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特許7031296ニッケル複合酸化物、正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ニッケル複合酸化物、正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220301BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017250176
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2018107131
(43)【公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2016252085
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 康孝
(72)【発明者】
【氏名】川上 裕二
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 知倫
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-216105(JP,A)
【文献】特開2012-230898(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体であるNiとCoとAlとを含むニッケル複合酸化物であって、
前記ニッケル複合酸化物の表面における、金属元素中のAlの割合が11.5at%以下であるニッケル複合酸化物。
【請求項2】
NiとCoとAlとの物質量比(Ni:Co:Al)が、Ni:Co:Al=1-x-y:x:y(ただし、0.05≦x≦0.35、0<y≦0.05)である請求項1に記載のニッケル複合酸化物。
【請求項3】
NiとCoとAlとを含む正極活物質の製造方法であって、
請求項1または請求項2に記載のニッケル複合酸化物と、リチウム化合物との混合物を調製する混合工程と、
前記混合物を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られた焼成物を水洗する水洗工程と、を含み、
前記水洗前と比較した前記水洗後のアルミニウムの維持率が90%以上である正極活物質の製造方法
【請求項4】
NiとCoとAlとの物質量比(Ni:Co:Al)が、Ni:Co:Al=1-x-y:x:y(ただし、0.05≦x≦0.35、0<y≦0.05)である請求項3に記載の正極活物質の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル複合酸化物、正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウム複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として期待され、実用化が進んでいる。リチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定されている。
【0006】
このため、携帯機器用の小型二次電池や、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池について、正極材料のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は、工業的に大きな意義があるといえる。
【0007】
リチウムイオン二次電池用活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行われている。
【0008】
しかし、純粋にニッケルのみで合成したリチウムニッケル複合酸化物を正極材料として用い、リチウムイオン二次電池を作製した場合、コバルト系に比ベてサイクル特性が劣り、また高温環境下での使用や保存により、比較的電池性能を損ないやすいという欠点を有している。このため、ニッケルの一部をコバルトやアルミニウムで置換したリチウムニッケル複合酸化物が一般的に知られている。
【0009】
中でも、ニッケルの一部を少なくともアルミニウムで置換したリチウムニッケル複合酸化物は、該リチウムニッケル複合酸化物をリチウム二次電池の正極材料として用いた場合に、該リチウム二次電池の電池特性、及び安全性を高められることから注目を集めている。
【0010】
リチウムニッケル複合酸化物の製造方法については従来から各種提案がなされており、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成後、水洗することでリチウムニッケル複合酸化物を製造する方法などが提案されている。
【0011】
例えば特許文献1には、Ni塩とM塩の混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)を得る晶析工程と、
得られたニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00~1.15となるように混合し、さらに該混合物を、700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、前記リチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、
得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する水洗工程と、を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【0012】
また、特許文献1には、前記晶析工程の後、前記焼成工程の前に、該晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)を、大気雰囲気中、800℃未満の温度で、1時間以上の焙焼を行って複合酸化物を得る酸化焙焼工程を有することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2012-119093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に開示された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により、ニッケルの一部をアルミニウムで置換したリチウムニッケル複合酸化物を製造した場合に、得られるリチウムニッケル複合酸化物中のアルミニウムの含有量が低くなり、仕込み組成を大きく下回る場合があった。
【0015】
既述のように、リチウムニッケル複合酸化物中のニッケルの一部を置換したアルミニウムは、該リチウムニッケル複合酸化物をリチウム二次電池の正極材料として用いた場合に、該リチウム二次電池の電池特性や、安全性を高める働きを有する。このため、非水系電解質二次電池用正極活物質とした場合に、アルミニウムの含有量が低下することを抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体である、ニッケル複合酸化物が求められていた。
【0016】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体であって、非水系電解質二次電池用正極活物質とした場合に、アルミニウムの含有量が低下することを抑制できるニッケル複合酸化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体であるNiとCoとAlとを含むニッケル複合酸化物であって、
前記ニッケル複合酸化物の表面における、金属元素中のAlの割合が11.5at%以下であるニッケル複合酸化物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体であって、非水系電解質二次電池用正極活物質とした場合に、アルミニウムの含有量が低下することを抑制できるニッケル複合酸化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[ニッケル複合酸化物]
まず、本実施形態のニッケル複合酸化物の一構成例について説明する。
【0020】
本実施形態のニッケル複合酸化物は、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体であり、NiとCoとAlとを含むことができる。そして、ニッケル複合酸化物の表面における、金属元素中のAlの割合を11.5at%以下とすることができる。
【0021】
本発明の発明者らは、非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した場合にAl(アルミニウム)の含有量が低下し、仕込み組成を大きく下回る場合が生じる原因について鋭意検討を行った。
【0022】
その結果、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造工程のうち、ニッケル複合酸化物と、リチウム化合物との混合物を焼成した後、水洗を行った際にアルミン酸リチウムの溶出が生じ、得られるリチウムニッケル複合酸化物中のアルミニウム含有量が低下していることを見出した。
【0023】
そして、表面に存在する金属元素中のAlの割合が一定量以下のニッケル複合酸化物を原料として用いることで、該水洗時のAlの溶出を抑制し、得られるリチウムニッケル複合酸化物中のAlの含有量の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
そこで、本実施形態のニッケル複合酸化物は、上述のように非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体であり、Ni(ニッケル)と、Co(コバルト)と、Al(アルミニウム)とを含むことができる。そして、ニッケル複合酸化物の表面における金属元素中のAlの割合を11.5at%以下とすることができる。
【0025】
非水系電解質二次電池用正極活物質を製造する際、ニッケル複合酸化物と、リチウム化合物との混合物を焼成することで、ニッケル複合酸化物の形態を維持したまま、リチウム化合物由来のリチウムが該ニッケル複合酸化物に拡散され、リチウムニッケル複合酸化物が生成する。このため、ニッケル複合酸化物の粒子の表面に存在する金属元素中のAlの割合を一定量以下とすることで、焼成後に得られるリチウムニッケル複合酸化物の粒子において、該粒子表面に存在するアルミニウム化合物の割合も抑制できるため、水洗する際のAlの溶出を抑制できると考えられる。
【0026】
そして、原料であるニッケル複合酸化物の表面における金属元素中のAlの割合を11.5at%以下とすることで、該ニッケル複合酸化物を用いて得られるリチウムニッケル複合酸化物について、水洗前と比較した水洗後のアルミニウムの維持率を90%以上にできるため好ましい。
【0027】
なお、本発明の発明者らの検討によれば、リチウムニッケル複合酸化物の製造工程において、リチウムニッケル複合酸化物を水洗する時以外は、Alや、その他の金属についても溶出等はほとんど生じず、仕込み組成が維持される。従って、リチウムニッケル複合酸化物についての、水洗前と比較した水洗後のアルミニウムの維持率は、リチウムニッケル複合酸化物についての、仕込み組成に対するアルミニウムの維持率と同じになる。そして、上述のように水洗する際のAlの溶出を抑制することで、リチウムニッケル複合酸化物のアルミニウムの含有量について、仕込み組成からの変化を抑制できる。
【0028】
また、得られるリチウムニッケル複合酸化物を水洗した際、Niはほとんど溶出しない。このため、水洗前と比較した水洗後のアルミニウムの維持率、すなわち仕込み組成に対するアルミニウムの維持率は、例えば水洗前後の、リチウムニッケル複合酸化物に含まれるAlとNiとの質量比の変化率により評価できる。また、ニッケル複合酸化物の表面における金属元素とは、ニッケル複合酸化物の表面に存在するAlを含む全ての金属元素を意味する。
【0029】
ニッケル複合酸化物の表面における金属元素中のAlの割合は10.0at%以下であることが、水洗時のAlの溶出を特に抑制する観点からより好ましい。
【0030】
ニッケル複合酸化物の表面における金属元素中のAlの割合の下限値は特に限定されるものではないが、水洗時のAlの溶出を防ぐ観点からはAlがニッケル複合酸化物の表面に存在しないことが好ましいから例えば0以上とすることができる。
【0031】
なお、本実施形態のニッケル複合酸化物は、複数のニッケル複合酸化物粒子から構成されるニッケル複合酸化物粉末とすることができ、例えば任意に選択したニッケル複合酸化物粒子の表面において、金属元素中のAlの割合が既述の範囲を満たすことが好ましい。特に、各ニッケル複合酸化物粒子の表面において、金属元素中のAlの割合が既述の範囲を満たすことがより好ましい。
【0032】
ニッケル複合酸化物の表面における金属元素中のAlの割合は、例えばXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電分光法)等により測定した、ニッケル複合酸化物の表面における各金属の存在量から算出できる。
【0033】
本実施形態のニッケル複合酸化物の組成は特に限定されないが、例えばNiとCoとAlとの物質量比(モル比)(Ni:Co:Al)が、Ni:Co:Al=1-x-y:x:y(ただし、0.05≦x≦0.35、0<y≦0.05)であるニッケル複合酸化物を好ましく用いることができる。
【0034】
ニッケル複合酸化物中のアルミニウムの含有割合が小さい場合、該ニッケル複合酸化物を用いてリチウムニッケル複合酸化物を製造した際に、アルミニウムの含有割合が仕込み組成よりも大幅に下回ると、リチウムニッケル複合酸化物の特性に特に大きな影響を与える恐れがある。そして、本実施形態のニッケル複合酸化物では、該ニッケル複合酸化物を用いてリチウムニッケル複合酸化物を製造した場合に、アルミニウムの含有割合の仕込み組成からの低下を抑制することができる。このため、本実施形態の正極活物質はアルミニウムの含有割合が小さい場合に特に高い効果を発揮する。そこで、本実施形態のニッケル複合酸化物に含まれる金属成分中のアルミニウムの物質量での含有割合は5%以下であることが好ましく、4%未満であることがより好ましい。
【0035】
なお、本実施形態のニッケル複合酸化物に含まれる金属成分が、Ni、Co、Alのみの場合、NiとCoとAlとの物質量比(Ni:Co:Al)として示した既述の式中のAlの物質量比を示すyは0.05以下であることが好ましく、0.04未満であることがより好ましい。
【0036】
以上に説明した本実施形態のニッケル複合酸化物によれば、非水系電解質二次電池用正極活物質、すなわちリチウムニッケル複合酸化物とした場合に、Alの含有量が仕込み組成から低下することを抑制できる。
[ニッケル複合酸化物の製造方法]
次に、本実施形態のニッケル複合酸化物の製造方法の一構成例について説明する。
【0037】
本実施形態のニッケル複合酸化物の製造方法は特に限定されるものではないが、酸素含有ガス雰囲気下、ニッケル複合水酸化物を焙焼する焙焼工程を有することができる。
【0038】
ニッケル複合水酸化物を焙焼する際の条件については特に限定されるものではない。ただし、例えばニッケル複合水酸化物の組成や、焙焼時の雰囲気等により、得られるニッケル複合酸化物の表面における、金属元素中のAlの割合が変化するため、予め予備試験を実施しておくことが好ましい。そして、予備試験により焙焼条件と、得られるニッケル複合酸化物表面における、金属元素中のAlの割合との関係を確認し、ニッケル複合酸化物を製造する際の条件を設定することが好ましい。
【0039】
本発明の発明者らの検討によれば、例えば、焙焼工程を第1焙焼温度で焙焼を行う第1焙焼ステップと、第1焙焼温度よりも低い第2焙焼温度で焙焼を行う第2焙焼ステップとの2段階で焙焼を行うことで目的物を得ることができる。
【0040】
これは、高い焙焼温度である第1焙焼温度で焙焼することで短時間で水分を除去し、第1焙焼温度よりも低い温度である第2焙焼温度で焙焼することで、ニッケル複合酸化物内の各成分の位置を最適化することができるためと考えられる。
【0041】
上述のように第1焙焼ステップ、及び第2焙焼ステップを実施する場合、第1焙焼温度、及び第2焙焼温度については、焙焼工程に供するニッケル複合酸化物の組成等に応じて任意に選択できるため、特に限定されるものではないが、例えば750℃未満とすることが好ましく、700℃以下とすることがより好ましい。第1焙焼温度、及び第2焙焼温度の下限値は特に限定されないが、生産性等を考慮し400℃以上とすることができる。
【0042】
また、第1焙焼温度と、第2焙焼温度との温度差は特に限定されないが、例えば30℃以上100℃以下とすることができる。
【0043】
ニッケル複合水酸化物を焙焼する際の雰囲気は特に制限されるものではなく、酸素含有ガス雰囲気であればよいが、特に酸素含有ガス気流中で行うことが好ましい。酸素含有ガスとしては特に限定されるものではなく、酸素や、酸素と不活性ガスとの混合気体、空気等を用いることができるが、簡易的に行える空気を用いることが好ましい。
【0044】
焙焼に用いる設備は、特に限定されるものではなく、ニッケル複合水酸化物を酸素含有ガス雰囲気中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
【0045】
焙焼工程に供するニッケル複合水酸化物の製造方法は特に限定されず、含有する金属、例えばNiと、Coと、Alと、任意のその他添加元素とを共沈させることにより製造することができる。
【0046】
焙焼工程に供するニッケル複合水酸化物の組成については特に限定されず、製造するニッケル複合酸化物に対応した組成とすることができる。例えばNiとCoとAlとの物質量比(Ni:Co:Al)が、Ni:Co:Al=1-x-y:x:y(ただし、0.05≦x≦0.35、0<y≦0.05)であるニッケル複合水酸化物とすることができる。
【0047】
焙焼工程に供するニッケル複合水酸化物に含まれる金属成分中のアルミニウムの物質量での含有割合は5%以下であることが好ましく、4%未満であることがより好ましい。
【0048】
なお、焙焼工程に供するニッケル複合水酸化物に含まれる金属成分が、Ni、Co、Alのみの場合、NiとCoとAlとの物質量比(Ni:Co:Al)として示した既述の式中のAlの物質量比を示すyは0.05以下であることが好ましく、0.04未満であることがより好ましい。
[非水系電解質正極活物質]
次に、本実施形態の非水系電解質正極活物質の一構成例について説明する。
【0049】
本実施形態の非水系電解質正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、NiとCoとAlとを含み、仕込み組成に対するアルミニウムの維持率を90%以上とすることができる。
【0050】
ここで、仕込み組成に対するアルミニウムの維持率とは、正極活物質、すなわちリチウムニッケル複合酸化物を製造するために用意した原料における仕込み組成に対する、得られた正極活物質におけるアルミニウムの維持率を意味する。
【0051】
既述のように、従来は正極活物質の製造時、焼成工程後の正極活物質の水洗を行う際にAl成分の溶出が生じ、得られるリチウムニッケル複合酸化物中のAlの含有量が低くなり、仕込み組成を大きく下回る場合があった。一方、本実施形態の正極活物質については、水洗を行った場合でも、Alの溶出を抑制できることから、仕込み組成に対する正極活物質のアルミニウムの維持率を90%以上とすることができる。なお、水洗時以外についてはAlや、その他の金属についても溶出等はほとんど生じないため、正極活物質についての仕込み組成に対するアルミニウムの維持率とは、正極活物質についての水洗前と比較した水洗後のアルミニウムの維持率ともいえる。
【0052】
ここで、焼成工程後の正極活物質の水洗とは、焼成工程後の正極活物質を純水に投入してスラリーとし、所定時間撹拌した後、水と分離することをいう。焼成工程後の正極活物質の水洗は、例えば質量比で水1に対し正極活物質0.5以上2以下となるように秤量し、該正極活物質を純水に投入してスラリーとし、5分以上60分以下の間撹拌した後、濾過、乾燥することで実施できる。
【0053】
また、既述のように正極活物質を水洗した際、Niはほとんど溶出しない。このため、正極活物質についての、仕込み組成に対するアルミニウムの維持率、すなわち水洗前の正極活物質に対する水洗後の正極活物質のアルミニウムの維持率は、例えば水洗前に対する水洗後の、正極活物質に含まれるAlとNiとの質量比の維持率により評価できる。
【0054】
具体的には、水洗前の正極活物質中のアルミニウムの質量をWAl1、水洗前の正極活物質中のニッケルの質量をWNi1、水洗後の正極活物質中のアルミニウムの質量をWAl2、水洗後の正極活物質中のニッケルの質量をWNi2とした場合に、以下の式により仕込み組成に対するアルミニウムの維持率を算出できる。
(アルミニウムの維持率:%)=100×(WAl2/WNi2)/(WAl1/WNi1
本実施形態の正極活物質は、既述のニッケル複合酸化物を用いて製造することができ、その組成は特に限定されるものではない。
【0055】
本実施形態の正極活物質は、例えばNiとCoとAlとの物質量比(Ni:Co:Al)が、Ni:Co:Al=1-x-y:x:y(ただし、0.05≦x≦0.35、0<y≦0.05)とすることができる。
【0056】
本実施形態の正極活物質に含まれるLi以外の金属成分のうちのアルミニウムの物質量での含有割合は5%以下であることが好ましく、4%未満であることがより好ましい。
【0057】
本実施形態の正極活物質に含まれるLi以外の金属成分が、Ni、Co、Alのみの場合、NiとCoとAlとの物質量比(Ni:Co:Al)として示した既述の式中のAlの物質量比を示すyは0.05以下であることが好ましく、0.04未満であることがより好ましい。
【0058】
なお、本実施形態の正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物とすることができ、例えばLiと、他の金属元素Me、すなわち例えばNi、Co、及びAlの合計と、の物質量比であるLi/Meを0.90以上1.10以下とすることができる。
【0059】
本実施形態の正極活物質は、既述のニッケル複合酸化物から製造することができるため、該正極活物質は、製造工程において水洗を行った場合にアルミニウムの溶出を抑制できる。このため、本実施形態の正極活物質を正極材料として用いた非水系電解質二次電池とした場合に、優れた電池特性を有する非水系電解質二次電池とすることができる。
[正極活物質の製造方法]
本実施形態の正極活物質の製造方法は、特に限定されるものではない。本実施形態の正極活物質の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0060】
既述のニッケル複合酸化物と、リチウム化合物との混合物を調製する混合工程。
上記混合物を焼成する焼成工程。
焼成工程で得られた焼成物を水洗する水洗工程。
【0061】
以下、各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程では、ニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合して、混合物(混合粉)を得ることができる。
【0062】
ニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合する際の比は特に限定されるものではなく、製造する正極活物質の組成に応じて選択することができる。
【0063】
後述する焼成工程の前後でLi/Meはほとんど変化しないので、焼成工程に供する混合物中のLi/Meが、得られる正極活物質におけるLi/Meとほぼ同じになる。このため、混合工程で調製する混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合することが好ましい。
【0064】
例えば、混合工程においては、混合物中のリチウム以外の金属の原子数と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.90以上1.10以下となるように混合することが好ましい。特に、上記混合物中のリチウムの原子数と、リチウム以外の金属の原子数との比(Li/Me)が1.00以上1.08以下となるように混合することがより好ましい。
【0065】
混合工程に供するリチウム化合物としては特に限定されないが、例えば水酸化リチウム、炭酸リチウム等から選択された1種以上を好ましく用いることができる。
【0066】
混合工程において、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物とを混合する際の混合手段としては、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いればよい。
(焼成工程)
焼成工程は、上記混合工程で得られた混合物を焼成して、正極活物質とする工程である。焼成工程において混合物を焼成すると、ニッケル複合酸化物に、リチウム化合物中のリチウムが拡散し、正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物が形成される。
【0067】
焼成工程において、混合物を焼成する焼成温度は特に限定されないが、例えば600℃以上950℃以下であることが好ましく、700℃以上900℃以下であることがより好ましい。
【0068】
焼成温度を600℃以上とすることで、ニッケル複合酸化物中へのリチウムの拡散を十分に進行させることができ、得られる正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物の結晶構造を均一にすることができる。このため、生成物を正極活物質として用いた場合に電池特性を特に高めることができるため好ましいからである。また、反応を十分に進行させることができるため、余剰のリチウムの残留や、未反応の粒子が残留することを抑制できるからである。
【0069】
焼成温度を950℃以下とすることで、生成する正極活物質の粒子の粒子間で焼結が進行することを抑制することができる。また、異常粒成長の発生を抑制し、得られる正極活物質の粒子が粗大化することを抑制することができる。
【0070】
また、熱処理温度まで昇温する過程で、リチウム化合物の融点付近の温度にて1時間以上5時間以下程度保持することで、より反応を均一に行わせることができ、好ましい。
【0071】
焼成工程における焼成時間のうち、所定温度、すなわち上述の焼成温度での保持時間は特に限定されないが、2時間以上とすることが好ましく、より好ましくは4時間以上である。これは焼成温度での保持時間を2時間以上とすることで、正極活物質の生成を十分に促進し、未反応物が残留することをより確実に防止することができるからである。
【0072】
焼成温度での保持時間の上限値は特に限定されないが、生産性等を考慮して24時間以下であることが好ましい。
【0073】
焼成時の雰囲気は特に限定されないが、酸化性雰囲気とすることが好ましい。酸化性雰囲気としては、酸素含有ガス雰囲気を好ましく用いることができ、例えば酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。
【0074】
これは焼成時の雰囲気中の酸素濃度を18容量%以上とすることで、正極活物質の結晶性を特に高めることができるからである。
【0075】
酸素含有ガス雰囲気とする場合、該雰囲気を構成する気体としては、例えば大気や、酸素、酸素と不活性ガスとの混合気体等を用いることができる。
【0076】
なお、酸素含有ガス雰囲気を構成する気体として、例えば上述のように酸素と不活性ガスとの混合気体を用いる場合、該混合気体中の酸素濃度は上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0077】
特に、焼成工程においては、酸素含有ガス気流中で実施することが好ましく、大気、または酸素気流中で行うことがより好ましい。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことがさらに好ましい。
【0078】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、酸化性雰囲気中で混合物を焼成できる炉であればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0079】
焼成工程によって得られた正極活物質は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよい。
【0080】
ここで、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0081】
また、焼成工程の前に、仮焼成を実施することが好ましい。
【0082】
仮焼成を実施する場合、仮焼成温度は特に限定されないが、焼成工程における焼成温度より低い温度とすることができる。仮焼成温度は、例えば250℃以上600℃以下することが好ましく、350℃以上550℃以下とすることがより好ましい。
【0083】
仮焼成時間、すなわち上記仮焼成温度での保持時間は、例えば1時間以上10時間以下程度とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることがより好ましい。
【0084】
仮焼成後は、一旦冷却した後焼成工程に供することもできるが、仮焼成温度から、焼成温度まで昇温して連続して焼成工程を実施することもできる。
【0085】
なお、仮焼成を実施する際の雰囲気は特に限定されないが、例えば焼成工程と同様の雰囲気とすることができる。
【0086】
仮焼成を実施することにより、ニッケル複合酸化物へのリチウムの拡散が十分に行われ、特に均一な正極活物質を得ることができる。
(水洗工程)
焼成工程により得られた焼成物を水洗する水洗工程を実施することができる。水洗工程では、例えば得られた焼成物を純水に投入してスラリーとし、所定時間撹拌した後、水と分離することができ、例えば質量比で水1に対し正極活物質が0.5以上2以下となるように秤量し、該正極活物質を純水に投入してスラリーとし、5分以上60分以下の間撹拌した後、濾過、乾燥することができる。
[非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
【0087】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質を正極材料として用いた正極を有することができる。
【0088】
まず、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造の構成例を説明する。
【0089】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、正極材料に既述の正極活物質を用いたこと以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えることができる。
【0090】
具体的には、本実施形態の非水系電解質二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有することができる。
【0091】
より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させることができる。そして、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉した構造を有することができる。
【0092】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、またその外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0093】
各部材の構成例について以下に説明する。
(正極)
まず正極について説明する。
【0094】
正極は、シート状の部材であり、例えば、既述の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成できる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。例えば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0095】
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加、混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている既述の正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
【0096】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0097】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種以上を用いることができる。
【0098】
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0099】
溶剤は、結着剤を溶解して正極活物質、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0100】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般の非水系電解質二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
(負極)
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。
【0101】
負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0102】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることができる。
【0103】
負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0104】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種以上を用いることができる。
【0105】
係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解液を保持する機能を有している。
【0106】
セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0107】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0108】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0109】
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0110】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質を正極材料として用いた正極を備えている。このため、電池特性や、安全性が優れた非水系電解質二次電池とすることができる。
【実施例
【0111】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(ニッケル複合酸化物の製造)
以下の手順により、ニッケル複合酸化物を製造した。
【0112】
ニッケル複合水酸化物としてNi0.869Co0.094Al0.037(OH)を用意し、係るニッケル複合水酸化物を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、645℃の第1焙焼温度で0.5時間の焙焼を行った(第1焙焼ステップ)後、600℃の第2焙焼温度まで降温して1時間の焙焼を行った(第2焙焼ステップ)(焙焼工程)。
【0113】
このように、ニッケル複合水酸化物を焙焼することで、ニッケル複合水酸化物に含まれていた水分を除去し、Ni0.869Co0.094Al0.037Oで表されるニッケル複合酸化物に転化して回収した。
【0114】
なお、得られたニッケル複合酸化物について、XPS(ULVAC phi社製 型式:Versa Prove II)により、測定条件(Exciting source:Monochromated Al-Kα、Tilt Angle:45°)において粒子表面における、各成分の含有量(物質量)を評価し、金属元素(Ni、Co、Al)中のAlの割合(Al/(Ni+Co+Al))を算出したところ7.3at%であることが確認できた。
【0115】
また、XPSによる測定結果から、ニッケル複合酸化物の粒子表面における酸素の含有割合を算出したところ47at%であることが確認できた。
【0116】
表1中では「ニッケル複合酸化物の評価結果」に得られたニッケル複合酸化物の粒子の表面についての評価結果、すなわち金属元素中のAlの割合、及び酸素含有割有を示している。
(正極活物質の製造)
以下の手順により、リチウム化合物と、上述のニッケル複合酸化物との混合物を調製した(混合工程)。
【0117】
リチウム化合物としては、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)を真空乾燥による無水化処理に供し、得られた無水水酸化リチウムを用いた。
【0118】
混合工程では、リチウム化合物と、ニッケル複合酸化物とを、混合物中の原子数の比がLi/Meが1.025となるように秤量、混合して混合物を調製した。なお、ここでのMeはLi以外の金属の合計の原子数を意味しており、Ni、Co、Alの合計となる。
【0119】
混合工程で得られた混合物を内寸が280mm(L)×280mm(W)×90mm(H)の焼成容器に装入し、これを連続式の焼成炉であるローラーハースキルンを用いて、酸素濃度80容量%、残部が窒素である雰囲気中で、最高温度を765℃として焼成を行った(焼成工程)。なお、焼成工程で得られた正極活物質の一部を採取し、後述するICP-AESにより正極活物質中のニッケル、及びアルミニウムの含有割合(wt%)を評価した。
【0120】
さらに得られた焼成物を、質量比で水1に対し0.75となるように、純水に投入してスラリーとし、30分間の撹拌後、濾過、乾燥して正極活物質を得た(水洗工程)。
【0121】
水洗後に得られた正極活物質中のニッケル、及びアルミニウムの含有割合(wt%)をICP-AES(島津製作所製 型式:ICPE-9000)を用いて評価した。
【0122】
水洗前後の正極活物質中のニッケルと、アルミニウムとの含有割合(Al/Ni)の変化から仕込み組成に対するアルミニウムの維持率を算出した。なお、仕込み組成に対するアルミニウムの維持率は、表1中では「アルミニウム維持率」として示している。
【0123】
結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
[実施例2]
ニッケル複合酸化物を製造する際の焙焼工程において、ニッケル複合水酸化物を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、745℃の第1焙焼温度で0.5時間の焙焼を行った(第1焙焼ステップ)後、700℃の第2焙焼温度まで降温して1時間の焙焼を行った(第2焙焼ステップ)点以外は、実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物を製造、評価した。
【0125】
本実施例においては、ニッケル複合水酸化物を焙焼することで、ニッケル複合水酸化物に含まれていた水分を除去し、Ni0.869Co0.094Al0.037Oで表されるニッケル複合酸化物に転化して回収した。
【0126】
そして、得られたニッケル複合酸化物を用いて、実施例1の場合と同様にして、正極活物質の製造、評価を行った。
【0127】
結果を表1に示す。
[実施例3]
ニッケル複合水酸化物としてNi0.82Co0.15Al0.03(OH)を用いた以外は実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物を製造、評価した。
【0128】
本実施例においては、ニッケル複合水酸化物を焙焼することで、ニッケル複合水酸化物に含まれていた水分を除去し、Ni0.82Co0.15Al0.03Oで表されるニッケル複合酸化物に転化して回収した。
【0129】
そして、得られたニッケル複合酸化物を用いて、実施例1の場合と同様にして、正極活物質の製造、評価を行った。
【0130】
結果を表1に示す。
[実施例4]
ニッケル複合水酸化物としてNi0.91Co0.06Al0.03(OH)を用いた以外は実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物を製造、評価した。
【0131】
本実施例においては、ニッケル複合水酸化物を焙焼することで、ニッケル複合水酸化物に含まれていた水分を除去し、Ni0.91Co0.06Al0.03Oで表されるニッケル複合酸化物に転化して回収した。
【0132】
そして、得られたニッケル複合酸化物を用いて、実施例1の場合と同様にして、正極活物質の製造、評価を行った。
【0133】
結果を表1に示す。
[比較例1]
ニッケル複合酸化物を製造する際の焙焼工程において、ニッケル複合水酸化物を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、795℃の第1焙焼温度で0.5時間の焙焼(第1焙焼ステップ)を行った後、750℃の第2焙焼温度まで降温して1時間の焙焼を行った(第2焙焼ステップ)点以外は、実施例1と同様にしてニッケル複合酸化物を製造、評価した。
【0134】
本比較例においては、ニッケル複合水酸化物を焙焼することで、ニッケル複合水酸化物に含まれていた水分を除去し、Ni0.869Co0.094Al0.037Oで表されるニッケル複合酸化物に転化して回収した。
【0135】
そして、得られたニッケル複合酸化物を用いて、実施例1の場合と同様にして、正極活物質の製造、評価を行った。
【0136】
結果を表1に示す。
【0137】
表1に示したように、実施例1~4においては、ニッケル複合酸化物表面における、金属元素に対するAlの割合が11.5at%以下であるニッケル複合酸化物が得られていることが確認できた。
【0138】
そして、係るニッケル複合酸化物を用いて正極活物質を製造した場合、水洗前後でのアルミニウムの溶出は抑制されており、アルミニウムの維持率が90%以上になることが確認できた。すなわち正極活物質中のアルミニウムの含有量は、仕込み組成とほぼ同等になることが確認できた。
【0139】
一方比較例1においては、ニッケル複合酸化物の表面における、金属元素に対するAlの割合が11.9at%と、実施例1~4と比較して高くなることが確認できた。
【0140】
そして、係るニッケル複合酸化物を用いて正極活物質を製造した場合、水洗前後でのアルミニウムの溶出量は多くなっており、アルミニウムの維持率が90%未満となることが確認できた。すなわち正極活物質中のアルミニウムの含有量が低くなり、仕込み組成を大きく下回ることが確認できた。