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特許7031590エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット群および多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット群および多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20220301BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20220301BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K3/11
C08L29/04 S
B32B27/30 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018534184
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024303
(87)【国際公開番号】W WO2019004255
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017124964
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 眞太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
(72)【発明者】
【氏名】池下 美奈子
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-131376(JP,A)
【文献】特開2001-098122(JP,A)
【文献】特開2016-029157(JP,A)
【文献】特開平09-077948(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08K 3/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン構造単位の含有量が異なる2種以上のエチレン-ビニルアルコール系共重合体を有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)と鉄化合物(B)とを含有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、上記鉄化合物(B)の含有量がエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~5ppmであることを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)のエチレン構造単位の含有量が、20~60モル%であることを特徴とする請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
上記エチレン構造単位の含有量が異なる2種以上のエチレン-ビニルアルコール系共重合体を有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)における、最もエチレン構造単位の含有量が高いエチレン-ビニルアルコール系共重合体と、最もエチレン構造単位の含有量が低いエチレン-ビニルアルコール系共重合体とのエチレン構造単位の含有量の差が、2モル%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項4】
上記エチレン構造単位の含有量が異なる2種以上のエチレン-ビニルアルコール系共重合体を有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)が、エチレン構造単位の含有量が35モル%未満のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A1)と、エチレン構造単位の含有量が35モル%以上のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A2)を少なくとも有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項5】
上記エチレン構造単位の含有量が35モル%以上のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A2)に対する上記エチレン構造単位の含有量が35モル%未満のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A1)の重量配合比率が、エチレン構造単位の含有量が35モル%未満のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A1)/エチレン構造単位の含有量が35モル%以上のエチレン-ビニルアルコール系共重合体(A2)=90/10~10/90であることを特徴とする請求項記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなることを特徴とするペレット群。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を備えることを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称する。)を主成分とするEVOH樹脂組成物、EVOH樹脂組成物からなるペレット群および多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、着色が抑制され、熱安定性に優れたEVOH樹脂組成物、EVOH樹脂組成物からなるペレット群および、かかるEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂、とりわけ、エチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物は、ガスバリア性、機械的強度等の諸性質に優れていることから、フィルム、シート、容器、繊維等の各種用途に多用されている。
【0003】
EVOH樹脂は、エチレン構造単位の含有量(以下、「エチレン含有量」と称する。)が高い程、延伸性が優れる傾向にある。一方、エチレン含有量が高くなるほど(ビニルアルコール構造単位の含有量(以下、「ビニルアルコール含有量」と称する。)が低くなるほど)、ガスバリア性が低下する。ガスバリア性と延伸性との両立のために、ビニルアルコール含有量が高い(換言するとエチレン含有量が低く、ケン化度が高い)EVOH樹脂と、ビニルアルコール含有量が低い(換言すると、エチレン含有量が高く、ケン化度が低い)EVOH樹脂とを併用することが提案されている。
【0004】
例えば、特開昭63-230757号公報(例えば、特許文献1参照)は、エチレン含有量、ケン化度が異なるEVOH樹脂を併用した組成物を提案している。特許文献1では、併用する2種類のEVOH樹脂のエチレン含有量の差が4モル%以上、ケン化度の差が3モル%以上であり、さらに溶解度パラメータの差が所定以上のEVOH樹脂組成物を中間層とし、ポリスチレン層と積層した積層体を真空圧空成形した成形品は、透明性、外観に優れ、クラック、偏肉がなく、ガスバリア性も優れていると記載されている。
【0005】
特開平8-311276号公報(例えば、特許文献2参照)には、エチレン含有量の差が3~20モル%の2種類のEVOH樹脂を含有し、特定のホウ素濃度を有するEVOH樹脂組成物が開示されている。当該EVOH樹脂組成物を中間層とし、接着性樹脂層を介してポリプロピレン層を積層した積層フィルムは、加熱延伸(縦方向に4倍の延伸、横方向に6倍の延伸の順)しても、白化、スジ等の延伸ムラは認められないことが開示されている。
【0006】
上記技術を用いて、各種の成形品を製造するためには、押出成形、射出成形のような溶融成形が行われるが、EVOH樹脂組成物を溶融成形する際には、熱劣化が生じやすい。特にこのような異なるEVOH樹脂を使用する方法では、異なる融点を有するEVOH樹脂を単一の温度で溶融成形するため、融点の低いEVOH樹脂に熱劣化が生じやすく、着色が生じやすい傾向があった。
【0007】
このような異なるEVOH樹脂を使用する際に生じる着色を改善する方法として、例えば、窒素雰囲気下、220℃、50時間熱処理後に測定した分子量が特定の条件を満たすEVOH樹脂を用いる技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、上記特定の条件を満たすEVOH樹脂を製造するためには各種製造条件を調整する必要があり、より容易な改善方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭63-230757号公報
【文献】特開平8-311276号公報
【文献】特開2016-29157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明ではこのような背景下、融点の異なる2種以上のEVOH樹脂を含有する樹脂組成物において、熱処理後でも着色が抑制され、熱安定性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、エチレン含有量の異なる2種以上のEVOH樹脂を含有する樹脂組成物において、特定微量の鉄化合物を配合することにより、熱処理後でも着色が抑制されたEVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有するEVOH樹脂(A)と鉄化合物(B)とを含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(B)の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~5ppmであるEVOH樹脂組成物を第1の要旨とする。また、本発明は、上記EVOH樹脂組成物からなるペレット群を第2の要旨とし、さらにEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のEVOH樹脂組成物は、エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有するEVOH樹脂(A)と鉄化合物(B)とを含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(B)の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~5ppmであるため、熱処理後でも着色が抑制され、また熱安定性に優れる。
【0013】
また、上記エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有するEVOH樹脂(A)における、最もエチレン含有量が高いEVOH樹脂と、最もエチレン含有量が低いEVOH樹脂とのエチレン含有量の差が、2モル%以上であると、より着色が抑制され、熱安定性に優れる。
【0014】
上記エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有するEVOH樹脂(A)が、エチレン含有量が35モル%未満のEVOH樹脂(A1)と、エチレン含有量が35モル%以上のEVOH樹脂(A2)を少なくとも有すると、より一層着色が抑制され、熱安定性に優れる。
【0015】
さらに、エチレン含有量が35モル%以上のEVOH樹脂(A2)に対する上記エチレン含有量が35モル%未満のEVOH樹脂(A1)の重量配合比率が、エチレン含有量が35モル%未満のEVOH樹脂(A1)/エチレン含有量が35モル%以上のEVOH樹脂(A2)=90/10~10/90であると、より一層着色が抑制され、熱安定性に優れる。
【0016】
本発明のEVOH樹脂組成物からなるペレット群は、着色が抑制され、熱安定性に優れることから、各種成形物として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料として好適に用いることができる。
【0017】
本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、品質が良好であるため、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料として特に有用である。
【0018】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に限定されるものではない。
<EVOH樹脂組成物>
本発明のEVOH樹脂組成物は、エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有するEVOH樹脂(A)を主成分とし、さらに鉄化合物(B)を含有するものである。本発明のEVOH樹脂組成物は、ベース樹脂がEVOH樹脂(A)である。すなわち、EVOH樹脂組成物におけるEVOH樹脂(A)の含有量は、通常70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上であり、特に好ましくは95重量%以上である。以下、各成分について順に説明する。
【0019】
[EVOH樹脂(A)]
EVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。そして、本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有するものである。なお、上記EVOH樹脂のエチレン含有量は、ISO14663に基づいて測定した値を意味する。
【0020】
上記EVOH樹脂(A)は、最もエチレン含有量の高いEVOH樹脂と、最もエチレン含有量の低いEVOH樹脂におけるエチレン含有量の差が、2モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは2~25モル%、より好ましくは4~20モル%、特に好ましくは5~18モル%である。かかるエチレン含有量の差が小さすぎる場合には、成形性とガスバリア性のバランス保持が困難となる傾向があり、大きすぎる場合には互いの相溶性が低下する傾向がある。
【0021】
上記のEVOH樹脂(A)が有する2種類以上のEVOH樹脂のエチレン含有量の差は、融解ピーク温度を測定することにより求めることができる。すなわち、一般的にEVOH樹脂のエチレン含有量は、EVOH樹脂の融点と相関するため、本発明のEVOH樹脂組成物の融解ピーク温度を測定することにより、EVOH樹脂(A)に含まれている2種類以上のEVOH樹脂のエチレン含有量をそれぞれ算出することができる。なお、かかる融解ピーク温度とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、-50℃~230℃まで10℃/分で昇温し、230℃~-50℃まで10℃/分で降温し、再び-50℃~230℃まで10℃/分で昇温したときに測定されるピークの温度を意味する。
【0022】
本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、かかる測定方法にて得られる融解ピークの温度差が、通常3℃以上であり、好ましくは3℃~40℃であり、より好ましくは10℃~35℃、特に好ましくは20℃~30℃である。かかる温度差が小さすぎる場合には、成形性とガスバリア性のバランス保持が困難となる傾向があり、大きすぎる場合には互いの相溶性が低下する傾向がある。
【0023】
上記EVOH樹脂(A)が有するエチレン含有量が異なるEVOH樹脂の種類数は、通常、2~4種類であり、好ましくは2~3種類であり、特に好ましくは2種類である。かかる種類数が大きくなるほど生産性や経済性が低下する傾向がある。
【0024】
また、本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、エチレン含有量が35モル%未満のEVOH樹脂(A1)(以下、「EVOH樹脂(A1)」と称する。)と、エチレン含有量が35モル%以上のEVOH樹脂(A2)(以下、「EVOH樹脂(A2)」と称する。)を少なくとも有することが、熱処理後の着色を抑制する観点から好ましい。
【0025】
上記EVOH樹脂(A1)は、エチレン含有量が通常35モル%未満であり、好ましくは20~34モル%であり、より好ましくは22~34モル%、特に好ましくは25~33モル%である。エチレン含有量が低すぎる場合、分解温度と融点が接近しすぎて樹脂組成物の溶融成形が困難になる傾向があり、逆に高すぎる場合は、EVOH樹脂(A1)によるガスバリア性付与効果が不足する傾向がある。
【0026】
一方、上記EVOH樹脂(A2)のエチレン含有量は、通常35モル%以上であり、好ましくは35~60モル%、より好ましくは37~56モル%である。エチレン含有量が低すぎる場合は、EVOH樹脂(A2)による延伸性の改善効果が小さいため、結果として二次成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、エチレン含有量の差を所定範囲内にするために、他のEVOH樹脂(A1)としてエチレン含有量の高いものを選定せざるを得ず、結果としてEVOH樹脂組成物層のガスバリア性が不足することになる。
【0027】
なお、上記EVOH樹脂(A1)およびEVOH樹脂(A2)のエチレン含有量は、ISO14663に基づいて測定した値である。
【0028】
また、EVOH樹脂(A1)におけるビニルエステル成分のケン化度は、通常90モル%以上、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは98~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には、EVOH樹脂(A1)によるガスバリア性付与効果が不足する傾向がある。
【0029】
一方、EVOH樹脂(A2)におけるビニルエステル成分のケン化度は、通常90モル%以上、好ましくは93~100モル%、特に好ましくは98~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはEVOH樹脂(A2)によるガスバリア性付与効果が不足する傾向がある。
【0030】
なお、上記EVOH樹脂(A1)およびEVOH樹脂(A2)のビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる。)に基づいて測定した値である。
【0031】
EVOH樹脂(A1)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常1~100g/10分であり、好ましくは3~50g/10分、特に好ましくは3~10g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には押出加工性が低下する傾向がある。
【0032】
EVOH樹脂(A2)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常1~100g/10分であり、好ましくは3~50g/10分、特に好ましくは3~30g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には押出加工性が低下する傾向がある。
【0033】
なお、EVOH樹脂(A1)とEVOH樹脂(A2)との組み合わせについては、溶融成形時の樹脂流れ性が同程度となるように、MFR(210℃、荷重2160g)の差(ΔMFR)が5g/10分以下とすることが好ましく、より好ましくは1g/10分以下である。EVOH樹脂のMFRは、通常、ケン化度等を調整することにより調整することができる。
【0034】
EVOH樹脂(A)におけるEVOH樹脂(A1)とEVOH樹脂(A2)との含有割合は、EVOH樹脂(A1)とEVOH樹脂(A2)との合計で、通常50重量%以上であり、好ましくは70重量%以上であり、特に好ましくは90重量%以上である。
【0035】
また、上記EVOH樹脂(A2)に対する上記EVOH樹脂(A1)の重量配合比率(EVOH樹脂(A1)/EVOH樹脂(A2))は、通常90/10~10/90、好ましくは90/10~50/50であり、より好ましくは88/12~60/40、特に好ましくは85/15~70/30である。EVOH樹脂(A1)の比率が小さすぎる場合には、EVOH樹脂組成物層のガスバリア性が不足する傾向があり、EVOH樹脂(A1)の比率が大きすぎる場合には、EVOH樹脂(A2)による延伸改善効果が低下する傾向がある。
【0036】
このようなエチレン含有量が異なるEVOH樹脂は、例えば、以下のようにして得ることができる。
【0037】
上述したようにEVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0038】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0039】
このようにして製造されるEVOH樹脂は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0040】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0041】
EVOH樹脂におけるエチレン含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、これによりエチレン含有量の異なったEVOH樹脂を製造することができる。
【0042】
また、本発明で用いるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂の20モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
【0043】
上記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0044】
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH樹脂が好ましく、特には、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。特に、側鎖に1級水酸基を有する場合、その含有量は、EVOH樹脂の通常0.1~20モル%、さらには0.5~15モル%、特には1~10モル%が好ましい。
【0045】
また、本発明で用いるEVOH樹脂としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0046】
本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、以上のようにして得られるEVOH樹脂から選択される、エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有する。
【0047】
上記EVOH樹脂(A)のエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~48モル%である。かかる含有量が少なすぎると、ガスバリア性用途の場合、高湿時のガスバリア性、延伸性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0048】
また、上記EVOH樹脂(A)のビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる。)に基づいて測定した値で、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは98~100モル%である。かかるケン化度が低すぎるとガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0049】
さらに、上記EVOH樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは2~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎると、成膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎると、粘度が高くなり過ぎて溶融押出が困難となる傾向がある。
【0050】
[鉄化合物(B)]
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記エチレン含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を有するEVOH樹脂(A)に加え鉄化合物(B)を含有し、かつ鉄化合物(B)の配合量が特定微量であることを特徴とする。本発明のEVOH樹脂組成物は、上記のような構成を有するため、着色を抑制することができ、熱安定性に優れる。
【0051】
一般的にEVOH樹脂は、熱劣化によって着色が発生する。これは、熱によりEVOH樹脂が有する水酸基が脱水し、EVOH樹脂の主鎖に二重結合が生成し、かかる部位が反応起点となり脱水が促進され、共役ポリエン構造を形成するためと考えられる。
【0052】
また、鉄化合物(B)を含有するEVOH樹脂組成物は、鉄イオンにより製品が着色すると考えられるため、当業者であれば通常避けるものである。しかしながら本発明では、予想外にも、微量の鉄化合物(B)をEVOH樹脂組成物に含有させることにより、熱処理後の着色が抑制され、熱安定性に優れたEVOH樹脂組成物を得られることを見出した。
【0053】
上記のような効果が得られる理由としては、鉄は3価のイオンとして安定であるため、微量であっても上記の様な水酸基やカルボキシル基等の複数の官能基とイオン結合やキレートを形成し、安定化して上記脱水の抑制が可能となったものと推測される。
【0054】
なお、かかる鉄化合物(B)は、EVOH樹脂組成物中で、例えば、酸化物、水酸化物、塩化物、鉄塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。上記酸化物としては、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等があげられる。上記塩化物としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄等があげられる。上記水酸化物としては、例えば、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等があげられる。上記鉄塩としては、例えば、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0055】
EVOH樹脂組成物における分散性の点で、鉄化合物(B)は水溶性であることが好ましい。また、分散性と生産性の観点から、その分子量は通常100~10000、好ましくは100~1000、特に好ましくは100~500である。
【0056】
本発明のEVOH樹脂組成物は、鉄化合物(B)の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~5ppmである。かかる鉄化合物の含有量は、好ましくは0.05~3ppm、特に好ましくは0.3~1.5ppmである。鉄化合物(B)の含有量が少なすぎると着色抑制効果が不充分となり、逆に多すぎると熱安定性が悪化する。
【0057】
ここで、鉄化合物(B)の含有量は、EVOH樹脂組成物0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)後、残った灰分を酸溶解し純水で定容したものを試料溶液として、ICP-MS(Agilent Technologies社製、7500ce型;標準添加法)で測定することにより求めることができる。
【0058】
[他の熱可塑性樹脂]
本発明のEVOH樹脂組成物には、EVOH樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂組成物の通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下)にて含有することができる。
【0059】
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、具体的には、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0060】
[その他の配合剤]
また、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。例えば、無機複塩(例えば、ハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えば、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス-サリチルアルデヒド-イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト-シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン-コバルト錯体等の含窒素化合物と鉄以外の遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等の有機化合物系酸素吸収剤;窒素含有樹脂と鉄以外の遷移金属との配位結合体(例えば、メタキシレンジアミン(MXD)ナイロンとコバルトとの組合せ)、三級水素含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトとの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリブタジエンとコバルトとの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えば、ポリケトン)、アントラキノン重合体(例えば、ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物捕捉剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば、無機フィラー等)等を配合してもよい。なかでも、着色を抑制する観点から、酸素吸収剤が好ましく、特にはテルペン化合物が好ましく用いられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0061】
[EVOH樹脂組成物の製造方法]
本発明のEVOH樹脂組成物は、エチレン含有量が異なるEVOH樹脂を混合して、EVOH樹脂(A)を製造する工程、EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)に鉄化合物(B)を含有させる工程を経ることにより製造することができる。
【0062】
上記エチレン含有量が異なるEVOH樹脂を混合して、EVOH樹脂(A)を製造する工程における混合方法としては、例えば、ドライブレンド(ペレットブレンド)法、溶融混合(コンパウンド)法、溶液混合法等の公知の方法があげられる。
【0063】
上記ドライブレンド(ペレットブレンド)法としては、例えば、(I)エチレン含有量が異なるEVOH樹脂のペレットを、タンブラー等を用いて混合する方法等があげられる。
【0064】
上記溶融混合(コンパウンド)法としては、例えば、(II)エチレン含有量が異なるEVOH樹脂を二軸押出機等で溶融混練し、ペレット化する方法等があげられる。
【0065】
上記溶液混合法としては、例えば、(III)EVOH樹脂(A)を溶媒に溶解して混合し、得られた溶液をストランド法、ホットカット法、水中カット法等の公知の手法により成形してペレットとし、得られたペレットを乾燥する方法や、(IV)エチレン含有量が異なるエチレン-ビニルエステル系共重合体を溶媒に溶解して混合し、かかる溶液をケン化し、得られたEVOH樹脂(A)の溶液をストランド法、ホットカット法、水中カット法等の公知の手法により成形してペレットとし、得られたペレットを乾燥する方法等があげられる。
【0066】
また、上記EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)に鉄化合物(B)を含有させる工程における、EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)に鉄化合物(B)を含有させる方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法等があげられ、これらを任意に組み合わせることも可能である。
【0067】
上記ドライブレンド法としては、例えば、(i)EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)のペレットと鉄化合物(B)とをタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0068】
上記溶融混合法としては、例えば、(ii)EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)のペレットと鉄化合物(B)とのドライブレンド物を溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法や、(iii)溶融状態のEVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)に鉄化合物(B)を添加して溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法等があげられる。
【0069】
上記溶液混合法としては、例えば、(iv)市販のEVOH樹脂のペレットを用いて溶液を調製し、ここに鉄化合物(B)を配合し、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法等や、(v)EVOH樹脂の製造過程で、EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に鉄化合物(B)を含有させた後、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0070】
上記含浸法としては、例えば(vi)EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)のペレットを、鉄化合物(B)を含有する水溶液と接触させ、EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)のぺレット中に鉄化合物(B)を含有させた後、乾燥する方法等をあげることができる。
【0071】
本発明においては、上記の異なる方法を組み合わせることによりEVOH樹脂組成物を製造することができる。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、エチレン含有量が異なるEVOH樹脂を混合して、EVOH樹脂(A)を製造する工程では(I)の方法が好ましく、EVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)に鉄化合物(B)を含有させる工程では、(ii)の方法が好ましい。
【0072】
なお、上記各方法によって得られる本発明のEVOH樹脂組成物のペレット、上記各方法で用いられるEVOH樹脂またはEVOH樹脂(A)のペレットの形状は任意である。例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル形、または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、更に好ましくは2.5~5.5mmであり、長径は通常1.5~30mm、好ましくは3~20、更に好ましくは3.5~10mmである。また、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0073】
また、上記の各方法で用いられる鉄化合物(B)としては、前述のとおり、好ましくは、水溶性の鉄化合物が用いられ、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等の酸化物、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の塩化物、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等の水酸化物、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩等の鉄塩があげられる。なお、かかる鉄化合物(B)は、前述のとおり、EVOH樹脂組成物中で、上記の塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。
【0074】
また、上記(vi)の方法で用いられる鉄化合物(B)を含有する水溶液としては、上記鉄化合物(C)の水溶液や、鉄鋼材料を各種薬剤を含む水に浸漬することで鉄イオンを溶出させたものを用いることができる。なお、その場合、EVOH樹脂組成物中の鉄化合物(B)の含有量(金属換算)は、ペレットを浸漬する水溶液中の鉄化合物(C)の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。上記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。かかる浸漬後のペレットは公知の手法にて固液分離し、公知の乾燥方法にて乾燥する。かかる乾燥方法として、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0075】
EVOH樹脂組成物ペレットの含水率は、通常、0.01~0.5重量%であり、好ましくは0.05~0.35重量%、特に好ましくは0.1~0.3重量%である。
【0076】
なお、本発明におけるEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
EVOH樹脂組成物ぺレットの乾燥前重量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の重量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0077】
また、本発明のEVOH樹脂組成物の熱安定性は、重量減少割合によって評価することができ、本発明のEVOH樹脂組成物における重量減少割合は、通常0.7~1.1%であり、好ましくは0.8~1.0%であり、特に好ましくは0.9%である。重量減少割合の数値が小さすぎる(重量減少が少なすぎる)と、EVOH樹脂組成物がほとんど分解せず、溶融成形時に経時的に増粘し、ロングラン成形性が低下する傾向があり、重量減少割合の数値が大きすぎる(重量減少が多すぎる)と、EVOH樹脂組成物が分解しすぎていることを表し、EVOH樹脂組成物の分解に起因するガス等により発泡し、成形品等の外観に悪影響を生じさせる傾向がある。
【0078】
なお、上記重量減少割合は、1~5mm角に粉砕したEVOH樹脂組成物の粉砕品5mgを、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)を用いて、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下で測定して得られる、加熱前後の重量から下記式より算出する。
重量減少割合(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
【0079】
このようにして得られたEVOH樹脂組成物のペレットは、そのまま溶融成形に供することが可能であるが、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(例えば、高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等、またはその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、かかる滑剤の含有量は、EVOH樹脂組成物の通常、5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0080】
本発明のEVOH樹脂組成物は、ペレット、あるいは粉末状や液体状といった、さまざまな形態のEVOH樹脂組成物として調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。なお、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明のEVOH樹脂組成物に用いられるEVOH樹脂(A)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0081】
そして、かかる成形物としては、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて成形された単層フィルムをはじめとして、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて成形された層を有する多層構造体として実用に供することができる。
【0082】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を備えるものである。本発明のEVOH樹脂組成物からなる層(以下、「EVOH樹脂組成物層」と称する。)は、本発明のEVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、「基材樹脂」と称する。)と積層することで、さらに強度を付与したり、EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0083】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0084】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0085】
多層構造体の層構成は、本発明のEVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明のEVOH樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0086】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。そして、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0087】
多層構造体において、本発明のEVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層がEVOH樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0088】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、樹脂全体に対して、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0089】
本発明のEVOH樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明のEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、EVOH樹脂組成物層と基材樹脂層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して共押出する方法が好ましい。
【0090】
上記の如き多層構造体は、ついで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となる傾向があり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる傾向がある。
【0091】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本発明のEVOH樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0092】
また、場合によっては、本発明の多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0093】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成するEVOH樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0094】
さらに、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0095】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。特に、本発明のEVOH樹脂組成物からなる層は、着色が抑制され、熱安定性に優れていることから、食品、薬品、農薬等の包装材として特に有用である。
【実施例
【0096】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
なお、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0097】
実施例に先立って以下のEVOH樹脂のペレットを準備し、そのEVOH樹脂に含まれている鉄化合物(B)の含有量の測定を行った。
・EVOH樹脂(A1):エチレン構造単位の含有量の平均値が29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.9g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体
・EVOH樹脂(A2):エチレン構造単位の含有量の平均値が44モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.3g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体
【0098】
[鉄化合物(B)の含有量の測定]
上記EVOH樹脂(A1)およびEVOH樹脂(A2)のペレットを粉砕したサンプル0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)し、灰分を酸溶解して純水で定容したものを試料溶液とした。この溶液を下記のICP-MS(Agilent Technologies社製 ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて標準添加法で測定した。その結果、鉄化合物(B)の含有量は、共に金属換算にて0ppmであった。
【0099】
<実施例1>
上記EVOH樹脂(A1)のペレット80部と、EVOH樹脂(A2)のペレット20部とをドライブレンドすることによってEVOH樹脂(A)を得た。
【0100】
このEVOH樹脂(A)100部と鉄化合物(B)としてリン酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業社製、230℃乾燥減量 20.9重量%)0.000034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.1ppm)とをプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、230℃において5分間予熱したのち5分間溶融混練し、EVOH樹脂組成物を得た。得られたEVOH樹脂組成物を、粉砕機(ソメタニ産業社製、SKR16-240)で650rpmにて粉砕して粉砕物を得た。かかる粉砕物は、1~5mm角の小片であった。
【0101】
<実施例2>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.00034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて1ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2のEVOH樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0102】
<比較例1>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.0034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて10ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1のEVOH樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0103】
<比較例2>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2のEVOH樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0104】
下記に示す方法により実施例1~2および比較例1~2のEVOH樹脂組成物の着色評価および熱安定性評価を行った。結果を後記表1に示す。
【0105】
[着色評価]
上記で得られたEVOH樹脂組成物の粉砕物を、空気雰囲気下のオーブン内で150℃5時間加熱した。加熱後の粉砕品について、ビジュアルアナライザー IRIS VA400(Alpha mos社製)にて、色番号「3819」(R:232、G:232、B:184)が占める割合を評価した。色番号「3819」は、黄色味を有する色であり、この割合が大きいほど、加熱後のサンプルが黄色く着色していることを意味する。
【0106】
[熱安定性評価]
上記で得られたEVOH樹脂組成物の粉砕物を5mg用い、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)により、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下での加熱前後の重量から下記式より、重量減少割合を算出した。
重量減少割合(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
得られた重量減少割合の小数点第2位を四捨五入し、下記の評価基準に基づいて、熱安定性を評価した。
A:0.9% 熱安定性に特に優れる
B:0.8%、または、1.0% 熱安定性に非常に優れる
C:0.7%、または、1.1% 熱安定性に優れる
D:0.6% 熱安定性に劣る
E:~0.5%、または、1.2%以上~ 熱安定性に非常に劣る
【0107】
【表1】
【0108】
特定微量の鉄化合物(B)を含む実施例1および2においては、比較例1および2よりも加熱後の着色が抑制され、熱安定性も優れていた。かかる結果より、特定微量の鉄化合物(B)を配合することで着色が抑制され、熱安定性に優れたEVOH樹脂組成物が得られることが明らかである。なかでも実施例2は、着色抑制効果と熱安定性の双方について特に良好な効果が得られた。
【0109】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のEVOH樹脂組成物は、着色が抑制され、熱安定性に優れていることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料として特に有用である。