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特許7031258ニッケルスラリー、ニッケルスラリーの製造方法およびニッケルペーストの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ニッケルスラリー、ニッケルスラリーの製造方法およびニッケルペーストの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20220301BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220301BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B22F9/00 B
H01B1/22 A
H01B13/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017230931
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019099860
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 敦
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/057885(WO,A1)
【文献】特開2017-150058(JP,A)
【文献】特開2004-327186(JP,A)
【文献】特開2006-183066(JP,A)
【文献】特開2006-161128(JP,A)
【文献】特開2006-210301(JP,A)
【文献】特開2006-063441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00-9/30
H01B 1/14-1/24
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、当該水に分散するニッケル粒子とを含む水スラリーと、水と混和する第1有機溶剤とを混合して第1混合物を得る第1混合工程と、
前記第1混合物中の前記ニッケル粒子を解砕する第1解砕工程と、
前記第1解砕工程後の混合物をろ過する第1ろ過工程と、
前記第1ろ過工程により残渣として残るニッケル粒子とニッケルの水酸化物の生成に関与しない第2有機溶剤を混合してスラリー化するスラリー化工程、を含む、
水の含有量が0.1質量%~1.0質量%であり、前記第1有機溶剤の含有量は、0.5質量%以上3質量%未満であり、前記第1有機溶剤と、前記第2有機溶剤と、前記水と、前記ニッケル粒子のみを含む、ニッケルスラリーの製造方法。
【請求項2】
前記第1有機溶剤は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンまたはこれらのいずれかの組み合わせを含む、請求項1に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項3】
前記第1ろ過工程後のニッケル粒子と前記第1有機溶剤とを混合して第2混合物を得る第2混合工程と、
前記第2混合物中の前記ニッケル粒子を解砕する第2解砕工程と、
前記第2解砕工程後の混合物をろ過する第2ろ過工程を含む、請求項1または請求項2に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項4】
前記水スラリー中の水の含有量が30質量%~90質量%である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項5】
前記第1混合工程における前記第1有機溶剤の混合量は、ニッケル粒子に対して100質量%~600質量%である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のニッケルスラリーの製造方法によって製造されたニッケルスラリーと、結合剤を含む混合物を分散する分散工程を含む、
ッケルペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として好適に用いることができるニッケルペーストの製造方法、並びにそのニッケルペーストの原料として用いることができるニッケルスラリーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、積層セラミックコンデンサ(以下、「MLCC」ともいう)の内部電極の材料として用いられるニッケルペーストは、ビヒクル中にニッケル粉を混練して製造され、多くのニッケル粒子の凝集体を含んでいる場合がある。ニッケル粉の製造プロセスでは、気相法であるか、液相法であるかを問わず、その最終段階に、ニッケル粉中の水分等を除去するための乾燥工程を有するのが通常である。この乾燥工程における乾燥処理が、ニッケル粒子の凝集を促す場合が多いことから、乾燥処理後に得られるニッケル粉には、乾燥処理時に生じた凝集体が含まれていることが一般的である。
【0003】
近年のMLCCは、小型でかつ大容量化を達成させるために、内部電極層を伴ったセラミックグリーンシートの積層数を、数百から1000層程度にまで増加させることが要求されている。このため、内部電極層の厚みを従来の数ミクロンレベルからサブミクロンレベルに薄層化する検討がなされており、それに伴い、内部電極用の電極材料のニッケル粒子の小粒径化が進められている。
【0004】
しかしながら、ニッケル粒子は小粒径になるほど表面積が大きくなり、それに伴いニッケル粒子の表面の表面エネルギーが大きくなって、凝集体を形成し易くなる。また、ニッケル超微粉等の粒子径が100nm以下の超微粉な金属粉は分散性が悪いため、粉末中に凝集体が多く存在するようになると、セラミックコンデンサの製造過程における焼成工程で、ニッケル粒子が焼結する際にセラミックシート層を突き抜けてしまうことにより、電極が短絡した不良品となるおそれがある。また、ニッケル粒子がたとえセラミックシート層を突き抜けない場合であっても、電極間の距離が短くなることで部分的な電流集中が発生することにより、積層セラミックコンデンサの寿命の低下や劣化の原因となっていた。このように、MLCCにおいては、凝集体を含めた粗大粒子が少ないニッケルペーストを製造し、表面に凹凸がなく平滑な内部電極を得ることが重要となっている。
【0005】
現在、熱CVD(化学気相成長)法やプラズマCVD法等の気相法でニッケル粒子を製造する場合において、得られるニッケル粒子の粒子径がばらばらであり(例えば特許文献1の図面を参照)、平均粒子径が100nm以下のニッケルナノ粒子を分級する技術は未完成である。また、分級の精度も満足できるものではなく、粗大粒子を完全に除去することができていないことから、粗大粒子による電極層同士のショートによるMLCC不良が問題となっている場合がある。
【0006】
一方、液相法で合成されるニッケルナノ粒子は、気相法で合成されるものより粒度分布が狭いため、上述した内部電極用の材料としての用途に適している。
【0007】
しかしながら、液相法により、分級しなくても粒度分布が狭く、100nm以下のニッケルナノ粒子を合成できるとしても、粒径が小さくなることでその表面積が大きくなる。そのため、液相法により製造したニッケルナノ粒子を乾燥させて粉末とした場合、大気雰囲気に触れることで異常発熱を起こすおそれがある。また、発熱することで酸化ニッケルが生成され、強固な凝集体が形成される場合がある。一方、ニッケルナノ粒子を粉末化することなく、大気雰囲気に触れないよう水スラリーとし、水スラリー中でニッケルナノ粒子の表面の酸化処理を行うと、粒子表面の酸化と同時に水酸化ニッケルが生成されてしまう場合があり、このような水酸化ニッケルが生成したニッケル粒子を用いて内部電極を作成すると、電気特性の悪化を招くおそれがある。そのため、液相法で合成されるニッケルナノ粒子もまた、現状において、MLCCの内部電極用の材料としては好ましくない。
【0008】
液相法で合成されるニッケル粒子は、このような異常発熱や強固な凝集体の形成、表面の酸化や水酸化といった挙動があることによって、ニッケル粒子の取扱いが難しい場合がある上に、MLCCとしての製品不良を引き起こす可能性が懸念されている。したがって、液相法で合成されるニッケルナノ粒子については、粒子の表面状態の改善が望まれている。
【0009】
例えば特許文献1には、ニッケル金属超微粉を含有する水スラリーに、更に特定の陰イオン界面活性剤を含有させることで、ニッケル金属超微粉の凝集体を一次粒子にまで分散させる技術が開示されている。特許文献1では、この水スラリーに対し、有機溶媒として例えばターピネオールをニッケル金属超微粉100質量部に対して10質量部となるように添加する。これにより、水層とニッケル金属粉を含むターピネオール層が連続層となって、下層であるターピネオール層にてニッケル金属超微粉が沈殿物となり、水は上澄みとして分離されて、ニッケル金属超微粉の有機溶媒スラリーが得られる。この方法によれば、陰イオン界面活性剤を添加することでスラリー中の水を除去することができる。しかしながら、この有機溶媒スラリーを用いてニッケルペーストを作成することを考慮すると、ペーストの作成においても陰イオン界面活性剤がさらに必要であり、ペーストの組成として陰イオン界面活性剤の量が多くなってしまい、ペースト組成の自由度が低くなるため、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-63441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル粒子の凝集がなく分散しており、積層セラミックコンデンサ等の内部電極用の材料として好適に用いることができるニッケルペーストの製造方法、ニッケルスラリーおよびニッケルスラリーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のニッケルスラリーは、水と混和する第1有機溶剤と、ニッケルの水酸化物の生成に関与しない第2有機溶剤と、水と、前記第1有機溶剤、前記第2有機溶剤および前記水の混合物に分散するニッケル粒子を含み、分散剤を含まない、ニッケルスラリーである。
【0013】
前記第1有機溶剤は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンまたはこれらのいずれかの組み合わせを含んでもよい。
【0014】
前記第2有機溶剤は、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、イソボルニルプロピオナート、イソボルニルイソブチレート、ミネラルスピリット、0号ソルベント、ブチルカルビトール、酢酸イソブチルまたはこれらのいずれかの組み合わせを含んでもよい。
【0015】
前記水の含有量は、1.0質量%以下であってもよい。
【0016】
前記第1有機溶剤の含有量は、3質量%未満であってもよい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明のニッケルスラリーの製造方法は、水と、当該水に分散するニッケル粒子とを含む水スラリーと、水と混和する第1有機溶剤とを混合して第1混合物を得る第1混合工程と、前記第1混合物中の前記ニッケル粒子を解砕する第1解砕工程と、前記第1解砕工程後の混合物をろ過する第1ろ過工程を含む、水の含有量が1.0質量%以下であり、分散剤を含まない、ニッケルスラリーの製造方法である。
【0018】
前記第1有機溶剤は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンまたはこれらのいずれかの組み合わせを含んでもよい。
【0019】
前記第1ろ過工程後のニッケル粒子と前記第1有機溶剤とを混合して第2混合物を得る第2混合工程と、前記第2混合物中の前記ニッケル粒子を解砕する第2解砕工程と、前記第2解砕工程後の混合物をろ過する第2ろ過工程を含んでもよい。
【0020】
前記水スラリー中の水の含有量が30質量%~90質量%であってもよい。
【0021】
前記第1混合工程における前記第1有機溶剤の混合量は、ニッケル粒子に対して100質量%~600質量%であってもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明のニッケルペーストの製造方法は、前記ニッケルスラリーと、結合剤を含む混合物を分散する分散工程を含む。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明のニッケルペーストの製造方法は、水と、当該水に分散するニッケル粒子とを含む水スラリーと、水と混和する第1有機溶剤とを混合して第1混合物を得る第1混合工程と、前記第1混合物中の前記ニッケル粒子を解砕する第1解砕工程と、前記第1解砕工程後の混合物をろ過する第1ろ過工程と、前記第1ろ過工程後のニッケル粒子と結合剤を含む混合物を分散する分散工程を含み、前記第1混合物は分散剤を含まない、ニッケルペーストの製造方法である。
【0024】
前記第1有機溶剤は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンまたはこれらのいずれかの組み合わせを含んでもよい。
【0025】
前記第1ろ過工程後のニッケル粒子と前記第1有機溶剤とを混合して第2混合物を得る第2混合工程と、前記第2混合物中の前記ニッケル粒子を解砕する第2解砕工程と、前記第2解砕工程後の混合物をろ過する第2ろ過工程を含み、前記分散工程における前記第1ろ過工程後のニッケル粒子は、前記第2ろ過工程後のニッケル粒子であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ニッケル粉の凝集がなく分散しており、積層セラミックコンデンサ等の内部電極用の材料として好適に用いることができるニッケルペーストの製造方法、ニッケルスラリーおよびニッケルスラリーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。
【0028】
[ニッケルスラリー]
本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーは、第1有機溶剤と、第2有機溶剤と、水と、ニッケル粒子を含む。
【0029】
第1有機溶剤は、水と混和する溶剤である。このような溶剤としては、水と混和して一体化するものであれば特に限定されないが、例えば水および第2有機溶剤のいずれとも混和する溶剤として、エタノール、メタノール、2-プロパノール等の低級アルコールや、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトンが挙げられる。これらの溶剤を単独でまたは組み合わせたものを、第1有機溶剤として用いることができる。
【0030】
第1有機溶剤の含有量は、3質量%未満とすることができる。第1有機溶剤は水と混和するものであるため、この量が多いとスラリー中の水分量も高くなる場合があり、結果としてニッケルの水酸化物が生成されやすくなるおそれがある。第1有機溶剤の含有量が少なくなれば、それに応じてニッケルの水酸化物が生成されるおそれもなくなっていき、3質量%未満の含有量であれば問題ない。第1有機溶剤の含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば0.5質量%程度まで、第1有機溶剤の含有量を無理なく低減させることができる。
【0031】
第2有機溶剤は、ニッケルの水酸化物の生成に関与しない溶剤であり、例えば、水酸基を持たない化合物や、水酸基を有していてもニッケルに水酸基を供与しない化合物等が挙げられる。このような溶剤としては、ニッケルの水酸化物の生成に関与しないものであれば特に限定されないが、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、イソボルニルプロピオナート、イソボルニルイソブチレート、ミネラルスピリット、0号ソルベント、ブチルカルビトール、酢酸イソブチルが挙げられる。これらの溶剤を単独でまたは組み合わせたものを、第2有機溶剤として用いることができる。
【0032】
第2有機溶剤の含有量は、ニッケルスラリーの用途等に応じて任意の量とすることができる。例えば、20質量%~100質量%であることが一般的である。
【0033】
前記水の含有量は、1.0質量%以下とすることができる。スラリー中の水の含有量が多いと、ニッケルの水酸化物が生成されやすくなるおそれがある。水の含有量が少なくなれば、それに応じてニッケルの水酸化物が生成されるおそれもなくなっていき、1.0質量%以下の含有量であれば問題ない。水の含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば0.1質量%程度まで、水の含有量を無理なく低減させることができる。
【0034】
ニッケル粒子は、前記第1有機溶剤、前記第2有機溶剤および前記水の混合物に分散するものである。このようなニッケル粒子としては、親水性処理等の表面処理等がされていないものを用いることができ、表面処理がされていない無処理のニッケル粒子を用いることができる。ニッケル粒子は、例えば、ニッケル塩溶液に対してヒドラジン等の還元剤を用いた湿式還元法等のいわゆる液相法によって製造することができる。
【0035】
ニッケル粒子の粒子径は、特に限定されないが、MLCCの材料として用いる場合には、数平均粒子径が100nm以下であり、粒子径の上限が120nm以下のものを使用することができる。例えば、数平均粒子径が10nm~100nm、粒子径の上限が120nmのニッケル粒子を使用することができる。
【0036】
ニッケル粒子の含有量は、ニッケルスラリーの用途等に応じて任意の量とすることができる。例えば、50質量%~80質量%であることが一般的である。
【0037】
なお、ニッケルスラリーを用いてニッケルペーストを製造する場合には、ニッケルペーストの設定する組成に応じて、予めニッケルスラリーを濃縮してニッケル含有量を高くしてから使用することもできる。例えば、遠心分離機やエバポレーター等により第1有機溶剤、第2有機溶剤および水を除去する等、公知の技術を使用してニッケルスラリーを濃縮することができる。
【0038】
また、本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーは、分散剤を含まない。例えば、MLCCの内部電極の材料として、分散剤を含まないニッケルスラリーを用いてペースト化したニッケルペーストを用いると、分散剤はペースト化に要する量のみで足りる。そのため、ニッケルペースト中の分散剤の含有量の増加に伴う内部電極の乾燥膜密度の低下を抑制することができる。また、分散剤を含むニッケルスラリーを用いたニッケルペーストと比べて、ペーストの粘度を低く抑えることができる。そのため、内部電極を製造する際の印刷性が向上する効果が得られ、また、印刷可能な粘度の範囲内でニッケル粒子を高濃度化することができるため、コンデンサの容量を高くすることができる。
【0039】
[ニッケルスラリーの製造方法]
本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーの製造方法は、第1混合工程と、第1解砕工程と、第1ろ過工程を含む。
【0040】
<第1混合工程>
第1混合工程は、水スラリーと、水と混和する第1有機溶剤とを混合して第1混合物を得る工程である。この工程により、水スラリー中の水を第1有機溶剤により希釈することで、水の含有量を低下させることができる。
【0041】
(水スラリー)
水スラリーは、水と、当該水に分散するニッケル粒子とを含む。このようなスラリーは、例えばニッケル粉末を純水と混合して分散し、スラリー化することにより得ることができる。
【0042】
ニッケル粉末としては、例えば、ニッケル塩化合物を含有するニッケル塩溶液に対して、ヒドラジン等の還元剤を用いた湿式還元法等の液相法により製造したものや、気相法により製造したものを、使用することができる。
【0043】
なお、水スラリーを得るにあたり、ニッケル粉末を用いなくてもよい。例えば、液相法により製造したニッケル粒子を乾燥させて粉末化させることなく、ニッケル粒子が析出した溶液そのものを純水と混合して分散し、スラリー化することにより、水スラリーを得ることができる。また、水中でニッケル粒子を析出させた場合には、ニッケル粒子が析出した水そのものや、これを純水等で洗浄したものを、水スラリーとして用いることができる。
【0044】
水スラリー中の水の含有量としては、特に限定されないが、例えば30質量%~90質量%となるように調製することができる。水の含有量がこの範囲内であることにより、第1有機溶剤と水とが水素結合を形成し、後工程であるろ過工程において水分の除去が容易になる。水の含有量が40質量%~75質量%であれば、水分の除去効果がより高まるため、より好ましい。水の含有量が30質量%未満の場合、水スラリーとしての流動性が低くなる場合があり、後工程である解砕工程にてニッケル粒子を解砕させることが難しくなるおそれがある。また、水の含有量が90質量%より多いと、水と親和させる第1有機溶剤の混合量が過剰となり、混合後のスラリーが低粘度となる結果、解砕工程においてニッケル粒子の解砕が充分に進行しないおそれがある。
【0045】
(第1有機溶剤)
第1有機溶剤は、水と混和する溶剤である。このような溶剤としては、水と混和して一体化するものであれば特に限定されないが、例えば水および第2有機溶剤のいずれとも混和する溶剤として、エタノール、メタノール、2-プロパノール等の低級アルコールや、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトンが挙げられる。
【0046】
第1混合工程における第1有機溶剤の混合量は、特に限定されないが、例えばニッケル粒子に対して100質量%~600質量%とすることができる。第1有機溶剤の混合量がこの範囲内であることにより、第1有機溶剤と水とが水素結合を形成し、後工程であるろ過工程において水分の除去が容易になる。第1有機溶剤の混合量がニッケル粒子に対して300質量%~500質量%であれば、水分の除去効果がより高まるため、より好ましい。第1有機溶剤の混合量がニッケル粒子に対して100質量%未満の場合、水スラリーに含有される水との水素結合が充分に形成されず、ろ過工程において水分の除去が不十分となるおそれがある。また、第1有機溶剤の混合量がニッケル粒子に対して600質量%より多いと、混合後のスラリーが低粘度となる結果、解砕工程においてニッケル粒子の解砕が充分に進行しないおそれがある。
【0047】
<第1解砕工程>
第1解砕工程は、前記第1混合工程にて得られた第1混合物中のニッケル粒子を解砕する工程である。第1混合物中には、ニッケル粒子が凝集してフロック状となったものが存在する場合がある。このフロックは水を含有してしまうため、この工程によりフロックを解砕することにより、フロックから抜けた水が第1有機溶剤と水素結合等により親和性を持つことで、後工程のろ過工程を介して水の含有量を低下させることができる。
【0048】
ニッケル粒子の解砕は、フロックが解砕できる方法であれば特に限定されない。例えば、第1混合物をホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ボールミル、乳鉢、自動乳鉢またはプラネタリーミキサー等を用いて処理することにより、解砕することができる。
【0049】
<第1ろ過工程>
第1ろ過工程は、前記第1解砕工程後の混合物をろ過する工程である。第1解砕工程により、解砕前から第1有機溶剤と混和していた水に加え、フロック中の水も第1有機溶剤と混和させた状態となる。この状態でろ過することにより、ろ過後に残渣として残るニッケル粒子中の水分を第1有機溶剤ごと除去することができる。
【0050】
ろ過の具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機およびデカンター等を用いて、混合物からニッケル粒子を固液分離することができる。
【0051】
上記の工程を含む製造方法により、水の含有量が1.0質量%以下のニッケルスラリーを製造する。ニッケルスラリー中の水の含有量が多いと、ニッケルの水酸化物が生成されやすくなるおそれがある。水の含有量が少なくなれば、それに応じてニッケルの水酸化物が生成されるおそれもなくなっていき、1.0質量%以下の含有量であれば問題ない。水の含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば0.1質量%程度まで、水の含有量を無理なく低減させることができる。
【0052】
本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーの製造方法では、水の除去が容易となる分散剤を使用しないため、1回の混合工程、解砕工程およびろ過工程では、ニッケルスラリー中の水の含有量が1.0質量%以下とならない場合がある。この場合には、第1ろ過工程後、上記と同様の混合工程、解砕工程およびろ過工程をさらに実施することができる。具体的には、第1ろ過工程後のニッケル粒子と第1有機溶剤とを混合して第2混合物を得る第2混合工程と、第2混合物中のニッケル粒子を解砕する第2解砕工程と、第2解砕工程後の混合物をろ過する第2ろ過工程を含むことができる。ここで、第1有機溶剤としては、第1混合工程と同じものを繰り返し使用してもよく、別の有機溶剤を用いてもよい。例えば、第1混合工程にてアセトンを用いた場合、第2混合工程ではエタノールを用いてもよい。また、解砕やろ過についても、第1解砕工程や第1ろ過工程と同じ内容の工程を繰り返し行ってもよく、別の工程を行ってもよい。例えば、第1解砕工程では乳鉢を用いて解砕した場合、第2解砕工程では超音波ホモジナイザーを用いて解砕してもよい。
【0053】
第2ろ過工程後、さらに、ニッケルスラリー中の水の含有量が1.0質量%以下となるように、上記と同様の混合工程、解砕工程およびろ過工程を繰り返すことができる。ここで、第1有機溶剤としては、同じものを繰り返し使用してもよく、別の有機溶剤を用いてもよい。また、解砕やろ過についても、同じ工程を繰り返し行ってもよく、別の工程を行ってもよい。
【0054】
ニッケルスラリー中の水の含有量が1.0質量%以下となるまで水を除去した後は、残渣として残るニッケル粒子と、例えば上記した第2有機溶剤を混合し、撹拌等することによりスラリー化して、ニッケルスラリーを得ることができる。また、第1有機溶剤と混合してスラリー化することもできる。
【0055】
上記にて説明したニッケルスラリーの製造方法により、例えば本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーを製造することが出来る。
【0056】
[ニッケルペーストの製造方法1]
本発明の一実施形態に係るニッケルペーストの製造方法は、上記した本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーと、結合剤を含む混合物を分散する分散工程を含む。ニッケル粒子の含有量は、特に限定されないが、分散剤等の使用量を低減化することができるため、ニッケルペースト中において40質量%~50質量%含有するようにニッケル粒子を高濃度化することができる。
【0057】
分散工程は、ニッケルスラリー中のニッケル粒子が凝集することなく、混合物中で分散した状態とすることができる工程であれば、特に限定されない。例えば、3本ロールミル、遊星ミルまたはビーズミル等を用いて、ニッケルスラリーと結合剤を含む混合物を分散することができる。不純物の混入を抑制する観点から、3本ロールミルを用いて分散することが好ましい。
【0058】
(結合剤)
結合剤としては、例えば、セルロース構造、セルロースエステル構造またはセルロースエーテル構造から選ばれる構造を有し、カルボキシル基等の官能基(酸基)を有するものを用いることができ、少なくとも1種類の結合剤を用いることや、複数の結合剤を併用することができる。例えば、セルロース樹脂やポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
【0059】
また、結合剤としては、焼結による熱分解の容易性の観点から、480℃以上の温度で分解できるものを用いることが好ましい。
【0060】
ニッケルペースト中の結合剤の含有量は、0.5質量%~7.0質量%とすることができる。この範囲内の含有量であることにより、結合剤を効率的にニッケル粒子へ吸着させることができる。結合剤の含有量が1.0質量%~5.0質量%であれば、この吸着効果がより高まるため、より好ましい。結合剤の含有量が0.5質量%未満の場合、ニッケルペーストが低粘度となり、解砕不足となるおそれや、ニッケル粒子が再凝集してしまう場合がある。また、結合剤の含有量が7.0質量%より多いと、結合剤が過剰量となり、内部電極等とするための焼結時に結合剤が分解せずに残存することで、内部電極等の性能を低下させてしまうおそれがある。
【0061】
結合剤は、有機溶剤に溶解させたビヒクルとして用いることができる。ビヒクルとすることにより、ハンドリングが向上してニッケルペーストの製造が容易となり、また結合剤の添加量の微調整等も容易となる。ビヒクル中の結合剤の含有量は、特に限定されないが、5質量%以上であることが好ましい。かかる含有量が5質量%以上であることにより、ニッケルペーストの粘度の低下を抑制させることができる。
【0062】
有機溶剤としては、上述した結合剤を溶解するものであり、ニッケルの水酸化物の生成に関与しないものであれば特に限定されず、ニッケルを用いた導電ペーストの用途に通常使用されているものを用いることができる。例えば、上述した第2有機溶剤と同様のものを用いることができる。
【0063】
(その他)
上記の他、ニッケルペーストの作用を損なわせない範囲で、必要に応じて種々の添加剤等を含有させることができる。具体的には、ニッケル粉の分散性をより向上させるための分散剤や、チクソ性を高めるためのレオロジーコントロール剤、上述した結合剤を溶解するものであり、ニッケルの水酸化物の生成に関与しない第2有機溶剤等を添加することができる。また、例えば、誘電体層との密着性を向上させるべく誘電体層の主要成分を共材として添加することもできる。
【0064】
分散剤としては、例えば、オレオイルサルコシン、アルキルアミン等が挙げられる。そして、レオロジーコントロール剤としては、アマイド、12―ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。また、共材としては、チタン酸バリウム、シリカ等が挙げられる。
【0065】
ニッケルペーストの粘度は、回転数10rpmで測定した粘度が、例えば、20Pa・s以上60Pa・s以下に調製することが好ましい。この範囲の粘度であれば、印刷性やハンドリングの良好なペーストとすることができる。なお、ニッケルペーストの粘度は、ブルックフィールド社製粘度計で測定することができる。
【0066】
[ニッケルペーストの製造方法2]
また、上記した本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーを用いることなく、ニッケルペーストを製造することができる。すなわち、本発明の上記とは異なる実施形態に係るニッケルペーストの製造方法は、第1混合工程と、第1解砕工程と、第1ろ過工程と、分散工程を含む。第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程についての説明は、上記した本発明の一実施形態に係るニッケルスラリーの製造方法においてした説明と同様であり、省略する。ニッケル粒子の含有量は、上記ニッケルペーストの製造方法1と同様に特に限定されないが、分散剤等の使用量を低減化することができるため、ニッケルペースト中において40質量%~50質量%含有するようにニッケル粒子を高濃度化することができる。
【0067】
(分散工程)
第1ろ過工程後のニッケル粒子と結合剤を含む混合物を分散する工程である。例えば、第1ろ過工程後に残渣として残るニッケル粒子をスラリー化することなく、そのまま結合剤と混合して分散することができる。この工程は、ニッケル粒子が凝集することなく、混合物中で分散した状態とすることができる工程であれば、特に限定されない。例えば、3本ロールミル、遊星ミルまたはビーズミル等を用いて、ニッケル粒子と結合剤を含む混合物を分散することができる。不純物の混入を抑制する観点から、3本ロールミルを用いて分散することが好ましい。
【0068】
結合剤、ビヒクル、有機溶剤およびその他の添加剤等や共材についての説明は、上記した「ニッケルペーストの製造方法1」においてした説明と同様であり、省略する。
【0069】
本発明の一実施形態に係る「ニッケルスラリーの製造方法2」では、第1ろ過工程後、上記と同様の混合工程、解砕工程およびろ過工程をさらに実施することができる。具体的には、第1ろ過工程後のニッケル粒子と第1有機溶剤とを混合して第2混合物を得る第2混合工程と、第2混合物中のニッケル粒子を解砕する第2解砕工程と、第2解砕工程後の混合物をろ過する第2ろ過工程を含むことができる。ここで、第1有機溶剤としては、第1混合工程と同じものを繰り返し使用してもよく、別の有機溶剤を用いてもよい。例えば、第1混合工程にてアセトンを用いた場合、第2混合工程ではエタノールを用いてもよい。また、解砕やろ過についても、第1解砕工程や第1ろ過工程と同じ内容の工程を繰り返し行ってもよく、別の工程を行ってもよい。例えば、第1解砕工程では乳鉢を用いて解砕した場合、第2解砕工程では超音波ホモジナイザーを用いて解砕してもよい。
【0070】
第2ろ過工程を行った場合は、分散工程における第1ろ過工程後のニッケル粒子は、第2ろ過工程後のニッケル粒子であり、例えば、第2ろ過工程後に残渣として残るニッケル粒子をスラリー化することなく、そのまま結合剤と混合して分散することができる。
【0071】
第2ろ過工程を行った後、上記と同様の混合工程、解砕工程およびろ過工程をさらに繰り返すことができる。すなわち、混合工程、解砕工程およびろ過工程を繰り返すことができる。ここで、第1有機溶剤としては、同じものを繰り返し使用してもよく、別の有機溶剤を用いてもよい。また、解砕やろ過についても、同じ工程を繰り返し行ってもよく、別の工程を行ってもよい。
【0072】
ニッケルペーストの粘度は、回転数10rpmで測定した粘度が、例えば、20Pa・s以上60Pa・s以下に調製することが好ましい。この範囲の粘度であれば、印刷性やハンドリングの良好なペーストとすることができる。
【0073】
上記したニッケルペーストの製造方法1、2により製造したニッケルペーストであれば、例えばこのニッケルペーストを、アプリケーター(ギャップ厚5μm)を用いてガラス基板上に塗布後、120℃で5分間、空気中で乾燥させ、作成した平均膜厚3μmの乾燥膜について、光干渉式表面形状測定装置を用いて測定した場合の表面粗さを0.06μm以下とすることができる。また、乾燥膜の表面粗さとしては、例えば好ましい粗さである0.05以下μmとすることができ、さらに好ましい粗さである0.04μm以下とすることができる。また、同様にして測定した乾燥膜の表面粗さの最大値(Ra(Max))についても、例えば好ましい最大値として0.39μm以下とすることができ、より好ましい0.37μm以下とすることや、さらに好ましい0.35μm以下とすることができる。
【0074】
また、このようなニッケルペーストを用いることにより、水分量が少ないことでニッケルの水酸化物の生成を抑制することができるため、好ましい乾燥膜密度である5g/cm以上とすることができる。乾燥膜密度は、例えばPETフィルム上に平均膜厚が30μmとなるように印刷後、120℃で40分間、空気中で乾燥させ、直径40mmの円盤状に切断し、その厚みと質量を測定することにより、算出することができる。
【0075】
このような乾燥膜密度が大きく、表面粗さの小さい平滑な乾燥膜を形成することができるニッケルペーストであれば、自動車や携帯電話等の形態機器に搭載される積層セラミックコンデンサ(MLCC)の内部電極用の材料として好適に用いることができる。また、このようなニッケルペーストであれば、凝集体を含めたニッケル粒子の粗大粒子を極めて少なくすることができるため、内部電極の表面を凹凸がなく平滑化することが可能となる。その結果、ニッケル粒子がセラミックシート層を突き抜けてしまうことによるMLCCの内部電極層の層同士のショート等の発生を防ぐことができる。また、ニッケル粒子がセラミックシート層を突き抜けない場合においても、電極間の距離が短くなることで部分的な電流集中が発生することを防ぐことができることにより、積層セラミックコンデンサの寿命の低下や劣化を緩和することができる。さらに、このようなニッケルペーストを用いれば、ニッケル微粒子が密に焼結されやすいため、焼結により得られる乾燥膜の密度を高めることが可能であり、コンデンサの容量を高くすることができる。
【実施例
【0076】
以下では、本発明の実施例を示してさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0077】
≪評価方法≫
水分量、粘度、表面粗さおよび乾燥膜密度の測定は、以下の方法により行った。
【0078】
[水分量]
第1ろ過工程および第2ろ過工程におけるろ過後の残渣の水分量について、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製 MKC610DT)を用い、窒素雰囲気下にて180℃で20分間保持し、測定した。
【0079】
[第1有機溶剤の含有量]
第1ろ過工程および第2ろ過工程におけるろ過後の残渣に残る第1有機溶剤の含有量について、示差熱‐熱重量同時測定(TG-DTA)装置(ブルカー・エイエックスエス製 2010SA)を用い、窒素雰囲気下中10℃/分で室温から150℃までの重量減少量を測定した。残渣の質量は2段階の減少ピークを示して減少するところ、1段階目の減少ピークは水によるものであるため、2段階目の減少ピークを第1有機溶剤の溶剤量として、第1有機溶剤の含有量を算出した。
【0080】
[ニッケルペーストの粘度]
ブルックフィールド社製粘度計にて、10rpmの粘度を測定した。表4において、ニッケルペーストの適正粘度である20~60Pa・sとなったものを○(良好)、それ以外のものを×(不良)と評価した。
【0081】
[ニッケル膜の表面粗さ(Ra)]
アプリケーター(ギャップ厚5μm)を用いてガラス基板上にニッケルペーストを塗布後、120℃で5分間、空気中で乾燥させ、膜厚約3μmの乾燥膜を作製した。この乾燥膜について、位相シフト干渉方式による光学的な方法によって、表面の突起を測定した。具体的には、特定波長領域に限定された光源から光を、試料及びリファレンス鏡に照射し、試料及びリファレンス鏡に照射した光の干渉縞により表面状態を観察する方法であり、さらに言えば、試料を1/4波長ごとに光が照射される方向に移動させて光の干渉縞から表面状態を観察する方法である。この乾燥膜の表面粗さは、光干渉式表面形状測定装置(日東光器株式会社製 WYKO-NT1100)を用いて測定した。
【0082】
[ニッケル膜の乾燥膜密度(DFD)]
ニッケルペーストをPETフィルム上に5×10cmの面積で膜厚30μmとなるように印刷後、120℃で40分間、空気中で乾燥させたものを、直径40mmの円板状に切断して試験片とした。乾燥膜密度は、その試験片の厚みと質量を測定して算出した。
【0083】
[実施例1]
<ニッケルスラリーの製造>
(第1混合工程)
湿式還元法により得たニッケル粒子の含有量が50質量%であり、水分量が50質量%の水スラリー(住友金属鉱山株式会社製 規格名:NR707 ニッケル粒子の平均粒径70nm、ニッケル粒子の粒子径の上限が120nm、表面処理無し)200gに第1有機溶剤としてエタノールを400g(ニッケル粒子に対して400質量%)添加し、混合して第1混合物600gを得た。なお、ニッケル粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM、Ultra55、カールツァイス株式会社製)で観察し、倍率10万倍のSEM像において、ニッケル粒子100個の粒径を測定し、測定値の平均値とした。
【0084】
(第1解砕工程)
エクセルオートホモジナイザー(日本精機社製)を用いて、周速10m/sの回転速度で第1混合物を2分間撹拌し、ニッケル粒子を解砕した。
【0085】
(第1ろ過工程)
第1解砕工程後の第1混合物600gを減圧ろ過して水とエタノールを除去した。
【0086】
(第2有機溶剤の添加)
上記の方法により、第1ろ過工程後の残渣の水分量と第1有機溶剤の含有量を算出した後、第2の有機溶剤としてターピネオールを、ニッケル粒子に対して50質量%となるように残渣に添加し、撹拌してニッケルスラリーを得た。
【0087】
<ニッケルペーストの製造>
ニッケルペーストの組成が、ニッケル粒子46.8質量%、共材(チタン酸バリウム)10.5質量%、エチルセルロース3.5質量%、溶剤39.1質量%、分散剤0.1質量%となるように、ニッケルペーストを製造した。具体的には、まず、上記にて得られたニッケルスラリーをエバポレーター(ロータリーエバポレータ―EYELA製 N-N型)により第1有機溶剤および第2有機溶剤を揮発させて濃縮した。次に、濃縮後のニッケル有機スラリーに、エチルセルロースの含有量を10質量%に調製した有機ビヒクル(質量比 エチルセルロース:ターピネオール=10:90)とチタン酸バリウムを添加した混合物を、3本ロールで分散した。そして、分散後の混合物に0号ソルベント(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を添加し、粘度調製を行い、ニッケルペーストを作製した。なお、0号ソルベントは飽和炭化水素を99体積%以上含み、トリデカン、ノナン、シクロヘキサンを主成分として含むものである。
【0088】
<物性評価>
上記の方法により、ニッケルペーストの粘度、ニッケル膜の表面粗さ(Ra、Ra(Max)、およびニッケル膜の乾燥膜密度を測定した。
【0089】
[実施例2]
第2有機溶剤として、ターピネオールに代えてジヒドロターピネオールを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0090】
[実施例3]
第2有機溶剤として、ターピネオールに代えてジヒドロターピネオールアセテートを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0091】
[実施例4]
第2有機溶剤として、ターピネオールに代えてミネラルスピリットを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0092】
[実施例5]
第2有機溶剤として、ターピネオールに代えて0号ソルベントを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0093】
[実施例6]
第2有機溶剤として、ターピネオールに代えてブチルカルビトールを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0094】
[実施例7]
第2有機溶剤として、ターピネオールに代えてメチルエチルケトンを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0095】
[実施例8]
第2有機溶剤として、ターピネオールに代えてシクロヘキサンを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0096】
[実施例9]
第1混合工程において、第1有機溶剤としてエタノールに代えてメタノールを添加したこと以外、実施例1と同様にしてニッケルスラリーおよびニッケルペーストを作製した。
【0097】
[実施例10]
<ニッケルスラリーの製造>
(第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程)
第1混合工程において、第1有機溶剤としてエタノール400gに代えて2―プロパノール200gを添加したこと以外、実施例1と同様にして第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程を行った。
【0098】
(第2混合工程、第2解砕工程および第2ろ過工程)
第1ろ過工程後の残渣の水分量と第1有機溶剤の含有量を算出した後、第1ろ過工程後のニッケル粒子を含む残渣にエタノールを200g添加し、第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程と同様に混合、解砕およびろ過を行った。
【0099】
(第2有機溶剤の添加)
上記の方法により、第2ろ過工程後の残渣の水分量と第1有機溶剤の含有量を算出した後、第2の有機溶剤としてターピネオールを、ニッケル粒子に対して50質量%となるように残渣に添加し、撹拌してニッケルスラリーを得た。
【0100】
<ニッケルペーストの製造、物性評価>
実施例1と同様にニッケルペーストを作製し、物性評価を行った。
【0101】
[実施例11]
<ニッケルスラリーの製造>
(第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程)
第1混合工程において、第1有機溶剤としてエタノール400gに代えてアセトン200gを添加したこと以外、実施例1と同様にして第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程を行った。
【0102】
(第2混合工程、第2解砕工程および第2ろ過工程)
第1ろ過工程後の残渣の水分量と第1有機溶剤の含有量を算出した後、第1ろ過工程後のニッケル粒子を含む残渣にエタノールを200g添加し、第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程と同様に混合、解砕およびろ過を行った。
【0103】
(第2有機溶剤の添加)
上記の方法により、第2ろ過工程後の残渣の水分量と第1有機溶剤の含有量を算出した後、第2の有機溶剤としてターピネオールを、ニッケル粒子に対して50質量%となるように残渣に添加し、撹拌してニッケルスラリーを得た。
【0104】
<ニッケルペーストの製造、物性評価>
実施例1と同様にニッケルペーストを作製し、物性評価を行った。
【0105】
[比較例1]
第1混合工程において、第1有機溶剤として用いたエタノール400gに代えてトルエン50gを添加し、第1解砕工程に代えて第1混合物を50分間撹拌する解砕工程を実施したこと以外、実施例1と同様にして第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程を行った。
【0106】
[比較例2]
第1混合工程において、第1有機溶剤として用いたエタノール400gに代えてヘキサン50gを添加し、第1解砕工程に代えて第1混合物を50分間撹拌する解砕工程を実施したこと以外、実施例1と同様にして第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程を行った。
【0107】
[比較例3]
第1混合工程において、第1有機溶剤として用いたエタノール400gに代えてシクロヘキサン50gを添加し、第1解砕工程に代えて第1混合物を50分間撹拌する解砕工程を実施したこと以外、実施例1と同様にして第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程を行った。
【0108】
[比較例4]
第1混合工程において、第1有機溶剤として用いたエタノール400gに代えてミネラルスピリット50gを添加し、第1解砕工程に代えて第1混合物を50分間撹拌する解砕工程を実施したこと以外、実施例1と同様にして第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程を行った。
【0109】
[比較例5]
第1混合工程において、第1有機溶剤として用いたエタノール400gに代えて0号ソルベント50gを添加し、第1解砕工程に代えて第1混合物を50分間撹拌する解砕工程を実施したこと以外、実施例1と同様にして第1混合工程、第1解砕工程および第1ろ過工程を行った。
【0110】
(評価結果)
水スラリーの組成、使用した第1有機溶剤および第2有機溶剤の種類と混合量、解砕工程における解砕処理時間、ろ過工程後の残渣中の水分量および第1有機溶剤の含有量について、実施例1~9の結果を表1、実施例10および11の結果を表2、比較例1~5の結果を表4に示す。また、ニッケルスラリー中の水分量および第1有機溶剤の含有量について、実施例1~11の結果を表4に、ニッケルペーストの粘度、ニッケル膜の表面粗さ(Ra、Ra(Max)、およびニッケル膜の乾燥膜密度について、実施例1~11の結果を表5に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
湿式還元法により得た水スラリーは、ニッケル粒子の凝集がなく分散したスラリーである。実施例1~10では、この水スラリーを出発原料とし、水と混和する第1有機溶剤を混合し、解砕工程、ろ過工程を実施することにより、分散剤を用いなくても水を除去することができ、水の含有量が1.0質量%以下のニッケルスラリーを得ることができた(表1~3)。このようなニッケルスラリーであれば、ニッケルペーストの組成として陰イオン界面活性剤等の分散剤の量を少なくすることができ、ペースト組成の自由度が高くすることができる結果、ペーストとして適正範囲の粘度に調製しつつ、ニッケルペースト中のニッケル粒子を高濃度化することができた(表5)。また、ニッケルペーストを用いた製造したニッケル膜の物性に異常はなく、積層セラミックコンデンサ等の内部電極用の材料として好適に用いることが確認できた(表5)。
【0117】
一方、比較例1~5では、第1有機溶剤に代えてトルエン等の水と混和しない溶剤を使用した結果、解砕工程やろ過工程を行っても、水を十分に除去できなかった(表4)。比較例1~5における残渣を用いても、ペースト組成の自由度が低くなるために、ペースト化してもニッケル粒子を高濃度がすることが困難であり、また、ペーストの粘度を適正範囲に調製することが困難であることが明らかであった。このようなペーストは、ニッケル膜を形成するにあたり、印刷性やハンドリングに支障をきたすおそれがあると共に、乾燥膜密度を低下させる等、ニッケル膜物性を低下させることが容易に予想し得るため、ニッケルペーストの作成およびニッケル膜の物性評価は実施しなかった。
【0118】
[まとめ]
実施例より明らかなように、本発明のニッケルスラリー、ニッケルスラリーの製造方法およびニッケルペーストの製造方法によれば、ニッケル粒子の凝集がなく分散しており、積層セラミックコンデンサ等の内部電極用の材料として好適に用いることができるニッケルペーストを提供することができる。
【0119】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。