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特許7031593エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレットおよび多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレットおよび多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20220301BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220301BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20220301BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K5/01
C08K3/11
C08L29/04 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018534189
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024308
(87)【国際公開番号】W WO2019004260
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2017124968
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 眞太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
(72)【発明者】
【氏名】池下 美奈子
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146961(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146962(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/041258(WO,A1)
【文献】特開平09-077948(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08K 5/01
C08K 3/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量がエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり金属換算にて0.01~20ppmであることを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)のエチレン構造単位の含有量が、20~60モル%であることを特徴とする請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量がエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり1~30000ppmであることを特徴とする請求項1または2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項4】
金属換算での上記鉄化合物(C)の含有量に対する、上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量の重量比率が、共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量/金属換算での鉄化合物(C)の含有量=0.2~50000であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなることを特徴とするペレット。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を備えることを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称する。)を主成分とするEVOH樹脂組成物、EVOH樹脂組成物からなるペレットおよび多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、加熱後の着色が抑制され、熱安定性に優れたEVOH樹脂組成物、EVOH樹脂組成物からなるペレットおよび、かかるEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
しかし、EVOH樹脂は分子内に比較的活性な水酸基を有するため、熱により劣化しやすい傾向がある。したがって、溶融成形時に着色の問題が起こりやすい傾向がある。
【0004】
一方、溶融成形時のフィッシュアイやゲル、ストリーク等の欠点の発生を抑制することができ、外観性に優れる容器・フィルム等の成形品を形成することができる樹脂組成物として、EVOH樹脂(A)および不飽和アルデヒド(B)を含有し、上記不飽和アルデヒド(B)の樹脂組成物に対する含有量が0.01ppm以上100ppm以下である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる樹脂組成物には、共役ポリエン化合物をさらに含有することにより、溶融成形時の酸化劣化を抑制することができる。
これにより、当該樹脂組成物は、フィッシュアイ等の欠点の発生および着色をより抑制し、成形品の外観性を向上させることができると共に、ロングラン性にもより優れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/146961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記不飽和アルデヒドのようなアルデヒド化合物は、微量であってもしばしば悪臭の原因となるおそれがあり、特に高温に晒される成形工程にて揮発し作業環境の悪化が懸念されるため採用し難い。そこで、加熱時に熱劣化しにくく、高品質な成形物が得られるEVOH樹脂が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、微量の鉄化合物と共役ポリエン構造を有する化合物を併用する場合に上記課題が解決することを見出した。従来、共役ポリエン構造を有する化合物はEVOH樹脂の熱安定剤として公知であるが、微量の鉄化合物と併用することでEVOH樹脂の熱安定性が向上することは知られていない。本発明では、予想外にも、特定微量の鉄化合物と共役ポリエン構造を有する化合物とを併用する場合に、EVOH樹脂組成物の熱安定性が向上することを見出し、ロングラン成形性が良好であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、EVOH樹脂(A)、共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~20ppmであるEVOH樹脂組成物を第1の要旨とする。また、本発明は、上記EVOH樹脂組成物からなるペレットを第2の要旨とし、さらにEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~20ppmであるため、加熱後の着色が抑制され、熱安定性に優れる。
【0010】
また、上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり1~30000ppmであると、より加熱後の着色が抑制され、熱安定性に優れる。
【0011】
さらに、金属換算での上記鉄化合物(C)の含有量に対する、上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量の重量比率が、共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量/金属換算での鉄化合物(C)の含有量=0.2~50000であると、より一層加熱後の着色が抑制され、熱安定性に優れる。
【0012】
本発明のEVOH樹脂組成物からなるペレットは、加熱後の着色が抑制されていることから、各種成形物として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料として好適に用いることができる。
【0013】
本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、品質が良好であるため、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料として特に有用である。
【0014】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に限定されるものではない。
【0015】
<EVOH樹脂組成物>
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)を主成分とし、共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を含有するものである。本発明のEVOH樹脂組成物は、ベース樹脂がEVOH樹脂(A)である。すなわち、EVOH樹脂組成物におけるEVOH樹脂(A)の含有量は、通常70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上であり、特に好ましくは95重量%以上である。以下、各成分について順に説明する。
【0016】
[EVOH樹脂(A)]
本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0017】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合の重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0018】
このようにして製造されるEVOH樹脂(A)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0019】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0020】
EVOH樹脂(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0021】
EVOH樹脂(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。かかるEVOH樹脂(A)のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0022】
また、EVOH樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。かかるMFRは、EVOH樹脂の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0023】
本発明で用いられるEVOH樹脂(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂(A)の20モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
【0024】
前記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0025】
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH樹脂が好ましく、特には、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。特に、側鎖に1級水酸基を有する場合、その含有量は通常0.1~20モル%、さらには0.5~15モル%、特には1~10モル%のものが好ましい。
【0026】
また、本発明で用いるEVOH樹脂(A)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0027】
さらに、本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるもの等をあげることができる。なかでも、エチレン構造単位の含有量が異なる2種以上のEVOH樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
[共役ポリエン構造を有する化合物(B)]
本発明で用いられる共役ポリエン構造を有する化合物(B)とは、炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素-炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。共役ポリエン構造を有する化合物(B)は、2個の炭素-炭素二重結合と1個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン化合物、3個の炭素-炭素二重結合と2個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン化合物、あるいはそれ以上の数の炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であってもよい。ただし、上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)としては、桂皮酸類等の芳香族カルボン酸類、およびハイドロキノン、ベンゾキノン等のキノン類を除く。
【0029】
また、共役する炭素-炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形物が着色する懸念があるため、共役する炭素-炭素二重結合の数が7個以下であるポリエン構造を有することが好ましい。さらに、2個以上の炭素-炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン構造を有する化合物(B)に含まれる。
【0030】
このような共役ポリエン構造を有する化合物(B)としては、例えば、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-t-ブチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3-エチル-1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1-メトキシ-1,3-ブタジエン、2-メトキシ-1,3-ブタジエン、1-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-ニトロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、1-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン;ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩等のソルビン酸類、アビエチン酸等の炭素-炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン化合物;1,3,5-ヘキサトリエン、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素-炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素-炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエン構造を有する化合物等があげられる。なお、1,3-ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いてもよい。かかる共役ポリエン構造を有する化合物(B)は2種類以上のものを併用することもできる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0031】
これらの共役ポリエン構造を有する化合物(B)のうち、水との親和性が高い点でカルボキシル基を有するものであることが好ましく、さらにはカルボキシル基を有する鎖状化合物であることが好ましく、特にはソルビン酸類、とりわけソルビン酸が好ましい。
【0032】
上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)の分子量は、生産性および取り扱い性の観点から通常30~500であり、好ましくは50~400であり、特に好ましくは100~300である。また、上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)の1分子における炭素数は、生産性および取り扱い性の観点から通常4~30であり、好ましくは4~20であり、特に好ましくは4~10である。
【0033】
本発明のEVOH樹脂組成物における共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量はEVOH樹脂組成物の重量あたり、通常1~30000ppmであり、好ましくは10~10000ppmであり、特に好ましくは30~1000ppmであり、殊に好ましくは50~500ppmである。共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量が多すぎる場合は生産性が損なわれる傾向があり、少なすぎる場合は熱安定性が低下する傾向がある。
【0034】
上記EVOH樹脂組成物における共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量は、例えば、液体クロマトグラフ-紫外分光検出器を用い、下記の手順に基づいて測定することができる。なお、下記の手順は、ソルビン酸を用いた場合を例にして記載するが、他の共役ポリエン構造を有する化合物(B)についても、その化合物に適した抽出溶媒を用いることにより、同様の手順で測定することができる。
【0035】
〔共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量の測定方法〕
(1)EVOH樹脂組成物を凍結粉砕した粉末1gに対して、抽出溶媒(蒸留水:メタノール=1:1、体積比)8mLを添加する。
(2)この溶液に対し温度20℃、静置状態で超音波処理を1時間行い、樹脂中のソルビン酸を抽出し、冷却後に抽出溶媒で10mLに定容する。また、必要に応じて任意の倍率に希釈を行ってもよい。
(3)上記溶液をポアサイズ0.45μmのフィルターで濾過後、液体クロマトグラフ-紫外分光検出器で抽出溶液中のソルビン酸を測定する。
(4)上記の抽出溶媒を用いて調製したソルビン酸の標準溶液から検量線を作成し、絶対検量線法によって、ソルビン酸の含有量を定量する。
【0036】
[HPLC測定条件]
LCシステム :Agilent1260/1290[Agilent Technologies社製]
検出器 :Agilent1260 infinity ダイオードアレイ検出器[Agilent Technologies社製]
カラム :Cadenza CD-C18(100×3.0mm、3μm)[Imtakt社製]
カラム温度 :40℃
移動相A :0.05%ギ酸含有 5%アセトニトリルの水溶液
移動相B :0.05%ギ酸含有 95%アセトニトリルの水溶液
タイムプログラム:0.0→5.0分 B%=30%
5.0→8.0分 B%=30%→50%
8.0→10.0分 B%=50%
10.0→13.0分 B%=50%→30%
13.0→15.0分 B%=30%
流量 :0.2mL/分
UV検出波長 :190~400nm
定量波長 :262nm
なお、上記HPLC測定条件における「%」は、体積%を意味する。
【0037】
[鉄化合物(C)]
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記EVOH樹脂(A)、上記共役ポリエン構造を有する化合物(B)に加え鉄化合物(C)を含有し、かつ、この鉄化合物(C)の含有量が特定微量であることを特徴とする。本発明のEVOH樹脂組成物は、上記のような構成を有するため、着色を抑制することができ、熱安定性に優れる。
【0038】
一般的にEVOH樹脂は、熱劣化よって着色が発生する。これは、熱によりEVOH樹脂が有する水酸基が脱水し、EVOH樹脂の主鎖に二重結合が生成し、かかる部位が反応起点となり脱水が促進され、共役ポリエン構造を形成するためと考えられる。
【0039】
また、鉄化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物は、鉄イオンにより製品が着色すると考えられるため、当業者であれば通常避けるものである。しかしながら本発明では、予想外にも、微量の鉄化合物(C)をEVOH樹脂組成物に含有させることにより、加熱後の着色が抑制されたEVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0040】
鉄は、2価および3価のイオンとして存在することが可能である。微量の鉄化合物と共役ポリエン構造を有する化合物とを併用することで本発明の効果が得られる理由は、併用する共役ポリエン構造を有する化合物(B)がしばしば3価の鉄イオンを還元し、2価の鉄イオンが生成し、かかる2価の鉄イオンが再び共役ポリエン構造を有する化合物(B)を還元することで共役ポリエン構造を有する化合物(B)の活性を取り戻すというサイクルが起こっているためと推測される。
【0041】
なお、かかる鉄化合物(C)は、EVOH樹脂組成物中で、例えば、酸化物、水酸化物、塩化物、鉄塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。上記酸化物としては、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等があげられる。上記塩化物としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄等があげられる。上記水酸化物としては、例えば、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等があげられる。上記鉄塩としては、例えば、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0042】
EVOH樹脂組成物における分散性の点で、鉄化合物(C)は水溶性であることが好ましい。また、分散性と生産性の観点から、その分子量は通常100~10000、好ましくは100~1000、特に好ましくは100~500である。
【0043】
本発明のEVOH樹脂組成物は、鉄化合物(C)の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~20ppmである。かかる鉄化合物(C)の含有量は、好ましくは0.03~8ppm、特に好ましくは0.05~3ppmであり、殊に好ましくは0.05~1.5ppmである。鉄化合物(C)の含有量が少なすぎると着色抑制効果が不充分となり、逆に多すぎると成形物が着色する。
【0044】
ここで、鉄化合物(C)の含有量は、EVOH樹脂組成物0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)後、残った灰分を酸溶解し純水で定容したものを試料溶液として、ICP-MS(Agilent Technologies社製、7500ce型;標準添加法)で測定することにより求めることができる。
【0045】
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記金属換算での鉄化合物(C)の含有量に対する共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量の重量比率(共役ポリエン構造を有する化合物(B)の含有量/金属換算での鉄化合物(C)の含有量)が、通常0.2~50000であり、好ましくは1~25000であり、特に好ましくは5~10000、殊に好ましくは50~5000である。かかる比率が大きすぎる場合熱安定性を妨げる傾向があり、小さすぎる場合成形物が着色する傾向がある。
【0046】
[他の熱可塑性樹脂]
本発明のEVOH樹脂組成物には、EVOH樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂組成物の通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下)にて含有することができる。
【0047】
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、具体的には、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0048】
[その他の配合剤]
また、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。例えば、無機複塩(例えば、ハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えば、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス-サリチルアルデヒド-イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト-シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン-コバルト錯体等の含窒素化合物と鉄以外の遷移金属との配位結合体、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質との反応物、トリフェニルメチル化合物等の有機化合物系酸素吸収剤;窒素含有樹脂と鉄以外の遷移金属との配位結合体(例えば、メチルキシリレンジアミン(MXD)ナイロンとコバルトとの組合せ)、三級水素含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトとの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えば、ポリケトン)、アントラキノン重合体(例えば、ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物捕捉剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば、無機フィラー等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0049】
[EVOH樹脂組成物の製造方法]
上記の各成分を用いて、本発明のEVOH樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法があげられ、これらを任意に組み合わせることも可能である。
【0050】
上記ドライブレンド法としては、例えば、(i)EVOH樹脂(A)のペレットと、共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)とをタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0051】
上記溶融混合法としては、例えば、(ii)EVOH樹脂(A)のペレットと、共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)のドライブレンド物を溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法や、(iii)溶融状態のEVOH樹脂(A)に共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を添加して溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法等があげられる。
【0052】
上記溶液混合法としては、例えば、(iv)市販のEVOH樹脂(A)のペレットを用いて溶液を調製し、ここに共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を配合し、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法や、(v)EVOH樹脂(A)の製造過程で、ケン化前のエチレン-ビニルエステル系共重合体溶液やEVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を含有させた後、凝固成形してペレット化し、固液分離して乾燥する方法があげられる。
【0053】
上記含浸法としては、例えば、(vi)EVOH樹脂(A)のペレットを、共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を含有する水溶液と接触させ、EVOH樹脂(A)ぺレット中に共役ポリエン構造を有する化合物(B)および鉄化合物(C)を含有させた後、乾燥する方法をあげることができる。
【0054】
本発明においては、上記の異なる方法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著なEVOH樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(ii)の方法が好ましい。
【0055】
なお、上記各方法によって得られる本発明のEVOH樹脂組成物ペレット、上記各方法で用いられるEVOH樹脂(A)のペレットの形状は任意である。例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル形、または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、更に好ましくは2.5~5.5mmであり、長径は通常1.5~30mm、好ましくは3~20、更に好ましくは3.5~10mmである。また、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0056】
また、上記の各方法で用いられる鉄化合物(C)としては、前述のとおり、好ましくは、水溶性の鉄化合物が用いられ、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等の酸化物、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の塩化物、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等の水酸化物、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩等の鉄塩があげられる。なお、かかる鉄化合物(C)は、前述のとおり、EVOH樹脂組成物中で、上記の塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。
【0057】
また、上記(vi)の方法で用いられる鉄化合物(C)を含有する水溶液としては、上記鉄化合物(C)の水溶液や、鉄鋼材料を各種薬剤を含む水に浸漬することで鉄イオンを溶出させたものを用いることができる。なお、その場合、EVOH樹脂組成物中の鉄化合物(C)の含有量(金属換算)は、EVOH樹脂(A)のペレットを浸漬する水溶液中の鉄化合物(C)の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。上記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。かかる浸漬後のペレットは公知の手法にて固液分離し、公知の乾燥方法にて乾燥する。かかる乾燥方法として、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0058】
本発明のEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は、通常、0.01~0.5重量%であり、好ましくは0.05~0.35重量%、特に好ましくは0.1~0.3重量%である。
【0059】
なお、本発明におけるEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
EVOH樹脂組成物ぺレットの乾燥前重量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の重量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0060】
また、本発明のEVOH樹脂組成物の熱安定性は、重量減少割合によって評価することができ、本発明のEVOH樹脂組成物における重量減少割合は、通常0.7~1.1%であり、好ましくは0.8~1.0%であり、特に好ましくは0.9%である。重量減少割合の数値が小さすぎる(重量減少が少なすぎる)と、EVOH樹脂組成物がほとんど分解せず、溶融成形時に経時的に増粘し、ロングラン成形性が低下する傾向があり、重量減少割合の数値が大きすぎる(重量減少が多すぎる)と、EVOH樹脂組成物が分解しすぎていることを表し、EVOH樹脂組成物の分解に起因するガス等により発泡し、成形品等の外観に悪影響を生じさせる傾向がある。
【0061】
上記重量減少割合は、1~5mm角に粉砕したEVOH樹脂組成物の粉砕品5mgを、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)を用いて、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下で測定して得られる、加熱前後の重量から下記式より算出する。
重量減少割合(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
【0062】
このようにして得られたEVOH樹脂組成物のペレットは、そのまま溶融成形に供することが可能であるが、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(例えば、高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等、またはその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。また、かかる滑剤の含有量は、EVOH樹脂組成物の通常、5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0063】
本発明のEVOH樹脂組成物は、ペレット、あるいは粉末状や液体状といった、さまざまな形態のEVOH樹脂組成物として調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。なお、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明のEVOH樹脂組成物に用いられるEVOH樹脂(A)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0064】
そして、かかる成形物としては、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて成形された単層フィルムをはじめとして、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて成形された層を有する多層構造体として実用に供することができる。
【0065】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を備えるものである。本発明のEVOH樹脂組成物からなる層(以下、「EVOH樹脂組成物層」と称する。)は、本発明のEVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、「基材樹脂」と称する。)と積層することで、さらに強度を付与したり、EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0066】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0067】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0068】
多層構造体の層構成は、本発明のEVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明のEVOH樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0069】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。そして、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0070】
多層構造体において、本発明のEVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層がEVOH樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0071】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、樹脂全体に対して、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0072】
本発明のEVOH樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明のEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して共押出する方法が好ましい。
【0073】
上記の如き多層構造体は、ついで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となる傾向があり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる傾向がある。
【0074】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本発明のEVOH樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0075】
また、場合によっては、本発明の多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0076】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成するEVOH樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0077】
さらに、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0078】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。特に、本発明のEVOH樹脂組成物からなる層は、着色が抑制され、熱安定性に優れていることから、食品、薬品、農薬等の包装材として特に有用である。
【実施例
【0079】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
なお、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0080】
実施例に先立って以下のEVOH樹脂(A)のペレットを準備し、そのEVOH樹脂(A)に含まれている鉄化合物(C)を分析した。
・EVOH樹脂(A):エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.9g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体
【0081】
[鉄化合物(C)の含有量の分析]
上記EVOH樹脂(A)のペレットを粉砕したサンプル0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)し、灰分を酸溶解して純水で定容したものを試料溶液とした。この溶液を下記のICP-MS(Agilent Technologies社製 ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて標準添加法で測定した。その結果、鉄化合物(C)の含有量は、金属換算にて0ppmであった。
【0082】
<実施例1>
上記EVOH樹脂(A)のペレット100部、共役ポリエン構造を有する化合物(B)としてソルビン酸(分子量112)0.01部(EVOH樹脂組成物の重量あたり100ppm)、鉄化合物(C)としてリン酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業社製、230℃乾燥減量 20.9重量%)0.000034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.1ppm)をプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、230℃において5分間予熱したのち5分間溶融混練し、実施例1のEVOH樹脂組成物を得た。得られたEVOH樹脂組成物を、粉砕機(ソメタニ産業社製 型式:SKR16-240)で650rpmにて粉砕して粉砕物を得た。かかる粉砕物は、1~5mm角の小片であった。
【0083】
<実施例2>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.00034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて1ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2のEVOH樹脂組成物を得た。
【0084】
<実施例3>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.0034部(EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて10ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3のEVOH樹脂組成物を得た。
【0085】
<比較例1>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物を配合しなかった以外は同様にして比較例1のEVOH樹脂組成物を得た。
【0086】
下記に示す方法により実施例1~3および比較例1のEVOH樹脂組成物の着色評価および熱安定性評価を行った。結果を後記表1に示す。
【0087】
[着色評価]
日本電色工業社製 分光色差計 SE6000を用いて、EVOH樹脂組成物の粉砕品を空気雰囲気下のオーブン内で150℃、5時間加熱したEVOH樹脂組成物におけるYI値を測定した。このとき、内径32mm高さ30mmの円筒に上記加熱したEVOH樹脂組成物を充填し、擦りきった状態で測定に供した。かかる値が大きいほど、EVOH樹脂組成物が黄色く着色していることを意味する。
【0088】
[熱安定性評価]
上記で得られたEVOH樹脂組成物の粉砕物を5mg用い、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)により、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下での加熱前後の重量から下記式より、重量減少割合を算出した。
重量減少割合(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
得られた重量減少割合の小数点第2位を四捨五入し、下記の評価基準に基づいて、熱安定性を評価した。
A:0.9% 熱安定性に特に優れる
B:0.8%、または、1.0% 熱安定性に非常に優れる
C:0.7%、または、1.1% 熱安定性に優れる
D:0.6% 熱安定性に劣る
E:~0.5%、または、1.2%以上~ 熱安定性に非常に劣る
【0089】
【表1】
【0090】
共役ポリエン構造を有する化合物(B)を含有し、鉄化合物(C)を含有しない比較例1では加熱後YI値が58.7と高かったのに対して実施例1~3では比較例1よりも低い値となり、良好であった。
【0091】
また、共役ポリエン構造を有する化合物(B)を含有し、鉄化合物(C)を含有しない比較例1では重量減少割合が1.2%と高く熱安定性に欠けていたのに対して、本発明の樹脂組成物を用いた実施例1~3では比較例1よりも熱安定性が良好であった。
【0092】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のEVOH樹脂組成物は、着色が抑制され、熱安定性に優れていることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料として特に有用である。