(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ガスの脱水剤
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20220301BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20220301BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220301BHJP
C01B 39/26 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B01D53/28
B01J20/18 B
B01J20/30
C01B39/26
(21)【出願番号】P 2020149633
(22)【出願日】2020-09-07
(62)【分割の表示】P 2016045418の分割
【原出願日】2016-03-09
【審査請求日】2020-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2015061351
(32)【優先日】2015-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】徳永 敬助
(72)【発明者】
【氏名】平野 茂
(72)【発明者】
【氏名】清水 要樹
(72)【発明者】
【氏名】船越 肇
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-046677(JP,B1)
【文献】特開昭62-283812(JP,A)
【文献】特表2002-526237(JP,A)
【文献】特開2011-161357(JP,A)
【文献】特開2001-239156(JP,A)
【文献】特開昭58-008535(JP,A)
【文献】国際公開第2014/205173(WO,A1)
【文献】Solar Energy Materials & Solar Cells 128(2014)p.289-295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/28-53/28
B01J 20/16-20/18
C01B 39/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム及びマグネシウムを含有し、モルデナイト型構造を有し、Al
2O
3に対するMgOのモル比が0.10以上0.60以下で、MgOに対するK
2Oのモル比が0.10以上4.0以下であるゼオライトを含み、平衡圧20mmHgでのベンゼンの吸着量が1.
0(g/100g-剤)で、水分吸着量/ベンゼン吸着量が10.9~11.5である、ガスの脱水剤。
【請求項2】
ゼオライトのAl
2O
3に対するSiO
2のモル比が8.0~12.0である請求項1に記載の脱水剤。
【請求項3】
ゼオライトがナトリウム又はカルシウムの少なくともいずれかを含有する請求項1又は2に記載の脱水剤。
【請求項4】
ゼオライトのAl
2O
3に対する、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、及びカルシウムの酸化物の総量のモル比が1.10以上である請求項1乃至3いずれか一項に記載の脱水剤。
【請求項5】
ゼオライトのAl
2O
3に対する、ナトリウムとマグネシウムの酸化物の和のモル比が0.30以上1.0以下である請求項1乃至4いずれか一項に記載の脱水剤。
【請求項6】
ゼオライトのBET比表面積が20m
2/g以上300m
2/g以下である請求項1乃至5いずれか一項に記載の脱水剤。
【請求項7】
ゼオライトが成形体である請求項1乃至6いずれか一項に記載の脱水剤。
【請求項8】
成形体がゼオライトを80重量%以上含有する請求項7に記載の脱水剤。
【請求項9】
カリウム及びマグネシウムを含有し、モルデナイト型構造を有するゼオライトをバインダーと混練する混練工程、得られた混練物を成形する成形工程、得られた成形体を熱処理する熱処理工程を含む請求項7又は8に記載の脱水剤の製造方法。
【請求項10】
バインダーがアタパルジャイト、セピオライト、及びカオリンからなる群の少なくとも1種である請求項9に記載の脱水剤の製造方法。
【請求項11】
ゼオライト100重量部に対するバインダー量が25重量部以下である請求項9又は10に記載の脱水剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至8いずれか一項に記載の脱水剤を使用する炭化水素を含むガスの脱水方法。
【請求項13】
炭化水素がベンゼンである請求項12に記載のガスの脱水方法。
【請求項14】
請求項1乃至8に記載の脱水剤と、炭化水素を含むガスを接触させる工程を含む炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱水剤に関する。更に詳しくは、炭化水素を含むガスの脱水に適したゼオライト脱水剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プロセスの中で、ガスの脱水剤としてゼオライトが使用されている。ゼオライトは他の物質と比べて、水分吸着容量が大きい点、低水分圧まで脱水が可能な点、分子ふるい効果により選択性に優れている点等が利点として挙げられる。
【0003】
ゼオライトはアルミノケイ酸塩であり、Al2O3に対するSiO2のモル比(以下、「SiO2/Al2O3」とする。)により耐熱水性や吸着特性が異なることが知られている。SiO2/Al2O3が10を超えるようなハイシリカゼオライトは耐熱水性に優れるものの、その合成には高価な原料や設備が必要であり、脱水剤としては一般的には使用されていなかった。
【0004】
非特許文献1において、カリウム交換したA型ゼオライトを用いたナフサ分解ガス中の水分除去方法が開示されている。しかしながら、当該ゼオライトはガス吸着の選択性に優れるものの、使用環境によっては熱水劣化、コーキング等が生じ、脱水剤寿命は十分なものではなかった。
【0005】
特許文献1において、ゼオライトビーズ成形体を含む脱水剤が開示されている。当該脱水剤としてA型ゼオライトを用いた脱水剤、及び当該脱水剤を用いたフッ素化炭化水素冷媒の脱水が例示されている。
【0006】
特許文献2において、カリウム交換したA型ゼオライトを含む、フッ素化炭化水素冷媒を含む冷媒用の脱水剤が開示されている。
【0007】
特許文献3において、空気の精製を目的として、水、窒素酸化物、二酸化炭素の吸着剤としてゼオライトを用いる方法が開示されている。しかしながら、特許文献3で用いられているモルデナイト型ゼオライトは窒素酸化物の吸着剤として使用されており、脱水剤として使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-261330号公報
【文献】特開2011-083726号公報
【文献】特開2014-223622号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】ゼオライトの科学と工学 第1刷 P106 小野嘉夫、八嶋達明
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、化学プロセスなどにおいて、炭化水素を含むガスの脱水、特に炭化水素を主成分とするガスの脱水剤として、従来はA型ゼオライトが使用されている。しかし、当該ゼオライトは水と共に炭化水素も吸着するため、炭化水素を含むガスの脱水においては、脱水剤にコーキングが生じる。コーキングが生じた脱水剤は水分の吸着量が著しく低下するため脱水剤寿命が短くなる。特に工業的な規模での化学プロセスにおいては、脱水剤の再生又は脱水剤の交換の頻度が高くなることが問題であった。
【0011】
これらの課題に鑑み、本発明は、耐コーキング性が高く炭化水素を含むガスの脱水に使用される脱水剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題に対し鋭意検討した。その結果、カリウム(K)及びマグネシウム(Mg)を含有し、モルデナイト型構造を有するゼオライトを含む脱水剤が、水を十分に吸着し、なおかつ、炭化水素の吸着量が少ないことを見出した。これにより本発明を完成させるに至った。
【0013】
以下、本発明の脱水剤について説明する。
【0014】
本発明の脱水剤はモルデナイト型構造を有するゼオライトを含む。モルデナイト型構造とは、国際ゼオライト学会が規定するコードでMOR構造のことである。
【0015】
本発明の脱水剤が含むゼオライトは、K及びMgを含有する。K及びMgを含むことで脱水剤の炭化水素の吸着量が少なくなる。このため、コーキングが生じにくい。
【0016】
コーキングとは炭化水素が高温で熱分解されることで炭化水素を主成分とする固体、いわゆるコークスを生じる化学反応である。炭化水素を含むガスを脱水剤と接触させることで、炭化水素が脱水剤に吸着する。吸着した炭化水素が熱分解されることで、芳香族化合物が生成し、当該芳香族化合物が熱分解することでコークスが析出する。コーキングが生じると脱水剤の性能は低下する。したがって、耐コーキング性の高い脱水剤であれば脱水性能低下が抑制されるため、長期間使用することができる。
【0017】
K及びMgは、酸化物の形態、又はゼオライト吸着サイトにおけるイオンとしての形態の少なくともいずれかの形態で存在する。ここで、酸化物は複数の金属を含有する複合酸化物であってもよい。
【0018】
K及びMgの含有量は、Al2O3に対する、K2O及びMgOのモル比で表すことができる。
【0019】
Al2O3に対するK2Oのモル比(以下、「K2O/Al2O3」とする。)は0.10以上、更には0.13以上、また更には0.20以上であることが好ましく、また更には0.30以上であることが好ましい。K2O/Al2O3が0.20以上であることにより、特に炭化水素吸着量が低減される。通常、本発明の脱水剤が含むゼオライトのK2O/Al2O3」は0.60以下である。
【0020】
また、Al2O3に対するMgOのモル比(以下、「MgO/Al2O3」とする。)は0.03以上であることが好ましく、更には0.05以上、また更には0.10以上であることが好ましい。MgO/Al2O3が0.03以上であることにより、特に炭化水素吸着量が低減される。通常、本発明の脱水剤が含むゼオライトのMgO/Al2O3は0.60以下である。
【0021】
MgOに対するK2Oのモル比(以下、「K2O/MgO」とする。)は、0.10以上8.0以下、更には0.10以上4.0以下、また更には2.0以上、4.0以下であることが好ましい。K2O/MgOがこの範囲であることにより、特に炭化水素吸着量が低減され、なおかつ、水分吸着量が多くなる。
【0022】
本発明の脱水剤が含むゼオライトは、更にナトリウム(Na)、又はカルシウム(Ca)の少なくともいずれかを含有することが好ましい。
【0023】
Na及びCaは、酸化物の形態、又はゼオライト吸着サイトにおけるイオンとしての形態の少なくともいずれかで存在する。ここで、酸化物は複数の金属を含有する複合酸化物であってもよい。
【0024】
Na及びCaの含有量は、Al2O3に対する、Na2O及びCaOのモル比で表することができる。
【0025】
Al2O3に対するNa2Oのモル比(以下、「Na2O/Al2O3」とする。)は0.10以上、0.90以下であることが好ましい。更には0.50以上0.90以下であることが好ましい。Na2O/Al2O3がこの範囲であることにより、特に炭化水素吸着量が低減される。
【0026】
また、Al2O3に対するCaOのモル比(以下、「CaO/Al2O3」とする。)は0.05以上、0.70以下であることが好ましい。CaO/Al2O3がこの範囲であることにより、特に炭化水素吸着量が低減される。
【0027】
本発明の脱水剤が含むゼオライトは、Al2O3に対する、K、Mg、Na、Caの酸化物の総量のモル比、(K2O+MgO+Na2O+CaO)/Al2O3(以下、「MxO/Al2O3」とする。)が1.10以上、更には1.20以上、また更には1.40以上であることが好ましい。1.10以上、特に1.20以上であれば、特に分子サイズの大きい炭化水素の吸着がより抑制されるため、耐コーキング性がより向上する。特に1.40以上であれば、コーキングの原因となりやすいベンゼン等芳香族化合物の吸着を著しく抑制することができ、耐コーキング性がより向上する。通常、本発明の脱水剤が含むゼオライトのMxO/Al2O3」は1.80以下である。
【0028】
本発明の脱水剤が含むゼオライトは、Al2O3に対する、NaとMgの酸化物の和のモル比(以下、「(Na2O+MgO)/Al2O3」とする。)は0.30以上1.0以下であることが好ましく、更に好ましくは0.60以上1.0以下、また更に好ましくは0.60以上0.90以下である。これにより、特に本発明の脱水剤の炭化水素吸着量が低減される。
【0029】
本発明の脱水剤が含むゼオライトは、SiO2/Al2O3が8.0~12.0であることが好ましい。8.0以上であることにより脱アルミニウムが抑制されるため耐熱水性が向上する。そのため、炭化水素を含有する高温のガスの脱水処理に使用しても劣化を抑制でき、長時間使用することができる。12.0以下であることにより、より多くの水分を吸着する。
【0030】
本発明の脱水剤が含むゼオライトのBET比表面積は、好ましくは20m2/g以上、更に好ましくは50m2/g以上である。これにより、本発明の脱水剤がより良好な脱水性能を有する。また、BET比表面積は、好ましくは300m2/g以下、更に好ましくは150m2/g以下である。これにより、ゼオライト細孔内でのコーキングの発生を抑制されるため、本発明の脱水剤の耐コーキング性がより向上する。BET比表面積は、好ましくは20m2/g以上300m2/g以下、更に好ましくは50m2/g以上150m2/g以下である。
【0031】
本発明の脱水剤が含むゼオライトは、平均粒径10~50μmであることが好ましい。平均粒径がこの範囲であることにより、ゼオライトを成形体とした場合に耐圧強度が非常に高くなり、脱水剤の寿命が向上する。耐圧強度がより向上するため、平均粒径は10~40μm、更には平均粒径13~23μmであることが好ましい。
【0032】
ここで平均粒径とは、ゼオライトを粉末とした場合の平均粒径であり、成形体とした場合の粒径とは異なる。平均粒径は、体積基準で表される粒径分布の累積曲線が中央値(メディアン径;累積曲線の50%に対応する粒径)である粒と同じ体積の球の直径をいい、レーザー回折法による粒径分布測定装置によって測定することができる。
【0033】
本発明の脱水剤が含むゼオライトは、粉末あるいは成形体の少なくともいずれかであればよく、特に成形体であることが好ましい。ここで成形体とは、ゼオライト粉末にバインダーを添加し、混練、成形したものである。すなわち成形体とは、ゼオライトとバインダーを含むものである。成形体にすることで、脱水剤を充填した充填層に対して炭化水素を含むガスを通過させた場合の圧力損失を抑えることができ、なおかつ、脱水剤充填層とガスとの接触効率が高まり、脱水効率を改善することができる。また、脱水剤の充填層への充填、充填層からの抜出し、移送等、ハンドリングが容易となる。充填層の閉塞も起こりにくくなる。
【0034】
本発明の脱水剤の含むゼオライトが成形体である場合、その成形体の形状は、例えば、円柱状、円板状、球状、及び略球状からなる群の少なくとも1種であることが挙げられる。
【0035】
本発明の脱水剤の含むゼオライトが成形体である場合、当該成形体は上記組成のゼオライトを80重量%以上含むことが好ましい。ゼオライトを80重量%以上含むことで、ガスと接触する重量当たり、体積当たりのゼオライト成分が多くなり、脱水の効率がよくなる。さらに好ましくは、85重量%以上である。
【0036】
本発明の脱水剤の含むゼオライトが成形体である場合、当該成形体はバインダーとしてアタパルジャイト、セピオライト、又はカオリンからなる群の少なくとも1種、更にはアタパルジャイト又はカオリンのいずれか、また更にはアタパルジャイトを含むことが好ましい。上記のバインダーを含むことにより組成の変化、成形時の熱処理によるK,Mg等の金属の移動等が生じ、炭化水素ガス雰囲気中でも炭化水素吸着量がより低くなる。
【0037】
本発明の脱水剤として成形体を含有する場合、当該成形体は、上記形状における直径が0.5mm以上、更には1.5mm以上であることが好ましい。直径が0.5mm以上であることで、本発明の脱水剤を充填した充填層に炭化水素を含むガスを流通させた際に、充填層の圧力損失が小さくなる。一方、直径は5mm以下、更には4mm以下であることが好ましい。直径が5mm以下であることで、充填層単位体積当りの表面積が大きくなる。これにより、より効率よく脱水剤とガスが接触する。
【0038】
次に本発明の脱水剤の製造方法について説明する。
【0039】
本発明の脱水剤に含まれるゼオライトは、K及びMgを含有し、モルデナイト型構造を有していれば任意の方法により得ることができる。上記組成を有するモルデナイト型ゼオライトとしては、天然に存在するゼオライト(以下、「天然ゼオライト」ともいう。)又は、合成されたゼオライト(以下、「合成ゼオライト」ともいう。)の少なくともいずれかであればよい。これらのゼオライトが、本発明の脱水剤に含まれるゼオライトの組成となるように、例えば、金属塩の担持や、金属イオン交換等の処理を行ってもよい。
【0040】
本発明の脱水剤に含まれるゼオライトは、上記の天然ゼオライトまたは合成ゼオライトを、粉末、成形体の少なくともいずれかの形態で使用すればよい。
【0041】
ゼオライト粉末を用いる場合、ゼオライト粉末をそのまま用いる方法、必要に応じて粉砕分級、または解砕してより細かい粉末にする方法を挙げることができる。
【0042】
ゼオライトを成形体として用いる場合、カリウム及びマグネシウムを含有し、モルデナイト型構造を有するゼオライトをバインダーと混練する混練工程、得られた混練物を成形する成形工程、得られた成形体を熱処理する熱処理工程を含む製造方法を挙げることができる。
【0043】
混練工程においては、ゼオライトとバインダーは任意の方法で混練することができる。
【0044】
混練工程においては、使用するバインダーは焼結性を有する粘土であることが好ましく、アタパルジャイト、セピオライト、又はカオリンからなる群の少なくとも1種、更にはアタパルジャイト又はカオリンのいずれか、また更にはアタパルジャイトであることが好ましい。
【0045】
混練工程においては、バインダーの使用量はゼオライト100重量部に対して25重量部以下であることが好ましい。これにより得られる成形体の耐圧強度が向上する。更には10重量部以上、20重量部以下のバインダーを使用することが好ましい。
【0046】
混練工程において、バインダーとゼオライトがより均一に混練され、混練物が適度な硬さとなることから、水を添加して混練することが好ましい。好ましい水の添加量は、ゼオライト100重量部に対し40~80重量部である。
【0047】
混練工程においては、得られた混練物の造粒性を改善するために、ゼオライト及びバインダーに造粒助剤を加えて混練することが好ましい。造粒助剤は混練物の粘度を高くする機能を有する化合物であればよく、メチルセルロースを挙げることができる。特に好ましいメチルセルロースとしてカルボキシメチルセルロースを挙げることができる。
【0048】
成形工程においては、得られた混練物を任意の形状に成形できる。成形方法として、例えば、押出し造粒法、攪拌造粒法、圧縮造粒、流動層造粒、破砕造粒、噴霧造粒、及び転動造粒法からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0049】
熱処理工程では、得られた成形体を550℃以上、更には600℃以上で熱処理することが好ましい。600℃以上の熱処理により、強度が向上する。さらに、熱処理によりK、Mg等の金属が安定なサイトに移動する固相イオン交換効果により脱水性能が向上する。熱処理は600℃以上、更には650℃以上で行うことが好ましい。一方、より高い強度を有する成形体が得られることから、800℃以下、更には700℃以下で行うことが好ましい。
【0050】
熱処理の雰囲気は水蒸気濃度の低い雰囲気であることが好ましく、例えば、水蒸気濃度が5体積%以下の乾燥空気雰囲気を挙げることができる。また、熱処理時間は熱処理に供する成形体の量により異なるが、例えば、1時間以上、5時間以下を挙げることができる。
【0051】
このようにして得られた成形体をそのまま、又は、当該成形体とゼオライト粉末とを混合して、本発明の脱水剤として使用すればよい。
【0052】
本発明の脱水剤は耐コーキング性が高いことから、炭化水素を含むガスの脱水剤として使用することができる。
【0053】
炭化水素を含むガスにおいて、水の含有量は10体積%以下であることが好ましい。
【0054】
炭化水素としては、炭化水素化合物、あるいはそれらの誘導体が挙げられる。例えば、炭化水素化合物として、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ベンゼン、トルエン、及びキシレンからなる群の少なくとも1種が挙げられる。炭化水素化合物の誘導体としては、前記炭化水素化合物の誘導体が挙げられ、例えばエチレンジクロライド、塩化ビニルモノマー、エチレンジアミン等のアルキルアミン、及びクロロフルオロカーボン等のフロンからなる群の少なくとも1種が挙げられる。また、軽油、分解ガソリン等の流動接触分解により発生する留分も挙げられる。
【0055】
炭化水素を含むガスは、上記炭化水素の少なくとも1種を含むガスであればよく、炭化水素を主成分とするガス、または、例えばパージガスなどの上記炭化水素を少量含むガス、のいずれであってもよい。
【0056】
本発明の脱水剤は、十分な水分吸着量を有し、なおかつ、炭化水素の吸着量が従来のゼオライト脱水剤よりも低い。そのため、コーキングが起こりにくく、脱水剤寿命に優れる。また、成形体とした場合においても、粉末状態と比較して、水分吸着量、及び、炭化水素吸着量の変化が小さいため、高い脱水性能を示す。
【0057】
本発明の脱水剤は、耐コーキング性に優れるため、長期間にわたる水分の吸着除去に適している。そのため、上記炭化水素を取り扱う化学プラントの脱水工程で使用することができる。
【0058】
本発明の脱水剤は、炭化水素を含むガスの脱水方法に用いることができる。脱水方法としては、炭化水素ガスと脱水剤が十分に接触する方法であればよい。例えば、容器に脱水剤を入れ、炭化水素ガスを導入して一定時間静置する方法、脱水剤を固定式充填層に充填後、当該充填層に炭化水素ガスを流通させる固定床流通式の脱水方法、又は、脱水剤を固定式ではない充填層に充填後、当該充填層に炭化水素ガスを流通させる流動床流通式の脱水方法が例示できる。
【0059】
本発明の脱水剤は、炭化水素として特にベンゼン、トルエン、キシレン、軽油、及び分解ガソリンを含むガスの脱水方法に用いることが好ましい。更に、ベンゼン、トルエン、及びキシレンを含むガスの脱水方法に用いることが好ましく、また更には、ベンゼンを含むガスの脱水方法に用いることが好ましい。
【0060】
本発明の脱水剤を用いた炭化水素の製造方法では、前記炭化水素を含むガスを当該脱水剤に接触させる工程を含む。
【0061】
炭化水素を含むガスを脱水剤と接触させる際の温度は、特に制限されるものではないが、好ましくは1℃以上100℃以下である。50℃以下、好ましくは25℃以下であることにより、脱水剤が十分な吸着性能を発現する。また、1℃以上とすることで吸水した吸着剤が凍結破損することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明の脱水剤は、従来のゼオライト脱水剤より耐コーキング性が高い。そのため、化学プロセスにおいて炭化水素ガスの脱水用途に使用しても、長期間交換無しで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】ガス吸着量の測定に使用したMcBainの吸着天秤の概略図
【
図2】実施例1、実施例2、実施例3、比較例1の25℃における水分吸着等温線(○:実施例1、◆:実施例2、□:実施例3、▲:比較例1)
【
図3】実施例1、実施例2、実施例3、比較例1の25℃におけるベンゼン吸着等温線(○:実施例1、◆:実施例2、□:実施例3、▲:比較例1)
【実施例】
【0064】
(モルデナイト型構造の同定)
一般的なX線回折装置(商品名:MXP-3、マックサイエンス社製)を使用し、試料の粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)測定を行った。測定条件は以下のとおりとした。
【0065】
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件: 毎秒0.02°
発散スリット: 1.0deg
散乱スリット: 1.0deg
受光スリット: 0.3mm
計測時間 : 1秒
測定範囲 : 2θ=3°~43°
得られたXRDパターンから、モルデナイト型構造の確認を行った。
【0066】
(化学組成の測定)
試料を硝酸とフッ酸を用いた溶解液に溶解し、測定溶液とした。ICP法により、当該測定溶液中のアルミニウム、ケイ素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの濃度を測定した。測定には、一般的なICP発光分析装置(装置名:optima3000、パーキンエルマー社製)を用いた。得られた各イオン濃度より、試料の組成を求めた。
【0067】
(粒径分布測定)
光散乱式粒度分布測定により、粒径分布を測定した。測定には、一般的な光散乱式粒径分布測定装置(日機装株式会社 MICROTRAC HRA MODEL:9320-X1000)を用いた。前処理として、試料を蒸留水に懸濁させ、超音波ホモジナイザーを用いて2分間分散させた。得られた粒径分布の累積曲線から、平均粒径を得た。
【0068】
(水分吸着量の測定)
測定は石英スプリング法(重量法)にて実施した。測定装置としてはMcBainの吸着天秤を用いた。以下、吸着量の測定方法を概略図(
図1)により説明する。試料0.3gを石英製のバスケット(1)に入れ、石英スプリング(2)につるし、試料室(3)の内部に設置した。その後、真空ポンプ(4)を使用し試料室内を圧力1×10
-3mmHg以下、350℃で、2時間保持し前処理とした。圧力は圧力計(5)を用いて計測した。その後、試料室内を25℃に保持し、吸着質容器(6)に吸着質として水を入れ、十分に上記を発生させた後、水蒸気を段階的に導入していき、吸着平衡になった時点での平衡圧、及び、試料の重量変化から吸着量を測定した。吸着量は試料100gに対する重量(g)(以下、「g/100g-剤」とする。)で示した。吸着質の液体の温度を23℃であった。平衡圧力0mmHgから約20mmHgの各平衡圧力における水分吸着量を測定した。得られた水の吸着等温線(以下、「水分吸着等温線」とする。)から、17mmHgにおける水分吸着量を求めた。
【0069】
(ベンゼン吸着量の測定)
吸着質をベンゼンとし、ベンゼンの液体温度を15℃とした以外は上記の水分吸着量の測定と同様の方法で、平衡圧力0mmHgから約50mmHgの各平衡圧力におけるベンゼン吸着量を測定した。得られたベンゼン吸着等温線(以下、「ベンゼン吸着等温線」とする。)から、20mmHgにおけるベンゼン吸着量を求めた。
【0070】
(BET比表面積の測定)
国際標準化規格であるISO 9277:2010 (Determination of the specific surface area of solids by gas adsorption ―BET method)に従って測定を実施した。測定には、一般的な比表面積測定装置(商品名:BELSORP MAX、マイクロトラックベル製)を用いた。前処理として試料を350℃で2時間保持した。前処理後の試料についてBET比表面積を測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0071】
吸着質ガス:窒素
適用相対圧:P/P0=0~0.1
測定方法 :多点法
実施例1
以下の組成(モル組成)を有し、なおかつ、モルデナイト型構造を有する天然ゼオライトを使用した。MxO/Al2O3は1.59、K2O/MgOは3.2であった。
【0072】
SiO2/Al2O3 = 10.1
Na2O/Al2O3 = 0.74
K2O/Al2O3 = 0.48
CaO/Al2O3 = 0.22
MgO/Al2O3 = 0.15
当該天然ゼオライトを粉砕した後、分級することにより、平均粒径が17μmのゼオライト粉末とした。
【0073】
このゼオライト粉末100重量部に対し、アタパルジャイト型粘土(製品名:ミニゲルMB、アクティブミネラルズ社製、)20重量部、カルボキシメチルセルロース3重量部、及び水23重量部を混練した。得られた混練物の水分量は39.4重量%であった。
【0074】
得られた混練物を押し出し成形により、直径1.5mm、長さ1.0~7.0mm(平均長さ3.4mm)の円柱状の成形体とし、これを100℃で1晩乾燥した。乾燥後の成形体を、空気流通下、600℃で3時間焼成して成形体を得た。得られた成形体の組成を表1、表2及び表3に、BET比表面積を表2に示す。
【0075】
得られた成形体の水分吸着等温線を
図2に、ベンゼン吸着等温線を
図3に示す。平衡圧17mmHgでの水の吸着量は10.9(g/100g-剤)、平衡圧20mmHgでのベンゼンの吸着量は1.0(g/100g-剤)であった。平衡圧20mmHgでのベンゼンの吸着量に対する、平衡圧17mmHgでの水の吸着量の比(以下、「水分吸着量/ベンゼン吸着量」とする。)は10.9であった。結果を表3に示す。
【0076】
実施例2
実施例1と同じ天然ゼオライトを使用した。組成を表1、表2及び表3に示す。当該天然ゼオライトを分級し、粒径1~3mmとした。得られたゼオライトのBET比表面積を表2に示す。
【0077】
得られたゼオライトの水分吸着等温線を
図2に、ベンゼン吸着等温線を
図3に示す。平衡圧17mmHgでの水の吸着量は11.5(g/100g-剤)、平衡圧20mmHgでのベンゼンの吸着量は1.0(g/100g-剤)であった。水分吸着量/ベンゼン吸着量は11.5であった。結果を表3に示す。
【0078】
実施例3
以下の組成を有し、なおかつ、モルデナイト型構造を有する天然ゼオライトを使用した。組成を表1、表2及び表3に示す。MxO/Al2O3は1.31、K2O/MgOは7.4であった。
【0079】
SiO2/Al2O3 = 9.9
Na2O/Al2O3 = 0.43
K2O/Al2O3 = 0.37
CaO/Al2O3 = 0.46
MgO/Al2O3 = 0.05
当該天然ゼオライトを打錠成形した後に粉砕し、粒径0.8~1.6mmとした。得られたゼオライトのBET比表面積を表2に示す。
【0080】
得られたゼオライトの水分吸着等温線を
図2に、ベンゼン吸着等温線を
図3に示す。平衡圧17mmHgでの水の吸着量は14.7(g/100g-剤)、平衡圧20mmHgでのベンゼンの吸着量は3.8(g/100g-剤)であった。水分吸着量/ベンゼン吸着量は3.9であった。結果を表3に示す。
【0081】
比較例1
以下の組成を有し、なおかつ、モルデナイト型構造を有する合成ゼオライトを使用した。組成を表1、表2及び表3に示す。K、Ca、Mgは検出されず、MxO/Al2O3は1.02であった。
【0082】
SiO2/Al2O3 = 10.1
Na2O/Al2O3 = 1.02
当該ゼオライトを打錠成形した後に粉砕し、粒径0.8~1.6mmとした。得られたゼオライトのBET比表面積を表2に示す。
【0083】
得られたゼオライト粉末の水分吸着等温線を
図2に、ベンゼン吸着等温線を
図3に示す。平衡圧17mmHgでの水の吸着量は16.4(g/100g-剤)、平衡圧20mmHgでのベンゼンの吸着量は6.6(g/100g-剤)であった。水分吸着量/ベンゼン吸着量は2.5であった。結果を表3に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
実施例1~3、比較例1を比較すると、K、Mgを含むことでベンゼン吸着量が小さくなることが確認された。これにより、実施例の吸着剤は比較例の吸着剤よりも耐コーキング性が高くなっていることがわかる。特にMxO/Al2O3が1.4以上ではベンゼン吸着量を著しく抑制することができることがわかった。
【0088】
実施例1と実施例2を比較すると、成形体にしてもほぼ同等の性能を保持していることが確認された。実施例1はゼオライトに対してバインダーを添加しているため、その重量分の性能低下が予想されたが、性能を維持している結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の脱水剤は、脱水用途に使用することができる。特に、耐コーキング性に優れるため、耐久性が要求される化学プロセスにおいて取り扱われる炭化水素ガスからの脱水用途に使用することができる。
【符号の説明】
【0090】
(1)・・・石英製のバスケット
(2)・・・石英スプリング
(3)・・・試料室
(4)・・・真空ポンプ
(5)・・・圧力計
(6)・・・吸着物質容器