果を得ることができ、更に、培養面に付着している細胞を剥離する剥離処理と、細胞面に付着している細胞の有無を判定する判定処理とを自動化することができる。
【0017】
開示の技術に係る判定方法は、絵柄が描画された描画面に撮像部の撮像視野を設定し、描画面と撮像部との間に、細胞を培養する培養容器の光透過性を有する培養面を配置した状態で、撮像部によって絵柄の画像を取得し、絵柄の画像に基づいて、培養面に付着している細胞の有無を判定する、というものである。
【0018】
開示の技術に係る判定方法によれば、細胞が光透過性を有する場合でも、培養容器の培養面に付着している細胞の有無を適確に判定することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
培養容器の培養面に付着している細胞の有無を適確に判定する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】開示の技術の実施形態に係る判定装置の構成の一例を示す図である。
図2A】開示の技術の実施形態に係る培養容器の構成の一例を示す斜視図である。
図2B図2Aにおける2B-2B線に沿った断面図である。
図3A】開示の技術の実施形態に係る描画面に描画される絵柄の一例を示す図である。
図3B】開示の技術の実施形態に係る描画面に描画される絵柄の一例を示す図である。
図3C】開示の技術の実施形態に係る描画面に描画される絵柄の一例を示す図である。
図4】開示の技術の実施形態に係る判定部のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5】開示の技術の実施形態に係る判定部における判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】開示の技術の実施形態に係る判定装置を備えた、開示の技術の実施形態に係る細胞剥離回収装置の構成の一例を示す図である。
図7】開示の技術の実施形態に係る細胞剥離回収装置の動作シーケンスの一例を示すフローチャートである。
図8A】開示の技術の実施形態に係る撮像部によって取得される絵柄の画像の一例を示す図である。
図8B】開示の技術の実施形態に係る撮像部によって取得される絵柄の画像の一例を示す図である。
図9A】開示の技術の実施形態に係る細胞回収部において細胞を回収している様子を示す図である。
図9B】開示の技術の実施形態に係る細胞回収部において細胞を回収している様子を示す図である。
図10A】開示の技術の実施形態に係る培養容器を撮像位置に位置決めする他の方法の一例を示す図である。
図10B】開示の技術の実施形態に係る培養容器を撮像位置に位置決めする他の方法の一例を示す図である。
図11】開示の技術の実施形態に係る培養容器の構成の他の例を示す図である。
図12A】開示の技術の実施形態に係る培養面から酵素剤を除去する他の方法の一例を示す図である。
図12B】開示の技術の実施形態に係る培養面から酵素剤を除去する他の方法の一例を示す図である。
図12C】開示の技術の実施形態に係る培養面から酵素剤を除去する他の方法の一例を示す図である。
図13】開示の技術の実施形態に係る培養容器の培養面から剥離した細胞を回収する他の方法の一例を示す図である。
図14】開示の技術の実施形態に係る判定装置の構成の他の例を示す図である。
図15】開示の技術の実施形態に係る判定装置の構成の他の例を示す図である。
図16】開示の技術の実施形態に係る判定装置の構成の他の例を示す図である。
図17A】開示の技術の実施形態に係る導出部における導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図17B】開示の技術の実施形態に係る導出部における導出処理の流れの他の例を示すフローチャートである。
図18】開示の技術の実施形態に係る判定装置を用いた判定方法の他の例を示す図である。
図19A】開示の技術の実施形態に係る、細胞が付着していない状態の培養面越しに撮像された絵柄の画像の一例を示す図である。
図19B】開示の技術の実施形態に係る、細胞が付着している状態の培養面越しに撮像された絵柄の画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0022】
図1は、開示の技術の実施形態に係る判定装置1の構成の一例を示す図である。判定装置1は、絵柄21が描画された描画面20と、描画面20に撮像視野が設定された撮像部30と、判定部40とを、含んで構成されている。判定部40は、培養容器10の培養面11を、描画面20と撮像部30との間に配置した状態で撮像部30によって取得された絵柄21の画像に基づいて、培養面11に付着している細胞の有無を判定する。
【0023】
図2Aは、培養容器10の構成の一例を示す斜視図であり、図2Bは、図2Aにおける2B-2B線に沿った断面図である。培養容器10の外形形状は、特に限定されないが、例えば、図2Aに示すように天板10A及び天板10Aに対向する底板10Bを含む直方体であってもよい。培養容器10の天板10Aには、開閉可能な2つのキャップ12が設けられている。キャップ12を開けることで、培養容器10内に培地及び酵素剤等の薬液を注入したり、培養容器10内から薬液を排出したり、培養容器10内から細胞を取り出したりすることが可能である。キャップ12を閉めることで、培養容器10の内部空間が封鎖される。
【0024】
底板10Bの、培養容器10の内側の面は、培養面11とされており、培養容器10内で培養される細胞200は、培養面11に接着した状態で培養される。培養容器10は、少なくとも、天板10A及び底板10Bが光透過性を有する。判定装置1を用いて培養面11に付着している細胞の有無を判定する場合、培養容器10は、描画面20と撮像部30との間に配置される。このとき、培養容器10は、底板10Bが描画面20側となり、天板10Aが撮像部30側となる向きに配置される。なお、培養容器10は、底板10Bが撮像部30側となり、天板10Aが描画面20側となる向きに配置されてもよい。
【0025】
描画面20は、例えば、板状部材、シート状部材、フィルム状部材の表面によって構成されていてもよく、絵柄21は、これらの部材の表面に描画されていてもよい。描画面20において絵柄21が描画されている領域の面積は、培養容器10の培養面11の面積よりも大きいことが好ましい。
【0026】
図3A図3B図3Cは、それぞれ、描画面20に描画される絵柄21の一例を示す図である。絵柄21は、明部21Aと暗部21Bとを含んで構成されている。絵柄21は、明部21Aと暗部21Bとの境界が、描画面20の全域に及んでいることが好ましい。また、絵柄21は、図3A図3Cに示すように、明部21Aと暗部21Bとが交互に配置された繰り返しパターンを含んでいることが更に好ましい。
【0027】
絵柄21は、例えば、図3Aに示すように、正方形の明部21A及び暗部21Bが、縦方向及び横方向に交互に配置された、いわゆるチェック模様を形成するものであってもよい。また、絵柄21は、例えば、図3Bに示すように、一方向に延びる直線状の明部21A及び暗部21Bが、上記一方向と交差する交差方向に交互に配置された、いわゆるストライプ模様を形成するものであってもよい。また、絵柄21は、例えば、図3Cに示すように、第1の方向に延びる直線状の複数の暗部21Bが、上記第1の方向と交差する第2の方向に一定の間隔を隔てて配置されるとともに、上記第2の方向に延びる直線状の複数の暗部21Bが、上記第1の方向に一定の間隔を隔てて配置され、且つ暗部21B以外の領域に明部21Aが配置された、いわゆる格子模様を形成するものであってもよい。
【0028】
描画面20が、光透過性を有さない部材の表面によって構成される場合、描画面20の例えば白色で描画された部分を明部21Aとし、描画面20の例えば黒色で描画された部分を暗部21Bとしてもよい。一方、描画面20が、光透過性を有する部材の表面によって構成される場合、例えば描画面20に着色を施すこと等により描画面20の光透過率を低下させた部分を暗部21Bとし、描画面20に着色を施さないことにより描画面20の光透過率を維持した部分を明部21Aとしてもよい。
【0029】
撮像部30は、例えば、デジタルカメラ等の撮像装置を含んで構成されている。撮像部30は、描画面20に描画された絵柄21を、培養容器10の天板10A及び底板10B越しで細胞培養液や酵素剤等の液体が撮影光路に入らないように除去された条件で撮像する。すなわち、描画面20に描画された絵柄21の像が、培養容器10の底板10B及び天板10Aを介して撮像部30の撮像面に結像される。撮像部30の撮像視野内には、培養面11の全体が含まれていることが好ましい。撮像部30は、絵柄21の画像データを生成し、生成した画像データを判定部40に供給する。
【0030】
判定部40は、撮像部30によって生成された絵柄21の画像データを解析することで、培養面11に付着している細胞の有無を判定する判定処理を行う。ここで、図4は、判定部40のハードウェア構成の一例を示す図である。判定部40は、コンピュータ500を含んで構成されている。すなわち、判定部40は、CPU(Central Processing Unit)501、一時記憶領域としての主記憶装置502、不揮発性の補助記憶装置503、撮像部30との間で通信を行うための通信I/F(InterFace)504、及び液晶ディスプレイ等の表示部505を含んで構成されている。CPU501、主記憶装置502、補助記憶装置503、通信I/F504、及び表示部505は、それぞれ、バス507に接続されている。補助記憶装置503には、上記判定処理の手順を記述した判定プログラム506が格納されている。判定部40は、CPU501が判定プログラム506を実行することで、判定処理を行う。
【0031】
図5は、判定部40における判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。ステップS1において、判定部40は、撮像部30によって生成された絵柄21の画像データを取得する。
【0032】
ステップS2において、判定部40は、絵柄21の画像データを解析し、絵柄21の輪郭線に対応する画像部分に歪みまたはボケが生じているか否かを判定する。なお、絵柄21の輪郭線とは、明部21Aと暗部21Bの境界を意味する。
【0033】
ここで、培養容器10内で培養される細胞は、可視光に対して透明または半透明であることが想定される。従って、培養容器10の培養面11に細胞が付着している場合、描画面20に描画された絵柄21の像は、培養面に付着した細胞を介して撮像部30の撮像面に結像される。この場合、撮像部30によって取得される絵柄21の画像における、絵柄21の輪郭線(明部21Aと暗部21Bの境界)に対応する画像部分には、細胞と細胞の周囲の媒質との屈折率差及び細胞内における光の散乱などの影響により、歪みまたはボケが生じる。輪郭線に歪みが生じるとは、明部21Aと暗部21Bの境界線が湾曲することを意味する。輪郭線にボケが生じるとは、明部21Aと暗部21Bのコントラストが低下することを意味する。図19Aは、細胞が付着していない状態の培養面11越しに撮像された絵柄21の画像の一例である。図19Bは、細胞が付着している状態の培養面11越しに撮像された絵柄21の画像の一例である。図19A図19Bとを比較して明らかなように、培養面11に細胞が付着している場合、絵柄21の輪郭線(明部21Aと暗部21Bの境界)に対応する画像部分に歪み及びボケが生じているのが確認できる。
【0034】
絵柄21の輪郭線の画像部分にボケが生じている場合、絵柄21の画像において、空間周波数の低下が生じるものと考えらえる。従って、判定部40は、例えば、培養面11に細胞が付着していない状態で予め取得した絵柄21の画像の空間周波数またはコントラストを基準とし、判定対象の絵柄21の画像の空間周波数またはコントラストと、上記基準との差分が閾値以上である場合に、絵柄21の輪郭線に対応する画像部分にボケが生じていると判定してもよい。また、判定部40は、例えば、培養面11に細胞が付着していない状態で予め取得した絵柄21の画像における輪郭線を基準とし、判定対象の絵柄21の画像における輪郭線の、上記基準からのずれ量が閾値以上である場合に、絵柄21の輪郭線に対応する画像部分に歪みが生じていると判定してもよい。
【0035】
判定部40は、絵柄21の輪郭線に対応する画像部分に歪みまたはボケが生じていると判定した場合、ステップS3において、「培養容器10の培養面11に付着している細胞有り」と判定する。一方、判定部40は、絵柄21の輪郭線に対応する画像部分に歪みまたはボケが生じていないと判定した場合、ステップS4において、「培養容器10の培養面11に付着している細胞無し」と判定する。
【0036】
ステップS5において、判定部40は、判定結果を出力する。判定部40は、例えば、判定結果をディスプレイ(図示せず)上に表示させてもよい。また、判定部40は、判定結果を音声により出力してもよいし、紙面に印刷されたテキストによって出力してもよい。
【0037】
図6は、判定装置1を備えた、開示の技術の実施形態に係る細胞剥離回収装置2の構成の一例を示す図である。細胞剥離回収装置2は、判定装置1を構成する描画面20、撮像部30及び判定部40に加え、恒温槽110、搬送部120、キャップ開閉部130、薬液除去部140、薬液添加部150及び細胞回収部160を有する。
【0038】
恒温槽110は、複数の培養容器10を収容する収容空間を有し、収容空間の温度を一定(例えば37℃)に保つ。
【0039】
搬送部120は、培養容器10を把持する把持機構121を有するアーム型のロボットである。搬送部120は、培養容器10を把持機構121によって把持した状態で、恒温槽110、キャップ開閉部130、薬液除去部140、薬液添加部150及び細胞回収部160相互間における培養容器10の搬送を行う。搬送部120は、培養容器10を把持した状態において、培養容器10の姿勢を自在に変化させることが可能である。
【0040】
キャップ開閉部130は、培養容器10に設けられたキャップ12を把持する把持機構131を有し、把持機構131によってキャップ12を把持した状態でキャップ12を回転させることで、キャップ12の開閉を行う。
【0041】
薬液除去部140は、吸引ノズル141及び廃棄ボトル142を有し、培養容器10に収容されている培地および酵素剤等の薬液を吸引ノズル141から吸引することで培養容器10内から薬液を除去する。吸引ノズル141から吸引された薬液は、廃棄ボトル142に回収される。
【0042】
薬液添加部150は、吐出ノズル151及び培地及び酵素剤等の薬液を個別に収容した薬液ボトル152を有し、薬液ボトル152に収容された薬液を吐出ノズル151から吐出することで、培養容器10内に薬液を添加する。なお、酵素剤は、培養容器10の培養面11に接着した細胞を剥離する剥離処理において使用される。
【0043】
細胞回収部160は、吸引ノズル161及び回収ボトル162を有し、剥離処理によって培養容器10の培養面11から剥離した細胞を吸引ノズル161から吸引し、回収ボトル162に回収する。
【0044】
以下に、細胞剥離回収装置2の動作の一例を、図7を参照しつつ説明する。図7は、細胞剥離回収装置2の動作シーケンスの一例を示すフローチャートである。
【0045】
初期状態において、培養容器10が恒温槽110に収容されており、培養容器10内には、細胞が培養面11に接着した状態で培養されているものとする。また、培養容器10内には細胞とともに培地が収容されているものとする。
【0046】
ステップS11において、搬送部120は、培養容器10を恒温槽110から取り出してキャップ開閉部130に搬送する。ステップS12において、キャップ開閉部130は、培養容器10のキャップ12を開ける。ステップS13において、搬送部120は、培養容器10を薬液除去部140に搬送する。ステップS14において、薬液除去部140は、キャップ12を開けることにより露出した培養容器10の流通口から培養容器10の内部に吸引ノズル141を挿入し、培養容器10に収容されている培地を吸引ノズル141から吸引することで、培地を培養容器10から除去する。
【0047】
ステップS15において、搬送部120は、培養容器10を薬液添加部150に搬送する。ステップS16において、薬液添加部150は、キャップ12を開けることにより露出した培養容器10の流通口から培養容器10の内部に吐出ノズル151を挿入し、吐出ノズル151から酵素剤を吐出することで、培養容器10内に酵素剤を添加する。ステップS17において、搬送部120は、培養容器10をキャップ開閉部130に搬送する。ステップS18において、キャップ開閉部130は、培養容器10のキャップ12を閉める。ステップS19において、搬送部120は、培養容器10を恒温槽110に収容する。培養容器10が恒温槽110で収容されている間、細胞の培養面11からの剥離が進行する。
【0048】
ステップS20において、搬送部120は、培養容器10を恒温槽110に収容してから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間が経過したものと判定すると、ステップS21において、搬送部120は、培養容器10を撮像位置に搬送する。すなわち、搬送部120は、撮像部30と描画面20との間に培養容器10を配置する。より具体的には、搬送部120は、撮像部30の撮像視野内において培養面11から酵素剤等の液体が除去された状態で培養面11が描画面20と重なる位置及び向きに培養容器10を位置決めする。
【0049】
ステップS22において、撮像部30は、培養容器10の天板10A及び底板10B越しに描画面20に描画された絵柄21を撮像し、絵柄21の画像データを生成する。撮像部30は、生成した絵柄21の画像データを判定部40に供給する。
【0050】
ここで、図8A及び図8Bは、それぞれ、ステップS22において、撮像部30によって取得される絵柄21の画像の一例を示す図である。図8A及び図8Bには、それぞれ、培養面11を透過した絵柄21の画像IMG1及びIMG2が示されている。
【0051】
撮像部30において絵柄21の撮像を行う際に、搬送部120は、初めに、図8Aに示すように、培養面11の辺BCが辺ADに対して鉛直方向下方に位置するように培養容器10の位置決めを行う。本実施形態において、撮像部30による絵柄21の撮像は、培養容器10に酵素剤210を収容した状態で行われる。この場合、培養面11の辺BCの近傍に移動した酵素剤210によって辺BCの近傍の絵柄21が遮られる。判定部40は、絵柄21の画像に基づいて、培養面11に付着している細胞の有無を判定するので、酵素剤210によって辺BCの近傍の絵柄21が遮られると、辺BCの近傍において、判定部40による細胞の有無の判定を適切に行うことが困難となるおそれがある。
【0052】
そこで、撮像部30が図8Aに示す画像IMG1を取得した後、搬送部120は、図8Bに示すように、培養面11の辺ADが辺BCに対して鉛直方向下方に位置するように培養容器10の上下を反転させる。これにより、酵素剤210は、培養面11の辺ADの近傍に移動する。撮像部30は、この状態において絵柄21の撮像を再度行う。
【0053】
判定部40は、図8Aに示す画像IMG1と図8Bに示す画像IMG2の双方を用いて培養面11に付着している細胞の有無を判定する。これにより、判定部40は、培養面11に付着している細胞の有無の判定を、培養面11の全域に亘って適切に行うことが可能となる。判定部40は、図8Aに示す画像IMG1と図8Bに示す画像IMG2とを合成することで、酵素剤210が描写されていない画像を再構成し、この再構成された画像に基づいて、培養面11に付着している細胞の有無を判定してもよい。なお、撮像部30において絵柄21の撮像を行う際に、酵素剤210が絵柄21を遮らない場合、または、酵素剤210が絵柄21を遮ったとしても、判定部40における判定処理に支障がない場合には、培養容器10の向きを反転させた状態での撮像は不要である。
【0054】
ステップS23において、判定部40は、撮像部30によって取得された絵柄の画像に基づいて、培養面11に付着している細胞の有無を判定する。すなわち、判定部40は、図5に示すフローチャートの各処理を実施する。
【0055】
判定部40によって「培養面11に付着している細胞有り」と判定された場合、すなわち、培養面11に細胞が残留していると判定された場合、処理はステップS19に戻される。すなわち、この場合、搬送部120は、培養容器10を恒温槽110に収容し、細胞の剥離を進行させ、所定時間が経過した後に、撮像部30による絵柄21の撮像、及び判定部40による判定処理が再度実施される。判定部40によって「培養面11に付着している細胞無し」と判定された場合、すなわち、培養面11に細胞が残留していないと判定された場合、処理はステップS24に移行される。
【0056】
ステップS24において、搬送部120は、培養容器10をキャップ開閉部130に搬送する。ステップS25において、キャップ開閉部130は、培養容器10のキャップ12を開ける。ステップS26において、搬送部120は、培養容器10を細胞回収部160に搬送する。
【0057】
ステップS27において、細胞回収部160は、図9Aに示すように、キャップ12を開けることにより露出した培養容器10の流通口13から培養容器10の内部に吸引ノズル161を挿入し、培養面11から剥離した細胞を、吸引ノズル161から吸引し、回収ボトル162(図6参照)に回収する。なお、細胞を回収する際に、図9Aに示すように、培養容器10を傾けてもよい。このとき、細胞の回収ロスを抑制するために、吸引ノズル161の先端が、培養容器10の最下部に達していることが好ましい。図9Bに示すように、吸引ノズル161がテーパ形状を有する場合、吸引ノズル161のテーパ形状に合わせて、流通口13にテーパ付きの誘導孔14を設けることで、吸引ノズル161の先端を、培養容器10の内部の特定の位置に位置決めすることが可能となる。
【0058】
ステップS28において、搬送部120は、培養容器10をキャップ開閉部130に搬送する。ステップS29において、キャップ開閉部130は、培養容器10のキャップ12を閉める。ステップS30において、搬送部120は、培養容器10を恒温槽110に収容する。
【0059】
以上のように、開示の技術の実施形態に係る判定装置1及び細胞剥離回収装置2おいて、撮像部30は、培養容器10の培養面11を、描画面20と撮像部30との間に配置した状態で、描画面20に描画された絵柄21の画像を取得する。細胞が培養面11に付着している場合、培養面11越しに撮像される絵柄21の画像において、絵柄21の輪郭線(明部21Aと暗部21Bの境界)には、細胞と細胞の周囲の媒質との屈折率差及び細胞内における光の散乱などの影響により歪みまたはボケが生じる。判定部40は、撮像部30によって取得された絵柄21の画像に基づいて、培養面11に付着している細胞の有無を判定する。具体的には、判定部40は、絵柄21の輪郭線(すなわち明部21Aと暗部21Bの境界)に対応する画像部分における歪み及びボケの少なくとも一方に基づいて培養面11に付着している細胞の有無を判定する。従って、細胞が、可視光に対して透明または半透明であっても、培養面11に付着している細胞の有無を適確に判定することが可能である。
【0060】
例えば、培養面11に付着している細胞の有無を判定するために、培養面11の複数個所を詳細に観察しようとすると、判定結果を得るまでに膨大な時間を要することが想定される。開示の技術の実施形態に係る判定装置1及び細胞剥離回収装置2によれば、描画面20に描画された絵柄21の画像が判定部40における解析の対象とされるので、培養面11の複数個所を詳細に観察する場合と比較して、判定部40における判定処理の負担を軽減することができ、短時間で判定結果を得ることができる。
【0061】
また、培養容器10の培養面11の全体を撮像部30の撮像視野内に含めることで、培養面11の全体について細胞の付着の有無を判定する場合、撮像部30による撮像の回数を少なくすることができる。すなわち、撮像部30によって取得される1枚の画像、または培養容器10の向きが互いに反転関係にある2枚の画像のみから培養面11の全体について、細胞の有無を判定することが可能となる。
【0062】
また、絵柄21が、明部21Aと暗部21Bとが交互に配置された繰り返しパターンを含むことで、判定部40における判定処理を簡略化することができ、処理時間を短くすることが可能となる。
【0063】
また、絵柄21の面積を、培養容器10の培養面11の面積よりも大きくすることで、撮像部30と描画面20との間に培養容器10を挟んで絵柄21の撮像を行う場合に、培養容器10の、絵柄21に対する厳密な位置合わせが不要となる。
【0064】
また、撮像部30による絵柄21の撮像は、培養容器10に酵素剤を収容したままの状態で行われる。この態様によれば、酵素剤を除去した後に撮像を行う場合と比較して処理時間を短縮することができる。また、判定部40において、「培養面11に付着している細胞有り」と判定された場合に、酵素剤の再度の添加を行うことなく細胞の剥離処理を継続または再開することが可能となる。
【0065】
[変形例]
上記の判定装置1及び細胞剥離回収装置2の構成に対しては、様々な改変を加えることが可能である。
【0066】
図10Aは、培養容器10を撮像位置に位置決めする他の方法の一例を示す図である。撮像部30において絵柄21の撮像を行う場合、図10Aに示すように、設置台170を用いて培養容器10の位置決めを行ってもよい。
【0067】
設置台170は、培養容器10を設置台170の所定位置に設置するためのガイド171を有する。また、設置台170の、培養面11と接する面が、描画面20とされている。培養容器10をガイド171に沿って設置台170に設置することで、培養容器10と描画面20(絵柄21)との位置合わせが完了する。また、培養容器10をガイド171に沿って設置台170に設置した状態において、培養面11が鉛直方向に対して平行となり、培養容器10に収容された酵素剤210によって絵柄21が遮られる領域の面積が最小となる。なお、設置台170は、図10Bに示すように、回転軸172の周りに回転可能に構成されていてもよい。
【0068】
図11は、培養容器10の構成の他の例を示す図である。培養容器10は、その端部に、酵素剤210の収容空間15を有する。培養容器10が撮像位置に位置決めされると、培養容器10に収容された酵素剤210が収容空間15に流入する。これにより、撮像部30により絵柄21の撮像を行う場合に、酵素剤210が培養面11を覆う領域の面積(すなわち、酵素剤210によって絵柄21が遮られる領域の面積)を小さくすることができる。
【0069】
図12A図12B及び図12Cは、撮像部30において絵柄21の撮像を行う際に、培養面11から酵素剤210を除去する他の方法の一例を示す図である。図12A図12Cに示す例において、培養容器10は、枠体16と、板状部材17と、支持部材18と、仕切り部材19とを含んで構成されている。板状部材17の一方の面の仕切り部材19の内側の領域が培養面11とされ、板状部材17の培養面11とは反対側の面には絵柄21が描画された描画面20が設けられている。仕切り部材19は、培養面11の範囲を画定する部材である。すなわち、増殖により細胞200が広がる範囲は、仕切り部材19の内側の領域に制限される。板状部材17は、突き上げピン180の昇降動作に伴って、鉛直方向に移動することが可能である。仕切り部材19は、突き上げピン180よりも内側に配置されている。すなわち、培養面11は、突き上げピン180の内側に配置されている。
【0070】
図12Aは、培養面11に接着している細胞200を、酵素剤210を用いて剥離する剥離処理を実施している状態を示している。この状態において、突き上げピン180は降下位置にあり、板状部材17は支持部材18に支持されている。酵素剤210は、培養面11を覆っている。
【0071】
撮像部30において描画面20に描画された絵柄21の撮像を行う場合、図12Bに示すように、突き上げピン180が上昇し、板状部材17を突き上げる。これにより、板状部材17は支持部材18から離間し、支持部材18と板状部材17との間に間隙が形成される。培養面11を覆っていた酵素剤210は、支持部材18と板状部材17との間に形成された間隙を通過して、枠体16の底面側に移動する。これにより、培養面11から酵素剤210が除去される。
【0072】
その後、図12Cに示すように、突き上げピン180が降下し、板状部材17が支持部材18に支持された状態とされ、この状態で、撮像部30による絵柄21の撮像が行われる。撮像部30は、板状部材17の上方に配置される。
【0073】
このように、板状部材17の昇降動作により、培養面11から酵素剤210を除去することで、撮像部30による絵柄21の撮像において、培養容器10の向きを反転させた状態での撮像が不要となる。また、培養面11を突き上げピン180の内側に配置することにより、絵柄21の画像を撮像する際に、突き上げピン180を撮像視野から除外することが可能となる。
【0074】
一方、培養面11からの酵素剤210の除去を画像処理により実現してもよい。具体的には、酵素剤を用いて細胞の剥離処理を実施した後に絵柄21の撮像を行い、その後、培養容器10に振動を加え、更に絵柄の撮像を行う。これら2回の撮像によって取得した2つの画像の差分から酵素剤に浮遊する細胞を特定し、特定した細胞を、上記2つの画像のいずれかから除去する。これにより、培養面11からの酵素剤210の除去した状態で取得した画像と同様の画像を取得することができる。
【0075】
図13は、剥離処理によって培養容器10の培養面11から剥離した細胞を回収する他の方法の一例を示す図である。図13に示すように、培養容器10を傾けることにより、剥離処理によって剥離した細胞を、流通口13から排出して、回収ボトル162に直接注いでもよい。この場合、流通口13からの液垂れを抑制するために、流通口13の形状を、液垂れが生じにくい形状に加工してもよい。
【0076】
図14は、判定装置1の構成の他の例を示す図である。描画面20が、例えば、光透過性を有する部材の表面によって構成され、描画面20の光透過率を低下させた部分を暗部21Bとし、描画面20の光透過率を維持した部分を明部21Aとする場合、描画面20を間に挟んで撮像部30の反対側に光源50を配置し、光源50から発せられる光を描画面20に照射することが好ましい。これにより、撮像部30によって取得される絵柄21の画像において、明部21Aと暗部21Bとのコントラストを大きくすることができ、判定部40における判定処理の精度を高めることができる。光源50は、描画面20の全域に略均一な輝度の光を照射することができる有機EL(Electro-Luminescence)照明等の面光源であることが好ましい。光源50として、ハロゲンランプ等の点光源を用いる場合、図14に示すように、光源50と描画面20との間に、光源50からの光を拡散させる拡散板51を配置することが好ましい。
【0077】
また、描画面20に描画される絵柄21を、発光素子による発光によって形成してもよい。この場合、明部21Aを相対的に輝度の高い発光により形成し、暗部21Bを相対的に輝度の低い発光(または非発光)により形成してもよい。
【0078】
図15は、判定装置1の構成の他の例を示す図である。図15に示すように、描画面20は、表示パネル60の表示面によって構成されていてもよい。すなわち、描画面20は、マトリックス状に配置された複数の画素を含む。表示パネル60が、例えば、液晶パネル等の透過型である場合、各画素における光の透過状態が制御されることにより絵柄21が形成される。一方、表示パネル60が、例えば、有機ELパネル等の自発光型である場合、各画素における光の発光状態が制御されることにより絵柄21が形成される。このように、描画面20が表示パネル60の表示面によって構成されることで、描画面20に描画される絵柄21のパターンを適宜変化させることが可能となる。
【0079】
図16は、判定装置1の構成の他の例を示す図である。判定装置1は、導出部70を含んでいてもよい。導出部70は、撮像部30によって生成された絵柄21の画像データに基づいて、細胞が培養面11に付着している領域の面積を導出する。導出部70は、判定部40を構成するコンピュータ500(図5参照)と同じコンピュータを含んで構成されていてもよい。
【0080】
図17Aは、導出部70において実施される、細胞が培養面11に付着している領域の面積を導出する導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0081】
ステップS41において、導出部70は、撮像部30によって生成された絵柄21の画像データを取得する。
【0082】
ステップS42において、導出部70は、絵柄21の画像データを解析し、絵柄21の輪郭線に歪みまたはボケが生じている領域を特定する。
【0083】
ステップS43において、導出部70は、ステップS42において特定した領域の面積を、細胞が培養面11に付着している領域の面積として導出する。なお、導出部70は、ステップS42において複数の領域を特定した場合、複数の領域の各々の面積を合算した値を細胞が培養面11に付着している領域の面積として導出する。
【0084】
判定部40は、導出部70によって導出された面積が、所定の閾値よりも大きいと判定した場合、「培養面11に付着している細胞有り」と判定する。一方、判定部40は、導出部70によって導出された面積が、所定の閾値よりも小さいと判定した場合、「培養面11に付着している細胞無し」と判定する。
【0085】
図17Bは、導出部70において実施される導出処理の流れの他の例を示すフローチャートである。図17Bに示すフローチャートは、ステップS44の処理が追加されている点が、図17Aにフローチャートと異なる。
【0086】
導出部70は、ステップS44において、ステップS43にて導出した面積の、培養面11の面積に対する割合(すなわち、細胞が培養面11に付着している領域の面積率)を導出する。
【0087】
判定部40は、導出部70によって導出された割合(面積率)が、所定の閾値よりも大きいと判定した場合、「培養面11に付着している細胞有り」と判定する。一方、判定部40は、導出部70によって導出された割合(面積率)が、所定の閾値よりも小さいと判定した場合、「培養面11に付着している細胞無し」と判定する。
【0088】
このように、細胞が培養面11に付着している領域の面積またはその割合(面積率)に基づいて、培養面11に付着している細胞の有無を判定することで、細胞の回収効率と、処理コストとを考慮した、より適確な判定を行うことが可能となる。
【0089】
図18は、判定装置1を用いた判定方法の他の例を示す図である。図18に示すように、描画面20と撮像部30との間に、複数の培養容器10を積層した状態で配置してもよい。この態様によれば、複数の培養容器10のいずれかの培養面に細胞が付着しているか否かを判定することが可能となる。
【0090】
なお、2018年2月20日に出願された日本国特許出願2018-027904の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19A
図19B