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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】樹脂製歯車
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/14 20060101AFI20220301BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20220301BHJP
   F16H 55/12 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
F16H55/14
F16H55/06
F16H55/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018012836
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019132300
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100180851
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼口 誠
(72)【発明者】
【氏名】森尾 洋一
(72)【発明者】
【氏名】飛石 好輝
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-207029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/14
F16H 55/06
F16H 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の金属製ブッシュと、
前記金属製ブッシュの周囲に設けられ、外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、
前記金属製ブッシュと前記樹脂部材との間に設けられた環状の弾性部材と、を備え、
前記弾性部材は、径方向に同心円状に積層された、第一層、第二層及び第三層の三つの層から構成されており、
前記三つの層は、前記環状の金属製ブッシュから前記環状の樹脂部材に向かって前記第一層、前記第二層及び前記第三層の順番で配置されており、前記第一層、前記第二層及び前記第三層の順番で段階的に弾性率が低くなる、樹脂製歯車。
【請求項2】
環状の金属製ブッシュと、
前記金属製ブッシュの周囲に設けられ、外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、
前記金属製ブッシュと前記樹脂部材との間に設けられた環状の弾性部材と、を備え、
前記弾性部材は、径方向に同心円状に積層された、第一層、第二層及び第三層の三つの層から構成されており、
前記三つの層は、前記環状の金属製ブッシュから前記環状の樹脂部材に向かって前記第一層、前記第二層及び前記第三層の順番で配置されており、前記第一層、前記第二層及び前記第三層の順番で段階的に硬度が低くなる、樹脂製歯車。
【請求項3】
前記三つの層において少なくとも隣接する層同士は、互いに異なる材料によって形成されている、請求項1又は2記載の樹脂製歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製歯車は、軽量で且つ静粛性に優れており、例えば車両用又は産業用の歯車として広く用いられている。樹脂製歯車としては、環状の金属製ブッシュと、金属製ブッシュの周囲に設けられ外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、金属製ブッシュと樹脂部材との間に設けられた弾性部材と、を備えた樹脂製歯車が知られている(例えば、特許文献1参照)。上述したような樹脂製歯車では、他の歯車との噛み合いで衝撃が生じた場合、当該衝撃を弾性部材の弾性変形によって吸収する減衰効果を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-151000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した樹脂製歯車は、使用される製品によって他の歯車との噛み合いによって生じる衝撃力が異なる。したがって、その衝撃力に応じた適正な減衰効果を発揮できるように、樹脂歯車を形成したいという要望がある。また、同時に、所望の減衰効果を発揮できるだけでなく、所望の製造コスト、所望の樹脂製歯車のサイズ等で製造できるように、樹脂製歯車を設計する際の自由度を高めたいという要望がある。
【0005】
そこで、本発明は、所望の減衰効果を有しつつも設計の自由度を高めることができる、樹脂製歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂製歯車は、環状の金属製ブッシュと、金属製ブッシュの周囲に設けられ、外周部に歯形が形成された環状の樹脂部材と、金属製ブッシュと樹脂部材との間に設けられた環状の弾性部材と、を備え、弾性部材は、径方向に同心円状に積層された複数の層から構成されており、複数の層において少なくとも隣接する層同士は、硬度又は弾性率が互いに異なっている。
【0007】
この構成の樹脂製歯車は、複数の層において少なくとも隣接する層同士は、硬度又は弾性率が互いに異なっている。これにより、単層により形成される弾性部材に比べて、衝撃力に応じた適正な減衰効果を発揮できるような調整がし易くなる。また、同時に、所定の減衰効果を発揮できるように維持しつつ、所望の製造コスト又は所望の樹脂製歯車のサイズ等で製造できるように調整がし易くなる。これらの結果、樹脂製歯車を設計する際の自由度を高めることが可能になる。
【0008】
本発明の樹脂製歯車では、複数の層における最外層は、最内層に比べて硬度が低くてもよい。金属製ブッシュに接続される軸部から動力が伝達されるような樹脂製歯車では、内径側にかかる応力と外径側にかかる応力との間に差がある。具体的には、内径側から外径側になるにつれて応力が低くなる。このため、大きな応力が発生する最内層に、相対的に硬度が高いゴムを置くことでギヤ強度を向上させることができる。
【0009】
この構成の樹脂製歯車は、複数の層における最外層は、最内層に比べて弾性率が低くてもよい。金属製ブッシュに接続される軸部から動力が伝達されるような樹脂製歯車では、内径側にかかる応力と外径側にかかる応力との間に差がある。具体的には、内径側から外径側になるにつれて応力が低くなる。このため、大きな応力が発生する最内層に、相対的に弾性率が高いゴムを置くことでギヤ強度を向上させることができる。
【0010】
本発明の樹脂製歯車では、複数の層は、最内層から最外層に向けて段階的に硬度が低くなってもよい。この構成の樹脂製歯車では、より効果的にギヤ強度を向上させることができる。更に、この構成の樹脂歯車では、耐久性を向上させることができ、ねじり方向の変位量を調整でき、振動を抑制できたりする。
【0011】
本発明の樹脂製歯車では、複数の層は、最内層から最外層に向けて段階的に弾性率が低くなってもよい。この構成の樹脂製歯車では、より効果的にギヤ強度を向上させることができる。更に、この構成の樹脂歯車では、耐久性を向上させることができ、ねじり方向の変位量を調整でき、振動を抑制できたりする。
【0012】
この構成の樹脂製歯車は、複数の層において少なくとも隣接する層同士は、互いに異なる材料によって形成されていてもよい。この構成の樹脂製歯車は、隣接する層同士を容易に互いに異なる硬度又は弾性率にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の減衰効果を有しつつも設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施形態に係る樹脂製歯車の平面図である。
図2図2は、図1におけるII-II線に沿った断面構成を示す図である。
図3図3(a)~(d)は、一実施形態に係る樹脂製歯車の製造方法を説明する説明図である。
図4図4は、変形例に係る樹脂製歯車の平面図である。
図5図5は、図4におけるV-V線に沿った断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
一実施形態に係る樹脂製歯車1は、いわゆる高強度樹脂ギヤであって、車両用又は産業用の歯車として用いられる。例えば樹脂製歯車1は、エンジン内のバランスシャフトギヤ及びカムシャフトギヤ等に使用できる。図1及び図2に示されるように、樹脂製歯車1は、金属製ブッシュ3と、弾性部材5と、樹脂部材7と、接着層9と、接着層11と、接着層13と、を備えている。本実施形態に係る樹脂製歯車1は、平歯車である。なお、図1では、接着層9,11,13の図示を省略している。
【0017】
金属製ブッシュ3は、回転軸(図示省略)に取り付けられる部材である。金属製ブッシュ3は、円環状である。金属製ブッシュ3は、金属材料により形成されており、例えば、機械構造用炭素鋼S45C等の炭素鋼、焼結金属、アルミニウム等で形成されている。金属製ブッシュ3には、貫通孔3hが設けられている。貫通孔3hは、金属製ブッシュ3の一方の側面3aと他方の側面3bとを貫通している。貫通孔3hには、回転軸が挿入される。金属製ブッシュ3は、内周面4aと、外周面4bと、を有している。内周面4aは、貫通孔3hを画成している。外周面4bは、弾性部材5と対向する面である。
【0018】
弾性部材5は、樹脂製歯車1が他の歯車と噛み合いにより発生する衝撃を減衰する部材である。具体的には、後段にて詳述する駆動中の樹脂部材7の歯形7bが相手歯車との噛み合うことによって樹脂部材7に過剰の衝突エネルギが加わると、樹脂部材7と金属製ブッシュ3との間に配置された弾性部材5が変形(圧縮変形又は引張変形)して上記エネルギを吸収する。弾性部材5は、円環状である。弾性部材5は、金属製ブッシュ3の周囲に設けられている。弾性部材5は、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に設けられている。
【0019】
弾性部材5は、径方向Rに同心円状に積層された第一層5a及び第二層5bから構成されている。弾性部材5は、径方向Rにおいて金属製ブッシュ3との界面に設けられる第一層5aと、径方向Rにおいて第一層5aの外側に設けられる第二層5bと、を有している。第二層5bは、フッ素ゴムから形成されている。第一層5aは、フッ素ゴムよりも硬度が低いニトリルゴムから形成されている。なお、ここで言う硬度は、ショアA硬度をいう。第一層5aの硬度の例は、20~90である。第二層5bの硬度の例は、20~90である。第一層5aの硬度に対する第二層5bの硬度の比は、例えば、3:4である。なお、ここでは、同心円状に積層される例を挙げたが、同心円状以外の積層状態であってもよい。
【0020】
弾性部材5の径方向Rのサイズ(層厚)T1の例は、0.2mm~8.0mmである。第一層5aの層厚は、第二層5bの層厚と同じである。第一層5aの層厚T11の例は、0.1mm~4.0mmであり、第二層5bの層厚T12の例は、0.1mm~4.0mmである。
【0021】
樹脂部材7は、他の歯車と噛み合う部材である。樹脂部材7は、環状である。樹脂部材7は、樹脂で形成されている。樹脂部材7は、弾性部材5の周囲に設けられている。ここでの樹脂部材7は、弾性部材5の外周面に接するように設けられている。樹脂部材7の外周部には、歯形7bが形成されている。歯形7bは、樹脂部材7の周方向において、所定の間隔をあけて複数形成されている。なお、弾性部材5の周囲に設けられることには、弾性部材5の周りに直接接するように設けられることだけでなく、弾性部材5の周りに他の部材(金属製のリング部材等)を介して設けられることを含む。
【0022】
続いて、樹脂製歯車1の製造方法について説明する。樹脂製歯車1の製造方法は、ブッシュ加工工程と、抄造素形体形成工程と、樹脂部材形成工程と、切削工程と、樹脂部材加工工程と、弾性部材形成工程と、歯切加工工程と、を含む。
【0023】
[ブッシュ加工工程]
ブッシュ加工工程では、金属製ブッシュ3の外周面4bに加工を施す。具体的には、例えば、金属製ブッシュ3の外周面4bにリン酸塩被膜処理を施し、外周面4bにリン酸層を形成する。リン酸層は、例えば、リン酸亜鉛被膜(亜鉛を含む組成)であり得る。リン酸亜鉛被膜の主成分は、ホパイト(Zn(PO・4HO)及びフォスフォフィライト(ZnFe(PO・4HO)である。リン酸亜鉛被膜は、リン酸イオン及び亜鉛イオンを主成分とする処理液を用いて処理され、亜鉛が析出することで形成される。リン酸亜鉛被膜の厚さは、例えば、2μm~3μmである。金属製ブッシュ3の外周面4bにリン酸層を形成することにより、外周面4bに凹凸が形成される。金属製ブッシュ3に加工を施した後、金属製ブッシュ3を洗浄する。金属製ブッシュ3の洗浄は、接着剤塗布工程の前に実施されればよい。
【0024】
[抄造素形体形成工程]
抄造素形体形成工程では、抄造法によって、円環状の抄造素形体を形成する。抄造素形体は、短繊維のみを含むものであっても、短繊維及び樹脂を含むものであってもよい。
【0025】
抄造法による抄造素形体の形成には、従来公知の方法を適用することができる。例えば、円環形状は、筒状金型を用いることにより形成することができる。また、抄造素形体は、例えば、金型の中央にブッシュを配置し、ブッシュの周囲に短繊維、分散媒及び任意の樹脂の分散液を注入し、金型から分散媒を排出した後に、筒状金型内に残った集合体を圧縮することにより形成することができる。
【0026】
短繊維の融点、又は、短繊維の分解温度は、250℃以上であることが好ましい。このような短繊維を用いることで、成形時の成形温度又は加工温度、実使用時の雰囲気温度において、短繊維が熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた繊維基材又は樹脂製歯車とすることができる。
【0027】
短繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びポリビニルアルコール系繊維から選ばれた少なくとも1種以上の短繊維を使用することが好ましい。特に、パラ系アラミド繊維と、メタ系アラミド繊維との混合繊維を短繊維として用いた場合には、耐熱性、強度、樹脂成形後の加工性のバランスが優れている。
【0028】
スラリとしては、有機溶媒、有機溶媒と水との混合物、又は、水等を用いることができる。スラリとしては、特に経済的で、環境への負荷が少ない、水を使用することが好ましい。有機溶媒を用いる場合には、安全面に充分注意し、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、ジエチルエーテル等の有機溶媒を使用することも可能である。
【0029】
樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよいが、製造される樹脂製歯車の強度を向上させる観点から、熱硬化性樹脂であると好ましい。より具体的には、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等から選ばれた1以上の樹脂と、選択された樹脂の種類に応じた硬化剤とを組み合わせたものが使用できる。これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’-(1,3フェニレン)ビス2-オキサゾリンとアミン硬化剤の混合物100質量部に対し、触媒には硬化促進剤として、例えば、n-オクチルブロマイドが5質量部以下からなる樹脂を使用することが好ましい。
【0030】
なお、樹脂は、抄造素形体形成工程において短繊維と一緒に抄造されてもよく、短繊維のみを含む抄造素形体を形成した後に、樹脂部材形成工程において抄造素形体に含浸されてもよい。
【0031】
[樹脂部材形成工程]
樹脂部材形成工程では、金型内に、上記抄造素形体を配置し、樹脂を硬化させて樹脂部材7を形成する。抄造素形体形成工程において樹脂を用いなかった場合には、金型内に樹脂を注入して抄造素形体に含浸させた後に、樹脂を硬化させる。
【0032】
[切削工程]
切削工程では、金属製ブッシュ3及び樹脂部材7からなる成形品を切削して成形品の寸法を調整する。切削工程では、成形品を旋盤等の工作機械によって切削加工する。具体的には、切削工程では、成形品の外径部分及び内径部側面を削り、成形品を所定の寸法に加工する。
【0033】
[樹脂部材加工工程]
樹脂部材加工工程では、樹脂部材7の内周面7aに加工を施す。具体的には、例えば、樹脂部材7の内周面7aにショットブラスト加工を施し、内周面7aに凹凸を形成する。樹脂部材加工工程の後、樹脂部材7を洗浄する。樹脂部材7の洗浄は、接着剤塗布工程の前に実施されればよい。なお、当該樹脂部材加工工程は省略されてもよい。
【0034】
[弾性部材形成工程]
弾性部材形成工程では、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に第一層5a及び第二層5bからなる弾性部材5を形成する。図3(a)に示されるように、第一成形金型20Aに金属製ブッシュ3を配置し、金属製ブッシュ3の外周面4bに接着剤A1を塗布する。接着剤A1は、加硫接着剤であり、例えば、ケムロック 607(ロード・ジャパンインク製)を用いることができる。
【0035】
続いて、図3(b)に示されるように、未加硫のゴム材料(ニトリルゴム)G1を第一押込部材22Aによって第一注入部21Aに押し込み、第一注入部21Aを介してゴム材料G1を注入する。これにより、金属製ブッシュ3の外側にゴム材料G1が充填される。そして、充填したゴム材料G1を加硫すると共に、加硫したゴム材料G1に熱及び圧力を加える。これにより、金属製ブッシュ3とゴム材料G1とが加硫接着され、金属製ブッシュ3の外側にニトリルゴムからなる第一層5aが形成される。また、上記の加硫接着によって、金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間(界面)に接着層9が形成される。
【0036】
続いて、図3(c)に示されるように、第二成形金型20Bに金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとが一体化された中間体と樹脂部材7とを配置し、第一層5aの外周面5aaに接着剤A2を塗布し、樹脂部材7の内周面7aに接着剤A3を塗布する。接着剤A2,A3は、接着剤A1と同様に、加硫接着剤であり、例えば、ケムロック 607(ロード・ジャパンインク製)を用いることができる。
【0037】
続いて、図3(d)に示されるように、未加硫のゴム材料(フッ素ゴム)G2を第二押込部材22Bによって第二注入部21Bに押し込み、金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間に、第二注入部21Bを介してゴム材料G2を注入する。これにより、金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間にゴム材料G2が充填される。そして、充填したゴム材料G2を加硫すると共に、加硫したゴム材料G2に熱及び圧力を加える。これにより、弾性部材5の第一層5aとゴム材料G2とが加硫接着されると共に金属製ブッシュ3とゴム材料G1とが加硫接着され、弾性部材5の第一層5aと樹脂部材7との間にフッ素ゴムから形成される第二層5bが形成される。以上の工程を経て、金属製ブッシュ3と樹脂部材7との間に第一層5a及び第二層5bからなる弾性部材5が形成される。また、上記の加硫接着によって、弾性部材5の第一層5aと弾性部材5の第二層5bとの間に接着層11が形成され、樹脂部材7と弾性部材5の第二層5bとの間に接着層13が形成される。弾性部材5は、必要に応じて、バリの除去等を行う。
【0038】
[歯切加工工程]
歯切加工工程では、樹脂部材7の歯切加工を行う。適用される歯切加工としては、ホブ盤又はシェービング盤による仕上げ加工が挙げられる。ホブ盤としては、例えば三菱重工業株式会社製のGE15A(商品名)を用いることができる。なお、ホブ盤による切削量は、200μm以上になる。シェービング盤としては、例えば三菱重工業株式会社製のFE30A(商品名)を用いることができる。なお、シェービング加工による切削量は少なく、20~150μm程度になる。歯切加工工程により、樹脂部材7に歯形7bが形成される。
【0039】
以上の工程により、樹脂製歯車1が製造される。
【0040】
上記実施形態の樹脂製歯車1では、弾性部材5における第一層5aと第二層5bとで、硬度が互いに異なっている。これにより、単層により形成される弾性部材5に比べて、衝撃力に応じた適正な減衰効果を発揮できるような調整がし易くなる。また、同時に、所定の減衰効果を発揮できるように維持しつつ、所望の製造コスト又は所望の樹脂製歯車のサイズ等で製造できるように調整がし易くなる。これらの結果、樹脂製歯車を設計する際の自由度を高めることが可能になる。
【0041】
上記実施形態のように、金属製ブッシュ3に接続される軸部から動力が伝達されるような樹脂製歯車1では、内径側にかかる応力と外径側にかかる応力との間に差がある。具体的には、内径側から外径側になるにつれて応力が低くなる。このため、最外層である第二層5bの硬度を、最内層である第一層5aの硬度に比べて低くすること、すなわち、大きな応力が発生する最内層(第一層5a)に、相対的に硬度が高いゴムを配置することでギヤ強度を向上させることができる。
【0042】
上記実施形態において、第一層5aとして金属との接着性能がよいゴム材料(例えば、ニトリルゴム)を用い、第二層5bとして樹脂との接着性能がよいゴム材料(例えば、シリコンゴム)を用いてもよい。この場合には、金属製ブッシュ3と弾性部材5との間(界面)と、弾性部材5と樹脂部材7との間(界面)における接着力を向上させることができるので強度が向上する。
【0043】
また、上記実施形態において、回転軸としてのシャフトを介して伝熱される熱の影響を受けやすい金属製ブッシュ3の近くに位置する、第一層5aとして高耐熱のゴム材料(例えば、フッ素ゴム)を用い、金属製ブッシュ3から相対的に遠くに位置する第二層5bとして、第一層5aよりも耐熱性に劣る安価なゴム材料を配置してもよい。これにより、コストを抑制しつつ、弾性部材5の耐熱性を高めることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0045】
例えば、図4及び図5に示されるような樹脂製歯車101であってもよい。すなわち、樹脂製歯車101は、上記実施形態の樹脂製歯車1では、弾性部材5が、第一層5a、第二層5b、及び第三層5cの三つの層から形成されている。弾性部材5は、金属製ブッシュ3の界面側から外側に向かって第一層5a、第二層5b、及び第三層5cの順番で並んでいる。本実施形態では、第一層5a、第二層5b、及び第三層5cのそれぞれの層厚T21,T22,T23は同じである。なお、変形例1に係る樹脂製歯車101では、層厚T21,T22,T23が全て同じである例を挙げて説明したが、これに限定されない。第一層5a、第二層5b、及び第三層5cは、アクリルゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、天然ゴム、ウレタンゴム等から適宜選択された材料によって形成することができる。
【0046】
金属製ブッシュ3と弾性部材5の第一層5aとの間には、加硫接着時に形成される接着層9が配置されている。弾性部材5の第一層5aと弾性部材5の第二層5bとの間には、加硫接着時に形成される接着層11が配置されている。弾性部材5の第二層5bと弾性部材5の第三層5cとの間には、加硫接着時に形成される接着層13が配置されている。弾性部材5の第三層5cと樹脂部材78との間には、加硫接着時に形成される接着層15が配置されている。なお、図4では、接着層9,11,13,15の図示を省略している。
【0047】
変形例に係る樹脂製歯車101も、上記実施形態の樹脂製歯車1と同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、変形例に係る樹脂製歯車101において、三つ(複数)の層における最外層である第三層5cが、最内層である第一層5aに比べて硬度が低くなるようにしてもよい。この場合、第一層5a、第二層5b、及び第三層5cを形成する材料は、アクリルゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、天然ゴム、ウレタンゴム等から適宜選択できる。更に、三つの層について最内層である第一層5aから最外層である第三層5cに向けて段階的に硬度が低くなるようにしてもよい。なお、上記ゴムは、例えば、配合等を調整することによって以下のとおりに硬度(ショアA硬度)を調整可能である。すなわち、天然ゴムでは10~100、ニトリルゴムでは20~100、シリコンゴムでは30~90、アクリルゴムでは40~90、フッ素ゴムでは50~90、ウレタンゴムでは15~100の範囲に硬度を調整可能である。
【0049】
上記変形例では、3つの層間で硬度が互いに異なる例を挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、複数の層間において、少なくとも互いに隣接する層間において硬度が異なっておればよい。例えば、上記変形例では、第一層5aと第三層5cとが同じ硬度であり、第二層5bのみが、第一層5a及び第三層5cよりも硬度が高くてもよい。
【0050】
上記変形例として、第一層5aとして金属との接着性能がよいゴム材料(例えば、ニトリルゴム)を用い、第二層5bとして強度が高いゴム材料(例えば、フッ素ゴム)を用い、第三層5cとして樹脂との接着性能がよいゴム材料(例えば、シリコンゴム)を用いてもよい。この場合には、金属製ブッシュ3と弾性部材5との間(界面)と、弾性部材5と樹脂部材7との間(界面)における接着力を向上させることができるので強度が向上する。
【0051】
更なる上記変形例として、第一層5aとして金属との接着性能がよいゴム材料(例えば、ニトリルゴム)を用い、第三層5cとして樹脂との接着性能がよいゴム材料(例えば、シリコンゴム)を用い、第二層5bとして第一層5a及び第三層5cとは種類の異なる安価なゴム材料(例えば、アクリルゴム)を用いてもよい。この場合には、コストを抑制しつつも、金属製ブッシュ3と弾性部材5との間(界面)と、弾性部材5と樹脂部材7との間(界面)における接着力を向上させることができるので強度が向上する。
【0052】
上記実施形態又は変形例では、弾性部材5において、互いに硬度が異なる層を形成するにあたり、互いにゴムの材料を異ならせる例を挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、同種のゴムを用いつつも、添加剤、カーボンブラック量等を調整することにより、弾性部材5において互いに硬度が異なる層を形成してもよい。
【0053】
上記実施形態又は変形例では、複数の層間において硬度が互いに異なっている例を挙げて説明したが、硬度に代えて、弾性率又は強度が異なっていてもよい。複数の層間において弾性率又は強度を互いに異ならせるにあたり、各ゴム層に添加される添加剤、カーボンブラック量等を調整してもよい。
【0054】
また、例えば、三つ(複数)の層における最外層である第三層5cが、最内層である第一層5aに比べて弾性率が低くなるようにしてもよい。上述したとおり、金属製ブッシュ3に接続される軸部から動力が伝達されるような樹脂製歯車1では、内径側にかかる応力と外径側にかかる応力との間に差がある。具体的には、内径側から外径側になるにつれて応力が低くなる。このため、大きな応力が発生する最内層に弾性率が高いゴムを置くことで、ねじり方向における変位量をコントロールして、効果的にギヤ強度を向上させることができる。更に、三つの層について最内層である第一層5aから最外層である第三層5cに向けて段階的に弾性率が低くなるようにしてもよい。この場合も、第一層5a、第二層5b、及び第三層5cを形成する材料は、アクリルゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、天然ゴム、ウレタンゴム等から適宜選択できる。これにより、衝撃力に応じた適正な弾性率のゴムを選定および組み合わせることができるので、適正な衝撃減衰効果を得ることができる。この構成の樹脂製歯車1では、より効果的にギヤ強度を向上させたり、耐久性を向上させたり、ねじり方向の変位量調整できたり、振動を抑制できたりする。
【0055】
上記実施形態又は変形例では、最内層である第一層5aに比べて硬度又は弾性率が低くなるような例を挙げて説明したが、最内層である第一層5aに比べて硬度又は弾性率が高くしてもよい。この場合には、金属製ブッシュ3に接続される軸部から動力が伝達されるような樹脂製歯車1において、ねじり方向における変位量をコントロールして、軸部から振動が伝達されることを抑制することができる。
【0056】
上記実施形態では、金属製ブッシュ3の外周面がフラットに形成されている例を挙げて説明したが、外周面から外側に向かって突出する複数の突出部を有していてもよい。この突出部が形成された金属製ブッシュを有する樹脂製歯車では、金属ブッシュと樹脂材料との結合力を強化させることができる。
【0057】
上記実施形態又は変形例において、金属製ブッシュ3と弾性部材5とは一体成形される例を挙げて説明したが、金属製ブッシュ3と弾性部材5とは接着剤によって一体的に固着されてもよい。
【0058】
上記実施形態又は変形例では、加硫接着剤が用いられる間接接着の例を挙げて説明したが、加硫接着剤が用いられない直接接着としてもよい。
【0059】
上記実施形態では、樹脂製歯車1が平歯車である形態を一例に説明した。しかし、樹脂製歯車1は、はすば歯車等であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1,101…樹脂製歯車、3…金属製ブッシュ、5…弾性部材、5a…第一層、5b…第二層、5c…第三層、7…樹脂部材、7b…歯形。
図1
図2
図3
図4
図5