IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許7031490内部電極の乾燥体、導電性ペーストおよび電極シート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】内部電極の乾燥体、導電性ペーストおよび電極シート
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 516
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018097247
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019204824
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】特許業務法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸寿
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-194259(JP,A)
【文献】特開2015-133186(JP,A)
【文献】特開2011-218268(JP,A)
【文献】特開平9-129495(JP,A)
【文献】特開2005-216797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層電子部品製造用の各層の電極シートにおけるグリーンシートの上面に有する、導電性粉末、セラミック粉末、及びバインダ樹脂を含有する内部電極の乾燥体において、前記バインダ樹脂がエステル化澱粉樹脂を含有し、前記内部電極の乾燥体を前記グリーンシートの上面に有する、1層の前記電極シートにおける、50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱したときの貯蔵弾性率が、450MPa以上650MPa以下、損失弾性率が100MPa以上130MPa以下となる、特性を有することを特徴とする内部電極の乾燥体。
【請求項2】
前記バインダ樹脂が、更にエチルセルロース系樹脂、及びポリビニルブチラール樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の内部電極の乾燥体。
【請求項3】
積層電子部品製造用の各層の電極シートにおけるグリーンシートの上面に内部電極の乾燥体を形成するための、導電性粉末、セラミック粉末、バインダ樹脂、有機溶剤、有機添加剤を含有する導電性ペーストにおいて、前記バインダ樹脂がエステル化澱粉樹脂を含有し、前記グリーンシートの上面に前記導電性ペーストからなる前記内部電極の乾燥体が形成された、1層の前記電極シートにおける、50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱したときの貯蔵弾性率が、450MPa以上650MPa以下、損失弾性率が100MPa以上130MPa以下となる、特性を有することを特徴とする導電性ペースト。
【請求項4】
前記バインダ樹脂の総含有量が、導電性ペースト100質量%に対して、1.0質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記バインダ樹脂が、更にエチルセルロース系樹脂およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含有することを特徴とする請求項3又は4に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記セラミック粉末が、ペロブスカイト型酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO)であることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記導電性粉末が、ニッケル、銅および銅ニッケル合金から選ばれる1種以上の粉末であることを特徴とする請求項3~6のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項8】
請求項3~7のいずれかに記載の導電性ペーストを用いて形成された前記内部電極の乾燥体を有することを特徴とする電極シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電子部品製造用の各層の電極シートにおけるグリーンシートの上面に形成される、内部電極の乾燥体、内部電極の乾燥体を形成するための導電性ペースト、および内部電極の乾燥体を有する電極シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子部品の分野では、電子機器の小型・薄型化とともに高機能・高性能化が進むのに伴い、その電子機器に使用される電子部品にも、一層の高機能・小型化が要求されている。
【0003】
そのような一層の高機能・小型化が要求される電子部品としては、例えば、積層セラミックコンデンサ、セラミックインダクタ、セラミックバリスタ等のセラミックチップ部品が該当する。特に積層セラミックコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitor:MLCC)は、移動通信端末、ノートPC、コンピュータ、携帯情報端末などの様々な電子機器に使用される数量の多い汎用的な電子部品である。
【0004】
積層セラミックコンデンサは、「0603サイズ」(0.6mm×0.3mmサイズ)や「0402サイズ」(0.4mm×0.2mmサイズ)等の小型化に加え、数百層を大きく超える高積層化による高容量化が急速に進められてきており、このような小型化・高積層化が、電極層及び誘電体層の薄層化によって具現可能なものとなっている。
【0005】
一般に、積層セラミックコンデンサは、例えば、次の各工程を経由して製造される。
(a)キャリアフィルム上に形成した誘電体層となるグリーンシートの上面に、導電性ペーストを用いて内部電極のパターンを印刷し、乾燥させることにより電極シートを形成する印刷・乾燥工程
(b)キャリアフィルムから電極シートを分離させる剥離工程。
(c)キャリアフィルムから分離した電極シートを所定の層数に積層する積層工程。
(d)電極シートの積層体を所定の圧力で圧着させることにより、圧着体であるグリーンバーを製造する圧着工程。
(e)圧着されたグリーンバーをチップサイズに切断して、チップサイズのグリーンチップを製造する切断工程。
(f)切断したグリーンチップに対し熱処理(脱バインダ及び焼成)を施して、チップを得る焼成工程。
(g)焼成したチップの端面に、めっきなどによる塗布とその後の乾燥により、外部電極を形成する塗布・乾燥工程。
これらの製造工程中一つでも精度が悪い工程があると、製品不良の発生率が高くなり、歩留まりが低下する。
【0006】
従来、上記(e)の切断工程におけるグリーンバーの切断には、回転刃によるダイシング工法が採用されていたが、サイズの小型化に伴いダイシング工法に比べて歩留まりが高い押し切り工法が見直され、採用され始めている。
グリーンバーの切断に押し切り工法を採用することで、歩留まりが向上する理由は、回転刃での切削によるダイシング工法では、回転刃の幅に相当する切削溝を形成して切断するため、グリーンバーにおいて切削溝を形成する分、誘電体層のロスが生じるのに対し、押し切りによる切断では、切断刃による切断溝が発生せず、切断間隔を狭くすることができ、その分、誘電体層のロスが少なくなるため、と考えられる。
【0007】
一般に、押し切り工法による切断にはギロチン刃が用いられる。小型の積層セラミックコンデンサ等の積層電子部品では、電極シートの積層体を圧着した1つのグリーンバーから、小さなグリーンチップが数万個得られる。そのため、グリーンバーを切断する間隔は極めて狭く、切断回数も非常に多くなる。
【0008】
ギロチン刃による切断は、通常50℃以上80℃以下の温度範囲内で行われる。50℃よりも低い温度では、グリーンバーの剛性が高く、押し切りによる切断では、グリーンバーの物性次第で、切断されたグリーンチップにクラックやチッピングが多く発生する虞がある。また、80℃よりも高い温度では、グリーンバーを構成する電極シートの積層体が柔らかくなり過ぎ、切断し難くなる虞がある。そのため、ギロチン刃による切断は、グリーンバーを50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱し、グリーンバーを幾分、柔軟な状態にして行われる。
【0009】
また、グリーンバーの切断に、回転刃によるダイシング工法を用いた場合は、切断工程中、回転刃とグリーンバーとの摩擦による発熱を抑えるために、加工中、冷却水を回転刃にかけ続ける必要があり、グリーンバーが水に濡れるため、グリーンバーを切断後に、切断されたグリーンチップを乾燥させる必要がある。
これに対し、ギロチン刃による押し切り工法を用いた切断の場合は、ギロチン刃が連続的にグリーンバーと接触する時間が少なく、問題となるレベルにまで発熱することがないことから、冷却水をギロチン刃にかける必要がなく、グリーンバーが水に濡れないため、乾燥工程を省略することができる。このような押し切り工法に用いるギロチン刃の技術は、例えば次の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-42911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ギロチン刃による押し切り工法を用いて、グリーンバーを50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱後に切断しても、グリーンチップにクラックやチッピング等の不良が発生する場合があり、回転刃によるダイシング工法を用いた場合の切削ロス以上にグリーンチップの歩留まりが低下したり、外観では確認できない不良が生じ、グリーンチップの信頼性が低下したりするという問題が生じる場合もある。このような問題は、電子部品の小型化に伴い発生頻度がより一層高くなってきている。
【0012】
本発明はこのような問題を鑑みてなされたものであり、積層セラミックコンデンサの製造工程において、グリーンバーをギロチン刃による押し切り工程を用いて切断した場合における、切断されたグリーンチップに発生するクラックやチッピングを極力低減でき、グリーンチップの歩留まりを向上させることの可能な内部電極の乾燥体、内部電極の乾燥体を形成するための導電性ペーストおよび内部電極の乾燥体を有する電極シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者はクラックやチッピングを生じたグリーンチップの発生原因を鋭意研究調査した結果、クラックやチッピングの発生には、ギロチン刃による押し切り工法を用いたグリーンバーの切断加工時における、誘電体層をなすグリーンシートの上面に形成された内部電極の乾燥体部分の剛性が大きく影響していることを見出した。すなわち、切断加工時の加熱により誘電体層が軟化し、グリーンバー全体の剛性は緩和されるものの、内部電極の乾燥体部分は誘電体層をなすグリーンシートに比べて剛性が高く十分に軟化しないため、切断刃が内部電極の乾燥体部分を切断する際に切断応力が増大し、そのストレスにより誘電体層をなすグリーンシートにクラックやチッピングを生じる場合があることを見出した。更に、内部電極の乾燥体部分を切断する際に、内部電極の乾燥体部分が硬すぎると内部電極の乾燥体部分にクラックを生じ、そのクラックを起点として誘電体層をなすグリーンシートにクラックが伝搬する場合があることも見出した。
そこで、本発明者は、ギロチン刃による押し切り工法を用いたグリーンバーの切断加工時における、内部電極の乾燥体部分の剛性に関し、試行錯誤の末、本発明を導出するに至った。
【0014】
本発明による内部電極の乾燥体は、積層電子部品製造用の各層の電極シートにおけるグリーンシートの上面に有する、導電性粉末、セラミック粉末、バインダ樹脂を含有する内部電極の乾燥体において、前記バインダ樹脂がエステル化澱粉樹脂を含有し、前記内部電極の乾燥体を前記グリーンシートの上面に有する、1層の前記電極シートにおける、50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱したときの貯蔵弾性率が、450MPa以上650MPa以下、損失弾性率が100MPa以上130MPa以下となる、特性を有することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の内部電極の乾燥体においては、前記バインダ樹脂が、更にエチルセルロース系樹脂、及びポリビニルブチラール樹脂を含有することが好ましい。
【0016】
また、本発明による導電性ペーストは、積層電子部品製造用の各層の電極シートにおけるグリーンシートの上面に内部電極の乾燥体を形成するための、導電性粉末、セラミック粉末、バインダ樹脂、有機溶剤、有機添加剤を含有する導電性ペーストにおいて、前記バインダ樹脂がエステル化澱粉樹脂を含有し、前記グリーンシートの上面に前記導電性ペーストからなる前記内部電極の乾燥体が形成された、1層の前記電極シートにおける、50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱したときの貯蔵弾性率が、450MPa以上650MPa以下、損失弾性率が100MPa以上130MPa以下となる、特性を有することを特徴としている。
【0017】
また、本発明の導電性ペーストにおいては、前記バインダ樹脂の総含有量が、導電性ペースト100質量%に対して、1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の導電性ペーストにおいては、前記バインダ樹脂が、更にエチルセルロース系樹脂およびポリビニルブチラール樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含有することが好ましい。
【0019】
また、本発明の導電性ペーストにおいては、前記セラミック粉末が、本発明の導電ペーストを印刷する対象部材の構成材料に含まれる酸化物であることが好ましく、その酸化物がペロブスカイト型酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO)であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の導電性ペーストにおいては、前記導電性粉末が、ニッケル、銅および銅ニッケル合金から選ばれる1種以上の粉末であることが好ましい。
【0021】
また、本発明による電極シートは、上記本発明のいずれかの導電性ペーストを用いて形成された前記内部電極乾燥体を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、グリーンバーをギロチン刃による押し切り工程を用いて切断した場合における、切断されたグリーンチップに発生するクラックやチッピングを極力低減でき、グリーンチップの歩留まりを向上させる優れた効果を奏する内部電極の乾燥体、内部電極を形成するための導電性ペーストおよび内部電極の乾燥体を有する電極シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の導電性ペースト、内部電極の乾燥体及び電極シートの実施形態について、具体的に説明する。
【0024】
本実施形態の導電性ペーストは、積層電子部品製造用の各層の電極シートにおけるグリーンシートの上面に内部電極の乾燥体を形成するための導電性ペーストであって、少なくとも導電性粉末、セラミック粉末、バインダ樹脂、有機溶剤、有機添加剤を含有し、バインダ樹脂がエステル化澱粉樹脂を含有する。
【0025】
(バインダ樹脂)
本発明者は、バインダ樹脂にエステル化澱粉樹脂を含有させることで、従来の樹脂成分に比べて、グリーンシートの上面に導電性ペーストからなる内部電極の乾燥体が形成された、電極シートの剛性を低減できることを見出した。更に、エチルセルロース系樹脂や、ポリビニルブチラール系樹脂と組み合わせて使用することで、粘度調整を容易に行うことが可能となり、内部電極の乾燥体形成時の電極シートの剛性もコントロールできることを見出した。本実施形態のバインダ樹脂を含有した導電性ペーストによれば、含有する導電性粉末として微細な導電性粉末を用いた場合であっても、バインダ樹脂量を増やすことなく、グリーンシートの上面への印刷に適した粘度を持たせることができ、しかも、グリーンシートの上面に導電性ペーストからなる内部電極の乾燥体を形成した場合には、各層の電極シートの剛性を、ギロチン刃による押し切り工程を用いたグリーンバーの切断に適した剛性とすることができ、グリーンバーの切断時にグリーンチップの切断面に多大なストレスや損傷を与えずに済む。その結果、本実施形態のバインダ樹脂を含有した導電性ペーストによれば、グリーンバーをギロチン刃による押し切り工程を用いて切断した場合における、切断されたグリーンチップに生じるクラックやチッピングの発生率を極力低減することが可能となる。
【0026】
1.エステル化澱粉樹脂
本実施形態の導電性ペーストに含有する、バインダ樹脂に含有させるエステル化澱粉樹脂に用いられる澱粉としては、天然物由来の代表的な材料である多糖類の澱粉、あるいはアセチル化澱粉などの変性澱粉が挙げられる。澱粉の基本構造はα-D-グルコースが1,4-結合により直鎖状に連結したアミロースと分枝構造を有するアミロペクチンの混合物である。
【0027】
本実施形態の導電性ペーストに含有する、バインダ樹脂に含有させるエステル化澱粉樹脂としては、コーンスターチ、ハイアミローススターチ、小麦澱粉、米澱粉などの地上茎未変性澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などの地下茎未変性澱粉、及びそれらの澱粉のエステル化された澱粉置換誘導体が挙げられる。本実施形態の導電性ペーストに含有する、バインダ樹脂に含有させるエステル化澱粉樹脂に有用な変性澱粉は、澱粉または澱粉分解物に、脂肪族飽和炭化水素基、脂肪族不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基などをエステル結合及び/又はエーテル結合を介して結合させてなる変性澱粉が包含される。ここで、澱粉分解物としては、澱粉に酵素、酸または酸化剤で低分子量化処理を施したものが挙げられる。澱粉または澱粉分解物としては、数平均分子量が1,000~2,000,000、特に3,000~500,000、さらに特に5,000~100,000の範囲内にあることが、造膜性などの点から好ましい。
【0028】
澱粉の変性方法としては、例えば、エステル化変性が挙げられ、好ましい変性基としては炭素数が2以上18以下のアシル基が挙げられる。変性は炭素数が2以上18以下の有機酸を単独でまたは2種以上組み合わせて用いることにより行うことができる。変性澱粉の変性程度は、置換度で0.5以上2.8以下の範囲内が好ましく、特に1.0以上2.5以下の範囲内が好ましい。
変性澱粉の置換度が0.5未満では、形成塗膜の仕上り性が不十分になる場合があり、置換度が2.8を超えると、熱分解性が低下する場合があるので好ましくない。
【0029】
なお、置換度は、澱粉を構成する単糖単位1個あたりの変性剤により置換された水酸基の平均個数であり、例えば、置換度3は澱粉を構成する単糖単位1個中に存在する3個の水酸基が全て変性剤により置換されたことを意味し、置換度1は澱粉を構成する単糖単位1個中に存在する3個の水酸基のうちの1個だけが変性剤により置換されていることを意味する。
【0030】
このようなエステル化澱粉樹脂は、導電性粉末との親和性に優れ、少量の添加で導電性ペーストとして十分な粘性を発揮する。
【0031】
2.エチルセルロース系樹脂
本実施形態の導電性ペーストに含有する、バインダ樹脂に含有させるエチルセルロース系樹脂としては、各種市販のエチルセルロース系樹脂を特に制限することなく用いることができるが、本実施形態においては、特に重量平均分子量が10万以上20万以下のエチルセルロース系樹脂を用いるのが好ましい。
【0032】
エチルセルロース系樹脂の重量平均分子量が低すぎると、ペースト粘度が低下しすぎて、その結果、導電性ペーストの印刷時に、ペーストのたれやにじみ等が発生する虞がある。また、ペースト粘度が低下しすぎると印刷むらが生じて、均一な電極パターンを形成できない虞がある。一方、エチルセルロース系樹脂の重量平均分子量が高すぎると、ペースト粘度が高くなりすぎて、塗工性が低下し、厚みの薄い内部電極層の形成が困難になる虞がある。
【0033】
3.ポリビニルブチラール樹脂
本実施形態の導電性ペーストに含有する、バインダ樹脂に含有させるポリビニルブチラール樹脂としては、各種市販のポリビニルブチラール樹脂を特に制限することなく用いることができるが、本実施形態においては、特にガラス転移点が75℃以下のポリビニルブチラール樹脂を用いるのが好ましい。
ポリビニルブチラール樹脂のガラス転移点が高すぎると、電極シートを積層時の電極シート間の接着性が十分に得られない虞がある。
【0034】
4.バインダ樹脂の総含有量
近年の電子部品の小型化に伴い、微細な導電性粉末の使用が求められている。しかし、微細な導電性粉末を用いると、導電性粉末の合計表面積は、重量が同じであって、粒径がより大きな導電性粉末を用いた場合に比べて増大する。このため、導電性ペースト中のバインダ樹脂の総含有量が一定の場合には、導電性粉末表面積当たりのバインダ樹脂の含有量が減少する。
バインダ樹脂は、導電性粉末とグリーンシートとを接着させる役割を有しているため、導電性粉末表面積当たりのバインダ樹脂の含有量が不十分であると、接着力が低下してしまい、電極シートを積層時に、各電極シートの電極部分の位置ズレや、層間剥離(デラミネーション)などの積層不良が発生する虞がある。また、電極シート積層体の保形力が低下することにより、熱処理(脱バインダ及び焼成)の際に、チップ割れやクラックを発生させる虞もある。
【0035】
このような不具合を解消するためには、導電性ペースト中のバインダ樹脂の総含有量を増やすことで、導電性粉末表面積当たりのバインダ樹脂の含有量の減少を抑え、導電性粉末の表面を十分に被覆し、電極シートを積層時の導電性粉末とグリーンシートとの接着力が十分な強さ有するようにして積層不良等を防止する方法が考えられる。しかしながら、導電性ペースト中のバインダ樹脂の総含有量を増やし過ぎると、脱バインダ処理においてバインダ樹脂を十分に除去することが難しくなり、その後の焼成処理時に過剰に残存するバインダ樹脂を原因とするチップ割れやクラックが増加するという問題が発生する虞がある。
【0036】
しかるに、本実施形態の導電性ペーストによれば、上述のようにエステル化澱粉樹脂を含有するバインダ樹脂を用いたので、微細な導電性粉末を使用した場合であっても、導電性ペースト中のバインダ樹脂の総含有量の増加を抑えることができ、グリーンバーの切断面に多大なストレスや損傷を生じることなく、グリーンチップのクラックやチッピングの発生率を低減することができるだけでなく、グリーンチップを焼成後のチップ割れやクラックの発生を低減することもできる。
また、本実施形態の導電性ペーストにおいて、エステル化澱粉樹脂を含有するバインダ樹脂中に、さらに、エチルセルロース系樹脂やポリビニルブチラール樹脂を含有させると、上述の効果をより容易に得ることができる。
【0037】
また、本実施形態の導電性ペーストにおいては、粘度調整や適度な粘度を得るために、さらに、上述したバインダ樹脂以外のバインダ樹脂を添加しても良い。
【0038】
本実施形態の導電性ペースト中のバインダ樹脂の総含有量は、導電性ペースト100質量%に対して、1.0質量%以上5.0質量%以下である。なお、1.5質量%以上3.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。
バインダ樹脂の総含有量が1.5質量%未満ではスクリーン印刷に適した粘度を得ることが困難となり、一方、3.5質量%を超えると脱バインダ時に残留カーボン量が増え、積層チップのデラミネ-ション、グリーンチップを焼成後のチップ割れやクラックを引き起こす場合があるので好ましくない。
【0039】
(導電性粉末)
本実施形態の導電性ペーストに含有させる導電性粉末としては、一般的な導電性ペーストに用いられる導電性粉末を特に制限することなく用いることができるが、本実施形態においては、電気特性やコストの面から、ニッケル、銅および銅ニッケル合金 から選ばれる1種以上の粉末を用いるのが好ましく、特に、ニッケルを用いるのがより好ましい。
【0040】
本実施形態の導電性ペーストに含有させる導電性粉末の平均粒径は、使用する電子部品のサイズに応じて選定できるが、より小型化の進む電子部品においては、乾燥塗膜の平滑性及び乾燥膜密度を向上させることができる導電性ペーストを得るために、平均粒径が0.03μm以上0.5μm以下の微粉末を用いることが好ましい。
例えば、導電性ペーストに含有させる導電性粉末にニッケル粉末を用いた場合において、ニッケル粉末の平均粒径が0.5μmを超えると、導電性ペーストを用いて形成する内部電極等の層を薄層化するときの成膜性が悪化し、乾燥膜での平滑性も不十分となり、所定の静電容量が得られない虞がある。また、ニッケル粉末は凝集により粗大粒子を生じることがあるため、よりサイズの大きな粗大粒子の混入確率が増大して抵抗破壊電圧(BDV)が下がる不良を発生し易くなる虞がある。また、薄層化に対応する厚さで内部電極等の乾燥膜を形成しようとすると、ニッケル粉末における個々の粒子が大きすぎるため、ニッケル粉末間の空隙なども大きくなり、所望の乾燥膜密度が確保できない虞がある。
しかるに、本実施形態の導電性ペーストに含有させる導電性粉末の平均粒径が0.5μm以下であれば、積層コンデンサの薄層化において連続性に優れた電極膜を形成し易くなる。
導電性ペーストに含有させる導電性粉末の平均粒径が0.03μm未満の場合、導電性粉末の比表面積が大きくなりすぎるため、導電性粉末の表面活性が高くなりすぎ、乾燥、脱バインダ特性に悪影響を及ぼすだけでなく、適正な粘度特性が得られなかったり、導電性ペーストの長期保存中に変質したりする虞がある。
【0041】
なお、本発明において、各種粉末の平均粒径は、特に断らない限りBET法に基づいて比表面積値から算出した値である。算出式は次の通りである。
平均粒径=6/S.A×ρ
(ρ:各粉末の真密度(ニッケルの場合は8.9)、S.A:各粉末の比表面積値)
【0042】
本実施形態の導電性ペースト中における導電性粉末の含有量は、30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。
導電性粉末の含有量が30質量%未満の場合、グリーンチップを焼成後の内部電極等の厚みが著しく薄くなり抵抗値が上昇したり、内部電極等の膜の形成が不十分となり導電性を失い、目的とする静電容量が得られなかったりする虞があるので好ましくない。導電性粉末の含有量が70質量%を上回る場合、十分な粘性を得ることが困難となり、平滑な内部電極等の膜の形成ができず薄層化が困難となる虞があるので好ましくない。
本実施形態の導電性ペースト中における導電性粉末の含有量は、より好ましくは導電性ペースト100質量%に対して、40質量%以上60質量%以下であるのがよい。
【0043】
(セラミック粉末)
本実施形態の導電性ペーストにおいては、焼結抑制剤としてセラミック粉末を添加する。
本実施形態の導電性ペーストに添加するセラミック粉末としては、積層セラミックコンデンサ用の誘電体層グリーンシートの主成分として使用されるセラミック粉末と同組成、あるいは類似の組成であることが好ましい。また、ペロブスカイト型酸化物であるBaTiOなどや、これに種々の添加物を添加したものから選択することがより好ましい。
また、本実施形態の導電性ペーストに添加するセラミック粉末は、固相法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など種々の製法により製造されたセラミック粉末を使用することができる。
【0044】
本実施形態の導電性ペーストに添加するセラミック粉末の粒径は、使用する電子部品のサイズに応じて選定できるが、より小型化の進む電子部品においては、セラミック粉末の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下の範囲とするのが好ましい。
導電性ペーストに添加するセラミック粉末の平均粒径が0.2μmを超えると、乾燥膜密度が低下する虞があるので好ましくない。例えば導電性粉末にニッケル粉末を用いた場合において、乾燥膜を形成する際に、略球状のニッケル粉末粒子が積み重なって形成される隙間にセラミック粉末が充填される状態で乾燥膜が形成される。セラミック粉末の平均粒径が0.2μmを超えると、略球状のニッケル粉末粒子の隙間に入り込み難くなるため、空隙率が上がり所望の乾燥膜密度が得られなくなる虞がある。また、導電性ペーストの焼結開始温度をセラミック層の焼結開始温度まで遅延する効果が弱くなる虞もある。また、セラミック粉末の平均粒径が0.01μm未満の場合、単に空隙に存在するだけで導電性ペーストの焼結遅延効果が十分に発揮されず、デラミネーションやクラックなどの構造欠陥が生じる虞があるので好ましくない。上述の乾燥膜密度の低下により誘電体層の薄層化が困難になったり、セラミック粉末の凝集により生じる凸部に内部電極等の層が形成されることにより内部電極等の層間の距離が短くなる場所が発生し絶縁抵抗の低下やショート率の上昇などコンデンサの信頼性が悪化したりするという問題が発生する虞がある。
【0045】
なお、本発明において、セラミック粉末の平均粒径も、上述した通りBET法に基づいて比表面積値より算出した値である。計算に用いるチタン酸バリウムの真密度ρは6.1である。
【0046】
また、実施形態の導電性ペーストに添加するセラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して3質量部以上25質量部以下が好ましい。より好ましくは導電性粉末100質量部に対して5質量部以上15質量部以下であるのがよい。
セラミック粉末の含有量が3質量部未満では、導電性粉末の焼結を制御できず、内部電極層と誘電体層の焼結収縮挙動の不一致が顕著になる虞があるので好ましくない。一方、セラミック粉末の含有量が25質量部を超えると、内部電極層中の過剰なセラミック粉末が誘電体層中のセラミック粒子と焼結してしまい、誘電体層の厚みが必要以上に厚くなってしまったり、誘電体層の組成のずれが生じたりするため、誘電率の低下等の電気特性に悪影響を及ぼす虞があるので好ましくない。また、セラミック粉末の含有量が3質量部より少ないと、導電性粉末同士の焼結を遅延させる効果が十分発揮されずに、内部電極の焼結が低温から始まってしまい、内部電極層と誘電体層との焼結開始温度の差により生じる応力を緩和することができなくなり、焼成クラックが発生してしまう虞があるので好ましくない。
【0047】
(有機溶剤)
本実施形態の導電性ペーストにおいては、導電性ペーストの粘度調整や適度な粘度特性などを付与するために、有機溶剤を添加する。
本実施形態の導電性ペーストに添加する有機溶剤としては、一般的な導電性ペーストに使用されているものを用いることができ、例えば、ターピネオール(α、β、γおよびこれらの混合物)、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、ターピニルアセテート、イソボニルアセテート、イソボニルプロピネート、イソボニルブチレート、イソボニルイソブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が使用できる。
【0048】
(その他の添加剤)
本実施形態の導電性ペーストにおいては、分散剤として有機添加剤を添加する。
本実施形態の導電性ペーストに添加する有機添加剤としては、特に限定されるものではなく、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性界面活性剤、高分子系分散剤等、導電性粉末やセラミック粉末をバインダ樹脂及び有機溶剤中に凝集することなく、微細化した状態で安定に分散させうる有機添加剤であればよく、一般的な導電性ペーストに用いられている公知の分散剤を使用することができる。これらの分散剤は1種または2種以上組み合わせて用いても良い。特に、上記有機添加剤の内、アニオン系分散剤とノニオン系分散剤を併用して添加することが好ましい。アニオン系分散剤は、帯電しているため、導電性粉末やセラミック粉末等の無機材料表面への吸着力が大きく、優先的に無機材料表面に物理吸着し、無機材料表面を改質することにより導電性ペースト内の無機材料の分散性を効率的に上げることができると考えられる。ノニオン系分散剤は親水基と疎水基を有し、無機材料に化学吸着することで表面改質を行っている。また、ノニオン系分散剤は、他の分散剤などと、併用して用いることができ、安定性が良く、アニオン系分散剤との併用により、より高い分散性を示すことができるため、塗膜の平滑性や乾燥膜密度を向上させることができる。
【0049】
本実施形態の導電性ペーストに添加する分散剤の数平均分子量は、200以上20,000以下が好ましい。より好ましくは300以上10,000以下であるのがよい。
導電性ペーストに添加する分散剤の数平均分子量が200より小さいと、導電性粉末やセラミック粉末等の無機材料の粒子が十分な静電反発力を得られず、粒子の分散性や保存安定性が低下する虞がある。通常、分散剤が導電性粉末やセラミック粉末等の無機材料の粒子表面に吸着して分散剤の吸着層を形成し、静電反発力や立体的反発力を粒子に付与することで、分散性に優れたペーストが得られる。しかし、時間の経過とともに粒子同士の衝突により、吸着層の反発力より勝って粒子同士が凝集すると考えられるため、導電性ペーストに添加する分散剤の数平均分子量は200以上が良い。また、導電性ペーストに添加する分散剤の数平均分子量が20,000より大きいと、有機ビヒクル及び有機溶剤との相溶性が低下したり、導電性粉末やセラミック粉末等の無機材料の粒子同士の凝集を招いたり、分散性・保存安定性の低下を引き起こす虞がある。また、ペースト粘度が高くなる虞もある。
【0050】
また、本実施形態の導電性ペーストに添加する分散剤の含有量は、分散対象である導電性粉末やセラミック粉末等の無機材料の総含有量100質量部に対して、合計で0.01質量部以上2.00質量部以下が好ましく、0.20質量部以上1.00質量部以下が更に好ましい。
本実施形態の導電性ペーストに添加する分散剤の含有量が0.01質量部未満では、十分な分散性が得難くなるので好ましくない。一方、2.00質量部を越えると乾燥性が悪くなり、乾燥膜密度が低下する等の虞があるので好ましくない。
【0051】
本実施形態の導電性ペーストにおいては、さらに、必要に応じて消泡剤、可塑剤、増粘剤、キレート剤など、一般的な導電性ペーストで使用されている公知の添加物を加えることもできる。
【0052】
(導電性ペーストの製造方法)
本実施形態の導電性ペーストの製造には、一般的な導電性ペーストを製造する際に用いられている3本ロールミルや、ボールミルなどの公知の製造方法を用いることができる。
導電性ペーストの印刷(塗布)方法は、特に限定されることがなく公知のスクリーン印刷等を用いることができる。
【0053】
(内部電極の乾燥体及び電極シート)
本実施形態の導電性ペーストを用いて、グリーンシート上面に電極パターンを印刷し、乾燥することにより、本実施形態の内部電極の乾燥体及び内部電極の乾燥体を有する電極シートを得ることができる。本実施形態の電極シートの積層体を圧着して得たグリーンバーは、ギロチン刃やナイフなどで切断した際に、切断されたグリーンチップにクラックやチッピングが発生するのを抑制できる。
【0054】
本実施形態の内部電極の乾燥体は、エステル化澱粉樹脂を含有し、1層の電極シートにおいて、切断時の加熱温度である50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱したときの貯蔵弾性率が、450MPa以上650MPa以下となる、特性を有する。
貯蔵弾性率が650MPaを超えると、電極シートが必要以上に硬くなり、グリーンバーをギロチン刃やナイフなどで切断した際に、切断されたグリーンチップにクラックやチッピングの発生を抑制することが困難になる場合があるので好ましくない。一方、貯蔵弾性率が450MPa未満になると、電極シートが粉体に近い脆体となり、小さな衝撃でも割れ易くなってしまう場合があるので好ましくない。
【0055】
また、本実施形態の内部電極の乾燥体は、エステル化澱粉樹脂を含有し、1層の電極シートにおいて、切断時の加熱温度である50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度に加熱したときの損失弾性率が、100MPa以上130MPa以下となる、特性を有する。
損失弾性率が130MPaを超えると、切断されたグリーンチップ同士が吸着し易くなってしまう場合があるため好ましくない。一方、損失弾性率が100MPa未満になると、電極シートの可塑性が低下し、電極シートを積層させて圧着しても、電極シート同士が接着され難くなってしまう場合があるので好ましくない。
【0056】
なお、貯蔵弾性率(Storage Modulus)は、動的粘弾性測定装置(Dynamic Mechanical Analyzer:通称DMA)にて測定した値であり、「所定の温度のセラミックグリーンシートの硬さ」を表す値である。また、損失弾性率(lossModulus)も、DMAにて測定される値であり、「所定の温度の電極シートの軟らかさ」を表す値である。
【0057】
(電極シートの作製)
本実施形態の電極シートの作製には、積層セラミックコンデンサを製造する際の一般的な製造方法を適用することができる。すなわち、導電性ペーストをスクリーン印刷によりグリーンシートに塗布して電極パターンを作製し、その後、加熱乾燥して溶剤を除去し、所定の電極パターンを有する導電性ペーストの乾燥膜を形成することができる。このとき、スクリーンパターンの厚みを変更することによって、導電性ペーストによる印刷膜の厚みを制御し、その後、乾燥して得られる乾燥膜の厚みをコントロールすることができる。
【実施例
【0058】
以下、本発明をより具体的な実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明の範囲は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
(実施例および比較例)
導電性ペーストを3本ロールにより製造し、このペーストをグリーンシートに塗布し乾燥させて得た電極シートの評価指標として、DMA測定により貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)を測定した。また、切断性評価指標として脱バインダ処理前の積層体(グリーンバー)を切断した際に発生したクラックやチッピングをカウントし不良率を算出した。
【0060】
(1)導電性ペーストの製造
導電性ペーストの材料として、導電性粉末に関しては平均粒径0.2μmのニッケル粉末、セラミック粉末に関しては平均粒径0.05μmのチタン酸バリウム粉末、有機ビヒクル用の樹脂に関しては変性置換度2.3のエステル化澱粉樹脂とエチルセルロース(EC)樹脂とポリビニルブチラール(PVB)樹脂、有機溶剤に関してはターピネオール、有機添加剤に関しては分子量が約350のアミノ酸系分散剤、を夫々準備した。まず、有機ビヒクル用の樹脂を、作製する導電性ペースト100質量%に対して、表1に示す割合でそれぞれ準備し、合計量が40質量%の有機ビヒクルとなるように有機溶剤と混合し、実施例、比較例の夫々の有機ビヒクルを作成した。次に、導電性ペースト100質量%に対して、導電性粉末が50質量%、セラミック粉末が5質量%、有機ビヒクルが40質量%、有機添加剤が0.5質量%、更に、有機溶剤が4.5質量%となる割合で夫々混合し、導電性ペーストを作製した。
【0061】
(2)弾性率の評価
誘電体材料としてチタン酸バリウムを用いたグリーンシートを40mm×6mm×0.02mmのサイズで作製し、グリーンシートの中央部20mmの長さでグリーンシート幅全面を覆うようにして、乾燥時の内部電極の膜厚が5μmになるように導電性ペーストを印刷し、乾燥させて弾性率評価用の1層の電極シートを得た。
上記方法で作製した評価用の1層の電極シートの内部電極の乾燥体部分の両端部をチャッキングし、所定の動的粘弾性装置を用いて下記条件にてDMA(Dynamic Mechanical Analysis)法を用いて、50℃以上80℃以下の温度範囲内の所定温度として、80℃に加熱したときの貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)を求めた。
得られた夫々の値を表1に示す。
<DMA測定条件>
測定温度:25℃~150℃
昇温速度:5℃/min
周波数:1Hz
歪み量:0.05%
測定モード:引張振動
【0062】
(3)グリーンバーの切断評価
上述のように製造した導電性ペーストを、厚さ4μmの生の誘電体グリーンシート上に印刷して、電極パターンが印刷された電極シートを形成した。形成した電極シートを乾燥した後、乾燥させた電極シートを10層積み重ねて圧着し、評価用のグリーンバーを製造した。評価用のグリーンバーを80℃に加熱した状態で、実際の積層セラミックコンデンサを製造する場合と同様に、形成した電極パターンを分断するように切断した。このような製造手法を用いて、3.2mm×1.6mmサイズのグリーンチップを1000個作製した。実施例、比較例の評価用のグリーンバーごとに、切断して作製した夫々1000個のグリーンチップの外観検査を行い、クラックやチッピングが発生しているグリーンチップの個数、および切断したグリーンチップ同士が吸着してしまい、ばらばらの個片にできなかった個数をカウントし、製品として適さない個数を不良率として算出した。算出した不良率を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、1層の電極シートにおける80℃に加熱したときの貯蔵弾性率が450MPa以上650MPa以下で、かつ損失弾性率が100MPa以上130MPa以下の範囲に含まれる特性を有する電極シートを10層積み重ねて圧着し、製造した実施例1~5のグリーンバーは、グリーンバーを80℃に加熱し切断してグリーンチップを作製したときのグリーンチップの不良率が1.0%未満となりクラックやチッピングの発生、およびグリーンチップ同士の吸着の発生が少ないことが認められる結果となった。特に、実施例4のグリーンバーでは、グリーンバーを80℃に加熱し切断してグリーンチップを作製したときのグリーンチップの不良率は0.4%と非常に低い値となった。
【0065】
これに対し、比較例1、4のグリーンバーは、1層の電極シートにおける80℃に加熱したときの貯蔵弾性率と損失弾性率のいずれの値も本発明の範囲(貯蔵弾性率が450MPa以上650MPa以下で、かつ損失弾性率が100MPa以上130MPa以下)の下限よりも低く、グリーンバーを80℃に加熱し切断してグリーンチップを作製したときのグリーンチップにクラックやチッピングが多く発生し、不良率が1%を上回る値となった。特に、1層の電極シートにおける80℃に加熱したときの貯蔵弾性率と損失弾性率の値が比較例4よりも低い比較例1のグリーンバーは、グリーンバーを80℃に加熱し切断してグリーンチップを作製したときのグリーンチップの不良率が3.4%と非常に高く、クラックやチッピングが起き易くなっていることが認められる結果となった。また、比較例2、3のグリーンバーは、層の電極シートにおける80℃に加熱したときの貯蔵弾性率と損失弾性率の値が本発明の範囲の上限よりも高く、80℃に加熱し切断した後のグリーンチップ同士の吸着が発生し不良率が高い値となった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電極層及び誘電体層が薄層化された、電極シートが積層・圧着されたグリーンバーをギロチン刃によって切断することによって、小型化・高積層化された積層セラミックコンデンサ製造用のグリーンチップを製造することが求められている分野に有用である。