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  • 特許-銅製錬において発生する廃酸の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】銅製錬において発生する廃酸の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20060101AFI20220301BHJP
   B01D 53/64 20060101ALI20220301BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20220301BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20220301BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20220301BHJP
   C01G 11/02 20060101ALI20220301BHJP
   C01F 11/46 20060101ALI20220301BHJP
   C01B 17/20 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C02F1/62 E
B01D53/64 ZAB
B01D53/50 290
B01D53/78
C02F1/62 C
C02F1/62 Z
C02F1/58 Q
C01G11/02
C01F11/46 Z
C01B17/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017195142
(22)【出願日】2017-10-05
(65)【公開番号】P2019063781
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 茂
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽介
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-020103(JP,A)
【文献】特開2015-182052(JP,A)
【文献】特開2005-154196(JP,A)
【文献】特開2003-137545(JP,A)
【文献】特開2011-026687(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101234826(CN,A)
【文献】米国特許第04432880(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58、1/62
B01D 53/64、53/50、53/78
C01G 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬工程で発生する排ガスの水洗処理の際に排出される重金属としての銅、砒素、カドミウム及び亜鉛並びに硫酸分を含む廃酸に硫化剤を添加して酸化還元電位80mV以上160mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で該重金属のうち銅及び砒素を選択的に硫化させた後、得られたスラリーから第1清澄液を固液分離することで得た第1硫化澱物を該銅製錬工程に繰り返す第1硫化工程と、前記第1清澄液にカルシウム系中和剤を添加して前記硫酸分から石膏を生成させた後、この石膏を含むスラリーを石膏と石膏終液に固液分離する石膏製造工程と、前記石膏終液に硫化剤を添加して残存する重金属を酸化還元電位-10mV以上+10mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で硫化させた後、得られたスラリーから第2清澄液を固液分離することでカドミウムを第2硫化澱物として回収する第2硫化工程とを有し、
前記第2硫化澱物のカドミウム品位が40質量%を下回る場合は第2硫化工程で前記硫化剤の添加量を増加させ、前記第2硫化澱物のカドミウム品位が50質量%を上回る場合は第2硫化工程で前記硫化剤の添加量を減少させることを特徴とする廃酸の処理方法。
【請求項2】
銅製錬工程で発生する排ガスの水洗処理の際に排出される重金属としての銅、砒素、カドミウム及び亜鉛並びに硫酸分を含む廃酸に硫化剤を添加して酸化還元電位80mV以上160mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で該重金属のうち銅及び砒素を選択的に硫化させた後、得られたスラリーから第1清澄液を固液分離することで得た第1硫化澱物を該銅製錬工程に繰り返す第1硫化工程と、前記第1清澄液にカルシウム系中和剤を添加して前記硫酸分から石膏を生成させた後、この石膏を含むスラリーを石膏と石膏終液に固液分離する石膏製造工程と、前記石膏終液に硫化剤を添加して残存する重金属を酸化還元電位-10mV以上+10mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で硫化させた後、得られたスラリーから第2清澄液を固液分離することでカドミウムを第2硫化澱物として回収する第2硫化工程とを有し、
前記第2硫化工程における前記硫化剤の添加量によって前記第2硫化澱物の含水率を調整することを特徴とする廃酸の処理方法。
【請求項3】
前記第2硫化澱物は、カドミウム品位が40~50質量%であって且つ含水率が30~40質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の廃酸の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬において発生する廃酸の処理方法に関し、特に銅製錬排ガスの水洗処理によって生じる廃酸から重金属を除去する際に発生する澱物のカドミウム品位及び水分を調整することが可能な廃酸の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬プロセスにおいて発生する銅製錬排ガスは亜硫酸ガス(SO)を含んでいるため、従来、硫酸の原料として硫酸工場に送り、そこで転化工程及び吸収工程により硫酸を製造することが行われている。この銅製錬排ガスは亜硫酸ガス以外に銅等の重金属(鉄よりも重い金属元素)の煙灰やヒュームを含んでおり、その除去のため上記転化工程の前工程のガス精製工程において洗浄水を用いて水洗処理した後、乾燥処理することが行われている。
【0003】
上記ガス精製工程で使用した洗浄水は、重金属を含む洗浄排水として連続的又は定期的に排出される。この洗浄排水には、上記銅製錬排ガスにSOと共に含まれるSOに由来する硫酸分が含まれている。このため、かかる硫酸分を含む洗浄排水(以降、廃酸と称する)の処理では、これら硫酸分と重金属の処理が必要になる。上記のような廃酸の処理方法として、特許文献1には廃酸に炭酸カルシウムを添加して硫酸分を石膏として除去した後、水硫化ナトリウムを添加して重金属を硫化澱物として除去する技術が開示されている。また、特許文献2には廃酸に2段階で水硫化ナトリウムを添加して重金属を硫化澱物として除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-275895号公報
【文献】特開2015-020103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、銅製錬工場では夾雑物を多く含む様々な原料を処理することが多くなってきている。これに伴い、上記の硫化澱物には砒素やカドミウム、亜鉛といった銅以外の重金属の占める割合が増える傾向にある。硫化澱物は一般に銅製錬工程に繰り返して処理するため、特定の重金属については系内での循環量が増加することになり、現状の廃酸の処理装置の処理能力を超えることが懸念されている。更に、銅製錬工程に繰り返す際、硫化澱物に随伴して水分が持ち込まれるため、その乾燥に要するコストが上昇するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記した従来の廃酸の処理方法がかかえる問題点に鑑みてなされたものであり、廃酸に含まれる重金属のうちカドミウムを分離回収することで、製錬工程に繰り返されるカドミウムの量を減らして系内でのカドミウム循環量を低減すると共に、上記繰り返しの際に持ち込まれる水分量を減らして乾燥コストを抑えることが可能な廃酸の処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、廃酸に対して2回に分けて硫化剤を添加することで第1及び第2硫化澱物をそれぞれ生成すると共に、該第2硫化澱物を生成する硫化反応工程において硫化反応条件を調整することで、該第2硫化澱物のカドミウム品位及び水分を調整し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る第1の廃酸の処理方法は、銅製錬工程で発生する排ガスの水洗処理の際に排出される重金属としての銅、砒素、カドミウム及び亜鉛並びに硫酸分を含む廃酸に硫化剤を添加して酸化還元電位80mV以上160mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で該重金属のうち銅及び砒素を選択的に硫化させた後、得られたスラリーから第1清澄液を固液分離することで得た第1硫化澱物を該銅製錬工程に繰り返す第1硫化工程と、前記第1清澄液にカルシウム系中和剤を添加して前記硫酸分から石膏を生成させた後、この石膏を含むスラリーを石膏と石膏終液に固液分離する石膏製造工程と、前記石膏終液に硫化剤を添加して残存する重金属を酸化還元電位-10mV以上+10mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で硫化させた後、得られたスラリーから第2清澄液を固液分離することでカドミウムを第2硫化澱物として回収する第2硫化工程とを有し、前記第2硫化澱物のカドミウム品位が40質量%を下回る場合は第2硫化工程で前記硫化剤の添加量を増加させ、前記第2硫化澱物のカドミウム品位が50質量%を上回る場合は第2硫化工程で前記硫化剤の添加量を減少させることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る第2の廃酸の処理方法は、銅製錬工程で発生する排ガスの水洗処理の際に排出される重金属としての銅、砒素、カドミウム及び亜鉛並びに硫酸分を含む廃酸に硫化剤を添加して酸化還元電位80mV以上160mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で該重金属のうち銅及び砒素を選択的に硫化させた後、得られたスラリーから第1清澄液を固液分離することで得た第1硫化澱物を該銅製錬工程に繰り返す第1硫化工程と、前記第1清澄液にカルシウム系中和剤を添加して前記硫酸分から石膏を生成させた後、この石膏を含むスラリーを石膏と石膏終液に固液分離する石膏製造工程と、前記石膏終液に硫化剤を添加して残存する重金属を酸化還元電位-10mV以上+10mV以下(銀-塩化銀電極基準)の条件で硫化させた後、得られたスラリーから第2清澄液を固液分離することでカドミウムを第2硫化澱物として回収する第2硫化工程とを有し、前記第2硫化工程における前記硫化剤の添加量によって前記第2硫化澱物の含水率を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、廃酸に含まれるカドミウムを第2硫化澱物として系外に排出することができるので、銅製錬工程に繰り返されるカドミウムの量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る廃酸の処理方法の一具体例を示すブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の廃酸の処理方法の一具体例について説明する。図1に示すように、銅製錬工場では原料の銅精鉱を処理して銅を生産する銅製錬工程1において、硫酸の原料となる亜硫酸ガスを含んだ銅製錬排ガスが発生するため、ガス精製工程2において銅製錬排ガスに洗浄水を接触させる水洗処理によって亜硫酸ガスを洗浄した後、硫酸製造工程3に送って硫酸の生産を行っている。
【0013】
この銅製錬排ガスの水洗処理の際に排出される重金属及び硫酸分を含む廃酸に対して、先ず第1硫化工程4において硫化剤を添加して重金属から硫化澱物を生成させた後、固液分離により該硫化澱物の除去を行う。次に、上記第1硫化工程4で硫化澱物が除去された後の処理液に対して石膏製造工程5においてカルシウム系中和剤を添加して硫酸分を石膏として回収する。
【0014】
次に、上記石膏製造工程5で石膏が回収された後の処理液に対して第2硫化工程6において再度硫化剤を添加して残存する重金属から硫化澱物を生成させた後、固液分離により硫化澱物の回収を行う。上記第2硫化工程6で回収した硫化澱物は、有価金属回収工程7で処理して有価金属であるカドミウムや亜鉛を回収し、第2硫化工程6で硫化澱物から分離された処理液は排水処理工程8で処理する。
【0015】
上記の第1硫化工程4以降の各工程について、以下、具体的に説明する。第1硫化工程4では、先ず第1硫化反応工程41において廃酸に硫化剤を添加して混合することで、銀-塩化銀電極基準における酸化還元電位(ORP)が約80mV以上160mV以下となる条件で硫化反応を行う。これにより、廃酸中に含まれる銅、砒素を選択的に硫化澱物にすることができる。上記硫化剤には、水硫化ナトリウム(硫化水素ナトリウム)NaHS、硫化水素HS、硫化ナトリウムNaS等の一般的な硫化剤を使用することができる。これらの硫化剤の中では、水硫化ナトリウム及び硫化水素が、コスト面及び石膏製造に適した硫酸濃度を有する石膏始液が得られる点において特に好ましい。
【0016】
この第1硫化反応工程41の酸化還元電位が80mV未満になると、廃酸中のカドミウムの硫化反応が進み、上記の第1硫化反応工程41で生成される硫化澱物のカドミウム品位が上昇し、結果的に後述する第2硫化反応工程で生成される硫化澱物のカドミウム品位が低下する。逆に酸化還元電位が160mVを超えると、廃酸中に残存する砒素の量が多くなりすぎ、後工程の石膏製造工程5にて生成する石膏の砒素品位が上昇する。
【0017】
次に第1固液分離工程42において、上記第1硫化反応工程41で得た硫化澱物を含む第1スラリーに対してシックナーなどの固液分離手段で固液分離することによって、硫化澱物に富む第1濃縮物と第1清澄液とを得る。この第1固液分離工程42で得た硫化澱物を含む第1濃縮物には銅が含まれるため、第1脱水工程43において含水率を低減した後、第1硫化澱物として銅製錬工程1に繰り返す。上記の第1脱水工程43では、フィルタープレス、真空式ろ過機、ベルトプレス、遠心分離機等の一般的な脱水装置を使用することで良好に脱水することができる。
【0018】
一方、上記第1固液分離工程43で得た第1清澄液は、石膏始液として石膏製造工程5で処理される。石膏製造工程5では例えば中和槽に受け入れた石膏始液にカルシウム系中和剤を添加することで中和反応を行い、これにより石膏始液に含まれる硫酸分を石膏として析出させることができる。この石膏を含むスラリーをフィルタープレス、遠心分離機などの固液分離手段で固液分離することで石膏を回収することができる。上記のカルシウム系中和剤としては、炭酸カルシウム(石灰石)、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを粉砕したものを用いるのがコスト的な観点から好ましい。
【0019】
上記の石膏製造工程5の固液分離により硫酸分が除かれた石膏終液は、次に第2硫化工程6で処理される。この第2硫化工程6では、第2硫化反応工程61、第2固液分離工程62及び第2脱水工程63の順に石膏終液が処理される。具体的には、第2硫化反応工程61において石膏終液に対して硫化剤として水硫化ナトリウム又は硫化水素を添加して混合し、銀-塩化銀電極基準における酸化還元電位が約-10mV以上+10mV以下となる条件で、より好ましくは0mV以上+10mV以下となる条件で硫化反応を行って硫化澱物を含む第2スラリーを得る。
【0020】
上記の酸化還元電位が-10mV未満では、上記の第2硫化反応工程61で生成される硫化澱物中の亜鉛品位が増加する可能性があり、その結果、該硫化澱物中のカドミウム品位が低下するので好ましくない。特に上記の酸化還元電位が0mV未満では、硫化剤の添加量が多くなるのでコストが増加する。逆にこの酸化還元電位が+10mVを超えると、石膏終液中のカドミウムが硫化されにくくなり、結果的に一部のカドミウムが除去されずに第2清澄液に含まれ、後工程の排水処理工程8の処理負荷が増すので好ましくない。すなわち、硫化剤の添加量により硫化澱物のカドミウム品位を調整することができる。本発明では、このカドミウム品位の調整において、後述する第2硫化澱物のカドミウム品位が40質量%を下回る場合は第2硫化工程6で硫化剤の添加量を増加させ、逆に第2硫化澱物のカドミウム品位が50質量%を上回る場合は第2硫化工程6で硫化剤の添加量を減少させている。なお、本発明でいうカドミウム品位及び亜鉛品位は、乾燥状態における質量を100%とおいた乾物基準の質量である。
【0021】
上記の第2スラリーは、次に第2固液分離工程62において固液分離することで、硫化澱物に富む第2濃縮物と第2清澄液とを得る。この第2濃縮物は、第2脱水工程63において含水率を低減した後、第2硫化澱物として回収する。一方、上記の第2固液分離工程62で得た第2清澄液は、排水処理工程8において活性汚泥などの一般的な水処理方法で処理する。なお、上記の第2固液分離工程62及び第2脱水工程63では、それぞれ前述した第1固液分離工程42及び第1脱水工程43と同様の固液分離手段を使用することができる。
【0022】
上記の第2脱水工程63で得た第2硫化澱物は有価金属であるカドミウムを含んでいるため、有価金属回収工程7において公知の精製法を用いてカドミウムの回収を行うことができる。この有価金属回収工程7では、第2硫化澱物のカドミウム品位が高く且つ水分が低い程、精製コストを抑えることができる。このため、本発明の一具体例の廃酸の処理方法では、前述したように上記の第2硫化工程6の第2硫化反応工程62において酸化還元電位の調整を行っている。すなわち、第2硫化工程6の始液にあたる石膏終液には銅、砒素、及び硫酸分はほとんど含まれておらず、カドミウム及び亜鉛が残存している状態にあるため、第2硫化反応工程62では硫化反応条件のうち酸化還元電位を適宜調整することにより、第2硫化澱物のカドミウム品位を調整することができる。
【0023】
その際、第2硫化澱物はカドミウム品位が高くなれば当該第2硫化澱物の水分の割合が低くなるという相関関係がある。この相関関係は、第2硫化澱物においてカドミウムの脱水性が他の硫化物より高いことに起因すると考えている。この相関関係を利用して、第2硫化澱物のカドミウム品位を高めに調整することにより結果として第2硫化澱物の含水率を低めに調整することが可能になる。これは、硫化剤の添加量によって第2硫化澱物の含水率を調整することを意味している。具体的には、前述したように第2硫化工程6において硫化剤の添加量の調整により第2硫化澱物のカドミウム品位を40~50質量%(乾物基準)程度の比較的高品位にすることで、フィルタープレスなどの圧搾法による固液分離で得た第2硫化澱物の含水率を30~40質量%(湿潤基準)程度の比較的低めな値に間接的に調整することができる。
【実施例
【0024】
銅製錬プラントから排出された重金属及び硫酸を含むpH0の廃酸を、図1に示すフローに沿って処理した。具体的には、該廃酸を300L/分の流量で反応槽に供給し、ここに濃度25質量%の水硫化ソーダを酸化還元電位が150mV(銀-塩化銀電極基準)となるように添加することにより第1硫化澱物を含む第1スラリーを得た(第1硫化反応工程41)。この第1スラリーをシックナーに導入して固液分離し、上部から第1清澄液をオーバーフローさせながら沈降濃縮した第1濃縮物を底部から抜き出した(第1固液分離工程42)。この第1濃縮物をフィルタープレスで固液分離することにより第1硫化澱物を回収した(第1脱水工程43)。上記の第1清澄液に炭酸カルシウムを添加してpH2.3に調整し、石膏を析出させた(石膏製造工程5)。この石膏を含むスラリーを石膏と石膏終液とに固液分離した。
【0025】
上記の石膏終液を反応槽に受け入れ、ここに水硫化ソーダを添加することで第2硫化澱物を含む第2スラリーを得た(第2硫化反応工程61)。第2スラリーの酸化還元電位は+20~+30mV(銀-塩化銀電極基準)であった。この第2スラリーをシックナーに導入して固液分離し、上部から第2清澄液をオーバーフローさせながら沈降濃縮した第2濃縮物を底部から抜き出した(第2固液分離工程62)。この第2濃縮物をフィルタープレスで固液分離することで試料1の第2硫化澱物を回収した(第2脱水工程63)。
【0026】
更に、水硫化ソーダを増量することにより、第2硫化反応工程61の酸化還元電位を低下させた以外は上記試料1の場合と同様にして試料2~4の第2硫化澱物を回収した。水硫化ソーダを増量するにつれ、試料2、3、4と酸化還元電位は徐々に低下した。なお、第2スラリーの酸化還元電位を+10mV(銀-塩化銀電極基準)で安定させたときに得られたのが試料2である。
【0027】
続いて、試料4よりも水硫化ソーダの添加を控えめにして、第2スラリーの酸化還元電位を0mV(銀-塩化銀電極基準)で安定させた以外は上記試料4の場合と同様にして試料5の第2硫化澱物を回収した。これら試料1~5の第2硫化澱物のカドミウム品位及び水分をそれぞれICP発光分光法及び乾燥減量法に基づいて測定した。その結果を下記表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
上記表1から分かるように、第二硫化反応工程において、硫化剤の添加量を増やして酸化還元電位を低下させることによりカドミウム品位を高めると共に含水率を低下させることができ、逆に硫化剤の添加量を減らして酸化還元電位を上昇させることによりカドミウム品位を低下させると共に含水率を高めることができる。すなわち、第2硫化反応工程において硫化剤の添加量を調整することにより、第2硫化澱物のカドミウム品位及び水分を所望の範囲内に間接的に調整できること分かる。また、第2硫化澱物のカドミウム品位を40~50質量%程度にすることで、その含水率を30~40質量%程度に抑え得ることが分かる。
【符号の説明】
【0030】
1 銅製錬工程
2 ガス精製工程
3 硫酸製造工程
4 第1硫化工程
5 石膏製造工程
6 第2硫化工程
7 有価金属回収工程
8 排水処理工程
41 第1硫化反応工程
42 第1固液分離工程
43 第1脱水工程
61 第2硫化反応工程
62 第2固液分離工程
63 第2脱水工程
図1