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特許7031187導体及びその形成方法、並びに構造体及びその製造方法
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  • 特許-導体及びその形成方法、並びに構造体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】導体及びその形成方法、並びに構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20220301BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20220301BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20220301BHJP
   H05K 3/40 20060101ALI20220301BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220301BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220301BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H05K3/38 B
H05K3/12 610A
H05K3/12 610G
H05K1/09 A
H05K3/40 K
H01B13/00 503Z
B22F1/00 L
B22F3/26 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017180571
(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公開番号】P2019057586
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】米倉 元気
(72)【発明者】
【氏名】納堂 高明
(72)【発明者】
【氏名】浦島 航介
(72)【発明者】
【氏名】小川 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】明比 龍史
【審査官】赤穂 州一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107731(JP,A)
【文献】特開2007-317482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0307804(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
H05K 3/10 - 3/26
H05K 1/09
H05K 3/40
H01B 13/00
B22F 1/00
B22F 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着体上に導体を形成する導体の形成方法であって、
前記被着体上に、金属成分として銅を含む多孔性の導電体層であって、前記被着体と接する第一の外表面、前記第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び前記第一の外表面と前記第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層を設ける工程と、
樹脂及びカップリング剤を前記連通孔に充填する工程と、
を備え
前記樹脂が、エポキシ樹脂であり、
前記カップリング剤が、前記樹脂100質量部に対して5~50質量部の充填量となるアミノ基を有するカップリング剤、又は前記樹脂100質量部に対して10~30質量部の充填量となるメルカプト基を有するカップリング剤である、導体の形成方法。
【請求項2】
前記導電体層が10~70%の気孔率を有する、請求項1に記載の導体の形成方法。
【請求項3】
被着体と、前記被着体上に設けられた導体とを備える構造体の製造方法であって、
前記被着体上に、金属成分として銅を含む多孔性の導電体層であって、前記被着体と接する第一の外表面、前記第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び前記第一の外表面と前記第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層を設ける工程と、
樹脂及びカップリング剤を前記連通孔に充填する工程と、
を備え
前記樹脂が、エポキシ樹脂であり、
前記カップリング剤が、前記樹脂100質量部に対して5~50質量部の充填量となるアミノ基を有するカップリング剤、又は前記樹脂100質量部に対して10~30質量部の充填量となるメルカプト基を有するカップリング剤である、構造体の製造方法。
【請求項4】
前記導電体層が10~70%の気孔率を有する、請求項に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
金属成分として銅を含む多孔性の導電体層であって、第一の外表面、前記第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び前記第一の外表面と前記第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層と、
前記連通孔に充填された、樹脂又はその硬化物、及びカップリング剤又はその反応物を含む樹脂部と、
を備え
前記樹脂又はその硬化物が、エポキシ樹脂又はその硬化物であり、
前記カップリング剤又はその反応物が、前記樹脂若しくはその硬化物100質量部に対して5~50質量部の充填量となるアミノ基を有するカップリング剤若しくはその反応物、又は前記樹脂若しくはその硬化物100質量部に対して10~30質量部の充填量となるメルカプト基を有するカップリング剤若しくはその反応物である、導体。
【請求項6】
被着体と、前記被着体上に設けられた導体とを備える構造体であって、
前記導体は、
金属成分として銅を含む多孔性の導電体層であって、前記被着体と接する第一の外表面、前記第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び前記第一の外表面と前記第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層と、
前記連通孔に充填された、樹脂又はその硬化物、及びカップリング剤又はその反応物を含む樹脂部と、を備え
前記樹脂又はその硬化物が、エポキシ樹脂又はその硬化物であり、
前記カップリング剤又はその反応物が、前記樹脂若しくはその硬化物100質量部に対して5~50質量部の充填量となるアミノ基を有するカップリング剤若しくはその反応物、又は前記樹脂若しくはその硬化物100質量部に対して10~30質量部の充填量となるメルカプト基を有するカップリング剤若しくはその反応物である、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体及びその形成方法、並びに構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属パターンの形成方法として、銅等の金属粒子を含むインク、ペースト等の導電材料をインクジェット印刷、スクリーン印刷等により基材上に付与する工程と、導電材料を加熱して金属粒子を融着させ、導電性を発現させる導体化工程とを含む、いわゆるプリンテッドエレクトロニクス法が知られている。
【0003】
プリンテッドエレクトロニクス法には、金属の酸化を抑制して保存性を高めるために表面に被覆材としての有機物を付着させた金属粒子を含む導電材料を用いて導体を形成する方法がある。特許文献1には、低温で融着でき、良好な導電性を発現する有機物で被覆された所定の銅粒子を含むインクをアルゴン雰囲気中、60℃/分の昇温速度で300℃まで昇温して30分保持することで導体を形成する方法が開示されている。特許文献2には、所定の銅粒子を含むインクを200℃で加熱することで導体(薄膜)を形成する方法が開示されている。
【0004】
プリンテッドエレクトロニクス法には、また、金属粒子及び樹脂を含む導電材料を用いて導体を形成する方法がある。特許文献3には、銀粉、エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する導電性銀ペーストを基材上に塗布する工程と、当該工程で得られた塗膜を加熱硬化する工程とを含む、導電層の形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-72418号公報
【文献】特開2014-148732号公報
【文献】特開2012-248370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、生産効率の向上等を背景として、より低温(例えば、180℃以下)での金属粒子の融着性(導電性)と、基材等の被着体との接着性を両立する技術の開発が求められている。特許文献1及び特許文献2に記載されている方法で形成された導電性物質(導体)は、一定の導電性を示すものの、基材等の被着体との接着性を考慮していない。また、特許文献3に記載されている導電性ペーストを用いた導体の形成方法で形成された導体は、被着体との接着性を示すものの、配合した樹脂や硬化剤のせいで配線に用いるための十分な導電性を有していない。基材との接着性向上に一般的なカップリング剤についても、導電性ペーストに対する配合量を増やし過ぎると導電性が低下する。このように、導電性ペースト分野では、導電性と接着性との両立が課題となっている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑み、導電性及び被着体との接着性に優れる導体及びその形成方法、並びに該導体を備える構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
<1>被着体上に導体を形成する導体の形成方法であって、被着体上に、多孔性の導電体層であって、被着体と接する第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層を設ける工程と、樹脂及びカップリング剤を連通孔に充填する工程と、を備える、導体の形成方法。
<2>カップリング剤の充填量が、樹脂100質量部に対して0.1~80質量部である、<1>に記載の導体の形成方法。
<3>導電体層が10~70%の気孔率を有する、<1>又は<2>に記載の導体の形成方法。
<4>被着体と、被着体上に設けられた導体とを備える構造体の製造方法であって、被着体上に、多孔性の導電体層であって、被着体と接する第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層を設ける工程と、樹脂及びカップリング剤を連通孔に充填する工程と、を備える、構造体の製造方法。
<5>カップリング剤の充填量が、樹脂100質量部に対して0.1~80質量部である、<4>に記載の構造体の製造方法。
<6>導電体層が10~70%の気孔率を有する、<4>又は<5>に記載の構造体の製造方法。
<7>多孔性の導電体層であって、第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層と、連通孔に充填された、樹脂又はその硬化物、及びカップリング剤又はその反応物を含む樹脂部と、を備える、導体。
<8>被着体と、被着体上に設けられた導体とを備える構造体であって、導体は、多孔性の導電体層であって、被着体と接する第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層と、連通孔に充填された、樹脂又はその硬化物、及びカップリング剤又はその反応物を含む樹脂部と、を備える、構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性及び被着体との接着性に優れる導体及びその形成方法、並びに該導体を備える構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】導体の形成方法を説明するためのSEM画像である。(a)は、樹脂及びカップリング剤を充填する前の導電体層の断面のSEM画像である。(b)は、樹脂及びカップリング剤を充填して得られた導体の断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合、原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。本明細書において組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。本明細書において「膜」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構成に加え、一部に形成されている形状の構成も包含される。
【0013】
本明細書において「導体化」とは、金属含有粒子を融着させて導体に変化させることをいう。「導体」とは、導電性を有する物体をいい、より具体的には体積抵抗率が300μΩ・cm以下である物体をいう。「個%」は、個数基準の割合(百分率)を意味する。
【0014】
<導体の形成方法>
本実施形態に係る導体の形成方法では、まず、被着体上に導電体層を設ける(導電体層設置工程)。
【0015】
被着体は、例えば基材であってよい。基材の材質は、特に制限されず、導電性を有していても有していなくてもよい。基材としては、具体的には、Cu、Au、Pt、Pd、Ag、Zn、Ni、Co、Fe、Al、Sn等の金属、これら金属の合金、ITO、ZnO、SnO、Si等の半導体、ガラス、黒鉛、グラファイト等のカーボン材料、樹脂、紙、これらの組み合わせなどを挙げることができる。後述するような低温での導体化が可能な金属成分を用いた場合、特に、耐熱性が比較的低い材質からなる基材を好適に用いることができる。耐熱性が比較的低い材質としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。基材の形状は、特に制限されず、板状、棒状、ロール状、フィルム状等であってよい。
【0016】
被着体は、基材以外のその他の層を有していてよい。その他の層としては、プライマー層が挙げられる。プライマー層は、例えば、シランカップリング剤を含む層で形成されている。
【0017】
導電体層は、例えば、金属成分と分散媒とを含む導電体形成用組成物からなる導電体形成用組成物層を被着体上に形成し、該導電体形成用組成物層を加熱することで形成される(導電体層形成工程)。導電体形成用組成物層は、例えば、導電体形成用組成物を被着体上に印刷塗布することにより形成される。金属成分として後述の銅含有粒子を用いた場合、導電体層形成工程では、導電体形成用組成物に含まれる銅含有粒子の表面の有機物を熱分解させ、かつ、銅含有粒子を融着させることにより導電体層が得られる。
【0018】
導電体層形成工程の加熱温度は、例えば、250℃以下、230℃以下、又は210℃以下であり、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上である。導電体形成用組成物が、金属成分として後述の銅含有粒子を含む場合、低温での導体化が可能であるため、導電体層形成工程の加熱温度は、例えば、200℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0019】
導電体層形成工程が実施される雰囲気は、特に制限されず、通常の導体の製造工程で用いられる窒素、アルゴン等の雰囲気から選択できる。導電体層形成工程は、水素、ギ酸等の還元性物質を、窒素等に飽和させた還元ガス雰囲気中で実施されてもよい。導電体層形成工程は、一実施形態において、還元ガス雰囲気中かつ100~250℃の加熱温度で実施される。加熱時の圧力は、特に制限されないが、低温での導体化が促進される傾向にあることから、減圧であってよい。
【0020】
導電体層形成工程における昇温速度は、一定であってもよく、不規則に変化させてもよい。導電体層形成工程の時間は、特に制限されず、加熱温度、加熱雰囲気、金属成分の量等を考慮して選択できる。加熱方法は特に制限されず、熱板による加熱、赤外ヒータによる加熱、パルスレーザによる加熱等を挙げることができる。
【0021】
金属成分の種類は、特に制限されない。金属成分としては、例えば、銀、ニッケル、ベリリウム、白金、コバルト、アンチモン、ゲルマニウム、タリウム、イリジウム、亜鉛、ニオブ、金、パラジウム、カドミウム、ルテニウム、銅、チタン、インジウム、タングステン、モリブデン、アルミニウム、鉛、ビスマス、ロジウム、クロム、スズ、鉄、バナジウム、マンガン等の導電性を有する金属成分、又はこれらの金属成分を含む合金を挙げることができる。金属成分は、導電性の観点から、好ましくは金、銀、銅又はこれらの金属を含む合金からなる群より選択される少なくとも一種であり、耐酸化性の観点から、好ましくは金、銀又はこれらの金属を含む合金からなる群より選択される少なくとも一種であり、コストの観点から、好ましくは銅及び銅を含む合金からなる群より選択される少なくとも一種である。導電体形成用組成物に含まれる金属成分は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0022】
導電体形成用組成物に含まれる金属成分の形状は、特に制限されない。金属成分の形状としては、具体的には、球状、長粒状、扁平状、繊維状等を挙げることができる。金属成分の形状は、金属成分の用途にあわせて選択されうる。導電体形成用組成物を印刷法に適用する場合は、金属成分の形状は好ましくは球状又は長粒状である。導電体形成用組成物に含まれる金属成分の形状は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0023】
金属成分は、好ましくは、銅含有粒子である。銅含有粒子は、例えば、銅を含むコア粒子と、該コア粒子の表面の少なくとも一部に存在する有機物と、を有する銅含有粒子である。
【0024】
本実施形態の銅含有粒子は上記構成であることにより、低温(例えば150℃)での融着性(導体化)に優れている。すなわち、銅含有粒子は、銅を含有するコア粒子の表面の少なくとも一部に存在する有機物が保護材としての役割を果たし、コア粒子の酸化を抑制する。このため、大気中での長期保存後も低温での良好な融着性が維持される。なお、この有機物は、銅含有粒子を融着させて導体を製造する際の加熱により熱分解して消失する。
【0025】
銅を含有するコア粒子の表面の少なくとも一部に存在する有機物は、好ましくは、アルキルアミン、アルキルアミンに由来する物質等を含む。アルキルアミン等の有機物の存在は、窒素雰囲気中で有機物が熱分解する温度以上の温度で銅含有粒子を加熱し、加熱前後の質量を比較することで確認される。アルキルアミンとしては、例えば、後述する銅含有粒子の製造方法に用いられるアルキルアミンが挙げられる。
【0026】
コア粒子の表面の少なくとも一部に存在する有機物は、その割合がコア粒子及び有機物の合計に対して、好ましくは0.1質量%~20質量%、より好ましくは0.3質量%~10質量%、更に好ましくは0.5質量%~5質量%である。有機物の割合が0.1質量%以上であると、充分な耐酸化性が得られる傾向にある。有機物の割合が20質量%以下であると、低温での融着性が良好となる傾向にある。
【0027】
コア粒子は、少なくとも銅(金属銅)を含み、必要に応じてその他の物質を含んでもよい。銅以外の物質としては、金、銀、白金、錫、ニッケル等の金属又はこれらの金属元素を含む化合物、後述する脂肪酸銅、還元性化合物又はアルキルアミンに由来する有機物、酸化銅、塩化銅等を挙げることができる。導電性に優れる導体を形成する観点からは、コア粒子中の銅(金属銅)の含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0028】
銅含有粒子は、コア粒子の表面の少なくとも一部に有機物が存在しているために、大気中で保存しても銅の酸化が抑制されており、酸化物の含有率が小さい。例えば、ある実施態様では、銅含有粒子中の酸化物の含有率が5質量%以下である。銅含有粒子中の酸化物の含有率は、例えばXRD(X-ray diffraction、X線回折)によって測定される。
【0029】
<銅含有粒子の製造方法>
銅含有粒子の製造方法は、特に制限されない。例えば、銅含有粒子は、脂肪酸と銅との金属塩、還元性化合物、アルキルアミンを含む組成物を加熱する工程を有する方法によって製造される。当該方法は、必要に応じて、上記組成物を加熱する工程の後に遠心分離工程、洗浄工程等の工程を有していてもよい。
【0030】
上記方法は、銅前駆体として、脂肪酸と銅との金属塩を使用するものである。これにより、銅前駆体としてシュウ酸銀等を用いる特許文献1に記載の方法と比較して、より沸点の低い(すなわち、分子量の小さい)アルキルアミンを反応媒として使用することが可能になると考えられる。その結果、得られる銅含有粒子においてコア粒子の表面に存在する有機物がより熱分解又は揮発しやすいものとなり、導体化を低温で実施することがより容易になると考えられる。
【0031】
(脂肪酸)
脂肪酸は、RCOOHで表される1価のカルボン酸(Rは鎖状の炭化水素基であり、直鎖状であっても分岐を有していてもよい)である。脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。コア粒子を効率的に被覆して酸化を抑制する観点からは、脂肪酸は、好ましくは直鎖状の飽和脂肪酸である。脂肪酸は、1種のみでも、2種以上であってもよい。
【0032】
脂肪酸の炭素数は、好ましくは9以下である。炭素数が9以下である飽和脂肪酸としては、酢酸(炭素数2)、プロピオン酸(炭素数3)、酪酸及びイソ酪酸(炭素数4)、吉草酸及びイソ吉草酸(炭素数5)、カプロン酸(炭素数6)、エナント酸及びイソエナント酸(炭素数7)、カプリル酸及びイソカプリル酸及びイソカプロン酸(炭素数8)、ノナン酸及びイソノナン酸(炭素数9)等を挙げることができる。炭素数が9以下である不飽和脂肪酸としては、上記の飽和脂肪酸の炭化水素基中に1つ以上の二重結合を有するものを挙げることができる。
【0033】
脂肪酸の種類は、銅含有粒子の分散媒への分散性、融着性等の性質に影響しうる。このため、銅含有粒子の用途に応じて脂肪酸の種類を選択することが好ましい。粒子形状の均一化の観点からは、炭素数が5~9である脂肪酸と、炭素数が4以下である脂肪酸とを併用することが好ましい。例えば、炭素数が9であるノナン酸と、炭素数が2である酢酸とを併用することが好ましい。炭素数が5~9である脂肪酸と炭素数が4以下である脂肪酸とを併用する場合の比率は、特に制限されない。
【0034】
脂肪酸と銅との塩化合物(脂肪酸銅)を得る方法は特に制限されない。例えば、水酸化銅と脂肪酸とを溶媒中で混合することで得てもよく、市販されている脂肪酸銅を用いてもよい。あるいは、水酸化銅、脂肪酸及び還元性化合物を溶媒中で混合することで、脂肪酸銅の生成と、脂肪酸銅と還元性化合物との間で形成される錯体の生成とを同じ工程中で行ってもよい。
【0035】
(還元性化合物)
還元性化合物は、脂肪酸銅と混合した際に両化合物間で錯体等の複合化合物を形成すると考えられる。これにより、還元性化合物が脂肪酸銅中の銅イオンに対する電子のドナーとなり、銅イオンの還元が生じやすくなり、錯体を形成していない状態の脂肪酸銅よりも自発的な熱分解による銅原子の遊離が生じやすくなると考えられる。還元性化合物は、1種を単独で用いられても、2種以上を併用されてもよい。
【0036】
還元性化合物としては具体的には、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン誘導体等のヒドロキシルアミン化合物、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等のナトリウム化合物などを挙げることができる。
【0037】
還元性化合物は、脂肪酸銅中の銅原子に対して配位結合を形成しやすい、脂肪酸銅の構造を維持した状態で錯体を形成しやすい等の観点からは、好ましくは、アミノ基を有する還元性化合物である。アミノ基を有する還元性化合物としては、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン及びその誘導体等を挙げることができる。
【0038】
脂肪酸銅、還元性化合物及びアルキルアミンを含む組成物を加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)における加熱温度を低くする(例えば、150℃以下)観点からは、還元性化合物は、好ましくは、アルキルアミンの蒸発又は分解を生じない温度範囲において銅原子の還元及び遊離を生じる錯体を形成可能な還元性化合物である。このような還元性化合物としては、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン及びその誘導体等を挙げることができる。これらの還元性化合物は、骨格を成す窒素原子が銅原子との配位結合を形成して錯体を形成することができる。また、これらの還元性化合物は一般にアルキルアミンと比較して還元力が強いため、生成した錯体が比較的穏和な条件で自発的な分解を生じ、銅原子の還元及び遊離が生じる傾向にある。
【0039】
ヒドラジン又はヒドロキシルアミンの代わりにこれらの誘導体から好適なものを選択することで、脂肪酸銅との反応性を調節することができ、所望の条件で自発分解を生じる錯体を生成することができる。ヒドラジン誘導体としては、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、n-プロピルヒドラジン、イソプロピルヒドラジン、n-ブチルヒドラジン、イソブチルヒドラジン、sec-ブチルヒドラジン、t-ブチルヒドラジン、n-ペンチルヒドラジン、イソペンチルヒドラジン、neo-ペンチルヒドラジン、t-ペンチルヒドラジン、n-ヘキシルヒドラジン、イソヘキシルヒドラジン、n-ヘプチルヒドラジン、n-オクチルヒドラジン、n-ノニルヒドラジン、n-デシルヒドラジン、n-ウンデシルヒドラジン、n-ドデシルヒドラジン、シクロヘキシルヒドラジン、フェニルヒドラジン、4-メチルフェニルヒドラジン、ベンジルヒドラジン、2-フェニルエチルヒドラジン、2-ヒドラジノエタノール、アセトヒドラジン等を挙げることができる。ヒドロキシルアミンの誘導体としては、N,N-ジ(スルホエチル)ヒドロキシルアミン、モノメチルヒドロキシルアミン、ジメチルヒドロキシルアミン、モノエチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、N,N-ジ(カルボキシエチル)ヒドロキシルアミン等を挙げることができる。
【0040】
脂肪酸銅に含まれる銅と還元性化合物の比率は、所望の錯体が形成される条件であれば特に制限されない。例えば、当該比率(銅:還元性化合物)は、モル比で、1:1~1:4の範囲であり、好ましくは1:1~1:3の範囲、より好ましくは1:1~1:2の範囲である。
【0041】
(アルキルアミン)
アルキルアミンは、脂肪酸銅と還元性化合物とから形成される錯体の分解反応の反応媒として機能すると考えられる。更に、還元性化合物の還元作用によって生じるプロトンを捕捉し、反応溶液が酸性に傾いて銅原子が酸化されることを抑制すると考えられる。
【0042】
アルキルアミンはRNH(Rは炭化水素基であり、環状、直鎖状又は分岐状であってもよい)で表される1級アミン、RNH(R及びRは炭化水素基であり、同じであっても異なっていてもよい。R及びRは、環状又は分岐状であってもよい)で表される2級アミン、炭化水素鎖に2つのアミノ基が置換したアルキレンジアミン等を意味する。アルキルアミンは、1つ以上の二重結合を有していてもよく、酸素、ケイ素、窒素、イオウ、リン等の原子を有していてもよい。アルキルアミンは、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0043】
アルキルアミンの炭化水素基の炭素数は、好ましくは7以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以上である。アルキルアミンの炭化水素基の炭素数が7以下であると、銅含有粒子を融着させて導体を形成するための加熱の際にアルキルアミンが熱分解しやすく、良好な導体化が達成できる傾向にある。
【0044】
1級アミンとして具体的には、エチルアミン、2-エトキシエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン等を挙げることができる。
【0045】
2級アミンとして具体的には、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルペンチルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン等を挙げることができる。
【0046】
アルキレンジアミンとして具体的には、エチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン、1,6-ジアミノへキサン、N,N’-ジメチル-1,6-ジアミノへキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,12-ジアミノドデカン等を挙げることができる。
【0047】
アルキルアミンは、好ましくは、炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンの少なくとも1種を含む。これにより、低温での融着性により優れる銅含有粒子を製造することができる。アルキルアミンは1種単独で用いられても、2種以上を併用されてもよい。アルキルアミンは、炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンと、炭化水素基の炭素数が8以上のアルキルアミンと、を含んでもよい。炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンと炭化水素基の炭素数が8以上のアルキルアミンとを併用する場合、アルキルアミン全体に占める炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンの割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0048】
脂肪酸銅に含まれる銅とアルキルアミンの比率は、所望の銅含有粒子が得られる条件であれば特に制限されない。例えば、当該比率(銅:アルキルアミン)は、モル比で、1:1~1:8の範囲であり、好ましくは1:1~1:6の範囲、より好ましくは1:1~1:4の範囲である。
【0049】
(加熱工程)
脂肪酸銅、還元性化合物及びアルキルアミンを含む組成物を加熱する工程を実施するための方法は特に制限されない。例えば、脂肪酸銅と還元性化合物とを溶媒に混合した後にアルキルアミンを添加して加熱する方法、脂肪酸銅とアルキルアミンとを溶媒と混合した後に更に還元性化合物を添加して加熱する方法、脂肪酸銅の出発物質である水酸化銅、脂肪酸、還元性化合物及びアルキルアミンを溶媒に混合して加熱する方法、脂肪酸銅とアルキルアミンとを溶媒に混合した後に還元性化合物を添加して加熱する方法等を挙げることができる。
【0050】
加熱工程は、銅前駆体として炭素数が9以下である脂肪酸銅を用いることにより、比較的低温で行われることができる。加熱工程の実施温度は、例えば、150℃以下であり、好ましくは130℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0051】
脂肪酸銅、還元性化合物及びアルキルアミンを含む組成物は、更に溶媒を含んでもよい。当該組成物は、脂肪酸銅と還元性化合物による錯体の形成を促進する観点からは、好ましくは、極性溶媒を含む。ここで極性溶媒とは、25℃で水に溶解する溶媒を意味する。
極性溶媒は、好ましくはアルコールである。アルコールを用いることで錯体の形成が促進される傾向にある。その理由は明らかではないが、固体である脂肪酸銅を溶解させながら水溶性である還元性化合物との接触が促進されるためと考えられる。溶媒は、1種を単独で用いられても、2種以上を併用されてもよい。
【0052】
25℃で水に溶解するアルコールとしては、炭素数が1~8であり、分子中に水酸基を1つ有するアルコールを挙げることができる。このようなアルコールとしては、直鎖状のアルキルアルコール、フェノール、分子内にエーテル結合を有する炭化水素の水素原子を水酸基で置換したもの等を挙げることができる。25℃で水に溶解するアルコールは、より強い極性を発現する観点からは、好ましくは、分子中に水酸基を2個以上含むアルコールである。また、製造される銅含有粒子の用途に応じてイオウ原子、リン原子、ケイ素原子等を含むアルコールを用いてもよい。
【0053】
アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、ピナコール、プロピレングリコール、メントール、カテコール、ヒドロキノン、サリチルアルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、スクロース、グルコース、キシリトール、メトキシエタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール等を挙げることができる。
【0054】
アルコールは、好ましくは、水に対する溶解度が極めて大きいメタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノール、より好ましくは、1-プロパノール及び2-プロパノール、更に好ましくは1-プロパノールである。
【0055】
銅含有粒子は、好ましくは、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合が55個%以下である。本明細書において銅含有粒子の長軸とは、銅含有粒子に外接し、互いに平行である二平面の間の距離が最大となるように選ばれる二平面間の距離を意味する。本明細書において長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合は、無作為に選択される200個の銅含有粒子中に占める割合である。例えば、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子が200個中に110個存在する場合は、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合は55個%である。
【0056】
長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子(以下、「小径粒子」ともいう)の割合が55個%以下であることで、銅含有粒子は、銅含有粒子全体としての低温での融着性に優れている。
【0057】
銅含有粒子中の小径粒子の割合が55個%以下である(すなわち、長軸の長さが50nmを超える銅含有粒子の割合が45個%を超える)と低温での融着性に優れる理由は明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。銅含有粒子は本来、小さいほど溶融しやすい傾向にある。一方、長軸の長さが50nmを超える銅含有粒子では、粒子表面の有機物が脱離しにくく酸化の影響を受けにくい、粒子表面の触媒活性が高すぎず溶融を妨げる物質を生成しにくい、粒子の比表面積が大きくならず酸化の影響を受けにくい、等の何らかの要因により、長軸の長さが小径粒子よりも大きいことで溶融しやすい場合がある。その結果、長軸の長さが50nmを超える銅含有粒子の割合が45個%を超える場合、銅含有粒子は低温での融着性に優れる傾向にある。
【0058】
特許文献1及び特許文献2には、銅粒子の平均粒径が50nm以下であり、更には平均粒径が20nmであると記載されている。また、特許文献2には、実施例で得られた銅粒子中に粒子径が10nm以下の銅粒子と、粒子径が100~200nmの銅粒子とが混在していたと記載されている。しかしながら、いずれの特許文献にも銅粒子全体に占める小径粒子の割合に関する具体的な記載はなく、小径粒子の割合が少ないと融着性が向上することを示唆する記載もない。
【0059】
低温での融着性の観点からは、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合は、好ましくは50個%以下、より好ましくは35個%以下、更に好ましくは20個%以下である。
【0060】
低温での融着性の観点からは、長軸の長さが70nm以上である銅含有粒子の割合は、好ましくは30個%以上、より好ましくは50個%以上、更に好ましくは60個%以上である。本明細書において長軸の長さが70nm以上である銅含有粒子の割合は、無作為に選択される200個の銅含有粒子に占める割合である。
【0061】
低温での融着性の観点からは、銅含有粒子の長軸の長さの平均値は、好ましくは55nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上である。低温での融着性の観点からは、銅含有粒子の長軸の長さの平均値は、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下である。本明細書において長軸の長さの平均値とは、無作為に選択される200個の銅含有粒子について測定した長軸の長さの算術平均値である。なお、銅含有粒子の長軸の長さ、後述する表面の凹凸の有無、アスペクト比は、電子顕微鏡による観察等の公知の方法により測定される。電子顕微鏡で観察する場合の倍率は特に制限されないが、例えば20倍~50000倍である。なお、粒子径が3.0nm未満の銅含有粒子は、測定の対象から除外する。
【0062】
低温での融着性の観点からは、長軸の長さが最長である銅含有粒子(以下、「最大径粒子」ともいう)の長軸の長さは、好ましくは350nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは250nm以下である。本明細書において最大径粒子の長軸の長さとは、無作為に選択される200個の銅含有粒子中で長軸の長さが最長である銅含有粒子の長軸の長さである。
【0063】
低温での融着性の観点からは、長軸の長さが最短である銅含有粒子(以下、「最小径粒子」ともいう)の長軸の長さは、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、更に好ましくは10nm以上である。本明細書において最小径粒子の長軸の長さは、無作為に選択される200個の銅含有粒子中で長軸の長さが最短である銅含有粒子の長軸の長さである。
【0064】
銅含有粒子の長軸の長さの調整は、例えば、後述する銅含有粒子の製造方法における原材料の種類、原材料を混合する際の温度、反応時間、反応温度、洗浄工程、洗浄溶媒等の条件を調節することによって行われる。
【0065】
低温での融着を促進する観点からは、本実施形態の銅含有粒子は、好ましくは表面に凹凸を有する銅含有粒子を含む。表面に凹凸を有する銅含有粒子は、好ましくは円形度が0.70~0.99である銅含有粒子である。本明細書において円形度とは、4π×S/(周囲長さ)で表される値であり、Sは測定対象粒子の表面積であり、周囲長さは測定対象粒子の周囲長さである。円形度は、画像処理ソフトを用いて電子顕微鏡像を解析することにより求めることができる。電子顕微鏡で観察する場合の倍率は特に制限されないが、例えば20倍~50000倍である。なお、粒子径が3.0nm未満の銅含有粒子は、測定の対象から除外する。
【0066】
銅含有粒子が表面に凹凸を有する銅含有粒子を含むことで低温での融着が促進される理由は明らかではないが、銅含有粒子の表面に凹凸が存在することにより、いわゆるナノサイズ効果による融点低下が生じ、低温での融着性が促進されると推測される。
【0067】
銅含有粒子の形状は特に制限されず、用途に応じて選択されてよい。例えば、銅含有粒子の長軸と短軸の比(長軸/短軸)であるアスペクト比は、1.0~10.0の範囲から選択されてよい。銅含有粒子と分散媒等との混合物を印刷法によって基材に付与する場合は、銅含有粒子の長軸と短軸の比(長軸/短軸)であるアスペクト比の平均値は、混合物の粘度の調整が容易である観点から、好ましくは1.5~8.0である。銅含有粒子の短軸とは、銅含有粒子に外接し、互いに平行である二平面の間の距離が最小となるように選ばれる二平面間の距離を意味する。
【0068】
銅含有粒子のアスペクト比の平均値は、好ましくは1.0~8.0、より好ましくは1.1~6.0、更に好ましくは1.2~3.0である。本明細書においてアスペクト比の平均値とは、無作為に選択される200個の銅含有粒子の長軸の算術平均値と短軸の算術平均値をそれぞれ求め、得られた長軸の算術平均値を短軸の算術平均値で除して得られる値である。
【0069】
銅含有粒子のアスペクト比の調整は、例えば、後述する銅含有粒子の製造方法において使用される脂肪酸の炭素数等の条件を調節することによって行われる。
【0070】
導電体形成用組成物に含まれる分散媒の種類は特に制限されず、導電体形成用組成物の用途に応じて一般に用いられる有機溶媒から選択できる。分散媒は、1種単独で用いられても、2種以上を併用されてもよい。導電体形成用組成物を印刷法に適用する場合は、導電体形成用組成物の粘度をコントロールする観点から、分散媒は、好ましくは、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ジヒドロターピネオール及びジヒドロターピネオールアセテートからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0071】
導電体形成用組成物の粘度は特に制限されず、導電体形成用組成物の使用方法に応じて選択されうる。例えば、導電体形成用組成物をスクリーン印刷法に適用する場合は、粘度は、好ましくは0.1Pa・s~30Pa・s、より好ましくは1Pa・s~30Pa・sである。導電体形成用組成物をインクジェット印刷法に適用する場合は、使用するインクジェットヘッドの規格にもよるが、粘度は、好ましくは0.1mPa・s~30mPa・s、より好ましくは5mPa・s~20mPa・sである。本発明において、「導電体形成用組成物の粘度」とは、E型粘度計(東機産業株式会社製、製品名:VISCOMETER-TV22、適用コーンプレート型ロータ:3°×R17.65)を用い、25℃において測定された値を意味する。
【0072】
導電体形成用組成物としては、導電塗料、導電ペースト、導電インク等が挙げられる。
【0073】
導電体形成用組成物は、必要に応じて金属成分及び分散媒以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、シランカップリング剤、高分子化合物、ラジカル開始剤、還元剤等が挙げられる。
【0074】
以上のように、導電体層形成工程により、被着体上に導電体層が得られる。図1(a)は、導電体層の断面のSEM画像である。この導電体層1は、金属成分を含む導電体1aで形成されている。導電体層1は、被着体と接する第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔1bを有する。導電体層1は、例えば金属成分を含む導電体1aで形成された多孔性の導電体層(多孔質体層)であってよい。導電体層1の厚さは、例えば、0.4~100μmである。
【0075】
導電体層1は、被着体との接着性に優れる観点から、好ましくは10%以上の気孔率、より好ましくは13%以上の気孔率、更に好ましくは15%以上の気孔率を有する。導電体層1は、導電性に優れる観点から、好ましくは70%以下の気孔率、より好ましくは55%以下の気孔率、更に好ましくは40%以下の気孔率を有する。導電体層1は、導電性及び被着体との接着性に優れる観点から、10~70%、10~55%、10~40%、13~70%、13~55%、13~40%、15~70%、15~55%又は15~40%の気孔率を有していてよい。本明細書において「気孔率」とは、走査型電子顕微鏡、走査型イオン顕微鏡等によって観察した導電体層の断面画像を、画像解析ソフトを用いて解析することにより得られた、導電体層断面の全面積に対する非導電体部分の面積の比率を意味する。
【0076】
本実施形態に係る導体の形成方法では、導電体層設置工程の後、連通孔に樹脂及びカップリング剤を充填する(充填工程)。樹脂及びカップリング剤は、例えば、導電体層に塗布されることにより、連通孔に充填される。塗布方法としては、インクジェット、ディスペンス、スクリーン印刷、スピンコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート等を挙げることができる。充填工程においては、樹脂とカップリング剤とを同時に(樹脂とカップリング剤とを含む組成物として)充填してもよく、樹脂とカップリング剤とを別個に充填してもよい。樹脂とカップリング剤とを別個に充填する場合、充填工程における充填の順序は任意であるが、好ましくは、カップリング剤を先に連通孔に充填し、その後樹脂を連通孔に充填する。
【0077】
樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化型樹脂等を挙げることができる。
【0078】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0079】
エポキシ樹脂は、好ましくは、多官能エポキシ樹脂である。多官能エポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族骨格を付与したビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0080】
樹脂が熱硬化性樹脂である場合、樹脂及びカップリング剤に加えて、硬化剤を連通孔に更に充填してもよい。硬化剤は、例えば、アミン類、イミダゾール類等である。アミン類としては、例えば、変性ポリアミンが挙げられる。
【0081】
光硬化性樹脂は、例えば、分子内に少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。分子内に少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する化合物は、具体的には、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートなどである。これらは1種類単独、又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0082】
樹脂が光硬化性樹脂である場合、樹脂及びカップリング剤に加えて、光重合開始剤を連通孔に更に充填してもよい。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン等の芳香族ケトン;アルキルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾインエーテル化合物;ベンゾイン、アルキルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体;2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体(例えば、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニルビイミダゾール)、2-(2-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;9-フェニルアクリジン、1,7-(9,9′-アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体等が挙げられる。これらは1種類単独、又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0083】
湿気硬化型樹脂としては、例えば、バインダ樹脂等が挙げられる。バインダ樹脂は、例えば、変性シリコーン、エポキシ樹脂等である。バインダ樹脂は、これらの1種類単独、又は混合物であってもよい。
【0084】
樹脂が湿気硬化型樹脂である場合、樹脂及びカップリング剤に加えて、バインダ樹脂用硬化剤を連通孔に更に充填してもよい。バインダ樹脂用硬化剤としては、例えば、常温で湿気硬化できる硬化剤が挙げられる。バインダ樹脂がエポキシ樹脂を含む場合、常温で湿気硬化できる硬化剤は、具体的には、ケチミン、オキサゾリジン等である。
【0085】
上記の硬化剤、光重合開始剤、バインダ樹脂用硬化剤等のその他の成分(樹脂及びカップリング剤以外の成分)は、樹脂及びカップリング剤のそれぞれと同時に連通孔に充填してもよく、樹脂及びカップリング剤のそれぞれと別個に連通孔に充填してもよい。樹脂及びカップリング剤を同時に連通孔に充填する場合、その他の成分は、好ましくは、樹脂及びカップリング剤と同時に(樹脂、カップリング剤及びその他の成分を含む組成物として)充填される。樹脂及びカップリング剤を別個に連通孔に充填する場合、その他の成分は、好ましくは、樹脂と同時に(樹脂及びその他の成分を含む組成物として)充填される。
【0086】
カップリング剤の種類は、特に制限されず、被着体、導電体層及び樹脂の種類又は要求特性に応じて選択される。カップリング剤は、例えば、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤等であってよい。これらのカップリング剤は、1種類単独、又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0087】
カップリング剤は、好ましくは、アミノ基及びメルカプト基の少なくとも一方を有している。カップリング剤がこれらの基を有していると、導電体層が銅を含む場合に、銅との親和性が良好になり、接着性を更に向上させることができると共に、樹脂がエポキシ系樹脂を含む場合に、エポキシ樹脂と反応して化学結合を形成可能になる。
【0088】
シランカップリング剤は、好ましくは、アミノ基及びメルカプト基の少なくとも一方を有している。アミノ基を有するシランカップリング剤としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等が挙げられる。メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0089】
シランカップリング剤は、アミノ基及びメルカプト基を有さないその他のシランカップリング剤であってもよい。その他のシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種類単独、又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0090】
カップリング剤の充填量は、被着体との接着性に更に優れる観点から、樹脂100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、特に好ましくは50質量部以下であり、また、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、特に好ましくは5質量部以上である。カップリング剤の充填量は、被着体との接着性に更に優れる観点から、樹脂100質量部に対して、好ましくは、0.1~80質量部、0.1~70質量部、0.1~60質量部、0.1~50質量部、1~80質量部、1~70質量部、1~60質量部、1~50質量部、3~80質量部、3~70質量部、3~60質量部、3~50質量部、5~80質量部、5~70質量部、5~60質量部、又は5~50質量部であってもよい。カップリング剤がメルカプト基を有するシランカップリング剤である場合、カップリング剤の充填量は、被着体との接着性に更に優れる観点から、樹脂100質量部に対して、より一層好ましくは30質量部以下であり、また、より一層好ましくは10質量部以上であり、より一層好ましくは10~30質量部であってもよい。
【0091】
充填工程の後、樹脂を硬化させてよい(硬化工程)。樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合、熱硬化性樹脂(及び必要に応じて用いられる硬化剤)を加熱することにより硬化させることができる。また、樹脂として光硬化性樹脂を用いた場合、光硬化性樹脂(及び必要に応じて用いられる光重合開始剤)に光照射することにより硬化させることができる。
【0092】
樹脂及びカップリング剤と共に溶媒を用いる場合、充填工程の後、溶媒を揮発させてよい(揮発工程)。溶媒の揮発方法は、例えば、熱板を用いる方法(熱処理法)、赤外ヒータを用いる方法(熱処理法)、減圧による方法等を挙げられる。
【0093】
導体の形成方法は、必要に応じてその他の工程を更に有していてもよい。その他の工程としては、導電体層形成工程の前に導電体形成用組成物中の揮発成分の少なくとも一部を揮発等により除去する工程、導電体層形成工程の後に還元雰囲気中での加熱により生成した酸化金属(酸化銅等)を還元する工程、導電体層形成工程の後に光焼成を行って残存成分を除去する工程、導電体層形成工程の後に得られた導体に対して荷重をかける工程等を挙げることができる。
【0094】
以上のように、充填工程により、導電体層が有する連通孔に樹脂及びカップリング剤が充填される。
【0095】
図1(b)は、樹脂及びカップリング剤を充填して得られた導体の断面のSEM画像である。導体2は、多孔性の導電体層であって、第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層と、連通孔に充填された、樹脂又はその硬化物、及びカップリング剤又はその反応物を含む樹脂部3とを備える。導電体層は、導電体1aで形成されている。なお、導体2における樹脂部3は、溶媒を含むものであってもよく、溶媒を含まないものであってもよい。樹脂部3に含まれるカップリング剤の反応物は、例えば、カップリング剤が被着体、導電体層及び樹脂の少なくとも1つと反応して生成した反応物、カップリング剤同士が反応して生成した反応物、カップリング剤が空気中、被着体及び樹脂に含まれる水分と反応して生成した反応物等であってよい。
【0096】
導体の体積抵抗率は、好ましくは300μΩ・cm以下、より好ましくは100μΩ・cm以下、更に好ましくは30μΩ・cm以下、特に好ましくは20μΩ・cm以下である。
【0097】
導体の形状は、特に制限されず、薄膜状、パターン状等であってよい。本実施形態の導体は、種々の電子部品の配線、被膜等の形成に使用されうる。特に、金属成分として銅含有粒子を用いる場合、本実施形態の導体は低温で製造可能であるため、樹脂等の耐熱性の低い基材上に金属箔、配線パターン等を形成する用途に好適に用いられる。また、導体は、通電を目的としない装飾、印字等の用途にも好適に用いられる。
【0098】
<構造体及びその製造方法>
本実施形態に係る構造体は、被着体と、被着体上に設けられた導体とを備える。該導体は、多孔性の導電体層であって、被着体と接する第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層と、連通孔に充填された、樹脂又はその硬化物、及びカップリング剤又はその反応物を含む樹脂部と、を備える。被着体及び導体の好ましい態様はそれぞれ、上述の導体の形成方法における被着体及び導体と同様である。
【0099】
本実施形態に係る構造体の製造方法は、被着体上に、多孔性の導電体層であって、被着体と接する第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する導電体層を設ける工程(導電体層設置工程)と、樹脂及びカップリング剤を連通孔に充填する工程(充填工程)とを備える。導電体層設置工程及び充填工程の詳細は、上述の導体の形成方法における導電体層設置工程及び充填工程と同様である。
【0100】
構造体の製造方法は、必要に応じてその他の工程を更に有していてもよい。その他の工程の詳細は、上述の導体の形成方法におけるその他の工程と同様である。
【0101】
本実施形態の導体及び構造体は、種々の装置に用いることができる。導体及び構造体は、具体的には、電磁波シールド、積層板、太陽電池パネル、ディスプレイ、トランジスタ、半導体パッケージ、積層セラミックコンデンサ等の電子部品に使用される、特に、本実施形態の装置に含まれる導体は樹脂等の基材上に形成できるため、フレキシブルな積層板、太陽電池パネル、ディスプレイ等の製造に好適である。また、上記電子部品を内蔵する電子機器、家電、産業用機械、輸送用機械等も本実施形態の装置に含まれる。
【0102】
本実施形態の導体及び構造体は、めっきシード層としても好適に用いることができる。導体及び構造体は、金属の種類、電解及び無電解のいずれのめっき法についても適用されることができる。また、めっきを施した導体及び構造体は上述の種々の用途に用られることができる。
【実施例
【0103】
以下、本発明について実施例をもとに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0104】
実施例及び比較例においては、以下に示す金属成分及び樹脂組成物を用いて、導体を形成した。金属成分として、以下のとおり銅含有粒子を合成した。
【0105】
[ノナン酸銅の合成]
まず、水酸化銅(関東化学株式会社製、特級)91.5g(0.94mol)に1-プロパノール(関東化学株式会社製、特級)150mLを加えて撹拌し、これにノナン酸(関東化学株式会社製、90%以上)370.9g(2.34mol)を加えた。得られた混合物を、セパラブルフラスコ中で90℃、30分間加熱撹拌した。得られた溶液を加熱したままろ過して未溶解物を除去した。その後放冷し、生成したノナン酸銅を吸引ろ過し、洗浄液が透明になるまでヘキサンで洗浄した。得られた粉体を50℃の防爆オーブンで3時間加熱してノナン酸銅(II)を得た。収量は340g(収率96質量%)であった。
【0106】
[銅含有粒子の合成]
上記で得られたノナン酸銅(II)15.01g(0.040mol)と酢酸銅(II)無水物(関東化学株式会社製、特級)7.21g(0.040mol)をセパラブルフラスコに入れ、1-プロパノール22mLとヘキシルアミン(東京化成工業株式会社製、純度99%)32.1g(0.32mol)を添加し、オイルバス中で80℃で加熱撹拌して溶解させた。氷浴に移し、内温が5℃になるまで冷却した後、ヒドラジン一水和物(関東化学株式会社製、特級)7.72mL(0.16mol)を氷浴中で撹拌した。なお、銅:ヘキシルアミンのモル比は1:4である。次いで、オイルバス中で20分間、90℃で加熱撹拌した。その際、発泡を伴う還元反応が進み、セパラブルフラスコの内壁が銅光沢を呈し、溶液が暗赤色に変化した。遠心分離を1000rpm(回転/分)で20秒実施して固体物を得た。固形物を更にヘキサン15mLで洗浄する工程を3回繰り返し、酸残渣を除去して、銅光沢を有する銅含有粒子の粉体を含む銅ケークを得た。
【0107】
<実施例1-1>
[樹脂組成物の作製]
以下の表1に示す材料を混練脱泡機により混合し、樹脂組成物を作製した。このときの樹脂100質量部に対する硬化剤及び溶媒の含有量(質量部)を表1に、樹脂100質量部に対するカップリング剤の含有量(質量部)を表2に示す。
【表1】
【0108】
<導電体層の形成>
金属成分として銅ケーク(60質量部)、テルピネオール(20質量部)、及びイソボルニルシクロヘキサノール(商品名:テルソルブMTPH、日本テルペン化学株式会社製)(20質量部)を混合して導電材料を調製した。得られた導電材料をポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム上に塗布し、加熱して銅含有粒子を焼成し、導電体層(PENフィルムと接する第一の外表面、第一の外表面とは異なる第二の外表面、及び第一の外表面と第二の外表面とを連通させる連通孔を有する銅層)を形成した。加熱は、5%ギ酸雰囲気中、昇温速度40℃/分で180℃まで加熱し、60分間保持することによって行った。
【0109】
<樹脂組成物の充填処理>
得られた導電体層に樹脂組成物をスピンコート(回転数2000rpm、30秒)し、140℃で30分加熱し、導体を得た。
【0110】
<実施例1-2~1-10>
カップリング剤(KBM903)の含有量を表2中の含有量に変更した以外は、実施例1-1と同様にして導体を得た。
<比較例1-1>
樹脂組成物の充填処理を行わなかった以外は、実施例1-1と同様にして導体を得た。
<比較例1-2>
樹脂組成物がカップリング剤を含まない以外は、実施例1-1と同様にして導体を得た。
【0111】
<実施例2-1~2-7>
カップリング剤として、KBM903に代えてKBM803を用い、カップリング剤の含有量を表2中の含有量に変更した以外は、実施例1-1と同様にして導体を得た。
【0112】
<比較例2-1、2-2>
導電材料調製時に、予め金属成分100質量部に対して樹脂組成物30質量部を配合し、導電体層形成後に樹脂組成物の充填処理を行わなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして導体を得た。
【0113】
<比較例3-1>
導電材料調製時に、予め金属成分100質量部に対してKBM903を5質量部配合し、導電体層形成後に樹脂組成物の充填処理を行わなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして導体を得た。
【0114】
(気孔率の測定)
実施例1-1~1-10、2-1~2-7及び比較例1-1、1-2は、集束イオンビーム加工観察装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、FB-2000A)を用い、集束イオンビームによって導電体層の断面を露出させ、該断面を観察した。得られた導電体層断面画像を、画像解析ソフト(Adobe Photoshop(登録商標) Elements)を用いて、導電体部分と非導電体部分とが分かれるように2値化処理した。導電体部分と非導電体部分との面積比より、導電体層断面の全面積に対する非導電体部分の面積の比率を求め、該比率を導電体層の気孔率とした。結果を表2に示す。
【0115】
比較例2-1、2-2及び3-1では、導電体層の断面の代わりに導体の断面を観察したこと以外は、実施例1-1~1-10、2-1~2-7及び比較例1-1、1-2と同様にして導体断面の全面積に対する非導電体部分の面積の比率を求めた。該比率を導電体層の非導電体部の比率とした。比較例2-1、2-2及び3-1では、該比率はいずれも、30%であった(表2の*)。
【0116】
(導電性の評価)
得られた導体の体積抵抗率を、4端針面抵抗測定器で測定した面抵抗値と、非接触表面・層断面形状計測システム(VertScan、三菱ケミカルシステム株式会社製)でから求めた膜厚とから計算した。体積抵抗率が10μΩ・cm未満の場合を「A」、10~30μΩ・cm未満の場合を「B」、30~100μΩ・cm未満の場合を「C」、100μΩ・cm以上の場合を「D」として判断した。結果を表2に示す。なお、体積抵抗率が100μΩ・cm未満であれば、導電性に優れるものといえる。
【0117】
(接着性の評価)
得られた導体のクロスカット試験をJIS K5600に準じて実施した(幅1mm)。評価は、テープ剥離後の導体のはがれがなく、残存したマス目の数が100個/100個であった場合は接着力が「A」、テープ剥離後に残存したマス目の数が90個~99個/100個であった場合は「B」、テープ剥離後に残存したマス目の数が80個~89個/100個であった場合は「C」、テープ剥離後に残存したマス目の数が79個以下/100個であった場合は「D」として行った。結果を表2に示す。なお、テープ剥離後に残存したマス目の数が80個以上/100個であれば、接着性に優れるものといえる。
【0118】
【表2】
【0119】
実施例1-1~1-10、2-1~2-7と、比較例1-1、1-2とを比較することにより、連通孔に対して樹脂及びカップリング剤を充填することで、接着性と導電性とを両立することがわかる。実施例1-1~1-10、2-1~2-7では樹脂にカップリング剤を加えたことで樹脂と導電体層、基材の三者の親和性が向上し接着性が良好になったと推定される。実施例1-1~1-10と2-1~2-7の結果より、アミノ基を有するシランカップリング剤KBM903の方がメルカプト基を有するシランカップリング剤KBM803よりも接着性が良好であった。これはKBM903のアミノ基と樹脂のエポキシ基が反応して結合を形成したためと推定される。
【0120】
また、比較例2-1、2-2の結果より、樹脂及びカップリング剤を導電材料に配合してから焼成しても(金属成分に樹脂及びカップリング剤を予め配合して導体を形成しても)、接着性と導電性とは両立されないことがわかる。比較例3-1の結果より、カップリング剤のみを導電材料に配合してから焼成した場合についても同様に、接着性と導電性とは両立されなかった。これはカップリング剤が少量でも銅粒子を被覆し焼結を阻害したためと推定される。一方で、実施例1-1~1-10、2-1~2-7では焼結後にカップリング剤が充填されるため導電性と接着性を両立することができる。以上より、本発明によって、導電性と接着性とに優れる導体及びその形成方法、並びに、該導体が設けられた構造体及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0121】
1…導電体層、1a…導電体、1b…連通孔、2…導体、3…樹脂部。
図1