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特許7031591エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレットおよび多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレットおよび多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20220301BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20220301BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20220301BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08L77/00
C08K3/11
C08L29/04 S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018534185
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024304
(87)【国際公開番号】W WO2019004256
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017124965
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 眞太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
(72)【発明者】
【氏名】池下 美奈子
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-178324(JP,A)
【文献】特開2009-242591(JP,A)
【文献】特開2000-136281(JP,A)
【文献】特開平09-077948(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08L 77/00
C08K 3/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、ポリアミド系樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~20ppmであることを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)のエチレン構造単位の含有量が、20~60モル%であることを特徴とする請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
上記ポリアミド系樹脂(B)に対する上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)の重量含有比率が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)/ポリアミド系樹脂(B)=99/1~10/90であることを特徴とする請求項1または2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなることを特徴とするペレット。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を備えることを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称する。)を含有するEVOH樹脂組成物、ペレットおよび多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、着色および経時的な増粘が抑制されたEVOH樹脂組成物、かかるEVOH樹脂からなるペレットおよびEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。しかし、EVOH樹脂層を含む包装材料を、レトルト、ボイル等の熱水殺菌処理に供すると、EVOH樹脂層が溶出したり、EVOH樹脂層のガスバリア性が低下する傾向があった。これに対しては、ポリアミド系樹脂を併用する技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-178324号公報
【文献】特開2009-242591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、EVOH樹脂およびポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物は、溶融混練や溶融成形等の加熱後に着色する傾向や経時的に増粘する傾向があり、改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、EVOH樹脂およびポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物において微量の鉄化合物を配合する場合に上記課題が解決することを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~20ppmであるEVOH樹脂組成物を第1の要旨とする。また、本発明は、上記EVOH樹脂組成物からなるペレットを第2の要旨とし、さらに上記EVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~20ppmであるため、着色が抑制され、また、動的粘度挙動に優れる。
【0008】
また、上記ポリアミド系樹脂(B)に対する上記EVOH樹脂(A)の重量含有比率が、EVOH樹脂(A)/ポリアミド系樹脂(B)=99/1~10/90であると、より着色が抑制される。
【0009】
本発明のEVOH樹脂組成物からなるペレットは、着色が抑制されていることから、各種成形物として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料、特に熱水殺菌用包装材料として好適に用いることができる。
【0010】
本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、着色が抑制されていることから、各種成形物として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料、特に熱水殺菌用包装材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に限定されるものではない。
【0012】
<EVOH樹脂組成物>
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有する。また、本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)とを主成分とするものである。すなわち、EVOH樹脂組成物におけるEVOH樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計含有量は、通常70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上であり、特に好ましくは95重量%以上である。以下、本発明のEVOH樹脂組成物の各成分について順に説明する。
【0013】
[EVOH樹脂(A)]
本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0014】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0015】
このようにして製造されるEVOH樹脂(A)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0016】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0017】
EVOH樹脂(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、延伸性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0018】
EVOH樹脂(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは98~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。かかるEVOH樹脂のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0019】
また、EVOH樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。かかるMFRは、EVOH樹脂の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0020】
本発明で用いられるEVOH樹脂(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂(A)の20モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
【0021】
上記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0022】
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH樹脂が好ましく、特には、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。特に、側鎖に1級水酸基を有する場合、その含有量は、EVOH樹脂の通常0.1~20モル%、さらには0.5~15モル%、特には1~10モル%が好ましい。
【0023】
また、本発明で用いるEVOH樹脂(A)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0024】
さらに、本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるもの等をあげることができる。なかでも、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる観点から、エチレン構造単位の含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
[ポリアミド系樹脂(B)]
本発明で用いるポリアミド系樹脂(B)は、公知の樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
【0026】
ポリアミド系樹脂(B)としては、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーがあげられる。また共重合ポリアミド樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-p-フェニレン―3,4'ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等があげられる。あるいはこれらの末端変性ポリアミド樹脂であってもよく、好ましくは末端変性ポリアミド樹脂である。これらのポリアミド系樹脂(B)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
ポリアミド系樹脂(B)は、EVOH樹脂等の極性基を含有する樹脂との結合力が高くなる傾向にある。
【0028】
上記ポリアミド系樹脂(B)を構成するアミドモノマー単位におけるアミド結合の比率は、アミドモノマーユニット(例えば、ナイロン6の場合、[-C65-CONH-]中のアミド結合(-CONH-))を分子量の割合として計算した場合、20~60%が好ましく、より好ましくは30~50%、特に好ましくは35~45%である。かかるアミド結合の比率が低すぎる場合は、EVOH樹脂(A)等の極性樹脂との界面における結合力が低下しやすい傾向があり、逆に高すぎる場合には溶融成形時にEVOH樹脂(A)等の極性樹脂との反応性が強すぎて共押出した際に接着界面荒れによる外観不良を引き起こす傾向がある。
【0029】
また、ポリアミド系樹脂(B)の融点は、160~270℃であることが好ましく、より好ましくは175~250℃、特に好ましくは190~230℃である。かかるポリアミド系樹脂(B)の融点が低すぎる場合は、多層構造体の耐熱性が低下する傾向がある。一方、ポリアミド系樹脂(B)の融点が高すぎると、他の樹脂層を含む多層構造体の場合、他層で使用する樹脂との融点差が大きくなり、他の樹脂と共押出成形する場合、合流時に層乱れが生じて多層構造体の外観低下をもたらす傾向にある。さらに、EVOH樹脂(A)と共押出成形する際にはダイ温度が高すぎてEVOH樹脂(A)の熱劣化による着色を促進させるおそれがある。
【0030】
以上の観点から、好ましいポリアミド系樹脂(B)としては、融点が160~270℃、より好ましくは175~250℃、特に好ましくは190~230℃で、かつアミド結合の比率が20~60%、より好ましくは30~50%、特に好ましくは35~45%のポリアミドである。具体的には、例えば、ナイロン6(融点:約220℃、アミド結合の比率:38%)、ナイロン6/66(融点:約200℃、アミド結合の比率:38%)が好ましい。
【0031】
ポリアミド系樹脂(B)の重合度は、JIS K6810に準じて測定される相対粘度を指標とすることができ、通常1.5~6が好ましく、より好ましくは2.0~6、さらに好ましくは2.5~5である。相対粘度が小さすぎる場合、成形時に押出機が高トルク状態になり押出加工が困難となる傾向がみられ、大きすぎる場合、得られるフィルムやシートの厚み精度が低下する傾向がみられる。なお、上記相対粘度は、JIS K6810に準じて、ポリアミド系樹脂(B)1gを96%濃硫酸100mLに完全溶解して、25℃にて毛細管粘度計を用いて測定することができる。
【0032】
ポリアミド系樹脂(B)の末端カルボキシル基含量は、通常10~40μeq/g、好ましくは15~30μeq/g、特好ましくは15~25μeq/gである。末端カルボキシル基含量が上記の範囲外となる場合には、熱安定性に劣る傾向がある。なお、上記末端カルボキシル基含量は、下記のとおりに測定することができる。
【0033】
<末端カルボキシル基含量>
ポリアミド系樹脂(B)0.2gをo-クレゾール15mLに加え、110℃に加熱して溶解させる。室温(23℃)付近まで冷却後、ベンジルアルコール10mL、o-クレゾール50mLとホルムアルデヒド50μLを加える。0.05mol/Lのエタノール性水酸化カリウムを滴定液として、電位差滴定装置で末端カルボキシル基含量([COOH],単位:μeq/g)を測定する。
【0034】
本発明のEVOH樹脂組成物は、ポリアミド系樹脂(B)に対するEVOH樹脂(A)の重量含有比率(エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)/ポリアミド系樹脂(B))が、通常99/1~10/90であり、好ましくは95/5~40/60であり、特に好ましくは90/10~60/40である。かかるポリアミド系樹脂(B)の重量含有比率が小さすぎるとポリアミド系樹脂の配合効果(例えば耐熱水殺菌処理性能)が低下する傾向があり、逆に大きすぎるとガスバリア性が低下する傾向がある。
【0035】
[鉄化合物(C)]
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記EVOH樹脂(A)、上記ポリアミド系樹脂(B)に加え、鉄化合物(C)を含有し、かつこの鉄化合物(C)の配合量が特定微量であることを特徴とする。本発明のEVOH樹脂組成物は、上記のような構成を有するため、着色を抑制することができ、また、動的粘度挙動にも優れる。
【0036】
EVOH樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)とを含有するEVOH樹脂組成物に発生する着色は、熱によりEVOH樹脂(A)が有する水酸基や重合末端のカルボキシル基、およびポリアミド系樹脂(B)が有するアミド結合やアミノ基、カルボキシル基等の反応性の高い部位が縮合や分解等の反応をおこすためと考えられる。
【0037】
また、鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物は、鉄イオンにより製品が着色すると考えられるため、当業者であれば通常避けるものである。しかしながら本発明では、予想外にも、微量の鉄化合物(C)をEVOH樹脂組成物に含有させることにより、加熱後の着色が抑制されたEVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0038】
上記のような効果が得られる理由としては、鉄は3価のイオンとして安定であるため、微量であっても上記のような水酸基やカルボキシル基、アミド結合やアミノ基等の複数の官能基とイオン結合やキレートを形成し、安定化することにより上記縮合や分解が抑制され、着色の抑制が可能になったものと推測される。
【0039】
上記鉄化合物(C)は、EVOH樹脂組成物中で、例えば、酸化物、水酸化物、塩化物、鉄塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。上記酸化物としては、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等があげられる。上記塩化物としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄等があげられる。上記水酸化物としては、例えば、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等があげられる。上記鉄塩としては、例えば、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0040】
EVOH樹脂組成物における分散性の点で、鉄化合物(C)は水溶性であることが好ましい。また、分散性と生産性の観点から、その分子量は通常100~10000、好ましくは100~1000、特に好ましくは100~500である。
【0041】
本発明のEVOH樹脂組成物は、鉄化合物(C)の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~20ppmである。かかる鉄化合物の含有量は、好ましくは0.03~8ppm、特に好ましくは0.05~3ppmであり、殊に好ましくは0.05~0.8ppmである。鉄化合物(C)の含有量が少なすぎると着色抑制効果が不充分となり、逆に多すぎると経時的な増粘傾向が顕著になる。
【0042】
ここで、鉄化合物(C)の含有量は、EVOH樹脂組成物0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)後、残った灰分を酸溶解し純水で定容したものを試料溶液として、ICP-MS(Agilent Technologies社製、7500ce型;標準添加法)で測定することにより求めることができる。
【0043】
[他の熱可塑性樹脂]
本発明のEVOH樹脂組成物には、EVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂組成物の通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下)にて含有することができる。
【0044】
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、具体的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0045】
〔その他の配合剤〕
また、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。例えば、無機複塩(例えば、ハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えば、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス-サリチルアルデヒド-イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト-シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン-コバルト錯体等の含窒素化合物と鉄以外の遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質との反応物、トリフェニルメチル化合物等の有機化合物系酸素吸収剤;窒素含有樹脂と鉄以外の遷移金属との配位結合体(例えば、メタキシレンジアミン(MXD)ナイロンとコバルトとの組合せ)、三級水素含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトとの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリブタジエンとコバルトとの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えば、ポリケトン)、アントラキノン重合体(例えば、ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物捕捉剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば、無機フィラー等)等を配合してもよい。なかでも、着色を抑制する観点から、酸素吸収剤が好ましく、特にはテルペン化合物が好ましく用いられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0046】
[EVOH樹脂組成物の製造方法]
上記の各成分を用いて、本発明のEVOH樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法があげられ、これらを任意に組み合わせることも可能である。
【0047】
上記ドライブレンド法としては、例えば(i)EVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)を含有するペレットと鉄化合物(C)とをタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0048】
上記溶融混合法としては、例えば、(ii)EVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)を含有するペレットと鉄化合物(C)のドライブレンド物を溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法や、(iii)溶融状態のEVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)の混合物に鉄化合物(C)を添加して溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法等があげられる。
【0049】
上記溶液混合法としては、例えば、(iv)市販のEVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)を含有するペレットを用いて溶液を調製し、ここに鉄化合物(C)を配合し、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法や、(v)EVOH樹脂(A)の製造過程で、EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)にポリアミド系樹脂(B)の溶液と鉄化合物(C)とを含有させた後、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0050】
上記含浸法としては、例えば、(vi)EVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)を含有するペレットを、鉄化合物(C)を含有する水溶液と接触させ、上記ぺレット中に鉄化合物(C)を含有させた後、乾燥する方法等をあげることができる。
【0051】
本発明においては、上記の異なる方法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(ii)の方法が好ましい。
【0052】
なお、上記各方法によって得られるEVOH樹脂組成物ペレット、各方法で用いられるEVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)を含有するペレットの形状は任意である。例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル形、または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、更に好ましくは2.5~5.5mmであり、長径は通常1.5~30mm、好ましくは3~20、更に好ましくは3.5~10mmである。また、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0053】
また、上記の各方法で用いられる鉄化合物(C)としては、前述のとおり、好ましくは、水溶性の鉄化合物が用いられ、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等の酸化物、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の塩化物、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等の水酸化物、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩等の鉄塩があげられる。なお、かかる鉄化合物(C)は、前述のとおり、EVOH樹脂組成物中で、上記の塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。
【0054】
また、上記(vi)の方法で用いられる鉄化合物(C)を含有する水溶液としては、上記鉄化合物の水溶液や鉄鋼材料を、各種薬剤を含む水に浸漬することで鉄イオンを溶出させたものを用いることができる。なお、その場合、EVOH樹脂組成物中の鉄化合物(C)の含有量(金属換算)は、ペレットを浸漬する水溶液中の鉄化合物(C)の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。上記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。浸漬後のペレットは公知の手法にて固液分離し、公知の乾燥方法にて乾燥する。かかる乾燥方法として、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0055】
本発明のEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は、通常、0.01~0.5重量%であり、好ましくは0.05~0.35重量%、特に好ましくは0.1~0.3重量%である。
【0056】
なお、本発明におけるEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
EVOH樹脂組成物ぺレットの乾燥前重量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の重量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0057】
このようにして得られたEVOH樹脂組成物のペレットは、そのまま溶融成形に供することが可能であるが、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(例えば、高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10,000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等、またはその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、かかる滑剤の含有量は、EVOH樹脂組成物の通常、5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0058】
本発明のEVOH樹脂組成物は、ペレット、あるいは粉末状や液体状といった、さまざまな形態のEVOH樹脂組成物として調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。なお、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明のEVOH樹脂組成物に用いられるEVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0059】
そして、かかる成形物としては、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて成形された単層フィルムをはじめとして、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて成形された層を有する多層構造体として実用に供することができる。
【0060】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を備えるものである。本発明のEVOH樹脂組成物からなる層(以下、「EVOH樹脂組成物層」と称する。)は、本発明のEVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、「基材樹脂」と称する。)と積層することで、さらに強度を付与したり、EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0061】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。
【0062】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0063】
多層構造体の層構成は、本発明のEVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明のEVOH樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0064】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。そして、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0065】
多層構造体において、本発明のEVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層がEVOH樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0066】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、樹脂全体に対して、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0067】
本発明のEVOH樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明のEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、EVOH樹脂組成物層と基材樹脂層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して共押出する方法が好ましい。
【0068】
上記の如き多層構造体は、ついで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となる傾向があり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる傾向がある。
【0069】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、ついで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本発明のEVOH樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0070】
また、場合によっては、本発明の多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0071】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成するEVOH樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0072】
さらに、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0073】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。特に、本発明のEVOH樹脂組成物からなる層は、着色が抑制されていることから、食品、薬品、農薬等の熱水殺菌処理用包装材として特に有用である。
【実施例
【0074】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
なお、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0075】
実施例に先立って以下のEVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)のペレットを準備し、そのEVOH樹脂(A)およびポリアミド系樹脂(B)に含まれている鉄化合物(C)の含有量の測定を行った。
・EVOH樹脂(A):エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.9g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体
・ポリアミド系樹脂(B):融点220℃、末端カルボキシル基含有量20μeq/ポリマー1g(ポリマー1gに対するモル当量)のナイロン6(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 「Novamid 1028EN」)
【0076】
[鉄化合物(C)の含有量の測定]
上記EVOH樹脂(A)のペレットを凍結粉砕して測定用試料とした。この測定用試料0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)後、灰分を酸溶解して純水で定容したものを試料溶液とした。この溶液を下記のICP-MS(Agilent Technologies社製 ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて標準添加法で測定した。その結果、鉄化合物(C)の含有量は、金属換算にて0ppmであった。
また、上記ポリアミド系樹脂(B)も上記EVOH樹脂(A)と同様に測定した。その結果、鉄化合物(C)の含有量は、金属換算にて0.15ppmであった。
【0077】
<実施例1>
上記EVOH樹脂(A)のペレット80部、上記ポリアミド系樹脂(B)のペレット20部、および鉄化合物(C)としてリン酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業社製、230℃乾燥減量 20.9重量%)0.000034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.1ppm)をプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、250℃において5分間予熱したのち5分間溶融混練し、実施例1のEVOH樹脂組成物を得た。得られたEVOH樹脂組成物を、粉砕機(ソメタニ産業社製、SKR16-240)で650rpmにて粉砕して粉砕物を得た。かかる粉砕物は、1~5mm角の小片であった。
【0078】
<実施例2>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.00034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて1ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2のEVOH樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0079】
<実施例3>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.0034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて10ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3のEVOH樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0080】
<比較例1>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1のEVOH樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0081】
下記に示す方法により実施例1~3および比較例1の着色評価および動的粘度挙動の測定を行った。結果を後記表1に示す。
【0082】
[着色評価]
上記のEVOH樹脂組成物またはEVOH樹脂の粉砕物をサンプルとし、日本電色工業社製 分光色差計 SE6000にて加熱前のYI値を測定した。このとき、内径32mm、高さ30mmの円筒にサンプルを充填し擦りきった状態で測定に供した。また、かかるサンプルを空気雰囲気下のオーブン内で150℃、5時間加熱処理した後、同様にして加熱後のYI値を測定した。かかる加熱前のYI値に対する加熱後のYI値の比を算出した。かかる値が大きいほど、EVOH樹脂組成物またはEVOH樹脂が加熱後に黄色く着色していることを意味する。
【0083】
[動的粘度挙動]
上記のEVOH樹脂組成物またはEVOH樹脂の粉砕物をプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、250℃、50rpmの条件下で5分間予熱したのち30分間混練した。混練終了時(30分目)時点でのトルクを混練開始時(0分目)のトルクで除した数値にて評価した。かかる値が低いほど、経時的な粘度上昇が抑制されており、動的粘度挙動が優れていることを意味する。
【0084】
【表1】
【0085】
上記の表1が示すように鉄化合物(C)を含有する実施例1~3で得られたEVOH樹脂組成物は、鉄化合物(C)を有さない比較例1よりもYI値が低く、着色が抑制されていた。また、かかるEVOH樹脂組成物を加熱した後の着色性についても、比較例1より実施例1~3のほうがYI値が低く、着色が抑制されていた。
【0086】
さらに、鉄化合物(C)を含有する実施例1~3で得られたEVOH樹脂組成物は、鉄化合物(C)を有さない比較例1よりも粘度増加が抑制され、動的粘度挙動が優れていることがわかった。特に、実施例1は加熱時のYI値増加率が最も少なく、動的粘度挙動が最も良好な値を示しており、優れたEVOH樹脂組成物が得られたことがわかる。
【0087】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のEVOH樹脂組成物は、熱劣化による着色が抑制されていることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料、特には熱水殺菌処理用包装材料として特に有用である。