(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】脱細胞化組織の製造方法、及び脱細胞化組織の製造装置
(51)【国際特許分類】
C12N 1/06 20060101AFI20220301BHJP
C12M 1/33 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C12N1/06
C12M1/33
(21)【出願番号】P 2017095004
(22)【出願日】2017-05-11
【審査請求日】2020-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】篠原 悟史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章悟
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 昭吾
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104208750(CN,A)
【文献】国際公開第2007/028975(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/06
C12M 1/33
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ジメチルエーテルを含む液体を用いて、生体組織の細胞を破壊する工程と、
核酸分解酵素を用いて、前記破壊された細胞に含まれる核酸成分を分解させる工程を含む脱細胞化組織の製造方法。
【請求項2】
前記液体は、溶媒をさらに含む請求項1に記載の脱細胞化組織の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、水および/またはエタノールである請求項2に記載の脱細胞化組織の製造方法。
【請求項4】
前記
液化ジメチルエーテルの温度が1~40℃の範囲内である請求項1から3のいずれか一項に記載の脱細胞化組織の製造方法。
【請求項5】
前記
液化ジメチルエーテルの圧力が0.2~5MPaの範囲内である請求項1から4のいずれか一項に記載の脱細胞化組織の製造方法。
【請求項6】
前記核酸成分が分解した生体組織を洗浄する工程をさらに含む請求項1から5のいずれか一項に記載の脱細胞化組織の製造方法。
【請求項7】
前記核酸成分が分解した生体組織を、水、生理食塩水、エタノール水溶液、または、前記
液化ジメチルエーテルを含む液体で洗浄する請求項6に記載の脱細胞化組織の製造方法。
【請求項8】
前記核酸成分が分解した生体組織を、エタノール水溶液、または、前記
液化ジメチルエーテルを含む液体で洗浄した後に、水、または、生理食塩水で洗浄する請求項7に記載の脱細胞化組織の製造方法
。
【請求項9】
液化ジメチルエーテルを含む液体を用いて、生体組織の細胞を破壊する手段と、
核酸分解酵素を用いて、前記破壊された細胞に含まれる核酸成分を分解させる手段を含む脱細胞化組織の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱細胞化組織の製造方法、及び脱細胞化組織の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療において、患者の欠損した器官を再生するための支持組織として、ヒトまたは異種哺乳動物の生体組織から、細胞質成分、細胞質ゾル成分、細胞骨格、細胞膜成分などの細胞成分が除去されている脱細胞化組織が再移植されている。脱細胞化組織は、エラスチン、コラーゲン(I型、IV型など)、ラミニンなどの細胞外マトリックス成分を主成分とする。
【0003】
従来、脱細胞化組織の製造方法としては、界面活性剤を含有する処理液を用いて、生体組織を脱細胞化する方法が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。具体的には、界面活性剤を含有する処理液中に、振とう下で数日間、生体組織を浸漬させる。界面活性剤は細胞外マトリックス成分を構成するたんぱく質を劣化させるため、脱細胞化組織が損傷するという問題がある。また、脱細胞化に時間を要する、あるいは、界面活性剤が残留するという問題もある。
【0004】
そこで、超臨界二酸化炭素を用いて、生体組織を脱細胞化する方法が知られている(特許文献4)。
【0005】
しかしながら、脱細胞化組織に残存しているDNA量が多いという問題がある。
【0006】
ここで、脱細胞化組織の乾燥質量あたりのDNA量が50ng/mg未満であることが望まれている(非特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、実質的に損傷がなく、乾燥質量あたりのDNA量が50ng/mg未満である脱細胞化組織を製造することが可能な脱細胞化組織の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、脱細胞化組織の製造方法において、液化ジメチルエーテルを含む液体を用いて、生体組織の細胞を破壊する工程と、核酸分解酵素を用いて、前記破壊された細胞に含まれる核酸成分を分解させる工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、実質的に損傷がなく、乾燥質量あたりのDNA量が50ng/mg未満である脱細胞化組織を製造することが可能な脱細胞化組織の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の脱細胞化組織の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】ジメチルエーテルの飽和蒸気圧曲線を示す図である。
【
図3】本実施形態の脱細胞化前処理装置の一例を示す概略図である。
【
図4】実施例の脱細胞化前処理装置を示す概略図である。
【
図5】実施例1の脱細胞化組織のHE染色の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【
図6】実施例2の脱細胞化組織のHE染色の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【
図7】実施例3の脱細胞化組織のHE染色の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【
図8】未処理の生体組織のHE染色の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0012】
(脱細胞化組織の製造方法)
図1に、本実施形態の脱細胞化組織の製造方法の一例を示す。
【0013】
脱細胞化組織の製造方法は、液化ガスを含む液体を用いて、生体組織の細胞を破壊する工程(S1)と、核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)を用いて、破壊された細胞に含まれる核酸成分を分解させる工程(S2)を含む。
【0014】
工程(S1)では、例えば、生体組織を液化ガスを含む液体と接触させ、生体組織の細胞を破壊し、核酸成分を細胞外に露出させる。このため、脱細胞化細胞は、実質的に損傷がなく、脱細胞化組織に液化ガスが残留しにくくなる。ここで、液化ガスを含む液体は、細胞膜成分を溶解するため、細胞を破壊することができる。
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において、液化ガスとは、常温常圧(0℃、1atm(0.101325MPa)で気体である物質の液化物である。
【0016】
液化ガスとしては、生体組織の細胞を破壊することが可能であれば、特に限定されないが、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒド、プロパン、ブタン、液化石油ガス等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、比較的低温低圧で液化する点で、エチルメチルエーテル、ジメチルエーテルが好ましく、ジメチルエーテルが特に好ましい。
【0017】
ジメチルエーテルは、1~40℃、0.2~5MPa程度で液化するため(
図2参照)、脱細胞化組織の製造装置のコストが安価となる。また、液化ジメチルエーテルは、常温常圧下で容易に気化することから、脱細胞化組織に残留しにくい。
【0018】
工程(S1)は、液化ガスの液体状態を維持するため、気密状態の抽出槽内等の飽和蒸気圧以上の環境下で実施される。
【0019】
生体組織を液化ガスを含む液体と接触させる方法としては、特に限定されないが、液化ガスを含む液体と生体組織とを混合し、撹拌する方法、液化ガスを含む液体に生体組織を浸漬する方法、液化ガスを含む液体を循環させ、生体組織に接触させる方法等が挙げられ、生体組織の性状に応じて、適宜選択することができる。
【0020】
液化ガスを含む液体は、溶媒をさらに含んでいてもよい。
【0021】
溶媒としては、特に限定されないが、エタノール、水、生理食塩水、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0022】
溶媒の添加量は、液化ガス中の溶解度以下となるようにすることが好ましい。これにより、液化ガスを含む液体を均一にすることができる。
【0023】
液化ガスの温度は、1~40℃の範囲内であることが好ましく、10~30℃の範囲内であることがさらに好ましい。液化ガスの温度が1~40℃の範囲内であることにより、後述する脱細胞化前処理装置のコストを少なくすることができる。
【0024】
液化ガスの圧力は、0.2~5MPaの範囲内であることが好ましい。0.3~0.7MPaの範囲内であることがさらに好ましい。液化ガスの圧力が0.2~5MPaの範囲内であることにより、後述する脱細胞化前処理装置のコストを少なくすることができる。
【0025】
生体組織としては、特に限定されないが、ヒトまたは異種哺乳動物由来の皮膚、血管、心臓弁膜、角膜、羊膜、硬膜等を含む軟組織またはその一部、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脳等を含む臓器またはその一部、骨、軟骨、腱またはその一部等が挙げられる。
【0026】
生体組織を液化ガスを含む液体に接触させた後、常温常圧に戻すと、液化ガスは、気化するため、除去される。
【0027】
なお、工程(S1)を1回実施しても、細胞の破壊が不十分である場合は、工程(S1)を複数回繰り返してもよい。
【0028】
工程(S2)では、例えば、工程(S1)により、細胞が破壊された生体組織を核酸分解酵素を含む溶液と接触させ、細胞外に露出した核酸成分を分解させる。このため、脱細胞化組織は、乾燥質量あたりのDNA量が50ng/mg未満となる。
【0029】
核酸分解酵素としては、DNAを分解させることが可能であれば、特に限定されないが、DNase(例えば、DNaseI)等が挙げられる。
【0030】
破壊された細胞を核酸分解酵素を含む溶液と接触させる方法としては、特に限定されないが、核酸分解酵素を含む溶液と細胞が破壊された生体組織とを混合し、撹拌する方法、核酸分解酵素を含む溶液に細胞が破壊された生体組織を浸漬する方法、核酸分解酵素を含む溶液を循環させ、細胞が破壊された生体組織に接触させる方法等が挙げられる。
【0031】
破壊された細胞を核酸分解酵素を含む溶液と接触させる方法は、細胞が破壊された生体組織の性状に応じて、適宜選択することができる。
【0032】
なお、工程(S2)を工程(S1)に含め、液化ガスを含む液体および核酸分解酵素を用いて、生体組織の細胞を破壊し、細胞に含まれる核酸成分を分解させてもよい。この場合、例えば、生体組織を液化ガスを含む液体に接触させている状態で、核酸分解酵素を含む溶液を混入させる。
【0033】
脱細胞化組織の製造方法は、核酸成分が分解した生体組織を洗浄する工程(S3)をさらに含むことが好ましい。
【0034】
工程(S3)では、例えば、工程(S2)により、核酸成分が分解した生体組織を洗浄液と接触させ、洗浄する。
【0035】
洗浄液としては、水、生理的に適合する液体、生理的に許容し得る有機溶媒の水溶液、液化ガスを含む液体等が挙げられる。
【0036】
生理的に適合する液体としては、特に限定されないが、生理食塩水、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)などが挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、生理食塩水が好ましい。
【0037】
生理的に許容し得る有機溶媒としては、特に限定されないが、エタノール等が挙げられる。
【0038】
液化ガスを含む液体は、工程(S1)で使用した液化ガスを含む液体と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
なお、工程(S3)では、核酸成分が分解した生体組織を水、または、生理的に適合する液体で洗浄する前に、生理的に許容し得る有機溶媒の水溶液、または、液化ガスを含む液体で洗浄してもよい。
【0040】
核酸成分が分解した生体組織を洗浄液と接触させる方法としては、特に限定されないが、洗浄液と核酸成分が分解した生体組織とを混合し、撹拌する方法、洗浄液に核酸成分が分解した生体組織を浸漬する方法、洗浄液を循環させ、核酸成分が分解した生体組織に接触させる方法等が挙げられる。
【0041】
核酸成分が分解した生体組織を洗浄液と接触させる方法は、核酸成分が分解した生体組織の性状に応じて、適宜選択することができる。
【0042】
核酸成分が分解した生体組織を洗浄液で洗浄する温度は、4℃と40℃との間であることが好ましい。
【0043】
なお、核酸成分が分解した生体組織を液化ガスを含む液体で洗浄する場合は、液化ガスの液体状態を維持するため、気密状態の抽出槽内等の飽和蒸気圧以上の環境下で実施される。
【0044】
核酸成分が分解した生体組織を洗浄液で洗浄する時間は、工程(S2)で使用した酵素、工程(S1)により細胞外に露出した細胞成分を十分に除去することが可能であれば、特に限定されない。
【0045】
なお、核酸成分が分解した生体組織を洗浄液で洗浄する際に、洗浄液を交換して繰り返し洗浄してもよい。
【0046】
本実施形態の脱細胞化組織の製造方法を用いると、実質的に損傷がなく、乾燥質量あたりのDNA量が50ng/mg未満である脱細胞化組織が得られる。脱細胞化組織の乾燥質量あたりのDNA量が50ng/mg未満であると、生体内に移植した際の免疫反応を避けることができる。
【0047】
(脱細胞化前処理装置)
脱細胞化前処理装置は、液化ガスを含む液体を用いて、生体組織の細胞を破壊することが可能であれば、特に限定されない。
【0048】
以下、液化ガスを含む液体として、液化ジメチルエーテルを用いる場合について、説明する。
【0049】
脱細胞化前処理装置は、例えば、ジメチルエーテルを飽和蒸気圧以上にすることで生成した液化ジメチルエーテルを、抽出槽内で、生体組織と接触させることで、細胞を破壊する。また、脱細胞化前処理装置は、液化ジメチルエーテルを飽和蒸気圧未満にすることで気化させ、細胞が破壊された生体組織内から液化ジメチルエーテルを除去する。
【0050】
具体的には、脱細胞化前処理装置は、後述する貯蔵手段(g)から接触手段(b)に液化ジメチルエーテルを送液する送液手段(a)と、生体組織を液化ジメチルエーテルと接触させる接触手段(b)と、生体組織と接触した液化ジメチルエーテルを接触手段(b)から導出する導出手段(c)を備える。また、脱細胞化前処理装置は、温度および圧力を調整することにより、ジメチルエーテルを分離する分離槽、または、ジメチルエーテルを膜分離する膜分離槽からなる分離手段(d)と、温度および圧力を調整することにより、ジメチルエーテルを凝縮させる凝縮手段(e)を備える。さらに、脱細胞化前処理装置は、温度および圧力を調整することにより、液化ジメチルエーテルを気化させる気化手段(f)と、液化ジメチルエーテルを貯蔵する貯蔵手段(g)と、貯蔵手段(g)に液化ジメチルエーテルを供給する供給手段(h)と、温度および圧力を検知する検知手段(i)を備える。
【0051】
送液手段(a)としては、液化ジメチルエーテルの流量を調整することが可能であれば、特に限定されないが、送液ポンプ、熱駆動などが挙げられる。
【0052】
以下、工程(S1)の実施に適した脱細胞化前処理装置について、説明する。
【0053】
図3に、本実施形態の脱細胞化前処理装置の一例を示す。
【0054】
なお、
図3は、本実施形態の脱細胞化前処理装置を理解することができる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置を概略的に示すものに過ぎない。本発明は、以下の説明によって限定されるものではなく、各構成要素は、特許請求の範囲及びその均等の範囲において、適宜変更することが可能である。
【0055】
脱細胞化前処理装置100は、液化ジメチルエーテル2を貯蔵する貯槽1と、生体組織7を液化ジメチルエーテル2と接触させる抽出槽6と、抽出槽6から導出された液体を分離する分離槽11と、貯槽1から抽出槽6へ液化ジメチルエーテル2を送液するポンプ3を有している。また、脱細胞化組織の製造装置100は、(液化)ジメチルエーテルを導出または導入する導管5、10、12、14、16、19、20、各槽内の気圧を調節し、(液化)ジメチルエーテルの導出および導入を制御するバルブ4、9、13、15、18、21をさらに有している。抽出槽6および分離槽11は、液化ジメチルエーテルの液体状態を維持するため、圧力を調整することができる。
【0056】
脱細胞化前処理装置100において、貯槽1から抽出槽6に液化ジメチルエーテル2を導入するポンプ3、バルブ4、導管5が、送液手段(a)として機能する。抽出槽6は、接触手段(b)として機能する。抽出槽6から液化ジメチルエーテル2を導出させる導管10およびバルブ9が、導出手段(c)として機能する。また、分離槽11は、分離手段(d)として機能する。凝縮器17は、凝縮手段(e)として機能する。分離槽11に接続された導管12およびバルブ13は、気化手段(f)として機能する。貯槽1は、貯蔵手段(g)として機能する。導管19、20は、供給手段(h)として機能する。
【0057】
脱細胞化前処理装置100は、各槽内の温度及び気圧を検知する温度計及び圧力計、各槽内における撹拌を実施するための攪拌機、各槽内及び導管内における活性ガス(例えば、酸素)をパージするための不活性ガス(例えば、窒素)を流通させる装置などの任意の構成要素をさらに含む。
【0058】
次に、脱細胞化前処理装置100を用いて、工程(S1)を実施する方法について、説明する。
【0059】
まず、フィルタ8が上流側および下流側に設置されている抽出槽6に生体組織7を導入する。このとき、バルブ4、9、13、15、18、21、22は、閉状態である。ここで、貯槽1に液化ジメチルエーテル2が十分に貯蔵されていない場合は、バルブ21を開状態とし、導管20を経由して、貯槽1に液化ジメチルエーテル2を供給した後、バルブ21を閉状態とする。このとき、バルブ18および21の両方を開状態および閉状態としてもよい。なお、ジメチルエーテルを飽和蒸気圧以上とすることにより、液化ジメチルエーテルが生成されている(
図2参照)。
【0060】
続いて、バルブ4を開状態とし、ポンプ3により、貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を導出し、導管5を経由して、生体組織7と接触するまで抽出槽6に導入した後、バルブ4を閉状態とする。その結果、生体組織7の細胞膜の主成分であるリン脂質が溶解するため、生体組織7の細胞が破壊される。
【0061】
続いて、バルブ4および9を開状態とし、ポンプ3により、抽出槽6から液化ジメチルエーテルを導出し、導管5を経由して、抽出槽6に導入する。これにより、抽出槽6内のリン脂質が溶解している液化ジメチルエーテルが、導管10を経由して、分離槽11に導入される。このとき、抽出槽6の上流側および下流側にフィルタ8が設置されているため、細胞が破壊された生体組織7は、抽出槽6内に残留する。
【0062】
バルブ4および9を開状態とするタイミングは、抽出槽6に液化ジメチルエーテルが導入されてから、生体組織7内に液化ジメチルエーテルを移行させるために、所定時間経過した後である。このとき、液化ジメチルエーテルが生体組織7と接触した状態で、所定時間静置してもよいし、撹拌してもよい。
【0063】
続いて、バルブ4を閉状態とし、バルブ9、13および22を開状態として、ジメチルエーテルの飽和蒸気圧未満とすることにより、バルブ4とバルブ13の間に存在する液化ジメチルエーテルが気化し、導管14を経由して、導管23から、排出される。このとき、必要に応じて、ポンプを用いて、ジメチルエーテルを排出してもよい。その結果、抽出槽6には、細胞が破壊された生体組織が残留し、分離槽11には、リン脂質が残留する。
【0064】
なお、バルブ22を閉状態とし、バルブ15を開状態とすると、気化したジメチルエーテルは、導管16を経由して、凝縮器17に導入される。その結果、ジメチルエーテルが凝縮することにより生成した液化ジメチルエーテルを再利用することができる。
【0065】
以上、貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を不連続的に導出する場合について説明したが、貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を連続的に導出してもよい。
【0066】
具体的には、バルブ4および9を開状態として、貯槽1内の液化ジメチルエーテル2を、導管5から抽出槽6に連続的に導入すると共に、抽出槽6内のリン脂質が溶解している液化ジメチルエーテルを導管10へ連続的に導出してもよい。この場合、液化ジメチルエーテルが生体組織7と接触するように、抽出槽6の内部の構造を構成することが好ましい。
【0067】
なお、脱細胞化前処理装置は、圧力を変化させる代わりに、温度を変化させて、ジメチルエーテルを液化(液化ジメチルエーテルを気化)させてもよい。
【0068】
(核酸成分分解装置)
核酸成分分解装置は、脱細胞化前処理装置により破壊された細胞に含まれる核酸成分を、核酸分解酵素を用いて、分解させることが可能であれば、特に限定されず、例えば、公知の振とう機を用いることができる。
【0069】
なお、核酸成分分解装置を脱細胞化前処理装置に含めてもよい。この場合、例えば、抽出槽6内で、生体組織7を液化ジメチルエーテルに接触させている状態で、公知の方法により、核酸分解酵素を含む溶液を抽出槽6内に滴下する。
【0070】
(洗浄装置)
洗浄装置は、核酸成分分解装置により核酸が分解した生体組織を洗浄することが可能であれば、特に限定されず、例えば、公知の振とう機を用いることができる。
【0071】
なお、核酸成分が分解した生体組織を液化ジメチルエーテルで洗浄する場合は、脱細胞化前処理装置100を用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下において、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されない。
【0073】
[実施例1]
(工程(S1))
図4に示す脱細胞化前処理装置を用いて、生体組織としての、ブタ由来の大動脈57の細胞を破壊した。
【0074】
具体的には、フィルタ55が上流側および下流側に設置されている抽出槽56に、厚さ3cm程度の輪切りにしたブタ由来の大動脈57を仕込んだ。続いて、貯槽51に、60mLのジメチルエーテル52を充填して、0.8MPaとし、液化させた。このとき、恒温槽50の温度を37℃とした。分離槽61を予めジメチルエーテルで置換し、バルブ53、54、58、59、60を閉状態とした。次に、バルブ53、54、58、59を開状態とし、液化ジメチルエーテルを流通させ、液化ジメチルエーテルで抽出槽56が満たされたところで、バルブ54、58を閉状態とし、ブタ由来の大動脈57を液化ジメチルエーテルに浸漬させた。続いて、バルブ54、58を開状態とし、バルブ59により、液化ジメチルエーテルの流量を10mL/minに調整して、リン脂質が溶解した液化ジメチルエーテルを分離槽61で回収した。その後、バルブ59を閉状態とし、分離槽61を装置から取り外し、ドラフト内で大気圧として、液化ジメチルエーテルを揮発させた。
【0075】
上記の操作を10回繰り返すことにより、液化ジメチルエーテル600mLとブタ由来の大動脈57を接触させた。その後、バルブ54を閉状態とし、バルブ58、59、60を開状態とし、抽出槽56内の圧力を大気圧とし、抽出槽56内の液化ジメチルエーテルを揮発させて排気した。細胞が破壊された生体組織を取り出した。
【0076】
(工程(S2))
工程(S1)により得られた細胞が破壊された生体組織をDNaseI(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)0.2mg/mL、MgCl2(和光純薬工業社製)0.05Mを含む生理食塩水に入れ、4℃の雰囲気で7日間振とうし、DNAを分解させた。
【0077】
(工程(S3))
工程(S2)により得られたDNAが分解した生体組織を、エタノール80体積%を含む生理食塩水に入れ、4℃の雰囲気で3日間振とうさせた後、生理食塩水に入れ、4℃の雰囲気で1日間振とうさせ、脱細胞化組織を得た。
【0078】
得られた脱細胞化組織を4℃の生理食塩水中で保管した。
【0079】
[実施例2、3]
工程(S2)で、4℃の雰囲気で、それぞれ5日間、3日間振とうさせた以外は、実施例1と同様にして、脱細胞化組織を得た。
【0080】
得られた脱細胞化組織を4℃の生理食塩水中で保管した。
【0081】
[実施例4]
ジメチルエーテル60mLの代わりに、ジメチルエーテル57mLおよび水3mLを用いた以外は、実施例1と同様にして、脱細胞化組織を得た。
【0082】
得られた脱細胞化組織を4℃の生理食塩水中で保管した。
【0083】
図5~8に、実施例1~3の脱細胞化組織、未処理の生体組織としての、ブタ由来の大動脈57のヘマトキシリン-エオシン染色(HE染色)の結果を示す。
【0084】
図5~8から、実施例1~3の脱細胞化組織は、未処理の生体組織に存在する核が認められず、実質的に損傷がないことがわかる。
【0085】
表1に、実施例1~4の脱細胞化組織、未処理の生体組織の乾燥質量あたりのDNA量およびDNAの長さを示す。
【0086】
【表1】
ここで、DNAは、PureLink Genomic DNA Kits(Thermo Fisher Scientific社製)により、脱細胞化組織または未処理の生体組織から抽出した。また、DNA量は、超微量分光光度計Nano Drop 2000c(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、紫外線吸光度を計測し、求めた。さらに、DNAの長さは、電気泳導により確認した。
【0087】
表1から、実施例1~4の脱細胞化組織は、乾燥質量あたりのDNA量が、非特許文献1に記載されている目標値である50ng/mg未満をクリアしていることがわかる。また、実施例1の脱細胞化組織は、DNAの長さが100bp未満である。
【符号の説明】
【0088】
1 貯槽
2 液化ジメチルエーテル
3 ポンプ
4、9、13、15、18、21、22 バルブ
5、10、12、14、16、19、20、23 導管
6 抽出槽
7 生体組織
8 フィルタ
11 分離槽
17 凝縮器
100 脱細胞化前処理装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0089】
【文献】特表2005-514971号公報
【文献】特表2006-507851号公報
【文献】特表2005-531355号公報
【文献】特開2007-105081号公報
【非特許文献】
【0090】
【文献】Biomaterials 32(2011)3233-3243