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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】リチウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20220301BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220301BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20220301BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220301BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20220301BHJP
   B01J 49/53 20170101ALI20220301BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20220301BHJP
   C01D 15/06 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C22B26/12
H01M4/525
C22B3/42
C22B7/00 C
B01J39/05
B01J49/53
C02F1/42
C01D15/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017232985
(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公開番号】P2019099875
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
(72)【発明者】
【氏名】米里 法道
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-043174(JP,A)
【文献】特開2016-221438(JP,A)
【文献】特開2011-006275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用正極材料のリチウムとアルミニウムを含有する製造工程排水からリチウムを回収するリチウムの回収方法であって、
前記製造工程排水にイオン交換樹脂を接触させて前記イオン交換樹脂にリチウムイオンを選択的に吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程において前記リチウムイオンを選択的に吸着させた前記イオン交換樹脂に酸又はナトリウム塩を含有する水溶液を接触させて前記イオン交換樹脂から前記リチウムイオンを溶離させる溶離工程とを有し、
前記イオン交換樹脂は、カルボキシ基のナトリウム型の官能基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂であり、
前記吸着工程における前記製造工程排水のpHは9以上であり、
前記吸着工程における前記製造工程排水のリチウム濃度は0.3g/L以上であることを特徴とするリチウムの回収方法。
【請求項2】
前記吸着工程の前にさらに前記イオン交換樹脂に含有される官能基を置換する置換工程を有し、
前記置換工程は、前記官能基を前記カルボキシ基から前記ナトリウム型に置換することを特徴とする、請求項1に記載のリチウムの回収方法。
【請求項3】
前記溶離工程の後にさらに前記イオン交換樹脂を再生する再生工程を有し、
前記再生工程は、前記溶離工程において前記ナトリウム型からカルボキシ基となった前記官能基を、前記カルボキシ基からナトリウム型に置換することを特徴とする、請求項に記載のリチウムの回収方法。
【請求項4】
前記溶離工程における前記ナトリウム塩は硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載のリチウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極材料のリチウムとアルミニウムを含有する製造工程排水からリチウムを回収するリチウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムは陶器やガラスの添加剤、鉄鋼連続鋳造用のガラスフラックス、グリース、医薬品、電池等、産業において広く利用されている。特に、リチウム二次電池はエネルギー密度が高く、電圧が高いことから、最近ではノートパソコンなどの電子機器のバッテリーや電気自動車・ハイブリッド車の車載バッテリーとしての用途が拡大しており、需要が急増している。
【0003】
最近では資源の有効活用のため、リチウム二次電池用正極材料の製造工程で排出される排水(以下、「製造工程排水」ともいう)からリチウムを回収することが推進されている。
【0004】
例えば、ニッケル系正極材料(NCA)における製造工程排水にはリチウムとアルミニウムが含まれている。この製造工程排水からリチウムを回収するにはリチウムとアルミニウムを分離する必要があるが、分離方法として特許文献1に中和沈殿法が、特許文献2及び3に溶媒抽出法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-33984号公報
【文献】特開2012-211386号公報
【文献】特開2002-121623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の中和沈殿法及び特許文献2の溶媒抽出法ではアルミニウム分離後の製造工程排水にリチウムが残留する。製造工程排水に残留したリチウム濃度は低いため、リチウムを炭酸塩又は水酸化物塩として回収するには製造工程排水を蒸発させリチウムを濃縮する必要がある。このため、リチウム回収のコストが高くなり経済的に好ましくないという問題があった。
【0007】
特許文献3の溶媒抽出法では、クラウンエーテルを用いて製造工程排水からリチウムを分離し、その後でクラウンエーテルからリチウムを逆抽出する。この方法は逆抽出時にリチウムの濃縮が可能であるため、蒸発による濃縮を必要とせずコスト的に有利である。しかし、クラウンエーテルが高価であること、溶媒抽出法は排水処理が必要となり工程が複雑になることからリチウム回収のコストが高くなるという問題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、リチウムとアルミニウムを含有するリチウム二次電池用正極材料の製造工程排水からリチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、リチウム二次電池用正極材料のリチウムとアルミニウムを含有する製造工程排水からリチウムを回収するリチウムの回収方法であって、製造工程排水にイオン交換樹脂を接触させてイオン交換樹脂にリチウムイオンを選択的に吸着させる吸着工程と、吸着工程においてリチウムイオンを選択的に吸着させたイオン交換樹脂に酸又はナトリウム塩を含有する水溶液を接触させてイオン交換樹脂からリチウムイオンを溶離させる溶離工程とを有し、イオン交換樹脂は、カルボキシ基のナトリウム型の官能基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂であり、吸着工程における製造工程排水のpHは9以上であり、吸着工程における製造工程排水のリチウム濃度は0.3g/L以上であることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、製造工程排水から選択的にリチウムを回収することができる。そして、製造工程排水を蒸発させリチウムを濃縮させる工程無しにリチウムを濃縮することができるため、リチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減することができる。
【0012】
このようにすれば吸着工程において、製造工程排水中のアルミニウムとリチウムを分離させられ、またイオン交換反応が阻害されることを防ぐことができるので、リチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減することができる。
【0014】
このようにすれば、吸着工程において選択性の低いリチウムイオンをイオン交換樹脂に吸着させることができる。
【0015】
また、本発明の一態様では吸着工程の前にさらにイオン交換樹脂に含有される官能基を置換する置換工程を有し、置換工程は、官能基をカルボキシ基からナトリウム型に置換してもよい。
【0016】
このようにすれば吸着工程におけるpHの低下を防ぐことができ、吸着工程におけるイオン交換反応が阻害されることを防ぐことができる。
【0017】
また、本発明の一態様では溶離工程の後にさらにイオン交換樹脂を再生する再生工程を有し、再生工程は、溶離工程においてナトリウム型からカルボキシ基となった官能基を、カルボキシ基からナトリウム型に置換してもよい。
【0018】
このようにすれば再度の吸着工程においてpHの低下を防ぐことができ、吸着工程におけるイオン交換反応が阻害されることを防ぐことができる。
【0019】
また、本発明の一態様では溶離工程におけるナトリウム塩は硫酸ナトリウムであるとしてもよい。
【0020】
このようにすれば溶離工程において官能基がカルボキシ基からナトリウム塩型に置換されるため、再生工程を省略することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば製造工程排水から選択的にリチウムを回収することができ、製造工程排水を蒸発させリチウムを濃縮させる工程無しにリチウムを濃縮することができるため、リチウムとアルミニウムを含有するリチウム二次電池用正極材料の製造工程排水からリチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概略を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムの回収方法の概略を示すフロー図である。
図3】実施例1における吸着工程での混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を示す図である。
図4】実施例1における溶離工程での混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を示す図である。
図5】比較例1における吸着工程での混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を示す図である。
図6】比較例1における溶離工程での混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
[1.リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概要]
まず、リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概要について図面を使用しながら説明する。図1は、リチウム二次電池用正極材料の製造工程の概略を示すフロー図である。リチウム二次電池用正極材料の製造工程は、図1に示すように、晶析工程S101と分離工程S102と焼成工程S103と水洗工程S104とから構成される。詳細には、晶析工程S101は、ニッケル、コバルト、又はアルミニウム等の原料からなる各硫酸金属塩の混合水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、これらの金属水酸化物を共沈させて金属水酸化物を含むスラリーを得る工程である。また、分離工程S102は、得られた金属水酸化物を含むスラリーから金属複合水酸化物を固液分離等により分離する工程である。また、焼成工程S103は、得られた金属複合水酸化物と水酸化リチウムとを混合し、この混合物を所定の温度で焼成することによりリチウム金属複合酸化物を得る工程である。そして、水洗工程S104は、得られたリチウム金属複合酸化物を水洗処理する工程である。
【0025】
リチウム二次電池用正極材料の製造工程のうち、水洗工程S104では、正極材料を水洗するため、リチウムイオンとアルミニウムイオンを高濃度で含む排水が排出される。排水濃度は、例えばリチウムイオンが、1~4g/Lであり、アルミニウムイオンが、0.04~0.18g/Lを有している。このような排水を公共用水域に放流することは、リチウムが工業的にも有用な金属であるため好ましくない。そして、資源のリサイクルにおいて、製造工程において排出されるリチウムを廃棄せずに回収し有効活用することが求められている。
【0026】
上述したように、例えばNCAの製造工程排水はリチウムとアルミニウムを含む水溶液になるため、この製造工程排水からリチウム化合物を回収しようとした場合、アルミニウムの分離が必要になる。
【0027】
アルミニウムとリチウムを含有する水溶液からアルミニウムを分離するには中和沈殿法(例えば特許文献1)、溶媒抽出法(例えば特許文献2及び3)、イオン交換法などがある。
【0028】
中和沈殿法ではアルミニウムが水酸化物となるpH領域にpH調整を行い、アルミニウムを沈殿物として分離する。この方法を用いるとリチウムは水溶液中に残留する。
【0029】
溶媒抽出法では、例えばカルボン酸やリン酸などを官能基として持つ、酸性抽出剤が広く用いられているが、酸性抽出剤は通常、形成する酸化物の塩基性が高い金属ほど抽出し難いことから、リチウムはアルミニウムより抽出し難い。このため、アルミニウムを抽出して分離する。この方法を用いた場合も、リチウムは水溶液中に残留する。
【0030】
イオン交換法では、カチオンを捕捉するために陽イオン交換樹脂やキレート樹脂が広く用いられているが、アルミニウムよりリチウムを選択的に捕捉する樹脂はないため、アルミニウムを捕捉して液から分離する。この方法を用いた場合もリチウムは水溶液中に残留する。
【0031】
このように、アルミニウムを選択的に除去して液中にリチウムを残す分離法は多くあるが、リチウムを炭酸塩又は水酸化物として回収しようとした場合、液中のリチウム濃度が低い場合は不利になる。例えば炭酸リチウムで回収しようとした場合、炭酸ナトリウムなどの炭酸源を添加して、炭酸リチウムを沈殿させて回収するが、炭酸リチウムは20℃で約13g/Lの溶解度を持つため、リチウム濃度はこの濃度以上でなければならない。鉱石や工程中間品の浸出液は条件を調整することで、リチウム濃度を高くすることはできるが、浸出時のpHを下げるために酸を多く消費するなど経済的には好ましくない状況になる可能性がある。また、製造工程排水中のリチウム濃度は通常ロスを低減するために低く抑えられることから、この濃度以上になることはほとんどない。
【0032】
このため、製造工程排水中のリチウム濃度が低い場合は濃縮を行う必要がある。水酸化リチウムで回収しようとした場合でも、水酸化リチウムは炭酸リチウムに消石灰を添加して転換する場合が多いため、中間品の炭酸リチウムを得るために濃縮する必要がある。
【0033】
良く知られている濃縮法として蒸発濃縮法があるが、水を蒸発させるには標準大気圧で539kcal/kgと多大なエネルギーが必要になり、エネルギーコストが高くなるため、経済的に好ましくない。
【0034】
溶媒抽出法とイオン交換法は回収対象の金属を抽出又は吸着した後、逆抽出又は溶離することで精製した水溶液にするが、逆抽出液や溶離液の流量を調整することで、回収対象の金属を濃縮することができる。このため、リチウムを選択的に抽出又は吸着できれば、エネルギーコストの高い蒸発濃縮法を用いなくても、炭酸リチウムを沈殿させることが可能なリチウム濃度の精製液を得ることが可能になる。
【0035】
アルカリ金属やアルカリ土類金属を選択的に抽出できる抽出剤又は吸着できる樹脂としては大環状化合物であるクラウンエーテルを官能基の持つ抽出剤又は樹脂が知られている(例えば特許文献3)。クラウンエーテルは金属イオンを環の中に取り込むことで錯体を形成することが知られており、環の半径に適合するイオン半径を持つ金属イオンに選択性を持つ。環を構成する元素が炭素と酸素のクラウンエーテルは特にアルカリ金属やアルカリ土類金属に親和性があり、12-crown-4がリチウムと特異的に錯体を形成することが知られている。しかし、クラウンエーテルは水溶性があるため、相分離する必要のある溶媒抽出法には適さない。クラウンエーテルに親油性のアルキル基などを修飾して、非水溶性の性質にすることも考えられるが、特別な合成が必要になり工業的に利用しようとした場合、コストが高価になるといったことや、供給安定性が保てないといった問題から、利用は現実的ではない。
【0036】
さらに、溶媒抽出法は抽出後の抽出残液に微小な液滴の状態で有機相が混入するため、通常排水を放流するには活性炭処理などが必要になる。また、抽出剤などの有機溶媒由来の水溶性不純物や水溶性分解物などが水相に溶解し、排水中のCODが増加するため、酸化分解処理などの排水処理が必要になり、工程が複雑になり、処理コストが高くなる傾向がある。
【0037】
このため、クラウンエーテルを担持させた樹脂を用いることが最も簡便な方法になるが、クラウンエーテルは試薬自体が高価であり、樹脂も高価となり、現在は分析用のカラムとして用いる程度にしか実用例はない。したがって、クラウンエーテルを用いて大規模に精製を行うことは現時点ではコスト的に不利である。
【0038】
このような問題があり、アルミニウムとリチウムを含有する水溶液から選択的にリチウムを回収し、炭酸リチウムや水酸化リチウムを得るために適した濃度の水溶液とするための簡便な方法が求められていた。
【0039】
このような実情に鑑み、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、アルミニウムとリチウムを含有する製造工程排水を所定のpHに調整し、官能基をナトリウム型(以下、Na型と記載)に調整したカルボキシ基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂と接触させることでリチウムイオンを選択的に吸着してアルミニウムイオンを液中に残す吸着工程と、酸又はナトリウム塩を含む水溶液を用いて弱酸性陽イオン交換樹脂に吸着したリチウムイオンを溶離する溶離工程とを組み合わせることで、簡便にアルミニウムとリチウムを含有する製造工程排水から選択的にリチウムを回収し、炭酸リチウムや水酸化リチウムを得るために適した濃度の水溶液にすることが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0040】
[2.リチウムの回収工程]
本実施形態に係るリチウムの回収方法は、リチウム二次電池用正極材料の製造工程排水からリチウムを回収するものであって、置換工程と、吸着工程と、溶離工程と、再生工程とを有する。以下、リチウムの回収方法の概要及び各工程をそれぞれ説明する。
【0041】
[2-1.リチウムの回収方法の概要]
まず、リチウムの回収方法の概要について図面を使用しながら説明する。図2は、リチウムの回収方法の概略を示すフロー図である。本発明の一実施形態に係るリチウムの回収方法は、図2に示すように、置換工程S1と吸着工程S2と溶離工程S3と再生工程S4とから構成される。
【0042】
[2-2-1.置換工程]
置換工程S1は、弱酸性陽イオン交換樹脂に含有される官能基であるカルボキシ基(以下、「H型」ともいう。)をナトリウム型(以下、「Na型」ともいう。)に置換する工程である。本実施形態で、H型をNa型に置換する理由は、吸着工程の項目で説明する。なお、置換工程は、後述する吸着工程と溶離工程とを複数回繰り返すことで、リチウムイオンに対する弱酸性陽イオン交換樹脂の吸着性が低下するので、この吸着性を再生する目的で行うこともできる。なお置換工程は弱酸性陽イオン交換樹脂がNa型になっている場合には省略することができる。
【0043】
[2-2-2.吸着工程]
吸着工程S2では、製造工程排水に弱酸性イオン交換樹脂を接触させて、弱酸性イオン交換樹脂にリチウムイオンを選択的に吸着させる。アルミニウムとリチウムを含有するリチウム液はどのような金属濃度でもかまわないが、水溶液のpHを9以上に調整することで、アルミニウムイオンをアルミン酸イオン[Al(OH)にする。この液をNa型に調整したカルボキシ基を含有する弱酸性陽イオン交換樹脂と接触させると、カチオンであるリチウムイオンは吸着するが、アニオンであるアルミン酸イオンは吸着しない。ここで、アルミニウムイオンはリチウムイオンより選択性が高い。そのため、製造工程排水中にアルミニウムイオンが存在する場合はリチウムを弱酸性陽イオン交換樹脂に選択的に吸着させるのは困難である。そこで、本発明の一実施形態に係る吸着工程では、アルミニウムイオンをアルミン酸イオンにすることでリチウムイオンを選択的に吸着させることができるようにした。このとき、官能基が水素型(以下、H型と記載)であると、リチウムイオンと交換した水素イオンが水溶液中に放出され、樹脂近傍のpHは低下する。この場合、ろ過性の悪い水酸化アルミニウムが析出して樹脂に付着し、イオン交換反応を阻害する。樹脂近傍のpHがさらに低下し、アルミニウムがカチオンとして存在する酸性領域になった場合はリチウムイオンより選択的に吸着され分離が困難になる。
【0044】
しかし、Na型に予め調整しておくことで、このようなpH低下を防ぎ、水酸化アルミニウムやアルミニウムイオンの生成を抑制し、アルミニウムはアルミン酸イオンの状態に保持できるため、樹脂に吸着されることはない。ナトリウムイオンとリチウムイオンではリチウムイオンの方が選択性に劣るため、Na型でリチウムイオンを吸着するには、リチウム濃度が0.3g/L以上にする必要があり、0.5g/L以上であることが望ましい。もし、製造工程排水中のリチウム濃度は0.3g/L未満である場合には、リチウムイオンがNa型の弱酸性陽イオン交換樹脂に吸着し難いおそれがある。
【0045】
[2-2-3.溶離工程]
溶離工程S3では硫酸や塩酸などの酸又はナトリウム塩を含有する水溶液でリチウムイオンを溶離する。硫酸や塩酸などの酸を溶離液に用いた場合、弱酸性陽イオン交換樹脂はH型になるため、溶離後、NaOHを通液してNa型にする再生工程が必要になる。一方で、ナトリウム塩を含有する水溶液でリチウムイオンを溶離した場合はNa型になるため、再生工程は省略できる。また、溶離液の流量を調整することで、溶離液のリチウムを濃縮することができる。このため、エネルギーコストの高い蒸発濃縮法を用いなくてもリチウムを回収することが可能になる。なお弱酸性陽イオン交換樹脂は水素イオンに対する選択性が非常に大きいため、官能基にスルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂に比べ、溶離工程においてリチウムイオンを容易に溶離することができる。
【0046】
[2-2-4.再生工程]
再生工程S4は硫酸や塩酸などの酸で溶離した場合のみ必要になる。本工程では硫酸や塩酸でリチウムイオンを溶離した後、H型になった弱酸性陽イオン交換樹脂にNaOHを通液することでNa型に変換する。なおナトリウム塩を含有する水溶液でリチウムイオンを溶離した場合は溶離反応でNa型になるため、本工程は必要ない。
【0047】
ナトリウム塩には塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムといったものがあるが、塩化ナトリウムを用いた場合、沈殿回収した炭酸リチウムに塩素が残留する。回収した炭酸リチウムは二次電池の正極材料の原料としてリサイクルされるが、塩素は設備の構造材を腐食するといったデメリットがあることから硫酸ナトリウムを用いることが望ましい。
【実施例
【0048】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
[3-1.置換工程]
H型に調整して販売している5mLの弱酸性陽イオン交換樹脂(デュオライト社製:C433LF)と1mol/LのNaOH水溶液100mLを200mLのパイレックス(登録商標)製のビーカー内で10分間混合撹拌することで、官能基をNa型にした。Na型に変換した後、樹脂を5C濾紙で濾過して回収した。回収した樹脂は純水で洗浄を行い、付着しているNaOH水溶液を除去した。
【0050】
[3-2.吸着工程]
[3-1.]の置換工程で準備した5mLの樹脂と製造工程排水50mLを100mLのビーカーに入れ、10分間混合撹拌を行った。製造工程排水のpHは12、リチウム濃度は約2300mg/L、アルミニウム濃度は100mg/Lであった。撹拌中は1分毎に製造工程排水を1mLサンプリングし、分析サンプルとした。混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を図3に示す。
【0051】
[3-3.溶離工程]
[3-2.]の吸着工程でリチウムを吸着させた5mLの樹脂を5C濾紙で濾過して回収し、純水でかけ水洗浄した。この樹脂と重量濃度で6.4%の硫酸水溶液50mLを100mLのビーカーに入れ、10分間混合撹拌を行った。撹拌中は1分毎に製造工程排水を1mLサンプリングし、分析サンプルとした。混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を図4に示す。
【0052】
[3-1.]の置換工程、[3-2.]の吸着工程及び[3-3.]の溶離工程は全て常温で行った。[3-2.]の吸着工程及び[3-3.]の溶離工程でサンプリングした分析サンプル中の金属濃度はICP-AESで分析した。
【0053】
<比較例1>
[4-1.吸着工程]
H型に調整して販売している5mLの弱酸性陽イオン交換樹脂(デュオライト社製:C433LF)と製造工程排水50mLを100mLのビーカーに入れ、10分間混合撹拌を行った。製造工程排水のpHは12、リチウム濃度は約2300mg/L、アルミニウム濃度は100mg/Lであった。撹拌中は1分毎に製造工程排水を1mLサンプリングし、分析サンプルとした。混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を図5に示す。
【0054】
[4-2.溶離工程]
[4-1.]の吸着工程でリチウムイオンを吸着させた5mLの樹脂を5C濾紙で濾過して回収し、純水でかけ水洗浄した。この樹脂と重量濃度で6.4%の硫酸水溶液50mLを100mLのビーカーに入れ、10分間混合撹拌を行った。撹拌中は1分毎に製造工程排水を1mLサンプリングし、分析サンプルとした。混合撹拌時間と製造工程排水中の金属濃度の関係を図6に示す。
【0055】
[4-1.]の吸着工程及び[4-2.]の溶離工程は全て常温で行った。[4-1.]の吸着工程及び[4-2.]の溶離工程でサンプリングした分析サンプル中の金属濃度はICP-AESで分析した。
【0056】
実施例1では、図3より、時間とともにリチウムの濃度は下がるが、アルミニウムは時間がたっても初期濃度から変化がないことが確認できる。さらに、図4より、吸着後の樹脂からはリチウムイオンは溶離されるが、アルミニウムイオンは溶離工程後の製造工程排水中に検出されないことが確認できる。これらのことから、Na型であれば、アルミニウムイオンは吸着せず、リチウムイオンのみ選択的に吸着回収することが可能であることがわかった。
【0057】
比較例1では、図5より時間とともにリチウムとアルミニウム濃度が下がっていることが確認できる。さらに、図6より、溶離工程後の製造工程排水中にはリチウムとアルミニウムが検出されることが確認できる。これは、比較例1では弱酸性陽イオン交換樹脂がカルボキシ基であるため、リチウムイオンの吸着と共に水素イオンが製造工程排水に溶出され、製造工程排水のpHが低下し、アルミン酸イオンがアルミニウムイオン(カチオン)となって弱酸性陽イオン交換樹脂に吸着したためと考えられる。これらのことから、H型の場合はアルミニウムとリチウムを分離することが不可能であることがわかった。
【0058】
以上のことから、本発明によってアルミニウムとリチウム含有する製造工程排水からリチウムを選択的に分離することが可能であることが示された。
【0059】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0060】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、リチウムの回収方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0061】
S1 置換工程、S2 吸着工程、S3 溶離工程、S4 再生工程、S101 晶析工程、S102 分離工程、S103 焼成工程、S104 水洗工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6