(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-25
(45)【発行日】2022-03-07
(54)【発明の名称】プラスチック基材を前処理する方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/02 20060101AFI20220228BHJP
A43B 13/04 20060101ALI20220228BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220228BHJP
B05D 1/38 20060101ALI20220228BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220228BHJP
B05D 7/26 20060101ALI20220228BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
B05D7/02
A43B13/04 A
B05D1/36 Z
B05D1/38
B05D7/24 301B
B05D7/24 301E
B05D7/26
C09D5/00 D
(21)【出願番号】P 2020529699
(86)(22)【出願日】2018-11-12
(86)【国際出願番号】 EP2018080949
(87)【国際公開番号】W WO2019105725
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-08-28
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ノアチュク,イェンス-ヘンニンク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンツェン,ジモン
(72)【発明者】
【氏名】ハルトヴィヒ,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】アルビュルネ,ユリオ
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-018104(JP,A)
【文献】特表2018-518340(JP,A)
【文献】特表2008-524040(JP,A)
【文献】特表2018-520259(JP,A)
【文献】特表2008-525181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05B 1/00-17/08
B05C 1/00-21/00
A43B 13/00-13/42
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材の前処理コーティング及びその後のラッカー塗装のための方法であって、
(1)前処理のためのプラスチック基材(S)を用意する工程、
(2)工程(1)からのプラスチック基材(S)上に、
(2.1)少なくとも1種の有機溶媒(L)と、その中に分散させた又は溶解させた少なくとも1種のプラスチック(K)とを含む溶液又は分散液を、前記プラスチック基材上に適用する工程、及び
(2.2)工程(2.1)からの少なくとも1種の有機溶媒を除去するために蒸発させる工程、
によって、前処理層を生成する工程
(3)工程(2)からの前処理したプラスチック基材上に、
(3.1)工程(2)からの前処理したプラスチック基材にラッカーを適用する工程、及び
(3.2)工程(3.1)からのラッカーを硬化させる工程、
によって、ラッカー層を生成する工程、
を含
み、
前記プラスチック(K)が、フォームであることを特徴とする方法。
【請求項2】
プラスチック基材(S)がフォーム基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フォーム基材が可撓性フォーム基材である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記フォーム基材が熱可塑性ポリウレタンフォーム基
材である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記プラスチック(K)が、熱可塑性ポリウレタンフォー
ムである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
プラスチック(K)が、プラスチック基材(S)のプラスチック材料と
同じである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(2)の前に、有機溶媒によるプラスチック基材(S)の洗浄を行わない
、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(2)で生成した前処理コーティングの層厚が、1~45マイクロメート
ルである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(3.1)における前記ラッカーが水ベースのラッカーである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ラッカーが顔料入りラッカー(ベースコートラッカー)又はクリアコートラッカーである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(3.1)における前記ラッカーが顔料入りラッカー(ベースコートラッカー)であり、さらなる工程でクリアコートラッカーを前記ベースコートラッカー層上に適用し、次いで(3.2)において前記ベースコートラッカーと一緒に硬化させる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(2.1)における適用及び(3.1)における適用を噴霧適用によって行う、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(2.1)の溶液又は分散液の生成が、第一の工程において、プラスチック(K)を第一の有機溶媒で溶媒和又は初期膨潤させ、そして第二の工程において、前記第一の工程からの混合物を第二の有機溶媒と混合し、その結果溶液又は分散液を生成することを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前処理層及び少なくとも1つのラッカー層を備えた、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法により製造されたプラスチック基材。
【請求項15】
請求項14に記載のプラスチック基材を含むか、又はそれからなる履物のソー
ル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材の前処理コーティング及びその後のラッカー塗装(lacquering)の方法に関するものである。この方法では、溶解させた又は分散させたプラスチックを含む特定の溶液又は分散液を、用意したプラスチック基材上に適用することによって、プラスチック基材上に前処理層を生成し、その後、少なくとも1種のラッカーを適用することによって、前処理層上に少なくとも1つのラッカー層を生成する。本発明はまた、上記の方法によって製造された、前処理層及び少なくとも1つのラッカー層を備えたプラスチック基材に関する。このように前処理した複合材料は、高品質な外観と良好な触感特性だけでなく、前処理層に適用したラッカー層の優れた接着性も有する。従って全体としての結果は、接着性に関して極めて高品質であり、従ってラッカー層の機械的安定性に関しても極めて高品質の複合材料である。従ってこの方法は、適用したラッカー層の光学的品質と機械的安定性が等しく不可欠である分野で、特に効果的に使用することができる。この方法は、例えば、履物産業におけるラッカー塗装(特に、フォーム基材で作られたミッドソールなどの履物のソールのラッカー塗装)に有用であるが、これに限らない。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基材に下流でコーティングを施す場合、例えばラッカーでコーティングする場合、ラッカー層の十分な接着性が最も重要である。この接着性がないと、得られる複合材料は、意図したとおりに使用することができない。
【0003】
上記の特性は、可撓性フォーム基材に特に関連する。フォームは多くの産業分野において、非常に多種多様な用途への基材としてよく確立されている。なぜならフォームは良好な加工性、低い密度及び特性プロファイルの調整に関する多様性(硬質フォーム、半硬質フォーム及び可撓性フォーム、熱可塑性フォーム及びエラストマーフォーム)を特徴とするからである。例えば履物産業では、履物のソール、例えばミッドソールの製造に、圧縮性があり、弾力性のあるフォームがしばしば使用される。履物のソールは非常に大きな機械的ストレスに曝露されることが明らかである。歩行及び走行では、ソールに一方では高い柔軟性及び/又は弾力性が必要であり、他方では外部の機械的影響に対する適切なレベルの耐性が必要である。従って決定的な要因は、ラッカー塗装したフォーム基材(外観を改善するための色及び/又は特殊効果の提供、及び/又は耐摩耗性又は耐汚れ性を改善するためのクリアコートラッカー塗装)の場合、適切な複合材料を正しく使用している間のラッカーの接着性である。
【0004】
プラスチック基材に関連して注意が必要な別の状況は、基材製造のプロセスが、一般に補助剤(例えばワックス及びシリコーンオイル)の使用を必要とすることである。これら補助剤は、例えば適切な型から材料を離型するための離型剤として不可欠である。
【0005】
従って、多くの産業分野におけるプラスチック基材の使用には、例えば非常に多種多様な有機溶媒で表面を繰り返し拭くことによる、基材表面の複雑な洗浄が、一般に必要である。なぜなら、この洗浄なしでは、許容できるさらなる加工(例えばプラスチック基材の接着結合)又はさらなるコーティング(例えばラッカー塗装)を達成することが不可能となるからである。この理由は、既知であるように、開示した補助剤によって、適用された接着剤又はラッカーなどの成分の接着性が、極めて乏しくなることである。
【0006】
開示した洗浄操作は、第一に非常に複雑であり、第二に実質的な環境汚染を意味する。さらなる要因は、過度に繰り返さずに許容できる洗浄効果を達成することができる多くの有機溶媒は、環境又は健康に有害であるので、しばしば避けなければならないことである。例として、テトラヒドロフラン又はN-メチル-2-ピロリドンが参照される。
【0007】
さらなる要因は、開示した補助剤が材料の本体中にも存在し(表面だけではない)、時間が経過するにつれ次第に表面に移動する可能性があることである。これらの成分の表面でのこの漸進的な蓄積は、それ自体が、複合材料(中のプラスチック基材が、例えば接着結合を介して処理されている)の耐久性、又はプラスチック基材のラッカー塗装に悪影響を有することが自明である。なぜなら、前記蓄積が、今度は乏しい接着性をもたらすからである。
【0008】
最も近い先行技術WO2016/188656A1及び/又はWO2016/188655A1は、少なくとも1種の特定の水ベースのラッカーを用いたプラスチック基材のラッカー塗装について記載している。これにより、高品質な外観及び触感特性、及びさらに優れた機械的堅牢性及び可撓性を有するラッカー塗装したプラスチック基材が得られる。主な用途分野は履物産業におけるソールである。さらに、ラッカー層の良好な接着が達成されると述べられている。ラッカーを適用する前のプラスチック基材の洗浄については言及されていない。この洗浄は、言及されていない場合であっても、それでも実施されることを、当業者は認識するであろう。なぜなら、考えられるコーティングを適用する前にプラスチック基材を洗浄することは、従来技術においてよく知られており、ワックス及びシリコーンオイルなどの上述した補助剤から、実際に時には不可欠な手順と見なされているからである。
【0009】
WO2015/165724A1は、ポリウレタン(A)で作られた発泡ビーズで作られた成形品、及びポリウレタン(B)で作られたコーティングで作られた成形品を記載しており、これらのポリウレタンは少なくとも類似している。ポリウレタン(B)で作られたコーティングは、ポリウレタン(B)がTHF、酢酸エチル、メチルエチルケトン又はアセトンなどの溶媒中に溶解され、次いでその溶液がポリウレタン(A)上に適用され、それから溶媒が乾燥によって除去されるプロセスより構成されている。言及されている特定の利点は、成形品の機械的堅牢性及び耐摩耗性である。成形品の如何なる下流のラッカー塗装についても記述はない。さらに、ポリウレタン(B)で作られた溶液を適用する前のプラスチック基材洗浄に関して、何も述べられていない。この洗浄は、言及されていない場合であっても、それでも実施されることを、当業者は認識するであろう。なぜなら、考えられるコーティングを適用する前にプラスチック基材を洗浄することは、従来技術においてよく知られており、ワックス及びシリコーンオイルなどの上述した補助剤から、実際に時には不可欠な手順と見なされているからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2016/188656A1
【文献】WO2016/188655A1
【文献】WO2015/165724A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
最も近い先行技術において、ラッカー層の接着性が良好であると記載されている場合であっても、ここでは改善が望ましい。これは特に、上記の複雑で環境的に問題のある洗浄を省くことが意図される場合に当てはまる。なぜなら、これはまさに接着の問題が特に明白である状況だからである。従って本発明の目的は、最も近い先行技術に記載されている良好な光学特性及び触感特性を有するが、プラスチック基材の洗浄を省いた場合であっても基材上に改善されたラッカー層の接着性を有する、ラッカー塗装したプラスチック基材を得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、プラスチック基材の前処理コーティング及びその後のラッカー塗装のための方法によって達成できることが見出された。この方法は以下の工程:
(1)前処理のためのプラスチック基材(S)を用意する工程、
(2)工程(1)からのプラスチック基材(S)に、
(2.1)少なくとも1種の有機溶媒(L)と、その中に分散させた又は溶解させた少なくとも1種のプラスチック(K)とを含む溶液又は分散液を、プラスチック基材上に適用する工程、及び
(2.2)工程(2.1)からの少なくとも1種の有機溶媒を除去するために蒸発させる工程、
によって、前処理層を生成する工程、
(3)工程(2)からの前処理したプラスチック基材上に、
(3.1)工程(2)からの前処理したプラスチック基材上にラッカーを適用する工程、及び
(3.2)工程(3.1)からのラッカーを硬化させる工程、
によって、ラッカー層を生成する工程、
を含む。
【0013】
上述した方法は、以下に本発明の方法とも呼ばれ、そして本発明によって定義の通り提供される。本発明の方法の好ましい実施形態は、以下の明細書の残り部分、及び従属請求項にも見出すことができる。
【0014】
本発明はさらに、前処理層を備え、及びラッカーを備えた、上述した方法によって製造されたプラスチック基材を提供する。
【0015】
本発明の方法及び本発明のプラスチック基材は、上述した特性を有し、特に、高品質な外観及び良好な触感特性と、基材上のラッカー層の優れた接着性とを合わせ持つ。さらに、方法の目的において、接着性に関して不利な結果をもたらすことなく、有機溶媒によるプラスチック基材の複雑な洗浄を省くことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
方法の工程(1)において、前処理のためにプラスチック基材(S)を用意する。
【0017】
本発明の目的において、可撓性プラスチック基材、特に可撓性フォーム基材が好ましい。なぜなら、こうした基材のコーティングにおいて、上述した特性が特に重要であるからである。
【0018】
フォーム基材の基本的な特徴について簡単に述べる。フォーム基材と見なされる材料は、単純に、これに関連して当業者に知られている任意の基材である。従って使用することができる材料は基本的に、熱硬化性樹脂(thermoset)、熱可塑性プラスチック(thermoplastics)、熱可塑性エラストマー、又は他のエラストマーから生成されたフォームである。すなわち、前述したプラスチック類からのプラスチックより、適切な発泡プロセスによって得られるフォームである。それらの化学的な基礎に関して、フォームを形成することができるポリマーの非排他的な例は、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルアミド及びポリオレフィン、例えばポリプロピレン及びポリエチレン、及びエチレン-酢酸ビニル、及び前述したポリマーのコポリマーである。無論、フォーム基材が、前述したポリマー及びコポリマーをいくつか含むことも可能である。
【0019】
好ましいフォーム基材は、可撓性フォーム基材、特に好ましくは可撓性熱可塑性ポリウレタンフォーム基材である。後者は、ポリマープラスチックマトリックスとして熱可塑性ポリウレタンを含むフォーム基材である。この種の基材の基本的な特徴は、それら基材が圧縮性があり、弾力性があることである。
【0020】
次いで、適切な発泡プロセスを使用して熱可塑性ポリウレタンを発泡させることにより、すなわち前記ポリウレタンをフォームに変換することにより、フォームを生成する。
【0021】
発泡プロセスは既知であり、従って簡単に説明するにとどめる。すべての場合における基本原理は、発泡剤、及び/又はプラスチック中又は適切なプラスチック溶融物中に溶解している、適切なポリマープラスチックの生成の間の架橋反応で生成されたガスが放出され、よってそれまでは比較的高密度であったポリマープラスチックの発泡が起こることである。例えば、低沸点炭化水素が発泡剤として使用される場合、これは、高温で蒸発し、発泡をもたらす。二酸化炭素又は窒素ガス等のガスも、発泡剤として高圧でポリマー溶融物中に導入及び/又は溶解させることが可能である。後の圧力低下の結果、溶融物は次いで、発泡剤ガスの排出の間に発泡する。
【0022】
発泡は、例えば、適切なプラスチック基材の成形(shaping)の間に(例えば押出の間又は射出成形の間)、直接生じることが可能である。発泡剤が混合された圧力下のプラスチック溶融物は、例えば、押出機から出る際、その後に起こる圧力低下の結果として発泡させることができる。
【0023】
また、発泡剤を含む熱可塑性物質で作られたペレットを生成することから開始し、次いでこれらのペレットを型内で下流のプロセスにおいて発泡させることも可能である。ここでビーズペレットはその体積を増加させ、互いに融合し、最終的に融合した膨張フォームビーズからなる成形品(成形した熱可塑性フォームとも呼ばれる)を形成する。膨張性ペレットは、例えば、押出、及びその後に、押出機から出るポリマーストランドをペレット化することによって得ることができる。ペレット化は、例えば、適切な切断装置により達成され、ここで使用される圧力条件及び温度条件は如何なる膨張も妨げる。次に続くペレットの膨張及び融合は、一般に、約100℃の温度の蒸気を利用して達成される。
【0024】
予備発泡させたプラスチックペレットから開始することによって、成形した熱可塑性フォームを生成することも、等しく可能である。これは、ペレットビーズ又はポリマービーズのサイズが、予備発泡させていないペレットのサイズと比較するとはるかに大きくなっており、その密度が適切に低減されているペレットである。予備発泡の度合いを制御したビーズは、例えばWO2013/153190A1に記載されているように、適切なプロセス制御を介して生成することができる。押出機から出た、押し出されたポリマーストランドは、液体のストリームによりペレット化チャンバー内に移すことができ、ここで液体は特定の圧力下にあって、特定の温度を有する。特定の膨張又は予備膨張させた熱可塑性ペレットは、プロセスパラメーターを適切に調整することによって得ることができ、その後の融合、及び任意に、特に蒸気によるさらなる膨張によって、成形した熱可塑性フォーム基材に変換することが可能である。
【0025】
成形した熱可塑性フォーム、及びこの成形したフォームを生成することができる適切な熱可塑性、膨張性及び/又は膨張したプラスチックペレットは、例えば、WO2007/082838A1、WO2013/153190A1及びWO2008/125250A1に記載されている。また、これらの文献には、熱可塑性ポリウレタンの生成のためのプロセスパラメーター及び出発材料、及びペレット及び成形したフォームの生成のためのプロセスパラメーターも記載されている。
【0026】
成形した熱可塑性フォームは、非常に費用効率の高い大規模な工業的製造に特に適しており、及びさらに、特に有利な特性プロファイルを有する。成形した熱可塑性フォームは、優れた可撓性又は弾性、及び機械的安定性を有する熱可塑性プラスチック、特にポリウレタンから生成することができる。一般にそれらは、圧縮性があり、良好な弾力性を有する。よってこれら特定のフォームは、履物産業等の部門における用途のためのフォーム基材として特に好適である。従って、非常に特に好ましい基材は、ポリマープラスチックマトリックスとして熱可塑性ポリウレタンを含む、圧縮性があり、弾力性のある成形したフォーム基材である。
【0027】
基材、好ましくは可撓性フォーム基材は、それ自体、任意の所望の形状であってよく、すなわち、それらは、例えば、単純な平坦の基材であるか、又はより複雑な形状、特に例えばミッドソール等の履物のソールであってよい。
【0028】
本発明の目的において、成形した熱可塑性ポリウレタンフォームが基材(S)として特に好ましい。
【0029】
本発明の方法の工程(2)では、前処理層をプラスチック基材上に生成する。これは、(2.1)プラスチック基材上に、少なくとも1種の有機溶媒(L)と、その中に分散させた又は溶解させた少なくとも1種のプラスチック(K)とを含む溶液又は分散液を、プラスチック基材上に適用する工程、及び(2.2)工程(2.1)からの少なくとも1種の有機溶媒を除去するために蒸発させる工程によって達成される。
【0030】
「溶液」という用語は、よく知られている定義の通り、標準条件下で流体である均一な混合物であり、且つその中で少なくとも1種のプラスチック(溶媒和物としての)が少なくとも1種の有機溶媒中に溶液として存在しているように見える、すなわち、分子レベルで溶液状にあるように見える混合物を意味する。「分散液」という用語は同じように、標準条件下で同様に流体であり、巨視的には同様に均一な特性を有するが、微視的には分散相(プラスチック)と連続相(溶媒)との不均一な混合物である混合物を意味する。
【0031】
溶液又は分散液が構成成分(L)及び(K)以外の成分も含むことは自明に可能である。しかしながら、2つの構成成分(L)及び(K)は、溶液又は分散液の全量の少なくとも90質量%を構成することが好ましい。溶液又は分散液が2つの構成成分からなることが非常に特に好ましい。
【0032】
溶液又は分散液の全量に基づくプラスチック(K)の割合は、例えば5~30質量%、好ましくは10~20質量%である。
【0033】
そして溶解させた又は分散させたプラスチック(K)は、好ましくはフォーム、より好ましくは熱可塑性ポリウレタンフォーム、非常に特に好ましくは成形した熱可塑性ポリウレタンフォームである。
【0034】
溶解させた又は分散させたプラスチック(K)は、前処理のためのプラスチック基材(S)のプラスチック材料に対応することが好ましい。これにより、前処理層及び基材が同じプラスチック材料からなることが確保される。よって、元の基材とその上に適用された前処理層との間に、極めて強力な結合が達成される。
【0035】
溶液又は分散液の適用前、又は本発明の方法の工程(2)の前に、有機溶媒によるプラスチック基材(S)の洗浄を行わないことが好ましい。方法全体において、有機溶媒による洗浄を行わないことがより好ましい。
【0036】
それにもかかわらず、驚くべきことに、元の基材とその上に適用された前処理層との間の非常に良好な結合を、工程(2)で達成することができる。そして前処理層は、上述した補助剤(例えばワックス及びシリコーンオイルなど)を覆い、起こり得る移行の影響に関連して、長期的にこの結合を達成する。この理由から、後の段階で記載する工程(3)において、基材への優れた接着性を有するラッカー層の生成を達成することが可能となる。
【0037】
少なくとも1種の有機溶媒(L)の選択は、選択された所望の割合の選択されたプラスチック(K)を溶解又は分散させることができるようなものである。当業者は、いくつかの注意深く設計された実験を介して、個別の場合で選択を行うことができる。ここで考えられる材料の例は、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン、及びジメチルホルムアミド及びジクロロメタンである。同様に使用できる溶媒は、メチル5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエートであり、これは、環境又は健康に関する問題がなく、特に、好ましいポリウレタンベースのプラスチック(K)を溶解する又は分散させる能力が優れている溶媒である。
【0038】
本発明の特定の実施形態では、溶液又は分散液は、二段階プロセスによって生成される。第一の工程において、プラスチックを第一の有機溶媒で溶媒和又は初期膨潤させ、そして、第二の工程において、第一の工程からの混合物を第二の有機溶媒と混合して、溶液又は分散液を生成する。
【0039】
使用するプラスチックそれぞれに関して溶媒を個別に選択すると、非常に効果的な溶解又は分散が達成されることが見出された。これは、1つだけの溶媒又は2つの溶媒を同時に使用する手順よりもはるかにより良好である。例として特に、高分子量の成形した熱可塑性ポリウレタンフォームが参照される。これらがメチルエチルケトンへの溶解又は分散に適していない、又はそのごく少量しか受け入れられないのに対し、メチルエチルケトンで初期膨潤させた後、メチル5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソ-ペンタノエートと混合した後には、適切な溶液又は分散液を問題なく生成することができる。
【0040】
溶液又は分散液の適用(2.1)は、様々な手段で、例えば、散布、ブラシ、ローラー、キャスティング、浸漬コーティング、擦り適用又は空気圧噴霧適用によって、又は計量アプリケーターによって達成することができる。使用する適用方法は、個別の場合の条件に応じて適切に選択することができ、そして例えば溶液又は分散液の粘度に依存し、よって有機溶媒(L)の選択及び溶解させた又は分散させたプラスチック(K)の性質及び量にも依存する。しかしながら、この適切な選択の可能性、及び特に噴霧適用の可能性が存在することは、決定的な利点である。本方法により、基材表面から、例えばワックス又はシリコーンオイルを除去するための複雑な洗浄(これは有機溶媒を用いて拭くことによってのみ達成可能である)(上記も参照されたい)を省くことができるので、そしてこの洗浄の代わりに、比較的操作しやすい適用方法を選択することが可能であるので、本発明は、大きな利点を提供する。
【0041】
少なくとも1種の有機溶媒を除去するための蒸発(2.2)は、熱的方法及び/又は対流法を使用して達成することができ、ここで、加熱トンネル、NIR源、IR源、送風機及び送風トンネルなどの従来の既知の装置を使用することが可能である。しかしながら蒸発は、コーティングしたプラスチック基材の(例えば室温での)保管によって、純粋に受動的な方法によって達成することもできる。ここでも、決定的な要因は、方法が使用するそれぞれの溶媒(L)に適することである。
【0042】
本方法の工程(2)で生成される前処理コーティングの層厚は、好ましくは1~45マイクロメートル、より好ましくは10~30マイクロメートルである。
【0043】
本方法の工程(2)の結果は、前処理層を備え、そして次いで以下の工程(3)で記載するように使用されるプラスチック基材である。
【0044】
本発明の方法の工程(3)において、工程(2)からの前処理したプラスチック基材上に、(3.1)前処理したプラスチック基材にラッカーを適用する工程、及び(3.2)ラッカーを硬化させる工程、によって、ラッカー層を生成する。
【0045】
適切なラッカー塗装プロセス、及びそこで使用されるラッカーは、例えば、WO2016/188656A1、第6頁、第3段落~第13頁、第3段落、及び第17頁、最初の段落~第46頁、最後の段落に記載されている。
【0046】
水ベースのベースコートラッカー(すなわち、顔料入りラッカー)及び/又は水ベースのクリアコートラッカー、特にWO2016/188656A1又はWO2016/188655A1に記載されているものを使用することが好ましい。
【0047】
ラッカーを使用すると、光学的品質(ベースコートラッカーによる色及び/又は特殊効果の提供)、触感特性、耐摩耗性、及び汚れに対する耐性(特にクリアコートラッカー)などの要件を特に満たすことができるラッカー層が得られる。WO2015/165724A1にも記載されているように、これらのラッカーの使用によって特に、変形及び適切な調整に関する範囲が、例えば工程(2)における前処理溶液中の添加剤及び/又は顔料添加(pigmentation)の考えられる使用から可能になるものよりも、はるかに大きくなる。その結果、既に繰り返し言及してきた優れた接着が達成され、従って、前の文で述べた利点は、接着不良の可能性による如何なる不利益もなしに達成される。
【0048】
少なくとも1種のラッカーの適用(3.1)は、液体コーティング組成物の適用について当業者に知られている方法により、例えば浸漬コーティング、ドクター(doctoring)、噴霧、ローラー等により達成することができる。噴霧適用方法、例えば、高温噴霧適用、例えば高温空気噴霧等と任意に併せた、圧縮空気噴霧(空気圧適用)、エアレス噴霧、高速回転又は静電噴霧適用(ESTA)の使用が好ましい。ラッカーは、空気圧噴霧適用、又は静電噴霧適用により適用することが非常に特に好ましい。
【0049】
ラッカー適用の方法は、硬化後の個々のラッカー層が、例えば3~50マイクロメートル、好ましくは5~40マイクロメートルの層厚を有するようなものである。
【0050】
無論、少なくとも2つのラッカー、例えば、ベースコートラッカー(顔料入りラッカー)を適用し、次いでクリアコートラッカーを適用することも可能である。
【0051】
これらのラッカーは、最初に適用したラッカーを、第二のラッカーを適用する前に硬化させないまま、互いの上に適用することもできる(ウェットオンウェット適用)が、その代わりに、例えば第一のラッカーを、第二のラッカーを適用する前に短時間空気乾燥させるだけでもよい。次いで、ラッカーを同時に硬化させる。従ってこの場合、(3.1)のラッカーはベースコートラッカーであり、クリアコートラッカーは工程(3.1)と(3.2)の間に適用される。
【0052】
「(適用した)ラッカーの硬化」という表現は、適切な層をすぐに使用できる状態に、すなわち、それぞれのラッカー層を備えた基材を輸送し、保管し、正しく使用できる状態に変換することを意味する。従って、硬化したラッカー層は、特にもはや柔らかくなく又は粘着性もなく、代わりに固形のコーティングフィルムを生成するように調整されている。このコーティングフィルムの特性、例えば基材上の硬度や接着性は、後の段階で記載するような硬化条件に再び曝露されても、さらなる実質的な変化を生じない。
【0053】
硬化(3.2)は、様々な方法で、使用するラッカーの要件に応じて、例えば純粋に物理的な又は熱化学的な方法か、又は高エネルギー放射線を使用する方法によって、達成することができる。専門用語は当業者に知られており、ある程度まで、先行技術、例えばWO2016/188656A1においても詳細に考慮されている。
【0054】
本発明の方法の工程(3)の結果は、本発明と同様に、前処理層及び少なくとも1種のラッカー層を備えたプラスチック基材である。
【0055】
本発明の方法の目的のために、明示的に述べられていないさらなる工程も実行されることは自明に可能である。例えば上で示したように、1つを超えるラッカー層を適用することが可能である。しかしながら、本発明では、ラッカー層を1つ生成することで十分である。1つ以上の前処理層を適用することも等しく可能であるが、ここでは、正確に1つの前処理層を適用することが好ましい。
【0056】
プラスチック基材の特徴は、その製造中の有機溶媒による洗浄を省くことができるにもかかわらず、前処理層へのラッカーの接着性が優れており、さらに、良好な光学的、触感的及び/又は機械的特性、及び/又は汚れに対する良好な耐性が達成される、又は達成可能なことである。