(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】光学測定装置および光学測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20220302BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
G01N21/65
(21)【出願番号】P 2017102606
(22)【出願日】2017-05-24
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 啓介
(72)【発明者】
【氏名】徳永 英司
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-087385(JP,A)
【文献】特表2014-507627(JP,A)
【文献】特開2016-042519(JP,A)
【文献】特開2015-158482(JP,A)
【文献】特開2016-085123(JP,A)
【文献】特表2013-507005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0192969(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/17 - G01N 21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出力された出力光を所定時間遅延させて参照光として出力する遅延部と、
前記出力光と前記参照光と
試料に刺激を与える刺激光と
の光のうち少なくとも前記出力光と前記刺激光とを重ねて試料へ照射し、かつ
前記試料で反射された反射光又は前記試料で透過された透過光である前記試料からの
光に前記参照光を含む測定光を受光し、受光した光の強度に応じた光検出信号を出力する受光部と、
前記光検出信号と前記光源に同期する同期信号とに基づいて
、前記同期信号に所定の重みを付加した前記光検出信号を加算した信号として定めた補償同期信号と、前記光検出信号とを乗算して光検出信号に含まれる雑音成分を除去する除去部と、
を備えた光学測定装置。
【請求項2】
前記遅延部は、前記出力光を前記所定時間としてπ/2遅延させて参照光として出力する
請求項1に記載の光学測定装置。
【請求項3】
前記補償同期信号は、
時々刻々と変化する強度雑音を含む前記光検出信号の
振幅を示す瞬時振幅に基づき前記同期信号の位相が調整された信号を用いる
請求項1又は請求項2に記載の光学測定装置。
【請求項4】
前記補償同期信号は、
時々刻々と変化する強度雑音を含む前記光検出信号の
振幅を示す瞬時振幅のべき乗に基づき前記同期信号の位相が調整された信号を用いる
請求項1又は請求項2に記載の光学測定装置。
【請求項5】
前記所定の重みは、
時々刻々と変化する強度雑音を含む前記光検出信号の
振幅を示す瞬時振幅に基づいて定める
請求項
1に記載の光学測定装置。
【請求項6】
前記所定の重みは、
時々刻々と変化する強度雑音を含む前記光検出信号の
振幅を示す瞬時振幅のべき乗に基づいて定める
請求項
1に記載の光学測定装置。
【請求項7】
前記補償同期信号は、
当該補償同期信号の位相と、時々刻々と変化する強度雑音を含む前記光検出信号の振幅を示す瞬時振幅による前記光検出信号
の位相を示す瞬時位相とが直交するように定める
請求項1から請求項
6の何れか1項に記載の光学測定装置。
【請求項8】
前記除去部は、
前記同期信号の位相を調節して前記補償同期信号とする位相調整部と、
前記補償同期信号と前記光検出信号とを乗算する乗算部と、
前記乗算部の出力を前記除去部に帰還する帰還部と、
を含む請求項1から請求項
7の何れか1項に記載の光学測定装置。
【請求項9】
前記帰還部は、前記乗算部の出力から予め定めた周波数以下の低周波成分を取り出すフィルタをさらに有し、前記低周波成分が、前記同期信号に前記光検出信号を付加するときの重み調整又は記位相調整部に帰還される
請求項
8に記載の光学測定装置。
【請求項10】
前記光源は白色光源であり、
前記受光部の前段に配置される分光器、
をさらに有し、
前記受光部及び前記除去部は、前記分光器により分光された波長ごとに配置される
請求項1から請求項
9の何れか1項に記載の光学測定装置。
【請求項11】
光源から出力された出力光を所定時間遅延させて参照光として出力し、
前記出力光と前記参照光と
試料に刺激を与える刺激光と
の光のうち少なくとも前記出力光と前記刺激光とを重ねて試料へ照射し、かつ
前記試料で反射された反射光又は前記試料で透過された透過光である前記試料からの
光に前記参照光を含む測定光を受光し、受光した光の強度に応じた光検出信号を出力し、
前記光検出信号と前記光源に同期する同期信号とに基づいて
、前記同期信号に所定の重みを付加した前記光検出信号を加算した信号として定めた補償同期信号と、前記光検出信号とを乗算して光検出信号に含まれる雑音成分を除去する、
光学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学測定装置および光学測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、試料に刺激を与え、その刺激に対する応答を光で測定する光学測定方法として、ポンプ・プローブ法が知られている。このポンプ・プローブ法を用いて、試料の分子振動を測定する一例として、誘導ラマン散乱法による光学測定方法も知られている。誘導ラマン散乱法ではポンプ光及びプローブ光とされる各々のパルス光を用い、これらポンプ光とプローブ光は時間・空間的に重ねられる。ポンプ光とプローブ光の光子のエネルギー差が分子振動エネルギーと一致した時に、プローブ光の強度が変化する。従って、ポンプ光またはプローブ光の光子エネルギーを掃引させることで分子振動スペクトルの取得が可能になる。また、ポンプ光とプローブ光の光子エネルギー差を分子振動のエネルギーと一致させ、これら光を空間的に掃引することで分子振動によるイメージングも可能である。また、試料の複数の分子振動を測定するために、白色パルス光源をプローブ光として用いた光学測定方法も知られている。
【0003】
ところが、白色パルス光源を用いて試料の複数の分子振動を測定する場合、白色光の強度変動(強度ノイズ)が大きく、十分な信号雑音比を得るために長い積算時間が要求されることがある。光源の強度ノイズによる信号雑音比劣化を防ぐ方法として、光源の参照光を用意し、プローブ光の検出信号から参照光の検出信号を減算する、または除算することで検出される強度雑音を除去する方法がある。しかし、白色パルス光の場合、この強度ノイズは波長ごとに異なる場合がある。この場合、参照光の検出波長及び波長幅をプローブ光と厳密に同一にしなければ、強度雑音を効率的に除去することができない。従って、白色光を分光して検出する場合、プローブ光と参照光とで特性の揃った分光器を用意する必要があり、煩雑になる。このことを解消するために、光を検出する素子へ入射されるプローブ光に対して入射時期を遅延させた参照光を用意し、共通の分光器で分光されたプローブ光と参照光を共通の光検出素子で検出し、試料測定によるプローブ光の強度変化を検出信号の位相変化として検出することで、波長ごとに異なる白色光の強度ノイズによる信号雑音比劣化を抑制する光学測定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光学測定装置に入射される光の強度が照射の度に変動した場合には検出される信号の位相偏移が引き起こされる場合がある。例えば、光検出素子がその時間応答に光強度依存性を有したり、検出部の電子回路素子が歪特性を有すると、信号強度に応じて位相が変動する場合がある。このように信号強度に応じて位相の変動を生じる場合には、その位相変動特性が原因で強度ノイズが位相ノイズに変換されて、信号雑音比が低下する。従って、信号雑音比を向上させるには改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮してなされたもので、試料に印加される刺激に対する応答の結果生じるプローブ光の強度変化を検出信号の位相変化として検出する場合と比べて、高い信号雑音比で測定可能な光学測定装置および光学測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様の光学測定装置は、
光源から出力された出力光を所定時間遅延させて参照光として出力する遅延部と、
前記出力光と前記参照光と刺激光とを試料へ照射し、かつ前記試料からの測定光を受光し、受光した光の強度に応じた光検出信号を出力する受光部と、
前記光検出信号と前記光源に同期する同期信号とに基づいて定めた補償同期信号と、前記光検出信号とを乗算して光検出信号に含まれる雑音成分を除去する除去部と、
を備えている。
【0008】
前記遅延部は、前記出力光を前記所定時間としてπ/2遅延させて参照光として出力することができる。
【0009】
前記補償同期信号は、前記同期信号に所定の重みを付加した前記光検出信号を加算した信号を用いることができる。
【0010】
前記補償同期信号は、前記光検出信号の瞬時振幅に基づき前記同期信号の位相が調整された信号を用いることができる。
【0011】
前記補償同期信号は、前記光検出信号の瞬時振幅のべき乗に基づき前記同期信号の位相が調整された信号を用いることができる。
【0012】
前記所定の重みは、前記光検出信号の瞬時振幅に基づいて定めることができる。
【0013】
前記所定の重みは、前記光検出信号の瞬時振幅のべき乗に基づいて定めることができる。
【0014】
前記補償同期信号は、前記光検出信号と瞬時位相とが直交するように定めることができる。
【0015】
前記除去部は、
前記同期信号の位相を調節して前記補償同期信号とする位相調整部と、
前記補償同期信号と前記光検出信号とを乗算する乗算部と、
前記乗算部の出力を前記除去部に帰還する帰還部と、
を含むことができる。
【0016】
前記帰還部は、前記乗算部の出力から予め定めた周波数以下の低周波成分を取り出すフィルタをさらに有し、前記低周波成分が、前記同期信号に前記光検出信号を付加するときの重み調整又は記位相調整部に帰還されるように構成することができる。
【0017】
前記光源は白色光源であり、
前記受光部の前段に配置される分光器、
をさらに有し、
前記受光部及び前記除去部は、前記分光器により分光された波長ごとに配置される
ように構成することができる。
【0018】
第2態様の光学測定装置は、
同期信号に応じて光源から出力された出力光を所定時間遅延させて参照光として出力する遅延部と、
前記出力光と前記参照光と刺激光とを試料へ照射し、かつ前記試料からの測定光を受光し、受光した光の強度に応じた光検出信号を出力する受光部と、
前記光検出信号と前記同期信号とを乗算して光検出信号に含まれる強度雑音成分を抑制する抑制部と、
前記抑制部で前記強度雑音成分が抑制された信号から、前記抑制された信号と前記光検出信号とに基づいて定めた位相雑音に関係する光強度信号を減算する減算部と、
を備えている。
【0019】
前記遅延部は、前記出力光を前記所定時間としてπ/2遅延させて参照光として出力することができる。
【0020】
前記減算部は、前記光検出信号の瞬時振幅に基づいて位相雑音に関係する光強度信号を定めることができる。
【0021】
前記減算部は、前記光検出信号の瞬時振幅のべき乗に基づいて位相雑音に関係する光強度信号を定めることができる。
【0022】
第3態様の光学測定方法は、
同期信号に応じて光源から出力された出力光を所定時間遅延させて参照光として出力し、
前記出力光と前記参照光と刺激光とを試料へ照射し、かつ前記試料からの測定光を受光し、受光した光の強度に応じた光検出信号を出力し、
前記光検出信号と前記同期信号とに基づいて定めた補償同期信号と、前記光検出信号とを乗算して光検出信号に含まれる雑音成分を除去する。
【0023】
第4態様の光学測定方法は、
同期信号に応じて光源から出力された出力光を所定時間遅延させて参照光として出力し、
前記出力光と前記参照光と刺激光とを試料へ照射し、かつ前記試料からの測定光を受光し、受光した光の強度に応じた光検出信号を出力し、
前記光検出信号と前記同期信号とを乗算して光検出信号に含まれる強度雑音成分を抑制し、
前記抑制された信号から、前記抑制された信号と前記光検出信号とに基づいて定めた位相雑音に関係する光強度信号を減算する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、試料に印加される刺激に対する応答の結果生じるプローブ光の強度変化を検出信号の位相変化として検出する場合と比べて、高い信号雑音比で測定することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係る典型的な光学測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る白色パルス光を用いて構成した光学測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係るバランス検出法を用いて構成した光学測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態に係るプローブ光に対して参照光を光学的に遅延させる光学測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】第1実施形態に係る強度変調された光を出力する光源を含む光学測定装置の構成の変形例を示すブロック図である。
【
図6】第1実施形態に係る強度変調された光を出力する光源を含む光学測定装置の構成のその他の変形例を示すブロック図である。
【
図7】第1実施形態に係る光学測定装置において試料への光の照射に関する構成の変形例を示すブロック図である。
【
図8】第1実施形態に係る光学測定装置に適用可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】第1実施形態に係る複素平面におけるプローブ光と参照光の関係の一例を示すイメージ図である。
【
図10】第1実施形態に係る光検出素子及び電気回路素子の位相遅れに関係する特性を示すイメージ図である。
【
図11】第1実施形態に係る信号雑音比を向上可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】第1実施形態に係る複素平面における光検出信号と、プローブ光及び参照光の同期信号の関係の一例を示すイメージ図である。
【
図13】第2実施形態に係る光学測定装置に適用可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図14】第3実施形態に係る光学測定装置に適用可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図15】第4実施形態に係る光学測定装置に適用可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図16】第5実施形態の第1例に係る光学測定装置に適用可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図17】第5実施形態の第2例に係る光学測定装置に適用可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図18】第5実施形態の第3例に係る光学測定装置に適用可能な検出部の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、作用および機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。
【0027】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態の説明に先立ち、光学測定装置の前提技術を説明する。
図1に、試料測定の応答による測定すべきプローブ光の強度変化(強度変調)が10
-3から10
-5程度と微小である典型的な測定条件による光学測定装置1の構成の一例を示す。この光学測定装置1は、ロックイン検出法を用いてプローブ光の強度を測定するように構成されている。
【0028】
詳細には、光学測定装置1は、プローブ光Prを射出する第1光源2と、試料SPに印加する刺激源であるポンプ光Ppを射出する第2光源3と、受光部としての光検出器4と、検出部5と、参照信号源8Aと、強度変調器8Bとを備えている。プローブ光Prは、試料SPを介して光検出器4に入射される。ポンプ光Ppは、ミラー6で反射されてビームスプリッタ7でプローブ光Prの光軸上を通り、試料SPに照射され、試料SPを刺激する。光検出器4は検出部5に接続されており、検出部5はロックインアンプで構成される。検出部5には、参照信号源8Aから参照信号が入力されるようになっている。また、強度変調器8Bは、ポンプ光Ppの強度を変調するために、第2光源3の射出側に設けられている。強度変調器8Bには、参照信号源8Aから参照信号が入力され、ポンプ光Ppに参照信号の強度変調を与えるようになっている。
【0029】
なお、第1実施形態では、誘導ラマン散乱法を用いて、プローブ光の強度が変化することを検出して分子振動スペクトルの取得などを可能とする光学測定装置について説明するが、対象とする試料SPからの光は、透過光でもよく反射光でもよい。この場合、試料SPからの光量に対応して透過光又は反射光を用いればよい。以下の説明では、試料SPからの透過光を用いて測定する場合を一例として説明する。
【0030】
また、プローブ光Prの強度変化には次のものがある。第1は、検出すべき対象である試料の応答に対応する強度変化、つまり、試料測定の応答によるプローブ光の強度変化である。第2は、第1光源2が位相を定義するために強度変調されている場合におけるプローブ光の強度変化である。例えばパルス光ではパルス繰り返し周期の位相のキャリアである。第3は、制御不能な第1光源2の強度ノイズによるプローブ光の強度変化である。第1実施形態は、第3で述べた制御不能な第1光源2の強度ノイズによるプローブ光の強度変化を削減する。そこで、以下の説明では、強度変化とは、第3で述べた制御不能な第1光源2の強度ノイズによるプローブ光の強度変化を指すものとする。また、これらの相違を区別して説明する場合は各々の強度変化を区別して表記する。
【0031】
図1に示すロックイン検出法を用いて構成された光学測定装置1は、高速のイメージングを可能とする。例えば、プローブ光の強度変調が10
-3から10
-5程度と微小な測定条件で、プローブ光Prの強度変調を直接観測しようとすると、光源の強度ノイズに埋もれ、長い積算時間を要し、高速測定が求められるイメージングには適用することが困難である。そこで、
図1に示すようにロックイン検出法を用いた光学測定装置1を構成することで、ポンプ光Ppの強度を変調し、プローブ光Prの強度をその変調周波数周囲でのみ計測することが可能になる。つまり、測定すべき信号の周波数はポンプ光Ppの強度変調周波数であり、光の強度ノイズはそれ以外の無関係な成分を含むので、ポンプ光Ppの強度変調周波数付近のみを観測することで、信号雑音比が向上可能になる。
【0032】
図1に示す光学測定装置1では、ポンプ光Ppまたはプローブ光Prの波長が一定であるので、一分子振動しか観測することができず、分子振動スペクトルの取得が困難である。そこで、プローブ光Prに白色パルス光を用い、試料SPからの光を分光して、分光された各々の分光成分を検出することで分子振動スペクトルの取得が可能になる。
図2に、プローブ光Prに白色パルス光を用いた光学測定装置1Aを一例として示す。
図2に示すように、光学測定装置1Aは、分子振動スペクトルをn個の波長成分に分光する分光器4Sを備え、分子振動スペクトルを各々検出する光検出器4-1、~4-n(nは自然数)を設ける。また、光検出器4-1、~4-n各々に対応して、検出部5-1、~5-nを設ける。
【0033】
ところが、白色パルス光は一般的に強度雑音があらゆる周波数で大きく、ロックイン検出法を用いても長い積算時間を要する。このような光の強度雑音の影響を抑制する方法の一例として、バランス検出法が知られている。
図3に、バランス検出法を用いて構成した光学測定装置1Bを一例として示す。
図3に示すように、光学測定装置1Bは、プローブ光Prを、試料SPに照射する光と、参照光Rfとして用いる光に分割するビームスプリッタ9Aを備えている。また、光学測定装置1Bは、試料SPを通過した光を検出する光検出器4Aと、参照光Rfを検出する光検出器4Bとを備えている。ビームスプリッタ9Aで分割された参照光Rfは、ミラー9Bによって、光検出器4Bへ案内される。また、光学測定装置1Bは、光検出器4Aと光検出器4Bとの出力信号の差を演算する減算器4Cを備えている。
【0034】
光学測定装置1Bでは、プローブ光Prを分割して一方の光を試料SPの測定に用い、他方の光を参照光Rfとして用いる。試料SP測定後のプローブ光Prの検出信号は、試料SPによる強度変調成分と、強度雑音成分とが合成された信号である。一方、参照光Rfの検出信号は試料SPの影響を受けないので、強度雑音成分のみである。従って、プローブ光Prの検出信号から参照光Rfの検出信号を減算することで、試料SPによる強度変調成分は減じられることなく、強度雑音成分のみをキャンセルすることができる。
【0035】
図3に示す光学測定装置1Bは、最適に機能するためには次の2つの条件の適合が要求される。第1条件は、プローブ光Prと参照光Rfの強度揺らぎが等しい(時間的に相関する)、という条件である。第2条件は、プローブ光Prと参照光Rfの強度比が1である、という条件である。このような条件に適合させつつ、白色パルス光の強度雑音をキャンセル可能なように、光学測定装置1Bを構築するには、次の3つの理由から困難であった。
【0036】
第1理由は、白色光の強度揺らぎは波長毎に異なるためである。第1理由によって、分光してプローブ光Prと参照光Rfを観測する際に第1条件を満たすためには、プローブ光Prと参照光Rfの検出中心波長と検出波長幅を同一にすることが要求される。また、第1条件を満たすためには、プローブ光Prと参照光Rfで用意する2つの分光器の特性を同一にすることが要求され、構成が煩雑でかつ技術的に困難であった。このため、強度雑音を最大限キャンセルするためには改善の余地がある。
第2理由は、プローブ光Prと参照光Rfが通過する光学素子の特性が波長依存性を有する場合に、波長毎にプローブPrと参照光Rfの強度比が異なるためである。第2理由によって、例えば、ビームスプリッタ9Aによるプローブ光Prと参照光Rfとの分割比が波長毎に異なる場合には、第2条件を全ての波長で満たすことが困難である。その結果、特定波長で強度雑音を最大限キャンセル可能であっても、他の波長では強度雑音のキャンセルが不十分の場合がある。これは分光計測への適用を制限する要因となる。
第3理由は、プローブ光Prと参照光Rfの強度比が試料SPの影響を受けるためである。第3理由によって、ある瞬間に第2条件が解決されても、試料SPの測定時の状態が変化すると、参照光Rfに対する試料SPを通過したプローブ光Prの透過率が変化し、強度比が変動することになる。従って、試料SPの経時変化を分析する際、及び試料SPの測定位置が時々刻々変化するイメージングでは、特定の時刻や測定位置においてのみ強度雑音が最大限除去されるものの、他の時刻や他の測定位置では強度雑音の除去が不十分になる。
【0037】
これら3つの理由による課題を解消しつつ、光の強度雑音の影響を抑制するために、プローブ光Prと参照光Rfとの何れかを光学的に遅延させる光学測定装置を説明する。
図4に、プローブ光Prに対して参照光Rfを光学的に遅延させる光学測定装置1Cを一例として示す。
【0038】
図4に示すように、光学測定装置1Cは、プローブ光Prを、試料SPの測定に用いる光と、参照光Rfとして用いる光に分割するビームスプリッタ9Aを備えている。また、光学測定装置1Cには、ビームスプリッタ9Aで分割された参照光Rfを、プローブ光Prに重畳させるために、ビームスプリッタ9Aにおける参照光Rfへの分割側に、ミラー9B,9Cが順に設けられている。また、ミラー9Cの反射側で、かつプローブ光Prの光軸上には、ビームスプリッタ9Dが設けられている。ミラー9B,9Cを、プローブ光Prの光軸に対して接近又は離間することで、プローブ光Prに対する参照光Rfの光路長の変更による光学的遅延によって、プローブ光Prに対して参照光Rfが光検出器4に入射する時刻を遅延させることができる。
【0039】
第1実施形態では、プローブ光Prに対して参照光Rfをπ/2遅延させる場合を一例として説明する。なお、プローブ光Prに対する参照光Rfの遅延は、π/2に限定されるものではない。例えば、同期信号の周期の整数倍(π/2+mπ)でもよく、周期の一部(π/m)でもよい。つまり、プローブ光Prに対して参照光Rfは位相が相違していればよく、好ましくはプローブ光Prと参照光Rfとを判別可能に遅延させればよい。よって、さらに好ましくはプローブ光Prに対して参照光Rfをπ/2遅延させることである。
【0040】
光学測定装置1Cは、検出部として、検出部5Aと、ロックインアンプ5Bとを含んでいる。光検出器4は検出部5Aに接続されており、検出部5Aはロックインアンプ5Bに接続される。ここで、プローブ光Prは強度変調されるようになっており、プローブ光源Prの周期的な強度変調に同期する同期信号を取得可能になっている。
図4に示すように、第1実施形態に係る光学測定装置1Cでは、同期信号源5Cからの同期信号に応じて第1光源2から出力される光、つまりプローブ光Prが強度変調される場合を説明する。プローブ光Prは、同期信号源5Cからの同期信号により第1光源2で強度変調され、その同期信号が検出部5Aに入力される。従って、検出部5Aには、同期信号源5Cから同期信号が入力されるようになっている。また、ロックインアンプ5Bには、ポンプ光Ppの強度を変調するための参照信号源8Aからの参照信号が入力されるようになっている。
【0041】
第1実施形態では、同期信号が与えられて第1光源2から出力される強度変調されたプローブ光Prを用いる場合を説明するが、プローブ光Prは第1光源2に同期信号を与えて強度変調することに限定するものではない。例えば、受動モードロックパルスレーザ等の強度変調された光を出力する光源を用いてもよい。この場合、例えば、
図5に示すように、受動モードロックパルスレーザ等の第1光源2から出力される強度変調されたプローブ光Prの同期信号を検出する同期信号検出器5Dを備えて、同期信号検出器5Dで検出された同期信号を検出部5Aに入力するように構成すればよい。また、同期信号の検出は、
図6に示すように、同期信号検出器5Eを検出部5Aに設けて、光検出器4からの信号から検出するようにしてもよい。
【0042】
また、第1実施形態では、プローブ光Pr及び参照光Rfを試料SPに照射する光学測定装置について説明するが、プローブ光Pr及び参照光Rfを試料SPに照射することに限定されるものではない。例えば、
図7に示すように、試料SPにはプローブ光Prのみを照射し、参照光Rfは試料SPの下流側で重ね合わせてもよい。試料SPに照射する光として選択する、プローブ光Pr、又はプローブ光Pr及び参照光Rfは、試料SPから得られるプローブ光Pr及び参照光Rfである測定光の強度比、つまり透過率変化の度合いの大きさにより設定することができる。具体的には測定光の強度比(透過率変化の度合い)の大きさが予め実験等で定めた閾値を超えた場合にプローブ光Pr及び参照光Rfを試料SPに照射するようにすればよく、予め定めた閾値以下の場合にプローブ光Prのみを試料SPに照射するようにすればよい。
【0043】
図8に、
図4に示す検出部5Aの構成の一例を示す。
図8に示すように、検出部5Aは、アンプ11、乗算器12、同期信号部13、ローパスフィルタ14、積分器15、位相制御器16、ローパスフィルタ17、及び出力部18を備えている。光学測定装置1Cの検出部5Aでは、光検出器4の検出信号が、アンプ11で増幅されて、乗算器12の一方の入力側へ出力される。乗算器12の他方の入力側には、同期信号部13から出力される同期信号が位相制御器16を介して入力される。同期信号部13は、同期信号源5Cからの同期信号を抽出して出力する。位相制御器16の制御側は、乗算器12の出力側に、乗算器12の出力側から順に、ローパスフィルタ14及び積分器15を介して接続されている。また、出力部18は、ローパスフィルタ17からの信号をロックインアンプ5Bへ出力する。
【0044】
図4及び
図8に示す光学測定装置1Cは、次の機能を有している。
第1機能は、光学的遅延(光路長の変更)を用いてプローブ光Prに対して参照光Rfが光検出器4に入射する時刻を遅延させる機能である。
第2機能は、プローブ光Prと参照光Rfとを同一の光検出器4で検出する機能である。プローブ光Prと参照光Rfとの光検出器4へ入射する時刻が異なるので、出力は検出する位相により、プローブ光に由来するものと参照光Rfに由来するものが弁別される。この同一の光検出器4を用いることにより、プローブ光Prと参照光Rfとに対して同一の分光器を用いることができ、検出中心波長と検出波長幅を共通に維持することができる。これにより、上記第1理由による課題を解消することができる。
第3機能は、検出する位相を調整することによりプローブ光Prと参照光Rfに由来する検出信号の重みを調整しつつ差を取る機能である。これにより、光学的にはプローブ光Prと参照光Rfの強度が異なっても検出時に補償することができる。これにより、上記第2理由による課題を解消することができる。
第4機能は、光強度の変動、つまり差が0になるよう、重みを適切な応答速度でフィードバック制御する機能である。これにより、試料SPの状態が測定中に変化し、プローブ光Prと参照光Rfの強度比が変化しても自動的に重みが最適化され、上記第3理由による課題を解消することができる。
【0045】
詳細には、
図8において、第1光源2から所定周期(例えば76.3MHzの繰り返し周波数)で射出されたパルス光が分割され、一方の光がプローブ光Pr、他方の光が参照光Rfとされ、各々試料SPを介して光検出器4へ至る。参照光Rfは光路長を長くすることで光学的な遅延を与えられ、例えば、パルス繰り返し周期の1/4だけ時間的に遅延されて、再びプローブ光Prと空間的に重ねられる。一方、ポンプ光Ppはプローブ光Prおよび参照光Rfと空間的に重ねられる。しかし、時間的にはプローブ光Prのみに重ねられる。これらの3つの光が試料SPへ入射すると、ポンプ光Ppによる刺激がプローブ光Prのみで検出され、強度変調m(t)が与えられる。強度変調mは、与えられたポンプ光Ppの強度変調と、試料SPの経時変化による時間の関数である。従って、プローブ光Prの基本波成分はa×A(t)×(1+m(t))×cos(ωt)と表すことができる。また、参照光Rfはb×A(t)×sin(ωt)と表すことができる。但し、aとbはビームスプリッタなどの光学素子で光学的に定められる、強度比に比例する定数である。A(t)は時々刻々揺らぐ、強度雑音を含む瞬時振幅である。ωはパルス繰り返し角周波数である。従って、プローブ光Pr及び参照光Rfが同一の光検出器4で検出された検出信号は、次の(1)式で表すことができる。
【0046】
【0047】
光検出器4による検出信号は乗算器12へ入力される。一方、パルス光源との同期信号を用意する。この位相は位相制御器16により調整される。ここで、同期信号を次の(2)式で表すものとする。
【数2】
【0048】
乗算器12で同期信号と検出信号を乗算し、ローパスフィルタ17で高周波成分を除去した結果は、次の(3)式で表す関係に比例する。その比例した信号が出力部18から出力される。
【数3】
【0049】
ここで、次に示す(4)式を満たすように位相φを調整する。
【数4】
【0050】
このように調整すると、出力である(3)式における第一項の加算的な雑音成分A(t)×{a×cos(φ)-b×sin(φ)}が打ち消され、検出すべき信号a×A(t)×m(t)×cos(φ)のみが出力される。このようにして信号雑音比が向上される。ここで、aとbが光学的な要因で等しくなくても、(4)式を満たすように位相φを調整することで補償することができる。また、(4)式が満たされない場合、A(t)×{a×cos(φ)-b×sin(φ)}に含まれる直流成分が出力に現れるので、これを誤差信号として0になるよう、φをフィードバック制御することも可能である。これにより、動的に係数aとbが変動しても自動的に(4)式の条件が満たされる。このとき、ローパスフィルタ14の遮断周波数を十分に小さくすることでフィードバック制御の応答周波数をポンプ光Ppの強度変調周波数よりも小さくすると、A(t)×m(t)×cos(φ)は打ち消されることなく検出することができる。
【0051】
図9に、複素平面におけるプローブ光Prと参照光Rfの関係の一例を示す。
図9では、プローブ光Prの検出信号の成分を、矢印X方向を軸とする成分で示し、参照光Rfの検出信号の成分を、矢印Y方向を軸とする成分で示している。
図9(A)は試料SPによる信号が無の場合の一例を示し、
図9(B)は試料SPによる信号が有の場合の一例を示している。
【0052】
従って、(3)式で表される検出信号は、プローブ光Prの信号と参照光Rfの信号とが合成された方向(
図9の例ではX方向とY方向とを合成した方向)になる。一方、同期信号は紙面、検出信号と直交する方向(
図9の例ではX方向と、Y方向の逆方向とを合成した方向、θ+φ=π/2)になる。検出信号と同期信号を乗算して低周波成分を抜き出すのは、検出信号と同期信号の内積を取ることであり、検出信号を同期信号に射影することに相当する。この低周波成分の周波数は、予め定めた周波数以下の周波数に対応する。
【0053】
ここで、試料SPによる信号が無い場合を考える(
図9(A)参照)。このとき、光源の強度雑音により、プローブ光Prと参照光Rfとの検出信号の大きさは変化するが、これらの信号の強度比は一定であるので、重ねられた検出信号の偏角θは一定である。従って、同期信号に射影された成分は0のままである。これは、強度雑音は検出されないことを意味する。
【0054】
一方、試料SPによる信号が現れた場合(
図9(B)参照)、プローブ光Prの強度のみがm(t)で強度変調される一方、参照光Rfの強度は変調されない。従って、重ねられた検出信号の偏角がδθだけ変化する。この変化の分だけ同期信号へ射影された成分が現れる。つまり、光源の強度雑音は射影成分として出力されない一方、試料SPによる強度変調は出力されるので、信号雑音比が向上される。
【0055】
ここで、同期信号の位相のフィードバック周波数をポンプ光Ppの強度変調周波数よりも十分大きくすると、重ねられた光検出信号と同期信号は常に直交する状態になる。この場合、ローパスフィルタ17後に現れていたA(t)×m(t)×cos(φ)をも打ち消され、出力されなくなる。しかし、重ねられた光検出信号の位相は試料SPによる強度変調により変調されていて、これと直交するように位相φをフィードバック制御しているので、この制御信号に位相変調の情報が含まれる。一方、強度雑音は位相を変調しない。つまり、フィードバック制御信号を観測することで、信号雑音比が向上されて試料SPによる強度変調を検出することが可能である。しかもこの場合、A(t)×m(t)×cos(φ)に含まれる、乗算的に寄与するA(t)をもキャンセルすることが可能である。
【0056】
しかしながら、
図4及び
図8に示す光学測定装置1Cでは、入射するパルス光と検出される信号との時刻の関係が一定であることを前提としている。つまり、光強度がパルス毎に変動しても検出される信号の位相偏移が引き起こされないことを前提としている。ところが、実際のフォトダイオードなどの光検出素子の時間応答には、光強度依存性がある。また、アンプ及び電気回路素子間をつなぐ信号線へのカップリングコンデンサ、その他電気回路素子は、歪特性を有しており、その歪特性により、信号強度によって位相が変動する可能性がある。
【0057】
図10に、光検出素子及び電気回路素子の位相遅れに関係する特性を示す。
図10(A)は、光強度と位相の関係の一例を示している。また、
図10(B)は、電子回路の信号と位相の関係の一例を示している。
図10(A)に示す例では、強度が安定した繰り返し周波数が76.3MHzのパルス光をフォトダイオードで検出した場合の光強度と位相の関係を示している。検出された光強度が大きくなるに従って位相が遅れている。つまり、強度が揺らぐと位相が揺らぎ、強度雑音が位相雑音に変換されることになる。
【0058】
以上のことについて、説明を簡単にするために、試料SPによる信号が検出されていない場合、つまりm=0の場合を説明する。また、位相遅れは瞬時振幅に比例するものと近似する。そこで、比例定数をkとし、強度雑音に由来する位相雑音を-k×A(t)とすると上記(1)式は、次の(5)式で表すことができる。
【数5】
【0059】
この(5)式による信号と(2)式による同期信号を乗算した低周波部分の信号を示す(3)式は、次の(6)式で表すことができる。
【数6】
【0060】
ここで、同期信号の位相φを(4)式で示すように選択すると、出力は次の(7)式で表すことができる。
【数7】
【0061】
なお、(7)式の右辺はk<<1の場合である。つまり、強度雑音が比例定数kで位相雑音に変換されるとき、(7)式で表される雑音が出力に加算される。これを複素平面(
図9参照)で説明すると、プローブ光Prと参照光Rfの検出信号が強度に比例して反時計まわりにk×A(t)だけ回転するので、プローブ光Prと参照光Rfが重ねられた検出信号もA(t)に比例して長くなりつつ、反時計周りにk×A(t)だけ回転する。この回転により、振幅ノイズ成分A(t)が同期信号ベクトルに射影されて出力される。しかし、出力は回転と瞬時振幅の両方に比例するので、(7)式で示すように、出力される雑音はA(t)の二乗に比例する。A(t)は光源の強度雑音で、確率的に変動するので、過去の出力に基づくフィードバックにより位相を制御しても打ち消すことは困難である。
【0062】
以上は位相偏移が強度に対して線形に比例する場合を説明した。しかし、非線形に比例する場合も考えられる。例えば、
図10(B)は乗算器12に、位相が一定で、かつ振幅が異なる電気信号の入力を与えたときの位相偏移を示している。
図10(B)は、横軸を入力信号の振幅、縦軸を位相偏移として表している。
図10(B)に示すように、振幅が0.2Vまではほぼ線形に位相偏移しているものの、0.2V以上からは非線形性が顕著であることが理解できる。
【0063】
・補償同期信号の生成
以上の事実を考慮して、本発明者は、光検出信号の位相が光検出信号強度に応じて変調される点に着目し、同期信号に光検出信号を加算して補償同期信号を得ることで、強度雑音を、より抑制可能にする光学測定装置に到達した。
【0064】
図11に、光学測定装置に適用可能な検出部の一例として、補償同期信号によって強度雑音をより抑制して、信号雑音比をさらに向上できる検出部20の構成を示す。
図11に示す検出部20は、
図4に示す光学測定装置1Cにおける検出部5A(
図8も参照)において、同期信号に重みcを付加して光検出信号に加算する一例である。
【0065】
詳細には、位相制御器16の出力側と、乗算器12の他方の入力側との間に、加算器201を設け、加算器201の一方の入力側に、同期信号部13から出力された後に位相制御器16で調整された同期信号が入力されるように構成される。また、アンプ11の出力側と、乗算器12の一方の入力側との間に、入力信号に重みcを付加した出力信号を出力する重み付加器200の入力側が接続される。重み付加器200の出力側は、加算器201の他方の入力側に接続される。加算器201の出力側は、乗算器12の他方の入力側に接続される。
【0066】
このように構成することで、位相制御器16で調整された同期信号に代えて、重みcが付加された光検出信号を加算して生成された補償同期信号を用いることによって、光検出信号の位相ノイズが強度ノイズにより引き起こされた場合であっても、その位相ノイズと相関させて同期信号の位相が変調されるので、位相ノイズをキャンセルすることができる。
【0067】
図12に、
図11に示す検出部20において、複素平面における光検出信号と、プローブ光Pr及び参照光Rfの同期信号の関係の一例を示す。
図12では、光検出信号はプローブ光由来と参照光由来の信号が重ねられたもののみ示す。この信号は瞬時振幅A(t)に応じてk×A(t)だけ遅れる方向に位相偏移するとする。これとほぼ直交しているのが同期信号ベクトルである。前述のとおり、出力される信号は光検出信号を同期信号ベクトルに射影したものになる。以下の説明では、同期信号ベクトルに適当な重みcで光検出信号を加算して、これを補償同期信号ベクトルと称する。重みcを適切に選択することで、補償同期信号を位相変調された光検出信号と常に直交させることができる。従って、光検出信号の位相ノイズが強度ノイズにより引き起こされても、その位相ノイズと相関させて同期信号の位相を変調することで、位相ノイズをもキャンセルできる。
【0068】
つまり、重ねられた光検出信号は初期位相を適切に選択することで次の(8)式で表すことができる。
【数8】
但し、m'(t)は試料により引き起こされた位相変調で、観測すべき信号である。
【0069】
この位相変調は、試料測定による強度変調を含んだプローブ光の瞬時振幅と参照光の瞬時振幅の比で定まる。同期信号は前述の(2)式で表すことができるが、重ねられた光検出信号の初期位相を零としたので、Dcos(ωt)となる。従って、補償同期信号は同期信号に重みcで(8)式の光検出信号を加算することにより次の(9)式で表すことができる。
【数9】
【0070】
この場合、出力される信号は、次の(10)式で表すことができる。(10)式は、(8)式と(9)式との積をとり、低周波成分を抜き出したものである(つまり、内積に相当)。
【数10】
但し、|m’(t)|,|kA(t)|<<1とする。第一項は検出すべき信号で、第二項が強度雑音(振幅雑音)により引き起こされた位相雑音による雑音である。
【0071】
ここでc=k×Dと選択することで、この位相雑音がキャンセルできることが分かる。一方で、光検出信号を加算することでは、試料SPの測定に由来する信号(第一項)のゲインを減らすことはない。このようにして信号雑音比がさらに向上できる。
【0072】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。第1実施形態は、位相偏移は強度に対して線形である場合を説明したが、開示の技術は、位相偏移が強度に対して線形である場合に限定されるものではない。第2実施形態は、位相偏移が強度に対して非線形性がある場合に、開示の技術を適用したものである。なお、第2実施形態は第1実施形態と同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0073】
図13に、第2実施形態に係る光学測定装置に適用可能な検出部21の構成の一例を示す。
図13に示す検出部21は、
図11に示す検出部20において、重み付加器200に対して強度変調する制御を行って補償同期信号を生成する一例である。
【0074】
詳細には、アンプ11の出力側と、乗算器12の一方の入力側との間は、検波器210及び強度変調器211を介して、ローパスフィルタ17の出力側と、出力部18の入力側との間に接続される。なお、検波器210は、
図13ではDETと表記している。検波器210は、アンプ11の出力信号を入力としてアンプ11の瞬時振幅信号、つまり光検出器4の光検出信号の瞬時振幅A(t)を出力する。検波器210の一例には包絡線検波器及び同期検波器などを用いることができる。強度変調器211は、少なくともアンプ11から出力された光検出信号の瞬時振幅A(t)を用いて、非線形な位相偏移に相関関係を有する強度変調信号を、重み付加器200の制御側に出力するように構成される。つまり、第2実施形態では、瞬時振幅A(t)を用いて重み付加器20における重みcを定める。
【0075】
なお、強度変調器211は、ローパスフィルタ17の出力信号を入力に追加して(
図13に点線で示す接続関係)、ローパスフィルタ17の出力信号も用いて重みcを定めることも可能であるが、第2実施形態では、ローパスフィルタ17の出力信号を用いることなく(つまり
図13に点線で示す接続関係なしで)、重みcを定める場合を説明する。ローパスフィルタ17の出力信号も用いて重みcを定めることに関する詳細は後述する。
【0076】
このように構成することで、非線形に位相偏移が引き起こされる場合であっても、その非線形な位相偏移に相関関係を有する強度変調信号によって、重みcの大きさが制御されて、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルすることができる。
【0077】
詳細には第1実施形態では、kが定数で、位相偏移は強度に対して線形である場合を説明した。一方、例えば、
図10(B)に示すように、乗算器12の定数kが光検出信号の瞬時振幅A(t)に依存する非線形性がある場合、例えば、次の(11)式で位相偏移を関数fで、表現する。
【数11】
【0078】
このように非線形に位相偏移が引き起こされる場合、重み付加器200により生成される重みcを関数f(A(t))/A(t)による結果に基づいて強度変調させて加算器201で加算すれば、非線形に位相偏移が引き起こされる場合の補償同期信号を生成することができる。つまり、非線形に位相偏移が引き起こされるとき、光検出信号を示す(8)式は次の(12)式で表すことができる。
【数12】
【0079】
また、このとき、補償同期信号は、次の(13)式で表すことができる。
【数13】
ここでc(A(t))は以下のように定める。(12)式と(13)式との積をとり、低周波成分を抜き出すと、次の(14)式で表すことができる。
【数14】
【0080】
従って、次の(15)式で示すように、重みcを選択することで振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルできる。
【数15】
【0081】
通常、この関数fはべき乗関数で記述することができ、次の(16)式で表すことができる。
【数16】
【0082】
この場合、重みcは次の(17)式により求めることができる。
【数17】
【0083】
(17)式に示すように、重みcは、固定的な定数Dkiと、瞬時振幅A(t)とから求めることができる。つまり、検波器210は、瞬時振幅A(t)を求め、強度変調器211は、瞬時振幅A(t)と定数Dkiとから重みcを求める。従って、瞬時振幅A(t)のべき乗に定数Dkiを乗算することで定まる重みcによって光検出信号を制御した信号を用いることで、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルできる。
【0084】
このように、第2実施形態では、非線形に位相偏移が引き起こされる場合であっても、その非線形な位相偏移に相関関係を有する強度変調信号によって、重みcの大きさを制御するので、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルすることができる。
【0085】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態を説明する。第1実施形態及び第2実施形態は、同期信号に適切な重みで光検出信号を加算して補償同期信号を得る場合を説明した。第3実施形態は、同期信号の位相を直接変調して、補償同期信号を得る場合に、開示の技術を適用したものである。つまり、第3実施形態は、同期信号の位相を瞬時振幅に相関させて補償同期信号を得るものである。なお、第3実施形態は第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0086】
図14に、第3実施形態に係る光学測定装置に適用可能な検出部22の構成の一例を示す。
図14に示す検出部22は、
図8に示す検出部5Aにおいて、位相制御器16で同期信号の位相を制御する場合に、アンプ11の出力信号、つまり光検出器4の光検出信号の瞬時振幅A(t)を用いて、補償同期信号を生成する一例である。
【0087】
詳細には、積分器15の出力側と、位相制御器16の制御側との間に、加算結果を示す信号が位相制御器16の制御側に入力されるように加算器221が設けられる。また、アンプ11の出力側と、乗算器12の一方の入力側との間は、検波器210及び直接位相変調用制御器220を介して、加算器221に接続される。つまり、直接位相変調用制御器220は、アンプ11から出力された光検出信号の瞬時振幅A(t)を用いて、直接位相を変調するための信号を、位相制御器16の制御側に出力するように構成される。詳細には、加算器221の一方の入力側には、積分器15の出力信号が入力されるように構成され、加算器221の他方の入力側には、直接位相変調用制御器220の出力信号が入力されるように構成される。つまり、第3実施形態では、瞬時振幅A(t)を用いて同期信号の位相を瞬時振幅に相関させる。
【0088】
なお、直接位相変調用制御器220は、ローパスフィルタ17の出力信号を入力に追加して(
図14に点線で示す接続関係)、ローパスフィルタ17の出力信号も用いて同期信号の位相を瞬時振幅に相関させることも可能であるが、第3実施形態では、ローパスフィルタ17の出力信号を用いることなく(つまり
図14に点線で示す接続関係なしで)、相関させる場合を説明する。ローパスフィルタ17の出力信号も用いて同期信号の位相を瞬時振幅に相関させることに関する詳細は後述する。
【0089】
ここで、同期信号の位相を直接変調して、補償同期信号を得る場合、位相変調Ψ(A(t))による補償同期信号は次の(18)で表すことができる。
【数18】
【0090】
式(12)と(18)を乗算した結果は、次の(19)式で表すことができる。
【数19】
【0091】
この(19)式における低周波成分は、第2項であり、次の(20)式である。
【数20】
【0092】
ここで、(20)式の関数sinの第2項である-f(A(t))は、振幅雑音が引き起こした位相雑音を示す。従って、位相制御器16を、次の(21)式で示すように変調すれば位相雑音をキャンセルすることができる。
【数21】
【0093】
つまり、第2実施形態と同様に、位相変調Ψ(A(t))は、瞬時振幅A(t)を用いて固定的に求めることができる。従って、直接位相変調用制御器220は、検波器210で求まる瞬時振幅A(t)を用いて、同期信号の位相を直接変調するための信号を求め、同期信号の位相を瞬時振幅に相関させることで、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルできる。
【0094】
このように、第3実施形態では、同期信号の位相を直接変調することによって、補償同期信号を得ることができ、位相雑音をキャンセルすることができる。
【0095】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態を説明する。第1実施形態から第3実施形態は、同期信号に適切な重みで光検出信号を加算して補償同期信号を得る場合、及び同期信号の位相を直接変調して補償同期信号を得る場合を説明した。第4実施形態は、雑音を出力から直接減算する場合に、開示の技術を適用したものである。なお、第4実施形態は第1実施形態から第3実施形態と同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0096】
図15に、第4実施形態に係る光学測定装置に適用可能な検出部23の構成の一例を示す。
図15に示す検出部23は、
図8に示す検出部5Aにおいて、アンプ11の出力信号、つまり光検出器4の光検出信号の瞬時振幅A(t)を用いて、位相雑音に由来する雑音を出力信号から直接減算することで、雑音をキャンセルする一例である。
【0097】
詳細には、ローパスフィルタ17の出力側と、出力部18の入力側との間に、減算器231が設けられる。減算器231は、入力側がローパスフィルタ17の出力側に接続され、減算用の入力側が減算用制御器230の出力側に接続され、出力側が出力部18の入力側に接続される。また、アンプ11の出力側と、乗算器12の一方の入力側との間は、検波器210及び減算用制御器230を介して減算器231に接続される。具体的には、減算用制御器230は、アンプ11から出力された光検出信号の瞬時振幅A(t)を用いて、位相雑音を示す信号を、減算器231の減算用の入力側に出力するように構成される。つまり、第4実施形態では、瞬時振幅A(t)を用いて求まる位相雑音を示す信号を出力信号から直接減算する。
【0098】
ここで、減算用制御器230は、ローパスフィルタ17の出力信号を入力に追加して(
図15に点線で示す接続関係)、ローパスフィルタ17の出力信号も用いて位相雑音を示す信号を求めることも可能であるが、第4実施形態では、ローパスフィルタ17の出力信号を用いることなく(つまり
図15に点線で示す接続関係なしで)、位相雑音を示す信号を求める場合を説明する。ローパスフィルタ17の出力信号も用いて位相雑音を示す信号を求めることに関する詳細は後述する。
【0099】
なお、第4実施形態では、同期信号に対して位相変調を実施しない構成の一例として、次の(22)式により同期信号が与えられる場合を説明する。
【数22】
【0100】
(22)式により同期信号が与えられた場合、ローパスフィルタ17の出力は、(12)式と(22)式を乗算することにより導出でき、次の(23)式で表すことができる。
【数23】
【0101】
この(23)式における第2項は、低周波成分を示す信号に対応し、次の(24)式で近似的に表すことができる。
【数24】
【0102】
この(24)式では、右辺第2項が、振幅雑音が引き起こした位相雑音を示す信号に対応する。従って、次の(25)式で示される(24)式の右辺第2項で表される信号を、ローパスフィルタ17の出力から減算することによって、位相雑音に由来する雑音をキャンセルすることができる。つまり、減算用制御器230は、アンプ11から出力された光検出信号の瞬時振幅A(t)を用いて、位相雑音を示す信号を導出し、減算器231の減算用の入力側に出力する。
【数25】
【0103】
つまり、第2実施形態と同様に、(25)式による信号は、瞬時振幅A(t)を用いて固定的に求めることができる。従って、減算用制御器230は、検波器210で求まる瞬時振幅A(t)を用いて、瞬時振幅A(t)を用いて求まる位相雑音を示す信号を求め、位相雑音を示す信号を出力信号から直接減算することで、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルできる。
【0104】
このように、第4実施形態では、振幅雑音が引き起こす位相雑音を示す信号を出力信号から直接減算することによって、雑音をキャンセルすることができる。
【0105】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態を説明する。
第1実施形態から第4実施形態は、素子の個体差及び環境変動による特性変動が一定であることを想定している。しかし、例えば、実際の光検出器4等の素子及び乗算器12等の電子回路素子は、雑音を招く特性として、個体差を有する場合、温湿度等の環境変動に依存する場合、及び検出波長に依存する場合がある。第5実施形態は、素子の個体差及び環境変動による特性変動が生じる場合に、開示の技術を適用したものである。
なお、第5実施形態は第1実施形態から第4実施形態と同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
また、第5実施形態では、説明を簡単にするために、位相偏移が振幅に対して線形に比例する場合におけるフィードバック制御の一例を説明する。
【0106】
まず、第5実施形態の第1例を説明する。
第5実施形態の第1例は、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルするために、瞬時振幅A(t)を用いて重み付加器20における重みcを定める場合に(
図13参照)、ローパスフィルタ17の出力信号も用いてフィードバック制御する一例である。
【0107】
光学測定装置の検出部において、素子の個体差及び環境変動によって出力信号に含まれる雑音が変動する場合、その雑音を安定してキャンセルするためには、重みcをフィードバック制御等で自動的に最適化することが考えられる。しかし、フィードバック制御するためには最適でないときに現れる誤差信号が要求される。前述の出力信号を示す(10)式の第2項に着目すると、重みcが最適でないとき(c≠kD)のとき、瞬時振幅の二乗A2(t)の大きさに比例した直流成分が現れる。しかし、出力信号の直流成分は(3)式の右辺第1項における同期信号の位相のフィードバック制御の誤差信号として用いるので、重みcのフィードバック制御に用いることが困難である。
【0108】
そこで、瞬時振幅の二乗A2(t)で表される信号の高周波成分に着目する。瞬時振幅A(t)は無作為な雑音で、その二乗A2(t)の交流成分も無作為な雑音である。ところが、周波数成分は、瞬時振幅A(t)に比べて瞬時振幅の二乗A2(t)の方が高い周波数成分を含む。つまり、瞬時振幅A(t)に含まれている上限の周波数f1upに比べて、その二乗A2(t)に含まれる上限の周波数f2upは2倍になる(f2up=2f1up)。従って、光検出信号から瞬時振幅の二乗A2(t)を示す信号を生成し、周波数f1upから周波数f2upまでの成分を抽出して、抽出した成分の信号と出力信号とを乗算すると、A2(t)(c-kD)から(直流の)誤差信号を生成することができる。一方、検出すべき信号成分DA(t)m’(t)、及び(3)式の第1項の同期信号の位相に関する誤差信号である、A(t){acos(φ)-bsin(φ)}は、周波数f1up以下の成分のみを含み、無相関であるので、これらの信号から影響を受けることはない。従って、重みcの誤差信号のみを得ることができる。このように得られた誤差信号に基づいて、重みcをフィードバック制御することが可能になる。
【0109】
図16に、第5実施形態の第1例に係る光学測定装置に適用可能な検出部24の構成の一例を示す。
図16に示す検出部24は、重みcのフィードバック制御を行う一例である。
図16に示すように、検出部24は、
図13に示す強度変調器211の一例として、乗算器240、ハイパスフィルタ241、乗算器242、及び積分器243を備えている。
【0110】
詳細には、アンプ11の出力側と、乗算器12の一方の入力側との間は、検波器210の入力側に接続される。検波器210の出力側は、乗算器240の2つの入力側に共通に接続される。乗算器240の出力側は、ハイパスフィルタ241を介して乗算器242の一方の入力側に接続される。乗算器242の他方の入力側は、ローパスフィルタ17の出力側と、出力部18の入力側との間に接続される。また、乗算器242の出力側は、積分器243を介して、重み付加器200の制御側に接続される。
【0111】
次に、第5実施形態の第1例に係る検出部24の動作を説明する。
図16に示すように、まず、検波器210は、光検出信号を用いて瞬時振幅A(t)を示す信号を出力する。瞬時振幅A(t)を示す信号は、乗算器240の両方の入力側に入力されて、乗算器240は瞬時振幅A(t)を二乗した信号を出力する。次に、ハイパスフィルタ241は、遮断周波数f
1upであり、瞬時振幅A(t)の二乗A
2(t)を示す信号の交流成分のうち、遮断周波数f
1up以上の周波数成分を乗算器242の一方の入力側へ出力する。乗算器242の他方の入力側には、ローパスフィルタ17の出力信号が入力され、乗算器242は、これらの入力信号を乗算して、乗算結果である重みcの誤差信号を積分器243へ出力する。積分器243は、入力された重みcの誤差信号を積分して(積分制御)、積分結果を重み付加器200の制御側に出力するように構成する。このように構成することによって、重みcをフィードバック制御することができる。なお、このフィードバックの遮断周波数はポンプ光Ppの変調周波数よりも十分に小さく、かつ、瞬時振幅A(t)と瞬時振幅の二乗A
2(t)の高周波成分との相関が無視できる程度に小さくする。
【0112】
このように、第5実施形態の第1例に係る光学測定装置では、瞬時振幅の二乗A2(t)で表される信号の高周波成分を用いて、重みcの誤差信号のみを得て、得られた誤差信号に基づいて、重みcをフィードバック制御することができる。これによって、素子の個体差及び環境変動によって出力信号に含まれる雑音が変動する場合であっても、重みcを自動的に最適化することができる。
【0113】
なお、第5実施形態の第1例におけるフィードバック制御は、位相偏移が振幅に対して線形に比例する場合について説明したが、位相偏移が振幅に対して非線形に対応する場合に適用可能であることは勿論である。詳細には、m次に比例する成分の誤差信号は、出力と瞬時振幅A(t)の(m+1)次の周波数f1upの(m+1)倍の高周波成分との積を導出することで得ることができる。例えば、係数k2をキャンセルする重みc2に対する誤差信号は、瞬時振幅の三乗A3(t)を示す信号の周波数f1upの2倍より大きい周波数の高周波を生成して出力と積を導出することで得られる。
【0114】
つまり、(16)式において、係数k1と係数k2を同時に考慮して係数k1と係数k2の各々に対する誤差信号を生成する場合、係数k1の重みc1に対する誤差信号は、A2(t)のf1upから2f1upの信号と出力との積から導出できる。また、重みc2に対する誤差信号は、A3(t)の2f1upから3f1upの信号と出力との積から導出できる。これらを一般化すると、m次に比例する成分の(cm)誤差信号は、Am(t)の(m-1)f1upからm×f1upの信号と出力との積から導出できる。なお、この場合、瞬時振幅A(t)は(雑音を含むので)一つの周波数ではなく広帯域で、直流成分(DC)から周波数f1upを含むものである。
【0115】
次に、第5実施形態の第2例を説明する。
第5実施形態の第2例は、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルするために、瞬時振幅A(t)を用いて同期信号の位相を直接変調する場合に(
図14参照)、ローパスフィルタ17の出力信号も用いてフィードバック制御する一例である。
【0116】
振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルする方法は同期信号の位相を直接変調する場合にも適用できる。つまり、同期信号の位相を直接変調する場合には、上記の(21)式における関数f(x)をべき乗の和として近似し、フィードバックにより係数kiを推定すればよい。
【0117】
具体的には、上記(21)式の左辺を、次に示す(26)式として、上記第5実施形態の第1例と同様に、係数kiを推定すればよい。
【数26】
【0118】
図17に、第5実施形態の第2例に係る光学測定装置に適用可能な検出部25の構成の一例を示す。
図17に示す検出部25は、同期信号の位相を直接変調する場合にフィードバック制御を行う一例である。
図17に示すように、検出部25は、
図14に示す直接位相変調用制御器220の一例として、乗算器240、ハイパスフィルタ241、乗算器242、積分器243、及びアンプ244を備えている。
図17に示す直接位相変調用制御器220は、
図16に示す強度変調器211の構成に、アンプ244を追加したものである。アンプ244は、同期信号の位相を直接変調するための信号を出力する制御器として作動する。
【0119】
詳細には、乗算器242の出力側は、積分器243を介して、アンプ244の制御側に接続される。アンプ244の入力側は検波器210の出力側に接続され、アンプ244の出力側は加算器221に接続される。つまり、アンプ244は、光検出信号の瞬時振幅A(t)を示す信号を、瞬時振幅A(t)の二乗A2(t)を示す信号を用いて制御して、直接位相を変調するための信号を、加算器221の他方の加算側に出力するように構成される。つまり、第5実施形態の第2例では、瞬時振幅A(t)及び瞬時振幅A(t)の二乗A2(t)を示す信号を用いて同期信号の位相を直接変調する。
【0120】
次に、第5実施形態の第2例に係る検出部25の動作を説明する。
乗算器242は、入力されたハイパスフィルタ241による瞬時振幅A(t)の二乗A2(t)を示す信号の交流成分のうち、遮断周波数f1up以上の周波数成分の信号と、ローパスフィルタ17の出力信号とを乗算し、乗算結果を誤差信号として積分器243へ出力する。積分器243は、入力された誤差信号を積分して(積分制御)、積分結果をアンプ244の制御側に出力する。
【0121】
このように、第5実施形態の第2例に係る光学測定装置では、瞬時振幅の二乗A2(t)で表される信号の高周波成分を用いて、誤差信号を得て、得られた誤差信号に基づいて、同期信号の位相を直接変調する信号にフィードバック制御することができる。
【0122】
なお、第5実施形態の第2例におけるフィードバック制御は、位相偏移が振幅に対して線形に比例する場合について説明したが、第5実施形態の第1例におけるフィードバック制御と同様に位相偏移が振幅に対して非線形に対応する場合にも適用可能である。
【0123】
次に、第5実施形態の第3例を説明する。
第5実施形態の第3例は、振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルするために、瞬時振幅A(t)を用いて出力から位相雑音に由来する雑音を減算する場合に(
図15参照)、ローパスフィルタ17の出力信号も用いてフィードバック制御する一例である。
【0124】
振幅雑音による位相偏移(位相雑音)をキャンセルする方法は出力から位相雑音に由来する雑音を減算する場合にも適用できる。つまり、出力から位相雑音に由来する雑音を減算する場合には、上記の(25)式中の関数f(x)をべき乗の和として近似し、フィードバックによりkiを推定すればよい。
【0125】
具体的には、上記(25)式を、次に示す(27)式として、上記第5実施形態の第1例と同様に、係数kiを推定すればよい。
【数27】
【0126】
図18に、第5実施形態の第3例に係る光学測定装置に適用可能な検出部26の構成の一例を示す。
図18に示す検出部26は、出力から位相雑音に由来する雑音を減算する場合にフィードバック制御を行う一例である。
図18に示すように、検出部26は、
図17に示す直接位相変調用制御器220と同様の構成の減算用制御器230を備えている。
図18に示す減算用制御器230では、アンプ244は、出力から位相雑音に由来する雑音を減算するための信号を出力する制御器として作動する。
【0127】
詳細には、アンプ244の入力側は乗算器240の出力側に接続され、アンプ244の出力側は減算器231に接続される。つまり、アンプ244は、光検出信号の瞬時振幅A(t)の二乗A2(t)を示す信号を用いて制御して、出力から位相雑音に由来する雑音を減算するための信号を、減算器231の減算用の入力側に出力するように構成される。つまり、第5実施形態の第3例では、瞬時振幅A(t)及び瞬時振幅A(t)の二乗A2(t)を示す信号を用いて出力から位相雑音に由来する雑音を減算する。
【0128】
次に、第5実施形態の第3例に係る検出部25の動作を説明する。
乗算器242は、入力されたハイパスフィルタ241による瞬時振幅A(t)の二乗A2(t)を示す信号の交流成分のうち、遮断周波数f1up以上の周波数成分の信号と、ローパスフィルタ17の出力信号とを乗算し、乗算結果を誤差信号として積分器243へ出力する。積分器243は、入力された誤差信号を積分して(積分制御)、積分結果をアンプ244の制御側に出力する。
【0129】
このように、第5実施形態の第3例に係る光学測定装置では、瞬時振幅の二乗A2(t)で表される信号の高周波成分を用いて、誤差信号を得て、得られた誤差信号に基づいて、位相雑音に由来する雑音を減算する信号にフィードバック制御することができる。
【0130】
なお、第5実施形態の第3例におけるフィードバック制御は、位相偏移が振幅に対して線形に比例する場合について説明したが、第5実施形態の第1例におけるフィードバック制御と同様に、位相偏移が振幅に対して非線形に対応する場合にも適用可能である。
【0131】
なお、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0132】
1 光学測定装置
1A、1B、1C 光学測定装置
2、3 光源(光源)
4 光検出器(受光部)
4A、4B 光検出器
4C 減算器
4S 分光器
5 検出部
5A 検出部
5B ロックインアンプ
5C 同期信号源
5D 同期信号検出器
5E 同期信号検出器
6 ミラー
7 ビームスプリッタ
8A 参照信号源
8B 強度変調器
9A ビームスプリッタ
9B,9C ミラー
9D ビームスプリッタ
11 アンプ
12 乗算器
13 同期信号部
14 ローパスフィルタ
15 積分器
16 位相制御器
17 ローパスフィルタ
18 出力部
20 検出部
21、22、23、24 検出部
200 重み付加器
201 加算器
210 検波器
211 強度変調器
220 直接位相変調用制御器
221 加算器
230 減算用制御器
231 減算器(減算部)
240 乗算器
241 ハイパスフィルタ
242 乗算器
243 積分器
244 アンプ
Pp ポンプ光(刺激光)
Pr プローブ光(出力光)
Rf 参照光(参照光)
SP 試料