(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、および該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220301BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220301BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220301BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G51/00 A
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2017132055
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】東間 崇洋
(72)【発明者】
【氏名】福井 篤
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061633(WO,A1)
【文献】特開2012-230898(JP,A)
【文献】特開2016-207479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、一般式:Li
aNi
1-x-y-zCo
xD
yE
zO
2(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.002≦z≦0.05、1.00≦a≦1.30であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Eは、該元素Eのイオンが還元される電位より貴な電位下でリチウムと合金化する元素である。)で表され、一次粒子および該一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、
前記一次粒子および前記二次粒子の少なくともいずれかの表面には、前記元素Eを含む酸化物が存在
し、下記の方法で行う充放電サイクル試験における正極から負極への溶出メタル量が、該負極に対して50質量ppm以上600質量ppm以下であることを特徴とする、非水系電解質二次電池用正極活物質。
(充放電サイクル試験)
前記リチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質、導電材および結着剤を備える正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備える非水系電解質二次電池を作製し、60℃において、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2
としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電する充放電サイクルを500回行った後、正極から負極への溶出メタル量を測定する。
【請求項2】
前記元素Eが、Mg、Al、およびSiから選ばれる少なくとも1種の元素であることを特徴とする、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記元素Eの一部が、前記一次粒子または前記二次粒子の内部に固溶していることを特徴とする、請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
一般式:Li
aNi
1-x-y-zCo
xD
yE
zO
2(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.002≦z≦0.05、1.00≦a≦1.30であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Eは、該元素Eのイオンが還元される電位より貴な電位下でリチウムと合金化する元素である。)で表され、一次粒子および該一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成されるリチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
少なくともニッケルとコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、アルカリ溶液とを、反応槽内に供給し混合することにより遷移金属複合水酸化物粒子を晶析させる晶析工程と、
前記晶析工程によって得られる遷移金属複合水酸化物と、前記元素Eを含む化合物と、リチウム化合物とを混合する混合工程と、
前記混合工程によって得られるリチウム混合物を700℃~1000℃で焼成して、リチウム金属複合酸化物を形成させる焼成工程とを有し、
前記混合工程により、前記一次粒子および前記二次粒子の少なくともいずれかの表面に、前記元素Eを含む酸化物が形成され
、
前記非水系電解質二次電池用正極活物質は、下記の方法で行う充放電サイクル試験における正極から負極への溶出メタル量が、該負極に対して50質量ppm以上600質量ppm以下であることを特徴とする、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
(充放電サイクル試験)
前記リチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質、導電材および結着剤を備える正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備える非水系電解質二次電池を作製し、60℃において、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2
としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電する充放電サイクルを500回行った後、正極から負極への溶出メタル量を測定する。
【請求項5】
前記元素Eが、Mg、Al、およびSiから選ばれる少なくとも1種の元素であることを特徴とする、請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備える非水系電解質二次電池であって、
前記正極は、一般式:Li
aNi
1-x-y-zCo
xD
yE
zO
2(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.002≦z≦0.05、1.00≦a≦1.30であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Eは、該元素Eのイオンが還元される電位より貴な電位下でリチウムと合金化する元素である。)で表されるリチウム金属複合酸化物からなる請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を構成材料として含むことを特徴とする、非水系電解質二次電池。
【請求項7】
充放電後の負極の表面には、前記元素Eとリチウムとの合金が存在していることを特徴とする、請求項6に記載の非水系電解質二次電池。
【請求項8】
充放電後の負極に含まれる元素Eが、該負極に対して50質量ppm以上600質量ppm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、および該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として出力特性が優れた二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
上記リチウムイオン二次電池は、現在、研究開発が盛んに行われているところであり、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0006】
出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得るためには、正極活物質が、小粒径で粒度分布が狭い粒子によって構成されていることが必要となる。これは、粒径が小さい粒子は、比表面積が大きく、正極活物質として用いた場合に電解液との反応面積を十分に確保することができるばかりでなく、正極を薄く構成し、リチウムイオンの正極-負極間の移動距離を短くすることができるため、正極抵抗の低減が可能だからである。
【0007】
一方、出力特性のさらなる改善を図るためには、正極活物質だけでなく、負極活物質の負極抵抗の低減が求められる。
【0008】
例えば、特許文献1には、黒鉛質粒子の表面を非晶質炭素で被覆されてなる複層構造炭素材であって、(1)複層構造炭素材の平均粒径d50が1μm以上18μm以下であること、(2)黒鉛質粒子/非晶質炭素の重量比率が96/4以上99.99/0.01以下であること、(3)複層構造炭素材のタップ密度が0.85g/cm3以上1.3g/cm3以下であることを特徴とする非水系二次電池用複層構造炭素材が提案されている。
【0009】
この提案によれば、得られる非水系電解液二次電池負極用炭素材を電極として用いた非水系電解液二次電池は、効果的に負極抵抗を減少させ、且つ保存特性(負極二重層容量)の低下を軽減する特性を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、負極抵抗をさらに低減させるためには、電解液との反応面積を大きくすることが有効である。電解液との反応面積を大きくするには、二次電池のセル構成における負極の構成比率を高く設定することが有効である。
【0012】
しかしながら、負極の構成比率を高く設定すると、相対的に正極の構成比率が低下し、二次電池の充電容量の低下が起こる。すなわち、負極抵抗を低減させるために、正極の表面積の割合が低下することで、正極抵抗が増加し電池抵抗の増加を招くという問題が生じる。このため、二次電池の材料には、正極および負極の構成比率を変更せずに、負極抵抗を抑制することが求められている。
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑みて、非水系電解質二次電池を構成した場合、正極および負極の構成比率を変更せずに、負極抵抗を低減させて電池の出力特性を向上させることが可能な新規かつ改良された非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法、およびこのような正極活物質を用いた非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられているリチウム金属複合酸化物の粉体特性および組成が電池の負極抵抗に及ぼす影響について鋭意研究したところ、リチウム金属複合酸化物に、充放電の際に電解液中に溶出し、負極活物質の表面においてリチウムと合金を生成する元素を添加することにより、負極表面におけるリチウムの電気化学反応場が増加し、負極抵抗を低減して電池の出力特性を向上することが可能であることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の一態様では、リチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物は、一般式:LiaNi1-x-y-zCoxDyEzO2(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.002≦z≦0.05、1.00≦a≦1.30であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Eは、該元素Eのイオンが還元される電位より貴な電位下でリチウムと合金化する元素である。)で表され、一次粒子および該一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、前記一次粒子および前記二次粒子の少なくともいずれかの表面には、前記元素Eを含む酸化物が存在し、下記の方法で行う充放電サイクル試験における正極から負極への溶出メタル量が、該負極に対して50質量ppm以上600質量ppm以下であることを特徴とする。
(充放電サイクル試験)
前記リチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質、導電材および結着剤を備える正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備える非水系電解質二次電池を作製し、60℃において、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2
としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電する充放電サイクルを500回行った後、正極から負極への溶出メタル量を測定する。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記元素Eが、Mg、Al、およびSiから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記元素Eの一部が、前記一次粒子または前記二次粒子の内部に固溶していることが好ましい。
【0018】
本発明の他の態様では、一般式:LiaNi1-x-y-zCoxDyEzO2(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.002≦z≦0.05、1.00≦a≦1.30であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Eは、該元素Eのイオンが還元される電位より貴な電位下でリチウムと合金化する元素である。)で表され、一次粒子および該一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成されるリチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、少なくともニッケルとコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、アルカリ溶液とを、反応槽内に供給し混合することにより遷移金属複合水酸化物粒子を晶析させる晶析工程と、前記晶析工程によって得られる遷移金属複合水酸化物と、前記元素Eを含む化合物と、リチウム化合物とを混合する混合工程と、前記混合工程によって得られるリチウム混合物を700℃~1000℃で焼成して、リチウム金属複合酸化物を形成させる焼成工程とを有し、前記混合工程により、前記一次粒子および前記二次粒子の少なくともいずれかの表面に、前記元素Eを含む酸化物が形成され、前記非水系電解質二次電池用正極活物質は、下記の方法で行う充放電サイクル試験における正極から負極への溶出メタル量が、該負極に対して50質量ppm以上600質量ppm以下であることを特徴とする。
(充放電サイクル試験)
前記リチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質、導電材および結着剤を備える正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備える非水系電解質二次電池を作製し、60℃において、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2
としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電する充放電サイクルを500回行った後、正極から負極への溶出メタル量を測定する。
【0019】
また、本発明の他の態様では、前記元素Eが、Mg、Al、およびSiから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0020】
本発明の更なる他の態様では、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備える非水系電解質二次電池であって、前記正極は、上述した非水系電解質二次電池用正極活物質を構成材料として含むことを特徴とする
【0021】
また、本発明の更なる他の態様では、充放電後の負極の表面には、前記元素Eとリチウムとの合金が存在していることが好ましい。
【0022】
また、本発明の更なる他の態様では、充放電後の負極に含まれる元素Eが、該負極に対して50質量ppm以上600質量ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明による非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材として用いることで、正極および負極の構成比率を変更せずに、負極抵抗を低減し、優れた出力特性の電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の概略を示すフロー図である。
【
図2】電池特性の評価に用いたコイン電池の概略断面図である。
【
図3】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法について説明した後、本発明による非水系電解質二次電池用正極活物質を用いた非水系電解質二次電池について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0026】
[1.正極活物質]
本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)は、一般式:LiaNi1-x-y-zCoxDyEzO2(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.002≦z≦0.05、1.00≦a≦1.30であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Eは、元素Eのイオンが還元される電位よりも貴な電位下で、リチウムと合金化する元素である。)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成されたリチウム金属複合酸化物からなる。そして、一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面には、元素Eを含む酸化物が存在している。
【0027】
一般的に、正極活物質から金属イオンが溶出すると、負極上で還元されて金属を形成し、リチウムイオンと反応可能な面積が減少するため負極抵抗は増大する。
【0028】
これに対して、本実施形態においては、元素Eのイオンが還元される電位よりも貴な電位において、リチウムと合金化する元素Eを選択し、添加することにより、負極上で元素Eがリチウムとの合金を生成して析出するため、リチウムと反応可能なサイトとして利用できる。
【0029】
また、例えば黒鉛負極のように層状構造を有するリチウムインターカレーション材料の場合、リチウムが挿入脱離できる面が表面に配向していなければリチウムの反応場として利用できない。一方、リチウムが挿入脱離不可能な面にリチウムと合金を析出させることで、負極においてリチウムを挿入脱離することを有効とする表面積を増加させ、負極上のリチウムの反応場を増加させることができる。
【0030】
ここで、本実施形態では、元素Eが一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に元素Eを含む酸化物として存在する。一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に酸化物として存在することにより、電池の充放電の際に電解液への溶出が容易になり、正極側で溶出された元素Eのイオンが電解液を介して負極側へと移動し、負極活物質の表面に十分な量のリチウムとの合金が生成される。
【0031】
元素Eの添加量は、上記一般式におけるzで表され、その範囲は0.002≦z≦0.05である。zが0.002未満では、電解液中に溶出する元素Eの量が不足し、負極抵抗を低減できる量のリチウムとの合金が形成されない。一方、zが0.05を超えると、電解液中に溶出する元素Eの量が多くなり、リチウムとの合金が過剰に形成されるため、負極抵抗が増大する。
【0032】
元素Eは、元素Eのイオンが還元される電位よりも貴な電位下で、リチウムと合金化する元素であれば特に限定されないが、Mg、Al、およびSiから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。Mg、Al、およびSiは、電解液への溶出およびリチウムとの合金化が容易であり、負極抵抗の低減効果が大きい。
【0033】
さらに、Mg、Al、およびSiから選ばれる少なくとも2種の元素であることがより好ましい。これらの組み合わせは、Mg、Al、およびSiから選ばれる1種を選択した場合よりも、負極におけるリチウムとの合金化を効率的に生成し析出させ、負極上のリチウムの反応場を増加させることができる。その結果、これらの組み合わせは、負極抵抗をさらに低減することができる。
【0034】
上記元素Eの一部が一次粒子または二次粒子の内部に固溶していてもよい。この元素Eの固溶分は正極特性向上のみに作用するものであるので、元素Eの一部を一次粒子または二次粒子の内部に固溶させることで、溶出分による負極抵抗の低減効果とともに、正極活物質の特性、例えば、熱安定性などを向上させる効果も得られる。この際には、電解液に十分な量を溶出可能である元素Eを含む酸化物が形成されていることが好ましい。
【0035】
コバルトの含有量を示すxは、0.05≦x≦0.35であり、好ましくは0.10≦x≦0.35、より好ましくは0.15≦x≦0.35であり、さらに好ましくは0.20≦x≦0.35である。コバルト含有量が上記範囲である場合、高い結晶構造の安定性を有し、サイクル特性により優れる。
【0036】
元素Dの含有量を示すyは、0≦y≦0.35であり、好ましくは0.05≦y≦0.35、より好ましくは0.15≦y≦0.35であり、さらに好ましくは0.20≦y≦0.35である。元素Dはサイクル特性の向上に寄与し、さらに電池特性の改善のために添加する元素であり、元素Dの含有量が上記範囲である場合、高い電池特性の改善という効果が得られる。例えば、元素DとしてMnを選択した場合、上記範囲とすることで高い熱安定性を得ることができる。
【0037】
正極活物質において、リチウムの含有量を示すaの値は、1.00≦a≦1.30とする。リチウムの含有量aが1.00未満の場合には、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、リチウムの含有量aが1.30を超える場合には、正極活物質を電池の正極に用いた場合の放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。リチウムの含有量を示すaは、反応抵抗をより低減させる観点から好ましくは1.00≦a≦1.20、より好ましくは1.00≦a≦1.15である。
【0038】
また、本実施形態に係る正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、非水系電解質二次電池の正極として用いた際に、電池を充放電させた後の負極に含まれる元素Eが、該負極に対して50質量ppm以上600質量ppm以下であることが好ましい。これにより、適正な量のリチウムと元素Eを含む合金が形成され、負極抵抗に対する低減効果が得られる。ここで、上記充放電とは、充電と放電を1サイクルとして、例えば500サイクル行った状態をいう。
【0039】
以上のような正極活物質は、一般式:LiaNi1-x-y-zCoxDyEzO2のEが0.002≦z≦0.05であり、一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に元素Eを含む酸化物として存在する。
【0040】
したがって、正極活物質は、正極材として用いることで、電池の充放電の際に電解液への溶出が容易になり、正極側で溶出された元素Eのイオンが電解液を介して負極側へと移動し、負極活物質の表面に十分な量のリチウムとの合金が生成される。その結果、正極や負極の構成比率を変更せずに、負極抵抗を低減し、優れた特性を有する非水系電解質二次電池を得ることができる。
【0041】
[2.正極活物質の製造方法]
次に、上記正極活物質の製造方法について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の概略を示すフロー図である。本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、
図1に示すように、少なくともニッケルとコバルトを含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、アルカリ溶液とを、反応槽内に供給し混合することにより遷移金属複合水酸化物粒子を晶析させる晶析工程S1と、晶析工程S1によって得られる遷移金属複合水酸化物と、元素Eを含む化合物と、リチウム化合物とを混合する混合工程S2と、混合工程S2によって得られるリチウム混合物を700℃~1000℃で焼成してリチウム金属複合酸化物を形成させる焼成工程S3とを有するものである。以下、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について各工程を詳細に説明する。
【0042】
(2-1.晶析工程)
晶析工程S1は、反応槽内に、少なくともニッケルとコバルトのイオンを含む水溶液(原料水溶液)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、アルカリ溶液とを、反応槽内に供給し混合することにより遷移金属複合水酸化物粒子を晶析させる工程である。ここで、遷移金属複合水酸化物粒子は、一般式:Ni1-x-yCoxDy(OH)2+α(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、αは水酸化物に含まれる金属元素の価数によって決定される係数であり、かつ0≦α≦0.4である。)で表される。
【0043】
晶析工程S1は、上記一般式で表される遷移金属複合水酸化物粒子が得られれば、公知の晶析技術(例えば、特開2011-116580号公報)を用いることができる。例えば、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を12.0~14.0の範囲に調整し、核生成を行う核生成工程と、核生成工程で得られた核を含む反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5~12.0となるように制御して、核を成長させる粒子成長工程とにより、遷移金属複合水酸化物粒子を得ることができる。また、アルカリ溶液の供給によってpH値を一定に制御しながら、原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを連続的に反応槽内に供給して混合し、反応液をオーバーフローさせて遷移金属複合水酸化物粒子を回収する連続法も用いることができる。
【0044】
元素Eを、晶析工程S1の原料水溶液に元素Eを添加して遷移金属複合水酸化物粒子中に含有させてもよい。この場合、元素Eの添加量は、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物の元素Eの含有量以内で、かつ、後の混合工程S2における元素Eの混合量を減じた量とする。晶析工程S1で元素Eを添加することにより、電池特性を向上させるためにリチウム金属複合酸化物中に固溶させる元素Eの量の制御を容易にすることができる。
【0045】
(2-2.混合工程)
混合工程S2は、晶析工程S1によって得られた遷移金属複合水酸化物に、元素Eを含む化合物とリチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。この混合工程S2により、後述する焼成工程S3で得られるリチウム金属複合酸化物の一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に、元素Eを含む酸化物が形成されることとなる。
【0046】
混合工程S2では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、添加元素(元素D,E)との原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、1.00~1.30、好ましくは1.00~1.20、より好ましくは1.00~1.15となるように、遷移金属複合水酸化物とリチウム化合物を混合する。すなわち、後工程である焼成工程S3の前後ではLi/Meは変化しないので、混合工程S2におけるLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、遷移金属複合水酸化物とリチウム化合物を混合する。
【0047】
混合工程S2で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0048】
混合工程S2では、リチウム化合物とともに元素Eを含む化合物を混合する。上記公知の晶析技術では、上記核生成工程および上記粒子成長工程からなる晶析工程において添加元素を添加している。しかしながら、晶析工程のみで元素Eを添加した場合には、元素Eを含む酸化物がリチウム金属複合酸化物の一次粒子および二次粒子の表面上に存在する量が少なくなる。そうすると、本実施形態により作製された正極活物質を正極として電池に使用した場合に、元素Eの溶出量が足りず、負極側において元素Eとリチウムとの合金化する量が少ないため、負極抵抗の低減効果が低いものとなる。そこで、混合工程S2では、上記公知の晶析技術と異なり、一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面上に元素Eを含む酸化物を形成することができるよう、元素Eを含む化合物を混合する。なお、上述したように、混合工程S2だけでなく、晶析工程S1の原料水溶液に元素Eを添加してもよい。
【0049】
また、元素Eを含む化合物中のE量は、焼成工程S3の前後では変化しない。したがって、正極活物質の組成を示す上記一般式:LiaNi1-x-y-zCoxDyEzO2(ただし、式中、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.002≦z≦0.05、1.00≦a≦1.30であり、元素Dは、Mn、V、Mo、Nb、Ti、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素であり、元素Eは、元素Eのイオンが還元される電位より貴な電位下でリチウムと合金化する元素である。)の原子比となるように元素Eを含む化合物を混合する。ここで、晶析工程S1で元素Eを添加した場合は、晶析工程S1で添加したE量を減らしておけばよく、元素Eを含む化合物がリチウムを含む場合には、元素Eを含む化合物に含まれるリチウムの量だけリチウム化合物を減じておけばよい。
【0050】
元素Eを含む化合物としては、特に制限されないが、不純物混入を防止する観点から、水酸化物、酸化物、炭酸塩リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0051】
遷移金属複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0052】
混合工程S2に先立って、晶析工程S1で得られた遷移金属複合水酸化物を熱処理する熱処理工程を加えてもよい。熱処理工程は、遷移金属複合水酸化物を105~750℃の温度に加熱して熱処理する工程であり、遷移金属複合水酸化物に含有されている水分を除去している。この熱処理工程を行うことによって、遷移金属複合水酸化物中に焼成工程S3まで残留している水分を一定量まで減少させることができる。これにより、得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
【0053】
なお、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての遷移金属複合水酸化物を遷移金属複合酸化物に転換する必要はない。しかしながら、上記ばらつきをより少なくするためには、加熱温度を500℃以上として遷移金属複合酸化物にすべて転換することが好ましい。
【0054】
熱処理工程において、加熱温度が105℃未満の場合、遷移金属複合水酸化物中の余剰水分が除去できず、上記ばらつきを抑制することができないことがある。一方、加熱温度が750℃を超えると、熱処理により粒子が焼結して均一な粒径の遷移金属複合酸化物が得られないことがある。熱処理条件による遷移金属複合水酸化物中に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との比を決めておくことで、上記ばらつきを抑制することができる。
【0055】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
【0056】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、1時間未満では遷移金属複合水酸化物粒子の余剰水分の除去が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5時間~15時間がより好ましい。
【0057】
そして、熱処理に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、遷移金属複合水酸化物を非還元性雰囲気中、好ましくは、空気雰囲気中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
【0058】
(2-3.仮焼工程)
仮焼工程では、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程S2の後、焼成工程S3の前に、リチウム混合物を、後述する焼成工程S3における焼成温度よりも低温であり、つまり、350℃~800℃、好ましくは450℃~780℃で仮焼してもよい。これにより、遷移金属複合水酸化物または熱処理した遷移金属複合水酸化物中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一なリチウム金属複合酸化物を得ることができる。なお、上記温度での保持時間は、1時間~10時間とすることが好ましく、3時間~6時間とすることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程S3と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%~100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
【0059】
(2-4.焼成工程)
焼成工程S3は、混合工程S2で得られたリチウム混合物を700℃~1000℃で焼成し、遷移金属複合水酸化物または熱処理した遷移金属複合水酸化物中にリチウムを拡散させて、リチウム金属複合酸化物を得る工程である。また、添加した元素Eを含む化合物が酸化物となって、この酸化物は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に存在するようになる。なお、焼成工程S3に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、熱処理工程および仮焼工程に用いる炉についても同様である。
【0060】
a)焼成温度
リチウム混合物の焼成温度は、700℃~1000℃の範囲、好ましくは、800℃~950℃の範囲である。焼成温度が700℃未満では、遷移金属複合水酸化物または熱処理した遷移金属複合水酸化物中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の遷移金属複合や水酸化物熱処理した遷移金属複合水酸化物が残存したり、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶性が不十分なものとなる。一方、焼成温度が1000℃を超えると、リチウム金属複合酸化物間が激しく焼結し、異常な粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加するため、粒子充填性の低下や電池特性の低下を招くこととなる。さらにはLiサイトと遷移金属サイトでミキシングを起こし、電池特性を低下させる。なお、上述した一般式におけるNiの含有量を示す「1-x-y-z」が0.8を超える正極活物質を得ようとする場合には、焼成温度を700℃~850℃とすることが好ましい。
【0061】
また、焼成工程S3における昇温速度は、2℃/分~10℃/分とすることが好ましく、5℃/分~10℃/分とすることがより好ましい。さらに、焼成工程S3中、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間~5時間、より好ましくは2時間~5時間保持することが好ましい。これにより、リチウム化合物との反応をより均一にすることができる。
【0062】
b)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間は、少なくとも2時間とすることが好ましく、4時間~24時間とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間が2時間未満では、粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の遷移金属複合水酸化物や熱処理した遷移金属複合水酸化物が残存したり、得られるリチウム金属複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。また、リチウム金属複合酸化物の一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に元素Eを含む酸化物が十分に形成されないおそれがある。なお、保持時間終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分~10℃/分とすることが好ましく、3℃/分~7℃/分とすることがより好ましい。冷却速度をこのような範囲に制御することにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
【0063】
c)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%~100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素雰囲気中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、リチウム金属複合酸化物の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0064】
(2-5.解砕工程)
焼成工程S3によって得られたリチウム金属複合酸化物は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、リチウム金属複合酸化物の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0065】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、例えば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0066】
このような正極活物質の製造方法は、上述した通り優れた特性を有する非水系電解質二次電池用の正極活物質を提供することができる。さらに、この製造方法は、容易で工業的規模での生産に適したものであり、その工業的価値は極めて大きい。
【0067】
[3.非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態により製造される正極活物質を用いた非水系電解質二次電池について説明する。本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、正極、負極、セパレータおよび非水系電解液などの、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成部材を備える。
【0068】
(3-1.構成部材)
a)正極
上述した正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0069】
まず、本実施形態に係る正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合には、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部~95質量部、導電材の含有量を1質量部~20質量部、および結着剤の含有量を1質量部~20質量部とすることができる。
【0070】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に利用されることができる。なお、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることはなく、他の方法であってもよい。
【0071】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0072】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂またはポリアクリル酸を用いることができる。
【0073】
この他に、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的に、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0074】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを使用することができる。また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
【0075】
負極活物質としては、例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物の焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0076】
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されることはない。
【0077】
d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。なお、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。また、溶解度の高いMg、Al、およびSiの炭酸塩、硝酸塩、塩酸塩、および硫酸塩などは、負極のリチウムとの合金化を効率的に生成できるよう非水系電解液にあらかじめ溶解させてもよい。
【0079】
(3-2.非水系電解質二次電池)
本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0080】
(3-3.非水系電解質二次電池の特性)
本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、上述したように、本実施形態に係る正極活物質を正極材料として用いるため、負極抵抗を低減することで、電池容量、出力特性およびサイクル特性に優れる。しかも、この非水系電解質二次電池は、従来のリチウムニッケル系複合酸化物粒子からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性や安全性において優れている。
【0081】
図2は、電池特性の評価に用いたコイン電池の概略断面図である。例えば、本実施形態に係る正極活物質を用いて、
図2に示す2032型コイン電池を構成した場合に、150mAh/g以上、好ましくは158mAh/g以上の初期放電容量と、1.10Ω以下、好ましくは1.05Ω以下の正極抵抗と、0.80Ω以下、好ましくは0.70Ω以下の負極抵抗と、75%以上、好ましくは80%以上の500サイクル容量維持率を同時に達成することができる。
【0082】
(3-4.用途)
本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、上述のように、電池容量、出力特性およびサイクル特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話など)の電源に好適に利用することができる。また、本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、安全性にも優れており、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に利用することができる。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明の実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質について、実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
本実施形態により得られた正極活物質を用いた正極を有する二次電池について、その性能(負極抵抗、サイクル後の溶出メタル量)をそれぞれ測定した。
【0085】
(電池作製)
得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、
図2に示す正極(評価用電極)2を作製した。作製した正極2を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した後、この正極2を用いて2032型コイン電池1を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。負極3には、直径17mm厚さ1mmのリチウム(Li)金属を用い、電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータ4には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン電池は、ガスケット5とウェーブワッシャー6を有し、正極缶7と負極缶8とでコイン型の電池に組み立てた。
【0086】
(電池の評価)
初期放電容量は、コイン電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0087】
また、正極抵抗および負極抵抗は、コイン電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図3に示すナイキストプロットが得られた。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき、等価回路を用いてフィッティング計算を行い、負極抵抗の値を算出した。
【0088】
また、正極から負極への溶出メタル量は、60℃において500回の充放電サイクル試験前後の負極について、ICP-OES装置(製品名:Agilent730-ES アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いたICP(Inductively Coupled Plasma)法による組成分析を実施し、溶出したメタル量を評価した。
【0089】
なお、後述する実施例1~8および比較例1~3では、複合水酸化物の作製、正極活物質および二次電池の作製に、和光純薬工業株式会社製の特級試薬の各試料を使用した。
【0090】
(実施例1)
実施例1では、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を12.0~14.0の範囲に調整し、核生成を行う核生成工程と、核生成工程で得られた核を含む反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5~12.0となるように制御して、核を成長させる粒子成長工程とからなる公知技術によって、Ni0.35Co0.35Mn0.30(OH)2+α(0≦α≦0.4である。)で表される遷移金属複合水酸化物粉末を得た(晶析工程S1)。
【0091】
遷移金属複合水酸化物粉末、元素Eを含む化合物、および炭酸リチウムをシェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合してリチウム混合物を得た(混合工程S2)。ここで、元素Eを含む化合物として酸化マグネシウムを選択し、遷移金属複合粉末中に含まれる金属元素(Ni、Mn、Co)および添加する酸化マグネシウム中のマグネシウムの合計に対するマグネシウムの添加量を0.02at%(原子%)とした。また、遷移金属複合粉末中に含まれる金属元素及び添加する酸化マグネシウム中のマグネシウムの合計に対するリチウムのモル比を1.14とした。
【0092】
このリチウム混合物をマグネシア製の焼成容器に挿入し、密閉式電気炉を用いて、大気雰囲気ガス流量10L/分の雰囲気中で900℃まで昇温して10時間保持し、室温まで炉冷し、リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質を得た(焼成工程S3)。
【0093】
得られた正極活物質の粒度分布測定を、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(製品名:マイクロトラックMT3300EXII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。その結果、平均粒径d50は6.7μmであった。なお、d50は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の50%となる粒径を意味している。
【0094】
また、走査電子顕微鏡による観察で、一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面にMgが存在していることを確認した。Mgが酸化雰囲気中で焼成されていることから、Mgは酸化物の形態で一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に存在しているものと考えられる。
【0095】
(電池評価)
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有するコイン電池の電池特性を評価した。なお、負極抵抗および溶出メタル量の評価値を表1に示す。
【0096】
(実施例2~8、比較例1~3)
実施例2~8および比較例1~3では、添加した元素Eを含む化合物の種類と添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。なお、負極抵抗および溶出メタル量の評価値を表1に示す。
【0097】
また、実施例2~8、比較例2~3で得られた正極活物質は、走査電子顕微鏡による観察で、一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に元素E(Mg、Al、Si)が存在していることが確認された。元素Eが酸化雰囲気中でそれぞれ焼成されていることから、元素Eは酸化物の形態で一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に存在しているものと考えられる。
【0098】
【0099】
(実施例による考察)
実施例1~8では、上述した一般式:LiaNi1-x-y-zCoxDyEzO2のEが、0.002≦z≦0.05at%であることにより、負極抵抗を0.80Ω以下に低減することができた。これは、実施例1~8における溶出メタル量が50質量ppm以上600質量ppm以下であったことから、リチウム金属複合酸化物の一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に存在する元素Eを含む酸化物量が適切であったことが理由として考えられる。特に、実施例8では、元素Eが同じ存在比である実施例1~3と比較し、上記一般式の元素EにMgおよびAlの2種を組み合わせることで、負極抵抗をより確実に低減することができた。
【0100】
一方、比較例1~3では、上記一般式の元素Eが0.002≦z≦0.05at%の範囲になかったことにより、実施例1~8と比較し、負極抵抗を低減することができなかった。これは、リチウム金属複合酸化物の一次粒子および二次粒子の少なくともいずれかの表面に存在する元素Eを含む酸化物量が適切でなかったことが理由として考えられる。
【符号の説明】
【0101】
1 コイン電池、2 正極、3 負極、4 セパレータ、5 ガスケット、6 ウェーブワッシャー、7 正極缶、8 負極缶、S1 晶析工程、S2 混合工程、S3 焼成工程