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特許7032081フェリチン検出用の検査キット及びフェリチンの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】フェリチン検出用の検査キット及びフェリチンの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220301BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 521
G01N33/543 515J
G01N33/543 525W
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017170324
(22)【出願日】2017-09-05
(65)【公開番号】P2018040797
(43)【公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2016173059
(32)【優先日】2016-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】雄長 誠
(72)【発明者】
【氏名】串岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】由井 慶
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】大久保 典雄
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】山中 信光
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-184295(JP,A)
【文献】特開2015-230293(JP,A)
【文献】特開2013-250097(JP,A)
【文献】特開2016-075645(JP,A)
【文献】特開2015-210237(JP,A)
【文献】特開2002-196001(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0189784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノクロマトグラフィー用の平面試験片と、蛍光標識されたシリカ粒子とを具備する、フェリチン検出用のイムノクロマトグラフィー用試験キットであって、
前記平面試験片が唾液展開用であり、
前記平面試験片を構成する抗体固定化メンブレンが試験領域と参照領域とを有し、該試験領域にはフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体が固定化され、
蛍光標識された前記シリカ粒子の平均粒径が30~400nmであり、該シリカ粒子はフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体で修飾され、さらにその表面にブロッキング処理が施されており、
前記平面試験片を構成する前記抗体固定化メンブレンの表面に、ウシ血清アルブミン溶液を用いたブロッキング処理が施されていることを特徴とする、イムノクロマトグラフィー用試験キット。
【請求項2】
前記試験領域に固定化されているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体、並びに前記シリカ粒子を修飾しているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体が、いずれもポリクローナル抗体であることを特徴とする、請求項1記載のイムノクロマトグラフィー用試験キット。
【請求項3】
前記ポリクローナル抗体がヤギポリクローナル抗体であることを特徴とする、請求項記載のイムノクロマトグラフィー用試験キット。
【請求項4】
イムノクロマトグラフィー用の平面試験片と、蛍光標識されたシリカ粒子とを具備するフェリチン検出用の試験キットを用いたフェリチンの検出方法であって、
前記平面試験片が唾液展開用であり、
前記平面試験片を構成する抗体固定化メンブレンが試験領域と参照領域とを有し、該試験領域にはフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体が固定化され、
蛍光標識された前記シリカ粒子の平均粒径が30~400nmであり、該シリカ粒子はフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体で修飾され、さらにその表面にブロッキング処理が施されており、
前記平面試験片を構成する前記抗体固定化メンブレンの表面に、ウシ血清アルブミン溶液を用いたブロッキング処理が施されており、
唾液を3~50倍に希釈し、希釈した唾液を前記平面試験片を構成するサンプルパッドに滴下し、
前記抗体固定化メンブレンの試験領域において、前記試験領域に固定化されたポリクローナル又はモノクローナル抗体と、フェリチンと、蛍光標識された前記シリカ粒子とからなるサンドイッチ型免疫複合体を検知することでフェリチンを検出することを特徴とする、フェリチンの検出方法。
【請求項5】
前記唾液が耳下腺から分泌された唾液であることを特徴とする、請求項記載のフェリチンの検出方法。
【請求項6】
陰イオン性界面活性剤を含有する溶媒で前記唾液又は試料を希釈することを特徴とする、請求項4又は5項記載のフェリチンの検出方法。
【請求項7】
前記陰イオン性界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項記載のフェリチンの検出方法。
【請求項8】
唾液又は試料を希釈した後の溶液における前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が0.06~0.1%(w/v)であることを特徴とする、請求項記載のフェリチンの検出方法。
【請求項9】
唾液又は試料を希釈した後の溶液における前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が0.07~0.1%(w/v)であることを特徴とする、請求項記載のフェリチンの検出方法。
【請求項10】
前記試験領域に固定化されているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体、並びに前記シリカ粒子を修飾しているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体が、いずれもポリクローナル抗体であることを特徴とする、請求項のいずれか1項記載のフェリチンの検出方法。
【請求項11】
前記ポリクローナル抗体がヤギポリクローナル抗体であることを特徴とする、請求項10記載のフェリチンの検出方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェリチン検出用の検査キット及びフェリチンの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェリチンは24個のポリペプチドサブユニットを含む約480kDaの細胞内鉄貯蔵複合体タンパク質である。血清中に高濃度で見られるこの鉄貯蔵複合体タンパク質は、水酸化鉄コア内に4,500原子もの多くの鉄イオン(Fe3+)を含有することができる。
【0003】
生活環境に起因して、ミネラルの摂取量不足は多々発生する。またミネラル量と健康状態とは関係していることが知られている。例えば、貧血の原因の一つとして体内の鉄分の不足があげられる。鉄分が不足して生じる貧血は、鉄欠乏性貧血と言われる。特に女性は月経時に赤血球を失うため、鉄欠乏性貧血の発症者が多い。体内の鉄分が不足すると、体内に蓄積されている貯蔵鉄から鉄が供給される。そして、その貯蔵鉄が枯渇すると赤血球中の鉄分が足りなくなり、鉄欠乏性貧血が起きる。この貯蔵鉄はフェリチンと結合している。そのため、このフェリチンの測定値に基づき、鉄欠乏状態の評価が可能である。鉄欠乏状態の評価は健康生活上、日常的に重要である。
鉄欠乏性貧血の確実な診断としては、大型の免疫学的な分析装置を用いたCLEIA法が知られている。ただし、検査に数時間が必要とされており、迅速な検査が困難である。
【0004】
一方、検出時間を短縮する方法として金コロイドを用いたイムノクロマト法が開発されている(特許文献1)。しかし、検出可能なフェリチンの濃度が20~30ng/mLとCLEIA法に比べ感度が低い。一方、血清から判定される鉄欠乏性貧血の判断基準は、血清中のフェリチンの濃度が12ng/mL未満(日本鉄バイオサイエンス学会)と非常に低水準であることを考慮すると、特許文献1に記載の発明の検出感度では健康状態の判定が困難であった。
【0005】
また、フェリチンは唾液にも含まれるが、唾液に含まれるフェリチンは血清に含まれるフェリチンと比べ低濃度である。さらに、唾液にはムチン、口腔内細菌、口腔粘膜細胞、白血球といった、フェリチン検出の阻害要因も含まれている。唾液に含まれるフェリチンを検出するに当たり、これらの阻害要因の抑制のためには唾液の希釈が効果的である。しかし、唾液を希釈すると、唾液に含まれるフェリチンの濃度はさらに低くなる。すなわち、唾液中のフェリチンの検出には、低濃度のフェリチンを検出するための高い検出感度が必要であり、従来法との比較で10~100倍程度の感度が求められる。よって、血清に代えて唾液を用いて非侵襲的な健康状態の診断を行う場合には、フェリチンの検出精度のさらなる向上が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-283549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題点に鑑み、本発明は、大型の免疫学的な分析装置などを必要とせず、フェリチンの検出時間の短縮と検出感度の向上を可能とするフェリチン検出用の検査キット、及びフェリチンの検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、イムノクロマト法を用いて検出感度を向上させるする手段として、金コロイドに変えてシリカ粒子の利用を検討した。その結果、表面にブロッキング処理を施したシリカ粒子と、所定のブロッキング処理を施したイムノクロマトグラフィー用の平面試験片とを用いることで、メンブレンの目詰まりを起こすことなく、短時間で低濃度のフェリチンを検出できることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
(1)イムノクロマトグラフィー用の平面試験片と、蛍光標識されたシリカ粒子とを具備する、フェリチン検出用のイムノクロマトグラフィー用試験キットであって、
前記平面試験片が唾液展開用であり、
前記平面試験片を構成する抗体固定化メンブレンが試験領域と参照領域とを有し、該試験領域にはフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体が固定化され、
蛍光標識された前記シリカ粒子の平均粒径が30~400nmであり、該シリカ粒子はフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体で修飾され、さらにその表面にブロッキング処理が施されており、
前記平面試験片を構成する前記抗体固定化メンブレンの表面に、ウシ血清アルブミン溶液を用いたブロッキング処理が施されていることを特徴とする、イムノクロマトグラフィー用試験キット
(2)前記試験領域に固定化されているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体、並びに前記シリカ粒子を修飾しているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体が、いずれもポリクローナル抗体であることを特徴とする、前記(1)項記載のイムノクロマトグラフィー用試験キット。
)前記ポリクローナル抗体がヤギポリクローナル抗体であることを特徴とする、前記()項記載のイムノクロマトグラフィー用試験キット
(4)イムノクロマトグラフィー用の平面試験片と、蛍光標識されたシリカ粒子とを具備するフェリチン検出用の試験キットを用いたフェリチンの検出方法であって、
前記平面試験片が唾液展開用であり、
前記平面試験片を構成する抗体固定化メンブレンが試験領域と参照領域とを有し、該試験領域にはフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体が固定化され、
蛍光標識された前記シリカ粒子の平均粒径が30~400nmであり、該シリカ粒子はフェリチンとの結合性を有するポリクローナル又はモノクローナル抗体で修飾され、さらにその表面にブロッキング処理が施されており、
前記平面試験片を構成する前記抗体固定化メンブレンの表面に、ウシ血清アルブミン溶液を用いたブロッキング処理が施されており、
唾液を3~50倍に希釈し、希釈した唾液を前記平面試験片を構成するサンプルパッドに滴下し、
前記抗体固定化メンブレンの試験領域において、前記試験領域に固定化されたポリクローナル又はモノクローナル抗体と、フェリチンと、蛍光標識された前記シリカ粒子とからなるサンドイッチ型免疫複合体を検知することでフェリチンを検出することを特徴とする、フェリチンの検出方法。
)前記唾液が耳下腺から分泌された唾液であることを特徴とする、前記()項記載のフェリチンの検出方法
(6)陰イオン性界面活性剤を含有する溶媒で前記唾液又は試料を希釈することを特徴とする、前記(又は5)項記載のフェリチンの検出方法。
)前記陰イオン性界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする、前記()項記載のフェリチンの検出方法。
)唾液又は試料を希釈した後の溶液における前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が0.06~0.1%(w/v)であることを特徴とする、前記()項記載のフェリチンの検出方法。
)唾液又は試料を希釈した後の溶液における前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が0.07~0.1%(w/v)であることを特徴とする、前記()項記載のフェリチンの検出方法。
10)前記試験領域に固定化されているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体、並びに前記シリカ粒子を修飾しているポリクローナル若しくはモノクローナル抗体が、いずれもポリクローナル抗体であることを特徴とする、前記()~()のいずれか1項記載のフェリチンの検出方法。
11)前記ポリクローナル抗体がヤギポリクローナル抗体であることを特徴とする、前記(10)項記載のフェリチンの検出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフェリチン検出用の検査キットは、検出感度の高いシリカ粒子のメンブレンにおける目詰まりを抑制し、検出感度の向上と検出時間短縮を実現する。
また、本発明のフェリチンの検出方法は、前記フェリチンの検出に好適に用いることができ、唾液を用いた検出を可能にすることで被験者に苦痛を感じさせずに定常的な健康チェックに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に好適に用いられる長尺試験体を模式的に示す分解斜視図である。
図2】本発明に好適に用いられるイムノクロマトメンブレンの説明図であり、(a)が平面図であり、(b)が展開断面図である。
図3】本発明に好適に用いられる蛍光イムノクロマトグラフィー法における励起光及び蛍光の反射機構を模式的にメンブレンの断面で示した模式図である。
図4】従来の蛍光イムノクロマトグラフィー法における励起光及び蛍光の反射機構を模式的にメンブレンの断面で示した模式図である。
図5】本発明に好適に用いられる蛍光イムノクロマトグラフィー法における蛍光ラインの一例を示す拡大鏡像を示す図面代用写真である。
図6】従来の蛍光イムノクロマトグラフィー法における蛍光ラインの一例を示す拡大鏡像を示す図面代用写真である。
図7】本発明の試験キットを用いて、ドデシル硫酸ナトリウムを添加した唾液試料に含まれるフェリチンを検出したときの蛍光強度を示すグラフである。
図8図7に示すデータの変動係数を示すグラフである。
図9】実施例で行ったフェリチンの検出結果を示すために用いた、イムノクロマトグラフィー用試験片の試験領域の蛍光強度の判断基準を示す図面代用写真である。ここで、:図9(a)は、高い蛍光強度で蛍光が確認され、検出強度の基準を「++」又は「○」とする場合の写真である。図9(b)は、基準が「++」の場合と比較して蛍光強度が低いが蛍光が確認され、検出強度の基準を「+」又は「○」とする場合の写真である。図9(c)は、基準が「++」や「+」の場合と比較して蛍光強度が低いが蛍光が確認され、検出強度の基準を「±」又は「○」とする場合の写真である。図9(d)は、蛍光が確認できず、検出強度の基準を「-」とする場合の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のイムノクロマトグラフィー用試験キットは、イムノクロマトグラフィー用の平面試験片と、シリカ粒子とを具備する。
まず、本発明のイムノクロマトグラフィー用試験キットの好ましい実施形態について、図1~6を参照して構成要素毎に説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
【0013】
[試験片]
図1は本発明に好適に用いられる長尺試験体を模式的に示す分解斜視図であり、図2は本発明に好適に用いられるイムノクロマトメンブレンの説明図である。
本実施形態のイムノクロマトグラフィー用平面試験片80は、下記の部材が相互に毛細管現象が生じるように直列連結していることが好ましい。
・試料添加用部材(サンプルパッド)8a
・蛍光標識体2,3を含浸し、乾燥して得られる部材(コンジュゲートパッド)8b
・抗体固定化部n,nを有するメンブレン(抗体固定化メンブレン)8c
・吸収パッド8d
【0014】
本実施形態においては、図1及び図2に示したように、上述した平面試験片80を具備する試験片10が、筐体6を構成する2つの部材である筐体上部6aと筐体下部6bとで挟持内包され、長尺試験体100をなしている。筐体上部6aには、検出開口部61と検体導入開口部62とが設けられている。この検出開口部61を介して、照射光を内部の平面試験片80に送り、そこで発せられる蛍光を集光し検出・観測することができる。一方、検体導入開口部62を介して検体液を平面試験片80に供給し測定試験を行うことができる。
【0015】
図2(a)及び(b)を参照して、本実施形態のイムノクロマトグラフィー用試験片の好ましい1つの実施形態について説明するが、本発明はこれに制限するものではない。なお、図2では、図1に示したものと各部材の寸法の比率が若干異なるものとして示しており、また透明フィルム7及び粘着剤付きバッキングシート8eを省略せずに示している。
図2(a)は、本発明のイムノクロマトグラフィー用試験片の好ましい一実施形態の平面図を示し、図2(b)は、図1(a)で示したイムノクロマトグラフィー用試験片の展開断面図を示す図である。本実施形態の試験片10は、上述のように、サンプルパッド8a、コンジュゲートパッド8b、抗体固定化メンブレン8c、吸収パッド8dを具備してなる。さらに、上記各構成部材は、本実施形態のように、粘着剤付きバッキングシート8eにより裏打ちされていることが好ましい。
【0016】
前記試験片の作製法としては、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの並び順に、各部材間で毛管現象を生じさせ易くするために、それら各部材の両端を隣接する部材と1~5mm程度重ね合わせて(好ましくは粘着剤付きバッキングシート上に)貼付することで作製することができる。
【0017】
(サンプルパッド)
サンプルパッド8aは標的物質1を含む検体Sを滴下する構成部材である。その材料や寸法等は特に限定されず、この種の製品に適用される一般的なものを利用することができる。
【0018】
(コンジュゲートパッド)
コンジュゲートパッド8bは蛍光標識体2,3が含浸された構成部材である。そして、サンプルパッド8aから毛細管現象により移動してきた試料に含まれる標的物質1が抗原抗体反応等の特異的分子認識反応で、前記蛍光標識体によって捕捉され、標識される部分である。
コンジュゲートパッド8bにおける単位面積(cm)当たりの前記蛍光標識体の含有量は特に制限はないが1~100μgが好ましい。含浸方法としては、前記蛍光標識体の分散液を塗布、滴下ないしは噴霧後、乾燥する方法等が挙げられる。
【0019】
(抗体固定化メンブレン)
抗体固定化メンブレン8cにおける抗体固定化部に、標的物質1の有無を判定、すなわち陽性陰性を判定するための標的物質1を捕捉するための抗体(試験用捕捉性物質4)が固定化された試験領域nを設ける。また、抗体固定化メンブレン8cには、参照用蛍光標識体3を捕捉するための抗体(参照用捕捉性物質5)が固定化された参照領域nを含む。
【0020】
抗体固定化メンブレン8cは前記蛍光標識体2,3により標識された標的物質1が毛細管現象によって移動する構成部材であり、固定化抗体4-標的物質1-蛍光標識体2からなるサンドイッチ型免疫複合体形成反応が行われる抗体固定化部(判定部)nを有する。
前記抗体固定化メンブレン8cにおける前記抗体固定化部(判定部)nの形状としては局所的に捕捉用抗体4が固定化されている限り特に制限はなく、ライン状、円状、帯状等が挙げられるが、ライン状であることが好ましく、幅0.5~1.5mmのライン状であることがより好ましい。
【0021】
抗体固定化メンブレン8cに固定化される抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり、ポリクローナル抗体が好ましく、ヤギポリクローナル抗体がより好ましい。
抗体固定化メンブレンに固定化される抗体の濃度は、0.3~10.0mg/mLであることが好ましく、0.5~5.0mg/mLであることがより好ましく、1.0~2.0mg/mLであることがさらに好ましい。
【0022】
固定化抗体4-標的物質1-蛍光標識体2からなるサンドイッチ型免疫複合体形成反応により抗体固定化部(判定部)nに、蛍光標識体2で標識された標的物質1が捕捉される。標識の程度により標的物質の有無を判定、すなわち陽性陰性を判定することができる。すなわち、前記抗体固定化部(判定部)nに蛍光標識体2が濃縮され、その蛍光物質の近傍が蛍光発光し、目視的に、又は検出機器を用いて検出、判定できる。
【0023】
前記サンドイッチ型免疫複合体形成反応を充分に完了させるため、あるいは液体試料中の着色又は蛍光物質等の標識による測定への影響や標的物質と結合していない標識体による測定への影響を回避するため、抗体固定化メンブレン8cにおける判定部は、前記コンジュゲートパッド8bとの連結端及び前記吸収パッド8dとの連結端からある程度離れた位置(例えば、前記抗体固定化メンブレン8cの中程など)に設けておくことが好ましい。
【0024】
前記抗体固定化部の内、試験領域nにおける抗体固定化量は特に制限ないが、形状がライン状の場合、単位長さ(cm)当たり0.5~5μgが好ましい。固定化方法としては、抗体溶液を塗布、滴下ないしは噴霧後、乾燥して物理吸着により固定化する方法等が挙げられる。前述の抗体固定化後に、非特異的吸着による測定への影響を防止するために前記抗体固定化メンブレン8c全体をいわゆるブロッキング処理を施しておく。例えば、アルブミン、カゼイン、ポリビニルアルコール等のブロッキング剤を含有する緩衝液中に適当な時間浸漬した後乾燥する方法等が挙げられる。市販の前記ブロッキング剤としては、例えば、スキムミルク(DIFCO社製)、4%ブロックエース(明治乳業社製)などが挙げられる。
【0025】
ブロッキング処理の具体的な方法は、抗体を塗布して乾燥させた抗体固定化メンブレン8cを2%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液に浸漬し、30℃で振盪させる。1時間後に抗体固定化メンブレン8cを取り出し、10mMリン酸Buffer(pH7.5)で2回洗浄後、乾燥させる。
ブロッキング処理を施した抗体固定化メンブレン8cを粘着剤付きバッキングシート8eに貼り付け、サンプルパッド8a、コンジュゲートパッド8b、及び吸収パッド8dとともに組み立て試験片10とする。標的物質1が蛍光標識体2,3とともに試験片10上で流れる際に非特異的な結合が見られる場合、メンブレンと同様の操作で試験片10全体に対してブロッキング処理を行うことで、改善が見られる。
【0026】
抗体固定化メンブレン8cには、さらに参照領域nがあり、そこには標的物質1で捕捉されていない蛍光粒子(蛍光標識体)3が捕捉される。これにより、試験領域nでの蛍光と対比して、標的物質1の有無や量を判定することができる。この機能を果たすために、試験用蛍光標識体2はシリカ粒子2aと試験用結合性物質2bとからなる。
試験用結合性物質2b及び試験用捕捉性物質4は、標的物質1との結合性を有する。一方、参照用蛍光標識体3はシリカ粒子3aと参照用結合性物質3bとからなる。参照用結合性物質3bは、標的物質1との結合性はなく、参照用捕捉性物質5との結合性を有する。
【0027】
(吸収パッド)
吸収パッド8dは、毛細管現象で抗体固定化メンブレン8cを移動してきた検体S及び蛍光標識体2,3を吸収し、常に一定の流れを生じさせるための構成部材である。
【0028】
これら各構成部材の材料としては特に制限は無く、イムノクロマトグラフィー用試験片10に用いられる部材が使用できるが、サンプルパッド8a及びコンジュゲートパッド8bとしてはGlass Fiber Conjugate Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のガラスファイバーのパッドが好ましく、抗体固定化メンブレン8cとしてはHi-Flow Plus120メンブレン(商品名、MILLIPORE社製)等のニトロセルロースメンブレンが好ましく、吸収パッド8dとしてはCellulose Fiber Sample Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のセルロースメンブレンが好ましい。
粘着剤付きバッキングシート8eとしては、AR9020(商品名、Adhesives Research社製)等が挙げられる。
【0029】
[透明フィルム]
本発明の蛍光イムノクロマト法においては、平面試験片に透明フィルムを適用するに際し、下記の関係式が成り立つものを採用することが好ましい。
[式(1) nFf>nWf
(nFf:前記蛍光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWf:前記蛍光の波長λにおける検体液の屈折率)
なお、励起光ないし蛍光の波長については、複数ある場合にはその最大照度を示す波長を言う。照度に分布がある場合には、その最大ピークを与える波長をもって評価することとする。
なお、励起光についても、透明フィルムと検体液に関して以下の屈折率の関係が成立していることが好ましい。
[式(1)´ nFe>nWe
(nFe:励起光の波長λにおける透明フィルムの屈折率)
(nWe:励起光の波長λにおける検体液の屈折率)
【0030】
たとえば蛍光の波長が589.3nmの場合、λであれば、その波長での水の屈折率は1.333であるから、本発明において適用される透明フィルム7の屈折率は1.333より大きくすればよい。なお、水(検体液)を媒体とする場合可視光領域では光は正常分散であるから、屈折率の波長依存性は小さく、可視光の範囲での屈折率の差は0.01程度であることが知られている。
上記水の屈折率のみならず、透明フィルムの屈折率についても波長依存性がさほど大きくないことがある。このような場合でも、上記のように波長ごとの屈折率を規定することは有意義であり、蛍光の波長において、透明フィルムと検体液との屈折率の関係を特定のものとすることで、本発明における検出上のにじみやぼけを抑えるという効果を的確に発揮させることができる。
【0031】
本発明においては、さらに上記条件での屈折率は検体液の屈折率に比べて0.1以上大きいことが好ましく、0.2以上大きいことが更に好ましい。これを関係式として示すと下記のようになり、式(2)を満たすことが好ましく、式(3)を満たすことがより好ましいこととなる。なお、nFf、nWfは上記式(1)と同義である。
【0032】
[式(2) nFf>nWf+0.1]
【0033】
[式(3) nFf>nWf+0.2]
【0034】
図4は従来の試験片における検出の状態を抗体固定化メンブレンの断面により模式的に示している。これは試験領域nにおける検出の様子を示しているが、参照領域nにおいても現象的には同様のことが言える。なお、抗体固定化メンブレンは、試験片使用時には、抗体固定化メンブレン全体がほぼ、検体液で塗れた状態で使用されることから、抗体固定化メンブレンは湿った状態であると仮定する。
まず、励起光源LIから励起光71が照射され、透明フィルム7を透過して、抗体固定化メンブレン8cの蛍光標識体2に励起光71が到達する。蛍光標識体2は抗体固定化メンブレン8cの表面近傍もしくは内部に存在しており、上記励起光71の照射を受け、蛍光72を発する。抗体固定化メンブレン8cは多孔体であるから、蛍光72は多孔体を構成する固相によって散乱される。その後、散乱された蛍光72の一部は外界(空気)Aとの界面に到達するが、抗体固定化メンブレン8cが水で湿った状態の場合、水(検体液)の屈折率が外界(空気)Aの屈折率より大きいため、入射角が臨界角より大きい角度で入射した蛍光は全反射して抗体固定化メンブレン8c内部に戻る方向に進行し、さらに抗体固定化メンブレン8cの固相で散乱されながら抗体固定化メンブレン8c内を伝播する(反射光73)。外界(空気)Aの屈折率はおよそ1.0で評価することができる。一方入射角が臨界角より小さい角度で入射した蛍光72は外界(空気)Aに放出される(出射光74[図4参照])。
このように抗体固定化メンブレンと外界(空気)の界面では、臨界角より大きい角度で入射した蛍光は全反射して、さらに抗体固定化メンブレンの固相で散乱されながら抗体固定化メンブレン内を伝播し、臨界角より小さい角度で入射した蛍光は外界Aに放出されるため、抗体固定化メンブレン全体が発光して見えることとなる。上記の説明はモデルを簡素化して説明しており、抗体固定化メンブレン内外での光の挙動は必ずしもこれに一致しなくてもよいが、典型的には上記の機構を通じて抗体固定化メンブレン全体が発光して見えることとなる。また、蛍光イムノクロマト法において用いられる検体液は通常水に塩、タンパク質、界面活性剤等が溶解された液であり水より屈折率が大きいから、検体液を用いた場合であっても液相の屈折率は空気の屈折率より必ず大きくなるため、同様の現象が生じる。そうすると、試験領域nでライン状の蛍光発光があっても、周辺にも発光が広がり、上記のライン発光が相対的ににじむ、あるいはぼけるように見えることとなる(図6参照)。
【0035】
これに対し、本発明においては、平面試験片80に特定の透明フィルム7が適用されていることが好ましい(図3参照)。この透明フィルム7は上記のとおり、特定の波長条件において検体液より屈折率が高いものが適用されている(上記式(1)参照)。
図3の実施形態においても、励起光源LIから励起光71が照射され、これを受け蛍光標識体2から蛍光72が発せられ抗体固定化メンブレン8cの多孔体を構成する固相によって散乱されるのは、図4のときと同様である。その後、散乱された蛍光72の一部は透明フィルム7の界面に到達するが、このとき抗体固定化メンブレン8cの外表面には透明フィルム7があり、この屈折率が検体液の屈折率よりも高いため、その蛍光72は透明フィルム7側に入射していく。その後、蛍光72の一部はさらに外界(空気)Aとの界面に到達するが、透明フィルム7の屈折率の方が空気の屈折よりも高く設定されているため、入射角が臨界角より大きい場合は外界(空気)Aには放出されず、透明フィルム7内部にとどまるように全反射する(反射光73)。その下方では、やはり透明フィルム7の方が検体液より屈折率が高いため、反射光73は透明フィルム7内部にとどまるように全反射し、透明フィルム7を導波路として伝播していく。このとき透明フィルム7では、抗体固定化メンブレン8cとは異なり、光の吸収や散乱を起こさずに反射光73が伝播していくので、一度全反射した蛍光72はそれ以後透明フィルム7表面から外界(空気)Aに放出されることなく、抗体固定化メンブレン8cの蛍光物質近傍の蛍光発光の視認性が保たれる。
結果として、試験領域nの発光ラインがその周辺の発光ないし発色に阻害されず、鮮明に維持され、良好な検出が可能となる(図5参照)。
【0036】
なお、励起光源LIから照射された励起光71は、透明フィルム7内に入射したり、透明フィルム7の表面で反射されたりする。透明フィルム7に入射した励起光71は、透明フィルム7を透過して、抗体固定化メンブレン8cに入射するものの他、一部は、透明フィルム7の抗体固定化メンブレン8cの界面で全反射されるものもある。そして、抗体固定化メンブレン8cに入射した励起光71が、蛍光72の発生に寄与するものもあれば、抗体固定化メンブレン8c内で散乱され、蛍光72の発生には寄与しないものもある。
【0037】
また、抗体固定化メンブレン8c内で散乱された励起光71は、透明フィルム7に入射した後、さらに、透明フィルム7を透過して、透明フィルム7の表面から放出されるか、透明フィルム内で全反射して透明フィルム7の端面から放出されるかのいずれかとなるが、以下で説明するように、蛍光のみを透過させるフィルタを検出器の手前に設置することにより、透明フィルムから放出された励起光を除去して蛍光のみを検出することが可能である。
ここで、抗体固定化メンブレン8c内の参照領域や試験領域において、蛍光物質が励起されて発生した蛍光は、抗体固定化メンブレン8c内で一部は散乱されるが、残りは透明フィルム7に入射する。透明フィルム7に入射した蛍光は、透明フィルムを透過して検出器で検出することができるが、一部は透明フィルム7内で全反射を繰り返し、透明フィルム端面から透明フィルム外に放出される。以上のように、抗体固定化メンブレン8cに透明フィルム7を貼り付けることで、透明フィルム7の蛍光の強度を低減できることから、相対的に参照領域nや試験領域nの蛍光の強度を、透明フィルム7のその他の部分より相対的に高めることが可能となる。
【0038】
本発明において、透明フィルム7の光の透過率は、特に制限はないが、励起光の最大波長の透過率(TFe)及び蛍光の最大波長の透過率(TFf)において80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。光の透過率がこの値を下回ると励起光及び蛍光が透明フィルムに吸収されることによるロスが生じ、検出感度が低くなることがある。
【0039】
透明フィルムの厚みは特に制限はないが、1μmから1mmであることが好ましい。
【0040】
透明フィルムの材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
表1に上記材料による透明フィルムがもつ屈折率の例を示すが本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
なお、特に断らない限り、屈折率は、温度20℃における値を言う。透過率等、他の光学特性も特に断らない限り、同様である。
【0041】
【表1】
【0042】
[技術用語の意味]
本明細書で用いる技術用語の意味を確認すると、標的物質1(図1中の符号を併せて示すが、これにより限定して解釈されるものではない。)はラテラルフロー法による検出対象となる物質であり、検体中の被検物質と同義である。結合性物質2b,3bはそれぞれ前記標的物質1及び参照用捕捉性物質5に対する結合能を有する物質であり、好ましくは生体分子である。結合性物質2b,3bが導入された標識シリカ粒子2a,3aを蛍光標識体2,3と呼ぶ。ただし、広義には、標識シリカ粒子という用語として蛍光標識体を含む意味で用いることがある。一方、試験領域nで抗体固定化メンブレン8cに固定され、標的物質1を介して試験用蛍光標識体2を捕捉するものが試験用捕捉性物質4である。他方、参照領域nで抗体固定化メンブレン8cに固定されたものが参照用捕捉性物質5であり、これに参照用蛍光標識体3が標的物質1を介さずに捕捉される。
【0043】
[シリカ粒子]
本発明で用いる蛍光標識体2,3としては、シリカ粒子2a,3aと、結合性物質2b,3bとを組み合わせて用いることができる。
【0044】
シリカ粒子の製造方法に特に制限はなく、いかなる製造方法であってもよいが、特に特許第4391657号に記載の方法が好ましい。
【0045】
本発明に用いられるシリカ粒子の製造方法は、次の工程(a)及び(b)を含んでなることが好ましい。
(a)機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物をテトラアルコキシシランとともにアンモニア水含有溶媒中で加水分解した後、加水分解物を縮重合させシロキサン結合を形成させることにより、前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物に由来する機能性分子結合オルガノシロキサン成分を含有するコアとなるシリカ粒子(以下、「機能性分子含有シリカ粒子」という。)を調製する工程、及び
(b)前記工程(a)により前記コアとなる前記機能性分子含有シリカ粒子を調製した後に、前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物が残存する前記アンモニア水含有溶媒に前記テトラアルコキシシランをさらに含有させ、加水分解と縮重合とによるシロキサン結合形成により、前記機能性分子を含有するシリカの層を前記シリカ粒子の表面上に形成し、調製されるシリカ粒子1個当たりの前記機能性分子の含有量を増大する工程。
【0046】
前記シリカ粒子の製造方法において、前記工程(b)の代わりに下記工程(c)を、又は前記工程(b)の後、さらに下記工程(c)を含むことが好ましい。
(c)前記工程(a)又は(b)の反応液を、前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物を含有しない新たなアンモニア水含有溶媒を用いて溶媒置換処理し上記調製されたシリカ粒子を再分散させた後、テトラアルコキシシランをさらに含有させ加水分解と縮重合とにより、シリカのシェル層を前記シリカ粒子の表面上に形成する工程。
【0047】
溶媒置換とは、前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物を含有する前記工程(a)又は(b)の反応液を、前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物を含有しない新たなアンモニア水含有溶媒で置換することをいい、詳しくはエタノール洗浄、水洗浄等の洗浄操作、減圧蒸留等を行わないこととする。
【0048】
前記工程(c)において、形成されるシリカのシェル層は、前記機能性分子を含有しないことが好ましい。
前記工程(c)において、上記溶媒置換によっても粒子表面等に残存する前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物を前記新たなアンモニア水含有溶媒に含有させてもよく、前記工程(a)又は(b)により調製された前記機能性分子含有シリカ粒子に含有される前記機能性分子100質量部に対して、20質量部以下の前記機能性分子を含有するシリカのシェル層が形成されてもよく、15質量部以下の前記機能性分子を含有するシリカのシェル層が形成されることが好ましい。
前記工程(c)により、本発明の製造方法により調製されるシリカ粒子にアルカリ溶液に対する高い耐性を付与することができる。
【0049】
前記シリカ粒子の製造方法において前記工程(b)を、2回以上繰り返すことにより、得られるシリカ粒子1個当たりの前記機能性分子の含有量をさらに増大させることが好ましい。
本発明に用いる前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物は、互いに反応して結合を形成する活性部位を持つ機能性分子とオルガノアルコキシシランとを反応させることで得ることができる。
【0050】
ここで、前記機能性分子の具体例としては、蛍光色素分子(例えば、TAMRA、ローダミン6G、フルオレセイン)、吸光色素分子、磁性分子、放射線標識分子、pH感受性色素分子等が挙げられる。
活性基を有する前記機能性分子の好ましい具体例として、5-カルボキシTAMRA-NHSエステル、5-カルボキシローダミン6G-NHSエステル、5-カルボキシフルオレセイン-NHSエステル(いずれも商品名;Invitrogen社製)等のNHSエステル基を有する蛍光色素化合物を挙げることができる。
【0051】
反応性基を有するオルガノアルコキシシランの具体例として、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するオルガノアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するオルガノアルコキシシラン等を挙げることができる。中でも、APSが好ましい。メルカプト基を有するオルガノアルコキシシランを用いる場合は、マレイミド基を持つ機能性分子と結合させることができる。
【0052】
前記シリカ粒子の製造方法に用いられる前記テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン等が挙げられ、TEOSが好ましい。
【0053】
前記テトラアルコキシシランのアルコキシ基は前記アンモニア水含有溶媒の中で加水分解されてヒドロキシ基となり、さらにそれらが脱水縮合してシロキサン結合を形成する。一般にシリカとは、シロキサン結合(Si-O結合)に基づくケイ素原子及び酸素原子からなる3次元構造体を指すが、ここでは前述のようなオルガノシロキサン成分を含有するケイ素原子及び酸素原子からなる3次元構造体を含むものとする。
【0054】
前記シリカ粒子の製造方法の前記工程(a)において、前記テトラアルコキシシランの前記アンモニア水含有溶媒に含有させる量は、高すぎると粒子同士の融合が発生しやすくなり、逆に低すぎても粒度分布が広がる傾向にある。具体的には0.1~2.0体積%であることが好ましく、0.2~1.0体積%であることがより好ましい。
前記シリカ粒子の製造方法の前記工程(a)において、前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物の前記アンモニア水含有溶媒中に含有させる量は、前記テトラアルコキシシランとの混合モル比率として、1:100~1:5の範囲で反応させることが好ましく、1:50~1:10の範囲で反応させることがより好ましい。
この溶解ないしは含有させておく前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物の量により、得られる積層構造のシリカ粒子中の前記機能性分子の含有量を制御できる。
【0055】
前記アンモニア水含有溶媒において、水と混合させる前記親水性溶媒としては、エタノール、メタノール等が挙げられるが、エタノールが好ましい。前記水と前記親水性溶媒との体積比が1:20~1:3の混合溶媒であることが好ましく、1:6~1:4の混合溶媒であることがより好ましい。
前記シリカ粒子の製造方法で用いられるアンモニア水含有溶媒に含有させるアンモニア水の濃度は、目的の積層構造のシリカ粒子の平均粒径を制御する観点から、1~28質量%であることが好ましく、2~14質量%であることがより好ましい。
【0056】
前記アンモニアの含有量(アンモニア濃度)が高いほどシリカ粒子の核形成頻度、シリカ粒子の成長速度共に高くなるが、そのアンモニア濃度依存性はシリカ粒子の成長速度の方が高い。したがって、このアンモニア濃度依存性の違い(差)によりアンモニアの濃度を調節することで目的の積層構造の前記シリカ粒子及び前記コアとなる前記シリカ粒子の平均粒径を調整することができる。
前記工程(a)における前記コアとなる前記シリカ粒子の形成の温度条件としては特に制限はないが、高温で合成を行うとシリカへの機能性分子の取り込み効率を高めることができる。したがって、機能性分子の取り込み効率を高くしたい場合は35~60℃の温度条件下で行うことが好ましい。反応時間としては特に制限はないが、反応時間を長くするとシリカへの機能性分子の取り込み効率を高めることができる。したがって、機能性分子の取り込み効率を高くしたい場合は4~48時間反応させることが好ましい。
【0057】
前記機能性分子として蛍光色素分子を用いる場合、前記工程(b)において、後述するFRETによる自己消光を防止するためには10nm以上の厚みの色素分子を多く含まないシェル層を形成させることが望ましい。前記テトラアルコキシシランと比べて反応速度の遅い色素結合APSをシリカ粒子に取り込む場合、前記コアとなるシリカ粒子の表面近傍に色素分子が偏在することになり、ここで前記工程(b)を施すとさらに含有された前記テトラアルコキシシランが色素を多く含まない前記シリカの層を形成することになる。さらに時間をかけると新たに形成された層の表面近傍にも色素が多く取り込まれることになるが、前記コアの表面に偏在する色素からは10nm以上隔たれていることになり、FRETによる自己消光を効果的に防止することができる。
【0058】
10nm以上の層を形成させるために前記アンモニア水含有溶媒にさらに含有させる前記テトラアルコキシシランの量は、その時点で形成されているシリカ粒子の粒径によって異なる。例えば平均粒径100nmのシリカ粒子に10nmの層を形成させるためには、前記工程(a)において使用した前記テトラアルコキシシラン100質量部に対して30~36質量部が好ましい。
前記工程(b)における前記シリカ層の形成温度条件としては特に制限はないが、前記工程(a)の場合と同様機能性分子の取り込み効率を高くしたい場合は35~60℃の温度条件下で行うことが好ましい。反応時間としては特に制限はないが、前記工程(a)の場合と同様機能性分子の取り込み効率を高くしたい場合は4~48時間反応させることが好ましい。
【0059】
次に、積層構造のシリカ粒子について説明する。
積層構造のシリカ粒子は、前記シリカ粒子の製造方法により製造することができる。
前記積層構造のシリカ粒子は、前記工程(a)により得られた前記機能性分子含有シリカ粒子をコアとし、前記シリカ粒子の表面上を1層又は2層以上のシリカの層がシロキサン結合により包囲してなる積層構造のシリカ粒子であることを特徴とする。
前記積層構造のシリカ粒子において、前記シリカの層の数としては、1~6層であることが好ましい。
前述のように、前記工程(a)により得られたコアとなる前記シリカ粒子を調製する場合、テトラアルコキシシランの方が前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物よりも反応速度が速い。そのため、合成初期にはテトラアルコキシシランが反応して形成されるシリカに含有される前記機能性分子結合オルガノシロキサン成分の比率が低く、逆に合成後期には前記機能性分子結合オルガノシロキサン成分の比率が高くなる。結果として、前記コアとなる前記シリカ粒子の内部においては、前記機能性分子結合オルガノシロキサン成分が表面近傍ないしは表面に高濃度に偏在することになる。前記工程(b)により前記シリカの層を形成する場合においても同様に、前記シリカの層の外側に前記機能性分子結合オルガノシロキサン成分が高濃度に偏在することになる。
【0060】
前記機能性分子として蛍光色素分子を用いる場合であって、前記工程(b)でシリカの層を2層以上形成する場合、あるシリカ層における前記蛍光色素分子成分が高濃度に偏在する部分と、それに隣接するシリカ層における前記蛍光色素分子成分が高濃度に偏在する部分との距離が近すぎるとFRET(Fluorescence resonant energy transfer;蛍光共鳴エネルギー遷移)が生じ、前記蛍光色素分子成分間で自己消光を起こして蛍光強度が低下してしまう(例えば、Physical Review B 73,245302(2006)参照。)。
そこで、前記積層構造のシリカ粒子において、前記シリカの層の厚みは、前記FRETによる自己消光を防止する観点から、7nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、10~20nmがさらに好ましい。
ただし、前記シリカの層が厚くなるとシリカ粒子の重量が増大し、それによりコロイド重量あたりの蛍光強度が減少することになる。そのため、コロイド重量あたりの蛍光強度を高くするには前記FRETによる自己消光が抑制される範囲で前記シリカの層を極力薄くすることが好ましい。
【0061】
本発明において、前記平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から直接各粒子(少なくとも100個)の長径と短径を測定し、その平均値を計算して求めたものである。
本発明により得られたシリカ粒子の粒度分布の変動係数(以下CVということもある。)は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。ここで、前記変動係数は、粒度の分布の標準偏差を平均粒径で割った値をいう。
前記積層構造のシリカ粒子は、前述のように、本発明の製造方法における前記アンモニア水含有溶媒中のアンモニアの含有量を制御すること、並びに前記工程(b)を1回又は2回以上繰り返すことで制御することにより20~100nmの範囲にある平均粒径とした場合、変動係数は15%以下とすることができる。
【0062】
次に「シリカ粒子表面修飾」について説明する。
シリカは、一般に、化学的に不活性であると共に、その修飾が容易であることが知られている。本発明のシリカ粒子もまた、容易に所望の物質を表面に結合させることが可能である。
本発明のシリカ粒子は、フェリチンを分子認識する物質を表面に結合もしくは吸着させることが好ましい。
前記シリカ粒子が、前記機能性分子として蛍光色素分子もしくは吸光色素分子を含有する場合、検体(例えば、任意の細胞抽出液、唾液、血清、バッファー)中のフェリチンを蛍光ないしは吸光色素標識付けすることができる。
前記シリカ粒子を表面修飾する前記フェリチンを分子認識する物質としては、抗体、抗原、ペプチド、DNA、RNA、糖鎖、リガンド、受容体、化学物質等が挙げられる。本発明では、感度の面から、少なくともポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体で修飾されており、ポリクローナル抗体で修飾されていることが好ましく、ヤギポリクローナル抗体で修飾されていることがより好ましい。
ここで、分子認識とは、(1)DNA分子間又はDNA-RNA分子間のハイブリダイゼーション、(2)抗原抗体反応、(3)酵素(受容体)-基質(リガンド)間の反応など、生体分子間の特異的相互作用をいう。
【0063】
ここで、リガンドとはタンパク質と特異的に結合する物質をいい、例えば、酵素に結合する基質、補酵素、調節因子、あるいはホルモン、神経伝達物質などをいい、低分子量の分子やイオンばかりでなく、高分子量の物質も含む。
また化学物質とは天然有機化合物に限らず、人工的に合成された生理活性を有する化合物や環境ホルモン等を含む。
すなわち、前記シリカ粒子を表面修飾した、フェリチンを分子認識する物質はそれ自体が受容体部位となって、例えば抗原-抗体反応、塩基配列の相補性を利用したハイブリダイゼーションなどの特異的な分子認識を利用して、フェリチンに特異的に結合することができる。
前記積層構造のシリカ粒子の表面への、前記生体分子による吸着等の表面修飾が、縮合剤ないしは架橋剤の存在下又は非存在下にて、前記積層構造のシリカ粒子のコロイドと前記生体分子の溶液とを混合することにより行われることが好ましい。
例えば、縮合剤等の非存在下、前記積層構造のシリカ粒子のコロイドと前記生体分子の溶液とを混合することにより、前記生体分子は、前記シリカ粒子の表面と吸着することができる。
【0064】
前記縮合剤ないしは架橋剤の具体例としては、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等が挙げられる。
表面修飾に用いる前記縮合剤ないしは架橋剤の当量数、前記コロイドの分散媒、前記生体分子の溶液の溶媒の種類・容量、及び反応温度等の反応条件については表面修飾が進行する限り特に制限はない。
【0065】
前記生体分子により前記シリカ粒子を表面修飾した後は、前述の非特異的吸着をさらに防止する観点から、PEG、BSAなどの任意のブロッキング剤でブロッキング処理を施す。
ブロッキング処理の具体的な方法は、抗体と粒子を結合させた反応の後、未反応の抗体溶液を除去し、2%ブロッキング溶液を500μL(粒子1mg当たり)加えて3分間振盪させる。その後、遠心分離及び上清除去を行い、さらに2%ブロッキング溶液を500μL加えて3分間振盪させる。再度、遠心分離及び上清除去を行い、10mMリン酸Bufferを500μL加えて1分間振盪させ、洗浄を行う。さらに遠心分離及び上清除去を行い、10mMリン酸Bufferを500μL加える。
【0066】
前記生体分子の表面修飾が出来たかどうかの確認は、混合液から遠心分離又は限外ろ過で粒子を除去した溶液に含まれる前記生体分子を一般的なタンパク質定量法(例えば、UV法、Lowry法、Bradford法)で定量し、減少した前記生体分子の量を定量することで行うことができる。前記機能性化合物を含有するシリカ粒子は、前記機能性化合物とシランカップリング剤とを反応させ、共有結合、イオン結合その他の化学的に結合若しくは吸着させて得られた生成物に1種又は2種以上のシラン化合物を縮重合させシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。これによりオルガノシロキサン成分とシロキサン成分とがシロキサン結合してなるシリカ粒子が得られる。
【0067】
前記機能性化合物を含有するシリカ粒子の好ましい調製方法の態様としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナト基、イソチオシアナト基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する又は付加した前記機能性化合物と、それら活性基と対応して反応する置換基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基)を有するシランカップリング剤とを反応させ、共有結合させて得られた生成物に1又は2種以上のシラン化合物を縮重合させシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。
【0068】
前記活性基を有する又は付加した前記機能性化合物の具体例として、5-(及び-6)-カルボキシテトラメチルローダミン-NHSエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)、下記式でそれぞれ表されるDY550-NHSエステル又はDY630-NHSエステル(いずれも商品名、Dyomics GmbH社製)等のNHSエステル基を有する蛍光色素化合物を挙げることができる。
【0069】
【化1】
【0070】
前記置換基を有するシランカップリング剤の具体例として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。中でも、APSが好ましい。
【0071】
前記縮重合をさせる前記シラン化合物としては特に制限はないが、TEOS、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3-チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、及び3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリエトキシシランを挙げることができる。中でも、前記シリカ粒子内部のシロキサン成分を形成する観点からはTEOSが好ましく、前記シリカ粒子内部のオルガノシロキサン成分を形成する観点からはMPS又はAPSが好ましい。
【0072】
抗体固定化メンブレンにおける目詰まりを抑制する観点から、シリカ粒子の平均粒径は30~400nmであり、70~300nmであることが好ましい。
本発明において、前記平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した100個の標識試薬シリカ粒子の合計の投影面積から蛍光標識体の占有面積を画像処理装置によって求め、この合計の占有面積を、選択した蛍光標識体の個数(100個)で割った値に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)を求めたものである。
なお、前記平均粒径は、一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む概念の後述する「動的光散乱法による粒度」とは異なり、一次粒子のみからなる粒子の平均粒径である。
【0073】
本明細書において、前記「動的光散乱法による粒度」とは、動的光散乱法により測定され、前記の平均粒径とは異なり、一次粒子だけでなく、一次粒子が凝集してなる二次粒子をも含めた概念であり、前記複合粒子の分散安定性を評価する指標となる。
動的光散乱法による粒度の測定装置としては、ゼータサイザーナノ(商品名;マルバーン社製)が挙げられる。この手法は、微粒子などの光散乱体による光散乱強度の時間変動を測定し、その自己相関関数から光散乱体のブラウン運動速度を計算し、その結果から光散乱体の粒度分布を導出するというものである。
【0074】
本発明の粒子は粒状物質として単分散であることが好ましく、粒度分布の変動係数いわゆるCV値は特に制限はないが、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
【0075】
[標的物質]
本発明において、検出、定量の対象としての標的物質1は、フェリチンである。本発明において、標的物質1を含有する試料としては特に制限はないが、唾液、血液などの液体試料が挙げられ、生体から簡便に採取できることから唾液が好ましい。すなわち、本発明に用いられる平面試験片は、唾液展開用であることが好ましい。
また、唾液のなかでも、耳下腺から分泌された唾液がより好ましい。耳下腺から分泌された唾液は粘度が低く、平面試験片80上でスムーズに展開されるからである。耳下腺から分泌された唾液の粘度が低い理由は定かでないが、ムチンの含有量が比較的少ないためだと考えられる。耳下腺から分泌された唾液は、滅菌した脱脂綿を口腔内の耳下直近に含み、耳下直近の唾液を吸収させることにより、調製することができる。
【0076】
唾液は、3~50倍に希釈することが好ましく、5~20倍に希釈することがより好ましく、5~10倍に希釈することがさらに好ましい。希釈を行うと、平面試験片上での唾液の展開が容易になり、かつメンブレンの目詰まりが生じにくくなる。
また、唾液を希釈する溶媒は、標的物質が検出可能な限り特に制限はなく、ホウ酸バッファー、HEPESバッファー、炭酸バッファー等が挙げられる。
【0077】
唾液試料と前述のシリカ粒子とを混合すると、粒子同士が凝集する場合がある。このような場合、フェリチンの検出の感度を向上させる観点から、粒子同士の凝集を阻害することができる添加剤を、唾液を希釈する溶媒が含有することが好ましい。このような添加剤を用いることで、シリカ粒子を分散させることができる。
唾液には、シリカ粒子を修飾する抗体に非特異的に結合できる、ムチンなどの高分子量のタンパク等が含まれる。ムチンは、シリカ粒子を凝集させる作用を有する。このようなムチンの作用に対し、添加剤により、ムチンなどのタンパクと、シリカ粒子上に存在するBSAなどのブロッキング剤や抗体といったタンパク質との結合性を低下させ、タンパク質間の凝集を抑制することで、シリカ粒子が分散するものと想定される。
【0078】
本発明で好ましく用いることができる添加剤としては特に制限はないが、陰イオン性界面活性剤が好ましい。陰イオン性界面活性剤は、陰性のチャージを持つムチンとよく反発するため、シリカ粒子の凝集をより一層抑制できる。
陰イオン性界面活性剤の具体的としては、ドデシル硫酸ナトリウム(以下単に、「SDS」ともいう)、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、ラウリン酸トリエタノールアミン、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム及びラウリルリン酸ナトリウム等が挙げられる。このうち、SDSが特に好ましい。
希釈液に対する添加剤の含有量に特に制限はなく、添加剤の種類に応じて、抗原抗体反応が阻害されず、唾液による粒子の凝集作用を阻害できる範囲で適宜設定することができる。例えば、添加剤としてSDSを用いる場合、唾液を希釈した後の溶液におけるSDSの濃度は0.06%(w/v)以上が好ましく、0.07%(w/v)以上がより好ましい。また上限値に特に制限はないが、SDSはタンパク変性作用を示すので、抗体におけるフェリチンの認識部位の構造を変化させることのない範囲で適宜設定することが好ましく、0.1%(w/v)以下がより好ましい。SDSを適切な濃度で希釈液に含有させることで、抗原抗体反応を阻害せず、かつ、唾液による粒子の凝集作用を阻害することができ、その結果、フェリチンの検出感度をより向上させることができる。
【0079】
[検出方法]
本発明の標的物質の検出方法においては、毛細管現象等を利用して移動する蛍光標識体2,3を利用して、判定部で前記粒子を集積させ、判定を行う検出方法であり、例えばイムノクロマト法やマイクロ流路チップ等を利用して行うことが好ましい。このとき、蛍光標識体はラテラルフロー用標識体として好適に用いることができる。さらに、本発明の標的物質の検出方法において、標的物質がラテラルフロー方向Lに向かって移動する形式である、ラテラルフロータイプのイムノクロマト法を利用して標的物質を検出することが好ましい。
【0080】
前記イムノクロマト法用蛍光検出システムとしては、少なくとも(1)サンプルパッド、蛍光物質を含有してなる蛍光標識体又はラテラルフロー用標識試薬シリカ粒子を含浸した部材(コンジュゲートパッド)、抗体固定化メンブレン及び吸収パッドからなる試験片、並びに(2)励起光源からなることが好ましい。
前記蛍光検出システムにおいて、前記標識試薬シリカ粒子(蛍光標識体)が発する蛍光を目視等によって検出する観点から、前記励起光源が、波長200~400nmの励起光を発することが好ましい。前記励起光源としては、水銀ランプ、ハロゲンランプ及びキセノンランプが挙げられる。本発明においては、特にレーザダイオード又は発光ダイオードから照射した励起光を用いることが好ましい。
また、前記蛍光検出システムは、前記励起光源から特定の波長の光のみを透過するためのフィルタを備えていることがより好ましく、さらに、蛍光のみを目視等で検出する観点から、前記励起光を除去し蛍光のみを透過するフィルタを備えていることがさらに好ましい。
前記蛍光検出システムは、前記蛍光を受光する光電子倍増管又はCCD検出器を備えることが特に好ましく、これにより目視では確認できない強度ないしは波長の蛍光も検出でき、さらにはその蛍光強度を測定できることから標的物質の定量もでき、高感度検出及び定量が可能となる。
【0081】
前記励起光の波長は、300~700nmであることが好ましい。前記蛍光の波長は目視で認識できる波長が好ましく、350~800nmであることが好ましい。また、目視で観察した時に高い視感度が得られることから、530~580nmであることがより好ましい。このとき、励起光の波長は、上記の波長帯域の蛍光を効率的に生成させるために、500~550nmであることが好ましい。
【0082】
本発明の好ましい実施形態に係る試験片は、手技の習熟していない一般需要者でも操作し易くし、試験片の検出ラインを目視にて観察する観察窓のプラスチック材料等でハウジング(ケーシング)されていることが好ましい。例えば、特開2000-356638等に記載されているハウジング等が挙げられる。
【実施例
【0083】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0084】
(調製例1-1)抗体を吸着させたシリカ粒子のコロイド(コロイドA)の調製
1.工程(a)
色素を高濃度に含有するシリカコロイドを合成すべく、2質量%のアンモニア水をさらにエタノールで5倍に希釈してアンモニア水含有溶媒100mlとし、その中に0.5体積%となる体積500μlのTEOSと前記TEOSと同体積のカルボキシTAMRA‐APSのDMF溶液とを、それぞれ、添加して室温にて撹拌した。
ここで、前記機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物としての前記カルボキシTAMRA‐APSは下記式で表され、5-カルボキシTAMRA-NHSエステルとAPSとを反応させたものを用いた。前記DMF溶液は40mMの濃度に調整したものを用いた。
【0085】
【化2】
【0086】
室温下、撹拌3時間ほどでシリカ粒子のコロイドが生成したが、この場合前記カルボキシTAMRA‐APSの投入量が多いため、シリカ粒子内部に取り込まれずに溶液中に残留する前記カルボキシTAMRA‐APSの比率が高かった。
溶液中の遊離色素による蛍光強度の測定の結果から、反応開始から7~8時間経過すると前記カルボキシTAMRA‐APSの取り込み速度が減少し、反応終了とした。得られた粒子は、カルボキシTAMRA色素がシリカ粒子の表面近傍ないしは表面に偏在していた。
なお、前記シリカ粒子の蛍光強度の測定は、蛍光分光光度計FP-6500(商品名、日本分光社製)を用いて、490nmの励起光における520nmの蛍光強度を測定した。
【0087】
2.工程(b)
工程(a)で得られたシリカ粒子に、前記カルボキシTAMRA‐APSを取り込む余地の豊富なシリカを提供するため、TEOSを追加投入し室温5時間反応させ、1層のシリカ層を有するシリカ粒子のコロイドを得た。
TEOSの追加投入量は、工程(a)における投入量の50%分とした。
溶液中に前記カルボキシTAMRA‐APSが残存する状態で反応させ、シェルを形成しているので、シェル層の表面近傍ないしは表面にも多くの色素が結合していた。
【0088】
3.平均粒径測定
シリカ粒子の平均粒径を測定するため、前記工程(b)により得られたシリカ粒子のコロイドを洗浄した。
具体的な洗浄操作としては、反応終了後、遠心分離(5,000×g)を30分行い、粒子を沈降させた後、直ちに上清液を除去した。得られた沈殿物をエタノールに再分散させ、再度遠心分離(5,000×g)を30分行い、粒子を沈降させた。同様のエタノール洗浄操作をさらに1回繰り返し、未反応のTEOS等を除去した。さらにエタノールの代わりに蒸留水を用いた以外は同様な洗浄操作を4回行い、遊離色素等を除去した。その結果、1層のシリカ層を有するシリカ粒子を得た。
上記得られたシリカ粒子の平均粒径は、SEM画像に写っている各粒子(100個以上)の直径を測定し、その平均値として算出した。
前記工程(b)により得られたシリカ粒子のコロイドに含まれるシリカ粒子の平均粒径は、87nmであった。
【0089】
4.シリカ粒子のコロイドへの抗体の吸着
遠心管に50mM KHPO(pH6.5)1mLと、前記工程(b)により得られたシリカ粒子のコロイド(10mg/mL)9mLとを加えて軽く撹拌した。遠心管にヤギポリクローナル抗体(商品名:anti- ferritin goat polyclonal antibody、US biological社製)1mL(60μg/mL)を撹拌しながら加え、室温で1時間静置した。これに1質量%のPEG(ポリエチレングリコール、分子量20,000、和光純薬工業社製)を0.55mL加え軽く撹拌した。
混合液を12,000×Gで15分間遠心分離し、上清を1mL程度残して取り除き、残した上清に沈殿を分散させた。この分散液に保存用バッファー(20mM Tris-HCl(pH 8.2)、0.05% PEG20,000、1%BSA、0.1%NaN)を20mL加え、再度遠心分離し、上清を1mL程度残して取り除き、残した上清に沈殿を分散させた(コロイドA)。
【0090】
(調製例1-2)粒子表面に抗体が結合した金コロイド粒子からなる標識試薬の調製
金コロイド(粒径100nm、田中貴金属工業社製)0.5mLに、ヤギポリクローナル抗体(1.0mg/mL、US biological社製)100μL加え、10分間室温で静置した。続いて、1重量%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.5)100μL加え、更に10分間室温で静置した。その後、8,000×Gで15分間遠心分離を行い、上清を除去し、1重量%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.5)100μL加え、粒子を分散させた。
【0091】
(調製例2-1)イムノクロマトグラフィー用試験片の作製
調製例1で得られたコロイドA240μLと50mM KHPO(pH7.0)560μLを混合した。得られた混合液800μLをGlass Fiber Conjugate Pad(GFCP、MILLIPORE社製)(8×150mm)に均等に塗布した。デシケーター内で室温下、一夜減圧乾燥し、調製例1のシリカ粒子のコロイド由来のシリカ粒子を含有してなるコンジュゲートパッド8bを作製した。
【0092】
次に、抗体固定化メンブレン8cを以下の方法で作製した。
メンブレン(丈25mm、商品名:Hi-Flow Plus120 メンブレン、MILLIPORE社製)の中央付近(端から約12mm)に、幅約1mmの試験領域nとして、ヤギポリクローナル抗体(商品名anti- ferritin goat polyclonal antibody、US biological社製)を1mg/mL含有する溶液((50mM KHPO,pH7.0)+5%スクロース)を0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
続いて、幅約1mmの参照領域nとして、抗マウスIgG抗体(Anti Mouse IgG、Dako社製)を1mg/mL含有する溶液((50mM KHPO,pH7.0)シュガー・フリー)を0.75μL/cmの塗布量で塗布し、50℃で30分乾燥させた。なお、試験領域nと参照領域nとの間隔は3mmとした。次に、ブロッキング処理として前記メンブレン全体をブロッキングバッファー(2%BSA溶液)中に室温で60分、30℃で浸し、その後メンブレンを取り出し、10mMリン酸Buffer(pH7.5)で2回洗浄後乾燥した。
【0093】
サンプルパッド8a(Glass Fiber Conjugate Pad(GFCP)、MILLIPORE社製)、前記コンジュゲートパッド8b、前記抗体固定化メンブレン8c、及び吸収パッド8d(Cellulose Fiber Sample Pad(CFSP)、MILLIPORE社製)を粘着剤付きバッキングシート8e(商品名AR9020,Adhesives Research社製)上でこの順に組み立てた。
続いて、透明フィルム7としてPETフィルム(テイジン テトロン(登録商標)フィルムG2P2(帝人デュポンフィルム社製))を、サンプルパッド8aの端から1.4mm部分まで、吸収パッドの端から1.2mmまでの部分を覆うように貼り付けた。
続いて、幅5mm、長さ60mmのストリップ状に切断し、図1(a)及び(b)に示した構成の試験片10を得た。
なお、各構成部材は、図2(a)及び図2(b)に示すように、各々その両端を隣接する部材と2mm程度重ね合わせて貼付した。
【0094】
(調製例2-2)イムノクロマトグラフィー用試験片の作製
比較例1として、調製例1のコロイドAを調製例2の標識試薬に変更した以外は実施例1と同じ方法で試験片10を作製した。
【0095】
(実施例1・比較例1)フェリチンの迅速判定
調製例2-1及び2-2の試験片10のサンプルパッド8a部分にそれぞれ、HEPESバッファーを用いて0、0.05、0.1、0.25、0.5、0.75ng/mLの濃度に希釈したフェリチンを80μL滴下した。フェリチンの滴下から15分経過後に蛍光リーダーで試験領域nの判定を行った。ここで蛍光リーダーとは、波長532nmのレーザダイオードと光学フィルターからなる装置であり、メンブレンのライン領域に前記レーザダイオードを照射し、光学フィルムを介してラインを観察することによって、蛍光粒子の発する蛍光のみを観察する装置である。
判定の結果を表2に示す。表2中「○」は試験領域nにおいて蛍光が見えたことを意味し、「-」は試験領域nにおいて蛍光が見えなかったことを意味する。なお、試験領域の蛍光の有無の判断は、図9に示す蛍光強度基準に従い行った。
【0096】
【表2】
【0097】
比較例1ではフェリチンを一切検出できなかったのに対し、実施例1では0.05~0.75ng/mLの範囲でフェリチンを検出することができた。この結果から、フェリチンの検出にシリカ粒子3aを用いることで、短時間で試験領域nの判定が可能になることが分かった。
【0098】
(実施例2・比較例2)唾液に含まれるフェリチンの検出
滅菌した脱脂綿を口腔内に含み唾液を吸収させ、脱脂綿から唾液を回収した。調製例2-1の試験片10のサンプルパッド8a部分にそれぞれ、添加剤としてSDS(和光純薬工業社製)を添加したホウ酸バッファー(唾液希釈後のSDSの終濃度が0.1%(w/v)となるよう調整)、及び添加剤を含まないホウ酸バッファーを用いて、回収した唾液を2倍、3倍、5倍、10倍、30倍、50倍、100倍に希釈し、80μL滴下した。15分経過時に蛍光リーダーで試験領域nの判定を行った。
判定の結果を表3に示す。表3中「○」は試験領域nにおいて蛍光が見えたことを意味し、「-」は試験領域nにおいて蛍光が見えなかったことを意味する。なお、試験領域の蛍光の有無の判断は、図9に示す蛍光強度基準に従い行った。
【0099】
【表3】
【0100】
表3に示すように、添加剤を使用しない比較例2では、唾液に含まれるフェリチンを検出できなかった。
これに対して、添加剤を添加した実施例2では、唾液を3~50倍で希釈した場合において、唾液に含まれるフェリチンを検出することができた。この結果から、血清を用いず、唾液を用いた非侵襲でのフェリチン検出が、短時間で可能となったと言える。
【0101】
(実施例3)唾液試料の調製方法の検討
唾液中のフェリチンは、ELISA法、Human Ferritin ELISA kit(abcam社製)に添付された方法に則り測定した。
終濃度が所定の濃度となるようポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名:Briji35、キシダ化学社製)、アルギニン(東京化成工業社製)、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(商品名:TritonX-100、SIGMA-ALDRICH社製)、SDS(和光純薬工業社製)、又はポリブレン(Sigma-Alddrich社製)をホウ酸バッファー(東京化成工業社製)に添加し、緩衝液を調製した。調製した緩衝液に、緩衝液に対して1/5倍量~1/10倍量(体積基準(v/v))の唾液(フェリチンを5.0 ng/mLで含有)を加えて混合し、希釈処理済みの唾液を調製した。
【0102】
調製した唾液と、調製例1-1で調製し凍結乾燥した蛍光シリカ粒子と混合し、ただちに調製例2-1で作製したイムノクロマトグラフィーに室温(23℃)で供した。
試料を15分間メンブレン上で展開した後、実施例1と同様の方法でテストラインの蛍光を読み取り、フェリチンの検出を行った。その結果を表4及び5、並びに図7及び8に示す。
なお、表4及び5に示す検出結果は、図9に示す蛍光強度基準に従い決定した。
図7の縦軸の「蛍光強度」の算出するために、光源と光学フィルタとフォトダイオード(PD)を含んでなる検出ユニットを有し、該検出ユニットが、モーターによって一定速度で直線移動する機構を備え、PDの受光強度を50μ秒ごとに記録する記録機構を備えた、蛍光検出装置を作製した。なお、検出ユニットは、光源が532nmのレーザーであり、レーザをサンプルに照射し、反射光を一定以上の波長の光のみを透過する光学フィルタ(セムロック社製、532R)を透過させた後にPD(浜松ホトニクス社製、S7686)で受光する機構を有する。この蛍光検出装置を用いて、メンブレンが発する蛍光を読み取り、信号のピーク面積から数値を算出した。
また、図8の縦軸の「蛍光強度のCV%」は、同じ唾液試料を使用して、独立した3回の試験を実施し、蛍光強度の平均値と標準偏差を算出し、標準偏差を平均値で除し、CV%を算出した。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
表4に示すように、唾液などの検出対象試料と、アルギニン、SDS、ポリブレンなどの添加剤とを混合することで、フェリチンの検出感度が向上した。これは、タンパク質間の凝集が抑制されてシリカ粒子の分散性が向上し、検出感度が向上したと考えられる。
また、添加剤としてSDSを用いた場合、特に検出感度が高かった。これは、SDSが陰性のチャージを持っており、陰性のチャージを持つムチンとよく反発するため、タンパク質間の凝集抑制効果がより優れているためと考えられる。
【0106】
前述の添加剤のうち、SDSの濃度を変えて試験を行った場合、表5に示すように、SDSの濃度が0.06%~0.1%の場合に唾液中のフェリチンの検出が可能であった。特に、SDSの濃度が0.07%~0.1%の場合に検出感度がより向上した。
SDSには強いタンパク変性作用がある。そのため、添加剤の濃度が高すぎると抗体がフェリチンを認識する部位の構造が変化し、抗原抗体反応が阻害され、フェリチンの検出感度が低下したと考えられる。
さらに、図7に示すように、SDSの濃度が0.08%の場合、唾液中のフェリチンに由来する蛍光が最も強かった。さらに、蛍光強度のばらつき(変動係数)も少なかった(図8参照)。
【0107】
以上のように、本発明によれば、大型の免疫学的な分析装置などを必要とせず、短時間かつ高感度で、フェリチンを検出することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 標的物質
2 試験用蛍光標識体
2a シリカ粒子
2b 試験用結合性物質
3 参照用蛍光標識体
3a シリカ粒子
3b 参照用結合性物質
4 試験用捕捉性物質
5 参照用捕捉性物質
6 筐体
61 検出開口部
62 検体導入開口部
6a 筐体上部
6b 筐体下部
7 透明フィルム
71 励起光
72 蛍光
73 反射光
74 出射光
80 平面試験片
8a サンプルパッド
8b コンジュゲートパッド
8c 抗体固定化メンブレン
8d 吸収パッド
8e 粘着剤付きバッキングシート
10 試験片
100 長尺試験体
A 外界(空気)
参照領域
試験領域
L ラテラルフロー方向
LI 励起光源
S 検体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9