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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】防音構造体、及び防音パネル
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/86 20060101AFI20220302BHJP
   B32B 3/12 20060101ALI20220302BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20220302BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
E04B1/86 M
B32B3/12 B
B32B3/24 Z
B32B5/32
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018237567
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020100939
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】白田 真也
(72)【発明者】
【氏名】松岡 知佳
(72)【発明者】
【氏名】山添 昇吾
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-258869(JP,A)
【文献】特開2012-141405(JP,A)
【文献】特開2017-151325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/86
B32B 3/12
B32B 3/24
B32B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルを構成するコア体と、
前記コア体の厚み方向において前記複数のセルの各々の開口面を覆う背面板と、
前記厚み方向において前記背面板とは反対側の位置で前記複数のセルの各々の開口面を覆い、且つ、貫通孔が形成された有孔板と、
前記厚み方向において前記コア体とは反対側の位置で前記有孔板に重ねられ、且つ、通気性を有する流れ抵抗体と、を有し、
人の声の周波数を含む周波数帯域の音を吸音対象とし、
前記流れ抵抗体の流れ抵抗が、350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/m以下であることを特徴とする防音構造体。
【請求項2】
前記流れ抵抗体の面密度が60g/m以上、且つ、500g/m以下である請求項1に記載の防音構造体。
【請求項3】
前記流れ抵抗体は、微細貫通孔板、又は多孔質吸音材料によって構成されている請求項1又は2に記載の防音構造体。
【請求項4】
前記流れ抵抗体は、布からなる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防音構造体。
【請求項5】
前記流れ抵抗体の厚みが1mm未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の防音構造体。
【請求項6】
前記コア体は、ハニカムコアである請求項1乃至5のいずれか一項に記載の防音構造体。
【請求項7】
前記コア体、前記背面板及び前記有孔板のうちの少なくとも一つが、内部に空隙部分が分布している材料からなる請求項1乃至6のいずれか一項に記載の防音構造体。
【請求項8】
前記コア体、前記背面板及び前記有孔板のすべてが、内部に空隙部分が分布している前記材料からなる請求項7に記載の防音構造体。
【請求項9】
前記コア体、前記背面板及び前記有孔板のすべてが、紙材料からなる請求項8に記載の防音構造体。
【請求項10】
前記流れ抵抗体は、前記流れ抵抗体の吸音性能以外の特性を改質させるための加工が施された加工部分を有し、
前記加工部分の加工後の前記流れ抵抗は、350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/m以下である請求項1乃至9のいずれか一項に記載の防音構造体。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載された防音構造体により構成された防音パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音構造体、及び防音パネルに係り、特に、複数のセルを構成するコア体を背面板及び有孔板の間に配置して流れ抵抗体をコア体の反対側で有孔板に重ねることで構成される防音構造体、及び、これを用いた防音パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
防音構造体、及び防音構造体を用いた防音パネルについては、重量、剛性、及び強度等の様々な観点から品質改善が求められている。
【0003】
具体的に説明すると、運び易さ及び倒れた時の安全性の観点からは、より軽量な防音パネルが望ましい。また、簡易的な壁又はパーティションとして利用することを想定すると、音響性能の変化が抑えられ、且つ形状が変化し難い高剛性な防音パネルが求められる。また、壊れ難さの観点からは、より強度が高い防音パネルが望ましい。
【0004】
ところで、防音構造体には、通常、発泡ウレタン及びフェルト等の多孔質材料からなる吸音材が用いられることが多い。ただし、多孔質材料は、柔らかいために剛性がなく、また強度も確保し難しい。一方、金属材料及びセラミックス等によって構成された吸音材が利用されることもある。その中には、発泡材料であり高剛性な吸音材も存在するが、そのような吸音材であっても、重量が大きく、また強度を確保することが難しい。
【0005】
以上の事情を踏まえ、これまでに様々な構造の防音構造体が開発されてきている。その一例としては、特許文献1及び2に記載されているように、複数のセルを構成するコア体を背面板及び有孔板の間に配置し、流れ抵抗体をコア体の反対側で有孔板に重ねることで構成される防音構造体及び防音パネルが挙げられる。
【0006】
具体的に説明すると、特許文献1に記載の防音パネルは、ハニカム心材層を穿孔金属板と裏あて板との間に挟み、ワイヤ織物又は金属フェルト等の金属布シートによって穿孔金属板を覆うことで構成されている。また、上記の金属布シートは、5~300Pa・s/m(=Rayls)の流れ抵抗を有する。
【0007】
また、特許文献2に記載の防音パネル(特許文献2では「音響板」と表記)では、音速に対して高い感度を有する織物、及び、或る多孔率を有する支持シートから構成された上部層が、通常型の中間ハニカム層及び下部層と組み合わせられている。また、上部層を構成する織物は、音速に対する所与の公称抵抗及び既知の抵抗変動を有する。
【0008】
特許文献1及び2に記載された構造であれば、高い吸音性、広帯域な吸音特性、及び高い剛性を併せ持つ防音構造体を実現することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-189475号公報
【文献】特開2002-258869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の防音パネルでは、前述したように、0~300Pa・s/mの金属布シートを流れ抵抗体として用いている。また、特許文献1によれば、金属布シートの抵抗値としては、比較的低い音響抵抗、例えば20cm/secで約10Raylsが望ましいとしている(特許文献1の段落0016等参照)。ただし、流れ抵抗が極めて小さい流れ抵抗体を用いた防音パネルでは、人の声など比較的低周波側に現れる音に対して所望の吸音効果が得られない。このような課題は、特許文献2に記載の防音パネルに対しても同様に生じ得る。
【0011】
なお、特許文献1及び特許文献2の防音パネルは、いずれも航空機等のジェットエンジンから発生する騒音のように、比較的高周波(具体的には、例えば10000Hz以上)の音を減少させるものであり、そもそも人の声など比較的低周波の音を対象とするものではない。
【0012】
一方、建物及び建物内の部屋等に取り付けられる防音構造体及び防音パネルについては、人の会話を抑えて周囲に聞こえ難くさせる等の用途で用いられることが多く、その需要は、近年増加している。したがって、防音構造体及び防音パネルの品質として、人の声など比較的低周波の音を広帯域で吸音することが求められている。また、上記の防音構造体及び防音パネルは、壁面又は天井等に配置して利用されることがあるため、極力小型化されたもの、特に、薄型のものであることが求められる。
【0013】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、以下に示す目的を解決することを課題とする。
具体的には、本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、比較的小型の構造で、且つ、比較的低周波の音を広帯域で吸音することが可能な防音構造体及び防音パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
複数のセルを構成するコア体を背面板及び有孔板の間に配置し、流れ抵抗体をコア体の反対側で有孔板に重ねることで構成される防音構造体は、前述したように、比較的小型な構造で軽量でありながらも、高剛性且つ高強度なものである。
そして、本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、流れ抵抗体の流れ抵抗が350Pa・s/m~1500Pa・s/mである場合には、広帯域にて吸音することができ、且つ、吸音率が極大となる吸音ピーク周波数が低周波側にシフトすることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記の課題が解決されることを見出した。
【0015】
[1] 複数のセルを構成するコア体と、コア体の厚み方向において複数のセルの各々の開口面を覆う背面板と、厚み方向において背面板とは反対側の位置で複数のセルの各々の開口面を覆い、且つ、貫通孔が形成された有孔板と、厚み方向においてコア体とは反対側の位置で有孔板に重ねられ、且つ、通気性を有する流れ抵抗体と、を有し、流れ抵抗体の流れ抵抗が、350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/m以下であることを特徴とする防音構造体。
【0016】
[2] 流れ抵抗体の面密度が60g/m以上、且つ、500g/m以下である[1]に記載の防音構造体。
[3] 流れ抵抗体は、微細貫通孔板又は多孔質吸音材料によって構成されている[1]又は[2]に記載の防音構造体。
[4] 流れ抵抗体は、布からなる[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の防音構造体。
[5] 流れ抵抗体の厚みが1mm未満である[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の防音構造体。
[6] コア体は、ハニカムコアである[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の防音構造体。
[7] コア体、背面板及び有孔板のうちの少なくとも一つが、内部に空隙部分が分布している材料からなる[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の防音構造体。
[8] コア体、背面板及び有孔板のすべてが、内部に空隙部分が分布している材料からなる[7]に記載の防音構造体。
[9] コア体、背面板及び有孔板のすべてが、紙材料からなる[8]に記載の防音構造体。
[10] 流れ抵抗体は、流れ抵抗体の性質を改質させるための加工が施された加工部分を有し、加工部分の加工後の流れ抵抗は、350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/m以下である[1]乃至[9]のいずれか一項に記載の防音構造体。
[11] [1]乃至[10]のいずれか一項に記載された防音構造体により構成された防音パネル。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比較的小型の構造で、且つ、比較的低周波の音を広帯域で吸音することが可能な防音構造体及び防音パネルが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る防音構造体を示す部分断面図である。
図2図1に図示の防音構造体を部分的に破断して模式的に示す上面図である。
図3】コア体の構造の変形例を示す上面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る防音パネルを示す斜視図である。
図5】実施例1で作製した防音構造体の吸音率を示す図である。
図6】実施例1で作製した防音構造体の吸音率を、RigidモデルBiotモデルの各々で計算した場合の計算結果を示す図である。
図7】流れ抵抗が100Pa・s/mである吸音材を用いた防音構造体の吸音率についての計算結果を示す図である。
図8】流れ抵抗が100、500、800及び3000Pa・s/mであるときの吸音率の計算結果を示す図である。
図9】流れ抵抗別の最大吸音率を示す図である。
図10】吸音率50%以上を満たす吸音ピーク幅を、流れ抵抗毎に評価した結果を示す図である。
図11】流れ抵抗毎に特定した吸音ピーク周波数を示す図である。
図12】吸音ピーク周波数を流れ抵抗で微分した結果を示す図である。
図13】吸音ピーク周波数の低周波化の度合いについての評価結果を示す図である。
図14】面密度及び流れ抵抗をそれぞれ変化させたときの、吸音ピーク周波数を示す図である。
図15】面密度及び流れ抵抗をそれぞれ変化させたときの、最大吸音率を示す図である。
図16】面密度及び流れ抵抗をそれぞれ変化させたときの、吸音ピーク幅を示す図である。
図17】面密度を変化させたときの吸音ピーク周波数の変化を示す図である。
図18】面密度を変化させたときの最大吸音率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の防音構造体及び防音パネルについて、添付の図面に示す好適な実施形態に基づき、以下に詳細に説明する。
なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明は、そのような実施態様に限定されるものではない。
【0020】
また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「直交」および「平行」とは、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、「直交」及び「平行」とは、厳密な直交あるいは平行に対して±10°未満の範囲内であることなどを意味する。ここで、厳密な直交あるいは平行に対しての誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
また、本明細書において、「同一」及び「同じ」は、本発明が属する技術分野において一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」または「全面」等というとき、100%である場合のほか、本発明が属する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
【0021】
さらに、本発明での「防音」は、「遮音」と「吸音」の両方の意味を含む概念である。ここで、「遮音」は、「音を遮蔽する」こと、換言すれば、「音を透過させない」ことを意味し、主として、音(音響)を反射することである。また、「吸音」は、「反射音を少なくする」ことを意味し、分かり易くは音(音響)を吸収することを意味する。そして、本発明では、後述する背面板が用いられているため、元々、透過する音が小さく、反射音が問題となる。このような系では、上述した「吸音」の観点で評価される指標(すなわち、反射音の少なさの指標)を用いるのが適切である。そのため、以下では、「防音」が主として「吸音」であることとし、「遮音」及び「吸音」とを呼び分けて両者を区別することとする。
【0022】
<<本発明の防音構造体の概要>>
先ず、本発明の防音構造体の概要について説明する。
本発明の防音構造体は、複数のセルを構成するコア体と、コア体の厚み方向(以下、厚み方向という)において複数のセルの各々の開口面を覆う背面板と、厚み方向において背面板とは反対側の位置で複数のセルの各々の開口面を覆う有孔板と、厚み方向においてコア体とは反対側の位置で有孔板に重ねられた流れ抵抗体と、を有する(例えば、図1参照)。
【0023】
コア体及び背面板は、共鳴構造、より厳密には気柱共鳴構造を構成している。有孔板には、貫通孔が形成されている。流れ抵抗体は、その内部に微細孔が多数形成されているため、通気性を有する。また、流れ抵抗体の流れ抵抗は、350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/m以下である。
【0024】
以上のように構成された本発明の防音構造体は、軽量でありながらも高剛性且つ高強度なものであり、比較的小型(コンパクト)な構造にて、人の声などの比較的低周波の音を広帯域で吸音することが可能となる(例えば、図5参照)。
【0025】
より詳しく説明すると、本発明の防音構造体は、コア体及び背面板が構成する気柱共鳴構造による吸音効果と、流れ抵抗体における吸音効果を併せ持つ。ここで、流れ抵抗体は、布等の比較的厚みが薄いものであるが、防音構造体の吸音性能に影響を及ぼす特性を有する。本発明者らは、流れ抵抗体の特性のうち、特に流れ抵抗が吸音特性(具体的には、吸音可能な周波数の範囲)に大きく影響することを発見し、その好適な範囲を見出した。具体的に説明すると、流れ抵抗を大きくすることで、吸音率が極大となる吸音ピーク周波数が低周波側にシフトする。この結果、コンパクトな構造でありながら、比較的低周波の音を広帯域に吸音することが可能な防音構造体が実現される。
【0026】
流れ抵抗体の流れ抵抗が吸音性能に及ぼす影響について説明すると、微細孔が形成された流れ抵抗体は、微細孔が通気部分をなしているので通気性を有する。そして、流れ抵抗体は、上記の通気部分を音が通過して抜ける際に生じる摩擦によって吸音する。なお、流れ抵抗体のうち、微細孔以外の材料部分を以下では、便宜的に「フレーム」と呼ぶことにする。
【0027】
ところで、通常の吸音材は、比較的流れ抵抗率が低い流れ抵抗体からなり、これを用いた防音構造体では、上記通気部分(換言すると、微細孔)を音が通過することに対する抵抗が比較的小さい。よって、入射した音は主に上記通気部分を通過し、その際に生じる熱粘性摩擦が吸音に寄与する。一方で、前述した通り、音は通気部分を流れ易いため、フレームをほぼ揺らさないので、フレーム自体は、吸音特性に寄与しない。
上記の場合には、吸音率が極大となる吸音ピーク周波数は、流れ抵抗体の背面部分(具体的には、音の入射方向において流れ抵抗体の背面側にある空気層)の距離によって決まる。具体的に説明すると、吸音ピーク周波数は、流れ抵抗体がないと仮定した場合の、背面側にある空気層の厚みに応じて決まる気柱共鳴の周波数と極めて近い周波数となる。
このため、通常の吸音材を用いた防音構造体では、その吸音周波数を、構造のサイズから決定される気柱共鳴周波数よりも大幅に低周波化させることが困難である。
【0028】
これに対して、前述したように、吸音材(流れ抵抗体)の流れ抵抗を大きくすることにより、吸音ピーク周波数が低周波側にシフトするようになる。このことを微視的な吸音メカニズムの観点で説明すると、流れ抵抗が大きくなるほど、流れ抵抗体内の微細孔を音が通過する際の摩擦だけではなく、フレームが音で揺らされる効果が加わるようになる。
【0029】
より詳しくは、流れ抵抗(つまり、微細孔での通気抵抗)が大きくなることで、通気部分の音が通過することに対する抵抗が大きく、通気部分に音が容易には流れなくなる。これにより、入射音(吸音対象の音)の一部が通気部分を通過する代わりに、フレームを揺らすようになる。この結果、流れ抵抗体におけるフレームの振動及び質量(マス)が吸音効果に寄与するようになったと考えられる。
【0030】
そして、フレームの振動及び質量(マス)が吸音に寄与することで、吸音ピーク周波数が低周波側にシフトする。特に、本発明の防音構造体では、前述したように、流れ抵抗が350~1500Pa・s/mとなった流れ抵抗体を用いている。これにより、吸音ピーク周波数を、流れ抵抗体が設けられていない吸音構造においてコア体内(具体的には、複数のセルの各々の開口部内)で生じる気柱共鳴の共鳴周波数に比べて10%以上低周波側にシフトすることができる(例えば、図13参照)。
【0031】
上述した吸音ピーク周波数の低周波化効果は、フレームの質量(マス)による効果として説明することができる。具体的に説明すると、フレームの振動が寄与しない流れ抵抗体では、通気部分の摩擦(厳密には、通気部分の空気の熱粘性摩擦)のみが吸音に寄与するので、フレームの質量(厳密には、密度)の大きさが吸音ピーク周波数に影響を及ぼさない。一方、フレームが揺らされる状況では、フレームの質量(マス)が吸音に影響を及ぼす。ここで、フレームの質量(マス)成分は運動方程式に従う量であり、音響等価回路理論ではインダクタンスを大きくする効果がある。そして、インダクタンスが増加することにより、等価回路の共鳴周波数が低周波側にシフトする。この理論により、フレームの質量(マス)が吸音ピーク周波数の低周波化効果を与えるものと考えられる。
【0032】
以上の効果は、特許文献1及び2に記載の防音パネルのように低抵抗(具体的には、10~300Pa・s/m)の流れ抵抗体を用いた場合には得られ難い。そもそも、特許文献1及び2に記載の防音パネルは、ジェットエンジン由来の騒音のような10000Hz以上の比較的高周波の音を吸音対象としているため、吸音対象の音を低周波化させる必要がない。そのため、特許文献1及び2に記載の防音パネルでは、人の声などのような、ジェットエンジン由来の騒音よりも低周波の音を十分に吸音し得ない。これに対し、本発明の防音構造体は、上記の吸音ピーク周波数の低周波数化効果により比較的低周波の音を吸音することが可能である。
【0033】
ここで、典型的な吸音構造として共鳴体を挙げ、本発明の防音構造体と共鳴体とを対比し、本発明の防音構造体の優位性について説明する。共鳴体には、気柱(柱状の空気部分)の距離のみに応じて吸音ピーク周波数が決定される気柱共鳴体が挙げられる。一方、他の共鳴体としては、筒状体の開口面上に膜が配置され、膜のマス(質量)と背面空間の距離(背面距離)に基づいて吸音ピーク周波数が決定される膜型共鳴体が挙げられる。なお、ここで言う「膜型共鳴体」は、膜体の膜振動モードによるマスバネ共鳴によるものではなく、膜を質量として用いた場合、すなわち膜の質量と背面空間のみが吸音に寄与するものを指す。
【0034】
音速をcとし、背面距離をdとし、膜の面密度をmとし、さらに空気の密度をrhoとしたとき、気柱共鳴体での共鳴周波数fs1、及び質量による膜型共鳴体での共鳴周波数fs2は、それぞれ、下記式(1)及び(2)により決定される。
fs1=c/(d×4) (1)
fs2=c/{2π×√(rho/m/d)} (2)
ここで、20℃で且つ1atmである空気の密度rhoは、1.205kg/mであり、このとき、共鳴周波数fs2は、下記式(3)で表される。
fs2=60/√(m×d) (3)
【0035】
なお、膜型共鳴体の場合、上記の式(2)及び(3)から明らかなように、背面距離d及び膜の重量(厳密には、面密度m)が吸音ピーク周波数に寄与する。また、背面距離dに依存するが、背面距離dが数cmである場合、且つ膜の面密度mがおおよそ0.03kg/m以上である場合には、気柱共鳴体の共鳴周波数fs1よりも膜型共鳴体の共鳴周波数fs2の方が十分に低周波化する。
【0036】
上述した2種類の共鳴体では、共鳴体の性質上、吸音ピーク周波数を中心として所望の吸音率が得られる範囲(以下、吸音ピーク幅)が狭くなる。つまり、上記の共鳴体では、広帯域で対象音を吸音することが困難である。
【0037】
一方、本発明の防音構造体では、流れ抵抗体を用いることにより、吸音ピーク幅を拡げることができる。さらに、流れ抵抗体が比較的高い流れ抵抗を有する場合には、微細孔からなる通気部分が設けられていることに因る広帯域の吸音効果と、フレームの質量による吸音ピーク周波数の低周波側へのシフト効果とを実現することができる。
【0038】
より具体的に説明すると、本発明では、前述したように、流れ抵抗が350~1500Pa・s/mとなった流れ抵抗体を用いている。これにより、吸音ピーク周波数での吸音率が98%(消音量に換算すると17dB)となり、且つ、吸音率50%以上(消音量に換算すると3dB以上)に設定された吸音ピーク幅が3500Hzとなる(例えば、図9及び図10参照)。
ちなみに、消音量(単位はdB)は、入射音に対する反射音の低減割合にて評価される値であり、具体的には、入射音量エネルギーをIincとし、反射音量エネルギーをIrefとした場合、反射率はIref/Iincとなる。そして、このとき、消音量(単位はdB)は、10×log10(Iinc/Iref)として計算することができる。
【0039】
なお、本発明の防音構造体の吸音ピーク周波数は、気柱共鳴体の共鳴周波数fs1と膜型共鳴体の共鳴周波数fs2との間に存在する。具体的に説明すると、吸音ピーク周波数は、流れ抵抗体の通気部分のみを音が流れてフレームをほとんど揺らさない場合には気柱共鳴体の共鳴周波数fs1に近く、フレームの振動の寄与が大きい場合には膜型共鳴体の共鳴周波数fs2に近付く。一方、前述したように、特許文献1及び2のように比較的低い流れ抵抗を持つ流れ抵抗体であるときには、吸音ピーク周波数が上記の共鳴周波数fs1になる。一方で、フレーム振動の寄与が大きくなると、共鳴周波数fs2に近付くので吸音ピーク周波数が低周波化するようになる。
【0040】
以上までに説明してきたように、本発明の防音構造体は、比較的低周波な音を効果的に、且つ広帯域にて吸音することが可能である。したがって、本発明の防音構造体は、人の会話を抑えて部屋の周囲に聞こえ難くさせる等、多岐の用途に用いることが可能であり、例えば、住宅、ホール、エレベーター、教室、オフィス、会議室、学校、保育園及び幼稚園、その他の建物(具体的には、工場及び動物小屋等)、並びに建物以外の構造物等の様々な音環境において利用され得る。
【0041】
また、本発明の防音構造体は、当然ながら上記以外の用途にも利用可能であり、例えば、自動車の内装材等、箱材及び梱包材等の物流用資材として用いることができる。また、本発明の防音構造体は、複写機、送風機、空調機器、換気扇、ポンプ類、発電機及びダクト等の材料として用いることができる。さらに、本発明の防音構造体は、塗布機、回転機、及び搬送機等のように音を発する様々な種類の産業用機器;自動車、電車等の車輌、及び航空機等の輸送用機器;並びに冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、テレビジョン、コピー機、電子レンジ、ゲーム機、エアコン、扇風機、パーソナルコンピュータ、掃除機、空気清浄機、及び換気扇等の一般家庭用機器等に用いることができる。
なお、本発明の防音構造体は、上述した各種用途において騒音源から発生する音が通過する位置に適宜配置される。
【0042】
<<本発明の防音構造体の構成例>>
次に、本発明の防音構造体の構成例について、図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る防音構造体(以下、防音構造体10)を示す部分断面図である。なお、図1には、流れ抵抗体の一部の拡大図が併せて示されている。図2は、防音構造体10を部分的に破断して模式的に示す上面図である。
【0043】
なお、図1には、矢印にて防音構造体10の厚み方向が示されている。ここで、防音構造体10の厚み方向は、コア体12の厚み方向と一致し、以下の説明では、両者の厚み方向をまとめて「厚み方向」と呼ぶこととする。
【0044】
また、図2では、防音構造体10の構造を理解し易くするために、防音構造体10において後述する有孔板20及び流れ抵抗体24が取り外された部分を図2の左側に、流れ抵抗体24のみが取り外された部分を図2の中央部分に、それぞれ図示している。
【0045】
防音構造体10は、図1及び図2に示すように、厚み方向において音源に近い側から流れ抵抗体24、有孔板20、コア体12、及び背面板18を重ねて配置することで構成されている。
【0046】
コア体12は、図2に示すように、複数のセル14を構成する部材である。各セル14は、厚み方向に沿った筒状の開口部14aと、開口部を囲む仕切り壁14bとを有する枠である。また、複数のセル14の各々の、厚み方向における両端面は、それぞれ、開口面となっている。
【0047】
背面板18は、図1に示すように、厚み方向において複数のセル14の各々の開口面(厳密には、背面側の端面)を覆う板体である。図1に図示の構成では、背面板18が厚み方向におけるコア体12の一端面に接合されており、各セル14の開口部14aを塞いでいる。
【0048】
有孔板20は、図1に示すように、厚み方向において背面板18とは反対側(すなわち、音源により近い側)で複数のセル14の各々の開口面を覆っている。図1に図示の構成では、有孔板20が厚み方向におけるコア体12の他端面(背面板18が接合されている側とは反対側の端面)に接合されている。また、有孔板20は、図2に示すように、複数のセルの各々と対応する位置に形成された貫通孔22を有する。各貫通孔22は、セル14の開口部14aと連通する位置に設けられている。
【0049】
流れ抵抗体24は、厚み方向においてコア体12とは反対側の位置で有孔板20に重ねられている。また、流れ抵抗体24は、通気性を有し、その内部には通気部分をなす微細孔26が形成されている。また、流れ抵抗体24は、微細貫通板又は多孔質吸音材料によって構成されているのが好ましく、特に、布によって構成されているのがよい。ここで、布は、不織布、織布、編物等を含む、繊維集合体を指す。また、布の素材は、天然糸でもよいし、合成糸でもよいし、金属材料等でもよい。
一方、微細貫通孔板は、1mm程度以下の貫通孔を多数有する板を指し、化学的にエッチング処理等で孔を形成したものでもよいし、物理的に貫通孔を形成した板でもよい。あるいは、構造上の工夫によって貫通孔状部分が形成された構造の微細貫通孔板であってもよい。なお、微細貫通孔板は、パンチングメタル及びエキスパンドメタルを含む。
【0050】
以下、防音構造体10の各構成要素について個々に説明する。
[コア体]
コア体12は、厚み方向において背面板18と有孔板20との間に挟まれている。コア体12によって構成される複数のセル14の各々の開口部14aは、背面板18及び有孔板20によって閉じられている。つまり、有孔板20の貫通孔22の背面側では、各セル14の開口部14aが閉空間となって背面空間を形成している。そして、コア体12の各セル14と背面板18とが協働して気柱共鳴構造を構成している。
【0051】
また、図1に図示のごとく、一つのセル14の開口部14aに対して有孔板20の貫通孔22の一つが連通するように、有孔板20において複数の貫通孔22が形成されているのが好ましい。つまり、有孔板20に形成された複数の貫通孔22は、それぞれ、複数のセル14の開口部14aのうちの一つと1対1で対応して配置されているのが望ましい。この場合、複数のセル14の開口部14aが規則的に配置されていれば、複数の貫通孔22も有孔板20において開口部14aの配置の規則性に応じて規則的に配置されることになる。
また、一つのセル14に対して、複数の貫通孔22が対応するように各貫通孔22が配置された場合にも、上記と同様の効果が得られる。すなわち、例えば、一つのセル14の開口部14aと三つの貫通孔22とが連通するように各貫通孔22を周期的に配置することも可能である。ただし、有孔板20に貫通孔22を形成する手間を考慮すると、大きな孔を一つ形成する方が複数の孔を多く形成する場合よりもコスト的に有利であるため、一つのセル14に一つの貫通孔22が対応している方が望ましい。
また、全てのセル14について貫通孔22が一対一で対応していなくてもよく、ある程度のセル数に関して貫通孔22の数が対応していれば、上記と同様の効果が得られる。具体的には、吸音ピーク周波数に対応する波長の長さ、若しくは、防音構造体10が吸音ピーク周波数に対応する波長よりサイズが小さい場合には防音構造体10全体のサイズのいずれかについて、全セルのうちの50%以上のセル14において貫通孔22の個数が対応していれば、上記と同様の効果が得られる。なお、望ましくは70%以上、より望ましくは90%以上のセル14について、貫通孔22の個数が対応しているとよい。これは、波動である音波の性質として、本発明の防音構造体を配置した場合に一つ一つのセル14の構造からの吸音性能がそのまま遠くに伝搬されるわけではなく、音波の波長サイズ程度に亘って平均化された吸音性能の効果が現れるためである。
【0052】
なお、コア体12における各セル14の開口部14aの配置、及び、各セル14の開口部14aと有孔板20の各貫通孔22との位置関係については、上記の内容に限定されない。例えば、一つのセル14の開口部14aに対して有孔板20の2つ以上の貫通孔22が対応するように配置されてもよい。また、各セル14の開口部14aは、コア体12において規則的に配置されていなくてもよい。
【0053】
また、防音構造体10の強度を確保する観点から、コア体12は、ハニカム構造を有するハニカムコアであることが好ましい。すなわち、複数のセル14の形状は、図2に示すように平面視でハニカム(正六角形)形状であることが好ましい。ただし、コア体12の構造は、ハニカム構造に限定されるものではなく、グレーチングのようにセル形状が平面視で略矩形の形状であってもよく、エキスパンドメタルのようにセル形状が平面視で略菱形の形状であってもよい。あるいは、コア体12の構造を、図3に示すように複数の波型スレートを表裏の向きが交互に入れ替えわるように並べた構造とし、セル形状が平面視で略紡錘形の形状であってもよい。図3は、コア体12の構造の変形例を示す上面図である。
【0054】
なお、コア体12の構造、すなわち、各セル14の形状は、上記の内容に限定されず、円形、楕円形、平行四辺形又は台形等の特殊な四角形、三角形、五角形及び八角形等を含む多角形、若しくは不定形であってもよい。また、セル14の形状は、全てのセル14間で同一(一定)であってもよく、あるいは、セル14間で異なっていてもよい。
【0055】
ちなみに、セル14の開口部14aのサイズは、開口部14aの平面形状が円形又は正方形等の正多角形である場合には、直径、又は正多角形における最長の対角線の長さと定義することができる。また、開口部14aの平面形状が多角形、楕円又は不定形の場合には、円相当直径と定義することができる。ここで、「円相当直径」とは、それぞれ面積の等しい円に換算した時の直径である。
【0056】
コア体12のセル14について補足すると、各セル14の開口部14aのサイズ(すなわち、開口部14aの直径、最長対角線の長さ、及び円相当直径)は、図1に示すように、有孔板20の貫通孔22の直径よりも大きくなっている。ちなみに、開口部14aのサイズは、1.0mm~500mmであることが好ましく、5mm~250mmであることがより好ましく、10mm~100mmであることが特に好ましい。ここで、開口部14aのサイズが1.0mm~500mmであることが好ましい理由は、1.0mmよりも小さくなると、開口部14aを囲む内壁における空気粘性抵抗が著しく高くなるために吸音効果が低下し、また、コア体12の製造が困難となるからである。また、500mmより大きなサイズになると、コア体12の剛性が著しく低下する。
【0057】
なお、各セル14の開口部14aのサイズは、全てのセル14の間で同一(一定)であってもよく、一部のセル14の開口部14aのサイズが他のセル14の開口部14aのサイズと異なっていてもよい。また、開口部14aの形状及びサイズ(換言すると、セル14の形状及び平面サイズ)については、特に制限がなく、背面板18及び有孔板20の各々の平面形状及びサイズ(面積)等に応じて適宜設定すればよい。
【0058】
また、厚み方向におけるコア体12の端面においてセル14の開口部14aが占める比率(開口部占有率)は、有孔板20における貫通孔22の開口率よりも大きくなっている。
【0059】
コア体12の厚みは、背面板18と有孔板20との間の間隔に等しい。コア体12の厚みは、特に制限的ではなく、本発明の防音構造体10が使用される場所及び環境に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1.0mm~200mmであることが好ましく、5mm~100mmであることがより好ましく、10mm~50mmであることが特に好ましい。ここで、コア体12の厚みが1.0mm~200mmであることが好ましい理由は、1.0mm未満になるとコア体12の剛性が大きく低下するからであり、200mm超であると防音構造体10が大型化し、場所によっては配置できない虞があるためである。
【0060】
コア体12の材料は、軽量で且つ高い剛性を有し、コア体12としての機能を良好に発揮するものであれば、特に制限されない。つまり、コア体12は、有孔板20及び流れ抵抗体24を支持し、背面板18及び有孔板20との間の間隔を一定に維持し、且つ、背面板18と共に気柱共鳴構造を構成するものであればよく、その限りにおいては、コア体12の材料は、自由に選定することができる。
【0061】
コア体12の材料について詳しく説明すると、コア体12の材料は、例えば可燃性材料であってもよい。ここで、可燃性材料とは、後述する難燃材以外の材料を指し、例えば、紙材料、木材、及び合成樹脂などの樹脂材料等も挙げることができる。紙材料としては、例えば、和紙、用紙、並びに、パルプ原料を用いた段ボール構造、ハニカム段ボール構造及びボード等を挙げることができる。樹脂材料としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMP(ポリメチルペンテン)、COP(シクロオレフィンポリマー)、ゼオノア、ポリカーボネート、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PAR(ポリアリレート)、アラミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PES(ポリエーテルサルフォン)、ナイロン、PEs(ポリエステル)、COC(環状オレフィン・コポリマー)、ジアセチルセルロース、ニトロセルロース、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアミドイミド、POM(ポリオキシメチレン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、ポリロタキサン(スライドリングマテリアルなど)および、ポリイミド等を挙げることができる。さらに、主にポリプロピレン又はポリカーボネートを用いた、いわゆるプラダン構造を用いることもできる。
【0062】
ただし、上記の内容に限らず、コア体12の材料は、例えば、難燃材であってもよい。ここで、難燃材とは、建築材料として利用されるものである場合には、建築基準法第2条第9号で定める不燃材料、建築基準法施行令第1条第5号で定める準不燃材料、及び同施行令第1条第6号で定める難燃材料を指す。これらの材料は、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後5分間以上は燃焼しないこと、防火上有害な変形、溶融、亀裂、及びその他の損傷を生じないこと、避難上有害な煙又はガスを発生しないことの3点を満たす必要がある。難燃材としては、例えば、金属材料、無機材料、難燃合板、難燃繊維板、及び難燃プラスチック板などの材料を挙げることができる。金属材料としては、例えば、アルミニウム、スチール、チタン、マグネシウム、タングステン、鉄、スチール、クロム、クロムモリブデン、ニクロムモリブデン、及びこれらの合金等を挙げることができる。無機材料としては、例えば、ガラス、コンクリート、石膏ボード、サファイア、及びセラミックス等を挙げることができる。また、可燃性材料をアラミド樹脂などでコーティングすることで難燃材として使用できる。
【0063】
また、上記以外のコア体12の材料として、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)、カーボンファイバ、及びガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics:GFRP)等の炭素繊維を含む材料が挙げられる。
なお、コア体12は、以上までに挙げてきた材料の複数種を組み合わせて構成されたものであってもよい。
【0064】
ちなみに、上述したコア体12の材料のうち、紙材料、金属材料及び樹脂材料が好ましく、より軽量で簡易に焼却できる点では紙材料がより好ましい。また、紙材料をアラミド樹脂でコーティングしたものであれば、耐火性が付与されるため、さらに好ましい。
【0065】
また、コア体12の材料自体の厚み(板厚)については、特に制限されるものではないが、例えば、0.001mm(1μm)~5mmであることが好ましく、0.01mm(10μm)~2mmであることがより好ましく、0.1mm(100μm)~1.0mmであることが特に好ましい。ここで、コア体12の材料の板厚が0.001mm(1μm)~5mmであることが好ましい理由は、0.001mm(1μm)未満になるとコア体12の剛性が十分に確保できないからである。また、5mm超になると、コア体12が著しく重くなってコア体12の軽量化を阻害するからである。
【0066】
また、コア体12が構成する複数のセル14のうち、少なくとも一部のセル14の開口部14a内に、多孔質吸音材料、例えば、織布、編布、不織布又はフェルト等の繊維からなる吸音材、若しくは多孔質ウレタン等の発泡材料が配置されていてもよい。また、コア体12と有孔板20の間に吸音材が介在してもよい。
【0067】
また、コア体12は、背面板18及び有孔板20の各々と隙間なく固定されていることが好ましい。背面板18及び有孔板20の各々とコア体12との固定方法については、固定状態を良好に保持することができれば、どのような方法を用いてもよく、特に制限されるものではない。固定方法としては、例えば、接着剤を用いる方法、又は物理的な固定具を用いる方法などを挙げることができる。
【0068】
接着剤を用いる固定方法について説明すると、厚み方向におけるコア体12の両端面(換言すると、複数のセル14の各々の開口面)に接着剤を塗布し、一方の端面上に背面板18を載せ、他方の端面上に有孔板20を載せ、それぞれをコア体12に固定する。接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤(アラルダイト(登録商標)(ニチバン株式会社製)等)、シアノアクリレート系接着剤(アロンアルフア(登録商標)(東亜合成株式会社製)など)、及びアクリル系接着剤等を挙げることができる。
【0069】
物理的な固定具を用いる方法について説明すると、厚み方向においてコア体12を間に挟むように配置された背面板18及び有孔板20を、コア体12と棒等の固定部材(不図示)との間に挟み込み、固定部材をネジ及びビス等の固定具(締結具)によってコア体12に固定する方法等が挙げられる。
【0070】
[背面板]
背面板18は、コア体12が構成する複数のセル14の各々の開口面を、背面側(すなわち、有孔板20が設けられる側とは反対側)で閉じる板材である。つまり、背面板18は、図1に示すように、コア体12の背面側の表面を覆い、厚み方向において有孔板20と間隔を開けて配置される。
【0071】
背面板18の厚みは、特に制限されるものではないが、例えば、0.001mm(1μm)~5mmであることが好ましく、0.01mm(10μm)~2mmであることがより好ましく、0.1mm(100μm)~1.0mmであることが特に好ましい。
【0072】
また、背面板18の平面形状及びサイズ(面積)については、コア体12の背面側の表面を覆うことができる限り、特に制限されず、防音構造体10中の他の部材(コア体12、有孔板20及び流れ抵抗体24)の平面形状及びサイズ等に応じて適宜設定すればよい。
【0073】
また、背面板18の材料としては、特に制限されるものではなく、前述したコア体12の材料と同様の材料を用いることができる。具体的に説明すると、背面板18の材料としては、例えば、紙材料、アルミニウム及び鉄等の各種金属、並びに、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリプロピレン(PP)等の各種樹脂材料が挙げられる。
【0074】
なお、背面板18は、コア体12が構成する複数のセル14の各々の開口面を覆うものであればよく、例えば、防音構造体10が設置される機器の筐体又はカバーを背面板18として用いてもよい。あるいは、部屋の壁等を背面板18として用いられてもよい。すなわち、例えば、流れ抵抗体24と有孔板20とコア体12とからなる構造体を壁に設置する際に、コア体12の背面側の表面が壁に当接するように上記の構造体を配置することで、壁が背面板18として機能する構成であってもよい。
【0075】
[有孔板]
有孔板20は、若干の厚みを有する板材からなり、貫通する複数の貫通孔22を有する。複数の貫通孔22は、有孔板20上に配置される流れ抵抗体24によって覆われて見えなくなる。このような態様は、防音構造体10の外観(意匠)上、好ましいものである。
【0076】
有孔板20における貫通孔22の形成位置は、前述したように、コア体12のセル14の開口部14aに対応させて設定されている。具体的には、流れ抵抗体24と貫通孔22とセル14の開口部14aとがそれぞれ連通するように貫通孔22が形成されており、これにより吸音効果が発現する。より詳しく説明すると、各貫通孔22の背面側には、コア体12の各セル14の仕切り壁14bと背面板18によって囲まれた閉空間(空気層)が形成される。この閉空間内では、その閉空間の長さ(背面距離)に応じた周波数での気柱共鳴が生じる。すなわち、開口部14aを有する各セル14と、各セル14の背面側の開口面を閉じる背面板18とは、気柱共鳴構造を構成する。また、上記の閉空間と連通する有孔板20の貫通孔22は、気柱共鳴を妨害しない程度に大きく形成されている。厳密には、貫通孔22の径及び上記閉空間の体積の膨張圧縮によるヘルムホルツ共鳴の誘起が小さく、背面距離による気柱共鳴が卓越するような条件にて貫通孔22が形成されている。
【0077】
なお、各貫通孔22は、有孔板20において規則的に配置されてもよく、あるいはランダムに配置されてもよいが、コア体12における各セル14の開口部14aの配置パターン(配置規則)に合わせて規則的に配置されているのが好ましい。また、貫通孔22は、有孔板20に1つのみ形成されてもよい。
【0078】
また、有孔板20は、貫通孔22がヘルムホルツ共鳴を誘起せず、且つ、流れ抵抗体24を適切に支持し得るものであればよい。そうである以上、有孔板20の厚みについては、特に制限されないが、例えば、0.001mm(1μm)~5mmであることが好ましく、0.01mm(10μm)~2mmであることがより好ましく、0.1mm(100μm)~1.0mmであることが特に好ましい。
【0079】
また、有孔板20の平面形状及びサイズ(面積)については、特に制限されず、防音構造体10が使用される場所及び環境等に応じて適宜設定すればよい。
【0080】
また、貫通孔22の形状は、平面視で円形状であることが好ましいが、これに限定されるものではない。貫通孔22の形状は、円形以外の形状、例えば、正方形、長方形、菱形、又は平行四辺形及び台形等の他の四角形、三角形、五角形及び六角形等を含む多角形、楕円形、若しくは不定形であってもよい。また、貫通孔22の形状は、全ての貫通孔22間で同一(一定)であってもよく、あるいは、貫通孔22間で異なっていてもよい。
【0081】
また、貫通孔22の孔径(具体的には、直径及び開口幅)は、貫通孔22の背面側で生じる気柱共鳴を阻害しない(すなわち、ヘルムホルツ共鳴を生じない)範囲で設定する必要がある。ここで、貫通孔22の孔径については、コア体12のセル14の開口部14aのサイズと同様に定義することができる。
【0082】
貫通孔22の孔径についてより詳しく説明すると、貫通孔22の孔径は、1.0mm以上であることが必要であり、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。貫通孔22の孔径を1.0mm以上に限定する理由は、貫通孔22の孔径が1.0mmより小さくなると、貫通孔22を囲む内壁における粘性抵抗が大きくなり、その場合に流れ抵抗体24を貫通孔22の上に配置すると流れ抵抗(音響抵抗)が過大となり、吸音特性が著しく低下する虞があるためである。
【0083】
また、貫通孔22の孔径は、100mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましく、25mm以下であることが特に好ましい。貫通孔22の孔径を100mm以下に限定する理由は、貫通孔22の孔径が100mmより大きくなると、有孔板20の剛性が著しく低下してしまうためである。
【0084】
なお、貫通孔22の孔径は、全ての貫通孔22の間で同一(一定)であってもよく、一部の貫通孔22の孔径が他の貫通孔22の孔径と異なっていてもよい。すなわち、有孔板20には、互いに孔径が異なる2種類以上の貫通孔22が開けられてもよい。また、孔径に分布がある場合には、その平均孔径を孔径として採用して上述のサイズを満たすようにすればよい。
【0085】
また、貫通孔22は、貫通孔22の全長に亘って孔径が均一となったストレート形状の孔でもよく、あるいは、貫通孔22の深さ方向に沿って孔径が変化する孔であってもよい。孔径が変化する貫通孔22としては、例えば、テーパー形状の貫通孔22が挙げられる。テーパー形状の貫通孔22については、より孔径が大きい開口端が流れ抵抗体24側(すなわち、音源に近い側)に位置し、より孔径が小さい開口端がコア体12側(すなわち、背面側)に位置しているのが好ましい。特に、貫通孔22において孔径が最大となる部分(最大径部)が、厚み方向における有孔板20の一端に位置し、孔径が最小となる部分(最小径部)が、厚み方向における有孔板20の他端に位置し、最大径部から最小径部に向かって孔径が単調に減少する構造がより望ましい。なお、孔径が変化する貫通孔22の孔径の大きさとしては、当該貫通孔22各部の孔径の平均値を採用すればよい。
ちなみに、上記テーパー形状の貫通孔22は、パンチング等の物理的手法で形成することが可能であり、そのような方法でテーパーを持たせて形成した貫通孔22は、音響的なメリットも多くなるので好ましい。
【0086】
また、有孔板20における貫通孔22の開口率は、貫通孔22の孔径と同様、貫通孔22の背面側で生じる気柱共鳴を阻害しない(すなわち、ヘルムホルツ共鳴を生じない)範囲で設定する必要がある。ここで、有孔板20における貫通孔22の開口率は、貫通孔22の背後にある閉空間(空気層)の面積に対する貫通孔22の面積の比率、すなわち、コア体12のセル14の開口部14aの断面積(厚み方向を法線とする断面の面積)に対する貫通孔22の面積の比として定義することができる。
【0087】
なお、コア体12のセル14の開口部14aの断面積が一様でない場合、又は貫通孔22の面積が一様でない場合には、貫通孔22の平均開口率を貫通孔22の開口率として用いる。ここで、貫通孔22の平均開口率は、コア体12における全開口部14aの総面積に対する、全貫通孔22の合計面積の比率として求めることができる。全開口部14aの総面積は、コア体12の所定範囲内における全開口部14aの個数及び平均面積を求め、個数と平均面積との積として算出することができる。全貫通孔22の合計面積は、有孔板20の所定範囲内における全貫通孔22の個数及び平均面積を求め、個数と平均面積との積として算出することができる。
【0088】
そして、上述した貫通孔22の開口率は、貫通孔22の背面側で生じる気柱共鳴を阻害させない理由から1.0%以上である必要があり、5.0%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることが特に好ましい。また、剛性の観点から、開口率は、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がより一層好ましく、50%以下が特に好ましい。
【0089】
有孔板20の材料は、その表面上に流れ抵抗体24を支持することができ、コア体12が構成する複数のセル14の各々の開口面を背面板18の反対側で覆えるものである限り、特に制限されるものではなく、具体的にはコア体12の材料と同様の材料を用いることができる。より詳しく説明すると、有孔板20の材料としては、例えば、紙材料、アルミニウム及び鉄等の各種金属、並びにポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリプロピレン(PP)等の各種樹脂材料が挙げられる。
【0090】
これまでに説明した構成は、コア体12と背面板18と有孔板20とが互いに別の部材であることとしたが、これらの部材と後述の流れ抵抗体24のうちの少なくとも二つが一体化されていてもよい(厳密には、一体成形品であってもよい)。例えば、3Dプリンター等を用いて、有孔板20とコア体12とを一体成形してもよく、又は、コア体12と背面板18とを一体成形してもよく、あるいは、流れ抵抗体24と有孔板20とコア体12とを一体成形してもよく、若しくは、有孔板20とコア体12と背面板18とを一体成形してもよい。さらに、防音構造体10全体(すなわち、流れ抵抗体24、有孔板20、コア体12及び背面板18)が一体成形されたものであってもよい。
【0091】
また、防音構造体10の軽量化を図る上で、コア体12、背面板18及び有孔板20のうちの少なくとも一つが、内部に空隙部分が分布している材料からなるとよい。ここで、内部に空隙部分が分布している材料は、内部構造を微視的に観察した際に微細な空隙部分が多数確認される材料を意味し、具体的には、段ボール等の紙材料、厚手の布等の繊維集合体、並びに発泡プラスチック及び独立気泡ウレタン等の樹脂材料が挙げられる。ちなみに、気柱共鳴構造を構成するには各セル14の間で音を漏れ難くする必要があり、その観点では、上記の材料のうち、独立気泡ウレタンのように通気性のない材料、あるいは段ボールのように通気度が小さい構造が望ましい。このような構造の他にも、内部に空隙部分が分布している材料の表面に通気性のないコーティング層又はフィルムを設ける等して通気度を下げた構造を用いることもできる。
【0092】
なお、防音構造体10をより軽量化する上では、コア体12、背面板18及び有孔板20のすべてが、上述した内部に空隙部分が分布している材料によって構成されているのが好ましい。さらに、成形し易さ及び焼却し易さの観点から考えると、コア体12、背面板18及び有孔板20のすべてが紙材料からなるのが特に好ましい。
【0093】
[流れ抵抗体]
流れ抵抗体24は、厚み方向においてコア体12とは反対側で有孔板20と重ねられており、防音構造体10において最外層をなしている。このように有孔板20の表面(コア体12とは反対側の表面)を流れ抵抗体24によって覆うことで、貫通孔22が形成された有孔板20を視認されないようにすることができる。これにより、防音構造体10の美観性(意匠性)及び質感の低下を抑えることが可能となる。かかる効果を得る上では、流れ抵抗体24の表面(厚み方向における表面)が、有孔板20の視認側の表面(厚み方向において音源により近い方の表面)の全体を覆うだけ面積を備えているのがよい。
【0094】
また、流れ抵抗体24は、前述したように、防音構造体10において吸音材として機能する。具体的に説明すると、流れ抵抗体24の微細孔26内を音が通る際に、微細孔26の内壁面と空気との摩擦によって音のエネルギーを熱エネルギーに変換させて吸音している。
【0095】
流れ抵抗体24は、上記のように吸音材としての機能を発揮するために、微細貫通孔板又は多孔質吸音材料によって構成されているとよい。より好ましくは、流れ抵抗体24は、布及び紙等の繊維集合体によって構成されているとよい。また、防音構造体10をより軽量化する観点から考えると、流れ抵抗体24は、布によって構成されているのがよい。
【0096】
流れ抵抗体24を構成する布としては、例えば、織布、編布、及び不織布等が挙げられる。また、流れ抵抗体24を構成する布の繊維として、繊維径がサブミクロンオーダ(1~100nmのオーダ)となった繊維を用いることは、従来の不織布よりも薄く且つ高い吸音効果が得られるため好ましい。なお、流れ抵抗体24を構成する不織布の例としては、シンサレート(商標、3M社製)、吸音フェルト、及び金属繊維(ポアル(ユニックス社製))からなる不織布等が挙げられる。また、流れ抵抗体24を構成する織布の例としては、ブロード(平織布)、不燃クロス(イストフロン株式会社IST製)等を挙げることができる。
【0097】
流れ抵抗体24を構成する布の繊維としては、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、低密度ポリエチレン樹脂繊維、エチレン酢酸ビニル樹脂繊維、合成ゴム繊維、共重合ポリアミド樹脂繊維、共重合ポリエステル樹脂繊維等の樹脂材料からなる繊維、ステンレス繊維等の金属材料からなる繊維、カーボン材料の繊維、及びカーボン含有材料の繊維等を挙げることができる。
【0098】
流れ抵抗体24を構成する布以外の多孔質吸音材料としては、グラスウール、ロックウール、発泡ウレタン、及び石膏ボード等を挙げることができる。
【0099】
流れ抵抗体24は、図2に示すように微細孔26を複数有する。各微細孔26は、通気部分をなしており、流れ抵抗体24に微細孔26が形成されていることで、有孔板20の貫通孔22、及び貫通孔22の背後にある閉空間(空気層)が流れ抵抗体24の外側空間と連通する。
【0100】
流れ抵抗体24を構成する布において、微細孔26は、繊維間の空間であり、網状に三次元的に配置されている。つまり、流れ抵抗体24を構成する布では、繊維径及び密度によって微細孔26の平均直径及び平均開口率が決まる。ここで、微細孔26の平均直径及び平均開口率は、流れ抵抗体24の流れ抵抗が350~1500Pa・s/mとなる限りは、特に制限されるものではなく、任意に設定することが可能である。
【0101】
ちなみに、流れ抵抗体24が微細貫通孔板によって構成される場合、微細孔26は、厚み方向に貫通する微細貫通孔となる。この場合において、微細孔26の平面形状、直径(サイズ)及び配置位置については特に制限されるものではない。また、微細孔26を規則的に穿ってもよく、あるいはランダムに穿ってもよい。また、微細孔26の直径が全微細孔26の間で揃っていてもよく、一部の微細孔26の直径が他の微細孔26の直径と異なっていてもよい。つまり、微細貫通孔板において2種類以上の直径にて微細孔26が形成されてもよい。この場合、平均直径の好適な範囲を1.0μm~250μmが好ましく、吸音性能を高める上では100μm未満がより好ましく、80μm以下がより一層好ましく、70μm以下が尚好ましく、50μm以下が更に好ましく、30μm以下が特に好ましい。ここで、微細孔26の直径については、微細孔26の面積と同一の面積となる円の直径(円相当直径)を用いて評価することができる。
【0102】
なお、流れ抵抗体24を構成する微細貫通孔板の材料については、特に制限はなく、前述したコア体12と同様の材料を用いることができる。具体的な微細貫通孔板の材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、ニッケル、パーマロイ、42アロイ、コバール、ニクロム、銅、ベリリウム、リン青銅、黄銅、洋白、錫、亜鉛、鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、金、銀、白金、パラジウム、鋼鉄、タングステン、鉛、ステンレス、及びイリジウム等の各種金属、並びに上述した各種金属を組み合わせた合金材料;PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリ塩化ビニルデン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルベンテン、COP(シクロオレフィンポリマー)、ポリカーボネート、ゼオノア、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリプロピレン、及び、ポリイミド、ABS樹脂(アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)共重合合成樹脂)、及びPLA樹脂等の樹脂材料等が利用可能である。さらに、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、及びガラス繊維強化プラスチック(GFRP)のような繊維強化プラスチック材料、並びに薄膜ガラスな等のガラス材料を用いることもできる。
【0103】
流れ抵抗体24を構成する材料が金属材料である場合には、防音構造体10の難燃性を向上させることができる。かかる効果は、コア体12、背面板18及び有孔板20が紙等の可燃性材料からなる場合には特に有効である。ちなみに、金属材料の中では、コスト及び入手容易性の観点から、銅、ニッケル、ステンレス、チタン及びアルミニウムが好ましい。特に、軽量で、エッチング等により微細孔を形成し易く、且つ、入手性及びコスト等の観点からアルミニウム及びアルミニウム合金を用いるのが最も好ましい。
【0104】
なお、金属材料からなる流れ抵抗体24であれば、耐オゾン性を向上させることができ、また、電波を遮蔽することが可能である。さらに、金属材料からなる流れ抵抗体24では、導電性を持ち帯電し難いので、微小な埃及びゴミ等が静電気で膜に引き寄せられることがなく、流れ抵抗体24の微細孔26に埃及びゴミ等が詰まって吸音性能が低下することを抑制できる。さらにまた、金属材料は、遠赤外線による輻射熱に対する反射率が大きいため、金属材料からなるからなる流れ抵抗体24は、輻射熱による伝熱を防ぐ断熱材としても機能する。その際、流れ抵抗体24には比較的直径が小さい微細孔26が多数形成されているため、流れ抵抗体24は、輻射熱に対して反射膜として機能する。
【0105】
また、流れ抵抗体24を構成する材料として金属材料を用いる場合には、錆びの抑制等の観点から、表面に金属めっきを施すのがよい。このとき、少なくとも微細孔26の内壁面に金属めっきを施すことにより、微細孔26の平均直径をより小さくなるように調整してもよい。
【0106】
そして、本発明の防音構造体10では、流れ抵抗体24の流れ抵抗が350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/mである。これにより、前述したように、流れ抵抗体24の微細孔26からなる通気部分に起因した広帯域の吸音効果と、流れ抵抗体24のフレーム部分の質量に起因した吸音ピーク周波数の低周波側へのシフト効果とを実現することができる。この結果、本発明の防音構造体10によれば、人の声のように比較的低周波の音を広帯域で吸音することが可能となる。
【0107】
なお、流れ抵抗体24の流れ抵抗は、通気抵抗測定装置(カトーテック株式会社製 KES F-8)を用いて、流れ抵抗体24の表面に対する単位面積当たりの通気量を0.4cc/cm2/sに設定して測定することができる。この手法は、通気量一定方式によって通気抵抗を測定する手法であり、測定部に流れ抵抗体24を挟み、試料を通して大気中に向かって上記通気量にて空気を放出するステップ、及び、上記と同様にして大気中から試料を通して装置側に吸引するステップの2ステップから構成されており、それぞれステップでの圧力を測定することで流れ抵抗を測定する手法である。また、流れ抵抗体24の表面の面内において流れ抵抗が一様でない場合には、表面各部の流れ抵抗の平均値を、その流れ抵抗体24の流れ抵抗として採用するとよい。例えば、流れ抵抗体24を構成する布中の三か所を測定して、その平均値を流れ抵抗として採用することができる。ちなみに、後述の実施例1では、上記の手法で実測した値を用いた場合に音響特性が良好に再現できることを確認した。
また、種類が異なる複数の布をそれぞれ別の場所に貼る等、流れ抵抗の異なる部材が複数用いられていたり、領域毎に流れ抵抗が異なっていたりする場合には、それぞれの部材又は領域毎に上記測定を行う。その中の少なくとも一つが上記の数値範囲を満たせば、その領域では本発明の効果を得ることが可能である。
なお、流れ抵抗については、日本音響エンジニアリング製「流れ抵抗測定システムAirReSys」のようなシステムを用いて流れ抵抗を測定してもよい。こシステムが採用する手法は、ISO 9053(2018年時点ではISO 9053-1:2018)に規定される手法であり、この手法に従う限り、他の装置でも測定することが可能である。
【0108】
そして、流れ抵抗体24の流れ抵抗は、350Pa・s/m以上、且つ、1100Pa・s/mが好ましく、400Pa・s/m以上、且つ、1000Pa・s/mがより好ましく、500Pa・s/m以上、且つ、900Pa・s/mが最も好ましい。
【0109】
また、流れ抵抗体24の特性のうち、面密度は、吸音性能に影響を与え、具体的には、所定の流れ抵抗に対して吸音率が最大となる周波数、及び、その周波数での吸音率(すなわち、最大吸音率)に影響を及ぼす(例えば、図14参照)。最大吸音率を95%以上とするためには、流れ抵抗体24の面密度を50g/m以上とするのが好ましい。より好ましくは、流れ抵抗体24の面密度が60g/m以上、且つ、500g/m以下であるとよい。また、流れ抵抗体24の面密度の下限値については、70g/m以上とすれば最大吸音率を99%超とすることができ、さらに、100g/mであることがより好ましい。他方、流れ抵抗体24の面密度の上限値については、400g/mであることが好ましく、300g/mであるとより好ましい。
【0110】
なお、面密度は、流れ抵抗体24の表面のサイズ(面積)を測定し、流れ抵抗体24の重量を通常の測定法で測定することで求めることができる。流れ抵抗体24の表面積に関しては、防音構造体に用いられる形態での面積を測定する。具体的に説明すると、良好に伸びる素材からなる流れ抵抗体24を伸ばして貼る場合は、その伸びた状態での面積を測定する。この場合、基本的には、流れ抵抗体24の背面に配置された有孔板20の面積と等しくなる。そして、面積の測定後、サイズが大きい場合には流れ抵抗体24を折りたたむなどして、その状態で量りを用いて重量を測定する。そして、(測定重量)/(測定面積)を算出することで流れ抵抗体24の面密度を求めることができる。
流れ抵抗体24の全体サイズが大きいために量りで測定できず、且つ、流れ抵抗体24が折りたたむことができない等の場合には、流れ抵抗体24の一部を切り出して測定を行えばよい。その際に切り出す面積については、特に制限はないが、例えば10cm×10cmの正方形状に切り出して重量を測定することができる。
また、流れ抵抗測定と同様にして、種類が異なる複数の布をそれぞれ別の場所に貼るなど、明らかに流れ抵抗の異なる部材が複数用いられていたり領域毎に流れ抵抗が全く異なったりする場合には、それぞれの部材又は領域毎に上記測定を行う。その中の少なくとも一つが上記の数値範囲を満たせば、その領域では、上記の数値範囲を満たす場合の効果が得られるようになる。
【0111】
また、流れ抵抗体24の厚みには限定はないが、小型化、軽量化、通気性及び光の透過性の観点では、流れ抵抗体24の厚みは、薄いほど好ましい。また、微細孔26の形成手法としてエッチング等を用いる場合、流れ抵抗体24の基材の厚みが厚いほど作製に時間がかかるため、生産性の観点からは薄い方が望ましい。以上から流れ抵抗体24の厚みは、50mm以下が好ましく、25mm以下がより好ましく、20mm以下がよりより好ましく、10mm以下がさらに好ましく、5mm以下が一段と好ましく、2mm以下が尚一層好ましく、1mm未満が最も好ましい。なお、厚みが1mm未満の流れ抵抗体24としては、例えば、織布、編布及び不織布等からなるシート状体、並びに膜状体等が挙げられる。
【0112】
一方、流れ抵抗体24が薄くなり過ぎると、流れ抵抗体24が機械的な損傷を受け易くなるので、0.1μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
【0113】
なお、流れ抵抗体24の平面形状及びサイズ(面積)については、特に制限されるものではないが、コア体12及び有孔板20の平面形状及びサイズ等に応じて適宜設定すればよい。ちなみに、流れ抵抗体24は、厚み方向において有孔板20を介してコア体12に重ねられた状態で、コア体12が構成する複数のセル14の各々の開口面の全面を覆えるだけの面積を備えているのが好ましい。
【0114】
また、布等の多孔質材料からなる流れ抵抗体24については、吸音性能以外の機能、例えば、難燃性、意匠性、防水性、撥水性、撥油性、防汚性、耐摩耗性、耐候性及び形状保持性等を付与する目的から、流れ抵抗の性質を改質させるための加工が施されてもよい。上記の加工が施された流れ抵抗体24を用いた防音構造体10は、従来には防音構造体が用いられていなかった場所に設置することができ、その場所にて使用することができるので、市場価値及び有用性が高まる。
【0115】
一方、加工方法次第では、流れ抵抗体24の通気性及び吸音性を低下させる可能性がある。流れ抵抗体24の吸音性を維持するためには、流れ抵抗体24に付与する特性(改質対象の特性)に関して適切な加工方法を選定する必要がある。すなわち、流れ抵抗体24を構成する布としては、吸音性を維持しつつ、所望の特性を付与する加工が施された布が求められている。なお、流れ抵抗体24を構成する布として、意匠性向上のために所定の画像が印刷された布が存在するものの、その布の種類(布地)が限定されてしまい、さらに印刷依頼の際に画像入稿を要するので加工のコスト及び手間が増えてしまう。
【0116】
以上の理由より、本発明において流れ抵抗体24を構成する布を加工する際には、その布地の表面における力学的物性のうち、吸音に関わる物性(具体的には、流れ抵抗、繊維強度、開口率、及び結節率等)を維持し得る方法にて行うのが好ましい。換言すると、本発明の流れ抵抗体24は、流れ抵抗体24の性質を改質させるための加工が施された加工部分を有してもよい。ここで、加工部分の加工後の流れ抵抗は、350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/m以下であると好ましい。このように加工後の流れ抵抗を350Pa・s/m以上、且つ、1500Pa・s/m以下とすることで、高い吸音効果を得ることができる。このような構成で流れ抵抗体24に撥水加工を施すことによって、流れ抵抗体24だけではなく、その背面にある有孔板20及びコア体12についても、水又はその他の液体(以下、水等)が掛かった際に水等から保護することができる。これにより、有孔板20及びコア体12の素材についての選択の幅を、水に対する耐久性が小さい素材にまで広げることができ、例えば紙等を利用することも可能となる。さらに、コア体12のセル14の開口部14aに水等が貯まることを防ぐこともできる。このように、上記の構成のように流れ抵抗体24に撥水加工を施すことで、流れ抵抗体24だけではなく防音構造体10全体を保護することができる。
【0117】
具体的に一例を挙げて説明すると、加工前の布の流れ抵抗が350~1500Pa・s/mであり、その布に対して意匠性を付与する(分かり易くは、加工部分に画像又は模様を付ける)方法としては、色素による染色、塗料による着色、及び印刷済フィルムの転写等が挙げられる。このうち、色素染色では、吸音に関わる布表面の力学的物性が加工前後で変化し難くなる。一方で、塗料着色及びフィルム転写では、吸音に関わる布表面の力学的物性が加工によって変化し、加工後の流れ抵抗が低下し易くなる。したがって、加工部分に画像又は模様を付ける加工方法としては、色素染色が好ましいと考えられる。
【0118】
もう一つの例を挙げて説明すると、流れ抵抗が350~1500Pa・s/mである布に対して撥水性を付与する撥水加工としては、撥水コーティング層を布表面に積層する方法、及び、薬液に布を浸漬して布生地の繊維に対して化学的に撥水成分を結合させる方法等が挙げられる。前者の方法では、吸音に関わる布表面の力学的物性(特に、通気性に関わる物性)が加工後に低下し易くなるが、後者の方法では、力学的物性の変化が抑えられる。したがって、加工部分に撥水性を付与する方法としては、布生地の繊維に対して化学的に撥水成分を結合させる方法が好ましいと考えられる。
【0119】
加工部分に施される加工としては、前述の染色加工及び撥水加工以外にも挙げられ、例えば、印刷加工、昇華転写加工、起毛加工、抗菌加工、吸水加工、速乾加工、形態安定加工、防皺加工、光触媒加工、紫外線カット加工、防塵加工、涼感加工、マイナスイオン加工、防炎加工、花粉付着防止加工、及び、害虫忌避加工が挙げられ、これらのうちの少なくとも一つが加工部分に施されていればよい。
【0120】
なお、厚み方向における流れ抵抗体24の表面(厳密には、有孔板20とは反対側に有する表面)に対する、表面中の加工部分に属する領域の比率については、5%超であるとよく、30%超であるとより好ましく、70%超であると特に好ましい。つまり、流れ抵抗体24には、加工部分と非加工部分とが混在してもよく、加工部分と非加工部分との間で流れ抵抗(通気性)が同等であればよい。
【0121】
防音構造体10における流れ抵抗体24の固定方法について説明すると、流れ抵抗体24の固定方法は、特に制限されるものではない。例えば、流れ抵抗体24と有孔板20とを接着して固定してもよく、この場合には流れ抵抗体24の剛性をより高くすることができる。流れ抵抗体24と有孔板20とを接着する際に用いる接着剤は、流れ抵抗体24の材質及び有孔板20の材質等に応じて選択すればよい。接着剤の例としては、エポキシ系接着剤(アラルダイト(登録商標)(ニチバン株式会社製)等)、シアノアクリレート系接着剤(アロンアルフア(登録商標)(東亜合成株式会社製)など)、及びアクリル系接着剤等が挙げられる。
【0122】
流れ抵抗体24と有孔板20とを固定する方法は、他にも挙げられ、例えば、ビス、画鋲、ネジ及びステープラーの針等の留め具によって固定する方法、流れ抵抗体24と有孔板20との間に配置された接着テープ、磁石又は面ファスナーによって固定する方法、並びに流れ抵抗体24を有孔板20に対して縫い付けて固定する方法等が挙げられる。また、流れ抵抗体24が有孔板20に直接的に固定されていてもよい。あるいは、流れ抵抗体24の両端部分を防音構造体10の裏側に回り込ませてコア体12及び背面板18に留めるなどして、流れ抵抗体24が有孔板20に対して間接的に固定されてもよい。
【0123】
なお、図1に図示の防音構造体10では、流れ抵抗体24と有孔板20とが厚み方向において互いに隙間なく接触(接合)しているが、これに限定されず、有孔板20と流れ抵抗体24との間に隙間が設けられてもよい。このように、流れ抵抗体24と有孔板20との間に隙間を設けることで流れ抵抗体24の振動を誘起でき、低周波側の吸音特性を向上させることが可能となる。ここで、流れ抵抗体24と有孔板20との間の隙間は、0mm超、且つ10mm以下であることが好ましく、0.1mm以上、且つ5mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上であることが最も好ましい。また、流れ抵抗体24と有孔板20との間に隙間を設ける場合、流れ抵抗体24の全面が有孔板20から離間している場合に限られず、一部が有孔板20と接触してもよい。
【0124】
<<本発明の防音パネルについて>>
次に、上述した防音構造体10を用いて構成された本発明の防音パネルについて、図4に図示の防音パネルBの構成を例に挙げて説明する。図4は、防音パネルBを示す斜視図である。
【0125】
防音パネルBは、図4に示すように、防音構造体10によって構成されたパネル本体Bxと、パネル本体を取り囲む枠体Byと、を有し、吸音性能を有するパネル材(すなわち、吸音パネル)である。なお、図4に図示の防音パネルBでは、その一部が防音構造体10によって構成されているが、これに限定されるものではなく、防音パネルBの全体が防音構造体10によって構成されてもよい。また、パネル本体Bx及び枠体Byのうち、枠体Byのみが防音構造体10に構成されてもよい。
【0126】
防音パネルBは、防音部材、防音箱、防音囲構造、及び防音室等を構成する用途に用いられる。防音部材としては、例えば、建材として用いられるもの、空調設備用として用いられるもの、部屋の窓等の開口部に設置されるもの、天井に設置されるもの、床用に設置されるもの、室内ドア又は襖等の部屋内開口部に設置されるもの、トイレ内部に設置されるもの、バルコニーに設置されるもの、室内音調用に用いられるもの、簡易防音室を構築するためのもの、ペット小屋を構築するもの、アミューズメント施設内に設置されるもの、工事現場の遮音用に用いられるもの、乗物等の移動体の室内(例えば、自動車、電車及び飛行機等における乗員室)に設置されるもの、並びにトンネル内に設置されるもの等が挙げられる。
【0127】
防音箱は、防音パネルBを含む複数のパネル材を箱状に配置することで構築される箱体であり、例えば、建物及びその他の構造物を建築する用途、輸送用途、並びに物流用途に用いることができる。防音パネルBを用いた防音箱により、箱内部から外部への音の漏洩、あるいは外部から箱内部への音の侵入を防ぐことができる。防音箱は、例えば、ペット小屋、又は騒音源となる機器の筐体等として利用することができる。
【0128】
防音囲構造は、防音パネルBを含む複数のパネル材を外周壁(すなわち、仕切り)として配置することで構成され、その内側の空間に音源が配置されることで、騒音への吸音効果を発揮する。なお、防音囲構造は、音源を取り囲むように防音パネルBを環状に配置したものに限定されず、1枚若しくは2枚からなるパーティションのようなものであってもよい。また、防音囲構造は、椅子及び机等に取り付けられた形で用いられてもよい。
防音室は、防音パネルBを含む複数のパネル材を部屋壁として用いて構成された部屋であり、室内で活動する人の声、あるいは室外で発生する騒音等に対して吸音効果を発揮する。
なお、上述した音源としては、音を発する機器類であってもよいし、人の声であってもよい。
【実施例
【0129】
以下、実施例を通じて、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0130】
[実施例1]
<防音構造体の作製>
図1に図示の防音構造体を作製した。具体的には、コア体として、厚みが30mmであり、且つセルの開口部の平面サイズが12mmであるダンボールからなるハニカムコア(コアパックニシカワ製)を用意した。このハニカムコアの片面に、貫通孔が開いていない厚み1.0mmの紙製の背面板(コアパックニシカワ製)を接着して固定した。また、ハニカムコアのもう一方の片面に、直径2mmの貫通孔が開口率20%となるように形成された厚み1.0mmの紙製の有孔板を接着して固定した。また、流れ抵抗体として、厚みが240μmであり、密度が0.59g/cmであり、面密度が142g/mであり、多孔度が0.63であり、且つ流れ抵抗が833Pa・s/mであるカラーブロード布(平織布)を用意した。このカラーブロード布を有孔板上に接着して固定した。なお、部材同士を接着する際の接着剤には、スプレーのり77(3M社製)を用いた。
【0131】
ちなみに、カラーブロード布の流れ抵抗は、カトーテック製通気抵抗測定装置KES F-8を用いて、0.4cc/cm/sの通気量で測定を行った。また、カラーブロード布の面密度は、布サイズを測定した上で、通常の量りで質量を測定することによって求めた。
【0132】
<評価>
上記の手順にて作製した防音構造体を、カラーブロード布が音源側に向くように配置して、音響管で吸音率測定を行った。音響管測定法は、「JIS A 1405-2」に従い、マイクを2本用いた垂直入射吸音率の測定系を作製して評価を行った。音響管の内部直径は、4cmとし、4000Hz程度まで測定できる系とした。なお、これと同様の測定は、日本音響エンジニアリング製WinZacMTXを用いて行うことができる。
【0133】
作製した防音構造体について測定した吸音率を図5に示す。なお、図5には、後述するシミュレーション1の計算結果が合わせて図示されている。図5に示すように、作製した防音構造体では、1200Hz付近に高い吸音率の極大値(ピーク)が現れ、且つ広い周波数帯域にて吸音することができることが分かった。ここで、作製した防音構造体において、有孔板の貫通孔の背後にある背面空間の距離が30mmであるため、対応する気柱共鳴周波数は、2860Hzとなる。この周波数に対して、作製した防音構造体の吸音ピーク周波数は、比較的高い流れ抵抗のカラーブロード布を用いることにより、低周波側に10%以上シフトしていることが分かる。ちなみに、図5に図示の計算結果では、シフト量が1660Hzであり、これは、対応する気柱共鳴周波数に対して58%のシフト量に相当する。
【0134】
[シミュレーション1]
本発明の防音構造体の吸音率について、有限要素法ソフトウェアCOMSOL ver5.3(COMSOL Inc.)を用いたシミュレーションによって検討した。シミュレーションにあたり、背面板及びコア体については、剛体としてモデル化することとした。また、有孔板の板部分も剛体として取り扱った。有孔板の貫通孔部分には、熱音響モデルを適用して摩擦吸音を取り入れた。ただし、本発明のように大きな開口率でmmオーダー以上の貫通孔が設けられている系では、摩擦吸音の有無がシミュレーション結果に然程大きな影響を与えないことが分かった。
【0135】
流れ抵抗体のモデル化に関しては、発明者らの鋭意検討の結果、流れ抵抗体の微細孔(通気部分)の摩擦熱吸音モデルだけではなく、流れ抵抗体のフレーム(材料部分)の振動もシミュレーションモデルに取り入れることで、実験結果を極めてよく再現することを明らかにした。そのシミュレーション結果は、図5に図示されている。
【0136】
ところで、流れ抵抗体である吸音材の計算には、一般的な経験式であるDelaney-Bazley-Mikiモデル、あるいは、フレームが振動せずに通気部分の音の通過だけを計算するEquivalent Fluidモデル(Rigidモデル)が用いられる。これらのモデルによれば、通常の多孔質吸音材であるフェルト及びグラスウールの吸音率を、精度よく再現できることが知られている。
【0137】
しかし、本発明者は、上記のモデルでは、大きな流れ抵抗を有する流れ抵抗体の実験結果を良好に再現することが困難であることを明らかにした。図6に、実施例1で作製した防音構造体の吸音率を、Rigidモデルを用いて計算した場合の計算結果(図6中、破線で図示)を示した。図5図6とを対比すると分かるように、吸音ピーク周波数における吸音率及び吸音帯域は、いずれも実測値を再現できていないことが明らかである。
【0138】
そこで、本発明者は、流れ抵抗体におけるフレームの振動まで考慮して計算するためにBiotモデルを採用した。図5にて破線で図示された計算結果(シミュレーション結果)、及び図6にて実線で図示された計算結果は、いずれも、実施例1で作製した防音構造体のパラメータをBiotモデルに適用して計算した結果である。図5から分かるように、流れ抵抗体におけるフレームの振動まで含めて計算することにより、実施例1の実測値を良好に再現することが明らかである。
【0139】
さらに、図6から分かるように、フレームの振動を取り入れるか否かに応じて吸音率の算出結果が大きく異なることが明らかである。これは、高い流れ抵抗を有する流れ抵抗体の場合には、流れ抵抗体の通気部分での通気抵抗が高くなることで、通気部分を通り抜け難くなった音の一部がフレームを振動させるようになり、その振動が吸音率に寄与するようになったためと考えられる。
【0140】
ちなみに、流れ抵抗を100Pa・s/mとし、それ以外の条件を図5のシミュレーション条件と揃えてシミュレーションを実施したときの結果を図7に示した。図7に示すように、100Pa・s/m程度の低い流れ抵抗の流れ抵抗体では、RigidモデルとBiotモデルとの吸音率の差がほとんどないことが明らかとなった。このことから、流れ抵抗体による吸音ピーク周波数の低周波化効果は、流れ抵抗が高い場合に特有の効果であると考えられる。
【0141】
[シミュレーション2]
上述したBiotモデルを用いたシミュレーションにより、流れ抵抗の効果を検討した。具体的には、厚みを240μmとし、面密度144g/mとし、流れ抵抗を50~3000Pa・s/mまで50Pa・s/mずつ変化させて、各周波数での吸音率を計算した。コア体及び有孔板に関するパラメータについては、シミュレーション1におけるパラメータと同値である。
【0142】
流れ抵抗が100、500、800及び3000Pa・s/mであるときの吸音率の計算結果を図8に示す。図8から分かるように、低い流れ抵抗の場合には、各周波数での吸音率が小さくなり、吸音ピーク周波数がより高周波側にある。これに対して、流れ抵抗を大きくすることで、各周波数での吸音率が上がり、また、吸音ピーク周波数が低周波化する。ただし、流れ抵抗が最も高い条件値(=3000Pa・s/m)である場合には、より吸音率が低周波化するものの、吸音帯域がやや狭くなる。このことから、低周波数の音を広帯域で効果的に吸音する上では、流れ抵抗を適切な範囲に設定する必要があることが分かる。
【0143】
また、図9に、各流れ抵抗別の最大吸音率を示す。図9から分かるように、流れ抵抗が350Pa・s/m以上では、最大吸音率が98%(消音量で換算すると17dB)以上となり、流れ抵抗の変化に応じて若干変動するものの、流れ抵抗が1900Pa・s/mとなるまで最大吸音率が98%以上に維持されている。
【0144】
また、図10に、吸音率50%(消音量で換算すると3dB)以上を満たす吸音ピーク幅を、流れ抵抗毎に評価した結果を示す。流れ抵抗が800Pa・s/mであるときに吸音ピーク幅が最大値となり、約4000Hzの周波数帯域で吸音率50%以上を満たす。そして、上記の吸音ピーク幅から約500Hzだけ小さい3500Hzを基準とし、その幅以上の吸音ピーク幅が得られる流れ抵抗の範囲は、図10から分かるように350~1500Pa・s/mとなる。このことから、流れ抵抗を350Pa・s/m以上、且つ1500Pa・s/m以下とすることで、高い吸音率及び広帯域な吸音ピーク幅を実現できることが明らかとなった。
【0145】
また、図11に、流れ抵抗毎の吸音ピーク周波数を示す。図11から明らかなように、流れ抵抗が大きくなるにつれて吸音ピーク周波数が低周波化する。ここで、吸音ピーク周波数の変化度合い(厳密には、微分値)を流れ抵抗毎に求めると、図12に示すように、吸音ピーク周波数は一定の度合いで変化するのではなく、流れ抵抗600Pa・s/m付近で急激に変化することが分かった。図12は、吸音ピーク周波数を流れ抵抗で微分した結果を示す図であり、図中の横軸が流れ抵抗を表しており、縦軸が微分値(単位:Hz/(Pa・s/m))を表している。
【0146】
また、流れ抵抗毎に求めた吸音ピーク周波数が基準周波数からどれだけ低周波化したかを評価し、その評価結果を図13に示す。具体的に説明すると、流れ抵抗が極めて低い値(具体的には10Pa・s/m)であるとき、吸音ピーク周波数が気柱共鳴の共鳴周波数付近(具体的には、2280Hz)となる。この周波数を基準周波数とし、各流れ抵抗(厳密には、10Pa・s/mである場合を除く)での吸音ピーク周波数が基準周波数からどれだけ低周波化したかを、下記の変化率Fを算出することで評価した。
F={1-(各流れ抵抗での吸音ピーク周波数/基準周波数)}×100
【0147】
図13から明らかなように、流れ抵抗が350Pa・s/m以上になると、吸音ピーク周波数が基準周波数より10%以上低周波化することが分かった。このことから、流れ抵抗を350Pa・s/m以上とすることにより、高い吸音率と広帯域な吸音ピーク幅を実現でき、且つ、吸音ピーク周波数を十分に低周波化し得ることが明らかになった。
【0148】
[シミュレーション3]
流れ抵抗体の面密度による効果を検討するため、流れ抵抗体の流れ抵抗及び面密度を変化させたときの影響をシミュレーションした。シミュレーションで採用した防音構造体の基本構成は、上述したシミュレーション1及び2と同様である。また、流れ抵抗を200~1600Pa・s/mの範囲で変化させ、面密度を10~1000g/mの範囲で変化させ、それぞれの条件で100~10000Hzでの吸音率を10Hz毎に計算した。
そして、上述のシミュレーションにより得られる計算結果から、(1)最大吸音率となる吸音ピーク周波数(以下、単に吸音ピーク周波数という)と、(2)最大吸音率と、(3)吸音率が80%を超える範囲の周波数幅(吸音ピーク幅)を算出した。それぞれの算出結果を図14乃至図16に示した。図14乃至図16の各々は、流れ抵抗体の流れ抵抗及び面密度の各々を変化させたときの、上記の算出結果の変化を色の濃淡で示した図である。
【0149】
また、上記の算出結果のうち、流れ抵抗800Pa・s/mである場合の結果を抽出して図17及び図18に示した。図17は、流れ抵抗体の面密度を変化させた際の吸音ピーク周波数の変化を示す。図18は、流れ抵抗体の面密度を変化させた際の最大吸収率の変化を示す。
【0150】
吸音ピーク周波数に関して、流れ抵抗と面密度に応じて低周波化する条件が決定される。基本的には、図14に示すように、吸音ピーク周波数を低周波化させる流れ抵抗及び面密度には正の相関がある。
【0151】
一方、最大吸音率に関しては、図15に示すように、流れ抵抗が350Pa・s/m以上である範囲に、最大吸音率が比較的高い領域が存在し得る。より詳しく説明すると、流れ抵抗が350~600Pa・s/m程度の間までは、最大吸音率が面密度に依存せずに1.0に近い値となる。600Pa・s/m以上の流れ抵抗となると、最大吸音率が面密度に依存するようになり、比較的高い最大吸音率が得られる面密度の範囲が限られてくる。
また、流れ抵抗が1000Pa・s/mまでの範囲では、吸音ピーク周波数を低周波化させるための条件と、比較的高い最大吸音率を得るための条件と、の間に重なり(重複範囲)があり、高い吸音性能と吸音ピーク周波数の低周波化とを同時に達成することができる。一方、流れ抵抗が1000Pa・s/mより大きくなると、吸音ピーク周波数を低周波化させる条件と、比較的高い最大吸音率を得るための条件と、の間にずれが生じ、そのずれ幅は、流れ抵抗が増すほど大きくなる。
【0152】
さらに、吸音ピーク幅に関しては、図16に示すように、流れ抵抗が1100Pa・s/m以下である場合、大きな面密度であっても吸音ピーク幅(帯域)が大きくなる条件が存在する。とりわけ、流れ抵抗が600~800Pa・s/m程度である場合には、吸音ピーク幅(帯域)が最も大きくなる。一方、流れ抵抗が1100Pa・s/mより大きくなると、吸音率が80%に全く届かない条件が多くなり、そうでない条件においても吸音ピーク幅(帯域)が小さくなる。
【0153】
以上までに説明してきたように、吸音ピーク周波数を低周波化させるための条件としては、流れ抵抗体の流れ抵抗及び面密度の双方を高くすることが考えられる。また、最大吸音率を高い値(例えば、1.0に近い値)にするための条件としては、流れ抵抗体の流れ抵抗を350~600Pa・s/mの範囲に設定するか、若しくは、それ以上の流れ抵抗であれば面密度を60~200g/m以下程度にすることが考えられる。また、吸音ピーク幅を広げる条件としては、流れ抵抗体の流れ抵抗を50~1100Pa・s/mの範囲とするか、若しくは面密度を60~500g/mにすることが考えられる。
流れ抵抗体の流れ抵抗及び面密度については、上述した各種の条件(具体的には、上述の範囲)の中から適切な条件を選ぶことになる。
ここで、本発明の効果を発揮させるための条件として、上述した様々な観点からの流れ抵抗と面密度の条件を合わせて考えると、流れ抵抗体の流れ抵抗が350Pa・s/m~1500Pa・s/mであり、且つ、流れ抵抗体の面密度が60~500g/mである必要がある。本発明の防音構造体は、比較的小型の構造でありながらも比較的低周波の音を広帯域で吸音するものであるため、上述の数値範囲を満たす必要がある。なお、図17中、実線にて示す範囲は、本発明の効果を発揮させるための面密度の範囲に相当する。
【0154】
さらに、流れ抵抗は、350~1100Pa・s/m、すなわち、吸音ピーク幅(帯域)を大きくする条件としての範囲にあることが好ましい。さらにまた、流れ抵抗は、400~1000Pa・s/m、すなわち、吸音ピーク幅(帯域)を大きくしつつ吸音ピーク周波数の低周波化及び高吸音率を実現するための条件としての範囲にあることがより好ましい。とりわけ、流れ抵抗は、500~900Pa・s/m、すなわち、吸音ピーク幅(帯域)を一段と大きくするための条件としての範囲にあることが最も好ましい。
【0155】
面密度については、図18に図示した最大吸音率の算出結果から考えて、上限が400g/mであることが好ましく、300g/mであることがより好ましい。下限については、吸音ピーク周波数を効果的に低周波化させる理由から、70g/m以上であることが好ましく、100g/mであることがより好ましい。
以上までに説明してきたように、流れ抵抗体の流れ抵抗及び面密度を上記の数値範囲に設定することで、吸音ピーク周波数の低周波化、高い吸音性能、及び広帯域な吸音構造を実現することが可能となる。
【0156】
以上までに説明した実施例1及びシミュレーション1~3の各々は、いずれも本発明の範囲にあるから、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0157】
10 防音構造体
12 コア体
14 セル
14a 開口部
14b 仕切り壁
18 背面板
20 有孔板
22 貫通孔
24 流れ抵抗体
26 微細孔
B 防音パネル
Bx パネル本体
By 枠体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18