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特許7032740組成物および有機光電子素子ならびにその製造方法
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  • 特許-組成物および有機光電子素子ならびにその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】組成物および有機光電子素子ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220302BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220302BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/22 B
H05B33/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018567420
(86)(22)【出願日】2018-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2018003835
(87)【国際公開番号】W WO2018147230
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2017021388
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017161637
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 岳文
(72)【発明者】
【氏名】桑名 保宏
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132917(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/050057(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146957(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136425(WO,A1)
【文献】特開2007-141736(JP,A)
【文献】特開2006-237083(JP,A)
【文献】特開2014-032851(JP,A)
【文献】特開2000-001511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50 - 51/56
H05B 33/10
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを含む組成物であって、
前記含フッ素重合体が、下記の含フッ素重合体(1)、下記の含フッ素重合体(21)および下記の含フッ素重合体(22)からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記含フッ素重合体のガラス転移点が、60℃以上である、組成物。
含フッ素重合体(1):主鎖に脂肪族環を有さず、フルオロオレフィンに由来する単位を有する含フッ素重合体であり、かつ、前記フルオロオレフィンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ビニルフルオライド、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基を有するペルフルオロアルキルエチレン、およびトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる1種以上である、含フッ素重合体。
含フッ素重合体(21):主鎖に脂肪族環を有し、かつ、含フッ素環状モノエンに由来する単位を有する含フッ素重合体。
含フッ素重合体(22):主鎖に脂肪族環を有し、かつ、環化重合しうる含フッ素ジエンの環化重合により形成される単位を有する含フッ素重合体。
【請求項2】
前記含フッ素重合体の波長域450nm~800nmにおける屈折率が1.5以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記含フッ素重合体が、前記含フッ素重合体(21)および前記含フッ素重合体(22)からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記含フッ素重合体の質量平均分子量が1,500~50,000である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記含フッ素重合体の300℃における飽和蒸気圧が0.001Pa以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記含フッ素重合体の含有割合が、前記含フッ素重合体と前記有機半導体材料と前記ドーパントとの合計に対して、30~70体積%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ドーパントの含有割合が、前記有機半導体材料の全物質量100モル部に対して、10~200モル部である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
波長域450nm~800nmにおける吸収係数が5000cm-1以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
波長域450nm~800nmにおける屈折率が1.60以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物を含む層を有する有機光電子素子。
【請求項11】
前記有機光電子素子が有機ELデバイスである、請求項10に記載の有機光電子素子。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物を含む層の製造方法であって、
基板上に、含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを共蒸着させる、組成物を含む層の製造方法。
【請求項13】
請求項10または11に記載の有機光電子素子の製造方法であって、
基板上に、含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを共蒸着させる、有機光電子素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物および有機光電子素子ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機ELデバイス」)等の有機光電子素子においては、既に内部量子効率がほぼ100%に達しており、外部量子効率のさらなる改善について、光取り出し効率の向上が課題となっている。有機ELデバイスの光取り出し効率は通常20~30%程度にとどまり、改善の余地は大きい。光取り出し効率を向上させる技術として、たとえば基板表面に微細なマイクロレンズを付与する技術、基板表面を微細加工する技術、高屈折率基板を用いる技術、透明基板と透明電極の間に散乱物質を存在させる技術等が知られている(特許文献1および非特許文献1)。
【0003】
一方で有機ELデバイス等の有機半導体デバイスの電荷輸送層の導電性を向上させる手法として、電荷輸送層等の材料である有機半導体材料にドーパントと呼ばれる添加物を混合する方法が知られている。非特許文献2は、有機半導体材料とドーパントとを含む二元系の電荷輸送層が、ドーパントを含まず、有機半導体材料を含む一元系の電荷輸送層よりも、高い導電性を示し得ることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/043084号
【非特許文献】
【0005】
【文献】K. Saxena et al., Opt. Mater. 32(1), 221‐233,(2009)
【文献】K. Walzer et al., Chem. Rev. 107(4), 1233‐1271,(2007)
【文献】D. Yokoyama, J. Mater. Chem. 21, 19187‐19202(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1に記載の技術はいずれも高価な部材を必要としたり素子作製プロセスを複雑化させたりするものであり、製造コストを著しく増大させる。製造コストを増大させない手法として、有機ELデバイス中の発光分子の水平配向性を活かして光取り出し効率を数割向上させる技術(非特許文献3)が知られているが、その光取り出し効率については改善の余地がある。
非特許文献2に記載の技術にあっては、光取り出し効率の向上についてなんら検討がなされていない。
【0007】
そもそも有機ELデバイス等の光取り出し効率が低い本質的な原因は、発光層および電荷輸送層を構成する有機半導体材料の屈折率が高いことにある。発光側の屈折率が高いと、屈折率の異なる界面において全反射等による光の損失が生じるため、光取り出し効率が低くなる。有機ELデバイスに主に用いられている有機半導体材料は、一般のLEDに用いられる無機半導体よりも低い屈折率(1.7~1.8程度)を有するが、それでも光取り出し効率は上記の値に留まっている。このため、さらに屈折率の低い有機半導体材料を用いることが強く求められている。
しかし、有機半導体材料の選択のみで屈折率が十分に低い電荷輸送層を実現するのは困難であり、電荷輸送層の基本的性能を損なうことなく、電荷輸送層の屈折率を大きく下げる有効な技術は、これまで全く実現されていなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電荷輸送層の基本的性能が維持されながら屈折率が著しく低い電荷輸送層、およびこの電荷輸送層を用いた有機光電子素子、ならびにかかる電荷輸送層および有機光電子素子の、簡便な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを含む組成物。
[2] 前記含フッ素重合体の波長域450nm~800nmにおける屈折率が1.5以下である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記含フッ素重合体が主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 前記含フッ素重合体の質量平均分子量が1,500~50,000である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 前記含フッ素重合体の300℃における飽和蒸気圧が0.001Pa以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6] 前記含フッ素重合体の含有割合が、前記含フッ素重合体と前記有機半導体材料と前記ドーパントとの合計に対して、30~70体積%である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 前記ドーパントの含有割合が、前記有機半導体材料の全物質量100モル部に対して、10~200モル部である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 表面粗さがRMSで1.0nm以下である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の組成物。
[9] 波長域450nm~800nmにおける吸収係数が5000cm-1以下である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の組成物。
[10] 波長域450nm~800nmにおける屈折率が1.60以下である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[11] [1]~[10]のいずれか1項に記載の組成物を含む層を有する有機光電子素子。
[12] 前記有機光電子素子が有機ELデバイスである、[11]に記載の有機光電子素子。
[13] [1]~[10]のいずれか1項に記載の組成物を含む層の製造方法であって、含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを共蒸着させる、組成物の製造方法。
[14] [11]または[12]に記載の有機光電子素子の製造方法であって、含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを共蒸着させる、有機光電子素子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈折率が著しく低い組成物、およびこの組成物を用いた有機光電子素子、ならびにかかる組成物を含む層および有機光電子素子の、簡便な製造方法を提供することができる。
屈折率が著しく低い組成物を含む層を有機ELデバイスに用いた場合、光取出し効率が向上し、素子の輝度向上や駆動電圧低下に効果がある。また、屈折率の低減および制御により、有機膜同士の界面、有機膜/基板界面、有機膜/空気界面における屈折率差を小さくして光反射を抑える、あるいは上記の界面に新たに中間の屈折率を有する反射防止層を設けて光反射を抑えることが可能になる。よって本発明にかかる組成物を含む層の屈折率を制御する技術を受光素子に用いた場合は光吸収効率を、トランジスタに用いた場合は光透過性(透明性)を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例に使用した重合体Kの弾性率と温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の組成物は、含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを含む。
【0013】
本発明における含フッ素重合体のフッ素原子含有率は、20~77質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~70質量%が特に好ましい。フッ素原子含有率が前記範囲内であれば、電荷輸送層の屈折率が低下しやすい。
なお、フッ素原子含有率(質量%)は、下式で求められる。
(フッ素原子含有率)=[19×N/M]×100
:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位のフッ素原子数と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
また、フッ素原子含有率は、H-NMR、元素分析により測定される値である。また、含フッ素重合体の製造に使用する単量体、開始剤の仕込み量から算出することもできる。
【0014】
含フッ素重合体は、電荷輸送層等の層の形成速度、層の強度と表面粗さの観点から、含フッ素重合体の熱分解が起こる温度以下において、実用化するのに十分な飽和蒸気圧を有することが好ましい。一般的な含フッ素重合体であるPTFEの熱分解開始温度が約400℃、テフロン(登録商標)AFの熱分解開始温度が350℃である。本発明に係る含フッ素重合体の300℃における飽和蒸気圧は、0.001Pa以上が好ましく、0.002Pa以上が好ましい。この観点から含フッ素重合体は、結晶性が低い含フッ素重合体であることが好ましく、重合体の分子間相互作用が小さいと考えられるペルフルオロ化された含フッ素重合体がさらに好ましい。
なお、本発明において、「飽和蒸気圧(単位:Pa)」は、真空示差熱天秤(アドバンス理工社製:VPE-9000)により測定される値である。
【0015】
上記飽和蒸気圧と同様に、含フッ素重合体の蒸発のしやすさを表すパラメーターとして、蒸発速度を用いることもできる。300℃における飽和蒸気圧が0.001Pa以上である含フッ素重合体の蒸発のしやすさは、また、300℃、真空度0.001Paにおける蒸発速度が0.01g/m・秒以上に相当する。
【0016】
含フッ素重合体の質量平均分子量(以下、「Mw」で表す。)は1,500~50,000が好ましく、3,000~40,000がより好ましく、5,000~30,000がさらに好ましい。Mwが1,500以上の場合は、形成される蒸着膜に十分な強度が得られやすい。一方で、Mwが50,000以下の場合は、実用的な蒸着膜形成速度(成膜速度)を与える飽和蒸気圧を有するため、蒸着源を高温、具体的には、400℃超の温度まで加熱する必要がなくなる。蒸着原の温度が高すぎると蒸着過程において含フッ素重合体の主鎖が開裂し、含フッ素重合体が低分子量化してしまい、形成される蒸着膜の強度が不十分となり、さらに分解物に由来する欠陥が発生し、平滑な表面を得にくい。また、主鎖の開裂により生じ意図せず混入した分子あるいはイオンが膜の導電性に影響を与える可能性が想定され、その場合に蒸着膜の導電性を制御することが困難になる可能性がある。
よってMwが1,500~50,000の範囲であれば、含フッ素重合体の主鎖が開裂を起こすことなく、十分な強度と平滑な表面を有する蒸着膜が形成される。有機EL素子において電荷輸送層等の蒸着膜の表面粗さは重要な要素であり、平滑な表面であれば、界面における電荷の授受が円滑に行われ、かつ、リーク電流、デバイス欠陥、電力効率低下といった問題を避けることができる。
なお、本発明において、質量平均分子量(Mw)および後述の数平均分子量(以下、「Mn」で表す。)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0017】
また形成される蒸着膜における品質の安定性の観点から、含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は小さい方が好ましく、2以下が好ましい。なお多分散度の理論的な下限値は1である。多分散度の小さい含フッ素重合体を得る方法として、リビングラジカル重合等の制御重合を行う方法、サイズ排除クロマトグラフィを用いた分子量分画精製法、昇華精製による分子量分画精製法が挙げられる。これらの方法のうち、蒸着レートの安定性を考慮し、昇華精製を行うことが好ましい。
含フッ素重合体の上記「多分散度」とは、Mn(数平均分子量)に対するMwの割合、すなわち、Mw/Mnをいう。以下、多分散度を「Mw/Mn」で表す。本明細書中、MwおよびMnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。Mw/Mnは、得られたMw、Mnから計算された値である。
さらに、含フッ素重合体のガラス転移点(Tg)は高い方が、得られる素子の信頼性が高くなることから好ましい。具体的にはガラス転移点が、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、350℃が好ましく、300℃がより好ましい。
【0018】
蒸着により含フッ素重合体を成膜する場合、分子量が小さい重合体から飛び始める性質から、蒸着の初期と終期で異なる分子量の重合体が成膜されることになる。蒸着では一般的に蒸着源の直上に設置されたシャッター等の開閉により、形成される蒸着膜の厚みを制御するが、この際、同時に分子量分画も行われることになり、蒸着源である重合体と蒸着された蒸着膜中の重合体のMwおよびMw/Mnは変化することになる。
本発明において、蒸着膜中の含フッ素重合体のMwは1,000~20,000が好ましく、1,500~15,000がより好ましく、2,000~10,000がさらに好ましい。Mwが1,000以上の場合は、蒸着膜の強度や耐熱性に優れる。一方で、Mwが20,000以下の場合は、電荷輸送層の導電性を保持することができる。
また蒸着膜における均質性の観点から、蒸着膜中の含フッ素重合体のMw/Mnは1.2以下が好ましく、1.1以下がより好ましい。Mw/Mnが1.2以下であれば、蒸着膜中に低分子量の重合体が含まれる割合が少なくなり、耐熱性に優れ、均質性の高い蒸着膜となる。Mw/Mnが1.3以上の場合、蒸着膜中に極端に分子量の低い重合体が含まれる割合が多いことを示しており、耐熱性が悪く、膜構造が一様でない蒸着膜となる。
【0019】
含フッ素重合体の波長450nm~800nmにおける屈折率の上限値は、1.5であることが好ましく、1.4であることがより好ましく、1.35であることが特に好ましい。含フッ素重合体の波長450nm~800nmにおける屈折率が前記上限値以下であれば、より少ない混合量で効果的に電荷輸送層等の層の屈折率を低減させることができ、電荷輸送層等の層の導電性を損なうことなく得られる有機ELデバイスの光取り出し効率を向上させることができる。含フッ素重合体の屈折率の理論的な下限値は1.0である。
【0020】
本発明の発明者らは、従来の有機ELデバイスの光取り出し効率が低い本質的な原因が、従来の有機ELデバイスが有する発光層および電荷輸送層等の屈折率が高いことにあることに着目した。有機ELデバイスに用いられる一般的な電荷輸送層の屈折率は、デバイスの発光の中心波長において1.7~1.8程度であり、すでに実用化されたLEDに用いられている無機半導体よりも低いが、それでも光取り出し効率は20~30%にとどまっている。このような有機半導体から構成される電荷輸送層等を有する従来の有機ELデバイスにあっては、電荷輸送層等と隣接するガラス基板等の層との界面で全反射による光の損失が生じ、光取り出し効率が低くなると考えられる。
より具体的にはガラス基板の層を構成するソーダガラスの屈折率は1.51~1.53程度であり、石英ガラスの屈折率は1.46~1.47程度である。電荷輸送層等の層の屈折率がガラス基板の層の屈折率と同等の水準である1.5程度まで低下して、これらの屈折率の差が小さくなれば、電荷輸送層とガラス基板との界面で生じる全反射を回避することができ、光取り出し効率が向上する。
よって含フッ素重合体の屈折率の上限値が1.5であれば、電荷輸送層の屈折率がガラス基板等の屈折率と同等の水準まで低下しやすくなり、光取り出し効率が向上しやすい。
【0021】
含フッ素重合体としては、以下の重合体(1)、(2)が挙げられる。
重合体(1):主鎖に脂肪族環を有さず、フルオロオレフィンに由来する単位(以下、「フルオロオレフィン単位」とも記す。)を有する含フッ素重合体、
重合体(2):主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体。
【0022】
≪重合体(1)≫
重合体(1)は、フルオロオレフィンの単独重合体であってもよく、フルオロオレフィンと、フルオロオレフィンと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0023】
フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ビニルフルオライド、ペルフルオロアルキルエチレン(炭素数1~10のペルフルオロアルキル基を有するもの等)、トリフルオロエチレン等が挙げられる。
これらの中でも、電荷輸送層の屈折率を低下させやすいことから、炭素原子に結合しているすべての水素原子がフッ素に置換されたテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンが好ましい。
【0024】
フルオロオレフィンと共重合可能な他の単量体としては、ビニルエーテル、ビニルエステル、芳香族ビニル化合物、アリル化合物、アクリロイル化合物、メタクリロイル化合物等が挙げられる。
重合体(1)が共重合体である場合、フルオロオレフィンに由来する単位の割合は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0025】
重合体(1)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
重合体(1)としては、以下の含フッ素重合体が挙げられる。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EPA)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニルフルオリド(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等。
これらの中でも、電荷輸送層の屈折率を低下させやすいことから、炭素原子に結合しているすべての水素原子がフッ素に置換されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EPA)が好ましい。
重合体(1)は、公知の方法を用いて製造できる。
重合体(1)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
【0026】
≪重合体(2)≫
重合体(2)は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体である。
「主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体」とは、含フッ素重合体が脂肪族環構造を有する単位を有し、かつ、該脂肪族環を構成する炭素原子の1個以上が主鎖を構成する炭素原子であることを意味する。脂肪族環は酸素原子等のヘテロ原子を有する環であってもよい。
重合体の「主鎖」とは、重合性二重結合を有するモノエンの重合体においては重合性二重結合を構成した2つの炭素原子に由来する炭素原子の連鎖をいい、環化重合しうるジエンの環化重合体においては2つの重合性二重結合を構成した4つの炭素原子に由来する炭素原子の連鎖をいう。モノエンと環化重合しうるジエンとの共重合体においては、該モノエンの上記2つの炭素原子と該ジエンの上記4つの炭素原子とから主鎖が構成される。
したがって、脂肪族環を有するモノエンの重合体の場合は、脂肪族環の環骨格を構成する1つの炭素原子または環骨格を構成する隣接した2つの炭素原子が重合性二重結合を構成する炭素原子である構造のモノエンの重合体である。環化重合しうるジエンの環化重合体の場合は、後述のように、2つの二重結合を構成する4つの炭素原子のうちの2~4つが脂肪族環を構成する炭素原子となる。
【0027】
重合体(2)中の脂肪族環の環骨格を構成する原子の数は、4~7個が好ましく、5~6個が特に好ましい。すなわち、脂肪族環は4~7員環が好ましく、5~6員環が特に好ましい。脂肪族環の環を構成する原子としてヘテロ原子を有する場合、ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子等が挙げられ、酸素原子が好ましい。また、環を構成するヘテロ原子の数は1~3個が好ましく、1個または2個であることがより好ましい。
脂肪族環は置換基を有していてもよく、有さなくてもよい。「置換基を有していてもよい」とは、該脂肪族環の環骨格を構成する原子に置換基が結合してもよいことを意味する。
【0028】
重合体(2)の脂肪族環を構成する炭素原子に結合した水素原子はフッ素原子に置換されていることが好ましい。また、脂肪族環が置換基を有する場合、その置換基に炭素原子に結合した水素原子を有する場合も、その水素原子はフッ素原子に置換されていることが好ましい。フッ素原子を有する置換基としては、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、=CF等が挙げられる。
重合体(2)中の脂肪族環としては、電荷輸送層の屈折率を低下させやすいことから、ペルフルオロ脂肪族環(置換基を含め、炭素原子に結合した水素原子のすべてがフッ素原子に置換されている脂肪族環)が好ましい。
【0029】
重合体(2)としては、下記の重合体(21)、(22)が挙げられる。
重合体(21):含フッ素環状モノエンに由来する単位を有する含フッ素重合体、
重合体(22):環化重合しうる含フッ素ジエン(以下、単に「含フッ素ジエン」ともいう。)の環化重合により形成される単位を有する含フッ素重合体。
【0030】
重合体(21):
「含フッ素環状モノエン」とは、脂肪族環を構成する炭素原子間に重合性二重結合を1個有する含フッ素単量体、または、脂肪族環を構成する炭素原子と脂肪族環外の炭素原子との間に重合性二重結合を1個有する含フッ素単量体である。
含フッ素環状モノエンとしては、下記の化合物(1)または化合物(2)が好ましい。
【0031】
【化1】
[式中、X、X、X、X、YおよびYは、それぞれ独立に、フッ素原子、エーテル性酸素原子(-O-)を含んでいてもよいペルフルオロアルキル基、またはエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルコキシ基である。XおよびXは相互に結合して環を形成してもよい。]
【0032】
、X、X、X、YおよびYにおけるペルフルオロアルキル基は、炭素数が1~7であることが好ましく、炭素数が1~4であることが特に好ましい。該ペルフルオロアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状が特に好ましい。具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられ、特にトリフルオロメチル基が好ましい。
、X、X、X、YおよびYにおけるペルフルオロアルコキシ基としては、前記ペルフルオロアルキル基に酸素原子(-O-)が結合したものが挙げられ、トリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
【0033】
式(1)中、Xは、フッ素原子であることが好ましい。
は、フッ素原子、トリフルオロメチル基、または炭素数1~4のペルフルオロアルコキシ基であることが好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメトキシ基であることが特に好ましい。
およびXは、それぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1~4のペルフルオロアルキル基であることが好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であることが特に好ましい。
およびXは相互に結合して環を形成してもよい。前記環の環骨格を構成する原子の数は、4~7個が好ましく、5~6個が特に好ましい。
化合物(1)の好ましい具体例として、化合物(1-1)~(1-5)が挙げられる。
【0034】
【化2】
【0035】
式(2)中、YおよびYは、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~4のペルフルオロアルキル基または炭素数1~4のペルフルオロアルコキシ基が好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメチル基が特に好ましい。
化合物(2)の好ましい具体例として、化合物(2-1),(2-2)が挙げられる。
【0036】
【化3】
【0037】
重合体(21)は、上記の含フッ素環状モノエンの単独重合体であってもよく、含フッ素環状モノエンと共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
ただし、重合体(21)中の全単位に対する含フッ素環状モノエンに由来する単位の割合は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%がさらに好ましい。
含フッ素環状モノエンと共重合可能な他の単量体としては、たとえば、含フッ素ジエン、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。
含フッ素ジエンとしては、後述する重合体(22)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。側鎖に反応性官能基を有する単量体としては、重合性二重結合および反応性官能基を有する単量体が挙げられる。重合性二重結合としては、CF=CF-、CF=CH-、CH=CF-、CFH=CF-、CFH=CH-、CF=C-、CF=CF-等が挙げられる。反応性官能基としては、後述する重合体(22)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。
なお、含フッ素環状モノエンと含フッ素ジエンとの共重合により得られる重合体は重合体(21)とする。
【0038】
重合体(22):
「含フッ素ジエン」とは、2個の重合性二重結合およびフッ素原子を有する環化重合しうる含フッ素単量体である。重合性二重結合としては、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。含フッ素ジエンとしては、下記化合物(3)が好ましい。
CF=CF-Q-CF=CF ・・・(3)。
式(3)中、Qは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよく、フッ素原子の一部がフッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5、好ましくは1~3の、分岐を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。該フッ素以外のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
Qは、エーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。その場合、該ペルフルオロアルキレン基におけるエーテル性酸素原子は、該基の一方の末端に存在していてもよく、該基の両末端に存在していてもよく、該基の炭素原子間に存在していてもよい。環化重合性の点から、該基の一方の末端に存在していることが好ましい。
【0039】
化合物(3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF=CFOCFCF=CF
CF=CFOCF(CF)CF=CF
CF=CFOCFCFCF=CF
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF
CF=CFOCFClCFCF=CF
CF=CFOCClCFCF=CF
CF=CFOCFOCF=CF
CF=CFOC(CFOCF=CF
CF=CFOCFCF(OCF)CF=CF
CF=CFCFCF=CF
CF=CFCFCFCF=CF
CF=CFCFOCFCF=CF
【0040】
化合物(3)の環化重合により形成される単位として、下記単位(3-1)~(3-4)等が挙げられる。
【0041】
【化4】
【0042】
重合体(22)は、含フッ素ジエンの単独重合体であってもよく、含フッ素ジエンと共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
含フッ素ジエンと共重合可能な他の単量体としては、たとえば、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0043】
重合体(22)の具体例としては、たとえば、CF=CFOCFCFCF=CF(ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル))を環化重合させて得られる、下式(3-1-1)で表される重合体が挙げられる。
なお、以下、ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)を「BVE」という。
【0044】
【化5】
【0045】
ただし、式(3-1-1)中、pは1~1,000の整数である。
pは、5~800の整数が好ましく、10~500の整数が特に好ましい。
【0046】
重合体(2)は、反応性官能基を有していてもよく、有していなくてもよいが、有していないことが好ましい。反応性官能基としては、重合体中への導入のしやすさ、反応性の点から、カルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カーボネート基、スルホ基、ホスホノ基、ヒドロキシ基、チオール基、シラノール基およびアルコキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、カルボキシ基またはアルコキシカルボニル基が特に好ましい。
反応性官能基は、重合体(2)の主鎖末端に結合していてもよく、側鎖に結合していてもよい。製造しやすい点からは、主鎖の末端に結合していることが好ましい。すなわち、重合体(2)として好ましい様態は、主鎖の末端にアルコキシカルボニル基を有することである。
【0047】
重合体(2)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
重合体(2)の具体例としては、BVE環化重合体(旭硝子社製:CYTOP(登録商標))、テトラフルオロエチレン/2,2,4-トリフルオロ-5-トリフルオロメトキシ1,3-ジオキソール共重合体(ソルベイ社製:ハイフロン(登録商標)AD)、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロジメチルジオキソール共重合体(ケマーズ社(旧Dupont社)製:テフロン(登録商標)AF)等が挙げられる。これらの中でも主鎖に脂肪族環を有する、BVE環化重合体(旭硝子社製:CYTOP(登録商標))、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロジメチルジオキソール共重合体(ケマーズ社(旧Dupont社)製:テフロン(登録商標)AF)が好ましい。
【0048】
本発明では、含フッ素重合体は重合体(2)であることが好ましく、重合体(22)であることがより好ましく、BVEを環化重合させて得られる、式(3-1-1)で表される含フッ素重合体が特に好ましい。
【0049】
含フッ素重合体が重合体(2)である場合、そのMwは1,500~50,000が好ましく、3,000~40,000がより好ましく、5,000~30,000がさらに好ましい。Mwが1,500以上の場合は、電荷輸送層等の層の強度が優れる。一方で、Mwが50,000以下の場合は、成膜性に優れる。より具体的には、Mwが50,000以下の重合体(2)は実用的な成膜速度を与える飽和蒸気圧を有するため、蒸着源を高温、具体的には、400℃超の温度まで加熱する必要がなくなる。蒸着源の温度が高すぎると蒸着過程において重合体(2)の主鎖が開裂し、含フッ素重合体が低分子量化してしまい、形成される電荷輸送層等の層の強度が不十分となり、さらに分解物に由来する欠陥が発生し、平滑な表面を得にくい。また、主鎖の開裂により生じ、意図せず混入した分子あるいはイオンが電荷輸送層等の層の導電性に影響を与える可能性が想定され、その場合には電荷輸送層等の層の導電性を制御することが困難になる。
よってMwが1,500~50,000の範囲であれば、重合体(2)の主鎖の開裂を起こすことなく十分な膜強度と平滑な膜表面が得られる。
【0050】
含フッ素重合体が重合体(2)である場合、固有粘度[η]が、0.01~0.14dl/gであることが好ましく、0.02~0.1dl/gであることがより好ましく、0.02~0.08dl/gであることが特に好ましい。[η]が0.01dl/g以上の場合は、相対的に含フッ素重合体の分子量が大きくなり、形成後の電荷輸送層において十分な強度が得られやすい。一方で、[η]が0.14dl/g以下の場合は、相対的に含フッ素重合体の分子量が小さくなり、実用的な成膜速度を与える飽和蒸気圧を有する。
なお、上記「固有粘度[η](単位:dl/g)」とは、測定温度30℃でアサヒクリン(登録商標)AC2000(旭硝子社製)を溶媒として、ウベローデ型粘度計(柴田科学社製:粘度計ウベローデ)により測定される値である。
【0051】
本発明では、含フッ素重合体として、重合体(1)、(2)のうちのいずれか1つのみを使用してもよく、重合体(1)、(2)を併用してもよい。
【0052】
本発明に係る有機半導体材料は、半導体的な電気特性を示す有機化合物材料である。
有機半導体材料としては、陽極側から正孔の注入を受けて輸送する正孔輸送材料、および、陰極側から電子の注入を受けて輸送する電子輸送材料が挙げられる。本発明にはどちらも好適に用いられるが、本発明に係る有機半導体材料としては、正孔輸送材料が好ましい。
正孔輸送材料としては、芳香族アミン誘導体が好適に例示できる。具体例としては、α-NPD、PDA、TAPC、TPD、m-MTDATA、N-(diphenyl-4-yl)-9,9-dimethyl-N-(4-(9-phenyl-9H-carbazol-3yl)phenyl)-9H-fluorene-2-amine(以下、「HT211」という。)、HTM081(Merck社製)、HTM163(Merck社製)、HTM222(Merck社製)、NHT-5(Novaled社製)、NHT-18(Novaled社製)、NHT-49(Novaled社製)、NHT-51(Novaled社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
【化6】
【0054】
電子輸送材料としては、含窒素複素環誘導体が好適に例示できる。具体例としては、Alq3、PBD、BND、TAZ、OXD-7、NET-5(Novaled社製)、NET-8(Novaled社製)、NET-18(Novaled社製)、TR-E314(東レ社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
【化7】
【0056】
本発明に係るドーパントは、有機半導体材料との間で電荷を授受することができる化合物である。本発明の電荷輸送層がドーパントを含むことにより、電荷輸送層における自由電荷密度が高まり、電荷輸送層の導電性が、実用化に十分な程度にまで向上する。
ドーパントとしては、正孔輸送材料に対するドーパントと電子輸送材料に対するドーパントが挙げられる。
【0057】
正孔輸送材料に対するドーパントは、正孔輸送性の有機半導体材料のイオン化ポテンシャルと比べ同等あるいは大きな電子親和力を有する化合物である。かかるドーパントは、正孔輸送性の有機半導体材料から電子を受け取ることができるため、本発明の電荷輸送層の導電性の向上に寄与する。
正孔輸送材料に対するドーパントの具体例としては、TCNQ、F-TCNQ、PPDN、TCNNQ、F-TCNNQ、HAT-CN、HATNA、HATNA-Cl6、HATNA-F6、C6036、F16-CuPc、NDP-2(Novaled社製)、NDP-9(Novaled社製)、LGC-101(LG Chem社製)等の有機ドーパント、および、MoO、V、WO、ReO、CuI等の無機ドーパントが挙げられる。
【0058】
【化8】
【0059】
電子輸送材料に対するドーパントは、電子輸送性の有機半導体材料の電子親和力と比べ同等あるいは小さなイオン化ポテンシャルを有する化合物である。かかるドーパントは、電子輸送性の有機半導体材料に電子を受け渡すことができるため、本発明の電荷輸送層の導電性の向上に寄与する。
電子輸送材料に対するドーパントの具体例としては、TTN、BEDT-TTF等の有機ドーパント、CoCp、[Ru(terpy)、NDN-1(Novaled社製)、NDN-26(Novaled社製)等の有機ドーパントまたは有機金属錯体ドーパント、および、Li、Cs、LiF、LiCO、CsCO等の無機ドーパントが挙げられる。
【0060】
【化9】
【0061】
本発明の組成物には、含フッ素重合体、有機半導体材料、およびドーパント以外に他の材料が含まれてもよいが、含フッ素重合体、有機半導体材料、およびドーパントのみが含まれていることが好ましい。
なお、含フッ素重合体は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。また有機半導体材料は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。またドーパントは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物は、有機半導体材料とドーパントの2つのみからなる組成物と同等の電気特性を示すことが、素子周辺の回路設計の大幅な変更を必要としないことから、好ましい。具体的には有機半導体材料とドーパントの2つのみからなる組成物で測定したJ-V特性と、本発明の組成物の状態で測定したJ-V特性とが同等であることが好ましい。より具体的にはJ-V特性において電位勾配が0.5MV/cmにおいて、組成物の状態で測定した電流値が、有機半導体材料とドーパントの2つのみからなる組成物で測定した電流値の20%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。該電流値の比の上限は特に無いが、500%以下が好ましい。また、電界強度1×10~10V/cmの範囲における電流値から算出される導電率が、1×10-11[S/cm]以上であることが好ましく、1×10-10[S/cm]以上であることがより好ましく、1×10-9[S/cm]以上であることがさらに好ましい。
25℃、大気中における体積抵抗率が1017Ω・cm以上の絶縁材料である含フッ素重合体を用いているにも関わらず、本発明の組成物は有機半導体材料と同等の電気特性を示し、かつ、低屈折率であることから有機光電子素子の光取り出し効率を大幅に向上できる。
【0062】
本発明の組成物では、含フッ素重合体の含有割合が、前記含フッ素重合体と前記有機半導体材料と前記ドーパントとの合計に対して、30~70体積%であることが好ましい。
さらに、含フッ素重合体の含有割合の下限値は、35体積%であることがより好ましく、40体積%であることが特に好ましい。また、含フッ素重合体の含有割合の上限値は、65体積%であることがより好ましく、60体積%であることが特に好ましい。
含フッ素重合体の含有割合が、上記の下限値以上であれば、組成物の屈折率が、ガラス基板等の屈折率と同等の水準まで低下しやすくなる。
含フッ素重合体の含有割合が、上記の上限値以下であれば、電荷輸送層の基本的性能としての導電性が、維持されやすい。
【0063】
本発明の組成物では、ドーパントの含有割合が有機半導体材料の全物質量100モル部に対して、10~200モル部であることが好ましく、15~150モル部であることがより好ましく、20~100モル部であることが特に好ましい。
ドーパントの含有割合が、上記の下限値以上であれば、組成物の導電性が維持あるいは向上されやすくなる。
ドーパントの含有割合が、上記の上限値以下であれば、組成物の屈折率が低下しやすくなる。
【0064】
本発明の組成物のより好ましい態様は、含フッ素重合体の含有割合が、前記含フッ素重合体と前記有機半導体材料と前記ドーパントとの合計に対して、30~70体積%であり、ドーパントの含有割合が、有機半導体材料の全物質量100モル部に対して、10~200モル部である。
本発明の組成物のさらに好ましい態様は、含フッ素重合体の含有割合が、前記含フッ素重合体と前記有機半導体材料と前記ドーパントとの合計に対して、35~65体積%であり、ドーパントの含有割合が、有機半導体材料の全物質量100モル部に対して、15~150モル部である。
本発明の組成物の特に好ましい態様は、含フッ素重合体の含有割合が、前記含フッ素重合体と前記有機半導体材料と前記ドーパントとの合計に対して、40~60体積%であり、ドーパントの含有割合が、有機半導体材料の全物質量100モル部に対して、20~100モル部である。
【0065】
本発明の組成物を含む層の表面粗さはRMSで1.0nm以下であることが好ましく、0.8nm以下であることがより好ましく、0.6nm以下であることがさらに好ましい。
本発明において、「表面粗さ(単位:nm)」は、JIS B 0601に準拠して、原子間力顕微鏡(AFM)等によって測定される値であり、RMS(root mean square:二乗平均平方根)により表される。
表面粗さが1.0nm以下であれば、電荷輸送層等の層に強電界を印加した際に、局所的に大きな電界がかかることを避けることができ、層内で均一な電流を流すことができるため好ましい。かかる層を適用した有機光電子素子を駆動させた際には、隣接する電極、発光層、電荷輸送層等との各界面における電荷の輸送が円滑に行われるので、リーク電流、デバイス欠陥、および接触抵抗の増大による電力効率の低下等の発生が低減され、駆動安定性および寿命等の有機光電子素子の性能が優れる。
なお、表面粗さについて、その好ましい値の下限値は理論的には0nmである。
【0066】
本発明の組成物を含む層の厚さは特に制限されないが、10nm~250nmが好ましく、20nm~150nmがより好ましい。
【0067】
本発明の組成物は、波長域450nm~800nmにおける吸収係数が5000cm-1以下であることが好ましく、1000cm-1以下であることがより好ましく、上記波長域において吸収帯を有さないことが特に好ましい。吸収係数が5000cm-1を超える場合、光が厚み100nmの組成物を含む層を1回通過すると通過前の光の全量を100%としたときに対し5%の光が吸収される。有機ELデバイス内部では光の多重干渉により、層を通過するときの光の吸収による損失が累積するため、層を通過する際における光吸収が光取り出し効率を大きく低減させる要因となる。光吸収が十分小さい層を用いることは、有機ELデバイスの発光効率を損なわないために極めて重要である。有機ELデバイスの発光効率が損なわれないことによりエネルギー利用効率が高くなり、かつ、光吸収に基づく発熱が抑制される結果として素子寿命が長くなる。
なお、本発明において、「吸収係数(単位:cm-1)」は、JIS K 0115に準拠して測定される値である。
【0068】
本発明の組成物は、波長域450nm~800nmにおける屈折率が1.60以下であることが好ましく、1.55以下であることがより好ましい。屈折率が1.60以下であれば、本発明の組成物の屈折率がガラス基板等の屈折率と同等水準まで低下し、電荷輸送層等の層とガラス基板等との境界面における全反射の発生が低減されるので、有機ELデバイスの光取り出し効率が向上する。一方、本発明の組成物の屈折率の理論的な下限値は1.0である。
【0069】
本発明の組成物を含む層の製造方法は、公知の方法でよく、ドライコート法でもウェットコート法でもよいが、含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを均一な混合比で成膜しやすいためドライコート法が好ましい。ウェットコート法としては、インクジェット法、キャストコート法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、およびスプレーコート法等が挙げられる。ドライコート法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、およびスパッタ法が挙げられる。これらのうち有機半導体および含フッ素重合体を分解しすることなく成膜しやすいことから、抵抗加熱蒸着法が好ましく、有機半導体材料と含フッ素重合体とを共蒸着させる、抵抗加熱による共蒸着法が特に好ましい。
共蒸着における蒸着速度(含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントの合計の蒸着速度)は特に制限されないが、0.001~10nm/sであることが表面粗さを所定の範囲とするために好ましい。
【0070】
上記の本発明の組成物は、有機光電子素子を構成する電荷輸送層等の層として好適に用いられる。該層としては、電荷注入層、電荷輸送層が例示でき、電荷輸送層が好ましく、正孔輸送層が特に好ましい。すなわち本発明の組成物は電荷輸送層形成用組成物として好ましい。
本発明の有機光電子素子は、一対の陽極および陰極を有し、該一対の電極間に少なくとも一層の、本発明の組成物を含む層を有する。陽極および陰極としては、公知の金属、金属酸化物または導電性高分子を用いることができ、特に限定されない。
【0071】
本発明の有機光電子素子の立体構造は特に限定されず、たとえば本発明の組成物を含む層を一対の電極で挟んで、厚み方向に電流を流す立体構造でもよく、あるいは、本発明の組成物を含む層に対し、その表面上の異なる位置に陽極および陰極を設けて面内方向に電流を流す立体構造でもよい。
【0072】
本発明の有機光電子素子の層構成は特に限定されず、陽極と陰極の間に本発明の組成物を含む層に加えて任意の機能層が設けられてもよい。たとえば透明導電性電極とそれに対向する対向電極を有する一対の電極と、該一対の電極間に本発明の組成物を含む層に加えて、電荷輸送層、発光層、発電層等の層が挟持されていてもよい。また、これらの任意の機能層を構成する材料は有機物に限定されず、無機物でもよい。
【0073】
本発明の有機光電子素子は、たとえば基板上に陽極または陰極等を形成した後、上述した電荷輸送層等の層、および上述した任意の機能層を形成して、その上に陰極または陽極等を形成して製造することができるが、これに制限されない。本発明の組成物を含む層と上記の任意の機能層を形成する順序、およびそれらを積層する順序も制限されない。
電荷輸送層等の層の形成は、上述した層の製造方法と同様であるが、含フッ素重合と有機半導体材料とドーパントとを共蒸着させる、抵抗加熱による共蒸着法が特に好ましい。
共蒸着における蒸着速度(含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントの合計の蒸着速度)は特に制限されないが、0.001~10nm/sであることが層の表面粗さを所定の範囲とするために好ましい。
【0074】
本発明の有機光電子素子は、有機ELデバイス、有機トランジスタ、太陽電池、有機フォトダイオード、有機レーザー等の有機光電子デバイスに利用できる。
特に本発明の有機光電子素子は、有機ELデバイスとして好適に用いられる。このような有機ELデバイスは有機ELディスプレイ、有機EL照明等の有機ELデバイスに利用できる。これらの有機ELデバイスは、トップエミッション型であってもよく、ボトムエミッション型であってもよい。
有機光電子デバイス、有機ELデバイス等の有機半導体デバイスにて、本発明の組成物を含む層を電極の間に挟持させる方法は特に限定されず、たとえばITO(酸化インジウムスズ)膜付きガラス基板上に共蒸着させてなる共蒸着膜を公知の方法で上記デバイスに実装させればよい。
【0075】
(作用効果)
以上説明したように、本発明の組成物は、含フッ素重合体と有機半導体材料とドーパントとを含む。かかる構成を有する本発明の組成物は、有機半導体材料のみからなる一元系の組成物の屈折率より低い屈折率を有することが可能である。よって本発明の組成物を含む層を有機光電子素子に適用すれば、層と隣接するガラス基板等の屈折率と、層の屈折率との差が小さくなり、層とガラス基板との界面における全反射が起きにくくなる。すると全反射による光の損失が低減され、有機ELデバイスの光取り出し効率が向上する。
一方で、含フッ素重合体を含む層は、有機半導体材料のみからなる一元系の層と比較して、導電性等の基本的性能が低下することが懸念される。しかし、本発明の構成を有する層は、さらにドーパントを含むため、有機半導体材料とドーパントとを含む二元系の層と、同等あるいはそれ以上の導電性を有することが可能である。よって、本発明の層では、導電性等の基本的性能が実用化に耐えうる程度に十分に維持されることが可能である。
また、本発明の層および有機光電子素子の製造方法は、高価な部材を必要とせず、素子の作製プロセスも複雑でない。
したがって、本発明によれば、層の基本的性能を維持しながら、屈折率が著しく低い層、およびこの層を用いた有機光電子素子、ならびにかかる層および有機光電子素子の簡便な製造方法を提供することができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されない。
【0077】
本実施例で合成した含フッ素共重合体の屈折率、分子量、固有粘度および飽和蒸気圧の測定は、以下の記載に従って行った。
【0078】
「含フッ素重合体の屈折率の測定方法」
JIS K 7142に準拠して測定した。
【0079】
「含フッ素重合体のMwおよびMnの測定」
含フッ素重合体のMwを、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。まず、分子量既知のポリメチルメタクリレート(PMMA)標準試料を、GPCを用いて測定し、ピークトップの溶出時間と分子量から、較正曲線を作成した。ついで、含フッ素重合体を測定し、較正曲線からMwとMnを求めた。移動相溶媒には1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン/ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(体積比で85/15)を用いた。
【0080】
「含フッ素重合体の固有粘度[η]の測定」
含フッ素重合体の固有粘度[η]を測定温度30℃でアサヒクリン(登録商標)AC2000(旭硝子社製)を溶媒として、ウベローデ型粘度計(柴田科学社製:粘度計ウベローデ)により測定した。
【0081】
「含フッ素重合体の弾性率の測定」
Anton-Paar社のレオメーターPhysica MCR301を用いて弾性率を測定した。治具としてPP12(平板型プレート、φ12mm)を用い、サンプル厚さ1mm、周波数1Hzで、200℃から毎分2℃で降温し、貯蔵弾性率Paおよび損失弾性率Paを測定した。
【0082】
「含フッ素重合体の飽和蒸気圧および蒸発速度の測定」
アドバンス理工社(旧アルバック理工社)の真空示差熱天秤VPE-9000を用いて300℃における飽和蒸気圧および蒸発速度を測定した。
含フッ素重合体50mgを内径7mmのセルに仕込み、1×10-3Paの真空度にて、毎分2℃で昇温し、300℃における蒸発速度g/m・秒を測定した。飽和蒸気圧の算出には蒸発速度と前記GPC測定でもとめたMwを用いた。
【0083】
本実施例で作製した電荷輸送層の表面粗さ、吸収係数および屈折率の測定、ならびに本実施例で作製した導電性評価用素子のJ-V特性の評価は、以下の記載に従って行った。
【0084】
「電荷輸送層の表面粗さの測定」
AFM(ブルカー・エイエックスエス社製:Dimension Icon)により、シリコン基板上の膜に対して、共鳴周波数300kHzのプローブ針を用いたタッピングモードで膜表面の観察を行った。観察面積は2.0マイクロメートル角とし、得られた画像について針の掃引方向に垂直な方向に対して高さ補正を行った後、高さのRMS値を算出した。
【0085】
「電荷輸送層の吸収係数の測定」
紫外可視分光光度計(島津製作所社製:UV-2450)を用い、石英基板上の膜の吸収スペクトルを測定し、膜の吸光度から吸収係数を得た。
【0086】
「電荷輸送層の屈折率の測定」
多入射角分光エリプソメトリー(ジェー・エー・ウーラム社製:M-2000U)を用いて、シリコン基板上の膜に対して、光の入射角を45~75度の範囲で5度ずつ変えて測定を行った。それぞれの角度において、波長450nm~800nmの範囲で約1.6nmおきにエリプソメトリーパラメータであるΨと△を測定した。上記の測定データを用い、有機半導体の誘電関数をCauchyモデルによりフィッティング解析を行い、電荷輸送層の膜厚と、各波長の光に対する電荷輸送層の屈折率を得た。
【0087】
「電荷輸送層の導電性の評価」
ソースメータ(Keithley社製:Keithley(登録商標)2401)により、ITO(酸化インジウムスズ)側を陽極、アルミニウム側を陰極として電圧を印加しながら、電圧毎に導電性評価用素子に流れる電流を測定した。電圧と膜厚から得られる電界強度Eと、電流と素子面積から得られる電流密度Jとの関係(J-E特性)を求め、電界強度10~10V/cmの範囲において線形フィッティングを行うことで導電率を算出した。また、電界強度10V/cmでの電流密度の値を得た。
【0088】
以下の含フッ素重合体の製造に使用した単量体、溶剤および重合開始剤の略号は、以下の通りである。
BVE:ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)
BVE-4M:CF=CFOCF(CF)CFCF=CF
MMD:ペルフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)
PDD:ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)
TFE:テトラフルオロエチレン
PPVE:ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(CF=CFOCFCFCF
1H-PFH:1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン
IPP:ジイソプロピルペルオキシジカーボネート
【0089】
重合体Aの合成
BVEの30g、1H-PFHの30g、メタノールの0.5gおよびIPPの0.44gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の28gを得た。得られた重合体の固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。
次いで、得られた重合体を特開平11-152310号公報の段落[0040]に記載の方法により、フッ素ガスにより不安定末端基を-CF基に置換し、重合体Aを得た。
得られた重合体Aの波長600nmの光に対する屈折率は1.34、固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。重合体AのMwは9,000、Mnは6,000、Mw/Mnは1.5、300℃における飽和蒸気圧は0.002Pa、300℃における蒸発速度0.08g/msecであった。
【0090】
重合体Bの合成
BVEの10g、1H-PFHの10g、メタノールの0.2gおよびIPPの0.2gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の8gを得た。得られた重合体の固有粘度[η]は、0.04dl/gであった。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱することで、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Bを得た。
得られた重合体Bの波長600nmの光に対する屈折率は1.34、Mwは7,800、Mnは6,200、Mw/Mnは1.3、300℃における飽和蒸気圧は0.003Pa、300℃における蒸発速度は0.06g/msecであった。
【0091】
重合体Cの合成
BVEの20g、1H-PFHの20g、メタノールの0.1gおよびIPPの0.3gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の16gを得た。得られた重合体の固有粘度[η]は、0.07dl/gであった。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱することで、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Cを得た。
得られた重合体Cの波長600nmの光に対する屈折率は1.34、Mwは14,000、Mnは10,100、Mw/Mnは1.4、300℃における飽和蒸気圧0.001Pa、300℃における蒸発速度は0.03g/msecであった。
【0092】
重合体Dの合成
BVEの450g、イオン交換水の600g、連鎖移動剤としてのメタノールの52gおよびIPPの1gを、内容積1Lのガラスライニングの反応器に入れた。系内を窒素で置換した後、40℃で20時間、50℃で6時間懸濁重合を行い、重合体を得た。次いで、得られた重合体の粒子をろ過により回収し、メタノール、水により洗浄した後、100℃で乾燥し、BVEおよびメタノールに起因する末端基を有する重合体の420gを得た。得られた重合体の固有粘度[η]は、0.24dl/gであった。
次いで、得られた重合体を特開平11-152310号公報の段落[0040]に記載の方法により、フッ素ガスにより不安定末端基を-CF基に置換し、重合体Dを得た。
得られた重合体Dの波長600nmの光に対する屈折率は1.34、固有粘度[η]は、0.24dl/gであった。重合体DのMwは73,000、Mnは48,000、Mw/Mnは1.5、300℃における飽和蒸気圧は0.0001Pa、300℃における蒸発速度0.004g/msecであった。
【0093】
重合体Eの合成
MMDの3g、1H-PFHの9g、メタノールの0.5gおよびIPPの0.3gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の2gを得た。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱することで、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Eを得た。
得られた重合体Eの波長600nmの光に対する屈折率は1.33、Mwは9,800、Mnは8,100、Mw/Mnは1.2、300℃における飽和蒸気圧は0.008Pa、300℃における蒸発速度は0.14g/msecであった。
【0094】
重合体Fの合成
MMDの2g、1H-PFHの6g、メタノールの0.4gおよびIPPの0.2gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の1gを得た。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱することで、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Fを得た。
得られた重合体Fの波長600nmの光に対する屈折率は1.33、Mwは11,300、Mnは9,300、Mw/Mnは1.2、300℃における飽和蒸気圧0.007Pa、300℃における蒸発速度0.10g/msecであった。
【0095】
重合体Gの合成
BVE-4Mの2g、1H-PFHの5g、メタノールの0.1gおよびIPPの0.03gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の1gを得た。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱することで、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Gを得た。
得られた重合体Gの波長600nmの光に対する屈折率は1.34、Mwは10,100、Mnは8,600、Mw/Mnは1.2、300℃における飽和蒸気圧は0.002Pa、300℃における蒸発速度は0.04g/msecであった。
【0096】
重合体Hの合成
BVE-4Mの10g、1H-PFHの6g、メタノールの0.6gおよびIPPの0.13gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の2gを得た。
次いで、得られた重合体を260℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱することで、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Hを得た。
得られた重合体Hの波長600nmの光に対する屈折率は1.34、Mwは4,500、Mnは4,000、Mw/Mnは1.2、300℃における飽和蒸気圧は0.01Pa、300℃における蒸発速度は0.2g/msecであった。
【0097】
重合体Iの合成
BVEの1.5g、PDDの2g、1H-PFHの10g、メタノールの0.3gおよびIPPの0.4gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の2gを得た。
得られた重合体の組成は、BVE単位:PDD単位=24:76(モル%)であった。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱し、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Iを得た。重合体Iの波長600nmの光に対する屈折率は1.30、Mwは9,200、Mnは8,100、Mw/Mnは1.1、300℃における飽和蒸気圧は0.003Pa、300℃における蒸発速度0.06g/msecであった。
【0098】
重合体Jの合成
BVEの1.1g、PDDの1.5g、1H-PFHの7g、メタノールの0.1gおよびIPPの0.3gを、内容積50mlのガラス製反応器に入れた。系内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃で24時間重合を行った。得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶媒を行い、重合体の1gを得た。
得られた重合体の組成は、BVE単位:PDD単位=24:76(モル%)であった。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱し、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Jを得た。重合体Jの波長600nmの光に対する屈折率は1.30、Mwは14,100、Mnは10,700、Mw/Mnは1.3、300℃における飽和蒸気圧は0.001Pa、300℃における蒸発速度0.03g/msecであった。
【0099】
重合体Kの合成
内容積1006mLのステンレス製オートクレーブに、PPVEの153g、1H-PFHの805g、メタノールの2.4g、および2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)の1.1gを仕込み、液体窒素で凍結脱気をした。70℃に昇温した後、TFEを0.57MPaGになるまで導入した。温度と圧力を一定に保持しながら、TFEを連続的に供給して重合させた。重合開始から9時間後にオートクレーブを冷却して重合反応を停止し、系内のガスをパージして重合体の溶液を得た。
重合体の溶液にメタノールの813gを加えて混合し、重合体が分散している下層を回収した。得られた重合体の分散液を80℃で16時間温風乾燥し、次に100℃で16時間真空乾燥して、重合体の19gを得た。
得られた重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=14:86(モル%)であった。
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱し、不安定末端基をメチルエステル基に置換し、重合体Kを得た。前記方法で重合体KのMwおよびMnを測定できないので、代わりに重合体Kの弾性率と温度の関係を図1に示す。
得られた重合体Kの波長600nmの光に対する屈折率は1.34、300℃における蒸発速度は0.04g/msecであった。
【0100】
[実施例1~6]
≪電荷輸送層の作製≫
約2cm角程度にカットしたシリコン基板2枚および石英基板1枚を、それぞれ中性洗剤、アセトン、イソプロパノールを用いて超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で煮沸洗浄した上で、オゾン処理により基板表面の付着物を除去した。この基板をそれぞれ真空蒸着機内に置き、圧力10-4Pa以下に真空引きした上で、重合体Aと、m-MTDATA(有機半導体材料)と、HAT-CN(ドーパント)とを、電荷輸送層の組成が表1に示す組成となるように用いて、真空蒸着機内で抵抗加熱し、共蒸着を行うことで厚み約100nmの電荷輸送層をそれぞれの基板上に作製した。3つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/sとした。得られた電荷輸送層の表面粗さの測定結果および波長600nmの光に対する屈折率の測定結果を表1に示す。
【0101】
≪導電性評価用素子の作製≫
素子を作製するための基板として、2mm幅の帯状にITO(酸化インジウムスズ)が成膜されたガラス基板を用いた。その基板を中性洗剤、アセトン、イソプロパノールを用いて超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で煮沸洗浄した上で、オゾン処理によりITO膜表面の付着物を除去した。この基板を真空蒸着機内に置き、圧力10-4Pa以下に真空引きした上で、重合体Aと、m-MTDATA(有機半導体材料)と、HAT-CN(ドーパント)とを、電荷輸送層の組成が表1に示す組成となるように用いて、真空蒸着機内で抵抗加熱し、共蒸着を行うことで厚み約100nmの電荷輸送層をそれぞれ積層した。3つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/sとした。さらに、アルミニウムを抵抗加熱で2mm幅の帯状に蒸着し、導電性評価用素子を得た。2mm幅のITOと2mm幅のアルミニウムが交差した2mm×2mmが素子面積となる。得られた電荷輸送層の導電性の評価結果を表1に示す。なお導電率の欄において、「E」はべき乗を表す。たとえば「4.1E-07」は「4.1×10-7」を表す。
【0102】
[実施例7~12]
含フッ素重合体であるテフロン(登録商標)AF1600(ケマーズ社(旧Dupont社)製)と、m-MTDATA(有機半導体材料)と、HAT-CN(ドーパント)とを、電荷輸送層の組成が表1に示す組成となるように用いて、実施例1~6と同様の方法で電荷輸送層および導電性評価用素子を作製した。テフロン(登録商標)AF1600の波長600nmの光に対する屈折率は、1.32であった。テフロン(登録商標)AF1600の300℃における飽和蒸気圧は0.0001Paであった。テフロン(登録商標)AF1600の固有粘度[η]は、0.88dl/gであった。
得られた電荷輸送層の表面粗さの測定結果および波長600nmの光に対する屈折率の測定結果、導電性の評価結果を表1に示す。
【0103】
[実施例13~22]
重合体Aの代わりに重合体B~Kを用いた以外は実施例2と同様の方法で電荷輸送層および導電性評価用素子を作製した。
得られた電荷輸送層の波長600nmの光に対する屈折率の測定結果および導電性の評価結果を表1に示す。
【0104】
[実施例23~27]
有機半導体、ドーパントまたはそれらの組合せを変更した以外は実施例2と同様の方法で電荷輸送層および導電性評価用素子を作製した。用いた有機半導体およびドーパントは表1に示す。
得られた電荷輸送層の波長600nmの光に対する屈折率の測定結果および導電性の評価結果を表1に示す。
【0105】
[比較例1~5]
含フッ素重合体を用いないで、m-MTDATA(有機半導体材料)と、HAT-CN(ドーパント)とを、電荷輸送層の組成が表2に示す組成となるように用いて、各基板に蒸着した以外は実施例1~6と同様にして、電荷輸送層および導電性評価用素子を作製した。
得られた電荷輸送層の表面粗さの測定結果、波長600nmの光に対する屈折率の測定結果、および導電性の評価結果を表2に示す。
【0106】
[比較例6~10]
有機半導体、ドーパントまたはそれらの組合せを変更した以外は比較例3と同様の方法で電荷輸送層および導電性評価用素子を作製した。用いた有機半導体およびドーパントは表2に示す。
得られた電荷輸送層の波長600nmの光に対する屈折率の測定結果および導電性の評価結果を表2に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
≪測定結果とその評価≫
表1より、テフロン(登録商標)AF1600を混合した実施例7~12の電荷輸送層の表面粗さは、重合体Aを混合した実施例1~6の電荷輸送層の表面粗さに比べて、増大していることが確認された。この表面粗さの増大はテフロン(登録商標)AF1600の蒸着膜の結晶性または熱分解物に由来すると考えられる。
一方、実施例1~6、実施例7~12、実施例13~27、比較例1~10の電荷輸送層の屈折率は表1および2に示す通りであった。これらの屈折率の相違は、配合した含フッ素重合体そのものの屈折率や含フッ素重合体の含有割合を反映していると考えられる。含フッ素重合体を混合した実施例1~27の電荷輸送層の屈折率は、含フッ素重合体を含まない比較例1~10の電荷輸送層の屈折率より低下していることが確認された。
実施例1~27、比較例1~10の電荷輸送層の波長450nm~800nmにおける吸収係数の評価はいずれも5000cm-1以下であった。いずれの電荷輸送層も可視域で高い透明性を有し、比較例1の有機半導体のみからなる一元系の電荷輸送層と同等の光透過性を有していることが確認された。
【0110】
実施例1~27、比較例1~10の電荷輸送層の導電性は表1および2に示す通りであった。実施例1~27の電荷輸送層の導電性は、比較例1~10の含フッ素重合体を含まない電荷輸送層と同程度の導電性を有しており、その基本的性能は実用化に耐えうるものであった。
以上より、本実施例の電荷輸送層は、その基本的性能を維持しながら、有機ELデバイスの光取り出し効率を向上させるために必要な低い屈折率を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の組成物は、有機ELデバイスとして、種々の電子機器の操作パネルや情報表示パネルに好適に用いられるほか、屈折率がデバイス特性に影響する各種有機光電子デバイスにも好適に用いられる。
また本発明の組成物は、光吸収性に優れた受光素子、透明性に優れたトランジスタ、ガラス基板上に視覚的に目視できないほど透明な有機半導体回路を形成するために好適に用いられる。
なお、2017年02月08日に出願された日本特許出願2017-021388号および2017年8月24日に出願された日本特許出願2017-161637号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1