(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】液体吐出装置用払拭部材、液体吐出ヘッドの払拭装置、液体吐出ヘッドの払拭方法、及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
B41J2/165 301
B41J2/165 401
(21)【出願番号】P 2018032031
(22)【出願日】2018-02-26
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】左近 洋太
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 哲
(72)【発明者】
【氏名】安宅 拓未
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-137266(JP,A)
【文献】特開2014-188900(JP,A)
【文献】特開平5-124213(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0009093(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0134629(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動させることにより、前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出装置用払拭部材であって、
前記払拭部材は、前記ノズル形成面に接触する側から、表面層と、該表面層下に隔離層と、該隔離層下に吸収層とを少なくとも有し、
前記表面層の層厚をt(sur)とし、前記隔離層の層厚をt(iso)とし、前記吸収層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たすことを特徴とする液体吐出装置用払拭部材。
【請求項2】
前記表面層の空隙率をp(sur)とし、前記隔離層の空隙率をp(iso)とし、前記吸収層の空隙率をp(abs)とすると、次式、p(abs)≦p(sur)≦p(iso)、を満たす請求項1に記載の液体吐出装置用払拭部材。
【請求項3】
前記表面層の繊維径をd(sur)とし、前記隔離層の繊維径をd(iso)とし、前記吸収層の繊維径をd(abs)とすると、次式、d(abs)≦d(sur)≦d(iso)、を満たす請求項1から2のいずれかに記載の液体吐出装置用払拭部材。
【請求項4】
液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出ヘッドの払拭装置において、
払拭部材として、請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出装置用払拭部材を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの払拭装置。
【請求項5】
前記液体吐出装置用払拭部材に洗浄液を含浸させて湿潤状態で前記ノズル形成面を払拭する請求項4に記載の液体吐出ヘッドの払拭装置。
【請求項6】
液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出ヘッドの払拭方法において、
払拭部材として、請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出装置用払拭部材を用い、前記液体吐出装置用払拭部材を前記ノズル形成面に当接させて払拭することを特徴とする液体吐出ヘッドの払拭方法。
【請求項7】
請求項4から5のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの払拭装置を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動させることにより、前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出装置用払拭部材であって、
前記払拭部材は、前記ノズル形成面に接触する側から、第1の層と、該第1の層下に第2の層と、該第2の層下に第3の層とを少なくとも有し、
前記第1の層の層厚をt(sur)とし、前記第2の層の層厚をt(iso)とし、前記第3の層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たすことを特徴とする液体吐出装置用払拭部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置用払拭部材、液体吐出ヘッドの払拭装置、液体吐出ヘッドの払拭方法、及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに代表される液体吐出装置は、液体吐出ヘッドから液滴を吐出させ、記録媒体上に画像形成を行う。このような液体吐出装置において、液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した異物によって吐出不良等の不具合を起こすため、定期的にノズル形成面をクリーニングする必要がある。
【0003】
このようなクリーニング方法として、付着したインクが乾燥して形成される固着インクに対して、洗浄液と不織布に代表される払拭部材とを組み合わせて払拭する方法が知られている。
例えば、ノズル形成面に付着した液体を払拭する部材として、ノズル形成面側の第1層とノズル形成面側と反対側の第2層を有し、第1層から第2層に液滴を導き第2層で吸収するようにして効率的な払拭性効果を達成できる払拭部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ケーシングに装着した場合に底部に近い側のものほど吸収作用が大きくなる3層構造のインク吸収材を備えた掃拭装置を有するインクジェット記録装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液体吐出ヘッドに損傷を与えることなく、払拭性に優れかつ液体吐出装置に搭載した際に省スペース化が図れると共に、払拭部材の使用量の低減化が図れる液体吐出装置用払拭部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としての本発明の液体吐出装置用払拭部材は、液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動させることにより、前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出装置用払拭部材であって、前記払拭部材は、前記ノズル形成面に接触する側から、表面層と、該表面層下に隔離層と、該隔離層下に吸収層とを少なくとも有し、前記表面層の層厚をt(sur)とし、前記隔離層の層厚をt(iso)とし、前記吸収層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たす。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、液体吐出ヘッドに損傷を与えることなく、払拭性に優れかつ液体吐出装置に搭載した際に省スペース化が図れると共に、払拭部材の使用量の低減化が図れる液体吐出装置用払拭部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の液体吐出装置用払拭部材の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の液体吐出ヘッドの払拭装置の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の液体吐出装置の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の液体吐出装置における液体吐出ヘッドの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(液体吐出装置用払拭部材)
本発明の液体吐出装置用払拭部材は、液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動させることにより、前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した余剰液体を払拭する液体吐出装置用払拭部材であって、前記払拭部材は、前記ノズル形成面に接触する側から、表面層と、該表面層下に隔離層と、該隔離層下に吸収層とを少なくとも有し、前記表面層の層厚をt(sur)とし、前記隔離層の層厚をt(iso)とし、前記吸収層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たし、更に必要に応じてその他の部材を有する。
換言すると、前記払拭部材は、表面層と吸収層との間に、隔離層を有し、前記表面層の層厚をt(sur)とし、前記隔離層の層厚をt(iso)とし、前記吸収層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たし、更に必要に応じてその他の部材を有する。
なお、「液体吐出」は、液滴を吐出する。
【0009】
本発明の液体吐出装置用払拭部材は、従来技術では、クリーニング方法においては、ノズル及びノズル形成面に付着したインクを除去する動作により、液体吐出ヘッドのノズル形成面にダメージを与えるおそれがあり、特に表面に設けられた撥水膜を摩耗あるいは剥離させてしまう等のダメージを与えるおそれがあるという知見に基づくものである。
また、本発明の液体吐出装置用払拭部材は、従来技術では、不織布等で構成される払拭部材は巻き取った形式で液体吐出装置に搭載されることが多いが、払拭部材を使用する量に対するコストに加えて、液体吐出装置が必要とするスペースの課題もあり、払拭部材の使用量の低減が望まれているという知見に基づくものである。
【0010】
本発明においては、払拭部材としてノズル形成面に接する側から、表面層(「第1の層」とも称する)と、該表面層下に隔離層(「第2の層」とも称する)と、該隔離層下に吸収層(「第3の層」とも称する)と、を少なくとも有する3層以上の多層構造にすることにより、対象物のかきとりと、吸収動作とを機能分離させることによって、払拭能力を高めることができる。
【0011】
<表面層>
表面層は、払拭対象である、液体吐出ヘッドのノズル形成面に押し当て、固着したインクをかきとる、又は洗浄液によって溶解したインクを取り込む動作を担う機能を有する。
表面層の形状、材質、大きさ、構造などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
表面層の形状、大きさについては、払拭対象に応じて適宜選択することができる。
表面層の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不織布であれば半合成繊維のキュプラや合成繊維のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン(Ny)、ポリビニルアルコール(PVA)などからなる多孔質体や織布、編布などが挙げられる。
表面層は、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えば、NE107(セルロース)、NE507(セルロース)(いずれも、旭化成株式会社製);M1020-8T(PET)、M2028-8T(PET)、H2070-7S(PET)(いずれも、東レ株式会社製)などを利用でき、表面層に適用する場合の層厚、空隙率、繊維径に合致するものを選定することができる。
表面層の製造方法としては、例えば、不織布では、ウェブ工程として、乾式、湿式、エアレイド式等の方式があり、バインディング工程としてはケミカルボンド式、サーマルボンド式、ニードルパンチ式等の方式などが挙げられる。
【0012】
<隔離層>
隔離層は、表面層により取り込んだインクのうち膨潤したインク破片を表面層から取り込んで保持し、溶解したインクを更に吸収層に送り込み、吸収層からの滲みだしを防止する動作を担う機能を有する。
隔離層の形状、材質、大きさ、構造などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
隔離層の形状、大きさについては、払拭対象に応じて適宜選択することができる。
隔離層の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不織布であれば半合成繊維のキュプラや合成繊維のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン(Ny)、ポリビニルアルコール(PVA)などからなる多孔質体や織布、編布などが挙げられる。
隔離層は、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えば、NE107(セルロース)、NE507(セルロース)(いずれも、旭化成株式会社製);M1020-8T(PET)、M2028-8T(PET)、H2070-7S(PET)(いずれも、東レ株式会社製)などを利用でき、隔離層に適用する場合の層厚、空隙率、繊維径に合致するものを選定することができる。
隔離層の製造方法としては、例えば、不織布では、表面層と同じく、ウェブ工程として、乾式、湿式、エアレイド式等の方式があり、バインディング工程としてはケミカルボンド式、サーマルボンド式、ニードルパンチ式等の方式などが挙げられる。
【0013】
<吸収層>
吸収層は、吸収層に到達したインクを吸収し吸収層内にそのまま保持しつづける動作を担う機能を有する。
吸収層の形状、材質、大きさ、構造などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
吸収層の形状、大きさについては、払拭対象に応じて適宜選択することができる。
吸収層の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不織布であれば半合成繊維のキュプラや合成繊維のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン(Ny)、ポリビニルアルコール(PVA)などからなる多孔質体や織布、編布などが挙げられる。
吸収層は、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えば、NE107(セルロース)、NE507(セルロース)(いずれも、旭化成株式会社製);M1020-8T(PET)、M2028-8T(PET)、H2070-7S(PET)(いずれも、東レ株式会社製)などを利用でき、吸収層に適用する場合の層厚、空隙率、繊維径に合致するものを選定することができる。
吸収層の製造方法としては、例えば、不織布では、表面層、隔離層と同じく、ウェブ工程として、乾式、湿式、エアレイド式等の方式があり、バインディング工程としてはケミカルボンド式、サーマルボンド式、ニードルパンチ式等の方式などが挙げられる。
【0014】
本発明においては、表面層は、固着したインクをかきとる力を与えやすいこと、取り込んだ溶解したインクを吸収層側へ短時間に移動させるために、表面層の層厚は小さいほうが好ましく、0.1mm以上0.3mm以下がより好ましい。
隔離層は、吸収層に移動させて溶解したインクを表面層側に戻さないこと、表面層側の溶解したインクは、吸収層に送り込む動作が必要であり、そのために表面層及び吸収層のいずれよりも厚く、かつ層の厚さが0.7mmを超えないことが好ましく、0.2mm以上0.6mm以下がより好ましい。
吸収層の層厚は、表面層の層厚と隔離層の層厚の中間値であることが好ましく、0.2mm以上0.4mm以下がより好ましい。
したがって、表面層の層厚をt(sur)とし、隔離層の層厚をt(iso)とし、吸収層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たす。これにより、液体吐出ヘッドに損傷を与えることなく、液体吐出装置に搭載した際に省スペース化が図れると共に、払拭部材の使用量の低減化が図れる。
【0015】
表面層、隔離層、及び吸収層の各層厚は、以下のようにして測定することができる。
払拭部材を光学定盤上に載置し各層の層厚を算出しようとする部位に、直径20mm、厚さ1.5mmのアルミニウム製ディスクを重ね、重ねてから10秒間後の払拭部材の厚さとして計測する。
計測には、レーザー測距センサー(パナソニック株式会社製、HG-C1030)を用いアルミニウム製ディスクの上部から光学定盤表面までの距離を計測し、得られた距離からアルミニウム製ディスクの厚さ1.5mmを差し引いて、払拭部材の層厚を算出する。各層の層厚は、別途積層前の試料を測定するか、積層したものを分離して、各層の層厚を求めることができる。
【0016】
これら3層(表面層、隔離層、及び吸収層)の総合動作により、固着したインク等はノズル形成面から安定に除去することができる。
吸収層でノズル形成面から除去した溶解インクを保持するが積層体合計での厚さにより、払拭部材を巻き取った時のサイズが影響されることになるため、払拭部材の必要な長さと払拭部材を収めるスペースから厚さは制限を受けることになる。払拭部材での吸収量の適性から表面層より厚さが大きいことが好ましい。
【0017】
本発明においては、表面層、隔離層、及び吸収層の空隙率は、払拭の動作を良好に行うことができるように、それらの数値が設定される。空隙率は吸収層での吸収を基準に考えることができる。
表面層、隔離層、及び吸収層の空隙率は、いずれもノズル形成面から除去した溶解したインクを適切に保持する点から、50%以上が好ましく、50%以上90%以下がより好ましい。空隙率が50%未満であると、かきとったインクを中に吸収できなくなることがある。一方、空隙率が90%を超えると、液体のインク等を吸収するときに毛管力の働きが弱くなり、吸収性が低下することがある。
更に、表面層においては隣接する隔離層に溶解したインクを移動させること、同じく隔離層においては同じく隣接する吸収層に溶解したインクを移動させると共に、吸収層から逆流させない点から、空隙率は、吸収層、表面層、及び隔離層の順に大きくなることが好ましい。
即ち、前記表面層の空隙率をp(sur)とし、前記隔離層の空隙率をp(iso)とし、前記吸収層の空隙率をp(abs)とすると、次式、p(abs)≦p(sur)≦p(iso)、を満たすことが好ましい。
【0018】
空隙率は、払拭部材を押し当てたときの各層の層厚と面積当たりの重量から払拭部材の各層のかさ密度を算出する。各層の層厚は、上記のようにして測定した。
算出されたかさ密度と、払拭部材の材質の真密度の比から、体積当たりの各層の空隙率を算出する。
【0019】
表面層、隔離層、及び吸収層の繊維径は、いずれも払拭能力を維持する点から、5μm以上20μm以下であることが好ましい。これは、繊維径が大きいほうが通常繊維1本のいわゆる腰が強く圧縮に対して空隙を保ちやすいこと、繊維によって対象から付着物をかきとるように除去しやすいこと、また、液体を吸収しようとするときの毛管力を大きくしようとする時には繊維径を小さくすることで効果を得やすいことによる。
表面層、隔離層、及び吸収層の繊維径については、吸収層、表面層、及び隔離層の順に大きくなることが好ましい。即ち、前記表面層の繊維径をd(sur)とし、前記隔離層の繊維径をd(iso)とし、前記吸収層の繊維径をd(abs)とすると、次式、d(abs)≦d(sur)≦d(iso)、を満たすことが好ましい。
【0020】
払拭部材を構成する各層の繊維径は、対象とする払拭部材の各層の断面又は表面を、オリンパス株式会社製レーザー顕微鏡OLS4100を用いて形状計測を行い、視野内の繊維部分の5箇所から繊維径を求め、それらの平均値を払拭部材の各層の繊維径とする。
なお、繊維径は、直接顕微鏡等により拡大観察して測定する方法以外に慣例的にデニール(9,000メートルの糸の質量をグラムで表したもの)やテックス(デニールの定義の9,000メートルを1,000メートルにした単位)が用いられ、繊維の材質(密度)から繊維径と関連付けられる。
【0021】
本発明においては、吸収層、表面層、及び隔離層の特性値(層厚、空隙率、繊維径)をより望ましい範囲で両立させることができる。また、多層構造のうち、払拭面ではない層に液体吸収性の材料を使用することで、液体インクの吸収性が向上すると共に、吸収したインクがノズル形成面に再転写されてクリーニング効率が低下することを防止することができる。
【0022】
ここで、
図1は、本発明の液体吐出装置用払拭部材の一例を示す概略図である。この
図1の液体吐出装置用払拭部材110は、ノズル形成面と接触する側から、表面層111と、該表面層下に隔離層112と、該隔離層下に吸収層113とを有する3層構造である。表面層111側がノズル形成面と接触する面である。
【0023】
(液体吐出ヘッドの払拭装置及び液体吐出ヘッドの払拭方法)
本発明の液体吐出ヘッドの払拭装置は、液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出ヘッドの払拭装置において、
払拭部材として、本発明の液体吐出装置用払拭部材を有する。
前記液体吐出装置用払拭部材に洗浄液を含浸させて湿潤状態で払拭することが好ましい。
払拭動作は、払拭部材に洗浄液を一定量塗布した後、払拭部材がノズル形成面に押し当てられながら液体吐出ヘッドの払拭装置と液体吐出ヘッドが相対的に移動することで行う。
【0024】
-洗浄液-
払拭時に塗布する洗浄液は、固着インクを溶解・膨潤させて払拭しやすくすると共に、払拭時に潤滑剤としても作用する。かきとった固着インクやインク内に含まれる顔料は、払拭時に研磨剤に働いてしまい、ノズル形成面の撥水膜を劣化させる原因のひとつになる。洗浄液量をノズル形成面に存在するインク量に対して90質量%以上とすることで、潤滑作用により払拭時のノズル形成面の撥水膜の劣化を抑制することができる。
洗浄液量は、払拭部材の構成に応じて適宜調整することができる。払拭後のノズル形成面の洗浄液の残渣を調べて調整すればよい。
洗浄液としては、例えば、低級アルコール、又は低級アルコールを溶媒とする溶液などが挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、エチレングリコールなどが挙げられる。
低級アルコール又は低級アルコールを溶媒とする溶液は、インク等の乾燥物の溶解性が良好であり、かつ揮発性が高いため、洗浄液として使用することにより高い洗浄効果が得られるとともにノズル形成面に残存しにくく、十分な払拭性効果が得られる。
【0025】
本発明の液体吐出ヘッドの払拭方法は、液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出ヘッドの払拭方法において、
払拭部材として、本発明の液体吐出装置用払拭部材を用い、前記液体吐出装置用払拭部材を前記ノズル形成面に当接させて払拭する。
【0026】
ここで、
図2は、本発明の液体吐出ヘッドの払拭装置の一例を示す図である。この
図2の液体吐出ヘッドの払拭装置300は、本発明の液体吐出装置用払拭部材320と、ロール状の払拭部材を送りだす送り出しローラ410と、送り出された払拭部材をノズル形成面310に押し当てる押し当てローラ400と、払拭に使われた払拭部材を回収する巻き取りローラ420とで構成される。
押し当てローラ400はバネを用いて、払拭部材320とノズル形成面310との距離を調整することで、押し当て力を調整することができる。また、送り出しローラ410と巻き取りローラ420の巻き取り具合の調整により、払拭部材に加える張力を調整することができる。払拭部材の特性値が所望の範囲になるように、これらの押し当て力や張力を調整し、払拭動作を行う。押し当てはノズル形成面310の幅に応じて押し当てればよく、例えば、3cm幅で押し当てる時、2N~4Nの押し当て力が設定される。押し当て力が小さければ、払拭が良好に行われないおそれがあり、大きければ、払拭によってノズル形成面に摺擦劣化を生じさせるおそれがあることから、適切な押し当て力を設定することが好ましい。
【0027】
払拭動作は、払拭部材に洗浄液を一定量塗布した後、払拭部材がノズル形成面に押し当てられながら、液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動することにより行われる。
移動速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、30mm/s~100mm/sの範囲で設定することが好ましい。
移動速度は小さいほうが払拭は効果的に行うことができるが、生産性を考慮して総合的に設定されるのが好ましい。
【0028】
(液体吐出装置)
本発明の液体吐出装置は、本発明の液体吐出ヘッドの払拭装置を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
前記その他の手段としては、例えば、加熱手段、制御手段などが挙げられる。
【0029】
ここで、本発明の液体吐出ヘッドの払拭装置を備えた液体吐出装置について図面を参照して説明する。
図3は、液体吐出装置としてのシリアル型の画像形成装置の一例を示す。図示しない左右の側板に横架した主ガイド部材1及び図示しない従ガイド部材でキャリッジ3を移動可能に保持している。そして、主走査モータ5によって、駆動プーリ6と従動プーリ7との間に架け渡したタイミングベルト8を介して主走査方向(キャリッジ移動方向)に往復移動する。
このキャリッジ3には、液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド4a、4b(区別しないときは「記録ヘッド4」という。)を搭載している。記録ヘッド4は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びブラック(K)の各色のインク滴を吐出する。また、記録ヘッド4は、複数のノズルからなるノズル4nを主走査方向と直交する副走査方向に配置し、滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0030】
記録ヘッド4は、
図4に示すように、それぞれ複数のノズル4nを配列した2つのノズル列Na、Nbを有する。
記録ヘッド4を構成する液体吐出ヘッドとしては、例えば、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータを用いることができる。
一方、用紙10を搬送するために、用紙10を静電吸着して記録ヘッド4に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト12を備えている。この搬送ベルト12は、無端状ベルトであり、搬送ローラ13とテンションローラ14との間に掛け渡されている。
そして、搬送ベルト12は、副走査モータ16によってタイミングベルト17及びタイミングプーリ18を介して搬送ローラ13が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。この搬送ベルト12は、周回移動しながら図示しない帯電ローラによって帯電(電荷付与)される。
更に、キャリッジ3の主走査方向の一方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4の維持回復を行う維持回復機構20が配置され、他方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4から空吐出を行う空吐出受け21がそれぞれ配置されている。
【0031】
維持回復機構20は、例えば、記録ヘッド4のノズル形成面をキャッピングするキャップ部材20a、図示を省略している本発明の液体吐出ヘッドの払拭装置、画像形成に寄与しない液滴を吐出する図示しない空吐出受けなどで構成されている。
また、搬送ベルト12と維持回復機構20との間の記録領域外であって、記録ヘッド4に対向可能な領域には、吐出検知ユニット100が配置されている。一方、キャリッジ3には、吐出検知ユニット100の電極板を清掃する清掃ユニット200が設けられている。
また、キャリッジ3の主走査方向に沿って両側板間に、所定のパターンを形成したエンコーダスケール23を張装し、キャリッジ3にはエンコーダスケール23のパターンを読取る透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ24を設けている。これらのエンコーダスケール23とエンコーダセンサ24によってキャリッジ3の移動を検知するリニアエンコーダ(主走査エンコーダ)を構成している。
また、搬送ローラ13の軸にはコードホイール25を取り付け、このコードホイール25に形成したパターンを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ26を設けている。これらのコードホイール25とエンコーダセンサ26によって搬送ベルト12の移動量及び移動位置を検出するロータリエンコーダ(副走査エンコーダ)を構成している。
【0032】
このように構成した液体吐出装置としてのシリアル型の画像形成装置においては、図示しない給紙トレイから用紙10が帯電された搬送ベルト12上に給紙されて吸着され、搬送ベルト12の周回移動によって用紙10が副走査方向に搬送される。
そこで、キャリッジ3を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド4を駆動することにより、停止している用紙10にインク滴を吐出して1行分を記録する。そして、用紙10を所定量搬送後、次の行の記録を行う。
記録終了信号又は用紙10の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙10を図示しない排紙トレイに排紙する。
また、記録ヘッドの維持回復を行う場合は、印字(記録)待機中にキャリッジを維持回復機構20に移動し、維持回復機構20により清掃を実施する。
【0033】
図3で示した記録ヘッド4は、
図4に示すように、それぞれ複数のノズル4nを配列した2つのノズル列Na、Nbを有する。記録ヘッド4aの一方のノズル列NaはブラックKの液滴を、他方のノズル列NbはシアンCの液滴を吐出する。記録ヘッド4bの一方のノズル列NaはマゼンタMの液滴を、他方のノズル列NbはイエローYの液滴を、それぞれ吐出する。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
払拭部材の各層の層厚、空隙率、及び繊維径は、以下のようにして測定した。
【0035】
-層厚-
払拭部材を光学定盤上に載置し厚さを算出しようとする部位に、直径20mm、厚さ1.5mmのアルミニウム製ディスクを重ね、重ねてから10秒間後の払拭部材の厚さとして計測した。
計測には、レーザー測距センサー(パナソニック株式会社製、HG-C1030)を用いアルミニウム製ディスクの上部から光学定盤表面までの距離を計測し、得られた距離からアルミニウム製ディスクの厚さ1.5mmを差し引いて、払拭部材の厚さを算出した。各層の層厚は、別途積層前の試料を測定することにより、各層の層厚を求めた。
【0036】
-空隙率-
空隙率は、払拭部材を押し当てたときの各層の層厚と面積当たりの重量から払拭部材の各層のかさ密度を算出した。各層の層厚は、上記のようにして測定した。
算出されたかさ密度と、払拭部材の材質の真密度の比から、体積当たりの各層の空隙率を算出した。
【0037】
-繊維径-
払拭部材を構成する各層の繊維径は、対象とする払拭部材の各層の断面又は表面を、オリンパス株式会社製レーザー顕微鏡OLS4100を用いて形状計測を行い、視野内の繊維部分の5箇所から繊維径を求め、それらの平均値を払拭部材の各層の繊維径とした。
【0038】
(実施例1~6及び比較例2)
<払拭部材の作製>
50cm×100cmの試作シートから30mm幅の長さ100cmの評価試料として実施例1~6及び比較例2の払拭部材を以下のようにして作製した。
表1に示す各層の層厚(mm)、空隙率(%)、繊維径(μm)、及び材質にしたがって、ノズル形成面に接触する側から、表面層と、該表面層下に隔離層と、該隔離層下に吸収層をサーマルボンド方式により形成した。
【0039】
(比較例1)
50cm×100cmの試作シートから30mm幅の長さ100cmの評価試料として同様に比較例1の払拭部材を、表1に示す各層の層厚(mm)、空隙率(%)、繊維径(μm)、及び材質にしたがって、ノズル形成面に接触する側から、表面層と、該表面層下に吸収層を、サーマルボンド方式により形成した。
【0040】
(比較例3)
旭化成株式会社製の市販の単層セルロース不織布を試料として用いた。層厚(mm)、空隙率(%)、及び繊維径(μm)は表1に示すとおりであった。また、実施例と同様に30mm幅の長さ100cmの評価試料とした。
【0041】
<払拭性評価>
-印字-
プリンター(IPSiO SG3100、株式会社リコー製)を、縦75mm×横25mm×高さ1mmのテンパックス社製ガラス板に印字ができるように改造した。
印字パターンは50%グレー相当の濃度となるように10mm×10mmの均一面印字を行い、印字した後、室温(25℃)で15時間乾燥した。
【0042】
-払拭方法及び評価-
10℃で15%RH環境下、作製した印字プレートについて各払拭部材を用い、下記の払拭方法で払拭し、印字パターンの除去面積率を数値化した払拭率を求め、下記の評価基準で払拭性を評価した。結果を表1に示した。
[払拭方法]
払拭方法は、
図2に示す液体吐出ヘッドの払拭装置を用い、印字プレートに対して、直径10mm、長さ30mmの半円筒型のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製押し当て部材を用いて払拭部材を3Nの荷重で押し当てながら、50mm/sの速度で移動させることにより3回の払拭を繰り返した。払拭に先立ち洗浄液として50μLのエチレングリコールを払拭部材に滴下した。
[評価基準]
○:払拭率60%以上
△:払拭率20%以上60%未満
×:払拭率20%未満
【0043】
【0044】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動させることにより、前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出装置用払拭部材であって、
前記払拭部材は、前記ノズル形成面に接触する側から、表面層と、該表面層下に隔離層と、該隔離層下に吸収層とを少なくとも有し、
前記表面層の層厚をt(sur)とし、前記隔離層の層厚をt(iso)とし、前記吸収層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たすことを特徴とする液体吐出装置用払拭部材である。
<2> 前記表面層の空隙率をp(sur)とし、前記隔離層の空隙率をp(iso)とし、前記吸収層の空隙率をp(abs)とすると、次式、p(abs)≦p(sur)≦p(iso)、を満たす前記<1>に記載の液体吐出装置用払拭部材である。
<3> 前記表面層の繊維径をd(sur)とし、前記隔離層の繊維径をd(iso)とし、前記吸収層の繊維径をd(abs)とすると、次式、d(abs)≦d(sur)≦d(iso)、を満たす前記<1>から<2>のいずれかに記載の液体吐出装置用払拭部材である。
<4> 液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出ヘッドの払拭装置において、
払拭部材として、前記<1>から<3>のいずれかに記載の液体吐出装置用払拭部材を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの払拭装置である。
<5> 前記液体吐出装置用払拭部材に洗浄液を含浸させて湿潤状態で前記ノズル形成面を払拭する前記<4>に記載の液体吐出ヘッドの払拭装置である。
<6> 液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出ヘッドの払拭方法において、
払拭部材として、前記<1>から<3>のいずれかに記載の液体吐出装置用払拭部材を用い、前記液体吐出装置用払拭部材を前記ノズル形成面に当接させて払拭することを特徴とする液体吐出ヘッドの払拭方法である。
<7> 前記液体吐出装置用払拭部材に洗浄液を含浸させて湿潤状態で前記ノズル形成面を払拭する前記<6>に記載の液体吐出ヘッドの払拭方法である。
<8> 前記<4>から<5>のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの払拭装置を有することを特徴とする液体吐出装置である。
<9> 液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動させることにより、前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出装置用払拭部材であって、
前記払拭部材は、前記ノズル形成面に接触する側から、第1の層と、該第1の層下に第2の層と、該第2の層下に第3の層とを少なくとも有し、
前記第1の層の層厚をt(sur)とし、前記第2の層の層厚をt(iso)とし、前記第3の層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たすことを特徴とする液体吐出装置用払拭部材である。
<10> 液体吐出ヘッドと払拭部材とを相対移動させることにより、前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に付着した液体を払拭する液体吐出装置用払拭部材であって、
前記払拭部材は、前記ノズル形成面に接触する側から、表面層と、該表面層下に隔離層と、該隔離層下に吸収層とを少なくとも有し、
前記払拭部材は、表面層と吸収層との間に、隔離層を有し、前記表面層の層厚をt(sur)とし、前記隔離層の層厚をt(iso)とし、前記吸収層の層厚をt(abs)とすると、次式、t(sur)≦t(abs)≦t(iso)、を満たすことを特徴とする液体吐出装置用払拭部材である。
【0045】
前記<1>から<3>及び<9>から<10>のいずれかに記載の液体吐出装置用払拭部材、前記<4>から<5>のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの払拭装置、前記<6>から<7>のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの払拭方法、及び前記<8>に記載の液体吐出装置によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0046】
4 記録ヘッド
110 液体吐出装置用払拭部材
111 表面層
112 隔離層
113 吸収層
300 液体吐出ヘッドの払拭装置
310 ノズル形成面
320 払拭部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【文献】特開2014-188900号公報
【文献】特開平8-169120号公報