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特許7033151グラフト共重合体の製造方法及びこれで製造されたグラフト共重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】グラフト共重合体の製造方法及びこれで製造されたグラフト共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/04 20060101AFI20220302BHJP
   C08F 255/06 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
C08F279/04
C08F255/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019561241
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 KR2018012847
(87)【国際公開番号】W WO2019088598
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2019-11-07
(31)【優先権主張番号】10-2017-0144958
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ソ、チェ-ポム
(72)【発明者】
【氏名】イ、テ-ウ
(72)【発明者】
【氏名】パク、チョン-テ
(72)【発明者】
【氏名】キム、キュ-ソン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チ-ウク
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-012444(JP,A)
【文献】特開昭63-278914(JP,A)
【文献】特開2000-186125(JP,A)
【文献】特開平09-132619(JP,A)
【文献】特開平11-130825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/00-279/06
C08F 291/00-291/18
C08F 255/00-255/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系単量体由来単位及びアルケン系単量体由来単位を含む共重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及び反応溶媒を含む反応溶液を投入して100から110℃で1次重合する段階とを含むグラフト共重合体の製造方法であって、
前記共重合体は、前記ジエン系単量体由来単位を5から10重量%で含み、
前記グラフト共重合体は、ゴム平均粒径が2から5μmであり、
前記共重合体は、ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が50から80である
グラフト共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記グラフト共重合体のゴム平均粒径が2.5から4.5μmである、請求項1に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記グラフト共重合体のグラフト率が35から60%である、請求項1または2に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記グラフト共重合体のグラフト率が40から55%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記1次重合する段階は、前記反応溶液を50から90rpmの速度で撹拌しながら100から110℃で1次重合するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記ジエン系単量体由来単位は、エチリデンノルボルネン由来単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記アルケン系単量体由来単位は、エチレン由来単位及びプロピレン由来単位を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記共重合体は、重量平均分子量が110,000から250,000g/molである、請求項1~7のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記反応溶液が、
前記反応溶液の全体重量に対して、
前記共重合体3から15重量%と、
前記芳香族ビニル系単量体40から65重量%と、
前記ビニルシアン系単量体5から25重量%と、
前記反応溶媒の残量とを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項10】
前記1次重合する段階で、開始剤及び分子量調節剤をさらに投入する、請求項1~9のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項11】
前記反応溶液100重量部に対して、
前記開始剤0.02から0.2重量部と、
前記分子量調節剤0.02から0.9重量部とをさらに投入する、請求項10に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項12】
前記1次重合する段階以後に、前記1次重合された反応溶液を130から150℃で2次重合する段階をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項13】
前記2次重合する段階は、前記1次重合された反応溶液を30から70rpmの速度で撹拌しながら130から150℃で2次重合する段階である、請求項12に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~13の何れか一項に記載の製造方法であり、
前記グラフト共重合体が、ASTM 1003に基づいた光沢度が22%以下である、グラフト共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本発明は、2017年11月1付で出願された韓国特許出願第10-2017-0144958号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、グラフト共重合体の製造方法及びこれで製造されたグラフト共重合体に関し、より詳細には、無光特性及び優れた射出表面特性を具現するグラフト共重合体の製造方法、及び、これで製造されたグラフト共重合体に関する。
【背景技術】
【0003】
共役ジエン系重合体に、芳香族ビニル系単量体とビニルシアン系単量体をグラフト重合して製造したABSグラフト共重合体は、強度、耐熱性、成形加工性に優れ多くの分野に用いられている。しかし、このようなABSグラフト共重合体は、共役ジエン系重合体に起因する分子内の残存する二重結合に隣接したメチル基の水素が、光や酸素の作用によって酸化反応の開始点となり主鎖が反応を起こして耐候性が低下する欠点がある。特に、これは、共重合体表面の白化やクラック(crack)を発生させるだけでなく、グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂成型品の様々な性能を低下させる原因になる。グラフト共重合体の優れた性質を維持し、かつ、耐候性を加えてバランスの取れた物性を有する共重合体を製造するために、通常、紫外線安定剤の添加、塗装、メッキ等の方法が用いられるが、これは、本質的な改善ではない。
【0004】
したがって、グラフト共重合体において劣化の原因である共役ジエン系重合体成分の代わりに、不飽和結合を有するゴムを用いた多くのグラフト共重合体が開発されたが、そのうち一つがエチレン-プロピレン系共重合体を用いて製造されたAESグラフト共重合体である。AESグラフト共重合体は、主鎖に実質的に不飽和結合を含まず、エチレン-プロピレン共重合体又はエチレン-プロピレン-ジエン系ターポリマーをゴム成分とし、スチレン及びアクリロニトリル等をグラフト重合して収得されるグラフト共重合体である。共役ジエン系ゴムを用いたABS共重合体と比較すれば、前記AES共重合体は、紫外線、酸素及びオゾンに対する抵抗性が顕著に良く、無光特性も具現できるものと知られている。
【0005】
しかし、エチレン-プロピレン系ゴムとエチレン-プロピレン-ジエン系三元重合体ブタジエン系ゴムに比べ、反応活性部分が殆どないため、スチレンとアクリロニトリルをグラフト重合させることに困難があり、単にゴム上重合体とSAN共重合体との混合物になる場合が多い。よって、収得されたAESグラフト共重合体を射出成形した場合、表面に染みができ、衝撃強度の低下等の欠点があり、ひどい場合は射出面が剥がれる剥離現象も表れるようになる。
【0006】
これにより、AESグラフト共重合体の特性を改善させる研究が継続している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、無光特性を具現し、かつ、射出表面に優れたグラフト共重合体及びこれの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、ジエン系単量体由来単位及びアルケン系単量体由来単位を含む共重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及び反応溶媒を含む反応溶液を準備する段階と、前記反応溶液を投入して100から110℃で1次重合する段階とを含むグラフト共重合体の製造方法であって、前記共重合体は、前記ジエン系単量体由来単位を5から10重量%で含み、前記グラフト共重合体は、ゴム平均粒径が2から5μmであるグラフト共重合体の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記製造方法で製造され、ASTM 1003に基づいた光沢度が22%以下のグラフト共重合体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグラフト共重合体は、無光特性を具現でき、かつ、グラフト率に優れ射出表面特性が著しく優秀になり得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に対する理解を深めるために本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0013】
本発明でグラフト共重合体のゴム平均粒径は、粒子の粒径分布曲線において、体積累積量の50%に該当する粒径と定義してよい。
【0014】
本発明でグラフト共重合体のゴム平均粒径は、グラフト共重合体の一定量を溶媒に溶解させた後、測定してよい。具体的には、グラフト共重合体0.5gをメチルエチルケトン100mlに溶解した後、コールターカウンター(商品名:LS230、製造社:ベックマン・コールター社)を用いて測定してよい。
【0015】
本発明でグラフト率は、グラフト共重合体の一定量を溶媒に投入して振動機を用いて溶解し、遠心分離機で遠心分離し、乾燥して不溶分を収得した後、下記式を用いて算出してよい。
【0016】
詳細には、グラフト共重合体の一定量をアセトンに投入して、振動機(商品名:SI-600R、製造社:Lab.companion)で24時間振動させて遊離したグラフト共重合体を溶解し、遠心分離機で14,000rpmで1時間遠心分離し、真空乾燥器(商品名:DRV320DB、製造社:ADVANTEC)で140℃、2時間乾燥させて不溶分を収得した後、下記式を用いて算出してよい。
【0017】
【数1】
【0018】
Y:不溶分の重量
X:不溶分の収得時に投入されたグラフト共重合体の重量
R:不溶分の収得時に投入されたグラフト共重合体内の共重合体の分率
本発明で共重合体のムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)は、ASTM D1646に基づいて測定してよい。
【0019】
本発明で共重合体の重量平均分子量は、溶出液としてテトラヒドロフランを用い、ゲル浸透クロマトグラフィーを介して標準試料であるポリスチレンに対する相対値として測定してよい。
【0020】
本発明で光沢度は、グラフト共重合体を射出して3mmの試料を製造した後、ASTM 1003に基づいて測定してよい。
【0021】
1.グラフト共重合体の製造方法
本発明の一実施形態によるグラフト共重合体の製造方法は、1)ジエン系単量体由来単位及びアルケン系単量体由来単位を含む共重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及び反応溶媒を含む反応溶液を準備する段階と、2)前記反応溶液を投入して100から110℃で1次重合する段階を含むグラフト共重合体の製造方法において、前記共重合体は、前記ジエン系単量体由来単位を5から10重量%で含み、前記グラフト共重合体は、ゴム平均粒径が2から5μmである。
【0022】
本発明の一実施形態によるグラフト共重合体の製造方法は、前記1次重合する段階以後に、3)2次重合する段階をさらに含んでよい。
【0023】
本発明の一実施形態によるグラフト共重合体の製造方法は、前記2次重合する段階以後に、4)未反応単量体と反応溶媒を回収する段階をさらに含んでよい。
【0024】
以下、本発明の一実施形態によるグラフト共重合体の製造方法に対し、各段階別に詳細に説明する。
【0025】
1)反応溶液を準備する段階
先ず、ジエン系単量体由来単位及びアルケン系単量体由来単位を含む共重合体、芳香族ビニル系単量体、ビニルシアン系単量体及び反応溶媒を含む反応溶液を準備する。
【0026】
前記ジエン系単量体由来単位は、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、及びビニルノルボルネンでなる群から選択される1種以上から由来した単位であってよく、このうち、エチリデンノルボルネンから由来した単位が好ましい。
【0027】
前記ジエン系単量体由来単位は、前記共重合体の全体重量に対して、5から10重量%で含まれ、5から8重量%で含まれるのが好ましい。
【0028】
前記アルケン系単量体由来単位は、前記共重合体の全体重量に対して、90から95重量%で含まれ、92から95重量%で含まれるのが好ましい。
【0029】
前述の範囲を満たせば、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体とのグラフト重合を容易、かつ、経済的に行うことできる。また、後述する1次重合温度とジエン系単量体由来単位の含量の組合せによって相乗効果が具現され、グラフト共重合体のゴム平均粒径を適切に具現でき、かつ、無光特性及び射出表面に優れたグラフト共重合体を製造できる。
【0030】
前記ジエン系単量体由来単位が前述の範囲未満に含まれれば、グラフト重合反応が充分に行われないため、前記グラフト共重合体のゴム粒子が不均一に形成されゴム平均粒径はむしろ大きくなり、共重合体由来単位と、芳香族ビニル系単量体由来単位と、ビニルシアン系単量体由来単位との連結が緩くなり射出表面が劣るようになる。前記ジエン系単量体由来単位が前述の範囲を超過して含まれれば、製造原価が顕著に上昇する問題がある。
【0031】
前記アルケン系単量体由来単位は、炭素数2から4のアルケン系単量体由来単位であってよい。
【0032】
前記共重合体は、アルケン系単量体由来単位を2種以上含むのが好ましく、エチレン由来単位とプロピレン由来単位を含むのがより好ましい。
【0033】
前記エチレン由来単位は、前記共重合体の全体重量に対して、52から73重量%、55から70重量%、58から67重量%又は60から65重量%で含まれてよく、このうち60から65重量%で含まれるのが好ましい。
【0034】
前述の範囲を満たせば、最終生産品であるグラフト共重合体の物性バランスが優秀になる。
【0035】
前記プロピレン由来単位は、前記共重合体の全体重量に対して、20から40重量%、22から37重量%、25から35重量%又は27から32重量%で含まれてよく、このうち27から32重量%で含まれるのが好ましい。
【0036】
前述の範囲を満たせば、最終生産品であるグラフト共重合体の物性バランスが優秀になる。
【0037】
前記共重合体は、ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が30から80又は50から80であってよく、このうち50から80であるのが好ましい。
【0038】
前述の範囲を満たせば、後述する1次重合温度と共重合体内のジエン系単量体由来単位の含量との組合せによって相乗効果が具現され、適切な共重合体由来単位の平均粒子を具現し、かつ、無光特性及び射出表面に優れたグラフト共重合体を製造できる。
【0039】
前記共重合体は、重量平均分子量が110,000から250,000g/mol、130,000から230,000g/mol、150,000から210,000g/mol又は170,000から190,000g/molであってよく、このうち170,000から190,000g/molが好ましい。
【0040】
前述の範囲を満たせば、衝撃強度等の機械的特性に優れ、適切な粘度を具現できるため、工程運転が容易になり得る。
【0041】
前記共重合体は、前記反応溶液の全体重量に対して、3から15重量%、5から12重量%又は7から10重量%で含まれてよく、このうち7から10重量%で含まれるのが好ましい。
【0042】
前述の範囲を満たせば、優れた耐候性を具現し、かつ、無光特性を具現でき、射出表面に優れたグラフト共重合体を製造できる。
【0043】
前記芳香族ビニル系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、p-メチルスチレン及び2,4-ジメチルスチレンでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちスチレンが好ましい。
【0044】
前記芳香族ビニル系単量体は、前記反応溶液の全体重量に対して、40から65重量%、45から60重量%又は50から55重量%で含まれてよく、このうち50から55重量%で含まれるのが好ましい。
【0045】
前述の範囲を満たせば、優れた耐候性を具現し、かつ、無光特性を具現でき、射出表面に優れたグラフト共重合体を製造できる。
【0046】
前記ビニルシアン系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル及びα-クロロアクリロニトリルでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちアクリロニトリルが好ましい。
【0047】
前記ビニルシアン系単量体は、前記反応溶液の全体重量に対して、5から25重量%、8から20重量%又は10から15重量%で含まれてよく、このうち10から15重量%で含まれるのが好ましい。
【0048】
前述の範囲を満たせば、優れた耐候性を具現し、かつ、無光特性を具現でき、射出表面に優れたグラフト共重合体を製造できる。
【0049】
前記反応溶媒は、トルエン、エチルベンゼン、キシレン及びメチルエチルケトンでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちエチルベンゼンが好ましい。
【0050】
前記反応溶媒は、前記反応溶液の構成要素の和が100重量%になるよう残量で含まれてよい。前記反応溶媒によって反応溶液が適切な粘度を有し、後述する重合を容易に行うことができ、最終生産品内の未反応単量体等を低減できる。
【0051】
2)1次重合する段階
次いで、前記反応溶液を投入して100から110℃で1次重合する。
【0052】
前記1次重合する段階は、前記共重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体が相転換する段階であって、前述の範囲で1次重合を行えば、相転換率が改善される利点がある。また、前記1次重合温度と共重合体内のジエン系単量体由来単位の含量の組合せによって相乗効果が具現され、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体とのグラフト重合が容易になり得る。また、適切なゴム平均粒径及びグラフト率を有するグラフト共重合体が製造され得、無光特性に優れるだけでなく、射出表面に優れたグラフト共重合体を製造できる。
【0053】
前記1次重合温度が前述の範囲未満であれば、相転換率が低下する。前述の範囲を超過すれば、グラフト重合反応速度が低下されゴム平均粒径が大きくなり過ぎて射出表面が劣るようになる。
【0054】
前記1次重合する段階は、0.5から4時間、1.0から3.5時間、1.5から3.0時間又は1.5から2.5時間行われてよく、このうち1.5から2.5時間行われるのが好ましい。
【0055】
前述の時間を満たせば、相転換率をより高めることができる。
【0056】
前記1次重合する段階は、前記反応溶液を50から90rpm、55から85rpm、60から80rpm又は65から75rpmで撹拌しながら行われてよく、このうち65から75rpmで撹拌しながら行われるのが好ましい。
【0057】
前述の範囲を満たせば、無光特性をより改善できる。
【0058】
前記1次重合する段階で開始剤及び分子量調節剤をさらに投入してよい。
【0059】
前記開始剤は、1時間半減期温度が90から110℃のラジカル重合開始剤であってよい。前記開始剤は、ステアロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-イソブチレート、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートであるのが好ましい。
【0060】
前記開始剤は、前記反応溶液100重量部に対して、0.01から0.2重量部、0.02から0.1重量部、0.02から0.08重量部又は0.02から0.06重量部で投入されてよく、このうち0.02から0.06重量部で投入されるのが好ましい。前述の範囲を満たせば、グラフト重合を容易に行うことができ、前記重合体由来単位の形成も容易になり得る。
【0061】
前記分子量調節剤は、t-ドデシルメルカプタン及びn-オクチルメルカプタンでなる群から選択される1種以上であってよく、このうちt-ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0062】
前記分子量調節剤は、前記反応溶液100重量部に対して、0.02から0.9重量部、0.02から0.8重量部、又は0.03から0.7重量部で投入されてよく、このうち0.03から0.7重量部で投入されるのが好ましい。
【0063】
前述の範囲を満たせば、グラフト重合が容易に行われるだけでなく、共重合体由来単位の平均粒径が適切に形成され得る。また、衝撃強度がより優秀なグラフト共重合体を製造できる。
【0064】
前記1次重合する段階は、前記反応溶液、開始剤及び分子量調節剤を一定の速度で連続投入しながら行われる連続重合であってよい。
【0065】
3)2次重合する段階
次いで、前記1次重合された反応溶液を130から150℃で2次重合する段階をさらに行ってよい。
【0066】
前記2次重合する段階は、重合転換率を高めるために行われることであって、前述の温度で行われれば重合転換率をより改善できる。
【0067】
前記2次重合する段階は、前記1次重合する段階での反応器とは異なる反応器で行われてよい。前記1次重合する段階での反応器と前記2次重合する反応器は、直列に連結された連続反応器であってよい。前記2次重合する反応器は、3以上の反応器が直列に連結された連続反応器であってよい。
【0068】
前記2次重合する段階は、130から150℃で段階的に昇温しながら行われてよく、重合温度を変更するために反応溶液を他の反応器に移送した後、重合を行ってよい。
【0069】
また、前記2次重合する段階は、前記反応溶液を連続投入しながら行われてよい。
【0070】
前記2次重合する段階は、前記反応溶液を30から70rpm、35から65rpm、40から60又は45から55rpmで撹拌しながら行われてよく、このうち45から55rpmで撹拌しながら行われるのが好ましい。
【0071】
前述の範囲を満たせば、無光特性をより改善できる。
【0072】
前記2次重合する段階では、分子量調節剤をさらに投入してよい。前記分子量調節剤の種類は前述の通りである。
【0073】
前記分子量調節剤は、前記反応溶液100重量部に対して、0.02から0.9重量部、0.02から0.8重量部、又は0.03から0.7重量部で投入されてよく、このうち0.03から0.7重量部で投入されるのが好ましい。
【0074】
前述の範囲を満たせば、グラフト重合が容易に行われるだけでなく、共重合体由来単位の平均粒径が適切に形成され得る。また、衝撃強度がより優秀なグラフト共重合体を製造できる。
【0075】
4)未反応単量体と反応溶媒を回収する段階
次いで、未反応単量体と反応溶媒を回収する段階をさらに行ってよい。
【0076】
前記未反応単量体と反応溶媒を回収する段階は、脱揮発槽で行われてよい。前記脱揮発槽は、熱交換器が付着されており、220から250℃の温度及び25torr未満の圧力で、225から245℃の温度及び20torr未満の圧力で、又は230から240℃の温度及び16torr未満の圧力で真空度を維持した状態であってよく、このうち230から240℃の温度及び16torr未満の圧力で真空度を維持した状態であるのが好ましい。
【0077】
前述の条件を満たせば、前記重合生成物内の含まれた未反応単量体及び溶媒を容易に回収できる。
【0078】
本発明の一実施形態によるグラフト共重合体の製造方法によって製造されたグラフト共重合体は、ゴム平均粒径が2から5μmであり、好ましくは2.5から4.5μm、より好ましくは3から4.2μmであってよい。
【0079】
前述の範囲を満たせば、無光特性を具現し、かつ、射出表面に優れたグラフト重合体を製造できる。前述の範囲未満であれば、無光特性を具現できず、前述の範囲を超過すれば、前記グラフト共重合体の射出表面が劣るようになる。
【0080】
本発明の一実施形態によるグラフト共重合体の製造方法によって製造されたグラフト共重合体のグラフト率は、35から60%又は40から55%であってよく、このうち40から55%が好ましい。
【0081】
前述の範囲を満たせば、無光特性を具現し、かつ、射出表面に優れたグラフト重合体を製造できる。
【0082】
2.グラフト共重合体
本発明の一実施形態によるグラフト共重合体の製造方法によって製造されたグラフト共重合体は、ASTM 1003に基づいた光沢度が22%以下である。
【0083】
前記グラフト共重合体は、ASTM 1003に基づいた光沢度が16%以下又は12%であってよく、このうち12%以下が好ましい。前述の範囲を満たせば、無光特性を具現できる。光沢度が22%を超過すれば、前記グラフト共重合体が無光特性を具現できない。
【0084】
また、前記グラフト共重合体は、優れた射出表面を有し、かつ、優れた衝撃強度を示し得る。
【0085】
[実施例]
以下、本発明が属する技術分野において、通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例に対して詳しく説明する。しかし、本発明は、色々と異なる形態に具現されてよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【0086】
実施例及び比較例
反応溶媒のエチルベンゼン25重量部に、スチレン53.6重量部、アクリロニトリル13.4重量部及び下記表1に記載のエチレン-プロピレン-ジエンターポリマー8重量部を完全に溶解し、開始剤としてt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートと、分子量調節剤としてt-ドデシルメルカプタンを下記表1に記載の含量で添加し反応溶液を準備した。
【0087】
表2に記載の内部温度で設定された第1反応器に、前記重合溶液を2時間の間一定の速度で投入し、表2に記載の速度で撹拌しながら1次重合を行った。表2に記載の内部温度で設定された第2反応器に、前記1次重合物を1.5時間の間一定の速度で投入し、表2に記載の速度で撹拌しながら2次重合を行った。分子量調節剤としてt-ドデシルメルカプタン0.03重量部を第2反応器に一括投入し、表2に記載の内部温度で設定された第3反応器に、前記2次重合物を1.5時間の間一定の速度で投入し、表2に記載の速度で撹拌しながら3次重合を行った。表2に記載の内部温度で設定された第4反応器に前記3次重合物を1.5時間の間一定の速度で投入し、表2に記載の速度で撹拌しながら4次重合を行い、重合を終了した。その後、230℃及び15torrで脱揮発槽で未反応単量体と反応溶媒を回収し、除去してペレット状のグラフト共重合体を製造した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
実験例
実施例及び比較例のグラフト共重合体の物性を下記のような方法で評価し、その結果を表3に示した。
【0091】
(1)ゴム平均粒径(μm):グラフト共重合体0.5gをメチルエチルケトン100mlに溶解し、コールターカウンター(商品名:LS230、製造社:ベックマン・コールター社)を用いてゴム平均粒径を測定した。
【0092】
(2)光沢度(%):グラフト共重合体を射出して3mm試料に製造し、ASTM 1003に基づいて測定した。
【0093】
(3)グラフト率:グラフト共重合体の一定量をアセトンに投入して、振動機で24時間振動させて遊離したグラフト共重合体を溶解した。遠心分離機を用いてグラフト共重合体が溶解された溶液を14,000rpmで1時間遠心分離した。真空乾燥器を用いて遠心分離した物質を140℃で2時間乾燥し、不溶分を収得した。
【0094】
【数2】
【0095】
Y:不溶分の重量
X:不溶分の収得時に投入されたグラフト共重合体の重量
R:不溶分の収得時に投入されたグラフト共重合体内の共重合体の分率
(4)衝撃強度(kg・cm/cm):グラフト共重合体を射出した後、1/4InにしてASTM D256-10に基づいて測定した。
【0096】
(5)射出表面:グラフト共重合体を5回射出した後、射出物の表面を肉眼で判別した。(○:優秀、△:中間、×:不良)
【0097】
【表3】
【0098】
表3を参照すれば、実施例1~実施例7のグラフト共重合体は、ゴム平均粒径が2.1から4.2μmであり、光沢度が22%以下であるため、無光特性を具現できることを確認できた。また、グラフト率が39から58%であるため、射出表面もまた優れることを確認できた。
【0099】
一方、実施例1、実施例4及び実施例7を参照すれば、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマーが同一であっても、第1反応器の温度が低いほど無光特性に優れ、グラフト率が優秀になることを確認できた。
【0100】
実施例1及び比較例1を参照すれば、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマーを用いてグラフト共重合体を製造しても、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー内のエチリデンノルボルネンの含量が低いほどゴム平均粒径が大きくなり、グラフト率が低下することを確認できた。比較例1の場合、ゴム平均粒径が6.2μmであるため、無光特性は具現できたが、グラフト率が低いため、射出表面が優秀ではなかった。
【0101】
また、実施例1、実施例3、実施例5及び比較例2を参照すれば、エチレン-プロピレン-ジエンモノマーターポリマーを用いてグラフト共重合体を製造しても、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマーのムーニー粘度が高いほどゴム平均粒径が大きくなることを確認できた。詳細には、実施例1と実施例3を参照すれば、ムーニー粘度が高いエチレン-プロピレン-ジエンターポリマーを用いた実施例3が、ゴム平均粒径が大きく光沢度も低いため、無光特性により優れることを確認できた。また、実施例5と比較例2を参照すれば、ムーニー粘度が高いエチレン-プロピレン-ジエンターポリマーを用いた実施例5がゴム平均粒径が大きく光沢度も顕著に低いため、無光特性により優れることを確認できた。
【0102】
また、実施例1、実施例5及び比較例4を参照すれば、開始剤の含量が高いほどゴム平均粒径が小さくなり、光沢度が高くなることを確認できた。比較例4の場合、開始剤が少量投入されたため、ゴム平均粒径が6.8μmのグラフト共重合体が製造され、ゴム平均粒径が大き過ぎて、射出表面が不良であることを確認できた。
【0103】
また、実施例1、実施例6及び比較例5を参照すれば、分子量調節剤の含量が高いほどゴム平均粒径が大きくなり、光沢度が低くなることを確認できた。比較例5の場合、分子量調節剤が過量投入されたため、ゴム平均粒径が6.3μmのグラフト共重合体が製造され、ゴム平均粒径が大き過ぎて、射出表面が優秀ではないことを確認できた。
【0104】
また、実施例1と比較例6を参照すれば、他の条件は全て同一であり、第1反応器で撹拌速度のみ比較例6が2倍以上であるが、光沢度が顕著に高くなり、これによって無光特性を具現できないことを確認できた。
【0105】
第1反応器の温度が低い比較例7の場合、射出表面と衝撃強度が優秀ではなく、第1反応器の温度が比較例8の場合、ゴム平均粒径が大きくなり、射出表面と衝撃強度が優秀ではないことを確認できた。