(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】メタクリル酸製造用触媒の製造方法、並びにメタクリル酸及びメタクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/199 20060101AFI20220301BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220301BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220301BHJP
C07C 51/235 20060101ALI20220301BHJP
C07C 57/055 20060101ALI20220301BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220301BHJP
【FI】
B01J27/199 Z
B01J37/08
B01J37/04 102
C07C51/235
C07C57/055 B
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020515577
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017719
(87)【国際公開番号】W WO2019208715
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018085196
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】平田 純
(72)【発明者】
【氏名】安川 桂子
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051840(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/013749(WO,A1)
【文献】特開2013-006162(JP,A)
【文献】国際公開第2004/105941(WO,A1)
【文献】特開平08-157414(JP,A)
【文献】特開平09-075740(JP,A)
【文献】特表2010-510882(JP,A)
【文献】特開平09-038495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 51/235
C07C 57/055
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒の製造方法であって、
(I)少なくともモリブデン原料及びリン原料を溶媒と混合し、溶液又はスラリーを調製する工程と、
(II)前記溶液又はスラリーを乾燥し、触媒前駆体を得る工程と、
(III)前記触媒前駆体を焼成して触媒を得る工程と、
を有し、
前記工程(I)において、リン原料の少なくとも一部としてリン酸三アンモニウムを使用
し、
前記工程(III)で得られる触媒が、下記式(4)で表される組成を有することを特徴とする触媒の製造方法。
P
a
Mo
b
V
c
Cu
d
A
e
E
f
G
g
(NH
4
)
h
O
i
(4)
(式(4)中、P、Mo、V、Cu、NH
4
及びOは、それぞれ、リン、モリブデン、バナジウム、銅、アンモニウム根及び酸素を表す。
Aはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。
Eは鉄、亜鉛、クロム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、スズ、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。
Gはカリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム、マグネシウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。
a~iは、各成分のモル比率を表し、b=12であり、0.5≦a≦3、0.01≦c≦3、0.01≦d≦2、0≦e≦3、0≦f≦3、0.01≦g≦3、0≦h≦20を満たし、iは前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
【請求項2】
前記工程(II)で得られる触媒前駆体が、ケギン型ヘテロポリ酸構造を有する、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記工程(III)で得られる触媒
において、モリブデン12モルに対するリンのモル比率
aと、モリブデン12モルに対するリン酸三アンモニウム由来のリンのモル比率
a’とが、下記式(2)を満た
す、請求項1
または2に記載の触媒の製造方法。
0.1≦a’/a≦1 (2)
【請求項4】
前記工程(II)で得られる触媒前駆体が、モリブデン12モルに対するアンモニウム根のモル比率をh2、モリブデン12モルに対するリン酸三アンモニウム由来のアンモニウム根のモル比率をh2’とした時、下記式(3)を満たすものである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
0.2≦h2’/h2≦1 (3)
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法により製造された触媒の存在下で、メタクロレインを酸化することを含む、メタクリル酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法により触媒を製造する工程と、該触媒を用いてメタクロレインを酸化する工程とを含む、メタクリル酸の製造方法。
【請求項7】
請求項
5又は
6に記載の方法により製造されたメタクリル酸をエステル化することを含む、メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法により触媒を製造する工程と、該触媒を用いてメタクロレインを酸化する工程と、該メタクリル酸をエステル化する工程とを含む、メタクリル酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸製造用触媒の製造方法、並びに該製造されたメタクリル酸製造用触媒を用いたメタクリル酸及びメタクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒(以下、単に「触媒」とも記す)としては、例えばモリブデン及びリンを含むヘテロポリ酸系触媒が知られている。前記ヘテロポリ酸系触媒としては、カウンターカチオンがプロトンであるプロトン型ヘテロポリ酸、及びそのプロトンの一部をプロトン以外のカチオンで置換したヘテロポリ酸塩が挙げられる(以下、プロトン型ヘテロポリ酸を単に「ヘテロポリ酸」、プロトン型ヘテロポリ酸及び/又はヘテロポリ酸塩を単に「ヘテロポリ酸(塩)」とも記す)。
【0003】
ヘテロポリ酸(塩)とは、ポリ酸の基本骨格を形成する配位原子(以下、ポリ原子と記す)と、ヘテロ原子の酸化物による縮合酸素酸(塩)である。リン、ケイ素、ヒ素、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等がヘテロ原子、タングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル等がポリ原子になり得る。ヘテロポリ酸(塩)の基本構造は、ケギン型、ドーソン型、プレイスラー型等がある(非特許文献1)。
ヘテロポリ酸系触媒においては、メタクリル酸の収率向上の目的で、触媒の改良も行われている。例えば、ヘテロポリ酸の基本構造や結晶構造を制御することにより触媒を改良し、メタクリル酸の収率を向上する試みも報告されている(非特許文献2)。前記非特許文献2では、リン及びモリブデンから構成されるヘテロポリ酸では、ケギン型、ドーソン型及びそれらの欠損型の基本構造が存在し、これらの基本構造は、ヘテロポリ酸水溶液のイオン強度、pH等に依存して変化することが報告されている。
【0004】
また、ある特定の製造方法を使用して調製した触媒が、メタクリル酸の収率に寄与することが特許文献1に開示されている。具体的には、以下の(i)~(iv)の工程を含む製造方法により調製された触媒が開示されている。
(i)水中に少なくともモリブデン原料及びX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリー又は水溶液を調製する工程;
(ii)前記水性スラリー又は水溶液に、アルカリ金属化合物を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部のアルカリ金属塩であるヘテロポリ酸塩を析出させる工程;
(iii)前記ヘテロポリ酸塩が析出している水性スラリー又は水溶液に、正リン酸、五酸化リン及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種であるリン原料を添加する工程;
(iv)全ての原料を含む水性スラリー又は水溶液を乾燥して、乾燥物を得る工程;および
(v)前記乾燥物を熱処理する工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】御園生誠、橋本正人、触媒、vol.34、No.3(1992)
【文献】Lege Pattersson、Ingerarb Andersson、Lars-Olof Ohman、Inorganic Chemistry、vol.25、4726-4733(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、メタクリル酸の収率向上のために、更なる触媒の改良が望まれている。
【0008】
本発明は、メタクリル酸の収率を高めることを目的として、工業触媒として使用可能なメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供するものである。また本発明は、この触媒を用いたメタクリル酸及びメタクリル酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、ある特定の製造方法により製造された触媒を、メタクリル酸製造用触媒として利用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]の構成を含む。
[1]:メタクロレインを酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒の製造方法であって、
(I)少なくともモリブデン原料及びリン原料を溶媒と混合し、溶液又はスラリーを調製する工程と、
(II)前記溶液又はスラリーを乾燥し、触媒前駆体を得る工程と、
(III)前記触媒前駆体を焼成して触媒を得る工程と、
を有し、
前記工程(I)において、リン原料の少なくとも一部としてリン酸三アンモニウムを使用し、
前記工程(III)で得られる触媒が、下記式(4)で表される組成を有することを特徴とする触媒の製造方法。
P
a
Mo
b
V
c
Cu
d
A
e
E
f
G
g
(NH
4
)
h
O
i
(4)
(式(4)中、P、Mo、V、Cu、NH
4
及びOは、それぞれ、リン、モリブデン、バナジウム、銅、アンモニウム根及び酸素を表す。
Aはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。
Eは鉄、亜鉛、クロム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、スズ、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。
Gはカリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム、マグネシウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。
a~iは、各成分のモル比率を表し、b=12であり、0.5≦a≦3、0.01≦c≦3、0.01≦d≦2、0≦e≦3、0≦f≦3、0.01≦g≦3、0≦h≦20を満たし、iは前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
【0010】
[2]:前記工程(II)で得られる触媒前駆体が、ケギン型ヘテロポリ酸構造を有する、[1]に記載の触媒の製造方法。
[3]:前記工程(III)で得られる触媒において、モリブデン12モルに対するリンのモル比率aと、モリブデン12モルに対するリン酸三アンモニウム由来のリンのモル比率a’とが、下記式(2)を満たす、[1]または[2]に記載の触媒の製造方法。
0.1≦a’/a≦1 (2)
[4]:前記工程(II)で得られる触媒前駆体が、モリブデン12モルに対するアンモニウム根のモル比率をh2、モリブデン12モルに対するリン酸三アンモニウム由来のアンモニウム根のモル比率をh2’とした時、下記式(3)を満たすものである、[1]~[3]のいずれかに記載の触媒の製造方法。
0.2≦h2’/h2≦1 (3)
【0012】
[5]:[1]~[4]のいずれかに記載の方法により製造された触媒の存在下で、メタクロレインを酸化することを含む、メタクリル酸の製造方法。
[6]:[1]~[4]のいずれかに記載の方法により触媒を製造する工程と、該触媒を用いてメタクロレインを酸化する工程とを含む、メタクリル酸の製造方法。
[7]:[5]又は[6]に記載の方法により製造されたメタクリル酸をエステル化することを含む、メタクリル酸エステルの製造方法。
[8]:[1]~[4]のいずれかに記載の方法により触媒を製造する工程と、該触媒を用いてメタクロレインを酸化する工程と、該メタクリル酸をエステル化する工程とを含む、メタクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メタクロレインを酸化してメタクリル酸を製造するに際し、更なるメタクリル酸収率の向上が期待できるメタクリル酸製造用触媒を提供することができる。また、その触媒を用いたメタクリル酸及びメタクリル酸エステルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
[メタクリル酸製造用触媒]
本発明の製造方法により得られる触媒は、メタクロレインを酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる。その触媒は、少なくともリン原子及びモリブデン原子を含み、モリブデン原子12モルに対するリン原子のモル比率をaとした時、下記式(1)を満たすことが好ましい。
0.5≦a≦3 (1)
前記式(1)を満たすことにより、メタクリル酸製造に好適なヘテロポリ酸構造を形成することができる。
【0015】
また、メタクリル酸の収率向上の観点から、触媒は、下記式(4)で表される組成を有することが好ましい。なお、触媒における各元素のモル比率は、触媒をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって求めることができる。またアンモニウム根のモル比率は、触媒をケルダール法で分析することによって求めることができる。
【0016】
PaMobVcCudAeEfGg(NH4)hOi (4)
(式(4)中、P、Mo、V、Cu、NH4及びOは、それぞれ、リン、モリブデン、バナジウム、銅、アンモニウム根及び酸素を表す。
Aはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。
Eは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、バリウム、チタン、スズ、タリウム、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。
Gはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。
a~iは、各成分のモル比率を表し、b=12の時、0.5≦a≦3、0.01≦c≦3、0.01≦d≦2、0≦e≦3、0≦f≦3、0.01≦g≦3、0≦h≦20を満たし、iは前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
【0017】
本発明において「アンモニウム根」とは、アンモニウムイオン(NH4
+)になり得るアンモニア(NH3)、及びアンモニウム塩などのアンモニウム含有化合物に含まれるアンモニウムの総称を意味する。
【0018】
前記式(4)において、b=12の時、aの下限は1以上が好ましい。また上限は2.5以下が好ましく、2以下がより好ましい。
cの下限は0.1以上、上限は2.5以下が好ましい。dの下限は0.05以上、上限は1.5以下が好ましい。eの下限は0.01以上、上限は2.5以下が好ましい。fの上限は2以下が好ましく、1以下がより好ましい。gの下限は0.1以上、上限は2.5以下がより好ましい。hの上限は5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0019】
[メタクリル酸製造用触媒の製造方法]
本発明は、メタクロレインを酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒の製造方法であって、以下の工程(I)~(III)を有し、
(I)少なくともモリブデン原料及びリン原料を溶媒と混合し、溶液又はスラリーを調製する工程;
(II)前記溶液又はスラリーを乾燥し、触媒前駆体を得る工程;および
(III)前記触媒前駆体を焼成して触媒を得る工程。
前記工程(I)におけるリン原料の少なくとも一部としてリン酸三アンモニウムを使用することを特徴とする、触媒の製造方法、である。
【0020】
前記方法では、前記工程(I)におけるリン原料の少なくとも一部としてリン酸三アンモニウムを使用することを特徴としている。これにより、工業触媒として使用可能なメタクリル酸製造用触媒を製造することができる。
なお、少なくともモリブデン原料及びリン原料を溶媒と混合し、溶液又はスラリーを調製する工程において、リン酸アンモニウムを使用することは知られている(例えば特許文献1)。しかし、「リン酸アンモニウム」という表記は、一般に汎用性の高いリン酸アンモニウム塩、すなわち、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムを指す。
本発明者らは、今般、リン原料の少なくとも一部としてリン酸三アンモニウムを使用することにより、メタクリル酸収率の高い触媒を得ることができることを見出した。これは、リン酸三アンモニウムが緩衝液として機能し、pHを安定して保つことにより、メタクリル酸製造反応に好適なケギン型ヘテロポリ酸構造を有する触媒前駆体を得ることができるためと考えられる。この前駆体を焼成して得られる触媒を使用することにより、メタクリル酸の収率は向上する。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0021】
(工程(I))
工程(I)では、少なくともモリブデン原料及びリン原料を溶媒と混合し、溶液又はスラリーを調製する。このとき、リン原料の少なくとも一部としてリン酸三アンモニウムを使用する。
【0022】
<モリブデン原料>
モリブデン原料としては、例えばパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられる。
【0023】
<リン原料>
リン酸三アンモニウムとしては、例えばリン酸三アンモニウム無水物、リン酸三アンモニウム水和物等が挙げられる。これらのリン酸三アンモニウムをリン原料の少なくとも一部として用いて触媒を製造することにより、高いメタクリル酸収率を示す触媒を得ることができる。
リン酸三アンモニウムは単独で用いても、その他のリン原料と組み合わせて用いても良い。その他のリン原料としては、例えば正リン酸、五酸化リン、又は、リン酸アンモニウム(リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム)やリン酸セシウム等のリン酸塩等が挙げられる。
リン酸三アンモニウムを含むリン原料の仕込み量は、後述する式(2)及び(3)を満たすことが好ましい。これにより高いメタクリル酸収率を示す触媒を得ることができる。
【0024】
<その他の原料>
上述の通り、本発明で製造される触媒は、式(4)で表される組成を有することが好ましい。よって、その組成を構成する元素を含む原料をさらに使用することが好ましい。それら原料は、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物、オキソ酸、オキソ酸塩等を単独で、又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
具体的には、バナジウム原料としては、例えばメタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、塩化バナジウム等が挙げられる。銅原料としては、例えば硫酸銅、硝酸銅、酸化銅、炭酸銅、酢酸銅、塩化銅等が挙げられる。アンモニウム根の原料としては、アンモニウム含有化合物であれば特に制限はない。例えば、リン酸三アンモニウム及びその水和物、水酸化アンモニウム、アンモニア水、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等が挙げられる。これらの原料は、一種類のみを用いても良く、二種類以上を併用しても良い。
【0025】
<溶媒>
溶媒としては水、有機溶媒及び水と有機溶媒の混合溶媒等を使用できるが、工業的な観点から水を使用することが好ましい。
<原料と溶媒との混合>
前記原料は、それらの一部、又は全てを溶媒中に添加することにより混合される。原料の添加順序は特に限定されないが、溶液又はスラリーのpHが0.1~6.5の範囲内となるように添加することが、高いメタクリル酸収率を示す触媒を得ることができる点で好ましい。また、pHの下限は0.5以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。また上限は6以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。なお、溶液又はスラリーのpHは、滴定によって厳格に測定して制御する必要はなく、市販のpHメータ等を用いて測定しながら調整ことができる。pHの調整には必要に応じて、前記原料と同じイオンを含む酸(硫酸、硝酸、塩酸等)や塩基を使用することができる。
原料を溶媒へ添加する際の溶媒の温度は、各原料の不要な反応を避ける観点から、10~60℃が好ましく、上限は50℃以下がより好ましい。また、前記温度範囲であれば、昇温しながら原料を添加することも可能である。
【0026】
原料を添加した後は、加熱しながら攪拌することにより溶液又はスラリーを調製する。加熱温度は特に限定されないが、75~130℃が好ましく、95~130℃以下がより好ましい。加熱温度を75℃以上とすることで、溶液又はスラリーに含まれる化合物の反応速度を十分に速めることができる。また、加熱温度を130℃以下とすることで、溶液又はスラリー中の水の蒸発を抑制することができる。また用いる溶媒の蒸気圧に応じて、加熱時に濃縮、還流したり、密閉容器の中で操作することにより加圧条件にて加熱処理したりしてもよい。
【0027】
昇温速度は特に限定されないが、0.8~15℃/分が好ましい。昇温速度が0.8℃/分以上であることにより、工程(I)に要する時間を短縮できる。また、昇温速度が15℃/分以下であることにより、通常の昇温設備を用いて昇温を行うことができる。
攪拌は、攪拌動力0.01kW/m3以上で行うことが好ましく、0.05kW/m3以上で行うことがより好ましい。撹拌動力を0.01kW/m3以上とすることで、溶液又はスラリーの温度、成分、及び温度の局所的な斑が小さくなり、メタクリル酸製造用触媒として好適な構造が安定して形成される。また触媒の製造コストの観点から、撹拌は、通常撹拌動力3.5kW/m3で行う。
【0028】
以上の工程(I)において得られる溶液又はスラリーのpHは、0.2~3であることが好ましく、下限は0.5以上、上限は2.5以下がより好ましい。これにより後述する工程(II)において、メタクリル酸製造に好適なケギン型ヘテロポリ酸構造を有する触媒前駆体を得ることができる。
溶液及びスラリーのpHを前記範囲内に制御する方法として、触媒構成成分を含有する各原料の量を適宜選択し、硝酸、シュウ酸等を適宜添加する方法が挙げられる。
【0029】
(工程(II))
工程(II)では、前記工程(I)により得られる溶液又はスラリーを乾燥し、触媒前駆体を得る。
乾燥方法に特に制限はなく、ドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち、乾燥能力の観点から、ドラム乾燥、噴霧乾燥又は蒸発乾固が好ましい。乾燥温度は120~500℃が好ましく、下限は140℃以上、上限は350℃以下がより好ましい。乾燥は、溶液やスラリーが乾固するまで行う。ここで、乾燥して得られる触媒前駆体の水分含有率は、0.1~4.5質量%が好ましい。
なお、乾燥方法、乾燥温度、水分含有率等の条件は、所望する触媒前駆体の形状や大きさにより適宣選択することができる。
【0030】
工程(II)において得られる触媒前駆体は前述の通り、メタクリル酸製造に好適なケギン型ヘテロポリ酸構造を有することが好ましい。
該触媒前駆体の構造は、赤外吸収スペクトル分析により判断することができる。該触媒前駆体がケギン型ヘテロポリ酸構造を有する場合、得られる赤外吸収スペクトルは、1060、960、870、780cm-1付近に特徴的なピークを有する。
【0031】
また前記触媒前駆体において、モリブデン12モルに対するアンモニウム根のモル比率をh2とした時、1≦h2≦5を満たすことが好ましい。なおh2の値は、触媒前駆体をケルダール法で分析することによって求めた値とする。h2の値は、前記工程(I)においてモリブデン原料及びアンモニウム根原料の仕込み量を変えることで制御することができる。h2が1以上であることにより、工程(II)おいて、メタクリル酸製造に好適な結晶構造の触媒前駆体が得られる。またh2が5以下であることにより、メタクリル酸製造に好適なケギン型ヘテロポリ酸構造が形成しやすくなる。h2の下限は1.5以上、上限は4.5以下がより好ましい。
【0032】
また前記触媒前駆体において、モリブデン12モルに対するリン酸三アンモニウム由来のアンモニウム根のモル比率をh2’とした時、下記式(3)を満たすことが高いメタクリル酸収率を示す触媒を得ることができる点で好ましい。なおh2’の値は、モリブデン原料及びリン酸三アンモニウムの仕込み量から求めた値とする。
0.2≦h2’/h2≦1 (3)
h2’/h2の値は、前記工程(I)においてリン酸三アンモニウム及びアンモニウム根原料の仕込み量を変えることで制御することができる。h2’/h2の下限は0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましく、0.8以上が最も好ましい。
工程(II)で得られた触媒前駆体は、次いで成形工程により成形される。但し、成形は後述する工程(III)の後に行ってもよい。
【0033】
(成形工程)
成形工程では、前記触媒前駆体又は後述する工程(III)で得られる触媒を成形する。成形方法は特に制限されず、公知の乾式又は湿式の成形方法が適用できる。例えば、打錠成形、押出成形、加圧成形、転動造粒等が挙げられる。成形物の形状としては特に制限はなく、球形粒状、リング状、円柱形ペレット状、星型状、成形後に粉砕、分級した顆粒状等の任意の形状が挙げられる。
粉砕は、例えば、ボールミル、高速回転ミル、ジェットミル、らいかい機等の粉砕機を用いる方法が挙げられる。分級は、例えば、網固定ふるい、振動ふるい、面内運動ふるい等の分級機を用いる方法が挙げられる。
成形物の大きさとしては、直径が0.1~10mmであることが好ましい。成形物の直径が0.1mm以上であることにより、反応管内の圧力損失を小さくすることができる。また、成形物の直径が10mm以下であることにより、触媒の活性がより向上し、メタクリル酸の収率が向上する。成形する際には担体に担持してもよく、その他の添加剤を混合してもよい。
【0034】
(工程(III))
工程(III)では、前記工程(II)で得られた触媒前駆体、又は前記成形工程で得られた触媒前駆体の成形物(以下、まとめて触媒前駆体とも記す)を焼成し、触媒を得る。前記触媒前駆体は、焼成することで触媒活性をより向上させることができる。
焼成方法に特に限定はなく、静置焼成、流動焼成等から好適な方法を適宜選択すればよい。静置焼成としては、例えば箱型電気炉、環状焼成炉等を用いて焼成する方法が挙げられる。流動焼成としては、例えば流動焼成炉、ロータリーキルン等を用いて焼成する方法が挙げられる。
焼成は、例えば、空気等の酸素含有ガス又は不活性ガスの雰囲気下で行われるが、空気等の酸素含有ガス雰囲気下で行われることが好ましい。なお、「不活性ガス」とは触媒活性を低下させない気体のことを示し、例えば窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を混合して使用してもよい。焼成の雰囲気は、所望の焼成ガス雰囲気が維持できれば、焼成ガスを流通させても、流通させなくてもよい。
高いメタクリル酸収率を示す触媒を得る観点から、焼成温度は200~500℃が好ましく、下限は300℃以上、上限は450℃以下がより好ましい。焼成時間は1~40時間が好ましく、下限は2時間以上がより好ましい。
【0035】
また、工程(III)で得られる触媒において、モリブデン12モルに対するリンのモル比率をaとした時、前述の式(1)を満たし、モリブデン12モルに対するリン酸三アンモニウム由来のリンのモル比率をa’とした時、下記式(2)を満たすことが高いメタクリル酸収率を示す触媒を得る観点から好ましい。なおa’の値は、モリブデン原料及びリン酸三アンモニウムの仕込み量から求めた値とする。
0.1≦a’/a≦1 (2)
a’/aの値は前述の通り、前記工程(I)においてリン酸三アンモニウム及びその他のリン原料の仕込み量を変えることで制御することができる。a’/aの下限は0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上が特に好ましく、0.7以上が最も好ましい。
【0036】
[メタクリル酸の製造方法]
本発明に係る方法により製造された触媒の存在下で、メタクロレインを酸化、特に分子状酸素により気相接触酸化する。すなわち、本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係る方法により触媒を製造する工程と、該触媒を用いてメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する工程とを有する。本発明に係る方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒を使用することで、従来よりも高い収率でメタクリル酸を製造することができる。
【0037】
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、メタクロレイン及び分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒とを接触させることでメタクリル酸を製造する。この反応では固定床型反応器を使用することができる。反応管内に触媒を充填し、該反応器へ原料ガスを供給することにより反応を行うことができる。触媒層は1層でもよく、活性の異なる複数の触媒をそれぞれ複数の層に分けて充填してもよい。また、活性を制御するためにメタクリル酸製造用触媒を不活性担体により希釈し充填してもよい。
【0038】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は特に限定されないが、1~20容量%が好ましく、下限は3容量%、上限は10容量%以下がより好ましい。原料であるメタクロレインは、水、低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的な影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。
【0039】
原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4~4モルが好ましく、下限は0.5モル以上、上限は3モル以下がより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体を用いてもよい。
【0040】
原料ガスは、メタクロレイン及び分子状酸素を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。水蒸気の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1~50容量%が好ましく、下限は1容量%、上限は40容量%以下がより好ましい。
【0041】
原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5~15秒が好ましく、下限は2秒以上、上限は10秒以下がより好ましい。反応圧力は、0.1~1MPa(G)が好ましい。ただし、(G)はゲージ圧であることを意味する。反応温度は200~450℃が好ましく、下限は250℃以上、上限は400℃以下がより好ましい。
【0042】
[メタクリル酸エステルの製造方法]
本発明に係るメタクリル酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法により製造されたメタクリル酸をエステル化する。つまり、本発明に係るメタクリル酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造する工程と、該触媒を用いてメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する工程と、該メタクリル酸をエステル化する工程を含む。本発明に係るメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインの気相接触酸化によりメタクリル酸が高い収率で得られることで、メタクリル酸エステルを原料のメタクロレインから高収率で得ることができる。
メタクリル酸と反応させるアルコールとしては特に限定されず、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。得られるメタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。反応は、スルホン酸型カチオン交換樹脂等の酸性触媒の存在下で行うことができる。反応温度は50~200℃が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0044】
また触媒前駆体の構造は、NICOLET6700FT-IR(製品名、Thermo electron社製)を用いた赤外吸収分析により判断した。
触媒及び触媒前駆体における各元素のモル比は、触媒及び触媒前駆体をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって算出した。
アンモニウム根のモル比率は、触媒及び触媒前駆体をケルダール法で分析することによって算出した。またa’及びh2’の値は、モリブデン原料及びリン酸三アンモニウムの仕込み量から算出した。
【0045】
原料ガス及び生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(装置:島津製作所製GC-2014、カラム:Agilent J&W社製、品名(DB-FFAP、30m×0.32mm、膜厚1.0μm))を用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクリル酸の収率を下記式にて求めた。
メタクリル酸の収率(%)=(生成したメタクリル酸のモル数/供給したメタクロレインのモル数)×100
【0046】
[実施例1]
室温の純水1200部に、三酸化モリブデン300部及びメタバナジン酸アンモニウム10.2部を加えて撹拌分散させ、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部、85%リン酸水溶液8.9部、重炭酸セシウム40.2部を純水175部で希釈した希釈物、及び硝酸銅(II)三水和物6.2部を純水9.0部に溶解した溶解物を添加した。得られたスラリーを2℃/分で加熱昇温し、95℃に保ちつつ2時間撹拌した。得られたスラリーを加熱して蒸発乾固させ、触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
【0047】
該触媒前駆体を加圧成形し、破砕し、粒径が710μm~2.36mmの範囲内になるように篩いを用いて分級した。得られた成形物を空気流通下、380℃で5時間焼成することで、触媒を製造した。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.6Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
【0048】
メタクロレインの反応率が37~60%の範囲内になるように、前記触媒を反応器に充填して、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%及び窒素55容量%からなる原料ガスを流通させ、反応温度285℃にて反応を行った。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析してメタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部を38.8部とした以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.5Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部を31.0部とし、85%リン酸水溶液を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P0.9Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
【0051】
該触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例4]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部を38.8部とし、85%リン酸水溶液8.9部を4.3部とした以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.3Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例5]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部を62.2部とした以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P2.2Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例6]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部の代わりに、リン酸三アンモニウム三水和物38.8部及び28%アンモニア水11.6部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.5Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部の代わりに、リン酸水素二アンモニウム23.5部、及び28%アンモニア水10.6部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.5Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物40.2部の代わりに28%アンモニア水31.6部を用い、85%リン酸水溶液8.9部を30.6部とした以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.5Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例3]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物40.2部の代わりに28%アンモニア水46.7部を用い、85%リン酸水溶液8.9部を30.6部とした以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.5Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例4]
実施例1において、リン酸三アンモニウム三水和物42.1部の代わりに、リン酸二水素アンモニウム21.7部及び28%アンモニア水20.5部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体はケギン型ヘテロポリ酸構造を有していた。
該触媒前駆体を実施例1と同様の方法で成形し、焼成して触媒を得た。得られた触媒の酸素を除く組成は、P1.5Mo12V0.5Cu0.15Cs1.2であった。なお、該触媒におけるアンモニウム根のモル比率は0≦h≦1であった。
該触媒を用いて、実施例1と同様の方法でメタクリル酸の製造を行い、メタクリル酸収率を算出した。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1に示すように、リン原料の少なくとも一部にリン酸三アンモニウムを用いた実施例1~6は、比較例1~4に対してメタクリル酸収率が高い触媒であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、従来よりも高い収率でメタクリル酸を製造することができるため、工業的にメタクリル酸を製造する際に有用である。