IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7031318ダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品
<>
  • 特許-ダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20220301BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20220301BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C08G63/183
B29C45/00
C08G63/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018003577
(22)【出願日】2018-01-12
(65)【公開番号】P2019123775
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】阿武 秀二
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-192452(JP,A)
【文献】特開2004-250485(JP,A)
【文献】特開平02-263827(JP,A)
【文献】特開2001-260295(JP,A)
【文献】特開平5-305667(JP,A)
【文献】国際公開第2008/117694(WO,A1)
【文献】特開2018-024754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/183
B29C 45/00
C08G 63/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分として、テレフタル酸類を85~92mol%、ダイマー酸類を5~8mol%及びイソフタル酸類を3~7mol%含有し、ジオール成分としてエチレングリコールを含有するダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品であって、該成形品の固有粘度が0.50~0.90dl/gであるダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品。
【請求項2】
示差走査熱量計による昇温測定で観察される結晶化発熱エネルギーΔHc1と融解吸熱エネルギーΔHmが下記式(1)~(3)を満たす、請求項1に記載のダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品。
ΔHc1≧20J/g ・・・(1)
ΔHm≧20J/g ・・・(2)
ΔHc1/ΔHm≧0.8・・・(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称することがある)成分をハードセグメントとし、ダイマー酸成分をソフトセグメントとする、ダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下「ダイマー酸共重合PET」と称することがある)の射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイマー酸共重合PETは、耐熱性、透明性、柔軟性に優れる特徴があるため、各種用途に用いられてきた。
例えば、特許文献1では、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを用い、ジオール成分と共重合して得られた共重合ポリエステルの押出成形品よりなる輸液バッグが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-180761公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイマー酸共重合PETは、製造条件によっては、成形品が固くて割れが生じたり、あるいは収縮率が大きい、すなわち寸法安定性に劣るという欠点がある。
例えば、特許文献1の共重合ポリエステルを射出成形に適用した場合、成形品内に歪や応力が残留し、保管環境温度での環境収縮が大きく、寸法安定性が悪いため、本来射出成形品に期待される高精度で安定した寸法の成形品を与えるという目的が達成できないという問題があった。
【0005】
これは、ポリエステル樹脂にダイマー酸を共重合させた場合、柔軟性を付与する一方、樹脂のガラス転移温度が保管環境温度近傍かそれより低くなってしまうため、保管環境温度条件下で応力緩和による歪解消が生じ、この結果、寸法が変化するためと考えられる。また、ガラス転移温度が低いため保管環境温度でも結晶化が進行しやすく、このため、保管中に白化が進行するといった問題も生じていた。
【0006】
このようなことから、従来、ダイマー酸共重合PETを使用した柔軟で透明な成形品は、成形品内部に歪や応力が残留しにくい押出成形による成形品でしか実現し得ず、シートや袋のような単純な形状の成形品は成形できるが、押出成形では成形し得ない微細かつ複雑な形状の成形品を成形することが困難であった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、ダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて、柔軟性を有し、透明性と寸法安定性に優れた射出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、主たるジカルボン酸成分としてテレフタル酸と、特定量のイソフタル酸、及び特定量のダイマー酸を用い、主たるジオール成分としてエチレングリコールを用いたダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品の固有粘度を特定の範囲とすることで、柔軟性と透明性と寸法安定性をすべて満たす成形品となることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] ジカルボン酸成分として、テレフタル酸類を85~92mol%、ダイマー酸類を5~8mol%及びイソフタル酸類を3~7mol%含有し、ジオール成分としてエチレングリコールを含有するダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品であって、該成形品の固有粘度が0.50~0.90dl/gであるダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品。
【0011】
[2] 示差走査熱量計による昇温測定で観察される結晶化発熱エネルギーΔHc1と融解吸熱エネルギーΔHmが下記式(1)~(3)を満たす、請求項1に記載のダイマー酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形品。
ΔHc1≧20J/g ・・・(1)
ΔHm≧20J/g ・・・(2)
ΔHc1/ΔHm≧0.8・・・(3)
【発明の効果】
【0012】
本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品は、柔軟性と透明性と寸法安定性のすべてに優れた成形品であり、寸法安定性が要求される種々の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例における射出成形に用いた金型の説明図であり、(a)図は平面図、(b)図は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0015】
本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸類を85~92mol%、ダイマー酸類を5~8mol%及びイソフタル酸類を3~7mol%含有し、ジオール成分としてエチレングリコールを含有するダイマー酸共重合PETの射出成形品であって、該成形品の固有粘度(IV)が0.50~0.90dl/gであることを特徴とする。
なお、ここで、「ジカルボン酸成分として、テレフタル酸類を85~92mol%、ダイマー酸類を5~8mol%及びイソフタル酸類を3~7mol含有する」とは、「ジカルボン酸成分に由来する構造単位として、テレフタル酸類に由来する構造単位を85~92mol%、ダイマー酸類に由来する構造単位を5~8mol%及びイソフタル酸類に由来する構造単位を3~7mol%含有する」ことを意味する。また、「ジオール成分としてエチレングリコールを含有する」とは、「ジール成分に由来する構造単位としてエチレングリコールに由来する構造単位を含有する」ことを意味する。
以下においても、同様の表現は、同様の内容を意味する。
【0016】
[ダイマー酸共重合PET]
まず、本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品を構成する、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸類を85~92mol%、ダイマー酸類を5~8mol%、及びイソフタル酸類を3~7mol%含有し、ジオール成分としてエチレングリコールを含有するダイマー酸共重合PET(以下、「本発明のダイマー酸共重合PET」と称す場合がある。)について説明する。
【0017】
<ジカルボン酸成分>
本発明のダイマー酸共重合PETを構成するジカルボン酸成分はテレフタル酸類、ダイマー酸類、及びイソフタル酸類である。
【0018】
本発明のダイマー酸共重合PETは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸類を85~92mol%、好ましくは88~91mol%含み、ダイマー酸類を5~8mol%、好ましくは6~8mol%含み、イソフタル酸類を3~7mol%、好ましくは4~6mol%含む。
【0019】
テレフタル酸類としては、テレフタル酸のほか、テレフタル酸の低級アルコールエステル、酸無水物やハロゲン化物等のエステル形成性誘導体を用いることができる。これらのテレフタル酸類は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸成分全体に占めるテレフタル酸類の量が上記下限未満であると得られる射出成形品の耐熱性が劣る傾向にあり、上記上限を超えると柔軟性が損なわれる傾向にある。
【0020】
ダイマー酸類とは、炭素数16以上の不飽和脂肪族カルボン酸の二量体又はその水添物をいい、これらのエステル形成性誘導体であってもよい。ダイマー酸類は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ジカルボン酸成分全体に占めるダイマー酸類の量が上記下限未満であると、柔軟性が低下する傾向があり、上記上限を超えると、環境収縮により寸法安定性が低下する場合がある。
【0021】
ダイマー酸類は、例えば、大豆油や菜種油、牛脂、トール油などの非石油原料から抽出された炭素数16以上の不飽和カルボン酸(例えば、リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪族カルボン酸)の混合物を二量体化又はそれを水添して得ることができる。このような製法を用いてダイマー酸を得ると、不純物として、過剰に反応した三量体、未反応物である不飽和脂肪族カルボン酸が含有される。該不純物はダイマー酸共重合PETにおいてはブリードアウトやゲル化の原因となるため、可能な限り少ないことが好ましい。また、未反応物である不飽和脂肪族カルボン酸を含むものをそのまま原料として使用すると、重合中にその不飽和結合に起因して分岐反応が進行することによるゲル化を生じることや、得られるダイマー酸共重合PETの色調を悪化させる可能性があることから、未反応物の不飽和脂肪族カルボン酸は水添により飽和脂肪族カルボン酸に変換してから用いることが好ましい。
【0022】
イソフタル酸類としては、イソフタル酸のほか、イソフタル酸の低級アルコールエステル、酸無水物やハロゲン化物等のエステル形成性誘導体を用いることができる。これらのイソフタル酸類は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸成分全体に占めるイソフタル酸類の量が上記下限未満であると得られる射出成形品の透明性が低下する傾向にあり、上記上限を超えると耐熱性や機械物性が損なわれる傾向にある。
【0023】
本発明のダイマー酸共重合PETは、本発明の効果を妨げない範囲において、例えば、ジカルボン酸成分全体に対して7mol%以下、特に5mol%以下の範囲で、テレフタル酸類、イソフタル酸類及びダイマー酸類以外の他のジカルボン酸類を含んでいてもよい。他のジカルボン酸類としては例えば、オルトフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにこれらの炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステル、及びハロゲン化物等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0024】
なお、本発明のダイマー酸共重合PETのジカルボン酸成分を構成する各ジカルボン酸類はH-NMRスペクトルを測定することにより定量することができる。
【0025】
<ジオール成分>
本発明のダイマー酸共重合PETは、ジオール成分としてエチレングリコールを含む。
エチレングリコールは全ジオール成分に対し、95~98mol%含まれていることが好ましく、96~98mol%含まれていることがより好ましい。エチレングリコールの含有量が上記範囲であることより、熱安定性に優れたダイマー酸共重合PETとなる可能性がある。
【0026】
本発明のダイマー酸共重合PETは、エチレングリコール以外のジオール成分として、通常、ダイマー酸共重合PET製造工程において副生するジエチレングリコールが含まれる。ジエチレングリコールの副生量は、通常全ジオール成分に対し1~3mol%程度であるが、副生量は製造条件などにより変動する。そのため重合工程においてジエチレングリコールを追加添加することなどにより、ジエチレングリコール量を以下の好適範囲に調整することが好ましい。即ち、ジエチレングリコール量は全ジオール成分に対し2~5mol%が好ましく、2~4mol%がより好ましい。ジエチレングリコール量が多すぎると得られるダイマー酸共重合PETの熱安定性が悪くなる場合がある。一方、ジエチレングリコール量が少なすぎると透明性が悪化する傾向にある。ジエチレングリコール量が上記範囲であることより、ダイマー酸共重合PETの熱安定性が良好となり、透明性が向上する傾向にある。
【0027】
ジエチレングリコール量を制御する方法は、まず、ダイマー酸共重合PET製造時に原料として使用するジエチレングリコール量を調整する方法が挙げられる。
また、ジエチレングリコール量は、ダイマー酸共重合PETの製造時に原料として使用するエチレングリコール2分子が脱水結合することで生成する場合もある。その制御方法としては、例えば、原料として使用するジカルボン酸成分に対する原料として使用するエチレングリコールを含むジオール成分の仕込みモル比を上げるとエチレングリコールの2分子化は促進されジエチレングリコール量は増加する傾向となる場合がある。又は水酸化ナトリウム等の金属水酸化物やテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等のアルカリ成分存在下でエステル化反応を行うと、エチレングリコールの2分子化が抑制されジエチレングリコール量は低下する傾向となる可能性がある。
【0028】
本発明のダイマー酸共重合PETは、本発明の効果を妨げない範囲において、エチレングリコール、ジエチレングリコール以外の他のジオール成分を含んでいてもよい。他のジオール成分としては例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール、2,5-ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ダイマージオール等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0029】
本発明のダイマー酸共重合PETのジオール成分を構成する各ジオールは、ダイマー酸共重合PETを加水分解した後、分解物をガスクロマトグラフィーにより測定することにより定量することができる。
【0030】
<その他の共重合可能な成分>
本発明のダイマー酸共重合PETは、本発明のダイマー酸共重合PETの特性を妨げない範囲で、上記のジカルボン酸成分及びジオール成分に加えて、更にその他の共重合可能な化合物に由来する成分を含んでもよい。その他の共重合可能な化合物としては、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸や、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能カルボン酸;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸等の三官能以上の多官能カルボン酸;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能アルコール;等が挙げられる。これらのその他の共重合可能な成分は、単独でも2種以上用いてもよい。
【0031】
<ダイマー酸共重合PET>
本発明のダイマー酸共重合PETの製造方法は特に制限されるものではなく、通常の方法を適用することができる。例えば、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体、イソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール、好ましくは更にジエチレングリコールを含むジオール成分とを、所定割合で攪拌下に混合して原料スラリーとする工程、次いで、該原料スラリーを常圧又は加圧下で加熱して、エステル化反応させポリエステル低重合体(以下「オリゴマー」と称する場合がある。)とする工程、次いで、得られたオリゴマーにダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体を添加し、エステル交換触媒等の存在下に、漸次減圧するとともに加熱して、溶融重縮合反応させダイマー酸共重合PETを得る工程を経て製造することができる。また、この溶融重縮合反応工程後に、必要に応じて得られたダイマー酸共重合PETを更に固相重縮合反応に供してもよい。
【0032】
尚、ダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体は、上記のようにオリゴマーに添加する方法の他、原料スラリーに添加する方法であってもよい。
【0033】
エステル交換触媒としては、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等のチタン化合物;ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等のスズ化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物等が挙げられる。中でも、反応効率や重合後のポリマー色調などより、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、マグネシウム化合物が好ましい。尚、これらの触媒は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0034】
また、ダイマー酸共重合PETの製造時、エステル交換触媒と共に安定剤を併用することが好ましく、安定剤としては、正リン酸、ポリリン酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の5価のリン化合物、亜リン酸、次亜リン酸、及びジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価のリン化合物等が挙げられる。これらのうち、3価のリン化合物は5価のリン化合物よりも一般に還元性が強く、重縮合触媒として添加した金属化合物が還元されて析出し、異物を発生する原因となる場合があるので、5価のリン化合物の方が好ましい。
【0035】
該溶融重縮合反応における反応圧力は絶対圧力で0.001kPa~1.33kPaであることが好ましい。また、反応温度としては、220℃~280℃であることが好ましく、230℃~260℃であることがより好ましい。
【0036】
前記溶融重縮合工程により得られるポリマーは、通常、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出した後、該ストランド状のプレポリマーを水冷しながら、または水冷後、カッターで切断してペレット状又はチップ状等の粒状体(以下、「ペレット」と称す。)とすることが好ましい。
【0037】
また、上記のようにして得られる溶融重縮合樹脂に対して、固相重縮合前に剪断処理を施すことによってペレット表面を粗面化することが好ましい。剪断処理の方法としては、特に制限は無く、公知の剪断処理装置を用いて行うことができる。一般的には、振とう機、精米機、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダーなどを用いて、樹脂ペレット同士が互いにこすれあうように樹脂ペレットを攪拌することにより実施される。本発明における該剪断処理の温度(T)は該プレポリマーのガラス移転温度(Tg)以上の温度であることが好ましい。又、該剪断処理の温度(T)のより好ましい範囲は、下記式(4)を満たす範囲内である。
Tg ≦ T ≦ Tg+30℃ ・・・(4)
【0038】
該剪断処理の温度(T)を前記範囲内とすることにより、該剪断処理された溶融重縮合品を固相重縮合工程に供した場合、ペレット同士の融着による固着などが生じにくくペレット形状のまま良好な流動性を有することができるため、安定した固相重縮合処理を行うことができる。尚、剪断処理の温度(T)とは、該剪断処理装置により、剪断処理を実施しているときの該剪断処理装置内の最高温度のことである。
【0039】
更に、前述の剪断処理された溶融重縮合ペレットを結晶化工程を経た後固相重縮合工程で処理することにより、溶融重縮合ペレットの結晶化度を高めると共に分子量を高め本発明に好適なダイマー酸共重合PETペレットとすることができる。この結晶化工程や固相重縮合工程では、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、大気圧に対する相対圧力として、通常100kPa以下、好ましくは20kPa以下の加圧下で通常1時間~100時間程度処理するか、或いは、絶対圧力として、上限は通常6.5kPa、好ましくは1.3kPa、下限は通常0.013kPa、好ましくは0.065kPaの減圧下で通常1時間~100時間程度処理することで、結晶化促進と固相での分子量増加を促進させる。ここで結晶化処理のためのペレット温度は、通常、ガラス転移温度(Tg)+30℃~ガラス転移温度(Tg)+130℃の範囲が好ましい。結晶化処理のための温度が低すぎると結晶化の進行が遅いためペレットの結晶化度が低くなり、次工程の固相重縮合工程でペレット同士の融着による固着が生じペレット形状での流動性が損なわれ閉塞や偏析の原因となる。また、結晶化処理のための温度が高すぎても、結晶化工程でのペレット同士の融着による固着が生じペレット形状での流動性が損なわれ閉塞や偏析の原因となる。
【0040】
固相重縮合は、通常、ポリマーの融点-50℃~融点-20℃の範囲、具体的には180~220℃で、5時間~100時間程度実施される。固相重縮合のための温度が低すぎると、固相重縮合の進行が遅くなり分子量増加が遅くなるため上記反応時間内で固相重縮合を終わらせることが困難となる場合がある。固相重縮合のための温度が高すぎると固相重縮合処理中にペレット表面の融解が生じペレット同士の融着による固着が生じてペレット形状での流動性が損なわれ閉塞や偏析の原因となる。
【0041】
前述の溶融重縮合又は固相重縮合後は、得られたポリエステルに含まれるエステル交換触媒を失活させるための処理を行うことができる。エステル交換触媒を失活させるための処理としては、40℃以上の温水に10分以上浸漬させる水処理、60℃以上の水蒸気又は水蒸気含有ガスに30分以上接触させる水蒸気処理、有機溶剤による処理、各種鉱酸、有機酸、燐酸、亜燐酸、燐酸エステル等の酸性水溶液若しくは有機溶剤溶液による処理、或いは、周期表第1A族金属化合物、第2A族金属化合物、アミン等のアルカリ性水溶液若しくは有機溶剤溶液による処理等が一般に行われる。
【0042】
前述の好適な溶融重縮合反応条件、固相重縮合反応条件、その他の処理を行うことで、射出成形品としての固有粘度を本発明の規定範囲内とすることができる、所望の固有粘度を有するダイマー酸共重合PETとすることが可能となる。
【0043】
本発明のダイマー酸共重合PETは、その用途に応じて更に結晶核剤、酸化防止剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、無機及び/又は有機粒子等を配合することができる。
【0044】
[射出成形品]
本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品は、上記のような本発明のダイマー酸共重合PETを射出成形することにより得られる。
【0045】
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、通常楕円柱状のペレット形状であるが、粉状や粉砕品などの不定形フレークなどである場合もある。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、水分を含有したまま溶融させると水分による加水分解により分子鎖が切断され分子量が低下し固有粘度が低下する。そのため、本発明のダイマー酸共重合PETのペレットは、含有される水分を除去するための乾燥処理を行った後に射出成形に供することが好ましい。通常、射出成形に供される本発明のダイマー酸共重合PET中の水分量は50質量ppm以下が好ましい。ペレットの乾燥方法は特に限定されるものではないが、真空乾燥や加熱除湿ガス流通での乾燥や熱風流通での乾燥やマイクロ波加熱による乾燥などが用いられる。中でも、除湿空気を加熱してペレット表面に流通させて乾燥させる方法が経済的かつ効率的であり、多く採用されている。
【0046】
射出成形では、このように乾燥されたペレットを射出成形機に供し、加熱された筒(シリンダー)内のスクリューが回転することにより熱とせん断圧力とで樹脂を溶融させ金型内に充填し冷却固化させた後、金型より取り出して成形品を得る。射出成形に用いる射出成形機としては、特に限定されるものではないが、樹脂溶融と金型内への充填を1本のスクリューで行うインラインスクリュー型射出成形機やスクリューによる樹脂溶融後別のシリンダーに溶融樹脂を移送しそこから金型内へ充填するプランジャー型射出成形機などが一般的に用いられている。中でもインラインスクリュー型射出成形機が経済的であり多く用いられる。
【0047】
本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品の固有粘度(IV)は、0.50~0.90dl/gであり、好ましくは0.52~0.88dl/gである。射出成形品のIVが低すぎると耐衝撃性など機械物性に劣る場合がある。一方、IVが高すぎると環境収縮による寸法安定性が低下する。
【0048】
ポリエチレンテレフタレート製射出成形品の固有粘度(IV)は、射出成形に供した樹脂のIVだけでなく、樹脂の乾燥条件や射出成形条件によって影響を受ける。即ち、溶融重縮合あるいは固相重縮合を経てペレット状で得られたポリエチレンテレフタレート樹脂は、乾燥時や射出成形時の熱履歴によりIVが変化する。乾燥時は、乾燥温度と乾燥時間およびガス流通下乾燥の場合はガス中の酸素濃度や水分量に影響を受ける。真空乾燥の場合は、乾燥により樹脂IVが影響を受けず十分に乾燥できる温度と時間が用いられる。温度として120℃~160℃程度で時間は数時間~1日程度である。120℃より低い場合は乾燥効率が悪くなるためより長時間の加熱が必要となり、160℃より高い場合は固相重縮合反応が進むため樹脂IVが高くなる可能性がある。ガス流通下での乾燥の場合、通常温度として120℃~180℃程度、時間は3~12時間程度で乾燥されるが、ガス中の酸素濃度や水分量により、乾燥と同時に酸化分解や加水分解により分子鎖が切断されIV低下を生じる場合がある。射出成形時は、樹脂が溶融されてから金型内で冷却固化されるまでにシリンダー内などで溶融状態で待機されている間の温度と時間で熱分解が生じ分子鎖切断によるIV低下が生じる。また、射出成形に供された樹脂の水分量が多い場合溶融された樹脂が加水分解により分子鎖が切断されIVが低下する。
【0049】
このように、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて射出成形により成形品を得る場合、原料樹脂のIVは乾燥工程において高くなる場合と低くなる場合がある。また、射出成形工程においては樹脂のIVは低下する。これらより、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた射出成形時は、原料樹脂ペレットのIVだけで射出成形品のIVを決定することが困難であり、乾燥や射出成形を経た成形品のIVを確認することが重要となる。
【0050】
なお、本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品の固有粘度(IV)は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0051】
本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品は、示差走査熱量計(DSC)での昇温測定で観察される結晶化発熱エネルギーΔHc1と融解吸熱エネルギーΔHmが下記式(1)~(3)を満たし、より好ましくは下記式(1’)~(3’)を満たす。
ΔHc1≧20J/g ・・・(1)
ΔHm≧20J/g ・・・(2)
ΔHc1/ΔHm≧0.8・・・(3)
50J/g≧ΔHc1≧20J/g・・・(1’)
50J/g≧ΔHm≧20J/g ・・・(2’)
1.0≧ΔHc1/ΔHm≧0.8 ・・・(3’)
【0052】
本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品は、透明の成形品であるが、ΔHc1に示される通り加熱することにより結晶化する結晶性を有している。結晶性を有しているため微細な結晶の存在により結晶性を有していない成形品より耐薬品性などに優れる。ΔHc1とΔHmが20J/g未満である場合は結晶性に乏しく耐薬品性に劣る場合があり、ΔHc1/ΔHmが0.8未満の場合は加熱前の成形品で結晶化が進んでいることとなり透明性に劣る場合がある。ただし、ΔHc1は、通常50J/g以下であり、ΔHmは通常50J/g以下であり、ΔHc1/ΔHmは上記の通り0.8~1.0であることが好ましい。
【0053】
射出成形が他の成形方法より寸法安定性に優れる理由として、溶融樹脂が金型内に高圧力で充填された後冷却固化されるため、金型の微細な形状を再現できることにある。しかしながら、射出成形品全体の寸法は以下の要因で変動する可能性がある。
【0054】
射出成形では、加熱されたシリンダー内部に設置されたスクリューを回転させ熱とせん断圧力で樹脂を溶融させ、スクリューに高圧力を加え溶融された樹脂を金型内に射出(充填)した後、金型内で冷却固化させることで射出成形品が得られる。溶融樹脂が金型内に射出される際、溶融樹脂は金型表面に触れ冷却されながら充填されるため、成形品表面と内部の冷却状態に差が生じ歪や応力を残したまま冷却固化される。成形品の寸法は金型の設計寸法より成形時や保管時の収縮などによる寸法変化を加味したものである。成形時の寸法変化は、溶融樹脂が金型内で冷却固化する際の体積差(体積収縮)による寸法変化であり、保管時の寸法変化は、金型から取り出された成形品が保管環境において成形品内部に残留している応力や歪が緩和される際の寸法変化である。一般的に、前者の寸法変化は「成形時収縮」又は「成形収縮」と称され、後者の寸法変化は「環境収縮」又は「後収縮」と称される。
【0055】
成形時収縮は、溶融樹脂密度と冷却固化後の固体密度との差より生じる体積収縮に依存し、溶融樹脂温度と金型内への溶融樹脂充填速度・溶融樹脂温度低下による体積収縮を補充するため溶融樹脂に加えている圧力(保圧)・金型温度等の成形条件に影響を受ける。それ以上に、金型内冷却固化過程での結晶化進行による体積収縮の影響を受ける。これは、金型内冷却固化過程において固化した成形品そのものの熱により成形品内部からの結晶化進行に伴う体積収縮であり、結晶化による体積収縮は溶融樹脂が固化する際の収縮よりも大きいため、結晶化が進行しない場合より体積収縮が大きくなる。結晶化が進むほど高密度となり体積が収縮するが、結晶化の度合いは樹脂や成形条件・金型内での冷却状態に影響を受ける。そのため金型内で結晶化が進行する場合は、収縮量が変動し射出成形品の寸法変動も大きくなる。これらより、成形時収縮を抑えるためには、金型内冷却固化過程で結晶化が進行しない材料が好ましいとされる。
【0056】
環境収縮は、射出成形時溶融樹脂が金型内に充填される際や冷却固化中に、金型表面で急冷される樹脂と内部を流動する樹脂との流動状態の差に起因する歪や応力が生じた状態で固化することにより、この歪や応力が成形品内部に残留し、金型から取り出された後、保管環境温度で応力緩和により歪が解消されることにより寸法変化が生じることで起こる。結晶化していない樹脂或いは非晶性樹脂による成形品において、保管環境温度が樹脂のガラス転移温度より十分に低い場合は、成形品内の樹脂分子鎖は動くことができないため応力緩和されず寸法変化は生じにくい。保管環境温度が樹脂のガラス転移温度近傍やそれより高い場合には、成形品内の樹脂分子鎖は動くことができるため応力緩和による歪解消が生じ寸法が変化する。一方、結晶化が進んだ成形品では、保管環境温度が樹脂のガラス転移温度近傍やそれより高い場合、結晶化領域では樹脂分子鎖が緻密に折りたたまれた状態になっているため応力緩和などによっても容易に動くことができないため寸法変化は生じにくいが、結晶化していない領域では応力緩和により歪が解消されることにより寸法変化が生じ易く、この結晶化していない領域での寸法変化により成形品の反りなどの変形を生じやすい。
【0057】
通常のポリエチレンテレフタレート樹脂は、結晶性を有する樹脂であるが結晶化が適度に遅いため射出成形により透明な成形品を得ることが可能である。硬質のポリエチレンテレフタレート樹脂は、ガラス転移温度が常温の保管環境温度よりも高いため環境収縮が小さく、衛生性・透明性・寸法安定性・バランスの良い機械物性を有する射出成形品を得ることができるためガラス用途の代替品等として用いられてきた。
【0058】
一方、本発明のダイマー酸共重合PETのように、ダイマー酸成分を共重合させたダイマー酸共重合PETは柔軟性に優れるものであるが、このダイマー酸成分に由来して寸法安定性に劣るものであった。本発明では、射出成形品の固有粘度(IV)、更にはΔHc1とΔHmを特定範囲とすることで、この寸法安定性を向上させた。
【実施例
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[評価・測定方法]
以下において、得られた樹脂や成形品の物性や特性は、以下の方法に従って評価・測定した。
【0061】
<固有粘度(IV)>
試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒約25mlに、濃度が1.00g/dlとなるように溶解させた後、30℃まで冷却し、30℃において全自動溶液粘度計(センテック社製、「DT553」)にて、試料溶液の落下速度、溶媒のみの落下秒数それぞれを測定し、以下の式により、固有粘度(IV)を算出した。
IV=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)
ここで、ηsp=η/η-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、ηは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。
なお、試料の溶解条件は、固相重縮合品では120℃で30分間とし、射出成形品では110℃で30分間とした。固相重縮合品は、SPEX社製凍結粉砕機6750を用い液体窒素中にてRATE10で2分間以上粉砕した試料を用いて溶解させた。射出成形品は成形品の端よりニッパーでペレットサイズに切り出したサンプルを用いて溶解させた。
【0062】
<ポリチレンテレフタレート中の各ジオール成分の定量>
ウィレー型粉砕機にて、1.5mm穴の目皿を用いて粉砕したポリチレンテレフタレート中3gに、4N-KOH/メタノール溶液30mlを加えて還流冷却器をセットし、マグネチックスターラ付きホットプレート(表面温度200℃)上で攪拌しながら、90分間加熱還流し加水分解した。流水につけて冷却後、高純度テレフタル酸約12gを加えて、十分振とうして中和し、pHを9以下としたスラリーを、11G-4グラスフィルターを用いて濾過した後、メタノール2mlで2回洗浄して濾液と洗液を合わせ、ガスクロマトグラフィーへの供試液とした。供試液1μlをマイクロシリンジにて、(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィー(形式GC-14A)に注入し、各ジオール成分のピークの面積から、全ジオール成分に対する各ジオール成分のモル%を、下式に従い計算した。
特定のジオール成分のモル%=(ACO×CfCO)/(Σ(A×Cf))×100
CO:特定のジオール成分の面積(μV・秒)
CfCO:特定のジオール成分の補正係数
A:各ジオール成分の面積(μV・秒)
Cf:各ジオール成分の補正係数
なお、ガスクロマトグラフィーの使用条件は、以下の通りとした。
カラム:J&W社製「DB-WAX」(0.53mm×30m)
カラム温度:80℃~160℃
気化室温度:230℃
検出器温度:230℃
ガス流量:キャリア(窒素):10ml/min
水素:0.5kg/cm
空気:0.5kg/cm
検出器:FID
感度:10MΩ
【0063】
<ポリエチレンテレフタレート中の各ジカルボン酸の定量>
ポリエチレンテレフタレート約20mgを重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール(7/3)混合溶媒0.75mlに溶解させ、重ピリジン25μlを添加して試料溶液とした。該試料溶液を外径5mmのNMR試料管に入れ、Bruker社製AVANCE400分光計を用い、室温でH-NMRスペクトルを測定し、ポリエチレンテレフタレート中の全ジカルボン酸成分のうちの各ジカルボン酸成分の割合を求めた。
【0064】
<成形板の射出成形>
ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを真空乾燥機にて水分量が50質量ppm以下になるよう乾燥した。乾燥条件としては、乾燥機内にペレットの深さが50mm以下になるように敷き詰めたステンレス製のバットを入れ、温度145℃で12時間以上乾燥した。乾燥されたポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットを用い、日精樹脂工業(株)製射出成形機「FE-80S」により、図1に示す金型(スプルー部、ランナー部、湯溜まり部、ゲート部と製品部(厚さ2.0mm、樹脂流動方向の長さ110mm、樹脂流動方向に対し直交する方向の幅110mm))で射出成形品を得た。成形板の金型固定盤側にはスプルーが配置され、スプルー部は、長さ45mmで射出成形機ノズルと接する側のスプルー径は直径2mmでランナー側は直径10mmである。ランナーは厚さ3mmでスプルー側を頂点としたゲート側底辺長さが105mmで高さが23mmの二等辺三角形であり、スプルー中心は底辺中央より頂点側15mmの位置に配される。ランナー部のスプルー位置金型可動盤側には鍵型の離形用Zピンが配置されている。湯溜まり部はランナー部の底辺より厚さ7mmで樹脂流動方向に6mm配置される。ゲート部は厚さ0.8mmで樹脂流れ方向に2mm、樹脂流れと直交する方向に100mm配置される。製品部の固定盤側金型表面四隅に「+」の刻印が90mm間隔で打たれ、成形板表面に微細な「+」の突起を形成させる。射出成形機の設定条件としては、シリンダー各部とノズルヘッド部の温度を280℃に設定し、スクリュー回転数を100rpm、射出時間を25秒、冷却時間を40秒、スクリュー計量ストロークを50.0mm、スクリュー背圧を10kgf/cm(油圧ゲージ圧)で設定し、射出時間の内金型内への充填時間が1.0秒となるように射出圧力と射出速度を調整した。また保圧終了時のクッション量が4mm程度になるように保圧の圧力と速度を調整した。金型には20℃のチラー水を流した。成形サイクルは68秒程度であった。
【0065】
<成形品収縮率>
射出成形後、当日中に成形板表面の「+」刻印痕の間隔長さを測定した。長さ測定は、キーエンス社製高精度形状測定システム「KS-1100」を用い刻印痕の平面座標を計測した。刻印痕の拡大はKS-1100に取り付けたキーエンス社製レーザー測定器LT-9000シリーズを用いた。間隔長さは、樹脂流れ方向2か所で測定し、加重平均値を刻印痕間隔長さとした。
計測後の成形板を、40℃の熱風循環オーブン内に水平を保つよう保管し、7日間保管後、再度刻印痕の間隔長さを計測した。
成形品の収縮率は、7日間保管前後での差を保管前の刻印痕間隔長さで割った値を百分率で表し成形品収縮率とした。
寸法安定性の観点から、成形品収縮率は5.0%以下で小さい程好ましい。
【0066】
<曲げ弾性率>
前述の射出成形板より以下の試験片を切り出し、(株)東洋精機製作所製曲げ試験機「ベンドグラフII 型式:B」を用いて以下の条件で曲げ弾性率を測定した。
試験方法:JIS K7171
ロードセル:2kN
試験速度:2mm/min
試験片:80mm×10mm×2mm
支点間距離:64mm
圧子:5R
支持台:5R
弾性率算出:P1=0.05%、P2=0.25%
柔軟性の観点から、曲げ弾性率は、1800MPa以下で小さい程好ましい。
【0067】
<ヘーズ>
前述の射出成形板より以下の試験片を切り出して、以下のヘーズメーターでヘーズを測定した。
試験片:厚み2mmt50mm×110mm
ヘーズメーター:日本電色工業社製「NDH-300A」
透明性の観点から、ヘーズは4%以下で小さい程好ましい。
【0068】
<昇温時結晶化発熱エネルギーΔHc1と昇温時融解吸熱エネルギーΔHm>
射出成形板の製品部より剪定鋏とカッターナイフを用いてΔHc1とΔHm測定用サンプルを切り出した。金型表面に触れていた成形板の表層はカッターナイフで切り落とし、測定用サンプル10±1mgを、SII製アルミオープンパン内に入れた後、SII製DSC6220にて測定を実施した。測定条件としては、窒素を25ml/分流通させた炉の中で20℃から285℃まで20℃/minで昇温し、この昇温時の結晶化発熱ピークエネルギーをΔHc1(J/g)、融解吸熱エネルギーをΔHm(J/g)とした。各エネルギー解析は、DSC曲線においてそれぞれのピークがベースから立ち上がりベースラインに戻るまでの始点と終点とを結んだ直線とそれぞれのピークで囲まれる部分の面積より解析した。
【0069】
<実施例1>
テレフタル酸50.0質量部、イソフタル酸2.60質量部およびエチレングリコール53.6質量部を攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル化反応槽に仕込み、温度250℃、圧力0.90kg/cmにてエステル化反応を4時間行った。
次に、該エステル化反応槽にテレフタル酸33.3質量部、イソフタル酸1.89質量部及びエチレングリコール16.9質量部で調製したスラリーをエステル化反応槽に仕込み、温度250℃、常圧下で4時間エステル化反応を行ない、ポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
次いで、該オリゴマーを、留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽へ移送し、炭素数36の水添ダイマー酸(クローダジャパン製Pripol1009)を8.9質量部添加し、さらにエステル交換触媒として、酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液(3.0重量%濃度)を0.15質量部、テトラブトキシチタネートのエチレングリコール溶液(1.0重量%濃度)を0.36質量部、安定剤としてエチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液(1.5重量%濃度)を0.15質量部添加した。
【0070】
該重縮合反応槽内温度を250℃に保ちながら、2時間かけて圧力を0.13kPaに減圧し、次いで、同圧力にて3時間反応を行い、反応系を常圧に戻し反応を終了した。得られたダイマー酸共重合PETを該重縮合反応槽の底部からストランドとして抜き出し、水中を潜らせた後、カッターで該ストランドをカットすることによりダイマー酸共重合PETペレット(以下単に「ペレット」と称す。)を得た。
得られたペレットを内壁に紙ヤスリを巻き付けたポリビン中に充填した。その後、ポリビンを振とう機(TAITEC社製、recipro shaker SR-25)にかけて50℃で剪断処理を行った。
剪断処理後のペレットを120℃、2時間窒素流通下で結晶化処理を行って、ペレットIVが0.53dl/gのペレットを得た。このペレットを用い評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0071】
<実施例2>
実施例1において、120℃、2時間窒素流通下で結晶化処理を行った後、190℃、減圧下(0.133kPa以下)で固相重縮合処理を行い、ペレットIVが0.83dl/gとなるよう調整した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0072】
<実施例3>
実施例2において、固相重縮合処理をペレットIVが0.93dl/gとなるように調整し、成形板を射出成形する際に、ペレット水分量が20質量ppmである乾燥済ペレット2400gとペレット水分量が2000質量ppmである未乾燥ペレット600gとを射出成形直前にペレットブレンドして射出成形に供した以外は実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0073】
<比較例1>
実施例2において、ダイマー酸の添加量を12.7質量部とした以外は実施例2と同様の方法で評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0074】
<比較例2>
実施例2において、固相重縮合処理をペレットIVが0.93dl/gとなるように調整した以外は、実施例2と同様の方法で評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0075】
<比較例3>
比較例1において、ダイマー酸とイソフタル酸を添加せずに溶融重縮合を実施した以外は比較例1と同様に成形評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0076】
<比較例4>
ダイマー酸とイソフタル酸を添加せずに溶融重縮合を実施した後、ペレットIVが0.75dl/gとなるように固相重縮合したダイマー酸及びイソフタル酸を含まない固相重縮合ペレット1200gと比較例1で得られたダイマー酸を10mol%含有する固相重縮合ペレット1800gとをペレットブレンドし、その後真空乾燥し、実施例1と同様に成形評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0077】
<比較例5>
ダイマー酸とイソフタル酸を添加せずに溶融重縮合を実施した後、ペレットIVが0.93dl/gとなるように固相重縮合したダイマー酸及びイソフタル酸を含まない固相重縮合ペレット1200gと比較例1においてペレットIVが0.93dl/gとなるように固相重縮合条件を調整した以外は比較例1と同様にして得られたペレット1800gとをペレットブレンドし、その後真空乾燥し、実施例1と同様に成形評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0078】
<比較例6>
比較例1で得られた成形板を、40℃の熱風循環オーブン内に水平を保つよう置いて7日間エージングし、刻印痕の間隔長さを計測した後、さらに、40℃の熱風循環オーブン内に水平を保つよう保管し評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0079】
【表1】
【0080】
表1より、本発明の特定の組成と特定のIVを有するダイマー酸共重合PETの射出成形品は、実施例で示されているように、優れた柔軟性と透明性と寸法安定性を有することが分かる。よって、本発明によれば、柔軟で透明な成形品において、射出成形により微細な形状を付与することができ、なおかつ保管による寸法変化も抑えられた寸法精度の良い成形品を得ることができる。このため、本発明のダイマー酸共重合PETの射出成形品は、密封性が求められる筐体や、形状への追従が求められるカバー等、複雑な形状や寸法精度・寸法安定性が求められる用途に有用である。
なお、比較例1は、ダイマー酸が多く、柔軟性は良好であるが、寸法安定性が悪い。
比較例2は、成形板のIVが大き過ぎ、寸法安定性が悪い。
比較例3は、ダイマー酸とイソフタル酸を含まず、柔軟性がない。
比較例4は、イソフタル酸が少なく、透明性に劣る。
比較例5は、イソフタル酸が少なく透明性に劣り、成形板のIVが大き過ぎ寸法安定性が悪い。
比較例6は、比較例1と同組成であるが、エージングを行ったことにより、寸法安定性は改善されたものの透明性が低下した。
図1